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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1360855
審判番号 不服2019-6103  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-10 
確定日 2020-03-31 
事件の表示 特願2017-52270「内燃機関の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月4日出願公開、特開2018-155167、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年3月17日の出願であって、その手続は以下のとおりである。
平成30年8月10日(発送日:同年8月21日):拒絶理由通知書
平成30年10月18日 :手続補正書の提出
平成31年1月31日(発送日:同年2月12日):拒絶査定
令和元年5月10日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
1.原査定の拒絶の概要
原査定(平成31年1月31日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。
「この出願については、平成30年8月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶すべきものです。
なお、意見書および手続補正書の内容を検討しましたが、理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
●理由(特許法第29条第2項)について
・請求項1-4
・引用文献等1-2
本願の請求項1ないし4に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項5
・引用文献1-3
本願の請求項5に係る発明は、引用文献1及び2記載された発明、並びに引用文献3に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項6
・引用文献1-2、4
本願の請求項6に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明、並びに引用文献4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

引用文献等一覧
1.特開2017-40212号公報
2.特開2005-83362号公報
3.特開2010-249078号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2006-144692号公報(周知技術を示す文献)」

2.平成30年8月10日付け拒絶理由通知書の概要
平成30年8月10日付け拒絶理由通知書(発送日:平成30年8月21日)の概要は以下のとおりである。

「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1-4
・引用文献等1-2
請求項1ないし4に係る発明は、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項5
・引用文献等1-3
請求項5に係る発明は、引用例1及び2、並びに引用文献3に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項6
・引用文献等1-2、4
請求項6に係る発明は、引用例1及び2、並びに引用文献4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

引用文献等一覧
1.特開2017-40212号公報
2.特開2005-83362号公報
3.特開2020-249078号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2006-144692号公報(周知技術を示す文献)」

第3 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、令和元年5月10日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
過給機及びEGR装置を有する内燃機関の制御装置であって、
当該内燃機関の気筒内に流入するガス量を吸入ガス量として取得する吸入ガス量取得手段と、
前記内燃機関の前記気筒内に流入する新気量である筒内新気量の目標となる目標新気量を設定する目標新気量設定手段と、
前記内燃機関の運転域が所定の過給域にあるときに、前記過給機による過給動作を制御する過給制御手段と、
前記内燃機関の運転域が前記所定の過給域にある場合において、前記吸入ガス量が前記目標新気量に達していないときに、排気還流を停止するとともに、その後、当該排気還流を停止した状態において前記吸入ガス量が前記目標新気量に達したときに、排気還流を実行するように、前記EGR装置を制御するEGR制御手段と、を備え、
前記過給機は、前記内燃機関の吸気通路に設けられたコンプレッサと、前記内燃機関の排気通路に設けられたタービンとを有しており、
前記EGR装置は、前記排気通路の前記タービンよりも下流側の部位と前記吸気通路の前記コンプレッサよりも上流側の部位との間に接続されたEGR通路と、当該EGR通路内を流れる還流ガス量を変更するためのEGR弁と、前記吸気通路の前記EGR通路との接続部よりも上流側に設けられ、前記EGR弁の上流側と下流側の間で差圧を発生させるための差圧発生弁と、を有しており、
前記EGR制御手段は、前記吸入ガス量が前記目標新気量に達したときに、前記EGR通路内を還流ガスが流れるように、前記EGR弁を制御するとともに、前記差圧を発生させるように、前記差圧発生弁を制御し、
前記目標新気量設定手段は、前記目標新気量として、基本目標新気量と、当該基本目標新気量よりも所定値分大きい上限目標新気量とを設定し、
前記EGR制御手段は、前記内燃機関の運転域が前記所定の過給域にある場合、前記吸入ガス量が前記上限目標新気量に達するまでの間、排気還流を停止するとともに、前記吸入ガス量が前記上限目標新気量に達した以降、排気還流を実行するように、前記EGR装置を制御し、
前記所定値は、前記差圧発生弁の制御が実行されたときに、前記吸入ガス量が前記基本目標新気量を下回る状態が発生しないような値に、前記内燃機関の運転状態に応じて設定されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記EGR制御手段は、前記吸入ガス量が前記目標新気量に達するまでの間、前記差圧発生弁の開度を前記差圧が発生しないような最大開度に制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記EGR制御手段は、前記吸入ガス量が前記目標新気量に達するまでの間、前記差圧発生弁の開度を所定の待ち受け開度になるように制御し、
当該所定の待ち受け開度は、当該差圧発生弁の有効開度よりも大きく、前記差圧が発生しないような最大開度よりも小さい値に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記吸入ガス量取得手段は、前記内燃機関の運転状態に応じて、基本吸入ガス量を算出するとともに、所定の応答遅れ特性を付与するためのフィルタリング処理を当該基本吸入ガス量に施すことにより、前記吸入ガス量を算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献1(特開2017-40212号公報)には、「エンジン」に関して、図面(特に【図1】を参照。)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

