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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B
管理番号 1360016
審判番号 不服2018-11720  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-31 
確定日 2020-02-20 
事件の表示 特願2014-224017「絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月23日出願公開、特開2016- 91759〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年11月4日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 2月27日付け:拒絶理由通知
同 年 4月13日 :意見書の提出
同 年 5月25日付け:拒絶査定
同 年 8月31日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 1年 8月15日付け:当審による拒絶理由通知
同 年10月18日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1ないし4に係る発明は、令和1年10月18付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
線状の導体をその軸方向に走行させつつワニスの塗布及び焼付を行う絶縁電線の製造装置であって、
上記導体を連続的に浸漬するワニス貯留槽と、
上記浸漬後の導体を連続的に通過させ、熱風により加熱するチャンバーと
を備え、
上記チャンバーが、熱風循環路の一部で構成され、
上記熱風循環路に150℃以上の耐熱性を有する耐熱フィルターが配設され、
上記耐熱フィルターがステンレス製の複数の線材を織製した異物除去用のフィルターであり、
上記耐熱フィルターの平均捕集率が75%以上であり、
上記耐熱フィルターが上記熱風循環路に着脱可能であり、
上記導体が周回機構によって上記ワニス貯留槽及びチャンバーを周回し、
上記熱風循環路が、上記チャンバーで上記導体を導入する側に配設される熱風吸込口と、上記チャンバーで上記導体を排出する側に配設される熱風吹出口とを有する絶縁電線の製造装置。」

第3 当審における拒絶の理由

当審が通知した令和1年8月15日付け拒絶理由のうちの理由1は、次のとおりのものである。
本件出願の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.実願昭48-024390号(実開昭49-123381号)のマイクロフィルム
引用文献2.特開2011-048956号公報
引用文献3.特開2006-334511号公報

第4 引用文献の記載

1.引用文献1について

当審による拒絶理由通知で引用した上記引用文献1には、「ゴム、プラスチック電線の架橋装置」について、以下の事項が記載されている。

(1)「この考案は、ゴム、プラスチック電線の架橋装置の改良に係る。」(第1ページ第12行?第13行)

(2)「これを添付図面を参照して説明すれば、図に於いて1は未焼成のゴム、プラスチック電線で、押出装置を経て架橋管2内に挿通され、加熱部21に入る。」(第2ページ第11行?第14行)

(3)「この加熱部は外周に断熱ないし保温の手段が施され、その側方に加熱不活性ガス循環路が設けられている。この加熱不活性ガス循環路は架橋残渣を除くフィルタ3と、不活性ガス供給源たるガスボンベ4と、ガス強制循環用の送風機5と、ガス加熱用の熱交換器6と、これらの各機器を連結する連結管7から成り、その排気端71及び吸気端72は夫々加熱部21に設けられたガス流入口23及び流出口24に連結されている。」(第2ページ第15行?第3ページ第3行)

(4)「従つてこの加熱不活性ガス循環路を作動させることにより加熱部内には下方の流入口23から加熱された不活性ガスが供給充填され、該部に挿入された電線1を加熱する。」(第3ページ第4行?第7行)

(5)「しかしてこの加熱部21にて加熱され架橋された電線は冷却部24を経て架橋管2の外へ導かれる。」(第3ページ第12行?第13行)

(6)「図面の簡単な説明
図はこの考案に係る架橋装置の一実施例を示す説明図である。
1:電線 2:架橋管
21:加熱部 22:ガス流出口
23:ガス流入口 24:冷却部
3:フィルタ 4及び10:ガスボンベ
5及び8:送風機 6:加熱装置
9:凝縮機 」(第5ページ第6行?第14行)

・上記(1)の「架橋装置」は、電線の製造工程の一部を担う製造装置であるが、電線の製造に当たっては押出装置など、その他の工程を担う装置も当然に必要である。したがって、引用文献1には、他の工程を担う装置を含めた「電線の製造装置」が記載されているに等しい。

・上記(1)(2)によれば、未焼成のゴム、プラスチック電線は押出装置を経て、架橋装置に入る。また、引用文献1の図から、電線は軸方向に走行しながら製造されていると認められる。
したがって、引用文献1には、電線を軸方向に走行させつつ未焼成のゴム、プラスチックの付着及び架橋を行うゴム、プラスチック電線の製造装置が記載されている。
ここで、電線が線状の導体を有しているのは自明であるから、電線が軸方向に走行していれば線状の導体が軸方向に走行しているといえる(以下、同様のことがいえる。)。

