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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E03D
審判 全部申し立て 特29条の2  E03D
管理番号 1360449
異議申立番号 異議2019-700427  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-27 
確定日 2020-01-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6428991号発明「小便器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6428991号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6428991号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6428991号(以下「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年5月2日に出願され、平成30年11月9日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月28日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和1年 5月27日 :特許異議申立人加藤浩志(以下「申立人」という。)による請求項1?4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和1年 8月 1日付け:取消理由通知書
令和1年10月 7日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和1年12月 4日 :申立人による意見書の提出


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和1年10月7日になされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)による訂正の内容は以下のとおりである(下線は当審で付したもので、訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に係る発明の記載である
「ボウル面と、このボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口と、その上方端に形成された収納室と、を備えた小便器本体と、
この小便器本体の収納室に収納され、使用者を検知する人体検知センサと、この人体検知センサからの検知信号に基づいて洗浄水を吐水して上記ボウル面を洗浄する吐水部と、
を備えた便器洗浄装置と、を有し、」を、
「上記ボウル面、このボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口、及び収納室、を備えた小便器本体と、
使用者を検知する人体検知センサ、及びこの人体検知センサからの検知信号に基づいて洗浄水を吐水して上記ボウル面を洗浄する吐水部を備えた便器洗浄装置と、を有し、
上記収納室は、上記小便器本体の上方端に形成されると共に上記便器洗浄装置を収納するように構成され、」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?4も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0006】の記載である
「ボウル面と、このボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口と、その上方端に形成された収納室と、を備えた小便器本体と、この小便器本体の収納室に収納され、使用者を検知する人体検知センサと、人体検知センサからの検知信号に基づいて洗浄水を吐水してボウル面を洗浄する吐水部と、を備えた便器洗浄装置と、を有し、」を、
「ボウル面、このボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口、及び収納室、を備えた小便器本体と、使用者を検知する人体検知センサ、及びこの人体検知センサからの検知信号に基づいて洗浄水を吐水してボウル面を洗浄する吐水部を備えた便器洗浄装置と、を有し、収納室は、小便器本体の上方端に形成されると共に便器洗浄装置を収納するように構成され、」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に係る発明の記載である
「上記小便器本体のボウル面は、上記収納室の前面の下端から下方に延びており、
上記吐水部が設けられる上記収納室の前面は、上記ボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成され、上記吐水部は傾斜して形成された上記収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成され、」を、
「上記収納室の前面は、上記小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され、上記収納室の前面には、上記吐水部が設けられ、上記小便器本体の上記ボウル面は、上記収納室の前面の下端から連続して下方に延びており、
上記吐水部は傾斜して形成された上記収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成され、」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?4も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
明細書の段落【0006】の記載である
「小便器本体のボウル面は、収納室の前面の下端から下方に延びており、吐水部が設けられる小便器本体の収納室の前面は、ボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成され、吐水部は傾斜して形成された収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成され、」を、
「収納室の前面は、小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され、収納室の前面には、吐水部が設けられ、小便器本体のボウル面は、収納室の前面の下端から連続して下方に延びており、吐水部が設けられる小便器本体の収納室の前面は、ボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成され、吐水部は傾斜して形成された収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成され、」に訂正する。

2 一群の請求項
本件訂正前の請求項2?4は、本件訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているところ、本件訂正前の請求項1及び同請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1の訂正は、当該一群の請求項〔1?4〕に対し請求されたものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1及び3について
訂正前の請求項1に記載された「収納室」について、訂正後の請求項1において、訂正事項1に係る訂正のうち、「上記収納室は、上記小便器本体の上方端に形成されると共に上記便器洗浄装置を収納するように構成され、」とした特定を追加した訂正と、訂正事項3に係る訂正のうち、「上記収納室の前面は、上記小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され、上記収納室の前面には、上記吐水部が設けられ、」とした特定を追加した訂正は、それぞれ、収納室の位置、収納室の収納物、収納室の前面の形状、収納室の前面と吐水部の位置関係等を限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3に係る訂正のうち、ボウル面の収納室の前面の下端からの延びについて、訂正前の「下方に」を、訂正後に「連続して下方に」と追加して特定した訂正についても、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1に係る訂正のうち、訂正前の請求項1に記載された「便器洗浄装置」について「この小便器本体の収納室に収納され、」とされた特定を削除した訂正と、訂正事項3に係る訂正のうち、訂正前の請求項1から「上記吐水部が設けられる上記収納室の前面は、上記ボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成され、」を削除した訂正については、いずれも、訂正事項1及び3の訂正により追加された上記の内容と重複する記載を削除することにより、請求項1の記載を明確にするものであるから、これらの訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げられた事項である明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項1に係る訂正のうち、「ボウル面と、」、「排水口と、」、「収納室と、」、「人体検知センサと、」、「吐水部と、を」を、それぞれ、「上記ボウル面、」、「排水口、及び」、「収納室、」、「人体検知センサ、及び」、「吐水部を」とした訂正については、訂正前の請求項1において特定された小便器の各部位の並列関係を明確にしたものであり、また、訂正事項3に係る訂正のうち、「ボウル面」を、「上記ボウル面」とした訂正については、前に記載された部位と同一部位であることを明確にするためのものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げられた事項である明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

そして、訂正前の請求項1に記載された「収納室」について、「上記収納室は、上記小便器本体の上方端に形成されると共に上記便器洗浄装置を収納するように構成され、」と特定し、「上記収納室の前面は、上記小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され、上記収納室の前面には、上記吐水部が設けられ、」と特定することについては、願書に添付した明細書の段落【0016】の「小便器1の小便器本体2は、上方端に上述した自動便器洗浄ユニット4を収納するための収納室6と、この収納室6の前面7から下方に延びるボウル面8と、このボウル面8の底部に形成された排出口10とを備えている。」とされた記載、同じく段落【0018】の「次に、図5乃至図8により、自動便器洗浄ユニット4について説明する。図5は本発明の実施形態による小便器の自動便器清浄ユニット(便器清浄装置)を示す斜視図であり、図6は図5の自動便器清浄ユニットの側面図であり、」とされた記載、同じく段落【0019】の「自動便器洗浄ユニット4は、上流側から洗浄水を供給する給水管14と、この給水管14の先端に取り付けられた吐水部であるスプレッダ16と、使用者の有無を検知する人体検知センサ18と、給水管14に取り付けられ給水の供給及び停止を行う電磁弁20と、人体検知センサ18からの検知信号に基づいて電磁弁20のオン・オフを制御する制御ユニット22と、を備えている。」とされた記載、同じく段落【0026】の「先ず、本実施形態による小便器1は、自動便器洗浄ユニット4が小便器本体2の上方端に形成された収納室6内に収納されたタイプの小便器である。」とされた記載、訂正前の請求項1の「上記小便器本体のボウル面は、上記収納室の前面の下端から下方に延びており、上記吐水部が設けられる上記収納室の前面は、上記ボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成され、上記吐水部は傾斜して形成された上記収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成され、」とされた記載、願書に添付された図面の【図1】及び【図3】から、収納室の前面が小便器本体2の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成された点が看取されること等に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2及び4について
訂正事項2及び4に係る訂正は、訂正前の段落【0006】の記載を、訂正事項1及び3によって訂正される特許請求の範囲の請求項1の記載に整合させたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げられた事項である明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正は、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

4 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1?4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

5 まとめ
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

1 本件発明1
「【請求項1】
洗浄水によりボウル面を洗浄する小便器であって、
上記ボウル面、このボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口、及び収納室、を備えた小便器本体と、
使用者を検知する人体検知センサ、及びこの人体検知センサからの検知信号に基づいて洗浄水を吐水して上記ボウル面を洗浄する吐水部を備えた便器洗浄装置と、を有し、
上記収納室は、上記小便器本体の上方端に形成されると共に上記便器洗浄装置を収納するように構成され、
上記収納室の前面は、上記小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され、上記収納室の前面には、上記吐水部が設けられ、上記小便器本体の上記ボウル面は、上記収納室の前面の下端から連続して下方に延びており、
上記吐水部は傾斜して形成された上記収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成され、
上記小便器本体の収納室の前面と上記ボウル面は、一体構造であり、且つ、上記ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され、小便がボウル面に当たった後に下方に落下するように構成されている小便器。」

2 本件発明2
「【請求項2】
上記小便器本体の収納室の前面は、上記排水口の中心よりも後方に位置している請求項1に記載の小便器。」

3 本件発明3
「【請求項3】
上記小便器本体の収納室の前面は、平面視で、その中央部が両端部よりも後方に位置するように構成されている請求項1又は2に記載の小便器。」

4 本件発明4
「【請求項4】
上記人体検知センサは、上記吐水部と一体構造である請求項1乃至3の何れか1項に記載の小便器。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して、当審が令和1年8月1日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)拡大先願
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた下記の甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

・甲第1号証:特開2014-70376号公報(特願2012-215711号の公開公報)

(2)進歩性
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1、引用文献2及び引用文献3、若しくは引用文献4、引用文献2及び引用文献3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

・引用文献1:意匠登録第1020154号公報(甲第4号証)
・引用文献2:特開平7-207741号公報(平成30年3月12日付けの拒絶理由通知書における引用文献1)
・引用文献3:特開平9-165809号公報(甲第2号証)
・引用文献4:中国特許出願公開第102535602号公報(甲第5号証)


第5 証拠
・甲第1号証:特開2014-70376号公報(特願2012-215711号の公開公報)
・引用文献1:意匠登録第1020154号公報(甲第4号証)
・引用文献2:特開平7-207741号公報(平成30年3月12日付けの拒絶理由通知書における引用文献1)
・引用文献3:特開平9-165809号公報(甲第2号証)
・引用文献4:中国特許出願公開第102535602号公報(甲第5号証)

1 甲第1号証について
(1)甲第1号証の記載(下線は決定で付した。以下同様。)

ア 「【0006】
上記目的を達成するための手段を図面の参照符号を付して示せば、請求項1の発明に係る男性用水洗トイレは、便器面2の正面側が、その上端から下部にわたって下方ほど内奥側に位置する前傾部21を構成し、この前傾部21の下端から凹湾曲部22を経て排水口3への下り勾配部23へ移行すると共に、該便器面2の正面側の上部に、前傾部21の傾斜に沿って斜め下向きに洗浄水Wを吐出する洗浄ノズル4を備えることを特徴としている。」

イ 「【0010】
次に、本発明の効果について図面の参照符号を付して説明する。まず、請求項1の発明に係る男性用水洗トイレにおいては、洗浄ノズル4より吐出された洗浄水Wは、便器面2の正面側において前傾部21に沿って流下し、凹湾曲部22及び下り勾配部23を経て下端の排水口3へ流入する。しかして、該便器面2の前傾部21が下部ほど内奥側に位置し、且つ該前傾部21の最内奥の下端から流下面が凹湾曲部22を介して滑らかに下り勾配部23へ移行するから、洗浄ノズル4からの洗浄水Wの流出圧力を高くしても、便器面2の下部では飛沫が発生しにくい上、その発生位置が便器面2の最内奥になるため、少量の飛沫が発生しても便器外までは飛散せず、もって高い流出圧力で充分な洗浄力を発揮させることができる。また、放尿の際、便器面2の正面側が前傾部21になっているから、該前傾部21に当たった小水Uの反射方向が垂直面に対する反射方向よりも下向きになることに加え、便器面2の形状から使用者が放尿方向を下部奥側へ向け易いという心理的効果もあるため、小水Uの跳ね返りの飛沫が便器外へ飛散することも少なくなる。」

