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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1360024
審判番号 不服2018-16644  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-13 
確定日 2020-02-20 
事件の表示 特願2015- 42916「レーザイオン源、入射器及び粒子線治療装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 5日出願公開、特開2016-162692〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月4日にした出願であって、その手続の経緯は、次のとおりである。
平成29年 6月 9日 :手続補正書
平成30年 3月22日付け:拒絶理由通知書
平成30年 5月15日 :意見書・手続補正書
平成30年10月 2日付け:拒絶査定
平成30年12月13日 :審判請求書・手続補正書

第2 平成30年12月13日に提出された手続補正書による補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年12月13日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「真空排気された真空容器と、
前記真空容器の中に設置されたターゲットと、
前記ターゲットのレーザ照射面にレーザ光を照射してプラズマを生成するプラズマ生成用レーザ照射装置と、
前記生成したプラズマを輸送するノズルと、
前記ターゲットのレーザ照射面における前記プラズマ生成用レーザ照射装置のレーザ光の目標照射点を前記ノズルの中心軸上とし、この目標照射点に可視光のガイドレーザ光を照射する、前記真空容器の外部に設置されたガイドレーザ照射装置と、
を備えることを特徴とするレーザイオン源。」

から、

「真空排気された真空容器と、
前記真空容器の中に設置されたターゲットと、
前記ターゲットのレーザ照射面にレーザ光を照射してプラズマを生成するプラズマ生成用レーザ照射装置と、
前記生成したプラズマを輸送するノズルと、
前記ターゲットのレーザ照射面における前記プラズマ生成用レーザ照射装置のレーザ光の目標照射点を前記ノズルの中心軸上とし、この目標照射点に可視光のガイドレーザ光を照射する、前記真空容器の外部に設置されたガイドレーザ照射装置と、
前記プラズマ生成用レーザ照射装置から照射される前記レーザ光の照射位置を示すための可視光のアライメントレーザ光を照射する、前記真空容器の外部に設置されたアライメントレーザ照射装置と、
を備え、
前記ガイドレーザ光と前記アライメントレーザ光とは識別可能な異なる色のレーザ光であることを特徴とするレーザイオン源。」

へと補正するとの事項(以下「本件補正事項」という。)を含むものである(下線は、補正箇所として請求人が付したものである。)。

2 本件補正の目的
上記1によれば、本件補正事項は、本件補正前の請求項1に、「前記プラズマ生成用レーザ照射装置から照射される前記レーザ光の照射位置を示すための可視光のアライメントレーザ光を照射する、前記真空容器の外部に設置されたアライメントレーザ照射装置」という特定事項と、「前記ガイドレーザ光と前記アライメントレーザ光とは識別可能な異なる色のレーザ光であ」るとの特定事項を付加するものである。
しかるところ、本件補正事項は、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定するものではない。すなわち、本件補正事項は、「アライメントレーザ照射装置」に係る特定事項を付加することを含むけれども、かかる特定事項は、本件補正前の請求項1には存在しない。よって、本件補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号の「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」ではないから、同条同項同号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
そして、本件補正事項が、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除、同3号の誤記の訂正及び第4号の明りようでない記載の釈明のいずれをも目的としないことは、明らかである。
したがって、本件補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反する。よって、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件充足性の判断
上記2のとおり、本件補正は却下すべきものであるが、以下、本件補正事項が特許法第17条の2第5項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると仮定した上で、本件補正が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しているか、すなわち、本件補正がいわゆる独立特許要件を満たしているか、について検討する。
(1)本件補正発明の認定
本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)は、上記1において、本件補正後の請求項1として記載されたとおりのものである。

(2)引用文献1の記載事項の認定
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2002-329600号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は、当審が付したものである。)。
(ア)「【特許請求の範囲】」、
「プラズマ発生源と、
前記プラズマ発生源から発生したプラズマよりイオンを引き出すための真空容器と、
イオン線形加速器とが直列に接続され、
前記真空容器は、該イオン線形加速器のイオン入射口近傍に取り付けられ、
かつ、前記真空容器を所望の電圧に昇圧する高圧電源を備え、
前記真空容器から前記イオン線形加速器に、直接、イオンを入射するようにしたことを特徴とするイオン加速装置。」(【請求項1】)、
「前記イオン線形加速器のイオン入射口に入射用スリットを取り付けるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のイオン加速装置。」(【請求項2】)、
「前記プラズマ発生源は、プラズマ発生用レーザーを照射してプラズマを発生させるプラズマ発生ターゲットであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のイオン加速装置。」(【請求項4】)、
「1又は2以上のミラーと、1又は2以上の軸出し用レーザーを具備し、プラズマ発生ターゲットとプラズマ発生用レーザーの焦点との位置合わせを行うターゲット位置決め装置を備えたことを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載のイオン加速装置。」(【請求項7】)

