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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する F03B
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F03B
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する F03B
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F03B
管理番号 1360757
審判番号 訂正2019-390119  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2019-11-26 
確定日 2020-03-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4280127号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4280127号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第4280127号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、平成15年8月11日に出願され、平成21年3月19日に設定登録がされ、平成21年6月17日に特許掲載公報が発行され、令和元年11月26日に本件訂正審判請求がされた。

第2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許4280127号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを認める、との審決を求めるものである。

第3 訂正の内容
1 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁は、当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて、当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成されている」とあるのを、「当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて、前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁の縁線は、当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成されるとともに、前記回転軸を中心とする半径方向における前記後縁の縁線の中央付近が、前記投影平面にてそのクラウン端と前記回転軸とを結ぶ直線よりも前記回転方向の後側に張り出して形成される」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)(下線部は訂正箇所を表すものであり、当審で付与。以下同様。)。

2 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「ランナ羽根の水車運転時における後縁の縁線は」とあるのを、「ランナ羽根の水車運転時における前記後縁の縁線は」に訂正する。

3 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「前記投影平面にてその内周端と外周端のθが等しく」とあるのを、「前記投影平面にて前記クラウン端とバンド端のθが等しく」に訂正する。

4 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「当該内周端及び外周端におけるθを0とした場合、」とあるのを、「当該クラウン端及びバンド端におけるθを0とした場合、」に訂正する。

5 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「前記投影平面における前記縁線のθの最小値θmin」とあるのを、「前記投影平面における前記後縁の縁線のθの最小値θmin」に訂正する。

6 訂正事項6
明細書の段落【0027】に「その内周端(バンド端14)と外周端(クラウン端13)」とあるのを、「その外周端(バンド端14)と内周端(クラウン端13)」に訂正する。

7 証拠方法
請求人が審判請求書に添付して提出した証拠は以下のとおりである。

甲第1号証:米国特許第6135716号明細書
甲第2号証:宮川和芳,外3名,“新設計コンセプトを用いた高性能水車の開発”,三菱重工技報,三菱重工業株式会社,平成12年1月,第37巻,第1号,p.34-37
甲第3号証:小池候朗,外4名,“水車ランナ更新時におけるCFDの活用-手取川第一発電所-”,ターボ機械,日本工業出版株式会社,平成14年11月,第30巻,第11号,p.52-56
甲第4号証:東芝エネルギーシステム株式会社 技術・生産企画部 山下正生の陳述書

第4 当審の判断
1 訂正事項1について
(1)訂正の目的
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁は、当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて、当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成されている」とあるのを、「当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて、前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁の縁線は、当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成されるとともに、前記回転軸を中心とする半径方向における前記後縁の縁線の中央付近が、前記投影平面にてそのクラウン端と前記回転軸とを結ぶ直線よりも前記回転方向の後側に張り出して形成される」と訂正することは、全体として訂正前の発明特定事項である「ランナ羽根の水車運転時の後縁」について限定を付加するものであって、上位概念から下位概念へ変更するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(1)から明らかなように、訂正事項1は、全体として訂正前の「後縁」について限定を付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1のうち、訂正後の「当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて、前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁の縁線は、当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成される」との事項については、願書に添付した明細書の段落【0026】、図1及び図3に記載があり、また、訂正事項1のうち、訂正後の「前記回転軸を中心とする半径方向における前記後縁の縁線の中央付近が、前記投影平面にてそのクラウン端と前記回転軸とを結ぶ直線よりも前記回転方向の後側に張り出して形成される」との事項については、願書に添付した明細書の段落【0022】、【0026】、図1及び図3に記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(4)独立特許要件
訂正事項1は、上記(1)で示したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、独立特許要件について検討する。
ア 訂正発明1
本件請求項1に係る発明(以下、「訂正発明1」という。)は、本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
回転軸を中心に回転可能なクラウンと、
前記回転軸と同軸に前記クラウンと離間して設けられたリング状のバンドと、
前記クラウンと前記バンドとの間に当該クラウン及び当該バンドを接続するように周方向に複数設けられた板状のランナ羽根とを備え、
水車運転時に前記クラウンと前記バンドの間に外方から導入された水の作用により前記回転軸を中心に回転するフランシス形ランナにおいて、
当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて、前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁の縁線は、当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成されるとともに、前記回転軸を中心とする半径方向における前記後縁の縁線の中央付近が、前記投影平面にてそのクラウン端と前記回転軸とを結ぶ直線よりも前記回転方向の後側に張り出して形成されることを特徴とするフランシス形ランナ。」

イ 甲第1号証
本件訂正請求書に添付された甲第1号証には、「Runner for Francis-type hydraulic turbine(フランシス型水車用のランナ)」について、次の事項が図面とともに記載されている。([]内は、当審で付した和訳である。また、下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)
(ア)「ABSTRACT
Disclosed is a runner for a Francis-type hydraulic turbine, comprising a ring, a hub, and a number of blades all having a curved shape and being attached to the ring and hub. Each blade has an inlet edge and an outlet edge.」[要約 開示するフランシス型水車用のランナは、リング、ハブ、及びすべてが湾曲した形状を有し、前記リング及び前記ハブに取り付けられた複数枚のブレードとを備えている。各ブレードは、入口縁と出口縁を有している。]

(イ)「Surprisingly it has now been found according to the present invention that remarkably good improvements with respect to efficiency and cavitation conditions are obtained by essentially combining the particular designs mentioned above, as regards the relative location and configuration of the inlet edge and the outlet edge, respectively.」(第1欄下から2行?第2欄4行)[驚くべきことに、本発明によれば、上記特定の設計を組み合わせることによって得られる効率及びキャビテーション条件に対して極めて良好な改良が、入口端と出口端の相対位置および構成に関して、それぞれされている。]

(ウ)「FIG. 1 in perspective view shows a Francis-type runner with a blade configuration of traditional type,FIG. 2 in a corresponding manner but at a somewhat different perspective and simplified, shows an example of an embodiment of a runner according to the present invention,FIG. 3 somewhat simplified and in elevation shows a runner corresponding to the one in FIG. 2,FIG. 4 shows the runner in FIG. 3 as seen from below,FIG. 5 shows a schematic axial section (meridian section) of a single blade as an example of an embodiment according to the invention,FIG. 6 shows a corresponding blade as seen in axial direction (r.phi. plot) of the suction side of a blade for a runner according to the invention,・・・」(第2欄23?36行)[斜視図である図1は、従来型のブレード構成を備えたフランシス型ランナを示している。
幾分異なる斜視図であり簡略化された対応する図2は、本発明に係る羽根車の実施形態の一例を示す。
図3は、図2の実施形態のランナの簡略化された立体図を示す。
図4は、下から見た図3のランナを示している。
図5は、本発明に係る実施形態の一例として、一枚のブレードの模式的軸方向断面(子午断面)を示す図である。
図6は、本発明によるランナのためのブレードの吸い込み側の軸方向(r、φプロット)で見た対応するブレードを示している。・・・]

(エ)「Moreover it is seen that the blade outlet edge 6 extends at an inclination forwardly as seen from the hub towards the ring in FIG. 2, in contrast to the radial outlet edge 3y referred to in connection with FIG. 1. What is further to be noted in the configuration of the blades in FIG. 2, is a more or less twisted shape.」(第2欄下から2行?第3欄4行)[さらに、図2において、ブレード出口縁6は、ハブからリングに向かって前方に傾いて延びており、図1において関連して参照される半径方向の出口縁3yとは対照的である。図2のブレードの構成においてさらに注目すべき点は、多かれ少なかれ捻れた形状であることである。]

