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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1360442
異議申立番号 異議2019-700101  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-08 
確定日 2020-01-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6376324号発明「耐屈曲性組成物及びその架橋物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 訂正後の請求項[1?10]について訂正することを認める。 特許第6376324号の請求項1、5?10に係る特許を維持する。 特許第6376324号の請求項2?4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6376324号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成26年1月27に特許出願され、平成30年8月3日にその特許権の設定登録がされ、同年8月22日に特許公報が発行され、その後、その特許に対し、平成31年2月8日に特許異議申立人 星正美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。 平成31年 2月 8日 特許異議申立書
令和 1年 5月21日付け 取消理由通知書
7月19日 意見書、訂正請求書の提出(特許権者)
9月18日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
なお、令和1年9月18日付けの通知書(訂正請求があった旨の通知)に対して、申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和1年7月19日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「(A)エピクロルヒドリン系重合体、(B)表面処理シリカ及び(C)塩素原子の反応性を利用する架橋剤を含有することを特徴とする自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物。」を、「(A)エピクロルヒドリン系重合体、(B)表面処理シリカ及び(C)塩素原子の反応性を利用する架橋剤を含有し、前記表面処理シリカはクロロアルキル系シランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とする自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1?4いずれかに記載の」を「請求項1に記載の」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6の「請求項1?5いずれかに記載の」を「請求項1または5に記載の」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7の「請求項1?6いずれかに記載の」を「請求項1、5、6のいずれかに記載の」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9の「請求項1?8いずれかに記載する」を「請求項1、5?8のいずれかに記載する」に訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、本件明細書の【0018】を基に、シリカを表面処理するシランカップリング剤をクロロアルキル系シランカップリング剤に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり(特許法第120条の5第2項ただし書1号)、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない(同法第126条第5項及び第6項)。

(2)訂正事項2?4について
訂正事項2?4に係る訂正は、請求項2?4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり(特許法第120条の5第2項ただし書1号)、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない(同法第126条第5項及び第6項)。

(3)訂正事項5?8について
訂正事項5?8に係る訂正は、請求項2?4を引用請求項から削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり(特許法第120条の5第2項ただし書1号)、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない(同法第126条第5項及び第6項)。

そして、訂正前の請求項2?10は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項1?10は一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項について請求がされたものである。

3 まとめ
上記2のとおり、訂正事項1?8に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項に適合するとともに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであるから、結論のとおり、本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1、5?10に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、5?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)。

「【請求項1】 (A)エピクロルヒドリン系重合体、(B)表面処理シリカ及び(C)塩素原子の反応性を利用する架橋剤を含有し、前記表面処理シリカはクロロアルキル系シランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とする自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】 (B)表面処理シリカが、BET比表面積が170?220m^(2)/g、DBP吸油量が180?220ml/100gの湿式法シリカが表面処理されたものであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物。
【請求項6】 (C)塩素原子の反応性を利用する架橋剤がキノキサリン類、チオウレア類、2,4,6-トリメルカプト-1,3,5-トリアジン、2-ヘキシルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-ジエチルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-シクロヘキシルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-アニリノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-フェニルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジンから選択されるトリアジン類から選択される少なくとも一種の架橋剤であることを特徴とする請求項1または
5に記載の自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物。
【請求項7】 更に、(D)受酸剤を含有することを特徴とする請求項1、5、6のいずれかに記載の自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物。
【請求項8】 (D)受酸剤が金属化合物であることを特徴とする請求項7に記載の自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物。
【請求項9】 請求項1、5?8いずれかに記載する自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物を架橋してなる自動車用ゴム部品用耐屈曲性ゴム材料。
【請求項10】 請求項9に記載する自動車用ゴム部品用耐屈曲性ゴム材料からなる自動車用ゴム部品。」

第4 取消理由の概要
1 申立書に記載した特許異議申立ての申立理由
訂正前の本件発明1?10は、下記のとおりの取消理由があるから、本件特許の請求項1、5?10に係る特許は、特許法第113条第2号又は第4号に該当し、取り消されるべきものである。証拠方法として、下記の甲第1?6号証(以下、それぞれ「甲1」等という。)を提出する。
(1)申立理由1-1(進歩性):訂正前の本件発明1?10は、甲1に記載された発明、甲3?6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、その特許は取り消されるべきである。
(2)申立理由1-2(進歩性):訂正前の本件発明1?10は、甲2に記載された発明、甲3?甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、その特許は取り消されるべきである。
(3)申立理由2(サポート要件):訂正前の請求項1?3、5?10は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は取り消されるべきである。
甲1:特開2013-28037号公報
甲2:特開昭62-177064号公報
甲3:特開昭62-177063号公報
甲4:特開2012-31306号公報
甲5:特開2000-302921号公報
甲6:特表2010-526906号公報

2 取消理由通知書に記載した取消理由
取消理由1.(サポート要件)訂正前の請求項1?3、5?10は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(申立理由2と同旨)。

第5 当審の判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由1(サポート要件)、並びに、特許異議申立書に記載した申立理由1-1(進歩性)及び申立理由1-2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、5?10に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由通知書に記載した取消理由1(サポート要件)について
(1)発明の詳細な説明に記載された事項
本件明細書の発明の詳細な説明には、次の事項が記載がある。
ア 「【0002】
エピクロルヒドリン系材料はその耐熱性、耐油性、耐オゾン性等を活かして、自動車用ゴム材料として燃料ホースやエアー系ホース、チューブ材料として幅広く使用されている。しかしながら、近年における排ガス規制対策や省エネルギー対策の実施、エンジンの高性能化およびコンパクト化等によるエンジンルーム内の温度上昇あるいは自動車部品のメンテナンスフリー化などに伴って、ゴム材料に対するさらなる耐久性、および耐熱性の向上が望まれている。
【0003】
特許文献1には、耐油性、屈曲耐久性、耐熱性、耐寒性、耐オゾン性に優れたゴム材料を提供する組成物として、プロピレンオキサイドを共重合成分として有するエピクロロヒドリンゴムを用いたゴム組成物について記載されている。しかし、特許文献1に記載されているようなシリカとシランカップリング剤を含有するエピクロルヒドリン系組成物を架橋してなる架橋物では、高温条件下における屈曲耐久性が十分ではなかった。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゴム材料として期待される引張強度等の常態物性及び耐熱性を維持しつつ、高温条件下で使用される際の屈曲耐久性が優れたゴム材料を提供するための組成物及び該組成物を架橋してなる架橋物を提供することにある。」

