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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1360160
審判番号 無効2016-800111  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-09-15 
確定日 2020-02-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第3224544号「選択された炭酸ランタン水和物を含有する医薬組成物」の特許無効審判事件についてされた平成29年8月7日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成29年(行ケ)第10171号、平成30年9月19日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 特許第3224544号の請求項1ないし8に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由
第1 手続の経緯

特許第3224544号(以下「本件特許」という。)に係る発明についての出願は,1996年3月19日(パリ条約による優先権主張 1995年3月25日,英国(GB))を国際出願日とする出願であって,平成13年8月24日に特許権の設定登録がなされた。
これに対し,請求人は,平成28年9月15日付け審判請求書によって,本件特許を無効にすることについて,本件特許無効審判を請求した。
以後の手続の経緯は次のとおりである。
平成29年 2月13日付け 答弁書(被請求人)
同年 3月15日付け 審理事項通知書(当審)
同年 5月25日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 5月25日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 6月 8日 第1回口頭審理
同年 6月15日付け 上申書(被請求人)
同年 6月22日付け 上申書(請求人)
同年 8月 7日付け 審決
(本件審判の請求は,成り立たない。)
同年 9月 8日 知財高裁出訴
平成30年 9月19日 平成29年(行ケ)10171号判決言渡
(審決取消)
平成31年 4月24日付け 審決の予告
審決の予告に対して,被請求人からは指定期間内に応答はなかった。

第2 本件特許発明

本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は,同特許の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される,次のとおりのものである(以下,それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明8」といい,まとめて「本件特許発明」ともいう。)。

「【請求項1】
高リン酸塩血症の治療のための医薬組成物であって,以下の式:
La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)O
{式中,xは,3?6の値をもつ。}により表される炭酸ランタンを,医薬として許容される希釈剤又は担体と混合されて又は会合されて含む前記組成物。

【請求項2】
前記炭酸ランタンにおいて,xが3.5?5の値をもつ,請求項1に記載の組成物。

【請求項3】
前記炭酸ランタンにおいて,xが,3.8?4.5の値をもつ,請求項2に記載の組成物。

【請求項4】
経口投与のために好適な形態にある,請求項1?3のいずれか1項に記載の組成物。

【請求項5】
0.1?20g/日を提供するための単位投与形態にある,請求項1?4のいずれか1項に記載の組成物。

【請求項6】
胃腸管内への投与による高リン酸塩血症の治療のための医薬の製造のための,請求項1?3のいずれか1項に記載の炭酸ランタンの使用方法。

【請求項7】
以下のステップ:
(i)酸化ランタンを塩酸と反応させて,塩化ランタンを得て;
(ii)こうして得られた塩化ランタンの溶液と炭酸アルカリ金属を反応させて,炭酸ランタン8水塩の湿ケーキを作り;
(iii)3?6分子の結晶水をもつ炭酸ランタンを得るために,上記炭酸ランタン8水塩の湿ケーキを制御して乾燥させ,そして
(iv)ステップ(iii)で得られた炭酸ランタンを医薬として許容される希釈剤又は担体と混合する,
を含む,請求項1?3のいずれか1項に記載の炭酸ランタンを含む医薬組成物の製法。

【請求項8】
腎不全を患う患者における高リン酸塩血症の治療のための医薬の製造のための,請求項1?3のいずれか1項に記載の炭酸ランタンの使用方法。」

第3 当事者の主張,及び,提出した証拠方法

3-1 請求人の主張する無効理由,及び,提出した証拠方法

請求人が提出した審判請求書及び口頭審理陳述要領書によれば,請求人は,特許第3224544号の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された発明には,以下の無効理由1?3が存在する旨を主張し,証拠方法として下記の書証(いずれも写し)を提出している。

[無効理由1](サポート要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであって,本件特許発明1?8に係る特許は,同法第123条第1項第4号により無効とされるべきものである。

[無効理由2](実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は,平成14年4月17日法律第24号の附則第2条第1項において,なお従前の例によるとされる特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものであって,本件特許発明1?8に係る特許は,同法第123条第1項第4号により無効とされるべきものである。

[無効理由3](進歩性欠如)
本件特許発明1?8は,本件特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許発明1?8に係る特許は,同法第123条第1項第2号により無効とされるべきものである。

[証拠方法]

・甲第1号証:
特開昭62-145024号公報

・甲第2号証:
James A. Delmez et al.,Hyperphosphatemia:Its Consequences and Treatment in Patients With Chronic Renal Disease,American Journal of Kidney Diseases,1992年,Vol.19,No4,pp.303?317

・甲第3号証:
嶋井和世監訳,解剖学・生理学[II]-人体の構造と働き-,株式会社廣川書店,1979年8月15日発行,381頁

・甲第4号証:
矢野文雄ら,リン吸着剤としての卵殻カルシウム製剤の透析患者における有効性,医療,1993年,第47巻10号,810?813頁

・甲第5号証:
丸茂文昭,慢性腎不全の正しい知識,株式会社南江堂,1983年11月25日第1刷発行,52?53頁

・甲第6号証:
伊藤正男ら編,医学書院医学大辞典,第2版,株式会社医学書院,2009年2月15日発行,952頁

・甲第7号証:
池田憲ら監訳,医薬品の投与剤形,医歯薬出版株式会社,1983年5月14日発行,39頁

・甲第8号証:
Toshiyuki ODA,Studies on Crystal Waters of Lanthanum Carbonates,大分大学教育学部研究紀要,1975年,第4巻,第5号,1?5頁

・甲第9号証:
杉本功ら,溶媒和物,非晶質固体と医薬品製剤,粉体工学会誌,1985年,第22巻,第2号,85?97頁

・甲第10号証:
仲井由宣ら編,新製剤学,第1版,株式会社南山堂,1982年11月25日発行,102?105頁

・甲第11号証:
鈴木安司ら,Xibenolol Hydrochlorideの物理化学的性質及び多形,医薬品研究,1985年,第16巻,第1号,85?92頁

・甲第12号証:
Patrick J.Mineely et al.,Molten Potassium Pyrosulfate:Reactions of Lanthanum Metal and Six of its Compounds,Australian Journal of Chemistry,1987年,Vol.40,No.7,pp.1309?1314

・甲第13号証:
Naohisa Yanagihara et al.,SYNTHESIS OF LANTHANIDE CARBONATES,Journal of the LESS-COMMON METALS,1991年,Vol.167,No.2,pp.223?232

・甲第14号証:
CHEMICAL ABSTRACTS,1986年,Vol.104 No.25,p.770

・甲第15号証:
化学大辞典編集委員会編,化学大辞典5,縮刷版,共立出版株式会社,1963年11月15日発行,735頁

・甲第16号証:
田中祥之(沢井製薬株式会社生物研究部生化学G),炭酸ランタン-リン除去能に関する試験,2016年5月27日

・甲第17号証:
大塚昭信ら編,製剤学,改訂第2版,株式会社南江堂,1992年4月10日,1?3頁,114?115頁

・甲第18号証:
山田幸代ら,血液透析患者におけるリン吸着剤としての炭酸カルシウム-その効果と問題点の看護面からの検討?,日本透析療法学会雑誌,1989年,第22巻,第2号,185?190頁

・甲第19号証:
申曽洙ら,炭酸カルシウムによる透析患者のカルシウム・燐コントロール,透析療法学会雑誌,1988年,第21巻,第3号,341?348頁

・甲第20号証:
深川雅史ら,低カルシウム濃度透析液のカルシウム代謝管理に対する影響-補助療法の重要性について-,腎と透析,1993年,第34巻,第4号,619?626頁

<以上,審判請求書に添付>

・甲第21号証:
H Schneider et al.,HIGH-EFFECTIVE ALUMINIUM FREE PHOSPHATE BINDER,IN VITRO AND IN VIVO STUDIES,PROCEEDINGS OF THE EUROPEAN DIALYSIS AND TRANSPLANT ASSOCIATION-EUROPEAN RENAL ASSOCIATION,1983,VOL.20,pp.725?730

・甲第22号証:
H Schneider et al.,Aluminum-free oral phosphate binder,Clinical Nephrology,1985年,Vol.24 Suppl.No.1,pp.S98?S102

・甲第23号証:
小倉三津雄ら,新しい吸着薬 CeO2・nH2Oの性能について,日本透析療法学会雑誌,1986年,第19巻,第8号,775?778頁

・甲第24号証:
Mudassir S. Sheikh et al.,Reduction of Dietary Phosphorus Absorption by Phosphorus Binders,The Journal of Clinical Investigation,1989年,Vol.83,No.1,pp.66?73

<以上,平成29年5月25日付け口頭審理陳述要領書に添付>

以下,上記の甲第1?24号証を「甲1」?「甲24」という。

3-2 被請求人の主張,及び提出した証拠方法

被請求人が提出した答弁書及び口頭審理陳述要領書によれば,被請求人は,本件特許には上記無効理由1?3は存在しない旨を主張し,証拠方法として下記の書証(写し)を提出している。

[証拠方法]

・乙第1号証:
特許・実用新案審査ハンドブック 付属書A 「特許・実用新案審査基準」事例集,特許庁,2015年9月,1.記載要件に関する事例集,事例10

<以上,審判事件答弁書に添付>

以下,上記乙第1号証を「乙1」という。

3-3 無効理由3(進歩性欠如)について

請求人が主張する上記の無効理由のうち,無効理由3(進歩性欠如)の論旨は,概略,以下のア?スのとおりである。
なお,引用又は摘記箇所を含めた以下の文中における「水和水」と「結晶水」とは,いずれも化合物の結晶中に含まれる水分子を指すものである。同様に,「○水塩」又は「○水和物」(○は数字である。)との両者の表記が存在するが,いずれも水和水または結晶水と呼ばれる水分子の数が○の化合物(総じて水和物という。)を指す。

ア 甲1には,下記(ア)?(キ)の事項が記載されることから,以下の構成を具備する発明が開示されている。(審判請求書32?34頁)

a :リン酸イオンの固定化剤であって,
b' :炭酸ランタン1水塩〔La_(2)(CO_(3))_(3)・H_(2)O〕
c :塩化ランタン水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を添加し,沈でんを生成
させ,同沈でんについて,ろ過,水洗後,100℃で乾燥させた,
d :前記組成物

(ア)「リン酸イオンの固定化剤」(「発明の名称」,1頁左欄2行)
(イ)「希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物からなるリン酸イオンの固定化剤。」(「特許請求の範囲」,1頁左欄3?5行)
(ウ)「本発明は,リン酸イオン特に生体液中に存在するリン酸イオンの新規な固定化剤に関する。」(「産業上の利用分野」,1頁左欄8?10行)
(エ)「慢性腎不全患者においては,リンの排泄障害から高リン血症を生ずることはよく知られており,この治療として食餌制限,水酸化アルミニウムの投与が主として行なわれている。…(略)…水酸化アルミニウムの経口投与は,通常,1?3gを1日に3?6回服用することが必要であり,患者に不快感を与えるばかりでなく,最近透析脳症や骨粗鬆症の原因物質である疑いが持たれるようになり,その長期的使用の弊害が懸念されている。
上記の問題に対して,水酸化アルミニウム投与に替わるリンの除去法としてジルコニウム化合物を吸着剤とする方法が提案されている…(略)…。しかし,ジルコニウム化合物のリン吸着能は,水酸化アルミニウムと同程度であり,使用量を低減できるものではない。」(「従来の技術」,1頁左欄11行?右欄13行)
(オ)「前記の無機イオン交換体は,リン酸イオン以外のアニオン種も吸着するため,特に生体に適用する場合においては,体内のイオンバランスを乱す恐れがあること,酸やアルカリ溶液に対して溶解性が無視できないこと,および吸着量が十分でなく使用量が多くなるという問題がある。」(「発明が解決しようとする問題点」,1頁右欄14行?2頁左上欄1行)
(カ)「本発明者らは,各種金属塩のリン酸イオンとの反応性について検討した結果,希土類元素の炭酸塩または有機酸化合物は,リン酸イオンと効率的に反応することを見出し,実用化のため鋭意検討した結果,本発明を完成するに至った。
したがって,本発明の目的は,リン酸イオンに対する効率的な固定化剤,特に生体に適応して有効な固定化剤を提供することにある。
…(略)…
本発明の固定化剤は,生体の消化器系および血液中におけるpH範囲内において選択的に,かつ非可逆的にリン酸イオンと反応して固定化するため,従来の吸着剤法に比べて単位重量当りのリン酸イオンの固定化性能は5倍以上の特性を有する。
以下,本発明の固定化剤について詳細に説明する。
本発明の希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物とは,希土類元素,すなわち,Y,La,…(略)…の炭酸塩あるいは有機酸化合物である。炭酸塩としては,単純炭酸塩あるいはアルカリ金属やアルカリ土類金属を含む複塩がある。」(「問題点を解決するための手段」,2頁左上欄2行?右上欄6行)
(キ)「実施例11
リン酸イオン固定化剤として炭酸ランタン1水塩〔La_(2)(CO_(3))_(3)・H_(2)O〕を使用した例を示す。
塩化ランタン水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を添加し,沈でんを生成せしめる。沈でんは,濾過,水洗後,100℃で乾燥した。
該リン酸イオン固定化剤を,実施例2と同様の方法を用いて,リン酸イオン濃度として2.76mM/lの溶液で0.6g/lの割合で添加し,2時間後の除去率を求めた。その結果,リン酸イオンの除去率は90%であった。」(5頁右上欄3行?右上欄13行)