(オ)「FIGS. 3 and 4 illustrate additional features that have been mentioned already with reference to FIG. 2, namely the configuration of the blade inlet edge 5 and correspondingly with respect to outlet edge 6. In FIG. 3 the ring 1 actually has been represented only by its internal contour. At 7 there is shown how the joining zone or surface 7 between the end of blade 3 and ring 1 looks. In FIG. 3 and partly in FIG. 4 arrows have been inserted for indicating points or positions in the runner configuration, that can be considered to characterize in a practical manner the particular blade shape being here described. There points are:A--The junction or attachment points of the blade inlet edge 5, at the ring 1,B--the attachment points of the blade outlet edge 6, at the ring 1,C--the attachment point of the inlet edge at the hub 2, andD--the attachment point of the outlet edge at the hub 2 (point D is not shown in FIG. 3).」(第3欄第10?27行)[図3及び図4は、図2に関連して既に上述してきたが、追加の特徴、すなわち、ブレード入口縁部5の構成と、それに対応した出口端部6を示している。図3において、リング1は、実際には、その内部輪郭によってのみ表されている。7においては、ブレード3とリング1の端部との間の接合ゾーン又は表面7がどのように見えるかが示されている。図3及び図4の矢印は、このランナの構造において、ここで説明されている特定の翼形状で実際的な方法を特徴づけると考えることができる点または位置を示すために挿入されている。それらの点は以下のとおりである。
Aは、リング1でのブレード入口縁5の接合又は取付け点
Bは、リング1でのブレード出口縁6の取付け点
Cは、ハブ2での入口縁5の取り付け点。
Dは、ハブ2(D点は図3には示されていない)の出口縁6の接続点。]

(カ)「The most important features in the runner according to the invention are best illustrated in FIGS. 3, 4 and 6, showing how the four points A, B, C and D mentioned, are located angularly in relation to the axis of rotation. This axis is represented by origin in the diagram of FIG. 6. Thus FIG. 6 shows the blade 3 as seen in an axial direction of FIG. 5. The rotational direction is again indicated in FIG. 6 with the arrow R. From origin (axis Ax) in FIG. 6 there is moreover drawn some radial lines illustrating angular relationships of much significance, also as seen in relation to the rotational direction R.
These essential relationships according to the invention are best seen from FIG. 6, but also from FIGS. 3 and 4 as follows:Point A is located forwardly of point C as seen in the rotational direction R, and point B leads point D as seen in the rotational direction R. This is the configuration that influences the particular and controlled twisted shape of the blade 3, and according to the invention has been found to give remarkable results with respect to the water flow pattern, pressure distribution and thereby efficiency as well as cavitation properties.」(第3欄第52行?第4欄第6行)[図3、図4及び図6に最も良く示されている本発明のランナにおいて、最も重要な特徴は、4点A、B、CおよびDが、回転の軸線に対する角度的にどのように配置されているかである。この軸は、図6の線図では原点によって表される。すなわち、図6は、図5の軸方向から見たブレード3を示している。回転方向は図6においても矢印Rにより示されている。図3の原点(軸Ax)から、さらに大きな意味のある角度関係を示すいくつかの放射状線が描かれており、また、回転方向Rとの関係も示されている。
本発明によれば、これらの重要な関係は、図3及び図4に加えて、図6に最もよく表されている。
点Aは、回転方向Rに見たときに点Cの前方に位置する点であり、点Bは、回転方向Rに見てブレード3の点Dに先行している。これは、ブレード3の特定のかつ調整したねじれ形状に影響を与える構成であり、本発明によって、水の流れ、圧力分布、ひいては効率やキャビテーション特性に関して顕著な結果を与えることが見出された構成である。]

(キ)(ア)の記載から、複数のブレード3は、リング1及びハブ2に取り付けられたものであり、図2ないし図4の記載から、複数のブレード3は、ハブ2とリング1との間に当該ハブ2及び当該リング1とを接続するように周方向に設けられた板状のものであることが看取できる。

(ク)上記(ウ)及び(エ)の記載と図4をあわせみると、図4には、下から、すなわち、回転軸の方向から見たランナが示されているところ、ブレード3の出口縁6の縁線はハブからリングに向かって前方に傾いて延びており、かつ、水車運転時の回転方向(R)に凹に形成されていることが看取できる。同様の事項は図6からも看取でき、さらに、上記(オ)及び(カ)の記載と図6をあわせみると、出口縁6の縁線は、回転軸及び出口縁6のハブ2への取付け点であるDとを通る直線より回転方向Rの後側に張り出していないことが理解できる。

ウ 甲1発明
上記イの記載によれば、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ハブ2と、
リング1と、
ハブ2とリング1との間に当該ハブ2及び当該リング1とを接続するように周方向に設けられた板状の複数枚のブレード3と、
を備えたフランシス型水車用のランナにおいて、
当該ランナを回転軸に垂直な方向からみたとき、ブレード3の出口縁6の縁線はハブからリングに向かって前方に傾いて延びており、水車運転時の回転方向(R)に凹に形成されているとともに、ブレード3の出口縁6の縁線は、回転軸及び出口縁6のハブ2への取付け点であるDとを通る直線より回転方向Rの後側に張り出していないフランシス型水車用のランナ。」

エ 甲第2号証
本件訂正請求書に添付された甲第2号証には、次の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「本報では内部流れの詳細把握に基づき新しい水車の設計概念を構築し顕著な効率向上を達成した結果について報告する。ここで研究対象とした水車は比速度140m-kW級のフランシス水車でステーベーン、ガイドベーン枚数16枚(一部の研究では24枚)、ランナベーン枚数18枚である。」(第34ページ右欄第2?6行)

(イ)「3.2 新コンセプトランナ
前述した上流境界層による流入角の影響及びランナ内での二次流れに起因する損失増大を抑制するために、新形状のランナを開発した。新形状のランナの設計では上流からの境界層を考慮し、二次流れを抑制するために負荷分布のコントロールが行われたが、前縁がM型に湾曲していること、また、後縁が凸型であることに特徴がある。」(第36ページ右欄第3?9行)

(ウ)「図9にCFDによる従来形状と新形状のランナベーン翼面近傍流線の比較を示す。図8に示したように従来形状では圧力面側で大きな二次流れを発生している。また、シュラウド側では圧力面から負圧面への流線が翼間の流線と衝突し、その衝突により発生した混合領域がランナ後縁近傍で負圧面に到達している様子が分かる。一方、新形状では圧力面でもクラウンからシュラウドへ向かう二次流れは抑制され、また、シュラウド面でも従来形状に見られた二次流れによる挙動は見られず、流れが大きく改善されていることが分かる。図10にCFDによるランナ出口近傍での損失分布の比較を示す。図10に示すように従来形状ではシュラウド側、負圧側面での損失の大きな領域が存在したが、新形状ではその領域が小さくなっている。これはランナ面での前縁近傍での境界層の生長の抑制と二次流れの抑制の効果による。」(第36ページ右欄第13?26行)

オ 甲2発明
上記エの記載によれば、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「クラウンと、
シュラウドと、
18枚のランナベーンと、
を備えたフランシス水車において、
後縁が凸型であるフランシス水車。」

カ 甲第3号証
本件訂正請求書に添付された甲第3号証には、次の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「5.新旧ランナ形状の比較
Fig.2は、新ランナ(実線)と既設ランナ(二点鎖線)の側面形状を比較して示す。既設ランナは羽根枚数15枚であったが、新ランナは13枚を採用している。新ランナは、既に開発を終えた高効率ランナを手取川第一発電所の固定部に取り付けられるように各部の寸法を変更して設計されている。このため、ベースとなったランナの羽根枚数に合わせ、新ランナの羽根枚数は13枚となっている。比速度130m-kw程度のフランシス水車ランナの羽根枚数は、ガイドベーンに偶数枚を採用されることが多いため、11から17の間の奇数枚数が多く採用されている。同じエネルギを少ない羽根枚数または短い翼弦長で回収するには、翼の圧力面と負圧面の圧力差を大きくする(負圧面の圧力低下が大きくなる)ことにより可能となるが、キャビテーションが発生しやすくなる。キャビテーション特性を変えることなく羽根枚数を減らすためには、羽根枚数×翼弦長をほぼ一定とし、翼負圧面の圧力低下を押えることが必要である。したがって、今回採用した13枚羽根ランナは旧ランナの15枚羽根に比べ、長い翼弦長が採用されている。
既設ランナおよび新ランナの3次元形状をFig.3に示す。この図から、特にランナクラウンからバンドまでの翼出口端形状に大きな違いがあることが判る。これは、これまでランナ出口端を基準にランナが設計・製作されることが多く、既設ランナの出口端も放射線上に配置されている。一方、新ランナは3次元形状の取り扱いが容易になったことから、設計上の制約を少なくした形状が採用されている。
また、各流線における翼形状は、既設ランナではほぼ肉厚が均等な形状が採用されている。一方、新ランナは翼入口側の翼厚が厚く、入口から出口に向かって翼厚が変化する形状を採用している。これにより、後述するように入口キャビテーションの大幅な改善が図られている。」(54ページ左欄15行?55ページ左欄13行)