(1)引用文献1の記載事項
ア 「【0001】この発明はエンジン、特にターボ過給機とEGR装置を備えるものに関する。」

イ 「【0012】エンジン1はガソリンエンジンで、図示しない車両に搭載されている。エンジン1には、吸気通路4、排気通路11を備える。上記の吸気通路4は、吸気管4a、吸気コレクタ4b、吸気マニホールド4cで構成される。」

ウ 「【0017】エンジン1には、さらにターボ過給機21を備える。ターボ過給機21は、排気管11bに設けられるタービン22、吸気管4aに設けられるコンプレッサ25、これらタービン22,コンプレッサ25を接続する軸28で構成される。タービン22は、主にタービンハウジング23、タービンホイール24から構成され、タービンハウジング23の内部にタービンホイール24が配置されている。一方、コンプレッサ25は、主にコンプレッサハウジング26、コンプレッサホイール27から構成され、コンプレッサハウジング26の内部にコンプレッサホイール27が配置されている。
【0018】上記タービン22は排気管11bを流れる排気のエネルギにより回転し、タービン22と同軸のコンプレッサ25を駆動する。コンプレッサ25はエアクリーナ47を介して吸入される吸入空気を圧縮する。圧縮されて大気圧を超える加圧空気は、吸気コレクタ4bへと送られる。ターボ過給機21を働かせることで、目標過給圧を得ることができる。
【0019】ターボ過給機21には、タービン22をバイパスするバイパス通路41と、このバイパス通路41を開閉する常閉のウェイストゲートバルブ42を備える。ウェイストゲートバルブ42はハウジングとしての本体43、本体43内部に配置される弁体、弁体を駆動するためのアクチュエータで構成される。本体の内部には例えば弁体としてのスイングバルブ44が配置される。本体43の外周にアクチュエータとしてのモータ(回転電機)45が取り付けられている。」
【0020】 例えば、過給圧センサにより検出される実過給圧が目標過給圧より高くなったときには、モータ45を駆動することによりウェイストゲートバルブ42を開いてタービン22に流入する排気の一部を、タービン22をバイパスさせて流す。これによって、タービン回転速度がウェイストゲートバルブ42を開く前より低下し、タービン22と同軸のコンプレッサ回転速度も低下する。コンプレッサ回転速度が低下すると実過給圧が低下してゆき目標過給圧と一致する。実過給圧が目標過給圧と一致するタイミングでウェイストゲートバルブ42の開度を保持させる。」

エ 「【0023】ターボ過給機21を備えているエンジン1においても、過給域におけるノッキングの抑制のため、ロープレッシャループEGR装置(以下「低圧のEGR装置」という。)14を備える。低圧のEGR装置14は、EGR通路15、EGR通路15に介装されるEGRクーラ16、EGR通路15を開閉するEGR弁17で構成される。」

オ 「【0027】排気管11bからEGR通路15に分岐して流れる排気の一部を「EGRガス」という。また、排気管11bからEGRガスをEGR通路15に取り出すので、EGR通路15の排気管11bへの開口端を「EGRガス取出し口」という。EGRガス取出し口には符号Aを付す。EGR通路15からEGRガスを吸気管4aに吐出するので、EGR通路15の吸気管4aへの開口端を「EGRガス吐出口」という。EGRガス吐出口には符号Bを付す。」

カ 「【0029】低圧のEGR装置14では、EGR領域のうち特に低負荷側の領域でEGR弁17の前後差圧が小さくなり、EGRガス吐出口BからEGRガスを吸気管4aに十分に吐出することができない。これに対処するため、EGRガス吐出口Bよりも上流の吸気管4aに差圧デバイス50を備える。差圧デバイス50はハウジングとしての本体51、本体51内部に配置される常開の弁体、弁体を駆動するためのアクチュエータで構成される。本体51の内部には例えば弁体としてのバタフライ弁52が配置される。本体51の外周にアクチュエータとしてのモータ(回転電機)53が取り付けられている。」

