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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  G01N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
管理番号 1360462
異議申立番号 異議2019-700447  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-03 
確定日 2020-01-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6435053号発明「クレアチニン濃度測定装置の較正方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6435053号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。 特許第6435053号の請求項1ないし5、7ないし10、12ないし16に係る特許を維持する。 特許第6435053号の請求項6及び11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6435053号の請求項1-16に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)12月17日(パリ条約による優先権主張 2014年12月18日 デンマーク)を国際出願日とする出願であって、平成30年11月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年12月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和元年6月4日に特許異議申立人 杉本 貞夫(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和元年7月31日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和元年11月5日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和元年12月19日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容(下線は、訂正箇所を示すために、特許権者が付したものである。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記測定デバイスの出力を受信すること」と記載されているのを、「終了時間において、前記測定デバイスの出力を受信すること」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?16も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記測定デバイスの前記出力と、前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することと、を含む方法」と記載されているのを、「前記測定デバイスの前記出力と、前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することと、を含み、 前記較正溶液の前記初期時間から前記終了時間までの温度変化の測定値を、温度プローブから受信することによって、前記温度モデルを決定することを更に含み、 前記終了時間は前記初期時間から14日超経過後である、方法」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?16も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8に「前記温度モデルを前記決定することは、前記受信した前記温度変化の測定値を、第2の温度プローブで較正することを含む」と記載されているのを、「前記温度モデルを前記決定することは、前記受信した前記温度変化の測定値を、第2の温度プローブで較正することを含み、前記第2の温度プローブが参照用温度プローブである」に訂正する。(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9、10、12?16も同様に訂正する。)

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項6に記載の方法」と記載されているのを、「請求項1?5のいずれか一項に記載の方法」に訂正する。(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8?10、12?16も同様に訂正する。)

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「請求項6又は7に記載の方法」と記載されているのを、「請求項1?5、7のいずれか一項に記載の方法」に訂正する。(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9?10、12?16も同様に訂正する。)

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?8のいずれか一項に記載の方法」と記載されているのを、「請求項1?5、7?8のいずれか一項に記載の方法」に訂正する。(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10、12?16も同様に訂正する。)

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項12に「前記電子デバイスを、請求項1?11のいずれか一項で請求した方法に従って動作させる」と記載されているのを、「前記電子デバイスを、請求項1?5、7?10のいずれか一項で請求した方法に従って動作させる」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項13に「前記電子デバイスを請求項1?11のいずれか一項で請求した方法に従って動作させる」と記載されているのを、「前記電子デバイスを請求項1?5、7?10のいずれか一項で請求した方法に従って動作させる」に訂正する。(請求項13の記載を直接的又は間接的に引用する請求項14?16も同様に訂正する。)

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項14に「請求項1?11のいずれか一項に記載の方法の使用説明書」と記載されているのを、「請求項1?5、7?10のいずれか一項に記載の方法の使用説明書」に訂正する。(請求項14の記載を直接的に引用する請求項15?16も同様に訂正する。)

なお、訂正前の請求項1-16は、請求項2-16が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1-16〕について請求されている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1に係る訂正について(訂正事項1及び2)
請求項1に係る訂正のうち訂正事項1については、訂正前の請求項1に「前記測定デバイスの出力を受信すること」と記載されているのを、「終了時間において、前記測定デバイスの出力を受信すること」に訂正するものであって、「前記測定デバイスの出力を受信する」時間を限定しているものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項2については、訂正前の「前記温度モデル」が、「前記較正溶液の前記初期時間から前記終了時間までの温度変化の測定値を、温度プローブから受信することによって」、「決定」されるものであって、「前記終了時間は前記初期時間から14日超経過後である」旨の限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1についての訂正は、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】に、(以下、下線は当審にて付した。)
「【0012】
本発明の第1の態様では、1つ以上の較正溶液を使用した、クレアチニン濃度を測定するデバイスの較正方法であって、1つ以上の較正溶液の、初期時間のクレアチン(Cr)及び/又はクレアチニン(Crn)濃度を受信することと、終了時間において測定デバイスの出力を受信することと、温度モデルを使用して、終了時間における較正溶液中のCr及び/又はCrn濃度を計算することであって、このモデルが初期時間から終了時間までの較正溶液の温度の変化を示す、ことと、測定デバイスの出力と、計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することと、を含む方法を、本出願人は利用可能にする。」
と記載され、また、訂正事項2については、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0018】及び【0023】に、
「【0018】
いくつかの例示的実施形態において、本方法は、較正溶液の初期時間から終了時間までの温度変化の測定値を温度プローブから受信することによって、温度モデルを決定することを更に含む。初期時間と終了時間の間の期間にわたって温度プローブを較正溶液の温度変化を測定するために使用することで、較正溶液の終了濃度(end concentrations)を正確に計算することが可能となる。」
及び
「【0023】
いくつかの例示的実施形態において、終了時間は初期時間から14日超経過後である。」
と記載されていることから、訂正後の請求項1に係る発明は、明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。