(イ)Fig.3(b)には「Shape of new runner」(新ランナ)のランナの3次元形状が示されているところ、Fig.3(b)と上記(ア)の記載とあわせみると、ランナ羽根が周方向に13枚設けられていることが理解でき、また、Fig.3(b)に示されるランナ羽根のうち、左側から中央にかけて存在するランナ羽根の形状は右端部が右側に凸の形状であることが看取できるから、甲第3号証には、一部のランナ羽根の形状は右端部が右側に凸の形状であることが記載されているといえる。

キ 甲3発明
上記カの記載によれば、甲第3号証には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「クラウンと、
バンドと、
周方向に13枚設けられた板状のランナ羽根と、
を備えたフランシス水車ランナにおいて、
一部のランナ羽根の形状は右端部が右側に凸の形状であるフランシス水車ランナ。」

ク 甲1発明を主引例とした場合
(ア)対比
訂正発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲1発明における「ハブ2」は、回転軸を中心に回転可能であることは技術常識から明らかであるから、訂正発明1における「回転軸を中心に回転可能なクラウン」あるいは「クラウン」に相当する。
・甲1発明における「リング1」は、回転軸と同軸にハブと離間して設けられていることは技術常識から明らかであるから、訂正発明1における「前記回転軸と同軸に前記クラウンと離間して設けられたリング状のバンド」あるいは「バンド」に相当する。
・甲1発明における「ハブ2とリング1との間に当該ハブ2及び当該リング1とを接続するように周方向に設けられた板状の複数枚のブレード3」あるいは「ブレード3」は、訂正発明1における「前記クラウンと前記バンドとの間に当該クラウン及び当該バンドを接続するように周方向に複数設けられた板状のランナ羽根」あるいは「ランナ羽根」に相当する。
・甲1発明における「フランシス型水車用のランナ」は、水車運転時にハブとリングの間に外方から導入された水の作用により前記回転軸を中心に回転するものであることは技術常識から明らかであるから、訂正発明1における「フランシス形ランナ」に相当する。
・甲1発明における「当該ランナを回転軸の方向からみたとき」は訂正発明1における「当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて」に相当し、甲1発明における「出口縁6」は訂正発明1における「後縁」に相当し、甲1発明における「ブレード3の出口縁6の縁線はハブからリングに向かって前方に傾いて延びており、水車運転時の回転方向(R)に凹に形成されている」ことは訂正発明1における「当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成される」ことに相当するから、甲1発明における「当該ランナを回転軸に垂直な方向からみたとき、ブレード3の出口縁6の縁線はハブからリングに向かって前方に傾いて延びており、水車運転時の回転方向(R)に凹に形成されている」ことは、訂正発明1の「当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて、前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁の縁線は、当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成される」ことに相当する。
したがって、訂正発明1と甲1発明との間には、次の一致点1、相違点1があるといえる。
(一致点1)
「回転軸を中心に回転可能なクラウンと、
前記回転軸と同軸に前記クラウンと離間して設けられたリング状のバンドと、
前記クラウンと前記バンドとの間に当該クラウン及び当該バンドを接続するように周方向に複数設けられた板状のランナ羽根とを備え、
水車運転時に前記クラウンと前記バンドの間に外方から導入された水の作用により前記回転軸を中心に回転するフランシス形ランナにおいて、
当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて、前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁の縁線は、当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成されるフランシス形ランナ。」
(相違点1)
訂正発明1においては、前記回転軸を中心とする半径方向における前記後縁の縁線の中央付近が、前記投影平面にてそのクラウン端と前記回転軸とを結ぶ直線よりも前記回転方向の後側に張り出して形成されるのに対し、甲1発明においては、ブレード3の出口縁6の縁線は、回転軸及び出口縁6のハブ2への取付け点であるDとを通る直線より回転方向Rの後側に張り出していない点。

(イ)判断
上記相違点1について検討すると、甲第1号証には、ブレードの出口縁6の縁線の中央付近を、ハブ端と回転軸とを結ぶ直線よりも回転方向の後側に張り出すように形成する旨の記載も示唆もなく、また、甲第2号証及び甲第3号証にも、かかる事項について記載も示唆も見あたらない。
そうすると、甲1発明において、訂正発明1の上記相違点1に係る発明特定事項を採用する動機づけは見あたらず、また、当業者が容易に想到し得たものとすることもできない。
したがって、訂正発明1は、当業者であっても甲1発明並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

ケ 甲2発明を主引例とした場合
(ア)対比
訂正発明1と甲2発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲2発明における「クラウン」は、回転軸を中心に回転可能であることは技術常識から明らかであるから、訂正発明1における「回転軸を中心に回転可能なクラウン」あるいは「クラウン」に相当する。
・甲2発明における「シュラウド」は、回転軸と同軸にクラウンと離間して設けられたリング状のものであることは技術常識から明らかであるから、訂正発明1における「前記回転軸と同軸に前記クラウンと離間して設けられたリング状のバンド」あるいは「バンド」に相当する。
・甲2発明における「18枚」は訂正発明1における「複数」に相当し、また、甲2発明における「18枚のランナベーン」あるいは「ランナベーン」は、クラウンとシュラウドとの間に当該クラウン及び当該シュラウドとを接続するように周方向に設けられた板状のものであることが技術常識から明らかであるから、甲2発明における「18枚のランナベーン」あるいは「ランナベーン」は、訂正発明1における「前記クラウンと前記バンドとの間に当該クラウン及び当該バンドを接続するように周方向に複数設けられた板状のランナ羽根」あるいは「ランナ羽根」に相当する。
・甲2発明における「フランシス水車」は、水車運転時にクラウンとシュラウドの間に外方から導入された水の作用により前記回転軸を中心に回転するものであることは技術常識から明らかであるから、訂正発明1における「フランシス形ランナ」に相当する。
したがって、訂正発明1と甲2発明との間には、次の一致点2、相違点2があるといえる。
(一致点2)
「回転軸を中心に回転可能なクラウンと、
前記回転軸と同軸に前記クラウンと離間して設けられたリング状のバンドと、
前記クラウンと前記バンドとの間に当該クラウン及び当該バンドを接続するように周方向に複数設けられた板状のランナ羽根とを備え、
水車運転時に前記クラウンと前記バンドの間に外方から導入された水の作用により前記回転軸を中心に回転するフランシス形ランナ。」
(相違点2)
訂正発明1においては、当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて、前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁の縁線は、当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成されるとともに、前記回転軸を中心とする半径方向における前記後縁の縁線の中央付近が、前記投影平面にてそのクラウン端と前記回転軸とを結ぶ直線よりも前記回転方向の後側に張り出して形成されるのに対し、甲2発明においては、後縁が凸型である点。

