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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B62D
管理番号 1360019
審判番号 不服2018-14768  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-06 
確定日 2020-02-20 
事件の表示 特願2014-132952号「植播系圃場作業機」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月21日出願公開、特開2016- 11024号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年6月27日の出願であって、平成29年6月30日付けで拒絶理由が通知され、同年9月11日に意見書及び手続補正書が提出され、これに対し、同年10月2日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成30年2月9日に意見書及び手続補正書が提出され、これに対し、平成30年7月30日付け(同年8月7日:発送日)で補正の却下の決定がなされるとともに拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。
その後、本願は、当審において令和1年6月14日付けで拒絶理由を通知したところ、同年8月19日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同年9月10日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由A」という。)を通知したところ、同年11月18日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明等
本願の請求項1ないし3に係る発明は、令和1年11月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3(以下「補正後の請求項1ないし3」という。)に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。(下線は、当審で付与した。以下、同様。)

「【請求項1】
走行機体と、
圃場に対して作業を行う圃場作業装置と、
GNSSモジュールを有するとともに測位データを出力する測位ユニットと、
前記圃場作業装置を駆動しながら走行する直線状の走行経路である作業走行経路と、枕地において作業走行中の前記作業走行経路から次の前記作業走行経路に移行するための枕地旋回経路とを算定する経路算定部と、
前記測位データと前記作業走行経路とに基づいて前記走行機体を前記作業走行経路に沿うように自動操舵する自動操舵部と、
自動操舵の動作開始と動作停止とを設定する人為操作体の操作状態を検出して動作開始状態信号または動作停止状態信号を出力する状態検出手段と、
前記動作停止状態信号に基づいて前記自動操舵部による前記作業走行経路に沿って前記走行機体を走行させる自動操舵を停止するとともに操舵制御を人為操舵に移行させ、前記動作開始状態信号に基づいて操舵制御を前記人為操舵から前記自動操舵に移行させ、前記作業走行経路に沿って前記走行機体を作業走行させる自動操舵決定部と、を備え、
前記自動操舵決定部が、苗補給が必要な場合に自動操舵の開始を決定する植播系圃場作業機。」

(審決注:補正後の請求項1には「人為操作具」と記載されているが、以下に示すように、「人為操作体」の誤記と認められるので、上記のとおり認定した。
すなわち、本願の願書に添付された明細書(以下「本願明細書」という。)の【0016】の「本発明の好適な実施形態の1つでは、前記自動操舵部の動作停止を指令する人為操作体、または前記自動操舵部の動作開始を指令する人為操作体、または前記自動操舵部の動作停止及び動作開始を指令する人為操作体のいずれかが、前記走行機体または前記圃場作業装置を操作するための人為操作具に設けられている。」との記載から見て、「自動操舵の動作開始と動作停止とを設定する」ものは「人為操作具」でなく「人為操作体」であることが明らかであるから、補正後の請求項1の「自動操舵の動作開始と動作停止とを設定する人為操作具」との記載は「自動操舵の動作開始と動作停止とを設定する人為操作体」の誤記といえる。
また、当該【0016】の記載から、「前記走行機体または前記圃場作業装置を操作するための人為操作具に設けられている」ものは「人為操作具」でなく「人為操作体」であることも明らかであるから、補正後の請求項2の「前記人為操作具がレバースイッチであり、前記レバースイッチが、前記走行機体または前記圃場作業装置を操作するための人為操作具に設けられている」との記載も、「前記人為操作体がレバースイッチであり、前記レバースイッチが、前記走行機体または前記圃場作業装置を操作するための人為操作具に設けられている」の誤記ということができる。そして、補正後の請求項2の当該「前記人為操作体」が前記する構成であることからも、上記補正後の請求項1の「人為操作具」が「人為操作体」の誤記といえる。)

本願明細書には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、GNSSモジュールを備え、設定された作業走行経路に沿って自動操舵される植播系圃場作業機に関する。
なお、GNSS(Global Navigation Satellite System)は、ここでは測位衛星を用いて測位するシステムの総称として用いられており、例えばGPSなども含まれる。また、植播系圃場作業機は、田植機、播種機、施肥機などを含めた圃場作業機の総称として用いられている。
・・・
【0016】
運転者の自由意思により自動操舵部の動作開始や動作停止を行うための人為操作体が備えられている場合、そのような操作は、例えば、走行機体を予定外の走行経路や速度で走行させる場合や圃場作業装置を予定外の状態に操作する場合に、同時に行う可能性が高い。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記自動操舵部の動作停止を指令する人為操作体、または前記自動操舵部の動作開始を指令する人為操作体、または前記自動操舵部の動作停止及び動作開始を指令する人為操作体のいずれかが、前記走行機体または前記圃場作業装置を操作するための人為操作具に設けられている。具体的な例として、作業装置昇降用レバー、作業装置一時昇降用レバー、変速レバー、ステアリングホイール、アクセル操作具などに、自動操舵用の人為操作体を取り付けることができる。
・・・
【0026】
図1で例示された植播系圃場作業機には、自動操舵部83の動作開始を指令する人為操作体70が、好ましくはその他の操作具に直接または近接して設けられている。この人為操作体70が自動操舵部83の動作開始を指令するために設定されている操作がなされることによって生成される信号が自動操舵決定部82に入力されると、自動操舵部83の動作開始が指令される。また、この人為操作体70が自動操舵部83の動作停止を指令するために設定されている操作がなされることによって生成される信号が自動操舵決定部82に入力されると、自動操舵部83の動作停止が指令される。
・・・
【0056】
この実施形態では、図7の拡大図から理解できるように、昇降レバー49の自由先端部に、人為操作体70が、トグルスイッチとして設けられている。人為操作体70を一度押すと、自動操舵決定部82は自動操舵部83による自動操舵の動作開始を指令し、再度押すと、自動操舵決定部82は自動操舵部83による自動操舵の動作停止を指令する。もちろん、トグルスイッチに代えて、自動操舵の動作開始と動作停止の位置が設定されている2方向のレバースイッチやシーソスイッチを用いてもよい。昇降レバー49以外の人為操作体70の取付位置として、ステアリングハンドル33bや非図示の主変速レバー及びアクセルレバーなどが挙げられる。また、人為操作体70が複数個所に設けられてもよい。」


