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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A46B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A46B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A46B
管理番号 1360455
異議申立番号 異議2019-700181  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-05 
確定日 2020-02-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6385023号発明「歯ブラシ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6385023号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6385023号の請求項1,2,6及び7に係る特許を維持する。 特許第6385023号の請求項3?5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6385023号の請求項1?7に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月9日(優先権主張 平成28年3月9日)を国際出願日とする特願2018-504585号の一部を平成30年5月8日に新たな特許出願としたものであって、平成30年8月17日にその特許権の設定登録がされ、平成30年9月5日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年 3月 5日 特許異議申立人芝崎 公昭による特許異議
の申立て
令和 元年 5月22日付け 取消理由通知書
令和 元年 7月25日 特許権者による意見書の提出及び訂正請求
令和 元年 9月18日 特許異議申立人による意見書の提出
令和 元年10月25日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和 元年12月13日 特許権者による意見書の提出及び訂正請求


2 令和元年12月13日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、「ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され、」との記載の後に「前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、」との記載を加入するとともに、訂正前に「A’×Bが2.5?12であり」とあるのを「A’×Bが2.5?7であり」に、訂正前に「(B/A’)が0.8?2.5である」とあるのを「(B/A’)が0.8?2.0である」に、それぞれ変更する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」とあるのを「請求項1、2のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」に変更する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」とあるのを「請求項1、2、6のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」に変更する。
キ.訂正事項7
明細書の段落【0006】について、「[1]ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され、」との記載の後に「前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、」との記載を加入するとともに、訂正前に「A’×Bが2.5?12であり」とあるのを「A’×Bが2.5?7であり」に、訂正前に「(B/A’)が0.8?2.5である」とあるのを「(B/A’)が0.8?2.0である」に、訂正前に「[3](B/A’)が0.8?2.0である、[1]又は[2]に記載の歯ブラシ。」とあるのを「[3](削除)」に、訂正前に「[4]A’×Bが2.5?10である、[1]?[3]のいずれかに記載の歯ブラシ。」とあるのを「[4](削除)」に、訂正前に「[5]前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmである、[1]?[4]のいずれかに記載の歯ブラシ。」とあるのを「[5](削除)」に、訂正前に「[6]前記ネック部の最小の幅が3.0?4.5mmである、[1]?[5]のいずれかに記載の歯ブラシ。」とあるのを「[6]前記ネック部の最小の幅が3.0?4.5mmである、[1]、[2]のいずれかに記載の歯ブラシ。」に、訂正前に「[7]前記ネック部の最小の厚さが3.0?4.5mmである、[1]?[6]のいずれかに記載の歯ブラシ。」とあるのを「[7]前記ネック部の最小の厚さが3.0?4.5mmである、[1]、[2]、[6]のいずれかに記載の歯ブラシ。」に、それぞれ変更する。
(2)訂正の目的の適否,新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項5に記載されていた「前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであ」ることを請求項1に新たに加入するとともに、訂正前の請求項1に記載されていた「A’×Bが2.5?12であ」ることを訂正前の明細書段落0037に記載されていた「A’×Bが2.5?7であ」ることに、訂正前の請求項1に記載されていた「(B/A’)が0.8?2.5である」ことを訂正前の請求項3に記載されていた「(B/A’)が0.8?2.0である」ことに、それぞれ変更するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項2?4は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
訂正事項5及び6は、いずれも多数項を引用している請求項の引用請求項数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
訂正事項7は、訂正事項1に係る請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的としており、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
そして、これらの訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。

3 本件特許
特許第6385023号の請求項1、2、6及び7に係る発明(以下、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、「本件特許発明6」及び「本件特許発明7」という。また、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求により訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、6及び7(以下、「本件請求項1」、「本件請求項2」、「本件請求項6」及び「本件請求項7」という。)に記載された下記の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され、
前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、
下記の方法(α’)で測定される前記ヘッド部の撓み量をA’、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量をBとしたとき、
A’×Bが2.5?7であり、
