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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08L
管理番号 1360836
審判番号 不服2019-2833  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-01 
確定日 2020-03-31 
事件の表示 特願2014-254461「ポリカーボネート樹脂組成物および成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月23日出願公開、特開2016-113563、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月16日に特許出願され、平成30年6月14日付けで拒絶理由が通知され、同年9月19日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年11月28日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成31年3月1日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、それぞれ、平成30年9月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、請求項1ないし10に係る発明を、それぞれ、「本願発明1」等といい、これらをまとめて「本願発明」ともいう。)

「【請求項1】 環状エーテル構造を有し、かつ、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物(α)に由来する構造単位(a)を含むポリカーボネート樹脂100質量部に対して、酸化チタンを0.01重量部以上10重量部以下含み、かつ、リン酸エステル金属塩を0.01重量部以上1重量部以下含むポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】 樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂がエステル交換反応触媒として、リチウム化合物及び長周期型周期表第2族の金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を用いて製造されたものである請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】 リン酸エステル金属塩が、第12族金属元素の塩である請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】 酸化防止剤を含有する請求項1?3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】 光安定剤を含有する請求項1?4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】 離型剤を含有する請求項1?5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】 前記環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物(α)が、下記式(1)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物である請求項1?6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】


【請求項8】 ポリカーボネート樹脂が、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む請求項1?7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】 請求項1?8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られるポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項10】 前記ポリカーボネート樹脂成形品が、射出成形法により成形して得られる請求項9に記載のポリカーボネート樹脂成形品。」

第3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は、本願発明1?10は、特開2012-214637号公報(引用文献1)を主たる引用文献とし、さらに特開2008-222774号公報(引用文献2)及び特開2012-149272号公報(引用文献3)を従たる引用文献とし、これら引用文献1ないし引用文献3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないというものである。

第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項
本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献1ないし引用文献3には以下の事項が記載されている。
(1)引用文献1
ア 「【請求項1】構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、酸化チタンとを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、酸化チタンを0.01重量部以上100重量部以下含有し、かつ、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を含有するものであり、しかもその含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】


(ただし、上記式(1)で表される部位が-CH_(2)-O-Hを構成する部位である場合を除く。)
・・・
【請求項3】前記式(1)で表される部位を有する構造単位(a)として、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むものである、請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】

」(請求の範囲1及び3)

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、光反射率、耐衝撃性、耐光性、色相等に優れたポリカーボネート樹脂組成物、その成形品及び光反射部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。しかしながら、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネートの提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたポリカーボネートの開発が求められている。
【0003】
従来、植物由来モノマーとしてイソソルビドを使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により、ポリカーボネートを得ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、得られたポリカーボネートは、褐色であり、満足できるものではない。また、イソソルビドと他のジヒドロキシ化合物とのポリカーボネートとして、ビスフェノールAを共重合したポリカーボネートが提案されており(例えば、特許文献2参照)、更に、イソソルビドと脂肪族ジオールとを共重合することにより、イソソルビドからなるホモポリカーボネートの剛直性を改善する試みがなされている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
一方、イソソルビドとジフェニルカーボネートとのエステル交換により得られたポリカーボネートに二酸化チタンを添加したポリカーボネート樹脂組成物が提案されているが(例えば、特許文献4参照)、透明性、色調に優れたポリカーボネート樹脂と二酸化チタンを組み合わせて反射率に優れるポリカーボネート樹脂を得ること、特に、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むポリカーボネート樹脂組成物が光反射率に優れることについは記載されていない。
【0005】
また、イソソルビドとトリシクロデカンジメタノールとジフェニルカーボネートとのエステル交換により得られたポリカーボネートに無機充填剤を添加したポリカーボネート樹脂組成物が提案されているが(例えば、特許文献5参照)、無機充填剤として酸化チタン使用したことについては記載されておらず、ポリカーボネート樹脂組成物の光反射率などの光学特性を改善することついては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】英国特許第1079686号明細書
【特許文献2】特開昭56-55425号公報
【特許文献3】国際公開第04/111106号パンフレット
【特許文献4】特開2009-191227号公報
【特許文献5】国際公開第10/061927号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、イソソルビドのようなジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含み、耐光性、色相、光反射率、耐衝撃性などに優れたポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかしながら、本発明者の検討によれば、従来のポリカーボネート樹脂組成物では耐光性、色相、光反射率、耐衝撃性が不十分であるとの課題が見出された。本発明者らは、上記課題を解決するべく、鋭意検討を重ねた結果、特定構造のポリカーボネート樹脂と、酸化チタンとを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、当該ポリカーボネート樹脂組成物中に特定の金属を特定量含むものが、優れた光反射率、耐衝撃性、耐光性などを有することを見出し、本発明に到達した。・・・」