(イ)「図8に示す従来のイオン加速装置100に用いるイオン源110は、プラズマ発生用レーザーLを照射させてプラズマを発生するプラズマ発生ターゲット112、プラズマ発生用レーザーLをプラズマ発生ターゲット112に集光する集光レンズ114、発生したプラズマを収容する真空容器116、イオン引き出し電極118を備えた構成である。」(【0010】)、

「図8に示すように、レーザー発生装置60で生成されたプラズマ発生用レーザーLを、2枚のミラー62A、62B、及び、イオン源110の真空容器116内の集光レンズ114を介して、プラズマ発生ターゲット112に照射し、レーザーアブレーションによりプラズマを生成する。」(【0011】)

(ウ)「図1は、本実施の形態のイオン加速装置20の全体を示す平面図である。図2は、本実施の形態のイオン加速装置20に用いるイオン直接入射装置10のプラズマ発生部分とイオン加速装置20のイオン入射口近辺の一部拡大断面図である。」(【0049】)、

「先ず、本実施の形態のイオン加速装置20の基本構成について説明する。本実施の形態のイオン加速装置20は、イオン線形加速器30と、イオン加速装置20に用いるこのイオン線形加速器30のイオン入射口38(図2参照)近傍に取り付けられるイオン直接入射装置10とを備えた構成である。」(【0050】)、
「本実施の形態のイオン加速装置20では、イオン線形加速器30に関しては、例えば、図9、図10に示した従来のイオン線形加速器130を、ほぼそのまま用いるものとする。」(【0051】)、
「一方、イオン直接入射装置10は、図1に示すように、プラズマ発生用レーザーLを照射してプラズマを発生するプラズマ発生ターゲット12、プラズマ発生用レーザーLをプラズマ発生ターゲット12に集光する集光レンズ14、発生したプラズマを収容する真空容器16、入射用スリット18(図2参照)を備えた構成である。」(【0052】)、
「また、本実施の形態のイオン加速装置20に用いるイオン直接入射装置10は、従来のイオン源110(図8参照)とは異なり、イオン引き出し電極118を用いず、高圧電源(図示せず)によって、真空容器16を昇圧し、プラズマよりイオンを引き出す。」(【0053】)、
「更に、真空容器16は、イオン線形加速器30のイオン入射口38近傍であって、イオン線形加速器30の共振器34に絶縁フランジ32を介して取り付けられる。また、イオン線形加速器30のイオン入射口38に、入射用スリット18が取り付けられている。」(【0054】)、
「なお、図1において、レーザー発生装置60とミラー62A、62Bは図8に示したものと同様のものを用いるものとする。」(【0055】)、
「以上の構成で、本実施の形態のイオン加速装置20の基本動作、イオン直接入射方法について図1及び図2を用いて説明する。」(【0056】)、
「レーザー発生装置60により発生したパルス状のプラズマ発生用レーザーLは、従来のイオン加速装置100(図8参照)で説明したものと同様に、ミラー62A、62Bにより真空容器16に導かれ、集光レンズ14で反射され、プラズマ発生ターゲット12に集光され、加熱されたプラズマ発生ターゲット12の表面からプラズマが発生する。」(【0057】)、
「発生したプラズマは、入射用スリット18とプラズマ発生ターゲット12の間を満たし、入射用スリット18を通過したイオンと電子は、イオン型線形加速器30の共振器34に、イオン入射口38を経て進入し、質量の違いからイオン線形加速器30の設計入射電位をもったイオンは加速チャンネル(加速電極36の間隙)に入射し、電子は発散力を受け最終的に共振器34の内壁に吸収される。」(【0058】)、
「加速チャンネルに入射されたイオンビームはクーロン反発力の影響で発散する前に、イオン線形加速器30の収束力によって捕獲され、設計されたビームエネルギーまで加速される。このようにすると、プラズマの発生する真空容器16はイオン線形加速器30の設計条件を満たすイオンビームエネルギーに相当する電圧を印可されているため、入射用スリット18を通過したイオンのみがイオン線形加速器30に入射され加速される。」(【0059】)、
「従って、本実施の形態のイオン加速装置20は、イオン線形加速器30に、直接、イオンを入射するようにしたので、プラズマ中では、負の電荷を持った電子と正の電荷を持ったイオンが混在するため、クーロン反発力は発生しないので、イオン線形加速器の直前までその影響を回避することができる。この結果、このイオン直接入射装置10を用いたイオン加速装置20の構成が単純化され、このイオン加速装置20を用いることにより、本発明のイオン加速方法により加速できるイオンの量も飛躍的に増大する。」(【0060】)

