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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C
管理番号 1360794
審判番号 不服2018-13832  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-18 
確定日 2020-03-11 
事件の表示 特願2016-530959「可撓性バンドを備えた拡張可能なアイウエア」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月21日国際公開、WO2015/073067、平成28年12月28日国内公表、特表2016-541015〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016-530959号(以下「本件出願」という。)は、2014年(平成26年)7月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年11月14日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成30年1月25日付け:拒絶理由通知書
平成30年2月28日付け:手続補正書、意見書
(この手続補正書による補正を、以下「本件補正」という。)
平成30年7月24日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年10月18日付け:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1?6に係る発明は、それぞれ、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、次のものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】
1対のレンズと、
前記レンズのそれぞれの内側端部に連結され、一緒に固定して連結可能であり、互いに取り外し可能である、1対の取り外し可能なコネクタと、
前記レンズのそれぞれの外側端部に連結された1対のつると、
前記つるの後端部間に連結されたストラップとを具備し、
前記ストラップは、前記コネクタが解除されたときにその形状をほぼ保持するのに十分な堅さであり、かつ、撓んだときに曲げられることが可能であり、かつ解除されたときに元に戻るのに十分な弾性を有し、
前記ストラップは、前記つるの後端部に連結されたほぼ平行な脚と、第1の形状を有する遷移セグメントであって、着用時に前記ほぼ平行な脚から使用者の頭の後ろに延びている弧状ベースまで延びている遷移セグメントとを有し、
前記遷移セグメントは、ワイヤコアを有し、
前記ワイヤコアは、使用者によって曲げられることが可能であり、これにより、前記遷移セグメントが前記第1の形状から第2の形状に変えられ、使用者によってさらに曲げられない限り前記第2の形状が維持されるアイウエア。」

3 原査定について
原査定の拒絶の理由は、(進歩性)本件出願の請求項1?6に係る発明は、その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2002-107680号公報(以下「引用文献1」という。)及び特開平8-201733号公報(以下「引用文献2」という。)に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】一組のレンズ、レンズの各内端に連結し、互いと共に固定して連結可能で、互いから取り外せる、一組の取り外し可能な連結器、レンズの各外端に連結する一組のつると、つるの後方端間で連結し、曲げると折りたため、取り外すとはね返る十分な弾力性があるストラップから成り、連結器を互いから取り外すと、レンズの内端が互いから分離して眼鏡類の装着と取り外しが容易で、連結器を共に連結すると、レンズは互いに対して正しい位置に固定され、両眼の前に安全に、安定して配置することを特徴とする眼鏡類。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、一般に眼鏡類に関する。
【0002】
【従来技術及び課題】眼鏡類は眼鏡とゴーグルを含む。それぞれは普通、内端でブリッジにより固定して連結した一組のレンズと、レンズの各外端に蝶番を付けた一組のつるを有する。つるの後方端は互いに分かれ、レンズの裏側に折りたたんで収納することができる。眼鏡類はつるを開き、それを装着者の頭の両側に配置し、髪、耳と頭の側面の各隙間に押し込んで装着する。この手順は少々厄介で、この手順中に装着者が一方のつるで眼を突くことも時々ある。
【0003】眼鏡類を装着しない時、保持ストラップをつるの間に取り付けて首に眼鏡類をかけることもある。ストラップは頭の上で輪になっていて、これが眼鏡類の装着をさらに厄介なものにし、また、頭の上で輪にする時、髪型を乱すこともある。シャネルが提供する流行の“ダブル モノクル”サングラスはブリッジがないことで眼鏡類の伝統的な構造から外れている。このサングラスは内端で分かれた一組のレンズを有する。堅い水平な輪はレンズの後方に位置し、その外端間で連結する。輪は後部と同一平面上の一組のつる部分と、下方に突出する一組の耳湾曲部を有する。レンズはその内端で完全に分離しているので、互いに一直線に並ぶのは難しく、不可能でもある。レンズは装着時にゆるみすぎると、眼の前に正しく配置できなくなる。輪の後部は後頭部に高く位置するので、髪型を乱したり、ヘルメットのじゃまになったりする。輪はレンズに対して蝶番式に動かないので、眼鏡の装着は難しい。
【0004】従って、本眼鏡類の目的は、眼を突かずに容易に装着されること、目の前に正しくレンズを配置すること、装着時に完全に安定し、安全なこと、容易に取り外せること、装着時に髪型を乱さないし、ヘルメットのじゃまにならないこと、および装着しない時に首のまわりに都合よくかけられることである。さらに、本発明の目的は図面の考察と以下の説明から明らかである。
【0005】
【課題を解決する手段】本眼鏡類は、一組のレンズ、レンズの各内端に連結する一組の取り外し可能な連結器、レンズの各外端に回動して連結する一組のつると、つるの後方端間に取り付けた堅いストラップから成る。ストラップはレンズの下に位置し、髪型を乱さないし、ヘルメットのじゃまにならない。レンズの内端は連結器で共に取り外し可能に固定される。装着するためにレンズを互いに離して、外方に回動し、ストラップを後頭部のまわりに巻き、レンズを互いの方向に回動させ、眼の前で共に固定する。レンズは瞬時に分離可能で、容易に眼鏡類を装着したり、取り外すことができるが、瞬時に共に連結可能で、安全に正しく取り付けることができる。第2実施例では、ストラップが調節可能な長さの可撓性ストラップから成る。」