第3 当審拒絶理由A

当審拒絶理由Aの概要は、「この出願の請求項1?2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、以下の刊行物が示されている。

刊行物
引用文献1:特開平9-178481号公報


第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項等
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、所定範囲の作業地内において作業車を走行させるための走行用データを作成する作業車の走行用データ作成装置、及び、その走行用データに基づいて作業車を作業地内に走行させるための作業車の誘導制御装置に関する。
・・・
【0004】本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、上記従来技術の不具合を解消させるべく、作業地内において作業車を走行させるための走行用データを多大な手間を要することなく迅速且つ的確に作成すること、及び、その走行用データに基づいて作業車を作業地内において適切な状態で自動走行させるようにすることにある。」

「【0027】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を、作業車としての田植え用の作業車Vが、所定範囲の作業地内に形成した予定走行経路に沿って自動走行しながら、苗の植付け作業を行う場合について説明する。
【0028】例えばその地点の重力方向に対して水平方向を東西及び南北方向で表した局地水平座標系E(東方向),N(北方向),H(地球中心からの高さ方向)において高精度に位置(上記座標系E,N,Hでの座標値)が判っている地上側の基準位置に設置されて、図2に示すように、少なくとも4個のGPS衛星2からのスペクトラム拡散変調された電波(搬送波信号)を受信するGPS基準局R(以後、単に基準局Rともいう)用のアンテナ19aと、このアンテナ19aの受信信号を処理して搬送波の位相情報を得るGPS受信機19と、そのGPS受信機19からの搬送波位相情報を作業車V側に向けて送信するための送信アンテナ20aを備えた基準側通信手段としての送受信機20とが設けられている。
【0029】作業車Vの構成について、図1?図2に基づいて説明する。左右一対の前輪3及び後輪4を備えた車体5の後部に、下降位置で駆動されている作業状態とこれ以外の非作業状態とに切換自在な苗植え付け装置6(作業部に相当)が、昇降自在で且つ駆動停止自在に設けられている。前後輪3,4は、左右を一対として各別に操向操作自在に構成され、操向用の油圧シリンダ7,8と、電磁操作式の制御弁9,10とが設けられている。そして、手動操作されるステアリング切換スイッチ21の切換状態又は制御装置16の制御によって、前輪3又は後輪4の一方のみを操向する2輪ステアリング形式、前後輪3,4を逆位相で且つ同角度に操向する4輪ステアリング形式、前後輪3,4を同位相で且つ同角度に操向する平行ステアリング形式の3種類のステアリング形式のうちの1つが選択される。
【0030】図1中、Eはエンジン、11はエンジンEからの出力を変速して前後輪3,4の夫々を同時に駆動する油圧式無段変速装置、12及び22は夫々変速装置11に対する自動変速用の電動モータ及び手動変速用のアクセルペダル、23は手動操縦のための手動式の操向手段としてのハンドル、SW1は操縦を手動操縦と自動操縦とで切り換えるための操縦切換情報を指令する手動式の指令手段としての手動自動切換スイッチ、13は植え付け装置6の昇降用油圧シリンダ、14はその制御弁、15はエンジンEによる植え付け装置6の駆動を断続する電磁操作式の植え付けクラッチである。16は作業車Vの走行並びに植え付け装置6の作動等を制御するマイクロコンピュータ利用の制御装置であって、後述の各種センサによる検出情報及び予め記憶された走行用データに基づいて、変速用モータ12、各制御弁9,10,14、植え付けクラッチ15等を作動させる。
・・・
【0032】又、車体5には、3次元(車体前後、横幅及び上下方向)の各軸周りでの角速度を検出するジャイロ装置S5と、3次元(車体前後、横幅及び上下方向)各方向での加速度を検出する加速度センサS6とが設置されている。そして、これらのジャイロ装置S5、加速度センサS6及び前記制御装置16を利用して、作業車Vの車体位置の変化量を所定時間間隔の時系列の慣性航法位置データとして求める慣性航法システムINSが構成されている。上記慣性航法位置データ(以下、INS位置データという)は、具体的には、車体5の所定の計測時間間隔(例えば0.1秒)内における位置変化量が、所定時間間隔(例えば0.1秒)の計測時刻ラベル付きのデータとして求められる。
【0033】車体5には、GPS衛星2からの搬送波信号を受信するためのGPS受信アンテナ17aと、そのGPS受信アンテナ17aの受信信号を処理して搬送波の位相情報を得るGPS受信機17と、前記基準局Rの送受信機20の送信情報を受信するアンテナ18aを備えた作業車側通信手段としての送受信機18とが設けられ、これらのGPS受信アンテナ17a、GPS受信機17及び送受信機18によって、GPS移動局I(以後、単に移動局Iともいう)が構成される。
【0034】図5に示すように、作業車Vが走行して作業する作業地としての圃場Fの周縁部に位置されて、GPS衛星2からの電波(搬送波)信号を受信するGPS受信局としての固定局Kが、4角形(台形)状の圃場Fの各角部に設置された4つの固定局K1?K4で構成されている。尚、各固定局K1?K4には、図4に示すように、前記移動局Iと同様に、GPS受信アンテナ30aと、そのGPS受信アンテナ30aの受信信号を処理して搬送波の位相情報を得るGPS受信機30と、前記基準局Rの送受信機20の送信情報を受信するアンテナ31aを備えた作業車地通信手段としての送受信機31とが設けられ、さらに、後述のようにして求める各固定局K1?K4の位置情報を、上記送受信機31を経て作業車V側の受信機32(図1参照)に送信するための送信アンテナ31bとが設けられている。
【0035】前記基準局R、移動局I及び各固定局K1?K4のGPS受信機19,17,30は、図3及び図4に示すように、ほぼ同様の構成になるものであって、夫々のGPS受信アンテナ19a,17a,30aで受信した電波信号は、先ず高周波信号処理部24A,24B,24Cに入力して低周波数に変換される。その低周波数変換された信号は、C/Aコード解析部25A,25B,25Cにて衛星番号等が解読されるとともに、搬送波位相計測部27A,27B,27Cにおいて、上記衛星番号に応じて作成されるC/Aコードと相関をとって搬送波が再生され、さらに内蔵した時計28A,28B,28Cにて設定時間間隔で搬送波の位相が計測される。同時に、C/Aコード解析部25A,25B,25Cからの情報に基づいて、航路メッセージ解読部26A,26B,26Cにて衛星位置情報等が判別される。そして、上記各部からの情報は、夫々の制御用のコンピュータ29A,29B,29Cに入力されて基準局R、移動局I及び各固定局K1?K4における搬送波位相情報が求められる。
【0036】さらに、基準局R側コンピュータ29Aから出力された基準局Rでの搬送波位相情報が、前記地上側の送受信機20を経て送信アンテナ20aから送信されて作業車側のアンテナ18aで受信され、送受信機18を経て移動局I側コンピュータ29Bに入力され,その移動局I側コンピュータ29Bにおいて、基準局R及び移動局Iでの両搬送波位相情報に基づいて二重位相差情報が求められる。そして、上記GPS受信機17を利用して、移動局Iでの搬送波位相情報及び前記送受信機18が受信した基準局Rでの搬送波位相情報から求めた二重位相差情報に基づいて、作業車Vの車体位置を所定時間間隔の時系列のGPS位置データとして求めるGPS位置データ算出手段102が構成されている。そして、このGPS受信機17で得られたGPS位置データが制御装置16に入力されている(図1参照)。