キ 上記ウには、実過給圧を目標過給圧と一致するように、ウェイストゲートバルブ42を利用して、ターボ過給機21の過給動作を制御する構成が示されていることから、ターボ過給機21による過給動作を制御する手段を備えているといえる。

(2)引用発明
上記(1)の記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「ターボ過給機21及び低圧のEGR装置14を有するエンジン1であって、
前記ターボ過給機21による過給動作を制御する手段と、
前記ターボ過給機21は、前記エンジン1の吸気管4aに設けられたコンプレッサ25と、前記エンジン1の排気管11bに設けられたタービン22とを有しており、
前記低圧のEGR装置14は、前記排気管11bの前記タービン22よりも下流側の部位と前記吸気管4aの前記コンプレッサよりも上流側の部位との間に接続されたEGR通路15と、当該EGR通路15内を流れるEGRガスを変更するためのEGR弁17と、前記吸気管4aの前記EGR通路15との接続部よりも上流側に設けられ、前記EGR弁17の上流側と下流側の間で差圧を発生させるための差圧デバイス50と、を有している、
エンジン1。」

2.引用文献2
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献2(特開2005-83362号公報)には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面(特に【図1】及び【図2】を参照。)とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0008】上記目的を達成するための本発明は、内燃機関の運転状態が加速運転状態に移行したことに伴い、EGR弁を閉弁するように制御している状態において、EGR弁を開弁したときに内燃機関に吸入される空気量を推定し、推定された開弁時吸入空気量が、内燃機関の運転状態から要求される要求吸入空気量よりも大きいと判定されたことを条件にEGR弁を開弁することを最大の特徴とする。
【0009】より詳しくは、内燃機関の運転状態から該内燃機関に吸入されるべき要求吸入空気量を決定する吸入空気量決定手段と、前記内燃機関の排気の一部を該内燃機関の吸気系に再循環させるとともに、EGR弁の開度によって前記再循環させる排気の量が制御されるEGR装置と、前記内燃機関の運転状態に応じて前記EGR弁の開度を制御するとともに、前記内燃機関が所定の加速運転状態にあるときは、前記EGR弁を閉弁するEGR開度制御手段と、前記内燃機関の加速運転状態において閉弁状態にあった前記EGR弁が開弁されるときに吸入される開弁時吸入空気量を推定する推定手段と、前記推定手段により推定された開弁時吸入空気量が前記吸入空気量決定手段により決定された要求吸入空気量より大きいかどうかを判定する判定手段と、を備え、前記内燃機関の加速運転状態においてEGR弁が閉弁状態にあるときに、前記判定手段により前記開弁時吸入空気量が前記要求吸入空気量より大きいと判定された場合は前記EGR弁の開弁が許可されることを特徴とする。」

イ 「【0011】 ここで、内燃機関の運転状態が加速運転状態に移行する場合、トルクを確保するために相当の燃料を噴射しなければならず、燃料噴射量は増加する。しかし、その燃料量に対して充分な空気量が吸入されないとスモークの発生量が増加してしまうことが分かっている。よって、内燃機関の加速運転状態においては、加速に対する要求を満たすため、燃料噴射量が増加されるとともに、スロットル弁の開弁動作や、過給機による過給動作に遅れが生じても充分な吸入空気量を確保するためにEGR弁を閉じる制御が行われている。
【0012】 そして、その後、上記のスロットル弁の開弁動作や、過給機による過給動作における遅れを考慮しても、要求吸入空気量に対して充分な吸入空気量が確保できるようになったと判断した場合、NOx排出量を抑制するためにEGR弁を開弁してEGRガスを流入させる状態に移行する制御が行われる。しかし、この移行のためにEGR弁を開弁させるタイミングが早すぎると、スロットル弁の開弁動作や、過給機による過給動作の遅れによる吸入空気量の不足が充分に解消されておらず、要求燃料噴射量に対して充分な吸入空気量が確保されない場合がある。この場合、EGR弁を開弁することによりEGRガスの流入が流入したときの開弁時吸入空気量が、前記のスモークを補償する要求吸入空気量を下回ってしまう。この結果、スモークの発生量が増加してしまう不具合が生じる。
【0013】 また、内燃機関においては、吸入空気量が要求吸入空気量に対して不足している場合、スモークの発生を抑制するために燃料噴射量が減量される空燃比最大噴射量制御が行われることが多い。この制御が行われる場合には、開弁時吸入空気量が要求吸入空気量より小さいと、要求される運転状態に達することができず、ショック・サージなどが発生し、ドライバビリティの悪化を引き起こすおそれがある。【0014】しかし、本発明によれば、加速運転状態において閉弁しているEGR弁が開弁したときに、内燃機関の気筒に吸入される開弁時吸入空気量が推定手段により推定され、推定された開弁時吸入空気量が、内燃機関の運転状態に基づいて要求される要求吸入空気量より大きいと判断される場合にEGR弁が開弁される。従って、EGR弁の開弁時にスモークの発生が増大することを抑制でき、また、空燃比最大噴射量制御が働いた場合にも、ドライバビリティが悪化する不具合を抑制することができる。 」

