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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60W
管理番号 1360925
審判番号 不服2019-11084  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-22 
確定日 2020-04-07 
事件の表示 特願2016-245626「ハイブリッド車両の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年6月28日出願公開、特開2018- 99934、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月19日に特許出願されたものであって、平成31年3月19日付け(発送日:同年3月26日)で拒絶理由が通知され、同年4月10日に意見書が提出されたが、令和元年6月13日付け(発送日:同年6月18日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がされた。これに対して、令和元年8月22日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は、次のとおりである。
「この出願については、平成31年3月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
備考
理由(特許法第29条第2項)について
・請求項 1
・引用文献等 1-2

・請求項 2-3
・引用文献等 1-2

・請求項 4
・引用文献等 1-3

引用文献等一覧
1.特開2010-116120号公報
2.特開2011-189889号公報
3.特開2012-240485号公報」

また、平成31年3月19日付け拒絶理由通知書の概要は、次のとおりである。
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1
・引用文献等 1-2

・請求項 2-3
・引用文献等 1-2

・請求項 4
・引用文献等 1-3

引用文献等一覧
1.特開2010-116120号公報
2.特開2011-189889号公報
3.特開2012-240485号公報」

第3 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
内燃機関及び電動機を含む動力源と、前記動力源の動力を出力軸に伝達する動力伝達経路に設けられた複数の変速段を有する変速機とを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記内燃機関を運転させて走行するHV走行モードと、前記内燃機関を停止させて前記電動機の動力で走行するEV走行モードとを相互に切換可能な第1切換手段と、
第1モードと、前記第1モードと比べて燃費よりも加速性能を重視する第2モードとを相互に切換可能な第2切換手段と、
前記EV走行モード且つ前記第2モードが選択された特定状態における前記変速段が、前記特定状態でない場合の前記変速段よりも小さくなるように、前記変速機を制御する制御手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記特定状態は、前記EV走行モード且つ前記第2モードが選択されていることに加えて、前記電動機の電力源であるバッテリの出力制限値が所定値以下の状態であることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記電動機の電力源であるバッテリの出力制限値が小さいほど、前記特定状態における前記変速段が、前記特定状態でない場合の前記変速段よりも小さくなるように、前記変速機を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記電動機は、前記内燃機関と遊星歯車機構を介して連結された第1電動機と、前記遊星歯車機構と前記変速機との間に連結された第2電動機とを含み、
前記第1電動機は、前記EV走行モードから前記HV走行モードへの切換時に回生発電を行う
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2010-116120号公報)には、「車両用動力伝達装置の制御装置」に関し、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付与したものである。以下同様。)。

ア「【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、所定の回転部材の回転中に変速比を変更可能な変速部を備える車両用動力伝達装置において、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる制御装置を提供することにある。」