イ 「【0008】
本発明により得られた耐屈曲性ゴム材料は引張強度等の常態物性及び耐熱性を維持しつつ、高温条件下で使用される際の屈曲耐久性が優れている。従って、高温、例えば125℃以上に晒されるような自動車用ホースに極めて有用である。」

ウ 「【0014】
(B)表面処理シリカ
本発明の耐屈曲性組成物に用いられる(B)表面処理シリカは、シリカとシランカップリング剤等とが反応することにより得られる。本発明の耐屈曲性組成物において、(B)表面処理シリカの含有量は(A)エピクロルヒドリン系重合体100重量部に対して、10?70重量部であることが好ましく、20?60重量部であることがより好ましく、30?50重量部であることが特に好ましい。表面処理シリカの含有量が10重量部未満であると架橋が不十分となり、70重量部を超えるとコンパウンド粘度が増大し加工性が困難になる。
【0015】
表面処理されるシリカは、製造法を問わず用いることができ、乾式法シリカ、湿式法シリカいずれも用いることができる。湿式法シリカを用いることで、乾式法シリカと比較して、耐屈曲性組成物の加工性に優れ、耐屈曲性組成物を架橋してなる架橋物は圧縮永久歪性に優れる点で好ましい。湿式法シリカとは、ケイ酸ナトリウム水溶液をまたはアルカリ土類金属ケイ酸塩を、酸分解する等により製造される含水ケイ酸の微粒子で、二酸化ケイ素を主体としたゴム用充填材である。湿式法シリカの市販品を例示すると、カープレックス、トクシール、ニップシール、シルトンなどが挙げられる。
【0016】
湿式法シリカのBET比表面積は70?380m^(2)/gであることが好ましく、100?250m^(2)/gであることがより好ましく、170?220m^(2)/gであることが特に好ましい。
【0017】
湿式法シリカのDBP吸油量は160?280ml/100gであることが好ましく、180?220ml/100gであることが特に好ましい。
【0018】
シリカを表面処理するシランカップリング剤としては、ビニル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、メタクリル系シランカップリング剤、アクリル系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤、ポリスルフィド系シランカップリング剤およびクロロアルキル系シランカップリング剤が挙げられ、クロロアルキル系シランカップリング剤であることが好ましい。シランカップリング剤は一種を単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0019】
ビニル系シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、トリエトキシビニルシラン等が例示される。
エポキシ系シランカップリング剤としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が例示される。
メタクリル系シランカップリング剤としては、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシメチルジメチルメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン等が例示される。
アクリル系シランカップリング剤としては、アクリロキシメチルトリメトキシシラン、アクリロキシメチルトリエトキシシラン、アクリロキシメチルメチルジメトキシシラン、アクリロキシメチルジメチルメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン等が例示される。
アミノ系シランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン等が例示される。
メルカプト系シランカップリング剤としては、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が例示される。
ポリスルフィド系シランカップリング剤としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(略称TESPD)、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(略称TESPT)等が例示される。
クロロアルキル系シランカップリング剤としては下記一般式(1)で表される化合物を例示することができる。
Cl(CH_(2))_(3)Si(OR)_(3) (1)
(但し、上記一般式(1)においてRはメチル基またはエチル基を表す。)
【0020】
(B)表面処理シリカの製造方法
(B)表面処理シリカの製造方法としては、シリカ100重量部に対して、シランカップリング剤を3?15重量部を反応させることが好ましく、5?13重量部を反応させることが好ましく、9?11重量部を反応させることが特に好ましい。
【0021】
(B)表面処理シリカの製造方法において、シリカとシランカップリング剤との反応を促進するために、酸等を用いることができる。
【0022】
(B)表面処理シリカの製造方法としては、シリカとシランカップリング剤の反応をより促進するために加熱処理を施してもよく、加熱方法や時間、温度など特に制限はない。具体的には、ナウターミキサーやリボンブレンダー、ヘンシェルミキサーなどを用いて加熱攪拌し、その後、加熱オーブンなどで加熱する等を例示することができる。撹拌温度及び時間は、一般的には20?200℃で、1分?24時間である。
【0023】
(C)架橋剤
本発明の耐屈曲性組成物において、(C)架橋剤としては、エピクロルヒドリン系ゴムを架橋できるものであれば特に限定されないが、塩素原子の反応性を利用する公知の架橋剤、即ちポリアミン類、チオウレア類、チアジアゾール類、トリアジン類、キノキサリン類、ビスフェノール類等が、また、側鎖二重結合の反応性を利用する公知の架橋剤、例えば、有機過酸化物、硫黄、モルホリンポリスルフィド類、チウラムポリスルフィド類等を例示することができ、チオウレア類、キノキサリン類、トリアジン類、硫黄であることが好ましく、2-メルカプトイミダゾリン(エチレンチオウレア)、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、2,4,6-トリメルカプト-1,3,5-トリアジンであることが特に好ましい。(C)架橋剤は一種を単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0024】
ポリアミン類としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンテトラミン、p -フェニレンジアミン、クメンジアミン、N,N'-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン、エチレンジアミンカーバメート、ヘキサメチレンジアミンカーバメート等が挙げられる。
チオウレア類としては、2-メルカプトイミダゾリン、1,3-ジエチルチオウレア、1,3-ジブチルチオウレア、トリメチルチオウレア等が挙げられる。
チアジアゾール類としては、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール-5-チオベンゾエート等が挙げられる。
トリアジン類としては、2,4,6-トリメルカプト-1,3,5-トリアジン、2-ヘキシルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-ジエチルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-シクロヘキシルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-アニリノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-フェニルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン等が挙げられる。
キノキサリン類としては、2,3-ジメルカプトキノキサリン、キノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、5,8-ジメチルキノキサリン-2,3-ジチカーボネート等が挙げられる。
ビスフェノール類としてはビスフェノールAF、ビスフェノールS等が挙げられる。
有機過酸化物としては、tert- ブチルヒドロパーオキサイド、p-メンタンヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキサイド、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
モルホリンポリスルフィド類としては、モルホリンジスルフィドが挙げられる。
チウラムポリスルフィド類としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジペンタメチレンチウラムヘキサスルフィド等が挙げられる。
【0025】
本発明の耐屈曲性組成物において、(C)架橋剤の含有量は、(A)エピクロルヒドリン系重合体100重量部に対して、0.1?10重量部であることが好ましく、0.3?5重量部であることが特に好ましい。(C)架橋剤の含有量が0.1重量部未満では架橋が不十分となり、10重量部を超えると架橋物が剛直になりすぎて、エピクロルヒドリン系ゴム組成物を架橋して得られる架橋物として通常期待される物性が得られなくなる恐れがある。」

