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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02M
管理番号 1360297
審判番号 不服2018-12219  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-11 
確定日 2020-03-05 
事件の表示 特願2016-213240「共通の順変換器を有するモータ駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月10日出願公開、特開2018- 74794〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年10月31日に出願された特願2016-213240号であり、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年3月20日付け :拒絶理由通知書
平成30年5月25日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年6月20日付け :拒絶査定
平成30年9月11日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成31年2月20日 :上申書の提出
令和1年8月20日付け :拒絶理由通知書
令和1年10月23日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 交流電源側の交流電力と直流側であるDCリンクの直流電力との間で電力変換する1台の順変換器と、
前記DCリンクに設けられるDCリンクコンデンサと、
前記DCリンクコンデンサの、前記順変換器が設けられた側とは反対側に接続され、供給されたスイッチング駆動信号に基づき各スイッチング素子がオンオフ制御されることにより、前記DCリンクの直流電力とモータの駆動電力もしくは回生電力である交流電力との間で電力変換する少なくとも1台の逆変換器と、
前記DCリンクコンデンサの、前記順変換器が設けられた側とは反対側に接続され、前記DCリンクの直流電力を制御電源のための直流電力に変換して出力する直流直流変換器と、
前記逆変換器の電力変換を制御するための各前記スイッチング駆動信号を出力するサーボモータ制御回路であって、前記直流直流変換器により出力された制御電源のための直流電力を駆動電力として動作するサーボモータ制御回路と、
安全信号の受信中は各前記スイッチング素子への各前記スイッチング駆動信号の供給を許容し、安全信号を受信しないときは各前記スイッチング素子への各前記スイッチング駆動信号の供給を遮断することで前記逆変換器の電力変換を停止させるトルク遮断回路と、
前記トルク遮断回路に異常が発生した場合に、前記トルク遮断回路への前記安全信号の送信を停止する安全監視回路と、
交流電源の異常を検知する停電検出回路と、
を備え、
前記順変換器及び前記DCリンクコンデンサは、前記逆変換器及び前記直流直流変換器に対する共通回路として設けられ、前記トルク遮断回路に異常が発生した場合、前記順変換器は、電力変換を継続して前記直流直流変換器に電力を供給し、前記停電検出回路が交流電源の異常を検知した場合、前記直流直流変換器は、前記逆変換器により前記モータの減速時に生成された回生電力から電力変換された直流電力を、電力変換して前記制御電源のための直流電力として出力する、モータ駆動装置。」

第3 拒絶の理由
令和1年8月20日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由3の概要は次のとおりである。
本件出願の請求項1-7に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1-3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開昭62-296795号公報
引用文献2:特開2016-127702号公報
引用文献3:特許第5855685号公報

第4 引用文献の記載事項

1.引用文献1
令和1年8月20日付けで当審が通知した拒絶理由で引用された引用文献1には、「誘導電動機用インバータの制御装置」に関して、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付与した。)。

(1)「 従来の技術
従来、誘導電動機の回転数を制御するインバータは、単相又は三相の交流電源を整流し直流の電圧を得るコンバータ部と、パワートランジスタ、MOS・FET等のパワースイッチング素子から成るインバータ部、及び制御回路部に大きく分けられる。制御回路部は速度指令を受けて、その指令に従って誘導電動機を最適に制御するように、パワースイッチング素子のゲート信号を出力したり、相手機械とのインターフェイス信号を入出力しているが、その源であるところの制御電源は、単相又は三相電源から交流トランスを経て供給されるか、コンバータ部の直流電源からDC-DCコンバータを経て供給されるか、いずれかの方法が採用されている。故に停電や瞬時停電等で交流又は直流の電源がなくなると、制御電源への電力供給が不可能となり、パワースイッチング素子へのゲート信号の供給が停止され、パワースイッチング素子は、所謂オフ状態となり、電動機はフリーラン状態におかれることになる。
発明が解決しようとする問題点
コンプレッサ負荷や、機械的負荷の様に、フリーラン状態になるとすぐ誘導電動機が停止する場合はさほど問題にはならないが、例えば、空気軸受を使った高周波のインバータの場合等は、停電でフリーラン状態となると、停止するのに多大な時間を要し、コンプレッサから空気軸受への空気圧の供給が不可能となって、軸受けの焼きつけ等の問題が発生し、停電や瞬時停電が発生した場合、誘導電動機を速やかに停止させる必要がある。しかし、先述の如く、停電時はインバータのゲート信号の供給が停止されても機械的なクラッチブレーキ機能を利用した所謂メカブレーキを必要とし、電源オフで動作するメカブレーキを併用する等の対策が必要であった。
本発明は上記の問題点に鑑みて、停電時や瞬時停電時でパワースイッチング素子へのゲート信号供給が停止された状態でも、誘導電動機の回転子及び負荷の慣性、質量(イナーシャー)がもつ慣性エネルギーを利用し、そのエネルギーをインバータへ逆に供給することで、制御回路の電源を正常な状態におき、インバータを常に正常な状態とさせ、モータを停止へ導いたり、電源復起時は、指令の回転数へ復起させ、停電や瞬時停電により災害を防止するインバータを供給することが目的である。」(第1頁右下欄第1行?第2頁右上欄第6行)

(2)「 作用
一般に誘導電動機は、その極数をP、印加される周波数をfHz、回路数をNrpn、すべり率をSとすると、

の関係があり、“-S”のときは誘導電動機として動作しているが、何らかの手段で「+S」となると誘導発電機として動作する。インバータを使った時、誘導発電機として動作すると、電動機から発生する電力は、電動機内の鉄損、銅損として消費され、その消費以上の電力が発生すると、インバータ部を経てコンバータ部へ供給される。そこで、コンバータ部につながっているDC-DCコンバータを経て制御回路への電力を供給させれば、誘導発電機として、回生ブレーキをかけながら停電時でもインバータを正常な動作状態におくことが可能である。勿論、誘導発電機としてブレーキトルクを発生しているため、回転数は低下し、いずれは停止となる。つまり慣性質量のもつ機械的エネルギーを電気エネルギーに変換して、停電時でも電気エネルギーを持続させる作用を行うものである。」(第2頁右上欄第16行?同頁左下欄第18行)