イ「【0028】
図1は、本発明が適用される車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」という)の構成を説明する骨子図である。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」という)内においてエンジンクランク軸14に動力伝達可能に作動的に連結された第2電動機M2と、エンジンクランク軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)を介して直接的に連結された前後進切換装置16と、入力側回転部材としての入力軸18を介して入力側が前後進切換装置16に連結されると共に入力軸18と入力軸18に平行な出力側回転部材としての出力軸22との間を動力伝達可能に連結する変速部としての無段変速機20と、出力軸22に動力伝達可能に作動的に連結された第1電動機M1等とを備えている。この動力伝達装置10は、ハイブリッド車両において横置きされるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、走行用の駆動力源としての例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8からの動力や第1電動機M1からの動力等を無段変速機20の出力側に出力軸22を介して連結されたデフドライブギヤ24と、それに噛み合うデフリングギヤ26を有する差動歯車装置(終減速機)28と、一対の車軸30等とを順次介して左右の駆動輪32へ伝達する。尚、ケース12には、無段変速機20を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、前後進切換装置16の係合装置を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン8により回転駆動されることにより発生する図示しない機械式オイルポンプがエンジンクランク軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結されている。
【0029】
前後進切換装置16は、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とシングルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、サンギヤ16sにエンジンクランク軸14(すなわちエンジン8及び第2電動機M2)が連結され、リングギヤ16rに入力軸18(すなわち無段変速機20の入力側)が連結される一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、キャリア16cは後進用ブレーキB1を介してケース12に選択的に固定されるようになっている。
【0030】
前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、無段変速機20とエンジン8との間の動力伝達経路を断接可能な断接装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。そして、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりエンジンクランク軸14が入力軸18に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機20側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸18はエンジンクランク軸14に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機20側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になり、無段変速機20とエンジン8との間の動力伝達経路が遮断(解放)される。
【0031】
無段変速機20は、入力軸18に設けられた入力側部材である有効径が可変の入力側プーリ(プライマリシーブ)40と、出力軸22に設けられた出力側部材である有効径が可変の出力側プーリ(セカンダリシーブ)42と、それ等一対のプーリ40、42に巻き掛けられその一対のプーリ40、42間を摩擦力により動力伝達可能に連結する動力伝達部材としてのベルト44とを備えており、その変速比γ(=入力軸18の回転速度N_(IN)/出力軸22の回転速度N_(OUT))を機械的作用により連続的に変化させることができる無段の自動変速機として機能する所謂ベルト式無段変速機(CVT)である。入力側プーリ40は、回転軸方向にスライド可能な円錐状の入力側スライドプーリ46とスライド不能に固定された円錐状の入力側フィックスプーリ48とから構成されており、入力側スライドプーリ46と入力側フィックスプーリ48が頂点を向けて相対向して組み合わされベルト44が接触するV字状の入力側プーリ溝50が形成されている。また出力側プーリ42も入力側プーリ40と同様の構造であり、出力側プーリ42は出力側スライドプーリ52と出力側フィックスプーリ54とから構成されており、両者の間にベルト44が接触するV字状の出力側プーリ溝56が形成されている。」

ウ「【0039】
図4は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、ハイブリッド制御手段82は、エンジン8を用いて走行するエンジン走行においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させるように無段変速機20の変速比γ及びエンジン出力(例えばエンジントルクT_(E))を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセル開度(アクセルペダル操作量)Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、電動機M1、M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度N_(E)とエンジントルクT_(E)となるように無段変速機20及びエンジン8を制御する。
【0040】
より具体的には、ハイブリッド制御手段82は、その制御を動力性能や燃費向上などのために無段変速機20を制御する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度N_(E)と車速V及び無段変速機20の変速比γで定まる入力軸回転速度N_(IN)とが整合させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段82は、エンジン回転速度N_(E)とエンジントルクT_(E)とで構成される二次元座標内において運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められた不図示のよく知られたエンジン8の動作曲線の一種である燃焼効率最適線(燃費最適動作点、最適燃費率曲線、燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば無段変速機20の最小変速比γminと最大変速比γmaxの範囲内において目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力P_(E)を発生するためのエンジントルクT_(E)とエンジン回転速度N_(E)となるように、無段変速機20とエンジン8とを制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度N_(E)及びエンジントルクT_(E)などで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。」