(B/A’)が0.8?2.0であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α’):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置から前記ハンドル部側に10mmずれた位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量A’とする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。
【請求項2】
下記の方法(α)で測定される前記ヘッド部の撓み量をAとしたとき、(B/A)が1.5?5.0である、請求項1に記載の歯ブラシ。
方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
【請求項6】
前記ネック部の最小の幅が3.0?4.5mmである、請求項1、2のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項7】
前記ネック部の最小の厚さが3.0?4.5mmである、請求項1、2、6のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」

4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1?7に係る特許に対して令和元年10月25日付けの取消理由通知(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1?7全体にまで拡張ないし一般化することはできないから、本件特許発明1?7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)当審の判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1は、前記「3」にあるとおり、ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設された歯ブラシであって、前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、前記ヘッド部の撓み量A’と前記ネック部の撓み量Bとの積A’×Bが2.5?7であり、商B/A’が0.8?2.0であるものである。
一方、本件訂正請求により訂正された訂正後の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)には、歯ブラシのハンドル体のヘッド部を薄くすると、通常の歯ブラシでは届きにくい奥歯の奥等に対する清掃力を高めることができる一方で、使用時に前記ヘッド部が撓みやすく毛束が広がるなど使用者の使用感が損なわれるという事情を前提とし、発明が解決しようとする課題として、清掃力により優れ、かつ、使用感により優れる歯ブラシを提供するということが記載されている(特に段落0002?0005参照)。
そして、発明の詳細な説明には、ヘッド部2の厚さT1が2.0?4.0mmであると、ヘッド部2における充分な強度の確保と毛束の抜けの抑制とがしやすくなると同時に、歯ブラシ1の口腔内での操作性と汚れ除去効果がより高められる旨記載されている(段落0014参照)。
また、前記ヘッド部の撓み量A’と前記ネック部の撓み量Bとの積A’×B及び商B/Aについて、発明の詳細な説明には、A’×Bは、2.5?12が好ましく、3?12がより好ましく、3?10がさらに好ましく、3?7がさらに好ましく、A’×Bがその範囲であることで、使用感がさらに向上するとともに、操作性が低下し清掃力が低下することを抑制することが容易になる旨記載されており(段落0037参照)、B/A’は、0.8?2.5が好ましく、0.9?2.0がより好ましい旨記載されている(段落0038参照)。
更に、発明の詳細な説明には、前記ヘッド部の撓み量A’と前記ネック部の撓み量Bの値が明らかである実施例及び比較例として、歯の奥の清掃力、使用感及び口腔内操作性のいずれもが○と評価された実施例4?9と、奥歯の奥の清掃力、使用感及び口腔内操作性の少なくとも1つが×と評価された比較例3?7とが記載されている。これらの実施例4?9及び比較例3?7について、横軸をA’×B、縦軸をB/A’として、その分布をみてみると、以下の参考図のとおりとなる(B/A’の値は、表2及び3に記載されたヘッド部の撓み量A’及びネック部の撓み量Bの値から当審にて計算した。)。そして、本件特許発明1におけるA’×B及びB/A’は、太線で囲った範囲となる。

[参考図]

参考図から看取できるように、本件特許発明1におけるA‘×B及びB/A’は、前記範囲のA’×Bの下限とB/A’の上限により規定される外縁が実施例4?9と比較例3?7との間に位置しており、前記範囲のA’×Bの上限とB/A’の下限により規定される外縁が、A’×Bの上限及びB/A’の下限のいずれについても実施例6に近接している。
以上のことからみて、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された前記課題を解決することができると理解することができるから、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、前記「3」にあるとおり、本件特許発明1において、ヘッド部の撓み量をAとネック部の撓み量Bとの商B/Aが1.5?5.0であるものである。
そして、発明の詳細な説明には、B/Aは、1.5?5.0が好ましい旨記載されているとともに(段落0033参照)、本件特許発明2におけるB/Aの範囲は、その下限及び上限とも、実施例4?9における最小値(1.94,実施例6)及び最大値(4.76,実施例5)に近接している。
そうすると、前記「ア」において検討した理由と併せて、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
ウ 本件特許発明6について
本件特許発明6は、前記「3」にあるとおり、本件特許発明1において、ネック部の最小の幅が3.0?4.5mmであるものである。
そして、発明の詳細な説明には、前記ネック部の最小の幅は、3.0?4.5mmが好ましく、前記幅がその範囲であることで、良好な使用感が得られやすく、口腔内での操作性及び汚れ除去効果が高められる旨記載されており(段落0022参照)、前記ネック部の最小の幅に相当する、実施例4?9の前記ネック部の最小径は、4.0mmであり、本件特許発明6における前記ネック部の幅の範囲内となっている。
そうすると、前記「ア」において検討した理由と併せて、本件特許発明6は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
エ 本件特許発明7について
本件特許発明7は、前記「3」にあるとおり、本件特許発明1において、ネック部の最小の厚さが3.0?4.5mmであるものである。
そして、発明の詳細な説明には、前記ネック部の最小の厚さは、3.0?4.5mmが好ましく、前記幅がその範囲であることで、良好な使用感が得られやすく、口腔内での操作性及び汚れ除去効果が高められる旨記載されており(段落0023参照)、前記ネック部の最小の厚さに相当する、実施例4?9の前記ネック部の最小径は、4.0mmであり、本件特許発明6における前記ネック部の厚さの範囲内となっている。
そうすると、前記「ア」において検討した理由と併せて、本件特許発明7は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
オ 特許異議申立人の意見について
a.特許異議申立人は、本件特許発明1は、ヘッド部およびネック部の長さ、縦弾性係数、断面2次モーメントのいずれの要件も含んでいないから、課題を解決できないことは明白である旨主張している(令和元年9月18日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)「3(2)(2-2)」参照)。
しかしながら、前記「ア」で検討したとおり、本件特許発明1は、ヘッド部を適度な厚さとするとともに前記ヘッド部とネック部とに両者が協調する適度な撓みを持たせることにより課題を解決したものである。してみれば、ヘッド部及びネック部の長さ、縦弾性係数、断面2次モーメントについて本件請求項1に記載されていないからといって、直ちに本件特許発明1が課題を解決することができないとはいえない。また、特許異議申立人は、ヘッド部の長さが極端に長い場合や極端に短い場合を例示するが、本件特許発明1は歯ブラシに関するものであって、そのヘッド部の大きさは、歯ブラシが用いられる口腔部の大きさ等に基づき、おのずと所定の範囲内のものとなることは、当業者にとって明らかである。