・上記(2)の「図に於いて1は未焼成のゴム、プラスチック電線で、押出装置を経て架橋管2内に挿通され」との記載から、電線は、押出装置を経て未焼成のゴム、プラスチックが付着されるものであるといえる。
また、上記(2)の「架橋管2内に挿通され、加熱部21に入る」との記載について、図によれば、加熱部21が架橋管2の一部を構成していることから、電線が架橋管2の加熱部21に挿通されていると認められる。
したがって、引用文献1には、電線(線状の導体)が、押出装置を経て未焼成のゴム、プラスチックが付着されて架橋管2の加熱部21に挿通されることが記載されている。

・上記(3)によれば、加熱部21は、その側方に加熱不活性ガス循環路が設けられ、この加熱不活性ガス循環路は架橋残渣を除くフィルタ3を有し、その排気端71及び吸気端72は夫々加熱部21に設けられたガス流入口23及び流出口24に連結されている。
ただし、上記(5)、(6)及び図によれば、参照番号24は冷却部を表し、ガス流出口を表している参照番号は22と認められることから、上記(3)における「流出口24」は「流出口22」の誤記と認められる。

・図によれば、加熱部21と加熱不活性ガス循環路とが熱風循環路を構成している。

・上記(4)(5)によれば、加熱不活性ガス循環路を作動させることにより加熱部21内にガス流入口23から加熱された不活性ガスが供給充填され、加熱部に挿入された電線1を加熱して架橋する。

・上記(5)及び図によれば、電線1はガス流出口22の側から加熱部21に挿通され、ガス流入口23の側から加熱部21の外へ導かれている。

上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている認められる。

「線状の導体を軸方向に走行させつつ未焼成のゴム、プラスチックの付着及び架橋を行うゴム、プラスチック電線の製造装置であって、
線状の導体は押出装置を経て未焼成のゴム、プラスチックが付着されて架橋管2の加熱部21に挿通され、
加熱部21は、その側方に加熱不活性ガス循環路が設けられ、
この加熱不活性ガス循環路は、架橋残渣を除くフィルタ3を有し、その排気端71及び吸気端72は夫々加熱部21に設けられたガス流入口23及びガス流出口22に連結されて加熱部21と共に熱風循環路を構成し、
加熱不活性ガス循環路を作動させることにより加熱部21内にガス流入口23から加熱された不活性ガスが供給充填され、加熱部に挿入された電線1を加熱して架橋し、
電線1は、ガス流出口22の側から加熱部21に挿通され、ガス流入口23の側から加熱部21の外へ導かれる電線の製造装置。」

