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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C25D
管理番号 1360476
異議申立番号 異議2017-700951  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-04 
確定日 2020-02-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6110049号発明「クロムめっき部品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6110049号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-10〕について訂正することを認める。 特許第6110049号の請求項1?10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6110049号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成21年2月13日に特許出願され、平成29年3月17日に特許権の設定登録がされ、同年4月5日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。

平成29年10月 4日 特許異議申立人である土屋篤志(以下「申
立人1」という。)による全請求項に対す
る特許異議の申立て
同年10月 5日 特許異議申立人である内藤順子(以下「申
立人2」という。)による全請求項に対す
る特許異議の申立て
同年12月 5日付け 当審による取消理由の通知
平成30年 3月 6日 特許権者である日産自動車株式会社及びア
トテック・ドイチュラント・ゲーエムベー
ハー(以下、まとめて「特許権者ら」とい
う。)による意見書の提出及び訂正の請求
同年 4月20日 申立人2による意見書の提出
(申立人1からの意見書提出なし。)
同年 7月10日付け 当審による取消理由(決定の予告)の通知
同年10月22日 特許権者らによる意見書の提出及び訂正の
請求
同年12月21日付け 当審による訂正拒絶理由の通知
平成31年 1月 9日 当審による特許権者らとの応対記録
同年 同月18日 特許権者らによる意見書の提出
同年 2月26日 申立人1及び申立人2による意見書の提出
令和 1年 5月 8日付け 当審による取消理由(決定の予告)の通知
同年 7月31日 当審による特許権者らとの面接記録
同年 8月 5日 当審による特許権者らとの応対記録
同年 同月 9日 特許権者らによる意見書(以下、単に「意
見書」という。)の提出及び訂正の請求(
以下「本件訂正請求」という。)
同年10月 9日 申立人2による意見書(以下「意見書2」
という。)の提出
同年 同月10日 申立人1による意見書(以下「意見書1」
という。)の提出

なお、本件訂正請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、平成30年3月6日及び同年10月22日にされた訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正された箇所を表す。

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「素地と、前記素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成され、前記光沢ニッケルめっき層との電位差が40mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層と、前記貴電位ニッケルめっき層上に接して形成され、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している3価クロムめっき層と、を備えたことを特徴とするクロムめっき部品。」と記載されているのを、「素地と、前記素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成され、前記光沢ニッケルめっき層との電位差が60mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層と、前記貴電位ニッケルめっき層上に接して形成され、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している3価クロムめっき層と、を備え、前記3価クロムめっき層は、50000個/cm^(2)以上の微細孔を有しており、前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上の炭素を含有し、前記3価クロムめっき層は、7at%以上の酸素を含有し、前記3価クロムめっき層は、非晶質であることを特徴とするクロムめっき部品。」に訂正する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に、「前記3価クロムめっき層は、10000個/cm^(2)以上の微細孔を有していることを特徴とする請求項1に記載のクロムめっき部品。」と記載されているのを、「前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上20at%以下の炭素を含有することを特徴とする請求項1に記載のクロムめっき部品。」に訂正する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に、「前記3価クロムめっき層は、炭素及び酸素を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のクロムめっき部品。」と記載されているのを、「前記3価クロムめっき層は、7at%以上16at%以下の酸素を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のクロムめっき部品。」に訂正する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に、「前記3価クロムめっき層は、0.5at%以上の鉄及び4.0at%以上の炭素の少なくともいずれか一方を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のクロムめっき部品。」と記載されているのを、「前記3価クロムめっき層は、0.5at%以上の鉄を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のクロムめっき部品。」に訂正する。

(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に、「前記3価クロムめっき層は、非晶質であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のクロムめっき部品。」と記載されているのを、「前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上20at%以下の炭素を及び7at%以上16at%以下の酸素を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のクロムめっき部品。」に訂正する。

(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に、「素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、前記光沢ニッケルめっき層上に、前記光沢ニッケルめっき層との電位差が40mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層を接して形成する工程と、前記貴電位ニッケルめっき層上に、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有する3価クロムめっき層を接して形成する工程と、を有することを特徴とするクロムめっき部品の製造方法。」と記載されているのを、「素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、前記光沢ニッケルめっき層上に、前記光沢ニッケルめっき層との電位差が60mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層を接して形成する工程と、前記貴電位ニッケルめっき層上に、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有する3価クロムめっき層を接して形成する工程と、を有し、前記3価クロムめっき層は、50000個/cm^(2)以上の微細孔を有しており、前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上の炭素を含有し、前記3価クロムめっき層は、7at%以上の酸素を含有し、前記3価クロムめっき層は、非晶質であることを特徴とするクロムめっき部品の製造方法。」に訂正する。

(7)訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に、「前記貴電位ニッケルめっき層を形成するための第一めっき浴に添加する電位調整剤の量を、前記光沢ニッケルめっき層を形成するための第二めっき浴より多くすることを特徴とする請求項7に記載のクロムめっき部品の製造方法。」と記載されているのを、「前記貴電位ニッケルめっき層を形成するための第一めっき浴に添加する電位調整剤の量を、前記光沢ニッケルめっき層を形成するための第二めっき浴より多くし、前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上20at%以下の炭素を及び7at%以上16at%以下の酸素を含有することを特徴とする請求項7に記載のクロムめっき部品の製造方法。」に訂正する。

2 訂正の適否に関する当審の判断
(1)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の
有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「貴電位ニッケルめっき層」の「光沢ニッケルめっき層との電位差」について、「40mV以上120mV以下」であったのを「60mV以上120mV以下」に限定するとともに、同じく本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「3価クロムめっき層」について、「50000個/cm^(2)以上の微細孔を有し」、「4.0at%以上の炭素を含有し」、「7at%以上の酸素を含有し」及び「非晶質である」として、「3価クロムめっき層」をさらに特定するものであることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。

(イ)新規事項の有無
「貴電位ニッケルめっき層」の「光沢ニッケルめっき層との電位差」を「60mV以上とすることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)の【0022】に、「3価クロムめっき層」について、「50000個/cm^(2)以上の微細孔を有」することは同【0023】に、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素を含有」することは同請求項4及び【表1】に、「非晶質である」ことは同請求項6にそれぞれ記載されているから、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2による訂正は、本件訂正前の請求項2において、3価クロムめっき層について特定されていた「10000個/cm^(2)以上の微細孔を有していること」を削除する訂正を含むものであって、これは、本件訂正後の請求項1において、3価クロムめっき層が「50000個/cm^(2)以上の微細孔を有し」との特定がされたことに伴い、請求項1を引用する請求項2における重複を避けるためになされたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
また、訂正事項2による訂正は、本件訂正前の請求項2の発明特定事項である「3価クロムめっき層」について、「4.0at%以上20at%以下の炭素を含有する」として、「3価クロムめっき層」をさらに特定する訂正を含むものであることから、これは特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。

(イ)新規事項の有無
「3価クロムめっき層」について、「4.0at%以上」の炭素を含有することは本件明細書等の請求項4に、「20at%以下」の炭素を含有することは同請求項5にそれぞれ記載されているから、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3による訂正は、本件訂正前の請求項3において、3価クロムめっき層について特定されていた「炭素」の含有を削除する訂正を含むものであって、これは、本件訂正後の請求項1において、3価クロムめっき層が「4.0at%以上の炭素を含有し」との特定がされたことに伴い、請求項1を引用する請求項3における重複を避けるためになされたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
また、訂正事項3による訂正は、本件訂正前の請求項3の発明特定事項である「3価クロムめっき層」について、「7at%以上16at%以下の酸素を含有する」として、「3価クロムめっき層」をさらに特定する訂正を含むものであることから、これは特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、訂正事項3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。

(イ)新規事項の有無
「3価クロムめっき層」について、「7at%以上」の酸素を含有することは本件明細書等の【表1】の実施例8に、「16at%以下」の酸素を含有することは同実施例1及び4にそれぞれ記載されているから、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

エ 訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、本件訂正前の請求項4において、3価クロムめっき層について特定されていた「4.0at%以上の炭素」の含有を削除するものであって、これは、本件訂正後の請求項1において、3価クロムめっき層が「4.0at%以上の炭素を含有し」との特定がされたことに伴い、請求項1を引用する請求項4における重複を避けるためになされたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。

オ 訂正事項5
(ア)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5による訂正は、本件訂正前の請求項6において、3価クロムめっき層について特定されていた「非晶質であること」を削除する訂正を含むものであって、これは、本件訂正後の請求項1において、3価クロムめっき層が「非晶質である」との特定がされたことに伴い、請求項1を引用する請求項6における重複を避けるためになされたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
また、訂正事項5による訂正は、本件訂正前の請求項6の発明特定事項である「3価クロムめっき層」について、「4.0at%以上20at%以下の炭素及び7at%以上16at%以下の酸素を含有する」として、「3価クロムめっき層」をさらに特定する訂正を含むものであることから、これは特許請求の範囲の減縮も目的とする訂正である。
そして、訂正事項5による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。

(イ)新規事項の有無
「3価クロムめっき層」が「4.0at%以上20at%以下の炭素及び7at%以上16at%以下の酸素を含有する」ことについては、上記イ(イ)及びウ(イ)のとおりであるから、訂正事項5は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

カ 訂正事項6
(ア)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6による訂正は、本件訂正前の請求項7の発明特定事項である「貴電位ニッケルめっき層」の「光沢ニッケルめっき層との電位差」について、「40mV以上120mV以下」であったのを「60mV以上120mV以下」に限定するとともに、同じく本件訂正前の請求項7の発明特定事項である「3価クロムめっき層」について、「50000個/cm^(2)以上の微細孔を有し」、「4.0at%以上の炭素を含有し」、「7at%以上の酸素を含有し」及び「非晶質である」として、「3価クロムめっき層」をさらに特定するものであることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。

(イ)新規事項の有無
「貴電位ニッケルめっき層」の「光沢ニッケルめっき層との電位差」を「60mV以上とすること、並びに「3価クロムめっき層」について、「50000個/cm^(2)以上の微細孔を有」すること、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素を含有」すること及び「非晶質である」ことについては、上記ア(イ)のとおりであるから、訂正事項6は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

キ 訂正事項7
(ア)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項7による訂正は、本件訂正前の請求項8の発明特定事項である「3価クロムめっき層」について、「4.0at%以上20at%以下の炭素及び7at%以上16at%以下の酸素を含有する」として、「3価クロムめっき層」をさらに特定するものであることから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。

(イ)新規事項の有無
「3価クロムめっき層」が「4.0at%以上20at%以下の炭素及び7at%以上16at%以下の酸素を含有する」ことについては、上記イ(イ)及び同ウ(イ)のとおりであるから、訂正事項7は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

(2)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項に対して特許異議の申立てがなされているので、訂正事項1?7について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?6は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件訂正前の請求項8?10は、請求項7を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?6及び7?10は、それぞれ一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

(4)訂正の適否についての結論
以上のとおり、上記訂正事項1?7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕、〔7?10〕について訂正を認める。


第3 本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
素地と、
前記素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成され、前記光沢ニッケルめっき層との電位差が60mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に接して形成され、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している3価クロムめっき層と、
を備え、
前記3価クロムめっき層は、50000個/cm^(2)以上の微細孔を有しており、
前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上の炭素を含有し、
前記3価クロムめっき層は、7at%以上の酸素を含有し、
前記3価クロムめっき層は、非晶質であることを特徴とするクロムめっき部品。
【請求項2】
前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上20at%以下の炭素を含有することを特徴とする請求項1に記載のクロムめっき部品。
【請求項3】
前記3価クロムめっき層は、7at%以上16at%以下の酸素を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のクロムめっき部品。
【請求項4】
前記3価クロムめっき層は、0.5at%以上の鉄を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のクロムめっき部品。
【請求項5】
前記3価クロムめっき層は、1at%以上20at%以下の鉄及び10at%以上20at%以下の炭素の少なくともいずれか一方を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のクロムめっき部品。
【請求項6】
前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上20at%以下の炭素を及び7at%以上16at%以下の酸素を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のクロムめっき部品。
【請求項7】
素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、前記光沢ニッケルめっき層との電位差が60mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有する3価クロムめっき層を接して形成する工程と、
を有し、
前記3価クロムめっき層は、50000個/cm^(2)以上の微細孔を有しており、
前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上の炭素を含有し、
前記3価クロムめっき層は、7at%以上の酸素を含有し、
前記3価クロムめっき層は、非晶質であることを特徴とするクロムめっき部品の製造方法。
【請求項8】
前記貴電位ニッケルめっき層を形成するための第一めっき浴に添加する電位調整剤の量を、前記光沢ニッケルめっき層を形成するための第二めっき浴より多くし、
前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上20at%以下の炭素を及び7at%以上16at%以下の酸素を含有することを特徴とする請求項7に記載のクロムめっき部品の製造方法。
【請求項9】
前記貴電位ニッケルめっき層を形成する工程は、ケイ素及びアルミニウムのうち少なくともいずれか一つを含有する化合物を分散させた第一めっき浴を用いて行われることを特徴とする請求項7又は8に記載のクロムめっき部品の製造方法。
【請求項10】
前記貴電位ニッケルめっき層を形成する工程は、酸化アルミニウムを分散させた第一めっき浴を用いて行われることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載のクロムめっき部品の製造方法。」


第4 申立理由の概要
1 申立人1は、以下の申立理由1-1?1-2gによって、請求項1?10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
なお、申立人1による特許異議申立書を「申立書1」といい、申立人1が提出した「甲第1号証?甲第11号証」を、それぞれ「甲1-1?甲1-11」という。

(1)申立理由1-1
発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1?10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)申立理由1-2a
本件発明1?10は、甲1-1に記載された発明及び甲1-7?甲1-11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(3)申立理由1-2b
本件発明1?10は、甲1-2に記載された発明及び甲1-7?甲1-11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(4)申立理由1-2c
本件発明1?10は、甲1-3に記載された発明及び甲1-7?甲1-11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(5)申立理由1-2d
本件発明1?10は、甲1-4に記載された発明及び甲1-7?甲1-11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(6)申立理由1-2e
本件発明1?10は、甲1-5に記載された発明及び甲1-7?甲1-11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(7)申立理由1-2f
本件発明1?10は、甲1-6に記載された発明及び甲1-7?甲1-11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(8)申立理由1-2g
本件発明1?10は、甲1-7に記載された発明及び甲1-8?甲1-11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

[申立人1が提出した証拠方法]
甲1-1:Robert A. Tremmel “Methods to Improve The Corrosion Performance Of Microporous Nickel Deposits”, PLATING & SURFACE FINISHING, October 1996, p.24-28
甲1-2:“Minimum Performance Requirements for Decorative Chromium Plated Plastic Parts”, GM WORLDWIDE ENGINEERING STANDARDS, February 2007, p.1-7
甲1-3:Volkswagen AG Group Standard, June 2008, p.1-9
甲1-4:MARK SCHARIO,“Troubleshooting Decorative Nickel Plating Solutions”, metalfinshing, May 2007, p.41-44
甲1-5:特開昭49-52132号公報
甲1-6:特開平5-171468号公報(後記甲2-4と同じ。)
甲1-7:特開平5-287579号公報
甲1-8:特公昭48-40542号公報
甲1-9:欧州特許第1343924号明細書
甲1-10:米国特許第3625039号明細書
甲1-11:国際公開第2006/043507号

2 申立人2は、以下の申立理由2-1?2-2によって、請求項1?10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
なお、申立人2よる特許異議申立書を「申立書2」といい、申立人2が提出した「甲第1号証?甲第9号証」を、それぞれ「甲2-1?甲2-9」という。

(1)申立理由2-1
本件発明1?10は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2?甲2-7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(2)申立理由2-2
本件発明1?10は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1?10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

[申立人2が提出した証拠方法]
甲2-1:MIKE BRANSTEAD,et al.,“Trivalent Chromium for a New Generation”, metalfinishing, Vol.107, No.1, January 2009, p.27-30,33
甲2-2:上谷正明、「高耐食性マイクロポーラスクロムめっき」、めっき技術部会11月例会、平成5年11月19日、p.20-27
甲2-3:G.A.Dibari 外2名、「装飾用ニッケル-クロムめっきの耐食性 -硫黄の影響を中心として-」、表面技術、Vol.41、No.2、1990年、p.91-98
甲2-4:特開平5-171468号公報(前記甲1-6と同じ。)
甲2-5:渡邊和夫、「装飾3価クロムめっき技術」、表面技術、Vol.56、No.6、2005年、p.20-24
甲2-6:特公昭54-37564号公報
甲2-7:特開平8-100273号公報
甲2-8-1:本件特許の出願経過における平成27年4月8日付け拒絶査定
甲2-8-2:本件特許の出願経過における平成27年8月7日付け審判請求書
甲2-8-3:本件特許の出願経過における平成27年9月14日付け前置報告書
甲2-8-4:本件特許の出願経過における平成27年11月4日付け上申書
甲2-9:表面技術、VOL.44、NO.11、1993年、A-10?A-11

また、申立人2は、平成30年4月20日付け意見書において、以下の参考資料を添付している。
参考資料1:「めっき技術ガイドブック」、東京鍍金材料協同組合、昭和62年12月16日、p.156-171
参考資料2:「鍍金の世界」、東京鍍金材料協同組合、1996年2月号、平成8年2月15日、p.30-34


第5 取消理由の概要
1 平成29年12月5日付け取消理由
本件訂正前の請求項1?10に係る特許に対して平成29年12月5日付けで特許権者らに通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1(前記申立理由2-2を採用。)
本件発明1?10は、以下ア?オの理由により、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1?10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(ただし、本件明細書等の表1(【0060】)の実施例5におけるクロムめっき層の微細孔密度は、10×1,000?17×1,000個・cm^(-2)、すなわち、10,000?17,000個/cm^(2)であるから、申立書2の36頁31行、33行及び35行の「100,000」は、いずれも「10,000」と読み替え、同33行の「170,000」は「17,000」と読み替える。また、申立書2の37頁23行の「0.5at%含有」は「0.5at%以上含有」と読み替える。)。