イ 本件特許発明1と上記甲1に開示された発明とは,
「高リン酸塩血症の治療のための医薬組成物であって,
炭酸ランタンを医薬として許容される希釈剤又は担体として混合されて又は会合されて含む,
医薬組成物。」
である点で一致し,
「本件特許発明1は,La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)O(x=3?6)により表される炭酸ランタン(炭酸ランタン3水和物?6水和物)を含む医薬組成物であるのに対し,甲1発明は,La_(2)(CO_(3))_(3)・H_(2)Oにより表される炭酸ランタン(炭酸ランタン1水和物)を含む医薬組成物である点」
で相違する。(審判請求書34?36頁)

ウ 炭酸ランタン水和物には結晶水が含まれる一方(甲8),水和物は広い意味での結晶多形として扱われていたから(甲9),炭酸ランタン水和物も結晶水を有する多形の一種であることが知られていたといえる。
また,結晶多形に関しては,「熱力学的に多形は別の相として考えられ,各多形はそれぞれの融点や溶解度をもつ」ことが知られており(甲10),「医薬品に多形が存在する場合,結晶形により溶解性,吸湿性などがちがい,その結果,安定性や生物学的利用率(bioacailability)などに影響を与えることが知られて」いたことから,本件特許発明の優先日前においても,「多形に関する検討が多く行われてい」た(甲11)。そして,リン吸着剤でも結晶構造の違いによりリン吸着効果が異なることも知られていた(甲4)。
加えて,甲1に記載された発明においては,リン酸の効率的な除去が課題とされていたことからすると,当業者にとっては,水和物違いの炭酸ランタンを調製する動機づけがある。
したがって,結晶多形を有する炭酸ランタン水和物において,水和物の値を変えることで,その結晶形を変え,薬効に変化をもたらすことを検討することは,本件特許発明の優先日前に既に技術常識であり,当業者であれば当然のことであった。
そして,炭酸ランタン3水和物(甲12),5水和物(甲13),6水和物(甲14)は,本件特許の優先日前に公知であって,その製造方法についても,当業者にとって極めて容易であったから(甲15),炭酸ランタン水和物の中から,3?6の水和物を限定することは,水和物の範囲の最適化又は好適化を行ったものにすぎず,当業者の通常の創作能力の発揮であって,設計的事項にすぎないものであるか,あるいは,甲1発明に技術常識を適用することによって,当業者において容易に想到し得たものでしかない。(審判請求書36?39頁)

エ また,請求人による以下に示す実験及びその結果(甲16)から,本件特許発明1は,リン酸の除去能に関し,本件特許発明1の優先日前に公知であった炭酸ランタン8水和物と比較して,「顕著な効果」を有するものではないといえる。(審判請求書39?43頁)

オ 本件明細書では,本件特許発明の範囲外の炭酸ランタン水和物における血流中への流入量は,一切開示されていない。そうすると,本件特許発明1は,血流中への流入量という点においても,従来既知の炭酸ランタン水和物より顕著な効果を有するものとはいえない。(審判請求書43?45頁)

カ したがって,本件特許発明1は,甲1に記載された発明と技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。(審判請求書46頁)

キ また,本件特許発明2及び3は,本件特許発明1の炭酸ランタンのxを3.5?5及び3.8?4.5の範囲に数値限定するものであるが,本件特許発明1と同じ根拠で,公知の炭酸ランタン3,5,6からこれらの数値範囲に調製することは容易であり,また用途発明としてのなんら顕著な効果がないので,進歩性を欠くものである。(審判請求書46頁)

ク また,本件特許発明4は,本件特許発明1?3のいずれかの医薬としての組成物を経口投与のために好適な形態に限定したものであって,本件明細書の発明の詳細な説明には,錠剤,カプセル,糖衣剤,懸濁液,シロップ等がその好適な態様として挙げられているが,甲第1号証に,「本発明のリン酸イオン固定剤化剤は,・・・多糖類等を用いてカプセル化した形態で使用することができる。」との記載がある上,前記好適な態様はいずれも医薬組成剤として技術常識であった(甲17,甲7)から,本件特許発明4は,進歩性が欠如したものである。(審判請求書46頁)

ケ また,本件特許発明5は,本件特許発明1?4のいずれかの医薬としての組成物を,単位投与形態を0.1?20g/日と特定したものであるが,当該投与量は,優先日当時において,一般的な投与量であり,技術常識に過ぎない(甲4,甲18,甲19,甲20)から,本件特許発明5は,進歩性が欠如したものである。(審判請求書46?47頁)

コ 本件特許発明6は,本件特許発明1?3のいずれかの医薬としての組成物を,胃腸管内への投与の使用方法に特定したものであるが,甲1には「本発明の希土類元素の・・・リン酸イオン固定化は,胃から先の消化器系において効率的に進むものと考えられる。」との記載があるから,本件特許発明6は,進歩性が欠如したものである。(審判請求書47頁)

サ 本件特許発明7は,本件特許発明1?3のいずれかの医薬組成物の製造方法を特定したものであるが,甲1には,塩化ランタン水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を添加し,乾燥させて固化する実施例が開示されており,甲15にも,「製法 ランタン塩の水溶液にアルカリ金属の炭酸塩を加え,生じた沈殿を100°で乾燥すると一水塩が得られ,室温で乾燥すると八水塩が得られる。水酸化物の懸濁液に二酸化炭素を通ずると三水塩が得られる。」との記載があるから,本件特許発明7の製造方法は一般的な製法にすぎず,本件特許発明7は,進歩性が欠如したものである。(審判請求書47頁)

シ 本件特許発明8は,本件特許発明1?3のいずれかの医薬組成物を,腎不全を患う患者における高リン酸血症の治療のための使用方法に特定したものであるが,甲1には「慢性腎不全患者においては,リンの排泄障害から高リン血症を生ずることはよく知られて」いるとの記載があるから,本件特許発明8は,進歩性が欠如したものである。(審判請求書47?48頁)

ス したがって,本件特許発明は,いずれも甲1に記載された発明と技術常識又は甲15に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項に該当するから,同法123条1項2号に基づき,本件特許は無効とすべきものである。

第4 当合議体の判断

当合議体は,本件特許発明1?8に係る特許は無効理由3によって無効にすべきものであると判断する。その理由は以下のとおりである。

4-1 前審決取消判決(平成29年(行ケ)10171号)の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断,並びに,当合議体に対する拘束力について

「特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定により,右取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の右認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。」(最三小平成4年4月28日判決(昭63年(行ツ)第10号,民集第46巻4号245頁))ところ,前審決取消判決には,以下の(判1)?(判5)の認定判断が示されており,これらはいずれも上記判決の主文が導き出されるのに必要なものと認められるから,当合議体を拘束する。

4-2 前審決取消判決の認定判断
(文中,▲1▼等と記載される数字は原文では丸囲みの数字である。)

(判1)
「(3) 本件出願の優先日当時の技術常識及び周知技術について
…(略)…
イ 水和物として存在する医薬に係る技術常識又は周知技術
前記アの記載事項を総合すると,本件出願の優先日(平成7年3月25日)当時,▲1▼乾燥温度等の乾燥条件の調節により,水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物を得ることができること,▲2▼水和物として存在する医薬においては,水分子(水和水)の数の違いが,薬物の溶解度,溶解速度及び生物学的利用率,製剤の化学的安定性及び物理的安定性に影響を及ぼし得ることから,医薬の開発中に,検討中の化合物が水和物を形成するかどうかを調査し,水和物の存在が確認された場合には,無水物や同じ化合物の水和水の数の異なる別の水和物と比較し,最適なものを調製することは,技術常識又は周知であったものと認められる。」(判決書35頁下から2行?40頁14行)

(判2)
「(4) 相違点1の容易想到性の有無について
ア 甲1には,慢性腎不全患者におけるリンの排泄障害から生ずる高リン血症の治療のための「リン酸イオンに対する効率的な固定化剤,特に生体に適応して有効な固定化剤」の発明として,「希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物からなることを特徴とするリン酸イオンの固定化剤」が開示され,その実施例の一つ(実施例11)として開示された炭酸ランタン1水塩(1水和物)のリン酸イオン除去率が90%であったことは,前記…のとおりである。
前記(3)イ認定の本件出願の優先日当時の技術常識又は周知技術に照らすと,甲1に接した当業者においては,甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)について,リン酸イオン除去率がより高く,溶解度,溶解速度,化学的安定性及び物理的安定性に優れたリン酸イオンの固定化剤を求めて,水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けがあるものと認められる。
そして,当業者は,乾燥温度等の乾燥条件を調節することなどにより,甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)を,水和水の数が3ないし6の範囲に含まれる炭酸ランタン水和物の構成(相違点1に係る本件発明1の構成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。
これと異なる本件審決の判断は,前記(3)イ認定の本件出願の優先日当時の技術常識又は周知技術を考慮したものではないから,誤りである。」(判決書40頁15行?41頁6行)

(判3)
「(5) 本件発明1の顕著な効果の存否について
ア …(略)…
(ア)本件発明1が相違点1に係る構成を備えることによって当業者が予想し得ない顕著な効果を有するかどうかは,当業者が甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)を,水和水の数が3ないし6の範囲に含まれる炭酸ランタン水和物の構成(相違点1に係る本件発明1の構成)とすることを容易に想到することができたこと(前記(4)ア)を前提として,本件発明1の効果が,甲1に接した当業者において甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)を相違点1に係る本件発明1の構成とした場合に本件出願の優先日当時の技術水準から予測し得る効果と異質な効果であるか,又は同質の効果であっても当業者の予測をはるかに超える優れたものであるかという観点から判断すべきである。
(イ)そこで検討するに,本件明細書には,pH3に調整したリン酸塩を含有する保存溶液に水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物のサンプルを添加して0.5分から10分間の時間間隔でリン酸塩結合能力(リン酸塩除去率)を測定する試験を行った結果,5分の時点でのリン酸塩除去率が,表1(別紙1)のとおり,炭酸ランタン8.8水和物(「サンプル1」)が70.5%,炭酸ランタン1.3水和物(「サンプル2」)が39.9%,炭酸ランタン4.4水和物(「サンプル3」)が96.5%,炭酸ランタン2.2水和物(「サンプル4」)が76.3%,炭酸ランタン4水和物(「サンプル5」)及び炭酸ランタン3.8水和物(「サンプル6」)が100%であったことが記載されている。この記載は,本件発明1の水和水の数値範囲内の炭酸ランタン4.4水和物(「サンプル3」),炭酸ランタン4水和物(「サンプル5」)及び炭酸ランタン3.8水和物(「サンプル6」)の5分の時点でのリン酸塩除去率が,96.5%又は100%であり,本件発明1に含まれない他の炭酸ランタン水和物(「サンプル1,2,4」)のリン酸塩除去率と比べて高いことを示すものである。
一方で,甲1には,「実施例11」において,炭酸ランタン1水塩[La_(2)(CO_(3))_(3)・H_(2)O]をリン酸イオン濃度2.76mM/lの溶液に0.6g/lの割合で添加し,1N水酸化ナトリウム水溶液を加えて,該水溶液のpHを7に保ちながら,室温で2時間攪拌した後,液中のリン酸イオンの除去率を測定した実験(「リン酸イオン固定化除去実験」)の結果,リン酸イオン除去率は90%であったことが記載されている。この記載は,pH7に調整した水溶液における攪拌後2時間の時点での甲1発明の炭酸ランタン1水和物のリン酸イオン除去率が90%であることを示すものである。
まず,上記認定事実によれば,本件明細書記載の試験結果と甲1記載の実験結果は,炭酸ランタン水和物の「リン酸塩除去率」ないし「リン酸イオン除去率」という同質の効果を示したものといえる。
次に,本件明細書記載の試験と甲1記載の実験とでは,水溶液のpH値,除去率の測定時点及び測定回数において実験条件が異なるが,甲1には,「生体内中,特に消化器系における体液のpHは,酸性である胃液中のpH3程度から弱アルカリ性である腸管内液中のpH8程度の範囲にあるので,本発明の希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物のリン酸イオン固定化は,胃から先の消化器系において効率的に進むものと考えられる。」との記載があること…に照らすと,甲1に接した当業者においては,胃液中と同じpH3程度の水溶液を用いて「リン酸イオン除去率」の測定を行うことや,その際に除去率の測定を一定の間隔をおいて行うことは,適宜行い得る設計的事項の範囲内の事柄であるといえる。
加えて,当業者においては,甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)を,水和水の数が3ないし6の範囲に含まれる炭酸ランタン水和物の構成(相違点1に係る本件発明1の構成)とした場合に,炭酸ランタン1水和物のリン酸イオン除去率(90%)を超える場合があり,それが100%により近い値となることも予測できる範囲内のものといえるから,pH3の水溶液における5分の時点でのリン酸塩除去率が96.5%又は100%であるという本件発明1の効果は,当業者の予測をはるかに超える優れたものであると認めることはできない。
したがって,本件発明1は相違点1に係る構成を備えることによって当業者が予想し得ない顕著な効果を有するものと認められないから,これを認めた本件審決の判断は誤りである。」(判決書43頁10行?46頁2行)

