• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B02C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B02C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B02C
管理番号 1360475
異議申立番号 異議2018-700767  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-25 
確定日 2020-02-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6323579号発明「石炭灰の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6323579号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6323579号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6323579号(以下、「本件特許」という。)は、平成29年2月2日を出願日とする特願2017-17452号の特許請求の範囲に記載された請求項1?3に係る発明について、平成30年4月20日に特許権の設定登録がされ、同年5月16日に特許掲載公報の発行がされたものであり、その後、その全請求項に係る特許について、同年9月25日付けで特許異議申立人林愛子(以下、「申立人」という。)により甲第1号証?甲第5号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、平成31年2月8日付けで取消理由が通知され、同年4月8日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、令和元年5月15日付けで申立人より参考資料1?4を添付した意見書の提出がされ、同年7月25日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年9月26日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年10月21日付けで申立人より参考資料5、6を添付した意見書の提出がされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:「フライアッシュ及び石炭灰の色に及ぼす諸要因の影響」土肥浩大他,セメント研究所研究報告,日本,三菱マテリアル株式会社セメント事業カンパニー生産部セメント研究所,2017年 1月 5日,No.18,p.8-13

甲第2号証:「論文 電気集じん装置から採取した石炭灰の特性」李昇憲他,コンクリート工学年次論文報告集,Vol.18,No.1,1996 p.327-332

甲第3号証:「石炭灰とセメントを用いた深層混合処理工法による低強度改良体の三軸圧縮特性」尾留川剛他,第39回地盤工学研究発表会(新潟),2004年7月,p.787-788

甲第4号証:「フライアッシュのJIS改定」金津努,コンクリート工学,Vol.37,No.8,Aug.1999,p.19-25

甲第5号証:特開2001-354458号公報

参考資料1:甲第1号証の図6拡大図

参考資料2:甲第4号証の図-14拡大図

参考資料3:「石炭灰を使用したモルタルおよびコンクリートの強度」戸田五郎他,土木学会論文報告集,第169号,1969,p.45-55

参考資料4:「微粉砕の限界と効率」B.Beke,粉体工学研究会誌,Vol.13,No.5,1976,p.38-46

参考資料5:「FMP工法設計マニュアル(案)」(財)福井県建設技術公社,平成17年3月,p.1-17

参考資料6:「石炭灰の地盤分野への適用」五十嵐由一他,地球環境問題に関する技術報告会論文集,北海道土木技術会 土質基礎研究委員会,平成14年11月,p.1-6


第2 本件訂正請求について

1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は当審で付した)。
なお、本件訂正請求により、平成31年4月8日付け訂正請求は、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された、
「粉砕することを含む、石炭灰の製造方法。」を、
「粉砕することを含み、ブレーン比表面積が3200?4200cm^(2)/gである、粘性土の地盤改良に用いるセメント系固化材用の石炭灰の製造方法。」に訂正する。

(2)一群の請求項
訂正前の請求項2、3が、訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正事項1の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1?3について請求されたものである。

2.訂正要件の判断

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された石炭灰の製造方法の発明について、本件明細書の【0022】、【0025】等の記載から、粉砕して製造される石炭灰のブレーン比表面積の数値範囲を限定し、同じく【0009】、【0015】等の記載から、そのセメント系固化材としての用途を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)独立特許要件について
本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。


第3 訂正後の本件特許に係る発明
本件訂正後の請求項1?3に係る発明(それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」、まとめて「本件発明」という。)は、その請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
強熱減量が3.5質量%以上である石炭灰を、粉砕前の石炭灰の明度(Lp値)に対する粉砕後の石炭灰の明度(Lg値)の比(Lg/Lp)が0.9以下となるように粉砕することを含み、ブレーン比表面積が3200?4200cm^(2)/gである、粘性土の地盤改良に用いるセメント系固化材用の石炭灰の製造方法。

【請求項2】
前記粉砕前の石炭灰の明度(Lp値)に対する粉砕後の石炭灰の明度(Lg値)の比(Lg/Lp)が0.6以上となるように粉砕する、請求項1に記載の石炭灰の製造方法。