ウ 「〔発明の詳細な説明〕
【0006】本眼鏡類の第1実施例を図1の正面透視図と図2の側面透視図で示す。これは一組のレンズ10、レンズ10の各内端に連結する一組の取り外し可能な連結器11、レンズ10の各外端に連結する一組のつる12と、つる12の後方端間に取り付けた概ね堅いストラップ13から成る。
【0007】レンズ10は、通気孔15を備えた各枠14に取り付けることが望ましい。連結器11は枠14の各内端に取り付けることが望ましい。つる12はさまざまな装着者に適合するはめ込み式であることが望ましい。つる12は枠14の各外端に対して回動することが望ましい。つる12は耳のまわりに曲がる湾局部16(当合議体注:「湾曲部16」の誤記である。以下では、「湾曲部」と表記する。)を有することが望ましい。ストラップ13はレンズ10の下に位置し、髪型を乱したり、ヘルメットのじゃまになるのを防ぐ。ストラップ13は取り外す時、その形状を保持する十分な弾力性がなければならないが、壊さずにある程度まで曲げられる可撓性も十分あることが望ましい。代わりに、ストラップ13はつる12と同程度であるかもしれないが、いくつかの利点を失っている。
【0008】代わりに、連結器11とつる12を直接レンズ10に取り付けることができる。連結器11は連結したり、分離する時、最も便利なネオジミウム‐鉄‐ホウ素磁石などの磁石から成ることが望ましいが、掛け金、かぎ輪留め具など種々のタイプの取り外し可能な連結器でもよい。連結器11は共に連結すると、レンズ10間にブリッジを形成する。眼鏡類は一組のゴーグルとして示されるが、一組の眼鏡でもよい。
【0009】レンズ10の内端は連結器11で共に取り外し可能に固定される。図3に示すように、装着するためにレンズ10を互いに離し、外方に回動し、図4に示すように、ストラップ13を後頭部のまわりに巻き、レンズ10を互いに対して回動して戻し、眼の前で共に連結する。レンズ10間の固定した連結によりレンズが眼の前で正しく配置されることを確実にする。本眼鏡類は後頭部から装着されるので、装着者の眼を突くことはない。レンズ10は瞬時に分離でき、眼鏡の装着や取り外しが容易であるが、瞬時に共に連結可能で、安全に正しく取り付けることができる。図5に示すように、眼鏡類を装着しない時、レンズ10を離し、ストラップ13の下の首のまわりにかける。」
(当合議体注:図2及び図4は、以下の図である。)
図2:


図4:


(2)引用発明1
上記(1)イによれば、引用文献1の【0002】、【0004】には、当該文献でいう「本発明」に係る「本眼鏡類」の目的が記載され、その目的を達成するための手段の具体例が、【0006】、図2及び図4に記載されている。そして、当該具体例に対応した請求項が、引用文献1の【特許請求の範囲】に記載された請求項1である。
また、引用文献1の【0006】?【0007】、図2及び図4の記載から、次の事項が把握される。
「ストラップは、1組のつるの後方端間に連結されており、装着時に当該1対のつるから、ほぼ平行に延びる部分、耳のまわりに曲がる湾曲部及び装着者の後頭部のまわりに巻いた部分とを有する。」