ア 取消理由1a(申立書2の36頁26行?37頁1行)
微細孔や微細クラックの密度が高くなるほど、耐食性が向上することが知られているところ(甲2-4【0002】)、本件明細書等に具体的に開示されているのは、マイクロポーラス構造については10,000個/cm^(2)以上の範囲のみであり、マイクロクラック構造にいたっては具体的な数値の開示さえもない(【0060】の【表1】)から、当業者は、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造のあらゆる密度範囲において、通常の環境及び特異的な環境にける耐食性を有するクロムめっき部品を得るという本件発明の課題を解決できるものとは認識できない。

イ 取消理由1b(申立書2の37頁6?18行)
本件明細書等によれば、炭素、酸素などのメタロイド元素がクロムめっき層に共析することによって、非晶化度合を増加させ、腐食起点となるめっき欠陥を著しく減らすうえ、クロムめっき層を貴電位化し塩化カルシウムに対する耐食性を向上させるものであるところ(【0026】)、本件明細書等において具体的に開示されているのは、全て酸素7?16at%及び炭素4?16%を含有するものであり(【0060】の【表1】)、双方の元素を含まないものはおろか、いずれか一方を含まない例さえも開示されていないから、腐食起点となるめっき欠陥を著しく減らすことに加え、塩化カルシウムに対する腐食性を向上させる作用を有する炭素及び酸素をいずれも含まない範囲までも、本件発明の課題を解決できるものとは認識できない。

ウ 取消理由1c(申立書2の37頁19?28行)
本件明細書等によれば、鉄はクロムめっき処理浴中において、めっき付き回り性を安定化させる効果を有し、クロムめっき層の表面に生じる不動態皮膜をより緻密にする効果を有するなど(【0027】)、耐食性に影響を及ぼすところ、本件特許明細書において具体的に開示されているのは全て鉄を0.5at%含有するものであり、鉄を含まない実施例は一切開示されていない(【0060】の【表1】)から、耐食性向上に寄与する鉄が存在しない場合でも、本件発明の課題を解決するものとは認識できない。

エ 取消理由1d(申立書2の37頁29行?最下行)
本件明細書等によれば、3価クロムめっき層が非晶質であることによって、腐食起点となり得るめっき欠陥を著しく減らすことが可能となるとされ(【0024】)、具体的には、クロムめっき層が非晶質の状態にある実施例1及び3では、腐食起点となり得る欠陥が著しく減少したため、耐食性が向上したのに対し、クロムめっき層が結晶化された比較例5及び7では、塩化カルシウムに対する耐食性が低下することが記載されている(【0063】、【0067】)ものの、クロムめっき層が結晶状態であっても耐食性向上効果が得られることを裏付ける具体例は開示されていないから、クロムめっき層が結晶状態にある場合でも、本件発明の課題を解決できるものとは認識できない。

オ 取消理由1e(申立書2の38頁1行?下から5行)
本件明細書等において具体的に開示されているのは、光沢ニッケルめっき層の下に硫黄なしニッケルめっき層を設けた二層構造のものだけである(【0046】、【0060】の【表1】)ところ、この硫黄なしニッケルめっき層の存在によって、光沢ニッケルめっき層に対して貴電位となり、光沢ニッケルめっき層の横方向に腐食が進行し、硫黄なしニッケルめっき層への深さ方向への腐食の進行が抑制されることで耐食性が向上するものであり、この硫黄なしニッケルめっき層が存在しないと、比較的短時間に下地への腐食が進展して、めっき層の剥がれなどの外観不良が生じてしまうとされている(【0038】)から、当業者は、耐食性に重要な役割を果たす硫黄なしニッケルめっき層が存在しない場合においても、本件発明の課題を解決できるとは認識できない。

(2)取消理由2
ア 取消理由2a(甲1-1を主引用例とした取消理由であって、前記申
立理由1-2aを実質的に採用。)
本件発明1?10は、甲1-1に記載された発明、甲1-8、甲1-9、甲2-4、甲2-5、甲2-7に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

イ 取消理由2b(甲1-2を主引用例とした取消理由であって、前記申
立理由1-2bを実質的に採用。)
本件発明1?10は、甲1-2に記載された発明、甲1-8、甲1-9、甲2-4、甲2-5、甲2-7に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

ウ 取消理由2c(甲1-3を主引用例とした取消理由であって、前記申
立理由1-2cを実質的に採用。)
本件発明1?10は、甲1-3に記載された発明、甲1-8、甲1-9、甲2-4、甲2-5、甲2-7に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

エ 取消理由2d(甲1-4を主引用例とした取消理由であって、前記申
立理由1-2dを実質的に採用。)
本件発明1?10は、甲1-4に記載された発明、甲1-1?甲1-3、甲1-5?甲1-9、甲2-4、甲2-5、甲2-7に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

オ 取消理由2e(甲1-5を主引用例とした取消理由であって、前記申
立理由1-2eを実質的に採用。)
本件発明1?10は、甲1-5に記載された発明、甲1-8、甲1-9、甲2-4、甲2-5、甲2-7に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

カ 取消理由2f(甲1-6を主引用例とした取消理由であって、前記申
立理由1-2fを実質的に採用。)
本件発明1?10は、甲1-6に記載された発明、甲1-8、甲1-9、甲2-4、甲2-5、甲2-7に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

キ 取消理由2g(甲1-7を主引用例とした取消理由であって、前記申
立理由1-2gを実質的に採用。)
本件発明1?10は、甲1-7に記載された発明、甲1-8、甲1-9、甲2-4、甲2-5、甲2-7に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

ク 取消理由2h(甲2-1を主引用例とした取消理由であって、前記申
立理由2-1を実質的に採用。)
本件特許の請求項1?10に係る発明は、甲2-1に記載された発明、甲1-1?甲1-3、甲1-5?甲1-9、甲2-2、甲2-4、甲2-5、甲2-7に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

2 平成30年7月10日付け取消理由(決定の予告)
平成30年3月6日付けで訂正請求された、本件訂正前の請求項1?10に係る特許に対して、平成30年7月10日付けで特許権者らに通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1
上記1(1)イ?オの取消理由1b?1eのとおり、請求項1?10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)取消理由2
上記1(2)エ及びクの取消理由2d及び2hのとおり、請求項1及び3?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

3 令和1年5月8日付け取消理由(決定の予告)
平成30年10月22日付けで訂正請求された、本件訂正前の請求項1?23に係る特許に対して、令和1年5月8日付けで特許権者らに通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1
上記1(1)イ?オの取消理由1b、1c及び1eのとおり、請求項1?3、5?8、10?12及び14?21に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)取消理由2
上記1(2)エ及びクの取消理由2d及び2hのとおり、請求項1?3、5?8、10?12及び14?21に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。


第6 甲号証及び参考文献の記載事項
1 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲1-1には以下の事項が記載されている。なお、「・・・」は記載の省略を表し、下線は当審が付与したものであって、以下、同様である。

(甲1-1a)「

」(24頁左欄22?39行)
(当審訳:70年以上にわたって、装飾的なニッケル-クロムが、種々の基板上の保護コーティングとして使用されている。この間、これらのめっきの耐食性が著しく向上している。これは、特に、腐食性が高い環境用に開発された多層コーティングにおいて該当する。多層コーティングの腐食メカニズムは非常によく理解されている。しかし、文献は、最大の腐食性能に求められる所望の条件を得るための特定の操作パラメータの推奨及び添加物の使用に関してしばしば矛盾していた。)

(甲1-1b)「

」(25頁左欄3?36行)
(当審訳:微小不連続クロム
単層及び多層のニッケルコーティングの全体的な腐食保護における微小不連続クロムの利点は、1950年代後半に発見された^(2)。当初は、クラックフリークロムの使用により、腐食電池を構成する露出ニッケルがなくなるため、完全な耐食性表面が得られるだろうと考えられていた。クラックフリークロムをめっきすることは可能であるが、内部応力が比較的短期間に発生して、クラックの形成が生じる。これにより、通常のクロム上においてと同様に腐食サイトが発生する。
微小不連続クロムは、全体的な腐食保護を著しく向上させる特有の腐食メカニズムを提供する。クロム層における微小不連続性によって、カソード領域(クロム)が減少し、アノード領域(ニッケル)が増大する。その結果、所定の腐食サイトにおいてニッケルに供給される電流量が実質的に減少し、光沢ニッケル層の貫通が減少する。図4は、微小不連続クロムの腐食メカニズムを示す。)

(甲1-1c)「

」(25頁左欄)
(当審訳:

)

(甲1-1d)「

」(25頁左欄下から14行?中欄25行)
(当審訳:微小不連続性を得る方法
微小不連続性は、いくつかの技術によって生成することができる。これらの技術には、下記のものが含まれる。
1.リニア・インチ当たり最大1500個のマイクロクラックを与える、高応力を印加したクロムデポジット。
2.後のクロム層にマイクロクラックを発生させるマイクロクラック状ニッケルストライク。これは、クロムをめっきする前に、光沢ニッケル上にめっきされたニッケル薄層に高応力を印加することにより得られる。
3.後のクロム層にマイクロポロシティを与えるマイクロポーラスニッケルストライク。これは、ニッケルストライクデポジット内に不活性粒子を共堆積する、又は捕捉することにより得られる。一般的に、このデポジットによるマイクロポロシティとしては、155000個/cm^(2)(1000000個/平方インチ)ものポアが可能となる。
4.クロムデポジットを砂又はその他の硬質微粒子に衝突させてマイクロポロシティを生成する。この方法は、マイクロポロシティとして、100000個/cm^(2)(650000個/平方インチ)ものポアを生成することができる。
この四つの方法のうち、最後の二つのみがめっき業界で広範に使用される。マイクロクラック状クロムは、クロムデポジット自体に生成されたか、又は応力を印加したニッケルストライクにより生成されたかを問わず、重大な限界を有する。それは、電流密度が低い領域においてクラック密度が低いこと、及び電流密度が非常に高い領域において剥落する傾向があることである。)

(甲1-1e)「

」(25頁中欄下から5行?右欄19行)
(当審訳:マイクロポロシティと電気化学ポテンシャル
試験結果によると、マイクロポロシティが10000個/cm^(2)(64000個/平方インチ)を超え、ニッケルストライクのポテンシャルが光沢ニッケル下層よりも低電気陰性度(貴)である場合、標準的な二重ニッケルコーティング上での使用において優れた腐食保護が得られる。所定の限度内では、マイクロポロシティを増大させると、腐食サイトの大きさが減少し、全体的な腐食保護が向上する。理想的には、最適な表面及び素地金属の保護のためには、マイクロポロシティは16000個/cm^(2)?48000個/cm^(2)(100000個/平方インチ?300000個/平方インチ)の間にあるべきである。ポロシティがこの範囲にあり、ニッケルストライクの所望のポテンシャルが満足される場合、めっき部品は最大で10サイクルのCASS^(*)を、素地金属又は表面の一切の欠陥なく持ちこたえることができる。)

(甲1-1f)「

」(26頁中欄)
(当審訳:

)

(甲1-1g)「

」(26頁中欄6行?右欄22行)
(当審訳:電気化学ポテンシャル
孔食の大きさは、特に光沢ニッケルデポジットに対するマイクロポーラスニッケルデポジットの電気化学ポテンシャルによって主に決定される。たとえば、マイクロポア内で腐食が起こったとき、ストライクが光沢ニッケル下層よりも活性が高ければ、ストライクデポジットは下層のニッケルデポジットに対してアノードとなり、当該ニッケル層よりも選択的に腐食する。これにより腐食サイトの大きさが実質的に拡大し、非常に目に付きやすい見苦しい傷及び/又は染みが電着塗装表面に発生し得る。反対に、ストライク層が光沢ニッケル下層よりも活性が低ければ、当該下層が選択的に腐食し、表面の腐食サイトはほぼ見えないままとなる。その結果、腐食性の厳しい環境に大々的に晒された後でも、めっき面は実質的に無傷となる。
自動車業界の多くの規格において、CASS後のポアサイズを最小化するには、微小不連続ニッケル層の電気化学ポテンシャル(STEPテスタにより測定)を、光沢ニッケルの±20ミリボルト以内とするべきである旨が規定されている^(7、8)。差がゼロであることが理想的であると考えられていた。しかし、傷の無い表面を保証するには、微小不連続ニッケル層が、光沢ニッケル下層よりも実質的に貴でなければならないことを我々は発見した。
日本で行われた荏原ユージライト株式会社とトヨタ自動車株式会社との共同試験では、200時間のCASSの後でも実質的に無傷の表面が保証されるマイクロポーラスストライク層及び光沢ニッケル間の相対ポテンシャルがあることが示されている^(9)。電解膜厚計及び多層ニッケル耐食性測定器を用いて、種々の光沢ニッケル及びマイクロポーラスニッケルストライクデポジットの絶対ポテンシャルを測定した。結果をCASSでのこれらの腐食性能と比較した。図6は、所望の腐食保護及び外観を達成するには、ストライクデポジットは光沢ニッケル下層よりも20mV?40mV貴でなければならないことを示す^(10)。)

(甲1-1h)「

」(27頁左欄下から10行?最下行)
(当審訳:多層ニッケルコーティングにより性能を向上できる
結論として、多層ニッケルコーティングの使用においては、マイクロポーラスニッケルストライクの電気化学ポテンシャルが下層の光沢ニッケルデポジットより20mV?40mV貴である場合に、優れた表面及び素地金属の腐食保護を達成することができる。)

2 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲1-2には以下の事項が記載されている。

(甲1-2a)「

」(1頁タイトル)
(当審訳:装飾用クロムめっきプラスチック部品の最低性能要件)

(甲1-2b)「

」(1頁左下の下から3行?最下行)
(当審訳:コピーライトGMワールドワイド
GMWのライセンスの下でIHSによって提供される
IHSからのライセンスがなければ複製又はネットワーク業務は許可されない)

(甲1-2c)「

」(1頁左欄5?25行)
(当審訳:1.1 材料の説明 この仕様に対するめっきは、2つのレベルの腐食保護を目的とする内装(符号A)及び外装(符号B)用途が意図されている。外装用途に対しては、多層ニッケルシステムに加えて、不連続クロムめっき(マイクロポーラス(mp)又はマイクロクラック(mc))を用いるものとする。内装用途は、不連続クロム又は多層ニッケルシステムの使用を必要としない。内装用途では、非不連続クロム(r)が許容される。この仕様にめっきされた外装プラスチックは、下記用途タイプに更に細分化される。即ち、車両に飛び石に曝されることがほとんど又は全くないタイプ1と、著しいチッピングにさらされているタイプ2と、がある。タイプ2は、前向きの車両エリアに取り付けられためっきされたプラスチック部品の有効面、又は自己発生による飛び石(タイヤからの直線投射の15度以上の衝突によって定義される)を受ける車両エリアを含む。詳細図面にタイプが記載されていない場合は、タイプ2が使用される。)

(甲1-2d)「

」(2頁左欄)
(当審訳:

)

(甲1-2e)「

」(2頁左欄6行)
(当審訳:3.1.4.1 素地/成形部品)

(甲1-2f)「

」(2頁右欄1?7行)
(当審訳:3.2.3.1.1 光沢(又はサテン)ニッケル層は、全ての有効面上の半光沢ニッケルに対して100mV?200mVの陽極電気化学電位差を示すものとする。供給者は、定期的な品質管理基準で、適切な統計的チャート技術を使用して、この要件への適合性を実証しなければならない。)

(甲1-2g)「

」(2頁右欄8?11行)
(当審訳:3.2.3.1.2 マイクロ微粒子ニッケル層は、全ての素地の全有効面上の光沢又はサテンのニッケルに対して10?40mVの陰極電気化学的電位差を示すものとする。)

なお、特許権者らは、平成30年3月6日付け意見書の34頁12?21行において、上記(甲1-2b)の記載を考慮すれば、甲1-2は守秘義務を負う者だけが見得る複製された文書であると考えられ、甲1-2は、公衆に対し頒布により公開することを目的としていないため、特許法第29条第1項第3号にいう「刊行物」に該当しないし、また、甲1-2は、不特定の者が見得る状態におかれていないため、特許法29条第1項第3号にいう「頒布」に該当しないし、さらに、甲1-2に記載された発行の年月が「不特定の者が見得る状態」であるか定かでないため、甲1-2では、特許法29条第1項各号及び第2項に規定された「特許出願前」の要件を満たしていることが証明されていない旨主張している。
しかし、上記(1-2b)の記載のうち、1行目の記載は、甲1-2の著作権はGMワールドワイドが有することを示すものであって、2?3行目の記載は、当該著作権が、GMWのライセンスの下でIHSによって提供されるものであって、IHSからのライセンスがなければ複製又はネットワーク業務は許可されないことを示すものにすぎないから、これらの記載を根拠として、甲1-2が、守秘義務を負う者だけが見得る複製された文書であるとはいえない。
したがって、特許権者らの上記主張はその前提において誤っており採用できない。

3 甲1-3には、以下の事項が記載されている。
(甲1-3a)「

」(1頁1行)
(当審訳:クロムめっきプラスチック部品)

(甲1-3b)「

」(1頁下から3行)
(当審訳:秘密。無断転用禁止。この文献のどの部分も、フォルクスワーゲングループの標準部門の許可なしで送信又は複製することができない。 )