ウ 「【0016】
図1及び図2に示すように、この男性用水洗トイレは、便器本体1の前面側に構成される凹形の便器面2の底部に目皿6を嵌合した排水口3、同上部に洗浄ノズル4を備えると共に、便器本体1の頂部前壁1aには利用者の存在を検知するための光学センサ等よりなる人体検知手段5が設けられている。そして、排水口3の直下には、後述する洗浄水循環機構を構成する切換弁ユニット7を介して、下水道に繋がるトラップ8a付きの排水管8が接続されている。」

エ 「【0017】
便器面2の正面側は、図1に示すように、その上端から下部にわたって下方ほど内奥側に位置する前傾部21を構成し、この前傾部21の下端から凹湾曲部22を経て排水口3への緩やかな下り勾配部23へ移行しており、これによって底部が奥まって前後方向に広くなっている。そして、前傾部21は、若干凹湾曲した上部側21aの垂直面に対する前傾角度が下部側21bの同前傾角度よりも大きく設定されている。また、前傾部21の上端は便器本体1の頂部前壁1aの下端に連続しており、該前傾部21の傾斜形態と相俟って便器本体1の上部に広い内部空間10が構成されている。」

オ 「【0018】
洗浄ノズル4は、図3に示すように、正面視で横長楕円形のケース40の下縁に沿って複数(図では6つ)の吐出孔41が形成されており、導入口42から流入した洗浄水Wを左右方向の拡がりをもって便器面2の前傾部21に沿って斜め下向きに吐出するように構成されている。」

カ 「【0022】
更に、このような男性用水洗トイレでは、便器面2の正面側が前傾部21をなすことで、便器本体1の上部の内部空間10が大きくなるから、この内部空間10を利用してポンプやタンク等の様々な機器類や付属物品等を配置できる。特に実施形態のように、便器面2の前傾部21の上端が便器本体1の頂部前壁1aの下端に連続した構造では、便器本体1の上部の内部空間10がより大きくなり、それだけ該内部空間10における機器類や付属物品等の配置構成の自由度が高まると共にサイズの制約も少なくなる。とりわけ、循環式の男性用水洗トイレの場合、洗浄水循環機構Sを構成する大きくの機器類を便器本体内に配置する必要があるが、図1及び図2に示すように、上部の広い内部空間10に、循環ポンプP1、吐出ポンプP2、サブタンクT2、薬液タンクT3、制御装置C等を収容でき、これによってメンテナンス作業も上位置で容易に行えるという利点がある。」

キ 「【0025】
この洗浄水循環機構Sが例えば2段洗浄方式に設定されている場合、待機状態では排水口3からの排水流路が排水管8側に繋がっており、利用者が便器面2の前に立ったことを人体検知手段5にて検出すると、その時点もしくは利用者が排尿後に離れた直後に、初期洗浄として洗浄ノズル4から少量(例えば150ml程度)の洗浄水Wが吐出され、その前洗浄の洗浄水Wと小水Uが排水管8へ排出される。次いで、利用者が離れてから一定時間後(例えば8秒後)、切換弁ユニット7が排水流路を回収流路L1側に切換えると共に、本洗浄として洗浄ノズル4から比較的多量(例えば1000ml程度)の洗浄水Wが流され、この本洗浄の洗浄水Wが回収流路L1より洗浄水貯留タンクT1へ導かれて回収される。」

ク 図1

ケ 図2

コ 図3

サ 上記ウ及び上記カの記載を踏まえると、[図1]及び[図2]からは、人体検知手段5が、循環ポンプP1、吐出ポンプP2、サブタンクT2、薬液タンクT3、制御装置C等を収容した上記上部の広い内部空間10に収容されている点、人体検知手段5、循環ポンプP1、吐出ポンプP2、サブタンクT2、薬液タンクT3、制御装置C等を収容した上記上部の広い内部空間10の前面が、下方へ前方に向かって傾斜する部分を有する頂部前壁1aと、上記頂部前壁1aの下端から連続して下方に延びる凹形の便器面2の上方の一部であって下方へ後方に向かって傾斜する傾斜面と、により形成された点、上記頂部前壁1aと上記凹形の便器面2が一体構造である点、及び、上記凹形の便器面2が、前傾して円弧形状に形成された点が看取される。

シ 上記ウ及び上記オの記載を踏まえると、[図1]及び[図3]からは、洗浄ノズル4の吐出孔41が上部の広い内部空間10の前面に設けられた点、上記洗浄ノズル4の吐出孔41からの洗浄水が、傾斜して形成された上記上部の広い内部空間10の前面に向けて吐出される点が看取される。

ス なお、上記エに摘記した段落【0017】には、「便器面2の正面側は、図1に示すように、その上端から下部にわたって下方ほど内奥側に位置する前傾部21を構成し、」と記載されており、この記載は、「便器面2の正面側は、図1に示すように、便器面2の正面側の上端から下部にわたって下方ほど内奥側に位置する前傾部21を構成し、」とも解しうるが、図1からは、「便器面2の正面側の上端から下部にわたって下方ほど内奥側に位置する前傾部21」を看て取ることができないことから、この記載は、「便器面2の正面側は、図1に示すように、前傾部21の上端から下部にわたって下方ほど内奥側に位置する前傾部21を構成し、」を意味するものと認められる。

(2)甲第1号証に係る特許出願の明細書等に記載された発明

上記(1)ア?スを総合すると、甲第1号証に係る特願2012-215711号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「洗浄水を、便器面の前傾部に沿って流下させ凹湾曲部及び下り勾配部を経て下端の排水口へ流入させる男性用水洗トイレであって、
便器本体の前面側に上記凹形の便器面を構成し、上記凹形の便器面の底部には、下水道に繋がる排水管が接続された排水口を設け、上記便器本体には、循環ポンプ、吐出ポンプ、サブタンク、薬液タンク、制御装置等を収容した上部の広い内部空間を備え、
便器本体の上記上部の広い内部空間に収容され、利用者の存在を検知するための人体検知手段と、利用者が上記便器面の前に立ったことを上記人体検知手段が検出すると、初期洗浄として少量の洗浄水を吐出し、次いで、利用者が離れてから一定時間後、本洗浄として比較的多量の洗浄水が流れるようにした洗浄ノズルの吐出孔と、を設け、
上記洗浄ノズルの吐出孔が設けられる上記上部の広い内部空間の前面は、下方へ前方に向かって傾斜する部分を有する頂部前壁と、上記頂部前壁の下端から連続して下方に延びる凹形の便器面の上方の一部であって下方へ後方に向かって傾斜する傾斜面と、により形成され、上記洗浄ノズルの吐出孔からの洗浄水が、傾斜して形成された上記上部の広い内部空間の前面に向けて吐出され、
上記頂部前壁と上記凹形の便器面が、一体構造であり、上記凹形の便器面が、前傾して円弧形状に形成され、上記凹形の便器面の正面側が、その上端から下部にわたって下方ほど内奥側に位置する前傾部を構成し、上記前傾部に当たった小水の反射方向が垂直面に対する反射方向よりも下向きになる、
男性用水洗トイレ。」

2 引用文献1(甲第4号証)について
(1)引用文献1の記載

ア A-A断面図

イ B-B断面図

ウ 正面図

エ 使用状態を示す参考図

オ 上記アの「A-A断面図」からは、引用文献1に記載された「取付用小便器」が、ボウル面と、上記ボウル面の底部に形成された上下方向の開口と、上記ボウル面の背面側(当審注:A-A断面図における右側)に形成された空間と、を備えた小便器本体からなり、上記空間は、小便器本体の上方端に区画された小空間と、上記小空間の下方且つボウル面の上方に形成された略水平方向の開口の近傍に位置する上方空間とを含み、上記ボウル面は、上記小空間及び上記上方空間の前面の下端から連続して下方に延びており、上記小空間及び上記上方空間の前面は、小便器本体の上端から下方へ前方に向かって傾斜した後、上記ボウル面と連続し且つ下方へ後方に向かって傾斜して形成され、上記小空間及び上記上方空間の前面と上記ボウル面は、一体構造であり、且つ、上記ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され、上記小空間及び上記上方空間の前面が、上記上下方向の開口の中心よりも後方に位置したものであることが看て取れる。

カ 取付用小便器の上から1/3程度の高さ位置における上記イの「B-B断面図」における断面形状を踏まえて上記アの「A-A断面図」を看ると、引用文献1に記載された「取付用小便器」における上記小空間及び上記上方空間の前面は、平面視で、その中央部が両端部よりも後方に位置した点を備えていると認められる。

(2)引用文献1に記載された発明

上記(1)ア?カを総合すると、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明1」という。他の引用文献についても同じ。)が記載されていると認められる。
「ボウル面と、このボウル面の底部に形成された上下方向の開口と、上記ボウル面の背面側に形成された空間と、を備えた小便器本体を有し、上記空間は、小便器本体の上方端に区画された小空間と、上記小空間の下方且つボウル面の上方に形成された略水平方向の開口の近傍に位置する上方空間とを含み、上記ボウル面は、上記小空間及び上記上方空間の前面の下端から下方に延びており、上記小空間及び上記上方空間の前面は、小便器本体の上端から下方へ前方に向かって傾斜した後、上記ボウル面と連続し且つ下方へ後方に向かって傾斜して形成され、上記小空間及び上記上方空間の前面と上記ボウル面は、一体構造であり、且つ、上記ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され、上記小空間及び上記上方空間の前面が、上記上下方向の開口の中心よりも後方に位置しており、上記小空間及び上記上方空間の前面は、平面視で、その中央部が両端部よりも後方に位置するように構成された取付用小便器。」

3 引用文献2について
(1)引用文献2の記載

ア 「【0008】【実施例】図1、図2に示すように小便器本体1には前面を開口せる便器ボウル2を設けてあり、便器ボウル2の背面6の上部に洗浄水を吐出する洗浄ノズル3を横に長くなるように設けてある。」

イ 「【0009】図3は他の実地例を示す。本実施例の場合、給水管路9の主給水パイプ9aに電磁弁のような第1開閉弁11aを設けてあると共に給水管路9の副給水パイプ9bに電磁弁のような第2開閉弁11bを設けてある。洗浄ノズル3の上方には人体を検知するセンサー12を設けてあり、このセンサー12の検知に基づいて制御ボックス13の制御回路にて第1開閉弁11aや第2開閉弁11bが制御されるようになっている。センサー12が用便を終えて人が立ち去ったのを検知したとき、第1開閉弁11aが開かれて洗浄ノズル3から洗浄水を吐出して本洗浄され、本洗浄を行ってから所定時間tを経過したとき第2開閉弁11bが開かれて吐水口8から洗浄水が吐水されて副洗浄されるように制御されるようになっている。」