ウ 「【0038】次に、内燃機関1には、吸気枝管8が接続されており、吸気枝管8の各支管は、各気筒2の燃焼室と図示しない吸気ポートを介して連通している。前記吸気枝管8は、吸気管9と接続されている。前記吸気管9には、インタークーラ16と、遠心過給器(ターボチャージャ)15のコンプレッサハウジング15aとが取り付けられている。また、吸気管9には、吸気管9内を流れる空気の質量(吸入空気質量)に対応した電気信号を出力するエアフローメータ10及び、吸気管9に流入する空気の量を制御するスロットル弁5が取り付けられている。」

エ 「【0040】また、内燃機関1には、該内燃機関1から排出され排気枝管18を流れる排気の少なくとも一部を吸気枝管8へ再循環させるEGR装置40が設けられている。EGR装置40は、排気枝管18から吸気枝管8の集合部に至るよう形成されたEGR通路25と、電磁弁等からなりEGR通路25内を流れる排気(以下、EGRガスと称する)の流量を印加電圧の大きさに応じて調整するEGR弁26と、該EGR弁26より上流のEGR通路25に設けられ、該EGR通路25を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラ27とを備えている。また、EGR通路25には、通過するEGRガスの温度を検出する図示しないEGRガス温度センサが備えられている。」

オ「【0042】以上述べたように構成された内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)35が併設されている。このECU35は、CPU、ROM、RAM等を備えており、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態等を制御するユニットである。
以上から、引用文献2記載事項は以下のとおりといえる。」

カ 「【0048】S103においてはEGR弁26が開弁したときに気筒2に吸入される空気量である、開弁時吸入空気量が推定される。具体的には、以下の数式によって推定する。
Gnp=Gn×(1-EGRtrg) (E1)
ここでGnpは、開弁時吸入空気量である。また、EGRtrgは、EGR弁26の開弁後の目標EGR率であり、内燃機関1の運転状態と、目標EGR率との関係を示したマップを用いて、内燃機関1に要求されている運転状態から求められる。また、Gnは、S102において検出された吸気管に流入する空気量である。なお、本実施例におけるEGR開度制御手段は、上記のマップから、目標EGR率を求めるECU35を含んで構成される。
【0049】S104においては、内燃機関1に要求される運転状態から、要求吸入空気量が導出される。この要求吸入空気量は、内燃機関1に要求される運転状態を達成するために要求される要求燃料噴射量に対し、燃焼時のスモークの発生を抑制するために要求される吸入空気量であり、内燃機関1の運転状態と、要求吸入空気量との関係を示したマップを用いて、内燃機関1に要求されている運転状態から求められる。ここで、本実施例における吸入空気量決定手段は、S104の処理を実行するECU35を含んで構成される。
【0050】S105においては、S103で推定された開弁時吸入空気量とS104で導出された要求吸入空気量の大きさが比較される。ここで、S105において、開弁時吸入空気量の大きさが要求吸入空気量の大きさ以上であると判断された場合には、EGR弁26を開弁してもスモークは発生しないと判断されるので、S106に進み、EGR弁開弁禁止フラグをOFFとしたうえで、本ルーチンを一旦終了する。すなわち、ここでEGR弁26を開弁させる。一方、要求吸入空気量の方が大きいと判断された場合には、この時点でEGR弁26を開弁すると、スモークが発生するおそれがあると判断されるので、S107に進み、EGR弁開弁禁止フラグのON状態を継続して、本ルーチンを一旦終了する。」