(判4)
「(6) 小括
ア 以上のとおり,相違点1は当業者が容易に想到し得たものと認められるが,本件発明1が相違点1に係る構成を備えることによって顕著な効果を有するものとは認められない。
したがって,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は甲1及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないとした本件審決の判断は誤りである…」(判決書47頁20行?26行)

(判5)
「2 取消事由1-2(本件発明2ないし8の進歩性の判断の誤り)について
本件審決は,本件発明2ないし5は,本件発明1を引用してその内容を限定したものであり,本件発明7は本件発明1ないし3の製造方法であり,本件発明6及び8は高リン酸血症の治療のための医薬の製造のための本件発明1ないし3に用いられている炭酸ランタンの使用方法であるから,本件発明2ないし8も,本件発明1と同様に,当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない旨判断した。
しかしながら,前記1(6)アのとおり,本件審決のした本件発明1の容易想到性の判断に誤りがある以上,本件発明2ないし8の容易想到性を否定した本件審決の上記判断は,その前提を欠くものであって,誤りである。
したがって,原告主張の取消事由1-2は理由がある。」(判決書48頁11行?21行)

4-3 無効理由3についての当合議体の判断

当合議体は,上記「4-2」を前提として,本件特許は,請求人が主張する無効理由3(進歩性欠如)によって無効とすべきものと判断する。その理由は以下のとおりである。

4-3-1 主要な証拠の記載事項

・甲1:特開昭62-145024号公報
甲1からの摘記において,「濾」は原文では「さんずい」の右に「戸」である。

(甲1-1)
「1 発明の名称
リン酸イオンの固定化剤」(1頁左欄2?3行)

(甲1-2)
「2 特許請求の範囲
希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物からなるリン酸イオンの固定化剤。」(1頁左欄4?5行)

(甲1-3)
「本発明は,リン酸イオン特に生体液中に存在するリン酸イオンの新規な固定化剤に関する。」(1頁左欄9?10行)

(甲1-4)
「慢性腎不全患者においては,リンの排泄障害から高リン血症を生ずることはよく知られており,この治療として食餌制限,水酸化アルミニウムの投与が主として行なわれている。(中略)また,水酸化アルミニウムの経口投与は,通常,1?3gを1日に3?6回服用することが必要であり,患者に不快感を与えるばかりでなく,最近透析脳症や骨粗鬆症の原因物質である疑いが持たれるようになり,その長期的使用の弊害が懸念されている。
上記の問題に対して,水酸化アルミニウム投与に替わるリンの除去法としてジルコニウム化合物を吸着剤とする方法が提案されている〔中林宜男他:ジルコニウムによる高リン血症の治療について,人工臓器Vol.11,1,p36?39(1982),および特開昭59-46964号〕。しかし,ジルコニウム化合物のリン吸着能は,水酸化アルミニウムと同程度であり,使用量を低減できるものではない。」(1頁左欄12行?右欄13行)

(甲1-5)
「前記の無機イオン交換体は,リン酸イオン以外のアニオン種も吸着するため,特に生体に適用する場合においては,体内のイオンバランスを乱す恐れがあること,酸やアルカリ溶液に対して溶解性が無視できないこと,および吸着量が十分でなく使用量が多くなるという問題がある。」(1頁右欄15行?2頁左上欄1行)

(甲1-6)
「本発明者らは,各種金属塩のリン酸イオンとの反応性について検討した結果,希土類元素の炭酸塩または有機酸化合物は,リン酸イオンと効率的に反応することを見出し,実用化のため鋭意検討した結果,本発明を完成するに至つた。
したがつて,本発明の目的は,リン酸イオンに対する効率的な固定化剤,特に生体に適応して有効な固定化剤を提供することにある。
すなわち,本発明の固定化剤は,希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物からなることを特徴とするリン酸イオンの固定化剤である。
本発明の固定化剤は,生体の消化器系および血液中におけるpH範囲内において選択的に,かつ非可逆的にリン酸イオンと反応して固定化するため,従来の吸着剤法に比べて単位重量当りのリン酸イオンの固定化性能は5倍以上の特性を有する。」(2頁左上欄3?19行)

(甲1-7)
「本発明の希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物とは,希土類元素,すなわち,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの炭酸塩あるいは有機酸化合物である。炭酸塩としては,単純炭酸塩あるいはアルカリ金属やアルカリ土類金属を含む複塩がある」(2頁右上欄1?6行)

(甲1-8)
「本発明のリン酸イオン固定化剤は,前述の調製法等による該希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物を濾過して得られるケーキの水懸濁液や,ケーキを乾燥した粉体,およびこの粉体をゼラチンやカラギーナン等の多糖類等を用いてカプセル化した形態で使用することができる。」(2頁左下欄18行?右下欄3行)

(甲1-9)
「本発明の希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物がリン酸イオンを固定化する反応は,下式のように表わすことができる。
Ln_(2)X_(3)・nH_(2)O+2MH_(2)PO_(4)
⇔2LnPO_(4)+2H_(2)X+M_(2)X
ここで,Lnは3価の希土類元素,Xは炭酸イオンあるいは有機酸イオン(2価イオンとして示す),Mはアルカリ金属あるいは水素イオンを表わす。
希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物の上記の反応式によるリン酸イオン固定化は,液相のpHの影響を受ける。例えば,シュウ酸第一セリウムを用いた場合のリン酸イオン除去率の液相pHへの依存性は,図面に示すようになる。すなわち,pH5以下の強酸性領域においては,平衡は左側に傾くが,pH6以上の中性からアルカリ性領域においては,平衡はほぼ100%右側に移行し,非可逆的なリン酸イオンの固定化を行なうことが可能になる。
生体内中,特に消化器系における体液のpHは,酸性である胃液中のpH3程度から弱アルカリ性である腸管内液中のpH8程度の範囲にあるので,本発明の希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物のリン酸イオン固定化は,胃から先の消化器系において効率的に進むものと考えられる。
また,本発明の希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物のリン酸イオンの固定化は,他のアニオン,例えば,塩素イオンや重炭酸イオンのように生体液中に多量に存在するイオンが共存していても,選択的にリン酸イオンを固定化することができる。
本発明の希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物は,リン酸イオンを希土類元素のリン酸塩として固定化するが,該リン酸塩は体液中においては不溶性であり,そのまま体外に排出される。」(「⇔」は原文では「←」の下に「→」である。)(2頁右下欄4行?3頁左上欄18行)

(甲1-10)
「本発明のリン酸イオン固定化剤の使用量は,生体液中に存在する濃度,例えば,腸液中のリン酸イオンの濃度である0.46?1.36mM/l(日本生化学会編,生化学データブックI,1979年発行を参考)に対して,本発明のシュウ酸第一セリウム10水塩の場合,0.17?0.51gでリン酸イオンをほぼ100%固定化除去することができる。従来の水酸化アルミニウムゲルや含水酸化ジルコニウムでは,10gの使用量においてもリン酸イオンを100%除去することができず,本発明の希土類の炭酸塩あるいは有機酸化合物が極めて優れたリン酸イオン固定化性能を有していることがわかる。
本発明のリン酸イオン固定化剤,例えば,シュウ酸セリウム10水塩は薬局方に記載されている薬品であり,鎮静の効能があるので,胃腸カタルや姙婦の嘔吐に散薬として用いられている。なお,そのシュウ酸セリウムは,セリウム,ネオジム,プラセオジム,ランタンおよびその他同族元素のシュウ酸塩の混合物であると記載されている。シュウ酸セリウム10水塩を生体液中のリン酸イオンを除去するために服用する方法は,現在用いられている水酸化アルミニウムの3?6g/日という投与量より少なくてすみ,1g/日程度で十分の効能を発揮する。」(3頁左上欄下から2行?左下欄3行)

(甲1-11)
「実施例1
本発明のシュウ酸第一セリウムのリン酸イオン固定化除去性能のpH依存性について示す。
シュウ酸第一セリウム10水塩の調製
市販99.9%の塩化セリウムを蒸留水に溶解した後に,シュウ酸水溶液を添加すると,白色の結晶性沈澱が得られる。その結晶を濾過,次いで,塩素イオンが濾液中に認められなくなるまで水洗した後に,空気中で風乾した。
リン酸イオン固定化除去実験
リン酸イオン濃度が2.76mM/lになるように,リン酸(リンとして85.6ppm)を蒸留水で稀釈してリン酸イオン含有水を調製し,該水溶液に該シュウ酸第一セリウム10水塩を1g/lの割合で添加して,1N水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより,該水溶液を所定のpHに保ちながら,室温で2時間攪拌した。その後,混合液を濾過し,その濾液のpHをpHメーターで,リン酸イオン濃度をイオンクロマトグラフィー(装置Dionex社製2020i型)により測定した。この結果を,溶液のpHとリン酸イオンの除去率の関係として図面に示す。
なお,pH7において生成した沈澱を濾過,乾燥した後,X線回折を測定したところ,リン酸第一セリウムであることがわかった。また,濾液中には4.1mMのシュウ酸イオンが存在しており,下式の反応が定量的に進むことがわかった。
Ce_(2)(C_(2)O_(4))_(3)・10H_(2)O+2NaH_(2)PO_(4) →
2CePO_(4)+Na_(2)C_(2)O_(4)+2H_(2)C_(2)O_(4)+(10H_(2)O)
実施例2?4
実施例1と同様にして調整したシュウ酸第一セリウム10水塩を,リン酸イオン濃度が2.76mM1lの水溶液に,0.2g/l,0.5g/g,および1.5g/lの割合で添加し,1N水酸化ナトリウム水溶液を加えて,該水溶液のpHを7に保ちながら,室温で2時間攪拌した。実施例1と同様の方法で液中のリン酸イオン濃度を測定し,リン酸イオンの除去率を測定した。


(3頁右下欄3行?4頁右上欄1行,及び表1)