以上総合すれば、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明1」という。)。

「眼を突かずに容易に装着されること、目の前に正しくレンズを配置すること、装着時に完全に安定し、安全なこと、容易に取り外せること、装着時に髪型を乱さないし、ヘルメットのじゃまにならないこと、および装着しない時に首のまわりに都合よくかけられることを目的とし、
一組のレンズ、レンズの各内端に連結し、互いと共に固定して連結可能で、互いから取り外せる、一組の取り外し可能な連結器、レンズの各外端に連結する一組のつると、つるの後方端間で連結し、曲げると折りたため、取り外すとはね返る十分な弾力性があるストラップから成り、連結器を互いから取り外すと、レンズの内端が互いから分離して眼鏡類の装着と取り外しが容易で、連結器を共に連結すると、レンズは互いに対して正しい位置に固定され、両眼の前に安全に、安定して配置する、眼鏡類であって、
前記ストラップは、前記1組のつるの後方端間に連結されており、装着時に当該1組のつるから、ほぼ平行に延びる部分、耳のまわりに曲がる湾曲部及び装着者の後頭部のまわりに巻いた部分とを有する、
眼鏡及びゴーグルを含む眼鏡類。」

(3)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、後の判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 円弧状に弯曲せしめられたバネ性に富む熱可塑性樹脂製のテンプルエンド本体1の前方小口側に軸芯にそってテンプル挿入用長孔2を設けると共にその後方小口側にはその軸芯にそって可塑性に富む金属芯材3の外周を軟質合成樹脂あるいはゴム製の被覆材4で被覆せしめた屈曲部材8を接続せしめたことを特徴とするメガネフレームのテンプルエンド。
【請求項2】 熱可塑性合成樹脂製の円柱状をなしたテンプル接続部材5の前方小口側に軸芯にそってテンプル挿入用長孔2を設けると共にその後方小口側にはその軸芯にそって可塑性に富む金属芯材6の外周を軟質合成樹脂あるいはゴム製の被覆材4で被覆せしめた屈曲部材11を接続せしめたことを特徴とするメガネフレームのテンプルエンド。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明はメガネフレームの構成部品の一つであるテンプルエンド、詳しくは使用者自身でも簡単に調整でき、最良のフィット感を得ることができるテンプルエンドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】メガネフレームのテンプルエンドはメガネを使用者の耳に係止させる重要な部材であり、このテンプルエンドの取付位置、屈曲部の曲率が使用者の頭部寸法に合っていないと装着感を損ない、使用中のメガネのズリ落ち等が起こることになる。従来のテンプルエンドの多くは円弧状に弯曲せしめられた合成樹脂材によって形成されており、メガネフレーム購入の際、小売店において購入者の頭部寸法に合う様にその屈曲部分を曲げ直したり、長さを調整し直したりすることが必要であった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この調整作業は熟練を要し、低コスト販売をモットーとする量販小売店などにおいては人件費コストの関係から十分な時間をかけての調整作業ができない場合があった。又、メガネフレームは使用中に少しずつ変形することが避けられず、時々テンプルエンドも含めたメガネフレーム全体の再調整も必要となるが、わざわざ購入先の小売店まで出向くことが面倒な為、不本意ながら変形したメガネフレームをそのまま着用している場合も多かった。
【0004】この発明はメガネフレームのテンプルエンドに関する上記従来の問題点を解決することを目的とするものであり、専門家だけではなく、使用者自身でも簡単に調整することができ、常に最良のフィット感をもたらす便利なテンプルエンドを提供せんとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】この発明は、円弧状に弯曲せしめられたバネ性に富む熱可塑性樹脂製のテンプルエンド本体1の前方小口側に軸芯にそってテンプル挿入用長孔2を設けると共にその後方小口側には可塑性に富む金属芯材3の外周を軟質合成樹脂あるいはゴム製の被覆材4で被覆せしめた屈曲部材8を接続せしめることにより、又、熱可塑性合成樹脂製の円柱状をなしたテンプル接続部材5の前方小口側に軸芯にそってテンプル挿入用長孔2を設けると共にその後方小口側にはその軸心にそって可塑性に富む金属芯材6の外周を軟質合成樹脂あるいはゴム製の被覆材4で被覆せしめた屈曲部材11を接続せしめることにより上記課題を解決せんとするものである。」