b.特許異議申立人は、本件特許発明1は、用毛の撓みに関する規定を含まず、訂正発明は、「用毛の撓みが大きすぎると、歯周ポケットへの用毛の進入性が低下して清掃力が低下したり、毛開きが大きくなり、歯ブラシの耐久性が低下するなどの問題が生じる。」という課題を解決できない旨主張している(意見書「3(2)(2-3)」参照)。
しかしながら、前記「ア」で検討したとおり、発明の詳細な説明には、特許異議申立人が主張する前記課題以外の課題も記載されており、本件特許発明1は、当該課題を解決できるものである。
c.特許異議申立人は、撓み量は、ヘッド部の厚さやハンドル体の材料に関係するところ、発明の詳細な説明には、ヘッド部の厚さが3.0mm、ハンドル体の材質がPP-1である実施例4?8と、ヘッド部の厚さが2.6mm、ハンドル体の材質がPOM-1である実施例9しか記載されておらず、発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1まで拡張ないし一般化することはできない旨主張している(意見書「3(3)(3-1)」参照)。
しかしながら、前記「ア」で検討したとおり、本件特許発明1は、ヘッド部を適度な厚さとするとともに前記ヘッド部とネック部とに両者が協調する適度な撓みを持たせることにより課題を解決したものである。
ヘッド部の厚さの作用、すなわちヘッド部が厚くなれば、強度は向上するが口腔内での操作性及び清掃力が低下し、ヘッド部の撓み量A’も減少し、ヘッド部が薄くなれば、強度は低下するが口腔内での操作性及び清掃力が向上し、ヘッド部の撓み量A’も増加することは、当業者にとって明らかであるから、実施例4?9のヘッド部の厚さがいずれも3.0mmであっても、直ちに発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1まで拡張ないし一般化することはできないとはいえない。更に、本件特許発明1は、ヘッド部の撓み量A’とネック部の撓み量Bとの積A’×B及び商B/A’の範囲が規定されており、ハンドル体の材料が異なったとしても、ヘッド部の撓み量A’及びネック部の撓み量Bが同じであれば、当たり心地及びそれに伴う使用感が大きく異なるとは考えられない。
したがって、発明の詳細な説明に実施例4?9しか記載されていないからといって、発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1まで拡張ないし一般化することはできないとはいえない。
d.特許異議申立人は、発明の詳細な説明に記載された実施例は、本件特許発明1におけるA’×B及びB/A’の範囲において偏在するから、発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1まで拡張ないし一般化することはできない旨主張している(意見書「3(4)(4-2)?(4-3)」参照)。
しかしながら、本件特許発明1が発明の詳細な説明に記載されているといえることは、前記「ア」において検討したとおりである。
e.特許異議申立人は、A’×B及びB/A’が本件特許発明1における上限値である歯ブラシは、ネック部の撓み量Bが実施例4?9と比較として大きく、実施例4?9に比べて撓みやすくなっており、実施例4?9と同等の効果を奏するか不明であるから、発明の詳細な説明の内容を本件特許発明1まで拡張ないし一般化することはできない旨主張している(意見書「3(4)(4-4)」参照)。
しかしながら、本件特許発明1は、ヘッド部とネック部とに両者が協調する適度な撓みを持たせることにより課題を解決したものであるから、ネック部の撓み量のみを取り出した特許異議申立人の前記主張は、当を得ないものである。
f.特許異議申立人は、本件特許発明1は、ヘッド部の撓み量A’が上限値をとる場合、ヘッド部の撓み量A’はネック部の撓み量Bより大きくなるが、このような歯ブラシは、ネック部の先においてヘッド部が曲がり、課題を解決できる効果を奏するとは考え難い旨主張している((意見書「3(4)(4-5)」参照)。
しかしながら、特許異議申立人は、ネック部の先においてヘッド部が曲がるとなぜ課題を解決できる効果を奏するとはいえないのか、その理由を述べておらず、特許異議申立人の前記主張には十分な裏付けがない。
更に、特許異議申立人は、ヘッド部の撓み量A’がネック部の撓み量Bよりも大きい実施例6は技術的に理解不能であり、このような技術的に理解不能な歯ブラシを含む本件特許発明1まで発明の詳細な説明の内容から拡張ないし一般化できない旨主張している((意見書「3(4)(4-5)」参照)。
しかしながら、歯ブラシのように断面二次モーメントがその軸方向に沿って変化する部材の場合には、撓み量は長さに比例するとは単純にはいえないから、実施例6が技術的に理解不能であるとまではいえない。

6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第4項第1項について
特許異議申立人は、本件特許発明1は、所定の効果が得られたものについて任意の物理量の範囲を規定したもの過ぎず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない旨主張している(特許異議申立書「3(4)ウ」参照)。
しかしながら、特許異議申立人が前記主張の基礎としている実施例1、実施例3及び比較例2は、いずれもヘッド部の撓み量A’が不明であり、本件特許発明に係る実施例又は比較例とはいえないから、特許異議申立人の前記主張は、その前提から当を得ないものである。
(2)特許法第29条第2項について
特許異議申立人は、甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している(特許異議申立書「3(4)エ」参照)。
しかしながら、甲第1号証ないし甲第3号証のいずれにも、歯ブラシのハンドル体の撓み量をヘッド部の撓み量A’とネック部の撓み量Bとの積A’×B及び商B/A’で規定することが記載も示唆もされていない。
したがって、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1,2,6及び7に係る特許取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1,2,6及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項3?5に係る特許は、前記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、本件請求項3?5に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定による却下する。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】
歯ブラシ
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシに関する。
本願は、2016年3月9日に、日本に出願された特願2016-045368号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
う蝕、歯周病の予防には、歯ブラシを使用したブラッシングによる口腔内のプラーク除去が重要である。従来、プラーク除去効果を高めるために様々な歯ブラシが提案されている。例えば、歯ブラシのヘッド部を薄く、ネック部を細くすることで、通常の歯ブラシでは届きにくい奥歯の奥(奥歯の咽喉側)まで用毛を届かせることができる。特許文献1には、ヘッド部が薄型化され、口腔内での操作性に優れる歯ブラシが記載されている。
一方、歯周疾患のある生活者等においては、歯ブラシを使用したブラッシングによる歯周ポケットの汚れ除去や、歯肉のマッサージが重要となる。歯周ポケットの汚れ除去や、歯肉のマッサージには、用毛の適度な撓みが必要であり、これまでに径の細い用毛を密集させた歯ブラシや、先端極細毛などを用いた歯ブラシが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-143914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常の歯ブラシでは届きにくい奥歯の奥等に対する清掃力を高めるために歯ブラシのヘッド部を単に薄くすると、ヘッド部の耐折れ強度や毛束の抜け強度が低下し歯ブラシの品質が低下する。また、ヘッド部を薄くすることで、使用時にヘッド部が撓みやすく毛束が広がるなど使用者の使用感が損なわれる。そのため、ヘッド部を薄くするには限界がある。
