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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1360478
異議申立番号 異議2019-700082  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-05 
確定日 2020-02-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6370219号発明「熱膨張性マイクロカプセル及び発泡成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6370219号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6370219号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6370219号の請求項1?4に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)6月6日(優先権主張 平成25年6月7日 日本国)を国際出願日とするものであって、平成30年7月20日にその特許権の設定登録がされ、同年8月8日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許についての異議申立ての経緯は、以下のとおりである。

平成31年2月5日 特許異議申立人川本秋枝による特許異議の申立て
同年4月15日付け 取消理由通知
令和元年6月12日 意見書の提出(特許権者)
同年6月28日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年8月29日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年10月3日 意見書の提出(特許異議申立人)
同年11月13日付け 審尋
同年12月17日 回答書の提出(特許権者)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容

令和元年8月29日付けの訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の内容は、特許請求の範囲または発明の詳細な説明を訂正する以下の訂正事項1?3を含むものである。

訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「アクリロニトリル及びメタクリロニトリルから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)」
と記載されているのを、
「アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)」
に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する)

訂正事項2
本件訂正前の発明の詳細な説明の【0010】、【0012】、【0035】、【0045】に、それぞれ、
「アクリロニトリル及びメタクリロニトリルから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)」
と記載されているのを、 いずれも、
「アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)」
に訂正する。

訂正事項3
本件訂正前の発明の詳細な説明の【0013】に
「上記重合性モノマー(I)は、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルから選択される少なくとも1種からなる。」
と記載されているのを、
「上記重合性モノマー(I)は、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる。」
に訂正する。

2 訂正の適否
(1) 一群の請求項について

訂正事項1は、請求項1の記載を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2?4は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項1?4は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。そして、本件訂正は、請求項1?4について請求されているから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、訂正事項2、3は、発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるところ、本件訂正は、本件特許に係る全ての請求項について請求されているから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について

本件訂正前の「アクリロニトリル及びメタクリロニトリルから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)」を、 「アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)」にする訂正は、重合性モノマー(I)の選択肢の一部を削除して減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0010】、【0012】、【0035】、【0045】には、それぞれ、「アクリロニトリル及びメタクリロニトリルから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)」との記載があるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2、3について

訂正事項2、3は、訂正事項1によって、特許請求の範囲の請求項1の「アクリロニトリル及びメタクリロニトリルから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)」が「アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)」に訂正されることにともない、発明の詳細な説明の記載も同様の訂正を行って、記載を整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

(3) 小括

以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1、3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第4?6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?4]について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明

上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ、その番号により「本件訂正発明1」などといい、まとめて、「本件訂正発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、
前記シェルは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)44?63重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)15?30重量%と、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及びスチレン系モノマーから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(IV)25.2?40重量%を含有し、前記重合性モノマー(IV)の含有量に対する前記重合性モノマー(I)の含有量の比率が2.02以下であるモノマー組成物を重合させてなる重合体からなり、発泡開始温度が130?175℃、最大発泡温度が175?188℃である
ことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項2】
モノマー組成物は、金属カチオン塩を含有し、前記金属カチオン塩の含有量がモノマーの合計量に対して、0.1?10重量%であることを特徴とする請求項1記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項3】
揮発性膨張剤は、イソブタン、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-へキサン、イソオクタン及びイソドデカンからなる群より選択される少なくとも1種であることを
特徴とする請求項1又は2記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の熱膨張性マイクロカプセルを用いてなることを特徴とする発泡成形体。」


第4 当審の判断
1 取消理由通知書に記載した取消理由について
(1) 取消理由の概要

当審が令和元年6月28日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由は、以下の取消理由1であり、刊行物として以下の甲1を引用するものである。

<取消理由1>
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してなされたものである。

<刊行物>
甲1:国際公開2011/122227号(異議申立人川本秋枝(以下、「申立人」という。)が提出した甲第1号証。)

