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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D
管理番号 1360357
審判番号 不服2018-15010  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-09 
確定日 2020-03-04 
事件の表示 特願2014-85719号「自動車の操向装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月13日出願公開、特開2014-210579号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年4月17日(パリ優先権による優先権主張2013年4月18日、韓国(KR))の出願であって、その後の手続の概要は、以下の通りである。
平成29年11月21日付け:拒絶理由通知
平成30年 2月23日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 7月10日付け:拒絶査定
平成30年11月 9日 :審判請求書(以下「審判請求書」という。)、手続補正書の提出


第2 平成30年11月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年11月9日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「操向カラムを支持し、車体に接するフランジ部と、前記フランジ部に形成され、一側に向かって開口した開口ホールとを含むマウンティングブラケットと、
前記開口ホールにスライディング結合され、衝突事故の発生時、前記開口ホールから離脱可能なカプセルと、
前記カプセルと前記フランジ部との間を固定させ、衝撃が加えられると、前記カプセルまたはフランジ部から剪断可能な少なくとも1つ以上の射出支持部とを含み、
前記開口ホールの両側は、8°?12°の範囲の角度を形成し、開口ホールの両側の間の間隔は、前記一側にいくほど広くなり、
前記フランジ部には、前記カプセルがスライディングされる前記開口ホールの側面に沿って一対の段差部が形成され、
前記少なくとも1つ以上の射出支持部は、前記カプセルがスライディングされる前記開口ホールの両側に沿って備えられた一対の射出支持部を含み、
前記射出支持部は、前記段差部に載置され、前記カプセルおよび前記フランジ部に一体に結合されることを特徴とする、自動車の操向装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前の、平成30年2月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「操向カラムを支持し、車体に接するフランジ部と、前記フランジ部に形成され、一側に向かって開口した開口ホールとを含むマウンティングブラケットと、
前記開口ホールにスライディング結合され、衝突事故の発生時、前記開口ホールから離脱可能なカプセルと、
前記カプセルと前記フランジ部との間を固定させ、衝撃が加えられると、前記カプセルまたはフランジ部から剪断可能な少なくとも1つ以上の射出支持部とを含み、
前記開口ホールの両側は、8°?12°の範囲の角度を形成し、開口ホールの両側の間の間隔は、前記一側にいくほど広くなることを特徴とする、自動車の操向装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「フランジ部」について、「前記カプセルがスライディングされる前記開口ホールの側面に沿って一対の段差部が形成され」ることの限定を付加し、「射出支持部」について、「前記カプセルがスライディングされる前記開口ホールの両側に沿って備えられた一対の射出支持部を含み」、「前記段差部に載置され、前記カプセルおよび前記フランジ部に一体に結合されること」の限定を付加したものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1(1)」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項等
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、実願昭51-107982号(実開昭53-26030号)のマイクロフィルム(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付した。)。

(明細書1ページ5行?2ページ9行)
「2. 実用新案登録請求の範囲
ブラケツト本体に形成されたコラム軸線と平行な切欠溝に、ブラケツト装着用ボルトを取付けるためのカプセルが挿入され、ブラケツト本体とカプセルとが、カプセル主体部の両側に平行に突出してブラケツト本体の切欠溝の両側縁部を挾装する上下のフランジと、前記側縁部とを貫通する小孔に注入硬化させた合成樹脂のシヤーピンにて固定される自動車用衝撃吸収コラムの支持ブラケツト装置において、前記ブラケツト本体の切欠溝の両側縁部の少なくとも上下面のいずれか一方に、前記フランジとの間に、フランジ外周縁部とブラケツト本体との僅かな重なりを残して前記切欠溝の側端面に開放し、前記合成樹脂を注入される小孔に連通する空所を形成する凹面部を設け、合成樹脂注入によるシヤーピンの形成と同時に、前記空所に合成樹脂を注入硬化せしめ、該空所を形成したブラケツト本体と前記フランジとの間を、シヤーピンと一体の合成樹脂硬化片で充填してなる支持ブラケツト装置」

(明細書2ページ11?13行)
「この考案は、自動車の衝突時にその衝撃力を吸収して運転者の安全を計る衝撃吸収コラムを車体に支持するための支持ブラケツト装置に関する。」

