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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1360797
審判番号 不服2019-16063  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-28 
確定日 2020-03-11 
事件の表示 特願2019-126028「ウェーハ加工システム及びウェーハ加工方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月31日出願公開,特開2019-192937〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年6月13日に出願された特願2011-131491号(以下,「原出願」という。)の一部を平成27年10月13日に新たな特許出願(特願2015-202032号)とし,さらに,その一部を平成28年7月4日に新たな特許出願(特願2016-132264号)とし,さらに,その一部を平成29年2月16日に新たな特許出願(特願2017-26939号)とし,さらに,その一部を同年6月27日に新たな特許出願(特願2017-125526号)とし,さらに,その一部を平成30年5月22日に新たな特許出願(特願2018-97877号)とし,さらに,その一部を平成31年1月18日に新たな特許出願(特願2019-7299号)とし,さらに,その一部を平成31年3月13日に新たな特許出願(特願2019-46060号)とし,さらに,その一部を平成31年4月22日に新たな特許出願(特願2019-81045号)とし,さらに,その一部を令和元年7月5日に新たな特許出願(特願2019-126028号)としたものであって,同年7月19日付け拒絶理由通知に対し,同年8月21日に意見書が提出されたが,同年8月29日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年11月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1,2に係る発明は,出願当初の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるものであり,そのうち請求項2に係る発明は,次のとおりのものである。
「【請求項2】
チップの抗折強度の向上を図るウェーハ加工方法において,
デバイス表面に保護フィルムを貼り付けたウェーハにおいて,前記ウェーハの裏面からパルスレーザを照射し,前記ウェーハの内部であって前記ウェーハの厚みの半分よりも深い位置に集光点を設定して改質領域を形成し,前記改質領域から延びる亀裂は前記ウェーハの裏面に到達しない改質領域形成工程と,
前記改質領域を除去して前記改質領域から進展した亀裂を残すように前記ウェーハの裏面を研削加工し,続いて前記亀裂を残しつつ前記研削加工で生じた加工歪を研磨除去する,連続した研削・研磨工程と,
を有するウェーハ加工方法。」(以下「本願発明」という。)

第3 原査定の理由
拒絶査定の理由は,概略,次のとおりのものである。
(進歩性)この出願の請求項1,2に係る発明は,その原出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用文献1乃至6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開2007-235068号公報
2.国際公開第03/77295号
3.特開2005-86111号公報
4.特開2006-12902号公報
5.特開2009-289773号公報
6.特開2009-290148号公報

第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項,及び,引用発明
(1)引用文献1の記載事項,及び,引用発明
ア 原査定に引用された,原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2007-235068号公報(平成19年9月13日出願公開。以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【請求項1】
ウェーハの裏面を研削加工し,研削後の前記ウェーハの裏面を研磨加工し,ウェーハの最終加工厚さT1より50?500μm厚い厚さT2まで前記ウェーハの裏面を加工する第1の機械加工ステップと,
第1の機械加工後の前記ウェーハにレーザー光を照射して内部へ改質領域を形成する改質領域形成ステップと,
改質領域形成後の前記ウェーハの裏面を研削加工し,研削後の前記ウェーハの裏面を研磨加工し,ウェーハの最終加工厚さT1まで前記ウェーハの裏面を加工する第2の機械加工ステップと,
を備えることを特徴とするウェーハ加工方法。
【請求項2】
第1の機械加工前の前記ウェーハの表面に該ウェーハの表面に形成されたパターンを保護する保護用テープを貼着するテープ貼着ステップと,
第2の機械加工後の前記ウェーハの表面に紫外線光を照射する紫外線光照射ステップと,
紫外線光照射後の前記ウェーハの裏面にダイシングテープを貼着して前記ウェーハをフレームへマウントするテープマウントステップと,
フレームへマウントされた前記ウェーハの表面に貼着されている前記保護用テープの剥離を行うテープ剥離ステップと,
前記保護用テープが剥離された前記ウェーハの前記ダイシングテープが貼着された側より,前記ダイシングテープのエキスパンドを行い,前記ウェーハの各チップ間の間隔を拡張するエキスパンドステップと,
を備える請求項1に記載のウェーハ加工方法。
【請求項3】
前記ウェーハの内部に形成する改質領域がウェーハの表面より厚さ方向にT1までの距離の位置である請求項1又は2に記載のウェーハ加工方法。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は,ウェーハ加工方法に係り,特に,半導体ウェーハの平面加工からチップサイズに切断されたウェーハのマウントまでを欠陥なく行うのに好適なウェーハ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や電子部品等の製造工程では,先ず表面に半導体装置や電子部品等が形成されたウェーハに対して,プロービング,ダイシング,ダイボンディング,及びワイヤボンディング等の各工程を経た後,樹脂モールドされて半導体装置や電子部品等の完成品となるのが一般的である。
【0003】
ところで近年,メモリーカードや薄型ICカード等に組込まれる極薄の半導体装置や電子部品の需要が高まっており,厚さが100μm以下の極薄ウェーハの要求が増大している。このため,従来ではプロービング工程の後に,ダイシング工程によってウェーハを個々のチップに分割していたが,これに代えて,ダイシング工程の前にウェーハの裏面を研削(バックグラインド)し,100μm以下の極薄ウェーハとしてからダイシングを行うようになってきた。」

「【0009】
ところが,従来のチップ製造方法では,厚さが100μm以下の極薄のウェーハWをダイシングソーにより切断した際,切断時にウェーハWにチッピングや割れが生じ,多くの不良チップが発生する問題があった。
【0010】
この問題を解決する手段として,従来のダイシングソーによる切断に代えて,ウェーハWの内部に集光点を合わせたレーザー光を入射させ,ウェーハ内部に多光子吸収による改質領域を形成して個々のチップTに分割するレーザー加工方法に関する技術が提案されている(たとえば,特許文献1?6参照。)。
【0011】
上記の特許文献1?6で提案されている技術は,従来のダイシングソーによるダイシング装置に代えて,図17に示されるように,レーザー光源LSから出射されたレーザー光LをウェーハWの内部に集光させ,ウェーハWの内部に連続して改質領域Kを形成することによりウェーハWを割断するダイシング装置(以下,レーザーダイシング装置と称する)を提案したものである。
【0012】
レーザーダイシング装置では,高速回転するダイヤモンドブレードに代えて,レーザー光によりウェーハがチップに分割されるため,ウェーハに大きな力がかからず,チッピングや割れが発生しない。また,ウェーハに直接接触する部分がなく,熱や切削屑が発生しないため,切削水を必要としない。更に,内部に改質領域を形成してウェーハの割段を行いチップに分割するため,チップの間隔がダイヤモンドブレードによる切断よりも非常に狭く,一枚のウェーハからより多くのチップを得られる。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら,レーザーダイシング装置では,ダイシング後に各工程に使用される装置間を搬送される際,衝撃や振動により内部の改質領域を起点として割段されてしまう場合がある。そして,一旦割段された場合,ウェーハとしてのハンドリングができず,以降の工程の進行が大幅に妨げられるという問題があった。
【0014】
本発明は,このような問題に対してなされたものであり,レーザーダイシング装置によりダイシングされたウェーハを,割段されずに後工程に供給(搬送)できるウェーハ加工方法を提供することを目的とする。」