・・・
【0041】そして、図1に示すように、前記制御装置16を利用して、前記GPS位置データ算出手段102にて求められる現在時刻より設定時間前のGPS位置データ、及び、前記慣性航法システムINSにて求められる現在時刻での慣性航法位置データによって現在時刻での作業車Vの車体位置を検出する車体位置検出手段103が構成されている。つまり、検出遅れのあるGPS位置データに対して即時性のある慣性航法位置データを補間して、現在時刻での車体位置を求める。
【0042】又 図1及び図4に示すように、前記各固定局K1?K4のGPS受信機30と前記制御装置16とを利用して、圃場Fの各角部に位置される各固定局K1?K4の圃場Fの各角部での受信情報に基づいて、その圃場Fの周縁部の位置を検出する周縁部位置検出手段104が構成されている。つまり、各固定局K1?K4において、自己の搬送波位相情報及び各送受信機31が受信した前記基準局Rでの搬送波位相情報から求めた二重位相差情報に基づいて各固定局K1?K4の位置を検出し、それらの位置データから圃場Fの周縁部の位置を検出するように構成されている。具体的には、各固定局K1?K4を圃場Fの各角部に設置した後、各固定局K1?K4及び基準局Rでの搬送波受信信号から二重位相差を計算しながら、上記二重位相差情報に含まれる搬送波波長の整数倍の不確定(整数値バイアス)を確定させ、所定時間後にその整数値バイアスが確定したときの二重位相差情報に基づいて、図5に示すように、基準局Rから各固定局K1?K4への位置ベクトルr1,r2,r3,r4を求め、これら4つの位置ベクトルr1,r2,r3,r4から圃場Fの周縁部の位置を求める。
【0043】又、前記制御装置16を利用して、前記周縁部位置検出手段104の情報に基づいて、圃場F内での作業車Vの走行を制御するための走行用データを作成する走行用データ作成手段105が構成されている。具体的には、この走行用データは、圃場F内を自動走行させるための予定走行経路として、図5に示すように、圃場F内に平行状態で設定間隔を隔てて並ぶ複数の作業経路Lと、作業車Vを1つの作業経路Lの端部から他の作業経路Lの端部へ旋回移動させるための旋回経路Lrとを形成するように作成される。つまり、図5の例では、台形状である圃場Fの4辺のうちの平行状態で対向する両対向辺F1,F2側に旋回経路Lrを形成し、両斜辺F3,F4のうちの一方の斜辺F3(このF3は上記対向辺F1,F2にほぼ直交する)の方向に沿って作業経路Lを形成している。但し、他方の斜辺F4が上記対向辺F1,F2に対して直交していないので、その斜辺F4に近い圃場部分では、作業経路Lの端部側が一方の対向辺F2に達する前に、その斜辺F4に隣接する状態で旋回経路Lrを形成している。尚、各作業経路L及び旋回経路Lrの経路情報は、地上側での前記E,N,H座標系での座標データとして設定される。
【0044】又、前記制御装置16を利用して、前記走行用データ作成手段104(当審注、「走行用データ作成手段105」の誤記と認める。)の情報に基づいて作業車Vの圃場F内での走行を制御する走行制御手段100と、作業車Vが圃場F内の作業対象領域に走行するに伴って作業車Vに備えた植え付け装置6を作動させ、且つ、作業車Vが圃場F内の非作業対象領域に走行するに伴って植え付け装置6の作動を停止させる作業制御手段101とが構成され、そして、上記走行制御手段100は、前記車体位置検出手段103の情報に基づいて作業車Vの圃場F内での位置を特定して制御を行うように構成されている。
・・・
【0047】無人作業走行処理(図7)では、作業車Vは、時系列のGPS位置データ及びINS位置データによる位置検出情報に基づいて操向制御しながら、スタート地点Stから、2輪ステアリングで各作業経路Lに沿って直進走行を開始する。そして、作業経路Lの始端側の作業対象領域Fsに達すると植え付け装置6を下降させ且つ駆動開始して植付け作業を行うとともに、作業経路Lの終端部側の非作業対象領域Fnに達すると植え付け装置6を上昇させ且つ駆動停止させる。ここで、斜辺F4側のエンド地点Seに走行している場合には、そこで走行を停止してメインフローに戻る。
【0048】一方、走行終了でない場合には、その地点から所定距離直進した後、ステアリングを2輪から4輪に切り換えて、隣接する次の作業経路Lの始端部へ向けて車体の向きを180度換えながら旋回経路Lrに沿って旋回動作する。旋回後は、ステアリングを2輪に戻して作業経路Lを逆方向に走行するとともに、上記と同様に、作業対象領域Fsに対する植え付け装置6の作動と、非作業対象領域Fnに対する植え付け装置6の作動停止を行いながら、各作業経路Lを往復走行して圃場Fの作業対象領域Fsの全体を、前記エンド地点Seに達するまで走行する。尚、上記旋回経路Lr等の非作業対象領域Fnに対しては、例えば、作業車Vを手動操縦して植え付け作業を行ったり、あるいは、手植え作業を行う。
・・・
【0052】上記実施例では、作業車Vを予定走行経路に沿って自動走行させるように走行制御する場合について説明したが、作業者が作業車Vを手動操縦しながら圃場Fを走行させるようにしてもよい。この場合に、作業車Vが圃場Fの端部側でスムーズに旋回でき、また、操縦ミスによって作業車Vが圃場外に出る等の不具合を未然に防止するために、図11のフローチャートにて示す手動操縦を補助するための自動減速制御を、走行制御手段100が実行するようにしてもよい。この自動減速制御では、先ず、自動減速作動モードであることを確認すると、図12に示す矩形状の作業地(圃場F)の長手方向に沿って作業車Vを走行させるとして、その長手方向端部側に向かって手前側から順番に、予め設定されている減速開始ライン、旋回開始ライン、及び圃場終端ラインの各データを取り込むとともに、現在位置を計測する。そして、圃場終端ラインや、既に旋回動作を開始しているべく旋回開始ラインに到達しているときには、安全のために走行停止させ、また、減速開始ラインに到達しているときには減速処理を行う。
【0053】さらに、上記自動減速制御の他に、走行制御手段100は、前記ハンドル23による手動操縦がなされているときに、前記手動自動切換スイッチSW1にて手動操縦から自動操縦への操縦切換情報が指令されるに伴って、前記走行用データ作成手段104(当審注、「走行用データ作成手段105」の誤記と認める。)にて作成される前記予定走行経路つまり作業経路Lに沿って走行させる操向制御(以下、手放し走行処理という)を行うように構成される。この手放し走行処理(図13)では、先ず、手放し走行開始が指令されると、、走行用データを取り込み、次に、現在位置を計測して、作業経路Lに沿って走行させるべき走行軌道を算出するとともに、前述(数1)と同様な手順で目標操舵角を計算して前輪3を自動ステアリング制御する。一方、手放し走行開始が指令されていないときには、ハンドル23の操作角に基づく手動ステアリング制御を行う。尚、上記走行軌道に沿って自動走行して圃場端部に達すると、作業車Vは自動停止して待機する。尚、例えば矩形状にような作業地形状の場合には、上記手放し走行処理を行うための走行用データを、簡易的に作成することができる。つまり、図14及び図15に示すように、圃場長手方向に沿う辺F3の両端の辺F1との角部(圃場入口側とする)及び辺F2との角部(圃場隅とする)夫々に作業車Vを位置させ、GPS受信情報に基づいて各位置を、図のように、GPS固定局(この例では基準局Rで代用する)に対する相対位置を表す座標値(LXa,LYa),(LXb,LYb)として順次検出して設定するのである。そして、この場合の手放し走行処理では、上記圃場長手方向の端部位置のデータを参照して、その端部位置まで走行する。」