ウ 「【0057】
<エステル交換反応触媒>
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、上述のように本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(3)で表される炭酸ジエステルとをエステル交換反応させてポリカーボネート樹脂を製造する。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒存在下でエステル交換反応により重縮合を行う。
【0058】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に触媒、重合触媒と言うことがある)は、特に透明性や色相に影響を与え得る。
【0059】
用いられる触媒としては、製造されたポリカーボネート樹脂の耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度のうち、とりわけて耐光性を満足させ得るものであれば、限定されないが、長周期型周期表における1族または2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
・・・
【0068】
上記の中でも、リチウム化合物及び長周期型周期表第2族の金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を触媒として用いるのが、ポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐光性などの種々の物性を優れたものとするために好ましい。」

エ 「【0114】
3.酸化チタン
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は酸化チタンを0.01重量部以上100重量部以下含有する。本発明において酸化チタンを用いるのは、透明性に優れるポリカーボネート樹脂と屈折率が高い酸化チタンとを共に使用することにより、ポリカーボネート樹脂組成物中において効率よく金属化合物による光反射を起こし、光反射率に優れるポリカーボネート樹脂組成物を得ることができるということを見出したためある。更に、前記ポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート樹脂は、意外なことに光反射率だけではなく耐衝撃性、耐光性にも優れるものとなる。」

オ 「【0175】
2)光反射率の測定
上記1)で得られた射出成形板について、分光測色計(コニカミノルタ社製CM?3600d)を使用し、D65光源、10度視野角にて上記試験片の正反射光を含むSCI方式での波長430nmにおける光反射率を測定した。測定径はφ8mmにて実施した。光反射率は値が高いほど優れたものと評価される。
【0176】
3)耐衝撃性試験
上記1)で得られた機械物性用ISO試験片について、ISO179に準拠してノッチ付シャルピー衝撃試験を実施し、耐衝撃性を評価した。耐衝撃性はノッチ付シャルピー衝撃試験の値が大きいほど優れたものと評価される。
【0177】
4)耐光性試験
JIS K7105に準拠し、分光色差計(日本電色工業社製SE2000)を使用し、C光源透過法にて上記で得られた射出成形板(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm)のイエローインデックス(YI)値を測定した。これをYI(初期)とした。YI値が小さい程、黄色味がなく品質が優れることを示す。次に、スガ試験機社製メタリングウェザーメーターM6Tを用いて、63℃、相対湿度50%の条件下、光源として水平式メタリングランプを、インナーフィルターとして石英を、またランプの周囲にアウターフィルターとして#500のフィルターを取り付け、波長300nm?400nmの放射照度1.5kw/m2になるように設定し、上記1)で得られた射出成形板(幅60mm×長さ60mm×厚さ3mm)の正方形の面に対して、100時間照射処理を行った。照射後のYI値を上記YI(初期)と同様に測定し、これをYI(耐光試験後)とした。
ΔYI=|{YI(耐光試験後)}-{YI(初期)}|
により、ΔYIを求めた。ΔYIの値が小さいほど耐光性に優れることを意味する。」

カ 「【0180】
以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。 尚、金属化合物については物性を表-2にまとめた。
ISB:イソソルビド (ロケットフルーレ社製、商品名POLYSORB)
CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール (イーストマン社製)
DPC:ジフェニルカーボネート (三菱化学社製)
(酸化チタン)
タイペークPC-3:酸化チタン(石原産業社製)
・塩素法酸化チタン(ルチル型) ・平均粒子径0.21μm
(酸化防止剤)
2112:ホスファイト系酸化防止剤(ADEKA社製アデカスタブ2112)
AO-60:フェノール系酸化防止剤(ADEKA社製アデカスタブAO-60)
(離型剤)
S-100A:ステアリン酸モノグリセリド(理研ビタミン社製S-100A)
【0181】
[製造例1]
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.70/0.30/1.00/1.3×10^(-6)になるように仕込み、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005体積%?0.001体積%)。続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに60分間保持した。重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
【0182】
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および上記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温および減圧を開始して、60分で内温220℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて内温230℃、圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレットにした。ポリカーボネート樹脂の原料として用いたジヒドロキシ化合物の構造単位比と使用した触媒金属濃度の値を表-1に示す。
【0183】
[製造例2]
製造例1のISBとCHDMの構造単位比をISB/CHDM=0.50/0.50とした以外は、実施例1と同様に行った。製造例1と同様にポリカーボネート樹脂の原料として用いたジヒドロキシ化合物の構造単位比と使用した触媒金属濃度の値を表-1に示す。
【0184】
[実施例1、2]
製造例1、2のそれぞれにおいて得られたペレットと、更に表-2に示した組成となるように酸化チタンとしてタイペークPC-3、離型剤としてS-100A、更に酸化防止剤としてアデカスタブAO-60及びアデカスタブ2112とを2つのベント口を有する日本製鋼所社製2軸押出機(LABOTEX30HSS-32)を用いて、出口の樹脂温が250℃になるようにストランド状に押し出し、水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化した。この際、ベント口は真空ポンプに連結し、ベント口での圧力が500Paになるように制御した。得られたポリカーボネート樹脂組成物の分析結果、および上記方法において評価した。結果を表-2に示す。
【0185】
【表1】