(2)請求項8に係る訂正について(訂正事項4)
請求項8に係る訂正は、「前記第2の温度プローブ」が「参照用温度プローブである」旨限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0052】に、
「【0052】
各溶液パックが温度自動記録器を必要とする際、コストを低減するために、低コスト温度プローブを使用することが有益となり得る。低コスト温度プローブでは、温度測定値が不正確となる可能性があり、温度プローブをより正確な温度プローブを用いて較正してもよい。この較正は、測定値間に差があるか否かを決定するため、低コスト温度プローブ及び参照用温度プローブによる、ある1つの温度又はある温度範囲での測定値の比較を伴ってもよい。差異が決定される場合は、メモリ中の記録温度を、この差異だけ相殺してよい。記録温度を相殺することは、すでに記録した温度の読み出しへと適用してもよく、あるいは、その後の全ての温度記録へと適用してもよい。」
と較正用の「温度プローブ」として、「参照用温度プローブ」を用いることができる旨記載されていることから、訂正後の請求項1に係る発明は、明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。

(3)訂正事項3、5?11について
訂正事項3は、訂正前の請求項6を、また、訂正事項5は訂正前の請求項11を、それぞれ削除したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、これらの訂正が、新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。
また、訂正事項6?11については、上記訂正事項3及び5において、請求項6及び11が削除されたことに伴い、請求項7?10及び12?16において、択一的に記載されていた引用請求項の一つ(当該請求項6及び11)を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?16に係る発明(以下「本件発明1?16」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
1つ以上の較正溶液を使用した、クレアチニン濃度を測定するデバイスの較正方法であって、
前記1つ以上の較正溶液の、初期時間のクレアチン(Cr)及び/又はクレアチニン(Crn)濃度を受信することと、
終了時間において、前記測定デバイスの出力を受信すること、
終了時間において、温度モデルと、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算することであって、前記温度モデルが前記初期時間から前記終了時間までの前記較正溶液の温度の変化を示す、ことと、
前記測定デバイスの前記出力と、前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することと、を含み、
前記較正溶液の前記初期時間から前記終了時間までの温度変化の測定値を、温度プローブから受信することによって、前記温度モデルを決定することを更に含み、
前記終了時間は前記初期時間から14日超経過後である、方法。
【請求項2】
前記測定デバイスは1つ以上の前記較正溶液中のクレアチンを測定するセンサを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定デバイスは1つ以上の前記較正溶液中のクレアチニンを測定するセンサを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定デバイスは1つ以上の前記較正溶液中のクレアチン及びクレアチニンを測定するセンサを含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記測定デバイスは電流測定デバイスである、請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記受信した測定値は記録された測定値である、請求項1?5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記温度モデルを前記決定することは、前記受信した前記温度変化の測定値を、第2の温度プローブで較正することを含み、前記第2の温度プローブが参照用温度プローブである、請求項1?5、7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記測定デバイスの出力と前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することは、前記測定デバイスのセンサ感度を計算することを含む、請求項1?5、7?8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記終了時間の後に、温度測定値を受信することと、前記計算した前記測定デバイスの感度を、前記終了時間の後に受信した前記温度測定値を使用して更新することと、を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
命令を含むコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令が、電子デバイスの1つ以上のプロセッサにより実行されたときに、前記電子デバイスを、請求項1?5、7?10のいずれか一項で請求した方法に従って動作させる、コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項13】
電子デバイスであって、
1つ以上のプロセッサと、
1つ以上の前記プロセッサにより実行されたときに、前記電子デバイスを請求項1?5、7?10のいずれか一項で請求した方法に従って動作させる命令を含むメモリと、を含む電子デバイス。
【請求項14】
1つ以上の較正溶液を含み、請求項1?5、7?10のいずれか一項に記載の方法の使用説明書又は請求項13に記載の電子デバイスを含む、パッケージであって、
当該パッケージが、Cr及び/又はCrnの濃度を測定するためのデバイスの較正のために使用される、
パッケージ。
【請求項15】
前記初期時間並びに前記初期時間における前記1つ以上の較正溶液のCr及び/又はCrnの前記濃度の表示を更に含み、
前記表示が、書面で前記パッケージ上に記憶されるか、または、パッケージ自体に電子的に記憶されるものである、
請求項14に記載のパッケージ。
【請求項16】
前記初期時間から前記終了時間までの前記クレアチニン溶液の前記温度を測定するための温度プローブと、前記測定温度を記録するためのメモリを更に含む、請求項14又は15に記載のパッケージ。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1-16に係る特許に対して、当審が令和元年7月31日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(理由1)(明確性)請求項1-16に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

(理由2)(サポート要件)請求項1-16に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

(理由3)(実施可能要件)請求項1-16に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消されるべきものである。

(理由4)(進歩性)本件特許の請求項1-16に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、本件特許の請求項1-16に係る特許は取り消すべきものである。

引用文献1:“ABL800 FLEX operator’s manual”、1-438頁、2012年6月、ラジオメーター・メディカル・アー・べー・エス社刊行(甲1号証)
引用文献2:“ABL800 FLEX Reference manual”、1-312頁、2012年6月、ラジオメーター・メディカル・アー・べー・エス社刊行(甲2号証)

2 引用文献に記載された事項
(1)引用文献1について
ア 引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。(以下、下線は当審にて付した。)

(引1a)「Intended use The ABL800FLEX analyzers are intended for:
・・・中略・・・
Metabolites: cCrea (concentration ofcreatinine,・・・」(1-2頁、当審訳:「使用目的 ABL800 FLEX 分析器は、以下の目的で使用される。
・・・中略・・・
代謝物:cCrea(クレアチニンの濃度・・・・」)

