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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1360496
異議申立番号 異議2019-700296  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-16 
確定日 2020-02-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6408643号発明「甘味増強に関する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6408643号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5について訂正することを認める。 特許第6408643号の請求項1、2、3、4、5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6408643号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、2007年4月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年4月20日(2件)、2006年6月19日、2006年10月24日(3件)、2007年1月19日、いずれもアメリカ合衆国)を国際出願日として出願した特願2009-505698の一部を、平成26年12月5日に新たに特許出願した特願2014-247195号の一部を、さらに平成29年5月10日に新たな特許出願としたものであって、平成30年9月28日に特許権の設定登録がされ、同年10月17日にその特許公報が発行された。
本件特許異議申立の経緯は次のとおりである。

平成31年 4月16日 :特許異議申立人 赤松 智信による
特許異議の申立て
令和 元年 6月21日付け:取消理由通知書
令和 元年 9月24日 :特許権者による意見書
及び訂正請求書の提出
令和 元年10月11日 :特許権者による上申書
及び証拠説明書の提出

そして、特許権者が訂正の請求をしたことを受けて、特許異議申立人に対して令和元年10月18日付けで通知書を通知し、意見を求めたが、特許異議申立人からは応答がなかった。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1?5のとおりである。

(1)訂正事項1
請求項1にある、化合物の濃度に関する記載を、訂正前の「甘味閾値の近傍または僅かに下」から、「0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度」に訂正する。また、訂正前の請求項1の「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、サイクラミン酸塩、およびネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)からなる群から選択される化合物」から、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する。

(2)訂正事項2
請求項1に記載の使用を引用していた訂正前の請求項2を、請求項1を引用しない独立形式に改める。また、化合物の濃度に関する記載を、訂正前の「その甘味検出閾値に近い濃度で、2%(w/w)スクロース未満」から、「0.5%以上2%未満のスクロース」に訂正する。さらに独立形式に改めるにあたり、訂正前に請求項2が引用していた訂正前の請求項1の「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、サイクラミン酸塩、およびネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)からなる群から選択される化合物」から、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する。

(3)訂正事項3
請求項3にある、化合物の濃度に関する記載を、訂正前の「その甘味検出閾値未満またはその近傍の、濃度2%未満」から、「0.5%以上2%未満」に訂正する。また、訂正前の請求項3の「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、サイクラミン酸塩、およびネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)からなる群から選択される化合物」から、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する。

(4)訂正事項4
請求項3に記載の方法を引用していた訂正前の請求項4を、請求項3を引用しない独立形式に改める。また、化合物の濃度の関する記載を、訂正前の「その甘味検出閾値に近い濃度で、2%(w/w)スクロース未満」から、「0.5%以上2%未満のスクロース」に訂正する。また独立形式に改めるにあたり、訂正前に請求項4が引用していた訂正前の請求項3の「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、サイクラミン酸塩、およびネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)からなる群から選択される化合物」から、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する。

(5)訂正事項5
請求項5にある、化合物の濃度に関する記載を、訂正前の「甘味閾値の近傍または僅かに下」から、「0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度」に訂正する。また、訂正前の請求項5の「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、サイクラミン酸塩、およびネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)からなる群から選択される化合物」から、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する。

なお、訂正前の請求項1-4は、請求項2が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用し、請求項4が、訂正の請求の対象である請求項3の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は一群の請求項1-2、3-4について請求されている。また、訂正後の請求項2及び請求項4に係る訂正について特許権者は、当該訂正が認められるときには、それぞれ請求項1及び請求項3とは別の訂正単位として扱われることを求めている。


2 訂正目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
(1-1)訂正目的の適否
ア 化合物の濃度に関する記載の訂正について
訂正事項1のうち、化合物の濃度に関する記載の訂正は、訂正前の請求項1の「甘味閾値の近傍または僅かに下の濃度」とは、甘味閾値とどの程度の濃度の差違があることをもって、「近傍」である、あるいは「僅かに下」であるのか、ということを、客観性を持って把握することが出来ないから、請求項1を不明確とするものであるところ、これを「0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度」とすることにより、客観的に把握できるようにしたものである。
したがって、当該訂正については、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものといえる。

イ ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する訂正について
訂正前の請求項1の化合物群の選択肢からネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する訂正は、択一的記載の要素の削除に該当するから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。

(1-2)新規事項の有無
上記(1-1)アの訂正は、本件特許明細書の段落【0036】に、「本明細書中では、甘味増強剤の甘味検出閾値は、甘味感受性のパネリストにより検出された、2%スクロース以下、例えば1%スクロースまで、0.8%まで、0.75%まで、0.7%まで、または0.5%スクロースまでのスクロースと等甘味度の濃度として定義されている。これらの甘味増強剤相互のおよびこれらと任意成分との組合わせは、本明細書に記載されているように、甘味料に対して特に高い甘味増強効果を有することが見出された。」との記載に基づいて導き出されるものである。また、上記(1-1)イの訂正は、択一的記載の要素の削除に該当するものである。
したがって上記二つの訂正はいずれも、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではないから、訂正事項1は特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(1-3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1-1)アの訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、上記(1-2)で述べたとおり、新規事項を追加するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。また上記(1-1)イの訂正は、特許請求の範囲の減縮であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないのは明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条5第9頁で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。


(2)訂正事項2について
(2-1)訂正目的の適否
ア 引用関係の解消について
訂正事項2においては、請求項2について、訂正前は請求項1を引用する記載であったところ、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項に改められているが、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であるといえる。

イ 化合物の濃度に関する記載の訂正について
訂正事項2のうち、化合物の濃度に関する記載の訂正は、訂正前の請求項2の「その甘味検出閾値に近い濃度で、2%(w/w)スクロース未満のスクロースと等甘味度」とは、どの程度の濃度の差違があることをもって、「近い」濃度であるのか、ということを、客観性を持って把握することが出来ないから、請求項2を不明確とするものであるところ、これを「0.5%以上2%未満のスクロースと等甘味度」であるとすることにより、客観的に把握できるようにしたものである。
したがって、当該訂正については、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものといえる。

ウ ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する訂正について
請求項2について、請求項1との引用関係を解消するにあたり、訂正前の請求項1の化合物群の選択肢からネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する訂正は、択一的記載の要素の削除に該当するから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。