(エ)「次に、図6に示す実施の形態のイオン加速装置20のイオン直接入射装置10Dでは、図2に示すイオン直接入射装置10と、プラズマ発生ターゲット12、集光レンズ14、真空容器16、入射用スリット18の各構成については共通する。」(【0074】)、

「一方、本実施の形態では、図6に示すように、2枚のミラー42A、42Bと、2つの軸出し用レーザー発生装置44A、44Bを具備し、プラズマ発生ターゲット12とプラズマ発生用レーザーLの焦点との位置合わせを行うターゲット位置決め装置40を、真空容器16内に取り付けた構成とした。」(【0075】)、
「プラズマ発生ターゲット12の位置及びプラズマ発生用レーザーLの焦点位置は、ともにイオンビーム軸上になくてはならず、このためイオン線形加速器30下流に設置された測量用望遠鏡又は測量用レーザーを用いて調整されることが望ましい。」(【0076】)、
「しかし、現実的には、イオン線形加速器30下流にはビームライン(分析電磁石70等)が設置されるので、プラズマ発生ターゲット12の交換時にビームラインを撤去し、測量用望遠鏡又は測量用レーザーを設置するのは煩雑である。」(【0077】)、
「そこで、上記のように構成すると、2つの軸出し用レーザー発生装置44A、44Bからの測量用レーザーL’を、真空容器16後方から照射し、この2つの測量用レーザーL’が交差する点を、本来の位置に合わせておくことによって簡単に、プラズマ発生ターゲット12とプラズマ発生用レーザーLの焦点との位置合わせが正確に行えるようになる。」(【0078】)

(オ)図1によれば、プラズマ発生用レーザー装置60が、真空容器16の外部に配置されていることが見て取れる。

イ 上記アの記載によれば、引用文献1には、図6に示す実施の形態に係るイオン加速装置20のイオン直接入射装置10Dとプラズマ発生用レーザーLとからなる装置に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明を認定するのに用いた段落番号等を、参考までに括弧内に付してある。
「イオン加速装置20のイオン直接入射装置10Dとレーザーアブレーションによりプラズマを生成するプラズマ発生用レーザーLを発生させるレーザー発生装置60とからなる装置であって、(【0074】・【0011】・【0057】)
イオン直接入射装置10Dは、プラズマ発生用レーザーLを照射してプラズマを発生するプラズマ発生ターゲット12、プラズマ発生用レーザーLをプラズマ発生ターゲット12に集光する集光レンズ14、発生したプラズマを収容する真空容器16、入射用スリット18を備えた構成であり、(【0052】)
プラズマ発生用レーザー装置60は、真空容器16の外部に配置されており、(上記ア(オ))
発生したプラズマは、入射用スリット18とプラズマ発生ターゲット12の間を満たし、入射用スリット18を通過したイオンと電子は、イオン型線形加速器30の共振器34に、イオン入射口38を経て進入し、質量の違いからイオン線形加速器30の設計入射電位をもったイオンは加速チャンネル(加速電極36の間隙)に入射し、電子は発散力を受け最終的に共振器34の内壁に吸収され、(【0058】)
2枚のミラー42A、42Bと、2つの軸出し用レーザー発生装置44A、44Bを具備し、プラズマ発生ターゲット12とプラズマ発生用レーザーLの焦点との位置合わせを行うターゲット位置決め装置40を、真空容器16内に取り付けた構成としており、(【0075】)
プラズマ発生ターゲット12の位置及びプラズマ発生用レーザーLの焦点位置は、ともにイオンビーム軸上になくてはならないものであり、(【0076】)
2つの軸出し用レーザー発生装置44A、44Bからの測量用レーザーL’を、真空容器16後方から照射し、この2つの測量用レーザーL’が交差する点を、本来の位置に合わせておくことによって簡単に、プラズマ発生ターゲット12とプラズマ発生用レーザーLの焦点との位置合わせが正確に行えるようになる、(【0078】)
装置。」