(2) 取消理由1に対する当審の判断
ア 甲1に記載されている事項

甲1(国際公開2011/122227号)には以下の事項が記載されている。

「 請求の範囲
[請求項1] 共重合体を含有するシェルに、コア剤として揮発性液体を内包する熱膨張性マイクロカプセルであって、
前記共重合体は、ニトリル基含有メタクリルモノマー及びアミド基含有メタクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1つであるモノマーAと、カルボキシル基含有メタクリルモノマー及びエステル基含有メタクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1つであるモノマーBとを含有するモノマー混合物を重合することによって得られ、
前記モノマーA及び前記モノマーBの含有量の合計が、前記モノマー混合物中の70重量%以上であり、
前記モノマーAと前記モノマーBとの含有量の重量比が、5:5?9:1であり、
前記モノマー混合物中、メタクリロニトリル及びメタクリル酸の含有量の合計が70重量%以下である
ことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセル。」
「[0010]本発明は、共重合体を含有するシェルに、コア剤として揮発性液体を内包する熱膨張性マイクロカプセルであって、前記共重合体は、ニトリル基含有メタクリルモノマー及びアミド基含有メタクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1つであるモノマーAと、カルボキシル基含有メタクリルモノマー及びエステル基含有メタクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1つであるモノマーBとを含有するモノマー混合物を重合することによって得られ、前記モノマーA及び前記モノマーBの含有量の合計が、前記モノマー混合物中の70重量%以上であり、前記モノマーAと前記モノマーBとの含有量の重量比が、5:5?9:1であり、前記モノマー混合物中、メタクリロニトリル及びメタクリル酸の含有量の合計が70重量%以下である熱膨張性マイクロカプセルである。
以下、本発明を詳述する。」
「[0013] (中略)
なお、本明細書中、メタクリルモノマーとは、オレフィン性二重結合を有し、一般にアクリル系共重合体のモノマーとして用いられる、メタクリル酸誘導体のモノマーを意味し、アクリルモノマーとは、オレフィン性二重結合を有し、一般にアクリル系共重合体のモノマーとして用いられる、アクリル酸誘導体のモノマーを意味する。従って、本明細書中、メタクリルモノマーとアクリルモノマーとは、区別して用いられる。また、本明細書中、(メタ)アクリルとは、アクリルであってもよく、メタクリルであってもよく、アクリル及びメタクリルの両方であってもよいことを意味する。」
「[0016]上記モノマーAは、ニトリル基含有メタクリルモノマー及びアミド基含有メタクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1つであれば、特に限定されない。
例えば、上記モノマーAとして上記ニトリル基含有メタクリルモノマーを用いる場合、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、耐熱性及びガスバリア性が向上する。また、例えば、上記モノマーAとして上記ニトリル基含有メタクリルモノマーを用いず、上記アミド基含有メタクリルモノマーのみを用いる場合、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、残存モノマーが存在する場合にもニトリル基を含有せず、安全性に優れ、環境に与える影響も少ない。
[0017]上記ニトリル基含有メタクリルモノマーは特に限定されず、例えば、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらのニトリル基含有メタクリルモノマーは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。」
「[0020]上記モノマーBは、カルボキシル基含有メタクリルモノマー及びエステル基含有メタクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1つであれば、特に限定されない。
本明細書中、カルボキシル基含有メタクリルモノマーには、カルボキシル基を含有するメタクリルモノマーだけではなく、カルボキシル基の金属塩を含有するメタクリルモノマーをも含む。上記カルボキシル基含有メタクリルモノマーは特に限定されず、例えば、メタクリル酸、メタクリル酸金属塩等が挙げられる。上記メタクリル酸金属塩として、例えば、メタクリル酸マグネシウム、メタクリル酸カルシウム、メタクリル酸亜鉛等が挙げられる。これらのカルボキシル基含有メタクリルモノマーは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
[0021]上記エステル基含有メタクリルモノマーは特に限定されず、例えば、メタクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。これらのエステル基含有メタクリルモノマーは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
[0022]上記モノマーBとして上記メタクリル酸アルキルエステルを用いる場合、上記メタクリル酸アルキルエステルのエステル基は、本発明の熱膨張性マイクロカプセルを発泡成形に用いる場合に、成形時の加熱によって分解し、カルボキシル基と炭化水素とを生じる。このようなカルボキシル基は、ニトリル基又はアミド基と反応してポリメタクリルイミド構造を形成することができ、一方、炭化水素は、上記コア剤を補助するように働き、得られる熱膨張性マイクロカプセルの発泡倍率を向上させることができる。従って、上記モノマーBとして上記メタクリル酸アルキルエステルを用いることで、上記コア剤を用いなくても、高い発泡倍率を実現できる可能性がある。
[0023]上記メタクリル酸アルキルエステルは特に限定されず、例えば、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。これらのなかでは、熱によりメタクリル酸に分解しやすいことから、メタクリル酸t-ブチルが好ましい。これらのメタクリル酸アルキルエステルは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
[0024]上記モノマーAと上記モノマーBとの組み合わせは特に限定されないが、環化反応の反応性が高いことから、上記モノマーAがメタクリロニトリル又はメタクリルアミドであり、かつ、上記モノマーBがメタクリル酸又はメタクリル酸t-ブチルであることが好ましい。
更に、上記モノマー混合物中、メタクリロニトリル及びメタクリル酸の含有量の合計は、70重量%以下である。メタクリロニトリル及びメタクリル酸の含有量の合計が70重量%を超えると、上記モノマーAと上記モノマーBとの共重合反応の反応性が低くなることから、得られる熱膨張性マイクロカプセルは耐熱性及び耐久性が低下する。また、共重合反応の反応性が低くなることから、本発明の熱膨張性マイクロカプセルを製造する際の重合収率も低下する。上記モノマー混合物中、メタクリロニトリル及びメタクリル酸の含有量の合計は、65量%以下であることが好ましく、60量%以下であることがより好ましい。
[0025]上記モノマーA及び上記モノマーBの含有量の合計は、上記モノマー混合物中の70重量%以上である。上記モノマーA及び上記モノマーBの含有量の合計が70重量%未満であると、得られる共重合体においてポリメタクリルイミド構造が充分に形成されず、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、耐熱性及び耐久性が低下する。
上記モノマーA及び上記モノマーBの含有量の合計は、上記モノマー混合物中の好ましい下限が80重量%、更に好ましい下限が90重量%である。
[0026]上記モノマーAと上記モノマーBとの含有量の重量比は、5:5?9:1である。上記モノマーAと上記モノマーBとの含有量の重量比が上記範囲を外れると、得られる共重合体においてポリメタクリルイミド構造が充分に形成されず、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、耐熱性及び耐久性が低下する。また、上記モノマーBの含有量が上記範囲より多いと、上記モノマー混合物の極性が高くなりすぎ、後述するように水性分散媒体中に上記モノマー混合物を分散させて重合する際に乳化液滴が安定せず、マイクロカプセル構造が得られなくなる。
上記モノマー混合物において、上記モノマーAと上記モノマーBとの含有量の重量比は、5:5?8:2であることが好ましく、5:5?7:3であることがより好ましい。
[0027]上記モノマー混合物が、上記モノマーA及び上記モノマーB以外の他のモノマー(以下、単に他のモノマーともいう)を含有する場合、上記他のモノマーは特に限定されず、得られる熱膨張性マイクロカプセルに必要とされる特性に応じて適宜選択することができる。上記他のモノマーは、メタクリルモノマーであってもよく、アクリルモノマーであってもよい。
上記他のモノマーとして、例えば、アクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸t-ブチル、酢酸ビニル、スチレン、塩化ビニリデン等が挙げられる。」
「[0035]上記シェルは、金属カチオンを含有してもよい。
上記シェルが上記金属カチオンを含有することにより、例えば、上記カルボキシル基含有メタクリルモノマー等に由来するカルボキシル基と、上記金属カチオンとがイオン架橋を形成することにより、上記シェルの架橋効率が上がり、耐熱性が向上する。
また、上記イオン架橋を形成することにより、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、高温でもシェルの弾性率が低下しにくい。このような高温でもシェルの弾性率が低下しにくい熱膨張性マイクロカプセルは、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形方法を用いた発泡成形に用いられる場合でも、高発泡倍率で発泡することができる。
[0036]上記金属カチオンは、上記カルボキシル基含有メタクリルモノマー等に由来するカルボキシル基とイオン架橋を形成することのできる金属カチオンであれば特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらのなかでは、2?3価の金属カチオンであるCa、Zn、Alのイオンが好ましく、Znのイオンが特に好ましい。また、上記金属カチオンは、熱膨張性マイクロカプセルの製造時には、上記金属カチオンの水酸化物として添加されることが好ましい。これらの金属カチオンは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。」
「[0038]上記シェルが上記金属カチオンを含有する場合、上記金属カチオンの含有量は特に限定されないが、上記シェル中の好ましい下限が0.1重量%、好ましい上限が5.0重量%である。上記金属カチオンの含有量が0.1重量%未満であると、得られる熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性を向上させる効果が充分に得られないことがある。上記金属カチオンの含有量が5.0重量%を超えると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、高発泡倍率で発泡することができないことがある。
[0039]上記シェルは、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を含有してもよい。
[0040]上記揮発性液体は特に限定されないが、低沸点有機溶剤が好ましく、具体的には、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n-ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n-ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n-へキサン、ヘプタン、イソオクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、石油エーテル等の低分子量炭化水素、CCl3F、CCl2F2、CClF3、CClF2-CClF2等のクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル-n-プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。これらのなかでは、得られる熱膨張性マイクロカプセルが速やかに発泡を開始し、高発泡倍率で発泡できることから、イソブタン、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-へキサン、石油エーテルが好ましい。これらの揮発性液体は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。 また、上記揮発性液体として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いてもよい。」
「[0042]本発明の熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度(Tmax)は特に限定されないが、好ましい下限が190℃である。上記最大発泡温度(Tmax)が190℃未満であると、熱膨張性マイクロカプセルは耐熱性が低く、高温において、高発泡倍率で発泡できないことがある。また、上記最大発泡温度(Tmax)が190℃未満であると、例えば、熱膨張性マイクロカプセルを用いてマスターバッチペレットを製造する場合に、ペレット製造時の剪断力により発泡が生じてしまい、未発泡のマスターバッチペレットを安定して製造できないことがある。上記熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度(Tmax)は、より好ましい下限が200℃である。
なお、本明細書中、最大発泡温度(Tmax)とは、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルが最大変位量となったときの温度を意味する。」
「[0044]本発明の熱膨張性マイクロカプセルの用途は特に限定されず、例えば、熱膨張性マイクロカプセルをマトリックス樹脂に配合し、射出成形、押出成形等の成形方法を用いて成形することにより、遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等を備えた発泡成形体を製造することができる。本発明の熱膨張性マイクロカプセルは耐熱性及び耐久性に優れることから、高温で加熱する工程を有する発泡成形にも好適に適用される。
また、例えば、上記モノマーAとして上記ニトリル基含有メタクリルモノマーを用いず、上記アミド基含有メタクリルモノマーのみを用いる場合、本発明の熱膨張性マイクロカプセルは安全性に優れ、環境に与える影響も少ない。更に、例えば、上記モノマーBとして上記メタクリル酸アルキルエステルを用いる場合、本発明の熱膨張性マイクロカプセルは高発泡倍率で発泡することができ、上記コア剤を用いなくても、高い発泡倍率を実現できる可能性がある。」
「[0058](実施例1?8、比較例1?8)
重合反応容器に、水250重量部と、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製20重量%)20重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.2重量部とを投入し、水性分散媒体を調製した。次いで、表1又は2に示した配合比のモノマー100重量部と、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.8重量部及び2,2’- アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)0.6重量部と、揮発性液体としてイソペンタン20重量部及びイソオクタン10重量部とからなる油性混合液を、水性分散媒体に添加し、分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器内へ仕込み、加圧(0.5MPa)しながら70℃で24時間反応させることにより、スラリーを得た。得られたスラリーの余分な水を濾紙と吸引濾過器を用いて脱水し、更にスラリーの約2倍量の純水を用いて水洗し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを50℃のオーブンで24時間乾燥することにより、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
[0059]
(評価)
実施例及び比較例で得られた熱膨張性マイクロカプセルについて、以下の評価を行った。評価結果を表1及び2に示した。
[0060]
(1)耐熱性、発泡倍率及び耐久性
得られた熱膨張性マイクロカプセルを、加熱発泡顕微装置(ジャパンハイテック社製)を用いて5℃/minで常温から280℃まで加熱した。任意の熱膨張性マイクロカプセル5点の画像から平均粒子径の変化を5℃ごとに計測し、最大発泡温度(Tmax)(℃)を測定して耐熱性を評価した。 最大発泡温度(Tmax)が180℃未満であった場合を×、180℃以上190℃未満であった場合を△、190℃以上200℃未満であった場合を○、200℃以上であった場合を◎とした。
[0061]
また、30℃における熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径に対する、最大発泡温度(Tmax)における熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径の比を、最大発泡温度(Tmax)における発泡倍率とした。 最大発泡温度(Tmax)における発泡倍率が3.0倍未満であった場合を×、3.0倍以上4.0倍未満であった場合を△、4.0倍以上5.0倍未満であった場合を○、5.0倍以上であった場合を◎とした。」
「[0064]
[表1]