2.引用文献2について

当審による拒絶理由通知で引用した上記引用文献2には、以下の事項が記載されている。

「【0026】
≪エナメル被覆装置≫
エナメル被覆装置4は、周回装置40と、塗布装置41と、加熱装置4Eとを備える。
【0027】
エナメル被覆装置4に備わる周回装置40は、・・・金属線9を周回させる装置である。ここで、図1ではプーリー42d、42uは一つずつしか示されていないが、実際には紙面奥側に複数並列されており、順次金属線9を掛け渡すプーリー42d、42uを紙面奥側にズラしていくことで、金属線9を周回させることができるようになっている。一定回数周回させて表面にエナメルを被覆させた金属線9、即ち、絶縁電線9Eは、最終的には巻取リール5に巻き取られる。
【0028】
塗布装置41は、絶縁ワニスを貯留する絶縁ワニス槽41tと、絶縁ワニス槽41tを通過した金属線9が挿通される塗布ダイス41dとを備え、周回する金属線9の外周に絶縁ワニスを塗布する装置である。絶縁ワニス槽41tの底部には、周回する金属線9が貫通されており、絶縁ワニス槽41tを通過した金属線9の外周には絶縁ワニスが塗布される。そして、金属線9の外周に塗布された絶縁ワニスは、金属線9が絶縁ワニス槽41tよりも金属線9の走行方向側にある塗布ダイス41dを通過することでほぼ均一な厚さに整えられる。この塗布ダイス41dは、紙面奥側に複数整列され、紙面奥側に行くほどダイス孔の径が大きくなっている。そのため、この塗布装置41を使用すれば、金属線9の外周に形成されるエナメル被覆を徐々に厚くしていくことができるので、均一な厚さのエナメル被覆を形成できる。
【0029】
加熱装置4Eは、焼付炉42と、循環路43と、過熱水蒸気発生装置44とを備える。この加熱装置4Eは、周回装置40により周回走行する絶縁ワニス付きの金属線9を過熱水蒸気で加熱して、絶縁ワニスに含まれる有機溶剤を揮発させると共に、絶縁ワニスに含まれる樹脂を硬化させ、金属線9の外周にエナメル被覆を定着させるためのものである。
【0030】
まず、焼付炉42について説明すると、焼付炉42は、その内部に周回する金属線9の一部を収納する走行路42Rを備える。また、焼付炉42は、走行路42Rの入口42a側で走行路42Rに連通し、走行路42R内に過熱水蒸気を導入するための導入路42cと、走行路42Rの出口42b側で走行路42Rに連通し、走行路42R内の過熱水蒸気を排出するための排出路42dとを備える。ここで、焼付炉42は、重力による絶縁ワニスの垂れを防止するために、焼付炉42(走行路42R)の入口42aよりも出口42bを高くすることが好ましい。より好ましくは、焼付炉42は、図示するように走行路42Rが出口42bを上に向けて鉛直となる倒立状態とする。」

したがって、引用文献2には、「周回装置と、塗布装置と、加熱装置とを備えたエナメル被覆装置において、周回装置は金属線を周回させる装置であり、塗布装置は絶縁ワニスを貯留する絶縁ワニス槽を備え、周回する金属線の外周に絶縁ワニスを塗布する装置であり、加熱装置は焼付炉を備え、周回装置により周回走行する絶縁ワニス付きの金属線を加熱して絶縁ワニスに含まれる樹脂を硬化させ、金属線の外周にエナメル被覆を定着させるものであり、焼付炉は内部に金属線の一部を収納する走行炉を備える」技術事項が記載されている。

3.引用文献3について

当審による拒絶理由通知で引用した上記引用文献3には、以下の事項が記載されている。

「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、エアフィルタは、その使用によって、除去された粉塵や油がガラス繊維シートや各捕集網に一定量以上堆積すると、目詰まりなどの原因になるため、定期的に、ガラス繊維シートや各捕集網を洗浄して、堆積した粉塵や油を除去したり、未使用のものと交換する必要がある。
・・・中略・・・
【0011】
このため、粉塵などを除去するのに適したエアフィルタであり、再使用可能なエアフィルタの開発が望まれていた。
【0012】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、粉塵除去に適し、再使用可能な他、耐熱性、捕集効率、圧力損失、ランニングコストなどの面においても優れたエアフィルタの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明は、
第1捕集部,第2捕集部及び第3捕集部の3層構造からなり、清浄化対象の空気が該第1捕集部,第2捕集部及び第3捕集部を順次流通するように構成されたエアフィルタであって、
前記第1捕集部は、多数の網目を有するように金属ワイヤを編んで構成され・・・複数の網状部材が積層状に設けられ、
前記第2捕集部は、前記第1捕集部の網状部材よりも目の細かい多数の網目を有するように金属ワイヤを編んで構成され且つ平板状に形成された複数の網状部材が積層状に設けられ、
前記第3捕集部は、横断面が矩形状をした金属繊維の不織布から構成されてなり、
前記第3捕集部は、前記第1捕集部及び第2捕集部を通過した、該第1捕集部及び第2捕集部で捕集される粒子よりも小さい粒子を捕集するように構成されてなることを特徴とするエアフィルタに係る。
・・・中略・・・
【0015】
本発明では、・・・比較的細かな粉塵を除去することが可能となり、また、第1捕集部の各網状部材を波板状に形成しているので、積層された各網状部材間に形成される空間内に、除去した粉塵を堆積させることができ、これにより、捕集効率が低下したり、圧力損失が高くなるのを防止しつつ粉塵の捕集量を多くすることができる。
・・・中略・・・
【0018】
また、第1捕集部及び第2捕集部の各網状部材並びに第3捕集部の不織布を、金属から構成しているので、耐熱性があり、また、容易に洗浄して再使用することができるとともに、洗浄しても、当該各捕集部による粉塵除去性能が低下することはない。また、取り扱いに際して不便なこともない。
・・・中略・・・
【0021】
尚、前記第1捕集部及び第2捕集部の各網状部材を構成する金属ワイヤ、並びに前記第3捕集部の不織布を構成する金属繊維の材料には、各捕集部を洗浄水により繰り返し洗浄しても錆び難いものとするために、ステンレスやアルミニウムを用いることが好ましく、また、ステンレスの方がアルミニウムよりも耐熱性や耐食性に優れているので、ステンレスを用いれば、更に好ましくなる。」