(3)「 実施例
次に本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
第1図は本発明の一実施例の構成図であり、1は単相又は三相の電源、2はダイオードブリッジから成る整流回路、3は平滑用のコンデンサで、これらによりコンバータ部を構成している。4はパワースイッチング素子から成るインバータ部、5は誘導電動機、6はDC-DCコンバータ、7は制御回路部を示す。
制御回路部7は、電源が停電したことを知るための停電検出ライン1a・制御電源を得るための電源ライン6a・コンバータ部の電源を知るための電圧検出ライン3a・パワースイッチング素子へゲート信号を供給する出力ライン4aで、各部とつながっている。
次に第2図により制御回路部7の構成について説明する。8は電動機5の回転数を設定する速度設定器、9は後述のゲート信号発生回路の発振周波数を制御する周波数発生回路、10は停電検出回路、11はコンバータ電圧監視回路、12はゲート信号発生回路、13はDC-DCコンバータ6に接続された制御用電源回路である。」(第2頁左下欄第19行?第3頁左上欄第2行)

(4)「 動作を説明する。電源1が正常な状態では、速度設定器8より、回転数が指示され、周波数発生回路9でソフトスタート・ソフトダウンの設定に従って周波数をゲート信号発生回路12へ指示し、マイクロコンピュータ等からなるゲート信号発生回路12より、インバータ部4のパワースイッチング素子へ出力ライン4aを経て信号を供給し、誘導電動機5を回転させる。
そこで、停電が発生すると、停電検出ライン1aを経て、停電検出回路10が動作し、周波数設定器9は周波数を下げる。周波数を下げると、誘導電動機5は前述(1)式の「+S」の状態つまり、誘導発電機となり、インバータ部4へ電力を還す、所謂回生状態にさせ、コンバータ部のコンデンサ3の電圧は上昇する。そこで電圧検出ライン3aを経てコンバータ電圧監視回路11が動作し、周波数設定器9の周波数を操作し、常に一定のコンバータ電圧になる様な周波数を決めてゲート信号発生回路12に伝達し、誘導電動機5を誘導発電機として回生ブレーキをかけながら停止せしめる。コンバータ電圧を一定にさせるには、コンバータの電圧に反比例のソフトダウン時間レートを周波数設定器9に持てば可能である。つまり停電でコンバータ電圧が下降する時はソフトダウンのレートを上昇して急速に誘導電動機に供給する周波数を下げ、回生電力量を増加してコンバータ電圧を上昇させる。コンバータ電圧が上昇した時は、ソフトダウンレートを下げて回生電力量を減少させることで、最適な一定コンバータ電圧にさせることが可能である。なお制御用電源はDC-DCコンバータ6を通してコンバータ部より供給されており、前記方式を利用すれば、誘導電動機が停止して慣性エネルギーがなくなるまで正常である。」(第3頁左上欄第3行?同頁右上欄第15行)

(5)「第1図

第2図



・上記(3)によれば、コンバータ部は、電源1、整流回路2、平滑用のコンデンサ3により構成されるものである。また上記(5)によれば、電源1は交流電源1である。
・上記(5)の第1図によれば、整流回路2と、コンデンサ3と、インバータ部4とは、配線によって接続されており、整流回路2の一端は交流電源1に接続され、他端はコンデンサが接続される配線に接続されることが読み取れる。また上記(5)の第1図によれば、インバータ部4及びDC-DCコンバータ6は、コンデンサ3の、整流回路2が設けられた側とは反対側に接続されることが読み取れる。
・上記(3)によれば、インバータ部4は、パワースイッチング素子から成るものである。
・上記(3)によれば、出力ライン4aはパワースイッチング素子へゲート信号を供給するものであり、また上記(4)によれば、ゲート信号発生回路12より、インバータ部4のパワースイッチング素子へ出力ライン4aを経て信号を供給して誘導機電動機5を回転させている。したがって、パワースイッチング素子は、出力ライン4aを経てゲート信号が供給されるものであり、ゲート信号発生器12は、出力ライン4aを経てゲート信号を供給して誘導電動機を回転させるものである。
・上記(3)によれば、制御回路部7は、電動機5の回転数を設定する速度設定器8、ゲート信号発生回路12、ゲート信号発生回路12の発振周波数を制御する周波数発生回路9、停電検出回路10、コンバータ電圧監視回路11及びDC-DCコンバータ6に接続された制御用電源回路13を備えるものである。
・上記(4)によれば、制御回路部7の制御用電源は、DC-DCコンバータ6を通してコンバータ部より供給されるものである。
・上記(3)によれば、「9」は「ゲート信号発生回路の発振周波数を制御する周波数発生回路」であるから、上記(4)の「周波数設定器9」との記載は、「周波数発生回路9」の誤記であることが明らかである。したがって、上記(4)によれば、停電が発生すると、停電検出回路10が動作し、周波数発生回路9が周波数を下げ、誘導電動機5が誘導発電機となりインバータ部4へ電力を還す回生状態にさせてコンバータ部のコンデンサ3の電圧を上昇させている。

そうすると、上記摘示事項および図面を総合勘案すると、引用文献1には、「コンバータ部と、インバータ部4と、DC-DCコンバータ6と、制御回路部7と、を備えた装置」の発明として捉えることができる次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「交流電源1、一端が前記交流電源1に接続され、他端が平滑用のコンデンサ3が接続される配線に接続される整流回路2、及び前記配線に接続される前記コンデンサ3により構成されるコンバータ部と、前記コンデンサ3の、前記整流回路2が設けられた側とは反対側に接続され、出力ライン4aを経てゲート信号が供給されるパワースイッチング素子から成るインバータ部4と、前記コンデンサ3の、前記整流回路2が設けられた側とは反対側に接続されるDC-DCコンバータ6と、誘導電動機5の回転数を設定する速度設定器8、出力ライン4aを経て前記ゲート信号を供給して誘導電動機5を回転させるゲート信号発生回路12、前記ゲート信号発生回路12の発振周波数を制御する周波数発生回路9、停電検出回路10、コンバータ電圧監視回路11及び前記DC-DCコンバータ6に接続された制御用電源回路13を備えた制御回路部7であって、制御用電源が、DC-DCコンバータ6を通してコンバータ部より供給される制御回路部7と、を備え、停電が発生すると、前記停電検出回路10が動作し、周波数発生回路9が周波数を下げ、前記誘導電動機5が誘導発電機となりインバータ部4へ電力を還す回生状態にさせて前記コンデンサ3の電圧を上昇させる、装置。」