(甲1-3c)「

」(2頁下から7行?4行)
(当審訳:3.2.1 素地
表1に準拠した電気めっきに適している材料として、素地製造業者によって指定されたプラスチック。これに対して逸脱するプラスチックのタイプは、基本的試験と共に、追加の試験を必要とし、必要に応じて個々に決定される。)

(甲1-3d)「

」(4頁?6頁)
(当審訳:

)

なお、上記(甲1-3b)の記載によれば、甲1-3は、本件特許に係る出願の出願日前に頒布されたものであるとはいえない。

4 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲1-4には以下の事項が記載されている。

(甲1-4a)「

」(41頁左欄6?12行)
(当審訳:二重ニッケルとは、2層のニッケルの堆積のことを言う。これは、1層のサルファーフリー(SF)半光沢ニッケル層と1層の光沢ニッケル層を含む。SF半光沢ニッケル層は下層であり、光沢ニッケル層は上層である。)

(甲1-4b)「

」(42頁左欄下から2行?43頁左欄24行)
(当審訳:腐食保護
光沢ニッケルはSF半光沢ニッケルに対して陽極である。光沢ニッケルはS F半光沢ニッケルよりも優先的に腐食する。光沢ニッケルは光沢ニッケルに対して犠牲的に腐食するため、SF半光沢ニッケルの腐食が低減される。腐食は横方向に進行し、SFの半光沢ニッケルを溶解する代わりに光沢ニッケルを溶かす。
総合的な腐食性能は、二重ニッケルの総厚、光沢ニッケルの厚さに対するSF半光沢ニッケルの厚さの比、及び、デポジットの電位差及び硫黄含有量によって左右される。好ましい比は、75%のSF半光沢と25%の光沢ニッケルである。しかし、60%?75%のSF半光沢ニッケルと25%?40%の光沢ニッケル厚の比は、満足のいく結果をもたらす。
SF半光沢ニッケルと光沢ニッケルデポジットとの間の典型的な電位差は、100?200mVであり、光沢ニッケルは、SF半光沢ニッケルよりも活性である(より貴ではない)。電位、総厚さ、及び光沢ニッケル厚さに対するSF半光沢ニッケルの比は、ASTM-B-764に概説されている業界で許容される方法を用いてチェックすることができる。この方法は、電位差を測定しながら、一定の電流密度でデポジットを陽極的に剥離する。(図1及び図2は二重ニッケルの腐食メカニズムを示す)。)

(甲1-4c)「

」(43頁左欄下から9行?44頁右欄17行)
(当審訳:微小不連続クロム
微小不連続なクロムは、クロム層中の細孔、クラック、又はその両方の組み合わせで定義され、以下のようにして製造することができる。
1.不活性粒子を共蒸着したニッケルの薄い低硫黄層をめっきする。この浴は、一般に微多孔質ニッケルストライクと呼ばれている。次のクロム層は、細孔、又は、不活性粒子が配置された場所で露出したニッケルを有する。
2.低硫黄ニッケルストライクの上に、3価クロム浴等の不連続クロムをめっきする。ほとんどの3価のデポジットは、薄い厚さで微孔質であり、厚い厚さで微小なクラックがある。したがって、クロムデポジットは、通常、マイクロ不連続性として言及される。
3.継続するクロム層にクラックを誘発するマイクロクラックニッケルストライク溶液。これは、クロム層にクラックを誘発するためにニッケルデポジットに応力を与えることによって達成される。
4.他の方法は、クロムに砂又は他の硬質粒子を衝突させることであろう。砂又は他の硬質粒子は、めっきされた物品上から離れて落下させる。粒子の衝突は、クロムデポジット中に微細孔を生成する。
5.高応力が付加された又は微細クラックが入ったクロムデポジットのめっき。クロムめっき溶液に添加剤を添加すると、デポジットに高応力が与えられ、微細クラックが発生する。
(上記の5つの方法のうち、1番と4番が最も一般的に使用されている。最近の規制により、多数のめっき工が2番の方法に変更している。)
二重ニッケルと同様に、クロムの下のニッケルストライク層の電位が、最良の腐食メカニズムを提供するために重要である。ニッケルストライクの電位は、その下にある光沢ニッケル層よりも若干貴でなければならない。
ニッケルストライクが光沢ニッケルよりも活性である場合、ニッケルストライクは光沢ニッケルより優先的に腐食する。これにより、表面上の孔が非常に大きくなり、肉眼で確認できるようになる。
ニッケルストライクが光沢ニッケルよりも貴な場合、光沢ニッケルはニッケルストライクより優先的に腐食され、表面の細孔は小さいままで、目立たない。(図3および図4参照。)
図3は、低硫黄層(より貴)に優先した光沢ニッケル(より活性)の腐食を示す。その結果、小さな表面細孔径が得られる。
図4は、光沢ニッケル層(より貴)に優先した低硫黄層(より活性)の腐食を示す。その結果、表面の孔径が大きくなり、視覚的に好ましくない。)

(甲1-4d)「

」(43頁)
(当審訳:

)

5 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲1-5には以下の事項が記載されている。
(甲1-5a)「2) 複合電気めつき層の使用を通して母材金属の防食性を改善する方法にして、(a)金属基質上に少く共約-75?-500mVの範囲の起電力を有するニツケル、銅及び真鍮から成る群より選択される第1金属層を電着すること;(b)前記第1層上に優先腐食金属の第2層を電着し、その際該優先腐食金属が約-225?-1100mV範囲の起電力を具備し、しかも該第1層及び第2層間の起電力差ΔEが少く共140mVであるようになすこと;(c)前記第2層上に光沢ニツケル、ニツケルの合金、コバルト及びコバルトの合金から成る群より選択される第3層を電着し、その場合該第3層が-325mVよりもつと負でない起電力を具備しそして前記第2層と前記第1層及び該第3層の一方との間のΔEが少く共60mVであり、かつ該第2層と該第1及び第3層の他方との間のΔEが少なく共140mVであるようになすこと;(d)前記第3層上方に装飾クロムの薄層を電着すること;及び(e)前記クロム薄層に粒子を衝突せしめて該クロム表面に少く共3000個/平方インチの微孔を形成することを包含する防食性改善方法。」(1頁左欄下から3行?右欄最下行)

(甲1-5b)「本発明の目的は、クロム層と母材金属との間に電着された活性金属の優先的腐食により生じるふくれの形成を防止若しくは相当に減少するようクロムめつき物品を処理することである。」(2頁右下欄下から2行?3頁左上欄2行)

(甲1-5c)「表1に掲げた金属等のうち、所定のEMFを有しそして水性めっき浴から電着されるものであるなら如何なる金属でも、優先腐食層として使用することができる。これらは、例えばニッケル、コバルト、カドミウム、白黄銅、錫及び亜鉛を含む。」(4頁右上欄6?10行)

(甲1-5d)「M-3層上に、装飾クロム層が、弗化物含有クロム浴或いは代表的に単位l当り250gのクロム酸と2.5gのスルフェートを含むクロム酸塩浴のような適当なクロムめつき浴から0.005?0.05ミル範囲の厚さまで付着される。」(4頁右下欄7?11行)

(甲1-5e)「その後、クロム層の表面は、微孔(マイクロポロシチー)を形成するべく粒子を適度に衝突せしめることにより処理される。・・・この衝突処理は、クロム表面に少く共3000個/in^(2)、好ましくは40,000?200,000個/in^(2)の最終孔数を与えるに充分強いものとすべきである。」(4頁右下欄12行?5頁左上欄3行)

(甲1-5f)「例II 優先腐食層としてニッケルの使用
本例において、0.2ミル厚のニツケル層を優先腐食層M-2として使用しそして2つのワット型ニッケルめつき液のいずれか一方から付着せしめた。各場合、ニツケルを138°Fの温度でかつ4.0のPHに維持した浴から40A/ft^(2)の電流密度で付着した。
A.4枚の4”×6”鋼パネル組に、シアン化銅フラツシユと光沢剤含入酸性銅めつき浴からの0.5ミルの銅をめつきし、続いて3g/lのベンゼンスルフイン酸ナトリウム・2H_(2)O及び0.08g/lのラウリル硫酸ナトリウムを含むワツト浴からのニツケル優先腐食層をめっきした。この層は、-216mVの測定ポテンシヤルを与えた。これに続いて、0.4ミルの光沢ニツケル層(約-160mVのポテンシヤル)及び0.01ミルのクロム層を付着した。一つのパネルは微孔を生成するべく例Iにおけるものと同様に砂を落下することにより処理しそしてもう一つのパネルを未処理のままとした。その後、両パネルに16時間のCASSサイクル、20時間のコロードコート及び19時間のCASS試験を施した。銅層及び優先腐食層間のポテンシャル差は約40mVであつた。試験の結果、処理パネルは単位平方インチ当り10個のピンホール銹点を含み、他方未処理パネルは単位平方インチ当り17個のピンホール銹点を有することがわかつた。
B.他の2枚のパネルを、優先腐食ニツケル層を0.29g/lのチオ尿素を含むワツト浴から付着したこと以外先きと同態様でめつきした。この層は、-365mVのポテンシヤルを与えた。従つて、銅層と優先腐食層との間のポテンシヤル差は約185mVであり、そして優先腐食層と光沢ニッケル層との間のΔEは約205mVであった。やはり、一方の試片にクロム層中に微孔を発見するべく砂衝突処理を施した。斯かる後両パネルを上述の例IAにおけるのと同様の促進試験を施した。処理パネルは単位平方インチ当り平均1.2個のピンホール銹点を含みそしてふくれを全く含まなかつたが、他方未処理パネルは単位平方インチ当り5個のピンホール銹点及び数個の小さなふくれを含んだ。
これらの試験結果は、優先腐食層とそれのいずれの側の層との起電力差の大きいパネルの方が鋼基質に対して一層秀れた保護を提供しうることを示す。更に、クロム層中の微孔の発現は基質の保護を改善すると共に活性な優先腐食層における腐食生成物の形成結果として生ずる表面体裁の劣化を少くする。」(6頁右上欄3行?右下欄11行)

(甲1-5g)「15)特許請求の範囲1)項記載の方法において、微孔密度が約40,000?200,000個/in^(2)であることを特徴とする方法。」(9頁左下欄14?16行)

6 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲1-6には以下の事項が記載されている。
(甲1-6a)「【請求項1】 被めっき製品素地を、実質的に硫黄を含まない半光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき皮膜に対し100?170mV卑な電気化学的電位を有する光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき皮膜に対し60?120mV卑であり、かつ上記光沢ニッケルめっき皮膜に対し10?60mV貴な電気化学的電位を有する非電導性微粒子共析ニッケルめっき層、クロムめっき皮膜で順次被覆されたことを特徴とするニッケル-クロムめっき製品。
・・・
【請求項3】 被めっき製品に、実質的に硫黄を含まない半光沢ニッケルめっき層を形成する電気めっき、半光沢ニッケルめっき皮膜に対し100?170mV卑な電気化学的電位を有する光沢ニッケルめっき層を形成する電気めっき、前記半光沢ニッケルめっき皮膜に対し60?120mV卑であり、かつ上記光沢ニッケルめっき皮膜に対し10?60mV貴な電気化学的電位を有する非電導性微粒子共析ニッケルめっき層を形成する電気めっき、クロムめっき皮膜を形成する電気めっきを順次施すことを特徴とするニッケル-クロムめっき製品の製造方法。」

(甲1-6b)「【0002】
【従来の技術】従来から、自動車部品等の装飾めっきとして、ニッケル-クロムめっきが行なわれているが、その耐食性を改善する方法として、マイクロポーラスクロムめっきが広く採用されている。このマイクロポーラスクロムめっき方法は、クロムめっき層表面に肉眼には見えないほどの微小孔を多数形成し、腐食電流を効果的に分散する方法であり、そのため、耐食性に優れている。 マイクロポーラスクロムめっき方法においては、微小孔の数が増えるに従い耐食性も増すが、十分な耐食性のためには、その数が10000個/cm^(2)程度以上であることが望ましい。」

(甲1-6c)「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記したようなめっき層内の腐食を防止すべく、下地ニッケルとして2層ニッケルめっきを採用したマイクロポーラスクロムめっきについてめっき層内の腐食の発生、進行機構から検討を行なった。そしてその結果、半光沢ニッケルめっき層、光沢ニッケル層および共析ニッケルめっき層の電位を一定の関係に保つことにより得られたニッケル-クロムめっき製品は、素材が有効に防食されるとともにめっき層内の腐食も極めて遅くなることを見出し、本発明を完成した。」

(甲1-6d)「【0029】
クロムめっき浴:
無水クロム液(CrO_(3)) 240 g/l
硫酸 (H_(2)SO_(4)) 1 g/l
添加剤 クロミライトKC-40^(*) 4 g/l
浴温 45℃
(注)上記めっき浴組成中、^(*) が付されているものは荏原ユージライト株式会社製製品である。」

7 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲1-7には以下の事項が記載されている。
(甲1-7a)「【請求項1】 第一ニッケルめっき層と、該第一ニッケルめっき層上に形成した第二ニッケルめっき層と、第二ニッケルめっき層上に形成したクロムめっき層とを含む装飾クロムめっき皮膜において、第一ニッケルめっき層の腐食電位を基準としたときの第二ニッケルめっき層の腐食電位を10mV以上とすることを特徴とする装飾クロムめっき皮膜。
【請求項2】 第一ニッケルめっき層と、該第一ニッケルめっき層上に形成した第二ニッケルめっき層と、第二ニッケルめっき層上に形成したクロムめっき層とを含む装飾クロムめっき皮膜の形成方法において、第二ニッケルめっき層形成用のめっき浴に添加する二次光沢剤の量を、第一ニッケルめっき層形成用のめっき浴に添加する二次光沢剤の量より多くしたことを特徴とする装飾クロムめっき皮膜の形成方法。」

(甲1-7b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、合成樹脂基材、金属基材、無機基材等の表面に形成される装飾クロムめっき皮膜とそのめっき方法に関するものである。」

(甲1-7c)「【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明では、第一ニッケルめっき層(例えば光沢ニッケルめっき層)と、該第一ニッケルめっき層上に形成した第二ニッケルめっき層(例えば分散ストライクニッケルめっき層あるいは高応力ストライクニッケルめっき層)と、第二ニッケルめっき層上に形成したクロムめっき層とを含む装飾クロムめっき皮膜(例えばマイクロポーラスクロムめっき皮膜あるいはマイクロクラッククロムめっき皮膜)及びその形成方法において、特にこれらの例示の場合、次のような手段をとった。」

(甲1-7d)「【0019】さらに、光沢ニッケルめっき層の腐食電位を基準としたときの分散ストライクニッケルめっき層あるいは高応力ストライクニッケルめっき層の腐食電位を10mV以上としたので、たとえ光沢ニッケルめっき層が長時間かかって腐食したとしても、分散ストライクニッケルめっき層あるいは高応力ストライクニッケルめっき層はあまり腐食しないで残る。この残った分散ストライクニッケルめっき層あるいは高応力ストライクニッケルめっき層はクロムめっき層を直接支え続けるので、クロムめっき層の脱離が防止又は延期される。
【0020】また、請求項2又は3記載の本発明によれば、分散ストライクニッケルめっき層あるいは高応力ストライクニッケルめっき層形成用のめっき浴に添加する二次光沢剤の量を、光沢ニッケルめっき層形成用のめっき浴に添加する二次光沢剤の量より多くするか、又は、分散ストライクニッケルめっき層あるいは高応力ストライクニッケルめっき層形成用のめっき浴の温度を、光沢ニッケルめっき層形成用のめっき浴の温度より高くするという簡単な手段により、前記分散ストライクニッケルめっき層あるいは高応力ストライクニッケルめっき層の腐食電位を10mV以上とすることができる。」

(甲1-7e)「【0021】
【試験例】次に、本発明を検証するために行った試験例について、図1?図10を参照して説明する。図1等に示すように、寸法100mm×75mm×3mmのABS樹脂基材1の表面に、半光沢ニッケルめっき層2、光沢ニッケルめっき層3、分散ストライクニッケルめっき層4及びクロムめっき層5を順に積層してなるマイクロポーラスクロムめっき皮膜6を形成し、試験片とした。各層の形成方法は次の通りである。」

(甲1-7f)「【0025】



(甲1-7g)「【0027】図7は、分散ストライクニッケルめっき層4の形成時において、めっき浴温度を55度(光沢ニッケルめっき層3の形成時と同じ)とする一方、二次光沢剤の添加量を0?3g/lと変えた場合の、分散ストライクニッケルめっき層4の腐食電位を示すものである。同図より、二次光沢剤の添加量をわずかに増加しただけで該腐食電位は高くなることが判る。」

(甲1-7h)「【0030】図9は、分散ストライクニッケルめっき層4の腐食電位と試験時間との関係を示すものである。同図より、この腐食電位が0mVの場合に対し、腐食電位が10mV以上になると、試験時間が1.5倍以上に延び、耐久性が顕著に向上していることが判る。」

(甲1-7i)「【図1】



(甲1-7j)「【図7】



(甲1-7k)「【図9】



8 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲1-8には以下の事項が記載されている。
(甲1-8a) 「最終的ニッケルメツキ物またはニッケル-コバルト合金メツキ物に適用するクロムは、常法的クロムメツキ物で良い。上記の常法的クロムメツキ物は、硫酸塩触媒、硫酸塩-フツ化ケイ素酸塩混合物、他のフツ化物含有の混合触媒、又は有機酸触媒含有のクロム酸浴を使用して得られる。上記の浴を使用すると、亀裂は生じないか、生じたとしても微小亀裂である。3価クロム浴並びに6価クロム浴を使用して、メツキすることができる。」(2頁4欄23?31行)