「【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は,前記目的を達成するために,ウェーハの裏面を研削加工し,研削後の前記ウェーハの裏面を研磨加工し,ウェーハの最終加工厚さT1より50?500μm厚い厚さT2まで前記ウェーハの裏面を加工する第1の機械加工ステップと,第1の機械加工後の前記ウェーハにレーザー光を照射して内部へ改質領域を形成する改質領域形成ステップと,改質領域形成後の前記ウェーハの裏面を研削加工し,研削後の前記ウェーハの裏面を研磨加工し,ウェーハの最終加工厚さT1まで前記ウェーハの裏面を加工する第2の機械加工ステップと,を備えることを特徴とするウェーハ加工方法を提供する。
【0016】
本発明によれば,第1の機械加工ステップにおいて,ウェーハの最終加工厚さT1より50?500μm厚い厚さT2までウェーハの裏面を加工する。すなわち,ダイシング後のウェーハの機械的強度が大幅に向上する。したがって,ダイシング後に各工程に使用される装置間を搬送される際,多少の衝撃や振動を受けても,内部の改質領域を起点として割段されてしまうような不具合は激減又は皆無となる。
【0017】
このように,本発明によれば,レーザーダイシング装置によりダイシングされたウェーハを,ダメージを与えることなくチップに分割することができる。
【0018】
なお,厚さT2は,最終加工厚さT1より100?300μm厚いことが好ましく,最終加工厚さT1より150?250μm厚いことがより好ましい。
【0019】
本発明において,第1の機械加工前の前記ウェーハの表面に該ウェーハの表面に形成されたパターンを保護する保護用テープを貼着するテープ貼着ステップと,第2の機械加工後の前記ウェーハの表面に紫外線光を照射する紫外線光照射ステップと,紫外線光照射後の前記ウェーハの裏面にダイシングテープを貼着して前記ウェーハをフレームへマウントするテープマウントステップと,フレームへマウントされた前記ウェーハの表面に貼着されている前記保護用テープの剥離を行うテープ剥離ステップと,前記保護用テープが剥離された前記ウェーハの前記ダイシングテープが貼着された側より,前記ダイシングテープのエキスパンドを行い,前記ウェーハの各チップ間の間隔を拡張するエキスパンドステップと,を備えることが好ましい。
【0020】
このように,ウェーハは,装置内の少ない移動距離で,裏面の研削加工から始まって,UV光照射,フレームへのマウント,保護シート剥離,及びエキスパンドまでの各ステップ(工程)を終了することが可能となる。したがって,搬送中や各工程の作業中にチップへダメージを与える可能性が最小限に抑えられる。また,エキスパンドされた状態でカセットへ格納されるため,チップマウント工程を直ちに進められるのでスループットの向上が可能となる。
【0021】
また,本発明において,前記ウェーハの内部に形成する改質領域がウェーハの表面より厚さ方向にT1までの距離の位置であることが好ましい。このような厚さ方向に改質領域が形成されれば,ウェーハの割断が容易となる。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下,添付図面に従って,本発明に係るウェーハ加工方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0025】
図1は,本発明が適用されるウェーハ加工装置10の全体構成を示す平面図である。このウェーハ加工装置10は,上流側(左側)より,平面加工装置10A,レーザーダイシング装置10B,平面加工装置10C,及びウェーハマウント装置10Dで構成されている。以下,順に説明する。
【0026】
平面加工装置10Aは,第1の機械加工ステップに使用され,平面加工装置10Cは,第2の機械加工ステップに使用される。
【0027】
なお,平面加工装置を図1のように2台設けず,1台の平面加工装置10A(又は10C)で第1及び第2の機械加工ステップに対応させてもよい。
【0028】
図2は,平面加工装置10A(10C)の斜視図であり,図3は平面図である。図2に示されるように平面加工装置10A(10C)の本体112には,カセット収納ステージ114,アライメントステージ116,粗研削ステージ118,精研削ステージ120,研磨ステージ122,研磨布洗浄ステージ123,研磨布ドレッシングステージ127,及びウェーハ洗浄ステージ124が設けられている。
【0029】
また,粗研削ステージ118,精研削ステージ120,研磨ステージ122は,図3の二点鎖線で示される仕切板125によって仕切られ,各々のステージ118,120,122で使用する加工液が隣接するステージに飛散するのが防止されている。
【0030】
仕切板125は図5,図6に示されるようにインデックステーブル134に固定されるとともに,インデックステーブル134に設置された4台のチャック(保持手段に相当)132,136,138,140を仕切るように十字形状に形成されている。また,研磨ステージ122は,他のステージから隔離するために,天板200を有するケーシング202によって覆われている。
【0031】
このケーシング202の,仕切板125が通過する側面には,図7の如くブラシ204が取り付けられており,このブラシ204は,チャック140が加工位置に位置した時に,仕切板125の上面125A及び側面125Bに接触される。
【0032】
これにより,チャック140が加工位置に位置すると,ケーシング202,仕切板125,及びブラシ204によって研磨ステージ122が略気密状態に保持されるので,精研削ステージ120で使用される研削加工液や加工屑が研磨ステージ122に浸入するのを防止でき,また,研磨ステージ122で使用される研磨加工液が研磨ステージ122から飛散するのを防止できる。
【0033】
したがって,双方の加工液が混入することに起因する加工不具合を防止できる。本例の研磨ステージ122は,化学機械研磨を行うもので,研磨加工液に化学研磨剤が含有されているので,このような研磨加工液に研削加工液が混入すると,化学研磨剤の濃度が低下し,加工時間が長くなるという不具合が生じる。よって,仕切板125を設けることによって,前記不具合を解消できる。
【0034】
なお,粗研削ステージ118は,図5,図6の如く本体112の側面,天板206,及び仕切板125によって囲まれており,また,精研削ステージ120も同様に本体112の側面,天板208,及び仕切板125によって囲まれている。これらの天板200,206,208には,各ステージのヘッドが挿通される貫通孔201,207,209が形成されている。
【0035】
図6の符号210は,粗研削ステージ118を外部から隔離するためのブラシであり,このブラシ210は仕切板125の上面及び側面に接触されている。」

「【0039】
チャック132は,インデックステーブル134に設置され,また,同機能を備えたチャック136,138,140が,インデックステーブル134の図3の破線で示される回転軸135を中心とする円周上に90度の間隔をもって設置されている。
【0040】
また,回転軸135には,図3に破線で示されるモータ(移動手段に相当)137のスピンドル(不図示)が連結されている。チャック136は,粗研削ステージ118に位置されており,吸着したウェーハWがここで粗研削される。
【0041】
また,チャック138は,精研削ステージ120に位置され,吸着したウェーハWがここで仕上げ研削(精研削,スパークアウト)される。更に,チャック140は,研磨ステージ122に位置され,吸着したウェーハWがここで研磨され,研削で生じた加工変質層,及びウェーハWの厚さのバラツキ分が除去される。
【0042】
チャック132,136,138,140は,図4の如くその下面にスピンドル194と回転用モータ192が各々連結され,これらのモータ192の駆動力によって回転される。モータ192は,支持部材193を介してインデックステーブル134に支持されている。
【0043】
したがって,本実施の形態の平面加工装置10A(10C)は,モータ192とスピンドル194がチャック132,136,138,140に連結された状態で,チャック132,136,138,140がモータ137によって移動される装置である。
【0044】
これにより,チャック132,136,138,140をモータ137で移動させる毎に,スピンドル194をチャック132,136,138,140から切り離したり,次の移動位置に設置されたスピンドル194にチャック132,136,138,140を連結したりする手間を省くことができる。
【0045】
本実施の形態のチャック132,136,138,140は,その吸着面がセラミックス等の焼結体からなるポーラス材で形成されている。これによってウェーハWがポーラス材の表面にしっかりと吸着保持される。」

「【0064】
研磨終了したウェーハWは,加工変質層が除去されているので,容易に破損することはなく,よって,ロボット196による搬送時,及びウェーハ洗浄ステージ124における洗浄時において破損しない。」

「【0074】
レーザー光Lの集光点を,チャックテーブル212に載置されたウェーハWの厚さ方向内部に設定すると,ウェーハWの表面を透過したレーザー光Lは集光点でエネルギーが集中され,ウェーハ内部の集光点近傍に多光子吸収によるクラック領域,溶融領域,屈折率変化領域等の改質領域を形成する。」

「【0078】
レーザーダイシング装置10BでウェーハWをレーザーダイシングする場合,通常,図16に示されるように,ウェーハWは片方の面に粘着剤を有するダイシングシートSを介してダイシング用のフレームFにマウントされ,レーザーダイシング工程中はこの状態で搬送される。」