したがって、引用文献3には、「粉塵や油などを除去するためのフィルタを、金属ワイヤを編んで構成された網状部材を含むエアフィルタとし、耐熱性や耐食性のためステンレスを用いる」技術事項が記載されている。

第5 対比

本願発明と引用発明を対比する。

(1)引用発明の「ゴム、プラスチック電線」は、ゴム、プラスチックが絶縁体であるのは自明であるから、本願発明の「絶縁電線」に相当する。

(2)引用発明における未焼成のゴム、プラスチックの「付着」は、導体を軸方向に走行させながら行われるものであるから、本願発明でいう「塗布」といえる。
また、引用発明における「架橋」は、未焼成のゴム、プラスチックが加熱部21で加熱されて行われるものであるから、「焼成」を行うものと認められ、線状の導体に対して本願発明でいう「焼付」を行っているといえる。
したがって、引用発明の「線状の導体を軸方向に走行させつつ未焼成のゴム、プラスチックの付着及び架橋を行うゴム、プラスチック電線の製造装置」と、本願発明の「線状の導体をその軸方向に走行させつつワニスの塗布及び焼付を行う絶縁電線の製造装置」とは、「線状の導体をその軸方向に走行させつつ絶縁体の前駆体の塗布及び焼付を行う絶縁電線の製造装置」である点で一致する。
ただし、絶縁体の前駆体が、本願発明1では「ワニス」であるのに対して、引用発明では「未焼成のゴム、プラスチック」である点で相違する。

(3)引用発明の「押出装置」は、導体に未焼成のゴム、プラスチック(絶縁体の前駆体)を塗布するものであるのに対し、本願発明の「上記導体を連続的に浸漬するワニス貯留槽」は、導体にワニス(絶縁体の前駆体)を塗布するものである。
したがって、引用発明の「押出装置」と本願発明の「上記導体を連続的に浸漬するワニス貯留槽」とは、絶縁体の前駆体を塗布する装置(以下、「絶縁体前駆体塗布装置」という。)である点で一致する。

(4)引用発明の「加熱部21」は、その内部に加熱された不活性ガスが供給充填されるものであるから、本願発明の「チャンバー」に相当する。
また、引用発明の「加熱部21」は、押出装置を経た線状の導体が挿通され、導体が軸方向に走行させられるものであるから、本願発明の「チャンバー」と、「絶縁体前駆体塗布後の導体を連続的に通過」させるものである点で一致する。
ただし、「絶縁体前駆体塗布後」が、本願発明では「上記浸漬後」であるのに対して、引用発明では押出装置における未焼成のゴム、プラスチックの塗布後である点で相違する。
さらに、引用発明の「加熱部21」には、加熱不活性ガス循環路を作動させて加熱された不活性ガスが供給充填され、加熱部に挿入された電線1を加熱するから、本願発明の「チャンバー」と、「熱風により加熱する」ものである点で一致する。

(5)引用発明の「熱風循環路」は本願発明の「熱風循環路」に相当する。
そして、引用発明の「加熱部21」は、加熱不活性ガス循環路と共に熱風循環路を構成するものであるから、「熱風循環路の一部で構成」されるものである。
したがって、引用発明の「加熱部21」と本願発明の「チャンバー」とは、「熱風循環路の一部で構成」される点で一致する。