ウ 図3

エ 上記アないしイの記載を踏まえると、上記ウの[図3]からは、小便器本体1の「上方端に形成された上部の広い内部空間」に、センサー12を収納していることが看て取れる。

(2)引用文献2に記載された発明

上記(1)ア?エを総合すると、引用文献2には、以下の引用発明2が記載されていると認められる。
「小便器本体の上方端に形成された上部の広い内部空間に人体を検知するセンサーを収納し、上記センサーの検知に基づいて洗浄ノズルから洗浄水を吐出して洗浄する小便器本体。」

4 引用文献3(甲第2号証)について
(1)引用文献3の記載

ア 「【0002】【従来の技術及びその課題】従来、図7に正面図で、また図8に側面断面図で示すように、小便器1の背壁面1aの上部部位にはスプレッダー4が取り付けられており、このスプレッダー4は小便器1の上面に接続された給水管2にホース3を介し接続されており、給水管2から供給される洗浄水がスプレッダー4から背壁面1aに射水されて背壁面1aを洗浄するように構成されている。この従来のスプレッダー4は図9に拡大断面図で示すように、前記背壁面1aに平行な射水口5を形成したものであり、この図9のような従来構造においては、射水口5からの射水に整流効果があまりなく、給水管2側が高圧時や射水開始時等において射水が背壁面1aから剥がれやすく、飛沫が発生しやすいという問題点があった。」

イ 「【0004】【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は、第1実施例のスプレッダーの断面拡大構成図であり、本例のスプレッダー4は、小便器1の背壁面1a内に挿着される挿着管部4aと、この挿着管部4aの先端から拡径し背壁面1aの前面に当接状となる当接部4bと、前面を覆蓋する覆蓋部4cを有しており、覆蓋部4cの下端側には射水口5が形成されているが、覆蓋部4cの下端部側内面には傾斜した傾斜面6が形成されており、また、この傾斜面6と平行に前記当接部4bの内面にも傾斜面7が形成されており、この平行な傾斜面6と7により傾斜した傾斜流路R2が形成されている。」

ウ 「【0005】従って、前記給水管2に接続されたホース3側から洗浄水路R1を流れてくる洗浄水は前記覆蓋部4cに当接し、傾斜面6,7に沿って傾斜流路R2を流れ、射水口5から背壁面1aに向かって射水されるものであり、この時に傾斜面6,7は背壁面1aに対し角度が設定されているため、射水口5からの射水は背壁面1aから剥がれることなく背壁面1aに沿って確実に流下されるものであり、従来のように背壁面1aの前面側へ飛散する飛沫が発生することが極めて少なくなる。」

エ 図8

オ 上記アの記載を踏まえると、上記エの[図8]からは、小便器1が、背壁面1aと、上記背壁面1aに連続した底部とを備え、底部に孔を設けた点、スプレッダー4の上流側端部が、小便器1の上方端に形成された上部の広い内部空間に収納された点、背壁面1aの上方の一部であって、小便器1の上方端に形成された上部の広い内部空間の前面が、小便器1の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成された点、が看て取れる。

(2)引用文献3に記載された発明

上記(1)ア?オを総合すると、引用文献3には、以下の引用発明3が記載されていると認められる。
「小便器1が、背壁面1aと、背壁面1aに連続した底部とを備え、底部に孔を設け、背壁面1aの上部部位にはスプレッダー4が取り付けられ、スプレッダー4の上流側端部は、小便器1の上方端に形成された上部の広い内部空間に収納されており、スプレッダー4は小便器1の上面に接続された給水管2にホース3を介し接続されており、給水管2から供給される洗浄水がスプレッダー4から背壁面1aに射水されて背壁面1aを洗浄するように構成され、スプレッダー4の覆蓋部4cの下端側には射水口5が形成されているが、覆蓋部4cの下端部側内面には傾斜した傾斜面6が形成されており、また、この傾斜面6と平行に前記当接部4bの内面にも傾斜面7が形成されており、この平行な傾斜面6と7により傾斜した傾斜流路R2が形成され、傾斜面6,7に沿って傾斜流路R2を流れ、射水口5から背壁面1aに向かって射水されるものであり、この時に傾斜面6,7は背壁面1aに対し角度が設定されているため、射水口5からの射水は背壁面1aから剥がれることなく背壁面1aに沿って確実に流下されるものであり、背壁面1aの上方の一部であって、小便器1の上方端に形成された上部の広い内部空間の前面が、小便器1の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成された小便器1」

5 引用文献4(甲第5号証)について
(1)引用文献4の記載




(仮訳(申立人が作成した仮訳を参考に当審で作成した仮訳である。以下同様。):本発明の弁構造100を小便器200に取り付ける際には、図1に示すような態様が例として提示される。弁構造100は便器210の下方に取り付けられている。液体媒体、好ましくは洗浄水を放出するために、便器210の上端に洗浄装置160が設けられている。便器210の下部領域には1つの排水口211が配置されており、好ましくは1つのフィルタを用いて排水口が覆われ、フィルタの縁は便器と一緒に連接固定されている。便器の排水口211に排水管221、222が接続され、弁構造100はその中に設けられている。そのすぐ下に中間容器223が配置され、導管224を介して排水導管システム(図示せず)に接続される。)




(仮訳:小便器が使用される時、フラッドセンサー170は、排出されるべき媒体が逆流防止弁120に一杯になったことを検出すると1個の信号を生成し、その信号を、制御ライン370を介して制御装置130に伝達する。制御装置130はその後、弁302を通って、直通防止弁110を開放し、排水された媒体を流出させる。弁303が接続されると、水管560が開き、洗浄装置160が洗浄水を放出する。この場合、制御装置130は好ましくは導通弁302を介して直通防止弁110を再び閉鎖し、直通防止弁110の閉鎖後も閉鎖時間中に洗浄装置によって洗浄水を放出する(すなわち弁303が開放状態)。このように、閉鎖時間の間に放出された洗浄水量が残留部分に相当するように閉鎖時間を決定することが好ましい。このようにして、互いに強調する時間間隔を設定することにより制御が行われる。これらの時間間隔の間、直通防止弁110はそれぞれ開状態又は閉状態にあり、洗浄装置160は洗浄水を放出するかまたは放出しない。ここで、直通防止弁110が閉じられているときに、通過流量または通過圧力に応じて洗浄装置160により放出される洗浄水の時間間隔の判定基準が、残留分に相当する量の洗浄水を放出することを保証するように決定される。)

ウ 図1

エ 上記アないしイの記載を踏まえると、上記ウの[図1]からは、小便器200が、便器210のボウル面と、上記便器210の背面側(当審注:図1の左側)に形成された空間と、を有し、上記空間の上方端に形成された所定の空間に洗浄装置160を収納するとともに、上記便器210の上記ボウル面は、上記上方端に形成された所定の空間の前面の下端から下方に延びており、上記上方端に形成された所定の空間の前面は、下方へ前方に向かって傾斜した後、上記便器210のボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成され、上記上方端に形成された所定の空間の前面と上記便器210のボウル面は、一体構造であり、且つ、上記便器210のボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され、上記上方端に形成された所定の空間の前面が、排水口211の中心よりも後方に位置しており、上記上方端に形成された所定の空間の前面は、平面視で、その中央部が両端部よりも後方に位置するように構成されていることが看て取れる。

(2)引用文献4に記載された発明

上記(1)ア?エを総合すると、引用文献4には以下の引用発明4が記載されていると認められる。
「ボウル面と、下部領域に配置されて、排水管が接続された排水口と、背面側に形成された空間の上方端に形成された所定の空間と、を備えた便器と、その中に設けられた弁構造は、小便器が使用されたことをフラッドセンサーが検出して信号を伝達すると、便器の上記上方端に形成された所定の空間に収納された洗浄装置が洗浄水を放出するように構成され、上記ボウル面は、上記上方端に形成された所定の空間の前面の下端から下方に延びており、上記上方端に形成された所定の空間の前面は、下方へ前方に向かって傾斜した後、上記ボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成され、上記上方端に形成された所定の空間の前面と上記ボウル面は、一体構造であり、且つ、上記ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成されており、上記上方端に形成された所定の空間の前面が、上記排水口の中心よりも後方に位置しており、上記上方端に形成された所定の空間の前面は、平面視で、その中央部が両端部よりも後方に位置するように構成されている、小便器。」


第6 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由のうち、特許法第29条の2(拡大先願)について

・甲第1号証:特開2014-70376号公報(特願2012-215711号の公開公報)

(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明(上記第5の1(2))とを対比する。

(ア)甲1発明における「男性用水洗トイレ」、「便器本体」、「下水道に繋がる排水管」、「利用者の存在を検知するための人体検知手段」、「吐出」は、それぞれ、本件発明1における「小便器」、「小便器本体」、「下流側の排水流路」、「使用者を検知する人体検知センサ」、「吐水」に相当する。

(イ)甲1発明における「洗浄ノズルの吐出孔」と「吐出ポンプ」を合わせたものは、本件発明1の「吐水部」に相当する。

(ウ)甲1発明における「凹型の便器面」は、その「上方の一部」が上部の広い内部空間の前面を形成するものであるところ、当該「上方の一部」を除いた「凹型の便器面」は、本件発明1における「ボウル面」に相当する。

(エ)甲1発明は、洗浄水を、「便器面」(ボウル面)の「前傾部に沿って流下させ凹湾曲部及び下り勾配部を経て下端の排水口へ流入させる」ものであるから、洗浄水により、便器面(ボウル面)を「洗浄する」ことになるのは自明である。

(オ)甲1発明の「排水口」は、「下水道に繋がる排水管」(下流側の排水流路)が接続されたものであり、上記「排水口」から洗浄水を上記排水管に「排出」していることは自明である。

(カ)甲1発明は、利用者が便器面(ボウル面)の前に立ったことを人体検知手段(人体検知センサ)が検出すると、初期洗浄として少量の洗浄水を吐出し、次いで、利用者が離れてから一定時間後、本洗浄として比較的多量の洗浄水が流れるようにしたものであり、上記「初期洗浄」や上記「本洗浄」が、人体検知手段(人体検知センサ)からの「検知信号に基づい」て行われることは当業者にとって技術常識であるから、甲1発明は、本件発明1と同様に、「人体検知センサからの検知信号に基づいて洗浄水を吐水してボウル面を洗浄する」ものであり、また、甲1発明の「人体検知手段」(人体検知センサ)と「吐出ポンプ」(吐水部)とを備えたものは、本件発明1の「便器洗浄装置」に相当する。

(キ)甲1発明の「循環ポンプ、吐出ポンプ、サブタンク、薬液タンク、制御装置等を収容した上部の広い内部空間」は、その下部にあたる空間との間に明確な仕切りを設けてはいないものの、「上部の広い内部空間」として、他と区別して認識される空間であるのだから、本件発明1の、「小便器本体の上方端」において「収納室」として「形成され」たものに相当し、「吐出ポンプ」(吐水部)を「収容」しているのであるから、「便器洗浄装置」を「収納」するものであるといえる。