また、用毛の撓みを大きくして、歯肉への当たり心地を良好にすることで使用感が高められる。しかしながら、用毛の撓みが大きすぎると、歯周ポケットへの用毛の進入性が低下して清掃力が低下したり、毛開きが大きくなり、歯ブラシの耐久性が低下するなどの問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、清掃力により優れ、かつ、使用感により優れる歯ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され、
前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、
下記の方法(α’)で測定される前記ヘッド部の撓み量をA’、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量をBとしたとき、
A’×Bが2.5?7であり、
(B/A’)が0.8?2.0であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α’):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置から前記ハンドル部側に10mmずれた位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量A’とする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。
[2]下記の方法(α)で測定される前記ヘッド部の撓み量をAとしたとき、(B/A)が1.5?5.0である、[1]に記載の歯ブラシ。
方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
[3](削除)
[4](削除)
[5](削除)
[6]前記ネック部の最小の幅が3.0?4.5mmである、[1]、[2]のいずれかに記載の歯ブラシ。
[7]前記ネック部の最小の厚さが3.0?4.5mmである、[1]、[2]、[6]のいずれかに記載の歯ブラシ。
【発明の効果】
【0007】
本発明の歯ブラシは、清掃力により優れ、かつ、使用感により優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】本発明の一実施形態にかかる歯ブラシの平面図である。
【図1B】本発明の一実施形態にかかる歯ブラシの側面図である。
【図2A】ヘッド部の撓み量の測定方法を説明する図である。
【図2B】ヘッド部の撓み量の測定方法を説明する図である。
【図3】毛先強度の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の発明]
以下、第1の発明の歯ブラシの実施の形態を、図1A及び図1Bを参照して説明する。
図1A及び図1Bの歯ブラシ1は、平面視略四角形のヘッド部2と該ヘッド部2に延設されたネック部4と該ネック部4に延設されたハンドル部6(以下、ヘッド部2とネック部4とハンドル部6とを合わせてハンドル体10ともいう)とを備える。前記ヘッド部2には植毛部(不図示)が設けられている。
【0010】
ハンドル体10は、全体として長尺状に一体成形されたものであり、例えば、樹脂を材料とし射出成形により得られるものである。
ハンドル体の材質としては、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ポレアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、ポリエステル樹脂(PCTA)などが挙げられる。これらの中でも、強度が高く、成形性に優れる点等から、PP、POM、PBTが好ましく、PP、POMがより好ましい。また、より低コストで本発明の効果をより得ることができる点から、ハンドル体の材質はPPが特に好ましい。
上記の樹脂は1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
ハンドル体の材質の曲げ弾性率は、1200?3000MPaであることが好ましく、1500?3000MPaであることがより好ましい。ハンドル体の材質の曲げ弾性率が上述の範囲であると、ヘッド部の撓み量を適切な値に設定することができ、口腔内の清掃力や操作性の向上、使用者の使用感の向上に繋がる。なお、ハンドル体の材質の曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定される。
また、ハンドル体10は、ハンドル部6の一部又は全部が軟質樹脂で被覆されていてもよい。ハンドル部6の一部又は全部が軟質樹脂で被覆されていることで、使用者がハンドル部6を握った際の把持性がより高められる。前記軟質樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等のエラストマー樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0011】
ハンドル体10の長さL1は、操作性等を勘案して決定でき、例えば、150?200mmとされる。
【0012】
ヘッド部2は、ハンドル体10の長さ方向が長手とされ、平面視において4つの頂部が曲線で隅切りされた略四角形の平板状とされている。ヘッド部2の一方の面(植毛面20)には、植毛穴22が複数形成されている。この植毛穴22に、用毛が束ねられた毛束が植設されて、複数の毛束からなる植毛部が形成される。
なお、本明細書において、平面視とは、ヘッド部の植毛面側から歯ブラシを見ることを意味する。植毛面20と平行でかつハンドル体10の長さ方向に直交する方向を幅とし、植毛面20に直交する方向を厚さとする。加えて、植毛面20が臨む側を表面、植毛面20が臨む側の反対側を裏面とする。
ヘッド部2は、平面視において、先端9からネック部4に向かうに従い幅方向に広がり、次いで同等の幅で延び、次いで幅方向に狭まり、ネック部4との境界P1に至るものである。
【0013】
本実施形態において、境界P1は、ヘッド部2の平面視形状における、ネック部4よりの隅切を形成する曲線の終点、即ち、隅切を形成する曲線の曲がり方向が変化する位置である。即ち、ヘッド部とネック部の境界P1は、平面視でのヘッド部におけるネック部よりの隅切部分の幅が狭くなる両縁を形成する曲線又は直線R1から、幅が広がる曲線もしくは直線、又は幅が同じ直線に変化する位置である。また、平面視でネック部がハンドル部に向かうにしたがって幅が広くなる歯ブラシの場合、境界P1は、平面視でヘッド部とネック部における最も幅が小さい位置と一致する。
なお、例えば、ヘッド部とネック部が同じ幅で形成された歯ブラシのように、前記境界P1の位置の特定が困難な場合がある。この場合には、長さL1に対して、ハンドル体10の先端9から17.5%の位置(例えば、長さL1が180mmの場合、ハンドル体10の先端9から31.5mmの位置)を境界P1とする。
【0014】
ヘッド部2の大きさは、口腔内での操作性等を勘案して決定できる。
ヘッド部2の最大幅W1は、大きすぎると口腔内での操作性が低下し、小さすぎると植毛される毛束の数が少なくなりすぎて、清掃力が損なわれやすい。このため、幅W1は、例えば、5?13mmとされる。
ヘッド部2の厚さT1は、2.0?4.0mmが好ましく、2.0?3.5mmがより好ましく、2.5?3.2mmがさらに好ましい。厚さT1が前記下限値以上であると、ヘッド部2において充分な強度を確保しやすい。さらに、植毛穴22を厚さ方向に形成しやすくなり、毛束を植毛穴22に強固に植設しやすくなり毛束が抜けるのを抑制しやすくなる。また、厚さT1が前記上限値以下であると、歯ブラシ1の口腔内での操作性がより高められる。さらに、奥歯の奥等の口腔内の隅々にまで用毛を届かせることができ、口腔内の汚れ除去効果がより高められる。
なお、ヘッド部2の厚さが一定でない場合、T1はヘッド部2の最小の厚さを意味する。