エ「【0043】
ハイブリッド制御手段82は、エンジン走行時には、エンジン8と無段変速機20との間の動力伝達経路を動力伝達可能状態とする。例えば、ハイブリッド制御手段82は、シフトポジションP_(SH)として「D」ポジション又は「M」ポジションが選択された場合には前進用クラッチC1を係合し且つ後進用ブレーキB1を解放する油圧制御指令信号を油圧制御回路58へ出力して動力伝達装置10内の動力伝達経路を前進走行用の動力伝達可能状態とする。また、ハイブリッド制御手段82は、シフトポジションP_(SH)として「R」ポジションが選択された場合には前進用クラッチC1を解放し且つ後進用ブレーキB1を係合する油圧制御指令信号を油圧制御回路58へ出力して動力伝達装置10内の動力伝達経路を後進走行用の動力伝達可能状態とする。
【0044】
また、ハイブリッド制御手段82は、エンジン8を停止させた状態で第1電動機M1を用いてモータ走行(EV走行)させることができる。例えば、ハイブリッド制御手段82によるモータ走行は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低アクセル開度Acc時すなわち低エンジントルクT_(E)時、比較的低車速時や定速走行時の低負荷域(低出力要求域)で実行される。ハイブリッド制御手段82は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上(燃料消費率を低減)させる為に、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1を共に解放する油圧制御指令信号を油圧制御回路58へ出力してエンジン8と無段変速機20との間の動力伝達経路を動力伝達遮断状態とする。従って、このモータ走行時には、機械式オイルポンプがエンジン8により回転駆動させられないことから、電動オイルポンプが作動させられて油圧制御回路58等の各部に作動油が供給される。
【0045】
ハイブリッド制御手段82は、エンジン走行とモータ走行とを選択的に切り換える為に、エンジン8の始動及び停止を行うエンジン始動停止制御手段90を機能的に備えている。エンジン始動停止制御手段90は、例えばエンジン走行中にアクセルペダルが戻されてアクセル開度Accが小さくなりモータ走行への切換えを判断した場合には、燃料噴射装置76による燃料供給を停止させることによりすなわちフューエルカットによりエンジン8の作動を停止させることにより、エンジン走行からモータ走行へ切り換える。また、エンジン始動停止制御手段90は、例えばモータ走行中にアクセルペダルが踏込操作されてアクセル開度Accが大きくなったり、或いは蓄電装置68の充電容量SOCが低下して第2電動機M2による発電が必要となりエンジン走行への切換えが判断された場合には、第2電動機M2に通電して第2電動機回転速度N_(M2)を引き上げることですなわち第2電動機M2をスタータとして機能させることでエンジン回転速度N_(E)を例えば自律回転可能な回転速度にまで引き上げ、点火装置78により点火させてエンジン8を始動することにより、モータ走行からエンジン走行へ切り換える。
【0046】
また、ハイブリッド制御手段82は、エンジン走行中に、蓄電装置68からの電気エネルギを第1電動機M1及び第2電動機M2の少なくとも一方の電動機へ供給し、その電動機を駆動してエンジン8の動力を補助するトルクアシストが可能である。本実施例ではエンジン8と電動機との両方を走行用の駆動力源とする車両の走行はモータ走行ではなくエンジン走行に含まれるものとする。
【0047】
また、ハイブリッド制御手段82は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させる為にエンジン8を非駆動状態にして、駆動輪32から伝達される車両の運動エネルギを第1電動機M1及び第2電動機M2の少なくとも一方の電動機により電気エネルギに変換する回生制御を実行する回生制御手段92を機能的に備えている。例えば、回生制御手段92は、駆動輪32からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第1電動機M1を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第1電動機発電電流をインバータ66を介して蓄電装置68へ充電する回生制御を実行する。
【0048】
ここで、車両停止の際には、車両再発進に備えて無段変速機20の変速比γを最大変速比(最低速側変速比)γmax(最Lo)として発進性能を向上(確保)することが望ましい。但し、前述したように、本実施例の無段変速機20は車両停車中に変速比γを変更することができないことから、車両走行時には停止するまでに変速比γを最大変速比γmaxとする必要がある。これは、モータ走行の際にモータ走行のまま停止する場合も同様である。無段変速機20はモータ走行における動力伝達には何ら関与しないことから、ハイブリッド制御手段82は、モータ走行の際には、無段変速機20の変速比γを予め所定の低速側変速比例えば最大変速比γmaxとする。
【0049】
ところで、モータ走行の際に無段変速機20の変速比γを最大変速比γmaxとすると、モータ走行中にエンジン走行へ切り換えられるときにエンジン回転速度N_(E)が最大変速比γmaxによりそのときの走行車速Vに応じて不必要に上昇して、燃費やドライバビリティが損なわれる可能性がある。そこで、ハイブリッド制御手段82は、モータ走行中のエンジン始動時にエンジン回転速度N_(E)が吹き上がることなくスムーズにモータ走行からエンジン走行へ移行させる為に、出力軸回転速度N_(OUT)に基づいてモータ走行時に設定する所定の低速側変速比としての最大変速比γmaxを変更する変速比変更制御手段94を機能的に備えている。ここで、出力軸回転速度N_(OUT)が高い場合は車両減速(制動)が行われたときに変速比γを最大変速比γmaxへ戻すまでの時間が長くされるという観点から、例えば、変速比変更制御手段94は、出力軸回転速度N_(OUT)と無段変速機20の変速比γとで構成される二次元座標内において、出力軸回転速度N_(OUT)が高い程最大変速比γmaxが高速側(変速比が小さくなるHi側)へ変更されるように予め実験的に求められて記憶された図5に示すような関係(車速-変速比マップ)から、モータ走行中の出力軸回転速度N_(OUT)に基づいて変速比γを決定して最大変速比γmaxをHi側へ変更する。この変速比変更制御手段94による変速比γを変更する制御は、例えば車両状態判定手段96によって最大変速比γmaxをHi側へ変更することが可能な出力軸回転速度N_(OUT)として予め求められて記憶された出力軸回転速度判定値N_(OUT)’よりも実際の出力軸回転速度N_(OUT)が高いと判定された場合に実施される。」