【0186】
【表2】



(2)引用文献2
ア 「【請求項1】 芳香族ポリカーボネート樹脂1?99重量部と脂環式ポリエステル樹脂1?99重量部の合計100重量部に対し、下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び下記一般式(5)で表される有機リン酸エステル化合物から成る群より選ばれた少なくとも一種である有機リン酸エステル化合物0.005?0.09重量部と有機系紫外線吸収剤0.01?5重量部を含有して成ることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中、R^(1)?R^(4)はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Mはアルカリ土類金属および亜鉛より選ばれる金属を表す。)
【化2】

(一般式(2)中、R^(5)はアルキル基またはアリール基であり、Mはアルカリ土類金属および亜鉛より選ばれる金属を表す。)
【化3】

(一般式(3)中、R^(6)?R^(11)はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表す。)
【化4】

(一般式(4)中、R^(12)?R^(14)は、アルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表し、2つのM’はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【化5】

(一般式(5)中、Rはアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは0?2の整数を表す。)」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および樹脂成形体に関し、詳しくは、主として、芳香族ポリカーボネートと脂環式ポリエステル樹脂から成る透明性、流動性、透明性、色相、耐衝撃性、耐湿熱性および耐光性に優れた樹脂組成物および樹脂成形体に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記従来技術の諸欠点を解消し、流動性、透明性、色相、耐衝撃性、耐湿熱性および耐光性についてバランス良く優れた樹脂組成物を提供することにある。」

ウ 「【0129】
実施例1?10及び比較例1?7:
表1および表2に示す割合にて各成分をタンブラーミキサーで均一に混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製「TEX30XCT」、L/D=42、バレル数12)を使用し、シリンダー温度270℃、スクリュー回転数200rpmにてバレル1より押出機にフィードし溶融混練させ樹脂組成物のペレットを作製した。
【0130】
上記の方法で得られたペレットを、100℃で8時間以上乾燥した後、射出成形機(名機製作所製「M150AII-SJ型」)を使用し、シリンダー温度270℃、金型温度70℃、成形サイクル55秒の条件で、ASTM試験片(3.2mm厚のノッチ付き試験片)及び平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)を作製し、以下の評価を行ったた。但し、滞留熱安定性の評価(表面外観と耐衝撃性)については、成形サイクルを4分に変更した以外は上記と同様にしてASTM試験片および平板状成形品を作製し、そして、5ショット目のASTM試験片および平板状成形品により、それぞれ、上記の耐衝撃性と表面外観の評価を行った。結果を表1および表2に示した。
・・・
【0132】
(2)透明性:
JIS K-7105に準じ、上記で作製した平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)を使用し、日本電色工業社製「NDH-2000型」濁度計で全光線透過率を測定した。全光線透過率が大きいほど、透明性に優れている。
【0133】
(3)色相:
上記で作製した平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)を使用し、分光式色彩計(日本電色工業社製「SE2000型」)により、透過法によりYI値を測定した。YI値は、小さいほど色相に優れている。
・・・
【0139】
(7)耐光性(UV照射):
上記で作製した平板状成形品(90mm×50mm×3mm厚)を使用し、UV照射による耐候性試験を行い、上記(3)と同様の方法にて耐光性試験後の色相(YI値)を測定した。UV照射装置は、スガ試験機社製「Super Xenon Weather Meter」を使用し、ブラックパネル温度63℃、300-400nmの放射照度は60W/m^(2)、照射時間500時間とした。
【0140】
【表1】