イ 刊行物に記載された発明

上記ア(特に、甲1の特許請求の範囲の記載)によれば、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1発明>
「共重合体を含有するシェルに、コア剤として揮発性液体を内包する熱膨張性マイクロカプセルであって、
前記共重合体は、ニトリル基含有メタクリルモノマー及びアミド基含有メタクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1つであるモノマーAと、
カルボキシル基含有メタクリルモノマー及びエステル基含有メタクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1つであるモノマーBとを含有するモノマー混合物を重合することによって得られ、
前記モノマーA及び前記モノマーBの含有量の合計が、前記モノマー混合物中の70重量%以上であり、
前記モノマーAと前記モノマーBとの含有量の重量比が、5:5?9:1であり、
前記モノマー混合物中、メタクリロニトリル及びメタクリル酸の含有量の合計が70重量%以下である、
熱膨張性マイクロカプセル。」

ウ 対比・判断
(ア) 本件訂正発明1について
a 本件訂正発明1と甲1発明の対比

甲1発明の「ニトリル基含有メタクリルモノマー」は、甲1に「例えば、メタクリロニトリル等が挙げられる」([0017])と説明されているから、その選択肢として「メタクリロニトリル」を含むものである。また、ニトリル基含有メタクリルモノマーとしてメタクリロニトリルを使用している具体例([0064]の[表1]に記載の実施例3?8、[0065]の[表2]に記載の比較例1?6を参照。)も記載されている。
したがって、甲1発明の「ニトリル基含有メタクリルモノマー」は、本件訂正発明1の「メタクリロニトリル」に相当する。

甲1発明の「カルボキシル基含有メタクリルモノマー」は、甲1に「上記カルボキシル基含有メタクリルモノマーは特に限定されず、例えば、メタクリル酸、メタクリル酸金属塩等が挙げられる。」([0020])と説明されているから、その選択肢として「メタクリル酸」を含むものである。また、カルボキシル基含有メタクリルモノマーとしてメタクリル酸を使用した具体例([0064]の[表1]に記載の実施例1、4?8を参照。)も記載されている。
また、本件訂正発明1の「カルボキシル基を有し、炭素数が3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)」もその選択肢として「メタクリル酸」を含むものである(【0015】)。
したがって、甲1発明の「カルボキシル基含有メタクリルモノマー」は、本件訂正発明1の「カルボキシル基を有し、炭素数が3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)」に相当する。

甲1発明の「エステル基含有メタクリルモノマー」は、甲1に「上記エステル基含有メタクリルモノマーは特に限定されず、例えば、メタクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。・・上記メタクリル酸アルキルエステルは特に限定されず、例えば、・・メタクリル酸メチル・・が挙げられる。」([0021]、[0023])と説明されているから、その選択肢として「メタクリル酸メチル」を含むものである。また、エステル基含有メタクリルモノマーとしてメタクリル酸メチルを使用している例([0064]の[表1]に記載の実施例5、6、[0065]の[表2]に記載の比較例6?7を参照。)も記載されている。
また、本件訂正発明1の「重合性モノマー(IV)」は、「(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及びスチレン系モノマーから選択される少なくとも1種からなる」ものであり、「(メタ)アクリル酸エステル」は、その選択肢として「メタクリル酸メチル」を含むものである(【0020】)。
したがって、甲1発明の「エステル基含有メタクリルモノマー」は、本件訂正発明1の「(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及びスチレン系モノマーから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(IV)」に相当する。

甲1発明の「共重合体」、「シェル」、「コア剤」、「揮発性液体」、「熱膨張性マイクロカプセル」、「モノマー混合物」は、それぞれ、本件訂正発明1の「重合体」、「シェル」、「コア剤」、「揮発性膨張剤」、「熱膨張性マイクロカプセル」、「モノマー組成物」に相当する。

したがって、本件訂正発明1と甲1発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、
前記シェルは、メタクリロニトリルと、カルボキシル基を有し、炭素数が3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)と、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及びスチレン系モノマーから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(IV)を含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体からなる
熱膨張性マイクロカプセル。」

<相違点1>
「モノマー組成物」について、本件訂正発明1は、「メタクリロニトリル及びアクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)44?63重量%」を含有すると特定されているのに対し、甲1発明は、「ニトリル基含有メタクリルモノマー及びアミド基含有メタクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1つであるモノマーA」の選択肢の1つとして「メタクリロニトリル」が含まれているものであって、メタクリロニトリルに加えてアクリロニトリルも含有する点、及び、メタクリロニトリル及びアクリロニトリルを合計で44?63重量%含有する点が、いずれも、特定されていない点
<相違点2>
本件訂正発明1は、「カルボキシル基を有し、炭素数が3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)」の含有量が「15?30重量%」に特定され、「(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及びスチレン系モノマーから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(IV)」の含有量が「25.2?40重量%」に特定され、「前記重合性モノマー(IV)の含有量に対する前記重合性モノマー(I)の含有量の比率が2.02以下」に特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点
<相違点3>
本件訂正発明1は、「発泡開始温度が130?175℃、最大発泡温度が175?188℃である」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点

b 相違点1について

甲1発明において、メタクリロニトリルは、「ニトリル基含有メタクリルモノマー及びアミド基含有メタクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1つであるモノマーA」(以下、「モノマーA」という。)の選択肢の一つであるが、アクリロニトリルは、モノマーAの選択肢には含まれていないから、甲1発明のモノマーAとしてアクリロニトリルを選択することは想定されていない。
そうすると、当業者といえども、甲1発明のモノマーAとしてメタクリロニトリル及びアクリロニトリルを選択することによって、甲1発明の「モノマー混合物」がメタクリロニトリルに加えてアクリロニトリルを含有するものとすることを容易になし得たとはいえない。

また、甲1([0027])には、甲1発明の「モノマー混合物」が、モノマーA及びモノマーB以外の他のモノマー(以下、「他のモノマー」ともいう。)を含有しうること、該他のモノマーの種類は、得られる熱膨張性マイクロカプセルに必要とされる特性に応じて適宜選択することができるものであり、メタクリルモノマーであってもよく、アクリルモノマーであってもよく、例えば、アクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸t-ブチル、酢酸ビニル、スチレン、塩化ビニリデン等が挙げられることが記載されているから、甲1には、必要とされる特性に応じて含有しても良い他のモノマーの選択肢の一つとしてアクリロニトリルが記載されている。
しかしながら、甲1には、得られる熱膨張性マイクロカプセルにいかなる特性が必要とされている場合にアクリロニトリルを選択すべきかなどの指針は記載されていないし、モノマーAについても、モノマーAとしてメタクリロニトリルを選択した場合に得られる熱膨張性マイクロカプセルにさらに必要とされる特性がいかなるものであるかに関する説明も記載されていない。
そうすると、甲1発明のモノマーAがメタクリロニトリルである場合にさらに必要とされる特性が不明であり、かつ、他のモノマーとしてアクリロニトリルを選択すると改善することができる具体的な特性も不明なのであるから、当業者といえども、甲1発明のモノマー混合物において、他のモノマーとしてアクリロニトリルを含有するものとすることを着想し、甲1発明の「モノマー混合物」がメタクリロニトリルに加えてアクリロニトリルを含有するものとすることを容易になし得たとはいえない。