「【0099】
次に,本発明に係るウェーハ加工方法の実際の手順について説明する。図12はウェーハ加工方法の動作順序を示したフロー図である。ウェーハWの加工は,図1等により既述したウェーハ加工装置10を使用して行われる。
【0100】
先ず,平面加工装置10Aを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),厚さT2まで加工する(ステップS10)。すなわち,第1の機械加工ステップにおいて,ウェーハの最終加工厚さT1より50?500μm厚い厚さT2までウェーハの裏面を加工する。これにより,ダイシング後のウェーハWの機械的強度が大幅に向上する。したがって,ダイシング後に各工程に使用される装置間を搬送される際,多少の衝撃や振動を受けても,内部の改質領域Kを起点として割段されてしまうような不具合は激減又は皆無となる。
【0101】
この厚さT2は,最終加工厚さT1より100?300μm厚いことがより好ましく,最終加工厚さT1より150?250μm厚いことが更に好ましい。
【0102】
図13は,表面(下面)に既述の保護用シート21が貼着されたウェーハWの断面図である。同図において,ウェーハWは,裏面が加工された後に最終加工厚さT1より厚い厚さT2になっている。
【0103】
次いで,レーザーダイシング装置10B使用して,ウェーハWの裏面(上面)よりレーザー光Lを照射して,ウェーハWの内部へ改質領域K,K…を形成する(ステップS20)。この改質領域K,K…のウェーハWの厚さ方向の位置は,ウェーハの表面(下面)より厚さ方向にT1までの距離の位置であることが好ましい。このような厚さ方向に改質領域が形成されれば,ウェーハの割断が容易となる。
【0104】
次いで,平面加工装置10Cを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),最終加工厚さT1まで加工する(ステップS30)。
【0105】
次いで,プラズマ洗浄装置19を使用して,ウェーハW上に残る有機汚染物を除去する(ステップS40)。
【0106】
次いで,ウェーハマウント装置10Dを使用して,ウェーハWの各チップ間の間隔を拡張する(ステップS50)。以下,このエキスパンドステップについて図14により説明する。図14は,ウェーハマウント装置の動作順序を示したフロー図である。なお,既述の図10は,UV光照射後のウェーハマウント装置10Dの動作順序を模式的に示した側面図でもある。
【0107】
まず,ステップS40(前工程)において,ウェーハWがプラズマ洗浄される。
【0108】
そして,ウェーハWが,全面吸着型の搬送装置41により保護用シート21側を下方に向けて吸着されて搬送され,UV照射装置18から保護用シート21へ向けてUV光が照射され,保護用シート21の粘着力を低下させる(ステップS51)。
【0109】
次いで,ダイシングテープ22がウェーハWの裏面とフレームFへ貼着され,不要部分が切断されてウェーハWがフレームFへマウントされる(ステップS52)。
【0110】
フレームFへマウントされたウェーハWは,搬送装置39により反転され,表面に貼着された保護シート21が剥離される(ステップS53)。
【0111】
ウェーハWは,エキスパンダ13に搬送され,保持リングRがダイシングテープ22側から押圧され,ウェーハWのエキスパンドが行われる(ステップS54)。
【0112】
エキスパンドされたウェーハWは,カセットストッカー14に載置されたカセットCへ保持リングRごと順次収納されていく(ステップS55)。
【0113】
以上説明したように,本発明に係るウェーハ加工方法によれば,レーザーダイシング装置によりダイシングされたウェーハを,ダメージを与えることなくチップに分割することができる。」

イ 上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)引用文献1に記載された技術は,半導体ウェーハの平面加工からチップサイズに切断されたウェーハのマウントまでを欠陥なく行うのに好適なウェーハ加工方法に関するものであること。(【0001】)

(イ)近年,メモリーカードや薄型ICカード等に組込まれる極薄の半導体装置や電子部品の需要が高まっており,厚さが100μm以下の極薄ウェーハの要求が増大しているところ,従来のチップ製造方法では,厚さが100μm以下の極薄のウェーハWをダイシングソーにより切断した際,切断時にウェーハWにチッピングや割れが生じ,多くの不良チップが発生する問題があり,この問題を解決する手段として,従来のダイシングソーによる切断に代えて,ウェーハWの内部に集光点を合わせたレーザー光を入射させ,ウェーハ内部に多光子吸収による改質領域を形成して個々のチップTに分割するレーザー加工方法に関する技術が提案されているが,レーザーダイシング装置では,ダイシング後に各工程に使用される装置間を搬送される際,衝撃や振動により内部の改質領域を起点として割段されてしまう場合があり,そして,一旦割段された場合,ウェーハとしてのハンドリングができず,以降の工程の進行が大幅に妨げられるという問題があったこと。(【0003】,【0009】,【0010】,【0013】)

(ウ)引用文献1に記載された技術は,上記(イ)の問題に対してなされたものであり(【0014】),ウェーハの裏面を研削・研磨加工し,ウェーハの最終加工厚さT1より50?500μm厚い厚さT2まで前記ウェーハの裏面を加工する第1の機械加工ステップと,第1の機械加工後の前記ウェーハにレーザー光を照射して内部へ改質領域を形成する改質領域形成ステップと,改質領域形成後の前記ウェーハの裏面を研削・研磨加工し,ウェーハの最終加工厚さT1まで前記ウェーハの裏面を加工する第2の機械加工ステップと,を備えることを特徴とするウェーハ加工方法を提供すること(【0015】)によって,第1の機械加工ステップ後のウェーハの厚さが,最終加工厚さより50?500μm厚いことから,ダイシング後のウェーハの機械的強度が大幅に向上し,ダイシング後に各工程に使用される装置間を搬送される際,多少の衝撃や振動を受けても,内部の改質領域を起点として割段されてしまうような不具合は激減又は皆無となる(【0016】)ことで,レーザーダイシング装置によりダイシングされたウェーハを,割段されずに後工程に供給(搬送)できるウェーハ加工方法を提供するという目的(【0014】)を達成することができるものであること。

(エ)引用文献1に記載された技術において,ウェーハの内部に形成する改質領域がウェーハの表面より厚さ方向にT1までの距離の位置であることが好ましいこと。(【0021】)及び,このような厚さ方向に改質領域が形成されれば,ウェーハの割断が容易となること。(【0021】)

(オ)引用文献1に記載された技術の好ましい実施の形態で用いられるウェーハ加工装置は,上流側より,平面加工装置10A,レーザーダイシング装置10B,平面加工装置10C,及びウェーハマウント装置10Dで構成されているウェーハ加工装置10であること。(【0024】,【0025】)

(カ)平面加工装置10Aは,第1の機械加工ステップに使用され,平面加工装置10Cは,第2の機械加工ステップに使用されるものであり,
平面加工装置10A(10C)の本体112には,カセット収納ステージ114,アライメントステージ116,粗研削ステージ118,精研削ステージ120,研磨ステージ122,研磨布洗浄ステージ123,研磨布ドレッシングステージ127,及びウェーハ洗浄ステージ124が設けられており,
粗研削ステージ118,精研削ステージ120,研磨ステージ122は,仕切板125によって仕切られ,隣接しており,
仕切板125はインデックステーブル134に固定されるとともに,インデックステーブル134に設置された4台のチャック(保持手段に相当)132,136,138,140を仕切るように十字形状に形成されており,
チャック132は,インデックステーブル134に設置され,また,同機能を備えたチャック136,138,140が,インデックステーブル134の回転軸135を中心とする円周上に90度の間隔をもって設置されており,
回転軸135には,モータ(移動手段に相当)137のスピンドルが連結されており,
チャック136は,粗研削ステージ118に位置されており,吸着したウェーハWがここで粗研削され,
チャック138は,精研削ステージ120に位置され,吸着したウェーハWがここで仕上げ研削(精研削,スパークアウト)され,
チャック140は,研磨ステージ122に位置され,吸着したウェーハWがここで研磨され,研削で生じた加工変質層,及びウェーハWの厚さのバラツキ分が除去されるものであり,
チャック132,136,138,140は,その下面にスピンドル194と回転用モータ192が各々連結され,これらのモータ192の駆動力によって回転されるものであり,モータ192は,支持部材193を介してインデックステーブル134に支持されており,したがって,平面加工装置10A(10C)は,モータ192とスピンドル194がチャック132,136,138,140に連結された状態で,チャック132,136,138,140がモータ137によって移動される装置であり,
チャック132,136,138,140は,その吸着面がセラミックス等の焼結体からなるポーラス材で形成されており,これによってウェーハWがポーラス材の表面にしっかりと吸着保持されるものであり,
研磨終了したウェーハWは,加工変質層が除去されているので,容易に破損することはなく,よって,ロボット196による搬送時,及びウェーハ洗浄ステージ124における洗浄時において破損しないこと。(【0026】-【0035】,【0039】-【0045】,【0064】)