(6)引用発明の「架橋残渣を除くフィルタ3」は、異物を除去しているから、本願発明の「異物除去用のフィルター」に相当する。また、引用発明の「架橋残渣を除くフィルタ3」は、加熱不活性ガス循環路に設けられており、耐熱性を有しているのは自明であるから、本願発明の「耐熱フィルター」にも相当する。
そして、引用発明では、熱風循環路が加熱部21と加熱不活性ガス循環路とで構成され、この加熱不活性ガス循環路にフィルタ3を有しているから、引用発明と本願発明とは、「熱風循環路に耐熱フィルターが配設」されている点で一致する。
ただし、耐熱フィルターについて、本願発明では「ステンレス製の複数の線材を織製した」ものであり、「耐熱性が150℃以上である」のに対し、引用発明ではその旨特定されていない点で相違する。

(7)引用発明の「ガス流出口22」は、加熱部21に電線が挿通される側において加熱部21に設けられ、電線が加熱不活性ガス循環路の吸気端72に接続されているから、本願発明の「上記チャンバーで上記導体を導入する側に配設される熱風吸込口」に相当する。
また、引用発明の「ガス流入口23」は、加熱部21の外へ導かれる側において加熱部21に設けられ、電線が加熱不活性ガス循環路の排気端71に接続されているから、本願発明の「上記チャンバーで上記導体を排出する側に配設される熱風吹出口」に相当する。
そして、引用発明においては、加熱不活性ガス循環路と加熱部21とが熱風循環路を構成していることから、熱風循環路は、「ガス流出口22」と「ガス流入口23」とを有している。
したがって、引用発明と本願発明とは、「上記熱風循環路が、上記チャンバーで上記導体を導入する側に配設される熱風吸込口と、上記チャンバーで上記導体を排出する側に配設される熱風吹出口とを有する」点で一致する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、

「線状の導体をその軸方向に走行させつつ絶縁体の前駆体の塗布及び焼付を行う絶縁電線の製造装置であって、
絶縁体前駆体塗布装置と、
絶縁体前駆体塗布後の導体を連続的に通過させ、熱風により加熱するチャンバーと
を備え、
上記チャンバーが、熱風循環路の一部で構成され、
上記熱風循環路に耐熱フィルターが配設され、
上記耐熱フィルターが異物除去用のフィルターであり、
上記熱風循環路が、上記チャンバーで上記導体を導入する側に配設される熱風吸込口と、上記チャンバーで上記導体を排出する側に配設される熱風吹出口とを有する絶縁電線の製造装置。」

である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「絶縁体の前駆体」及び「絶縁体前駆体塗布装置」について、それぞれ、本願発明では「ワニス」及び「導体を連続的に浸漬するワニス貯留槽」であるのに対して、引用発明では「未焼成のゴム、プラスチック」及び「押出装置」である点。
[相違点2]
本願発明では、導体が周回機構によってワニス貯蔵槽及びチャンバーを周回するのに対して、引用発明においてはその旨特定されていない点。
[相違点3]
耐熱フィルタについて、本願発明1では「ステンレス製の複数の線材を織製した」もので、「150℃以上の耐熱性」があり、「平均捕集率が75%以上」であることが特定されているのに対し、引用発明ではその旨特定されていない点。
[相違点4]
耐熱フィルターについて、本願発明1では「熱風循環路に着脱可能」である旨特定されているのに対して、引用発明においてはその旨特定されていない点。

第6 当審の判断

1.相違点1及び2について

絶縁電線の技術分野において、線状の導体に対して絶縁体を設ける手段として、ワニスの塗布及び焼付けを行うこと、ワニスを塗布するために導体を連続的に浸漬するワニス貯蔵槽を用いること、その際に、周回機構によってワニス貯蔵槽及びチャンバーを周回するようにすることは周知の技術事項である。
たとえば、上記「第4 2.」で摘示した引用文献2には、周回装置と、塗布装置と、加熱装置とを備えたエナメル被覆装置において、周回装置は金属線を周回させる装置であり、塗布装置は絶縁ワニスを貯留する絶縁ワニス槽を備え、周回する金属線の外周に絶縁ワニスを塗布する装置であり、加熱装置は焼付炉を備え、周回装置により周回走行する絶縁ワニス付きの金属線を加熱して絶縁ワニスに含まれる樹脂を硬化させ、金属線の外周にエナメル被覆を定着させるものであり、焼付炉は内部に金属線の一部を収納する走行炉を備える技術事項が記載されている。
そして、機能の共通性から、引用発明における、押出装置による未焼成のゴム、プラスチックの塗布を、周知の技術事項である、ワニス貯蔵槽によるワニスの塗布に置き換えること、その際、周知の技術事項である周回機構によるワニス貯蔵槽とチャンバーの周回を行うようにすることで相違点1及び相違点2の構成とすることは当業者が適宜なし得たことである。