さらに、メタクリロニトリル及びアクリロニトリルを合計で44?63重量%含有する点についても一応検討する。
甲1発明は、「前記モノマーA及び前記モノマーBの含有量の合計が、前記モノマー混合物中の70重量%以上であり、前記モノマーAと前記モノマーBとの含有量の重量比が、5:5?9:1であり、前記モノマー混合物中、メタクリロニトリル及びメタクリル酸の含有量の合計が70重量%以下である」と特定されているものであり、この特定を充足しないと耐熱性及び耐久性が低下する旨甲1([0024]?[0026])に記載されているから、モノマーAとしてメタクリロニトリルを選択した場合においても、耐熱性及び耐久性の観点から、上記特定を充足する範囲内(具体的には、35?70重量%。必要であれば、平成31年4月15日付け取消理由通知書の10?11頁、「相違点1について」の項を参照。)で最適化することを当業者は動機づけられると認められる。
これに対し、他のモノマーは、得られる熱膨張性マイクロカプセルに必要とされる特性に応じて選択されるものであって、その含有量は、モノマーA及びモノマーBの含有量の合計が、モノマー混合物中の70重量%以上であるから、30重量%未満である。
そうすると、当業者は、メタクリロニトリルとアクリロニトリルの含有量について、それぞれ別の観点(前者は耐熱性及び耐久性の観点であり、後者は必要とされる特性の観点)に応じて個別に最適化すべきものであることや、その合計の含有量に限定を設けた場合には、それぞれを個別に調整しうる範囲に制限が生じるため十分に最適化が行えなくなる恐れがあるとことを理解すると認められる。
したがって、当業者といえども、メタクリロニトリルとアクリロニトリルの合計の含有量に着目し、その範囲を44?63重量%に限定することを容易になし得たとは認められない。

以上のとおりであるから、当業者といえども、甲1発明において、モノマー混合物がアクリロニトリルを含むものとするとともに、メタクリロニトリル及びアクリロニトリルを合計で44?63重量%含有するものとすることにより、本件訂正発明の「アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)44?63重量%」を充足するものに特定することを容易になし得たとは認められない。

c 効果について

本件訂正発明1は、「本発明によれば、優れた耐熱性を有するとともに、発泡倍率が高く、黄変しにくく優れた外観を有する発泡成形体を作製することが可能な熱膨張性マイクロカプセル及び該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体を提供することができる。」(本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0067】)という効果を奏するものであり、さらに、特許権者が、令和元年12月17日提出の回答書に添付した乙第1号証:追試実験結果の<表A>によれば、重合性モノマー(I)として、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを用いた態様(本件訂正発明1に該当)と、メタクリロニトリルのみを用いた態様(甲1発明に該当)をそれぞれ比較すると、前者は後者に比べ、発泡倍率が高く[発泡成形体の密度(g/cm^(3))が低く]、優れた耐熱性[最大発泡温度(℃)が高い]を有するものであることも理解できる。
そして、これらの効果は、甲1に記載された事項に基づいて当業者が予測することができない顕著なものであると認められる。

d 小括

以上のとおりであるから、さらに、相違点2、3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、その優先日前日本国内または外国において頒布された甲1に記載された発明に基いてその優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、本件訂正発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものであるとすることはできない。

(イ) 本件訂正発明2?4について

本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用しさらに、「モノマー組成物は、金属カチオン塩を含有し、前記金属カチオン塩の含有量がモノマーの合計量に対して、0.1?10重量%である」点を特定したものであり、本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は2を引用しさらに、「揮発性膨張剤は、イソブタン、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-へキサン、イソオクタン及びイソドデカンからなる群より選択される少なくとも1種である」点を特定したものであり、本件訂正発明4は、本件訂正発明1、2又は3の熱膨張性マイクロカプセルを用いてなることを特徴とする発泡成形体の発明であるが、上記のとおり、本件訂正発明1は、その優先日前日本国内または外国において頒布された甲1に記載された発明に基いてその優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件訂正発明2?4も本件訂正発明1と同様の理由により、その優先日前日本国内または外国において頒布された甲1に記載された発明に基いてその優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものであるとすることはできない。

エ 小括

以上のとおりであるから、取消理由1によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由通知書で採用しなかった特許異議申立ての理由について
(1) 取消理由の概要

申立人が申し立てた理由のうち、上記1の取消理由として採用しなかった取消理由は、以下の取消理由2、3であり、取消理由2は、刊行物として甲1及び以下の甲2を引用するものである。

<取消理由2>
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物(甲1及び下記甲2)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してなされたものである。
<取消理由3>
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない出願に対してなされたものである。
<刊行物>
甲1(国際公開2011/122227号)
甲2:特表2003-531928号公報(申立人が提出した甲第2号証。)

(2) 取消理由2に対する当審の判断

取消理由2は、刊行物として甲1に加えて甲2を引用するものであるが、甲2は、「熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度及び最大発泡温度は、内包剤種や開始剤種を変更することで、容易に調整できることは当業者の技術常識である」ことを立証する証拠(特許異議申立書12頁14?20行)であるから、取消理由2は、実質的に、甲1のみを引用するものであり、したがって、取消理由1と実質的に同一のものである。
また、当該技術常識の有無は、上記1(2)ウb相違点1について、の判断に影響を与えないから、仮に、実質的に相違する取消理由であるとしても、取消理由1と同様の理由により、取消理由2によって、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。

(3) 取消理由3に対する当審の判断

特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この手法に沿って検討する。

ア 発明の詳細な説明の記載

本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた耐熱性を有するとともに、発泡倍率が高く、黄変しにくく優れた外観を有する発泡成形体を作製することが可能な熱膨張性マイクロカプセル及び該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体を提供することを目的とする。なお、「黄変しにくい」とは、「熱膨張性マイクロカプセルの添加に起因する黄変が起こりにくい」ことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、前記シェルは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(I)44?63重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)15?30重量%と、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及びスチレン系モノマーから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(IV)25.2?40重量%を含有し、前記重合性モノマー(IV)の含有量に対する前記重合性モノマー(I)の含有量の比率が2.02以下であるモノマー組成物を重合させてなる重合体からなり、発泡開始温度が130?175℃、最大発泡温度が175?188℃である熱膨張性マイクロカプセルである。
以下、本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、重合性モノマー(I)、ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)、架橋モノマー(III)及び重合性モノマー(IV)を含有し、かつ、各モノマーの比率を所定の範囲内とした場合、高温度域において安定した発泡性能を実現することができ、発泡倍率が高く、優れた外観を有する発泡成形体を作製することが可能な熱膨張性マイクロカプセルが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。」
「【0047】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、上述した工程を経て得られた分散液を、例えば、加熱することによりモノマーを重合させる工程を行うことにより、製造することができる。このような方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度が高く、耐熱性に優れ、高温領域や成形加工時においても破裂、収縮することがない。また、耐熱性が高いので、マスターバッチペレット製造時に剪断によって発泡することが無く、未発泡のマスターバッチペレットを安定して製造することができる。
【0048】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルに、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂を加えた樹脂組成物又はマスターバッチペレットを、射出成形等の成形方法を用いて成形し、成形時の加熱により、上記熱膨張性マイクロカプセルを発泡させることにより、発泡成形体を製造することができる。このような発泡成形体もまた本発明の1つである。
このような方法で得られる本発明の発泡成形体は、高外観品質が得られ、独立気泡が均一に形成されており、軽量性、断熱性、耐衝撃性、剛性等に優れるものとなり、住宅用建材、自動車用部材、靴底等の用途に好適に用いることができる。」
「【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0055】
(実施例1)
(熱膨張性マイクロカプセルの作製)
固形分20重量%のコロイダルシリカ130重量部、ポリビニルピロリドン6重量部、塩化ナトリウム640重量部をイオン交換水2,000重量部に加え混合した後、pH3.5に調整し水系分散媒体を調製した。
アクリロニトリル238重量部、メタクリロニトリル113重量部、メタクリル酸113重量部、メタクリル酸メチル287重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート3重量部を混合して均一溶液のモノマー組成物とした。これに2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)10g、ノルマルペンタン238重量部を添加してオートクレーブ中に仕込み混合した。
その後、水系分散媒体をオートクレーブ中に仕込み、10分間1,000rpmで攪拌後、窒素置換し、反応温度60℃で15時間反応させた。反応圧力は0.5MPa、攪拌は200rpmで行った。得られた重合スラリーを脱水装置(セントル)で予備脱水した後に乾燥させて、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0056】
(発泡成形体の作製)
ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に可塑剤としてフタル酸ジオクチル70重量部、黒顔料としてカーボンブラック3重量部、実施例1で得られた熱膨張性マイクロカプセル3重量部を混合した。続いて型締力約350トン、スクリュー径60mmを有する射出成形機を用いて、射出圧力約1860kg/cm^(2)、シリンダー温度190℃にて射出成形を行い、直径250mm×厚み3mmの円盤状の発泡成形体を得た。」
「【0059】
(評価方法)
得られた熱膨張性マイクロカプセル及び発泡成形体の性能を以下の方法で評価した。結果を表1、2に示した。
【0060】
(1)熱膨張性マイクロカプセルの評価
(1-1)体積平均粒子径
粒度分布径測定器(LA-950、HORIBA社製)を用い、体積平均粒子径を測定した。
【0061】
(1-2)発泡開始温度、最大発泡温度
熱機械分析装置(TMA)(TMA2940、TA instruments社製)を用い、発泡開始温度(Ts)及び最大発泡温度(Tmax)を測定した。具体的には、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から250℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度とした。また、発泡倍率を測定し、発泡倍率が最大となる温度を最大発泡温度とした。
【0062】
(2)発泡成形体の評価
(2-1)密度の測定
得られた成形体の密度をJIS K-7112 A法(水中置換法)に準拠した方法により測定した。
【0063】
(2-2)外観(成形品表面)
成形品表面の白斑点の個数を目視にて計数した。
【0064】
(2-3)黄色度(YI)
色差計(NR-3000、日本電色工業社製)を用いて成形品表面の黄色度を測定し、YI値を得た。
【0065】
【表1】