(明細書2ページ下から2行?5ページ10行)
「一般に自動車の衝撃吸収コラムは、上部コラムシヤフトと下部コラムシヤフトに二分割され、分割部に、ある一定値以上の衝撃力が作用したとき、軸方向に長さを縮小することによつて衝撃力を吸収する吸収機構が装備されたコラムシヤフトと、該シヤフトを軸受等を介して支持するコラムジヤケツトからなり、このコラムジヤケツトを、ブラケツトにて車体に固定することによりコラムを支持せしめたものが大半である。
そこで自動車が衝突したときに、第1図に示す如く、A矢符方向の一次衝撃力が発生してコラムシヤフト(2)に作用し、コラムシヤフトに装備した衝撃吸収機構を軸方向に縮小させることにより前記衝撃力を吸収せしめ、ついで運転者の胸腹部がハンドル(5)に衝突して発生するB矢符方向の二次衝撃力により、コラムジヤケツト(1)を介してコラムシヤフト(2)をさらにB矢符方向に圧縮してその長さを縮小させ、前記二次衝撃力を吸収させる。つまりコラムシヤフト(2)のA矢符方向、およびB矢符方向の長さの縮小行程における変形抵抗、或いは摩擦抵抗によつて前記一次,二次衝撃力を吸収せしめて運転者の安全を計るものである。
従つて、このようなコラムを車体(4)に支持するための支持ブラケツト装置(3)は、一次衝撃力によるコラムシヤフト(2)を介したコラムジヤケツト(1)のA矢符方向の突き上げを防止する目的から、コラムジヤケツト(1)に適宜の手段をもつて固着結合されたブラケツト本体(31)と、そのハンドル側に開口して設けられたコラム軸線と平行な切欠溝(32)にスライド可能に嵌合し、適数のシヤーピン(33)をもつてブラケツト本体(31)に同体的に結合したカプセル(34)とからなり(第2図,第3図,および第4図参照)、該カプセル(34)は、そのブラケツト装着用ボルトを取付けるためのボルト挿通孔(35)を有する主体部の両側に、ブラケツト本体(31)の切欠溝(32)の両側縁部を挾装する如く平行に突出させた上下のフランジ(36)が設けられ、このフランジ(36)と前記切欠溝(32)の両側縁部を貫通する複数の小孔に、合成樹脂材料を射出装置等で注入して固化させ、前記シヤーピン(33)となすものであつて、前記ボルト挿通孔(35)に図示しないボルトを挿通して車体(4)にしつかりと固定される。」

(明細書5ページ11行?下から2行)
「而して前記シヤーピン(33)は、前記二次衝撃力、すなわち人体がハンドル(5)に衝突したときに生ずる衝撃力でせん断されて、ブラケツト本体(31)のB矢符方向の変位を起こさせ得る強さに設定される。」

(明細書7ページ8行?下から2行)
「この考案は、従来の以上の如き欠点を解消し、簡単な構造でブラケツト本体とカプセルのフランジとの間のハメアイにおける遊び、または過大な抵抗力を生むシメシロを解消し、前記支持装置におけるシヤーピンのせん断時の抵抗力のバラツキをなくして、前記二次衝撃力の吸収機能を大巾に向上させることを目的とするものである。」

(明細書7ページ最終行?9ページ1行)
「実施例について説明すれば、第5図,第6図,および第7図に示す如く、ブラケツト本体(31)のコラム軸線と平行な切欠溝(32)の両側縁部の上面に、カプセル(34)の両側の上側のフランジ(36)の下面との間に、フランジ(36)の外周縁部とブラケツト本体(31)との僅かな重なり部分mを残して前記切欠溝(32)の側端面(32a)に開放し、前記シヤーピン(33)形成のための合成樹脂を注入されるブラケツト本体(31)およびフランジ(36)の小孔(37a),(37b)に連通する空所(39)を形成する凹面部(38)を設け、小孔(37a),(37b)への合成樹脂注入によるシヤーピン(33)の形成と同時に、前記空所(39)にも前記合成樹脂を注入固化させて、シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)にて、前記空所(39)を形成したブラケツト本体(31)の上面と前記フランジ(36)の下面との間を充填し、ブラケツト本体(31)と、その切欠溝(32)に挿入したカプセル(34)とを固定したものである。」

(明細書12ページ4行?13ページ1行)
「この考案は以上のように、カプセルとブラケツト本体との固定を、極めて確実に行わせて、シヤーピンに及ぼす悪影響を完全に防止するものであるが、さらに、カプセルとブラケツト本体との間の金属接触部面積を前記合成樹脂硬化片により減少しており、従つて、ハンドルが二次衝撃力を受けたとき、金属接触部の摩擦抵抗によつて前記衝撃力を緩和するに必要な抵抗力の大きさを大巾に超過するようなことがなく、前記重なり部分mが形成されているとはいえ、その重なり部分mの摩擦抵抗に及ぼす影響は小さく、従つてシヤーピン強度の設計が極めて容易となり、またその全体構造が簡単であつて、そのコストが低廉である。」

以下の図が示されている。


(イ)上記(ア)における記載及び図面から、以下の事項が認定できる。
a 明細書1ページ5行?2ページ9行の記載から、以下の事項が認定できる。なお、上記アにおいて対応する図番が付された構成については、図番を付加した。
「自動車用衝撃吸収コラムの支持ブラケツト装置」は、「ブラケツト本体(31)に形成されたコラム軸線と平行な切欠溝(32)に、ブラケツト装着用ボルトを取付けるためのカプセル(34)が挿入され、ブラケツト本体(31)とカプセル(34)とが、カプセル主体部の両側に平行に突出してブラケツト本体(31)の切欠溝(32)の両側縁部を挾装する上下のフランジ(36)と、前記側縁部とを貫通する小孔(37a,37b)に注入硬化させた合成樹脂のシヤーピン(33)にて固定される」ものであること。