2.引用文献2
令和1年8月20日付けで当審が通知した拒絶理由で引用された引用文献2には、「サーボモータ制御装置」に関して、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付与した。)。

(1)「【0001】
本発明は、サーボモータ制御装置に関し、特にサーボモータ動作中に周期的に動力遮断回路のテストを行なうことが可能にするサーボモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サーボモータ制御装置に設けられる非常停止回路には、安全性を高めるため2重化した回路が用いられる(例えば、特許文献1)。しかしながら、2重化した回路であっても、長時間の連続運転においては、単一故障が発生し、その後さらに多重故障化する危険性がある。特に、半導体素子で構成された非常停止回路は、一時的な過電圧や短絡等の事故、または偶発的な部品不良により出力の短絡故障が発生する可能性が高いため、短期間における周期的な非常停止回路の検査が必要となる。
【0003】
そのため、半導体素子で構成された非常停止回路においては、2重化した上に、更にテストパルスを用いて非常停止回路が正常に動作していることを、短期間に周期的に確認する手法が使用される。この場合、非常停止回路の単一故障を早期に検出でき、多重故障化する前に、故障していない方の回路を用いて安全に停止することが可能となる。」

(2)「【0013】
[実施例1]
まず、本発明の実施例1に係るサーボモータ制御装置について説明する。図2は、本発明の実施例1に係るサーボモータ制御装置の構成図である。本発明の実施例1に係るサーボモータ制御装置101は、直流を交流に変換し、変換した交流をサーボモータ200に供給することによって、サーボモータを駆動する逆変換回路1と、逆変換回路1に対して、パルス幅変調信号を出力するパルス幅変調回路2a,2bと、安全信号とパルス幅変調信号が入力され、安全信号がオンしている時は、パルス幅変調信号を逆変換回路1に出力し、安全信号がオフしている時は、パルス幅変調信号を逆変換回路1に出力しない遮断回路3a,3bと、安全信号を遮断回路に出力し、遮断回路から出力されるモニタ信号が入力されるサーボモータ制御回路4と、を有し、サーボモータ制御回路4は、サーボモータ200の駆動中に、パルス幅変調信号がオフしている遮断回路に入力される安全信号を、パルス幅変調信号の1周期時間内オフし、モニタ信号によりオフを検出できない場合、異常を検出する、ことを特徴とする。
【0014】
さらに、遮断回路3a,3bを複数有し、複数の遮断回路にそれぞれ入力される複数の安全信号と、複数の遮断回路にそれぞれ入力される複数のパルス幅変調信号と、複数の遮断回路からそれぞれ出力される複数のモニタ信号と、を有し、サーボモータ制御回路4が異常を検出した場合、全ての遮断回路3a,3bへの安全信号の出力をオフすることによって、サーボモータ200を停止するようにしてもよい。
【0015】
逆変換回路1は、U相上アーム半導体素子Tu1、U相下アーム半導体素子Tu2、V相上アーム半導体素子Tv1、V相下アーム半導体素子Tv2、W相上アーム半導体素子Tw1、W相下アーム半導体素子Tw2、を備えている。」

(3)「【0023】
図4に正常時におけるテストシーケンスを示す。図4にはU1_PWMからW2_PWMまで6個のPWM信号が示されている。U1_PWM,V1_PWM,W1_PWMは第1PWM回路2aから出力され、U2_PWM,V2_PWM,W2_PWMは第2PWM回路2bから出力される。この内、「○」を付けた部分がテストされる半導体素子を示す。例えば、「V1 test」は、V相上アーム半導体素子Tv1がテストされることを示している。テストは、U1_DOからW2_DOまでの6個の安全信号のうち、PWM信号がONしていない半導体素子1個に対して、PWMの1周期時間以内の幅の短いテストパルスを出力し、U1_DIからW2_DIまでのモニタ信号において、テストパルスが正しく読めるか否かにより検査される。
【0024】
U1_DO,V1_DO,W1_DOの第1安全信号と、U1_DI,V1_DI,W1_DIの第1モニタ信号は第1サーボモータ制御回路4aに送受信され、U2_DO,V2_DO,W2_DOの安全信号2と、U2_DI,V2_DI,W2_DIの第2モニタ信号は第2サーボモータ制御回路4bに送受信される(図2)。
【0025】
図4のテストシーケンスでは、第1サーボモータ制御回路4aと第2サーボモータ制御回路4bが交互にテストを行なっているが、必ずしも交互に行なう必要はない。図4では、テストは1サイクルにおいて1個の半導体素子のテストが行なわれているが、同一周期に2個以上の半導体素子のテストを行なうことも可能である。サーボモータ制御回路4はPWM回路からPWM情報を入手し、周期単位でONしない半導体素子を特定し、テスト可能な半導体素子を選択する。
【0026】
図5は、故障時におけるテストシーケンスを示す。モニタ信号において、テストパルスが検出できない場合は(図5)、遮断回路の異常と判断され、直ちに全ての安全信号、PWM信号をオフし、アラーム停止する。
【0027】
このようにサーボモータ制御回路4は、第1サーボモータ制御回路4aと、第2サーボモータ制御回路4bとを有し、第1サーボモータ制御回路が出力した第1安全信号と、第2サーボモータ制御回路が出力した第2安全信号とが、パルス幅変調信号の1周期時間以上一致していないと判定したときに、全ての遮断回路への第1安全信号及び第2安全信号の出力をオフすることによってサーボモータを停止する。
【0028】
図6は、非常停止時のサーボモータの動力遮断のシーケンスを表す。図5のアラーム発生時と同様に非常停止時は、全てのPWM信号、安全信号を遮断する。」