エ「【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0048】
表1に示す配合で各材料をニーダーおよびオープンロールで混練し、厚さ2?2.5mmの未架橋シートを作製した。また、引張特性、耐熱性、屈曲耐久性の評価のために得られた未架橋シートを170℃で15分プレス架橋し、2mm厚の一次架橋物を得た。さらにこれをエア・オーブンで150℃で2時間加熱し、二次架橋物を得た。得られた二次架橋物を用い、JIS K6251に準じて引張試験を、JIS K6257促進老化試験A-2法に準じて耐熱性の試験を、JIS K6260に準じて屈曲き裂試験の評価を行った。
【0049】
各試験方法より得られた試験結果を表2に示す。各表中M_(100)は引張試験に定める100%伸び時の引張応力、Tbは引張試験に定める引張強さ、Ebは引張試験に定める伸び、HsはJIS K6253の硬さ試験に定める硬さをそれぞれ意味する。また屈曲き裂試験における数値の記載は、き裂発生までの屈曲回数を示し、屈曲回数が多いほど、屈曲耐久性が優れていることが示される。
【0050】
【表1】

【0051】
表1で用いられた配合剤を示す。
エピクロロヒドリン系重合体*1:ダイソー株式会社製「エピクロロヒドリン-エチレンオキシド共重合体:エピクロマーC」
FEFカーボン*2:東海カーボン株式会社製「シーストSO」
表面処理シリカ*3:130℃で24時間乾燥させ揮発分を0重量%としたシリカ(日本シリカ株式会社製、ニップシールVN-3)100重量部に対し、シランカップリング剤(ダイソー株式会社製:カブラスC、化合物名:トリエトキシシリルプロピルクロライド)10重量部を混合し、2Lヘンシェルミキサー(株式会社カワタ製、スーパーミキサーピッコロ)を用い室温にて600rpmで45分攪拌して得た。
湿式シリカ*4:日本シリカ株式会社製「ニップシールVN-3」(BET比表面積170?220m^(2)/g、DBP吸油量180?220ml/100g)
乾式シリカ*5:日本アエロジル株式会社製「AEROSIL 200」(BET比表面積200m^(2)/g、DBP吸油量290ml/100g)
シランカップリング剤*6:ダイソー株式会社製「シランカップリング剤:カブラスC」化合物名:トリエトキシシリルプロピルクロライド
【0052】
【表2】

【0053】
本発明の耐屈曲性組成物を架橋してなる耐屈曲性ゴム材料である実施例1は耐熱性試験後も高いTb値を有しており、優れた耐熱性を示している。また、実施例1は屈曲き裂成長試験において、き裂発生までの屈曲回数は耐熱性試験前後で大きく変化することなく、高温条件下における屈曲耐久性が優れていることが示された。
一方、比較例1?2は、シリカを表面処理することなく、シリカとシランカップリング剤を配合した組成物を架橋してなるゴム材料であるが、屈曲き裂成長試験において、き裂発生までの屈曲回数は、耐熱性試験前と比較して耐熱性試験後は大きく低下しており、実施例1と比較して高温条件下における屈曲耐久性が劣ることが示された。
比較例3は、表面処理シリカを配合することなく、カーボンブラックを増量して配合した組成物を架橋してなるゴム材料であるが、き裂発生までの屈曲回数は耐熱性試験前後ともに少なく、実施例1と比較して屈曲耐久性が低いことが示された。」

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。この点について、以下に検討する。

(3)本件発明の課題
本件発明1、5?10が解決しようとする課題は、上記(1)アによると、「ゴム材料として期待される引張強度等の常態物性及び耐熱性を維持しつつ、高温条件下で使用される際の屈曲耐久性が優れたゴム材料を提供するための組成物及び該組成物を架橋してなる架橋物を提供すること」であると解される。

(4)本件発明1について
本件発明1は、(A)エピクロルヒドリン系重合体、(B)表面処理シリカ及び(C)塩素原子の反応性を利用する架橋剤を含有する自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物において、(B)表面処理シリカがクロロアルキル系シランカップリング剤で表面処理されているものである。
一方、本件明細書には、(B)表面処理シリカは、シリカとシランカップリング剤等とが反応することにより得られること(上記(1)ウの段落【0014】)、表面処理されるシリカは、製造法を問わず用いることができること(上記(1)ウの段落【0015】)が記載されており、また、実施例1として、エピクロロヒドリン系重合体、トリエトキシシリルプロピルクロライドにより処理した表面処理シリカ、及び架橋剤であるエチレンチオウレアを含有する未架橋シートの架橋物を用いて、耐熱性試験前後の引張強度、き裂発生までの屈曲回数などを測定した結果が記載されている(上記(1)エ)。そして、実施例1では、耐熱性試験前後とも優れた耐熱性及び高温での屈曲耐久性を示すことを具体的に確認できる。
そうすると、発明の詳細な説明には、本件発明1の組成物が高温条件下における引張特性及び屈曲耐久性に優れ、上記課題を解決するものであることが記載されているといえる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。
申立人は申立書の「(4)エ サポート要件違背」において、概ね、一般に化学分野の発明は実験による検証が必要であり、本件明細書には、トリエトキシプロピルクロライドを用いる系の結果が確認されているだけであって、これをもって請求項1発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない旨を主張するが、この主張は本件訂正前の請求項1に関する主張であると解されるし、上記第2及び第3で述べたように、本件訂正により、本件発明1は「表面処理シリカはクロロアルキル系シランカップリング剤で表面処理されている」ものとなり、発明の詳細な説明には本件発明1が上記課題を解決することが記載されていると解されることは上述したとおりである。なお、申立人は、上記主張を裏付ける具体的な証拠を示していないし、令和1年9月18日付けの通知書(訂正があった旨の通知)に対しても応答しなかった。

(5)本件発明5?10について
請求項5?10は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(4)において本件発明1について述べたのと同じ理由により、発明の詳細な説明に記載したものである。