(3)本件補正発明と引用発明との対比
ア 本件補正発明の「真空排気された真空容器と、」との特定事項について
(ア)引用発明の「発生したプラズマを収容する真空容器16」は、本件補正発明の「真空排気された真空容器」に相当する。

(イ)よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

イ 本件補正発明の「前記真空容器の中に設置されたターゲットと、」との特定事項について
(ア)引用発明の「プラズマ発生用レーザーLを照射してプラズマを発生するプラズマ発生ターゲット12」が設置されている場所が「真空容器16」の中であることは、「プラズマ発生ターゲット12」から「発生したプラズマ」が「真空容器16」に「収容」されていることからみて、明らかである。
したがって、上記アにも照らせば、引用発明の「プラズマ発生用レーザーLを照射してプラズマを発生するプラズマ発生ターゲット12」は、本件補正発明の「前記真空容器の中に設置されたターゲット」に相当する。

(イ)よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

ウ 本件補正発明の「前記ターゲットのレーザ照射面にレーザ光を照射してプラズマを生成するプラズマ生成用レーザ照射装置と、」との特定事項について
(ア)引用発明の「プラズマ発生用レーザーLを発生させるレーザー発生装置60」は、「プラズマ発生ターゲット12」に「プラズマ発生用レーザーLを照射してプラズマを発生」させるものであるから、本件補正発明の上記特定事項に相当するといえる。

(イ)よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

エ 本件補正発明の「前記生成したプラズマを輸送するノズルと、」との特定事項について
(ア)引用発明は、「発生したプラズマは、入射用スリット18とプラズマ発生ターゲット12の間を満たし、入射用スリット18を通過したイオンと電子は、イオン型線形加速器30の共振器34に、イオン入射口38を経て進入」するものであるから、引用発明の「入射用スリット18」は、「イオンと電子」からなるもの、すなわち、プラズマが通過するものである。したがって、上記ウにも照らせば、引用発明の「入射用スリット18」は、本件補正発明の「前記生成したプラズマを輸送するノズル」に相当するといえる。

(イ)よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

オ 本件補正発明の「前記ターゲットのレーザ照射面における前記プラズマ生成用レーザ照射装置のレーザ光の目標照射点を前記ノズルの中心軸上とし、この目標照射点に可視光のガイドレーザ光を照射する、前記真空容器の外部に設置されたガイドレーザ照射装置と、」との特定事項について
(ア)引用発明は、「2つの軸出し用レーザー発生装置44A、44Bからの測量用レーザーL’を、真空容器16後方から照射し、この2つの測量用レーザーL’が交差する点を、本来の位置に合わせておくことによって簡単に、プラズマ発生ターゲット12とプラズマ発生用レーザーLの焦点との位置合わせが正確に行えるようになる」ものである。
このように、引用発明の「本来の位置」は、「プラズマ発生ターゲット12とプラズマ発生用レーザーLの焦点」をそこに位置合わせさせるための位置である。よって、引用発明の「本来の位置」は、上記ウにも照らせば、本件補正発明の「前記ターゲットのレーザ照射面における前記プラズマ生成用レーザ照射装置のレーザ光の目標照射点」に相当する。

(イ)引用発明は、「プラズマ発生ターゲット12の位置及びプラズマ発生用レーザーLの焦点位置は、ともにイオンビーム軸上になくてはならないものであ」るから、引用発明の「プラズマ発生用レーザーL」が位置合わせされる「本来の位置」(本件補正発明の「目標照射点」に相当。)は、「イオンビーム軸上」に存在する。そして、「イオンビーム軸」は、「入射用スリット18」(本件補正発明の「ノズル」に相当。)の中心軸に一致すると解される。
よって、引用発明は、上記(ア)にも照らせば、本件補正発明でいう「前記ターゲットのレーザ照射面における前記プラズマ生成用レーザ照射装置のレーザ光の目標照射点を前記ノズルの中心軸上とし」たものである。