(引1b)「The concentrations of creatinine and creatine in calibration solutions depend on the ambient temperature. This dependency is well-known and taken into account as follows: the analyzer calculates the correct concentrations, using the equilibration constants, time and the ambient temperature entered by user in the Environment Setup (Menu > Utilities >Setup > General Setup > Analyzer settings).」(3-64頁、当審訳:「較正溶液中のクレアチニン及びクレアチンの濃度は、周囲の温度に依存する。この依存性は、周知で有り、以下のように考慮される。分析器は環境設定時(メニュー>ユーティリティ>設定>一般設定>分析器設定)にユーザーにより入力された較正定数、時間及び周囲温度を用いて、正確な濃度を計算する。」)

(引1c)「The initial cCrea concentration in the Cleaning Met II Solution is approximately 1500 μmol/L when the container is installed in the analyzer. The exact concentration is entered from the barcode when the solution is installed in the analyzer (the value shown as cCrea on the High cCrea Check screen above) .
With time, creatinine in the solution transforms into creatine, the speed of this transformation depends on the ambient temperature.」(5-12頁、当審訳:「クリーニングMet II溶液中の初期のcCrea濃度は、容器が分析器に設置されたとき、約1500μmol/Lである。正確な濃度は、溶液が分析器に投入されたときにバーコードから入力される(数値は、上記High cCreaチェックスクリーンの上にcCreaとして示される。)。
時間と共に、溶液中のクレアチニンはクレアチンに変化し、変化の速度は、周囲温度に依存する。」)

(引1d)「

」(5-12頁、当審訳:「

」)

(引1e)「Crea_(diff.)is the difference between the expected creatinine value in the Cleaning Met II Solution and the measured value. It is shown on the plot - see page 5-14.
To evaluate the Crea_(diff. )accurately, it is required to enter the expected ambient temperature for the 14-day period in the Environment Setup- see Analyzer settings in chapter 3.」(5-13頁、当審訳:「Crea_(diff.)は、クリーニングMet II溶液におけるクレアチニン濃度の期待値と測定値の差である。それはプロットされている。(5-14頁参照)
Crea_(diff.)を、厳密に評価するためには、環境設定時に、14日間の予想周囲温度を入力することが必要である。(第3章分析器の設定を参照)」)

イ 引用文献1に記載された発明
(ア)引用文献1は、「較正溶液」である「クリーニングMet II溶液」の「クレアチニン濃度の期待値と測定値の差」である「Crea_(diff.)を、厳密に評価するため」の方法であるから、「較正溶液中の」「クレアチニン及びクレアチンの濃度」の評価方法であるといえる。

(イ)上記(ア)及び、上記(引1a)?(引1e)より、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「クレアチニンの濃度を測定するために使用される分析器において、
較正溶液中のクレアチニン及びクレアチンの濃度は、周囲の温度に依存し、
時間と共に、溶液中のクレアチニンはクレアチンに変化し、変化の速度は、周囲温度に依存し、
Crea_(diff.)は、クリーニングMet II溶液におけるクレアチニン濃度の期待値と測定値の差であり、
Crea_(diff.)を、厳密に評価するためには、環境設定時に、14日間の予想周囲温度を入力することが必要である
較正溶液中のクレアチニン及びクレアチンの濃度の評価方法。」

(2)引用文献2について
ア 引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。

(引2a)「Blood contains both creatinine and creatine. In order to measure creatinine, a two electrode system is used where one electrode (E8089) measures both substances, and the other electrode (E8088) measures creatine only.
The measurement of creatinine is done by subtracting the signals from the two electrodes and by compensating for any interferences in the blood sample.」(2-23頁、当審訳:「血液にはクレアチニン及びクレアチンが含有される。クレアチニンを定量するために、上記両方の物質を定量する一つの電極(E8089)とクレアチンのみを定量するもう一つの電極(E8088)からなる2電極システムが使用される。
クレアチニンの定量は、2つの電極からの信号(測定値)を差し引き、かつ、血液中のあらゆる干渉を保証することよりなされる。」)

(引2b)「Both electrodes: CreaA, E8088 (brown with text in ivory), and Crea B, E8089 (ivory withtext in brown), have a similar construction: each consists of a silver cathode and a platinum anode. The electrode is protected by an electrode jacket filled with electrolyte solution and a multilayer membrane mounted at the tip.」(2-23頁、当審訳:「CreaA、E8088(アイボリーの文字にブラウン)及びCreaB、E8089(ブラウンの文字にアイボリー)は、銀製のカソード電極と白金製のアノード電極からなる同様の構造を有する。電極は、電解溶液で満たされた電極ジャケットと先端に形成した多層膜で保護される。」)

(引2c)「S1827 Calibration Solution 1 contains creatinine and is used for calibration of the Crea B electrode.
S1837 Calibration Solution 2 contains creatine and is used for calibration of the Crea A and Crea B electrodes.
The precise start concentrations are contained in the barcodes of the S1827 and S1837 Calibration Solutions that are scanned before the calibrating solutions are installed on the analyzer.」(2-25頁、当審訳:「S1827較正溶液1は、クレアチニンを含有しており、CreaB電極の較正に用いられる。
S1837較正溶液2は、クレアチンを含有しており、CreaA電極及びCreaB電極の較正に用いられる。
厳密な出発濃度は、較正溶液が分析器に投入される前にスキャンされたS1827及びS1837較正溶液のバーコードに含まれる。」)