9 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲1-9には以下の事項が記載されている。
(甲1-9a)「[0002] More especially, the invention concerns the corrosion resistance of chromium finishes and how this can be improved at least for certain types of plating solutions giving benefits for the manufacture of articles having a decorative and protective chromium finish.」
(当審訳:[0002] より詳細には、本発明は、クロム仕上げの耐腐食性に関し、また、クロム仕上げの耐性が、装飾的及び保護的なクロム仕上げを有する物品の製造に利益をもたらす特定の種類のめっき溶液によって、どのように改善され得るかに関する。)

(甲1-9b)「[0009] Chromium has two stable valency configurations,the hexavalent state and the trivalent state. Traditionally, metallic chromium deposits are obtained using plating solutions of hexavalent chromium. The reason for this is that the majority of decorative deposits obtained from plating solutions of hexavalent chromium are non porous continuous films which prevent the corrosion reactions taking place unless there is a fault in the chromium deposit either as formed or resulting from damage or wear in use so as to expose the underlying nickel.
[0010] In contrast, the deposits from the plating solutions of trivalent chromium are microporous films with holes through to the surface of the nickel underlayer. These holes are invisible to the naked eyebut the nickel underlayer is exposed allowing the corrosion reactions to take place.
[0011] The known plating solutions of hexavalent chromium are typically based on the compound chromic oxide (CrO_(3)). When dissolved in water, this forms chromic acid which is a strongly acidic,oxidising solution that has been found to be carcinogenic. Plating processes using these solutions therefore present a serious health and safety hazard to the people using them and a pollution risk to the environment.
[0012] The trivalent state is known to be comparatively benign and plating solutions of trivalent chromium are less aggressive. The use of plating solutions of trivalent chromium is therefore desirable to reduce the health and safety risks to the people using them and the pollution risk to the environment but to date has not been widely adopted because of increased chemical control required to maintain them at optimum operating conditions. 」
(当審訳:[0009] クロムは、6価状態と3価状態の2つの安定な原子価構成を有する。伝統的に、金属クロム堆積物は、6価クロムのめっき溶液を用いて得られる。その理由は、形成段階で、或いは、使用中の損傷又は磨耗のいずれかによるクロム堆積物の欠陥によりその下のニッケルが露出されない限り、6価クロムのめっき溶液から得られる装飾的堆積物の大部分は、腐食反応を防止する非多孔質連続膜からなるためである。
[0010] 対照的に、3価クロムのめっき溶液からの堆積物は、ニッケル下地層の表面に貫通する穴を有する微孔質膜である。これらの穴は裸眼では見えないが、ニッケル下地層が露出して腐食反応が起こる。
[0011] 6価クロムの既知のめっき溶液は、典型的には、化合物クロミック酸化物(CrO_(3))に基づく。水に溶解すると、これは、発ガン性であることが判明した強酸性の酸化性の溶液であるクロム酸を生成する。従って、これらの溶液を使用するめっきプロセスは、それらを使用する人々に重大な健康および安全上の危険、及び環境に対する汚染リスクをもたらす。
[0012] 3価の状態は比較的良性であることが知られており、3価のクロムのめっき溶液はあまり攻撃的ではない。従って、3価クロムのめっき溶液を使用することは、それらを使用する人々の健康および安全性リスクおよび環境に対する汚染リスクを低減するために望ましいが、最適な操作条件でそれらを維持するのに必要な化学的制御の負荷増加のため、今日まで3価クロムのめっき溶液を使用は広く採用されていない。)

(甲1-9c)「[0058] In the current vs potential plots, the lower the anodic potential at which the line rises above the X-axis the sooner the onset of corrosion. The lower the potential at which the tests stop the lower the corrosion resistance of the sample. The current flow becomes Faradaic and the chemical changes at the surface are permanent.
[0059] Figure 1 compares the corrosion resistance of hexavalent (sample A) and trivalent (sample B) deposits of chromium over bright nickel. It can be seen that the trivalent system (sample B) is less corrosion resistant than the hexavalent system (sample A) .」
(当審訳:[0058] 電流に対する電位のプロットにおいて、X軸の上側にラインが上昇してアノードの電位が低くなるほど、腐食の開始が早くなる。テストが終了してその電位が低くなるほど、サンプルの腐食耐性が低くなる。電流はファラディックになり、表面の化学変化は永続的である。
[0059」 図1では、光沢ニッケルの上の6価クロム堆積物(サンプルA)と3価クロム堆積物(サンプルB)の耐食性が比較されている。3価クロム堆積物(サンプルB)は6価クロム堆積物(サンプルA)よりも低い耐食性であることが分かる。)

10 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲1-10には以下の事項が記載されている。
(甲1-10a)「

」(1欄13?28行)
(当審訳:概要
改善された耐食性は、クロム層に微細孔を形成するように固体粒子状物質の衝突によって表面クロム層を処理することにより得られるニッケル上にクロムめっきされた装飾的クロムめっき物品をもたらす。これらの微細孔は、前記クロム層を貫通して下地のニッケル層まで延在する。粒子の種類、粒子のサイズ、粒子の密度、及び衝突時の運動量に応じて、1平方インチ当たりの微細孔の数は、装飾的クロムめっき物品の場合、3,000を超え、好ましくは40,000?200,000/平方インチの範囲にあるべきである。同様に、複数のニッケルコーティングを使用することができ、銅などの他の下地金属層を、基板と前記ニッケル及びクロム表面層との間に配置することができる。)

(甲1-10b) 「

」(1欄53行?2欄11行)
(当審訳:その後、クロムは、前記粒子含有ニッケル層上に電着される。ニッケル層中の粒子は、クロム層の電着中に電流の流れを妨げ、結果として、微孔質クロム堆積物が形成される。米国特許第3,449,223号明細書は、下に粒子フリーの明るいニッケル層を必要とせずに、基板上に直接めっきされた粒子含有光沢ニッケル層を必要とする同様のプロセスを開示している。
出願人は、最終的なクロム層が物品に電着された後にクロム表面に微細孔を形成することによって、装飾的めっきクロム物体において耐腐食性の同様な改善が得られることを発見した。微細孔を形成するのに十分な力で十分な硬さの粒状材料をクロムの表面に衝突させることによって、微細孔はクロム表面に形成される。
種々の粒状材料が、前述の方法において成功して使用されている。前記粒状材料としては、ラウンドオタワ砂(23-25メッシュ)、ギザギザの砂(32-34メッシュ)、鉛粉、ポリエチレンペレット1/8×1/16×1/6インチ(Goodrich Geon Vinyl #8814白)、マグネシウム充填材、ガラスビーズ(Blastolite BLXN-16 General Steel Industries、ミズーリ州セントルイス)、ポリスチレンペレット(直径:0.05インチ)、鉄粉末、ニッケル粉末、及び粉末シリカ(320メッシュ)が含まれる。微細孔の形成において少なくとも前記クロム表面を傷つけるほどのクロム表面への衝撃に耐えるのに十分な硬度を有するのであれば、任意の固体粒状材料が本発明の実施において有用であろう。)

11 本件特許に係る出願の出願日前に公知となった甲1-11には以下の事項が記載されている。
(甲1-11a)「[0055]これらの図より、三価クロムめっき液を用いて形成されたクロムめっき層は、実質的に非晶質構造を有しているのに対して、六価クロムを用いたクロムめっき層は、多結晶からなる結晶構造を有しているのがわかる。めっき層が結晶構造か非結晶構造であるかは、例えば、約40?50θの回折角付近に、(半値幅/ピーク高さ)が約0.001rad/cps以下の回折ピークが観測されるかどうかによって判別することができる。」

(甲1-11b)「[0069] エンジン用部品がこのような構造を備えることによって、三価クロムめっき液を用いて、六価クロムめっき液から形成しためっき層と同程度の良好な成膜特性を有し、耐熱性に優れたクロムめっき層を得ることができる。また、クロムめっき層中のホウ素の含有量を0.1質量%以下にし、鉄の含有量を2質量%以下にすることによって、六価クロムめっき液から形成されるクロムめっき層と同程度の銀白色の色調を得ることができる。」

(甲1-11c)「[0124][表2]



12 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲2-1には以下の事項が記載されている。
(甲2-1a)「

」(29頁左欄下から4行?右欄10行)
(当審訳:塩化カルシウム腐食
3価クロムめっきは、「ロシアマッド」と呼ばれる塩化カルシウムへの対応で有利であることが示されている。6価クロムを使用した腐食しためっき試料では、クロム層が攻撃されると思われる。クロム層は通常カソードとして働くため、この結果は異常である。この腐食のメカニズムは、ガルバニ電位差よりむしろ、下地のニッケルめっきよりもクロムめっきの方が溶解しやすいことである。酸化反応によってクロムが化学的に溶解する。塩化カルシウム泥は、クロム表面に接触し続ける。時間の経過とともに、塩化カルシウムは次式により炭酸ガスを吸収し、その結果pHが低下する。


この酸性環境が空気中の酸素を溶解してクロムめっき層を溶解する。



(この腐食環境においては)6価クロム浴からよりも3価クロム浴からのクロムめっきの方が耐食性に優れる。そのメカニズムについては現在調査中である。)

(甲2-1b)「

」(29頁右欄11行?30頁左欄7行)
(当審訳:CASSテストの実行
第三世代の3価クロムめっきシステムの耐食性を評価するために、テスト用めっき部品について、ISO17025認定施設において、24,28および72時間のCASSテストを行った。24,48および72時間後に、キャビネットからテスト用めっき部品の各セットを取り出した。テスト用めっき部品をASTM B537(Standard Practice for Rating of Electroplated Panels Subject to Atmospheric Exposure)に従って評価した。ばらつきを最小にするために、テスト用めっき部品はすべて同一設備、同一の前処理プロセス、同一めっき槽を用いた同一ラインで処理した。テストのマトリクスを表2にまとめた。)

(甲2-1c)「

」(29頁)
(当審訳:

)

(甲2-1d)「

」(30頁左欄下から14行?右欄2行)
(当審訳:サイクルCとDは3重ニッケルめっきと3価クロムめっきをしているが、最後のニッケル層が異なる。サイクルCでは半光沢、光沢及び貴ニッケルの組合せであるが、サイクルDでは半光沢、光沢及びポーラスニッケルの組合せである。貴ニッケルめっきは、マイクロポーラス浴から固形粒子を除いた浴からめっきしたものである。サイクルCとDを比較すると、マイクロポーラスニッケルの方が明らかに優れた防食性を示す。サイクルDとEは、同じ3重ニッケル(半光沢、光沢、マイクロポーラス)を使用し、クロムめっきのみが異なる。サイクルDは3価クロムめっきであるのに対し、サイクルEは6価クロムめっきである。サイクルDとサイクルEの比較から、CASS試験における3価クロムめっきと6価クロムめっきには有意差が認められない。
貴ニッケルめっきはマイクロポーラスニッケルめっきに比べて、他のすべての層が同一であっても、3価クロム及び6価クロムのいずれの場合も耐食性が劣る。マイクロポーラスニッケルによって生成する活性部位がないと、CASS試験に適用した際に、3価クロム及び6価クロムのいずれでもめっき層に重大な劣化が生じる。これは第三世代プロセスによる孔不含クロムめっきが、6価クロムめっきとより似ているためである。3価クロムめっきと6価クロムめっきには、貴ニッケルめっき層、マイクロポーラスニッケル層とも有意差は認められなかった。)

13 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲2-2には以下の事項が記載されている。
(甲2-2a)「

」(20頁3行?下から7行)

(甲2-2b)「

」(21頁下から3行?22頁9行)

(甲2-2c)「

」(22頁10行?24頁17行)

(甲2-2d)「

」(26頁1行?27頁下から7行)

14 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲2-3には以下の事項が記載されている。
(甲2-3a)「

」(91頁左欄8?13行)

(甲2-3b)「

」(91頁右欄7行?97頁右欄最下行)

15 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲2-4には以下の事項が記載されている。
(甲2-4a)「【請求項1】 被めっき製品素地を、実質的に硫黄を含まない半光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき皮膜に対し100?170mV卑な電気化学的電位を有する光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき皮膜に対し60?120mV卑であり、かつ上記光沢ニッケルめっき皮膜に対し10?60mV貴な電気化学的電位を有する非電導性微粒子共析ニッケルめっき層、クロムめっき皮膜で順次被覆されたことを特徴とするニッケル-クロムめっき製品。
【請求項2】 被めっき製品素地が銅めっきされたものである請求項第1項記載のニッケルクロムめっき製品。
【請求項3】 被めっき製品に、実質的に硫黄を含まない半光沢ニッケルめっき層を形成する電気めっき、半光沢ニッケルめっき皮膜に対し100?170mV卑な電気化学的電位を有する光沢ニッケルめっき層を形成する電気めっき、前記半光沢ニッケルめっき皮膜に対し60?120mV卑であり、かつ上記光沢ニッケルめっき皮膜に対し10?60mV貴な電気化学的電位を有する非電導性微粒子共析ニッケルめっき層を形成する電気めっき、クロムめっき皮膜を形成する電気めっきを順次施すことを特徴とするニッケル-クロムめっき製品の製造方法。」

(甲2-4b)「【0002】
【従来の技術】従来から、自動車部品等の装飾めっきとして、ニッケル-クロムめっきが行なわれているが、その耐食性を改善する方法として、マイクロポーラスクロムめっきが広く採用されている。このマイクロポーラスクロムめっき方法は、クロムめっき層表面に肉眼には見えないほどの微小孔を多数形成し、腐食電流を効果的に分散する方法であり、そのため、耐食性に優れている。 マイクロポーラスクロムめっき方法においては、微小孔の数が増えるに従い耐食性も増すが、十分な耐食性のためには、その数が10000個/cm^(2)程度以上であることが望ましい。
【0003】一般に、マイクロポーラスクロムめっき方法は、めっき素材に予め下地ニッケルめっきを施した後、非電導性微粒子、例えばSiO_(2)、TiO_(2)等を分散、懸濁させたニッケルめっき浴中で非電導性微粒子共析ニッケル(以下、「共析ニッケル」という)めっきを行い、次いでクロムめっきを行うことで得られる。」

(甲2-4c)「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記したようなめっき層内の腐食を防止すべく、下地ニッケルとして2層ニッケルめっきを採用したマイクロポーラスクロムめっきについてめっき層内の腐食の発生、進行機構から検討を行なった。そしてその結果、半光沢ニッケルめっき層、光沢ニッケル層および共析ニッケルめっき層の電位を一定の関係に保つことにより得られたニッケル-クロムめっき製品は、素材が有効に防食されるとともにめっき層内の腐食も極めて遅くなることを見出し、本発明を完成した。」

(甲2-4d)「【0020】公知の光沢ニッケルめっきや共析ニッケルめっき浴を用いる場合、それらのニッケル皮膜の電位を貴に調整するための手段の例としては、次のような方法が挙げられる。
【0021】(1)ブチンジオール、ヘキシンジオール、プロパギルアルコール、アリルスルホン酸ナトリウム等の光沢ニッケルめっき用2次光沢剤として公知の薬剤のめっき浴への添加、または補充。
(2)ホルマリン、抱水クロラール等の半光沢ニッケルめっき用の光沢剤として公知の薬剤のめっき浴への添加、又は補充。
(3)めっき浴温の上昇。」

(甲2-4e)「【0024】
【発明の効果】本発明のニッケル-クロムめっき製品は、各ニッケルめっき層の電気化学的電位が一定の範囲に制御されており、腐食電流を光沢ニッケル層および共析ニッケル層内でうまく分散することができるので、従来の方法で得られた同種ニッケル-クロム製品と比べ、めっき層内の腐食が外観に現われにくく、長期間にわたり美麗な外観を保つことができるので、工業的に極めて有用なものである。」

(甲2-4f)「【0029】
クロムめっき浴:
無水クロム液(CrO_(3)) 240 g/l
硫酸 (H_(2)SO_(4)) 1 g/l
添加剤 クロミライトKC-40^(*) 4 g/l
浴温 45℃
(注)上記めっき浴組成中、^(*) が付されているものは荏原ユージライト株式会社製製品である。」

(甲2-4g)「【0031】実 施 例 1
下記の条件を代える以外は、すべて上記使用材料、めっき条件に従いめっきを行った。 なお、比較として、すべて上記使用材料、めっき条件に従っためっきも行った(比較例1;従来の標準的工程)。
(1)光沢基本ニッケルめっき浴に、ベンゼンスルフィン酸ナトリウムを8mg/l添加した。
(2)共析ニッケル基本めっき浴の浴温を60℃に上げ、アリルスルホン酸ナトリウムを1.5g/l添加した。
【0032】実 施 例 2
下記の条件を代える以外は、すべて上記使用材料、めっき条件に従いめっきを行った。
(1)光沢ニッケル基本めっき浴にベンゼンスルフィン酸ナトリウムを15mg/l添加した。
(2)共析ニッケル基本めっき浴の浴温を60℃に上げ、アリルスルホン酸ナトリウムを1g/l添加した。
【0033】実 施 例 3
下記の条件を代える以外は、すべて上記使用材料、めっき条件に従いめっきを行った。
(1)光沢ニッケル基本めっき浴にベンゼンスルフィン酸ナトリウムを15mg/l添加した。
(2)共析ニッケル基本めっき浴にアリルスルホン酸ナトリウムを0.4g/l添加した。
【0034】実 施 例 4
下記の条件を代える以外は、すべて上記使用材料、めっき条件に従いめっきを行った。
(1)光沢ニッケル基本めっき浴にベンゼンスルフィン酸ナトリウムを25mg/l添加した。
(2)共析ニッケル基本めっき浴にアリルスルホン酸ナトリウムを1g/l添加した。
【0035】実 施 例 5
下記の条件を代える以外は、すべて上記使用材料、めっき条件に従いめっきを行った。
(1)光沢ニッケル基本めっき浴にベンゼンスルフィン酸ナトリウムを50mg/l添加した。
(2)共析ニッケル基本めっき浴にアリルスルホン酸ナトリウムを1g/l添加した。」(当審注:丸数字は(1)等と表記した。)