(4)「【0041】
[実施例4]
次に、本発明の実施例4に係るサーボモータ制御装置について説明する。図9に本発明の実施例4に係るサーボモータ制御装置の構成図を示す。本発明の実施例4に係るサーボモータ制御装置104は、サーボモータ(200-1,・・・,200-n)を停止する回生ブレーキ(8-1,・・・,8-n)又は電磁ブレーキ9を制御するブレーキ制御回路10を更に有し、サーボモータ制御回路4は、全ての遮断回路への安全信号の出力をオフした場合、回生ブレーキ(8-1,・・・,8-n)又は電磁ブレーキ9を有効にすることによって、サーボモータ(200-1,・・・,200-n)を停止する点を特徴とする。実施例4に係るサーボ制御装置のその他の構成は、実施例1に係るサーボ制御装置の構成と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0042】
第1逆変換回路1-1の第1出力には第1回生ブレーキ回路8-1が設けられており、第1CPU4aまたは第2CPU4bからの信号により制御される。
【0043】
第n逆変換回路1-nの第n出力には第n回生ブレーキ回路8-nが設けられており、第1CPU4aまたは第2CPU4bからの信号により制御される。
【0044】
第1サーボモータ200-1?第nサーボモータ200-nには電磁ブレーキ回路9が接続されており、第1CPU4aまたは第2CPU4bからの信号により制御される。
【0045】
本発明の実施例4に係るサーボモータ制御装置によれば、アラーム停止において、全ての逆変換回路1-1,・・・,1-nの出力をオフし、回生ブレーキ8-1,・・・,8-nや電磁ブレーキ9を有効にすることにより、サーボモータ200-1,・・・,200-nを安全に停止することができる。」

・上記(2)によれば、実施例1に係るサーボモータ制御装置は、逆変換回路と、遮断回路と、サーボモータ制御回路とを有するものであり、逆変換回路は半導体素子を備えるものである。
・上記(2)によれば、遮断回路は、安全信号とパルス幅変調信号が入力され、安全信号がオンしている時はパルス幅変調信号を逆変換回路に出力し、安全信号がオフしている時はパルス幅変調信号を逆変換回路に出力しないものである。
・上記(2)によれば、サーボモータ制御回路は、安全信号を遮断回路に出力し、遮断回路から出力されるモニタ信号が入力されるものである。また上記(3)によれば、サーボモータ制御回路は、モニタ信号においてテストパルスが検出できない場合は遮断回路の異常と判断され、全ての遮断回路への安全信号の出力をオフしてアラーム停止し、サーボモータを停止するものである。
・上記(1)によれば、非常停止回路はサーボモータ制御装置に設けられるものである。また上記(3)によれば、サーボモータ制御回路は、非常停止時はアラーム発生時と同様に全ての安全信号を遮断してサーボモータを停止するものであり、上記(2)によれば、遮断回路は、安全信号がオフしている時はパルス幅変調信号を逆変換回路に出力しないものである。したがって、「遮断回路」と「サーボモータ制御回路」とからなる構成は、サーボモータ制御装置に設けられた「非常停止回路」といい得るものである。
・上記(4)によれば、実施例4に係るサーボモータ制御装置は、実施例1に係るサーボモータ制御装置の構成に加えて、サーボモータ制御回路が全ての遮断回路への安全信号の出力をオフしてアラーム停止した場合、電磁ブレーキを有効にすることによって、サーボモータを安全に停止させるものである。

そうすると、上記摘示事項および図面を総合勘案すると、引用文献2には以下の技術事項(以下、「引用文献2に記載の技術事項」という。)が開示されている。

「半導体素子を備えた逆変換回路を有するサーボモータ制御装置において、安全信号とパルス幅変調信号が入力され、安全信号がオンしている時はパルス幅変調信号を逆変換回路に出力し、安全信号がオフしている時はパルス幅変調信号を逆変換回路に出力しない遮断回路と、安全信号を遮断回路に出力し、遮断回路から出力されるモニタ信号が入力されるサーボモータ制御回路であって、モニタ信号においてテストパルスが検出できない場合は遮断回路の異常と判断され、全ての遮断回路への安全信号の出力をオフしてアラーム停止し、サーボモータを停止するサーボモータ制御回路と、からなる非常停止回路を設け、さらに、サーボモータ制御回路が全ての遮断回路への安全信号の出力をオフしてアラーム停止した場合、電磁ブレーキを有効にすることによって、サーボモータを安全に停止させること。」

第5 対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「交流電源1」は、本願発明の「交流電源」に相当する。

(2)引用発明の「配線」は、整流回路2の他端に接続されるものであるから、直流電力が供給される配線である。
したがって、引用発明の「配線」は、本願発明の「直流側であるDCリンク」に相当する。

(3)整流回路が交流電力と直流電力との間で電力変換する順変換器であることは明らかである。
したがって、引用発明の「一端が前記交流電源1に接続され、他端が平滑用のコンデンサ3が接続される配線に接続される整流回路2」は、本願発明の「交流電源側の交流電力と直流側であるDCリンクの直流電力との間で電力変換する1台の順変換器」に相当する。

(4)引用発明の「前記配線に接続される前記コンデンサ3」は、本願発明の「前記DCリンクに設けられるDCリンクコンデンサ」に相当する。

(5)引用発明の「ゲート信号」、「パワースイッチング素子」、「誘導電動機5」は、それぞれ本願発明の「スイッチング駆動信号」、「スイッチング素子」、「モータ」に相当する。また、「インバータ部4」は、パワースイッチング素子にゲート信号が供給され、前記ゲート信号に基づき前記パワースイッチング素子がオンオフ制御されることにより、配線の直流電力と誘導電動機5の交流電力との間で電力変換を行う逆変換器であることは明らかである。さらに、引用発明の「インバータ部4」は、パワースイッチング素子にゲート信号が供給されることによって、「誘導電動機5を回転させ」、又は「回生状態にさせ」るものである。
したがって、引用発明の「前記コンデンサ3の、前記整流回路2が設けられた側とは反対側に接続され、出力ライン4aを経てゲート信号が供給されるパワースイッチング素子から成るインバータ部4」は、本願発明の「前記DCリンクコンデンサの、前記順変換器が設けられた側とは反対側に接続され、供給されたスイッチング駆動信号に基づき各スイッチング素子がオンオフ制御されることにより、前記DCリンクの直流電力とモータの駆動電力もしくは回生電力である交流電力との間で電力変換する少なくとも1台の逆変換器」に相当する。