(ク)甲1発明において、「洗浄ノズルの吐出孔」(吐水部)が設けられる「上部の広い内部空間」(収納室)の「前面」は、「頂部前壁と、上記頂部前壁の下端から連続して下方に延びる凹形の便器面の上方の一部であって下方へ後方に向かって傾斜する傾斜面と、により形成され」たものであるから、本件発明1とは、「収納室の前面」が、「下方へ後方に向かって傾斜して形成され」た部分を有し、当該「収納室の前面」に「吐水部が設けられ」た点で共通する。

(ケ)甲1発明において、「上部の広い内部空間」(収納室)の「前面」は、「頂部前壁と、上記頂部前壁の下端から連続して下方に延びる凹形の便器面の上方の一部であって下方へ後方に向かって傾斜する傾斜面と、により形成され」たものであり、その「下端」、すなわち「上記頂部前壁の下端から連続して下方に延びる凹形の便器面の上方の一部であって下方へ後方に向かって傾斜する傾斜面」の「下端」と、甲1発明の「凹型の便器面」における「上方の一部」を除いた部分(ボウル面)とが、凹型の便器面として「連続して」延びていることは明らかである。また、甲1発明において、「上記頂部前壁と上記凹形の便器面が、一体構造」であるのだから、「頂部前壁」と「凹形の便器面の上方の一部」である「傾斜面」とにより形成された「上部の広い内部空間」(収納室)の「前面」が、甲1発明の「凹型の便器面」における「上方の一部」を除いた部分(ボウル面)と「一体構造」であることも明らかである。したがって、甲1発明は、本件発明1と同様に、「ボウル面は、収納室の前面の下端から連続して下方に延び」、「小便器本体の収納室の前面とボウル面は、一体構造」である構成を備えたものであるといえる。

(コ)甲1発明において、「上記洗浄ノズルの吐出孔」(吐水部)からの「洗浄水」が、「傾斜して形成され」た「上部の広い内部空間」(収納室)の「前面に向け」て「吐出」(吐水)されることは、本件発明1における「吐水部は傾斜して形成された収納室の前面に向けて洗浄水を吐水する」ことに相当する。

(サ)甲1発明において、「凹形の便器面」(ボウル面)が、「前傾して円弧形状に形成され」、「正面側が、その上端から下部にわたって下方ほど内奥側に位置する前傾部を構成」されていることは、本件発明1における「ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され」ることに相当する。

(シ)甲1発明は、凹型の便器面(ボウル面)の正面側の前傾部に当たった小水の反射方向が垂直面に対する反射方向よりも下向きになるものであるから、本件発明1と同様に、「小便がボウル面に当たった後に下方に落下するように構成され」た点を備えていることが明らかである。

(ス)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点1で相違する。

(一致点)
「洗浄水によりボウル面を洗浄する小便器であって、
上記ボウル面、このボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口、及び収納室、を備えた小便器本体と、
使用者を検知する人体検知センサ、及びこの人体検知センサからの検知信号に基づいて洗浄水を吐水して上記ボウル面を洗浄する吐水部を備えた便器洗浄装置と、を有し、
上記収納室は、上記小便器本体の上方端に形成されると共に上記便器洗浄装置を収納するように構成され、
上記収納室の前面に、下方へ後方に向かって傾斜して形成された部分を有し、上記収納室の前面には、上記吐水部が設けられ、上記小便器本体の上記ボウル面は、上記収納室の前面の下端から連続して下方に延びており、
上記吐水部は傾斜して形成された上記収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成され、
上記小便器本体の収納室の前面と上記ボウル面は、一体構造であり、且つ、上記ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され、小便がボウル面に当たった後に下方に落下するように構成されている小便器。」

(相違点1)
収納室の前面に「下方へ後方に向かって傾斜して形成された部分」を有した点について、本件発明1では、上記の「部分」が、「小便器本体の上端」から形成されたものであるのに対し、甲1発明では、上記の「部分」が、「下方へ前方に向かって傾斜する部分を有する頂部前壁」の「下端から連続して下方に延びる」ものである点。

イ 相違点についての判断
甲1発明は、「上記上部の広い内部空間の前面は、下方へ前方に向かって傾斜する部分を有する頂部前壁と、上記頂部前壁の下端から連続して下方に延びる凹形の便器面の上方の一部であって下方へ後方に向かって傾斜する傾斜面と、により形成され」たものであって、甲第1号証には、「収納室の前面」の、「下方へ後方に向かっ傾斜して形成された部分」が、「小便器本体の上端」から形成された点が開示されていない。
そして、本件発明は、「従来の小便器においては、ボウル面の上方に自動洗浄ユニットが配置され、且つ、センサがボックスの前面に設けられた窓部に臨んで配置されているので、使用者がボウル面に近づき難く、その結果、使用者は、ボウル面から離れた位置に立ち、用を足すことになるので、小便(尿)がフロアに垂れて汚れ易く、また、不衛生となり、清掃に手間がかかる」(段落【0004】)という問題を認識し、相違点1に係る構成を備えることによって、「小便器本体の上方端に形成された収納室に便器洗浄装置が収納された小便器であっても、小便器本体の収納室の前面がボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成されているので、使用者は、小便器のボウル面に近づき易くなる。それにより、使用者は、ボウル面に近づいた位置で用を足すことができ、それにより、フロア等が清潔となり、清掃の手間を少なくすることができる。」(段落【0006】)という効果が奏される。
よって、本件発明1は甲1発明と同一ではない。

ウ 申立人の意見について
申立人は、上記相違点1について、令和1年12月4日提出の意見書において、「訂正事項3における『上記収納室の前面は、上記小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され』を、訂正発明1と甲1発明との相違点と認定したとしても、当該相違点に係る発明特定事項は周知慣用手段であって(甲4、甲5参照)、当該発明特定事項に何らの技術的意味も存在せず、当該相違点は単なる設計的事項であり実質的な相違点でない。令和1年10月7日付け意見書も、単に甲1発明に記載されていないと述べるに止まる。」(意見書第11ページ下から6行?下から1行)と主張する。
しかしながら、甲第4号証に記載された発明(引用発明1)は「上記小空間及び上記上方空間の前面は、小便器本体の上端から下方へ前方に向かって傾斜した後、上記ボウル面と連続し且つ下方へ後方に向かって傾斜して形成され」たものであり、甲第5号証に記載された発明(引用発明4)は「上記上方端に形成された所定の空間の前面は、下方へ前方に向かって傾斜した後、上記ボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成され」たものであって、甲第4号証、甲第5号証のいずれにも、「上記収納室の前面は、上記小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され」た点が開示されておらず、また仮に開示されていたとしても、それらを周知慣用手段として甲1発明に採用する動機付けが見いだせないし、この点を設計的事項とする理由もない。
そうすると、申立人の上記主張には理由がない。

(2)本件発明2?3について

本件発明2?3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに減縮した発明であるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明と同一ではない。

(3)小括

本件発明1?3は、甲1発明と同一ではない。

2 取消理由通知に記載した取消理由のうち、特許法第29条第2項(進歩性)について

(1)引用文献1、2、3に基づく特許法第29条第2項(進歩性)について

・引用文献1:意匠登録第1020154号公報(甲第4号証)
・引用文献2:特開平7-207741号公報
・引用文献3:特開平9-165809号公報(甲第2号証)

ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1(上記第5の2(2))とを対比する。

a 引用発明1における「取付用小便器」は、本件発明1における「小便器」に相当する。

b 引用発明1における「取付用小便器」(小便器)が、本件発明1と同様に、「ボウル面を洗浄する吐水部を備えた便器洗浄装置」を有して、「洗浄水によりボウル面を洗浄する」ものであることは、当業者にとって自明である。

c 引用発明1における「ボウル面の底部に形成された上下方向の開口」が、本件発明1における「ボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口」に相当することは、開口の位置を考慮すると、当業者にとって自明である。

d 引用発明1において、「ボウル面の背面側に形成された空間」に含まれる「小便器本体の上方端に区画された小空間と、上記小空間の下方且つボウル面の上方に形成された略水平方向の開口の近傍に位置する上方空間」と、本件発明1の「小便器本体の上方端に形成され」た「収納室」とは、「小便器本体の上方端に形成された所定の空間」である点で共通する。

e 引用発明1の「ボウル面」は、「ボウル面の背面側に形成された空間に含まれた、小便器本体の上方端に区画された小空間と、上記小空間の下方且つボウル面の上方に形成された略水平方向の開口の近傍に位置する上方空間」(上方端に形成された所定の空間)の「前面の下端から連続して下方に延び」たものであり、本件発明1の「ボウル面」とは、「小便器本体の上方端に形成された所定の空間」の「前面の下端から連続して下方に延び」たものである点で共通する。

f 「ボウル面」と「連続」し、「下方へ後方に向かって傾斜して形成され」るのが、引用発明1においては、「ボウル面の背面側に形成された空間に含まれた、小便器本体の上方端に区画された小空間と、上記小空間の下方且つボウル面の上方に形成された略水平方向の開口の近傍に位置する上方空間」(上方端に形成された所定の空間)の前面であるのに対し、本件発明1においては、小便器本体の上方端に形成され、使用者を検知する人体検知センサを収納した収納室の、吐水部が設けられる前面であることから、引用発明1と本件発明1とは、「小便器本体の上方端に形成された所定の空間」の「前面」が「ボウル面」と「連続」し、「下方へ後方に向かって傾斜して形成され」た点で共通する。

g 引用発明1において「ボウル面」と「一体構造」で形成されるのは、ボウル面の背面側に形成された空間に含まれた、小便器本体の上方端に区画された小空間と、上記小空間の下方且つボウル面の上方に形成された略水平方向の開口の近傍に位置する上方空間との前面であるのに対し、本件発明1においては、「小便器本体の上方端に形成され」、「使用者を検知する人体検知センサ」を「収納」した「収納室」の、「吐水部が設けられ」る「前面」であることから、引用発明1と本件発明1とは、「小便器本体の上方端に形成された所定の空間の前面」と「ボウル面」とが「一体構造」である点で共通する。

h 引用発明1は、「ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され」たものであり、ボウル面の当該形状によれば、引用発明1においても、本願発明1と同様に、「小便がボウル面に当たった後に下方に落下する」ことは、当業者にとって自明である。

i そうすると、本件発明1と引用発明1とは、以下の一致点と相違点を有する。

(一致点)
「洗浄水によりボウル面を洗浄する小便器であって、
上記ボウル面、このボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口、及び小便器本体の上方端に形成された所定の空間、を備えた小便器本体と、
上記ボウル面を洗浄する吐水部を備えた便器洗浄装置と、を有し、
上記小便器本体の上方端に形成された所定の空間は、上記小便器本体の上方端に形成され、
上記小便器本体の上方端に形成された所定の空間の前面は、下方へ後方に向かって傾斜して形成され、上記小便器本体の上記ボウル面は、上記小便器本体の上方端に形成された所定の空間の前面の下端から連続して下方に延びており、
上記小便器本体の上方端に形成された所定の空間の前面と上記ボウル面は、一体構造であり、且つ、上記ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され、小便がボウル面に当たった後に下方に落下するように構成されている小便器。」