また、引用文献1には、以下の図が示されている。



(2)引用文献1の認定事項
上記記載から、引用文献1には、「田植え用の作業車V」(段落【0027】)に関し、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 段落【0029】、【0030】から、「作業車Vの構成」について、以下の事項が認定できる。
「左右一対の前輪3及び後輪4を備えた車体5の後部に、下降位置で駆動されている作業状態とこれ以外の非作業状態とに切換自在な苗植え付け装置6(作業部に相当)が、昇降自在で且つ駆動停止自在に設けられること。」

「手動操縦のための手動式の操向手段としてのハンドル23、及び、操縦を手動操縦と自動操縦とで切り換えるための操縦切換情報を指令する手動式の指令手段としての手動自動切換スイッチSW1を備えること。」

「作業車Vの走行並びに植え付け装置6の作動等を制御するマイクロコンピュータ利用の制御装置16を備えること。」

b-1 段落【0033】から、上記aの「車体5」について、以下の事項が示されているといえる。
「車体5には、GPS受信アンテナ17aと、GPS受信機17と及び送受信機18とが設けられ、移動局Iが構成されること。」

b-2 段落【0028】、【0036】には、上記b-1の「GPS受信機17」について、以下の事項が示されているといえる。
「基準局Rが高精度に位置が判っている地上側の基準位置に設置され、上記GPS受信機17を利用して、移動局Iでの搬送波位相情報及び前記送受信機18が受信した基準局Rでの搬送波位相情報から求めた二重位相差情報に基づいて、作業車Vの車体位置を所定時間間隔の時系列のGPS位置データとして求めるGPS位置データ算出手段102が構成されていること。」

b-3 段落【0032】から、上記aの「車体5」について、以下の事項が示されているといえる。
「車体5には、ジャイロ装置S5と、加速度センサS6とが設置され、ジャイロ装置S5、加速度センサS6及び前記制御装置16を利用して、作業車Vの車体位置の変化量を所定時間間隔の時系列の慣性航法位置データとして求める慣性航法システムINSが構成されること。」

b-4 段落【0041】には、上記aの「制御装置16」及び上記b-2の「GPS位置データ算出手段102」について、以下の事項が示されているといえる。
「前記制御装置16を利用して、前記GPS位置データ算出手段102にて求められる現在時刻より設定時間前のGPS位置データ、及び、前記慣性航法システムINSにて求められる現在時刻での慣性航法位置データによって現在時刻での作業車Vの車体位置を検出する車体位置検出手段103が構成されていること。」

c 段落【0034】、【0042】、【0043】から、上記aの「制御装置16」について、以下の事項が認定できる。
「作業車Vが走行して作業する作業地としての圃場Fの周縁部に位置されて、GPS衛星2からの電波(搬送波)信号を受信するGPS受信局としての固定局Kが、4角形(台形)状の圃場Fの各角部に設置された4つの固定局K1?K4で構成され、
前記各固定局K1?K4のGPS受信機30と前記制御装置16とを利用して、圃場Fの各角部に位置される各固定局K1?K4の圃場Fの各角部での受信情報に基づいて、その圃場Fの周縁部の位置を検出する周縁部位置検出手段104が構成され、
前記制御装置16を利用して、前記周縁部位置検出手段104の情報に基づいて、圃場F内での作業車Vの走行を制御するための走行用データを作成する走行用データ作成手段105が構成され、この走行用データは、圃場F内を自動走行させるための予定走行経路として、圃場F内に平行状態で設定間隔を隔てて並ぶ複数の作業経路Lと、作業車Vを1つの作業経路Lの端部から他の作業経路Lの端部へ旋回移動させるための旋回経路Lrとを形成するように作成されること。」