(イ)判断
上記相違点2について検討すると、甲第2号証には、後縁が凸型であることが記載されているが、どのような視点から見てランナベーンの後縁が凸型であるのかについて記載はなく、この記載のみから甲2発明が回転軸に垂直な投影平面にて、ランナベーンの後縁の縁線が回転方向に凹であるように凸型に形成されるものとすることはできない。
ここで、上記エ(ウ)にあるとおり、甲第2号証には、図9に新形状のランナベーン翼面近傍流線が示されており、当該図9の新形状のランナベーンの上側に「クラウン」、下側に「シュラウド」、右側に「前縁」、左側に「後縁」との語が付されており、「後縁」との語が付されたランナベーンは左側に凸となっていることが看取でき、また、甲第2号証には、図10に新形状のランナのランナ出口近傍での損失分布が示されており、当該図10の右側に「圧力面」、左側に「負圧面」との語が付されており、「圧力面」との語が付されたランナベーンの縁線は左側に凹となり、「負圧面」との語が付されたランナベーンの縁線は左側に凸となっていることが看取できる。しかしながら、図9に示されるものはランナベーン翼面近傍流線を模式的に表したものであり、また、図10に示されるものはランナのランナ出口近傍での損失分布を模式的に表したものであって、図9及び図10に示されるランナベーンをどの方向からみた図であるかの記載もないことから、いずれの図も回転軸に垂直な投影平面におけるランナベーンの形状を表したものとは解されず、図9及び図10から、フランシス水車の回転軸に垂直な投影平面にて、ランナベーンの水車運転時の後縁の縁線は、当該フランシス水車の運転時の回転方向に凹に形成されるとともに、回転軸を中心とする半径方向における後縁の縁線の中央付近が、投影平面にてそのクラウン端と回転軸とを結ぶ直線よりも回転方向の後側に張り出して形成されることを看取することはできない。仮に、図10に示されたものが、回転軸に垂直な投影平面におけるものであったとしても、技術常識によれば、フランシス水車におけるランナベーンは回転方向の前面側が負圧面となるから、図10に示されたランナベーンの回転方向は左回りであって、ランナベーンの後縁である右側の縁線は回転方向に凸に形成されていると解されるから、ランナベーンの後縁の縁線が回転方向に凹に形成されているものとはいえない。
さらに、甲第2号証の図9及び図10以外の図面をみても上記事項は看取できず、また、甲第2号証のその他の記載並びに甲第1号証及び甲第3号証の記載をみても、かかる事項について記載も示唆も見あたらない。
そうすると、甲2発明において、訂正発明1の上記相違点2に係る発明特定事項を採用する動機づけは見あたらず、また、当業者が容易に想到し得たものとすることもできない。
したがって、訂正発明1は、当業者であっても甲2発明並びに甲第1号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

コ 甲3発明を主引例とした場合
(ア)対比
訂正発明1と甲3発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲3発明における「クラウン」は、回転軸を中心に回転可能であることは技術常識から明らかであるから、訂正発明1における「回転軸を中心に回転可能なクラウン」あるいは「クラウン」に相当する。
・甲3発明における「バンド」は、回転軸と同軸にクラウンと離間して設けられたリング状のものであることは技術常識から明らかであるから、訂正発明1における「前記回転軸と同軸に前記クラウンと離間して設けられたリング状のバンド」あるいは「バンド」に相当する。
・甲3発明における「13枚」は訂正発明1における「複数」に相当し、また、甲3発明における「周方向に13枚設けられた板状のランナ羽根」あるいは「ランナ羽根」は、クラウンとバンドとの間に当該クラウン及び当該バンドとを接続するように設けられたものであることが技術常識から明らかであるから、甲3発明における「周方向に13枚設けられた板状のランナ羽根」あるいは「ランナ羽根」は、訂正発明1における「前記クラウンと前記バンドとの間に当該クラウン及び当該バンドを接続するように周方向に複数設けられた板状のランナ羽根」あるいは「ランナ羽根」に相当する。
・甲2発明における「フランシス水車ランナ」は、水車運転時にクラウンとシュラウドの間に外方から導入された水の作用により前記回転軸を中心に回転するものであることは技術常識から明らかであるから、訂正発明1における「フランシス形ランナ」に相当する。
したがって、訂正発明1と甲3発明との間には、次の一致点3、相違点3があるといえる。
(一致点3)
「回転軸を中心に回転可能なクラウンと、
前記回転軸と同軸に前記クラウンと離間して設けられたリング状のバンドと、
前記クラウンと前記バンドとの間に当該クラウン及び当該バンドを接続するように周方向に複数設けられた板状のランナ羽根とを備え、
水車運転時に前記クラウンと前記バンドの間に外方から導入された水の作用により前記回転軸を中心に回転するフランシス形ランナ。」
(相違点3)
訂正発明1においては、当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて、前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁の縁線は、当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成されるとともに、前記回転軸を中心とする半径方向における前記後縁の縁線の中央付近が、前記投影平面にてそのクラウン端と前記回転軸とを結ぶ直線よりも前記回転方向の後側に張り出して形成されるのに対し、甲3発明においては、一部のランナ羽根の形状は右端部が右側に凸の形状である点。

(イ)判断
上記相違点3について検討すると、上記カ(ア)及び(イ)にあるとおり、甲第3号証のFig.3に既設ランナおよび新ランナの3次元形状の比較、特に、Fig.3(b)には、「Shape of new runner」(新ランナ)のランナが示されている。Fig.3(b)から、図の左側から中央にかけて存在するランナ羽根の形状は、右側に凸型の形状であることが看取できるものの、図の中央より右側に存在するランナ羽根の形状は、これらより左側に存在するランナ羽根の形状と大きく異なり、捻れていることが看取できる。そうすると、異なる位置に存在するランナ羽根がそれぞれ異なる見え方をしていること、加えて、Fig.3(b)が新ランナの「3次元形状」を示すものであることからするとランナを正面からみたものとは考えにくいことから、甲第3号証のFig.3(b)は、ランナの軸方向からみた正面図ではなく、軸方向と傾斜した角度からみた図となっていると解するのが自然である。
そうすると、Fig.3(b)のランナは、そもそも回転方向が不明であるが、仮に、回転方向がFig.3(b)において時計回りであって、図の右側に凸型の形状となっているランナ羽根の右側が水車運転時の後縁の縁線となるものであったとしても、上述のとおり、Fig.3(b)が回転軸に垂直な投影平面におけるランナを示したものとはいえないから、Fig.3(b)から、フランシス水車の回転軸に垂直な投影平面にて、ランナ羽根の水車運転時の後縁の縁線は、当該フランシス水車の運転時の回転方向に凹に形成されるとともに、回転軸を中心とする半径方向における後縁の縁線の中央付近が、投影平面にてそのクラウン端と回転軸とを結ぶ直線よりも回転方向の後側に張り出して形成されることを看取することはできない。
さらに、甲第3号証のFig.3(b)以外の図面をみても上記事項は看取できず、また、甲第3号証の他の記載並びに甲第1号証及び甲第2号証の記載をみても、かかる事項について記載も示唆も見あたらない。
そうすると、甲3発明において、訂正発明1の上記相違点3に係る発明特定事項を採用する動機づけは見あたらず、また、当業者が容易に想到し得たものとすることもできない。
したがって、訂正発明1は、当業者であっても甲3発明並びに甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

サ 訂正発明1についてのまとめ
以上のとおり、訂正発明1は、甲1号証ないし甲3号証から容易に発明をすることができたものではなく、また、訂正発明1が容易に発明をすることができたとする他の理由も発見しないから、訂正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

シ 訂正発明2
本件請求項2に係る発明(以下、「訂正発明2」という。)は、本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「【請求項2】
請求項1に記載のフランシス形ランナにおいて、回転軸に垂直な投影平面上にて当該フランシス形ランナの回転中心をr=0、水車運転時の回転方向をθの正方向とした極座標を用いるとき、
ランナ羽根の水車運転時における前記後縁の縁線は、前記投影平面にて前記クラウン端とバンド端のθが等しく、かつ、
当該クラウン端及びバンド端におけるθを0とした場合、前記投影平面における前記後縁の縁線のθの最小値θminは、Zrをランナ羽根の枚数とすると、