【0141】
【表2】


【0142】
(1)実施例1?10の組成物は、特定の有機リン酸エステル化合物を特定量含有し、且つ、有機系紫外線吸収剤を含有しており、透明性、色相、流動性、耐衝撃性、耐湿熱性、滞留熱安定性およびに耐光性にバランス良く優れている。
【0143】
(2)比較例1の組成物は、脂環式ポリエステル樹脂を含有しておらず、実施例の組成物と比較して透明性、流動性、耐光性(色相)に劣っている。
【0144】
(3)比較例2?4の組成物は、特定の有機リン酸エステル化合物の含有量が本特許規定の範囲外であり、実施例の組成物と比較して透明性、色相、耐光性(色相)に劣り、更に比較例4の組成物は、耐衝撃性、耐湿熱性、滞留熱安定性に劣っている。
【0145】
(4)比較例5?7の組成物は、特定の有機リン酸エステル化合物を含有しておらず、実施例の組成物と比較して透明性、色相、耐光性(色相)に劣り、更に比較例5?6の組成物は、耐衝撃性、耐湿熱性、滞留熱安定性に劣っている。」

(3)引用文献3
ア 「【請求項1】 芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)51?99重量%と、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B成分)1?49重量%と(ただし、A成分とB成分の合計は100重量%)、A成分とB成分の合計100重量部に対して、有機リン酸エステル金属塩(C成分)0.001?3重量部とから成る芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、ポリブチレンテレフタレート樹脂におけるチタン化合物含有量がチタン原子として1ppmを超えて75ppm以下であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂が、更に1族金属化合物および/または2族金属化合物を含有し、1族金属化合物および/または2族金属化合物の含有量が、その金属原子換算で1ppmを超えて50ppm以下であり、有機リン酸エステル金属塩が下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される有機リン酸エステル金属塩から成る群より選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中、R^(1)?R^(4)はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Mはアルカリ土類金属および亜鉛より選ばれる金属を表す。)
【化2】

(一般式(2)中、R^(5)はアルキル基またはアリール基であり、Mはアルカリ土類金属および亜鉛より選ばれる金属を表す。)
【化3】

(一般式(3)中、R^(6)?R^(11)はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表す。)
【化4】

(一般式(4)中、R^(12)?R^(14)は、アルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表し、2つのM’はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)脂組成物。」

イ 「【技術分野】
【0001】 本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂および有機リン酸エステル金属塩から成る芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、流動性、耐衝撃性、耐熱性、色相、滞留熱安定性、耐薬品性、疲労特性、耐湿熱性についてバランス良く優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、およびこれを成形して成る樹脂成形品に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、上記従来技術の諸欠点を解消し、流動性、耐衝撃性、耐熱性、色相、滞留熱安定性、耐薬品性、疲労特性、耐湿熱性についてバランス良く優れた、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。」

ウ 「【0226】
[評価方法]:
・・・
(4)色相(YI値):
通常成形の平板状成形品について、分光式色彩計(日本電色工業社製、SE2000型)を用い反射法(抑え板;白色板)によりYI値を測定した。YI値が、小さいほど色相に優れている。
【0230】
(5)滞留熱安定性:
(a)表面外観;目視:
上記の滞留成形で作製した試験片の表面外観を目視にて観察し、シルバーストリークによる肌荒れの全くないものを◎、シルバーストリークによる肌荒れが僅かにあるものを○、シルバーストリークによる肌荒れが顕著にあるものを×として評価した。
【0231】
(b)色相(YI値):
上記の滞留成形で作製した平板状成形品について、分光式色彩計(日本電色工業社製、SE2000型)を用い反射法(抑え板;白色板)によりYI値を測定した。YI値が、小さいほど色相に優れている。
・・・
【0236】
[実施例1及び2、参考例1?5、比較例1?7]:
表2、表3に記載の各々の樹脂組成物を製造し、上述の方法により評価した。結果を表2、表3に示す。
【0237】
【表1】
(表は省略)
【0238】
【表2】
(表は省略)
【0239】
【表3】
(表は省略)
【0240】
表2、表3に示した結果から、以下のことが判る。本発明の実施例1及び2に記載の樹脂組成物は、参考例1?5、比較例1?7に記載の樹脂組成物と比較して、流動性、耐衝撃性、耐熱性、色相、滞留熱安定性、耐薬品性、疲労特性、耐湿熱性のバランスに優れている。」