以上から、引用文献2の記載事項は以下のとおりといえる(以下「引用文献2記載事項」という。)。

「遠心過給器15及びEGR装置40を有する内燃機関1の電子制御ユニット35であって、
当該内燃機関1の気筒内に吸入される空気量を開弁時吸入空気量として推定する推定手段と、
前記内燃機関1の前記気筒内に吸入されると推定された開弁時吸込空気量の要求吸入空気量を決定する吸入空気量決定手段と、
前記内燃機関1の運転状態が加速運転状態に移行する場合において、前記吸入されると推定された開弁時吸入空気量が前記要求吸入空気量に達していないときに、EGR弁26を閉弁のまま、その後、当該EGR弁26が閉弁において前記推定された開弁時吸入空気量が前記要求吸入空気量よりも大きいと判定されたときに、EGR弁26の開弁が許可されるように、前記EGR装置40を制御するEGR開度制御手段と、を備えること。」

3.引用文献3
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献3(特開2010-249078号公報)には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「【0031】尚、プライマリ・スロットル弁22の「有効開度」は、それ以上の開度にしても吸入空気量が飽和する開度を意味し、エンジン回転数によって相違する。ただし、有効開度に代え、全開開度、あるいは全開開度と続いて述べるデフォルト開度の間の任意の開度までプライマリ・スロットル弁22を開弁させた後にセカンダリ・スロットル弁34を開弁させるようにしても良い。さらにはプライマリ・スロットル弁22とセカンダリ・スロットル弁34を同時に開弁させるようにしても良い。」

イ「【0048】尚、上記開き側故障が検知されたバンク12に属するプライマリ・スロットル弁22とセカンダリ・スロットル弁34の双方の開度を、全開開度そのものではなく、全開開度とみなせる開度(例えば上述した有効開度、あるいは有効開度と全開開度の間の開度)に設定しても良い。有効開度はエンジン回転数に応じて変化することから、上記したように全開開度に設定することが制御を簡素化できる点で好ましい。

以上から、引用文献3の記載事項は以下のとおりといえる(以下「引用文献3記載事項」という。)。
「プライマリ・スロットル弁の開度を、有効開度に代え、任意の開度までデフォルト開度まで開弁させた後にセカンダリ・スロットル弁を開弁させるようにしても良いこと。」

4.引用文献4
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献4(特開2006-144692号公報)には、「内燃機関用燃料供給システムの異常検出装置」に関して、図面(特に、【図11】参照。)とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0082】Qreg=k_f×Qreg(i-1)+(1-k_f)×Qreg_r
【0083】以上のように、この発明の実施の形態2によれば、ECU150内の高圧レギュレータ流量推定手段は、フィルタ処理手段を含み、高圧レギュレータ推定流量Qregに対して、変化が小さくなるようにフィルタ処理による補正を行うので、燃料圧力Fpの増加遅れ(図11参照)に起因した誤検出を抑制することができる。」

以上から、引用文献4の記載事項は以下のとおりといえる(以下「引用文献4記載事項」という。)。
「高圧レギュレータ推定流量Qregに対して、変化が小さくなるようにフィルタ処理による補正を行うので、燃料圧力Fpの増加遅れに起因した誤検出を抑制することができること。」