(甲1-12)
「実施例5
実施例1と同様にして調整したシュウ酸第一セリウム10水塩を,リン酸イオン濃度が2.76mM/l,塩素イオン濃度が85mM/l,および重炭酸イオン濃度が48mM/lを含有する水溶液に,1g/lの割合で添加し,該水溶液のpHを7に保ちながら,室温で2時間攪拌した。その結果,リン酸イオンの除去率は97%であった。
実施例6
リン酸イオン固定化剤として炭酸第一セリウム9水塩〔Ce_(2)(CO_(3))_(3)・9H_(2)O〕を使用した例を示す。
硫酸第一セリウム(99%,試薬)を蒸留水に溶解した後,該水溶液に炭酸アンモニウム水溶液を添加し,沈でんを生成させる。沈でんは,沸騰水を用いてデカンテーションにより洗浄した後,濾紙上で風乾,次いで,シリカゲルを入れたデシケーター中で乾燥した。
該リン酸イオン固定化剤を,実施例2と同様の方法を用いて,リン酸イオン濃度として2.76mM/lの溶液で0.5g/lの割合で添加し,2時間後の除去率を求めた。その結果,リン酸イオンの除去率は98%であった。
実施例7
リン酸イオン固定化剤として炭酸第一セリウムナトリウム6水塩〔NaCe(CO_(3))_(2)・6H_(2)O〕を使用した例を示す。
炭酸ナトリウムの飽和水溶液中に,硝酸第一セリウムの濃厚水溶液を加えて沈でんを生成せしめる。沈でんは,濾過,炭酸ナトリウム含有水溶液で洗浄後,空気中,室温で風乾した。
該リン酸イオン固定化剤を,実施例2と同様の方法を用いて,リン酸イオン濃度として2.76mM/lの溶液で1g/lの割合で添加し,2時間後の除去率を求めた。その結果,リン酸イオンの除去率は93%であった。
実施例8
リン酸イオン固定化剤としてクエン酸第一セリウム3.5水塩{Ce〔C_(3)H_(4)OH(CO_(2))_(3)〕・3.5H_(2)O}を使用した例を示す。
クエン酸ナトリウム水溶液に徐々に硫酸第一セリウム水溶液を加えて沈でんを生成せしめる。沈でんは結晶になるまで熟成した後,濾過,水洗,次いで,空気中で乾燥した。
該リン酸イオン固定化剤を,実施例2と同様の方法を用いて,リン酸イオン濃度として2.76mM/lの溶液で0.5g/lの割合で添加し,2時間後の除去率を求めた。その結果,リン酸イオンの除去率は92%であった。
実施例9
リン酸イオン固定化剤としてマロン酸第一セリウム6水塩〔Ce_(2)(CH_(2)C_(2)O_(4))_(3)・6H_(2)O〕を使用した例を示す。
硝酸第一セリウム水溶液にマロン酸カリウム水溶液を添加し,沈でんを生成せしめた後,加熱することにより結晶として得られた。結晶は,濾過,水洗後,空気中で乾燥した。
該リン酸イオン固定化剤を,実施例2と同様の方法を用いて,リン酸イオン濃度として2.76mM/lの溶液で1g/lの割合で添加し,2時間後の除去率を求めた。その結果,リン酸イオンの除去率は100%であった。
実施例10
リン酸イオン固定化剤として炭酸イットリウム3水塩〔Y_(2)(CO_(3))_(3)・3H_(2)O〕を使用した例を示す。
塩化イットリウム水溶液に炭酸ナトリウム水溶液の過剰量を添加し,沈でんを生成せしめる。沈でんは,濾過,水洗後,空気中で乾燥した。
該リン酸イオン固定化剤を,実施例2と同様の方法を用いて,リン酸イオン濃度として2.76mM/lの溶液で0.5g/lの割合で添加し,2時間後の除去率を求めた。その結果,リン酸イオンの除去率は85%であった。」(4頁右上欄表の下1行?5頁右上欄2行)

(甲1-13)
「実施例11
リン酸イオン固定化剤として炭酸ランタン1水塩〔La_(2)(CO_(3))_(3)・H_(2)O〕を使用した例を示す。
塩化ランタン水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を添加し,沈でんを生成せしめる。沈でんは,濾過,水洗後,100℃で乾燥した。
該リン酸イオン固定化剤を,実施例2と同様の方法を用いて,リン酸イオン濃度として2.76mM/lの溶液で0.6g/lの割合で添加し,2時間後の除去率を求めた。その結果,リン酸イオンの除去率は90%であった。」(5頁右上欄3?13行)

(甲1-14)
「実施例12
リン酸イオン固定化剤としてシュウ酸ネオジム10水塩〔Nd_(2)(C_(2)O_(4))_(3)・10H_(2)O〕を使用した例を示す。
塩化ネオジム水溶液にシュウ酸水溶液を添加し,沈でんを生成せしめる。沈でんは,濾過,水洗後,空気中で乾燥する。
該リン酸イオン固定化剤を,実施例2と同様の方法を用いて,リン酸イオン濃度として2.76mM/lの溶液で1g/lの割合で添加し,2時間後の除去率を求めた。その結果,リン酸イオンの除去率は97%であった。
実施例13
リン酸イオン固定化剤としてシュウ酸ガドリニウム10水塩〔Gd_(2)(C_(2)O_(4))3・10H2O〕を使用した例を示す。
塩化ネオジム水溶液にシュウ酸水溶液を添加し,沈でんを生成せしめる。沈でんは,濾過,水洗後,空気中で乾燥する。
該リン酸イオン固定化剤を,実施例2と同様の方法を用いて,リン酸イオン濃度として2.76mM/lの溶液で1g/lの割合で添加し,2時間後の除去率を求めた。その結果,リン酸イオンの除去率は92%であった。
実施例14
リン酸イオン固定化剤としてシュウ酸サマリウム10水塩〔Sm_(2)(C_(2)O_(4))_(3)・10H_(2)O〕を使用した例を示す。
塩化サマリウム水溶液にシュウ酸水溶液を添加し,沈でんを生成せしめる。沈でんは,濾過,水洗後,空気中で乾燥する。
該リン酸イオン固定化剤を,実施例2と同様の方法を用いて,リン酸イオン濃度として2.76mM/lの溶液で1g/lの割合で添加し,2時間後の除去率を求めた。その結果,リン酸イオンの除去率は91%であった。」(5頁右上欄14行?右下欄9行)

・甲4:矢野文雄ら,リン吸着剤としての卵殻カルシウム製剤の透析患者における有効性,医療,1993年,第47巻10号,810?813頁

(甲4-1)
「高P血症対策のもう一つの方法は,P吸着剤の使用である.P吸着剤を食後すぐに服用させると,食事中に含まれるPと吸着剤とが相互に反応して不溶性の化合物が形成され,このためPが腸管より吸収されにくくなる.つまりP吸着剤を使用すると,Pの摂取量をさらに減少させることができるのである.」(811頁左欄15?20行)

(甲4-2)
「症例1:炭酸Ca=3.0g/日
卵殻Ca製剤=12錠/日
症例2:炭酸Ca=6.0g/日
卵殻Ca製剤=24錠/日
症例3:炭酸Ca=4.0g/日
卵殻Ca製剤=16錠/日」(811頁右欄22?27行)

(甲4-3)
「従来,アルミゲルがP吸着剤として使用されてきたが,(中略)その代わりとしてわが国では主として炭酸Caが使用されている.」(811頁左欄21?25行)

(甲4-4)
「卵殻Ca製剤の主成分は局方炭酸Caと同じ化合物であるにもかかわらず,実際にはP吸着効果では両者に大きな差異が認められた.
両者のP吸着作用の差異がおこる機序を探るため,その結晶構造に着目し走査型電子顕微鏡による比較を試みた.
Fig.2に示すごとく,局方炭酸Caと卵殻Caの結晶粒子構造には大きな相違が認められ,結晶構造の違いによってP吸着効果に差が生じた可能性が示唆された.即ち,卵殻Caの結晶は表面積が大きいため,溶解性にすぐれPと結合しやすく不溶性のリン酸カルシウムを多く形成する.あるいは結晶構造を保持したままその表面でPを吸着する(物理的吸着)際に,卵殻Caの方がPを多く吸着できる,などの理由が考えられる.」(812頁右欄33行?813頁左欄5行)

・甲5:丸茂文昭,慢性腎不全の正しい知識,株式会社南江堂,1983年11月25日第1刷発行,52?53頁

(甲5-1)
「体の中にリンが吸収されないような方法がとられています。それがアルミゲルなどの、アルミニウム製剤を飲むことです。アルミニウム製剤を飲みますと、アルミニウムが食物に含まれるリンと結合して、腸から吸収されない形になり、血中リン濃度が上昇しません。」(52頁28?32行)

(甲5-2)



(53頁)

・甲6:医学書院医学大辞典,第2版,株式会社医学書院,2009年2月15日発行,952頁

(甲6-1)
「高リン血症…(中略)…【高リン酸血症,リン酸[塩]血症…(中略)…】血清リン値が4.5mg/dL以上をいう。 …(中略)… 高リン酸血症=高リン血症」

・甲7:医薬品の投与剤形,医歯薬出版株式会社,1983年5月14日発行

(甲7-1)
「薬物はそれ自身のみで投与されることはほとんどなく,むしろ薬物以外のいろいろな物質との配合,組合せ-この組合せによって製剤的な特徴をもたせる-の成分として投与される.これらは薬物でないが,種々のタイプの製剤をつくるために医薬品添加物として選択することが重要となる.医薬品添加物の役割は,可溶化,分散,粘稠化,希釈,乳化,安定化,保存,着色,芳香などの他,薬物を有効性を損うことなく,かつ薬物としてふさわしいかたちにつくりあげることである.」(39頁左欄1?9行)

・甲8:Toshiyuki ODA,Studies on Crystal Waters of Lanthanum Carbonates,大分大学教育学部研究紀要,1975年,第4巻,第5号,1?5頁
(原文は英語のため,日本語で示す。)

(甲8-1)
「3つの既知のLa_(2)(CO_(3))_(3)・H_(2)O,・3H_(2)O及び・8H_(2)O形態だけでなく,La_(2)(CO_(3))_(3)・5H_(2)Oの形態での結晶水を含む炭酸ランタンが明らかになっている。」(Abstract 1?3行)

(甲8-2)
「2.1 炭酸ランタンの合成
i)La_(2)(CO_(3))_(3)・5H_(2)O
酸化ランタン200mg粉末を4.3cm長の円筒状のガラス容器内に入れた。塩化ナトリウム1g及び蒸留水100mlを酸化物に添加した。
ゴムチューブで連結されたガラス管(5mmφ内径)を溶液に挿入し,酸化物を溶解するため炭酸ガスを2ml/秒の速度で管を通して吹き込んだ。炭酸ガスを48時間溶液に吹き込んだ後,沈殿物を濾過し,炭酸水で洗浄し,約15℃の大気中で乾燥した。
ii)La_(2)(CO_(3))_(3)・H_(2)O,・3H_(2)O,・8H_(2)O
これらの炭酸塩の合成方法は以前の文献で報告されている。
a)La_(2)(CO_(3))_(3)・H_(2)O
既知量のアルカリ金属の炭酸塩をランタン塩溶液に添加した。その後,得られた白色沈殿物を濾過し,炭酸水で洗浄し,100℃の大気中で早急に乾燥した。
b)La_(2)(CO_(3))_(3)・3H_(2)O
炭酸ガスを水酸化ランタン懸濁液に48時間吹き込んだ。得られた沈殿物を酸水で洗浄し,真空乾燥した。
c)La_(2)(CO_(3))_(3)・8H_(2)O
既知量の炭酸ナトリウムをランタン塩溶液に添加した。その後,得られた沈殿物を濾過し,炭酸水で洗浄し,20℃でゆっくり乾燥した。トリクロロ酸の脱水も希土類元素結晶を得る一般的な方法として使用された。この実験においてもLa_(2)(CO_(3))_(3)・8H_(2)Oは前方法によって得られた。」(1頁下から7行?2頁18行)

・甲9:杉本功ら,溶媒和物,非晶質固体と医薬品製剤,粉体工学会誌,1985年,第22巻,第2号,85?97頁

(甲9-1)
「結晶水を有する医薬品は非常に多い。水和物(溶媒和物も含む)には,その無水物と比べ分子式では異なることよりpseudopolymorphという名称がよく用いられている。すなわち広い意味での多形の一種として扱われる場合が多い。また,水和物にはそれ自体に多形が存在する場合もある。水和物として存在する医薬品を製剤化する場合,通常の場合と同様,その物理化学特性の違いを的確に把握しておく必要があるが,それに加えて吸湿,脱水といった現象,およびそれに伴う物性や結晶形の変化に関しても充分に検討しておくことが必要である。」(86頁左欄41行?右欄7行)

(甲9-2)
「水和物では,結晶水が製剤工程での品質管理あるいはでき上がった製剤の諸特性に影響を与えることが多く,予備処方設計の段階でその性質を明確に把握しておくことが重要である。」(86頁右欄23?26行)