「支持ブラケツト装置」が、「前記ブラケツト本体(31)の切欠溝(32)の両側縁部の少なくとも上下面のいずれか一方に、前記フランジ(36)との間に、フランジ外周縁部とブラケツト本体(31)との僅かな重なりを残して前記切欠溝(32)の側端面(32a)に開放し、前記合成樹脂を注入される小孔(37a,37b)に連通する空所(39)を形成する凹面部(38)を設け、合成樹脂注入によるシヤーピン(33)の形成と同時に、前記空所(39)に合成樹脂を注入硬化せしめ、該空所(39)を形成したブラケツト本体(31)と前記フランジ(36)との間を、シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)で充填してなる」こと。

b 上記aの「シヤーピン(33)」に関し、引用文献1の明細書7ページ8行?下から2行の「・・・前記支持装置におけるシヤーピンのせん断時の抵抗力のバラツキをなくして、・・・」との記載から、「シヤーピン(33)はせん断するものであ」ることが認定できる。

c 上記aの「合成樹脂硬化片(40)」に関し、引用文献1の明細書7ページ最終行?9ページ1行の「・・・シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)にて、前記空所(39)を形成したブラケツト本体(31)の上面と前記フランジ(36)の下面との間を充填し、ブラケツト本体(31)と、その切欠溝(32)に挿入したカプセル(34)とを固定したものである。」との記載から、次の事項が認定できる。
「シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)にて、ブラケツト本体(31)と、カプセル(34)とを固定した」ものであること。

d 明細書2ページ下から2行?5ページ10行の「一般に自動車の衝撃吸収コラムは、・・・コラムシヤフトと、コラムジヤケツトからなり」、「コラムを車体(4)に支持するための支持ブラケツト装置(3)は、・・・コラムジヤケツト(1)に適宜の手段をもつて固着結合されたブラケツト本体(31)と、・・・からなり(第2図,第3図,および第4図参照)・・・」との従来技術に関する記載も踏まえると、第2図と同じ図番31を用いた実施例に係る第5図に示される「ブラケツト本体(31)」も、コラムジヤケツトに適宜の手段をもつて固着結合されることを通じて、コラムを支持するものということができる。そうすると、上記「a」の「ブラケツト本体(31)」に関し、次の事項が認定できる。
「ブラケツト本体(31)は、自動車用衝撃吸収コラムを支持すること。」

e 明細書5ページ11行?下から2行における「而して前記シヤーピン(33)は、前記二次衝撃力、すなわち人体がハンドル(5)に衝突したときに生ずる衝撃力でせん断されて、ブラケツト本体(31)のB矢符方向の変位を起こさせ得る強さに設定される。」との記載をも踏まえると、上記aの「ブラケツト本体(31)」はハンドルと共に用いられるものといえるから、「ブラケツト本体(31)」を有する「自動車用衝撃吸収コラム」について、「ハンドルと共に用いられる自動車用衝撃吸収コラム」との事項を認定できる。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ハンドルと共に用いられる自動車用衝撃吸収コラムであって、
自動車用衝撃吸収コラムの支持ブラケツト装置は、ブラケツト本体(31)に形成されたコラム軸線と平行な切欠溝(32)に、ブラケツト装着用ボルトを取付けるためのカプセル(34)が挿入され、ブラケツト本体(31)とカプセル(34)とが、カプセル主体部の両側に平行に突出してブラケツト本体(31)の切欠溝(32)の両側縁部を挾装する上下のフランジ(36)と、前記側縁部とを貫通する小孔(37a,37b)に注入硬化させた合成樹脂のシヤーピン(33)にて固定され、
前記ブラケツト本体(31)の切欠溝(32)の両側縁部の少なくとも上下面のいずれか一方に、前記フランジ(36)との間に、フランジ外周縁部とブラケツト本体(31)との僅かな重なりを残して前記切欠溝(32)の側端面(32a)に開放し、前記合成樹脂を注入される小孔(37a,37b)に連通する空所(39)を形成する凹面部(38)を設け、合成樹脂注入によるシヤーピン(33)の形成と同時に、前記空所(39)に合成樹脂を注入硬化せしめ、該空所(39)を形成したブラケツト本体(31)と前記フランジ(36)との間を、シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)で充填してなるものであり、
シヤーピン(33)はせん断するものであって、
シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)にて、ブラケツト本体(31)と、カプセル(34)とを固定したものであり、
ブラケツト本体(31)は、自動車用衝撃吸収コラムを支持する、
ハンドルと共に用いられる自動車用衝撃吸収コラム。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった実願昭58-100843号(実開昭60-8185号)のマイクロフィルム(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(明細書1ページ3行?11行)
「2. 実用新案登録請求の範囲
被操舵体に締結手段を介して取付けられ、その締結手段に用いられる被操舵体後方側端が開放し被操舵体前方側端が閉止する溝孔が形成され、コラム外筒の被操舵体側に形成された、コラムクランプを有する衝撃吸収式ステアリングコラムにおいて、前記溝孔の幅を被操舵体後方側端に向かって漸次大きくしたことを特徴とする衝撃吸収式ステアリングコラム。」