オ 上記イないしエの記載から、ハイブリッド車両の動力源は、エンジン8、第1電動機M1及び第2電動機M2を含むことがわかる。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「エンジン8、第1電動機M1及び第2電動機M2を含む動力源と、前記動力源の動力を出力軸22に伝達する車両用動力伝達装置10に設けられ、変速比γを連続的に変化させる無段変速機20とを備えるハイブリッド車両のハイブリッド制御手段82であって、
前記エンジン8のみの走行、及び、前記第1電動機M1と前記第2電動機M2とのうち少なくとも一方の電動機を駆動してエンジン8を補助する走行を含むエンジン走行と、前記エンジン8を停止させて前記第1電動機M1と前記第2電動機M2とのうち前記第1電動機M1の動力で走行するモータ走行とを選択的に切り換える手段と、
前記モータ走行を実施している場合に、前記無段変速機20の変速比γを所定の低速側変速比とする変速比変更制御手段94と
を備えるハイブリッド車両のハイブリッド制御手段82。」

また、引用文献1には次の技術事項(以下「引用文献1記載事項」という。)も記載されている。
「ハイブリッド制御手段82は、エンジン8を停止させた状態で第1電動機M1を用いてモータ走行(EV走行)させることができ、無段変速機20は前記モータ走行における動力伝達には何ら関係しないこと。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2011-189889号公報)には、「ハイブリッド車両」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

ア「【0005】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、蓄電器の残容量を考慮しつつ使用者の加速要求を満足させることができるハイブリッド車両を提供することである。」