(6)まとめ
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであり、取消理由1(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1、5?10に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
(1)甲1を主引用文献とする申立理由1(進歩性)
ア 甲号証に記載された事項
(ア)甲1に記載された事項及び甲1発明
甲1には、以下の事項が記載されている。
a 「【請求項1】
(a)エピクロルヒドリン系ゴム、(b)シリカ(但し、(a)エピクロルヒドリン系ゴム100重量部に対する(b)シリカの含有量が15?35重量部である。)及び/又は(c)硫黄(但し、(a)エピクロルヒドリン系ゴム100重量部に対する(c)硫黄の含有量が0.05?1重量部である。)、(d)加硫剤及び(e)受酸剤を含有する未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物から形成される(A)未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物層と、(B)ブラスメッキされた金属層とが接着剤層を設けることなく加硫接着されてなる加硫ゴム-金属積層体。
【請求項2】
(d)加硫剤がキノキサリン系加硫剤、チオウレア系加硫剤及びビスフェノール系加硫剤から選択される少なくとも一種の加硫剤である請求項1に記載の加硫ゴム-金属積層体。
【請求項3】
(b)シリカが湿式法シリカである請求項1又は2に記載の加硫ゴム-金属積層体。
【請求項4】
未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物が(a)エピクロルヒドリン系ゴム、(b)シリカ(但し、(a)エピクロルヒドリン系ゴム100重量部に対する(b)シリカの含有量が15?35重量部である。)、(c)硫黄(但し、(a)エピクロルヒドリン系ゴム100重量部に対する(c)硫黄の含有量が0.1?0.5重量部である。)、(d)加硫剤及び(e)受酸剤を含有する請求項1?3いずれかに記載の加硫ゴム-金属積層体。
【請求項5】
未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物に、更に(b)シリカ100重量部に対して、一般式(I)で表されるハロゲノアルコキシシランを0.3?15重量部含有する請求項1?4いずれかに記載の加硫ゴム-金属積層体。
【化1】
(R^(1)-O)_(3)-Si-R^(2)-X (I)
(式中、3個のR^(1)は互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1?5の炭化水素基であり、R^(2)は炭素数1?9の2価の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
【請求項6】
(d)加硫剤が、2,3-ジメルカプトキノキサリン、キノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、5,8-ジメチルキノキサリン-2,3-ジチカーボネートからなるキノキサリン系加硫剤、2-メルカプトイミダゾリン(エチレンチオウレア)、1,3-ジエチルチオウレア、1,3-ジブチルチオウレア、トリメチルチオウレアからなるチオウレア系加硫剤、ビスフェノールAF、ビスフェノールSからなるビスフェノール系加硫剤から選択される少なくとも一種の加硫剤である請求項1?5いずれかに記載の加硫ゴム-金属積層体。
【請求項7】
(e)受酸剤が金属化合物及び/又は無機マイクロポーラス・クリスタルである請求項1?6いずれかに記載の加硫ゴム-金属積層体。」

b 「【0003】
近年の自動車の排ガス規制対策および省エネルギー対策によるエンジンルーム内の温度上昇、排ガスのリサイクル、さらには燃料の蒸散規制等が行われた結果、使用ゴム材料として耐熱老化性、耐候性、耐酸敗燃料油性、耐アルコール含有燃料油性、耐燃料油不透過性等を併せ持つことが要求されるようになってきており、該ホースとして、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)やクロロプレンゴム(CR)では上記要求性能を十分に満足させることが困難になってきている。
【0004】
例えば、耐熱性・耐油性に優れたゴム材料としてフッ素ゴムやアクリルゴム等がその使用環境に応じて選択されてきた。しかしながら、これらのゴムは価格面で非常に高価であり、耐寒性にも問題があるため、価格面と性能面のバランスに優れたエピクロルヒドリン系ゴムを用いる試みが行われてきた。」

c 「【0008】
本発明はエピクロルヒドリン系ゴム層とブラスメッキされた金属層を、接着剤層を設けることなく、直接加硫接着することにより、圧縮永久歪性等のエピクロルヒドリン系ゴム加硫物として通常期待される物性を維持しつつ、両層が強固に接着された加硫ゴム-金属積層体を提供することを目的とする。」

d 「【0058】
以下において代表的な例として、実施例として挙げるが、本発明はこれに限定されるものでない。表1、表2内の配合量の単位は重量部とする。
【0059】
(実施例1?13、比較例1?9)
表1に示す割合で各材料を、120℃に温度設定した容量1Lニーダーを用いて混練し、次いで表面温度70℃に設定した7インチオープンロールで混練することにより厚さ2?2.5mmの未加硫ゴムシートを調製した。該未加硫ゴムシート(75mm×75mm)2枚を長さ75mmのブラスメッキワイヤー(径;0.7mm)が串刺し状になるように貼り合わせた後に、170℃、20?25kg/cm^(2)で15分間加圧し、厚さ4.0?4.5mmの積層体を得た。加硫後24時間放置し、試験は25℃において、この串刺し状のブラスメッキワイヤーを50mm/分の速度で引き抜き、引き抜き後のワイヤー表面のゴムの付着状態を観察した。評価基準を以下に示し、評価結果は表3に示した。
<接着性の評価基準>
◎:ワイヤーの表面全体にゴムが分厚く付着しており、ゴムとワイヤーが強固に接着している。
○:ワイヤーの表面積の50%以上にゴムが付着しており、ゴムとワイヤーの接着性は比較的良好である。
△:ワイヤーの表面積の50%未満にゴムが付着しているが、ゴムとワイヤーの接着性は不十分である。
×:ワイヤーの表面にゴムはほとんど付着しておらず、ゴムとワイヤーは全く接着していない。
また、圧縮永久歪性試験は、得られた未加硫ゴムシートを試験片作製用金型を用いて170℃で20分プレス加硫し、直径約29mm、高さ約12.5mmの円柱状試験片一次加硫物を得た。さらにこれをエア・オーブンで150℃で2時間加熱し二次加硫物を得た。得られた二次加硫物を用い、JIS K6262記載の方法に準じて試験を行った。評価結果は表4に示した。尚、圧縮永久歪(%)は低いほど良好なゴム弾性を保持していることを示しており、80%を超える場合にはゴム加硫物の実用的な物性が得られていないことを示し、60%以下であることが好ましい。
【0060】
以下に実施例及び比較例で用いた配合剤を示す。
*1 ダイソー(株)社製「エピクロマーC」
*2 ダイソー(株)社製「エピクロマーCG」
*3 日本シリカ工業(株)社製「ニップシールVN-3」
*4 ダイソー(株)社製「カブラスC」
*5 協和化学工業(株)社製「DHT-4A」
*6 ダイソー(株)社製「P-152」
*7 スリーエム社製「DynamarRC5251Q」
*8 スリーエム社製「DynamarFC5157」
*9 スリーエム社製「DynamarFC5166」
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】



e 「【0073】
本発明のゴム-金属積層体は以上のように構成されており、その積層体は両層間の接着性が非常に優れており、接着面は強固である。従って、補強層にブラスメッキされたワイヤーを使用する高圧ホース等の用途に極めて有用である。」