(明細書6ページ最終行?7ページ9行)
「(考案の作用・効果)
このような構成すなわち技術的手段によれば、アッパコラムシャフト3に加えられる前記二次衝撃力の入力方向がコラムクランプ8の溝孔8aの軸線方向と一致しなくとも、溝孔8aの幅が開放端側に向かって広がっているためにボルト10とコラムクランプ8の溝孔8aとの間に“かじり”が生じるのを防止することができ、究極的には前記二次衝撃力の一部を有効に吸収することができる。」

(明細書10ページ下から2行?11ページ15行)
「また、コラムクランプ18は固定されているボルト20に対して溝孔18aに沿って移動しようとする。このとき、コラムクランプ18の溝孔18aの軸線と平行なステアリングコラム1の軸線と車体14の前後方向の中心線とが平行でなく、互いに何度かの角度(たとえばθ)をなしていたとしても、第7図に示すように、θが前記αの1/2よりも小さければボルト20とコラムクランプ18の溝孔18aとの間に“かじり”が生じることを防止することができる。従って、ステアリングホイールSすなわちアッパコラムシャフト3に二次衝撃力が加わったときに、コラムクランプ18がスライディングプレート19の間をその締付摩擦力に抗してスムーズに摺動しながら移動することができ、前記二次衝撃力の一部を有効に吸収することができて乗員を保護することができる。」

上記(ア)から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる(以下、「引用文献2に記載された技術」ということもある。)。
「被操舵体に締結手段を介して取付けられ、その締結手段に用いられる被操舵体後方側端が開放し被操舵体前方側端が閉止する溝孔が形成され、コラム外筒の被操舵体側に形成された、コラムクランプを有する衝撃吸収式ステアリングコラムにおいて、前記溝孔の幅を被操舵体後方側端に向かって漸次大きくする、技術。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)
a 本願明細書には以下の記載がある。
「【0002】
一般に、自動車の操向装置は、自動車の進行方向を運転者の任意で変えるための装置で、操向システムともいう。前記操向装置は、操向ハンドルと、操向カラムとを含む操向操作機構と、前記操向操作機構から伝達された操向力の方向を変えると同時に、回転力を増大させる操向ギヤ機構と、前記操向ギヤ機構の作動を両車輪に伝達する操向リンク機構とを含む。」

b 上記aの記載を踏まえると、引用発明の「ハンドルと共に用いられる自動車用衝撃吸収コラム」は、自動車の進行方向を運転者の任意で変えるための装置を構成することは明らかであるから、本件補正発明の「自動車の操向装置」に相当する。

(イ)
a 引用発明の「自動車用衝撃吸収コラム」は本件補正発明の「操向カラム」に相当する。

b
(a)本願明細書には以下の記載がある。
「【0027】
マウンティングブラケット20は、操向カラム12を囲むように形成され、その一側にチルトブラケット21が形成される。操向カラム12を囲むマウンティングブラケット20部分の両側には、車体(図示せず)に接するフランジ部22が形成される。・・・」
「【0037】
射出物が固形化されると、カプセル30とマウンティングブラケット20のフランジ部22とは固定される。」

(b)上記「(2)ア(ア)」の明細書2ページ下から2行?5ページ10行の「一般に自動車の衝撃吸収コラムは、・・・コラムシヤフトと、コラムジヤケツトからなり」、「コラムを車体(4)に支持するための支持ブラケツト装置(3)は、・・・コラムジヤケツト(1)に適宜の手段をもつて固着結合されたブラケツト本体(31)と、・・・からなり(第2図,第3図,および第4図参照)・・・」との従来技術に関する記載、及び、第1?4図を踏まえると、従来技術と同様に、引用発明の「ブラケツト本体(31)」は、コラムを囲み支持する部位と、コラムを囲み支持する部位の両側であってカプセル(34)と固定される部位を含むものということができ、引用文献1の「コラム」は本件補正発明の「操向カラム」に相当するところ、上記(a)に示す本願明細書の記載を踏まえると、引用発明の「カプセル(34)」が「固定され」る「ブラケツト本体(31)」の部位は、本願発明の「フランジ部22」と、カプセルと固定されるものであって、操向カラムを囲む部分の両側に形成される点で機能及び構造が共通するものである。
そうすると、引用発明の「カプセル(34)」が「固定され」る「ブラケツト本体(31)」の部位と、本件補正発明の「車体に接するフランジ部」とは、「フランジ部」の限度で共通する。

(c)また、引用発明の「切欠溝(32)」は、「カプセル(34)が挿入され」るものであるところ、カプセル(34)を挿入する側に向かって開口したものということができ、引用発明の「カプセル(34)を挿入する側」は本件補正発明の「一側」に相当する。
そうすると、引用発明の「切欠溝(32)」は、「カプセル(34)と固定される部位に形成され、カプセル(34)を挿入する側に向かい開口している」ものであるから、本件補正発明の「前記フランジ部に形成され、一側に向かって開口した開口ホール」に相当する。

c また、引用発明の「切欠溝(32)」は「ブラケツト本体(31)に形成された」ものであるから、「ブラケツト本体(31)」に含まれるものということができ、上記a及びbを踏まえると、引用発明の「自動車用衝撃吸収コラムを支持」し、「切欠溝(32)」が「形成された」「ブラケツト本体(31)」と、本件補正発明の「操向カラムを支持し、車体に接するフランジ部と、前記フランジ部に形成され、一側に向かって開口した開口ホールとを含むマウンティングブラケット」とは、「操向カラムを支持し、フランジ部と、前記フランジ部に形成され、一側に向かって開口した開口ホールとを含むマウンティングブラケット」である点で共通する。