イ「【0025】
エンジン6は、例えばガソリンエンジンであり、このエンジン6のクランク軸6aには、変速機20の第1クラッチ41(第1断接手段)と第2クラッチ42(第2断接手段)が設けられている。
【0026】
モータ7は、3相ブラシレスDCモータ(以下、IPMモータと呼ぶことがある。)であり、3n個の電機子71aで構成されたステータ71と、このステータ71に対向するように配置されたロータ72とを有している。各電機子71aは、鉄芯71bと、この鉄芯71bに巻き回されたコイル71cで構成されており、不図示のケースに固定されて、回転軸を中心に周方向にほぼ等間隔で並んでいる。3n個のコイル71cは、n組のU相、V相,W相の3相コイルを構成している。
【0027】
ロータ72は、回転軸を中心にほぼ等間隔で並んだn個の永久磁石72aを有しており、隣り合う各2つの永久磁石72aの極性は、互いに異なっている。各永久磁石72aを保持したロータヨーク72bを固定する固定部は、軟磁性体(例えば鉄)で構成された中空円筒状を有し、後述する遊星歯車機構30のリングギヤ35の外周側に配置され、遊星歯車機構30のサンギヤ32に連結されている。これにより、ロータ72は、遊星歯車機構30のサンギヤ32と一体回転可能に構成されている。
【0028】
遊星歯車機構30は、サンギヤ32と、このサンギヤ32と同軸上に配置され、かつ、このサンギヤ32の周囲を取り囲むように配置されたリングギヤ35と、サンギヤ32とリングギヤ35に噛合されたプラネタリギヤ34と、このプラネタリギヤ34を自転可能、かつ、公転可能に支持するキャリア36とを有している。このようにして、サンギヤ32とリングギヤ35とキャリア36が、相互に差動回転自在に構成されている。
【0029】
リングギヤ35には、同期機構を有しリングギヤ35の回転を停止(ロック)可能に構成されたシンクロロック機構61が設けられている。
【0030】
変速機20は、前述した第1クラッチ41と第2クラッチ42と、遊星歯車機構30と、複数の変速ギヤ群を備えた、いわゆるツインクラッチ式変速機である。」

ウ「【0042】
以上の構成により、本実施形態のハイブリッド車両1は、以下の第1?第5の伝達経路を有している。
(1)第1伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第1主軸11、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸4,4を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。ここで、遊星歯車機構30の減速比は、第1伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達されるエンジントルクが第1速相当となるように設定されている。即ち、遊星歯車機構30の減速比と第3速用ギヤ対23の減速比をかけ合わせた減速比が第1速相当となるように設定されている。
【0043】
(2)第2伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第2主軸12、第1アイドルギヤ列27A(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第2アイドル従動ギヤ27c)、第2中間軸16、第2速用ギヤ対22(第2速用駆動ギヤ22a、第1共用従動ギヤ23b)又は第4速用ギヤ対24(第4速用駆動ギヤ24a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸4,4を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0044】
(3)第3伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第1主軸11、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸4,4を介して、遊星歯車機構30を介さずに、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0045】
(4)第4伝達経路は、モータ7が、遊星歯車機構30又は第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸4,4を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。この第4伝達経路を介して、第1及び第2クラッチ41、42を切断した状態で、シンクロロック機構61をロックするとともに第1変速用シフター51をニュートラルにすることで第1速EV走行がなされ、シンクロロック機構61のロックを解除し第1変速用シフター51を第3接続位置でインギヤすることで第3速EV走行がなされ、シンクロロック機構61のロックを解除し第1変速用シフター51を第5接続位置でインギヤすることで第5速EV走行がなされる。
【0046】
(5)第5伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第2主軸12、第2アイドルギヤ列27B(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第3アイドル従動ギヤ27d)、リバース軸17、後進用ギヤ列28(後進用駆動ギヤ28a、後進用従動ギヤ28b)、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸4,4を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。

エ「【0049】
このように構成されたハイブリッド車両1は、第1及び第2クラッチ41、42の断接を制御するとともに第1変速用シフター51、第2変速用シフター52および後進用シフター53の接続位置を制御することにより、エンジン6で第1?第5速走行および後進走行を行うことができる。また、エンジン6で走行中に第1及び第2変速用シフター51、52の接続位置を制御することにより、モータ7でアシストしたり回生したり、さらにアイドリング中にエンジン6をモータ7で始動したりバッテリ3を充電することもできる。また、ハイブリッド車両1はモータ7を利用してEV走行を行なうこともできる。」