(甲2-4h)「【0037】試 験 例
以上の実施例および比較例から得られためっき被膜の各ニッケルめっき層の電位を測定するとともに、JIS-D0201付属書2のキャス試験で耐食性を比較した。 なお、各ニッケルめっき層間の電位差の測定は、(株)中央製作所製、電解式めっき厚さ測定器及び多層ニッケルめっき耐食性測定器を用いて行なった。 各ニッケルめっきの電位を表1に、耐食性試験の結果を表2に示す。
【0038】

^(*)ニッケルめっき被膜電位は、半光沢ニッケルめっき被膜の電位を0mVとして表した。
【0039】

^(**)レイティングナンバーは、めっき表面の腐食程度を示すサーフェイスレイテイングナンバーで表した。 表面に腐食が全く見られない場合、レイティングナンバーは10となる。
【0040】この結果から明らかなように、各ニッケル被膜間の電位差が一定の範囲にあるもののみが優れた耐食性を示した。」

16 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲2-5には以下の事項が記載されている。
(甲2-5a)「

」(20頁右欄14?27行)

(甲2-5b)「

」(22頁右欄下から4?3行)

(甲2-5c)「

」(23頁左欄2?7行)

(甲2-5d)「

」(23頁左欄下から7?3行)

(甲2-5e)「

」(23頁右欄)

17 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲2-6には以下の事項が記載されている。
(甲2-6a)「1 本質的に(a)0.1?1.2モルの3価クロム、(b)0.01モルないし飽和までの臭化物、(c)3価クロムに基いて0.5:1?3:1のモル比のギ酸塩および酢酸塩の両方または一方、(d)0.1モルないし飽和までのアンモニウム、(e)0.1モルないし飽和までのホウ酸塩、(f)1?4のpHを与えるのに充分な水素イオンを含有することを特徴とするクロム電気メツキ用水溶液。」(1頁1欄26?33行)

(甲2-6b) 「J.共電着金属
これらはクロム合金をメツキしようとするときに存在する、浴の任意成分である。これらの例には鉄、コバルト、ニツケル、マンガンおよびタングステンが含まれる。これらはメツキしようとする合金の所望の組成に応じてゼロから飽和までの任意の量で浴中に存在できる。これらは可溶性塩化物または硫酸塩として通常導入できる。」(4頁7欄36?43行)

(甲2-6c)「クロムの特に便利な形は塩基性硫酸クロムであり、これはクロム皮なめし液として商業的に入手できる。例えば重クロム酸ナトリウムを二酸化イオウによつて還元して得た33%塩基性硫酸クロムは普通の市販品であり、この発明の特別の利点はこのような比較的安価な且つ容易に入手できるクロム給源を使用できることである。」(5頁9欄20?26行)

(甲2-6d)「例 1
下記の成分を水に溶かし、得られた溶液を1lに希釈することによつて溶液を造つた。

モル量

塩化第二 150g/lのCr 0.4 Cr
クロム 含有溶液140ml

ギ酸カリ 80g 1.0 HCOO-
ウム

臭化アン 10g 0.1 Br
モニウム

モル量

塩化カリ 76g 1.0 Kcl
ウム

ホウ酸 40g 0.66H_(3)BO_(3)

塩化アン 54g 1.0 NH_(4)Cl
モニウム

潤滑剤 1ml」(5頁10欄33行?6頁11欄8行)

(甲2-6e)「例 4
塩化第一鉄(FeCl_(2)・4H_(2)O)14gを添加することによつて例1に記載の溶液から鉄を含有する溶液を造つた。ハル・セルで行つた同様なメツキ溶液はpH3.5で10-800ASFのメツキ範囲をもつ電着物を与えた。電着物は40?60%のFe+60?40%のCrを含有し、且つ空気中で不銹性の鉄クロム合金であつた。」(7頁13欄29行?14欄13行)

18 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲2-7には以下の事項が記載されている。
(甲2-7a)「【請求項1】 導電性素地に、所要の金属下地層を電気めっきで形成させたのち、ニッケル供給源、リン供給源及びアニオン系又はノニオン系界面活性剤を含有するニッケル・リン合金めっき浴組成に非金属不活性微粒子を添加して調製した電解液中において電解めっきを行って厚さ0.15?20μmの非金属不活性微粒子を分散含有するニッケル・リン合金めっき層を形成させ、次いでその上に厚さ0.01?0.5μmのクロムめっき被覆を施すことを特徴とするマイクロポーラスクロムめっき製品の製造方法。」

(甲2-7b)「【0004】このような欠点を改良するために、図1の(b)に示すように、非金属不活性微粒子を分散したニッケルめっき浴でめっきを行い、その微粒子をニッケルめっき層中に析出させて複合ニッケルめっき層としたのち、その上にクロムめっきを施してクロムめっき層に多数の微孔を形成させることにより陽極の面積を増大させて腐食電流密度を小さくし、耐食性を向上させる方法、いわゆるマイクロポーラスクロムめっき法が知られている。この方法においては下地層として設けるニッケルめっき層を光沢ニッケル層の単層又は、光沢ニッケル層と半光沢ニッケル層の複層とすることが行われている。」

(甲2-7c)「【0012】これらの導電性素地の上に設けられる金属電気めっき下地層としては、通常のマイクロポーラスクロムめっき製品の場合と同じく、光沢ニッケルめっき層と半光沢ニッケルめっき層との組合せが一般的に用いられる。」

(甲2-7d)「【0019】本発明方法で形成されるニッケル・リン合金めっき層中のリン含有量は3?19重量%の範囲が好ましい。この量が3重量%未満では光沢めっきが得られにくく装飾的価値が低下するし、また19重量%を超えると光沢が低下するとともに、陰極電流効率が低下し、所要のめっき厚を得るのに長時間を要することになる。そして、前記した光沢ニッケル層に対するニッケル・リン合金めっき層電気化学的電位は、そのリン含有量3?19重量%の範囲で140?1150mV貴な値を示す。」

(甲2-7e)「【0021】このニッケル・リンめっき浴に添加される非金属不活性微粒子としては、現在工業的に広く行われているマイクロポーラスクロムに添加される微粒子、すなわち酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウムなどをそのまま使用することができる。」

19 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された参考文献1には以下の事項が記載されている。
(参考1a)「

」(156?157頁)

(参考1b)「

」(166頁)

20 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された参考文献2には以下の事項が記載されている。
(参考2a)「

」(32頁)



第7 令和1年5月8日付け取消理油通知(決定の予告)に記載した取消理
由についての当審の判断
当審は、令和1年8月9日に特許権者らが提出した意見書及び訂正の請求に係る訂正の内容について、同年10月9日及び10日に申立人2及び1が提出した意見書を踏まえて検討した結果、当審による令和1年5月8日付け取消理油通知(決定の予告)に記載した取消理由(上記第5の3(1)及び(2))は解消したと判断したところ、その理由は以下のとおりである。

1 サポート要件について
(1)サポート要件の判断について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件発明が解決しようとする課題
本件特許明細書の【0009】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、「通常の環境及び特異的な環境における耐食性を有し、さらにクロムめっき後の追加処理が不要なクロムめっき部品及びその製造方法を提供する」ことである。
ここで、上記「特異的な環境」とは、同【0004】?【0005】の記載によれば、「高濃度の塩化物イオンが付着した場合や、暖房の効いた車庫と、氷点下に達するような外気環境との間を交互に行き来するといった冷熱サイクルがある環境」のことである。

(3)本件課題が解決できると認識できる範囲のものとして、発明の詳細な
説明に記載された発明
a 本件明細書等の発明の詳細な説明の【発明を実施するための形態】には、以下の記載がある。

「【0020】
そして、本実施形態のクロムめっき部品1は、素地2と、素地2上に形成された光沢ニッケルめっき層5bと、光沢ニッケルめっき層5b上に接して形成され、光沢ニッケルめっき層5bとの電位差が40mV以上150mV以下である貴電位ニッケルめっき層5aと、貴電位ニッケルめっき層5aの上に接して形成された3価クロムめっき層6と、を備えている。前記光沢ニッケルめっき層5b、貴電位ニッケルめっき層5a及び3価クロムめっき層6は素地2上に形成され、複数の金属めっき層よりなる全めっき層3に含まれる。
【0021】
光沢ニッケルめっき層5bと貴電位ニッケルめっき層5aとの間の電位差を40mV以上150mV以下とすることにより、貴電位ニッケルめっき層5aに対して光沢ニッケルめっき層5bの電位を卑にする。これにより光沢ニッケルめっき層5bの犠牲腐食効果を増大させ、通常環境だけでなく、特異的な環境における腐食に対する耐食性を向上させることができる。電位差を40mVより小さくすると、光沢ニッケルめっき層5bの犠牲腐食効果が弱まってしまい、クロムめっき工程の後に、何らかの後処理を施さなければ、通常環境における高い耐食性を保てなくなる場合がある。
【0022】
本実施形態では、光沢ニッケルめっき層5bと貴電位ニッケルめっき層5aとの間の電位差を40mV以上150mV以下とすることを特徴としている。しかし、単にこれらの層の間の電位差を40mV以上としただけでは、膨れの原因となってしまう。特に電位差が60mV以上では、従来技術に記載されているように、膨れが生じやすくなる。そこで、本実施形態では、前記電位差に加え、クロムめっき層6として、価数が3価のクロムを還元してなる3価クロムめっき層を使用したことを特徴とする。3価クロムめっき層は、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している。これにより、下層のニッケルめっき層5の一部に腐食が集中せず、ニッケルめっき層5全体に腐食が分散できる。そのため、たとえ電位差を40mV以上、更には60mV以上にしようとも、膨れが生じるような局所集中型の腐食や膨れに伴う腐食が生じない。なお、前記電位差を40mV以上150mV以下とすることにより、各種塩害などによる腐食や膨れに対し、高い耐食性を発揮することが可能となるが、前記電位差を60mV以上120mV以下とすることにより、より高い耐食性を発揮することが可能となる。ただ、ニッケルめっき層5及びクロムめっき層6の性質に悪影響を与えない限り、電位差が150mVを超えても構わない。
【0023】
前記3価クロムめっき層6は、その表面6cに10000個/cm^(2)以上の微細孔を備えていることが好ましく、50000個/cm^(2)以上の微細孔を備えていることがより好ましい。前述のように、従来技術では光沢ニッケルめっき層5bと貴電位ニッケルめっき層5aとの間の電位差を60mV以上とすることによって、膨れが発生しやすくなるという欠点があった。しかし、本実施形態では、3価クロムめっき層6自体が有している、非常に微細かつ多数のマイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造による微細孔を有効活用することにより、従来技術における欠点を克服することが可能となる。
【0024】
さらに、前記3価クロムめっき層6は、結晶状態ではない非晶質であることが好ましい。非晶質であることにより、腐食起点となり得るめっき欠陥を著しく減らすことが可能となる。」

b 上記記載によれば、素地と、素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、光沢ニッケルめっき層上に接して形成され、光沢ニッケルめっき層との電位差が40mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層と、貴電位ニッケルめっき層上に接して形成され、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している3価クロムめっき層とを備え、3価クロムめっき層は10000個/cm^(2)以上の微細孔を有し、3価クロムめっき層は非晶質であるクロムめっき部品は、(i)光沢ニッケルめっき層と貴電位ニッケルめっき層との間の電位差を40mV以上150mV以下とすることにより、光沢ニッケルめっき層の犠牲腐食効果を増大させ、(ii)10000個/cm^(2)以上の微細孔であるマイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有する3価クロムめっき層により、下層のニッケルめっき層の一部に腐食が集中せず、ニッケルめっき層全体に腐食が分散でき、(iii)3価クロムめっき層が非晶質であることにより、腐食起点となり得るめっき欠陥を著しく減らす、という(i)?(iii)の作用機序により、通常環境だけでなく、特異的な環境における腐食に対する耐食性を向上させることができるとともに、膨れが生じるような局所集中型の腐食や膨れに伴う腐食が生じず、膨れが発生するのを防止するという効果を奏することによって、本件課題が解決できるものと理解することができる。

(4)炭素及び酸素の含有(取消理由1b)について
a 本件明細書等における【表1】の実施例1?8からみれば、クロムめっき部品の3価クロムめっき層は、酸素を7?16at%、炭素を4.0?16at%の範囲で含有しているものであるから、本件課題を解決できることが実施例によって具体的に示されているのは、クロムめっき部品の3価クロムめっき層が酸素及び炭素を上記範囲で含有するものであるということになる。

b ここで、本件発明1?5、7、9及び10において、3価クロムめっき層は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するとして、炭素及び酸素含有量の下限のみが特定され、上限は特定されていないことについて、以下に検討する。

c 本件明細書等の【0026】には、「炭素(C)、酸素(O)及び窒素(N)など、金属と非金属の中間の性質を持つメタロイド元素をクロムめっき層6中に共析させることにより、クロムめっき層6の非晶化度合が増加する。これにより、腐食起点となり得るめっき欠陥を著しく減らすことが可能となる。さらに、メタロイド元素を添加することにより、クロムめっき層6を貴電位化することになり、塩化カルシウムに対する耐食性を向上させることが可能になる。」という作用機序が記載されており、この作用機序に基づけば、炭素及び酸素の含有量を増やすと、非晶化度合の増加やクロムめっき層の貴電位化が進むことになるといえるから、上記(3)bにおける「本件課題が解決できると認識できる範囲のものとして、発明の詳細な説明に記載された発明」よりもさらに耐食性を向上させることができるといえるし、炭素及び酸素の含有量が増えることによって耐食性が低下するという技術常識も認められないから、炭素及び酸素の含有量の上限が特定されないことによって、本件課題を解決することができなくなるということはできない。

d 特許権者らは、下記記載を有する乙第1号証(菅原宗一郎、八重樫英明、「装飾用クロムめっきの融雪剤による特異的腐食機構の一考察とその防食方法」、自動車技術会論文集、Vol.40、No.5、September2009)を提出し、「炭素及び酸素の含有量が所定量より多くなると耐食性が向上し、さらに炭素及び酸素の含有量を増やすとクラスターがさらに緻密になって耐食性がさらに向上する」ものであって、クロムめっき層に、本件特許明細書の【表1】の実施例で示された量を超えて炭素及び酸素が含まれた場合に、本件課題が解決できなくなるという事実はないことを主張している。




」(1306頁右欄5行?1308頁3行)

しかしながら、乙第1号証により裏付けるまでもなく、3価クロムめっき層における炭素及び酸素の含有量に上限がなくても、本件課題を解決することができなくなるとまでいえないことは、上記cのとおりである。

e 申立人2は、意見書2(3頁9行?4頁6行)において、乙第1号証は単なる技術論文の一つに過ぎず、技術常識を構成するものではないから、その記載内容を参照することはできない旨を主張するが、乙第1号証の参照の必要がないことは、上記dのとおりである。

f さらに申立人2は、意見書2(4頁下から2行?5頁31行)において、「鉄及び硫黄なしニッケルめっき層が存在しなくても、4.0at%付近の炭素及び7at%付近の酸素を含有しさえすれば、良好な耐食性が得られることを示す具体例は一切存在しない」から、「何らの根拠もなく、3価クロムめっき層が4.0at%以上の炭素及び7at%以上の酸素を含有することで、本件発明の課題を解決することができると主張しているに過ぎず、その理由がないことは明らかである」旨主張している。
しかしながら、酸素及び炭素を含有させることによる作用機序は上記cのとおりであって、それにより本件課題の解決に寄与することが理解できる上に、具体的な酸素並びに炭素の含有量の下限値が、本件明細書等の実施例8並びに同【0027】及び実施例4において示されている以上、申立人2の主張を採用することはできない。

g よって、3価クロムめっき層における炭素及び酸素の含有量の上限が特定されていないこと、並びに、炭素及び酸素の含有量が、それぞれ「4.0at%以上」及び「7at%以上」であることでは、本件課題を解決することができないとはいえない。

(5)鉄の含有(取消理由1c)について
a 本件明細書等における【表1】の実施例1?8からみれば、クロムめっき部品の3価クロムめっき層は、鉄を0.5?8at%の範囲で含有しているものであるから、本件課題を解決できることが実施例によって具体的に示されているのは、クロムめっき部品の3価クロムめっき層が鉄を上記範囲で含有するものであるということになる。

b ここで、本件発明1?3及び6?10は、3価クロムめっき層における鉄の含有について特定されていないことについて、以下に検討する。

c 3価クロムめっき層における鉄の含有について、本件明細書等には以下の記載がある。

「【0027】
さらに、前記3価クロムめっき層6は、0.5at%以上の鉄(Fe)及び4.0at%以上の炭素(C)の少なくともいずれか一方を含有することが好ましい。また、前記3価クロムめっき層6は、1at%以上20at%以下の鉄及び10at%以上20at%以下の炭素の少なくともいずれか一方を含有するが特に好ましい。鉄(Fe)は、クロムめっき処理浴中において、めっき付き廻り性を安定化させる効果を有する。さらに、鉄(Fe)は、クロムめっき層6の表面に生じる不働態皮膜6b(酸化皮膜)をより緻密にする効果を有する。」