ウ 「【0007】二番目の発明のテンプルエンドにおいても、テンプル接続部材5を加熱してテンプル7の挿入量を調整した後、屈曲部材11を使用者の耳に合う様に屈曲させれば、使用者の頭部寸法にフィットしたメガネフレームを完成させることができる。この二番目の発明のテンプルエンドにおいては屈曲部材11がテンプルエンドの大半を占め、使用者の耳の上後方部分のほとんどに接する様になっており、屈曲可能範囲も極めて大きい為、スポーツ用メガネ、サングラス等激しい動きを伴う眼鏡用に適している。」

エ 「【0008】
【実施例】図1は一番目の発明係るテンプルエンドの一実施例の側面図であり、図中1はショアD硬度60以上のバネ性に富む熱可塑性樹脂製のテンプルエンド本体であり使用者の耳の上後方に回り込む様に円弧状に形成されており、その前方小口側には軸芯にそってテンプル挿入用長孔2が設けられている。一方、後方小口側には可塑性に富む金属芯材3の先端が嵌入結合されており、この金属芯材3の外周はショアA硬度40以上の軟質合成樹脂あるいはゴム製の被覆材4で被覆され、屈曲部材8となっている。
【0009】金属芯材3は前述の通り、可塑性に富み、外力を加えることにより容易に屈曲させられるだけでなく、新たに外力を加えるまでその形状を保持しつづけられることが必要であり、銅線材、アルミ線材、軟鋼線材等が利用可能である。又、この金属芯材3は単一の線材だけではなく、二本以上の金属線を束ねたり、縒ったりしたものや、板材であっても良い。更に、図3に示す様に表面に切り込み9を有するものや、図4に示すものの様に透孔10を有するものであっても良い。これらの実施例においては、金属芯材3と被覆材4との接着がより強固になり、使用中における被覆材4の剥離等はほぼ完全に阻止される。なお、図中7はメガネフレームのテンプルである。
【0010】次に、図2に基づき二番目の発明の一実施例について説明する。図中5は円弧状をしたテンプル接続部材であり、ショアD硬度60以上の熱可塑性樹脂からなっており、その前方小口側には軸芯にそってテンプル挿入用長孔2が設けられている。一方、その後方小口側にはその軸芯にそって可塑性に富む金属芯材6の先端が嵌入結合されている。この金属芯材6は使用者の耳の前後方へ回り込む様あらかじめ円弧状に形成されているが、最終的には個々の使用者に試着させながら、その屈曲量を決定する。この金属芯材6の外周は一番目の発明の場合と同様、ショアA硬度40以上の軟質合成樹脂あるいはゴム製の被覆材4によって被覆されて、屈曲部材8となっている。金属芯材6の材質、形状等は前記一番目の発明のものと全く同じである。
【0011】
【発明の効果】この発明に係るテンプルエンドは上述の通りの構成を有するものであり、可塑性に富み、自由に屈曲させることができる屈曲部材が後方部分に取付けられているので、加熱等の前処理を全く必要とせず使用者自身でも何ら問題なく簡単にテンプルエンドの調整を行うことができ、販売店での調整は最小限ですみ、販売コストを低下させ、メガネフレームを購入しやすくするすぐれた効果を有する。又、スポーツ時、通常の日常生活時、執務時等状況に応じてメガネの保持力を変更させることが可能で、一本のメガネフレームの使用範囲を広げるすぐれた汎用性も有する。」
(当合議体注:図1及び図2は、以下の図である。)
図1:


図2:


(4)引用発明2
引用文献2の【請求項2】、【0001】、【0004】、【0007】及び【0010】の記載からは、図2から看取されるような「メガネフレームのテンプルエンド」の発明が把握される。また、引用文献2の【0010】における、「金属芯材6の材質、形状等は前記一番目の発明のものと全く同じである。」との記載を考慮すると、「金属芯材6」の材質、形状等は、【0009】に記載の「金属芯材3」のものと全く同じと理解される。
そうしてみると、引用文献2には、次の発明が記載されている(以下「引用発明2」という。)。
「熱可塑性合成樹脂製の円柱状をなしたテンプル接続部材5の前方小口側に軸芯にそってテンプル挿入用長孔2を設けると共にその後方小口側にはその軸芯にそって可塑性に富む金属芯材6の外周を軟質合成樹脂あるいはゴム製の被覆材4で被覆せしめた屈曲部材11を接続せしめ、
前記屈曲部材11がテンプルエンドの大半を占め、使用者の耳の上後方部分のほとんどに接する様になっており、屈曲可能範囲も極めて大きい為、スポーツ用メガネ、サングラス等激しい動きを伴う眼鏡用に適しており、
前記金属芯材6は、可塑性に富み、外力を加えることにより容易に屈曲させられるだけでなく、新たに外力を加えるまでその形状を保持しつづけられることが必要であり、銅線材が利用可能である、
使用者自身でも簡単に調整することができ、常に最良のフィット感をもたらす便利なテンプルエンドを提供せんとする、メガネフレームのテンプルエンド。」