(甲9-3)
「3.1 製剤化にあたっての問題点
水和物では,結晶水が製剤工程での品質管理あるいはでき上がった製剤の諸特性に影響を与えることが多く,予備処方設計の段階でその性質を明確に把握しておくことが重要である。
(1) 生物学的利用率
経口剤の生物学的利用率には溶解度,溶解速度が大きな影響を与える。Shefterらは水和物の溶解速度は理論的に結晶水の数の増加と共に減少することを述べているが,それ以外に濡れ易さ,凝集性,表面積など粉体としての物理的性質の影響が大きい場合もあり,エリスロマイシン2水和物は1水和物及び無水和物よりも高い溶解度を示す。テトラサイクリンでは3水和物よりも2水和物の方が高い生物学的利用率を示した(図1)。アンピシリンでは無水物と3水和物間に吸収性に差があるとの報告と両者間に差がないとする報告がある。その他フルプレドニソロンのin vivoおよびin vitroでの溶出速度はα?1水和物とβ-1水和物間でも差が認められたなど数多く報告されている。
(2) 化学的安定性
医薬品の製剤化にあたり結晶形を選択する場合には前項に述べたような生物学的に有利なこととともに,それを製剤とした場合,化学的にも,また物理的にも安定であることが好ましい。この意味で水和物も含めて多形間の安定性の相違については充分な検討が必要である。
筆者らはシアニダノールには7種の結晶多形,水和物が存在し,通常保存される条件ではII形1水和物が最も安定な結晶形であることを見い出した。図2はこれら多形,水和物の光に対する安定性を示したものであるが,II形1水和物が最も安定であった。また保存湿度の影響を検討した結果,高湿度保存により光に不安定なI形4水和物に転移するII形無水物,IV形無水物,I形1水和物は不安定であった…(略)…
(3) 物理的安定性
結晶水は製剤自体の物性にも大きな影響を与える場合が多い。
筆者らの実験によると塩化ベルベリン4水和物と2水和物を含む錠剤の崩壊挙動を比較検討したところ,4水和物錠が比較的速やかに崩壊するのに対し,2水和物錠は著しく崩壊性が劣っていた。…(略)…これは2水和物が水中で4水和物に転移するとき,結晶表面に4水和物の結晶が成長し,これが粒子間に網状構造を形成し粒子間結合を生じるため,錠剤内への水の浸透が遅くなると共に水中での粒子の分散性が悪くなり,崩壊,溶出の遅れが生ずるものと考えられた。」(86頁右欄22行?88頁右欄11行)

・甲15:化学大辞典編集委員会編,化学大辞典5,縮刷版,共立出版株式会社,1963年11月15日発行,735頁

(甲15-1)
「たんさんランタン 炭酸-(中略)
製法 ランタン塩の水溶液にアルカリ金属の炭酸塩を加え,生じた沈殿を100°で乾燥すると一水塩が得られ,室温で乾燥すると八水塩が得られる。水酸化物の懸濁液に二酸化炭素を通ずると三水塩が得られる。」(735頁右欄)

4-3-2 甲1に記載された発明

ア 上記甲1-1,甲1-2によれば,甲1は「希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物からなるリン酸イオンの固定化剤」についての文献である。そして,甲1-13から,甲1には,炭酸ランタン1水塩〔La_(2)(CO_(3))3・H_(2)O〕を使用したリン酸イオン固定化剤(甲1-13)が実際にリン酸を固定化できるという実験結果を伴って開示されているといえる。

イ また,甲1-6,甲1-9によれば,当該リン酸イオンの固定化剤は生体の胃から先の消化器系において希土類元素の不溶性リン酸塩を形成し,そのまま体外に排出されるという原理に基づくものであるといえるところ,甲1-4,甲1-5によれば,従来技術として水酸化アルミニウムの経口投与による高リン血症の治療や水酸化アルミニウムに代えてジルコニウム化合物を吸着剤とする方法が開示され,従来技術について特に生体に適用する場合の問題を挙げている。

ウ ところで,1993年に発行された技術文献である甲4には,高P血症対策の方法として,P吸着剤を食後すぐに服用させることや,当該方法においては,食事中に含まれるPと吸着剤とが相互に反応して不溶性の化合物が形成され,このためPが腸管より吸収されにくくなり,結果的にPの摂取量をさらに減少させることができること(甲4-1),P吸着剤の具体的な例としてアルミゲルや炭酸Caがあること(甲4-2)が開示されているといえる。また,1983年に第1刷,1988年に第9刷が発行された書籍である甲5には,アルミニウム製剤を服用することにより,アルミニウムが食物に含まれるリンと結合して,腸から吸収されない形となり,血中リン濃度が上昇しないことが開示されているといえる(甲5-1)。そして,食品や体内においてリンはリン酸の形で存在することは,高リン血症と高リン酸血症,リン酸塩血症が同義であることが甲6に記載されているように,本件特許出願の優先日当時の技術常識であって,上記甲4,5で示された事項におけるリンやPがリン酸を意味することは自明である。これらの記載事項によれば,本件特許出願の優先日当時において,リン酸の吸着剤が,食後すぐに服用することによって食物中に含まれるリン酸と結合し,リン酸を腸から吸収されない形とするものであることや,当該吸着剤を服用することによって血中リン酸塩濃度の上昇を防止できること,すなわち高リン酸塩血症を治療又は予防できることは,本件特許出願の優先日当時の技術常識であったといえる。

エ そうすると,甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が開示されているといえる。
「高リン血症を治療又は予防するためのリン酸イオンの固定化剤であって,
炭酸ランタン1水和物を含むもの」

4-3-3 本件特許発明1について

ア 甲1発明との対比

甲6-1によれば,「高リン血症」と「高リン酸塩血症」は同義であり、「高リン血症」又は「高リン酸塩血症」を治療又は予防するための「剤」は医薬組成物として用いられることは当業者に自明である。また,本件特許の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)には「本明細書の全体を通じて,用語“治療”は,予防的処置を含むことを意味する。」(4頁7欄下から4?3行)と記載されており,本件特許発明1の「治療」には予防も含まれると認められる。
そうすると,本件特許発明1と甲1発明とは,
「高リン酸塩血症の治療のための医薬組成物であって, 以下の式:
La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)Oにより表される炭酸ランタンを含む前記組成物」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
本件特許発明1では,La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)Oにより表される炭酸ランタンについて,xが3?6の値を持つことが特定されているのに対し,甲1発明ではxが1である点。

(相違点2)
本件特許発明1では炭酸ランタンを「医薬として許容される希釈剤又は担体と混合されて又は会合されて含む」のに対し,甲1発明では希釈剤や担体と混合されて又は会合されて含むことが特定されていない点。

イ 判断

(ア)相違点1について
まず,相違点1について検討する。
上記(判1)「(3)イ」には,本件出願の優先日当時,「▲1▼乾燥温度等の乾燥条件の調節により,水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物を得ることができること,▲2▼水和物として存在する医薬においては,水分子(水和水)の数の違いが,薬物の溶解度,溶解速度及び生物学的利用率,製剤の化学的安定性及び物理的安定性に影響を及ぼし得ることから,医薬の開発中に,検討中の化合物が水和物を形成するかどうかを調査し,水和物の存在が確認された場合には,無水物や同じ化合物の水和水の数の異なる別の水和物と比較し,最適なものを調製することは,技術常識又は周知であったものと認められる。」と判示されている。さらに,上記(判2)「(4)ア」には,甲1発明の炭酸ランタン1水和物のリン酸イオン除去率が90%であることを踏まえ,「前記(3)イ認定の本件出願の優先日当時の技術常識又は周知技術に照らすと,甲1に接した当業者においては,甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)について,リン酸イオン除去率がより高く,溶解度,溶解速度,化学的安定性及び物理的安定性に優れたリン酸イオンの固定化剤を求めて,水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けがあるものと認められる。」,「当業者は,乾燥温度等の乾燥条件を調節することなどにより,甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)を,水和水の数が3ないし6の範囲に含まれる炭酸ランタン水和物の構成(相違点1に係る本件発明1の構成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。」と判示されている。
したがって,甲1発明において,炭酸ランタンの水和水の数を本件特許発明1の範囲とし,相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到することができたものである。

(イ)相違点2について
次に,相違点2について検討する。
甲1には,炭酸ランタン1水和物を実際に「医薬組成物」とする際に混合又は会合させる添加物について,特に記載はない。しかしながら,甲7-1のとおり,医薬組成物において,医薬としての作用を担う有効成分に加えて種々の添加物を含有させることは,剤形や投与経路を問わず周知かつ慣用の技術であって,医薬組成物の製造においてはほぼ必須といえるところ,甲7にはそのような医薬品添加物の一般的な役割の一つとして「希釈」も明記されている。そして,炭酸ランタンにおいてはこのような添加物を使用することが不適切であるなどといった,特段の事情も見当たらない。
したがって,甲1発明において,炭酸ランタン1水和物を「医薬として許容される希釈剤又は担体と混合されて又は会合されて含む」ものとすることは,当業者が適宜なし得る事項に過ぎない。

(ウ)効果について
上記(判3)の「ア(イ)」によれば,本件特許明細書の記載は「本件発明1の水和水の数値範囲内の炭酸ランタン4.4水和物(「サンプル3」),炭酸ランタン4水和物(「サンプル5」)及び炭酸ランタン3.8水和物(「サンプル6」)の5分の時点でのリン酸塩除去率が,96.5%又は100%であり,本件発明1に含まれない他の炭酸ランタン水和物(「サンプル1,2,4」)のリン酸塩除去率と比べて高いことを示すものである。」と認定され,甲1の記載は,「pH7に調整した水溶液における攪拌後2時間の時点での甲1発明の炭酸ランタン1水和物のリン酸除去率が90%であることを示すものである」と認定されている。そして,上記認定事実によれば本件特許発明1の炭酸ランタン水和物の試験結果と甲1発明の炭酸ランタン1水和物の実験結果とは「リン酸塩除去率」ないし「リン酸イオン除去率」という同質の効果を示すものであり,両者の実験条件の違いは当業者が適宜行い得る設計的事項の範囲内の事柄であるといえること,甲1発明の炭酸ランタン1水和物の水和水の数を3ないし6の範囲に含まれるものとし,相違点1に係る本件特許発明1の構成とした場合に,炭酸ランタン1水和物のリン酸イオン除去率(90%)を超えて100%により近い値になることは予測できる範囲であることから,本件特許発明1の効果が当業者の予測をはるかに超える優れたものであると認めることはできないと判断している。
また,相違点2に係る本件特許発明1の構成である希釈剤又は担体について,医薬組成物中に希釈剤又は担体を含む例で実験を行った結果は本件特許明細書には記載されておらず,医薬組成物において一般的な希釈剤又は担体の使用によって得られる以上の効果を奏することは確認できない。
したがって,本件特許発明1は,当業者が予想し得ない顕著な効果を奏するものとは認められない。

ウ 小括

以上のとおり,本件特許発明1は,甲1発明,及び技術常識又は周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-3-4 本件特許発明2?8について

以下,本件特許発明2?8についての当合議体の判断を示す。

4-3-4-1 本件特許発明2,3について

ア 対比

本件特許発明2は,本件特許発明1における水和水の数xの範囲を「xが3.5?5の値をもつ」と限定して特定するものであり,本件特許発明3は,「xが,3.8?4.5の値をもつ」と限定して特定するものである。
そうすると,本件特許発明2,3は,甲1発明との間でいずれも上記相違点2で相違し,さらに次の相違点1’,相違点1”でそれぞれ相違する。

(相違点1’)(本件特許発明2と甲1発明の相違点)
本件特許発明2では,La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)Oにより表される炭酸ランタンについて,xが3.5?5の値を持つことが特定されているのに対し,甲1発明ではxが1である点。

(相違点1”)(本件特許発明3と甲1発明の相違点)
本件特許発明2では,La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)Oにより表される炭酸ランタンについて,xが3.8?4.5の値を持つことが特定されているのに対し,甲1発明ではxが1である点。