(ウ)引用発明の「2つの測量用レーザーL’」は、「位置合わせ」を「簡単に」行えるようにするためのものであるから、技術常識に照らし、可視光であると解される。
よって、引用発明の「2つの測量用レーザーL’」は、上記(ア)にも照らせば、本件補正発明でいう「この目標照射点」に「照射」される「可視光のガイドレーザー光」に相当する。

(エ)引用発明の「2つの軸出し用レーザー発生装置44A、44B」は、上記(ア)?(ウ)にも照らせば、本件補正発明の「この目標照射点に可視光のガイドレーザ光を照射する、」「ガイドレーザ照射装置」に相当する。
そして、引用発明の「2つの軸出し用レーザー発生装置44A、44B」は、「真空容器16内に取り付けた」ものであるから、本件補正発明でいう「設置」されたものである。
そうすると、引用発明は、本件補正発明でいう「この目標照射点に可視光のガイドレーザ光を照射する、」「設置されたガイドレーザ照射装置」を備える。

(オ)上記(ア)?(エ)によれば、引用発明は、本件補正発明と、「前記ターゲットのレーザ照射面における前記プラズマ生成用レーザ照射装置のレーザ光の目標照射点を前記ノズルの中心軸上とし、この目標照射点に可視光のガイドレーザ光を照射する、」「設置されたガイドレーザ照射装置」を備える点で一致する。
しかし、引用発明の「2つの軸出し用レーザー発生装置44A、44B」(本件補正発明の「ガイドレーザ装置」に相当。)が設置された場所は、「前記真空容器の外部」ではない。

カ 本件補正発明の「前記プラズマ生成用レーザ照射装置から照射される前記レーザ光の照射位置を示すための可視光のアライメントレーザ光を照射する、前記真空容器の外部に設置されたアライメントレーザ照射装置と、」との特定事項について
引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備えない。

キ 本件補正発明の「前記ガイドレーザ光と前記アライメントレーザ光とは識別可能な異なる色のレーザ光である」との特定事項について
引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備えない。

ク 本件補正発明の「レーザイオン源」との特定事項について
引用発明の「イオン加速装置20のイオン直接入射装置10Dとレーザーアブレーションによりプラズマを生成するプラズマ発生用レーザーLを発生させるレーザー発生装置60とからなる装置」は、本件補正発明の「レーザイオン源」に相当する。

(4)一致点及び相違点の認定
上記(3)によれば、本件補正発明と引用発明とは、
「真空排気された真空容器と、
前記真空容器の中に設置されたターゲットと、
前記ターゲットのレーザ照射面にレーザ光を照射してプラズマを生成するプラズマ生成用レーザ照射装置と、
前記生成したプラズマを輸送するノズルと、
前記ターゲットのレーザ照射面における前記プラズマ生成用レーザ照射装置のレーザ光の目標照射点を前記ノズルの中心軸上とし、この目標照射点に可視光のガイドレーザ光を照射する、設置されたガイドレーザ照射装置と、
を備えた、
レーザイオン源。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「ガイドレーザ照射装置」が「設置」された場所について、本件補正発明は、「前記真空容器の外部」であるのに対し、引用発明は、そうではない点。
[相違点2]
本件補正発明は、「前記プラズマ生成用レーザ照射装置から照射される前記レーザ光の照射位置を示すための可視光のアライメントレーザ光を照射する、前記真空容器の外部に設置されたアライメントレーザ照射装置」を備え、「前記ガイドレーザ光と前記アライメントレーザ光とは識別可能な異なる色のレーザ光である」のに対し、引用発明は、そうではない点。

(5)相違点1の判断
引用発明では、「2つの軸出し用レーザー発生装置44A、44B」が取り付けられる場所が「真空容器16内」であるとされている。他方で、引用発明の構成に対応すると解される引用文献1の請求項7には、軸出し用レーザーが取り付けられる場所が真空容器内であることまでは特定されていない。そうすると、引用発明の「2つの軸出し用レーザー発生装置44A、44B」が取り付けられる場所は、当業者が適宜設計できることであるといえる。
そして、真空容器内にレーザーを照射する際に、レーザー装置を真空容器の外部に配置することは通常になされていることであると認められる(例えば、特開2013-210396号公報の【0043】・図1、特開2014-207131号公報の【0033】・図2、特開昭62-21222号公報の図を参照。)。
そうすると、引用発明における「2つの軸出し用レーザー発生装置44A、44B」を、真空容器16の外部に取り付けるように構成することは、当業者が適宜なし得たことにすぎないというべきである。
よって、当業者が相違点1の構成に至ることに、格別の困難性はない。