第5 対比・判断
1.本願発明1
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「ターボ過給機21」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「過給機」に、「低圧のEGR装置14」は「EGR装置」に、「エンジン1」は「内燃機関」に、「吸気管4a」は「吸気通路」に、「コンプレッサ25」は「コンプレッサ」に、「排気管11b」は「排気通路」に、「タービン22」は「タービン」に、「EGR通路15」は「EGR通路」に、「EGRガス」は「還流ガス」に、「EGR弁17」は「EGR弁」に、「差圧デバイス50」は「差圧発生弁」に、それぞれ相当する。
また、後者の「前記ターボ過給機21による過給動作を制御する手段」は、前者の「内燃機関の運転域が所定の過給域にあるときに、過給機による過給動作を制御する過給制御手段」に相当する。
また、後者の「ターボ過給機21及び低圧のEGR装置14を有するエンジン1」は、前者の「過給機及びEGR装置を有する内燃機関の制御装置」と、「過給機及びEGR装置を有する内燃機関」の限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「過給機及びEGR装置を有する内燃機関であって、
前記内燃機関の運転域が所定の過給域にあるときに、前記過給機による過給動作を制御する過給制御手段と、
前記過給機は、前記内燃機関の吸気通路に設けられたコンプレッサと、前記内燃機関の排気通路に設けられたタービンとを有しており、
前記EGR装置は、前記排気通路の前記タービンよりも下流側の部位と前記吸気通路の前記コンプレッサよりも上流側の部位との間に接続されたEGR通路と、当該EGR通路内を流れる還流ガス量を変更するためのEGR弁と、前記吸気通路の前記EGR通路との接続部よりも上流側に設けられ、前記EGR弁の上流側と下流側の間で差圧を発生させるための差圧発生弁と、を有する内燃機関。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点A]
前者は「過給機及びEGR装置を有する内燃機関の制御装置であって、
当該内燃機関の気筒内に流入するガス量を吸入ガス量として取得する吸入ガス量取得手段と、
前記内燃機関の前記気筒内に流入する新気量である筒内新気量の目標となる目標新気量を設定する目標新気量設定手段と、
前記内燃機関の運転域が前記所定の過給域にある場合において、前記吸入ガス量が前記目標新気量に達していないときに、排気還流を停止するとともに、その後、当該排気還流を停止した状態において前記吸入ガス量が前記目標新気量に達したときに、排気還流を実行するように、前記EGR装置を制御するEGR制御手段と、を備え、
前記EGR制御手段は、前記吸入ガス量が前記目標新気量に達したときに、前記EGR通路内を還流ガスが流れるように、前記EGR弁を制御するとともに、前記差圧を発生させるように、前記差圧発生弁を制御し、
前記目標新気量設定手段は、前記目標新気量として、基本目標新気量と、当該基本目標新気量よりも所定値分大きい上限目標新気量とを設定し、
前記EGR制御手段は、前記内燃機関の運転域が前記所定の過給域にある場合、前記吸入ガス量が前記上限目標新気量に達するまでの間、排気還流を停止するとともに、前記吸入ガス量が前記上限目標新気量に達した以降、排気還流を実行するように、前記EGR装置を制御し、
前記所定値は、前記差圧発生弁の制御が実行されたときに、前記吸入ガス量が前記基本目標新気量を下回る状態が発生しないような値に、前記内燃機関の運転状態に応じて設定されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。」であるのに対して、後者は「内燃機関」であって、これら制御装置の構成を備えていない点。

上記相違点について検討する。
引用文献2記載事項は、前記第4 2.のとおり
「遠心過給器15及びEGR装置40を有する内燃機関1の電子制御ユニット35であって、
当該内燃機関1の気筒内に吸入されると推定される空気量を開弁時吸入空気量として推定する推定手段と、
前記内燃機関1の前記気筒内に吸入する推定された開弁時吸込空気量の要求吸入空気量を決定する吸入空気量決定手段と、
前記内燃機関1の運転状態が加速運転状態に移行する場合において、前記吸入されると推定する開弁時吸入空気量が前記要求吸入空気量に達していないときに、EGR弁26を閉弁のまま、その後、当該EGR弁が閉弁において前記推定された開弁時吸入空気量が前記要求吸入空気量よりも大きいと判定されたときに、EGR弁26の開弁が許可されるように、前記EGR装置40を制御するEGR開度制御手段と、を備えること。」である。

本願発明1と引用文献2記載事項とを対比すると、後者の「遠心過給器15」は、その機能、構成および技術的意義からみて前者の「過給機」に相当し、以下同様に、「電子制御ユニット35」は「制御装置」に、「要求吸入空気量」は「目標新気量」に、「決定」は「設定」に、それぞれ相当する。

また、後者の「推定手段」は、「閉弁しているEGR弁が開弁したときに、内燃機関の気筒に吸入される」空気量を推定する手段であり(段落【0014】参照)、前者の「吸入ガス量取得手段」は、実際に「内燃機関の気筒内に流入するガス量を取得する」手段であることから、後者の「気筒内に吸入されると推定される空気量を開弁時吸入空気量として推定する推定手段」と前者の「気筒内に流入するガス量を吸入ガス量として取得する吸入ガス量取得手段」とは、「気筒内の吸入空気量を取得する吸入空気量取得手段」という限りにおいて一致する。
また、後者の「吸入空気量決定手段」は、推定された開弁時吸入空気量に対する要求吸入空気量を決定する手段であり、前者の「目標新気量設定手段」は、気筒内に流入する新気量に対する目標となる目標新気量を設定する手段であることから、後者の「気筒内に吸入する推定された開弁時吸込空気量の要求吸入空気量を決定する吸入空気量決定手段」と、前者の「気筒内に流入する新気量である筒内新気量の目標となる目標新気量を設定する目標新気量設定手段」とは、「内燃機関の気筒内の目標新気量を設定する目標空気量設定のための手段」という限りにおいて一致する。
また、後者の「EGR開度制御手段」は、運転状態が加速運転状態に移行する場合において、推定する開弁時吸入空気量により制御を行う構成を備えており、前者の「EGR制御手段」は、運転域が所定の過給域にある場合において、吸入ガス量により制御を行う構成を備えていることから、両者は「運転域が所定の過給域にある場合において、EGR装置を制御するEGR制御のための手段」という限りにおいて一致する。