イ 判断

上記相違点1’,相違点1”に係る数値範囲は,本件特許発明1における水和水の数xの範囲をより減縮して特定したものである。
甲1-13より,甲1には実施例11として炭酸ランタン1水塩を0.5g/lの添加量で用いた場合に,pH7で2時間攪拌の条件でリン酸イオンの除去率が90%であったことが記載されている。
上記「4-3-3 イ(ア)」で説示のとおり,(判1)「(3)イ」で認定された本件出願の優先日当時の技術常識又は周知技術に照らせば,甲1発明のリン酸イオンの固定化剤において,リン酸イオン除去率がより高く,かつ諸特性に優れたものを得るために,炭酸ランタンの水和水の数が異なるものの調製を試みる動機付けがある。そして,甲15には乾燥温度や沈殿の調製法により炭酸ランタンの一,三,八水塩が得られることが記載され(甲15-1),甲8には「Abstract」の1?3行に「3つの既知のLa_(2)(CO_(3))_(3)・H_(2)O,・3H_(2)O及び・8H_(2)O形態だけでなく,La_(2)(CO_(3))_(3)・5H_(2)Oの形態での結晶水を含む炭酸ランタンが明らかになっている。」と記載されるとともに「2.experimental」の項にそれら複数の水和物の具体的な調製方法が記載されている(甲8-1,甲8-2)。
甲15及び甲8の記載から,水和水の数が3や5の炭酸ランタンは調製法も含めて本件特許の優先日当時には既知であったといえ,水和水の数が5である炭酸ランタンは本件特許発明2,3の一般式においてxが5であるものに,水和水の数が3である炭酸ランタンはxが3であるものに相当する。
そうすると,甲1発明において,リン酸イオン固定化剤としてより優れたものを求めて水和水の数の異なる炭酸ランタンの調製を試みるに際し,3水和物や5水和物を指針としてxが3や5の付近のものについて検討し,xの値を,上記既知の値を含むか又は近傍の範囲である3.5?5,又は3.8?4.5といった範囲に設定することは,当業者が容易に想到するものといえる。
また,上記「4-3-3 イ(ウ)」のとおり,水和水の数が3.8,4又は4.4である炭酸ランタンによる効果は当業者の予測を超える顕著なものとはいえないから,それらを包含する,3.5?5,又は3.8?4.5の範囲の水和水の炭酸ランタンの効果も,当業者が予想し得ない顕著なものとは認められない。

ウ 小括

したがって,上記「4-3-3 イ(ア)」,「4-3-3 イ(イ)」,「4-3-3 イ(ウ)」で説示したのと同様の理由により,本件特許発明2及び3は,甲1発明,及び技術常識又は周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-3-4-2 本件特許発明4について

ア 対比

本件特許発明4は本件特許発明1?3のいずれかにおいて,さらに「経口投与のために好適な形態にある」と特定するものである。すると,本件特許発明4と甲1発明とは,上記の相違点1,相違点1’又は相違点1”のいずれか及び相違点2に加えて,さらに次の相違点3でも相違する。

(相違点3)
本件特許発明4は「経口投与のために好適な形態にある」と特定されるのに対し,甲1発明はそのように特定されない点。

イ 判断

上記「4-3-2 イ」に示したとおり,甲1には,高リン血症の治療として吸着剤を経口投与する従来技術があったこととその問題が認識されていたという前提の上で,炭酸ランタンを含むリン酸イオンの固定化剤について,生体の胃から先の消化器系において不溶性リン酸塩を形成し,そのまま体外に排出されることが記載されており,消化器系を作用部位とすることが開示されているといえる。また,甲1-8には,ゼラチンやカラギーナン等の多糖類を用いてカプセル化した形態で使用することも記載されており,多糖類を用いたカプセルは経口投与に適した剤形の一つである。
これらの記載を総合すれば,甲1にはリン酸イオンの固定化剤を「経口投与のために好適な形態」とすることが開示されているといえる。すると,甲1発明のリン酸イオンの固定化剤を製剤とするに際し「経口投与のために好適な形態」とすることは,格別の創意を要するものではない。
炭酸ランタンを経口投与することに関して,本件特許明細書には,「十分に排出され,そして経口で与えられるときにその消化管からその循環系に通過しないこと」を示すものとして,3匹のラットに炭酸ランタンの4水和物を経口投与した際の排泄について調べた結果,72時間後までに排出されたランタンの量が「%La回収」として,それぞれ103.3,99.5,103.8であったこと,及び,テスト後のラットの腎臓,肝臓,大腿部におけるランタンを分析したところいずれも0.1ppm未満であったことが記載されている(6頁12欄19行?7頁14欄最終行,7頁表)。しかしながら,上記「4-3-2 イ」に示したように,甲1には,リン酸イオンの固定化剤が生体の胃から先の消化器系において希土類元素の不溶性リン酸塩を形成し,そのまま体外に排出されるという原理が記載されており(甲1-6,甲1-9),上記の結果は,炭酸ランタン4水和物の体内挙動がこの原理に反していないことを確認したものにほかならず,当業者の予測を超えるものとはいえない。

ウ 小括

よって,上記「4-3-3 イ(ア)」,「4-3-3 イ(イ)」,「4-3-3 イ(ウ)」,及び「4-3-4-1 イ」で説示したのと同様の理由により,本件特許発明4は,甲1発明,及び技術常識又は周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-3-4-3 本件特許発明5について

ア 対比

本件特許発明5は,本件特許発明1?4のいずれかにおいて,さらに「0.1?20g/日を提供するための単位投与形態にある」と特定するものである。すると,本件特許発明5のうち本件特許発明1?3のいずれかを引用するものと甲1発明とは,上記の相違点1,相違点1’又は相違点1”のいずれか及び相違点2に加えてさらに次の相違点4で相違し,本件特許発明5のうち本件特許発明4を引用するものと甲1発明とは,上記相違点1,相違点1’又は相違点1”のいずれかと,相違点2及び相違点3に加えて,さらに相違点4でも相違する。

(相違点4)
本件特許発明5は「0.1?20g/日を提供するための単位投与形態にある」と特定されるのに対し,甲1発明はそのように特定されない点。

イ 判断

甲1には従来の吸着剤の投与量について「水酸化アルミニウムの経口投与は,通常,1?3gを1日に3?6回服用することが必要であり,…(中略)…しかし,ジルコニウム化合物のリン吸着能は,水酸化アルミニウムと同程度であり,使用量を低減できるものではない。」(甲1-4)と記載され,甲1発明のリン酸イオン固定化剤について「従来の吸着剤法に比べて単位重量当りのリン酸イオンの固定化性能は5倍以上の特性を有する。」(甲1-6)と記載されている。また,甲1には炭酸ランタン1水和物の投与量は特に記載されていないものの,甲1-10に「本発明のリン酸イオン固定化剤」のうちシュウ酸セリウム10水塩を挙げて「現在用いられている水酸化アルミニウムの3?6g/日という投与量より少なくてすみ,1g/日程度で十分の効能を発揮する。」との記載がある。さらに,甲1-11,甲1-13より,実施例3ではシュウ酸第一セリウム10水塩を0.5g/l,実施例11では炭酸ランタン1水塩を0.6g/l用いたリン酸イオンの除去実験が示され,実施例3では除去率が48%,実施例11では除去率が90%という結果を得ている。
甲1に記載されたこれらの事項によれば,そもそも本件特許発明5の「0.1?20g/日」という投与量は,吸着剤の投与量が多くなることが問題視される,従来技術である水酸化アルミニウムの投与量を包含する広範な範囲に過ぎない。そして,実施例3と実施例11を比較すると炭酸ランタン1水塩がシュウ酸第一セリウム10水塩と同等かそれ以上のリン酸イオン除去率を呈したことからみて,甲1発明の炭酸ランタン1水和物においてもシュウ酸セリウム10水塩について提示される「1g/日程度」の投与量で効能を発揮することが期待できるといえる。
また,本件特許明細書の発明の詳細な説明を参照しても,生体に対する具体的な投与量と高リン酸血症の治療に関連する作用効果について検討した試験結果などは示されておらず,「0.1?20g/日」という投与量の範囲に臨界的意義があるとも認められないから,結局,0.1?20g/日という投与量の範囲は当業者が適宜設定できる程度のものに過ぎない。

ウ 小括

したがって,上記「4-3-3 イ(ア)」,「4-3-3 イ(イ)」,「4-3-3 イ(ウ)」,「4-3-4-1 イ」,及び「4-3-4-2 イ」の説示と同様の理由により,本件特許発明5は,甲1発明,及び技術常識又は周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-3-4-4 本件特許発明6について

ア 対比

本件特許発明6は,請求項1?3のいずれか1項に記載の炭酸ランタンの,胃腸管内への投与による高リン酸塩血症の治療のための医薬の製造のための使用方法に係る発明である。
一方,甲1には,上記「4-3-2 ア」,「4-3-2 イ」,「4-3-2 ウ」より,次の発明(以下,「甲1発明A」という。)が記載されているといえる。
「炭酸ランタン1水和物の,高リン血症を治療するためのリン酸イオン固定化剤の製造のための使用方法」

「高リン血症」と「高リン酸塩血症」とが同義であることは上記「4-3-3 ア」に示したとおりであるから,本件特許発明6と甲1発明Aとを対比すると,両者は,
「高リン酸塩血症の治療のための医薬の製造のための,La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)Oにより表される炭酸ランタンの使用方法」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点A)
本件特許発明6では,La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)Oにより表される炭酸ランタンについて,xが3?6,3.5?5,又は3.8?4.5の値を持つことが特定されているのに対し,甲1発明Aではxが1である点。

(相違点5)
本件特許発明6は治療が「胃腸管内への投与による」と特定されるのに対し,甲1発明Aはそのように特定されない点。

イ 判断

相違点Aは相違点1,相違点1’又は相違点1”と同じ事項であるから,甲1発明Aにおいてxを3?6,3.5?5,又は3.8?4.5とすることは,上記「4-3-3 イ(ア)」,「4-3-3 イ(ウ)」及び「4-3-4-1 イ」で説示のとおり当業者が容易に想到することができたものである。
相違点5に係る「胃腸管内への投与による」という事項について検討すると,上記「4-3-4-2 イ」で相違点3について説示したとおり,甲1には,リン酸イオンの固定化剤の作用部位が消化器系であって,経口投与のために好適な形態とすることが開示されているといえるから,甲1発明Aにおいて治療を胃腸管内への投与によるものとすることに格別の困難は認められない。
また,胃腸管内への投与することの効果についても,本件特許明細書には上記「4-3-4-2 イ」で述べた経口投与の結果が示されるに過ぎず,当業者の予測を超える効果が得られるという根拠は見出せない。

ウ 小括

よって,上記「4-3-3 イ(ア)」,「4-3-3 イ(ウ)」,「4-3-4-1 イ」,及び「4-3-4-2 イ」で説示したのと同様に,本件特許発明6は,甲1発明A,及び技術常識又は周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-3-4-5 本件特許発明7について

本件特許発明7は,請求項1?3のいずれか1項に記載の炭酸ランタンを含む医薬組成物の製法であって,以下のステップ:
(i)酸化ランタンを塩酸と反応させて,塩化ランタンを得て;
(ii)こうして得られた塩化ランタンの溶液と炭酸アルカリ金属を反応させて,炭酸ランタン8水塩の湿ケーキを作り;
(iii)3?6分子の結晶水をもつ炭酸ランタンを得るために,上記炭酸ランタン8水塩の湿ケーキを制御して乾燥させ,そして
(iv)ステップ(iii)で得られた炭酸ランタンを医薬として許容される希釈剤又は担体と混合する,
を含む,方法の発明である。

ア 対比

(ア)上記「4-3-2 ア」で指摘のとおり,甲1-1,甲1-2によれば,甲1は「希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物からなるリン酸イオンの固定化剤」についての文献である。そして,甲1-13には,塩化ランタン水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を添加し,生成した沈殿を,濾過,水洗後,100℃で乾燥して,炭酸ランタン1水塩〔La_(2)(CO_(3))_(3)・H_(2)O〕を調製したこと,及び,得られた炭酸ランタン1水塩をリン酸イオン固定化剤として,実際にリン酸イオンを90%除去したことが記載されている。

(イ)また,「4-3-2 イ」で指摘のとおり,甲1-6,甲1-9によれば,当該リン酸イオンの固定化剤は生体の胃から先の消化器系において希土類元素の不溶性リン酸塩を形成し,そのまま体外に排出されるという原理に基づくものであるといえるところ,甲1-4,甲1-5によれば,従来技術として水酸化アルミニウムの経口投与による高リン血症の治療や水酸化アルミニウムに代えてジルコニウム化合物を吸着剤とする方法が開示され,従来技術について特に生体に適用する場合の問題を挙げている。