(2-2)新規事項の有無
上記(2-1)ア及びウの訂正はそれぞれ、引用関係の解消及び択一的記載の要素の削除に該当するから、新規事項を追加するものでないことは明らかである。また上記(2-1)イの訂正については、本件特許明細書の段落【0036】の記載に基づいて導き出されるものである。
したがって上記(2-1)ア?ウの訂正はいずれも、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではないから、訂正事項2は特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(2-3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(2-1)ア及びウの訂正はそれぞれ、引用関係の解消及び択一的記載の要素の削除に該当するから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないのは明らかである。また上記(2-1)イの訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、上記(2-2)で述べたとおり、新規事項を追加するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条5第9頁で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。


(3)訂正事項3について
(3-1)訂正目的の適否
ア 化合物の濃度に関する記載の訂正について
訂正事項3のうち、化合物の濃度に関する記載の訂正は、訂正前の請求項3の「その甘味検出閾値未満またはその近傍の、濃度2%未満のスクロース溶液と等甘味度」とは、甘味閾値とどの程度の濃度の差違があることをもって、「その近傍」であるのか、ということを、客観性を持って把握することが出来ないから、請求項3を不明確とするものであるところ、これを「0.5以上2%未満のスクロースと等甘味度」であるとすることにより、客観的に把握できるようにしたものである。
したがって、当該訂正については、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものといえる。

イ ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する訂正について
訂正前の請求項3の化合物群の選択肢からネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する訂正は、択一的記載の要素の削除に該当するから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。

(3-2)新規事項の有無
訂正事項1について上記(1-2)で述べたのと同様に、上記(3-1)アの訂正については、本件特許明細書の段落【0036】の記載に基づいて導き出されるものである。また、上記(3-2)イの訂正は、択一的記載の要素の削除に該当するものである。
したがって上記二つの訂正はいずれも、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではないから、訂正事項1は特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(3-3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(3-1)アの訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、上記(3-2)で述べたとおり、新規事項を追加するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。また上記(3-1)イの訂正は、特許請求の範囲の減縮であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないのは明らかである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条5第9頁で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。


(4)訂正事項4について
(4-1)訂正目的の適否
ア 引用関係の解消について
訂正事項4においては、請求項4について、訂正前は請求項3を引用する記載であったところ、請求項3を引用しないものとし、独立形式請求項に改められているが、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であるといえる。

イ 化合物の濃度に関する記載の訂正について
訂正事項4のうち、化合物の濃度に関する記載の訂正は、訂正前の請求項4の「その甘味検出閾値に近い濃度で、2%(w/w)スクロース未満のスクロースと等甘味度」とは、どの程度の濃度の差違があることをもって、「近い」濃度であるのか、ということを、客観性を持って把握することが出来ないから、請求項4を不明確とするものであるところ、これを「0.5%以上2%未満のスクロースと等甘味度」であるとすることにより、客観的に把握できるようにしたものである。
したがって、当該訂正については、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものといえる。

ウ ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する訂正について
請求項4について、請求項3との引用関係を解消するにあたり、訂正前の請求項3の化合物群の選択肢からネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する訂正は、択一的記載の要素の削除に該当するから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。

(4-2)新規事項の有無
上記(4-1)ア及びウの訂正はそれぞれ、引用関係の解消及び択一的記載の要素の削除に該当するから、新規事項を追加するものでないことは明らかである。また上記(4-1)イの訂正については、本件特許明細書の段落【0036】の記載に基づいて導き出されるものである。
したがって上記(4-1)ア?ウの訂正はいずれも、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではないから、訂正事項2は特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(4-3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(4-1)ア及びウの訂正はそれぞれ、引用関係の解消及び択一的記載の要素の削除に該当するから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないのは明らかである。また上記(4-1)イの訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、上記(4-2)で述べたとおり、新規事項を追加するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条5第9頁で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(5)訂正事項5について
(5-1)訂正目的の適否
ア 化合物の濃度に関する記載の訂正について
訂正事項5のうち、化合物の濃度に関する記載の訂正は、訂正前の請求項5の「甘味閾値の近傍または僅かに下の濃度」とは、甘味閾値とどの程度の濃度の差違があることをもって、「近傍」である、あるいは「僅かに下」であるのかということを、客観性を持って把握することが出来ないから、請求項5を不明確とするものであるところ、これを「0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度」とすることにより、客観的に把握できるようにしたものである。
したがって、当該訂正については、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものといえる。

イ ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する訂正について
訂正前の請求項5の化合物群の選択肢からネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)を削除する訂正は、択一的記載の要素の削除に該当するから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。

(5-2)新規事項の有無
上記(5-1)アの訂正については、本件特許明細書の段落【0036】の記載に基づいて導き出されるものである。また、上記(5-1)イの訂正は、択一的記載の要素の削除に該当するものである。
したがって上記二つの訂正はいずれも、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではないから、訂正事項1は特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(5-3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(5-1)アの訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、上記(5-2)で述べたとおり、新規事項を追加するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。また上記(5-1)イの訂正は、特許請求の範囲の減縮であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しないのは明らかである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

3 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1?5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明

本件訂正請求により訂正された請求項1?5に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1?5に係る発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明5」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)

「【請求項1】
0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度の、レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物の、甘味閾値よりも上の濃度の甘味物質との使用であって、
該甘味物質が、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能であり、
前記化合物と前記甘味物質との混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記化合物のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強するための使用。
【請求項2】
0.5%以上2%未満のスクロースのスクロースと等甘味度の濃度の、レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物の、甘味閾値よりも上の濃度の甘味物質との使用であって、
該甘味物質が、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能であり、
該甘味物質が少なくとも2%のスクロース溶液と等甘味度となる濃度で存在し、
選択される化合物が少なくとも1ppbから100,000ppmの濃度で存在し、0.5%以上2%未満のスクロースのスクロースと等甘味度で存在し、
前記化合物と前記甘味物質との混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記化合物のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強するための使用。
【請求項3】
消費材において甘味を増強する方法であって、
消費材に、甘味増強化合物を、0.5%以上2%未満のスクロース溶液と等甘味度の濃度で含ませることを含み、
ここで、前記甘味増強化合物はレバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物を含み、
その消費材は、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能な甘味料をその甘味検出閾値よりも上の濃度で含有している、前記方法。
【請求項4】
消費材において甘味を増強する方法であって、
消費材に、甘味増強化合物を、0.5%以上2%未満のスクロース溶液と等甘味度の濃度で含ませることを含み、
ここで、前記甘味増強化合物はレバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物を含み、
その消費材は、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能な甘味料をその甘味検出閾値よりも上の濃度で含有しており、
甘味料が少なくとも2%のスクロース溶液と等甘味度となる濃度で存在し、
甘味増強化合物が少なくとも1ppbから100,000ppmの濃度で存在し、0.5%以上2%未満スクロースのスクロースと等甘味度で存在する、前記方法。
【請求項5】
レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物を含む甘味増強剤であって、0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度での該剤と、甘味閾値よりも上の濃度の、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能な甘味物質とを混合した場合の混合物の甘味を、該甘味物質のみまたは前記剤のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強することに用いられる、前記甘味増強剤。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が令和1年6月21日付けで通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。