甲1には、上記dの表1に示す割合で各材料を120℃で混練し、未加硫ゴムシートを調製したことが記載されている。そして、実施例1?4に着目すると、上記未加硫ゴムシートは、ECH-EO共重合体(エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体)を含有する未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物からなるものである。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。

「エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体である「エピクロマーC」(ダイソー(株))100重量部、MAFカーボンブラック35重量部、湿式法シリカである「ニップシールVN-3」(日本シリカ工業(株))15重量部、クロロプロピルトリエトキシシランである「カブラスC」(ダイソー(株))1重量部、ジ(ブトキシエトキシ)エチルアジペート10重量部、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル1重量部、ソルビタンモノステアレート3重量部、酸化マグネシウム3重量部、合成ハイドロタルサイトである「DHT-4A」(協和化学工業(株))3重量部、DBUのフェノール樹脂塩である「P-152」(ダイソー(株))、ペンタエリスリトール0.5重量部、N-シクロヘキシルチオフタルイミド1重量部、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート1.7重量部からなる未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物。」(以下、「甲1発明1」という。)

「エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体である「エピクロマーC」(ダイソー(株))100重量部、MAFカーボンブラック30重量部、湿式法シリカである「ニップシールVN-3」(日本シリカ工業(株))20重量部、クロロプロピルトリエトキシシランである「カブラスC」(ダイソー(株))1重量部、ジ(ブトキシエトキシ)エチルアジペート10重量部、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル1重量部、ソルビタンモノステアレート3重量部、酸化マグネシウム3重量部、合成ハイドロタルサイトである「DHT-4A」(協和化学工業(株))3重量部、DBUのフェノール樹脂塩である「P-152」(ダイソー(株))、ペンタエリスリトール0.5重量部、N-シクロヘキシルチオフタルイミド1重量部、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート1.7重量部からなる未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物。」(以下、「甲1発明2」という。)

「エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体である「エピクロマーC」(ダイソー(株))100重量部、MAFカーボンブラック20重量部、湿式法シリカである「ニップシールVN-3」(日本シリカ工業(株))30重量部、クロロプロピルトリエトキシシランである「カブラスC」(ダイソー(株))1重量部、ジ(ブトキシエトキシ)エチルアジペート10重量部、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル1重量部、ソルビタンモノステアレート3重量部、酸化マグネシウム3重量部、合成ハイドロタルサイトである「DHT-4A」(協和化学工業(株))3重量部、DBUのフェノール樹脂塩である「P-152」(ダイソー(株))、ペンタエリスリトール0.5重量部、N-シクロヘキシルチオフタルイミド1重量部、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート1.7重量部からなる未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物。」(以下、「甲1発明3」という。)

「エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体である「エピクロマーC」(ダイソー(株))100重量部、MAFカーボンブラック15重量部、湿式法シリカである「ニップシールVN-3」(日本シリカ工業(株))35重量部、クロロプロピルトリエトキシシランである「カブラスC」(ダイソー(株))1重量部、ジ(ブトキシエトキシ)エチルアジペート10重量部、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル1重量部、ソルビタンモノステアレート3重量部、酸化マグネシウム3重量部、合成ハイドロタルサイトである「DHT-4A」(協和化学工業(株))3重量部、DBUのフェノール樹脂塩である「P-152」(ダイソー(株))、ペンタエリスリトール0.5重量部、N-シクロヘキシルチオフタルイミド1重量部、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート1.7重量部からなる未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物。」(以下、「甲1発明4」という。)

(イ)甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
a 「2.特許請求の範囲
下記(a)?(c)成分を含有することを特徴とするエピクロルヒドリン-プロピレンオキサイド系ゴム組成物。
(a)共重合体ゴム又はゴム混合物の構成単位がエピクロルヒドリン10?90モル%,プロピレンオキサイド10?90モル%,エチレンオキサイド0?60モル%,アリルグリシジルエーテル0?15モル%である共重合体ゴム又はゴム混合物 100重量部
(b)含水ケイ酸,ケイ酸カルシウム及びケイ酸マグネシウムより選ばれる一種又は二種以上のケイ素化合物 10?90重量部
(c)含複素環ポリチオール類又はその誘導体よりなる架橋剤 0.1?8重量部」

b 「本発明組成物において、より一層優れた架橋物性,耐熱老化性を得るためには、下記一般式(I)?(X)で表わされるシランカップリング剤の使用が非常に好ましい。
ClC_(3)H_(6)Si(OR)_(3) (I)
・・・
(但し、上記一般式(I)?(X)において、Rはメチル基又はエチル基を表わす)」(第3頁左下欄1?18行)

c 「本発明組成物を配合する順序には特に制約はないが、特にシランカップリング剤を用いる場合においては、希釈又は無希釈のシランカップリング剤で予め混合被覆されたケイ素化合物を用いることは非常に好ましい。」(第4頁右上欄15?19行)

d 「(実施例)
実施例1?8 比較例1?2
第1表に示す各組成物を60?70℃のオープンロールで混練しシート化したものを金型に入れて、160℃、80Kg/cm^(2)で30分間加圧成形した。得られた各架橋物の物性試験を行い、その結果を第2表に示した。
・・・
第1表に示す各組成物の保存安定性を調べるために上記60?70℃のオープンロールで混練した直後とこれを35℃,75%相対湿度で3日間放置したもののムーニー粘度[ML_(1+4)(100℃)]を測定し、混練直後のムーニー粘度を基準にしてその差を第2表に示した。
第1表において、(1)?(15)は下記のものを用いた。なお、下記において、EP:エピクロルヒドリン,PO:プロピレンオキサイド,EO:エチレンオキサイド,AGE:アリルグリシジルエーテルを表わす。
(1)ムーニー粘度[ML_(1+4)(100℃)](以下 同じ)55
(2)モル比 EP/PO=50/50、ムーニー粘度70
(3)モル比 EP/EO=15/85、ムーニー粘度120
(4)モル比 EP/AGE=90/10、ムーニー粘度35
(5)モル比 EP/PO/EO=40/30/30、ムーニー粘度85
(6)モル比 EP/PO/AGE=30/65/5、ムーニー粘度70
(7)モル比 EP/EO/AGE=70/20/10、ムーニー粘度45
(8)モル比 EP/PO/EO/AGE=30/30/30/10、ムーニー粘度70
(9)「カープレックス#67」塩野義製薬社商品名
(10)同上品100重量部に対してClC_(3)H_(6)Si(OC_(2)H_(5))_(3)を4重量部添加して均一に混合したもの
・・・