(ウ)さらに,上記「4-3-2 ウ」で示したとおり,1993年に発行された技術文献である甲4には,高P血症対策の方法として,P吸着剤を食後すぐに服用させることや,当該方法においては,食事中に含まれるPと吸着剤とが相互に反応して不溶性の化合物が形成され,このためPが腸管より吸収されにくくなり,結果的にPの摂取量をさらに減少させることができること(甲4-1),P吸着剤の具体的な例としてアルミゲルや炭酸Caがあること(甲4-2)が開示されているといえる。また,1983年に第1刷,1988年に第9刷が発行された書籍である甲5には,アルミニウム製剤を服用することにより,アルミニウムが食物に含まれるリンと結合して,腸から吸収されない形となり,血中リン濃度が上昇しないことが開示されているといえる(甲5-1)。そして,食品や体内においてリンはリン酸の形で存在することは,高リン血症と高リン酸血症,リン酸塩血症が同義であることが甲6に記載されているように,本件特許出願前の技術常識であって,上記甲4,5で示された事項におけるリンやPがリン酸を意味することは自明である。これらの記載事項によれば,本件特許の出願時において,リン酸の吸着剤が,食後すぐに服用することによって食物中に含まれるリン酸と結合し,リン酸を腸から吸収されない形とするものであることや,当該吸着剤を服用することによって血中リン酸塩濃度の上昇を防止できること,すなわち高リン酸塩血症を治療又は予防できることは,本件特許の出願前に技術常識であったといえる。

(エ)そうすると,甲1には,次の発明(以下,「甲1発明B」という。)が記載されているといえる。
「塩化ランタン水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を添加し,生成した沈でんを,濾過,水洗後,100℃で乾燥することにより調製された炭酸ランタン1水和物を含む,高リン血症を治療又は予防するためのリン酸イオンの固定化剤の製造方法」

(オ)上記「4-3-3 ア」で述べたとおり,「高リン血症を治療又は予防するためのリン酸イオンの固定化剤」とは「高リン酸塩血症の治療のための医薬組成物」として用いられるものであることは,当業者に自明である。
以下,本件特許発明7と甲1発明Bとを対比する。
上記甲15-1の記載からみて,甲1発明Bの濾過,水洗された沈でんは,炭酸ランタンの水和物であることは明らかであるから,甲1発明Bの「濾過,水洗」された「生成した沈でん」は,本件特許発明7の炭酸ランタンの水和物である「湿ケーキ」に相当し,また,甲1発明Bの「100℃で乾燥させる」とは,1分子の結晶水をもつ炭酸ランタンである炭酸ランタン1水塩を得るために,温度を制御して乾燥することである。
すると,本件特許発明7と甲1発明Bとは
「(ii)塩化ランタンの溶液と炭酸ナトリウムを反応させて,炭酸ランタンの水和物の湿ケーキを作り;
(iii)特定数の分子の結晶水をもつ炭酸ランタンを得るために,上記炭酸ランタンの水和物の湿ケーキを制御して乾燥させ,
(iv)ステップ(iii)で得られた炭酸ランタンを含む,高リン血症を治療するための医薬組成物の製造方法」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点B1)
本件特許発明7は塩化ランタンを得る工程がステップ(i)の「酸化ランタンを塩酸と反応させ」るものに特定されるのに対し,甲1発明Bではステップ(i)が特定されない点。

(相違点B2)
本件特許発明7はステップ(ii)で炭酸ランタン8水塩を得るのに対し,甲1発明Bでは水和水の数が特定されない炭酸ランタンを得る点。

(相違点B3)
本件特許発明7はステップ(iii)において「3?6分子の結晶水をもつ炭酸ランタンを得るために,…制御して乾燥させ」ることが特定されるのに対し,甲1発明Bの「制御して乾燥」は水和水の数を1とするために100℃で乾燥を行うものである点。

(相違点B4)
本件特許発明7は炭酸ランタンを医薬として許容される希釈剤又は担体と混合するステップ(iv)を有するものであるところ,甲1発明Bではそのような工程を特定しない点。

イ 判断

上記相違点について検討する。

(ア)相違点B4について
相違点B4に係るステップ(iv)は,医薬組成物の製法において,有効成分である炭酸ランタン水和物を医薬として許容される希釈剤又は担体と混合するものであるから,上記「4-3-3 イ(イ)」で相違点2について説示したとおり,甲1発明Bにおいて当業者が適宜なし得るものである。

(イ)相違点B1について
相違点B1に係るステップ(i)は,炭酸アルカリ金属と反応させるための塩化ランタン溶液を得る工程であるところ,酸化物を塩酸に溶かすことは塩化物を得るための一般的な方法に過ぎず,酸化ランタンを塩酸と反応させて塩化ランタンを得ることも格別のことではない。本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1と実施例2を参照しても,他の方法に比べて酸化ランタンと塩酸を用いる実施例2の方法が好適であるなどといった事実も見出せない。

(ウ)相違点B2及び相違点B3について
ステップ(ii)及びステップ(iii)の工程は,「炭酸ランタン8水塩」を経て「3?6分子の結晶水をもつ炭酸ランタン」を得る工程であるところ,「3?6分子の結晶水をもつ炭酸ランタン」は,本件特許発明1の,相違点1に係るxが3?6の値である炭酸ランタンにほかならない。
甲1-13より,甲1には,実施例11として炭酸ランタン1水塩を0.5g/lの添加量で用いた場合に,pH7で2時間攪拌の条件でリン酸イオンの除去率が90%であったことが記載されている。
上記「4-3-3 イ(ア)」に示したように,相違点1について,上記(判1)「(3)イ」には,本件出願の優先日当時,「▲1▼乾燥温度等の乾燥条件の調節により,水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物を得ることができること,▲2▼水和物として存在する医薬においては,水分子(水和水)の数の違いが,薬物の溶解度,溶解速度及び生物学的利用率,製剤の化学的安定性及び物理的安定性に影響を及ぼし得ることから,医薬の開発中に,検討中の化合物が水和物を形成するかどうかを調査し,水和物の存在が確認された場合には,無水物や同じ化合物の水和水の数の異なる別の水和物と比較し,最適なものを調製することは,技術常識又は周知であったものと認められる。」と判示されている。さらに,上記(判2)「(4)ア」には,甲1発明の炭酸ランタン1水和物のリン酸イオン除去率が90%であることを踏まえ,「前記(3)イ認定の本件出願の優先日当時の技術常識又は周知技術に照らすと,甲1に接した当業者においては,甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)について,リン酸イオン除去率がより高く,溶解度,溶解速度,化学的安定性及び物理的安定性に優れたリン酸イオンの固定化剤を求めて,水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けがあるものと認められる。」,「当業者は,乾燥温度等の乾燥条件を調節することなどにより,甲1記載の炭酸ランタン1水和物(甲1発明)を,水和水の数が3ないし6の範囲に含まれる炭酸ランタン水和物の構成(相違点1に係る本件発明1の構成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。」と判示されている。
したがって,甲1発明Bにおいても,(判1)「(3)イ」で認定された技術常識又は周知技術に照らせば,リン酸イオンの固定化率が90%であった炭酸ランタン1水塩について,リン酸イオン除去率がより高く,溶解度,溶解速度及び生物学的利用率,製剤の化学的安定性及び物理的安定性に優れたリン酸イオンの固定化剤を求めて,結晶水の数の異なる炭酸ランタン水和物を調製することを試みる動機付けがあると認められる。
また,甲8には,沈殿物を洗浄後に「20℃でゆっくり乾燥」してLa_(2)(CO_(3))_(3)・3H_(2)Oを,「約15℃の大気中で乾燥」してLa_(2)(CO_(3))_(3)・5H_(2)Oを得たこと(甲8-2)が記載されているから,本件特許の優先日当時には,上記(判1)「(3)イ」で認定された技術常識又は周知技術の「▲1▼乾燥温度等の乾燥条件の調節により,水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物を得ることができること」として,炭酸ランタンの3水塩や5水塩を得るための乾燥における具体的な制御条件も知られていたものといえる。
そうすると,甲1発明Bにおいて,リン酸イオンの除去率が90%であった炭酸ランタン1水塩について,リン酸イオンの除去率その他の諸特性がより優れたものを求めて水和水の数の異なる炭酸ランタンの調製を試みるに際し,炭酸ランタン3水塩や5水塩を指針として,「3?6分子の結晶水をもつ炭酸ランタンを得るために」,炭酸ランタンの水和物の湿ケーキを「制御して乾燥」させるようにすることは,当業者が容易に想到し得たものといえる。

また,甲15-1より,甲15には水溶液から析出した炭酸ランタンの沈殿を100℃で乾燥すると一水塩,室温で乾燥すると八水塩が得られることが記載されている。すなわち、湿ケーキである沈殿を強い条件で乾燥すれば1水塩になるまで脱水するが、穏やかな条件で乾燥すれば8水塩までの脱水に留まることを示すといえる。甲8に記載の,「20℃でゆっくり乾燥」してLa_(2)(CO_(3))_(3)・3H_(2)Oを得,「約15℃の大気中で乾燥」してLa_(2)(CO_(3))_(3)・5H_(2)Oを得たという事実も,乾燥の強さとその結果得られる炭酸ランタンのもつ結晶水の数との関係について,強い条件で乾燥させれば結晶水の少ない炭酸ランタンが得られるという,甲15から把握されるのと同様の傾向を示している。これらのことから、甲1に明示されていなくとも甲1発明Bにおいて100℃で乾燥して炭酸ランタン1水塩を得るときには自ずと8水塩の状態を経ること,同様に,8水塩よりも結晶水を減じて「3?6分子の結晶水をもつ炭酸ランタンを得るために…制御して乾燥させ」るときにも自ずと8水塩の状態を経ることが,理解できる。

具体的に塩化ランタンの溶液と炭酸アルカリ金属の反応で炭酸ランタンを得る際にまず「8水塩の湿ケーキ」として得る点について,本件特許明細書の発明の詳細な説明を参照すると,「…,本発明は,以下の段階:
(i)ランタンの可溶性塩を与える酸と,酸化ランタンを反応させ;
(ii)このようにして得られたランタン塩の溶液を,炭酸アルカリ金属と反応させて,炭酸ランタン8水塩の湿ケーキを作り;そして
(iii)3?6の結晶水分子をもつ炭酸ランタンを得るように上記炭酸ランタン8水塩の湿ケーキを制御しながら乾燥させる,
を含む,炭酸ランタンの製法である。」(2頁4欄18?26行)との記載があり,これはステップ(i)で使用する酸を塩酸と特定せず,したがってステップ(ii)のランタン塩の溶液も塩化ランタンの溶液とは特定しない点以外は本件特許発明7と同じ事項が記載されるに留まる。また,「8水塩の型であると信じられている標準的な商業的な炭酸ランタン」(2頁3欄50行?4欄1行)とも記載されているが,「8水塩の型であると信じられている標準的な商業的な炭酸ランタン」がステップ(i)の工程で得られているのかは明らかでなく,本件特許発明7が炭酸ランタン8水塩として特定の市販製品を使用することを意図するものとも認められない。
さらに,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,実施例2として「実施例1の方法を繰り返した。但し,酸化ランタン(1.5kg)を溶解するための硝酸の代わりに,塩酸(12.28M,2.48リッター)を使用した。…この生成物を,Pyrex皿にほぼ等しい3つの部分に分け,そして80℃においてファン付オーブン内で乾燥させた。…上記乾燥方法の時間経過を以下に示す。」(5頁9欄22行?10欄24行)と記載されている。この箇所に続く表を,下に示す。

上記の表には「mol H_(2)O/La」の値の時間変化が20時間まで示されており,20時間後の値が3つのpyrex皿に分けた試料(皿1?3)についてそれぞれ「4.3」,「4.6」,「4.0」と記載されている。ここで,炭酸ランタンの化学式La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)Oによれば水和水xmolは2molのLaに対する量といえ,「mol H_(2)O/La」という表記は,表1中の数値が上記化学式中のxの数値の1/2に該当するようにも見える。しかしながら,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,この表に続く部分に「La_(2)(CO_(3))_(3)・4H_(2)Oについての 実測 計算」(6頁1行),「実施例2の方法により調製された炭酸ランタン4H_(2)OについてのXRD分析を,図3に示す。…」(6頁11欄8?9行)等の記載があり,実施例2において最終的に得られた炭酸ランタンは水和水の数x=4のものであると解されるから,「mol H_(2)O/La」の欄の数値は,式La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)O中のxの数を示すものと認められる。
上記表によれば,乾燥から時間経過とともに「mol H_(2)O/La」の値は当初の20を超える値から減少し,9時間の時点の数値として皿1?3についてそれぞれ「7.9」,「8.0」,「7.6」が記載され,緩やかな減少をさらに続けた後に19.5時間?20時間では変化が0.1?0となり,上述のとおり20時間の時点で4程度の値を呈している。すなわち,乾燥開始から9時間程度で8水塩の状態になり,これを経てさらに水和水の数が減少したことがわかる。
結局,実施例2を見ても「炭酸ランタン8水塩の湿ケーキを作」ることとしては,湿潤状態からの乾燥中に炭酸ランタン8水塩の状態を経ることが確認されたに過ぎず,炭酸ランタンが8水塩となったことを確認した時点で何らかの,8水塩であることに対応する操作を行うものでもないから,本件特許発明7の「炭酸ランタン8水塩の湿ケーキを作り…上記炭酸ランタン8水塩の湿ケーキを制御して乾燥させ」ることは,湿ケーキとして得られた炭酸ランタンを水和水が8より少なくなるまで乾燥することを包含するものといえる。
そうすると,上記のとおり甲1発明Bの製法においては沈でんとして得た炭酸ランタンを乾燥する工程で炭酸ランタン8水塩の状態を経るのであるから,相違点B2は実質的な相違点とはいえないし,甲1発明Bを3?6分子の結晶水をもつ炭酸ランタンを得るために制御して乾燥させるようにする場合にも,同じく,実質的な相違点とはならない。