オ「【0051】
第1実施形態のハイブリッド車両1は、例えば運転席前方の不図示の操作盤に配置されるボタン9を備えている。このボタン9は使用者により操作可能であり、さらなる加速を得たいときに使用者はボタン9を押すことができる。ボタン9が押されると、ECU5は、ボタン9が押された時点でのバッテリ3のSOCの値に応じて後述する充電制御や強力アシストモードでの電動機の出力制御を行うとともに、変速マップを加速重視に切替える。」

カ「【0062】
また、バッテリ3のSOCの値に関わらず、ボタン9が押されたときには、ECU5が変速マップを加速重視に変更する。変速マップの加速重視への変更は、1つ下の変速段に切り替えることにより行われる。これによってエンジン6の回転数を高くなるとともにトルクが減少するため、使用者の加速要求に応えることができる。また、変速マップを加速重視に変更した場合には、モータ3によりアシストする際の効率を向上させるために、モータ3が接続されている変速段を使用する。前述したように、第1主軸11には、エンジン6側とは反対側にモータ7のロータ72が取り付けられており、第1主軸11上には第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aからなる奇数段ギヤ群が設けられている。従って、ECU5は、変速マップを加速重視に変更した場合には、第3速用駆動ギヤ23aまたは第5速用駆動ギヤ25aを優先的に利用するように制御する。
【0063】
図3は、本実施形態の制御装置の動作を説明するフローチャートである。まず、ECU5はボタン9が押されたかどうかを判断する(ステップS11)。ボタン9が押されない場合は、処理が終了する。ボタン9が押された場合、ECU5は、変速マップを加速重視に変更する(ステップ12)。次いでECU5は、バッテリ3のSOCが第1しきい値以上であるかどうかを判定する(ステップS13)。バッテリ3のSOCが第1しきい値未満であると判定された場合には、ECU5は、バッテリ3のSOCが第1しきい値未満であることを表示部10に表示する(ステップS14)。このとき表示部10は青に点灯する。次いで、ECU5はバッテリ3の充電制御を行う(ステップS15)。」

キ 上記イないしカの記載から、ハイブリッド車両の動力源は、エンジン6とモータ7を含むことがわかる。

上記記載及び図面の図示内容を総合すると、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

「エンジン6とモータ7を含む動力源と、前記動力源の動力を駆動軸4に伝達する伝達経路に設けられた第1?第5速走行を行うことができる変速機20とを備えるハイブリッド車両のECU5であって、
前記エンジン6で走行を行うことができ、また、前記エンジンで走行中に前記モータ7でアシストしたり、また、前記モータ7を利用したEV走行が可能であり、
加速重視に切り替えることが可能なボタン9と、前記ボタン9が押された場合には、変速マップを1つ下の変速段に切り替える、ハイブリッド車両のECU5。」

2.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2012-240485号公報)には、「車両の制御装置」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

ア「【0019】
MG20は、第1MG21と、第2MG22とを含む。第1MG21および第2MG22は、交流電動機であり、たとえば、三相交流同期電動機である。なお、以下の説明では、第1MG21と第2MG22とを区別して説明する必要がない場合には、これらを区別することなくMG20と記載する。
【0020】
車両1は、エンジン10および第2MG21の少なくとも一方から出力される駆動力によって走行するハイブリッド車両である。エンジン10が発生する駆動力は、動力分割装置40によって2経路に分割される。すなわち、一方は減速機50を介して駆動輪80へ伝達される経路であり、もう一方は第1MG21へ伝達される経路である。
【0021】
動力分割装置40は、サンギヤと、ピニオンギヤと、キャリアと、リングギヤとを含む遊星歯車から成る。ピニオンギヤは、サンギヤおよびリングギヤと係合する。キャリアは、ピニオンギヤを自転可能に支持するとともに、エンジン10のクランクシャフトに連結される。サンギヤは、第1MG21の回転軸に連結される。リングギヤは第2MG22の回転軸および減速機50に連結される。このように、エンジン10、第1MG21および第2MG21が遊星歯車からなる動力分割装置40を介して連結されることで、エンジン回転速度Ne、第1MG回転速度Nm1および第2MG回転速度Nm2は共線図において直線で結ばれる関係になる(後述の図2参照)。」