ヘッド部2の長さL2は、長すぎると口腔内での操作性が損なわれやすく、短すぎると植毛される毛束の数が少なくなりすぎて、清掃効果が損なわれやすい。このため、長さL2は、例えば10?40mmの範囲で適宜決定される。
【0015】
植毛穴22の形状は、特に限定されず、真円又は楕円等の円形、三角形や四角形等の多角形等が挙げられる。
植毛穴22の数量は、特に限定されず、例えば、10?60とされる。
植毛穴22の直径は、求める毛束の太さに応じて決定され、例えば、1?3mmとされる。
植毛穴22の配列パターンは、特に限定されず、いわゆる碁盤目状や千鳥状等、いかなる配列パターンであってもよい。
【0016】
毛束を構成する用毛としては、毛先に向かって漸次その径が小さくなる用毛(テーパー毛)、毛先の丸め部を除いて外径がほぼ同一である用毛(ストレート毛)、毛先がヘラ状、球状、先割れ状等の形状になっている用毛が挙げられる。
用毛としては、テーパー毛が好ましい。用毛をテーパー毛とすることで、歯周ポケット等の汚れ除去効果が高められる。さらに、歯肉のマッサージ効果が高められ、使用感がより向上される。
【0017】
用毛の材質としては、例えば、6-12ナイロン、6-10ナイロン等のポリアミド、PET、PBT、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等のポリエステル、ポリプロピレン等のポリオレフィン、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等の合成樹脂材料が挙げられる。これらの樹脂材料は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
また、用毛は、芯部と該芯部の外側に設けられた少なくとも1層以上の鞘部とを有する多重芯構造であってもよい。
【0018】
用毛の横断面形状は、真円形が好ましいが、真円形に必ずしも限定されるものではなく、歯ブラシ1の目的用途に応じて任意の形状とすることができる。例えば、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、五角形、六角形等。)、異形(例えば、星形、三つ葉のクローバー形、四つ葉のクローバー形等)等とすることができる。
【0019】
各用毛の太さは、特に限定されず、例えば、横断面が真円形の場合、4?8mil(1mil=1/1000inch=0.025mm)が好ましい。前記下限値以上であれば、自立性が向上して清掃性がより高くなり、前記上限値以下であれば、毛束11の毛腰が適度になり、当たり心地がより良好になる。
毛束11を構成する用毛は、全てが同じ太さであってもよいし、2種以上の異なる太さの用毛が組み合わされてもよい。
【0020】
用毛の毛丈は、例えば、大人用で8mm?15mm、子供用で6mm?12mmとすることが好ましい。また、口腔内の使用性や使用感の点から、選択された用毛の直径が小さいほど、用毛の毛丈を短くすることが好ましい。また、使用感や、刷掃感、清掃効果、耐久性などの目的に応じて、太さの異なる複数本の用毛を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
ネック部4は、ヘッド部2とハンドル部6とを接続するものである。
本実施形態において、ネック部4は、境界P1からハンドル部6に向かい略同一径で延び、次いで拡径して、ハンドル部6との境界P2に至るものである。前記境界P2は、ネック部4の拡径の終点、即ち、平面視において、拡幅する部分の両縁を形成する直線の終点又は拡幅する部分の両縁を形成する曲線の曲がり方向が変化する位置である。図1Aであれば、ネック部とハンドル部の境界P2は、平面視でネック部における幅が広がる部分の両縁を形成する直線又は曲線R2から、幅が徐々に狭くなる曲線に変化する位置である。
なお、ネック部とハンドル部が同じ幅で形成された歯ブラシのように、前記境界P2の位置の特定が困難な場合がある。この場合には、長さL1に対して、ハンドル体10の先端9から42.2%の位置(例えば、長さL1が180mmの場合、ハンドル体10の先端9から76.0mmの位置)を境界P2とする。
【0022】
ネック部4の幅W2は、3.0?4.5mmが好ましく、3.0?4.2mmがより好ましい。幅W2が前記下限値以上であると、ネック部4において耐折れなどの点で充分な強度を確保しやすい。さらに、歯ブラシ1が軟弱になりすぎず、適度な撓みによる良好な使用感が得られやすくなる。また、幅W2が前記上限値以下であると、歯ブラシ1の口腔内での操作性が高められる。さらに、口腔内の隅々まで用毛を届かせることができ、口腔内の汚れ除去効果がより高められる。
なお、ネック部4の幅が一定でない場合、幅W2はネック部4の最小の幅を意味する。
【0023】
ネック部4の厚さT2は、3.0?4.5mmが好ましく、3.0?4.2mmがより好ましい。厚さT2が前記下限値以上であると、ネック部4において耐折れなどの点で充分な強度を確保しやすい。さらに、歯ブラシ1が軟弱になりすぎず、適度な撓みによる良好な使用感が得られやすくなる。また、厚さT2が前記上限値以下であると、歯ブラシ1の口腔内での操作性が高められる。さらに、口腔内の隅々まで用毛を届かせることができ、口腔内の汚れ除去効果がより高められる。
なお、ネック部4の厚さが一定でない場合、厚さT2はネック部4の最小の厚さを意味する。
【0024】
ネック部4の最小径は、3.0?4.5mmが好ましく、3.0?4.2mmがより好ましい。ネック部4の最小径が前記下限値以上であると、ネック部4において耐折れなどの点で充分な強度を確保しやすい。さらに、歯ブラシ1が軟弱になりすぎず、適度な撓みによる良好な使用感が得られやすくなる。また、ネック部4の最小径が前記上限値以下であると、歯ブラシ1の口腔内での操作性が高められる。さらに、口腔内の隅々まで用毛を届かせることができ、口腔内の汚れ除去効果がより高められる。
なお、ネック部4の最小径は、上記幅W2と厚さT2のうちの小さな方の値、即ちネック部4の最小の幅と最小の厚さのうちの小さい方を意味する。ネック部においては、最小の厚さと最小の幅が同じか、又は最小の厚さよりも最小の幅の方が小さく、最小の幅が3.0?4.5mmであることがより好ましい。
【0025】
ネック部4の長さL3は、ヘッド部の長さL2等を勘案して決定でき、例えば、30?90mmとなる長さ、より好ましくは30?60mmである。長さL3が上記下限値以上であると、口腔内の隅々まで用毛を届かせやすくなり、口腔内の汚れ除去効果がより高められる。長さL3が上記上限値以下であると、歯ブラシ1の口腔内での操作性をより高められる。
【0026】
(ヘッド部2の撓み量A)
ヘッド部の撓み量Aは、以下の方法(α)により測定される。
方法(α):
ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、歯ブラシのヘッド部とネック部との境界P1の位置を固定した状態におけるハンドル体の先端の高さを基準高さとする。さらに、前記境界P1の位置を固定した状態で、ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後のハンドル体の先端の基準高さからの高さの変位量(単位はmm)をヘッド部の撓み量Aとする。
なお、「植毛部の長軸方向の長さ」とは、ヘッド部を平面視したときの最も先端側に位置する植毛穴の先端と、最も後端側に位置する植毛穴の後端との距離を意味する。
例えば、平面視でネック部のヘッド部よりの部分の幅が同一の場合、前記ネック部のヘッド部よりの部分においてヘッド部に向かって徐々に位置を変えながら幅を測定し、幅が同じ部分と幅が大きくなり始める部分の変わり目の位置を境界P1とする。また、平面視でネック部のヘッド部よりの部分の幅がヘッド部に近づくにしたがって狭くなっている場合は、ネック部のヘッド部よりの部分においてヘッド部に向かって徐々に位置を変えながら幅を測定し、幅が最小となる位置を境界P1とする。
【0027】
本発明においてヘッド部2の撓み量Aは、以下のように測定される。
図2Aに示すように、歯ブラシ1を、植毛面20が上を向くようにしてネック部最細部の位置(境界P1)で治具100を用いて固定する。この際、ハンドル体10の先端9の高さを基準高さH0とする。
次いで、図2Bに示すように、200gの錘102を、Sの位置に吊り下げ、10秒後のハンドル体10の先端9の高さを測定し、その高さをH1とする。前記Sは、植毛部長軸方向に対して、植毛部先端から10±3%の位置である。例えば植毛部が19mmの場合、Sは該先端から2.0mmの位置である。