【請求項3】
粉砕前の石炭灰のレーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した粒径45μm以上の粒子の含有量(Vp)に対する粉砕後の石炭灰の前記測定法で測定した粒径45μm以上の粒子の含有量(Vg)の比(Vg/Vp)が0.85以下となるように粉砕する、請求項1又は2に記載の石炭灰の製造方法。」


第4 取消理由について

1.令和元年7月25日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由の概要

(1)取消理由1(進歩性)
平成31年4月8日付け訂正特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び参考資料3に記載された発明に基いて、本件特許に係る出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(2)取消理由2(サポート要件)
平成31年4月8日付け訂正特許請求の範囲の記載は、粘性土地盤改良における特有の課題を解決するための特有の用途に係る発明特定事項が記載されていない点で不備のため、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2.本件発明に係る取消理由1についての判断
(1)甲第1号証の記載事項と甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、以下のア?カの記載がある。

ア 「2 実験
2.1 試料
実験には、4箇所の火力発電所(記号A?D)から発生するフライアッシュおよび石炭灰を使用した(表1)。本試験ではJIS A 6201:2015「コンクリート用フライアッシュ」の基準に適合するものをフライアッシュとし、これ以外を石炭灰と分類している。実験にはこれらのフライアッシュおよび石炭灰を加熱や粉砕により加工したものも使用した。

」(p8 右欄下から10行?最下行 及び p9 表1)

イ 「

2.2 実験項目および実験方法
表2に試験項目および試験方法を示す。実験における、フライアッシュまたは石炭灰中の未燃カーボン量の調整には電気炉による加熱時間を変化させることにより、ブレーン値の調整はタングステンカーバイド製のディスクミルを使用して粉砕時間を変化させることにより実施した。」(p9 表2 及び 左欄1?7行)

ウ 「3 結果
3.1 強熱減量と未燃カーボン量との関係
フライアッシュおよび石炭灰の強熱減量(ig.loss)のほとんどは、未燃カーボンによるものと考えられる。
・・・
3.2 L値に及ぼす未燃カーボン量の影響
フライアッシュまたは石炭灰の明度に最も影響する要因は未燃カーボンであると考えられる。」(p9 左欄9行?最下行)

エ 「3.6 粉砕によりブレーン値を調整したフライアッシュおよび石炭灰のL値
フライアッシュおよび石炭灰をディスクミルで粉砕し、ブレーン値の増加に対するL値の変化を調べた。図6にブレーン値とL値の関係を示す。粉砕によってig.lossが変化することはない。フライアッシュおよび石炭灰の発生元に関係なく、ブレーン値が増加するとL値は小さくなった。」(p11 左欄下から9?2行)

オ 「セメントや高炉スラグ微粉末は、粉砕によってブレーン値が増加するとL値は大きくなる。このことから、フライアッシュおよび石炭灰がブレーン値の増加によりL値が小さくなる原因は、黒色を呈する未燃カーボンの比表面積が増加したことで、光の吸収量が増加し、L値が小さくなったと考えられる。・・・フライアッシュおよび石炭灰中の未燃カーボンは、粉砕の初期段階で選択的に粉砕されることでL値は小さくなる。その後はガラス質や鉱物粒子の比表面積が増加するため、L値への影響が認められなかったと考えられる。」(p11 右欄3?16行)

カ 「

」 (p11)

甲第1号証には、上記ア?ウより、未燃カーボンを含む石炭灰をディスクミルを用いて粉砕した実験についての記載があり、上記エ?カより、粉砕による石炭灰のL値の変化についての記載がある。そして、上記ア、ウ、エ、カより、石炭灰は、強熱減量(ig.loss)の数値が測定されたものであり、上記カ(図6)における「ブレーン値とL値の変化」を示した発生元A○における粉砕によるL値の変化に着目して参考資料1も参酌すると、図6の最も左側に(ig.loss)として書かれている数値(3.92%)は、強熱減量(質量%)であると認められ、粉砕前(ブレーン値3500cm^(2)/g程度、L値58程度のもの)と比較して粉砕後のL値は低下し、ブレーン値は増加している。また、上記ウ?カより、未燃カーボンが強熱減量の数値と明度(L値)に関係しているといえること、粉砕後には性状の異なる石炭灰が得られていることは自明であることからすれば、甲第1号証には、
「強熱減量が3.92質量%である未燃カーボンを含む石炭灰を、粉砕前(ブレーン値3500cm^(2)/g程度、L値58程度)のL値を低下させ、ブレーン値を増加させるように粉砕することを含む、石炭灰の製造方法」
の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明1」という。)