(6)引用発明の「DC-DCコンバータ6」は、「制御用電源が、DC-DCコンバータ6を通してコンバータ部より供給される」ものであるから、コンバータ部の出力となる「配線」に供給される直流電力を制御電源のための直流電力に変換して出力するものである。
したがって、引用発明の「前記コンデンサ3の、前記整流回路2が設けられた側とは反対側に接続されるDC-DCコンバータ6」は、本願発明の「前記DCリンクコンデンサの、前記順変換器が設けられた側とは反対側に接続され、前記DCリンクの直流電力を制御電源のための直流電力に変換して出力する直流直流変換器」に相当する。

(7)引用発明の「周波数発生回路9」は、「ゲート信号発生回路12の発振周波数を制御」し、「ゲート信号発生回路12」は、「出力ライン4aを経てゲート信号を供給して誘導電動機5を回転させる」ものであるから、制御回路部7における「周波数発生回路9」及び「ゲート信号発生回路12」からなる構成は、誘導電動機5の回転を「制御」するものである。また、「ゲート信号」は「インバータ部7」が備える「パワースイッチング素子」に「供給される」ものであるから、「ゲート信号発生回路12」が出力する「ゲート信号」は、インバータ部7の「電力変換を制御するための」信号であることは明らかである。
したがって、引用発明の「周波数発生回路9」及び「ゲート信号発生回路12」からなる構成は、「逆変換器の電力変換を制御するための各スイッチング駆動信号を出力する」「モータ制御回路」に相当する。
また、「制御回路部7」は、「制御用電源が、DC-DCコンバータ6を通してコンバータ部より供給される」ものであるから、制御回路部7が備える「周波数発生回路9」及び「ゲート信号発生回路12」が、DC-DCコンバータ6により出力された制御電源のための直流電力を駆動電力として動作することは明らかである。
以上のとおりであるから、引用発明の「前記ゲート信号発生回路12の発振周波数を制御する周波数発生回路9」及び「出力ライン4aを経て前記ゲート信号を供給して誘導電動機5を回転させるゲート信号発生回路12」からなる構成と、本願発明の「前記逆変換器の電力変換を制御するための各前記スイッチング駆動信号を出力するサーボモータ制御回路であって、前記直流直流変換器により出力された制御電源のための直流電力を駆動電力として動作するサーボモータ制御回路」とは、いずれも「前記逆変換器の電力変換を制御するための各前記スイッチング駆動信号を出力するモータ制御回路であって、前記直流直流変換器により出力された制御電源のための直流電力を駆動電力として動作するモータ制御回路」である点において共通する。
ただし、「モータ制御回路」について、本願発明は「サーボ」モータ制御回路であるのに対し、引用発明では「サーボ」モータ制御回路であるとの特定はなされていない。

(8)本願発明は「安全信号の受信中は各前記スイッチング素子への各前記スイッチング駆動信号の供給を許容し、安全信号を受信しないときは各前記スイッチング素子への各前記スイッチング駆動信号の供給を遮断することで前記逆変換器の電力変換を停止させるトルク遮断回路と、前記トルク遮断回路に異常が発生した場合に、前記トルク遮断回路への前記安全信号の送信を停止する安全監視回路と」を備えるのに対し、引用発明ではその旨の特定がなされていない。

(9)引用発明の「停電検出回路10」は、「停電が発生すると」「動作」するものであるから、停電を「検知」するものである。そして、引用発明の「停電」とは、「交流電源1」の停電であることは明らかであり、また「交流電源1の停電」が「交流電源1の異常」の1種であることも明らかである。
したがって、引用発明の「停電検出回路10」は、本願発明の「交流電源の異常を検知する停電検出回路」に相当する。

(10)引用発明の「インバータ部4」と「DC-DCコンバータ6」は、いずれも「コンデンサ3の、整流回路2が設けられた側とは反対側に接続され」ているものである。そうすると、整流回路2よって整流され、コンデンサ3よって平滑された電圧は、「インバータ部4」と「DC-DCコンバータ6」とに共通して入力されることになるから、「整流回路2」及び「コンデンサ3」は、「インバータ部4」及び「DC-DCコンバータ6」に対する「共通回路」として設けられているといえる。
したがって、引用発明において「インバータ部4」と「DC-DCコンバータ6」が「コンデンサ3の、整流回路2が設けられた側とは反対側に接続され」ていることは、本願発明の「前記順変換器及び前記DCリンクコンデンサは、前記逆変換器及び前記直流直流変換器に対する共通回路として設けられ」ていることに相当する。

(11)「順変換器」について、本願発明は「前記トルク遮断回路に異常が発生した場合」、「電力変換を継続して前記直流直流変換器に電力を供給」するのに対し、引用発明ではその旨の特定がなされていない。