」(第4頁左下欄17行?第6頁)

(ウ)甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子粉末の粒子表面がスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤によって被覆されていると共に、該被覆表面が高級脂肪酸によって被覆されている平均粒子径0.01?0.3μmのシリカ粒子粉末からなることを特徴とする疎水性シリカ粒子粉末。
・・・
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の疎水性シリカ粒子粉末を用いたゴム組成物。」

b 「【0020】
本発明に係る疎水性シリカ粒子粉末は、優れた疎水性並びに流動性を有すると共に、ゴム組成物中への分散性に優れることから、タイヤトレッド用ゴム組成物をはじめとして、各種ゴム組成物用充填剤として好適である。」

c 「【0026】
本発明におけるシリカ粒子粉末としては、沈降シリカ(ホワイトカーボン)、シリカゲル、シリカゾル(コロイダルシリカ)等の湿式法シリカ及びヒュームドシリカ等の乾式法シリカ等を用いることができる。得られるゴム組成物の補強効果を考慮すれば、湿式法によるシリカが好ましく、より好ましくは沈降シリカである。」

d 「【0052】
ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム及びその混合物等を使用することができる。ゴムの主成分として、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムを含むことが好ましい。また、これらはそれぞれ単独もしくは2種以上混合して用いることができる。」

(エ)甲5に記載された事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 エピクロルヒドリンゴムを主体とするゴム100重量部に、40重量部以上100重量部以下のシリカが配合された導電性ゴム組成物。
・・・
【請求項3】 上記シリカが、その末端水酸基がシランカップリング剤との反応によってマスクされたものである請求項2に記載の導電性ゴム組成物。」

b 「【0011】 本発明において、シリカは、その末端水酸基がマスクされたものであるのが好ましい。通常シリカは、その表面に水酸基(シラノール基)やシロキサン基を備えている。このシリカがエピクロルヒドリンゴムに配合されると、水酸基やシロキサン基が相互に水素結合で相関を持ったり、ゴム分子と水素結合で相関を持ち、ゴム組成物の粘度(ムーニー粘度)が上昇して混練時、押出時等の作業性が低下してしまう。シリカの末端水酸基がマスクされるとシリカ粒子同士やシリカとゴム分子との水素結合が抑制され、粘度上昇が抑えられる。具体的には、シリカの末端水酸基が他の化合物(以下、「マスキング物質」と称する)と反応することにより、シリカ表面がマスキング物質で覆われて水素結合が抑制される。」

(オ)甲6に記載された事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピクロロヒドリン組成物を含み、かつフルオロエラストマー組成物を実質的に含まないエラストマー組成物と;
強化等級カーボンブラック及びシリカを含む充填剤材料と;
過酸化物硬化剤と、を含む組成物。
【請求項2】
前記シリカが、シラン処理済ヒュームドシリカを含む、請求項1に記載の組成物。」

b 「【0015】
ここで使用されている用語「シリカ系強化充填剤」は、式SiO_(2)の全ての化合物(例えば、純シリカ)、組成物の総重量に基づき、少なくとも約10重量%のSiO_(2)及び/又はSiO_(2)の誘導体を含む全ての組成物、全てのケイ酸塩、並びに任意の割合でのこれらのいかなる組み合わせをも含むように定義される。適切なシリカ系強化充填剤の例としては、シリカ(二酸化ケイ素とも呼ばれる)、シラン処理されたシリカ、ヒュームドシリカ(例えば、マサチューセッツ州ビレリカのカボット社(Cabot Corporation)から市販されているCABOSIL(登録商標)M-5製品)、シラン処理されたヒュームドシリカ、例えば、全てニュージャージー州パーシッパニーのデグサ社(Degussa Company)から市販されているAEROSIL(登録商標)R972製品、AEROSIL(登録商標)R974製品及びAEROSIL(登録商標)200製品、並びにマサチューセッツ州ビレリカのカボット社から市販されているシラン処理されたヒュームドシリカ製品のCABOSIL(登録商標)ライン、ケイ酸塩、並びに任意の割合でのこれらのいかなる組み合わせもが挙げられる。」

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明1?4を対比する。
甲1発明1?4の「エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド共重合体」及び「クロロプロピルトリエトキシシラン」は、本件発明1の「(A)エピクロルヒドリン系重合体」及び「クロロアルキル系シランカップリング剤」にそれぞれ相当する。また、甲1発明1?4の「6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート」は、本件明細書(上記1(1)イの段落【0024】)に記載されたキノキサリン類の架橋剤であるから、本件発明1の「(C)塩素原子の反応性を利用する架橋剤」に相当する。
そして、甲1発明1?4は「湿式法シリカ」を含有するから、シリカを含有する限りにおいて、本件発明1と共通する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1?4とは、「(A)エピクロルヒドリン系重合体、シリカ、(C)塩素原子の反応性を利用する架橋剤、及び、クロロアルキル系シランカップリング剤を含有する組成物」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1a:本件発明1は、「(B)表面処理シリカ」が「クロロアルキル系シランカップリング剤で表面処理されている」のに対して、甲1発明1?4は、「湿式法シリカ」及び「6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート」が別々に配合されたものである点。

相違点1b:本件発明1は、「自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物」であるのに対して、甲1発明1?4は、「未加硫エピクロルヒドリン系ゴム組成物」である点。