d 段落【0044】には、上記aの「制御装置16」、上記b-4の「車体位置検出手段103」及び上記cの「走行用データ作成手段105」について、以下の事項が認定できる。
「前記制御装置16を利用して、前記走行用データ作成手段105の情報に基づいて作業車Vの圃場F内での走行を制御する走行制御手段100と、作業車Vが圃場F内の作業対象領域に走行するに伴って作業車Vに備えた植え付け装置6を作動させ、且つ、作業車Vが圃場F内の非作業対象領域に走行するに伴って植え付け装置6の作動を停止させる作業制御手段101とが構成され、そして、上記走行制御手段100は、前記車体位置検出手段103の情報に基づいて作業車Vの圃場F内での位置を特定して制御を行うように構成されていること。」

e 段落【0047】、【0048】から、「作業車V」について、以下の事項が認定できる。
「作業車Vは、時系列のGPS位置データ及びINS位置データによる位置検出情報に基づいて操向制御しながら、スタート地点Stから、2輪ステアリングで各作業経路Lに沿って直進走行を開始し、
作業経路Lの始端側の作業対象領域Fsに達すると植え付け装置6を下降させ且つ駆動開始して植付け作業を行うとともに、作業経路Lの終端部側の非作業対象領域Fnに達すると植え付け装置6を上昇させ且つ駆動停止させ、
走行終了でない場合には、その地点から所定距離直進した後、ステアリングを2輪から4輪に切り換えて、隣接する次の作業経路Lの始端部へ向けて車体の向きを180度換えながら旋回経路Lrに沿って旋回動作し、
旋回後は、ステアリングを2輪に戻して作業経路Lを逆方向に走行するとともに、上記と同様に、作業対象領域Fsに対する植え付け装置6の作動と、非作業対象領域Fnに対する植え付け装置6の作動停止を行いながら、各作業経路Lを往復走行して圃場Fの作業対象領域Fsの全体を、前記エンド地点Seに達するまで走行すること。」

f 段落【0052】、【0053】から、以下の事項が認定できる。
「作業者が作業車Vを手動操縦しながら圃場Fを走行させるようにしてもよく、
走行制御手段100は、前記ハンドル23による手動操縦がなされているときに、前記手動自動切換スイッチSW1にて手動操縦から自動操縦への操縦切換情報が指令されるに伴って、前記走行用データ作成手段105にて作成される前記予定走行経路つまり作業経路Lに沿って走行させる操向制御(以下、手放し走行処理という)を行うように構成され、
手放し走行開始が指令されると、作業経路Lに沿って走行させるべき走行軌道を算出するとともに、前輪3を自動ステアリング制御し、
手放し走行開始が指令されていないときには、ハンドル23の操作角に基づく手動ステアリング制御を行うこと。」

(3)引用文献1に記載された発明
以上から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「田植え用の作業車Vであって、

左右一対の前輪3及び後輪4を備えた車体5の後部に、下降位置で駆動されている作業状態とこれ以外の非作業状態とに切換自在な苗植え付け装置6(作業部に相当)が、昇降自在で且つ駆動停止自在に設けられ、
手動操縦のための手動式の操向手段としてのハンドル23、及び、操縦を手動操縦と自動操縦とで切り換えるための操縦切換情報を指令する手動式の指令手段としての手動自動切換スイッチSW1を備え、
作業車Vの走行並びに植え付け装置6の作動等を制御するマイクロコンピュータ利用の制御装置16を備え、

車体5には、GPS受信アンテナ17aと、GPS受信機17と及び送受信機18とが設けられ、移動局Iが構成され、
基準局Rが高精度に位置が判っている地上側の基準位置に設置され、
上記GPS受信機17を利用して、移動局Iでの搬送波位相情報及び前記送受信機18が受信した基準局Rでの搬送波位相情報から求めた二重位相差情報に基づいて、作業車Vの車体位置を所定時間間隔の時系列のGPS位置データとして求めるGPS位置データ算出手段102が構成され、
車体5には、ジャイロ装置S5と、加速度センサS6とが設置され、ジャイロ装置S5、加速度センサS6及び前記制御装置16を利用して、作業車Vの車体位置の変化量を所定時間間隔の時系列の慣性航法位置データとして求める慣性航法システムINSが構成され、
前記制御装置16を利用して、前記GPS位置データ算出手段102にて求められる現在時刻より設定時間前のGPS位置データ、及び、前記慣性航法システムINSにて求められる現在時刻での慣性航法位置データによって現在時刻での作業車Vの車体位置を検出する車体位置検出手段103が構成されるものであって、

作業車Vが走行して作業する作業地としての圃場Fの周縁部に位置されて、GPS衛星2からの電波(搬送波)信号を受信するGPS受信局としての固定局Kが、4角形(台形)状の圃場Fの各角部に設置された4つの固定局K1?K4で構成され、
前記各固定局K1?K4のGPS受信機30と前記制御装置16とを利用して、圃場Fの各角部に位置される各固定局K1?K4の圃場Fの各角部での受信情報に基づいて、その圃場Fの周縁部の位置を検出する周縁部位置検出手段104が構成され、
前記制御装置16を利用して、前記周縁部位置検出手段104の情報に基づいて、圃場F内での作業車Vの走行を制御するための走行用データを作成する走行用データ作成手段105が構成され、この走行用データは、圃場F内を自動走行させるための予定走行経路として、圃場F内に平行状態で設定間隔を隔てて並ぶ複数の作業経路Lと、作業車Vを1つの作業経路Lの端部から他の作業経路Lの端部へ旋回移動させるための旋回経路Lrとを形成するように作成され、