を満たすことを特徴とするフランシス形ランナ。」

ス 訂正発明2についての判断
訂正発明2は、訂正発明1を引用するものであり、訂正発明1における相違点1、相違点2または相違点3に係る発明特定事項を備えるものであるから、上記クないしサで検討したと同様の理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

セ 独立特許要件についてのまとめ
上記アないしスで検討したとおり、訂正発明1及び訂正発明2は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

(5)上記(1)?(4)より,訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5?7項の規定に適合する。

2 訂正事項2について
(1)訂正の目的
訂正事項2は、訂正事項1により、訂正前の請求項1の「後縁」を「後縁の縁線」としたことに伴い、請求項2の「後縁の縁線」が、訂正後の請求項1の「後縁の縁線」と同じものであることを明確にしたものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(1)から明らかなように、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(1)から明らかなように、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(4)上記(1)?(3)より,訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5及び6項の規定に適合する。

3 訂正事項3について
(1)訂正の目的
訂正事項3は、訂正事項1により、請求項1に「当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面」における「前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁の縁線」の「クラウン端」との事項が付加されたことに伴い、請求項2の「内周端」が請求項1の「クラウン端」と同じものであることを明確にするとともに、請求項2の「外周端」が「バンド端」であることを明確にしたものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(1)から明らかなように、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「前記投影平面にて前記クラウン端とバンド端のθが等し」いことは、願書に添付した明細書の段落【0027】、図1及び図3に記載されているから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(4)上記(1)?(3)より,訂正事項3は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5及び6項の規定に適合する。

4 訂正事項4について
(1)訂正の目的
訂正事項4は、訂正事項1により、請求項1に「当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面」における「前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁の縁線」の「クラウン端」との事項が付加されたことに伴い、請求項2の「内周端」が請求項1の「クラウン端」と同じものであることを明確にするとともに、請求項2の「外周端」が「バンド端」であることを明確にしたものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(1)から明らかなように、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「当該クラウン端及びバンド端におけるθを0と」することは、願書に添付した明細書の段落【0027】に記載されているから、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(4)上記(1)?(3)より,訂正事項4は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5及び6項の規定に適合する。

5 訂正事項5について
(1)訂正の目的
訂正事項5は、訂正事項1により、訂正前の請求項1の「後縁」を「後縁の縁線」としたことに伴い、訂正前の請求項2の「前記縁線」を「前記後縁の縁線」とすることにより、かかる「前記縁線」が訂正後の請求項1の「後縁の縁線」と同じものであることを明確にしたものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(1)から明らかなように、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(1)から明らかなように、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(4)上記(1)?(3)より,訂正事項5は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5及び6項の規定に適合する。

6 訂正事項6について
(1)訂正の目的
訂正事項6は、明細書の段落【0027】に「その内周端(バンド端14)と外周端(クラウン端13)」とあるのを、「その外周端(バンド端14)と内周端(クラウン端13)」に訂正するものであり、後述する(3)のとおり、正しくは、バンド端14が外周端であり、クラウン端13が内周端であるところ、誤ってバンド端14が内周端であり、クラウン端13が外周端であるとした記載を訂正するものであって、誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(1)から明らかなように、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した図面の図1を参照すると、クラウン端を示す符号「13」は、符号7が付されたクラウンと符号12が付されたランナ羽根の後縁との交点であって、かかる交点が羽根後縁12の縁線の内周端であることは明らかである。同様に、バンド端を示す符号「14」は、符号8が付されたバンドと符号12が付されたランナ羽根の後縁との交点であって、羽根後縁12の縁線の外周端であることは明らかである。そうすると、「外周端(バンド端14)と内周端(クラウン端13)」は、願書に添付した図面の記載から明らかな事項であり、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(4)上記(1)?(3)より,訂正事項6は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5及び6項の規定に適合する。