(エ)効果について
上記「4-3-3 イ(ウ)」において示したとおり,水和水の数を3?6とした炭酸ランタンの効果は当業者の予測をはるかに超える優れたものとは認められない。また,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,医薬として許容される希釈剤又は担体と混合した場合の結果は示されておらず,さらにステップ(i)及び(ii)を含む製法と他の製法との比較結果なども示されておらず,本件特許発明7の製法が他の製法に比べて医薬組成物を得る上で顕著な効果があるといった根拠も見出せない。

ウ 小括

したがって,上記「4-3-3 イ(ア)」,「4-3-3 イ(イ)」,「4-3-3 イ(ウ)」,「4-3-4-1 イ」で説示したのと同様の理由により,本件特許発明7は,甲1発明,及び技術常識又は周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-3-4-6 本件特許発明8について

ア 対比

本件特許発明8は,請求項1?3のいずれか1項に記載の炭酸ランタンの,腎不全を患う患者における高リン酸塩血症の治療のための医薬の製造のための使用方法に係る発明である。
一方,甲1には,上記「4-3-4-4 ア」に示したとおり、上記「4-3-2 ア」,「4-3-2 イ」,「4-3-2 ウ」より,次の甲1発明Aが記載されているといえる。
「炭酸ランタン1水和物の,高リン血症を治療するためのリン酸イオン固定化剤の製造のための使用方法」

「高リン血症」と「高リン酸塩血症」とが同義であることは上記「4-3-3 ア」に示したとおりであるから,本件特許発明8と甲1発明Aとを対比すると,両者は,
「高リン酸塩血症の治療のための医薬の製造のための,La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)Oにより表される炭酸ランタンの使用方法」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点A)
本件特許発明8では,La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)Oにより表される炭酸ランタンについて,xが3?6,3.5?5,又は3.8?4.5の値を持つことが特定されているのに対し,甲1発明Aではxが1である点。

(相違点6)
本件特許発明8は治療対象の高リン酸塩血症が「腎不全を患う患者における」と特定されるのに対し,甲1発明Aはそのように特定されない点。

イ 判断

相違点Aは相違点1,相違点1’又は相違点1”と同じ事項であるから,甲1発明Aにおいてxを3?6,3.5?5,又は3.8?4.5とすることは,上記「4-3-3 イ(ア)」,「4-3-3 イ(ウ)」及び「4-3-4-1 イ」で説示のとおり当業者が容易に想到することができたものである。

甲1-4より,甲1には「慢性腎不全患者においては,リンの排泄障害から高リン血症を生ずることはよく知られており,…」と記載されているから,甲1発明Aにおいて,腎不全を患う患者における高リン酸塩血症は治療対象に含まれるといえ,治療対象の高リン酸塩血症を腎不全を患う患者におけるものに限定して特定することは,当業者が適宜なし得るものである。また,本件特許明細書には患者に対する投与例は記載されておらず,高リン酸塩血症が腎不全患者におけるものである場合に格別の効果を奏するなどといった根拠も見出せない。

ウ 小括

したがって,上記「4-3-3 イ(ア)」,「4-3-3 イ(ウ)」,及び「4-3-4-1 イ」で説示したのと同様の理由により,本件特許発明8は,甲1発明,及び技術常識又は周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-3-5 被請求人の主張について

ア 被請求人は,答弁書,口頭審理陳述要領書,上申書において,請求人の主張する無効理由3に対し,概略,下記A?Cを主張して反論している。

A 甲1に記載の実施例を見ると,14ある実施例のうち,ランタンを使用したのは実施例11のわずか一例のみであり,しかも,本件特許発明1の範囲に含まれない1水塩を使用した例である。測定されたリン酸イオンの除去率を見ても,ランタンを用いた実施例11よりも,セリウム,ネオジム,ガドリニウム及びサマリウムを用いた実施例の方が,よりよいリン酸イオンの除去率を与えており,甲1を見た当業者は,セリウムなどに比較してリン酸イオンの除去率が低かったランタンについて,さらに調べようとはしなかったはずである。(原文中の「ガドリウム」は「ガドリニウム」の誤記と認める。)

B 甲1には,特定の金属水和物塩について水和数を変えるとリン酸イオンの除去率が変化するという知見はなく,水和物の範囲を変更する動機付けはない。

C 本件特許公報の第1図及び表1に示された,炭酸ランタンのリン酸(塩)結合能力において,水和水の数xについてそれぞれx=4.4,x=4.0,x=3.8であるサンプル3,5,6がpH3の条件で5分後のリン酸塩除去率としてそれぞれ96.5%,100%,100%と高い値を示すのに比べ,甲1の炭酸ランタン1水和物に相当するx=1.3のサンプル2では5分後のリン酸塩除去率は39.9%と低い値である。甲1においてランタンのリン酸イオン除去率はセリウム,ネオジム等よりも劣っており,水和水の数が異なるもので上記のように高い値を示すことは全く予想外のことであり,驚くべき結果であった。
また,pH3という胃と同じ環境下で特定の水和数を有する炭酸ランタンが5分後という早期に優れたリン酸(塩)結合能力を示したことも全く予想外のことである。そして,薬剤は食品と一緒に投与され,食品中のリン酸(塩)が血流に吸収される前にリン酸(塩)と結合しなければならないことから,早い段階で,また胃内の酸性条件下でリン酸(塩)塩と結合することは非常に重要である。
請求人は,実験報告書を提出して炭酸ランタン8水和物のリン酸除去率が本件特許発明の範囲に含まれるサンプルを上回るかほぼ同等であることをもって本件特許発明1による顕著な効果が存在しないことを主張するが,炭酸ランタン8水和物は甲1に記載されておらず,そのような比較は甲1に記載の発明に対する進歩性を左右するものではない。
また,甲13,甲14,甲15には,それぞれ炭酸ランタン5水和物,6水和物,3水和物及び8水和物が記載されているが,甲13?15にはリン酸イオンの除去率はおろか高リン酸塩血症の治療との関係は全く触れられていない。
加えて,本件特許発明に係る製剤は極めて高い商業的成功を収めており,本件特許発明の進歩性を裏付けるのに参酌されるべきものである。

イ 上記主張について検討する。

Aについて
甲1-11?甲1-14によれば,甲1の実施例1?14では,各種の希土類元素の炭酸塩あるいは有機酸化合物について,pH7かつ2時間攪拌の条件におけるリン酸イオンの除去率を調べた結果が示されており,まとめると下のとおりである。なお,実施例5では実施例1と同じくシュウ酸セリウム10水塩を1.0g/lの添加量で用いているが,実施例1で言及されていない塩素イオン濃度と炭酸イオン濃度が,実施例5ではそれぞれ85mM/l,48mM/lであることが記載されている。また,甲1の実施例においてセリウムは「第一セリウム」とも記載されているが,ここでは単に「セリウム」と記載する。

添加量(g/l) 除去率(%)
---------------------------------
シュウ酸セリウム10水塩 1.0 99 (実施例1)
〃 0.2 19 (実施例2)
〃 0.5 48 (実施例3)
〃 1.5 100 (実施例4)
〃 1.0 97 (実施例5)
炭酸セリウム9水塩 0.5 98 (実施例6)
炭酸セリウムナトリウム6水塩 1.0 93 (実施例7)
クエン酸セリウム3.5水塩 0.5 92 (実施例8)
マロン酸セリウム6水塩 1.0 100 (実施例9)
炭酸イットリウム3水塩 0.5 85 (実施例10)
炭酸ランタン1水塩 0.6 90 (実施例11)
シュウ酸ネオジム10水塩 1.0 97 (実施例12)
シュウ酸ガドリニウム10水塩 1.0 92 (実施例13)
シュウ酸サマリウム10水塩 1.0 91 (実施例14)

上記の結果から,単純に除去率の数値を比較すれば,被請求人が述べるとおり,実施例11の炭酸ランタン1水塩によるリン酸イオンの除去率は,実施例12?14のネオジム,ガドリニウム,サマリウムのシュウ酸塩や,実施例1,4?9のセリウム化合物に比べて劣る数値となっている。しかしながら,リン酸イオンの固定化剤におけるリン酸イオン除去能は,リン酸イオン除去に要する固定化剤の量に関連するから,それぞれの化合物の添加量も併せて評価する必要がある。この観点から実施例の結果を見れば,[1]他の実施例では多くが添加量1.0g/lの結果であるのに対して実施例11では添加量0.6g/lの結果であること,[2]添加量が実施例11に近い実施例3(シュウ酸セリウム10水塩0.5g/l),実施例6(炭酸セリウム9水塩0.5g/l),実施例8(クエン酸セリウム3.5水塩0.5g/l),実施例10(炭酸イットリウム3水塩0.5g/l)の結果はそれぞれ48%,98%,92%,85%であって,添加量が近い例の中で実施例11の炭酸ランタン1水塩の結果が特に劣るとはいえないこと,[3]添加量1.0g/lである実施例7(炭酸セリウムナトリウム6水塩),実施例13(シュウ酸ガドリニウム10水塩),実施例14(シュウ酸サマリウム)では除去率がそれぞれ93%,92%,91%と,添加量の違いにもかかわらず実施例11の90%という除去率との差が顕著なものではないこと,のそれぞれが見てとれる。
そうすると,炭酸ランタン1水塩が甲1に記載された各種の希土類元素の化合物の中で他に比べて劣るとはいえず,甲1に接した当業者が炭酸ランタン1水和物を検討の対象とすることは不自然なことではない。

Bについて
甲1に,炭酸ランタン1水和物の水和水の数を変えることについて特段の示唆がないことは被請求人の述べるとおりである。しかしながら,(判1)のとおり,本件出願の優先日当時,「乾燥温度等の乾燥条件の調節により,水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物を得ることができること」,及び「水和物として存在する医薬においては,…水和物の存在が確認された場合には,無水物や同じ化合物の水和水の数の異なる別の水和物と比較し,最適なものを調製すること」が技術常識及び周知であったことに照らせば,炭酸ランタン1水和物において,医薬としての諸特性に優れたものを求めて水和水の数の異なる炭酸ランタン水和物の調製を試みる動機付けがあるものと認められ,甲1自体に炭酸ランタンの水和水の数を変えることについて教示がないことは,この動機付けを否定する根拠とはならない。

Cについて
炭酸ランタン水和物の水和水の数を3?6とすることの効果については,上記4-3-3イ(ウ)で説示のとおりであって,上記(判5)の「ア(イ)」によれば,当業者の予測をはるかに超える優れたものと認めることはできない。
また,本件特許発明に係る製品が商業的成功を収めていることは,進歩性の判断には直接関係するものではない。

ウ 小括

したがって,無効理由3に対する被請求人の主張は採用できない。

第5 むすび

以上のとおり,本件特許発明1ないし8に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから,特許法第123条第1項第2号に該当し,請求人が主張する他の無効理由について判断するまでもなく無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-09-27 
結審通知日 2019-10-02 
審決日 2019-10-16 
出願番号 特願平8-529040
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A61K)
最終処分 成立  
特許庁審判長 光本 美奈子
特許庁審判官 井上 典之
藤原 浩子
登録日 2001-08-24 
登録番号 特許第3224544号(P3224544)
発明の名称 選択された炭酸ランタン水和物を含有する医薬組成物  
代理人 原 悠介  
代理人 大住 洋  
代理人 小林 純子  
代理人 山崎 道雄  
代理人 前嶋 幸子  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 小林 浩  
代理人 川端 さとみ  
代理人 藤野 睦子  
代理人 杉山 共永  
代理人 中原 明子  
代理人 星川 亮  
代理人 植竹 友紀子  
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