(12)引用文献1の「インバータを使った時、誘導発電機として動作すると、電動機から発生する電力は、電動機内の鉄損、銅損として消費され、その消費以上の電力が発生すると、インバータ部を経てコンバータ部へ供給される。そこで、コンバータ部につながっているDC-DCコンバータを経て制御回路への電力を供給させれば、誘導発電機として、回生ブレーキをかけながら停電時でもインバータを正常な動作状態におくことが可能である。勿論、誘導発電機としてブレーキトルクを発生しているため、回転数は低下し、いずれは停止となる」(上記「第4 1.(2)」を参照。)との記載から明らかなように、引用発明において、「周波数発生回路9が周波数を下げ、前記誘導電動機5が誘導発電機となりインバータ部4へ電力を還す回生状態にさせ」ると、誘導電動機5が「減速」し、DC-DCコンバータ6がインバータ部4により誘導電動機5の「減速時に生成された回生電力から電力変換された直流電力を電力変換して制御電源のための直流電力として出力する」ことは当然のことである。
したがって、引用発明の「停電が発生すると、前記停電検出回路10が動作し、周波数発生回路9が周波数を下げ、前記誘導電動機5が誘導発電機となりインバータ部4へ電力を還す回生状態にさせて前記コンデンサ3の電圧を上昇させる」ことは、本願発明の「前記停電検出回路が交流電源の異常を検知した場合、前記直流直流変換器は、前記逆変換器により前記モータの減速時に生成された回生電力から電力変換された直流電力を、電力変換して前記制御電源のための直流電力として出力する」ことに相当する。

(13)引用発明の「コンバータ部と」「インバータ部4と」「DC-DCコンバータ6」「制御回路部7と、を備え」た「装置」は、「誘導電動機5を回転させる」ものであるから、本願発明の「モータ駆動装置」に相当する。
また、引用発明の「装置」は、「制御回路部7と、を備え」るものであり、「制御回路部7」は、「周波数発生回路9」及び「ゲート信号発生回路12」を備えるのであるから、「装置」は「周波数発生回路9」及び「ゲート信号発生回路12」からなる構成を備えるものであるといえる。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「 交流電源側の交流電力と直流側であるDCリンクの直流電力との間で電力変換する1台の順変換器と、
前記DCリンクに設けられるDCリンクコンデンサと、
前記DCリンクコンデンサの、前記順変換器が設けられた側とは反対側に接続され、供給されたスイッチング駆動信号に基づき各スイッチング素子がオンオフ制御されることにより、前記DCリンクの直流電力とモータの駆動電力もしくは回生電力である交流電力との間で電力変換する少なくとも1台の逆変換器と、
前記DCリンクコンデンサの、前記順変換器が設けられた側とは反対側に接続され、前記DCリンクの直流電力を制御電源のための直流電力に変換して出力する直流直流変換器と、
前記逆変換器の電力変換を制御するための各前記スイッチング駆動信号を出力するモータ制御回路であって、前記直流直流変換器により出力された制御電源のための直流電力を駆動電力として動作するモータ制御回路と、
交流電源の異常を検知する停電検出回路と、
を備え、
前記順変換器及び前記DCリンクコンデンサは、前記逆変換器及び前記直流直流変換器に対する共通回路として設けられ、前記停電検出回路が交流電源の異常を検知した場合、前記直流直流変換器は、前記逆変換器により前記モータの減速時に生成された回生電力から電力変換された直流電力を、電力変換して前記制御電源のための直流電力として出力する、モータ駆動装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「モータ制御回路」について、本願発明は「サーボ」モータ制御回路であるのに対し、引用発明では「サーボ」モータ制御回路であるとの特定がなされていない点。

<相違点2>
本願発明は「安全信号の受信中は各前記スイッチング素子への各前記スイッチング駆動信号の供給を許容し、安全信号を受信しないときは各前記スイッチング素子への各前記スイッチング駆動信号の供給を遮断することで前記逆変換器の電力変換を停止させるトルク遮断回路と、前記トルク遮断回路に異常が発生した場合に、前記トルク遮断回路への前記安全信号の送信を停止する安全監視回路と」を備えるのに対し、引用発明ではその旨の特定がなされていない点。

<相違点3>
「順変換器」について、本願発明は「前記トルク遮断回路に異常が発生した場合」、「電力変換を継続して前記直流直流変換器に電力を供給」するのに対し、引用発明ではその旨の特定がなされていない点。

第6 判断
1.相違点1について
誘導電動機をサーボモータとして用いることは、例を挙げるまでもなく周知の技術である。したがって、引用発明において、上記周知技術を採用し、誘導電動機5をサーボモータとして用いるとともに、「ゲート信号発生回路12」及び「周波数発生回路9」からなる構成を「サーボ」モータ制御回路とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

2.相違点2について
引用文献2には、「半導体素子を備えた逆変換回路を有するサーボモータ制御装置において、安全信号とパルス幅変調信号が入力され、安全信号がオンしている時はパルス幅変調信号を逆変換回路に出力し、安全信号がオフしている時はパルス幅変調信号を逆変換回路に出力しない遮断回路と、安全信号を遮断回路に出力し、遮断回路から出力されるモニタ信号が入力されるサーボモータ制御回路であって、モニタ信号においてテストパルスが検出できない場合は遮断回路の異常と判断され、全ての遮断回路への安全信号の出力をオフしてアラーム停止し、サーボモータを停止するサーボモータ制御回路と、からなる非常停止回路を設け、さらに、サーボモータ制御回路が全ての遮断回路への安全信号の出力をオフしてアラーム停止した場合、電磁ブレーキを有効にすることによって、サーボモータを安全に停止させること。」という技術事項が記載されている(上記「第4 2.」を参照)。
ここで、引用文献2に記載の技術事項において、逆変換回路が備える「半導体素子」が「スイッチング素子」であること、「パルス幅変調信号」が逆変換回路が備える「半導体素子」に供給される「スイッチング駆動信号」であること、「遮断回路」が「パルス幅変調信号を逆変換回路に出力しない」場合に、逆変換回路の電力変換が停止するとともにサーボモータのトルクが遮断することは明らかであるから、上記「安全信号とパルス幅変調信号が入力され、安全信号がオンしている時はパルス幅変調信号を逆変換回路に出力し、安全信号がオフしている時はパルス幅変調信号を逆変換回路に出力しない遮断回路」、「安全信号を遮断回路に出力し、遮断回路から出力されるモニタ信号が入力されるサーボモータ制御回路であって、モニタ信号においてテストパルスが検出できない場合は遮断回路の異常と判断され、全ての遮断回路への安全信号の出力をオフしてアラーム停止し、サーボモータを停止するサーボモータ制御回路」は、それぞれ「安全信号の受信中は各スイッチング素子への各スイッチング駆動信号の供給を許容し、安全信号を受信しないときは各スイッチング素子への各スイッチング駆動信号の供給を遮断することで逆変換器の電力変換を停止させるトルク遮断回路」、「トルク遮断回路に異常が発生した場合に、トルク遮断回路への安全信号の送信を停止する安全監視回路」ということができるものである。
そして、モータを駆動させるための逆変換器を備えたモータ駆動装置において、非常時にモータを停止させるための非常停止回路を設けて安全性を高めることは、一般的に行われていることであるから、引用発明に引用文献2に記載の技術事項を適用し、安全信号の受信中は各スイッチング素子への各スイッチング駆動信号の供給を許容し、安全信号を受信しないときは各スイッチング素子への各スイッチング駆動信号の供給を遮断することで逆変換器の電力変換を停止させるトルク遮断回路と、トルク遮断回路に異常が発生した場合に、トルク遮断回路への安全信号の送信を停止する安全監視回路とを備えるようにして上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