イ 発明が解決しようとする課題

上記アによれば、本件特許発明が解決しょうとする課題は、「優れた耐熱性を有するとともに、発泡倍率が高く、黄変しにくく優れた外観を有する発泡成形体を作製することが可能な熱膨張性マイクロカプセル及び該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体を提供すること」(【0009】。以下、「本件課題」という。)であると認められる。

ウ 検討・判断

発明の詳細な説明には、本件課題の「優れた耐熱性」、「発泡倍率が高く」、「黄変しにくく」、及び、「優れた外観」を満足するか否かを判断する手法(判断基準)に関する具体的な説明などが記載されていないが、実施例等において、「熱膨張性マイクロカプセルの作成」(【0055】)及び「発泡成形体の作製」(【0056】)を行うとともに、その評価(【0060】?【0066】)が行われていて、「最大発泡温度」、「密度」、「黄色度(YI)」、「白斑点個数」等の物性が測定されている。
そうすると、これらの物性が、それぞれ、「優れた耐熱性」、「発泡倍率が高く」、「黄変しにくく」、及び、「優れた外観」を評価する指標であり、また、その測定値が実施例1?3、9の測定値と同等であれば(それぞれ、175?188℃、0.72?0.79g/cm^(3)、18.1?19.3、及び、0個であれば)、「優れた耐熱性」、「発泡倍率が高く」、「黄変しにくく」、及び、「優れた外観」を満足する(以下、「仮の判断基準」という。)と解する余地があるので、この理解が合理的なものであるといえるか、以下、検討する。
なお、上述のとおり、「仮の判断基準」は、要するに、本件訂正発明の実施例が満足する物性に基づくものであるから、「仮の判断基準」が合理的なものであるといえるのであれば、本件訂正発明が、(「仮の判断基準」に基づき)本件課題を解決することができるものであることは、明らかである。

比較例の記載について、「仮の判断基準」を適用し、矛盾等が生じないか検討する。
比較例3は、その最大発泡温度が172℃であって、「仮の判断基準」(175?188℃)と比べると低いので、耐熱性が劣っているといえるから、比較例であることに矛盾はない。
同様に、比較例3、4は、その密度が0.92または0.85g/cm^(3)であって、「仮の判断基準」(0.72?0.79g/cm^(3))と比べて大きい(したがって、発泡倍率が低いと理解できる)ので、発泡倍率が劣っているといえるから、比較例であることに矛盾はなく、比較例1、2、4、5は、その黄色度(YI)が19.4?36.5であって、「仮の判断基準」(18.1?19.3)と比べて大きいので、黄変しにくさの点で劣っているといえるから、比較例であることに矛盾はなく、比較例1、2、5は、その白斑点個数が15?77個であって、「仮の判断基準」(0個)と比べて多いので、外観が劣っているといえるから、比較例であることに矛盾はない。
したがって、「仮の判断基準」は、比較例の記載と矛盾しないものである。
また、他に発明の詳細な説明に、「仮の判断基準」と矛盾等を生じるような記載を見いだせない。
そうすると、本件課題の「優れた耐熱性」、「発泡倍率が高く」、「黄変しにくく」、及び、「優れた外観」を満足するか否かを判断する手法(判断基準)を、発明の詳細な説明の記載に基づき、「仮の判断基準」であるとすることは、合理的であると認められる。

したがって、本件訂正発明1?4は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められるので、取消理由2によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり、決定する。