(相違点A)
本件発明1の小便器は、小便器本体の「上方端に形成された所定の空間」を「便器洗浄装置を収納」する「収納室」として利用し、当該収納室に「使用者を検知する人体検知センサ」を収納するのに対し、引用発明1の小便器では、この空間をどのように利用するのかが明らかでない点。
(相違点B)
本件発明1の小便器は、「吐水部」を「収納室の前面」に設け、当該「吐水部」が、「収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成され」ているのに対し、引用発明1においては、洗浄水の吐水を行う部位がどこに設けられ、どのような向きに吐水するのかについて明らかでない点。
(相違点C)
本件発明1の小便器は、小便器本体の上方端に形成された「収納室」の「前面」を、「小便器本体の上端から下方へ後方に向かっ」た「傾斜」としているのに対し、引用発明1は、小便器本体の上方端に形成された「所定の空間」の前面を、「下方へ後方に向かっ」た「傾斜」を備えてはいるものの、当該「傾斜」が「小便器本体の上端」から形成されたものではない点。
(相違点D)
本件発明1の小便器は、「使用者を検知する人体検知センサ」を備え、「人体検知センサからの検知信号に基づいて洗浄水を吐水」するものであるのに対し、引用発明1の小便器は、何に基づいて洗浄水を吐水するのかが明らかでない点。

(イ)判断
a 相違点A及びBについて
事案に鑑み、相違点Aと相違点Bについて、あわせて検討する。
上記第5の3(2)で認定したように、引用発明2は、「小便器本体の上方端に形成された上部の広い内部空間」に、センサー(本件発明1の「人体検知センサ」に相当する。)を収納した構成を備えたものである。
次に、上記第5の4(2)で認定したように、引用発明3は、小便器の上方端に形成された上部の広い内部空間にスプレッダーの上流側端部を収納し、上記スプレッダーの射水口(本件発明1の「吐水部」に相当する。)から射水(本件発明1の「吐水」に相当する。)される洗浄水が、上記スプレッダーの傾斜流路を流れて、射水口から小便器の背壁面(本件発明1の「ボウル面」に相当する。)に向かって射水されるように構成したものである。
小便器に「人体検知センサ」や「吐水部」を設けることは広く行われる一般的な技術であり、「人体検知センサ」や「吐水部」を設ける部位についての、引用発明A又はBにおける上記の構成を、それぞれ引用発明1に適用することは、当業者であれば容易になしうる事項である。
そして、引用発明1に引用発明3を適用したものにおいては、スプレッダーの上流側端部を収納した「収納室の前面」に、スプレッダーの射水口(吐水部)が位置することは自明である。
また、引用発明1、2及び3における、「小便器本体の上方端に形成された所定の空間」又は「小便器本体の上方端に形成された上部の広い内部空間」は、いずれも、その下部にあたる空間との間に明確な仕切りを設けたものではないが、「上方端に形成され」た所定の「空間」として認識されうるのであるから、本件発明1と同様に「室」に相当するということができる。また、仮にそうでないとしても、仕切りを設けて「室」形状とすることについては、当業者が適宜なしうる設計的事項である。
そうすると、引用発明1に、引用発明2及び3を適用して、相違点A及びBに係る本願発明1の構成の如くすることは、当業者であれば想到容易である。

b 相違点Cについて
収納室の前面の傾斜について、引用発明1は、「小便器本体の上端」から形成されたものではない。
一方、上記第5の4(2)で認定したように、引用発明3は、小便器(本件発明1の「小便器本体」に相当する。)の上方端に形成された上部の広い内部空間(本件発明1の「収納室」に相当する)の前面の傾斜を、小便器(小便器本体)の「上端」から形成した形状とした点を備えたものである。
しかしながら、引用発明1と引用発明3とは、いずれも「小便器」に関する技術分野の発明である点では共通するものの、引用発明1には、小便器本体の収納室の前面の形状に関する技術的課題についての記載や示唆がなく、引用発明3についても、上記した形状とした技術的意義が明らかではないことから、引用発明1と引用発明3とが共通の課題を有するとはいえない。また、引用発明1は、正面図(上記第5の2(1)ウ)及び参考図(上記第5の2(1)エ)等からみて、ボウル面の周囲に全周にわたって傾斜面を設けた意匠を有するものと認められるところ、その一部のみを変更すれば、全周にわたる意匠が損なわれることになる。
そうすると、引用発明3における上記の点を、引用発明1において、小便器の上方端に形成された所定の空間の前面の傾斜に換えて採用する動機付けがあるとはいえず、引用発明1に引用発明3の上記の点を適用し、相違点Cに係る本件発明1の構成を想起することは、当業者といえども容易になしうるものではない。
また、本件発明1の相違点Cに係る構成を設計的事項とする理由もない。
そして、本件発明1は、「従来の小便器においては、ボウル面の上方に自動洗浄ユニットが配置され、且つ、センサがボックスの前面に設けられた窓部に臨んで配置されているので、使用者がボウル面に近づき難く、その結果、使用者は、ボウル面から離れた位置に立ち、用を足すことになるので、小便(尿)がフロアに垂れて汚れ易く、また、不衛生となり、清掃に手間がかかる」(段落【0004】)という問題を認識し、相違点Cに係る構成を備えることによって、「小便器本体の上方端に形成された収納室に便器洗浄装置が収納された小便器であっても、小便器本体の収納室の前面がボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成されているので、使用者は、小便器のボウル面に近づき易くなる。それにより、使用者は、ボウル面に近づいた位置で用を足すことができ、それにより、フロア等が清潔となり、清掃の手間を少なくすることができる。」(段落【0006】)という効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1は、引用発明1(甲第4号証)、引用発明2、引用発明3(甲第2号証)に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
また、甲第3号証、甲第5号証にも、相違点Cに係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。

c 小括
相違点Cについては上記bのとおりであるから、本件発明1は、相違点Dについて検討するまでもなく、引用発明1(甲第4号証)、引用発明2、引用発明3(甲第2号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立人の主張について

申立人は、令和1年12月4日提出の意見書において、「訂正事項3に関して、引用発明1(甲4)は、『ボウル面』が、便器(小便器本体)の背面側に形成された空間に含まれる『上方端に形成された所定の空間』の『前面の下端から下方に延び』ており、当該所定の空間の前面は小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜しているものであり、訂正発明1は、・・・(中略)・・・であるから、両者は『ボウル面』が、小便器本体の『上方端に形成された所定の空間の前面の下端から下方に延び』、当該空間の前面が小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜している点で共通する。」(意見書第12ページ第15行?第24行)と主張する。
しかしながら、引用発明1は、「上記小空間及び上記上方空間の前面は、小便器本体の上端から下方へ前方に向かって傾斜した後、上記ボウル面と連続し且つ下方へ後方に向かって傾斜して形成され」たものであって、引用文献1(甲第4号証)には、「上記収納室の前面は、上記小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され」た点は開示されておらず、引用発明1が、上記の点を構成として備えているとはいえない。また、上記の点が、引用文献3(甲第2号証)には開示されていたとしても、引用発明1における、小便器の上方端に形成された所定の空間の前面の傾斜に換えて採用するための動機付けがあるとはいえず、引用発明1に引用文献3(甲第2号証)に開示された技術を適用して、相違点Cに係る本件発明1の構成を想起することが、当業者といえども容易になしうるものではないことは、上記(イ)bで述べたとおりである。
そうすると、申立人の上記主張には理由がない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに減縮した発明であるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、引用発明1(甲第4号証)、引用発明2、引用発明3(甲第2号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 小括
本件発明1?4は、引用発明1(甲第4号証)、引用発明2、引用発明3(甲第2号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)引用文献4、2、3に基づく特許法第29条第2項(進歩性)について

・引用文献4:中国特許出願公開第102535602号公報(甲第5号証)
・引用文献2:特開平7-207741号公報
・引用文献3:特開平9-165809号公報(甲第2号証)

ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明4(上記第5の5(2))とを対比する。

a 引用発明4における「便器」、「洗浄装置」は、本件発明1における「小便器本体」、「便器洗浄装置」に相当する。

b 引用発明4における「小便器」は、「便器の上方端に形成された所定の空間に収納された洗浄装置が洗浄水を放出する」ものであるから、本件発明1と同様に、「洗浄水によりボウル面を洗浄する」こと及び「洗浄水を吐水してボウル面を洗浄する」ことは、当業者にとって自明である。

c 引用発明4における「便器」(小便器本体)の「下部領域に配置されて、排水管が接続された排水口」が、本件発明1における「ボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口」に相当することは、当業者にとって自明である。

d 引用発明4における、便器(小便器本体)の背面側に形成された空間に含まれる「上方端に形成された所定の空間」と、本件発明1の「その上方端に形成された収納室」とは、「小便器本体」の「上方端に形成された所定の空間」である点で共通する。

e 引用発明4は、フラッドセンサーが、小便器が使用されたことを検出して信号を伝達すると便器(小便器本体)の上方端に形成された所定の空間に収納された洗浄装置が洗浄水を放出するものであるから、本件発明1とは、洗浄水の吐水が、「センサからの検知信号に基づいて」行われることで共通する。また、引用発明4においても、洗浄水の吐水のためには、「吐水部」を備えていることは自明である。さらに、上記した如く、引用発明4は、センサと吐水部を備えているのだから、これらを合わせて、本件発明1のように「便器洗浄装置」を有したものであるといえる。

f 引用発明4は、「ボウル面」が、便器(小便器本体)の背面側に形成された空間に含まれる「上方端に形成された所定の空間」の「前面の下端から下方に延び」ているものであり、本件発明1は、「ボウル面」が、(小便器本体の上方端に形成された)「収納室」の「前面の下端から下方に延び」ているものであるから、両者は、「ボウル面」が、小便器本体の「上方端に形成された所定の空間の前面の下端から下方に延び」ている点で共通する。

g 「ボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成され」るのが、引用発明4においては、便器(小便器本体)のボウル面の背面側に形成された空間の「上方端に形成された所定の空間」の「前面」であるのに対し、本件発明1においては、小便器本体の上方端に形成され、使用者を検知する人体検知センサを収納した収納室の、吐水部が設けられる前面であることから、引用発明4と本件発明1とは、「小便器本体」の「上方端に形成された所定の空間」の「前面」が「下方へ後方に向かって傾斜して形成され」た点で共通する。

h 引用発明4において「ボウル面」と「一体構造」で形成されるのは、便器(小便器本体)のボウル面の背面側に形成された空間の「上方端に形成された所定の空間」の「前面」であるのに対し、本件発明1においては、小便器本体の上方端に形成され、使用者を検知する人体検知センサを収納した収納室の、吐水部が設けられる前面であることから、引用発明4と本件発明1とは、「小便器本体の上方端に形成された所定の空間」の「前面」と「ボウル面」とが「一体構造」である点で共通する。

i 引用発明4は、「ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され」たものであり、ボウル面の当該形状によれば、引用発明4においても、本願発明1と同様に、「小便がボウル面に当たった後に下方に落下する」ことは、当業者にとって自明である。

j そうすると、本件発明1と引用発明4とは、以下の一致点と相違点を有する。

(一致点)
「洗浄水によりボウル面を洗浄する小便器であって、
上記ボウル面、このボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口、及び小便器本体の上方端に形成された所定の空間、を備えた小便器本体と、
センサからの検知信号に基づいて洗浄水を吐水して上記ボウル面を洗浄する吐水部を備えた便器洗浄装置と、を有し、
上記小便器本体の上方端に形成された所定の空間は、上記小便器本体の上方端に形成されると共に上記便器洗浄装置を収納するように構成され、
上記小便器本体の上方端に形成された所定の空間の前面は、下方へ後方に向かって傾斜して形成され、上記小便器本体の上記ボウル面は、上記小便器本体の上方端に形成された所定の空間の前面の下端から連続して下方に延びており、
上記小便器本体の上方端に形成された所定の空間の前面と上記ボウル面は、一体構造であり、且つ、上記ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され、小便がボウル面に当たった後に下方に落下するように構成されている小便器。」