(引2d)「For creatinine and creatine the following spontaneous reaction occurs in aqueous solution:
creatinine + H_(2)O ⇔ creatine.
It means that the nominal concentrations of creatinine and creatine in the calibration solutions vary with time and temperature. The analyzer automatically calculates the actual concentrations from the time the calibration solutions are installed and from the ambient temperature (can be specified by the user). Before the calibration solutions are installed on the analyzer, the substrates are added to ensure that the nominal start concentrations are known.」(2-26頁、当審訳:「クレアチニン及びクレアチンについて、水溶液中で下記の反応が自然に起きる。
クレアチニン+H_(2)O ⇔ クレアチン
これが意味することは、較正溶液中のクレアチニン及びクレアチンの名目上の濃度は、時間及び温度により変化するということである。分析器は、較正溶液が投入された時刻及び周囲温度(ユーザーが特定できる)から、実際の濃度を自動的に計算する。名目上の出発温度が既知であることを保証するために、較正溶液が分析器に投入される前に、基質が添加される。」)

(引2e)「Calibration solutions, Continued
S1827 Calibration Solution 1
・・・
Composition: Contains the following substanceswith the stated nominal concentrations:
・・・
cCrea 200μmol/L
・・・
Stability: Expiration date and Lot No. areprinted on a label.
Stability in use: 2weeks
・・・
S1837 Calibration Solution 2
・・・
Composition: Contains the following substanceswith the stated nominal concentrations:
・・・
cCreatine 190μmol/L
・・・
Stability: Expiration date and Lot No. areprinted on a label.
Stability in use: 2weeks
・・・」(7-4頁、当審訳:「較正溶液。続き
S1827較正溶液1
・・・
成分:記載された公称濃度の以下の物質を含む:
・・・
cCrea 200μmol/L
・・・
安定性:有効期限とロットナンバーはラベルに印刷されます:
安定使用:2週間
・・・
S1837較正溶液2
・・・
成分:記載された公称濃度の以下の物質を含む:
・・・
cCreatine 190μmol/L
・・・
安定性:有効期限とロットナンバーはラベルに印刷されます:
安定使用:2週間
・・・」)

イ 引用文献2に記載された発明
(ア)上記(引2a)より、「血液にはクレアチニン及びクレアチンが含有され」ていることから、「一つの電極(E8089)」が「定量する」「上記両方の物質」は、「クレアチニン及びクレアチン」であると認められる。そして、(引2a)の「一つの電極(E8089)」及び「もう一つの電極(E8088)」は、(引2b)より、「CreaB」及び「CreaA」であると認められる。

(イ)上記(ア)に鑑みれば、(引2a)?(引2d)より、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「クレアチニンを定量するために、クレアチニン及びクレアチンを定量するCreaBと、クレアチンのみを定量するCreaAからなる2電極システムが使用され、
クレアチニンの定量は、2つの電極からの信号(測定値)を差し引くことよりなされ、
S1827較正溶液1は、クレアチニンを含有しており、CreaB電極の較正に用いられ、
S1837較正溶液2は、クレアチンを含有しており、CreaA電極及びCreaB電極の較正に用いられ、
厳密な出発濃度は、較正溶液が分析器に投入される前にスキャンされたS1827及びS1837較正溶液のバーコードに含まれ、
較正溶液中のクレアチニン及びクレアチンの名目上の濃度は、時間及び温度により変化することから、
分析器は、較正溶液が投入された時刻及び周囲温度(ユーザーが特定できる)から、実際の濃度を自動的に計算する方法。」

3 当審の判断
(1)理由1(明確性)、理由2(サポート要件)、理由3(実施可能要件)について
ア 本件発明1について
訂正前の請求項1には、「終了時間において、温度モデルと、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算することであって、前記温度モデルが前記初期時間から前記終了時間までの前記較正溶液の温度の変化を示す、ことと」と記載されているが、この中の「温度モデル」は、どのようなモデルであるのか特定することができず、また、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、請求項1に係る発明が、どのような「前記初期時間から前記終了時間までの前記較正溶液の温度の変化を示す」「温度モデル」を「使用」しているものであるか特定することができないから、訂正前の請求項1に係る発明は明確であるといえない旨通知したが、本件発明1の「温度モデル」が、訂正により、「前記較正溶液の前記初期時間から前記終了時間までの温度変化の測定値を、温度プローブから受信することによって」、「決定」されるものである旨限定されたことにより、「温度モデル」が、「温度プローブから受信」された「前記初期時間から前記終了時間までの」「前記較正溶液の温度の変化」によって決定されるものであることが理解できるから、本件発明1は、明確でないとはいえない。

また、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0057】及び【0058】を参酌すると、本件発明の課題は、「温度プロファイルを知らなくても、複雑な温度プロファイルをはるかに単純な温度モデルでモデル化すること」により「温度変動によ」る、「較正溶液の濃度レベルを正確に計算すること」であると認められるところ、本件明細書の発明の詳細な説明には、どのように「終了時間において、温度モデルと、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算する」ことができるのか、具体的な実施例は記載されていないから、請求項1に係る発明の「終了時間において、温度モデルと、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算することであって、前記温度モデルが前記初期時間から前記終了時間までの前記較正溶液の温度の変化を示す、こと」に関して、発明の詳細な説明は請求項1に係る発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえないから、訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない旨通知したが、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】及び【0011】の記載から、上記本件課題以外に、終了時間が初期時間から14日超経過後である場合も正確なデバイスの較正を可能とすることも、本件発明の課題である点が理解され、訂正により、本件発明1が「前記較正溶液の前記初期時間から前記終了時間までの温度変化の測定値を、温度プローブから受信することによって、前記温度モデルを決定することを更に含み、前記終了時間は前記初期時間から14日超経過後である」旨限定されたことから、本件発明1は、上記課題を解決できるものであることが理解できる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明でないとはいえない。