(1)取消理由1(サポート要件)
本件訂正前の請求項1?5に係る特許は、その特許請求の範囲で特定された(1)レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、サイクラミン酸塩、およびネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)からなる群から選択される化合物(以下、「甘味増強化合物」という。)、及び(2)Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能である甘味物質(以下、「甘味料」という。)について、発明の詳細な説明には、両者を併用した場合に甘味増強効果が得られる根拠となる分子的作用機序について説明がないにもかかわらず、(1)及び(2)についても、一部の化合物を用いた具体例についてのみ相乗効果が得られることが示されているに過ぎないことから、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(2)取消理由2(明確性要件)
本件訂正前の請求項1?5に係る特許は、その特許請求の範囲について、請求項1には「甘味閾値の近傍または僅かに下の濃度の」、請求項2及び4には「甘味検出閾値に近い濃度で」、請求項3には「その甘味検出閾値未満またはその近傍の」、さらに請求項5には「甘味閾値の近傍または僅かに下の濃度の」との表現があり、これらはいずれもその範囲を客観性をもって把握できないため、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項2号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(3)取消理由3(新規性)
本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(4)取消理由4(進歩性)
本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



刊行物1:特開平10-262599号公報


2 当審の判断
(1)取消理由1(特許法第36条第6項第1号)について
(1-1)特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(1-2)特許請求の範囲の記載
請求項1には、「0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度」の「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物」を、「甘味閾値よりも上の濃度」の「Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能であ」る「甘味物質」と併用することによって、「混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記化合物のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強」する「使用」を特定した方法の発明が記載されている。
請求項2には、「0.5%以上2%未満のスクロースのスクロースと等甘味度の濃度」の「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物」を、「甘味閾値よりも上の濃度」の「Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能であ」る「甘味物質」と併用することによって、「混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記化合物のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強」する「使用」方法において、「甘味物質」の濃度を「少なくとも2%のスクロース溶液と等甘味度となる濃度で存在」する、と、また「化合物」の濃度を「少なくとも1ppbから100,000ppmの濃度で存在し、0.5%以上2%未満のスクロースのスクロースと等甘味度」と限定した方法の発明が記載されている。
請求項3には、「Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能である甘味料」を「甘味検出閾値よりも上の濃度で含有している」「消費材」に対して、「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される」「甘味増強化合物」を「0.5%以上2%未満のスクロース溶液と等甘味度のスクロース溶液と等甘味度の濃度で含ませる」ことによる「消費材」の「甘味を増強する方法」を特定した方法の発明が記載されている。
請求項4には、「Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能である甘味料」を「甘味検出閾値よりも上の濃度で含有している」「消費材」に対して、「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される」「甘味増強化合物」を「0.5%以上2%未満のスクロース溶液と等甘味度のスクロース溶液と等甘味度の濃度で含ませる」ことによる「消費材」の「甘味を増強する方法」において、「甘味料」の濃度を「少なくとも2%のスクロース溶液と等甘味度となる濃度で存在」する、と、また「化合物」の濃度を「少なくとも1ppbから100,000ppmの濃度で存在し、0.5%以上2%未満スクロースのスクロースと等甘味度で存在する」と限定した方法の発明が記載されている。
また請求項5には、「甘味閾値よりも上の濃度」の「Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能な甘味物質」に対して併用することにより、「混合物の甘味」を、「相加的よりも増強」するために、「0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度」で用いられる「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物」を含む「甘味増強剤」を特定した物の発明が記載されている。

(1-3)発明の詳細な説明の記載
ア 甘味増強成分(甘味増強剤)について
本件特許発明の甘味増強成分となり得る化合物について、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

(ア)甘味受容体のTMDに結合する推定甘味増強剤の同定について
「【0008】
受容体との結合において糖と競合し得る剤の同定を防止するために、VFTドメインと物理的に異なる、特にTMDおよび/またはシステインリッチドメインにおける部位と結合する、推定される甘味増強剤の同定を可能にするスクリーニングが求められている。本発明はこの要求に応えるものである。例えば、本発明者らによって作出されたキメラT1R受容体・・・を用いる本発明の方法は、甘味化合物サイクラミン酸塩がT1R3のTMDに結合し、それによってT1R2/T1R3受容体ヘテロダイマー複合体を活性化することを示す。
【0009】
今まで、1つのTAS1RモノマーのTMDが甘味化合物と結合し、さらに他の必須のモノマーパートナーの不在下でGタンパク質を活性化し得ることは知られていなかった。以前には、当分野では両サブユニットの存在がシグナル伝達に不可欠であると信じられていた。本発明者らは、T1R2/T1R3受容体ヘテロダイマー複合体のT1R2ホモマーの重度に切断された配列と一致する新規な受容体タンパク質(「T1R2-TMD」)が、驚くべきことに、甘味リガンドと結合する機能的甘味受容体を形成し、Gタンパク質を活性化できることを見出した。この新規な受容体タンパク質T1R2-TMDは全長T1R2ホモマーとは異なるアゴニストアゴニスト範囲を有することがわかった。前者は驚くべきことにリガンドと結合できるだけではなく、下流シグナリングの活性化もできることがわかった。
【0010】
ここで提供される方法は、T1R2および/またはT1R3の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインに結合および/またはそれらを活性化するリガンドの同定を可能にする。・・・」