3 引用文献1に記載された発明
摘示(1)アにおいて、請求項1を引用する請求項3に係る発明に着目すると、引用文献1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、酸化チタンとを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、酸化チタンを0.01重量部以上100重量部以下含有し、かつ、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を含有するものであり、しかもその含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】



4 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「式(2)(以下、式(2)の構造式の記載を省略する。)で表されるジヒドロキシ化合物」と本願発明1の「環状エーテル構造を有し、かつ、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物(α)」とを以下に対比する。
引用発明の「式(2)で表されるジヒドロキシ化合物」は、「環状エーテル構造を有し、かつ、芳香環構造を有しない」ものであることは明らかである。
そうすると、引用発明の「構造の一部に下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂」は、本願発明1の「環状エーテル構造を有し、かつ、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物(α)に由来する構造単位(a)を含むポリカーボネート樹脂」に相当する。

(2)以上のことから、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりのものであるといえる。

<一致点> 「環状エーテル構造を有し、かつ、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物(α)に由来する構造単位(a)を含むポリカーボネート樹脂と、酸化チタンを含むポリカーボネート樹脂組成物。」である点。

<相違点1> 酸化チタンの含有量に関し、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、本願発明1では、「0.01重量部以上10重量部以下」と特定するのに対して、引用発明では、「0.01重量部以上100重量部以下」と特定する点。
<相違点2> リン酸エステル金属塩に関し、本願発明1では、「ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、」「0.01重量部以上1重量部以下含む」と特定するのに対して、引用発明では、特に特定しない点。
<相違点3> 引用発明では、「リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を含有するものであり、しかもその含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である」と特定するのに対して、本願発明1では、特に特定しない点。

5 判断
(1)本願発明1について
ア 相違点2について
事案に鑑み、初めに相違点2について検討する。
(ア)本願発明1は、構造単位(a)を含むポリカーボネート樹脂、酸化チタン、リン酸エステル金属を含むポリカーボネート樹脂組成物において、上記ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、リン酸エステル金属塩を0.01重量部以上1重量部以下含むことを特定するものであるところ、この技術的意義について、本願明細書をみてみると、特許文献2および3において、イソソルビドとジフェニルカーボネートとのエステル交換により得られたポリカーボネートの光反射部材用途を志向して酸化チタンを添加したポリカーボネート樹脂組成物が提案されていたが(段落【0003】)、本発明者は、特許文献2および3のポリカーボネート樹脂組成物は、熱により着色成分が太陽光暴露で脱色するため、色相、屋外曝露での色差については改良の余地があったことを認識し(段落【0005】及び【0006】)、本願発明により、色相、屋外曝露での色差が改良されることを見出したものである(段落【0007】及び【0010】)。

(イ)これに対し、引用発明は、酸化チタンを添加したポリカーボネート樹脂組成物に係るものであるが、リン酸エステル金属塩を含有するものではないし、引用文献1にも、リン酸エステル金属塩を含有することについて記載も示唆もされておらず、引用文献1を参酌しても、特定量のリン酸エステル金属塩を含有することにより、屋外暴露での色差を改善できることを理解することはできない。

(ウ)一方、引用文献2には、芳香族ポリカーボネート樹脂と脂環式ポリエステル樹脂に対し、一般式(1)ないし(5)で表される有機リン酸エステル化合物と有機系紫外線吸収剤を各所定量含有して成る樹脂組成物が記載されており(摘示2(2)ア)、上記有機リン酸エステル化合物は、その構造式からみて金属塩であるといえる。そして、引用文献2は、透明性、流動性、色相、耐衝撃性、耐湿熱性および耐光性に優れた樹脂組成物および成形体に関する技術分野に属するものであって(摘示2(2)イ)、色相としてYI値を測定・評価し(摘示2(2)ウ)、耐光性として、UV照射装置を用いブラックパネル温度63℃、300-400nmの放射照度60W/m^(2)、照射時間500時間とした試験前後の色相(YI値)を測定・評価するものである(摘示2(2)ウ)。
しかしながら、引用文献2に記載された樹脂組成物は、本願発明1の構成成分である「環状エーテル構造を有し、かつ、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物(α)に由来する構造単位(a)を含むポリカーボネート樹脂」を含むものではない。また、引用文献2に記載された樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂が成形加工性に劣るし、太陽光に長く曝されると黄変するという問題を解決するために、芳香族ポリカーボネート樹脂に、脂環式ポリエステル樹脂と有機系紫外線吸収剤を必須成分として添加することを前提とするものであり、本願発明1とはポリカーボネートの種類が異なるものである。更に、引用文献2には、樹脂組成物の耐光性について記載されているものの、上記のとおり、UVを500時間照射する前後の色相(YI値)の差を測定・評価するものであって、屋外暴露(晴天時の一昼夜24時間屋外暴露処理)後の色差に着目した本願発明1(本願明細書の段落【0114】、【0115】及び表1)とは、課題も異にするものであるといえる。
なお、仮に、引用文献1及び引用文献2に記載された課題が耐光性である点で共通するとしても、引用文献2に記載された樹脂組成物は、脂環式ポリエステル樹脂を必須成分として含有するものであり、比較例1の脂環式ポリエステル樹脂を含有しない組成物が、実施例1の組成物よりも耐光性(色相)に劣ることが示されているから(摘示2(2)ウ)、脂環式ポリエステル樹脂を含有することが特定されていない引用発明において、その耐光性(色相)を改善するために、引用文献2に記載された有機リン酸エステル化合物のみを添加することには阻害要因があるといえる。
してみると、引用発明に、屋外暴露(晴天時の一昼夜24時間屋外暴露処理)での色差が大きいという課題があることを認識できるものではないし、まして、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性(色相)の改善に関する引用文献2の記載を根拠にして、引用発明において、上記課題を解決することを目的として、引用文献2に記載された有機リン酸エステル化合物(リン酸エステル金属塩)を添加することが動機付けられるとはいえない。