次いで、H1とH0との差の絶対値をa(単位はmm)として求める。前記aは、例えばハイトゲージ等で測定される。測定は室温25±3℃で行う。
上記測定を5回行い、上記aの平均値をヘッド部2の撓み量Aとする。
【0028】
撓み量Aは、0.4?3.0が好ましく、0.4?2.5がより好ましく、0.4?2.0がさらに好ましい。また撓み量Aは、0.5?3.0が好ましく、0.5?2.5がより好ましく、0.5?2.0がさらに好ましい。撓み量Aが前記範囲であると、ヘッド部2自体が適度に撓み、ヘッド部2に植設された植毛部のしなやかさが発現して歯肉に対する当たり心地、即ち使用感がより良好になる。また、撓み量Aが前記下限値以上であると、使用感が良好となる。撓み量Aが前記上限値以下であると、ヘッド部2において充分な強度を確保しやすい。さらに、歯ブラシ1が軟弱になりすぎず、良好な口腔内操作性、清掃力が得られやすくなる。
なお、撓み量Aは、ヘッド部2の材質(つまりハンドル体10の材質)の曲げ弾性率やヘッド部2の厚さ、幅等を調整することで調整される。
【0029】
(ネック部4の撓み量B)
ネック部の撓み量Bは、以下の方法(β)により測定される。
方法(β):
ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、歯ブラシのネック部とハンドル部との境界の位置を固定した状態におけるハンドル体の先端の高さを基準高さとする。前記固定した状態においてさらにヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後のハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)をネック部の撓み量Bとする。
【0030】
本発明においてネック部4の撓み量Bは、歯ブラシ1を治具100で固定する位置(境界P1)、及び、錘102を吊り下げる位置Sが、ヘッド部2の撓み量Aの測定方法と異なること以外は、ヘッド部2の撓み量Aと同様に測定される。
ネック部4の撓み量Bの測定において、歯ブラシ1を治具100で固定する位置は、境界P2である。また、Sは、植毛部の長軸方向の長さに対して、植毛部先端から50±3%の位置である。例えば植毛部が19mmの場合、Sは先端から9.5mmの位置である。
そして、ヘッド部2の撓み量Aの測定方法と同様に、錘102を吊り下げる前の基準高さH0と、錘102を吊り下げて10秒経過後の高さH1との差の絶対値(単位はmm)を求める。測定は室温25±3℃で行う。この測定を5回行い、その平均値をネック部4の撓み量Bとする。
【0031】
撓み量Bは、2.1?5.0が好ましく、2.3?4.5がより好ましく、2.5?4.0がさらに好ましい。撓み量Bが前記範囲であると、ネック部4が適度に撓んで、適度なクッション性が発現し、植毛部の歯肉に対する当たり心地がより良好になる。また、撓み量Bが前記下限値以上であると、奥歯の奥等の口腔内の隅々まで用毛を届かせることができ、口腔内の清掃力がより高められる。さらに、歯周ポケットへの用毛の進入性が向上し、歯周ポケットの清掃力がより高められる。撓み量Bが前記上限値以下であると、ネック部4において充分な強度を確保しやすい。さらに、歯ブラシ1が軟弱になりすぎず、良好な使用感が得られやすくなる。
なお、撓み量Bは、ネック部4の材質(つまりハンドル体10の材質)の曲げ弾性率やネック部の最小径、境界P2の断面形状等を調整することで調整される。
【0032】
ヘッド部の撓み量Aと、ネック部の撓み量Bとの積(A×B)は、0.8?10であり、1?10がより好ましく、1?6がさらに好ましく、1?3.5がさらに好ましい。また(A×B)は2?10が好ましい。(A×B)が前記範囲であると、ヘッド部2とネック部4が協調する適度な撓みが得られる。これにより、植毛部を清掃対象部位(歯、歯肉等)に対して摺動させた際に、植毛部のしなやかさとクッション性が発現し、植毛部の当たり心地が良好になる。また、(A×B)の下限値は0.8以上であり、1以上が好ましい。また2以上が好ましい。(A×B)が前記下限値以上であることで、適度な撓みが得られることで、歯肉に対する当たり心地が良好で、歯肉に対して高いマッサージ効果が得られ、使用感が向上する。(A×B)の上限値は、10以下であり、6以下が好ましく、3.5以下がより好ましい。(A×B)が前記上限値以下であることで、ヘッド部2とネック部4とで形成される領域が撓みすぎて、操作性が低下し清掃力が低下するのを抑制できる。また、前記撓みすぎによる歯肉に対するマッサージ効果が低下したり、使用者が歯ブラシ1を使用した際に軟弱と感じたりするのを抑制できる。さらに、歯ブラシ1の強度が高められ耐久性が向上する。
【0033】
撓み量Aと撓み量Bは、A<Bが好ましい。A<Bであると、歯ブラシ1の操作性がより高められる。
また、撓み量Aと撓み量Bとの差(B-A)は、1以上が好ましく、1.5以上が好ましく、2以上がさらに好ましい。(B-A)が前記下限値以上であると、ヘッド部2に対してネック部4の撓み量を大きく保て、クッション性が高められ歯肉に対する当たり心地が良好となり、使用者が歯肉へのマッサージ効果を実感しやすくなる。
また、(B-A)は、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。(B-A)が前記上限値以下であると、ヘッド部2に対してネック部4の撓み量が大きくなりすぎず、口腔内での操作性が高められやすくなる。さらに、使用者が歯ブラシ1を使用した際に軟弱と感じるのを抑制しやすくなる。
(B-A)は、1?4が好ましく、1?3がより好ましい。
また、撓み量Bと撓み量Aの比(B/A)は、1.5?5.0が好ましく、1.8?4.8がより好ましい。
【0034】
(ヘッド部2の撓み量A’)
ヘッド部の撓み量A’は、以下の方法(α’)により測定される。
方法(α’):
ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、歯ブラシにおけるヘッド部とネック部との境界の位置からハンドル部側に10mmずれた位置を固定した状態におけるハンドル体の先端の高さを基準高さとする。前記固定した状態においてさらにヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後のハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量A’とする。
【0035】
本発明においてヘッド部2の撓み量A’は、歯ブラシ1を治具100で固定する位置(境界P1)がヘッド部2の撓み量Aの測定方法と異なること以外は、ヘッド部2の撓み量Aと同様に測定される。
ヘッド部2の撓み量A’の測定において、歯ブラシ1を治具100で固定する位置は、長軸方向において境界P1の位置からハンドル部側に10mmずれた位置P3である。
そして、ヘッド部2の撓み量Aの測定方法と同様に、錘102を吊り下げる前の基準高さH0から、錘102を吊り下げて10秒経過後の高さH1との差の絶対値(単位はmm)を測定する。測定は室温25±3℃で行う。この測定を5回行い、その平均値をヘッド部2の撓み量A’とする。
【0036】
撓み量A’は、1?5が好ましく、1?4がより好ましく、1?3がさらに好ましい。撓み量A’が前記範囲であると、ヘッド部2自体が適度に撓み、ヘッド部2に植設された植毛部のしなやかさが発現して歯肉に対する当たり心地、即ち使用感がより良好になる。また、撓み量A’が前記下限値以上であると、使用感が良好になる。撓み量A’が前記上限値以下であると、ヘッド部2において充分な強度を確保しやすい。さらに、歯ブラシ1が軟弱になりすぎず、良好な口腔内操作性、清掃力が得られやすくなる。
なお、撓み量A’は、ヘッド部2の材質(つまりハンドル体10の材質)の曲げ弾性率やヘッド部2の厚さ、幅等を調整することで調整される。
【0037】