3.相違点3について
引用発明は、整流回路2の電力変換を停止させるための特段の構成を備えるものではなく、交流電源1が停電していなければ常に電力変換を継続する構成である。したがって、上記「2.相違点2について」における説示にしたがい引用発明に引用文献2に記載の技術事項を適用すると、トルク遮断回路に異常が発生した場合、順変換器が電力変換を継続して直流直流変換器に電力を供給して上記相違点3に係る構成となることは明らかである。
さらに、本願明細書の段落【0006】に「制御電源1002は、正常時及び非常停止時に関係なくサーボアンプ1001の制御系のための駆動電力を常に生成する必要がある」と記載されている(下線は当審で付与した。)ように、モータ駆動装置において、制御系のための駆動電力を生成する制御電源は、正常時及び非常停止時に関係なく常に駆動電力を生成する必要があることは一般的に知られている。したがって、引用発明に引用文献2に記載の技術事項を適用するにあたり、非常停止時にもDC-DCコンバータ6が制御回路部7の各回路のための駆動電力を生成する必要があることは明らかであって、非常停止時にDC-DCコンバータ6が駆動電力を生成できなくなるような構成、例えばトルク遮断回路に異常が発生した場合に、整流回路2が電力変換を継続しない構成を採用しないことは自明のことである。
また、引用文献2に記載の技術事項は、サーボモータ制御回路が全ての遮断回路への安全信号の出力をオフしてアラーム停止した場合、電磁ブレーキを有効にすることによって、サーボモータを安全に停止させるものである。すなわち、引用文献2に記載の技術事項において、サーボモータを安全に停止するためには、アラーム停止した後でも電磁ブレーキの制御が必要であり、そのために制御電源の供給を維持する必要があることは明らかである。したがって、引用発明において引用文献2に記載の技術事項を適用するにあたり、トルク遮断回路に異常が発生した場合、順変換器が電力変換を継続して直流直流変換器に電力を供給することにより、制御電源の供給を維持することは、当業者が当然になし得ることである。

4.審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、令和1年8月20日付けで当審が通知した拒絶理由に対して、同年10月23日に提出した意見書において、請求項1に係る発明の「前記順変換器及び前記DCリンクコンデンサは、前記逆変換器及び前記直流直流変換器に対する共通回路として設けられ、前記トルク遮断回路に異常が発生した場合、前記順変換器は、電力変換を継続して前記直流直流変換器に電力を供給し、前記停電検出回路が交流電源の異常を検知した場合、前記直流直流変換器は、前記逆変換器により前記モータの減速時に生成された回生電力から電力変換された直流電力を、電力変換して前記制御電源のための直流電力として出力すること」との事項を「構成要件(ケ)」とした上で、「(4)(v)引用文献1?3の組み合わせについて」の欄において、
「本願の新請求項1に係る発明によれば、構成要件(ケ)を備えることによって、トルク遮断回路に異常が発生した場合及び停電検出回路が交流電源の異常を検出した場合のいずれにおいても、サーボモータ制御回路は制御電源のための直流電力に基づき、サーボモータ制御回路は動作を継続することができるという効果を奏します。このように、本願の新請求項1に係る発明は、トルク遮断回路に異常が発生した場合及び停電検出回路が交流電源の異常を検出した場合の両方の課題を同時に解決するものであります。
これに対し、引用文献1?3のいずれにも、トルク遮断回路に異常が発生した場合と交流電源に異常が発生した場合の両方の課題を同時に解決しようとすることについては、記載も示唆もされていません。
仮に引用文献1?3に記載された発明を組み合わせたとしても、本願の新請求項1に係る発明の構成要件である(ケ)を備えることはできませんので、トルク遮断回路に異常が発生した場合と交流電源に異常が発生した場合の両方の課題を同時に解決することはできません。」
と主張している(下線は当審で付与した。)。

しかしながら、引用発明は、停電時、すなわち交流電源に異常が発生した場合に、制御回路の電源を正常な状態におき、制御回路の電源を正常な状態におき、インバータを常に正常な状態とさせ、モータを停止へ導くものである(上記「第4 1.(1)」を参照。)から、交流電源に異常が発生した場合の課題を解決できるものである。また、引用文献2に記載の技術事項は、サーボモータ制御回路が、モニタ信号においてテストパルスが検出できない場合は遮断回路の異常と判断され、全ての遮断回路への安全信号の出力をオフしてアラーム停止し、サーボモータを停止するのであるから、トルク遮断回路に異常が発生した場合の課題を解決できるものである。
ここで、交流電源に異常が発生した場合の課題を解決できるものである引用発明に、トルク遮断回路に異常が発生した場合の課題を解決できるものである引用文献2に記載の技術事項を適用すれば、両方の課題を解決できることは当業者が当然に予測し得ることである。また、引用発明に引用文献2に記載の技術事項を適用した場合に、いずれかの課題を解決できなくなるような特段の事情があるともいえない。
さらに、上記2.で説示したとおり、上記構成要件(ケ)は、引用発明に引用文献2に記載の技術事項を適用することにより、当然に得られる構成である。