さらに、上記の通り発明の詳細な説明には、どのようにして「終了時間において、温度モデルと、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算することであって、前記温度モデルが前記初期時間から前記終了時間までの前記較正溶液の温度の変化を示す、こと」ができるのか記載されていないから、発明の詳細な説明は、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない旨通知したが、本件発明1の「温度モデル」が、訂正により、「前記較正溶液の前記初期時間から前記終了時間までの温度変化の測定値を、温度プローブから受信することによって」、「決定」されるものであって、「前記終了時間は前記初期時間から14日超経過後である」旨限定され、この点に関して、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0018】及び【0024】に記載されていることを踏まえれば、発明の詳細な説明は、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとまではいえない。

そして、 訂正前の請求項1には、「前記測定デバイスの出力を受信すること」と記載されているが、この点に関し、本願明細書の発明の詳細な説明には、段落【0012】に「・・・終了時間において測定デバイスの出力を受信することと・・・」と記載されているのみであって、「終了時間」以外の時間において「測定デバイスの出力を受信すること」について記載されておらず、「終了時間」以外の時間において「測定デバイスの出力を受信」した場合に、どのようにして、「終了時間において、温度モデルと、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算すること」ができるのか、技術常識を考慮しても理解することができないから、「前記測定デバイスの出力を受信」を、「終了時間」において受信したものを、「終了時間」以外の時間において受信したものにまで、拡張又は一般化できるとは認められず、よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない旨通知したが、本件発明1が、訂正により、「前記測定デバイスの出力を受信すること」が、「終了時間において」受信するものである旨限定されたことにより、この理由は解消された。

イ 本件発明8について
訂正前の請求項8には、「前記温度モデルを前記決定することは、前記受信した前記温度変化の測定値を、第2の温度プローブで較正することを含む」と記載されているが、「第2の温度プローブ」がどのようなもので、この「第2の温度プローブ」で、どのように「前記受信した前記温度変化の測定値」を「較正する」のか理解することができないし、本件明細書の発明の詳細な説明には、段落【0020】に、請求項8と同じ記載がされているのみであって、本願明細書の発明の詳細な説明を参酌しても理解することができないから、訂正前の請求項8に係る発明は明確であるとはいえず、また、上記の通り「第2のプローブ」がどのようなものであって、どのように「前記受信した前記温度変化の測定値」を「較正する」のか記載されていなから、訂正前の請求項8に係る発明は本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえないし、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、その実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものであるともいえない旨通知したが、訂正により、本件発明8の「第2の温度プローブが、参照用温度プローブである」旨限定され、この点に関し本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0052】に記載されていることから、これらの理由は解消したといえる。

ウ 本件発明9について
訂正前の請求項9には、「前記測定デバイスの出力と前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することは、前記測定デバイスのセンサ感度を計算することを含む」と記載されているが、「前記測定デバイスのセンサ感度を計算すること」により、どのようにすれば「前記測定デバイスの出力と前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定」することができるのか理解することがでないし、発明の詳細な説明には、「前記測定デバイスのセンサ感度を計算すること」についての、明確かつ十分な説明はないから、訂正前の請求項9に係る発明は明確でなく、また、発明の詳細な説明に記載されているものであるともいえず、さらに、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるともいえない旨通知したが、「前記測定デバイスのセンサ感度」が「前記測定デバイスの出力」に影響することは技術常識であって、上記記載が、「前記測定デバイスのセンサ感度」の影響を考慮して、「前記測定デバイスの出力と前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定」することであるすれば、一応理解できるから、本件発明9は、明確でないとはいえず、また、発明の詳細な説明に記載されているものでないともいえず、さらに、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないともいえない。

エ 本件発明2?16について
上記のとおり、本件発明1、8及び9は、明確でないとはいえず、発明の詳細な説明に記載されているものでもないともいえず、さらに、発明の詳細な説明は、当業者が、その実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものでないともいえないから、本件発明1を引用する本件発明2?5、7?10及び12?16は、上記アと、本件発明8を引用する本件発明9、10及び12?16は、上記イと、本件発明9を引用する請求項10及び12?16は、上記ウと、それぞれ同様の理由により、明確でないとはいえず、発明の詳細な説明に記載されているものでもないともいえず、さらに、発明の詳細な説明は、当業者が、その実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものでないともいえない。

(2)理由4(進歩性)について
ア 対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。

(ア)引用発明2の「S1827較正溶液1」及び「S1837較正溶液2」は、本件発明1の「1つ以上の較正溶液」に相当する。また、引用発明2の「分析器」は、「クレアチニンを定量するため」のものであるから、本件発明1の「クレアチニン濃度を測定するデバイス」に相当する。そして、引用発明2の「方法」は、「較正溶液が投入された時刻及び周囲温度(ユーザーが特定できる)から、自動的に計算」された「較正溶液」の「実際の濃度」により「分析器」の「CreaA電極及びCreaB電極の較正」を行う方法であるから、該「方法」は、本件発明1の「1つ以上の較正溶液を使用した、クレアチニン濃度を測定するデバイスの較正方法」に相当する。