(キ)レーザーダイシング装置10Bは,レーザー光Lの集光点を,チャックテーブル212に載置されたウェーハWの厚さ方向内部に設定して,ウェーハWの表面を透過したレーザー光Lを集光点でエネルギーを集中させ,ウェーハ内部の集光点近傍に多光子吸収によるクラック領域,溶融領域,屈折率変化領域等の改質領域を形成するものであり,
レーザーダイシング装置10BでウェーハWをレーザーダイシングする場合,ウェーハWは片方の面に粘着剤を有するダイシングシートSを介してダイシング用のフレームFにマウントし,レーザーダイシング工程中はこの状態で搬送されること。(【0074】,【0078】)

(ク)引用文献1に記載されたウェーハ加工方法は,
a 先ず,平面加工装置10Aを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),厚さT2まで加工するステップS10であって,第1の機械加工ステップにおいて,ウェーハの最終加工厚さT1より50?500μm厚い厚さT2までウェーハの裏面を加工することにより,ダイシング後のウェーハWの機械的強度が大幅に向上し,したがって,ダイシング後に各工程に使用される装置間を搬送される際,多少の衝撃や振動を受けても,内部の改質領域Kを起点として割段されてしまうような不具合は激減又は皆無となるステップS10と,
b 次いで,レーザーダイシング装置10B使用して,ウェーハWの裏面(上面)よりレーザー光Lを照射して,ウェーハWの内部へ改質領域K,K…を形成するステップS20と,
c 次いで,平面加工装置10Cを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),最終加工厚さT1まで加工するステップS30と,
d 次いで,プラズマ洗浄装置19を使用して,ウェーハW上に残る有機汚染物を除去するステップS40と,
e 次いで,ウェーハマウント装置10Dを使用して,ウェーハWの各チップ間の間隔を拡張するステップS50と,
を含む,レーザーダイシング装置によりダイシングされたウェーハを,ダメージを与えることなくチップに分割することができるウェーハ加工方法であって,
第1の機械加工前の前記ウェーハの表面に該ウェーハの表面に形成されたパターンを保護する保護用テープを貼着するテープ貼着ステップを備えることが好ましく,
上記ステップS20で形成される改質領域K,K…のウェーハWの厚さ方向の位置は,ウェーハの表面(下面)より厚さ方向にT1までの距離の位置であることが好ましく,このような厚さ方向に改質領域が形成されれば,ウェーハの割断が容易となる,
ウェーハ加工方法であること。(【0019】,【0099】-【0113】)

ウ 上記ア,イから,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「a 先ず,平面加工装置10Aを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),厚さT2まで加工するステップS10であって,第1の機械加工ステップにおいて,ウェーハの最終加工厚さT1より50?500μm厚い厚さT2までウェーハの裏面を加工することにより,ダイシング後のウェーハWの機械的強度が大幅に向上し,したがって,ダイシング後に各工程に使用される装置間を搬送される際,多少の衝撃や振動を受けても,内部の改質領域Kを起点として割段されてしまうような不具合は激減又は皆無となるステップS10と,
b 次いで,レーザーダイシング装置10B使用して,ウェーハWの裏面(上面)よりレーザー光Lを照射して,ウェーハWの内部へ改質領域K,K…を形成するステップS20と,
c 次いで,平面加工装置10Cを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),最終加工厚さT1まで加工するステップS30と,
d 次いで,プラズマ洗浄装置19を使用して,ウェーハW上に残る有機汚染物を除去するステップS40と,
e 次いで,ウェーハマウント装置10Dを使用して,ウェーハWの各チップ間の間隔を拡張するステップS50と,
を含む,
第1の機械加工ステップにおいて,ウェーハの最終加工厚さT1より50?500μm厚い厚さT2までウェーハの裏面を加工することにより,ダイシング後のウェーハの機械的強度が大幅に向上し,したがって,ダイシング後に各工程に使用される装置間を搬送される際,多少の衝撃や振動を受けても,内部の改質領域を起点として割段されてしまうような不具合は激減又は皆無となることから,レーザーダイシング装置によりダイシングされたウェーハを,割段されずに後工程に供給(搬送)できるウェーハ加工方法を提供するという目的を達成することができるウェーハ加工方法であって,
第1の機械加工前の前記ウェーハの表面に該ウェーハの表面に形成されたパターンを保護する保護用テープを貼着するテープ貼着ステップを備えることが好ましく,
上記ステップS20で形成される改質領域K,K…のウェーハWの厚さ方向の位置は,ウェーハの表面(下面)より厚さ方向にT1までの距離の位置であることが好ましく,このような厚さ方向に改質領域が形成されれば,ウェーハの割断が容易となるものであり,
平面加工装置10Aは,第1の機械加工ステップに使用され,平面加工装置10Cは,第2の機械加工ステップに使用されるものであり,
平面加工装置10A(10C)の本体112には,カセット収納ステージ114,アライメントステージ116,粗研削ステージ118,精研削ステージ120,研磨ステージ122,研磨布洗浄ステージ123,研磨布ドレッシングステージ127,及びウェーハ洗浄ステージ124が設けられており,
粗研削ステージ118,精研削ステージ120,研磨ステージ122は,仕切板125によって仕切られ,隣接しており,
仕切板125はインデックステーブル134に固定されるとともに,インデックステーブル134に設置された4台のチャック(保持手段に相当)132,136,138,140を仕切るように十字形状に形成されており,
チャック132は,インデックステーブル134に設置され,また,同機能を備えたチャック136,138,140が,インデックステーブル134の回転軸135を中心とする円周上に90度の間隔をもって設置されており,
回転軸135には,モータ(移動手段に相当)137のスピンドルが連結されており,
チャック136は,粗研削ステージ118に位置されており,吸着したウェーハWがここで粗研削され,
チャック138は,精研削ステージ120に位置され,吸着したウェーハWがここで仕上げ研削(精研削,スパークアウト)され,
チャック140は,研磨ステージ122に位置され,吸着したウェーハWがここで研磨され,研削で生じた加工変質層,及びウェーハWの厚さのバラツキ分が除去されるものであり,
チャック132,136,138,140は,その下面にスピンドル194と回転用モータ192が各々連結され,これらのモータ192の駆動力によって回転されるものであり,モータ192は,支持部材193を介してインデックステーブル134に支持されており,したがって,平面加工装置10A(10C)は,モータ192とスピンドル194がチャック132,136,138,140に連結された状態で,チャック132,136,138,140がモータ137によって移動される装置であり,
チャック132,136,138,140は,その吸着面がセラミックス等の焼結体からなるポーラス材で形成されており,これによってウェーハWがポーラス材の表面にしっかりと吸着保持されるものであり,
研磨終了したウェーハWは,加工変質層が除去されているので,容易に破損することはなく,よって,ロボット196による搬送時,及びウェーハ洗浄ステージ124における洗浄時において破損しないものであり,
レーザーダイシング装置10Bは,レーザー光Lの集光点を,チャックテーブル212に載置されたウェーハWの厚さ方向内部に設定して,ウェーハWの表面を透過したレーザー光Lを集光点でエネルギーを集中させ,ウェーハ内部の集光点近傍に多光子吸収によるクラック領域である改質領域を形成するものであり,
レーザーダイシング装置10BでウェーハWをレーザーダイシングする場合,ウェーハWは片方の面に粘着剤を有するダイシングシートSを介してダイシング用のフレームFにマウントし,レーザーダイシング工程中はこの状態で搬送される,
ウェーハ加工方法。」

(2)引用文献2の記載事項
ア 同じく原査定に引用された,原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,国際公開第03/77295号公報(2003年9月18日国際公開。以下「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「技術分野
本発明は,半導体デバイスの製造工程等において半導体基板等の基板を分割するために使用される基板の分割方法に関する。」(明細書第1ページ第3-5行)

「この基板の分割方法によれば,切断起点領域を形成する工程においては,基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,基板の内部に多光子吸収という現象を発生させて改質領域を形成するため,この改質領域でもって,基板を切断すべき所望の切断予定ラインに沿うよう基板の内部に切断起点領域を形成することができる。基板の内部に切断起点領域が形成されると,自然或いは比較的小さな力によって,切断起点領域を起点として基板の厚さ方向に割れが発生する。」(明細書第2ページ第6-11行)