(2)参考資料3の記載事項
参考資料3には、以下のキ?サの記載がある。

キ 「1.まえがき
最近は著しい経済発展にともなう設備投資その他の建設工事が盛大に行われている。そのため,建設の主材ともいえるコンクリート用骨材は,日増しに枯渇する現況である。この点にかんがみ,著者らは骨材の使用量も比較的少なく,しかもポルトランド セメントの代りに,火力発電所より排出される石炭灰-シンダー アッシュ,あるいは製鉄所の鉱炉滓等の主原料を膠結材とするところのモルタルやコンクリートの諸物性と,とくに,強度特性について報告する。
Cinder ash-Slag concrete(CS コンクリート)は,非ポルトランド系セメント質を用いたモルタルおよびコンクリートである。シンダー アッシュ,スラグ等は人工ポゾランと呼ばれてシリカ質成分を主成分とし,それ自身では硬化する性質をもたないけれども,ある程度の高温の下で水の存在とともに一種の刺激作用を受けて,石灰と結着し不溶性の化合物を生成する
^(1))。」(p45左欄1?19行)

ク 「CSコンクリートの開発は工場残滓の有効利用を目的の一つとするものであるから,材料入手の関係や実用化の点でも経済性が問題にされなければならないが,ここでは,未利用のまま大量に廃棄処分されているシンダーアッシュを,効果的に利用したCSコンクリートの強度に関するつぎのような実験結果について報告する。すなわち,種々のコンクリート プレキャスト製品の開発を目的とした蒸気養生と水中養生とにおける材令と,CSコンクリートの圧縮強度との関係,・・・アッシュのブレーン値の違いによる圧縮強度の比較等である。」(p45右欄下から6行?p46左欄7行)

ケ 「(1)シンダーアッシュ
中部電力 KK 新名古屋火力発電所の集塵装置より採取されたシンダーアッシュ(ブレーン値約3000cm^(2)/gのフライアッシュ)をそのまま,またはブレーン値4000cm^(2)/g程度にさらに粉砕したもの,・・・などをCSコンクリート用セメント質の主材料として用いた。」(p46左欄21?30行)

コ 「4.シンダーアッシュのブレーン値と圧縮強度との関係
新名古屋火力産のフライアッシュ(ブレーン値 2980cm^(2)/g)をバイブロ ミルにより微粉砕した試料を用いて,圧縮強度の比較試験を行なった。バイブロ ミルによる粉砕試験の結果は表-2に示すとおりである。

」(p48左欄20?26行、同欄表-2)

サ 「試験結果は図-2?図-3に示すとおりであり,蒸気養生,水中養生ともにブレーン値の大きいほど,すなわち,粒子間の接触面積の大きいほど強度も大きいことが確認できる。ただし,あまりにも極微粉化を行なうことは経済性,実用性を欠く場合があるので,以下の諸試験では Ash のブレーン値を 4000cm^(2)/g程度に定めて行なうことにした。

」(p48左欄下から7行?最下行、同右欄図-2、図-3)

(3)本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「強熱減量が3.92質量%である未燃カーボンを含む石炭灰」は、本件発明1の「強熱減量が3.5質量%以上である石炭灰」に相当するから、両者は、
「強熱減量が3.5質量%以上である石炭灰を、L値を低下させるように粉砕することを含む、石炭灰の製造方法」
である点で一致し、
本件発明1が、「粉砕前の石炭灰の明度(Lp値)に対する粉砕後の石炭灰の明度(Lg値)の比(Lg/Lp)が0.9以下」で粉砕後の「ブレーン比表面積が3200?4200cm^(2)/gである」のに対し、引用発明1では、粉砕前後のL値の比及び粉砕後のブレーン値について特定されていない点(以下、「相違点1」という。)、
本件発明1の製造される石炭灰が、「粘性土の地盤改良に用いるセメント系固化材用」であるのに対し、引用発明1の製造される石炭灰は、用途が限定されていない点(以下、「相違点2」という。)で相違する。