2.相違点3について

上記「第4 3.」のとおり、引用文献3には、粉塵や油などを除去するためのフィルタを、金属ワイヤを編んで構成された網状部材を含むエアフィルタとし、耐熱性や耐食性のためステンレスを用いる技術事項が記載されている。
そして、引用発明において、公知な部品の中から好適な部品を採用することは当業者の通常の創作能力の発揮に他ならないから、引用発明におけるフィルタ3として引用文献3に記載されたフィルタ(ステンレスであることから、当然150℃以上の耐熱性を有する。)を用いることは当業者が容易になし得たことである。
また、異物を除去することはフィルタの基本的な機能であるから、フィルタを設置する以上は異物除去の性能を好適化することは当業者に期待される範囲の創作行為である。そして、引用発明において、フィルタの性能を好適化するに際し、公知の指標のうち平均捕集率を選択し、それを75%以上とすることは、残渣をどの程度捕集するかや、加熱不活性ガスの通りやすさなどに応じて当業者が適宜なし得たことである。
したがって、引用発明において引用文献3に記載された技術事項を採用することで、上記相違点3の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

3.相違点4について

一般に、部品の故障、不具合の際に当該部品を交換できるようにしておくことは広く行われており、フィルターについても、目詰まり等のため交換可能なように設置しておくことは、例えば引用文献3(段落【0008】には、エアフィルタは、その使用によって粉塵等が目詰まりの原因になるため、洗浄して粉塵等を除去したり、未使用のものと交換することが記載されている。)に記載されているように、周知の技術事項である。
したがって、引用発明において、フィルタ3を交換可能なように加熱不活性ガス循環路に対して着脱可能にして上記相違点4の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

4.意見書の主張等について

審判請求人は、令和1年10月18日に提出した意見書において「導体に塗布されたワニスを乾燥及び硬化させるチャンバー(焼付炉)は、例えば段落0028で示す特開2011-48956号の絶縁電線製造装置に記載されているように、チャンバー内で下方から上方に導体が通過します。導体に塗布されたワニスが十分に加熱されて硬化する前の飛沫等の異物は落下することにより、チャンバーの上方側より下方側に多くの上記異物が溜まります。上記異物の溜まりやすい熱風吸入口をチャンバーの下方側に設けることで、清掃時において、熱風が熱風吸入口から耐熱フィルターに向かうため、上記耐熱フィルターがより多くの異物を捕集することができ、異物の除去を効率的に行うことができます。」と主張している。
しかしながら、請求項1において、導体が下方から上方に通過する点は特定されていないから、上記主張は請求項の記載に基づくものではない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

また、審判請求人は同意見書において、「引用文献1の架橋装置が備える加熱部は、電線が排出される側に排気口と、電線が導入される側に上方に吸気口とを設けている不活性ガス循環路を有することが記載されていますが(実用新案登録請求の範囲、図等)、電線が導入される側に排気口と、電線が排出される側に吸気口とを設けることは記載されていません。」(下線は当審で付与したものである。)と主張する。
しかしながら、上記主張の下線部の排気口と吸気口に関する配置は、請求項1で特定されている配置とは異なるものである。そして、引用文献1に記載された排気口と吸気口に関する配置は、上記「第5」のとおり、請求項1で特定された配置と同じである。
したがって、審判請求人の上記主張は当を得たものでない。

そして、相違点1ないし3を総合的に勘案しても、本願発明が奏する効果は、引用発明、引用文献2及び3に記載された技術事項、並びに周知の技術事項から予測できる範囲内のものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

第7 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2及び引用文献3に記載された技術事項、並びに周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-23 
結審通知日 2019-12-24 
審決日 2020-01-07 
出願番号 特願2014-224017(P2014-224017)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 山澤 宏
石坂 博明
発明の名称 絶縁電線の製造装置及び絶縁電線の製造方法  
代理人 天野 一規  

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