(イ)検討
相違点1aについて検討する。
まず、甲1発明1?4が解決しようとする課題は、エピクロルヒドリン系ゴム層とブラスメッキされた金属層を、接着剤層を設けることなく、直接加硫接着することにより、圧縮永久歪性等のエピクロルヒドリン系ゴム加硫物として通常期待される物性を維持しつつ、両層が強固に接着された加硫ゴム-金属積層体を提供することであると解される(上記ア(ア)c)。
一方、甲3には、エピクロルヒドリン-プロピレンオキサイド系ゴム組成物に、含水ケイ酸とシランカップリング剤であるClC_(3)H_(6)Si(OC_(2)H_(5))_(3)を均一に混合したものを配合し、優れた耐熱老化性を得ることが記載され(上記ア(イ)b、ア(イ)dの実施例2)、甲4には、シリカ粒子粉末の粒子表面がスルフィドシラン及びアミノ系シランカップリング剤で被覆した後、高級脂肪酸で被覆し、ゴム組成物中への分散性に優れることが記載され(上記ア(ウ)b)、甲5には、エピクロルヒドリンゴムに配合されるシリカの末端水酸基がシランカップリング剤との反応でマスクされ、ゴム組成物の粘度上昇を抑えることが記載され(上記ア(エ)b)、甲6には、エピクロロヒドリン組成物を含む常温収縮性物品にシラン処理済ヒュームドシリカを含むことが記載されている(上記ア(オ)a)。
そして、甲3?甲6のいずれにも、甲1発明1?4と共通する課題や目的は記載されておらず、また、エピクロルヒドリン系ゴム材料の高温での耐屈曲性を向上するために、クロロアルキル系シランカップリング剤で表面処理されているシリカを用いることは、記載も示唆もされていないから、甲1発明1?4において、「湿式法シリカ」及び「クロロプロピルトリエトキシシラン」を別々に配合することに代えて、クロロアルキル系シランカップリング剤で表面処理されているシリカを含有することが動機付けられるとはいえない。
そして、本件発明1によって奏される「引張強度等の常態物性及び耐熱性を維持しつつ、高温条件下で使用される際の屈曲耐久性に優れている。」(上記1(1)イ)という優れた効果は、実施例1から具体的に確認できる。
申立人は、申立書の「ウ-1-1(3)」の「本願発明の効果について」において、概ね、一般に化学分野の発明は実験による検証が必要であり、実施例1の記載をもって請求項1に包含される他のすべてのゴム組成物においても同等の効果を奏するとまで推認できない旨を主張するが、この主張は本件訂正前の請求項1に関する主張であると解されるし、上記第2及び第3で述べたように、本件訂正により、本件発明1は「表面処理シリカはクロロアルキル系シランカップリング剤で表面処理されている」ものに限定され、実施例1以外のデータが示されていないからといって、本件発明1に包含される組成物が実施例1と同等の効果を奏しないと解すべき証拠は見当たらない。なお、申立人は、上記主張を裏付ける具体的な証拠を示していないし、令和1年9月18日付けの通知書(訂正があった旨の通知)に対しても応答しなかった。

そうすると、本件発明1は、甲1に記載された発明、並びに甲1及び甲3?甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、相違点1bについて検討するまでもなく、甲1に記載された発明、並びに甲1及び甲3?甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明5?10について
本件発明5?10は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記イで述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明、並びに甲1及び甲3?甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、申立理由1-1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、5?10に係る特許を取り消すことはできない。

(2)甲2を主引用文献とする申立理由1-2(進歩性)
ア 甲号証に記載された事項
(ア)甲2に記載された事項及び甲2発明
甲2には、以下の事項が記載されている。
a 「2.特許請求の範囲
エピクロルヒドリン10?60モル%、プロピレンオキシド又はプロピレンオキシド及びエチレンオキシド(ただしプロピレンオキシドとエチレンオキシドとのモル比は1以上)30?90モル%並びに不飽和エポキシド0?15モル%よりなる共重合体ゴム100重量部に対して、微粒子けい酸またはその塩5?60重量部及びカップリング剤0.1?10重量部を配合してなることを特徴とする耐屈曲性の改良されたゴム組成物。」

b 「(発明が解決しようとする問題点)
従って本発明の目的は、CRと同等の耐油性、耐屈曲性を保持し、かつ、CRより耐熱性、耐寒性、耐動的オゾン性を改良せしめたゴム組成物を提供することにある。」(第2頁左上欄8?12行)

c 「本発明に使用される微粒子けい酸またはその塩は、無水けい酸、含水けい酸またはその塩のいずれでもよく、これらはゴム用充填剤として容易に入手できる。」(第2頁左下欄9?12行)

d 「カップリング剤としては、シラン系が代表的であって、その代表例として、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルアセトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル-トリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリアルコキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロビルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)-エチレンジアミン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(ポリエチレンアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-オキシプロピルメチルジアルコキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-アミジノチオプロピルトリヒドロキシシラン、ビス-〔3-(トリエトキシシリル)-プロピル〕-テトラスルフィドなどが挙げられる。」(第2頁右下欄2行?第3頁左上欄4行)

e 「本発明の共重合体ゴムの加硫剤としては、ポリチオール系加硫剤、チオウレア系加硫剤が使用可能であり、不飽和エポキシドを共重合した場合にはイオウ系加硫剤が使用可能である。」(第3頁左上欄11?14行)

f 「このゴム組成物を所望の金型中で通常100?250℃で加熱することによってゴム加硫物が得られる。この加硫物は、耐油性、耐屈曲性、耐熱性、耐寒性及び耐動的オゾン性が総合的に優れているので、自動車のホースカバー等のほか、特にダストカバーブーツ及びベルト等の動的特性を必要とする部品に有用である。」(第3頁左下欄9?15行)

g 「実施例1
有機アルミニウム化合物系重合触媒を用いて公知の溶液重合法により調製したエビクロルヒドリン-プロピレンオキシド-アリルグリシジルエーテル系共重合体ゴムを下記の配合処方に従って他の配合剤とともに冷却ロールで混合し、170℃で15分間加圧加熱し加硫物を調製した。
配合処方
エピクロルヒドリン-プロピレンオキシド-
アリルグリシジルエーテル系共重合体ゴム 100(重量部)
ステアリン酸 3
無水けい酸^(*1) 30
含水けい酸^(*2) 2.5
γ-アミノプロピルトリエトキシシラン^(*3) 2
酸化マグネシウム 3
2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン 0.9
1,3-ジフェニルグアニジン 0.5
ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル 1.5
^(*1) 日本アエロジル社製品 アエロジル380
^(*2) シオノギ製薬社製品 カープレックス#1120
^(*3) 日本ユニカー社製品 A-1100
加硫物の特性測定はJISK-6301により行った。グリース浸せき試験は、グリースとしてモリレックスNo.2(協同油脂社製品)を使用し、JISK-6301の浸漬試験に準じて行った。動的オゾン劣化試験は40℃雰囲気、オゾン濃度50pphmとし、試験片に0?30%の伸長を与え、動的条件下で行い、き裂状態を判定した。
結果を第1表に示す。表より、比較例5の加硫物は耐寒性が不良であり、不適であることがわかる。
・・・
実施例3
エピクロルヒドリン(30モル%)-プロピレンオキシド(67モル%)-アリルグリシジルエーテル(3モル%)の共重合体ゴムを用い、第4表に示した配合処方によったほかは実施例1と同様の実験を行った。結果を第5表に示す。



」(第3頁左下欄18行?第6頁最下行)