(相違点a)
本件発明1の小便器は、「小便器本体」の「上方端に形成された所定の空間」を「収納室」として利用し、当該収納室に「使用者を検知する人体検知センサ」を収納するのに対し、引用発明4の小便器は、この空間に「洗浄装置」を収納するものの、センサを収納しない点、及びセンサが、引用発明4のように「使用者を検知する人体検知センサ」ではない点。
(相違点b)
本件発明1の小便器は、「吐水部」を「収納室の前面」に設けて、「収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成され」ているのに対し、引用発明4においては、「吐水部」の配置が、「収納室の前面」であるかどうかが明らかではなく、また、吐水がどのように行われるのかが明らかでない点。
(相違点c)
本件発明1の小便器は、小便器本体の上方端に形成された「収納室」の「前面」を、「小便器本体の上端から下方へ後方に向かっ」た「傾斜」としているのに対し、引用発明4は、「小便器本体」の「上方端に形成された所定の空間」の「前面」の「下方へ後方に向かっ」た「傾斜」を備えてはいるものの、当該「傾斜」が「小便器本体の上端」から形成されたものではない点。

(イ)判断
a 相違点cについて
事案に鑑み、まず、相違点cについて検討する。
収納室の前面の傾斜について、引用発明4は、「下方へ前方に向かって傾斜した後、上記ボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して」形成されたものであって、「小便器本体の上端から下方へ後方に向かって」形成されたものではない。
一方、上記第5の4(2)で認定したように、引用発明3は、小便器(本件発明1の「小便器本体」に相当する。)の上方端に形成された所定の空間(本件発明1の「収納室」に相当する)の前面の傾斜を、小便器(小便器本体)の「上端」から形成した形状とした点を備えたものである。
しかしながら、引用発明4と引用発明3とは、「小便器」に関する発明という点で、技術分野が共通するものの、引用文献4には、小便器本体の収納室の前面の形状に関する技術的課題についての記載や示唆がなく、また、引用発明3についても、上記した形状とした技術的意義が明らかではないことから、引用発明4と引用発明3とが共通の課題を有するとはいえない。
そうすると、引用発明3が備える上記の点を、引用発明4において、小便器の上方端に形成された所定の空間の前面の傾斜に換えて採用する動機付けがあるとはいえず、引用発明4に引用発明3が備える上記の点を適用して、相違点cに係る本件発明1の構成とすることは、当業者といえども容易になしうるものではない。
また、本件発明1の相違点cに係る構成を設計的事項とする理由もない。
そして、本件発明1は、「従来の小便器においては、ボウル面の上方に自動洗浄ユニットが配置され、且つ、センサがボックスの前面に設けられた窓部に臨んで配置されているので、使用者がボウル面に近づき難く、その結果、使用者は、ボウル面から離れた位置に立ち、用を足すことになるので、小便(尿)がフロアに垂れて汚れ易く、また、不衛生となり、清掃に手間がかかる」(段落【0004】)という問題を認識し、甲1発明の構成の如くすることによって、「小便器本体の上方端に形成された収納室に便器洗浄装置が収納された小便器であっても、小便器本体の収納室の前面がボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成されているので、使用者は、小便器のボウル面に近づき易くなる。それにより、使用者は、ボウル面に近づいた位置で用を足すことができ、それにより、フロア等が清潔となり、清掃の手間を少なくすることができる。」(段落【0006】)ことを可能としたものである。
そうすると、本件発明1は、引用発明4(甲第5号証)、引用発明2、引用発明3(甲第2号証)に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
また、甲第3号証、甲第5号証にも、相違点cに係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。

b 小括
相違点cについては上記aのとおりであるから、本件発明1は、その他の相違点を検討するまでもなく、引用発明4(甲第5号証)、引用発明2、引用発明3(甲第2号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、令和1年12月4日提出の意見書において、「訂正事項3に関して、引用発明4(甲5)は、『ボウル面』が、便器(小便器本体)の背面側に形成された空間に含まれる『上方端に形成された所定の空間』の『前面の下端から下方に延び』ており、当該所定の空間の前面は小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜しているものであり、訂正発明1は、・・・(中略)・・・であるから、両者は『ボウル面』が、小便器本体の『上方端に形成された所定の空間の前面の下端から下方に延び』、当該空間の前面が小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜している点で共通する。」(意見書第16ページ第2行?第11行)と主張する。
しかしながら、上記(イ)aで述べたとおり、引用発明4は、「上記上方端に形成された所定の空間の前面は、下方へ前方に向かって傾斜した後、上記ボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成され」たものであって、引用文献4(甲第5号証)には、「上記収納室の前面は、上記小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され」た点は開示されていない。また、上記の点は、引用文献3(甲第2号証)に開示されているものの、引用発明4における、小便器の上方端に形成された所定の空間の前面の傾斜に換えて採用する動機付けがあるとはいえず、引用発明4に引用文献3(甲第2号証)に開示された技術を適用して、相違点cに係る本件発明1の構成とすることが、当業者といえども容易になしうるものではない。
そうすると、申立人の上記主張には理由がない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに減縮した発明であるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、引用発明4(甲第5号証)、引用発明2、引用発明3(甲第2号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 小括
本件発明1?4は、引用発明4(甲第5号証)、引用発明2、引用発明3(甲第2号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)引用文献3、2、1、4に基づく特許法第29条第2項(進歩性)について

・引用文献3:特開平9-165809号公報(甲第2号証)
・引用文献2:特開平7-207741号公報
・引用文献1:意匠登録第1020154号公報(甲第4号証)
・引用文献4:中国特許出願公開第102535602号公報(甲第5号証)

ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明3(上記第5の4(2))とを対比する。

a 引用発明3における「小便器1」、「射水」は、それぞれ、本件発明1における「小便器」、「吐水」に相当する。

b 引用発明3における「スプレッダー4」は、その「上流側端部」も含めて、本件発明1の「吐水部」に相当するとともに、本件発明1の「便器洗浄装置」を構成するものである。

c 引用発明3における「背壁面1a」は、その「上方の一部」が小便器(小便器1)の上方端に形成された所定の空間の前面を形成するものであるところ、当該「上方の一部」を除いた「背壁面1a」は、孔を設けた「底部」とあわせて、本件発明1における「ボウル面」に相当する。

d 引用発明3の「小便器1」(小便器)が、「給水管2から供給される洗浄水」が「スプレッダー4」(吐水部)から「背壁面1a」(ボウル面)に射水されて「背壁面1a」(ボウル面)を「洗浄する」ことは、本件発明1の「小便器」が、「吐水部」で「洗浄水によりボウル面を洗浄する」ことに相当する。

e 引用発明3における「底部」(ボウル面)に設けられた「孔」が、本件発明1における「ボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口」に相当することは、当業者にとって自明である。

f 引用発明3の「スプレッダー4の上流側端部」が「収納」された「小便器1の上方端に形成された上部の広い内部空間」は、その下部にあたる空間との間に明確な仕切りを設けてはいないものの、「上部の広い内部空間」として、他と区別して認識される空間であるのだから、本件発明1の、「小便器本体の上方端」において「収納室」として「形成され」たものに相当し、また、「スプレッダー4の上流側端部」(吐水部)を「収納」しているのであるから、「便器洗浄装置」を「収納」するものであるといえる。

g 引用発明3において、「スプレッダー4の上流側端部」(吐水部)が収納される「小便器1の上方端に形成された上部の広い内部空間」(収納室)の「前面」が、「小便器1の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され」たことは、本件発明1における、「収納室の前面」が、「小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され」たことに相当する。

h 引用発明3において、「小便器1の上方端に形成された上部の広い内部空間」(収納室)の「前面」は、「背壁面1aの上方の一部」であって、「小便器1の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され」たものであり、その「下端」、すなわち「背壁面1aの上方の一部」の「下端」と、引用発明3の「背壁面1a」における「上方の一部」を除いた部分(ボウル面)とが、便器面として「連続して」延びていること、及び、「一体構造」であることは明らかである。したがって、引用発明3は、本件発明1と同様に、「ボウル面は、収納室の前面の下端から連続して下方に延び」、「小便器本体の収納室の前面とボウル面は、一体構造」である構成を備えたものであるといえる。

i 引用発明3は、「小便器1の上方端に形成された上部の広い内部空間」(収納室)に「スプレッダー4の上流側端部」(吐水部)が収納されるものであり、引用発明3において、「スプレッダー4の覆蓋部4cの下端側には射水口5が形成されている」ことは、「スプレッダー4の下端側」の「射水口5」(吐水部)が、「小便器1の上方端に形成された上部の広い内部空間」(収納室)の「前面」に「設けられ」ていることに相当する。そして、引用発明3は、「覆蓋部4cの下端部側内面には傾斜した傾斜面6が形成されており、また、この傾斜面6と平行に前記当接部4bの内面にも傾斜面7が形成されており、この平行な傾斜面6と7により傾斜した傾斜流路R2が形成され、傾斜面6,7に沿って傾斜流路R2を流れ、射水口5から背壁面1aに向かって射水されるものであり、この時に傾斜面6,7は背壁面1aに対し角度が設定されているため、射水口5からの射水は背壁面1aから剥がれることなく背壁面1aに沿って確実に流下される」構成を備えているから、射水口5からの射水(吐水)が、スプレッダー4の傾斜流路R2により背壁面1aに向けられることで、結果的に、本件発明1と同様に、洗浄水の吐水が、「小便器1の上方端に形成された上部の広い内部空間」(収納室)の「前面に向け」たものとなるといえる。したがって、引用発明3は、本件発明1と同様に、「収納室の前面には、吐水部が設けられ」、「吐水部」が「収納室の前面に向けて洗浄水を吐水する」構成を備えたものであるといえる。

j そうすると、本件発明1と引用発明3とは、次の一致点で一致し、(相違点i)及び(相違点ii)で相違する。

(一致点)
「洗浄水によりボウル面を洗浄する小便器であって、
上記ボウル面、このボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口、及び収納室、を備えた小便器本体と、
洗浄水を吐水して上記ボウル面を洗浄する吐水部を備えた便器洗浄装置と、を有し、
上記収納室は、上記小便器本体の上方端に形成されると共に上記便器洗浄装置を収納するように構成され、
上記収納室の前面は、上記小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され、上記収納室の前面には、上記吐水部が設けられ、上記小便器本体の上記ボウル面は、上記収納室の前面の下端から連続して下方に延びており、
上記吐水部は傾斜して形成された上記収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成され、
上記小便器本体の収納室の前面と上記ボウル面は、一体構造である小便器。」