「まず,半導体基板1の内部に切断起点領域を形成する工程について説明するが,その説明に先立って,切断起点領域を形成する工程において使用されるレーザ加工装置について,図14を参照して説明する。・・・レーザ光源101はパルスレーザ光を発生する・・・レーザである。実施例1では,半導体基板1の加工にパルスレーザ光を用いているが,多光子吸収を起こさせることができるなら連続波レーザ光でもよい。」(明細書第14ページ第25行-第15ページ第26行)

「図23Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図23Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。
図24Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図24Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。
図25Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面の裏面側のエッジ部に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図25Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面の裏面側のエッジ部に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。」(明細書第5ページ第4-21行)

「さて,本実施の形態において多光子吸収により形成される改質領域としては,次の(1)?(3)がある。
(1)改質領域が1つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合」(明細書第8ページ第24-26行)

「(2)改質領域が溶融処理領域の場合」(明細書第11ページ第1行)

「なお,半導体基板を研磨する工程後の半導体チップ25と溶融処理領域13との関係としては,図23A?図25Bに示すものがある。各図に示す半導体チップ25には,後述するそれぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができる。ここで,図23A,図24A及び図25Aは,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合であり,図23B,図24B及び図25Bは,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合である。図23B,図24B及び図25Bの場合にも,半導体基板を研磨する工程後には,割れ15が半導体基板15の表面3に達する。
図23A及び図23Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存する半導体チップ25は,その切断面が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25の抗折強度が向上する。
図24A及び図24Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存しない半導体チップ25は,溶融処理領域13が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効である。
図25A及び図25Bに示すように,溶融処理領域13が切断面の裏面側のエッジ部に残存する半導体チップ25は,当該エッジ部が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25のエッジ部を面取りした場合と同様に,エッジ部におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することができる。
また,図23A,図24A及び図25Aに示すように,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合に比べ,図23B,図24B及び図25Bに示すように半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合の方が,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップ25の切断面の直進性がより向上する。
ところで,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に到達するか否かは,溶融処理領域13の表面3からの深さに関係するのは勿論であるが,溶融処理領域13の大きさにも関係する。すなわち,溶融処理領域13の大きさを小さくすれば,溶融処理領域13の表面3からの深さが浅い場合でも,割れ15は半導体基板1の表面3に到達しない。溶融処理領域13の大きさは,例えば切断起点領域を形成する工程におけるパルスレーザ光の出力により制御することができ,パルスレーザ光の出力を上げれば大きくなり,パルスレーザ光の出力を下げれば小さくなる。」(明細書第21ページ第21行-第22ページ第26行)

「なお,・・・サファイア基板1の内部に集光点Ρを合わせてレーザ光Lを照射し,サファイア基板1の内部に改質領域7を形成してもよい。また,レーザ光Lの照射は,サファイア基板1の表面3側から行ってもよいし,裏面21側から行ってもよい。」(明細書第24ページ第19-23行)

「なお,サファイア基板1に換えてAlN基板やGaAs基板を用いた場合の基板の分割においても,上記同様の効果を奏する。」(明細書第26ページ第10-11行)









上記摘記を参酌すれば,図24Bの左側の図から,半導体基板1の内部であって半導体基板1の厚みの半分よりも半導体基板1の表面3に近い位置に集光点を設定してパルスレーザ光を照射して溶融処理領域13を形成する際に,半導体基板1を研磨する工程前に,溶融処理領域13から延びる割れ15が半導体基板1の表面3及び裏面21のいずれにも達することがないようにすることを見て取ることができる。
さらに,図24Bの右側の図から,半導体基板1を研磨する工程後に,溶融処理領域13が除去され,溶融処理領域13から延びる割れ15が研磨工程後の半導体基板1に残ることを見て取ることができる。

イ 上記記載から,引用文献2には,次の技術が記載されていると認められる。
(ア)引用文献2に記載された技術は,半導体デバイスの製造工程等において半導体基板等の基板を分割するために使用される基板の分割方法に関するものであって,この基板の分割方法によれば,切断起点領域を形成する工程においては,基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,基板の内部に多光子吸収という現象を発生させて改質領域を形成するため,この改質領域でもって,基板を切断すべき所望の切断予定ラインに沿うよう基板の内部に切断起点領域を形成することができ,基板の内部に切断起点領域が形成されると,自然或いは比較的小さな力によって,切断起点領域を起点として基板の厚さ方向に割れが発生すること。及び,半導体基板に多光子吸収を起こさせる加工に,パルスレーザ光を用いること。

(イ)半導体基板を研磨する工程後の半導体チップ25と溶融処理領域13との関係としては,図23A?図25Bに示すものがあり,各図に示す半導体チップ25には,後述するそれぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができること。

(ウ)溶融処理領域13が切断面内に残存する半導体チップ25は,その切断面が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25の抗折強度が向上すること。

(エ)溶融処理領域が切断面内に残存しない半導体チップ25は,溶融処理領域が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効であること。

(オ)上記(エ)の溶融処理領域が切断面内に残存しない半導体チップ25は,半導体基板1を研磨する工程前に溶融処理領域13から延びる割れ15が半導体基板1の表面3及び裏面21のいずれにも達することがないように,半導体基板1の内部であって半導体基板1の厚みの半分よりも半導体基板1の表面3に近い位置に集光点を設定してパルスレーザ光を照射して溶融処理領域13を形成し,その後,溶融処理領域13が除去され,溶融処理領域13から延びる割れ15が研磨工程後の半導体基板1に残るように半導体基板1を研磨することで得られること。

(カ)半導体基板を研磨する工程前に割れが半導体基板の表面に達していない場合の方が,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップの切断面の直進性がより向上すること。

(キ)レーザ光の照射は,裏面側から行ってもよいこと。

(3)引用文献3の記載事項
同じく原査定に引用された,原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2005-86111号公報(平成17年3月31日出願公開。以下「引用文献3」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【請求項1】
表面に機能素子が形成された半導体基板を切断予定ラインに沿って切断する半導体基板の切断方法であって,
前記半導体基板の裏面を研磨して前記半導体基板を第1の厚さにする工程と,
前記半導体基板を第1の厚さにした後に,前記半導体基板の裏面をレーザ光入射面として前記半導体基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することで改質領域を形成し,その改質領域によって,前記切断予定ラインに沿って前記レーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成する工程と,
前記切断起点領域を形成した後に,前記半導体基板の裏面を研磨して前記半導体基板を第2の厚さにする工程とを備えることを特徴とする半導体基板の切断方法。
【請求項2】
前記改質領域は溶融処理領域を含むことを特徴とする請求項1記載の半導体基板の切断方法。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体デバイスの製造工程等において,表面に機能素子が形成された半導体基板を切断するために使用される半導体基板の切断方法に関する。」

「【0022】
図7は,上記条件でのレーザ加工により切断されたシリコンウェハの一部における断面の写真を表した図である。シリコンウェハ11の内部に溶融処理領域13が形成されている。なお,上記条件により形成された溶融処理領域13の厚さ方向の大きさは100μm程度である。」

「【0026】
(2)改質領域が溶融処理領域及び微小空洞の場合
半導体基板の内部に集光点を合わせて,集光点における電界強度が1×10^(8)(W/cm^(2))以上で且つパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射する。」

「【0049】
ところで,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化した後における半導体チップ22と溶融処理領域13との関係としては,図19?図21に示すものがある。各図に示す半導体チップ22には,後述するそれぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができる。ここで,図19(a),図20(a)及び図21(a)は,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する前に割れ21がシリコンウェハ11の表面3に達している場合であり,図19(b),図20(b)及び図21(b)は,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する前に割れ21がシリコンウェハ11の表面3に達していない場合である。図19(b),図20(b)及び図21(b)の場合にも,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化した後には,割れ21がシリコンウェハ11の表面3に達する。
【0050】
図19(a),(b)に示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存する半導体チップ22は,その切断面が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ22の抗折強度が向上する。また,図20(a),(b)に示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存しない半導体チップ22は,溶融処理領域13が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効である。更に,図21(a),(b)に示すように,溶融処理領域13が切断面の裏面側のエッジ部に残存する半導体チップ22は,当該エッジ部が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ22のエッジ部を面取りした場合と同様に,エッジ部におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することができる。
【0051】
そして,図19(a),図20(a)及び図21(a)に示すように,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する前に割れ21がシリコンウェハ11の表面3に達している場合に比べ,図19(b),図20(b)及び図21(b)に示すように,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する前に割れ21がシリコンウェハ11の表面3に達していない場合の方が,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化した後に得られる半導体チップ22の切断面の直進性がより一層向上する。」