前記制御装置16を利用して、前記走行用データ作成手段105の情報に基づいて作業車Vの圃場F内での走行を制御する走行制御手段100と、作業車Vが圃場F内の作業対象領域に走行するに伴って作業車Vに備えた植え付け装置6を作動させ、且つ、作業車Vが圃場F内の非作業対象領域に走行するに伴って植え付け装置6の作動を停止させる作業制御手段101とが構成され、そして、上記走行制御手段100は、前記車体位置検出手段103の情報に基づいて作業車Vの圃場F内での位置を特定して制御を行うように構成され、

作業車Vは、時系列のGPS位置データ及びINS位置データによる位置検出情報に基づいて操向制御しながら、スタート地点Stから、2輪ステアリングで各作業経路Lに沿って直進走行を開始し、
作業経路Lの始端側の作業対象領域Fsに達すると植え付け装置6を下降させ且つ駆動開始して植付け作業を行うとともに、作業経路Lの終端部側の非作業対象領域Fnに達すると植え付け装置6を上昇させ且つ駆動停止させ、
走行終了でない場合には、その地点から所定距離直進した後、ステアリングを2輪から4輪に切り換えて、隣接する次の作業経路Lの始端部へ向けて車体の向きを180度換えながら旋回経路Lrに沿って旋回動作し、
旋回後は、ステアリングを2輪に戻して作業経路Lを逆方向に走行するとともに、上記と同様に、作業対象領域Fsに対する植え付け装置6の作動と、非作業対象領域Fnに対する植え付け装置6の作動停止を行いながら、各作業経路Lを往復走行して圃場Fの作業対象領域Fsの全体を、前記エンド地点Seに達するまで走行するものであって、

作業者が作業車Vを手動操縦しながら圃場Fを走行させるようにしてもよく、
走行制御手段100は、前記ハンドル23による手動操縦がなされているときに、前記手動自動切換スイッチSW1にて手動操縦から自動操縦への操縦切換情報が指令されるに伴って、前記走行用データ作成手段105にて作成される前記予定走行経路つまり作業経路Lに沿って走行させる操向制御(以下、手放し走行処理という)を行うように構成され、
手放し走行開始が指令されると、作業経路Lに沿って走行させるべき走行軌道を算出するとともに、前輪3を自動ステアリング制御し、
手放し走行開始が指令されていないときには、ハンドル23の操作角に基づく手動ステアリング制御を行う、

田植え用の作業車V。」

2 対比・判断
2-1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「田植え用の作業車V」は本願発明1の「植播系圃場作業機」に相当する。

イ 引用発明の「車体5」は「走行機体」に相当する。

ウ 引用発明の「苗植え付け装置6」は「田植え用の作業車V」に用いられるものであるから圃場に対するものということができ、「作業経路Lの始端側の作業対象領域Fsに達すると植え付け装置6を下降させ且つ駆動開始して植付け作業を行う」ものであって、引用発明の「植付け作業」は本願発明1の「作業」に相当する。
そうすると、引用発明の「苗植え付け装置6」は、本願発明1の「圃場に対して作業を行う圃場作業装置」に相当する。

エ 引用発明の「GPS受信機17」は、本願明細書【0001】の「なお、GNSS(GlobalNavigation Satellite System)は、ここでは測位衛星を用いて測位するシステムの総称として用いられており、例えばGPSなども含まれる」との記載から、本願発明1の「GNSSモジュール」に相当し、引用発明の「GPS位置データ」は本願発明1の「測位データ」に相当する。
また、引用発明の「車体位置検出手段103」は「前記制御装置16を利用して、前記GPS位置データ算出手段102にて求められる現在時刻より設定時間前のGPS位置データ」を用いて「現在時刻での作業車Vの車体位置を検出する」ものであり、引用発明の「GPS位置データ算出手段102」は、「上記GPS受信機17を利用して」、「所定時間間隔の時系列のGPS位置データ」を求めるものであるところ、「GPS位置データ算出手段102」が「車体位置検出手段103」へと「GPS位置データ」を出力することは技術的に明らかである。
そうすると、引用発明の「GPS位置データ算出手段102」は、「GPS受信機17」を利用して構成され、「GPS位置データ」を出力するものであるから、本願発明1の「GNSSモジュールを有するとともに測位データを出力する測位ユニット」に相当する。


(ア)引用発明の「圃場F内に平行状態で設定間隔を隔てて並ぶ複数の作業経路L」は、「圃場F内の作業対象領域に走行するに伴って作業車Vに備えた植え付け装置6を作動させ」るものであるところ、当該「作業経路L」は「植え付け装置6を作動させ」て「走行する」ものといえる。また、当該「作業経路L」は「平行状態で設定間隔を隔てて並ぶ」ものであるから、個々の「作業経路L」は直線状であるといえる。
そうすると、引用発明の「圃場F内に平行状態で設定間隔を隔てて並ぶ複数の作業経路L」は、本件発明1の「前記圃場作業装置を駆動しながら走行する直線状の走行経路である作業走行経路」に相当する。

(イ)また、引用発明の「作業車V」は「作業経路Lの終端部側の非作業対象領域Fnに達すると植え付け装置6を上昇させ且つ駆動停止させ」るものであるから、引用発明の「作業経路Lの端部から他の作業経路Lの端部へ旋回移動させる」ことは、「植え付け装置6を上昇させ且つ駆動停止させ」る「非作業対象領域Fn」においてなされることが技術的に明らかである。
そして、引用発明の「非作業対象領域Fn」は、引用文献1の【図5】を参照すると、圃場Fにおいて旋回経路Lrを含む周辺領域に存在するから、本願発明1の「枕地」に相当する。
そうすると、引用発明の「作業車Vを1つの作業経路Lの端部から他の作業経路Lの端部へ旋回移動させるための旋回経路Lr」は、本願発明1の「枕地において作業走行中の前記作業走行経路から次の前記作業走行経路に移行するための枕地旋回経路」に相当する。