7 一群の請求項について
訂正事項1?6に係る訂正前の請求項1、2について、訂正前の請求項2は、請求項1の記載を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1、2は一群の請求項であるから、本件訂正は特許法第126条第3項の規定に基づき一群の請求項ごとにされたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項、第6項及び第7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フランシス形ランナ
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランシス形水車またはポンプ水車のフランシス形ランナに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フランシス形水車またはポンプ水車等の水力機械に用いられるフランシス形ランナは、回転軸を中心に回転可能なクラウンを有し、そのクラウンと離間して設けられたリング状のバンドとクラウンとの間に、当該クラウン及び当該バンドを接続するように周方向に複数の板状のランナ羽根が設けられて構成されている。そして、水車運転時にはクラウンとバンドとの間に外方から水を導入し、導入された水の作用により回転軸を中心にフランシス形ランナを回転させ、回転軸に連結された発電機を駆動する。
【0003】
図11はフランシス水車が備え付けられた水力発電所のフランシス水車近傍の縦断面図である。水車運転時には、水は図示省略の上池から水圧鉄管1を通り、ケーシング2、ステーベーン3及びガイドベーン4を通ってフランシス形ランナ5に流れ込む。そして、その水流によってフランシス形ランナ5が回転駆動され主軸9を介して発電機10が駆動される。一方、フランシス形ランナ5を駆動した水は吸出し管11を経て図示省略の放水路へと流出する。水車運転時にはガイドベーン4の開度を変化させることにより、フランシス形ランナ5に流入する水量を調整し発電量を変化させる。フランシス形ランナ5は、発電機10の回転軸を中心に回転可能なクラウン7を有し、そのクラウン7と離間して設けられたリング状のバンド8との間に板状のランナ羽根6を円周方向に略等間隔に複数配置して構成されている。
【0004】
図12は従来のフランシス形ランナのランナ子午面図である。なお、本図において、ランナ羽根6は回転軸を含む平面である子午面へ投影した形状を示している。フランシス形ランナ5はランナ羽根6がクラウン7とバンド8との間に設けられて形成されており、従来のフランシス形ランナ5においては、通常、羽根後縁12で形成される曲線は滑らかな曲線形状となっていおり、そのクラウン端13の半径方向の位置はバンド端14の半径方向の位置の約50%の所に位置している。すなわち、羽根後縁12とクラウン7とで形成されるクラウン端13と、羽根後縁12とバンド8で形成されるバンド端14とを結んだ曲線は滑らかな曲線形状となっており、また、回転軸からクラウン端13までの距離R_(c)は回転軸からバンド端14までの距離R_(b)の約50%である。
【0005】
図13は従来のフランシス形ランナ5をランナ出口側から見た平面図である。すなわち、図13はフランシス形ランナ5の羽根後縁12部分を回転軸に垂直な平面に投影した投影平面上で見たものである。本図に示されるように、従来のフランシス形ランナ5をランナ出口側から見るとクラウン端13とバンド端14とが直線状に結ばれている。すなわち上記の回転軸に垂直な投影平面上にて回転軸の位置を原点とする半径方向距離と周方向角度からなる極座標を導入すると、クラウン端13とバンド端14との周方向角度は同一であり、羽根後縁12の周方向角度は一定となっている。
【0006】
ところで、前述したように水車運転時には発電量を調整するために、ガイドベーン4の開度を調整し水量を変化させるので、フランシス形ランナ5内の流れは水量により大きく変化する。設計点ではガイドベーン4から入ってきた流れは、フランシス形ランナ5の流線に沿った流れとなる。
【0007】
設計点での流量より流量が小さくなると、フランシス形ランナ5内部に入ってきた流れはフランシス形ランナ5の回転による遠心力のためバンド8側に偏った流れとなってしまう。一方、設計点での流量より流量が大きくなると、ガイドベーン4からフランシス形ランナ5の中心方向に向かって流入する水の持つエネルギーが相対的に大きくなり、フランシス形ランナ5の回転による遠心力よりも大きくなるので、クラウン7側に偏った流れとなってしまう。こういった、バンド8側やクラウン7側に偏った流れは、理想的な流線に沿わない流れであり、二次流れと呼ばれるが、この二次流れが発生するとフランシス形ランナ5では損失が発生することになる。
【0008】
また、フランシス形ランナ5から流出する流れも流量が変化することにより運転点によってその様相は異なってくる。図14はフランシス形ランナのランナ羽根6における流線に沿う断面を円周方向に展開するようにして示したものであり、ランナ羽根6から流出する流れの模式図である。Uは羽根後縁12におけるフランシス形ランナの回転速度、Vは回転するフランシス形ランナから見た、ランナ羽根6から流出する水の相対速度、Wはランナ羽根6から流出する水の絶対速度を示している。設計点では実線で示すようにランナ羽根6から流出する流れは、回転速度Uの大きさと相対速度Vの回転方向成分の大きさとが同じになり、絶対速度Wとしては回転方向成分を持たない流れとなるので、旋回流は生じない。
【0009】
一方、流量が小さくなると破線で示すように、ランナ羽根6から流出する水の相対速度Vが小さくなる。フランシス形ランナ5の回転数が流量により変化しない場合は、回転速度Uの大きさも流量によっては変化しないので、相対速度Vが小さくなった結果、ランナ羽根6から流出する水の絶対速度は回転方向成分Vu1を持つことになり、フランシス形ランナを流出した流れは旋回流となる。
【0010】
図11にて示したように、ランナ羽根6が設けられるフランシス形ランナ5の下流には吸出し管11が設置され、フランシス形ランナ5からの流れの動圧を静圧に変化させ圧力を回復する役割を持っているが、フランシス形ランナ5の下流に旋回流を発生させる、図14にて示した上述の回転方向成分Vu1は吸出し管11内にて静圧として圧力回復されず、そのまま損失となる割合が大きい。
【0011】
また、流量が大きな運転領域になるとフランシス形ランナ5の内部の流速が相対的に大きくなる。このため、ランナ羽根6近傍の圧力は相対的に小さくなる。ランナ羽根6近傍の圧力が低下し、飽和蒸気圧以下になるとキャビテーションが発生する。キャビテーションが発生し、それがランナ羽根6の面近傍で崩壊すると、その崩壊エネルギーによりランナ羽根6が壊食される場合がある。
【0012】
そこで、ランナ羽根の水車羽根出口端のランナバンド付近に羽根先端延長部を設けて、ポンプ運転時の羽根入口のキャビテーションに対する性能の向上及び水車運転時の部分負荷向上を図ったものがある(例えば、特許文献1参照)。また、ポンプ運転時における回転方向前縁の形状として、前縁部におけるクラウンと羽根との交点及びシュラウドと羽根との交点の両方が羽根の前縁部よりポンプ運転時に回転方向前方となるように形成するとともに、羽根の前縁部形状を滑らかな湾曲状に形成し、ポンプ運転時の入口キャビテーション性能の向上を図ったものがある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8-312517号公報(図1、図2、図3)
【特許文献2】特開2000?136766号公報(図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、特開平8-312517号公報のものでは、水車下端から見たランナ羽根の形状に工夫を加えたというものではなく、ランナ羽根の子午面形状のバンド端近傍の羽根形状に工夫を加えたものである。また、特開2000?136766号公報のものでは、ランナ出口方向から見たとき、ポンプ運転の回転方向に凹部状となる(水車回転方向には凸となる)ように、低揚程大流量側の運転領域及び高揚程小流量側の運転領域においてキャビテーションが発生しないようにしたものであり、ポンプ水車のポンプ運転時にはポンプ運転範囲が拡大されるといった効果を奏するものであるが、水車運転時の部分負荷運転時などの性能向上に寄与する、二次流れの抑制や小流量側での旋回成分を小さくすることは考慮されていない。
【0014】
本発明の目的は、水車運転時のランナ羽根の出口端を形成する羽根後縁の曲線の適正化を図ることにより広い運転範囲で損失が小さくキャビテーションの発生し難いフランシス形ランナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のフランシス形ランナは、回転軸を中心に回転可能なクラウンと、前記回転軸と同軸に前記クラウンと離間して設けられたリング状のバンドと、前記クラウンと前記バンドとの間に当該クラウン及び当該バンドを接続するように周方向に複数設けられた板状のランナ羽根とを備え、水車運転時に前記クラウンと前記バンドの間に外方から導入された水の作用により前記回転軸を中心に回転するフランシス形ランナにおいて、前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁は、当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて、当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成されていることを特徴とする。
【0016】
また、ランナ羽根の水車運転時における後縁の縁線は、回転軸に垂直な投影平面上にて当該フランシス形ランナの回転中心をr=0、水車運転時の回転方向をθの正方向とした極座標を用いるとき、前記投影平面にてその内周端と外周端のθが等しく、かつ、当該内周端及び外周端におけるθを0とした場合、前記投影平面における前記縁線のθの最小値θminは、Zrをランナ羽根の枚数とすると、

を満たすことを特徴とする。
【0018】
さらに、また、前記ランナ羽根の前記水車運転時における後縁は、前記回転軸を含む投影平面にて、前記回転軸から前記後縁と前記クラウンとの交点までの距離が前記回転軸から前記後縁と前記バンドとの交点までの距離よりも短く設定されるとともに、前記回転軸を含む投影平面上における前記後縁の縁線は、当該縁線と前記クラウンとの交点及び当該縁線と前記バンドとの交点を結ぶ直線に一致するかあるいは当該直線よりも内側に張り出して形成され、かつ、前記回転軸を含む投影平面上における当該縁線と前記直線との距離の最大値をsとし、前記縁線と前記バンドとの交点から前記回転軸までの距離をRbとしたとき、当該s及びRbは、

なる関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水車またはポンプ水車の水車運転時の二次流れ、または、ランナ出口の旋回速度成分の増大による損失の発生を抑制することが可能となる。従って、損失が小さく、かつ大流量でのキャビテーション性能の優れたフランシス形ランナを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、発明を実施するための最良の形態について、実施例1乃至実施例4を参照して説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明の実施例1に係わるフランシス形ランナ5のランナ出口側から見た平面図である。複数のランナ羽根6はクラウン7に環状列に配置され、ランナ羽根6の頭部側はクラウン7にクラウン端13で支持され、ランナ羽根6の底部側はバンド8にバンド端14で支持される。図1では8個のランナ羽根6が配置されたフランシス形ランナ5を示している。
【0022】
また、ランナ羽根6の羽根後縁12は、回転軸に垂直な面に投影したとき、その投影平面にてフランシス形ランナ5の水車運転時のランナ回転方向に対して凹状に形成されている。すなわち、図1に示すように、水車運転時のランナ回転方向は反時計回りであるので、ランナ羽根6の羽根後縁12は左方向に凹状に形成されている。これにより、ランナ羽根6の半径方向の中央付近の羽根長さが従来よりも長くなるので、単位長さあたりの羽根面に生じる圧力差は小さくなり、このため羽根負圧面の圧力は相対的に大きくなってキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0023】
図2は、本発明の実施例1に係わるフランシス形ランナ5の水車運転時の中央流線付近のランナ羽根面の圧力分布図である。実線が従来の圧力分布曲線S1であり、破線が本発明の実施例1による圧力分布曲線S2である。本発明の実施例1では、ランナ羽根長さが長くなっているので、圧力分布曲線S2から分かるようにランナ羽根6の正圧面と負圧面との羽根圧力差が従来の圧力分布曲線S1より小さくなっている。これに伴い、羽根負圧面側の圧力が相対的に高くなっており、羽根面圧力の最低値がキャビテーションが発生する飽和蒸気圧以上となっている。このことは、フランシス形ランナ5内の流速が増加し相対的にランナ羽根面の圧力は低下する流量が大きな運転点であっても、本実施例によるフランシス形ランナ5ではキャビテーションが発生し難いことを示している。
【0024】
以上のように本発明の実施例1によれば、従来より流量が大きな範囲での水車運転を行っても、従来のものに比べキャビテーションが発生し難くなるので、広い運転範囲での運用が可能なフランシス形ランナを提供することができる。
【実施例2】
【0025】
図3は本発明の実施例2に係わるフランシス形ランナ5のランナ出口側から見た平面図である。この実施例2は、図1に示した実施例1のランナ羽根6の羽根後縁12の凹状部を形成する縁線の範囲を特定したものである。図1と同一要素には同一符号を付し重複する説明は省略する。
【0026】
いま、回転軸に垂直な投影平面上にて当該フランシス形ランナ5の回転中心を距離r=0の原点とし、水車運転時の回転方向を角度θの正方向とした極座標を考える。そして、角度θの基準線、つまり角度θ=0となる直線を回転中心とクラウン端13を結ぶ直線とすると、ランナ羽根6の羽根後縁12の縁線は、回転中心からの距離rと基準線からの角度θで特定でき、この投影平面における羽根後縁12の縁線は、回転中心からの距離rと角度θの関数として表されることとなる。このとき、角度θは水車運転時の回転方向を正方向にしており、図3に示すように、ランナ羽根6の羽根後縁12の縁線は投影平面上で水車運転時の回転方向に対する凹状部を形成するから、回転軸に垂直な投影平面における羽根後縁12の縁線を表す関数は、回転中心からの距離rと角度θについて、