上記摘記を参酌すれば,図20(b)の左側の図から,シリコンウェハ11の内部であってシリコンウェハ11の厚みの半分よりもシリコンウェハ11の表面3に近い位置に集光点を設定してパルスレーザ光を照射して溶融処理領域13を形成する際に,シリコンウェハ11を研磨する工程前に,溶融処理領域13から延びる割れ21がシリコンウェハ11の表面3及び裏面17のいずれにも達することがないようにすることを見て取ることができる。
さらに,図20(b)の右側の図から,シリコンウェハ11を研磨する工程後に,溶融処理領域13が除去され,溶融処理領域13から延びる割れ21が研磨工程後のシリコンウェハ11に残ることを見て取ることができる。

(4)引用文献4の記載事項
同じく原査定に引用された,原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2006-12902号公報(平成18年1月12日出願公開。以下「引用文献4」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
而して,上述したように変質層が形成された分割予定ラインに沿って分割されたチップの側面には変質層が残留し,この残留した変質層がチップの抗折強度を低下させるという問題がある。
【0007】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり,その主たる技術的課題は,ウエーハの分割予定ラインに沿ってパルスレーザー光線を照射することにより変質層を形成し,該変質層が形成された分割予定ラインに沿って分割したチップの抗折強度を低下させないウエーハの加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記主たる技術課題を解決するため,本発明によれば,表面に格子状に形成された分割予定ラインによって区画された領域に機能素子が形成されたウエーハを,分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するウエーハの加工方法であって,
ウエーハの裏面側から分割予定ラインに沿ってウエーハに対して透過性を有するレーザー光線を照射し,ウエーハの表面からチップの仕上がり厚さに相当する位置より裏面側に変質層を形成する変質層形成工程と,
分割予定ラインに沿って変質層が形成されたウエーハに外力を付与し,ウエーハを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割する分割工程と,
個々のチップに分割されたウエーハの裏面を研削し,チップの仕上がり厚さに形成する裏面研削工程と,を含む,
ことを特徴とするウエーハの加工方法が提供される。」

「【0033】
上述したように分割工程を実施したならば,個々のチップに分割されたウエーハの裏面を研削し,チップの仕上がり厚さに形成する裏面研削工程を実施する。この裏面研削工程は,図14に示す研削装置8によって実施する。即ち,研削装置8のチャックテーブル81上に個々の半導体チップ20に分割された半導体ウエーハ2の保護テープ3側を載置し(従って,半導体ウエーハ2は裏面2bが上側となる),図示しない吸引手段によってチャックテーブル81上に半導体ウエーハ2を吸着保持する。そして,チャックテーブル81を例えば300rpmで回転し,研削砥石82を備えた研削工具83を例えば6000rpmで回転しつつ図14において下方に所定の速度で研削送りする。この研削送りは,図15に示すように半導体チップ20の仕上がり厚さSに達するまで実施する。この結果,半導体ウエーハ2に形成された変質層210は研削されて除去され,半導体ウエーハ2は半導体チップ20の仕上がり厚さSに形成される。従って,図16に示すように半導体チップ20の側面には上記変質層形成工程によって形成された変質層が残留しないため,半導体チップ20の抗折強度が低下することはなく,1000MPa以上の抗折強度を確保することができる。
以上のようにして裏面研削工程が実施されたならば,個々の半導体チップ20に分割された半導体ウエーハ2は,半導体チップ20をピックアップするピックアップ工程に搬送される。」

(5)引用文献5の記載事項
同じく原査定に引用された,原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2009-289773号公報(平成21年12月10日出願公開。以下「引用文献5」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【請求項1】
基板の表面に格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されているとともに該ストリートの表面に膜が被覆されているウエーハを,該ストリートに沿って個々のデバイスに分割するウエーハの分割方法であって,
該膜に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から該ストリートに沿って該膜に照射してレーザー加工溝を形成し,該膜を該ストリートに沿って分断する膜分断工程と,
該基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの裏面側から該基板の内部に集光点を位置付けて該ストリートに沿って照射し,該基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程と,
該変質層形成工程が実施されたウエーハを構成する該基板の裏面を研削し,ウエーハを所定の厚さに形成する裏面研削工程と,
該裏面研削工程が実施されたウエーハに外力を付与し,ウエーハを該ストリートに沿って破断するウエーハ破断工程と,を含む,
ことを特徴とするウエーハの分割方法。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下,本発明によるウエーハの分割方法の好適な実施形態について,添付図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1には本発明によるウエーハの分割方法によって分割されるウエーハの斜視図が示されており,図2には図1に示すウエーハの要部を拡大した断面図が示されている。図1および図2に示すウエーハ2は,例えば厚さが600μmのシリコン基板21の表面21aに格子状に形成された複数のストリート22によって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイス23が形成されている。このウエーハ2には,図2に示すようにストリート22およびデバイス23を含む表面21aに図示の実施形態においてはポリイミド(PI)系高分子化合物膜24が被覆されている。」

「【0025】
以上のようにしてチャックテーブル31上に保持されたウエーハ2のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメントが行われたならば,図8の(a)で示すようにチャックテーブル31をレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段32の集光器322が位置するレーザー光線照射領域に移動し,所定のストリート22(レーザー加工溝240が形成されている)の一端(図8の(a)において左端)をレーザー光線照射手段32の集光器322の直下に位置付ける。そして,集光器322からシリコン基板21に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射しつつチャックテーブル31を図8の(a)において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動せしめる。そして,図8の(b)で示すようにレーザー光線照射手段32の集光器322の照射位置がストリート22の他端(図8の(b)において右端)の位置に達したら,パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル31の移動を停止する。この変質層形成工程においては,パルスレーザー光線の集光点Pを半導体ウエーハ2の厚さ方向中間部に位置付ける。この結果,ウエーハ2の基板21には,図8の(b)および図9に示すようにストリート22に沿って厚さ方向中間部に変質層210が形成される。このようにウエーハ2の基板21の内部にストリート22に沿って変質層210が形成されると,基板21には図9に示すように変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてストリート22に沿ってクラック211が発生する。」

「【0028】
上述した変質層形成工程を実行したならば,ウエーハ2を構成する基板21の裏面21bを研削し,ウエーハ2を所定の厚さに形成する裏面研削工程を実施する。この裏面研削工程は,図10の(a)に示す研削装置5を用いて実施する。図10の(a)に示す研削装置5は,被加工物を保持するチャックテーブル51と,該チャックテーブル51に保持された被加工物を研削するための研削砥石52を備えた研削手段53を具備している。この研削装置5を用いて上記裏面研削工程を実施するには,チャックテーブル51上にウエーハ2の保護テープ4側を載置し,図示しない吸引手段を作動することによりウエーハ2をチャックテーブル51上に保持する。従って,チャックテーブル51に保持されたウエーハ2は,裏面21bが上側となる。このようにして,チャックテーブル51上にウエーハ2を保持したならば,チャックテーブル51を矢印51aで示す方向に例えば300rpmで回転しつつ,研削手段53の研削砥石52を矢印52aで示す方向に例えば6000rpmで回転しつつ半導体ウエーハ2の裏面2bに接触せしめて研削することにより,図10の(b)に示すように所定の厚さ(例えば100μm)に形成する。なお,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μm以内の位置に形成すれば上記裏面研削工程を実施した後にも変質層210は残るが,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μmの位置より裏面2bに形成することにより,上記裏面研削工程を実施することにより変質層210が形成された位置まで研削され,変質層210は除去される。従って,ウエーハ2の基板21には,図10の(b)に示すようにストリート22に沿って形成されたクラック211が残される。
【0029】
次に,上述した裏面研削工程が実施されたウエーハ2に外力を付与し,ウエーハ2をストリートに沿って破断するウエーハ破断工程を実施する。このウエーハ破断工程を実施するには,図11に示すように環状のフレームFに装着されたダイシングテープTの表面にウエーハ2における基板21の裏面21bを貼着する(ウエーハ支持工程)。そして,ウエーハ2における基板21の表面21aに貼着されている保護テープ4を剥離する(保護テープ剥離工程)。
【0030】
以上のようにしてウエーハ支持工程および保護テープ剥離工程を実施したならば,上記膜分断工程および変質層形成工程が実施されているウエーハ2,即ち高分子化合物膜24がストリート22に沿って分断されるとともに21基板の内部にストリート22に沿ってクラック211が形成されたウエーハ2に外力を付与し,ウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程を実施する。このウエーハ破断工程は,図示の実施形態においては図12に示すテープ拡張装置6を用いて実施する。図12に示すテープ拡張装置6は,上記環状のフレームFを保持するフレーム保持手段61と,該フレーム保持手段61に保持された環状のフレームFに装着されたダイシングテープTを拡張するテープ拡張手段62を具備している。フレーム保持手段61は,環状のフレーム保持部材611と,該フレーム保持部材611の外周に配設された固定手段としての複数のクランプ612とからなっている。フレーム保持部材611の上面には環状のフレームFを載置する載置面611aが形成されており,この載置面611a上に環状のフレームFが載置される。そして,載置面611a上に載置された環状のフレームFは,クランプ612によってフレーム保持部材611に固定される。このように構成されたフレーム保持手段61は,テープ拡張手段62によって上下方向に進退可能に支持されている。」