(ウ)そして、引用発明において、「圃場F内を自動走行させるための予定走行経路として、圃場F内に平行状態で設定間隔を隔てて並ぶ複数の作業経路Lと、作業車Vを1つの作業経路Lの端部から他の作業経路Lの端部へ旋回移動させるための旋回経路Lrとを形成するように」「走行用データ」を作成することは、上記(ア)及び(イ)における対比を踏まえると、本願発明1の「前記圃場作業装置を駆動しながら走行する直線状の走行経路である作業走行経路と、枕地において作業走行中の前記作業走行経路から次の前記作業走行経路に移行するための枕地旋回経路とを算定する」ことに相当し、引用発明の「走行用データ作成手段105」は、当該「走行用データ」を作成するものであるから、本願発明1の「前記圃場作業装置を駆動しながら走行する直線状の走行経路である作業走行経路と、枕地において作業走行中の前記作業走行経路から次の前記作業走行経路に移行するための枕地旋回経路とを算定する経路算定部」に相当する。

カ 上記エ及び上記オでの検討を踏まえると、引用発明の「前記走行用データ作成手段105の情報」に「作業経路L」の情報が含まれること、「前記車体位置検出手段103の情報」に「GPS位置データ」の情報が含まれることは技術的に明らかである。
そして、引用発明の「作業経路Lに沿って走行させるべき走行軌道を算出するとともに、前輪3を自動ステアリング制御」することは、「前輪3」は「車体5」に備えられたものであり、作業経路Lに沿うように自動ステアリング制御されるものといえるから、上記イ及び上記ウにおける対比も踏まえると、本願発明1の「前記走行機体を前記作業走行経路に沿うように自動操舵する」ことに相当する。

そうすると、引用発明の「走行制御手段100」は、
「前記走行用データ作成手段105の情報に基づいて作業車Vの圃場F内での走行を制御する」ものであり、
「前記車体位置検出手段103の情報に基づいて作業車Vの圃場F内での位置を特定して制御を行うように構成され」ており、
「前記ハンドル23による手動操縦がなされているときに、前記手動自動切換スイッチSW1にて手動操縦から自動操縦への操縦切換情報が指令されるに伴って、前記走行用データ作成手段105にて作成される前記予定走行経路つまり作業経路Lに沿って走行させる操向制御(以下、手放し走行処理という)を行うように構成され、手放し走行開始が指令されると、作業経路Lに沿って走行させるべき走行軌道を算出するとともに、前輪3を自動ステアリング制御」するものであるから、
本願発明1の「前記測位データと前記作業走行経路とに基づいて前記走行機体を前記作業走行経路に沿うように自動操舵する自動操舵部」に相当する。


(ア)引用発明において「走行制御手段100は、前記ハンドル23による手動操縦がなされているときに、前記手動自動切換スイッチSW1にて手動操縦から自動操縦への操縦切換情報が指令されるに伴って、前記走行用データ作成手段105にて作成される前記予定走行経路つまり作業経路Lに沿って走行させる操向制御(以下、手放し走行処理という)を行うように構成され、手放し走行開始が指令されると、作業経路Lに沿って走行させるべき走行軌道を算出するとともに、前輪3を自動ステアリング制御し、手放し走行開始が指令されていないときには、ハンドル23の操作角に基づく手動ステアリング制御を行う」ものであるところ、「ハンドル23の操作角に基づく手動ステアリング制御を行うとき」には、「作業経路Lに沿って走行させる操向制御(以下、手放し走行処理という)」は動作停止が設定されているものといえる。

(イ)そして、上記カにおける対比も踏まえると、引用発明の「操縦」を「自動操縦」に「切り換える」ことは、本願発明1の「自動操縦の動作開始」を「設定する」ことに相当する。
また、引用発明の「操縦」を「手動操縦」に「切り換える」ことは、上記(ア)を踏まえると、本願発明1の「自動操縦」の「動作停止」を「設定する」ことに相当する。

(ウ)さらに、引用発明の「操縦」を「手動操縦」に「切り換える」ための「操縦切換情報を指令する」ことは、本願発明1の「動作停止状態信号を出力する」ことに相当し、引用発明の「操縦」を「自動操縦」に「切り換える」ための「操縦切換情報を指令する」ことは、本願発明1の「動作開始状態信号」「を出力する」ことに相当するから、引用発明の「操縦を手動操縦と自動操縦とで切り換えるための操縦切換情報を指令する」ことは、本願発明1の「動作開始状態信号または動作停止状態信号を出力する」ことに相当する。

(エ)本願明細書【0056】には、「・・・人為操作体70が、トグルスイッチとして設けられている。・・・トグルスイッチに代えて、自動操舵の動作開始と動作停止の位置が設定されている2方向のレバースイッチやシーソスイッチを用いてもよい。・・・」と記載されているから、本願発明1の「人為操作体」は、トグルスイッチ、レバースイッチやシーソスイッチを実施態様として含み、手動式のスイッチといえる。
そうすると、引用発明の「手動式の指令手段としての手動自動切換スイッチSW1」は、本願発明1の「人為操作体」に相当する。

(オ)手動式のスイッチにおいて、スイッチの操作状態を検出して信号を出力する状態検出手段を設けることは技術常識である。そして、引用発明の「手動自動切換スイッチSW1」は、「操縦を手動操縦と自動操縦とで切り換えるための操縦切換情報を指令する手動式の指令手段」を構成するものである。そうすると、引用発明の「手動自動切換スイッチSW1」が「操縦を手動操縦と自動操縦とで切り換えるための操縦切換情報」を指令するための操作状態を検出する状態検出手段を備えることは技術的に明らかである。

(カ)上記(ア)?(オ)を踏まえると、引用発明の「前記走行用データ作成手段105にて作成される前記予定走行経路つまり作業経路Lに沿って走行させる操向制御(以下、手放し走行処理という)を行うように構成され」た「走行制御手段100」に対して「手動操縦から自動操縦への操縦切換情報」を「指令」し、「手放し走行開始が指令されると、作業経路Lに沿って走行させるべき走行軌道を算出するとともに、前輪3を自動ステアリング制御し、手放し走行開始が指令されていないときには、ハンドル23の操作角に基づく手動ステアリング制御を行う」よう構成される、「操縦を手動操縦と自動操縦とで切り換えるための操縦切換情報を指令する手動式の指令手段としての手動自動切換スイッチSW1」は、本願発明1の「自動操舵の動作開始と動作停止とを設定する人為操作体の操作状態を検出して動作開始状態信号または動作停止状態信号を出力する状態検出手段」に相当する。