 
発明の名称 (54)【発明の名称】
熱膨張性マイクロカプセル及び発泡成形体
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐熱性を有するとともに、発泡倍率が高く、黄変しにくく優れた外観を有する発泡成形体を作製することが可能な熱膨張性マイクロカプセル及び該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱膨張性マイクロカプセルは、意匠性付与剤や軽量化剤として幅広い用途に使用されており、発泡インク、壁紙をはじめとした軽量化を目的とした塗料等にも利用されている。
このような熱膨張性マイクロカプセルとしては、熱可塑性シェルポリマーの中に、シェルポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる揮発性膨張剤が内包されているものが広く知られており、例えば、特許文献1には、低沸点の脂肪族炭化水素等の揮発性膨張剤をモノマーと混合した油性混合液を、油溶性重合触媒とともに分散剤を含有する水系分散媒体中に攪拌しながら添加し懸濁重合を行うことにより、揮発性膨張剤を内包する熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、この方法によって得られた熱膨張性マイクロカプセルは、80?130℃程度の比較的低温で熱膨張させることができるものの、高温又は長時間加熱すると、膨張したマイクロカプセルが破裂又は収縮してしまい発泡倍率が低下するため、耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルを得ることができないという欠点を有していた。
【0004】
一方、特許文献2には、ニトリル系モノマー80?97重量%、非ニトリル系モノマー20?3重量%及び三官能性架橋剤0.1?1重量%を含有する重合成分から得られるポリマーをシェルとして用い、揮発性膨張剤を内包させた熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法が開示されている。
また、特許文献3には、ニトリル系モノマー80重量%以上、非ニトリル系モノマー20重量%以下及び架橋剤0.1?1重量%を含有する重合成分から得られるポリマーを用い、揮発性膨張剤を内包させた熱膨張性マイクロカプセルにおいて、非ニトリル系モノマーがメタクリル酸エステル類又はアクリル酸エステル類である熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。
【0005】
これらの方法によって得られる熱膨張性マイクロカプセルは、従来のマイクロカプセルに比べ耐熱性に優れ、140℃以下では発泡しないとされているが、実際には130?140℃で1分程度加熱を続けると一部のマイクロカプセルが熱膨張してしまうものであり、最大発泡温度が180℃以上の優れた耐熱性を有する熱膨張性マイクロカプセルを得ることは困難であった。
【0006】
更に、特許文献4には、最大発泡温度が180℃以上、好ましくは190℃以上である熱膨張性マイクロカプセルを得ることを目的として、85重量%以上のニトリル基をもつエチレン性不飽和モノマーの単独重合体又は共重合体からなるシェルポリマーと50重量%以上のイソオクタンを有する発泡剤からなる熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。
このような熱膨張性マイクロカプセルでは、最大発泡温度が非常に高い値となっているものの、その後の膨張した状態を維持することができず、高温領域における長時間の使用は困難であった。
【0007】
更に、特許文献5?9には、熱膨張性マイクロカプセルのシェルを構成するモノマーを規定することで、広範囲な発泡温度領域、特に高温領域(160℃以上)において良好な発泡性能を有し、耐熱性をより向上させた熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。しかしながら、この熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度は高い値を示すものの、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形加工、特に射出成形に使用した場合、溶融混練工程において、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性や強度の問題から、いわゆる「へたり」と呼ばれる現象が生じたり、潰れてしまったり、更には、得られる成形体が黄変してしまうことがあった。また、熱膨張性マイクロカプセルを発泡させる工程においては、発泡倍率が低く、発泡倍率にバラツキがあることによって、熱膨張性マイクロカプセルが充分に発泡せず、得られる成形体は、外観や、軽量性等の機能性の面で劣るものとなっていた。
また、熱膨張性マイクロカプセルの凝集に起因する白斑点が発泡成形体の表面に発生し、発泡成形体の外観を著しく損ねていた。
従って、優れた耐熱性と発泡倍率を有し、黄変しにくく優れた外観を有する発泡成形体を作製することが可能な熱膨張性マイクロカプセルが必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭42-26524号公報
【特許文献2】特公平5-15499号公報
【特許文献3】特許第2894990号公報
【特許文献4】欧州特許出願公開第1149628号明細書
【特許文献5】国際公開2003/099955号
【特許文献6】特開2009-113037号公報
【特許文献7】特開2009-299071号公報
【特許文献8】特開2013-32542号公報
【特許文献9】特開2013-28818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた耐熱性を有するとともに、発泡倍率が高く、黄変しにくく優れた外観を有する発泡成形体を作製することが可能な熱膨張性マイクロカプセル及び該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体を提供することを目的とする。なお、「黄変しにくい」とは、「熱膨張性マイクロカプセルの添加に起因する黄変が起こりにくい」ことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、前記シェルは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)44?63重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)15?30重量%と、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及びスチレン系モノマーから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(IV)25.2?40重量%を含有し、前記重合性モノマー(IV)の含有量に対する前記重合性モノマー(I)の含有量の比率が2.02以下であるモノマー組成物を重合させてなる重合体からなり、発泡開始温度が130?175℃、最大発泡温度が175?188℃である熱膨張性マイクロカプセルである。
以下、本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、重合性モノマー(I)、ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)、架橋モノマー(III)及び重合性モノマー(IV)を含有し、かつ、各モノマーの比率を所定の範囲内とした場合、高温度域において安定した発泡性能を実現することができ、発泡倍率が高く、優れた外観を有する発泡成形体を作製することが可能な熱膨張性マイクロカプセルが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを構成するシェルは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)44?63重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)15?30重量%と、分子内に二重結合を2つ以上有する架橋性モノマー(III)0.1?3.0重量%と、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及びスチレン系モノマーから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(IV)21?40重量%を含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体からなる。
【0013】
上記重合性モノマー(I)は、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる。上記重合性モノマー(I)を添加することで、シェルのガスバリア性を向上させることができる。
【0014】
上記モノマー組成物中の重合性モノマー(I)の含有量の下限は44重量%、上限は63重量%である。44重量%未満であると、シェルのガスバリア性が低くなるため発泡倍率が低下することがある。63重量%を超えると、耐熱性が上がってこないことや、黄変し易くなることがある。好ましい下限は50重量%、好ましい上限は60重量%である。
【0015】
上記カルボキシル基を有し、炭素数が3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)としては、例えば、イオン架橋させるための遊離カルボキシル基を分子当たり1個以上持つものを用いることができ、具体的には例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸やその無水物又はマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステルやその誘導体が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、特にアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸が好ましい。
【0016】
上記モノマー組成物中における、上記カルボキシル基を有し、炭素数3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)に由来するセグメントの含有量の下限は15重量%、上限は30重量%である。15重量%未満であると、最大発泡温度が175℃未満となることがあり、30重量%を超えると、最大発泡温度は向上するものの、発泡倍率が低下する。好ましい下限は17重量%、好ましい上限は28重量%である。
【0017】
上記モノマー組成物は、分子内に二重結合を2つ以上有する架橋性モノマー(III)を含有する。上記架橋性モノマー(III)は、架橋剤としての役割を有する。上記架橋性モノマー(III)を含有することにより、シェルの強度を強化することができ、熱膨張時にセル壁が破泡し難くなる。
【0018】
上記架橋性モノマー(III)としては、ラジカル重合性二重結合を2つ以上有するモノマーが挙げられ、具体例には例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール
ジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、重量平均分子量が200?600であるポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのなかでは、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能性のものや、ポリエチレングリコール等の2官能性の(メタ)アクリレートが、アクリロニトリルを主体としたシェルには比較的均一に架橋が施され、200℃を超える高温領域でも熱膨張したマイクロカプセルが収縮しにくく、膨張した状態を維持しやすいため、いわゆる「へたり」と呼ばれる現象を抑制することができ、好適に用いられる。
【0019】
上記モノマー組成物中における、上記架橋性モノマー(III)の含有量の下限は0.1重量%、上限は3.0重量%である。上記架橋性モノマー(III)の含有量が0.1重量%未満であると、架橋剤としての効果が発揮されないことがあり、上記架橋性モノマー(III)を3.0重量%を超えて添加した場合、熱膨張性マイクロカプセルの発泡倍率が低下する。上記架橋性モノマー(III)の含有量の好ましい下限は0.15重量%、好ましい上限は2.0重量%である。
【0020】
上記モノマー組成物は、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及びスチレン系モノマーから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(IV)を含有する。上記重合性モノマー(IV)を含有することで、熱膨張性マイクロカプセルと熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂の混和性が良好となり、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体が優れた外観を有する。
なかでも、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、特に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル類、又は、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニル等の脂環・芳香環・複素環含有メタクリル酸エステル類が好ましい。
【0021】
上記モノマー組成物中における、上記重合性モノマー(IV)の含有量の上限は21重量%、下限は40重量%である。上記重合性モノマー(IV)の含有量が21重量%未満であると、熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体の外観が低下し、40重量%を超えると、セル壁のガスバリア性が低下し、熱膨張性が悪化しやすくなる。上記重合性モノマー(IV)の含有量の好ましい下限は22重量%、好ましい上限は35重量%である。上記重合性モノマー(IV)の含有量のより好ましい下限は23重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0022】