(相違点i)
本件発明1は、「便器洗浄装置」が「使用者を検知する人体検知センサ」を備えており、「この人体検知センサからの検知信号に基づいて洗浄水を吐水」するのに対し、引用発明3の「便器洗浄装置」は、「人体検知センサ」を備えていない点。
(相違点ii)
本件発明1は、「ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され、小便がボウル面に当たった後に下方に落下するように構成されている」のに対し、引用発明3は、ボウル面が、「上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され」ているとまではいえず、「小便がボウル面に当たった後に下方に落下する」という作用が生じるのかが不明な点。

(イ)判断
a (相違点ii)について
事案に鑑み、まず、(相違点ii)について検討する。
上記第5の2(2)で認定したように、引用発明1は、ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成された点を備えたものである。
しかしながら、引用発明3と引用発明1とは、「小便器」に関する発明という点で、技術分野が共通するものの、引用発明3は、従来の技術では「射水が背壁面1aから剥がれやすく、飛沫が発生しやすいという問題点があった」(段落【0002】)ことを課題としたものであって、ボウル面の円弧形状と作用に関する記載や示唆がなく、また、引用発明1についても、ボウル面を上記した形状とした技術的意義が明らかではないだけでなく、「ボウル面」を「円弧形状」として「小便がボウル面に当たった後に下方に落下するよう」にすることが自明の技術的課題であるともいえないから、引用発明3と引用発明1とが共通の課題を有するとはいえない。
そうすると、引用発明1における上記の点を、引用発明3において採用する動機付けがあるとはいえず、引用発明3の「ボウル面」に引用発明1の「円弧形状」を適用して、「小便がボウル面に当たった後に下方に落下するよう」にした構成を想起することは、当業者といえども容易になしうるものではない。

次に、上記第5の5(2)で認定したように、引用発明4は、ボウル面を、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成した点を備えている。
しかしながら、引用発明4は、引用発明3について上記したのと同様に、「ボウル面」を「円弧形状」とした技術的意義が明らかではないだけでなく、「ボウル面」を「円弧形状」として「小便がボウル面に当たった後に下方に落下するよう」にすることが自明の技術的課題であるともいえないから、引用発明3と引用発明1とが共通の課題を有するとはいえない。
そうすると、引用発明4における上記の点を、引用発明3において採用する動機付けがあるとはいえず、引用発明3の「ボウル面」に引用発明4の「円弧形状」を適用して、「小便がボウル面に当たった後に下方に落下するよう」にした構成を想起することは、当業者といえども容易になしうるものではない。

また、本件発明1の(相違点ii)に係る構成を設計的事項とする理由もない。
そして、引用発明2にも、(相違点ii)に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。

本件発明1は、(相違点ii)に係る構成を備えることによって、「本発明によれば、さらに、小便器本体の収納室の前面とボウル面は、一体構造であり、且つ、ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成されているので、使用者は、小便器本体のボウル面に近づき易くなる。さらに、ボウル面に近づいた位置で用を足す場合にも、ボウル面が後方に向かって傾斜して円弧形状に形成されているので、小便がボウル面に当たった後に下方に落下するので、尿の飛散が防止でき、清掃性が向上する。」(段落【0006】を参照。)という効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1は、引用発明3(甲第2号証)、引用発明2、引用発明1(甲第4号証)、引用発明4(甲第5号証)に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。

また、甲第3号証にも、相違点iiに係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。

b 小括
(相違点ii)については上記aのとおりであるから、本件発明1は、(相違点i)について検討するまでもなく、引用発明3(甲第2号証)、引用発明2、引用発明1(甲第4号証)、引用発明4(甲第5号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立人の主張について

a 申立人は、令和1年12月4日提出の意見書で以下の主張をしている。

・「エ.訂正発明1では、上記訂正事項・・・(中略)・・・が請求項1に導入されたことから、取消理由通知における引用文献3(甲2)を主引用例とする取消理由も有効となる。・・・引用文献3には、小便器の上方端に収納室が設けられ、収納室の前面が小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され、収納室の前面に吐水部が設けられることが記載されている(段落2?5及び8)。」(意見書第19ページ下から第1行?第20ページ第4行)
・「オ.訂正発明1と引用発明3とを対比すると、前者では、使用者を検知して洗浄水を吐水させる人体検知センサが収納室に設けられているのに対し、後者はそのような記載がない点で相違するが、取消理由通知における引用文献2(特開平7-207741号公報)に、引用発明3と同様の収納室に、使用者を検知して洗浄水を吐水させるセンサー12が記載されているように、小便器の上端の収納室に人体検知センサを設けることは周知慣用技術であるから(本件出願の審査で用いられた複数の先行技術(実願平4-1504号(実開平5-61271号)のCD-ROM、特開2002-21160号公報、特開2005-180064号公報)も参照)、上記相違点は当業者であれば適宜採用しうる程度の設計的事項に過ぎない。
よって、訂正発明1は、引用発明3及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでああり(当審注:「ああり」は「あり」の誤記と認める。)、特許法第29条第2項に違反している。」(意見書第20ページ下から第11行?第21ページ第2行)
・「(3-5-2)訂正発明2?4
引用文献3には、訂正発明2?4で追加的に特定された事項が記載されており、訂正発明1の甲で述べた上記相違点以外に相違点を有さないから、訂正発明2?4は、引用発明3及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に違反している。」(意見書第20ページ第3行?第7行)

b 対比・判断
(a)対比
本件発明1と引用発明3(甲第2号証)との対比については、上記(ア)に述べたとおりである。

(b)判断
主引用発明を引用発明3(甲第2号証)としたときの、本件発明1についての判断は、上記(イ)に述べたとおりである。
また、意見書で挙げられた上記先行技術(実願平4-1504号(実開平5-61271号)のCD-ROM、特開2002-21160号公報、特開2005-180064号公報)にも、上記(相違点ii)に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。

そうすると、本件発明1?4は、引用発明3(甲第2号証)、引用発明2、先行技術(実願平4-1504号(実開平5-61271号)のCD-ROM、特開2002-21160号公報、特開2005-180064号公報)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、申立人のかかる主張は、採用することができない。

3 まとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、甲1発明(甲第1号証)と同一ではない。
したがって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反したものではない。