ク 引用発明の「手動操縦」又は「手動ステアリング制御」は本願発明1の「人為操舵」に相当する。また、引用発明の「走行制御手段100」が「作業経路Lに沿って走行させるべき走行軌道を算出するとともに、前輪3を自動ステアリング制御」することは、本願発明1の「前記自動操舵部による前記作業走行経路に沿って前記走行機体を走行させる自動操舵」に相当する。

そして上記「キ(ウ)」も踏まえると、引用発明の「走行制御手段100」は、「前記ハンドル23による手動操縦がなされているときに、前記手動自動切換スイッチSW1にて手動操縦から自動操縦への操縦切換情報が指令されるに伴って、前記走行用データ作成手段105にて作成される前記予定走行経路つまり作業経路Lに沿って走行させる操向制御(以下、手放し走行処理という)を行うように構成され、手放し走行開始が指令されると、作業経路Lに沿って走行させるべき走行軌道を算出するとともに、前輪3を自動ステアリング制御し、手放し走行開始が指令されていないときには、ハンドル23の操作角に基づく手動ステアリング制御を行う」ものであるところ、すなわち、「手動操縦から自動操縦への操縦切換情報」に基づいて「手動ステアリング制御」から「作業経路Lに沿って走行させるべき走行軌道を算出するとともに、前輪3を自動ステアリング制御」するよう移行するものであるといえる。

また、当該「走行制御手段100」は「手放し走行開始が指令されていないときには、ハンドル23の操作角に基づく手動ステアリング制御を行う」ものであって、本願発明1の「動作停止状態信号」に相当する「自動操縦から手動操縦への操縦切換情報」に基づいて「手放し走行開始が指令されていない」ときに移行することは技術的に明らかであるから、「自動操縦から手動操縦への操縦切換情報」に基づいて「作業経路Lに沿って走行させるべき走行軌道を算出するとともに、前輪3を自動ステアリング制御」することを停止するとともに「手動ステアリング制御」に移行するものであるといえる。

そうすると、引用発明の「前記ハンドル23による手動操縦がなされているときに、前記手動自動切換スイッチSW1にて手動操縦から自動操縦への操縦切換情報が指令されるに伴って、前記走行用データ作成手段105にて作成される前記予定走行経路つまり作業経路Lに沿って走行させる操向制御(以下、手放し走行処理という)を行うように構成され、手放し走行開始が指令されると、作業経路Lに沿って走行させるべき走行軌道を算出するとともに、前輪3を自動ステアリング制御し、手放し走行開始が指令されていないときには、ハンドル23の操作角に基づく手動ステアリング制御を行う」「走行制御手段100」は、本願発明1の「前記動作停止状態信号に基づいて前記自動操舵部による前記作業走行経路に沿って前記走行機体を走行させる自動操舵を停止するとともに操舵制御を人為操舵に移行させ、前記動作開始状態信号に基づいて操舵制御を前記人為操舵から前記自動操舵に移行させ、前記作業走行経路に沿って前記走行機体を作業走行させる自動操舵決定部」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点>
「 走行機体と、
圃場に対して作業を行う圃場作業装置と、
GNSSモジュールを有するとともに測位データを出力する測位ユニットと、
前記圃場作業装置を駆動しながら走行する直線状の走行経路である作業走行経路と、枕地において作業走行中の前記作業走行経路から次の前記作業走行経路に移行するための枕地旋回経路とを算定する経路算定部と、
前記測位データと前記作業走行経路とに基づいて前記走行機体を前記作業走行経路に沿うように自動操舵する自動操舵部と、
自動操舵の動作開始と動作停止とを設定する人為操作体の操作状態を検出して動作開始状態信号または動作停止状態信号を出力する状態検出手段と、
前記動作停止状態信号に基づいて前記自動操舵部による前記作業走行経路に沿って前記走行機体を走行させる自動操舵を停止するとともに操舵制御を人為操舵に移行させ、前記動作開始状態信号に基づいて操舵制御を前記人為操舵から前記自動操舵に移行させ、前記作業走行経路に沿って前記走行機体を作業走行させる自動操舵決定部と、を備えた植播系圃場作業機。」

<相違点>
本願発明1は「前記自動操舵決定部が、苗補給が必要な場合に自動操舵の開始を決定する」のに対して、引用発明の「走行制御手段100」には、そのような特定がなされていない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。

乗用型田植機において、自動操舵決定部が、苗補給が必要な場合に人為的なスイッチやハンドル、前向きと後向きにできる座席等により、自動操舵の開始を決定することは、従来周知の技術である(例えば、特開平8-23713号公報の段落【0007】、【0023】、【0016】、【0017】、【0022】の特に「乗用型田植機」、「モード切替スイッチ41」、「ハンドル11」及び「コントローラ40」に関する記載、特開平2-9304号公報の2ページ右上欄14?18行、2ページ左下欄14行?3ページ左上欄4行の特に「乗用型田植機」、「操縦ハンドル(18)」及び「制御装置(20)」に関する記載、特開昭63-133912号公報の2ページ左下欄8?13行、2ページ右下欄8行?3ページ左上欄4行の特に「乗用型田植機」、「座席(15)」及び「座席(15)の向き検出手段(18)」に関する記載を参照。)。

そして、引用発明と上記周知技術とは、自動操舵決定部を備える田植え用の作業車である点で共通するものであるから、引用発明の「走行制御手段100」を、上記周知技術を参考として、苗補給が必要な場合に、人為的なスイッチやハンドル、前向きと後向きにできる座席等により、自動操舵の開始を決定するよう構成すること、要するに、苗補給が必要な場合に自動操舵の開始を決定するよう構成すること、は当業者であれば適宜になし得ることである。

よって、相違点に係る本願発明1の構成は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得るものである。

また、本願発明1の奏する作用効果をみても、引用発明及び周知技術から予測し得る範囲内のものであって、格別でない。

してみると、本願発明1は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明し得たものである。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

そして、本願発明1が特許を受けることができない以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-20 
結審通知日 2019-12-24 
審決日 2020-01-07 
出願番号 特願2014-132952(P2014-132952)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯島 尚郎  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 岡▲さき▼ 潤
藤井 昇
発明の名称 植播系圃場作業機  
代理人 特許業務法人R&C  

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