(イ)相違点の検討
相違点1、2についてまとめて検討するに、本件発明1は、本件明細書の【0015】に、
「本発明は、強熱減量が3.5質量%以上と大きい石炭灰に所定の粉砕を行って、粘性土の地盤改良に用いた場合に、粘性土との混合性を改善できる石炭灰(改質石炭灰)を製造することができる。
ここで、強熱減量は、石炭灰中の未燃炭素の量に比例し、「強熱減量が3.5質量%以上大きい」とは、いわゆる未燃炭素が多いことを示す。そして、強熱減量が大きい石炭灰に所定の粉砕を施すことで、石炭灰の粒子中に内包されている未燃炭素の少なくとも一部を粒子の表面側に露出させることによって、この石炭灰を用いて、セメント粒子と粘土粒子との混合性を改善することができる。粉砕によって石炭灰の粒子の表面に露出された未燃炭素は粉砕前から存在する粉体粒子中の未燃炭素と同一の性状を示し、その性状は疎水性である。つまり、所定の粉砕により、粉砕前に比べて石炭灰の粒子の表面に露出されている未燃炭素が多くなるため、疎水性がより強くなる。例えば、セメントとこの石炭灰とを混合して固化材として用いる場合には、粒子の表面に露出された疎水性の未燃炭素によって、セメント混練時に過剰な吸水性が示されず、含水比の高い粘性土の地盤改良において粘土粒子とセメント粒子との分散性を効率よく向上させることができる。」
と記載され、同じく【0019】に、
「粉砕に際しては、まず、粉砕前の石炭灰の明度(Lp値)を測定し、これと粉砕後の石炭灰の明度(Lg値)との比(Lg/Lp)が0.9以下となるようにする。・・・
ここで、石炭灰の明度は黒色度と関連し、主に表面に露出させた未燃炭素の存在量の指標となり、粉砕前後の比であるLg/Lpが0.9を超えると、内包される未燃炭素が十分に表面に存在していないことになり、このような状態でセメントと混合した固化材とした場合には、粘土粒子とセメント粒子との分散性を効率よく向上させることができない。・・・」
と記載されているとおり(下線は当審で付した)、粉砕前後の明度(L値)の比を特定することにより、粉砕によって石炭灰の粒子の表面に露出されている未燃炭素を多くして、粘性土の地盤改良において粘土粒子とセメント粒子との分散性を向上させるという技術思想であるといえる。
これに対し、引用発明1は、L値を低下させる石炭灰の粉砕に係るブレーン比表面積などの物性との相関について開示するものであるが、L値の低下した石炭灰をどのように利用するかについて示唆するものとはなっていないから、相違点1、2は実質的なものであるといえ、技術常識を参酌しても当業者が容易に解消しうるものであるとはいえない。
参考資料3には、石炭灰等の工場残滓をCSコンクリートに有効利用することについて記載されており、フライアッシュ(石炭灰)を粉砕すること、粉砕した試料のブレーン値とCSコンクリートの圧縮強度との関係等についても記載されているが、粉砕によるL値の低下や、粘性土の地盤改良に用いるセメント系固化材用とすることについての記載も示唆もない。

(ウ)小括
以上のことから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び参考資料3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)申立人の主張
申立人は、令和元年10月21日付け意見書において、甲第3号証、参考資料5、6によれば、強熱減量が比較的大きく、未燃炭素量の多い石炭灰を、粘性土等の地盤改良に用いるセメント固化材に用いることは、セメント分野において、周知慣用技術であることを主張する。
しかし、石炭灰の粉砕によるL値の低下、それによって主に表面に露出させた未燃炭素の存在を粘性土の地盤改良に結びつけることは、甲第3号証、参考資料5、6の何れにも記載や示唆はなく、それが周知慣用技術であるともいえないから、上記主張に関わらず、引用発明1において相違点1、2を解消することができるとはいえない。

(4)本件発明2、3について
本件発明2、3については、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記(3)で検討したと同様であり、甲第1号証に記載された発明及び参考資料3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由1は理由がない。