「【0033】
上述した実施形態においては,上記裏面研削工程でウエーハ2の基板21の裏面を研削して変質層210が除去されており,ウエーハ2は基板21に形成されたクラック211に沿って破断される。従って,個々の分割されたデバイス23の破断面には変質層210が残存しないため,デバイス23の抗折強度が向上する。」

(6)引用文献6の記載事項
同じく原査定に引用された,原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2009-290148号公報(平成21年12月10日出願公開。以下「引用文献6」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【0011】
上記レーザー光線照射手段32は,実質上水平に配置された円筒形状のケーシング321を含んでいる。ケーシング321内には図示しないYAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器からなるパルスレーザー光線発振器や繰り返し周波数設定手段を備えたパルスレーザー光線発振手段が配設されている。このパルスレーザー光線発振手段は,図示の実施形態においては,ウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長(例えば,1064nm)のパルスレーザー光線を発振する。上記ケーシング321の先端部には,パルスレーザー光線発振手段から発振されたパルスレーザー光線を集光するための集光器322が装着されている。」

「【0031】
上述した実施形態においては,上記裏面研削工程でウエーハ2の基板21の裏面を研削して変質層210が除去されており,ウエーハ2は基板21に形成されたクラック211に沿って破断される。従って,個々の分割されたデバイス23の破断面には変質層210が残存しないため,デバイス23の抗折強度が向上する。」

2 引用発明との対比
(1)本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「ウェーハの表面」,「ウェーハの表面に形成されたパターンを保護する保護用テープ」は,それぞれ,本願発明の「デバイス表面」,「保護フィルム」に相当する。

イ 引用発明の「レーザー光L」と,本願発明の「パルスレーザ」とは,「レーザ」である限りにおいて一致する。

ウ 引用発明のチャック136及びチャック138による「粗研削」及び「仕上げ研削(精研削,スパークアウト)」は,本願発明の「研削加工」に相当する。
また,引用発明の「研削で生じた加工変質層,及びウェーハWの厚さのバラツキ分が除去される」チャック140での「研磨」は,本願発明の「研削加工で生じた加工歪を研磨除去」に相当する。
そして,引用発明の平面加工装置10Cは,「粗研削ステージ118,精研削ステージ120,研磨ステージ122は,仕切板125によって仕切られ,隣接しており,仕切板125はインデックステーブル134に固定されるとともに,インデックステーブル134に設置された4台のチャック(保持手段に相当)132,136,138,140を仕切るように十字形状に形成されており,チャック132は,インデックステーブル134に設置され,また,同機能を備えたチャック136,138,140が,インデックステーブル134の回転軸135を中心とする円周上に90度の間隔をもって設置されており,回転軸135には,モータ(移動手段に相当)137のスピンドルが連結されており」,「チャック132,136,138,140は,その下面にスピンドル194と回転用モータ192が各々連結され,これらのモータ192の駆動力によって回転されるものであり,モータ192は,支持部材193を介してインデックステーブル134に支持されており,したがって,平面加工装置10A(10C)は,モータ192とスピンドル194がチャック132,136,138,140に連結された状態で,チャック132,136,138,140がモータ137によって移動される」構造を有する装置であるから,引用発明における,チャック136及びチャック138による「粗研削」及び「仕上げ研削(精研削,スパークアウト)」と,チャック140での「研磨」は,「連続した研削・研磨工程」といえる。

エ 以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び一応の相違点は,次のとおりである。
<一致点>
「ウェーハ加工方法において,
デバイス表面に保護フィルムを貼り付けたウェーハにおいて,前記ウェーハの裏面からレーザを照射し,前記ウェーハの内部に集光点を設定して改質領域を形成する改質領域形成工程と,
前記ウェーハの裏面を研削加工し,続いて前記研削加工で生じた加工歪を研磨除去する,連続した研削・研磨工程と,
を有するウェーハ加工方法。」

<相違点1>
本願発明のウェーハ加工方法は,「チップの抗折強度の向上を図る」ものであるのに対して,引用発明には,そのような特定がされていない点。

<相違点2>
本願発明のレーザが,「パルス」レーザであるのに対して,引用発明には,そのような特定がされていない点。

<相違点3>
本願発明が,「ウェーハの厚みの半分よりも深い位置」に集光点を設定して「前記改質領域から延びる亀裂は前記ウェーハの裏面に到達しない改質領域」を形成し,「前記改質領域を除去して前記改質領域から進展した亀裂を残すように」前記ウェーハの裏面を研削加工し,続いて「前記亀裂を残しつつ」前記研削加工で生じた加工歪を研磨除去するものであるのに対して,引用発明は,「レーザーダイシング装置10B使用して,ウェーハWの裏面(上面)よりレーザー光Lを照射して,ウェーハWの内部へ改質領域K,K…を形成するステップS20」と,「平面加工装置10Cを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),最終加工厚さT1まで加工するステップS30」とを有し,「上記ステップS20で形成される改質領域K,K…のウェーハWの厚さ方向の位置は,ウェーハの表面(下面)より厚さ方向にT1までの距離の位置であることが好ましく,このような厚さ方向に改質領域が形成されれば,ウェーハの割断が容易となるものであ」る点。

3 判断
以下,相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明は,「平面加工装置10Cを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),最終加工厚さT1まで加工するステップS30」を有し,当該「平面加工装置10C」による加工は,「粗研削」,「仕上げ研削(精研削,スパークアウト)」及び「研磨」工程を含むものであり,ここで「研磨」は,「研削で生じた加工変質層」を除去するものである。
そして,「研磨終了したウェーハWは,加工変質層が除去されているので,容易に破損することはなく,よって,ロボット196による搬送時,及びウェーハ洗浄ステージ124における洗浄時において破損しないものであ」るから,当該ウェーハを分割して作製したチップもまた「加工変質層が除去されているので,容易に破損することはな」いという特性を備えていることは明らかである。
してみれば,引用発明に係るウェーハ加工方法は,「研削で生じた加工変質層」を除去する「研磨」工程を備えることによって,チップが容易に破損することがないようにするものといえる。
そして,チップが容易に破損することがないことは,すなわち,チップの抗折強度の向上であると解されるから,引用発明は,「チップの抗折強度の向上を図る」ものであると認められる。
したがって,上記相違点1は,実質的なものではない。
また,仮に,上記相違点1が実質的なものであったとしても,上記相違点1は,以下で検討するように,引用発明において採用することが容易であると判断される上記相違点3の構成を採用することによって必然的に達成されるもの(要すれば,引用文献4乃至6の記載を参照されたい。)である。
したがって,仮に,上記相違点1が実質的なものであったとしても,引用発明において,上記相違点1に係る本願発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
レーザは,パルスか連続のいずれかであるところ,パルスレーザを用いて多光子吸収によって変質層を形成する引用文献2乃至6の記載及び技術常識に照らして,引用発明のレーザはパルスレーザであると認めることができるか,あるいは,引用文献2乃至6の記載に基づいてパルスレーザとすることが容易であったといえる。
したがって,上記相違点2は,実質的なものではないか,あるいは,上記相違点2に係る本願発明の構成を採用することは容易であったと認められる。