(6)相違点2の判断
ア 引用発明は、「2つの測量用レーザーL’が交差する点を、本来の位置に合わせておくことによって簡単に、プラズマ発生ターゲット12とプラズマ発生用レーザーLの焦点との位置合わせが正確に行えるようになる」ものであるところ、これによれば、引用発明における位置決めの手順は、まず、「2つの測量用レーザーL’が交差する点」を本来の位置に合わせて、次に、その本来の位置に、「プラズマ発生用レーザーLの焦点」及びプラズマ発生ターゲット12を合わせることになると解される。
しかるに、引用発明の「プラズマ発生用レーザーL」は、「レーザーアブレーションによりプラズマを生成する」ものであるから、不可視光であることが一般的である。そして、不可視光であるレーザ光をしかるべき位置に照射するために、そのレーザ光と同一の光路を通る可視光のアライメントレーザ光を照射するアライメントレーザ照射装置を用いることも、周知技術である(例えば、特開昭62-106760号公報の右下欄第7行?第2頁左上欄12行・第3図、特開2008-296256号公報の【0002】・【0003】、特開2001-284684号公報の【0002】を参照。)。
そうすると、引用発明において、「レーザーアブレーションによりプラズマを生成する」「プラズマ発生用レーザーL」をしかるべき位置に照射するために、上記周知技術に基づき、そのレーザー光と同一の光路を通る可視光のアライメントレーザ光を照射するアライメントレーザ照射装置を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ その際、当該アライメントレーザ照射装置をどこに配置するのかは当業者が実施に当たり当然に決定すべき事項であるところ、引用発明に上記周知技術を採用した構成では、アライメントレーザ光がプラズマ発生用レーザーLと同一の光路を通るようにされている一方で、そのプラズマ発生用レーザーLを発生させるためのプラズマ発生用レーザー装置60が、真空容器16の外部に配置されているのであるから、当該アライメントレーザ照射装置が配置される場所は真空容器16の外部にすることが、自然であるといえるし、少なくとも、当業者が適宜なし得たことである。
また、引用発明の「2つの測量用レーザーL’」は可視光であり、周知技術における「アライメントレーザ光」も可視光であるところ、これらが異なる種類の情報であることは、明らかである。そして、異なる種類の情報を識別可能な異なる色をもって示すことは常套手段である。そうすると、引用発明に上記周知技術を採用した構成において、「2つの測量用レーザーL’」の色と「アライメントレーザ光」の色を識別可能に異なるようにすることも、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

ウ よって、当業者が相違点2の構成に至ることに、格別の困難性はない。

(7)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果は、引用発明、上記各周知技術及び常套手段に基づいて、当業者が予測可能なものにすぎない。

(8)独立特許要件充足性の判断の小括
したがって、本件補正発明は、引用発明、上記各周知技術及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正が特許法第17条の2第5項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものと仮定したとしても、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。

4 本件補正についてのむすび
上記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、上記3のとおり、本件補正が、特許法第17の2第5項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものと仮定したとしても、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明の認定
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年5月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1において、本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概要、次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、引用文献1及び周知技術に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2002-329600号公報
2.特開2003-65761号公報(周知例)
3.特開2014-207131号公報(周知例)

3 引用文献1の記載事項の認定
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第2[理由]3(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]3で検討した本件補正発明から、「前記プラズマ生成用レーザ照射装置から照射される前記レーザ光の照射位置を示すための可視光のアライメントレーザ光を照射する、前記真空容器の外部に設置されたアライメントレーザ照射装置」及び「前記ガイドレーザ光と前記アライメントレーザ光とは識別可能な異なる色のレーザ光である」ことに係る事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2[理由]3(3)?(8)に記載したとおり、引用発明、上記各周知技術及び常套手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-16 
結審通知日 2019-12-17 
審決日 2020-01-08 
出願番号 特願2015-42916(P2015-42916)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J)
P 1 8・ 575- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 華代  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 田中 秀直
山村 浩
発明の名称 レーザイオン源、入射器及び粒子線治療装置  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  

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