(イ)同定された化合物について
「【0030】
詳細な説明
候補甘味増強剤
化合物または化合物群は、推定される増強剤および甘味料を含有する混合物が、推定される増強剤単独の甘味(混合物中と同濃度において)と甘味料単独の甘味(混合物中と同濃度において)との総和よりも甘かった場合、甘味増強剤である。本発明者らは、限定することなく、TAS1Rの膜貫通ドメインに結合する後述の化合物を候補甘味増強剤として同定した:ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、ナリンジンジヒドロカルコン、サイクラミン酸塩、ステビオシド、ルブソシド、レバウディオシドA、モグロシドV、およびネオヘスペリジンジヒドロカルコン。ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、ステビオシド、ルブソシド、レバウディオシドAおよびネオヘスペリジンジヒドロカルコン。・・・」

(ウ)甘味を相加的よりも増強する具体的な例
甘味物質と特定の濃度で混合した場合に、甘味を相加的よりも増強すると具体的に解される実施例として、
【0258】?【0260】に、「21. 7%スクロース中の250ppmのサイクラミン酸塩のランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定」として、特定の濃度でのサイクラミン酸塩とスクロースとの組合わせが、
【0267】?【0269】に、「24. 7%スクロース中の75ppmのp-エトキシベンズアルデヒドのランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定」として、特定の濃度でのp-エトキシベンズアルデヒドとスクロースとの組合わせが、
【0270】?【0272】に、「25. 7%スクロース中の250ppmのサイクラミン酸塩および75ppmのp-エトキシベンズアルデヒドのランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定」として、特定の濃度でのサイクラミン酸塩とp-エトキシベンズアルデヒドとスクロースの三者との組合わせが記載され、これらについては、相加的なものを上回る甘味増強効果があることが示されている。


イ 甘味物質(甘味料)について
本件特許発明の甘味物質(甘味料)について、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

(ア)甘味物質(甘味料)とGタンパク質共役受容体のVFTドメインとの関係について
「【0007】
知られたスクリーニングの他の不利点は、野生型のT1R2/T1R3受容体が複数の結合ドメイン、特にスクロース、グルコース、フルクトースなどの炭水化物甘味料、ならびに人工甘味料アスパルテームおよびスクラロースと結合するビーナスフライトラップ(「VFT」)ドメインを含む細胞外アミノ末端ドメインを含むことである。・・・」

(イ)甘味物質(甘味料)に該当する化合物について
「【0031】
甘味料
甘味料は味の甘味を増大する化合物である。甘味料は、限定されずに、糖類のスクロース、フルクトース、グルコース、ブドウ糖果糖液糖(フルクトースおよびグルコースを含有する)、タガトース、ガラクトース、・・・。
【0032】
テーブルシュガーまたはサッカロースとしても知られているスクロースは、グルコースとフルクトースの二糖類である。・・・。
【0033】
エリスリトール(組織名:1,2,3,4-ブタンテトロール)は天然のノンカロリー糖アルコールである。AceK、アスパルテーム、ネオテームおよびスクラロースは人工甘味料である。・・・。
【0034】
天然甘味料は精製または部分精製形態で用いてよく、化学合成、醗酵などの生物工学的処理、または天然給源、・・・。」

(ウ)甘味を相加的よりも増強する具体的な例
実施例として、甘味増強剤について上記ア(ウ)で指摘したとおり、甘味物質として7%スクロースを用い、特定の濃度のサイクラミン酸塩やp-エトキシベンズアルデヒドとの二者併用、あるいはサイクラミン酸塩とp-エトキシベンズアルデヒドの三者併用の例について、相加的なものを上回る甘味増強効果があることが示されている。

(1-4) 本件特許発明の課題
本件の発明の詳細な説明の【0012】の「その最初の側面において、本発明は、剤が、甘味閾値よりも上の濃度の、知られたまたは事前に決定された甘味物質と、甘味閾値の近傍または僅かに下の濃度で混合された場合に、前記剤と前記知られたまたは事前に決定された甘味物質との混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記剤のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強する剤であって、前記剤が、前記剤の存在下での味覚受容体の活性アッセイによって生成されるシグナルと前記剤の非存在下での味覚受容体の活性アッセイによって生成されるシグナルとを比較して同定可能であり、前記味覚受容体の活性アッセイが、味覚受容体のビーナスフライトラップドメインに結合する剤を除外しながら、味覚受容体の膜貫通ドメインに結合する剤を同定することを含む、前記剤を含む。」との記載及び本件特許明細書全体の記載から、本件特許発明の課題は、甘味閾値の近傍または僅かに下の濃度で、甘味閾値よりも上の濃度の甘味物質と混合することによって、甘味を相加的よりも増強することができる甘味増強剤を提供するとともに、当該剤によって甘味を相加的よりも増強する方法を提供することにあると認める(下線は、当審にて追加した。)。

(1-5)対比・判断
ア 甘味増強成分について
(ア-1)本件特許発明1について
a 上記2の(1-2)において述べたとおり、請求項1には、特定の濃度で、レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、及びサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物を、特定の甘味物質と組み合わせることによって、甘味を相加的よりも増強するために使用する方法が記載されている。

b 一方、発明の詳細な説明には、上記(1-3)ア(ア)に、TMDに結合する化合物をスクリーニングすることによって、甘味増強剤と推定される化合物を同定することが出来ることが記載され、具体的に同定された化合物として、同ア(イ)に、レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、及びサイクラミン酸塩が記載されている。そして具体的に甘味増強効果が確認された化合物として、同ア(ウ)にサイクラミン酸塩、p-エトキシベンズアルデヒドの例が記載されている。

c 加えて、令和元年9月24日付けの意見書に添付された乙第2号証(追加実験データ)には、モノグロシドV、レバウジオシドA、及びレバウジオシドAとステビオシドとの混合物について、AceK、スクラロースあるいは糖果ブドウ糖液糖と併用した際に、甘味増強効果を奏することが示されている。

d 以上を考慮すると、本件特許発明1において甘味増強剤として列挙されている化合物は、甘味受容体のTMDに結合し、甘味増強をすることが推定される化合物をスクリーニングする方法によって同定された化合物であるから、これらは同様のシグナル伝達経路を同様に刺激するものと理解することができ、また発明の詳細な説明の具体例において示されているサイクラミン酸塩とp-エトキシベンズアルデヒドを用いたときの効果、及び乙2号証において示されているモノグロシドV、レバウジオシドA及びレバウジオシドAとステビオシドとの混合物を用いたときの効果、と同等の効果が、列挙されている化合物全てにおいて得られるものと当業者が認識できるといえる。

e したがって、甘味増強物質として、本件特許発明1において列挙されている化合物のいずれを用いたとしても、上記甘味増強剤によって甘味を相加的よりも増強する方法を提供するという、本件特許発明の課題が解決できると当業者が認識できるといえる。

f よって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(アー2)本件特許発明2?5について
本件特許発明2?5はいずれも、甘味増強剤として列挙されている化合物は同じものであるから、本件特許発明1について上記(アー1)で検討したのと同じ理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。