(3)相違点3について
ア 引用文献2には,上記1(2)イ(イ)のとおり,半導体基板を研磨する工程後の半導体チップと溶融処理領域との関係としては,種々のものがあり,それぞれの構造を有する半導体チップには,それぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができることが記載されている。
そして,上記の種々様々な目的に応じての使い分けの具体的な例として,引用文献2には,上記1(2)イ(エ)及び(オ)のとおり,溶融処理領域が切断面内に残存しない半導体チップは,溶融処理領域が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効であること,及び,溶融処理領域が切断面内に残存しない半導体チップは,半導体基板1を研磨する工程前に溶融処理領域13から延びる割れ15が半導体基板1の表面3及び裏面21のいずれにも達することがないように,半導体基板1の内部であって半導体基板1の厚みの半分よりも半導体基板1の表面3に近い位置に集光点を設定してパルスレーザ光を照射して溶融処理領域13を形成し,その後,溶融処理領域13が除去され,溶融処理領域13から延びる割れ15が研磨工程後の半導体基板1に残るように半導体基板1を研磨することで得られることが記載されている。
さらに,引用文献3にも,引用文献2と同趣旨の記載がある。したがって,このような技術は当業者において周知であったといえる。
そうすると,引用文献2,3のこれらの記載に接した当業者が,レーザを照射することによって形成される改質領域がチップの切断面に残存することが半導体デバイスに好影響を与えないことが想定される場合に,引用発明に係るウェーハ加工方法において,引用文献2,3に記載された前記周知の技術を適用すること,
すなわち,引用発明の「レーザーダイシング装置10B使用して,ウェーハWの裏面(上面)よりレーザー光Lを照射して,ウェーハWの内部へ改質領域K,K…を形成するステップS20」において,「ウェーハの厚みの半分よりも深い位置」に集光点を設定して「前記改質領域から延びる亀裂は前記ウェーハの裏面に到達しない改質領域」を形成し,
さらに,引用発明の「平面加工装置10Cを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),最終加工厚さT1まで加工するステップS30」において,「前記改質領域を除去して前記改質領域から進展した亀裂を残すように」前記ウェーハの裏面を研削加工し,続いて「前記亀裂を残しつつ」前記研削加工で生じた加工歪を研磨除去するようになすことは,当業者が容易に想到し得たことである。

イ 審判請求人は,審判請求書において「(ウ)かかる引用文献1の記載によれば,ウェーハの表面(下面)より厚さ方向にT1よりも長い距離の位置に改質領域を形成した場合には,ウェーハの裏面の割断の起点となる改質領域がウェーハの裏面の加工(研削及び研磨)により除去されてしまうことになるので,ウェーハの割断を容易に行えなくなることが示唆されているといえる。すなわち,引用文献1においては,ウェーハの裏面の加工によって除去される位置に改質領域を形成する技術との組み合わせを積極的に否定する記載があるというべきである。」と主張する。
しかしながら,引用文献2,3に記載された技術は,基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,基板の内部に多光子吸収という現象を発生させて改質領域を形成することで基板を切断すべき所望の切断予定ラインに沿うよう基板の内部に切断起点領域を形成し,切断起点領域を起点として,自然或いは比較的小さな力によって,基板の厚さ方向に割れが発生させるものであり,引用文献2,3に記載された,溶融処理領域13が切断面内に残存しない半導体チップの製造方法は,この技術を具体化した一例といえる。
すなわち,引用発明に,引用文献2,3に記載された周知の技術を適用して,研削によって改質領域が除去されるように変更する場合に,当該研削によって,改質領域と,改質領域から延びる亀裂の全てを除去するのではなく,基板の厚さ方向に割れを発生させる切断起点領域となる改質領域から延びる亀裂の一部を,研削・研磨後のウェーハに残すことは,引用文献2,3に記載された技術の,基板の内部に多光子吸収という現象を発生させて改質領域を形成することで基板を切断すべき所望の切断予定ラインに沿うよう基板の内部に切断起点領域を形成し,切断起点領域を起点として,自然或いは比較的小さな力によって,基板の厚さ方向に割れが発生させるという前提に基づけば当然のことである。
このことは,引用文献2の図24B及び引用文献3の図20(b)のそれぞれの右側の図において,半導体基板を研磨して溶融処理領域13を除去した工程の後に,溶融処理領域13から延びる割れが半導体基板に残るように図示されていることからも明らかである。
したがって,引用発明に引用文献2,3に記載された周知の技術を適用して,ウェーハの研削・研磨の際に改質領域を除去する場合に,引用文献2の図24B,引用文献3の図20(b)に記載されるように,改質領域から延びる亀裂の一部を,切断起点領域となるように,研削・研磨後のウェーハに残すようにすることは,引用文献2,3に記載された技術の前提に基づけば当業者が当然に行うことであり,そうすると,引用発明に引用文献2,3に記載された技術を適用しても,ウェーハの割断を容易に行えなくなることはないから,審判請求人の前記主張は採用することはできない。

ウ さらに,審判請求人は「(カ)引用発明において,改質領域を形成する位置を,「研削加工によって除去されない位置」から「研削加工によって除去される位置」に変更することは,ウェーハの割断の起点(段落[0077])がなくなることから,引用発明の技術的意義を完全に没却することになる点で,上記のような変更を行う動機付けが存在しないことはもちろん,同変更には阻害要因が存在する。したがって,引用発明を相違点1に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものではない。」と主張する。
しかしながら,引用発明において,改質領域を形成する位置を,「研削加工によって除去されない位置」から「研削加工によって除去される位置」に変更しても,ウェーハの割断の起点がなくなることがないことは,上記イのとおりである。
そして,引用発明の技術的意義について検討すると,引用文献1に記載された技術は,上記1(1)イ(イ)に記載されているとおり,レーザーダイシング装置における,ダイシング後に各工程に使用される装置間を搬送される際,衝撃や振動により内部の改質領域を起点として割段されてしまう場合があり,一旦割段された場合,ウェーハとしてのハンドリングができず,以降の工程の進行が大幅に妨げられるという課題を解決するための技術であって,引用文献1には,上記1(1)イ(ウ)に記載されているとおり,上記課題を,第1の機械加工ステップ後のウェーハの厚さを,最終加工厚さより50?500μm厚いものとすることで解決することが記載されている。
一方,引用発明の,ウェーハの内部に形成する改質領域がウェーハの表面より厚さ方向にT1までの距離の位置であることは,上記1(1)イ(エ)のとおり,「好ましい」とされる構成に留まるものである。
このことは,引用文献1の特許請求の範囲の記載が,「前記ウェーハの内部に形成する改質領域がウェーハの表面より厚さ方向にT1までの距離の位置である」とする構成を,請求項1又は2を引用する従属項である請求項3において初めて特定する構造となっていることからも明らかである。
してみれば,引用発明の技術的意義は,第一には,レーザーダイシング装置における,ダイシング後に各工程に使用される装置間を搬送される際,衝撃や振動により内部の改質領域を起点として割段されてしまう場合があり,一旦割段された場合,ウェーハとしてのハンドリングができず,以降の工程の進行が大幅に妨げられるという課題を解決することにあると解されるから,引用発明において,任意附加的な構成である「上記ステップS20で形成される改質領域K,K…のウェーハWの厚さ方向の位置は,ウェーハの表面(下面)より厚さ方向にT1までの距離の位置であること」との構成を,引用文献2,3に記載された周知の技術を適用して変更しても,「引用発明の技術的意義を完全に没却することになる」とは認められない。
したがって,審判請求人の前記主張は採用することはできない。

(4)そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2乃至6に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

(5)そうすると,本願発明は,引用発明及び引用文献2乃至6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2019-12-27 
結審通知日 2020-01-06 
審決日 2020-01-29 
出願番号 特願2019-126028(P2019-126028)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 加藤 浩一
西出 隆二
発明の名称 ウェーハ加工システム及びウェーハ加工方法  
代理人 松浦 憲三  

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