なる関係を満たす。
【0027】
すなわち、ランナ羽根6の出口端である羽根後縁12の縁線を回転軸に垂直な平面に投影し、この投影平面において、回転中心と、羽根後縁12とクラウン7の交点(クラウン端13)とを結ぶ直線を基準とした角度θを水車運転時の回転方向を正としてとると、水車運転時の羽根後縁12の縁線は当該回転方向に対する凹状部を形成し、縁線上を示す各点におけるθは負の値となる。なお本実施例では、ランナ羽根6の水車運転時における羽根後縁12の縁線は、回転軸に垂直な投影平面において、その外周端(バンド端14)と内周端(クラウン端13)の角度θはいずれも等しく、角度θ=0である。つまり、回転中心とクラウン端13を結ぶ直線上にバンド端14が存在している。
【0028】
そして、本発明の実施例2では、この投影平面上での羽根後縁12の縁線上の各点における角度θの最小値θmin(凹状部の底部の位置)に着目してランナ羽根6の水車運転時の出口端の形状を特定する。すなわち、いま、フランシス形ランナ5が備えるランナ羽根6の枚数をZrとしたとき、回転軸に垂直な投影平面上での羽根後縁12の縁線上の各点における角度θのうちの最小値θmin、つまり上記の回転軸に垂直な投影平面における羽根後縁12の縁線を表す関数において、

を満たす点における角度であるθminが、下記の(1)式を満たすように羽根後縁12を形成する。
【数1】

図4はランナ羽根面の圧力の最低値と、上述した、回転軸に垂直な投影平面上でのランナ羽根の羽根後縁12の縁線上の各点における角度θのうちの最小値θminとの関係を示した特性図である。図4に示すように、θminのマイナス方向の大きさが大きくなるにつれ羽根面圧力の最低値は大きくなり、θminが(1)式の範囲で特に大きくなっている。さらにθminのマイナス方向の大きさが大きくなると圧力値の最低値は小さくなる。これは過度にθminがマイナス方向に大きくなると隣り合うランナ羽根6で形成される羽根出口開度が小さくなり、そこで流速が増加し圧力が低下するからである。このことから、回転軸に垂直な投影平面での羽根後縁12の縁線上の各点における角度θのうちの最小値θminは(1)式で特定される範囲とすることで、ランナ羽根面での圧力の最低値が高くなるので、キャビテーションが発生する飽和蒸気圧以下の圧力となる虞を小さくできる。
【0029】
本発明の実施例2によれば、ランナ羽根面圧力の最低値が大きくなるようにランナ羽根6の羽根後縁12の凹状部の形状を定めるので、キャビテーションの発生を適切に防止できる。
【実施例3】
【0030】
図5は本発明の実施例3に係わるフランシス形ランナ5のランナ子午面図である。なお、本図においても従来例として示した図12と同様、ランナ羽根6は回転軸を含む平面である子午面へ投影した形状を示している。この実施例3は、図12に示した従来例に対し、回転軸からクラウン端13までの距離R_(c)と回転軸からバンド端14までの距離R_(b)との比率R_(c)/R_(b)を小さくし、ランナ羽根6の出口での流れの周方向速度を小さくして旋回速度成分の増大による吸出し管11での損失を小さくするようにしたものである。図12と同一要素には同一符号を付し重複する説明は省略する。
【0031】
図5において、ランナ羽根6の水車運転時の羽根後縁12のクラウン7との交点(クラウン端13)の回転軸からの距離をRc、バンド8との交点(バンド端14)の回転軸からの距離をRbとしたとき、Rc/Rbが下記の(2)式を満たすように、ランナ羽根6の水車運転時の羽根後縁12の形状を定める。
【数2】

図6は、実施例3におけるフランシス形ランナのランナ羽根6における流線に沿う断面を円周方向に展開するようにして示したものであり、小流量での水車運転時にランナ羽根6から流出する流れの模式図である。実線は従来のランナ羽根形状及び水の流れ、またフランシス形ランナの回転の速度成分であり、破線は実施例3におけるランナ羽根形状及び水の流れ、またフランシス形ランナの回転の速度成分である。
【0032】
実線で示すように従来のランナ形状では、流量が小さな運転点になるとランナ羽根6の出口でランナ羽根6の回転速度Uと同方向の回転方向成分Vu1aを持つことになる。一方、実施例3のように回転軸からクラウン端13までの距離R_(c)を従来よりも小さくした場合には、破線で示すように相対的にランナ羽根6の出口位置は回転軸に近くなるので、フランシス形ランナの回転数が同じであっても、ランナ羽根6の回転速度Uは相対的に小さくなる。従って、小流量側でのランナ羽根6の下流の旋回速度成分Vu1bは小さくなる。
【0033】
図7は流れ解析で求めた羽根後縁12の位置R_(c)/R_(b)に対する小流量運転時の水車効率との関係を示したものである。R_(c)/R_(b)が(2)式で示した領域で効率が向上している。これは、ランナ下流で発生する旋回速度成分はランナ下流の吸出し管11での圧力回復される割合が小さく損失となる割合が大きいので、旋回速度成分を小さくなることにより小流量側での効率が向上することによる。
【0034】
一方、過度に回転軸からクラウン端13までの距離R_(c)を小さすると、相対的にランナ羽根6の羽根長さが長くなり摩擦損失が増え損失も増加してしまうので、(2)式で定める範囲とする。これにより、低損失のフランシス形ランナ5とすることができる。
【0035】
本発明の実施例3によれば、回転軸からクラウン端13までの距離R_(c)と回転軸からバンド端14までの距離R_(b)との比率R_(c)/R_(b)を小さくし、ランナ羽根6の出口端の位置を相対的に回転軸に近づけたので、ランナ羽根6の出口での回転速度が相対的に小さくなる。従って、回転軸側での回転方向速度成分が小さくなり、回転方向速度成分の増大による吸出し管11での損失が小さくなり水車全体の効率を向上させることができる。
【実施例4】
【0036】
図8は本発明の実施例4に係わるフランシス形ランナ5のランナ子午面図である。なお、本図においても図12や図5と同様に、ランナ羽根6は回転軸を含む平面である子午面へ投影した形状を示している。この実施例4は、図12に示した従来例に対し、ランナ羽根6の水車運転時における羽根後縁12の縁線を、回転軸を含む投影平面にてクラウン端13とバンド端14とを結ぶ直線よりも内側に張り出して形成し、当該縁線12と当該直線との距離の最大値sと、回転軸からバンド端14までの距離R_(b)との比率s/R_(b)を小さくし、ランナ羽根6の入口付近の圧力の歪を小さくするようにし、圧力の歪に起因する二次流れの発生を抑制するようにしたものである。図12と同一要素には同一符号を付し重複する説明は省略する。
【0037】
図8において、ランナ羽根6の形状を、回転軸を含む平面である子午面へ投影し、この投影平面上で、水車運転時の羽根後縁12のクラウン7との交点(クラウン端13)と、バンド8との交点(バンド端14)とを直線で結び、羽根後縁12の縁線上の点からこの直線までの距離の最大値sに着目する。そして、回転軸を含む投影平面におけるこの距離の最大値sと回転軸からバンド端14までの距離Rbと比率s/Rbが下記(3)式を満たすように、ランナ羽根6の水車運転時における羽根後縁12の縁線を特定する。
【数3】