(イ)引用発明2の「S1827較正溶液1は、クレアチニンを含有し」、「S1837較正溶液2は、クレアチンを含有して」いるから、引用発明2の「S1827及びS1837較正溶液」の「厳密な出発濃度」は、本件発明1の「前記1つ以上の較正溶液の、初期時間のクレアチン(Cr)及び/又はクレアチニン(Crn)濃度」に相当する。そして、引用発明2の「較正溶液が分析器に投入される前」の、「厳密な出発濃度」を含む、「S1827及びS1837較正溶液のバーコード」を「スキャン」することは、本件発明1の「前記1つ以上の較正溶液の、初期時間のクレアチン(Cr)及び/又はクレアチニン(Crn)濃度を受信すること」に相当する。

(ウ)引用発明2の「較正溶液が投入された時刻」は、本件発明1の「終了時間」に相当する。そして、引用発明2の「S1827較正溶液1」及び「S1837較正溶液2」は、「CreaA電極及びCreaB電極」の較正に用いられるものであり、「CreaA電極及びCreaB電極」の較正を行う際には、「較正溶液が投入された時刻」における、「S1827較正溶液1」及び「S1837較正溶液2」を用いた際の、「CreaA電極及びCreaB電極」からの出力を受信しなければならないことは明らかであるから、引用発明と本件発明1とは、「終了時間において、前記測定デバイスの出力を受信すること」で一致する。

(エ)引用発明2の「自動的に計算」された「実際の濃度」は、本件発明1の「前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度」に相当する。
そして、引用発明2の「分析器」は、「較正溶液が分析器に投入される前にスキャンされたS1827及びS1837較正溶液のバーコードに含まれ」る「厳密な出発濃度」と、「較正溶液が投入された時刻及び周囲温度(ユーザーが特定できる)から、実際の濃度を自動的に計算する」ことと、本件発明1の「終了時間において、温度モデルと、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算すること」とは、「終了時間において、周囲温度と、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算すること」である点で共通する。

(オ)引用発明2において、「CreaA電極及びCreaB電極」の較正を行うこととは、「自動的に計算」された「実際の濃度」と、「CreaA電極及びCreaB電極」において測定された出力との関係を決定することであるから、引用発明と本件発明1とは、「前記測定デバイスの前記出力と、前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定すること」で一致する。

(カ)上記(ア)?(オ)より、本件発明1と引用発明2との間には、以下の一致点と相違点がある。

(一致点)「1つ以上の較正溶液を使用した、クレアチニン濃度を測定するデバイスの較正方法であって、
前記1つ以上の較正溶液の、初期時間のクレアチン(Cr)及び/又はクレアチニン(Crn)濃度を受信することと、
終了時間において、前記測定デバイスの出力を受信すること、
終了時間において、周囲温度と、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算することと、
前記測定デバイスの前記出力と、前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することと、を含む方法。」

(相違点1)終了時間において、周囲温度と、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算することが、本件発明1の周囲温度に相当するものは、「前記初期時間から前記終了時間までの前記較正溶液の温度の変化を示す」「温度モデル」であって、「前記温度モデル」が、「前記較正溶液の前記初期時間から前記終了時間までの温度変化の測定値を、温度プローブから受信することによって」、「決定」されるものであるのに対し、引用発明2の周囲温度に相当するものは、「ユーザーが特定できる」周囲温度である点。

(相違点2)終了時間が、本件発明1は、「前記初期時間から14日超経過後である」のに対し、引用発明2は、「較正溶液が投入された時刻」であって、「較正溶液が投入された時刻」が「厳密な出発濃度」が測定された時刻からどの程度経過しているのか特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み相違点2について検討する。
引用文献2には、引用発明2の「S1827較正溶液1」及び「S1837較正溶液2」の使用期限としてラベルに記載されるための安定使用期間が2週間である旨記載されている。(上記(引2e)参照)
また、本件明細書の詳細な説明の【0009】及び【0011】に、
「 【0009】
一般的に、較正溶液は15℃?32℃に保たれ、14日未満の経過日数の溶液については、一定温度にあると近似した場合でさえも、正確な計算が可能となる。従って、現行の方法は、使用した期間が短い(すなわち、t_(age)<14日)較正溶液のcCr及びcCrnを計算可能とするには、十分に正確である。」
「 【0011】
両方の場合において、較正溶液の正確さには14日の期限があることは、頻繁に交換する必要がある点で欠点があり、このことは、エンドユーザにとって非経済的で、不便である。その上、エンドユーザは、溶液が製造業者から配達されるための数日間、待たなければならないかもしれないので、短い使用期間が更に短縮されるかもしれない。あるいは、エンドユーザは、使用場所(例えば病院)で、較正溶液を調製することを強いられるかもしれず、例えば、Cr及びCrn粉末の秤量の際や溶媒の液量測定の際の、あるいは不均一な混合による不正確となるリスクに加えてエンドユーザへの追加作業を持ち込む。tage>14日である較正溶液の使用を可能にする手法に関して、未だ満たされていない要求が存在する。」
と記載されていることに鑑みれば、引用発明2の「S1827較正溶液1」及び「S1837較正溶液2」も14日の期限があることは明らかであるから、引用発明2の「較正溶液が投入された時刻」は「厳密な出発濃度」が測定された時刻から安定使用期間である2週間以内に設定されているといえる。そして、通常、使用期限を越えて較正溶液を使用することは考えられないから、引用発明2の「較正溶液が投入された時刻」を「厳密な出発濃度」が測定された時刻から安定使用期間である2週間を超えて、すなわち14日超経過後とする動機付けはないといえる。
また、引用発明1は、「Crea_(diff.)を、厳密に評価するためには、環境設定時に、14日間の予想周囲温度を入力する」ものであって、14日超経過後まで入力するものではないから、相違点2は引用発明1に鑑みても当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
よって、上記相違点2は、引用発明1及び2から当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、上記相違点1について検討するまでもなく、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