イ 甘味物質(甘味料)について
(イー1)本件特許発明1について
a 上記(1-2)において述べたとおり、請求項1には、特定の甘味増強剤を、甘味閾値よりも上の濃度のGタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能である甘味物質と組み合わせることによって、甘味を相加的よりも増強するために使用する方法が記載されている。

b 一方、発明の詳細な説明には、上記(1-3)イ(ア)に、炭水化物甘味料や人工甘味料等が、甘味受容体のVFTドメインに結合することが記載され、同イ(イ)には、甘味物質(甘味料)として知られている化合物が列挙されている。そして同イ(ウ)には具体的に甘味増強剤と併用することによる甘味増強効果が確認された甘味料としてスクロースが記載されている。

c 加えて、令和元年9月24日付けの意見書に添付された乙第2号証(追加実験データ)には、スクロースとは異なる甘味物質(甘味料)であるAceK、スクラロースあるいは糖果ブドウ糖液糖について、モノグロシドV、レバウジオシドA、及びレバウジオシドAとステビオシドとの混合物と併用した際に、甘味増強効果を奏することが示されている。

d 以上を考慮すると、各種甘味物質(甘味料)は通常、甘味受容体のVFTDに結合することが知られており、これらは同様のシグナル伝達経路を同様に刺激するものと理解することができ、また発明の詳細な説明の具体例において示されている、スクロースを甘味増強剤であるサイクラミン酸塩とp-エトキシベンズアルデヒドと併用したときの効果、及び乙2号証において示されている、AceK、スクラロースあるいは糖果ブドウ糖液糖をモノグロシドV、レバウジオシドA及びレバウジオシドAとステビオシドとの混合物と併用したときの効果、と同等の効果が、VFTDに結合する甘味物質(甘味料)全てにおいて得られるものと当業者が認識できるといえる。

e したがって、甘味物質(甘味料)として、本件特許発明1において特定されるVFTDに結合するもののいずれを用いたとしても、甘味増強剤との併用によって甘味を相加的よりも増強する方法を提供するという、本件特許発明の課題が解決できると当業者が認識できるといえる。

f よって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(イー2)本件特許発明2?5について
本件特許発明2?5はいずれも、甘味物質(甘味料)は同じものであるから、本件特許発明1について上記(イー1)で検討したのと同じ理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

(1-6)小括
よって、請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たした特許出願に対してされたものであるといえ、取消理由1は解消されている。


(2)取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について
前記第2において、訂正の適否に関する判断において述べたとおり、訂正前の請求項1の「甘味閾値の近傍または僅かに下の濃度」、訂正前の請求項2の「その甘味検出閾値に近い濃度で、2%(w/w)スクロース未満のスクロースと等甘味度」、訂正前の請求項3の「その甘味検出閾値未満またはその近傍の、濃度2%未満のスクロース溶液と等甘味度」、訂正前の請求項4の「その甘味検出閾値に近い濃度で、2%(w/w)スクロース未満のスクロース溶液と等甘味度」、及び訂正前の請求項5の「甘味閾値の近傍または僅かに下の濃度」の表現はいずれも、具体的なスクロースの濃度に対応する文言に訂正されたため、客観性をもってその濃度範囲を把握できる明確なものとものとなったといえる。
したがって、請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たした特許出願に対してされたものであるといえ、取消理由2は解消されている。


(3)取消理由3(特許法第29条第1項第3号)及び取消理由4(特許法第29条第2項)について

(3-1)刊行物1の記載と刊行物1に記載された発明
本件優先日前に頒布された刊行物である刊行物1(特開平10-262599号公報)には、以下の記載がある。

(1a)「【請求項1】 甘味を感じない程度の量の味質改良剤をエリスリトールに配合することを特徴とする味質が改良されたエリスリトールの製造方法。
【請求項2】 エリスリトールを甘味素材として用いるにあたり、甘味を感じない程度の量の味質改良剤をエリスリトールに配合することを特徴とするエリスリトールの味質改良方法。
【請求項3】 味質改良剤が、ジヒドロカルコン類又はソーマチンである請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】 ジヒドロカルコン類が、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン又はナリンジンジヒドロカルコンである請求項3記載の方法。
【請求項5】 ジヒドロカルコン類の添加量が、エリスリトールの重量に対して0.05?5ppmである請求項3記載の方法。」

(1b)「【0007】一方、ジヒドロカルコン類は、フラボノイド配糖体の1種であり、香料、甘味料などとして使用されているネオヘスペリジンジヒドロカルコン(以下、NEDHCと略記することもある。)やナリンジンジヒドロカルコン(以下、NADHCと略記することもある。)が良く知られており、この他にプルニンジヒドロカルコン、ヘスペレチン-7-グルコシド-ジヒドロカルコン等が含まれる。これらのジヒドロカルコン類は、柑橘類に含まれる苦味物質であるネオヘスペリジン、ナリンジン、プルニン等をそれぞれアルカリ性で還元することにより製造される。しかし、ジヒドロカルコン類の甘味質は後味が強く好まれない。このうちNEDHCは、ラクチトール、キシリトール、イソマルト(パラチニット)、還元ブドウ糖シロップ(ソルビトール)等の多価アルコールと併用した場合に、明確な甘味増強効果と、よりバランスのとれた甘味質プロファイルが得られることが報告されている(月刊フードケミカル、1991-11)。しかし、このような効果を奏するためには、NEDHCは甘味度の相乗効果が現れる量を添加する必要があり、相乗効果の現れない極めて少ない量を添加した場合については全く記載されていない。」

(1c)「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、ジヒドロカルコン類やソーマチンは極く少量の添加で、エリスリトールの味質を改善する効果を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、甘味を感じない程度の量の味質改良剤をエリスリトールに配合することを特徴とする味質が改良されたエリスリトールの製造方法に関する。さらに、本発明は、エリスリトールを甘味素材として用いるにあたり、甘味を感じない程度の量の味質改良剤をエリスリトールに配合することを特徴とするエリスリトールの味質改良方法に関する。」