2 対比及び判断
(1)対比
ア アイウエア
引用発明1の「眼鏡類」は、「眼鏡とゴーグルを含む」ものであって、人間の目に身に付けて使用する器具であることから、本願発明の「アイウエア」に該当する。
そうすると、引用発明1の「眼鏡類」が有する「一組のレンズ」は、本願発明の「アイウエア」が有する「1対のレンズ」に相当する。

イ コネクタ
引用発明1の「連結器」は、「レンズの各内端に連結し、互いと共に固定して連結可能で、互いから取り外せる、一組の取り外し可能な」ものであるから、機能からみて、本願発明の「コネクタ」に相当する。
そして、引用発明1の「連結器」は、本願発明の「コネクタ」における、「レンズのそれぞれの内側端部に連結され、一緒に固定して連結可能であり、互いに取り外し可能である、1対の取り外し可能」という要件を満たす。

ウ 1対のつる
引用発明1の「一組のつる」は、「レンズの各外端に連結する」ものであって、引用文献1における「つる」は、眼鏡類の技術分野における通常の意味で用いられている。
したがって、引用発明1の「一組のつる」は、本願発明の「1対のつる」に相当する。
そして、引用発明1の「一組のつる」は、本願発明の「1対のつる」における、「レンズのそれぞれの外側端部に連結された」との要件を満たす。

エ ストラップ
(ア)つるとの関係について
引用発明1の「ストラップ」は、「1対のレンズ」及び「1対のつる」との位置関係及びその機能からみて、本願発明の「ストラップ」に相当する。(当合議体注:この相当関係は、本願明細書の【0003】の記載からも確認できる事項である。)
そして、引用発明1の「ストラップ」は、「つるの後方端間で連結」されたものであるから、本願発明の「ストラップ」における、「つるの後端部間に連結された」との要件を満たす。

(イ)曲げられること及び弾性について
引用発明1の「ストラップ」は、「曲げると折りたため、取り外すとはね返る十分な弾力性」を有するものである。
そうしてみると、引用発明1の「ストラップ」は、本願発明の「ストラップ」における、「撓んだときに曲げられることが可能であり、かつ解除されたときに元に戻るのに十分な弾性を有し」との要件を満たす。

(ウ)孤状ベースについて
引用発明1の「眼鏡類」の「装着者」は、眼鏡類を使用する者であるといえるから、引用発明1の「装着者」は、本願発明の「使用者」に相当する。
そして、引用発明1の「ストラップ」は、「装着時に」「装着者の後頭部のまわりに巻いた部分」を有しており、当該部分が「装着者の後頭部のまわりに巻いた」ものである以上、その形状は、およそ弧状であるといえる。
(当合議体注:ストラップの使用者の後頭部に位置する部分の形状が、通常、「弧状」であることは、本願明細書の【0003】、特開2003-315742号公報(図1のバンド13)及び特開2001-21843号公報(図2の折り畳み部4)等の記載からも確認される事項である。)

そうすると、引用発明1の「ストラップ」は、本願発明の「ストラップ」における、「着用時に」「使用者の頭の後ろに延びている弧状ベース」「とを有し」との要件を満たす。
(当合議体注:引用文献1においては、引用発明1の「ストラップ」の「使用者の頭の後ろに伸びている」部分を「弧状ベース」と称していないが、機能的にみれば、引用発明1の「ストラップ」が、本願発明の「弧状ベース」に相当する部分を具備することは明らかであり、また、この部分を「弧状ベース」と称するか否かは、単なる呼び名の問題に過ぎない(以下同様である。)。)