エ 上記ア?ウは、引用発明2を主引用例としたときの対比判断であるが、引用発明1を主引例としても、以下のとおり、当業者が容易になし得たものとはいえない。
上記イで述べたとおり、引用発明1は、「Crea_(diff.)を、厳密に評価するためには、環境設定時に、14日間の予想周囲温度を入力する」ものである。そして、引用文献1及び2ともに、ラジオメーター・メディカル・アー・べー・エス社製の「ABL800 FLEX」分析器についてのマニュアルであるから、上記「14日間の予想周囲温度を入力する」とは、引用文献2に記載されているとおり、使用できる期間が14日であって、その14日以内の使用する日までの間の予想周囲温度を入力することであり、14日を超えて使用できることを示唆するものではない。
してみれば、引用発明1を主引例としても、少なくとも本件発明1の「前記終了時間は前記初期時間から14日超経過後である」点において当業者が容易になし得たこととはいえない。

オ まとめ
よって、本件発明1は、引用発明1及び2から当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
そして、本件発明2?5、7?10及び12?16は、本件発明1を引用するものであるから、引用発明1及び2から当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

4 特許異議申立人の意見について
令和元年12月18日付け意見書(以下「申立人の意見書」という。)において申立人は、以下の点で、本件特許は取り消されるものである旨主張している。
a 本件発明1の「終了時間」及び「初期時間」が意味するものが不明確であり、発明の詳細な説明に記載したものでもなく、また、当業者がその実施をすることができる程度に記載したものでもない点。
b 本件発明1の「14日長経過後」における「14日超」は、その上限としてどこまで含んでいるのか不明であって、14日を超えるある特定期間を規定していない以上、「14日超」に何ら積極的な根拠はないから、不明確であり、発明の詳細な説明に記載したものでもなく、また、当業者がその実施をすることができる程度に記載したものでもない点。
c 本件発明9の「前記測定デバイスの出力と前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することは、前記測定デバイスのセンサ感度を計算することを含む」点は、上位概念-下位概念を示すものではなく、「前記測定デバイスの出力と前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定すること」により、「前記測定デバイスのセンサ感度を計算すること」ができるということであるから、本件発明9は不明確であり、発明の詳細な説明に記載したものでもなく、また、当業者がその実施をすることができる程度に記載したものでもない点。
d 引用発明1及び2には、本件発明1の「終了時間において、温度モデルと、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算することであって、前記温度モデルが前記初期時間から前記終了時間までの前記較正溶液の温度の変化を示す」構成、「前記較正溶液の前記初期時間から前記終了時間までの温度変化の測定値を、温度プローブから受信することによって、前記温度モデルを決定する」構成及び「前記終了時間は前記初期時間から14日超経過後である」構成以外の構成を含んでおり、引用発明1及び2において、「終了時間において、温度モデルと、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算することであって、前記温度モデルが前記初期時間から前記終了時間までの前記較正溶液の温度の変化を示す」構成及び「前記較正溶液の前記初期時間から前記終了時間までの温度変化の測定値を、温度プローブから受信することによって、前記温度モデルを決定する」構成とすることは、当業者が容易に想到できるものであって、「14日超」は、上記bで述べたとおり積極的な根拠がないから、終了時間として、「14日超」を規定することに何ら困難性はないから、本件発明1は引用発明1及び2から当業者が容易に想到できたものである点。

(1)aについて
本件発明1の「初期時間」が、較正溶液を生成した直後の較正溶液の初期状態として較正溶液のクレアチン(Cr)及び/又はクレアチニン(Crn)濃度を測定した時間であることは、当該技術常識を考慮すれば明らかである。
また、本件発明1が、「終了時間において、前記測定デバイスの出力を受信」し、「終了時間において、温度モデルと、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算」し、この計算結果により、「1つ以上の較正溶液を使用した、クレアチニン濃度を測定するデバイス」を較正することから、本件発明1の「終了時間」は、「1つ以上の較正溶液を使用した、クレアチニン濃度を測定するデバイス」を較正する時間であることは明らかである。
そうすると、本件発明1の「終了時間」及び「初期時間」が意味するものは、不明確であるとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえず、さらに、当業者がその実施をすることができる程度に記載したものではないともいえない。

(2)bについて
本件発明1の「14日超経過後」における「14日超」に関し、確かに本件明細書の発明の詳細な説明には、その上限について記載されていないものの、本件明細書の詳細な説明の段落【0011】に、従来「較正溶液の正確さには14日の期限があること」が知られていたことを考慮すると、本件発明1の「14日超」は、14日を超えて常識的に較正溶液が使用できる限度までであることは、明らかであるから、本件発明1の「14日超」は、不明確であるとも、発明の詳細な説明に記載したものでもないとも、また、当業者がその実施をすることができる程度に記載したものでもないともいえない。

(3)cについて
本件発明9の「前記測定デバイスの出力と前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することは、前記測定デバイスのセンサ感度を計算することを含む」点は、3(1)ウで検討したとおり、「前記測定デバイスのセンサ感度」が「前記測定デバイスの出力」に影響することは技術常識であって、本件発明9の「前記測定デバイスの出力と前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することは、前記測定デバイスのセンサ感度を計算することを含む」ことが、「前記測定デバイスのセンサ感度」の影響を考慮して、「前記測定デバイスの出力と前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定」することであるすれば、一応理解できるから、本件発明9は、明確でないとはいえず、また、発明の詳細な説明に記載されているものでないともいえず、さらに、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないともいえない。