そうすると、引用文献2記載事項を、本願発明1の用語を用いて整理すると、以下のものということができる。
「過給機及びEGR装置を有する内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の気筒内の吸入空気量を取得する吸入空気量取得手段と、
前記内燃機関の気筒内の目標新気量を設定する目標空気量設定のための手段と、
前記内燃機関の運転域が所定の過給域にある場合において、EGR装置を制御するEGR制御のための手段と、を備えること。」

してみると、引用文献2記載事項は、少なくとも以下の点について、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項と相違する。

(相違点1)「気筒内の吸入空気量を取得する吸入空気量取得手段」に関して、本願発明1は、実際に気筒内に流入するガス量を吸入ガス量として取得する、吸入ガス量取得手段であるのに対し、引用文献2記載事項では、気筒内に吸入される空気量を開弁時吸入空気量として推定する推定手段である点。

(相違点2)「内燃機関の気筒内の目標新気量を設定する目標空気量設定のための手段」に関して、本願発明1は、実際に「気筒内に流入する新気量である筒内新気量の目標となる目標新気量」を設定する手段であるのに対し、引用文献2記載事項では、「気筒内に吸入する推定された開弁時吸入空気量に要求される要求吸入空気量」を決定するための手段となっている点。

(相違点3)「運転域が所定の過給域にある場合において、EGR装置を制御するEGR制御のための手段」に関して、本願発明1は、「排気還流を停止した状態において吸入ガス量が目標新気量に達したときに、排気還流を実行」するように、「EGR装置を制御する」EGR制御手段を備えているのに対し、引用文献2記載事項では、「EGR弁が閉弁において前記推定された開弁時吸入空気量が前記要求吸入空気量よりも大きいと判定されたときに、EGR弁26の開弁が許可」されるように、「EGR装置40を制御する」EGR開度制御手段を備えている点。

(相違点4)「目標空気量設定のための手段」に関して、本願発明1は、目標新気量において、「基本目標新気量」及び「基本目標新気量よりも所定値分大きい上限目標新気量」を設定し、当該「所定値」を、吸入ガス量が基本目標新気量を下回る状態が発生しないような値となるよう、内燃機関の運転状態に応じて設定する構成を備えているのに対し、引用文献2記載事項には「目標新気量」及び「所定値」について、記載も示唆もない点。

したがって、引用発明及び引用文献2記載事項の技術を総合しても、上記相違点Aに係る本願発明1の発明特定事項を容易になし得ることはできない。
また、引用文献3記載事項ないし引用文献4記載事項も、上記相違点1ないし4に係る本願発明1の発明特定事項は記載されておらず、示唆もない。
そうすると、このような引用文献2、3及び4の記載事項を引用発明に適用しても、上記相違点Aに係る本願発明1の発明特定事項にはならない。

また、上記相違点Aに係る本願発明の発明特定事項は、当該技術分野における周知技術でもなく、本願の出願時において当業者の通常の創作能力の範囲で想到し得たことでもない。
そして、本願発明1は、上記構成により、内燃機関が過渡運転状態にあるときに、過給応答性を確保しながら、還流ガスの導入による省燃費効果を得ることができるとともに、ハンチングの発生を回避することができるという格別の効果を備えている。
したがって、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2ないし引用文献4記載事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2ないし4について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし4は、請求項1の記載を直接又は間接的に、かつ請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし4は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし本願発明4は、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし本願発明4は、引用発明及び引用文献2記載事項ないし引用文献4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-03-16 
出願番号 特願2017-52270(P2017-52270)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平井 功田村 佳孝▲高▼木 真顕  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 北村 英隆
齊藤 公志郎
発明の名称 内燃機関の制御装置  
代理人 高橋 友雄  

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