「【0062】
・・・表1及び図2より、クロムめっき皮膜6a中に鉄が0.5?1.0at%含有し、さらに炭素が10?16at%含有している。このため、クロムめっき層6の表面に生じる不働態皮膜6bが緻密になり、耐食性が向上したものと考えられる。」

d 上記記載によれば、鉄の含有によりクロムめっき層の表面に生じる不働態皮膜(酸化皮膜)をより緻密にするという作用機序により、耐食性が向上するものであるところ、当該作用機序は、本件課題を解決するための上記(3)bの(i)?(iii)の作用機序とは異なるものであり、上記【0027】において、鉄の含有が「好ましい」とされていることからも、鉄の含有は、耐食性向上のための付加的な事項であると理解できる。
そして、以下に摘示するように、特許権者らが意見書とともに提出した実験成績証明書の参考例11によって、鉄を含有していなくても、本件課題が解決できるという本件明細書等に記載された事項が裏付けられているといえる。

「[表1]


(5頁)

e 申立人2は、意見書2(4頁24?40行)において、「参考例11では炭素の含有量が13?25at%、酸素の含有量が12?26at%であり、本件訂正発明1で規定する下限値の約3倍の量の炭素及び約2倍の量の酸素を含有しており、・・・上記乙第1号証の記載によれば、クラスターの微細化の程度及び酸化相の緻密さの程度は、メタロイド元素の添加量に比例するものであるところ、参考例11と比較して、炭素の量が3分の1かつ酸素の量が2分の1にまで減少すると、それに比例して、クラスターは粗大化し、酸化相も粗くなってしまうのであるから、・・・当業者は、このようにメタロイド元素である炭素及び酸素の添加量が不足して、クラスターの微細化及び酸化相の緻密さが不十分な場合には、酸化皮膜をより緻密にする効果を有する鉄を含有することが必要になると認識するものといえる」と主張している。
しかしながら、「クラスターの微細化の程度及び酸化相の緻密さの程度は、メタロイド元素の添加量に比例するものである」としても、「クラスターの微細化」及び「酸化相の緻密さ」の程度が、炭素や酸素の含有量の減少に正比例して3分の1や2分の1になるかどうかも、さらには、炭素や酸素の含有量の減少によって鉄の含有が必要となるかどうかも明らかでない。
したがって、申立人2の上記主張を採用することはできない。

f よって、3価クロムめっき層における鉄の含有について特定されていないことにより、本件課題を解決することができないとはいえない。

(6)硫黄なしニッケルめっき層(取消理由1e)について
a 本件明細書等の【0046】の記載によれば、実施例1?8におけるクロムめっき部品は、いずれも、光沢ニッケルめっき層の下に硫黄なしニッケルめっき層を設けたものであることから、本件課題を解決できることが実施例によって具体的に示されているのは、光沢ニッケルめっき層の下に硫黄なしニッケルめっき層を設けたクロムめっき部品であるということになる。

b ここで、本件訂正後の本件発明1?10は、硫黄なしニッケルめっき層について特定されていないことについて、以下に検討する。

c 硫黄なしニッケルめっき層について、本件明細書等には以下の記載がある。

「【0038】
ニッケルめっき層5の耐食性が向上するのは、光沢ニッケルめっき層5bと硫黄なしニッケルめっき層5cとを比較した場合、硫黄なしニッケルめっき層5cが貴電位シフトすることによる。光沢ニッケルめっき層5bと硫黄なしニッケルめっき層5cとの間の電位差のため、光沢ニッケルめっき層5bの横方向に腐食が進行し、硫黄なしニッケルめっき層5cへの方向、つまり深さ方向への腐食の進行が抑制される。よって、硫黄なしニッケルめっき層5c及び銅めっき層4へと腐食が進展して、めっき層3の剥がれなどの外観不良となって現れるまでの時間が延びることになる。」

d 上記記載によれば、光沢ニッケルめっき層と貴電位シフトする硫黄なしニッケルめっき層との間の電位差のため、光沢ニッケルめっき層の横方向に腐食が進行し、硫黄なしニッケルめっき層への方向、つまり深さ方向への腐食の進行が抑制されるという作用機序により、耐食性が向上するものであるところ、この作用機序は、本件課題を解決するための上記(3)bの(i)?(iii)の作用機序とは異なるものであるから、硫黄なしニッケルめっき層を有することは、耐食性向上のための付加的な事項であると理解できる。
そして、上記実験成績証明書の参考例11によって、硫黄なしニッケルめっき層を有していなくても、本件課題が解決できるという事項が裏付けられているといえる。

e なお、上記参考例11は、炭素の含有量が13?25at%、酸素の含有量が12?26at%であり、本件発明1で規定する下限値の約3倍の量の炭素及び約2倍の量の酸素を含有するものであるが、上記dのとおり、炭素及び酸素の含有と、硫黄なしニッケルめっき層を有することとによる耐食性向上のための作用機序は異なるものであるから、上記dの判断に影響するものではない。

f よって、硫黄なしニッケルめっき層について特定されていないことにより、本件課題を解決することができないとはいえない。

(7)サポート要件についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?10が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものを超えているということはできず、本件発明1?10は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

2 進歩性について
(1)取消理由2d(甲1-4を主引用例とした取消理由)について
ア 甲1-4に記載された発明
上記第6の4で摘示した(甲1-4a)?(甲1-4b)の記載によれば、甲1-4には、以下の発明が記載されていると認められる。

「ベースメタルと、
前記ベースメタル上に形成されたSF(サルファーフリー)半光沢ニッケルめっき層と、
前記SF半光沢ニッケルめっき層上に接して形成される光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成され、前記光沢ニッケルめっき層より電位が貴である低硫黄ニッケルストライクめっき層と、
前記低硫黄ニッケルストライクめっき層上に接して形成され、細孔、クラック又はその両方の組合せを有する微小不連続3価クロムめっき層と、
を備え
前記SF半光沢ニッケルめっき層は前記光沢ニッケルめっき層に対して貴電位であるクロムめっき部品。」(以下「甲1-4A発明」という。)

また、物の発明である甲1-4A発明を生産する方法の発明として、以下の発明も記載されているということができる。

「ベースメタル上にSF(サルファーフリー)半光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記SF半光沢ニッケルめっき層上に光沢ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、前記光沢ニッケルめっき層より電位が貴である低硫黄ニッケルストライクめっき層を接して形成する工程と、
前記低硫黄ニッケルストライクめっき層上に、細孔、クラック又はその両方の組合せを有する微小不連続3価クロムめっき層を接して形成する工程と、
を有し、
前記SF半光沢ニッケルめっき層は前記光沢ニッケルめっき層に対して貴電位であるクロムめっき部品の製造方法。」(以下「甲1-4B発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)甲1-4A発明との対比
本件発明1と甲1-4A発明とを対比すると、甲1-4A発明の「ベースメタル」、「細孔、クラック又はその両方の組合せを有する微小不連続3価クロムめっき層」は、それぞれ、本件発明1の「素地」、「マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有する3価クロムめっき層」に相当する。
また、甲1-4A発明の「前記光沢ニッケルめっき層より電位が貴である低硫黄ニッケルストライクめっき層」は、本件発明1の「貴電位ニッケルめっき層」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地と、
前記素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成された貴電位ニッケルめっき層と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に接して形成され、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している3価クロムめっき層と、
を備えたクロムめっき部品。」である点。

<相違点1-1>
貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差について、本件発明1は、「60mV以上120mV以下」であるのに対し、甲1-4A発明は、それが不明である点。

<相違点2-1>
3価クロムめっき層が有している微細孔について、本件発明1は、「50000個/cm^(2)以上」であるのに対し、甲1-4A発明は、その数が不明である点。

<相違点3-1>
3価クロムめっき層について、本件発明1は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲1-4A発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-1>
3価クロムめっき層について、本件発明1は、「非晶質」であるのに対し、甲1-4A発明は、非晶質であるか否か不明である点。

(イ)相違点についての判断
a 相違点1-1について検討する。

b 上記第6の1で摘示した(甲1-1g)には、マイクロポーラスストライクデポジット(本件発明の「貴電位ニッケルめっき層」に相当)は光沢ニッケル下層(本件発明の「光沢ニッケルめっき層」に相当)よりも「20?40mV貴」であることが記載され、同2で摘示した(甲1-2g)には、マイクロ微粒子ニッケル層(本件発明の「貴電位ニッケルめっき層」に相当)は、光沢又はサテンのニッケル(本件発明の「光沢ニッケルめっき層」に相当)に対して「10?40mVの陰極電気化学的電位差」(「10?40mV貴」に相当)を示すことが記載され、さらに同7で摘示した(甲1-7d)には、光沢ニッケルめっき層の腐食電位を基準としたときの分散ストライクめっき層(本件発明の「貴電位ニッケルめっき層」に相当)の腐食電位を10mV以上とすると記載されているが、同(甲1-7h)及び(甲1-7k)の図9から、腐食電位は60mVに満たないものであることが見てとれるから、甲1-1、甲1-2及び甲1-7には、貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差を「60mV以上120mV以下」にするという上記相違点1に係る事項は示されていない。

c また、貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差について、上記第6の5で摘示した(甲1-5a)には、「少なく共60mV」とすること、同6で摘示した(甲1-6a)には、「10?60mV貴」とすることがそれぞれ記載されている。
しかしながら、同5で摘示した(甲1-5d)には、クロムめっき浴にクロム酸が含まれると記載され、同6で摘示した(甲1-6d)には、クロムめっき浴に無水クロム液(CrO_(3))が含まれると記載されていることから、甲1-5及び甲1-6におけるクロムめっきは、「6価」であることが分かる。
ここで、クロムの価数が異なれば、腐食電位も異なることは明らかであるといえるから、6価クロムめっきである場合の貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差である上記(甲1-5a)及び(甲1-6a)を、3価クロムめっきである甲1-4A発明に適用する動機付けがあるとはいえない。

d 申立人2は、意見書2(8頁下から3行?9頁3行)において、「貴電位ニッケルめっき層と光沢ニッケルめっき層とに電位差を設けるのは、光沢ニッケルめっき層を貴電位ニッケルめっき層に対して優先的に腐食させるためのものであって、これらの層の上に形成されているクロムめっき層自体の耐食性を高めるためのものではないから、3価クロムと6価クロムの性質が異なることが、貴電位ニッケルめっき層と光沢ニッケルめっき層との電位差を適用する際の動機付けに関係するとはいえない」旨主張している(8頁下から3行?9頁3行)。
しかしながら、本件明細書等の【0058】に「腐食試験2は、本発明に係るクロムめっき部品のクロム溶解腐食に対する耐食性を判断するために採用した。」と記載されているように、本件発明は、特異的な環境におけるクロムめっき層自体の耐食性も高めるものであるところ、上記摘示した乙第1号証の「4.1. Cr溶解腐食のメカニズム」にも記載のように、クロムめっき層自体の耐食性は、クロムめっき層の下地であるニッケルめっき層との電位差も影響するといえる。
したがって、申立人2の上記主張は採用できない。

e 申立人1は、意見書1(2頁8?14行)において、甲1-5には、電位差が少なくとも60mVであるクロムめっき部品が記載され、120mVの閾値は任意のものであり、予期しない技術的効果との関連が示されていないから、電位差範囲を60mV以上120mV以下とすることは、当業者にとって困難なものではない旨主張している。
しかしながら、6価クロムめっきである甲1-5を甲1-4A発明に適用する動機付けがないことは、上記cのとおりである。
したがって、申立人1の上記主張を採用することはできない。

(ウ)小括
よって、相違点2-1、同3-1及び同4-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-4A発明と甲1-1、甲1-2、甲1-5?甲1-7、甲2-4及び甲2-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、請求項1を引用するものであるから、上記イと同様に、甲1-4A発明と甲1-1、甲1-2、甲1-5?甲1-7、甲2-4及び甲2-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

エ 本件発明7について
(ア)甲1-4B発明との対比
本件発明7と甲1-4B発明とを対比すると、甲1-4B発明の「ベースメタル」、「細孔、クラック又はその両方の組合せを有する微小不連続3価クロムめっき層」は、それぞれ、本件発明7の「素地」、「マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有する3価クロムめっき層」に相当する。
また、甲1-4B発明の「前記光沢ニッケルめっき層より電位が貴である低硫黄ニッケルストライクめっき層」は、本件発明7の「貴電位ニッケルめっき層」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、貴電位ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有する3価クロムめっき層を接して形成する工程と、
を有するクロムめっき部品の製造方法。」である点。

<相違点1-2>
貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差について、本件発明7は、「60mV以上120mV以下」であるのに対し、甲1-4A発明は、それが不明である点。

<相違点2-2>
3価クロムめっき層が有している微細孔について、本件発明7は、「50000個/cm^(2)以上」であるのに対し、甲1-4B発明は、その数が不明である点。

<相違点3-2>
3価クロムめっき層について、本件発明7は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲1-4B発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-2>
3価クロムめっき層について、本件発明7は、「非晶質」であるのに対し、甲1-4B発明は、非晶質であるか否か不明である点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点1-2は、上記イ(ア)の相違点1-1と実質的に同じであるから、相違点についての判断は、上記イ(イ)と同様である。

(ウ)小括
よって、相違点2-2、同3-2及び同4-2について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1-4B発明と甲1-1、甲1-2、甲1-5?甲1-7、甲2-4及び甲2-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

オ 本件発明8?10について
本件発明8?10は、請求項7を引用するものであるから、上記エと同様に、甲1-4B発明と甲1-1、甲1-2、甲1-5?甲1-7、甲2-4及び甲2-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)取消理由2h(甲2-1を主引用例とした取消理由)について
ア 甲2-1に記載された発明
上記第6の12で摘示した(甲2-1b)の記載によれば、甲2-1は、第3世代の3価クロムめっきシステムの耐食性を評価するために、テスト用めっき部品についてCASSテストを行ったものであるから、同(甲2-1c)の表2における「3価クロム」が最上層の3価クロムめっき層であることは自明の事項である。また、テスト用めっき部品が、素地を備えていることも自明の事項である。
そして、同(甲2-1d)の「サイクルCとDは3重ニッケルめっきと3価クロムめっきをしているが、最後のニッケル層が異なる。サイクルCでは半光沢、光沢及び貴ニッケルの組合せであるが、サイクルDでは半光沢、光沢及びポーラスニッケルの組合せである。」との記載によれば、「最後のニッケル層」とは、3重ニッケルめっきのうち、最後に形成されたニッケル層のことであり、また、サイクルCの「貴ニッケル」とサイクルDの「ポーラスニッケル」とが、異なる最後のニッケル層であるといえるから、サイクルDにおいては、半光沢、光沢、ポーラスニッケル、3価クロムの順に積層されていると認められる。
さらに、同(甲2-1d)には、「貴ニッケルめっきは、マイクロポーラス浴から固形粒子を除いた浴からめっきしたものである。」と記載されているから、サイクルDにおけるマイクロポーラスニッケルめっきも、貴ニッケルめっきであるといえる。
ここで、貴ニッケルめっきの「貴」とは、その下地の光沢ニッケルめっきよりも貴電位であることを意味することは、自明の事項であり、このことは、参考資料1の記載によっても裏付けられている。すなわち、参考資料1の前記(参考1a)の図4-6の記載によれば、三層ニッケルは、半光沢ニッケルめっき、高硫黄含有ニッケルストライク、光沢ニッケルめっきの順に積層されており、同(参考1a)の「3層間の自然電位は,半光沢≫光沢>高硫黄含有ニッケルストライクであり,腐食孔が半光沢層に達すると,最も卑なストライク層の優先腐食により,半光沢ニッケルの防食能が2層ニッケルめっきよりも飛躍的に高まる。」との記載によれば、3層ニッケルのうち、最上層の「光沢ニッケルめっき」を、その下層の「高硫黄含有ニッケルストライク」よりも貴電位として、高硫黄含有ニッケルストライクを優先腐食させることで、優れた耐食性が得られものであるといえる。
以上から、甲2-1の前記(甲2-1b)、(甲2-1d)及び(甲2-1c)のサイクルDの記載に注目すると、甲2-1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「素地と、
前記素地上に形成された半光沢ニッケルめっき層と、
前記半光沢ニッケルめっき層上に接して形成される光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成され、前記光沢ニッケルめっき層より貴電位であって、固形粒子を有するマイクロポーラスニッケルめっき層と、
前記固形粒子を有するマイクロポーラスニッケルめっき層上に接して形成された3価クロムめっき層と、
を備えたテスト用めっき部品。」(以下「甲2-1A発明」という。)

また、物の発明である甲2-1A発明を生産する方法の発明として、以下の発明も記載されているということができる。

「素地上に半光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記半光沢ニッケルめっき層上に光沢ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、前記光沢ニッケルめっき層より貴電位であって、固形粒子を有するマイクロポーラスニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記マイクロポーラスニッケルめっき層上に3価クロムめっき層を接して形成する工程と、
を有するテスト用めっき部品の製造方法。」(以下「甲2-1B発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2-1A発明とを対比すると、甲2-1A発明の「前記光沢ニッケルめっき層より貴電位であって、固形粒子を有するマイクロポーラスニッケルめっき層」、「テスト用めっき部品」は、それぞれ、本件発明1の「貴電位ニッケルめっき層」、「クロムめっき部品」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地と、
前記素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成された貴電位ニッケルめっき層と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に接して形成され、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している3価クロムめっき層と、
を備えたクロムめっき部品。」である点。

<相違点1-3>
貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差について、本件発明1は、「60mV以上120mV以下」であるのに対し、甲2-1A発明は、それが不明である点。

<相違点2-3>
3価クロムめっき層が有している微細孔について、本件発明1は、「50000個/cm^(2)以上」であるのに対し、甲2-1A発明は、その数が不明である点。

<相違点3-3>
3価クロムめっき層について、本件発明1は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲2-1A発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-3>
3価クロムめっき層について、本件発明1は、「非晶質」であるのに対し、甲2-1A発明は、非晶質であるか否か不明である点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点1-3は、上記(1)イ(ア)の相違点1-1と実質的に同じであるから、相違点についての判断は、上記(1)イ(イ)と同様である。