図9は、流れ解析で求めた従来形状と実施例4による形状でのフランシス形ランナ5の水車運転時のランナ羽根負圧面の圧力分布図であり、図9(a)は従来形状でのフランシス形ランナ5の水車運転時の羽根負圧面の圧力分布図、図9(b)は実施例4による形状でのフランシス形ランナ5の水車運転時の羽根負圧面の圧力分布図である。
【0038】
図9(a)に示すように、従来形状のランナ羽根6では、比率s/R_(b)は0.1?0.3程度であり、ランナ羽根6の入口付近で圧力の歪が発生している。この圧力歪が存在すると、ランナ羽根6の近傍で圧力勾配に沿った流れ成分が発生し、二次流れ(流線に沿わない流れ)が発生する。この二次流れが発生するとフランシス形ランナ5に損失が発生することになり水車効率が低下する。
【0039】
一方、図9(b)に示すように、本発明の実施例4による形状では、羽根後縁12の中央付近の縁線の位置が従来のものに比べ相対的にランナ羽根6の水車運転時の入口側(フランシス形ランナの外周側)に移動しているので、等圧力線もランナ羽根6の入口側に移動し、圧力歪が減少していることがわかる。これにより、圧力歪を小さくすることができるので、二次流れが抑制され効率の低下を防ぐことができる。
【0040】
図10は、流れ解析で求めた比率s/R_(b)に対する水車効率の特性図である。比率s/R_(b)が0付近から0.05の領域で水車効率が向上している。この範囲を満たすランナ羽根6の後縁形状とすることにより、損失の小さなフランシス形ランナとすることができる。
【0041】
本発明の実施例4によれば、ランナ羽根6の入口付近の圧力の歪を小さくすることができるので、圧力の歪に起因する二次流れの発生が抑制され損失が低減される。従って、効率の良いフランシス形ランナとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1に係わるフランシス形ランナのランナ出口側から見た平面図。
【図2】本発明の実施例1に係わるフランシス形ランナの水車運転時の中央流線付近のランナ羽根面の圧力分布図。
【図3】本発明の実施例2に係わるフランシス形ランナのランナ出口側から見た平面図。
【図4】本発明の実施例2におけるランナ羽根面の圧力の最低値とランナ羽根の出口端の周方向の位置θ_(min)との関係を示した特性図。
【図5】本発明の実施例3に係わるフランシス形ランナのランナ子午面図。
【図6】本発明の実施例3における水車運転時の小流量時のランナ羽根から流出する流れの模式図。
【図7】本発明の実施例3での流れ解析で求めた羽根後縁の位置R_(c)/R_(b)に対する小流量運転時の水車効率との関係を示す特性図。
【図8】本発明の実施例4に係わるフランシス形ランナのランナ子午面図。
【図9】従来形状と本発明の実施例4のよる形状での流れ解析で求めたフランシス形ランナの水車運転時のランナ羽根負圧面の圧力分布図。
【図10】本発明の実施例4での流れ解析で求めた比率s/R_(b)に対する水車効率の特性図。
【図11】フランシス水車が備え付けられた水力発電所のフランシス水車近傍の縦断面図。
【図12】従来のフランシス形ランナのランナ子午面図。
【図13】従来のフランシス形ランナをランナ出口側から見た平面図。
【図14】フランシス形ランナのランナ羽根から流出する流れの模式図。
【符号の説明】
【0043】
1…水圧鉄管、2…ケーシング、3…ステーベーン、4…ガイドベーン、5…フランシス形ランナ、6…ランナ羽根、7…クラウン、8…バンド、9…主軸、10…発電機、11…吸出し管11、12…羽根後縁、13…クラウン端、14…バンド端
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能なクラウンと、
前記回転軸と同軸に前記クラウンと離間して設けられたリング状のバンドと、
前記クラウンと前記バンドとの間に当該クラウン及び当該バンドを接続するように周方向に複数設けられた板状のランナ羽根とを備え、
水車運転時に前記クラウンと前記バンドの間に外方から導入された水の作用により前記回転軸を中心に回転するフランシス形ランナにおいて、
当該フランシス形ランナの回転軸に垂直な投影平面にて、前記ランナ羽根の前記水車運転時の後縁の縁線は、当該フランシス形ランナの水車運転時の回転方向に凹に形成されるとともに、前記回転軸を中心とする半径方向における前記後縁の縁線の中央付近が、前記投影平面にてそのクラウン端と前記回転軸とを結ぶ直線よりも前記回転方向の後側に張り出して形成されることを特徴とするフランシス形ランナ。
【請求項2】
請求項1に記載のフランシス形ランナにおいて、回転軸に垂直な投影平面上にて当該フランシス形ランナの回転中心をr=0、水車運転時の回転方向をθの正方向とした極座標を用いるとき、
ランナ羽根の水車運転時における前記後縁の縁線は、前記投影平面にて前記クラウン端とバンド端のθが等しく、かつ、
当該クラウン端及びバンド端におけるθを0とした場合、前記投影平面における前記後縁の縁線のθの最小値θminは、Zrをランナ羽根の枚数とすると、

を満たすことを特徴とするフランシス形ランナ。
【請求項3】
回転軸を中心に回転可能なクラウンと、
前記回転軸と同軸に前記クラウンと離間して設けられたリング状のバンドと、
前記クラウンと前記バンドとの間に当該クラウン及び当該バンドを接続するように周方向に複数設けられた板状のランナ羽根とを備え、
水車運転時に前記クラウンと前記バンドの間に外方から導入された水の作用により前記回転軸を中心に回転するフランシス形ランナにおいて、
前記ランナ羽根の前記水車運転時における後縁は、前記回転軸を含む投影平面にて、前記回転軸から前記後縁と前記クラウンとの交点までの距離が前記回転軸から前記後縁と前記バンドとの交点までの距離よりも短く設定されるとともに、
前記回転軸を含む投影平面上における前記後縁の縁線は、当該縁線と前記クラウンとの交点及び当該縁線と前記バンドとの交点を結ぶ直線に一致するかあるいは当該直線よりも内側に張り出して形成され、かつ、
前記回転軸を含む投影平面上における当該縁線と前記直線との距離の最大値をsとし、前記縁線と前記バンドとの交点から前記回転軸までの距離をRbとしたとき、当該s及びRbは、

なる関係を満たすことを特徴とするフランシス形ランナ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2020-02-07 
結審通知日 2020-02-13 
審決日 2020-02-26 
出願番号 特願2003-291266(P2003-291266)
審決分類 P 1 41・ 851- Y (F03B)
P 1 41・ 853- Y (F03B)
P 1 41・ 856- Y (F03B)
P 1 41・ 852- Y (F03B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 笹木 俊男  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 佐々木 芳枝
堀川 一郎
登録日 2009-03-19 
登録番号 特許第4280127号(P4280127)
発明の名称 フランシス形ランナ  
代理人 望月 尚子  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 望月 尚子  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 望月 尚子  
代理人 高橋 雄一郎  

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