(ウ)自動車用衝撃吸収コラムにおいて、カプセルが挿入先とスライディング結合され、衝突事故の発生時、シヤーピンがせん断することでカプセルが挿入先から離脱することは技術常識であり、引用発明の「シヤーピン(33)」も「せん断するものであ」るから、引用発明の「切欠溝(32)」に「挿入され」、「シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)にて、ブラケツト本体(31)と」「固定したものであ」る「カプセル(34)」は、「切欠溝(32)」にスライディング結合され、衝突事故の発生時、「切欠溝(32)」から離脱可能であるものということができ、上記「(イ)b」の対比も踏まえると、引用発明の当該「カプセル(34)」は、本件補正発明の「前記開口ホールにスライディング結合され、衝突事故の発生時、前記開口ホールから離脱可能なカプセル」に相当する。

(エ)
a 引用発明の「ブラケツト本体(31)とカプセル(34)と」は、「前記側縁部とを貫通する小孔(37a,37b)に注入硬化させた合成樹脂のシヤーピン(33)にて固定され」、「シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)にて」、「固定する」ものである。
そうすると、引用発明の「前記側縁部とを貫通する小孔(37a,37b)に注入硬化させた合成樹脂のシヤーピン(33)」及び「シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)」は、「カプセル(34)」と、上記「(イ)b」に示した「ブラケツト本体(31)」の「カプセル(34)と固定される部位」とを固定するものといえる。

b 引用発明の「シヤーピン(33)」が衝撃が加えられると剪断することは技術的に明らかであるから、上記aでの検討も踏まえると、引用発明の「前記側縁部とを貫通する小孔(37a,37b)に注入硬化させた合成樹脂のシヤーピン(33)」及び「シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)」は、衝撃が加えられると、固定する「カプセル(34)」と上記「(イ)b」に示した「ブラケツト本体(31)」の「カプセル(34)と固定される部位」から剪断可能なものといえる。

c 上記a、b、(イ)及び(ウ)を踏まえると、引用発明の「前記側縁部とを貫通する小孔(37a,37b)に注入硬化させた合成樹脂のシヤーピン(33)」及び「シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)」は、本件補正発明の「前記カプセル(34)と前記フランジ部との間を固定させ、衝撃が加えられると、前記カプセル(34)またはフランジ部から剪断可能な少なくとも1つ以上の射出支持部」に相当する。

(オ)
a 引用発明の「凹面部(38)」は、「前記ブラケツト本体(31)の切欠溝(32)」に形成されるものであるから、カプセル(34)と固定される部位に形成されるものといえる。
また、引用発明の「凹面部(38)」は、「前記ブラケツト本体(31)の切欠溝(32)の両側縁部」に形成されるものであるから、一対として形成されるものといえる。
さらに、引用発明の「凹面部(38)」は、「前記切欠溝(32)の側端面(32a)に開放し」ているから、「前記切欠溝(32)の側端面(32a)」に沿ったものということができ、上記(イ)を踏まえると、引用発明の「前記切欠溝(32)の側端面(32a)」は本件補正発明の「前記開口ホールの側面」に相当する。
そして、上記(ウ)を踏まえると、引用発明の「切欠溝(32)」は、「カプセル(34)とスライディング結合」するものであるから、「カプセル(34)」が「スライディング」されるものといえる。

b 上記a、(イ)及び(ウ)を踏まえると、引用発明の「前記ブラケツト本体(31)の切欠溝(32)の両側縁部の少なくとも上下面のいずれか一方に、前記フランジ(36)との間に、フランジ外周縁部とブラケツト本体(31)との僅かな重なりを残して前記切欠溝(32)の側端面(32a)に開放し、前記合成樹脂を注入される小孔(37a,37b)に連通する空所(39)を形成する凹面部(38)」を設けることは、本件補正発明の「前記フランジ部には、前記カプセルがスライディングされる前記開口ホールの側面に沿って一対の段差部が形成され」ることに相当する。

(カ)
a 引用発明の「シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)」は、「前記ブラケツト本体(31)の切欠溝(32)の両側縁部」に「空所(39)を形成する凹面部(38)を設け」、「合成樹脂注入によるシヤーピン(33)の形成と同時に、前記空所(39)に合成樹脂を注入硬化せしめ、該空所(39)を形成したブラケツト本体(31)と前記フランジ(36)との間を充填してなるもの」であり、「ブラケツト本体(31)と、カプセル(34)とを固定したもの」である。
そうすると、引用発明の「シヤーピン(33)」及び「シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)」は、「切欠溝(32)」の「両側縁部」に沿って備えられた一対のものということができる。そして、引用発明の「両側縁部」は本件補正発明の「両側」に相当するから、引用発明の「シヤーピン(33)」及び「シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)」は本件補正発明の「少なくとも1つ以上の射出支持部」であって「カプセルがスライディングされる前記開口ホールの両側に沿って備えられた一対の射出支持部を含」むものに相当する。