(ウ)小括
よって、相違点2-3、同3-3及び同4-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-1A発明と甲1-1、甲1-2、甲1-5?甲1-7、甲2-4及び甲2-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、請求項1を引用するものであるから、上記イと同様に、甲2-1A発明と甲1-1、甲1-2、甲1-5?甲1-7、甲2-4及び甲2-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

エ 本件発明7について
(ア)甲2-1B発明との対比
本件発明7と甲2-1B発明とを対比すると、甲2-1B発明の「前記光沢ニッケルめっき層より貴電位であって、固形粒子を有するマイクロポーラスニッケルめっき層」、「テスト用めっき部品」は、それぞれ、本件発明7の「貴電位ニッケルめっき層」、「クロムめっき部品」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、貴電位ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有する3価クロムめっき層を接して形成する工程と、
を有するクロムめっき部品の製造方法。」である点。

<相違点1-4>
貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差について、本件発明7は、「60mV以上120mV以下」であるのに対し、甲2-1B発明は、それが不明である点。

<相違点2-4>
3価クロムめっき層が有している微細孔について、本件発明7は、「50000個/cm2以上」であるのに対し、甲2-1B発明は、その数が不明である点。

<相違点3-4>
3価クロムめっき層について、本件発明7は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲2-1B発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-4>
3価クロムめっき層について、本件発明7は、「非晶質」であるのに対し、甲2-1B発明は、非晶質であるか否か不明である点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点1-4は、上記(1)イ(ア)の相違点1-1と実質的に同じであるから、相違点についての判断は、上記(1)イ(イ)と同様である。

(ウ)小括
よって、相違点2-4、同3-4及び同4-4について検討するまでもなく、本件発明7は、甲2-1B発明と甲1-1、甲1-2、甲1-5?甲1-7、甲2-4及び甲2-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

オ 本件発明8?10について
本件発明8?10は、請求項7を引用するものであるから、上記エと同様に、甲2-1B発明と甲1-1、甲1-2、甲1-5?甲1-7、甲2-4及び甲2-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)進歩性についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1?10は、甲1-4に記載された発明と甲1-1、甲1-2、甲1-5?甲1-7、甲2-4及び甲2-5に記載された事項に基いて、または、甲2-1に記載された発明と甲1-1、甲1-2、甲1-5?甲1-7、甲2-4及び甲2-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。


第8 令和1年5月8日付け取消理油通知(決定の予告)において採用しな
かった特許異議申立理由について
1 申立理由1-1について
申立人1は、申立書1において、上記第4の1(1)申立理由1-1のとおり、本件明細書等の【0049】には、3価クロムめっき層の形成が「アトテック・ドイチュランド・ゲーエムベーハー社製トライクロムプラスプロセスを使用」して行われると記載されているが、当該トライクロムプラスプロセスの内容については全く説明されておらず、また、当該トライクロムプラスプロセスが本件特許の出願時の技術常識であるわけでもないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張する。
しかしながら、トライクロムプラスプロセスは、上記第6の16で摘示した(甲2-5a)に記載のとおり、本件特許出願前に通常知られたものであり、当業者が実施することができないとはいえないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たす。
したがって、申立人1の上記主張は、採用することができない。

2 申立理由1-2(1-2a?2c、2e?2g)について
(1)申立理由1-2a(甲1-1を主引用例としたもの)について
ア 甲1-1に記載された発明
上記第6の1で摘示した(甲1-1a)?(甲1-1h)の記載によれば、甲1-1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「素地金属と、
前記素地金属上に形成された光沢ニッケルデポジットと、
前記光沢ニッケルデポジットに接して形成され、電気化学ポテンシャルが前記光沢ニッケルデポジットより20mV?40mV貴であるマイクロポーラスニッケルストライクデポジットと、
前記マイクロポーラスニッケルストライクデポジット上に接して形成された、16000個/cm^(2)?48000個/cm^(2)のマイクロポロシティを有する微小不連続クロムデポジットと、
を備えた部品。」(以下「甲1-1A発明」という。)

また、物の発明である甲1-1A発明を生産する方法の発明として、以下の発明も記載されているということができる。

「素地金属上に光沢ニッケルデポジットを形成する工程と、
前記光沢ニッケルデポジット上に、電気化学ポテンシャルが前記光沢ニッケルデポジットより20mV?40mV貴であるマイクロポーラスニッケルストライクデポジットを接して形成する工程と、
前記マイクロポーラスニッケルストライクデポジット上に、16000個/cm^(2)?48000個/cm^(2)のマイクロポロシティを有する微小不連続クロムデポジットを接して形成する工程と、
を有する部品の製造方法。」(以下、「甲1-1B発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)甲1-1A発明との対比
本件発明1と甲1-1A発明とを対比すると、甲1-1A発明の「素地金属」、「光沢ニッケルデポジット」及び「電気化学ポテンシャルが前記光沢ニッケルデポジットより20mV?40mV貴であるマイクロポーラスニッケルストライクデポジット」は、本件発明1の「素地」、「光沢ニッケルめっき層」及び「貴電位ニッケルめっき層」にそれぞれ相当する。
また、甲1-1A発明の「16000個/cm^(2)?48000個/cm^(2)のマイクロポロシティを有する微小不連続クロムデポジット」は、本件発明1の「マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している」「クロムめっき層」に相当し、甲1-1A発明の「部品」は、本件発明1の「クロムめっき部品」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地と、
前記素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成された貴電位ニッケルめっき層と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に接して形成され、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有しているクロムめっき層と、
を備えたクロムめっき部品。」である点。

<相違点1-5>
貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差について、本件発明1は、「60mV以上120mV以下」であるのに対し、甲1-1A発明は、「20mV?40mV」である点。

<相違点2-5>
クロムめっき層が有している微細孔について、本件発明1は、「50000個/cm^(2)以上」であるのに対し、甲1-1A発明は、「16000個/cm^(2)?48000個/cm^(2)」である点。

<相違点3-5>
クロムめっき層について、本件発明1は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲1-1A発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-5>
クロムめっき層について、本件発明1は、「非晶質」であるのに対し、甲1-1A発明は、非晶質であるか否か不明である点。

<相違点5-5>
クロムめっき層におけるクロムの価数について、本件発明1は「3価」であるのに対し、甲1-1A発明は不明である点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点1-5は、貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差が異なることであって、上記第7の2(1)イ(ア)の相違点1-1と実質的に同じであるから、相違点についての判断は、上記第7の2(1)イ(イ)と同様である。

(ウ)小括
よって、相違点2-5、同3-5、同4-5及び同5-5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1A発明と甲1-2?甲1-11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、請求項1を引用するものであるから、上記イと同様に、甲1-1A発明と甲1-2?甲1-11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

エ 本件発明7について
(ア)甲1-1B発明との対比
本件発明1と甲1-1B発明とを対比すると、甲1-1B発明の「素地金属」、「光沢ニッケルデポジット」及び「電気化学ポテンシャルが前記光沢ニッケルデポジットより20mV?40mV貴であるマイクロポーラスニッケルストライクデポジット」は、本件発明1の「素地」、「光沢ニッケルめっき層」及び「貴電位ニッケルめっき層」にそれぞれ相当する。
また、甲1-1B発明の「16000個/cm^(2)?48000個/cm^(2)のマイクロポロシティを有するラック構造の少なくともいずれか一方を有している」「クロムめっき層」に相当し、甲1-1B発明の「部品」は、本件発明1の「クロムめっき部品」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、貴電位ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有する3価クロムめっき層を接して形成する工程と、
を有するクロムめっき部品の製造方法。」

<相違点1-6>
貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差について、本件発明1は、「60mV以上120mV以下」であるのに対し、甲1-1B発明は、「20mV?40mV」である点。

<相違点2-6>
クロムめっき層が有している微細孔について、本件発明1は、「50000個/cm^(2)以上」であるのに対し、甲1-1B発明は、「16000個/cm^(2)?48000個/cm^(2)」である点。

<相違点3-6>
クロムめっき層について、本件発明1は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲1-1B発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-6>
クロムめっき層について、本件発明1は、「非晶質」であるのに対し、甲1-1B発明は、非晶質であるか否か不明である点。

<相違点5-6>
クロムめっき層におけるクロムの価数について、本件発明1は「3価」であるのに対し、甲1-1B発明は不明である点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点1-6は、貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差が異なることであって、上記第7の2(1)イ(ア)の相違点1-1と実質的に同じであるから、相違点についての判断は、上記第7の2(1)イ(イ)と同様である。

(ウ)小括
よって、相違点2-6、同3-6、同4-6及び同5-6について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1-1A発明と甲1-2?甲1-11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

オ 本件発明8?10について
本件発明8?10は、請求項7を引用するものであるから、上記エと同様に、甲1-1B発明と甲1-2?甲1-11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)申立理由1-2b(甲1-2を主引用例としたもの)について
ア 甲1-2に記載された発明
上記第6の2で摘示した(甲1-2a)、(甲1-2c)、(甲1-2d)、(甲1-2e)及び(甲1-2g)によれば、甲1-2には、以下の発明が記載されていると認められる。

「素地と、
前記素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成され、前記光沢ニッケルめっき層に対して10?40mVの陰極電気化学的電位差を示すマイクロ微粒子ニッケル層と、
前記マイクロ微粒子ニッケル層上に接して形成された、マイクロポーラス又はマイクロクラック不連続クロムめっき層と、
を備えた装飾用クロムめっきプラスチック部品。」(以下「甲1-2A発明」という。)

また、物の発明である甲1-2A発明を生産する方法の発明として、以下の発明も記載されているということができる。

「素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、前記光沢ニッケルめっき層に対して10?40mVの陰極電気化学的電位差を示すマイクロ微粒子ニッケル層を接して形成する工程と、
前記マイクロ微粒子ニッケル層上に、マイクロポーラス又はマイクロクラック不連続クロムめっき層を接して形成する工程と、
を有する装飾用クロムめっきプラスチック部品の製造方法。」(以下、「甲1-2B発明」という。)

イ 本件発明1について
本件発明1と甲1-2A発明とを対比すると、「光沢ニッケルめっき層に対して10?40mVの陰極電気化学的電位差を示す」とは、光沢ニッケルめっき層に対して貴電位であることを意味するから、甲1-2A発明の「光沢ニッケルめっき層に対して10?40mVの陰極電気化学的電位差を示すマイクロ微粒子ニッケル層」は、本件発明1の「貴電位ニッケルめっき層」に相当する。
さらに、甲1-2A発明の「装飾用クロムめっきプラスチック部品」は、本件発明1の「クロムめっき部品」に相当し、甲1-2A発明の「マイクロポーラス又はマイクロクラック不連続クロムめっき層」は、本件発明1の「マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している」「クロムめっき層」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地と、
前記素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成された貴電位ニッケルめっき層と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に接して形成され、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有しているクロムめっき層と、
を備えたクロムめっき部品。」である点。

<相違点1-7>
貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差について、本件発明1は、「60mV以上120mV以下」であるのに対し、甲1-2A発明は、「10?40mV」である点。

<相違点2-7>
クロムめっき層が有している微細孔について、本件発明1は、「50000個/cm^(2)以上」であるのに対し、甲1-2A発明は、その数が不明である点。

<相違点3-7>
クロムめっき層について、本件発明1は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲1-2A発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-7>
クロムめっき層について、本件発明1は、「非晶質」であるのに対し、甲1-2A発明は、非晶質であるか否か不明である点。

<相違点5-7>
クロムめっき層におけるクロムの価数について、本件発明1は「3価」であるのに対し、甲1-2A発明は不明である点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点1-7は、貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差が異なることであって、上記第7の2(1)イ(ア)の相違点1-1と実質的に同じであるから、相違点についての判断は、上記第7の2(1)イ(イ)と同様である。

(ウ)小括
よって、相違点2-7、同3-7、同4-7及び同5-7について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-2A発明と甲1-1及び甲1-3?甲1-11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、請求項1を引用するものであるから、上記イと同様に、甲1-2A発明と甲1-1及び甲1-3?甲1-11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

エ 本件発明7について
(ア)甲1-2B発明との対比
本件発明1と甲1-2B発明とを対比すると、「光沢ニッケルめっき層に対して10?40mVの陰極電気化学的電位差を示す」とは、光沢ニッケルめっき層に対して貴電位であることを意味するから、甲1-2B発明の「光沢ニッケルめっき層に対して10?40mVの陰極電気化学的電位差を示すマイクロ微粒子ニッケル層」は、本件発明1の「貴電位ニッケルめっき層」に相当する。
さらに、甲1-2B発明の「装飾用クロムめっきプラスチック部品」は、本件発明1の「クロムめっき部品」に相当し、甲1-2B発明の「マイクロポーラス又はマイクロクラック不連続クロムめっき層」は、本件発明1の「マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している」「クロムめっき層」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、貴電位ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有するクロムめっき層を接して形成する工程と、
を有するクロムめっき部品の製造方法。

<相違点1-8>
貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差について、本件発明7は、「60mV以上120mV以下」であるのに対し、甲1-2B発明は、「10?40mV」である点。

<相違点2-8>
クロムめっき層が有している微細孔について、本件発明7は、「50000個/cm^(2)以上」であるのに対し、甲1-2B発明は、その数が不明である点。

<相違点3-8>
クロムめっき層について、本件発明7は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲1-2B発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-8>
クロムめっき層について、本件発明7は、「非晶質」であるのに対し、甲1-2B発明は、非晶質であるか否か不明である点。

<相違点5-8>
クロムめっき層におけるクロムの価数について、本件発明7は「3価」であるのに対し、甲1-2B発明は不明である点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点1-8は、貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差が異なることであって、上記第7の2(1)イ(ア)の相違点1-1と実質的に同じであるから、相違点についての判断は、上記第7の2(1)イ(イ)と同様である。

(ウ)小括
よって、相違点2-8、同3-8、同4-8及び同5-8について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1-2B発明と甲1-1及び甲1-3?甲1-11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

オ 本件発明8?10について
本件発明8?10は、請求項7を引用するものであるから、上記エと同様に、甲1-2B発明と甲1-1及び甲1-3?甲1-11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)申立理由1-2c(甲1-3を主引用例としたもの)について
上記第6の3で摘示した(甲1-3b)の記載によれば、甲1-3は、本件特許に係る出願の出願日前に頒布されたものであるとはいえないから、甲1-3に記載された発明は、特許法第29条第1項各号に掲げる発明とはいえない。

(4)申立理由1-2e(甲1-5を主引用例としたもの)について
ア 甲1-5に記載された発明
上記第6の5で摘示した(甲1-5d)には、クロムめっき浴にクロム酸が含まれると記載されているから、甲1-5におけるクロムめっきの価数は「6価」であると分かること、並びに同(甲1-5a)?(甲1-5c)及び(甲1-5e)?(甲1-5g)の記載によれば、甲1-5には、以下の発明が記載されていると認められる。

「金属基質、
前記金属基質上に形成された、ニッケルめっきからなる優先腐食金属の第2層と、
前記第2層上に接して形成され、前記第2層との間の起電力差ΔEが少なくとも60mVである光沢ニッケルめっきからなる第3層と、
前記第3層上に接して形成され、40,000?200,000個/in^(2)の微孔を有する装飾6価クロムの薄層と、
を備えたクロムめっき部品。」(以下「甲1-5A発明」という。)

また、物の発明である甲1-1A発明を生産する方法の発明として、以下の発明も記載されているということができる。

「金属基質上に、ニッケルめっきからなる優先腐食金属の第2層を形成する工程と、
前記第2層上に、前記第2層との間の起電力差ΔEが少なくとも60mVである光沢ニッケルめっきからなる第3層を接して形成する工程と、
前記第3層上に、40,000?200,000個/in^(2)の微孔を有する装飾6価クロムの薄層を接して形成する工程と、
を有するクロムめっき部品の製造方法。」(以下「甲1-5B発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)甲1-5A発明との対比
本件発明1と甲1-5A発明とを対比すると、甲1-5A発明の「金属基質」は、本件発明1の「素地」に相当する。
また、甲1-5A発明における「ニッケルめっきからなる優先腐食金属の第2層」は、前記(甲1-5e)の記載によれば、チオ尿素からなる光沢剤を含んでおり、光沢ニッケルめっき層であるといえるから、本件発明1の「光沢ニッケルめっき層」に相当する。
さらに、甲1-5A発明の「前記第2層との間の起電力差ΔEが少なくとも60mVである光沢ニッケルめっきからなる第3層」は、本件発明1の「前記光沢ニッケルめっき層との電位差が60mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層」に相当する。
そして、甲1-5A発明における「40,000?200,000個/in^(2)」は「約6,200?31,000個/cm^(2)」であるから、「40,000?200,000個/in^(2)の微孔を有する装飾6価クロムの薄層」は、本件発明1の「マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している」「クロムめっき層」に相当する。
したがって、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地と、
前記素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成され、前記光沢ニッケルめっき層との電位差が60mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に接して形成され、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有しているクロムめっき層と、
を備えたクロムめっき部品。」である点。

<相違点2-9>
クロムめっき層が有している微細孔について、本件発明1は、「50000個/cm^(2)以上」であるのに対し、甲1-5A発明は、約6,200?31,000個/cm^(2)である点。

<相違点3-9>
クロムめっき層について、本件発明1は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲1-5A発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-9>
クロムめっき層について、本件発明1は、「非晶質」であるのに対し、甲1-5A発明は、非晶質であるか否か不明である点。