ヘッド部の撓み量A’と、ネック部の撓み量Bとの積(A’×B)は、2.5?12が好ましく、3?12がより好ましく、3?10がさらに好ましく、3?7がさらに好ましい。(A’×B)が前記範囲であると、ヘッド部2とネック部4が協調する適度な撓みが得られやすくなる。これにより、植毛部を清掃対象部位(歯、歯肉等)に対して摺動させた際に、植毛部のしなやかさとクッション性が発現し、植毛部の当たり心地がより良好になる。また、(A’×B)は、2.5以上であり、3以上が好ましい。(A’×B)が前記下限値以上であることで、適度な撓みが得られることで、歯肉に対する当たり心地がより良好で、歯肉に対してより高いマッサージ効果が得られ、使用感がさらに向上する。(A’×B)は、12以下であり、10以下が好ましく、7以下がより好ましい。(A’×B)が前記上限値以下であることで、ヘッド部2とネック部4とで形成される領域が撓みすぎて、操作性が低下し清掃力が低下することを抑制することが容易になる。また、前記撓みすぎによる歯肉に対するマッサージ効果が低下したり、使用者が歯ブラシ1を使用した際に軟弱と感じたりすることを抑制できる。さらに、歯ブラシ1の強度が高められ耐久性がさらに向上する。
【0038】
また、撓み量Bと撓み量A’の比(B/A’)は、0.8?2.5が好ましく、0.9?2.0がより好ましい。
【0039】
(用毛の毛先強度)
毛束を構成する用毛の毛先強度は、以下のように測定される。
測定装置として、ISO毛腰強度試験機を用いる。図3に示すISO毛腰強度試験機200は、基準面202と、基準面上に配されたラダー204とを備える。前記ラダー204は、複数本の円柱状の棒状体(ステンレス製、直径:3mm)を備える。前記棒状体は、互いに平行に一定間隔(棒状体の中心同士で10mm間隔)で配列されている。
まず、歯ブラシ1を上記試験機200に設置する。その際、歯ブラシ1のヘッド部2に植設された用毛の先端が、上記試験機200の基準面202に接するようにする。そして、ヘッド部2を前記基準面202に対して水平にスライドさせた時の最大抵抗値を求め、これを用毛の毛先強度とする。ヘッド部2のスライド方向は、歯ブラシ1の長手方向と、前記棒状体の長手方向とが互いに垂直となる方向である。ヘッド部2のスライド速度は、10mm/分とする。
【0040】
用毛の毛先強度は、1.7?3.0Nであることが好ましく、1.9?2.8Nがより好ましい。用毛の毛先強度が前記の好ましい範囲であると、歯垢の除去力がより高められ、かつ、用毛の歯肉へのあたり心地がより良好になり、使用性がさらに高められる。
【0041】
本実施形態の歯ブラシ1は、従来公知の歯ブラシの製造方法に準じて製造される。例えば、金型に硬質樹脂を射出して、ハンドル体10を成形する。次いで、得られたハンドル体10の植毛面20に毛束を植設することで、歯ブラシ1が得られる。毛束を植設する方法としては、例えば、毛束を二つ折りにしその間に挟み込まれた平線を植毛穴22に打ち込むことにより毛束を植設する平線式植毛、毛束の下端を植毛部となる溶融樹脂中へ圧入して固定する熱融着法、毛束の下端を加熱して溶融塊を形成した後に金型中に溶融樹脂を注入して植毛部を成形するインモールド法等が挙げられる。
第1の発明の歯ブラシは、平線式植毛により毛束を植毛した歯ブラシとするときに特に効果的である。平線式植毛を採用した場合、ヘッド部に平線打ち込みによる負荷が掛かる。そのため、ヘッド部が薄くなるほど、力が加わった際の変形に対する強度が低くなる。本実施形態の歯ブラシ1では、ネック部に適度な撓み性を持たせることにより、歯を磨く際などにヘッド部にかかる力をヘッド部からネック部全体に分散できる。そのために平線式植毛の場合、本発明の効果を特に顕著に得ることができる。
特に強度の低いポリプロピレン樹脂をハンドル体の材質として採用した平線式植毛による歯ブラシの場合、ヘッド部の長さ(L2)当たりのヘッド部の撓み量(A/L2)の値Xを0.015?0.045としたときに、ヘッド部とネック部の長さの和(L2+L3)当たりのネック部の撓み量(B/(L2+L3))の値Yと前記Xの比、Y/Xを0.8?2.0とすることが好ましい。前記Xは0.018?0.45とすることが好ましく、0.018?0.040とすることがより好ましく、このときY/Xを0.9?2.0とすることが好ましく、0.9?1.9とすることがより好ましい。
また強度の高いポリアセタール樹脂をハンドル材質として採用した平線式植毛による歯ブラシの場合、前記Xを0.027?0.035、好ましくは0.029?0.032としたときに、前記Y/Xを1.0?1.4とすることが好ましく、1.0?1.3とすることがより好ましい。
【0042】
本実施形態の歯ブラシ1の使用方法を説明する。
まず、ハンドル部6を把持する。ハンドル部6を把持する形態は特に限定されず、パームグリップ式であってもよいし、ペングリップ式であってもよい。通常、対象部位に対して圧力を掛けながら清掃するため、いずれの把持形態においても、親指等をネック部後端の境界P2近傍に当てて、ハンドル部6を把持する。
次に、口腔内にヘッド部2を挿入し、ハンドル部6を押圧しながら、植毛部を清掃対象部位に摺動させる。ハンドル部6に加えられた力が、ネック部4を介してヘッド部2に伝えられ、さらにヘッド部2から植毛部に伝えられることで、植毛部は清掃対象部位に圧力を掛けながら清掃する。この際、ヘッド部の撓み量Aと、ネック部の撓み量Bとの積(A×B)が0.8?10であるため、ヘッド部とネック部が協調する適度な撓みが得られる。その結果、歯ブラシ1のヘッド部2に植設された用毛を奥歯の奥等の口腔内の隅々まで届けさせやすく、口腔内の清掃力が高められる。さらに、歯周ポケットに用毛を進入させやすく、歯周ポケットの清掃力が高められる。加えて、適度な撓みが得られることで、植毛部のしなやかさとクッション性が向上し、植毛部の歯肉に対する当たり心地が良好となり、歯肉に対する良好なマッサージ効果が得られ、使用感が高められる。
また、ヘッド部の撓み量A’とネック部の撓み量Bとの積(A’×B)が2.5?12であると、ヘッド部とネック部が協調する適度な撓みがさらに得られやすくなる。これにより、口腔内の奥歯の奥や歯周ポケット等の清掃力がより高められ、また歯肉に対する良好なマッサージ効果が得られやすく、使用感がより高められる。
【0043】
また、ヘッド部2の厚さT1が2.0?4.0mmであり、かつ、ネック部4の最小径が3.0?4.5mmであると、ヘッド部2に植設された用毛を奥歯の奥等の口腔内の隅々までより届けさせやすくなり、口腔内の清掃力がより高められる。さらに、歯ブラシ1の操作性がより高められる。
さらに、毛先強度が1.7?3.0Nであると、歯周ポケットに用毛をより進入させやすくなり、歯周ポケットの清掃力がより高められる。さらに、歯肉への当たり心地がより良好となり、使用感がより高められる。
【0044】
[第2の発明]
第2の発明の歯ブラシは、毛束が植設されたヘッド部と、ヘッド部に延設されたネック部と、ネック部に延設されたハンドル部とを備え、ヘッド部の撓み量A’とネック部の撓み量Bとの積(A’×B)が2.5?12であることを特徴とする歯ブラシである。第2の発明の歯ブラシは、ヘッド部の撓み量A’とネック部の撓み量Bとの積(A’×B)が2.5?12であることを必須とする以外は、第1の発明の歯ブラシと同様の態様を採用することができ、好ましい態様も同じである。
A’×Bについては、第1の発明において説明したとおりである。
【0045】
第2の発明の歯ブラシにおいては、ヘッド部の撓み量A’とネック部の撓み量Bとの積(A’×B)が2.5?12であるため、ヘッド部とネック部が協調する適度な撓みが得られる。その結果、歯ブラシのヘッド部に植設された用毛を奥歯の奥等の口腔内の隅々まで届けさせやすく、口腔内の清掃力が高められる。さらに、歯周ポケットに用毛を進入させやすく、歯周ポケットの清掃力が高められる。加えて、適度な撓みが得られることで、植毛部のしなやかさとクッション性が向上し、植毛部の歯肉に対する当たり心地が良好となり、歯肉に対する良好なマッサージ効果が得られ、使用感が高められる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例において使用した材料は下記の通りである。
<ハンドル体>
・POM-1(曲げ弾性率:2600MPa)
・PP-1(曲げ弾性率:1900MPa)
・PP-2(曲げ弾性率:1400MPa)
<用毛>
・PBT
【0047】
(実施例1?3、比較例1?2)
図1A及び図1Bと同様の歯ブラシを作製した。各例の歯ブラシのハンドル体の長さL1は、180mmであり、ヘッド部の厚さT1、ヘッド部の長さL2、ヘッド部の幅W1、ネック部の最小径T2、ネック部の長さL3、境界P2の幅、境界P2の厚みは、表1に示す寸法とした。ヘッド部には、用毛(PBT製)23本を束ねて毛束とし、この毛束を図1Aに示す植毛パターンで植設して、植毛部を設けた。なお各例の用毛の長さ及び太さは表1に示す寸法とした。