(1d)「【0012】これら味質改良剤によるエリスリトールの味質改善に必要な添加量は、その種類等により異なる。しかし、甘味を感じない程度の量の味質改良剤を用いることが必要である。すなわち、前記したように、ジヒドロカルコン類やソーマチンの甘味質は、後味が強いので、これら味質改良剤の添加量を極力抑え、甘味を感じない程度にしなければならない。具体的には、エリスリトールに対して、ジヒドロカルコン類の場合は、0.03?7ppm、好ましくは0.05?5ppmの範囲である。ジヒドロカルコン類としてNEDHCを使用する場合には、エリスリトールに対して0.05?2ppmの範囲が、NADHCを使用する場合には0.1?5ppmの範囲が好ましい。また、ソーマチンの場合は、0.005?4ppm、好ましくは0.01?2ppmの範囲である。」

(1e)「【0013】本発明により味質が改善されたエリスリトールを適用することができる食品、菓子、飲料等には制限はなく、様々な形態で使用できるが、特にエリスリトールの配合量が比較的多く、エリスリトール特有のいがらっぽさやエグ味が出やすい場合に、効果がはっきりと表れる。そのような例としては、清涼飲料、果実飲料、コーヒー・紅茶等の嗜好飲料や発酵乳等の他、アイスクリーム、ゼリー、各種クリーム類等のデザート類、チョコレート、キャンディ、タブレット、チューインガム、クッキー、ビスケット等の洋菓子類、羊羹、水羊羹、錦玉、ぜんざい、おしるこ等の和菓子類、パン・ケーキ類又はそれらに上掛するアイシング剤、フィリング類等が挙げられる。」

(1f)「【実施例】次に、本発明を実施例等により詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例等における官能検査は、経験豊富なパネラー4?8名を用いて行い、平均値として示した。
実施例1
エリスリトール(日研化学(株)製、以下同じ)の13.3%水溶液(砂糖換算で10%濃度の甘味に相当)を調製した(対照区)。また、該溶液にNEDHC(EXQUIM社製、以下同じ)を0.01ppm又は0.1ppmの濃度になるように添加した(試験区)。これらについて官能検査を実施したところ、対照区は口の中での刺激、特に喉への刺激が強く感じられたのに対し、NEDHCを加えた試験区はいずれも刺激が緩和された。なお、このときのエリスリトールに対するNEDHC量は、それぞれ0.075ppmと0.75ppmに相当する。
【0016】実施例2
7.67%エリスリトール水溶液(砂糖換算で5%濃度の甘味に相当)を調製した(対照区)。また、この溶液にNEDHCを0.767ppmの濃度になるように添加したもの(試験区)を調製し、官能検査を行った。官能検査は、対照区に対する試験区の味質を比較し、パネラー4人による評点法により行った。評価は、くせ、しつこさ、苦味、後味、収斂味、酸味及び総合評価の各項目について、-2、-1、0、+1、+2の5段階で評価した。例えば、しつこさの比較においては、非常にしつこい場合を-2、しつこい場合を-1、どちらともいえない場合を0、あっさりしている場合を+1、非常にあっさりしている場合を+2とし、4人のパネラーが評価し、その評点の平均値を求めた。なお、NEDHCの添加量は、対エリスリトールで1ppmである。結果を第1表に示す。 表から明らかなように、いずれの項目においても、試験区の方が、味質が改善されており、好ましいという評価を得た。
【0017】【表1】



(1g)「【0020】実施例4
エリスリトールのみでソフトタブレット(直径22mm、重量1g/個)を作成(対照区)したものと、エリスリトールに対してNEDHCを第3表に示した所定量を均一に添加したもので同様に作成した試料(試験区)を用いて官能検査を行った。 官能検査は、対照区と試験区について、パネラー6人により味質を2点比較法により比較して行った。結果を第3表に示す。表中の記号は、対照区の方が味質が良好な場合は-1点、両者間に差がない場合は±0点、試験区の方が味質が良好な場合は+1点として、点数換算して評価(平均点)した結果、対照区よりも試験区の方が味質が悪い又は変わらない場合は×、試験区に味質の改善効果が見られた場合(平均点が+0.3点以上、+0.6点未満)は○、味質の改善効果がより高い場合(平均点が+0.6点以上)は◎で示した。
【0021】【表3】

【0022】
この結果、NEDHCを0.05?2ppmの範囲で添加した場合に、エリスリトールの味質を改善する効果があり、特に添加量が0.5ppmのとき、改善効果が高いことが示された。しかし、0.01ppm又は5ppm添加した場合は、味質改善効果がなかった。」


(3-2)刊行物1に記載された発明
上記摘記(1a)、(1c)に基づけば、刊行物1には、「甘味を感じない程度の量のネオヘスペリジンジヒドロカルコンの、甘味素材であるエリスリトールの甘味改良剤としての使用(方法)」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。


(3-2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア-1)対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「甘味素材であるエリスリトール」は、本件特許の発明の詳細な説明の【0033】に甘味料(甘味物質)の例として記載されている天然の化合物であるから、当該化合物は本件特許発明1の「Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能であ」る「甘味物質」に相当する。また引用発明1の「甘味改良剤としての」「ネオヘスペリジンジヒドロカルコン」は、本件特許発明の「前記化合物と前記甘味物質との混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記化合物のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強するための」「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物」と、「甘味を改良する成分」という意味において共通する。
したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、「甘味を改良する成分の、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能である甘味物質との使用」である点において一致し、以下の点において相違する。

<相違点1>
甘味を改良する成分が、本件特許発明1では、「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物」と特定されているのに対して、引用発明1では、「ネオヘスペリジンジヒドロカルコン」と特定されている点

<相違点2>
甘味を改良する成分の濃度が、本件特許発明1では、「0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度」とされているのに対して、引用発明1では、甘味を改良する成分の濃度とスクロースの甘味度との関係が特定されていない点

<相違点3>
甘味を改良する成分の使用が、本件特許発明1では、「当該化合物と甘味物質との混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記化合物のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強するため」、とされているのに対して、引用発明1では、甘味を相加的よりも増強することが明確に特定されていない点