イ「【0034】
ECU200は、EV走行中にエンジン10を始動させる場合には、制御モードをEVモードから始動モードに移行させる。始動モードでは、ECU200は、第1MG21で正方向のクランキングトルクを発生させてエンジン回転速度Neを上昇させる。そして、ECU200は、エンジン回転速度Neが所定速度まで上昇した時に、エンジン10の点火制御を開始する。この点火制御による燃焼(いわゆる初爆)が行なわれると、エンジン10の始動が完了する。エンジン10の始動が完了すると、ECU200は、制御モードを始動モードからエンジンモードへ移行させる。
【0035】
ところで、上述したように、EV走行中においては、共線図の関係から第1MG21が負方向に回転し、車速Vが高いほど第1MG回転速度Nm1は負方向に大きくなる。このような状態で第1MG21からクランキングトルクを発生させるためには、車速Vに応じた電力を第1MG21で発電させる必要がある。
【0036】
そのため、EUC200は、EV走行中に第1MG21からクランキングトルクを発生させる場合には、車速Vに応じた電力を第1MG21に発電させる。以下では、EV走行中にクランキングを行なう場合に第1MG21が発電する電力を単に「クランキング発電電力」ともいう。」

ウ「【0053】
図5は、上述の機能を実現するためのECU200の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、車両1の走行中に所定周期で繰り返し実行される。
【0054】
ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10にて、ECU200は、制御モードがEVモードであるか否かを判定する。
【0055】
S10で制御モードがEVモードであると判定された場合(S10にてYES)、ECU200は、S20にてエンジン始動要求があるか否かを判定する。エンジン始動要求がない場合(S20にてNO)、ECU200は、EVモードを継続する。
【0056】
エンジン始動要求がある場合(S20にてYES)、ECU200は、S40にてバッテリ70の受入可能電力値Winが基準値W1から制限値W0に低下しているか否かを判定し、S41で車速Vがしきい車速V0以上であるか否かを判定する。
【0057】
受入可能電力値Winが制限値W0に低下しておりかつ車速Vがしきい車速V0以上である場合(S40にてYESかつS41にてYES)、ECU200は、S42にてEHC通電を開始する。その後、ECU200は、S43にて制御モードをEVモードから始動モードに切り替える。この始動モードへの切り替えによって、第1MG21の発電(クランキングトルクの付与)が開始される。」

エ「【0061】
エンジン10の始動が完了していない場合(S60にてNO)、ECU200は、S70にて始動モードを継続し、第1MG21の発電(クランキングトルクの付与)を継続させる。その後、ECU200は、S71にてEHC通電中であるか否かを判定する。EHC通電中でない場合(S71にてNO)、ECU200は、処理を終了させる。」

上記記載及び図面の図示内容を総合すると、引用文献3には次の技術事項(以下「引用発明3記載事項」という。)が記載されている。

「エンジン10および第2MG21の少なくとも一方から出力される駆動力によって走行するハイブリッド車両のECU200であって、制御モードがEVモードであると判定された場合、エンジン始動要求があるか否かを判定し、エンジン始動要求がない場合、ECU200は、EVモードを継続すること。」

第5 対比・判断
1. 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明1とを対比すると、後者の「エンジン8」は、その機能・作用からみて、前者の「内燃機関」に相当し、以下同様に、「第1電動機M1および第2電動機M2」は「電動機」に、「出力軸22」は「出力軸」に、「車両用動力伝達装置10」は「動力伝達経路」に、「ハイブリッド制御手段82」は「制御装置」に、それぞれ相当する。