<相違点5-9>
クロムめっき層におけるクロムの価数について、本件発明1は「3価」であるのに対し、甲1-5A発明は「6価」である点。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点5-9について検討する。
上記第7の2(1)イ(イ)cにおいて述べたとおり、クロムの価数が異なれば、腐食電位も異なることは明らかであるといえるから、6価クロムであることを前提に、貴電位ニッケルめっき層と光沢ニッケルめっき層との電位差を特定した甲1-5A発明において、クロムを6価から3価のものに代える動機付けは認められない。

(ウ)小括
よって、相違点2-9、同3-9及び同4-9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-5A発明と甲1-1?甲1-4及び甲1-6?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、請求項1を引用するものであるから、上記イと同様に、甲1-5A発明と甲1-1?4及び甲1-6?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

エ 本件発明7について
(ア)甲1-5B発明との対比
本件発明1と甲1-5B発明とを対比すると、甲1-5A発明の「金属基質」は、本件発明1の「素地」に相当する。
また、甲1-5B発明における「ニッケルめっきからなる優先腐食金属の第2層」は、前記(甲1-5e)の記載によれば、チオ尿素からなる光沢剤を含んでおり、光沢ニッケルめっき層であるといえるから、本件発明1の「光沢ニッケルめっき層」に相当する。
さらに、甲1-5B発明の「前記第2層との間の起電力差ΔEが少なくとも60mVである光沢ニッケルめっきからなる第3層」は、本件発明1の「前記光沢ニッケルめっき層との電位差が60mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層」に相当する。
そして、甲1-5B発明における「40,000?200,000個/in^(2)」は「約6,200?31,000個/cm^(2)」であるから、「40,000?200,000個/in^(2)の微孔を有する装飾6価クロムの薄層」は、本件発明1の「マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している」「クロムめっき層」に相当する。
したがって、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、前記光沢ニッケルめっき層との電位差が60mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有する6価クロムめっき層を接して形成する工程と、
を有するクロムめっき部品の製造方法。」である点。

<相違点2-10>
クロムめっき層が有している微細孔について、本件発明1は、「50000個/cm^(2)以上」であるのに対し、甲1-5B発明は、約6,200?31,000個/cm^(2)である点。

<相違点3-10>
クロムめっき層について、本件発明1は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲1-5B発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-10>
クロムめっき層について、本件発明1は、「非晶質」であるのに対し、甲1-5B発明は、非晶質であるか否か不明である点。

<相違点5-10>
クロムめっき層におけるクロムの価数について、本件発明1は「3価」であるのに対し、甲1-5B発明は「6価」である点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点5-10は、上記イ(ア)の相違点5-9と実質的に同じであるから、相違点についての判断は、上記イ(イ)と同様である。

(ウ)小括
よって、相違点2-10、同3-10及び同4-10について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1-5B発明と甲1-1?4及び甲1-5?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

オ 本件発明8?10について
本件発明8?10は、請求項7を引用するものであるから、上記エと同様に、甲1-5B発明と甲1-1?4及び甲1-5?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(5)申立理由1-2f(甲1-6を主引用例としたもの)について
ア 甲1-6に記載された発明
上記第6の6で摘示した(甲1-6d)には、クロムめっき浴に無水クロム液(CrO_(3))が含まれると記載されているから、甲1-6におけるクロムめっきの価数は「6価」であると分かること、並びに同(甲1-6a)?(甲1-6c)の記載によれば、甲1-6には、以下の発明が記載されていると認められる。

「被めっき製品素地と、
前記被めっき製品素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成され、前記光沢ニッケルめっき層に対し10?60mV貴な電気化学的電位を有する非電導性微粒子共析ニッケルめっき層と、
前記非電導性微粒子共析ニッケルめっき層上に接して形成され、微小孔の数が10000個/cm^(2)以上である6価のマイクロポーラスクロムめっき皮膜と、
を備えたニッケル-クロムめっき製品。」(以下、「甲1-6A発明」という。)

また、物の発明である甲1-1A発明を生産する方法の発明として、以下の発明も記載されているということができる。

「被めっき製品素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、前記光沢ニッケルめっき層に対し10?60mV貴な電気化学的電位を有する非電導性微粒子共析ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記非電導性微粒子共析ニッケルめっき層上に、微小孔の数が10000個/cm^(2)以上である6価のマイクロポーラスクロムめっき皮膜を接して形成する工程と、
を有するニッケル-クロムめっき製品の製造方法。」(以下、「甲1-6B発明」という。)

イ 本件発明1について
本件発明1と甲1-6A発明とを対比すると、甲1-6A発明の「被めっき製品素地」及び「ニッケル-クロムめっき製品」は、それぞれ、本件発明1の「素地」及び「クロムめっき部品」に相当する。
また、本件発明1の「光沢ニッケルめっき層に対し10?60mV貴な電気化学的電位を有する非電導性微粒子共析ニッケルめっき層」と、甲1-6A発明の「光沢ニッケルめっき層との電位差が60mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層」とは、「光沢ニッケルめっき層との電位差が60mVである貴電位ニッケルめっき層」である点で共通する。
さらに、甲1-6A発明のクロムめっき被膜における「微小孔の数が10000個/cm^(2)以上」と、本件発明1のクロムめっき層における「50000個/cm^(2)以上の微細孔を有し」とは、「50000個/cm^(2)以上の微細孔」の点で共通する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地と、
前記素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成され、前記光沢ニッケルめっき層との電位差が60mVである貴電位ニッケルめっき層と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に接して形成され、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有しているクロムめっき層と、
を備え、
前記クロムめっき層は、50000個/cm^(2)以上の微細孔を有するクロムめっき部品。」である点。

<相違点3-11>
クロムめっき層について、本件発明1は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲1-6A発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-11>
クロムめっき層について、本件発明1は、「非晶質」であるのに対し、甲1-6A発明は、非晶質であるか否か不明である点。

<相違点5-11>
クロムめっき層におけるクロムの価数について、本件発明1は「3価」であるのに対し、甲1-6A発明は「6価」である点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点5-11は、上記(4)イ(ア)の相違点5-8と実質的に同じであるから、相違点についての判断は、上記(4)イ(イ)と同様である。

(ウ)小括
よって、相違点3-11及び同4-11について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-6A発明と甲1-1?5及び甲1-7?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、請求項1を引用するものであるから、上記イと同様に、甲1-6A発明と甲1-1?甲1-5及び甲1-7?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

エ 本件発明7について
(ア)甲1-6B発明との対比
本件発明1と甲1-6B発明とを対比すると、甲1-6B発明の「被めっき製品素地」及び「ニッケル-クロムめっき製品」は、それぞれ、本件発明1の「素地」及び「クロムめっき部品」に相当する。
また、本件発明1の「光沢ニッケルめっき層に対し10?60mV貴な電気化学的電位を有する非電導性微粒子共析ニッケルめっき層」と、甲1-6B発明の「光沢ニッケルめっき層との電位差が60mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層」とは、「光沢ニッケルめっき層との電位差が60mVである貴電位ニッケルめっき層」である点で共通する。
さらに、甲1-6B発明のクロムめっき被膜における「微小孔の数が10000個/cm^(2)以上」と、本件発明1のクロムめっき層における「50000個/cm^(2)以上の微細孔を有し」とは、「50000個/cm^(2)以上の微細孔」の点で共通する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、前記光沢ニッケルめっき層との電位差が60mVである貴電位ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有するクロムめっき層を接して形成する工程と、
を有し、
前記クロムめっき層は、50000個/cm^(2)以上の微細孔を有するクロムめっき部品の製造方法。」である点。

<相違点3-12>
クロムめっき層について、本件発明1は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲1-6B発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-12>
クロムめっき層について、本件発明1は、「非晶質」であるのに対し、甲1-6B発明は、非晶質であるか否か不明である点。

<相違点5-12>
クロムめっき層におけるクロムの価数について、本件発明1は「3価」であるのに対し、甲1-6B発明は「6価」である点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点5-12は、上記(4)イ(ア)の相違点5-8と実質的に同じであるから、相違点についての判断は、上記(4)イ(イ)と同様である。

(ウ)小括
よって、相違点3-12及び同4-12について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1-6B発明と甲1-1?5及び甲1-7?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

オ 本件発明8?10について
本件発明8?10は、請求項7を引用するものであるから、上記エと同様に、甲1-6B発明と甲1-1?5及び甲1-7?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(6)申立理由1-2g(甲1-7を主引用例としたもの)について
ア 甲1-7に記載された発明
上記第6の7で摘示した(甲1-7f)には、クロムめっき浴にCrO_(3)が含まれると記載されているから、甲1-7におけるクロムめっきの価数は「6価」であると分かること、同(甲1-7h)及び(甲1-7k)の図9から、腐食電位は60mVに満たないものであると見てとれること、並びに同(甲1-7a)?(甲1-6e)、(甲1-7g)、(甲1-7i)及び(甲1-7j)の記載によれば、甲1-7には、以下の発明が記載されていると認められる。

「基材と、
前記基材上に形成した、光沢ニッケルめっきによる第一ニッケルめっき層と、
前記第一ニッケルめっき層上に接して形成され、前記第一ニッケルめっき層の腐食電位を基準としたときの腐食電位を10mV以上60mV未満とする第二ニッケルめっき層と、
前記第二ニッケルめっき層上に接して形成された6価のマイクロポーラスクロムめっき皮膜又はマイクロクラッククロムめっき皮膜と、
を備えたクロムめっき部品。」(以下、「甲1-7A発明」という。)

また、物の発明である甲1-7A発明を生産する方法の発明として、以下の発明も記載されているということができる。

「基材上に光沢ニッケルめっきによる第一ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記第一ニッケルめっき層上に、前記第一ニッケルめっき層の腐食電位を基準としたときの腐食電位を10mV以上60mV未満とする第二ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記第二ニッケルめっき層上に、6価のマイクロポーラスクロムめっき皮膜又はマイクロクラッククロムめっき皮膜を接して形成する工程と、
を有するクロムめっき部品の製造方法。」(以下、「甲1-7B発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)甲1-7A発明との対比
本件発明1と甲1-7A発明とを対比すると、甲1-7A発明の「基材」、「光沢ニッケルめっきによる第一ニッケルめっき層」、「前記第一ニッケルめっき層の腐食電位を基準としたときの腐食電位を10mV以上60mV未満とする第二ニッケルめっき層」は、それぞれ、本件発明1の「素地」、「光沢ニッケルめっき層」、「貴電位ニッケルめっき層」に相当する。
また、甲1-7A発明の「マイクロポーラスクロムめっき皮膜又はマイクロクラッククロムめっき皮膜」は、本件発明1の「マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している」「クロムめっき層」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地と、
前記素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成された貴電位ニッケルめっき層と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に接して形成され、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有しているクロムめっき層と、
を備えたクロムめっき部品。」である点。

<相違点1-13>
貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差について、本件発明1は、「60mV以上120mV以下」であるのに対し、甲1-7A発明は、「10mV以上60mV未満」である点。

<相違点2-13>
クロムめっき層が有している微細孔について、本件発明1は、「50000個/cm^(2)以上」であるのに対し、甲1-7A発明は、その数が不明である点。

<相違点3-13>
クロムめっき層について、本件発明1は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲1-7A発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-13>
クロムめっき層について、本件発明1は、「非晶質」であるのに対し、甲1-7A発明は、非晶質であるか否か不明である点。

<相違点5-13>
クロムめっき層におけるクロムの価数について、本件発明1は「3価」であるのに対し、甲1-7A発明は不明である点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点5-13は、上記(4)イ(ア)の相違点5-8と実質的に同じであるから、相違点についての判断は、上記(4)イ(イ)と同様である。

(ウ)小括
よって、相違点1-13、同2-13、同3-13及び同4-13について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-7A発明と甲1-1?6及び甲1-8?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、請求項1を引用するものであるから、上記イと同様に、甲1-7A発明と甲1-1?6及び甲1-8?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

エ 本件発明7について
(ア)甲1-7B発明との対比
本件発明1と甲1-7B発明とを対比すると、甲1-7B発明の「基材」、「光沢ニッケルめっきによる第一ニッケルめっき層」、「前記第一ニッケルめっき層の腐食電位を基準としたときの腐食電位を10mV以上60mV未満とする第二ニッケルめっき層」は、それぞれ、本件発明1の「素地」、「光沢ニッケルめっき層」、「貴電位ニッケルめっき層」に相当する。
また、甲1-7B発明の「マイクロポーラスクロムめっき皮膜又はマイクロクラッククロムめっき皮膜」は、本件発明1の「マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している」「クロムめっき層」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、貴電位ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有する3価クロムめっき層を接して形成する工程と、
を有するクロムめっき部品の製造方法。」

<相違点1-14>
貴電位ニッケルめっき層における光沢ニッケルめっき層との電位差について、本件発明1は、「60mV以上120mV以下」であるのに対し、甲1-7B発明は、「10mV以上60mV未満」である点。

<相違点2-14>
クロムめっき層が有している微細孔について、本件発明1は、「50000個/cm^(2)以上」であるのに対し、甲1-7B発明は、その数が不明である点。

<相違点3-14>
クロムめっき層について、本件発明1は、「4.0at%以上の炭素」及び「7at%以上の酸素」を含有するのに対し、甲1-7B発明は、炭素及び酸素の含有について不明である点。

<相違点4-14>
クロムめっき層について、本件発明1は、「非晶質」であるのに対し、甲1-7B発明は、非晶質であるか否か不明である点。

<相違点5-14>
クロムめっき層におけるクロムの価数について、本件発明1は「3価」であるのに対し、甲1-7B発明は不明である点。

(イ)相違点についての判断
上記相違点5-14は、上記(4)イ(ア)の相違点5-8と実質的に同じであるから、相違点についての判断は、上記(4)イ(イ)と同様である。

(ウ)小括
よって、相違点1-14、同2-14、同3-14及び同4-14について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1-7B発明と甲1-1?甲1-6及び甲1-8?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

オ 本件発明8?10について
本件発明8?10は、請求項7を引用するものであるから、上記エと同様に、甲1-7B発明と甲1-1?6及び甲1-8?11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

3 申立理由2-2について
申立理由2-2は、訂正前の請求項1及び3?10に係る発明において、3価クロムめっき層が有する「マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造」の密度が特定されていないこと、並びに訂正前の請求項1?5及び7?10に係る発明において、3価クロムめっき層は「非晶質」であるとの特定がされていないことを前提としたサポート要件違反を含むものであったが、本件訂正により、「3価クロムめっき層は、50000個/cm^(2)以上の微細孔を有し」並びに「3価クロムめっき層は、非晶質である」との特定が訂正後の請求項1?10に係る発明においてされたことで、当該前提がなくなったことから、当該前提に基づく申立理由2-2はないものとなった。


第9 むすび
以上のとおりであるから、請求項1?10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地と、
前記素地上に形成された光沢ニッケルめっき層と、
前記光沢ニッケルめっき層上に接して形成され、前記光沢ニッケルめっき層との電位差が60mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に接して形成され、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有している3価クロムめっき層と、
を備え、
前記3価クロムめっき層は、50000個/cm^(2)以上の微細孔を有しており、
前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上の炭素を含有し、
前記3価クロムめっき層は、7at%以上の酸素を含有し、
前記3価クロムめっき層は、非晶質であることを特徴とするクロムめっき部品。
【請求項2】
前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上20at%以下の炭素を含有することを特徴とする請求項1に記載のクロムめっき部品。
【請求項3】
前記3価クロムめっき層は、7at%以上16at%以下の酸素を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のクロムめっき部品。
【請求項4】
前記3価クロムめっき層は、0.5at%以上の鉄を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のクロムめっき部品。
【請求項5】
前記3価クロムめっき層は、1at%以上20at%以下の鉄及び10at%以上20at%以下の炭素の少なくともいずれか一方を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のクロムめっき部品。
【請求項6】
前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上20at%以下の炭素及び7at%以上16at%以下の酸素を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のクロムめっき部品。
【請求項7】
素地上に光沢ニッケルめっき層を形成する工程と、
前記光沢ニッケルめっき層上に、前記光沢ニッケルめっき層との電位差が60mV以上120mV以下である貴電位ニッケルめっき層を接して形成する工程と、
前記貴電位ニッケルめっき層上に、マイクロポーラス構造及びマイクロクラック構造の少なくともいずれか一方を有する3価クロムめっき層を接して形成する工程と、
を有し、
前記3価クロムめっき層は、50000個/cm^(2)以上の微細孔を有しており、
前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上の炭素を含有し、
前記3価クロムめっき層は、7at%以上の酸素を含有し、
前記3価クロムめっき層は、非晶質であることを特徴とするクロムめっき部品の製造方法。
【請求項8】
前記貴電位ニッケルめっき層を形成するための第一めっき浴に添加する電位調整剤の量を、前記光沢ニッケルめっき層を形成するための第二めっき浴より多くし、
前記3価クロムめっき層は、4.0at%以上20at%以下の炭素及び7at%以上16at%以下の酸素を含有することを特徴とする請求項7に記載のクロムめっき部品の製造方法。
【請求項9】
前記貴電位ニッケルめっき層を形成する工程は、ケイ素及びアルミニウムのうち少なくともいずれか一つを含有する化合物を分散させた第一めっき浴を用いて行われることを特徴とする請求項7又は8に記載のクロムめっき部品の製造方法。
【請求項10】
前記貴電位ニッケルめっき層を形成する工程は、酸化アルミニウムを分散させた第一めっき浴を用いて行われることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載のクロムめっき部品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-27 
出願番号 特願2009-30706(P2009-30706)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C25D)
P 1 651・ 537- YAA (C25D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 拓也  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
土屋 知久
登録日 2017-03-17 
登録番号 特許第6110049号(P6110049)
権利者 アトテック・ドイチュラント・ゲーエムベーハー 日産自動車株式会社
発明の名称 クロムめっき部品及びその製造方法  
代理人 三好 秀和  
代理人 三好 秀和  
代理人 三好 秀和  

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