(アー2)判断
事案の内容に鑑み、相違点2についてまず検討する。

a 相違点2について
相違点2について、刊行物1には、エリスリトールに対する味質改良剤として、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの他に、ナリンジンジヒドロカルコンが記載されているものの、当該成分の添加量は、摘記(1d)に、エリスリトールに対して0.1?5ppmとあるところ、当該添加量は、本件の発明の詳細な説明の段落【0296】および【0297】において他の成分と共に用いられているナリンジンジヒドロカルコンの添加量(60ppm)の10分の1以下の量であり、非常に低濃度のものである。したがって、甘味閾値の近傍または僅かに下である「0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度」を大きく下回る濃度で用いられるものであるといえる。そして、刊行物1および特許異議申立人が提示した甲第1号証?甲第3号証のいずれを参照しても、ナリンジンジヒドロカルコンの含有量を増加させることは記載も示唆もされておらず、また当該事項が本件優先日前において当業者に周知の技術的事項であるともいえない。

b 相違点1について
さらに相違点1についても検討するに、刊行物1および甲第1号証?甲第3号証のいずれにも、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンが、レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物と同等の作用を有し、これらと置換可能であることは記載も示唆もされておらず、また当該事項が本件優先日前において当業者に周知の技術的事項であるともいえない。

c 結論
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は、刊行物1に記載された発明ではないし、また当業者であっても、刊行物1に記載された発明に基いて容易に発明できたものであるともいえない。


イ 本件特許発明2?5について
本件特許発明2は、本件特許発明1とほぼ同濃度で、レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物を、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能である甘味物質と併用して用いる使用の発明であり、本件特許発明3及び4は、本件特許発明1とほぼ同濃度で同化合物を同甘味物質と使用して甘味を増強する方法の発明である。さらに本件特許発明5も、本件特許発明1と同化合物を同濃度で、同甘味物質と共に用いる甘味増強剤の発明である。
したがって、これらの発明全てについて、本件特許発明1について上記で検討した点と同様のことが当てはまるといえるから、本件特許発明2?5は、刊行物1に記載された発明ではないし、また当業者であっても、刊行物1に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるともいえない。

(3-3)小括
したがって、本件特許発明1?5は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1に記載された発明ではないし、当該刊行物に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第1項および第2項の規定を満たしており、取消理由3および4は解消している。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 理由の概要
(1)理由1(実施可能要件)
本件訂正前の請求項1?5に係る特許は、特定の化合物を甘味増強剤として、甘味閾値の近傍または僅かに下の濃度で、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能な甘味物質に混合して甘味を増強するために使用する方法や当該方法に使用する甘味増強剤に係る発明であるが、併用による甘味増強効果の作用機序について何ら説明されていないため、本件特許発明のうち、少なくとも甘味増強剤としてNDHCを用いる部分については、本件特許明細書には、当業者が本件特許発明を実施可能な程度に十分に記載されているとはいえない。したがって、本件訂正前の請求項1?5に係る特許について、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第1号証および甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証:Kroeze、「Neohesperidin Dihydrochalcone is Not a Taste Enhancer in Aqueous Sucrose Solutions」、Chemical Senses、2000年、第25巻、第555?559頁
甲第2号証:Burdock、「FENAROLI’S HANDBOOK OF Flavor Ingredients FIFTH EDITION」、CRC PRESS、2005年、第1357頁
甲第3号証:LINDLEY et al.、「Flavor Modifying Characteritics of the Intense Sweetener Neohesperidin Dihydrochalcone」、JOURNAL OF FOOD SCINECE、1993年、第58巻、第3号、第592?594頁

2 当審の判断
(1)理由1について
前記第4の2の(1)でサポート要件について検討したように、訂正後の甘味増強成分、および甘味物質(甘味料)について、本件特許発明1?5に規定される物質を用いた場合には、両者の併用によって、甘味を相加的よりも増強することができると当業者であれば理解できるものであるといえるから、本件特許明細書が、本件特許発明を当業者が実施可能な程度に十分に記載されていないとはいえない。
したがって、請求項1?5に係る特許について、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たした特許出願に対してされたものであるといえる。


(2)理由2について
ア 甲号証の記載
(ア)甲第1号証
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある(訳文にて示す。)。

(甲1a)「要約
ネオヘスペリジンヒドロカルコン(NDHC)は、ネオヘスペリジンのアルカリ性水素化によって得られる強力な甘味料である。この研究において、この物質の想定される風味増強効果が調べられた。三段階法を用いた。第1の実験では、31人の被験者プールを使用して、NDHCおよびスクロース検出閾値を測定した。2番目の実験では、両方の呈味物質の心理物理学的機能が決定された。次に、グループ閾値に最も近く、加えて、単調な精神物理学的味覚関数を生み出した15人の参加者が、次の2つの実験に参加するために選択された。第3の実験では、味の増強能を試験した。3つの精神物理学的スクロース機能が構築された。1つは7つのスクロース濃度のそれぞれに閾値近傍量のNDHCが添加され、1つは閾値近傍量のスクロースが添加され(対照1)、1つは何も添加しなかった(対照2)。NDHC強化スクロース機能とスクロース強化スクロース機能との間に違いは見られなかった。最後に、実験4では、NDHC又はスクロースのいずれかを添加して微分閾値関数を構築した。機能の全体的な形状も、主観的な平等の点の比較も強化を示さなかった。弱いNDHCはスクロース水溶液の味を増強しないと結論付けられた。」(第555頁、要約)

(甲1b)「0.0045%のNDHC水溶液及び5%のスクロースの水溶液は、ほぼ等分である。」(第555頁左欄第5行?第7行)

(甲1c)「図2のシグモイド/関数の50%点でのグラフに内挿したところ、NDHCの平均検出閾値は、1.35μM(0.000826g/L)、スクロースの平均検出閾値は8.767mM(3.001g/L)であった。」(第557頁右欄下から9行目?5行目)

(甲1d)「スクロースを補強したスクロース溶液を標準とすると、83g/L スクロース+0.001g/L NDHCであるNDHCを補強したスクロース溶液は、適合する必要がある。この場合、強化は明らかに無かった。」(第559頁左欄第1行?第5行)


(イ)甲第2号証
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある(訳文にて示す。)。

(甲2a)「説明:ネオヘスペリジンジヒドロカルコンはフレーバー増強剤として使用されています。」(第1357頁第6行)

(甲2b)「

」(第1357頁中段)