よって、引用文献1?3に記載された発明を組み合わせたとしても、構成要件(ケ)を備えることはできないとする審判請求人の上記主張、及び引用文献1?3に記載された発明を組み合わせたとしても、両方の課題を同時に解決することはできないとする審判請求人の上記主張を採用することはできない。

(2)審判請求人は、令和1年8月20日付けで当審が通知した拒絶理由に対して、同年10月23日に提出した意見書の「(4)(v)引用文献1?3の組み合わせについて」の欄において、
「 本願の新請求項1に係る発明によれば、例えば以下で述べるようなロボットとしての固有の問題を解決することができます。
ロボットは、予め規定されたプログラムに従って、指定された経路に沿って動作することが要求されます。ロボットの駆動源となる交流電源の停電、欠相、短絡などの電源異常は不定期に発生します。ロボットの動作とは無関係に発生する交流電源の異常に対して、ロボットが指定された経路に沿って減速停止し、交流電源の異常が回復した後は、その経路上から動作を再開することが求められています。
例えばロボットの加速中に交流電源の異常が発生した場合、ロボットは急には減速できず、仮に交流電源の異常発生直後にロボットが減速できたとしても経路を維持するためには一定のトルク(例えばアームを落下させずに重力軸を保持するためのトルク)を発生させる必要があります。しかしながら、交流電源の異常発生時の減速停止においては、モータからの回生電力があまり多く供給されない状況が発生することがあります。このような状況に備え、DCリンクに大容量のDCリンクコンデンサを設ける必要があります。
一方で、ロボットの安全性を担保するためは動力遮断による非常停止機能が必須であり、従来は交流電源側に電磁接触器を設け、非常停止の際には交流電源の供給を遮断していました。この場合、安全確保のために、DCリンクコンデンサの電荷の放電を高速に行う必要があります。しかしながら、DCリンクに大容量のDCリンクコンデンサを設けた場合、非常停止時に行われるDCリンクの電荷の放電に時間がかかるため、短時間の非常停止が難しくなります。
このように、交流電源の異常発生時にロボットが経路を維持しながら減速停止するためには、DCリンクコンデンサの容量を大きくするのが好ましいものの、一方では、非常停止を迅速に行うためには、DCリンクキャパシタの容量を大きくすることは好ましいことではありません。
本願の新請求項1に係る発明では、非常停止機能としてトルク遮断を用いることにより非常停止時のDCリンクの放電が不要となりますので、DCリンクコンデンサを大容量化することができ、交流電源の異常発生時にロボットが経路を維持しながら減速停止するための電力を確保することができます。また、交流電源の異常発生時に仮にトルク遮断回路に異常が発生したとしても、本願の新請求項1に係る発明によれば、直流直流変換器は、逆変換器によりモータの減速時に生成された回生電力から電力変換された直流電力を、電力変換して制御電源のための直流電力として出力しますので、制御電源のための直流電力に基づき、サーボモータ制御回路は動作を継続することができ、したがって、ロボットが経路を維持しながら減速停止させることができます。」
と主張している(下線は当審で付与した。)。

しかしながら、本願の請求項1には「ロボット」についての記載は一切なされていないから、請求項1に係る発明によれば、ロボットとしての固有の問題を解決することができるとの上記主張は、請求項の記載に基づくものではない。
また、審判請求人の主張する、交流電源の異常発生時の減速停止において、モータからの回生電力があまり多く供給されない状況が発生した場合に、ロボットが経路を維持しながら減速停止するための電力を確保することができるとの効果を奏するためには、モータ駆動装置が備えるDCリンクコンデンサとして大容量のものを用いる必要があると認められる。しかしながら、本願の請求項1には「DCリンクコンデンサ」が「大容量」のものである旨の記載はない。そうすると、本願発明は「DCリンクコンデンサ」として「大容量」ではないものを用いたモータ駆動装置を含むものであり、したがって、上記効果を奏しない構成を含むものであるから、上記主張は請求項の記載に基づくものではない。
さらに、本願明細書を参照しても、「DCリンクコンデンサ13」として、従来のモータ駆動装置で用いられるものより「大容量」のものを用いる旨の記載は一切なされていないし、交流電源の異常(停電)発生時に当該「大容量」のDCリンクコンデンサ13に蓄積された電荷を用いて直流直流変換器14が制御電源のための直流電力を生成する旨の記載もなされていない。したがって、DCリンクコンデンサとして、従来のモータ駆動装置で用いられるものより「大容量」のものを用いることを前提とした上記主張は、明細書の記載に基づくものではない。
また、請求項1には「交流電源の異常発生時」かつ「トルク遮断回路に異常が発生した場合」に、モータ駆動装置がどのような動作を行うのかについての記載はなされていないから、交流電源の異常発生時に仮にトルク遮断回路に異常が発生したとしても、直流直流変換器は、逆変換器によりモータの減速時に生成された回生電力から電力変換された直流電力を、電力変換して制御電源のための直流電力として出力するので、制御電源のための直流電力に基づき、サーボモータ制御回路は動作を継続することができ、したがって、ロボットが経路を維持しながら減速停止させることができるとの上記主張は、請求項の記載に基づくものではない。
さらに、本願発明において「交流電源の異常発生時に仮にトルク遮断回路に異常が発生した」場合には、安全監視回路が安全信号の送信を停止し、トルク遮断回路がスイッチング駆動信号の供給を遮断することで逆変換器の電力変換が停止すると認められるから、そのような状態においてモータを減速させるように逆変換器を制御することはできず、逆変換器により回生電力を生成することもできないことは明らかである。したがって、交流電源の異常発生時に仮にトルク遮断回路に異常が発生したとしても、直流直流変換器は、逆変換器によりモータの減速時に生成された回生電力から電力変換された直流電力を、電力変換して制御電源のための直流電力として出力するとの上記主張や、ロボットが経路を維持しながら減速停止させることができるとの上記主張は、妥当なものとはいえない。

よって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

5.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-17 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2016-213240(P2016-213240)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白井 孝治  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 宮本 秀一
須原 宏光
発明の名称 共通の順変換器を有するモータ駆動装置  
代理人 廣瀬 繁樹  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  

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