(エ)また、引用文献3に記載された樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレートに対し、一般式(1)ないし(4)で表される有機リン酸エステル金属塩を所定量含有して成るものであり(摘示2(3)ア)、本願発明1の構成成分である「環状エーテル構造を有し、かつ、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物(α)に由来する構造単位(a)を含むポリカーボネート樹脂」を含むものではなく、本願発明1とは技術分野が異なるものであるといえる。
また、引用文献3に記載された樹脂組成物は、流動性、耐衝撃性、耐熱性、色相、滞留熱安定性、耐薬品性、疲労特性、耐湿熱性についてバランス良く優れた、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、およびこれを成形して成る樹脂成形品に関するものであって(摘示2(3)イ)、色相として、通常成形の平板状成形品及び滞留成形で作製した平板状成形品のYI値を測定・評価しており(摘示2(3)ウ)、せいぜい成形時の熱劣化による着色を測定・評価するに止まるものであって、耐光性を測定・評価するものではないから、屋外暴露(晴天時の一昼夜24時間屋外暴露処理)での色差に着目した本願発明1とは、課題も異にするものである。
なお、仮に、引用文献1及び引用文献3に記載された課題が色相の点で共通するとしても、引用文献3に記載された樹脂組成物は、特定のポリブチレンテレフタレート(チタン化合物を所定量含有し、かつ、1族金属化合物および/または2族金属化合物を所定量含有してなるもの)を必須成分として含有するものであり、色相の改善のために、特定のポリブチレンテレフタレートを含有することなく、引用文献3に記載された有機リン酸エステル塩のみを添加することには阻害要因があるといえる。
そうすると、引用発明は、屋外暴露(晴天時の一昼夜24時間屋外暴露処理)前後での色差を改良するという課題があると認識できるものではないし、引用文献3に記載された樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を含有する組成物という限りにおいて本願発明1と共通するものの、本願発明1とはポリカーボネートの種類が異なり、技術分野も課題も異なるものであるから、引用文献3の記載を根拠にして、引用発明において、引用文献3に記載された有機リン酸エステル塩を添加することが動機付けられるとはいえない。

(オ)そして、本願発明1は、特定量のリン酸エステル金属塩を含有することにより、本願明細書の実施例(段落【0111】?【0129】)に例示されるように、晴天時の一昼夜24時間屋外暴露処理を行っても、屋外暴露試験後の劣化による色調の変化が少ないという優れた効果を奏するものである。

イ 小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、上記相違点1及び3について判断するまでもなく、引用文献1に記載された発明、並びに引用文献2及び引用文献3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本願発明2ないし10について
本願発明2ないし10は、本願発明1に対し、さらに請求項2ないし10に記載された技術的事項を追加したものであり、上記(1)で本願発明1について記載したのと同じ理由によって、引用文献1に記載された発明、並びに引用文献2及び引用文献3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願出願を拒絶することはできない。
また、他に本願出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-03-16 
出願番号 特願2014-254461(P2014-254461)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C08L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 尾立 信広  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 大▲わき▼ 弘子
近野 光知
発明の名称 ポリカーボネート樹脂組成物および成形品  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  

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