3.本件発明に係る取消理由2についての判断
本件発明は、本件訂正により、「粘性土の地盤改良に用いるセメント系固化材用」の点が特定されることとなった。そして、本件明細書【0041】のベーンせん断試験による評価の例等の記載から、当業者であれば、粘性土の地盤改良に用いるセメント系固化材用とするに適した属性を有した石炭灰が製造できることは十分認識できるといえるから、取消理由2は理由がないものとなった。

4.平成31年2月8日付け取消理由通知書で通知した取消理由について
甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とした新規性進歩性に係るものであり、副引用例の甲第2、4、5号証には、石炭灰の粉砕によるL値の低下、それによって主に表面に露出させた未燃炭素の存在を粘性土の地盤改良に結びつけることについての記載も示唆もないから、本件発明については、上記2.で検討したと同様、理由はない。


第5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1.申立人の主張する申立理由について
(1)申立理由1(取消理由通知で採用)
訂正前の本件請求項1?3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第1項に違反してされたものである。

(2)申立理由2(取消理由通知で一部採用)
訂正前の本件請求項1?3に係る発明は、(粘性土の地盤改良材用であったとしても)甲第1?3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものである。

(3)申立理由3(取消理由通知で一部採用)
訂正前の本件請求項1?3に係る発明は、用途限定のない石炭灰一般に係る特定がされているが、本件明細書【0008】には「本発明は、未燃炭素が多い石炭灰を分級による処理をすることなく使用することができ、粘性土の地盤改良における混合時の均一性を改善できる石炭灰及びその製造方法、並びに、その石炭灰を用いたセメント組成物を提供することを目的とする。」と用途限定の記載がなされ、対応する効果は本件明細書【0041】のベーンせん断抵抗値を求めたことに止まり、実施例の石炭灰の含有量は30質量%の組成の例示に限定される。よって、特定されている石炭灰の全範囲が本件発明の課題を解決できると認識できるものではないから、訂正前の本件請求項1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2.当審の判断
(1)申立理由1、2について
本件発明について、甲第1、2号証等を証拠方法として、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とした理由については、上記第4で取消理由1について検討したとおりであり、理由はない。
そして、取消理由通知において採用しなかった、粘性土の地盤改良に係る甲第3号証の記載の点を考慮しても、上記第4の2.(3)(エ)で述べたとおりであるから、申立理由1、2は何れも理由がない。

(2)申立理由3について
特有の用途に係る限定の点については、上記第4で取消理由2について検討したとおりであり、本件発明においては理由がない。
そして、実施例から認識できる効果の点についても、上記第4の3.で述べたとおりであって、例えば、混練における石炭灰の配合量については態様に応じた技術常識があるから、当業者であれば、30質量%を含有させた場合の例が記載されていることで、その効果の発揮されうる範囲についてそれぞれ認識できるといえる。
よって、申立理由3は理由がない。


第6.むすび
以上のとおり、本件請求項1?3に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強熱減量が3.5質量%以上である石炭灰を、粉砕前の石炭灰の明度(Lp値)に対する粉砕後の石炭灰の明度(Lg値)の比(Lg/Lp)が0.9以下となるように粉砕することを含み、ブレーン比表面積が3200?4200cm^(2)/gである、粘性土の地盤改良に用いるセメント系固化材用の石炭灰の製造方法。
【請求項2】
前記粉砕前の石炭灰の明度(Lp値)に対する粉砕後の石炭灰の明度(Lg値)の比(Lg/Lp)が0.6以上となるように粉砕する、請求項1に記載の石炭灰の製造方法。
【請求項3】
粉砕前の石炭灰のレーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した粒径45μm以上の粒子の含有量(Vp)に対する粉砕後の石炭灰の前記測定法で測定した粒径45μm以上の粒子の含有量(Vg)の比(Vg/Vp)が0.85以下となるように粉砕する、請求項1又は2に記載の石炭灰の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-30 
出願番号 特願2017-17452(P2017-17452)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B02C)
P 1 651・ 537- YAA (B02C)
P 1 651・ 113- YAA (B02C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 淳一  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 菊地 則義
金 公彦
登録日 2018-04-20 
登録番号 特許第6323579号(P6323579)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 石炭灰の製造方法  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