また、以上のとおり、本件発明1?4は、引用発明1(甲第4号証)、引用発明2、引用発明3(甲第2号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、引用発明4(甲第5号証)、引用発明2、引用発明3(甲第2号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもなく、さらに、引用発明3(甲第2号証)、引用発明2、引用発明1(甲第4号証)、引用発明4(甲第5号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反したものではない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】
小便器
【技術分野】
【0001】
本発明は、小便器に係り、特に、小便(尿)の飛散を防止した小便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1に記載されたような、ボウル面の上方に自動洗浄ユニットが配置された小便器が知られている。この小便器の自動洗浄ユニットは、ボックス内に収納され、小便器前方の使用者を検知するセンサと、このセンサによる使用者の検知に基づいて給水路を開閉する電磁弁と、この電磁弁の作動を制御する制御部とを備え、これらが、ボックス内に収納されるようになっている。この小便器においては、センサがボックスの前面に設けられた窓部に臨んで配置され、このセンサが使用者を検知するとスプレッダから洗浄水が吐水され、ボウル面を洗浄するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-21160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の小便器においては、ボウル面の上方に自動洗浄ユニットが配置され、且つ、センサがボックスの前面に設けられた窓部に臨んで配置されているので、使用者がボウル面に近づき難く、その結果、使用者は、ボウル面から離れた位置に立ち、用を足すことになるので、小便(尿)がフロアに垂れて汚れ易く、また、不衛生となり、清掃に手間がかかるという問題がある。
さらに、使用者がボウル面に近い位置で用を足した場合であっても、ボウル面が鉛直方向に形成されているので、小便(尿)がボウル面に衝突したとき、ボウル面で跳ね返り、小便器外に飛散し、それより、フロア等が不衛生となるという問題もある。
【0005】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、使用者がボウル面に近い位置に近づき易くなり、小便(尿)の飛散を効果的に防止することができる小便器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、洗浄水によりボウル面を洗浄する小便器であって、ボウル面、このボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口、及び収納室、を備えた小便器本体と、使用者を検知する人体検知センサ、及びこの人体検知センサからの検知信号に基づいて洗浄水を吐水してボウル面を洗浄する吐水部を備えた便器洗浄装置と、を有し、収納室は、小便器本体の上方端に形成されると共に便器洗浄装置を収納するように構成され、収納室の前面は、小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され、収納室の前面には、吐水部が設けられ、小便器本体のボウル面は、収納室の前面の下端から連続して下方に延びており、吐水部が設けられる小便器本体の収納室の前面は、ボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成され、吐水部は傾斜して形成された収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成され、小便器本体の収納室の前面とボウル面は、一体構造であり、且つ、ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され、小便がボウル面に当たった後に下方に落下するように構成されていることを特徴としている。
上記のように構成された本発明においては、小便器本体の上方端に形成された収納室に便器洗浄装置が収納された小便器であっても、小便器本体の収納室の前面がボウル面と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成されているので、使用者は、小便器のボウル面に近づき易くなる。それにより、使用者は、ボウル面に近づいた位置で用を足すことができ、それにより、フロア等が清潔となり、清掃の手間を少なくすることができる。さらに、小便器本体の収納室の前面がボウル面と連続して形成されているので、収納室の前面とボウル面を一緒に掃除することができ、清掃性が向上する。本発明によれば、さらに、小便器本体の収納室の前面とボウル面は、一体構造であり、且つ、ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成されているので、使用者は、小便器本体のボウル面に近づき易くなる。さらに、ボウル面に近づいた位置で用を足す場合にも、ボウル面が後方に向かって傾斜して円弧形状に形成されているので、小便がボウル面に当たった後に下方に落下するので、尿の飛散が防止でき、清掃性が向上する。
また、上記のように構成された本発明において、便器洗浄装置の吐水部が、小便器本体の収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成されているので、使用者は吐水部に向かって近づこうとして、使用者が小便器のボウル面に近づき易くなる。
【0008】
本発明において、好ましくは、小便器本体の収納室の前面は、排出口の中心よりも後方に位置している。
上記のように構成された本発明において、小便器本体の収納室の前面が平面視で排出口の中心よりも後方に位置しているので、小便器本体の収納室の前面が後方に位置している距離だけ、使用者は、小便器のボウル面に近づき易くなる。
【0009】
本発明において、好ましくは、小便器本体の収納室の前面は、平面視で、その中央部が両端部よりも後方に位置するように構成されている。
上記のように構成された本発明において、小便器本体の収納室の前面が平面視でその中央部が両端部よりも後方に位置するように構成されているので、小便器本体の収納室の前面の中央部が両端部よりも後方に位置する距離だけ、使用者は、小便器本体のボウル面に近づき易くなる。さらに、小便器本体の収納室の前面が平面視でその中央部が両端部よりも後方に位置するように構成されているので、隣の小便器を使用する使用者への遮蔽性が向上する。
【0011】
本発明において、好ましくは、人体検知手段は、吐水部と一体構造である。
上記のように構成された本発明において、人体検知手段が吐水部と一体構造であるので、便器洗浄装置をコンパクトにすることができ、それにより、収納室の前後方向長さを短くすることができる。この収納室の前後方向長さが短くなった距離だけ、使用者が小便器本体のボウル面に近づき易くなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の小便器によれば、使用者がボウル面に近い位置に近づき易くなり、小便(尿)の飛散を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態による小便器を示す全体斜視図である。
【図2】図1の小便器の正面図である。
【図3】図1の小便器の側面図である。
【図4】図1の小便器の平面図である。
【図5】本発明の実施形態による小便器の自動便器清浄ユニット(便器清浄装置)を示す斜視図である。
【図6】図5の自動便器清浄ユニットの側面図である。
【図7】図5の自動便器清浄ユニットのスプレッダ及び人体検知センサの部分を示す拡大斜視図である。
【図8】図7のVIII-VIII線に沿って見た断面図である。
【図9】本発明の実施形態による小便器の使用状態を説明するための図3に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付図面を参照して、本発明の実施形態による小便器を説明する。先ず、図1乃至図4により小便器の基本構造を説明する。図1は本発明の実施形態による小便器を示す全体斜視図であり、図2は図1の小便器の正面図であり、図3は図1の小便器の側面図であり、図4は図1の小便器の平面図である。
【0015】
図1乃至図4に示すように、符号1は、本発明の実施形態による小便器を示し、この小便器1は、陶器製の小便器本体2と、詳細は後述するが、この小便器本体2を洗浄するための自動便器洗浄ユニット4(図2及び図3参照)を備えている。
【0016】
小便器1の小便器本体2は、上方端に上述した自動便器洗浄ユニット4を収納するための収納室6と、この収納室6の前面7から下方に延びるボウル面8と、このボウル面8の底部に形成された排出口10とを備えている。
【0017】
収納室6は、小便器本体2と別体である蓋3により形成されている。また、収納室6の前面7は、詳細は後述するように、後方に向かって傾斜して形成されている。また、排出口10には、目皿板12が配置されている。さらに、排出口10は、下流側に配置された排水流路(図示せず)に接続されている。
【0018】
次に、図5乃至図8により、自動便器洗浄ユニット4について説明する。図5は本発明の実施形態による小便器の自動便器清浄ユニット(便器清浄装置)を示す斜視図であり、図6は図5の自動便器清浄ユニットの側面図であり、図7は図5の自動便器清浄ユニットのスプレッダ及び人体検知センサの部分を示す拡大斜視図であり、図8は図7のVIII-VIII線に沿って見た断面図である。
【0019】
自動便器洗浄ユニット4は、上流側から洗浄水を供給する給水管14と、この給水管14の先端に取り付けられた吐水部であるスプレッダ16と、使用者の有無を検知する人体検知センサ18と、給水管14に取り付けられ給水の供給及び停止を行う電磁弁20と、人体検知センサ18からの検知信号に基づいて電磁弁20のオン・オフを制御する制御ユニット22と、を備えている。
【0020】
人体検知センサ18は、小便器1の前方の使用者の有無及び使用者までの距離を検知する赤外線式のセンサである。この人体検知センサ18により使用者が用を足して小便器1から所定距離離れたことを検知した場合に、制御ユニット22から検知信号が発信され、この検知信号により、電磁弁20がオンとなり、給水管14からスプレッダ16に洗浄水が供給され、小便器1のボウル面8が洗浄されるようになっている。
【0021】
図8に示すように、この自動洗浄ユニット4において、スプレッダ16が、小便器本体2の収納室6の前面7に取り付けられている。このスプレッダ16には、吐水口16aが形成され、この吐水口16aは、収納室6の前面7の後方側への傾きよりもより後方側に傾くように形成され、これにより、スプレッダ16から収納部6の前面7に向けて洗浄水が吐水されるようになっている。また、自動洗浄ユニット4において、人体検知センサ18は、スプレッダ16と一体構造となっている。
【0022】
再び、図1乃至図4に戻り、小便器1の小便器本体2の詳細構造を説明する。先ず、図3に示すように、小便器本体3において、収納室6の前面7は、ボウル面8と一体構造となっている。さらに、収納室6の前面7は、ボウル面8の上方側と連続して形成され、さらに、後方に向かって傾斜して形成されている。ここで、収納室6の前面7とボウル面8の「連続」は、収納室6の前面7とボウル面8が、面一に、又は、ほぼ面一に形成されていることを意味している。また、完全な面一である必要はなく、例えば、小さな段差があってもよく、収納室6の前面からボウル面8へと流れる洗浄水が剥離することがなければ良い。
【0023】
収納室6の前面7には、上述したように、自動洗浄ユニット4のスプレッダ16が取り付けられており、収納室6の前面7のスプレッダ16が取り付けられている位置における後方への傾斜角θ(図3及び図8参照)は、15度である。この傾斜角θは、10度?25度の範囲内が好ましい。
【0024】
次に、小便器本体2の収納室6の前面7とボウル面8は、共に、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成されている。具体的には、図3に示すように、収納室6の前面7とボウル面8の上方側は、大きな曲率半径である曲率半径R1により形成され、ボウル面8の下方側は、曲率半径R1よりも小さな曲率半径である曲率半径R2(<R1)により形成されている。
【0025】
次に、図4に示すように、小便器本体2の収納室6の前面7は、平面視で、排水口10の中心よりも後方側に位置している。
また、収納室6の前面7は、その中央部7aが両端部7b,7cよりも後方に位置するような形状となっている。
さらに、小便器本体2のボウル面8の後方側は、平面視で、曲率半径R3によるほぼ円弧形状により形成されている。
【0026】
次に、上述した本実施形態による小便器による作用及び動作を説明する。先ず、本実施形態による小便器1は、自動便器洗浄ユニット4が小便器本体2の上方端に形成された収納室6内に収納されたタイプの小便器である。本実施形態においては、このようなタイプの小便器1において、小便器本体2の収納室6の前面7がボウル面8と連続し且つ後方に向かって傾斜して形成されている。このため、本実施形態による小便器1によれば、使用者が小便器本体2のボウル面8に近づき易くなり、それにより、使用者は、ボウル面8に近づいた位置で用を足すことができ、それにより、フロア等が清潔となり、清掃の手間を少なくすることができる。さらに、小便器本体2の収納室6の前面7がボウル面8と連続して形成されているので、収納室6の前面7とボウル面8を一緒に掃除することができ、清掃性が向上する。
【0027】
また、本実施形態による小便器1においては、小便器本体2の収納室6の前面7とボウル面8は、一体構造であり、且つ、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成されているので、使用者は、小便器本体2のボウル面8に近づき易くなる。さらに、ボウル面8に近づいた位置で用を足す場合にも、ボウル面8が後方に向かって傾斜して円弧形状に形成されているので、小便がボウル面に当たった後に前方に跳ね返ることがなく、下方に落下するので、尿の飛散が防止でき、清掃性が向上する。
【0028】
具体的に説明すると、図9は、本実施形態による小便器の使用状態を示しており、この図9に示すように、使用者Mが用を足したとき、小便の一部F1は、ボウル面8に当たって跳ね返るが、ボウル面8が後方に向かって傾斜して円弧形状に形成されているので、下方に落下する。また、小便の一部F2は、ボウル面8に当たってそのままボウル面8の表面に沿って下方に流れる。
【0029】
また、小便器本体2の収納室6の前面7が排出口10の中心よりも後方に位置しているので、小便器本体2の収納室6の前面7が後方に位置している距離だけ、使用者は、小便器1のボウル面8に近づき易くなる。
【0030】
また、小便器本体2の収納室6の前面7が、平面視で、その中央部7aが両端部7b,7cよりも後方に位置するように構成されているので、小便器本体2の収納室6の前面7の中央部7aが両端部7b,7cよりも後方に位置する距離だけ、使用者は、小便器2のボウル面8に近づき易くなる。さらに、小便器本体2の収納室6の前面7が平面視でその中央部7aが両端部7b,7cよりも後方に位置するように構成されているので、隣の小便器を使用する使用者への遮蔽性(見え難くなる)が向上する。
【0031】
また、自動便器洗浄ユニット4のスプレッダ16が小便器本体2の収納室6の前面7に設けられ、それにより、洗浄水が収納室6の前面7に向けて洗浄水が吐水されるので、使用者はスプレッダ16に向かって近づこうとして、使用者が小便器本体2のボウル面に近づき易くなる。
【0032】
また、人体検知センサ18がスプレッダ16と一体構造である、自動便器洗浄ユニット4をコンパクトにすることができ、それにより、収納室6の前後方向長さを短くすることができる。この収納室6の前後方向長さが短くなった距離だけ、使用者が小便器本体2のボウル面8に近づき易くなる。
【0033】
以上説明したように、本発明の実施形態による小便器によれば、使用者が小便器本体2のボウル面8に近づき易くなり、それにより、使用者は、ボウル面8に近づいた位置で用を足すことができ、フロア等が清潔となり、清掃の手間を少なくすることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 小便器
2 小便器本体
4 自動便器洗浄ユニット(便器洗浄装置)
6 収納室
7 前面
8 ボウル面
10 排水口
14 給水管
16 スプレッダ
18 人体検知センサ
20 電磁弁
22 制御ユニット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水によりボウル面を洗浄する小便器であって、
上記ボウル面、このボウル面の底部に形成され洗浄水を下流側の排水流路へ排出する排水口、及び収納室、を備えた小便器本体と、
使用者を検知する人体検知センサ、及びこの人体検知センサからの検知信号に基づいて洗浄水を吐水して上記ボウル面を洗浄する吐水部を備えた便器洗浄装置と、を有し、
上記収納室は、上記小便器本体の上方端に形成されると共に上記便器洗浄装置を収納するように構成され、
上記収納室の前面は、上記小便器本体の上端から下方へ後方に向かって傾斜して形成され、上記収納室の前面には、上記吐水部が設けられ、上記小便器本体の上記ボウル面は、上記収納室の前面の下端から連続して下方に延びており、
上記吐水部は傾斜して形成された上記収納室の前面に向けて洗浄水を吐水するように構成され、
上記小便器本体の収納室の前面と上記ボウル面は、一体構造であり、且つ、上記ボウル面が、上方から下方へ後方に向かって傾斜して円弧形状に形成され、小便がボウル面に当たった後に下方に落下するように構成されている小便器。
【請求項2】
上記小便器本体の収納室の前面は、上記排水口の中心よりも後方に位置している請求項1に記載の小便器。
【請求項3】
上記小便器本体の収納室の前面は、平面視で、その中央部が両端部よりも後方に位置するように構成されている請求項1又は2に記載の小便器。
【請求項4】
上記人体検知センサは、上記吐水部と一体構造である請求項1乃至3の何れか1項に記載の小便器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-17 
出願番号 特願2013-96988(P2013-96988)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (E03D)
P 1 651・ 16- YAA (E03D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 七字 ひろみ  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 住田 秀弘
小林 俊久
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6428991号(P6428991)
権利者 TOTO株式会社
発明の名称 小便器  
代理人 弟子丸 健  
代理人 渡邊 誠  
代理人 渡邊 誠  
代理人 藤木 尚  
代理人 弟子丸 健  
代理人 藤木 尚  

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