上記モノマー組成物中における、上記重合性モノマー(IV)の含有量に対する上記重合性モノマー(I)の含有量を調整することで、黄変の少ない発泡成形品を得ることができる。上記重合性モノマー(IV)に対する重合性モノマー(I)の比率の好ましい上限は3.0である。上記重合性モノマー(IV)に対する重合性モノマー(I)の比率が3.0を超えると、熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体が黄変することがある。
上記重合性モノマー(IV)に対する重合性モノマー(I)の比率のより好ましい上限は2.7である。また、上記重合性モノマー(IV)に対する重合性モノマー(I)の比率の好ましい下限は1.0である。
【0023】
上記モノマー組成物は、金属カチオン塩を含有することが好ましい。
上記金属カチオン塩を含有することで、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)とカルボキシル基との間でイオン架橋が起こることから、架橋効率が上がり、耐熱性を高くすることが可能となる。その結果、高温領域において長時間破裂、収縮の起こらない熱膨張性マイクロカプセルとすることが可能となる。また、高温領域においてもシェルの弾性率が低下しにくいことから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形加工を行う場合であっても、熱膨張性マイクロカプセルの破裂、収縮が起こることがない。
また、共有結合でなくイオン架橋が起こることによって、熱膨張性マイクロカプセルの粒子形状が真球に近くなり、歪みが生じにくくなる。これは、イオン結合による架橋が、共有結合による架橋に比べて結合力が弱いため、重合中のモノマーからポリマーへ転化時において、熱膨張性マイクロカプセルの体積が収縮する際に均一に収縮が生じることが原因と考えられる。
【0024】
上記金属カチオン塩の金属カチオンとしては、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)と反応してイオン架橋させる金属カチオンであれば、特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらのなかでは、2?3価の金属カチオンであるCa、Zn、Alのイオンが好ましく、特にZnのイオンが好適である。これらの金属カチオン塩は、単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0025】
なお、上記金属カチオン塩を2種以上用いる場合の組み合わせとしては特に限定されないが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンと上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンとを組み合わせて用いることが好ましい。上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンを有することにより、カルボキシル基等の官能基が活性化され、上記アルカリ金属以外の金属カチオンと上記カルボキシル基等との反応を促進させることができる。上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属としては、例えば、Na、K、Li、Ca、Ba、Sr等が挙げられ、なかでも塩基性の強いNa、K等を用いることが好ましい。
【0026】
上記金属カチオン塩の含有量の好ましい下限は、モノマーの合計量に対して0.1重量%、好ましい上限が10重量%である。0.1重量%未満であると、耐熱性に効果が得られないことがあり、10重量%を超えると、発泡倍率が著しく悪くなることがある。より好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は5重量%である。
【0027】
上記モノマー組成物中には、上記モノマーを重合させるため、重合開始剤を含有させる。上記重合開始剤としては、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が好適に用いられる。具体例には、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどの過酸化ジアルキル;イソブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの過酸化ジアシル;t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α、α-ビス-ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼンなどのパーオキシエステル;ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピル-オキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート;2、2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)などのアゾ化合物等が挙げられる。
【0028】
上記シェルを構成する重合体の重量平均分子量の好ましい下限は10万、好ましい上限は200万である。10万未満であると、シェルの強度が低下することがあり、200万を超えると、シェルの強度が高くなりすぎ、発泡倍率が低下することがある。
【0029】
上記シェルは、更に必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を含有していてもよい。
【0030】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、上記シェルにコア剤として揮発性膨張剤が内包されている。
上記揮発性膨張剤は、シェルを構成するポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる物質であり、低沸点有機溶剤が好適である。
上記揮発性膨張剤としては、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n-ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n-ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n-ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、イソオクタン、オクタン、デカン、イソドデカン、ドデカン、ヘキサンデカン等の低分子量炭化水素;CCl_(3)F、CCl_(2)F_(2)、CClF_(3)、CClF_(2)-CClF_(2)等のクロロフルオロカーボン;テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル-n-プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。なかでも、イソブタン、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、イソオクタン、イソドデカン及び、これらの混合物が好ましい。これらの揮発性膨張剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状となる熱分解型化合物を用いてもよい。
【0031】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルでは、上述した揮発性膨張剤のなかでも、炭素数が5以下の低沸点炭化水素を用いることが好ましい。このような炭化水素を用いることにより、発泡倍率が高く、速やかに発泡を開始する熱膨張性マイクロカプセルとすることができる。
また、揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いることとしてもよい。
【0032】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度(Tmax)の好ましい下限が175℃である。175℃未満であると、耐熱性が低くなることから、高温領域や成形加工時において、熱膨張性マイクロカプセルが破裂、収縮する。また、マスターバッチペレット製造時に剪断により発泡してしまい、未発泡のマスターバッチペレットを安定して製造することができない。より好ましい下限は180℃、好ましい上限は240℃である。
なお、本明細書において、最大発泡温度は、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルの径が最大となったとき(最大変位量)における温度を意味する。
【0033】
また、発泡開始温度(Ts)の好ましい上限は175℃である。175℃を超えると特に射出成形の場合、金型に樹脂材料をフル充填した後に金型を発泡させたいところまで開くコアバック発泡成形においては、コアバック発泡過程で樹脂温度が冷えてしまい発泡倍率
が上がらないことがある。好ましい下限は130℃、より好ましい上限は160℃である。
【0034】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径の好ましい下限は5μm、好ましい上限は100μmである。5μm未満であると、得られる成形体の気泡が小さすぎるため、成形体の軽量化が不充分となることがあり、100μmを超えると、得られる成形体の気泡が大きくなりすぎるため、強度等の面で問題となることがある。より好ましい下限は10μm、より好ましい上限は45μmである。
【0035】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法としては特に限定されないが、例えば、水性媒体を調製する工程、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)44?63重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)15?30重量%と、分子内に二重結合を2つ以上有する架橋性モノマー(III)0.1?3.0重量%と、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及びスチレン系モノマーから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(IV)21?40重量%を含有するモノマー組成物と、揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程、及び、上記モノマーを重合させる工程を行うことにより製造することができる。
【0036】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを製造する場合、最初に水性媒体を調製する工程を行う。具体例には例えば、重合反応容器に、水と分散安定剤、必要に応じて補助安定剤を加えることにより、分散安定剤を含有する水性分散媒体を調製する。また、必要に応じて、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0037】
上記分散安定剤としては、例えば、シリカ、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0038】
上記分散安定剤の添加量は特に限定されず、分散安定剤の種類、マイクロカプセルの粒子径等により適宜決定されるが、モノマー100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が20重量部である。
【0039】
上記補助安定剤としては、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
【0040】
また、上記分散安定剤と補助安定剤との組み合わせとしては特に限定されず、例えば、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせ、コロイダルシリカと水溶性窒素含有化合物との組み合わせ、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムと乳化剤との組み合わせ等が挙げられる。これらの中では、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせが好ましい。
更に、上記縮合生成物としては、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物が好ましく、特にジエタノールアミンとアジピン酸との縮合物やジエタノールアミンとイタコン酸との縮合生成物が好ましい。
【0041】
上記水溶性窒素含有化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートやポ
リジメチルアミノエチルアクリレートに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドやポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミドに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等が挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好適に用いられる。
【0042】
上記コロイダルシリカの添加量は、熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定されるが、ビニル系モノマー100重量部に対して、好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。更に好ましい下限は2重量部、更に好ましい上限は10重量部である。また、上記縮合生成物又は水溶性窒素含有化合物の量についても熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定されるが、モノマー100重量部に対して、好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が2重量部である。
【0043】
上記分散安定剤及び補助安定剤に加えて、更に塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。無機塩を添加することで、より均一な粒子形状を有する熱膨張性マイクロカプセルが得ることができる。上記無機塩の添加量は、通常、モノマー100重量部に対して0?100重量部が好ましい。
【0044】