(エ)脚
引用発明1の「ストラップ」は、「装着時に当該1組のつるから、ほぼ平行に延びる部分」を有している。
そうすると、引用発明の「ストラップ」の当該「ほぼ平行に延びる部分」は、本願発明の「ほぼ平行な脚」に相当する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
「 1対のレンズと、
前記レンズのそれぞれの内側端部に連結され、一緒に固定して連結可能であり、互いに取り外し可能である、1対の取り外し可能なコネクタと、
前記レンズのそれぞれの外側端部に連結された1対のつると、
前記つるの後端部間に連結されたストラップとを具備し、
前記ストラップは、撓んだときに曲げられることが可能であり、かつ解除されたときに元に戻るのに十分な弾性を有し、
前記ストラップは、前記つるの後端部に連結されたほぼ平行な脚と、着用時に前記ほぼ平行な脚から使用者の頭の後ろに延びている弧状ベースとを有する
、アイウエア。」

イ 相違点
上記アによれば、本願発明と引用発明1とは、以下の点で相違する。

(相違点1)
「ストラップ」について、本願発明では、「前記ストラップは、前記コネクタが解除されたときにその形状をほぼ保持するのに十分な堅さであり」と特定されているのに対して、引用発明1では、「コネクタが解除されたときにその形状をほぼ保持するのに十分な堅さ」であるか否か明らかでない点。

(相違点2)
「遷移セグメント」について、本願発明では、「第1の形状を有する遷移セグメントであって、着用時に前記ほぼ平行な脚から使用者の頭の後ろに延びている弧状ベースまで延び」、「ワイヤコアを有し、前記ワイヤコアは、使用者によって曲げられることが可能であり、これにより、前記遷移セグメントが前記第1の形状から第2の形状に変えられ、使用者によってさらに曲げられない限り前記第2の形状が維持される」と特定されているのに対して、引用発明1では、「遷移セグメント」に相当する部分が一応特定されておらず、そのため、上記のような特定もなされていない点。

(3)判断
ア 相違点1について
引用文献1の【0007】には、引用発明1の「ストラップ」について、「取り外す時、その形状を保持する十分な弾性力がなければならないが、壊さずにある程度まで曲げられる可撓性も十分あることが望ましい。」と記載されている。当該記載は、引用発明1の「ストラップ」には、可撓性のほか、取り外し時における形状保持性が求められていると理解することができる。
したがって、引用文献1の上記記載に触れた当業者が、引用発明1の「ストラップ」に上記のような形状保持性を付加して、本願発明の相違点1に係る構成を採用することは容易になし得たことである。

イ 相違点2について
最初に、「遷移セグメント」の「遷移」(上記「遷移」する機能も含む。)の意味について検討するに、「遷移」という用語の一般的な意味は、「うつりかわること。うつりかわり。推移」である(大辞林3.0版)。
次に、本願明細書の【0016】、【0020】及び図3の記載も併せ考慮すれば、「遷移」は、本願発明における「第1の形状から第2の形状」への変化(うつりかわり)を意味すると解される。以上の解釈を前提として、検討を進める。

(ア)「遷移」について
a 引用発明2と本願発明
引用発明2の「金属芯材6」は、「可塑性に富み、外力を加えることにより容易に屈曲させられるだけでなく、新たに外力を加えるまでその形状を保持しつづけられる」ものであり、その材料は「銅線材が利用可能」とされている。
さらに、引用発明2の「屈曲部材11」は、「金属芯材6の外周を軟質合成樹脂あるいはゴム製の被覆材4で被覆せしめた」ものである。
以上によれば、引用発明2の「金属芯材6」は、屈曲部材との関係及び材料からみて、本願発明の「ワイヤコア」に該当し、「使用者によって曲げられることが可能であり、これにより、第1の形状から第2の形状に変えられ、使用者によってさらに曲げられない限り前記第2の形状が維持される」との要件を満たす。

b 引用発明1と引用発明2の組み合わせ
引用発明1の「湾曲部」は、「耳のまわりに曲がる」ものであり、引用発明2の「屈曲部材」は、「耳の上後方部分のほとんどに接する様になって」いるものである。そうすると、両者は、眼鏡類における使用者の耳に対向する部位である点で共通する。
さらに、引用発明1の「湾曲部」及び引用発明2の「屈曲部材」は、ともに耳に対向する部位である以上、使用者の耳の形に合わせた良好なフィット感が求められる点においても共通している。
また、引用発明1の眼鏡類では、良好なフィット感を得ること以外にも、「目の前に正しくレンズを配置すること、装着時に完全に安定し、安全なこと」も目的の1つとされている。
以上によれば、引用発明1において、上記課題を把握した当業者が、引用発明1の「湾曲部」の構造として、引用発明2の「屈曲部材」の構造を採用する動機は十分にあるといえる。そして、採用した結果、引用発明1の「湾曲部」は、「第1の形状から第2の形状」へと「うつりかわる」ことが可能な部分となる。すなわち、引用発明1の「湾曲部」は、本願発明の「遷移セグメント」における「遷移」の機能を備えた部分となる。