b また、引用発明の「シヤーピン(33)」及び「シヤーピン(33)と一体の合成樹脂硬化片(40)」が、「凹面部(38)」の形成する「空所(39)」に「注入硬化せしめ」、「カプセル(34)と固定されるフランジ状部位を含むブラケツト本体(31)と、カプセル(34)とを固定したもの」であることは、「凹面部(38)」に載置され、「前記カプセル(34)」および「カプセル(34)と固定されるフランジ状部位」とに一体に結合されるものということができるから、本件補正発明の「前記射出支持部は、前記段差部に載置され、前記カプセルおよび前記フランジ部に一体に結合される」ことに相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「操向カラムを支持し、フランジ部と、前記フランジ部に形成され、一側に向かって開口した開口ホールとを含むマウンティングブラケットと、
前記開口ホールにスライディング結合され、衝突事故の発生時、前記開口ホールから離脱可能なカプセルと、
前記カプセルと前記フランジ部との間を固定させ、衝撃が加えられると、前記カプセルまたはフランジ部から剪断可能な少なくとも1つ以上の射出支持部とを含み、
前記フランジ部には、前記カプセルがスライディングされる前記開口ホールの側面に沿って一対の段差部が形成され、
前記少なくとも1つ以上の射出支持部は、前記カプセルがスライディングされる前記開口ホールの両側に沿って備えられた一対の射出支持部を含み、
前記射出支持部は、前記段差部に載置され、前記カプセルおよび前記フランジ部に一体に結合される、自動車の操向装置。」

【相違点1】
「フランジ部」に関し、
本件補正発明は、「車体に接する」ものであるに対して、引用発明は、当該構成について特定されていない点。

【相違点2】
「開口ホール」に関し、
本件補正発明は、「前記開口ホールの両側は、8°?12°の範囲の角度を形成し、開口ホールの両側の間の間隔は、前記一側にいくほど広くな」るものであるのに対して、引用発明は、「ブラケツト本体(31)に形成されたコラム軸線と平行な切欠溝(32)」である点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
運転者の二次衝突時に曲げモーメントによりマウンティングブラケットが時計方向に回転するのを抑制するため、フランジ部を車体に接するよう構成することは周知技術である(以下「周知技術1」ということもある。)。このことは、例えば特開2007-15670号公報の【0041】-【0046】、図2、図3等からも裏付けられている。
そして、引用発明も上記課題を内在するものといえるから、引用発明の「ブラケツト本体(31)」において、上記課題の解決手段として、上記周知技術1を適用して、上記相違点に係る本願発明1の構成を採用することは、当業者が適宜になし得た程度の設計的事項である。

イ 相違点2について
a 「開口ホールの両側の間の間隔は、前記一側にいくほど広くな」るよう構成することについて
(a)引用文献2に記載された技術について
引用文献2に記載された技術は「衝撃吸収式ステアリングコラム」に関するものであり、引用文献2に記載された技術の「被操舵体」は本件補正発明の「車体」に相当し、引用文献2に記載された技術の「コラムクランプ」は本件補正発明の「マウンティングブラケット」に相当し、引用文献2に記載された技術の「溝孔」は本件補正発明の「開口ホール」に相当し、引用文献2に記載された技術の「溝孔の幅を被操舵体後方側端に向かって漸次大きくする」ことは、本件補正発明の「開口ホールの両側の間の間隔は、前記一側にいくほど広くな」ることに相当するところ、引用文献2に記載された技術は上記相違点2に係る本件補正発明の「開口ホールの両側の間の間隔は、前記一側にいくほど広くな」ることに相当する構成を備えたものである。

(b)技術分野の共通性について
引用発明と、引用文献2に記載された技術とは、自動車用衝撃吸収コラムという同一の技術分野に属するものである。

(c)構成上の共通点について
引用発明の「自動車用衝撃吸収コラムの支持ブラケツト装置」は、「ブラケツト本体(31)に形成されたコラム軸線と平行な切欠溝(32)にブラケツト装着用ボルトを取付けるためのカプセル(34)が挿入され」るものであるところ、引用文献1の明細書2ページ下から2行?5ページ10行の「・・・該カプセル(34)は、そのブラケツト装着用ボルトを取付けるためのボルト挿通孔(35)を有する主体部の両側に、ブラケツト本体(31)の切欠溝(32)の両側縁部を挾装する如く平行に突出させた上下のフランジ(36)が設けられ、・・・前記ボルト挿通孔(35)に図示しないボルトを挿通して車体(4)にしつかりと固定される」との記載からみて、引用発明の「カプセル(34)」は「車体」と「ブラケット本体」とをボルトを用いて締結する締結手段を構成するものといえる。そうすると、引用発明の「切欠溝(32)」と引用文献2に記載された技術の「溝孔」とは、本件補正発明に相当する構成について本件補正発明の用語を用いると、「車体」に締結手段(引用発明においては「カプセル(34)」)を介して取り付けられる「マウンティングブラケット」の締結手段に用いられる「開口ホール」である点(以下「共通点1」という。)で構成において共通するものである。