上記gによると、実施例3の本発明例17は、共重合体ゴム100重量部、ステアリン酸3重量部、酸化マグネシウム3重量部、2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン0.9重量部、1,3-ジフェニルグアニジン0.5重量部、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル1.5重量部、含水けい酸である「カープレックス1120」(シオノギ製薬社)2.5重量部、含水けい酸である「ニップシール VN-3」(日本シリカ社)40重量部、ビス-〔3-(トリエトキシシリル)-プロピル〕-テトラスルフィドである「Si69」(デグッサ社)2重量部からなるゴム組成物であり、上記共重合体ゴムは、エピクロルヒドリン(30モル%)-プロピレンオキシド(67モル%)-アリルグリシジルエーテル(3モル%)である。
そうすると、甲2には、次の発明が記載されているといえる。

「エピクロルヒドリン(30モル%)-プロピレンオキシド(67モル%)-アリルグリシジルエーテル(3モル%)の共重合体ゴム100重量部、ステアリン酸3重量部、酸化マグネシウム3重量部、2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン0.9重量部、1,3-ジフェニルグアニジン0.5重量部、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル1.5重量部、含水けい酸である「カープレックス1120」(シオノギ製薬社)2.5重量部、含水けい酸である「ニップシール VN-3」(日本シリカ社)40重量部、ビス-〔3-(トリエトキシシリル)-プロピル〕-テトラスルフィドである「Si69」(デグッサ社)2重量部からなるゴム組成物」(以下、「甲2発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「エピクロルヒドリン(30モル%)-プロピレンオキシド(67モル%)-アリルグリシジルエーテル(3モル%)の共重合体ゴム」及び「2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン」は、本件発明1の「(A)エピクロルヒドリン系重合体」及び「(C)塩素原子の反応性を利用する架橋剤」に相当する。
また、甲2発明の「含水けい酸」はシリカであり、甲2発明の「ビス-〔3-(トリエトキシシリル)-プロピル〕-テトラスルフィド」は、上記ア(ア)bによるとシラン系カップリング剤であるから、甲2発明はシリカ及びシランカップリング剤を含有する限りにおいて本件発明1と共通する。
そうすると、本件発明1は、「(A)エピクロルヒドリン系重合体、シリカ、(C)塩素原子の反応性を利用する架橋剤、及びシランカップリング剤を含有する組成物」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点2a:本件発明1は、「(B)表面処理シリカ」が「クロロアルキル系シランカップリング剤で表面処理されている」のに対して、甲2発明は、「含水けい酸」及びクロロアルキル系シランカップリング剤でない「ビス-〔3-(トリエトキシシリル)-プロピル〕-テトラスルフィド」が別々に配合されたものである点。

相違点2b:本件発明1は、「自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物」であるのに対して、甲2発明は、「ゴム組成物」である点。

(イ)検討
まず、相違点2aについて検討する。
甲2には、シランカップリング剤の代表例の一つとして、γ-クロロプロピルトリメトキシシランが記載されてはいる(上記ア(ア)d)。
また、甲2発明が解決しようとする課題は、クロロプレンゴムと同等の耐油性、耐屈曲性を保持し、かつクロロプレンゴムより耐熱性、耐寒性、耐動的オゾン性を改良したゴム組成物を提供することである(上記ア(ア)b)。
一方、甲3?甲6には、上記(1)ア(イ)?(オ)及び(1)イ(イ)で述べたとおりの事項が記載されており、甲3?甲6のいずれにも、甲2発明と共通する課題や目的は記載されておらず、また、エピクロルヒドリン系ゴム材料の高温での耐屈曲性を向上するために、クロロアルキル系シランカップリング剤で表面処理されているシリカを含有することは記載も示唆もされていないから、甲2発明において、「含水けい酸」及び「ビス-〔3-(トリエトキシシリル)-プロピル〕-テトラスルフィド」を別々に配合することに代えて、クロロアルキル系シランカップリング剤で表面処理されているシリカを含有することが動機付けられるとはいえない。
そして、上記(1)イ(イ)で述べたように、本件発明1によって奏される「引張強度等の常態物性及び耐熱性を維持しつつ、高温条件下で使用される際の屈曲耐久性に優れている。」(上記1(1)イ)という優れた効果は、実施例1から具体的に確認できる。
そうすると、本件発明1は、甲2に記載された発明、並びに甲2及び甲3?甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、相違点2bについて検討するまでもなく、甲2に記載された発明、並びに甲2及び甲3?甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明5?10について
本件発明5?10は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記イで述べたのと同じ理由により、甲2に記載された発明、並びに甲2及び甲3?甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、申立理由1-2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、5?10に係る特許を取り消すことはできない。

(3)まとめ
本件発明1、5?10は、甲1及び甲2に記載された発明、並びに甲1?甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、5?10に係る特許を取り消すことはできない。
他に本件特許の請求項1、5?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2?4は、上記第2及び第3で述べたように削除されたので、請求項2?4に係る申立ては却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エピクロルヒドリン系重合体、(B)表面処理シリカ及び(C)塩素原子の反応性を利用する架橋剤を含有し、前記表面処理シリカはクロロアルキル系シランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とする自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(B)表面処理シリカが、BET比表面積が170?220m2/g、DBP吸油量が180?220ml/100gの湿式法シリカが表面処理されたものであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物。
【請求項6】
(C)塩素原子の反応性を利用する架橋剤がキノキサリン類、チオウレア類、2,4,6-トリメルカプト-1,3,5-トリアジン、2-ヘキシルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-ジエチルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-シクロヘキシルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-アニリノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-フェニルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジンから選択されるトリアジン類から選択される少なくとも一種の架橋剤であることを特徴とする請求項1または5に記載の自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物。
【請求項7】
更に、(D)受酸剤を含有することを特徴とする請求項1、5、6のいずれかに記載の自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物。
【請求項8】
(D)受酸剤が金属化合物であることを特徴とする請求項7に記載の自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物。
【請求項9】
請求項1、5?8のいずれかに記載する自動車用ゴム部品用耐屈曲性組成物を架橋してなる自動車用ゴム部品用耐屈曲性ゴム材料。
【請求項10】
請求項9に記載する自動車用ゴム部品用耐屈曲性ゴム材料からなる自動車用ゴム部品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-14 
出願番号 特願2014-12578(P2014-12578)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大▲わき▼ 弘子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 橋本 栄和
近野 光知
登録日 2018-08-03 
登録番号 特許第6376324号(P6376324)
権利者 株式会社大阪ソーダ
発明の名称 耐屈曲性組成物及びその架橋物  

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