(イ)「遷移セグメント」と「湾曲部」の関係について
引用発明1の「ストラップ」は、「1組のつるの後方端間に連結されており、装着時に当該1組のつるから、ほぼ平行に延びる部分、耳のまわりに曲がる湾曲部及び装着者の後頭部のまわりに巻いた部分とを有する」ものである。
ここで、上記2(1)ア?エの対比結果を併せ考慮すると、引用発明1の「湾曲部」は、「ストラップ」の一構成要素であって、「ほぼ平行に延びる脚」と「弧状ベース」との間の部位に該当するといえる。
したがって、「ストラップ」の一構成要素としてみれば、引用発明1の「湾曲部」は、本願発明の「遷移セグメント」に相当する部分である。

(ウ)まとめ
以上(ア)?(イ)を総合すれば、当業者が、引用発明1の「湾曲部」に、引用発明2の「金属芯材6」を備えた「屈曲部材」の上記構造を採用し、その結果として、相違点2に係る構成に想到することは容易になし得たことである。

(4)本願発明の効果
本願発明は、「遷移セグメント」に、「ワイヤコアを有し、前記ワイヤコアは、使用者によって曲げられることが可能であり、これにより、前記遷移セグメントが前記第1の形状から第2の形状に変えられ、使用者によってさらに曲げられない限り前記第2の形状が維持される」との構成を採用することによって、必ずしも使用者の頭の後ろの理想的な位置にあるとは限らない弧状ベース23が位置決めされることができるという効果を有している(本願明細書の【0016】、【0020】及び図3等を参照。)ので、この点についてさらに検討する。

引用発明1の眼鏡類の「ストラップ」の全体構造からみて、引用発明1の「湾曲部」の形状を変化させると、湾曲部に連結された弧状ベースも、それに追随して移動することは当業者に自明である。
また、引用発明1の眼鏡類の目的は、使用者の耳の形に合わせた良好なフィット感を得ることのみではなく、「装着時に髪型を乱さないし、ヘルメットのじゃまにならないこと」もまたその目的の1つである。
してみれば、引用発明1のストラップの全体構造を理解し、引用文献1に接した当業者であれば、引用発明1の「湾曲部」に、引用発明2の「屈曲部材」の構成を採用する際に、耳の形に合わせた良好なフィット感のみならず、「ストラップ」が「装着時に髪型を乱さないし、ヘルメットのじゃまにならない」という目的も併せ考慮した、湾曲部の調整が可能となるように設計すると考えられる。
したがって、本願発明の上記効果は当業者にとって予想外のものではない。

(5)審判請求人の主張
請求人は、審判請求書の5頁26行?28行において、「引用文献2に記載のものはテンプルエンドであって、一端が開放されている部分であり、平行な脚と弧状ベースとの間に存在する、本発明の遷移セグメントとは、その役割も異なります。」と主張する。
請求人が主張するように、引用文献2の記載のテンプルエンドと、引用発明1の「湾曲部」とは、後者が、レンズの後方部分のストラップの一部を構成しているのに対して、前者は一端が開放されておりストラップの一部を構成していない点においては、役割が異なるといえる。
しかしながら、両者は、着用時に使用者の耳のまわりに曲がる、すなわち、耳と接触する部位であって、使用者に対して、眼鏡を安定して配置し、かつ、快適なフィット感を与えるという点においては役割が共通している。
したがって、引用発明1の「湾曲部」に、引用発明2の「テンプルエンド」の「屈曲部材」の構成を採用することには十分な動機づけがある。
よって、請求人の上記主張は採用しない。

(6)小括
本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-10-11 
結審通知日 2019-10-15 
審決日 2019-10-29 
出願番号 特願2016-530959(P2016-530959)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渋谷 知子  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 里村 利光
関根 洋之
発明の名称 可撓性バンドを備えた拡張可能なアイウエア  
代理人 井上 正  
代理人 金子 早苗  
代理人 野河 信久  
代理人 飯野 茂  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 直樹  

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