(d)引用文献2に記載された技術の課題について
引用文献2の明細書6ページ最終行?7ページ9行には、「・・・アッパコラムシヤフト3に加えられる前記二次衝撃力の入力方向がコラムクランプ8の溝孔8aの軸線方向と一致しなくとも、溝孔8aの幅が開放端側に向かって広がっているためにボルト10とコラムクランプ8の溝孔8aとの間に“かじり”が生じるのを防止することができ、究極的には前記二次衝撃力の一部を有効に吸収することができる」との記載がある。
また、引用文献2の明細書10ページ下から2行?11ページ15行には、「・・・ステアリングホイールSすなわちアッパコラムシャフト3に二次衝撃力が加わったときに、コラムクランプ18がスライディングプレート19の間をその締付摩擦力に抗してスムーズに摺動しながら移動することができ、前記二次衝撃力の一部を有効に吸収することができて乗員を保護することができる。」との記載がある。
ここで、引用文献2の「ボルト10」は引用文献2に記載された技術の「締結手段」に対応し、引用文献2の「アツパコラムシヤフト3」は引用文献2に記載された技術の「衝撃吸収式ステアリングコラム」を構成するものであるから、引用文献2に記載された技術の解決しようとする課題は、「衝撃吸収式ステアリングコラムに加えられる二次衝撃力の入力方向がコラムクランプの溝孔の軸線方向と一致しなくとも、溝孔の幅が開放端側に向かって広がっているために締結手段とコラムクランプの溝孔との間に“かじり”が生じるのを防止することができ、コラムクランプが締付摩擦力に抗してスムーズに摺動しながら移動することができ、二次衝撃力の一部を有効に吸収することができる」こと(以下「課題A」ということもある。)といえる。

(e)上記課題Aが引用発明に内在することについて
引用発明の「ブラケツト本体(31)に形成された」「切欠溝(32)」は、「カプセル(34)が挿入され」るものであるところ、引用文献1の明細書12ページ4行?13ページ1行における「・・・カプセルとブラケツト本体との間の金属接触部面積を前記合成樹脂硬化片により減少しており・・・」との記載(以下「記載a」という。)を踏まえると、「カプセル(34)」との間に当該「合成樹脂効果片(40)」が充填されない部位として、「凹面部(38)」が形成されることで面積が減少した「側端面(32a)」において金属接触部を有するものといえる。
そして、“かじり”とは、金属表面の付着により生じることが技術常識であり、当該記載aを踏まえると、引用発明の「切欠溝(32)」も金属接触部を有するものであるから、“かじり”を生じることが想定される部位といえる。そうすると、上記課題Aは、引用文献2の「溝孔」と上記共通点1で共通する「切欠溝(32)」を含む引用発明にも内在するものといえる。

(f)そして、上記(b)?(e)を踏まえると、引用発明と引用文献2に記載された技術とは、自動車用衝撃吸収コラムという同一の技術分野に属し、共通点1にて構成において共通するものであるから、引用発明に内在する上記課題Aを解決するために、引用発明の「切欠溝(32)」に引用文献2に記載された技術を適用して、上記相違点2に係る本件補正発明の構成である、「開口ホールの両側の間の間隔は、前記一側にいくほど広くな」るよう構成することは、当業者が容易に想到し得た事項である。

b 「開口ホールの両側」に、「8°?12°の範囲の角度を形成」することについて
本願明細書【0027】に「開口ホール24の両側は、カプセル30の離脱が容易となるように、約8°?12°の範囲の角度を形成し、開口ホール24の両側の間の間隔は、一側にいくほど広くなる」と記載されることから見て、本件補正発明において、「開口ホールの両側は、8°?12°の範囲の角度を形成し」たことは、「カプセルの離脱が容易となる」との技術的意義を有する事項といえる。
一方で、当該「8°?12°の範囲の角度」の上下限の臨界的な意義については、本願明細書に記載されてない。
そして、上記(d)に示した課題Aも「コラムクランプがスムーズに移動することができる」こと、すなわち、「締結手段の離脱が容易となること」を課題としたものといえる。
そうすると、上記課題Aを解決するために、引用発明の「切欠溝(32)」に引用文献2に記載された技術を適用するに際して、引用発明において締結手段を構成する「カプセル(34)」の離脱が容易となるように、「切欠溝(32)」の「両側の間」に、「約8°?12°の範囲の角度を形成」するよう構成することは、当業者であれば適宜になし得ることである。

c 小括
以上のとおりであるから、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用して、上記相違点2に係る本件補正発明の構成を具備させることは、当業者が容易になし得た事項である。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ 審判請求書における請求人の主張について
(ア)審判請求書において、請求人は以下を主張する。
(主張1)
請求人は、「引用文献2には、『第7図に示すように、θが前記αの1/2よりも小さければボルト20とコラムクランプ18の溝孔18aとの間に“かじり”が生じることを防止することができる。・・・』という記載がある(第11ページ第5行?第15行)」と述べ、「ここで“かじり”とは、ステンレス製のおねじとめねじで締めつけをする際、ねじ山の摩擦熱によりねじ山表面が溶融(溶着)し、ねじが動かなくなることをいう」と主張するとともに、「このことから、引用文献2において、溝孔18aの角度αは、ボルト20を締め付ける際にボルト20と溝孔18aとの間との間の摩擦力に起因してボルト20のねじ山が溶融することを防ぐために設定されたものであると考えられる」と述べ、「このように、引用文献2の溝孔18aの角度αは、ボルト20に特有の課題を解決するために採用された構成であり、従って、当業者が、ボルトを用いない引用文献1の発明に、引用文献2の溝孔18aの構成を適用する動機は存在しないと考える」と主張する。