(ウ)甲第3号証
本件優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある(訳文にて示す。)。

(甲3a)「要約
一連の記述属性分析において訓練された評価パネルによって決定されたところによると、1?4ppmのネオヘスペリジンジヒドロカルコンを、甘い食品及び甘くない食品に添加すると、評価した全ての製品において、いくつかのフレーバー属性の強度が変化した。全ての製品において風味の増強が認められたが、製品の範囲にわたって一貫した増強パターンは観察されなかった。フルーツフレーバーは、いくつかの匂いの属性と同様に、全てのフルーティーな製品にわたって強化されていた。幾つかの鋭い又はスパイシーなフレーバー属性の強度低下も記録された。誘発されたフレーバー改良の大部分は、製品の官能品質に改善をもたらすと考えられた。」(第592頁左欄第1行?第12行)

(甲3b)「

」(第593頁左欄上)

イ 甲2号証に記載された発明
上記摘記(2a)及び摘記(2b)から、甲2号証には、「ネオヘスペリジンジヒドロカルコンをフレーバー増強剤として食品に使用する方法」の発明(以下、「甲2発明1」という。)が記載されている。

ウ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
(アー1)対比
本件特許発明1と甲2発明1とを対比する。
甲2発明1の、「フレーバー増強剤として」の「ネオヘスペリジンジヒドロカルコン」は、本件特許発明1の「前記化合物と前記甘味物質との混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記化合物のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強するための」「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物」と、「甘味を改良する成分」という意味において共通する。
したがって、本件特許発明1と甲2発明1とは、「甘味を改良する成分の使用」である点において一致し、以下の点において相違する。

<相違点1>
甘味を改良する成分が、本件特許発明1では、「レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物」と特定されているのに対して、甲2発明1では、「ネオヘスペリジンジヒドロカルコン」と特定されている点

<相違点2>
甘味を改良する成分の濃度が、本件特許発明1では、「0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度」とされているのに対して、甲2発明1では、甘味を改良する成分の濃度とスクロースの甘味度との関係が特定されていない点

<相違点3>
本件特許発明1では、甘味を改良する成分を、「甘味閾値よりも上の濃度の甘味物質」とともに使用するとされているのに対して、甲2発明1では、甘味物質との併用が明確に特定されていない点

<相違点4>
甘味を改良する成分の使用が、本件特許発明1では、「当該化合物と甘味物質との混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記化合物のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強するため」、とされているのに対して、甲2発明1では、甘味を相加的よりも増強することが明確に特定されていない点

(アー2)判断
a 相違点1について
相違点1について検討するに、刊行物1に記載された発明について上記第4の2(3)(3-2)ア((アー2)bにおいて検討したのと同様に、甲1号証?甲第3号証のいずれにも、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンが、レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物と同等の作用を有し、これらと置換可能であることは記載も示唆もされておらず、また当該事項が本件優先日前において当業者に周知の技術的事項であるともいえない。

b 相違点4について
甲第1号証?甲第3号証のいずれを参照しても、甘味の改良について、甘味物質のみまたは増強剤のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強することは記載も示唆もされておらず、また当該事項が本件優先日前において当業者に周知の技術的事項であるともいえない。

c 結論
したがって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲第2号証に記載された発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。


(イ)本件特許発明2?5について
本件特許発明2は、本件特許発明1とほぼ同濃度で、レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物を、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能である甘味物質と併用して用いる使用の発明であり、本件特許発明3及び4は、本件特許発明1とほぼ同濃度で同化合物を同甘味物質と使用して甘味を増強する方法の発明である。さらに本件特許発明5も、本件特許発明1と同化合物を同濃度で、同甘味物質と共に用いる甘味増強剤の発明である。
したがって、これらの発明全てについて、本件特許発明1について上記(ア)で検討した点と同様のことが当てはまるといえるから、本件特許発明2?5は、当業者であっても、甲第2号証に記載された発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

エ 小括
したがって、本件特許発明1?5は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲2号証に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定を満たしていないとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度の、レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物の、甘味閾値よりも上の濃度の甘味物質との使用であって、
該甘味物質が、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能であり、
前記化合物と前記甘味物質との混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記化合物のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強するための使用。
【請求項2】
0.5%以上2%未満のスクロースのスクロースと等甘味度の濃度の、レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物の、甘味閾値よりも上の濃度の甘味物質との使用であって、
該甘味物質が、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能であり、
該甘味物質が少なくとも2%のスクロース溶液と等甘味度となる濃度で存在し、
選択される化合物が少なくとも1ppbから100,000ppmの濃度で存在し、0.5%以上2%未満のスクロースのスクロースと等甘味度で存在し、
前記化合物と前記甘味物質との混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記化合物のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強するための使用。
【請求項3】
消費材において甘味を増強する方法であって、
消費材に、甘味増強化合物を、0.5%以上2%未満のスクロース溶液と等甘味度の濃度で含ませることを含み、
ここで、前記甘味増強化合物はレバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物を含み、
その消費材は、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能な甘味料をその甘味検出閾値よりも上の濃度で含有している、前記方法。
【請求項4】
消費材において甘味を増強する方法であって、
消費材に、甘味増強化合物を、0.5%以上2%未満のスクロース溶液と等甘味度の濃度で含ませることを含み、
ここで、前記甘味増強化合物はレバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物を含み、
その消費材は、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能な甘味料をその甘味検出閾値よりも上の濃度で含有しており、
甘味料が少なくとも2%のスクロース溶液と等甘味度となる濃度で存在し、
甘味増強化合物が少なくとも1ppbから100,000ppmの濃度で存在し、0.5%以上2%未満スクロースのスクロースと等甘味度で存在する、前記方法。
【請求項5】
レバウジオシドA、モグロシドV、ステビオシド、ルブソシド、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、およびサイクラミン酸塩からなる群から選択される化合物を含む甘味増強剤であって、0.5%?2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度での該剤と、甘味閾値よりも上の濃度の、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能な甘味物質とを混合した場合の混合物の甘味を、該甘味物質のみまたは前記剤のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強することに用いられる、前記甘味増強剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-31 
出願番号 特願2017-94295(P2017-94295)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 濱田 光浩  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 みどり
中島 芳人
登録日 2018-09-28 
登録番号 特許第6408643号(P6408643)
権利者 ジボダン エス エー
発明の名称 甘味増強に関する方法  
代理人 小田切 美紗  
代理人 小田切 美紗  
代理人 葛和 清司  
代理人 葛和 清司  
代理人 千野 櫻子  
代理人 千野 櫻子  
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