各例の歯ブラシの材質は、表1に示すとおりである。
また、各例の歯ブラシのヘッド部の撓み量Aと、ネック部の撓み量B、毛先強度を上述した方法で測定した(境界P1の位置:ハンドル体10の先端9から31.5mm、境界P2の位置:ハンドル体10の先端9から76.0mm)。
各例の歯ブラシの撓み量A、撓み量B、A×B及び毛先強度を表1に示す。
【0048】
(実施例4?9、比較例3?7)
図1A及び図1Bと同様の歯ブラシを作製した。各例の歯ブラシのハンドル体の長さL1は、180mm(実施例4?9、比較例3?7)であり、ヘッド部の厚さT1、ヘッド部の長さL2、ヘッド部の幅W1、ネック部の最小径T2、ネック部の長さL3、境界P2の幅、境界P2の厚みは、表2及び表3に示す寸法とした。ヘッド部には、用毛(PBT製)23本を束ねて毛束とし、この毛束を図1Aに示す植毛パターンで植設して、植毛部を設けた。なお各例の用毛の長さ及び太さは表2及び表3に示す寸法とした。
各例の歯ブラシの材質は、表2及び表3に示すとおりである。
また、各例の歯ブラシのヘッド部の撓み量A、ヘッド部の撓み量A’、ネック部の撓み量B、及び毛先強度を上述した方法で測定した。歯ブラシを固定する境界P1の位置及び境界P2の位置は、各例の歯ブラシにおいて上記したように決定した。
各例の歯ブラシの撓み量A、撓み量A’、撓み量B、A×B、A’×B、及び毛先強度を表2及び表3に示す。
【0049】
また、各例の歯ブラシについて、清掃力、使用感、操作性を下記のように評価した。
それぞれの評価結果を表1?3に示す。
【0050】
[奥歯の奥(奥歯の咽喉側)の清掃力]
10人のモニターが、各例の歯ブラシで口腔内を清掃し、その際の奥歯の奥の清掃効果を下記の評価基準で評価した。10人のモニターの平均点が、4点以上を「○」、2点以上4点未満を「△」、2点未満を「×」とした。
<評価基準>
5点:奥歯の奥の汚れが落ちた感触を非常に感じる。
4点:奥歯の奥の汚れが落ちた感触を強く感じる。
3点:奥歯の奥の汚れが落ちた感触を感じる。
2点:奥歯の奥の汚れが落ちた感触をあまり感じない。
1点:奥歯の奥の汚れが落ちた感触を感じない。
【0051】
[使用感の評価]
10人のモニターが、各例の歯ブラシで口腔内を清掃し、その際の歯肉への当たり心地を下記の評価基準で評価し、歯ブラシの使用感を評価した。10人のモニターの平均点が、4点以上を「○」、2点以上4点未満を「△」、2点未満を「×」とした。
<評価基準>
5点:歯肉の痛みがなく、当たり心地が非常に優しい。
4点:歯肉の痛みがなく、当たり心地がとても優しい。
3点:歯肉の痛みがなく、当たり心地が優しい。
2点:歯肉に弱い痛みを感じる。
1点:歯肉に強い痛みを感じる。
【0052】
[口腔内での操作性]
10人のモニターが口腔内を清掃し、各例の歯ブラシの操作性について評価した。操作性の評価は、1点?7点の7段階とされ、操作性が良好であると感じたものほど、高い点数となっている。10人のモニターの平均点を下記判定基準に分類し、口腔内での操作性を判定した。
<判定基準>
○:平均点が5点以上。
△:平均点が3点以上5点未満。
×:平均点が3点未満。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
表1に示すとおり、本発明を適用した実施例1,2,3の歯ブラシは、口腔内の清掃力に優れ、かつ、使用感が良好であった。さらに、口腔内での操作性に優れていた。
これに対して、A×Bが0.8未満である歯ブラシ(比較例1)、A×Bが10超である歯ブラシ(比較例2)は、奥歯の奥に対する清掃力が充分でなく、口腔内での良好な操作性も得られなかった。
【0057】
また、表2に示すとおり、本発明を適用した歯ブラシ(実施例4?9)は、口腔内の清掃力に優れ、かつ、使用感が良好であった。さらに、口腔内での操作性に優れていた。
これに対して、表3に示すとおり、A×Bが0.8未満であり、またA’×Bが3未満である歯ブラシ(比較例3?7)は、奥歯の奥に対する清掃力、歯周ポケットに対する清掃力、使用感、及び口腔内での操作性の少なくとも1つが不充分であった。
以上の結果から、本発明を適用した歯ブラシは、口腔内の清掃力により優れ、かつ、使用感により優れることが確認できた。
【符号の説明】
【0058】
1 歯ブラシ
2 ヘッド部
4 ネック部
6 ハンドル部
10 ハンドル体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド部と、該ヘッド部に延設されたネック部と、該ネック部に延設されたハンドル部とを備えるハンドル体を備え、前記ヘッド部の植毛面には毛束が植設され、
前記ヘッド部の厚さが2.0?4.0mmであり、
下記の方法(α’)で測定される前記ヘッド部の撓み量をA’、下記の方法(β)で測定される前記ネック部の撓み量をBとしたとき、
A’×Bが2.5?7であり、
(B/A’)が0.8?2.0であることを特徴とする歯ブラシ。
方法(α’):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置から前記ハンドル部側に10mmずれた位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量A’とする。
方法(β):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ネック部と前記ハンドル部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から50±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ネック部の撓み量Bとする。
【請求項2】
下記の方法(α)で測定される前記ヘッド部の撓み量をAとしたとき、(B/A)が1.5?5.0である、請求項1に記載の歯ブラシ。
方法(α):前記ヘッド部の植毛面を鉛直方向の上に向け、前記ヘッド部と前記ネック部との境界の位置を固定した状態における前記ハンドル体の先端の高さを基準高さとし、前記固定した状態においてさらに前記ヘッド部における、植毛部の長軸方向の長さに対して前記植毛部の先端から10±3%の位置に200gの錘を吊り下げ、10秒後の前記ハンドル体の先端の前記基準高さからの高さの変位量(単位はmm)を前記ヘッド部の撓み量Aとする。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記ネック部の最小の幅が3.0?4.5mmである、請求項1、2のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
【請求項7】
前記ネック部の最小の厚さが3.0?4.5mmである、請求項1、2、6のいずれか一項に記載の歯ブラシ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-21 
出願番号 特願2018-90255(P2018-90255)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A46B)
P 1 651・ 121- YAA (A46B)
P 1 651・ 537- YAA (A46B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大宮 功次  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 久保 竜一
堀川 一郎
登録日 2018-08-17 
登録番号 特許第6385023号(P6385023)
権利者 ライオン株式会社
発明の名称 歯ブラシ  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 黒瀬 雅一  
代理人 加藤 広之  
代理人 黒瀬 雅一  
代理人 加藤 広之  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 川越 雄一郎  

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