(4)dについて
引用発明1及び2には、本件発明1の「前記終了時間は前記初期時間から14日超経過後である」構成が記載されておらず、この構成の中の「14日超」は、上記(2)で検討したとおり、根拠がないものであるとはいえず、また、引用発明2が、上記3(2)イで検討したとおり引用発明2の「較正溶液が投入された時刻」を「厳密な出発濃度」が測定された時刻から安定使用期間である2週間を超えた、すなわち14日超経過後とする動機付けはなく、また、引用発明1も、「Crea_(diff.)を、厳密に評価するためには、環境設定時に、14日間の予想周囲温度を入力する」ものであって、14日超経過後まで入力するものではないから、本件発明1は、引用発明1及び2から、当業者が容易に想到できたものではないといえる。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】に、「終了時間において測定デバイスの出力を受信すること」と記載されているところ、平成30年9月26日になされた手続補正書による補正により、「測定デバイスの出力を受信すること」と、受信の時期の限定が削除されたため、「終了時間における」以外の時点で「測定デバイスの出力を受信すること」は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、上記補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから取り消すべきものである旨主張している。
しかしながら、訂正により本件発明1は、「終了時間において、前記測定デバイスの出力を受信すること」と、受信の時期の限定を加えたため、上記理由は解消した。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5、7?10及び12?16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?5、7?10及び12?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項6及び11に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項6及び11に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の較正溶液を使用した、クレアチニン濃度を測定するデバイスの較正方法であって、
前記1つ以上の較正溶液の、初期時間のクレアチン(Cr)及び/又はクレアチニン(Crn)濃度を受信することと、
終了時間において、前記測定デバイスの出力を受信すること、
終了時間において、温度モデルと、前記受信された初期時間の濃度と、を使用して、前記較正溶液中のCr及び/又はCrnの濃度を計算することであって、前記温度モデルが前記初期時間から前記終了時間までの前記較正溶液の温度の変化を示す、ことと、
前記測定デバイスの前記出力と、前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することと、を含み、
前記較正溶液の前記初期時間から前記終了時間までの温度変化の測定値を、温度プローブから受信することによって、前記温度モデルを決定することを更に含み、
前記終了時間は前記初期時間から14日超経過後である、方法。
【請求項2】
前記測定デバイスは1つ以上の前記較正溶液中のクレアチンを測定するセンサを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定デバイスは1つ以上の前記較正溶液中のクレアチニンを測定するセンサを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定デバイスは1つ以上の前記較正溶液中のクレアチン及びクレアチニンを測定するセンサを含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記測定デバイスは電流測定デバイスである、請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記受信した測定値は記録された測定値である、請求項1?5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記温度モデルを前記決定することは、前記受信した前記温度変化の測定値を、第2の温度プローブで較正することを含み、前記第2の温度プローブが参照用温度プローブである、請求項1?5、7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記測定デバイスの出力と前記計算されたCr及び/又はCrn濃度との関係を決定することは、前記測定デバイスのセンサ感度を計算することを含む、請求項1?5、7?8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記終了時間の後に、温度測定値を受信することと、前記計算した前記測定デバイスの感度を、前記終了時間の後に受信した前記温度測定値を使用して更新することと、を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
命令を含むコンピュータ可読記憶媒体であって、前記命令が、電子デバイスの1つ以上のプロセッサにより実行されたときに、前記電子デバイスを、請求項1?5、7?10のいずれか一項で請求した方法に従って動作させる、コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項13】
電子デバイスであって、
1つ以上のプロセッサと、
1つ以上の前記プロセッサにより実行されたときに、前記電子デバイスを請求項1?5、7?10のいずれか一項で請求した方法に従って動作させる命令を含むメモリと、を含む電子デバイス。
【請求項14】
1つ以上の較正溶液を含み、請求項1?5、7?10のいずれか一項に記載の方法の使用説明書又は請求項13に記載の電子デバイスを含む、パッケージであって、
当該パッケージが、Cr及び/又はCrnの濃度を測定するためのデバイスの較正のために使用される、
パッケージ。
【請求項15】
前記初期時間並びに前記初期時間における前記1つ以上の較正溶液のCr及び/又はCrnの前記濃度の表示を更に含み、
前記表示が、書面で前記パッケージ上に記憶されるか、または、パッケージ自体に電子的に記憶されるものである、
請求項14に記載のパッケージ。
【請求項16】
前記初期時間から前記終了時間までの前記クレアチニン溶液の前記温度を測定するための温度プローブと、前記測定温度を記録するためのメモリを更に含む、請求項14又は15に記載のパッケージ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-21 
出願番号 特願2017-532883(P2017-532883)
審決分類 P 1 651・ 55- YAA (G01N)
P 1 651・ 537- YAA (G01N)
P 1 651・ 121- YAA (G01N)
P 1 651・ 536- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 黒田 浩一  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 福島 浩司
東松 修太郎
登録日 2018-11-16 
登録番号 特許第6435053号(P6435053)
権利者 ラジオメーター・メディカル・アー・ペー・エス
発明の名称 クレアチニン濃度測定装置の較正方法  
代理人 中村 彰吾  
代理人 松尾 淳一  
代理人 中村 彰吾  
代理人 松尾 淳一  

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