(主張2)
請求人は、「引用文献1に記載の発明は、カプセルとブランケット本体との間の摩擦抵抗力を低減し、これによって衝撃吸収コラムの設計を容易化することを目的としている」と述べるとともに、「引用文献2に記載の発明は、コラムクランプ18とスライディングプレート19との間の摩擦力を利用して衝撃力の一部を吸収し、これによって乗員を保護することを目的としている。」と述べ、「上述のように、引用文献1は、摩擦抵抗力を低減しようとしており、反対に引用文献2は、摩擦力を利用しようとしている。従って、この点でも、引用文献2の溝孔18aの構成を当業者が引用文献1の切欠溝32に適用する動機は存在しないと考える。」と主張する。

以下、主張1及び2について検討する。

(イ)主張1について
上記主張1における「ボルト20のねじ山が溶融する」ことは引用文献2の明細書に記載のない事項であり、一方で、マウンティングブラケットがカプセルと“かじり”を生じることは、例えば特開2007-15670号公報(【0005】等)にも裏付けられるように周知の課題でもある。
そして、上記「イ(e)」にも示したように、引用発明の「切欠溝(32)」も金属接触部を有するものであるから、“かじり”を生じることが想定される部位といえ、そうすると、上記課題Aと同様、当該周知課題も「切欠溝(32)」を含む引用発明に内在するものといえる。
そして、上記「イ(d)」?「イ(f)」での検討も踏まえると、引用発明に内在する上記課題A及び/又は上記周知課題を解決するために、引用発明の「切欠溝(32)」に引用文献2に記載された技術を適用して、上記相違点2に係る本件補正発明の構成である、「開口ホールの両側の間の間隔は、前記一側にいくほど広くな」るよう構成することは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、上記主張1は妥当しない。

(ウ)主張2について
引用文献1の明細書12ページ4行?13ページ1行の「この考案は以上のように、・・・カプセルとブラケツト本体との間の金属接触部面積を前記合成樹脂硬化片により減少しており、従つて、ハンドルが二次衝撃力を受けたとき、金属接触部の摩擦抵抗によつて前記衝撃力を緩和するに必要な抵抗力の大きさを大巾に超過するようなことがなく、・・・」との記載からみて、引用発明は「金属接触部の摩擦抵抗によつて前記衝撃力を緩和するに必要な抵抗力」、すなわち「摩擦抵抗」による「抵抗力」を必要に応じて利用するものである。
また、引用文献2の明細書10ページ下から2行?11ページ15行の「・・・ボルト20とコラムクランプ18の溝孔18aとの間に“かじり”が生じることを防止することができる。従って、ステアリングホイールSすなわちアッパコラムシャフト3に二次衝撃力が加わったときに、コラムクランプ18がスライディングプレート19の間をその締付摩擦力に抗してスムーズに摺動しながら移動することができ、前記二次衝撃力の一部を有効に吸収することができて乗員を保護することができる。」との記載から見て、引用文献2に記載された技術もまた、「締付摩擦力」を必要に応じて利用するものである。
そうすると、引用発明と引用文献2に記載された技術とは、摩擦力を必要に応じて利用する点においても共通するものであるから、上記主張2も当たらない。

オ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年11月9日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?12に係る発明は、平成30年2月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2[理由]1(2)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-12に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:実願昭51-107982号(実開昭53-26030号)のマイクロフィルム
引用文献2:実願昭58-100843号(実開昭60-8185号)のマイクロフィルム

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1?2及びその記載事項は、前記「第2[理由]2(2)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]2」で検討した本件補正発明から、「フランジ部」についての「前記カプセルがスライディングされる前記開口ホールの側面に沿って一対の段差部が形成され」ることに係る限定事項と、「射出支持部」についての「前記カプセルがスライディングされる前記開口ホールの両側に沿って備えられた一対の射出支持部を含み」、「前記段差部に載置され、前記カプセルおよび前記フランジ部に一体に結合されること」に係る限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2[理由]2」の(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-10-08 
結審通知日 2019-10-11 
審決日 2019-10-23 
出願番号 特願2014-85719(P2014-85719)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯島 尚郎  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 藤井 昇
岡▲さき▼ 潤
発明の名称 自動車の操向装置  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 関根 毅  
代理人 岡村 和郎  
代理人 岡村 和郎  
代理人 関根 毅  
代理人 岡村 和郎  
代理人 関根 毅  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 堀田 幸裕  

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