上記分散安定剤を含有する水性分散媒体は、分散安定剤や補助安定剤を脱イオン水に配合して調製され、この際の水相のpHは、使用する分散安定剤や補助安定剤の種類によって適宜決められる。例えば、分散安定剤としてコロイダルシリカ等のシリカを使用する場合は、酸性媒体で重合がおこなわれ、水性媒体を酸性にするには、必要に応じて塩酸等の酸を加えて系のpHが3?4に調製される。一方、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムを使用する場合は、アルカリ性媒体の中で重合させる。
【0045】
次いで、熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法では、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)44?63重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)15?30重量%と、分子内に二重結合を2つ以上有する架橋性モノマー(III)0.1?3.0重量%と、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及びスチレン系モノマーから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(IV)21?40重量%を含有するモノマー組成物と、揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を水性媒体中に分散させる工程を行う。この工程では、モノマー組成物及び揮発性膨張剤を別々に水性分散媒体に添加して、水性分散媒体中で油性混合液を調製してもよいが、通常は、予め両者を混合し油性混合液としてから、水性分散媒体に添加する。この際、油性混合液と水性分散媒体とを予め別々の容器で調製しておき、別の容器で攪拌しながら混合することにより油性混合液を水性分散媒体に分散させた後、重合反応容器に添加しても良い。
なお、上記モノマーを重合するために、重合開始剤が使用されるが、上記重合開始剤は、予め上記油性混合液に添加してもよく、水性分散媒体と油性混合液とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよい。
【0046】
上記油性混合液を水性分散媒体中に所定の粒子径で乳化分散させる方法としては、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法や、ラインミキサーやエレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。
なお、上記静止型分散装置には水系分散媒体と重合性混合物を別々に供給してもよいし、予め混合、攪拌した分散液を供給してもよい。
【0047】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、上述した工程を経て得られた分散液を、例えば、加熱することによりモノマーを重合させる工程を行うことにより、製造することができる。このような方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度が高く、耐熱性に優れ、高温領域や成形加工時においても破裂、収縮することがない。また、耐熱性が高いので、マスターバッチペレット製造時に剪断によって発泡することが無く、未発泡のマスターバッチペレットを安定して製造することができる。
【0048】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルに、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂を加えた樹脂組成物又はマスターバッチペレットを、射出成形等の成形方法を用いて成形し、成形時の加熱により、上記熱膨張性マイクロカプセルを発泡させることにより、発泡成形体を製造することができる。このような発泡成形体もまた本発明の1つである。
このような方法で得られる本発明の発泡成形体は、高外観品質が得られ、独立気泡が均一に形成されており、軽量性、断熱性、耐衝撃性、剛性等に優れるものとなり、住宅用建材、自動車用部材、靴底等の用途に好適に用いることができる。
【0049】
上記熱可塑性樹脂としては、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレン等の一般的な熱可塑性樹脂;ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。また、エチレン系、塩化ビニル系、オレフィン系、ウレタン系、エステル系等の熱可塑性エラストマーを使用してもよく、これらの樹脂を併用して使用してもよい。
【0050】
上記熱可塑性樹脂100重量部に対する熱膨張性マイクロカプセルの添加量は0.5?20重量部、好ましくは1?10重量部が適量である。また、炭酸水素ナトリウム(重曹)やADCA(アゾ系)等の化学発泡剤と併用することもできる。また、溶融させた熱可塑性樹脂に物理ガス(水蒸気、窒素、炭酸ガス等)又は超臨界流体(炭酸ガス、窒素等)を注入して発泡させる場合にも、熱膨張性マイクロカプセルを併用することもできる。
【0051】
上記マスターバッチペレットを製造する方法としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂、各種添加剤等の原材料を、同方向2軸押出機等を用いて予め混練する。次いで、所定温度まで加熱し、本発明の熱膨張マイクロカプセル等の発泡剤を添加した後、更に混練することにより得られる混練物を、ペレタイザーにて所望の大きさに切断することによりペレット形状にしてマスターバッチペレットとする方法等が挙げられる。このとき、耐熱性の低い熱膨張性マイクロカプセルを用いた場合は、混練による剪断により発泡してしまう問題があった。この時点で微発泡してしまえば、その後の発泡成形で所望の発泡倍率が得難く、バラツキも大きくなる。
また、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂や熱膨張性マイクロカプセル等の原材料をバッチ式の混練機で混練した後、造粒機で造粒することによりペレット形状のマスターバッチペレットを製造してもよい。
上記混練機としては、熱膨張性マイクロカプセルを破壊することなく混練できるものであれば特に限定されず、例えば、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等が挙げられる。
【0052】
本発明の発泡成形体の成形方法としては、特に限定されず、例えば、混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等が挙げられる。射出成形の場合、工法は特に限定されず、金型に樹脂材料を一部入れて発泡させるショートショット法や金型に樹脂材料をフル充填した後に金型を発泡させたいところまで開くコアバック法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、優れた耐熱性が得られることから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等にも好適に使用可能な熱膨張性マイクロカプセルとすることができる。また、発泡倍率が高く、所望の発泡特性を有する発泡成形体が得られる。更に、得られる発泡成形体は、外観に優れ、黄変しにくいものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0055】
(実施例1)
(熱膨張性マイクロカプセルの作製)
固形分20重量%のコロイダルシリカ130重量部、ポリビニルピロリドン6重量部、塩化ナトリウム640重量部をイオン交換水2,000重量部に加え混合した後、pH3.5に調整し水系分散媒体を調製した。
アクリロニトリル238重量部、メタクリロニトリル113重量部、メタクリル酸113重量部、メタクリル酸メチル287重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート3重量部を混合して均一溶液のモノマー組成物とした。これに2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)10g、ノルマルペンタン238重量部を添加してオートクレーブ中に仕込み混合した。
その後、水系分散媒体をオートクレーブ中に仕込み、10分間1,000rpmで攪拌後、窒素置換し、反応温度60℃で15時間反応させた。反応圧力は0.5MPa、攪拌は200rpmで行った。得られた重合スラリーを脱水装置(セントル)で予備脱水した後に乾燥させて、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0056】
(発泡成形体の作製)
ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に可塑剤としてフタル酸ジオクチル70重量部、黒顔料としてカーボンブラック3重量部、実施例1で得られた熱膨張性マイクロカプセル3重量部を混合した。続いて型締力約350トン、スクリュー径60mmを有する射出成形機を用いて、射出圧力約1860kg/cm2、シリンダー温度190℃にて射出成形を行い、直径250mm×厚み3mmの円盤状の発泡成形体を得た。
【0057】
(実施例2?3、参考例4?7、実施例9、参考例10、比較例1?5)
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、トリメチロールプロパントリメタクリレートを表1、2に示す組成で混合し、モノマー組成物とした以外は実施例1と同様にして熱膨張性マイクロカプセル及び発泡成形体を得た。
【0058】
(参考例8)
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、トリメチロールプロパントリメタクリレートを表1に示す組成で混合してモノマー組成物とし、更に金属カチオン塩である水酸化亜鉛を3.8重量部添加した以外は実施例1と同様にして熱膨張性マイクロカプセル及び発泡成形体を得た。
【0059】
(評価方法)
得られた熱膨張性マイクロカプセル及び発泡成形体の性能を以下の方法で評価した。結果を表1、2に示した。
【0060】
(1)熱膨張性マイクロカプセルの評価
(1-1)体積平均粒子径
粒度分布径測定器(LA-950、HORIBA社製)を用い、体積平均粒子径を測定した。
【0061】
(1-2)発泡開始温度、最大発泡温度
熱機械分析装置(TMA)(TMA2940、TA instruments社製)を用い、発泡開始温度(Ts)及び最大発泡温度(Tmax)を測定した。具体的には、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から250℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度とした。また、発泡倍率を測定し、発泡倍率が最大となる温度を最大発泡温度とした。
【0062】
(2)発泡成形体の評価
(2-1)密度の測定
得られた成形体の密度をJIS K-7112 A法(水中置換法)に準拠した方法により測定した。
【0063】
(2-2)外観(成形品表面)
成形品表面の白斑点の個数を目視にて計数した。
【0064】
(2-3)黄色度(YI)
色差計(NR-3000、日本電色工業社製)を用いて成形品表面の黄色度を測定し、YI値を得た。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、優れた耐熱性を有するとともに、発泡倍率が高く、黄変しにくく優れた外観を有する発泡成形体を作製することが可能な熱膨張性マイクロカプセル及び該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡成形体を提供することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、
前記シェルは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルからなる重合性モノマー(I)44?63重量%と、カルボキシル基を有し、炭素数が3?8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー(II)15?30重量%と、(メタ)アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル及びスチレン系モノマーから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマー(IV)25.2?40重量%を含有し、前記重合性モノマー(IV)の含有量に対する前記重合性モノマー(I)の含有量の比率が2.02以下であるモノマー組成物を重合させてなる重合体からなり、発泡開始温度が130?175℃、最大発泡温度が175?188℃である
ことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項2】
モノマー組成物は、金属カチオン塩を含有し、前記金属カチオン塩の含有量がモノマーの合計量に対して、0.1?10重量%であることを特徴とする請求項1記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項3】
揮発性膨張剤は、イソブタン、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、イソオクタン及びイソドデカンからなる群より選択される少なくとも1種であることを
特徴とする請求項1又は2記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の熱膨張性マイクロカプセルを用いてなることを特徴とする発泡成形体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-29 
出願番号 特願2014-531002(P2014-531002)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉岡 沙織古妻 泰一山本 悦司  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 蔵野 雅昭
天野 宏樹
登録日 2018-07-20 
登録番号 特許第6370219号(P6370219)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 熱膨張性マイクロカプセル及び発泡成形体  

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