イ 後者の「変速比γを連続的に変化させる無段変速機20」は、微視的にみれば、連続する複数の変速段を有するものといえるから、前者の「複数の変速段を有する変速機」に相当するといえる。

ウ 後者の「エンジン8のみの走行、及び、第1電動機M1と第2電動機M2とのうち少なくとも一方の電動機を駆動してエンジン8を補助する走行を含むエンジン走行」する態様は、前者の「内燃機関を運転させて走行するHV走行モード」に相当する。

エ 後者の「エンジン8を停止させて第1電動機M1と第2電動機M2とのうち第1電動機M1の動力で走行するモータ走行」する態様は、前者の「内燃機関を停止させて電動機の動力で走行するEV走行モード」に相当する。

オ 上記ウ及びエを踏まえると、後者の「選択的に切り換える手段」は、前者の「相互に切換可能な第1切換手段」に相当する。

カ 後者の「モータ走行を実施している場合に、無段変速機20の変速比γを所定の低速側変速比とする変速比変更制御手段94」と、前者の「EV走行モード且つ第2モードが選択された特定状態における変速段が、特定状態でない場合の前記変速段よりも小さくなるように、変速機を制御する制御手段」とは、少なくとも「EV走行モードが選択された状態における変速段が、所定の変速段となるように、変速機を制御する制御手段」の限りにおいて一致する。

そうすると、両者は、
「内燃機関及び電動機を含む動力源と、前記動力源の動力を出力軸に伝達する動力伝達経路に設けられた複数の変速段を有する変速機とを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記内燃機関を運転させて走行するHV走行モードと、前記内燃機関を停止させて前記電動機の動力で走行するEV走行モードとを相互に切換可能な第1切換手段と、
前記EV走行モードが選択された状態における前記変速段が、所定の変速段となるように、前記変速機を制御する制御手段と
を備えるハイブリッド車両の制御装置。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点1: 本願発明1が、「第1モードと、前記第1モードと比べて燃費よりも加速性能を重視する第2モードとを相互に切換可能な第2切換手段」を有するのに対し、引用発明1はこのような構成を有しない点。

相違点2: EV走行モードが選択された状態における変速段が、所定の変速段となるように、変速機を制御する制御手段に関し、本願発明1は、EV走行モード「且つ第2モードが選択された特定状態」における変速段が、前記「特定状態でない場合の前記変速段よりも小さくなる」ように制御しているのに対し、引用発明1は、モータ走行を実施している場合に、無段変速機20の変速比γを所定の低速側変速比とするように制御している点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
引用発明2は、
「エンジン6とモータ7を含む動力源と、前記動力源の動力を駆動軸4に伝達する伝達経路に設けられた第1?第5速走行を行うことができる変速機20とを備えるハイブリッド車両のECU5であって、
前記エンジン6で走行を行うことができ、また、前記エンジンで走行中に前記モータ7でアシストしたり、また、前記モータ7を利用したEV走行が可能であり、
加速重視に切り替えることが可能なボタン9と、前記ボタン9が押された場合には、変速マップを1つ下の変速段に切り替える、ハイブリッド車両のECU5。」である。
ここで、本願発明1と引用発明2とを対比すると、後者の「エンジン6」、「モータ7」、「駆動軸4」及び「ECU5]は、前者の「内燃機関」、「電動機」、「出力軸」及び「制御装置」に、それぞれ相当し、また、後者の「第1?第5速走行を行うことができる変速機20」は前者の「複数の変速段を有する変速機」に相当する。
そして、後者の「エンジン6で走行を行うことができ、また、前記エンジン6で走行中にモータ7でアシストしたり」する態様は、前者の「内燃機関を運転させて走行するHV走行モード」に相当し、また、後者の「モータ7を利用したEV走行」する態様は、前者の「内燃機関を停止させて前記電動機の動力で走行するEV走行モード」に相当するから、後者の「エンジン6で走行を行うことができ、また、前記エンジンで走行中にモータ7でアシストしたり、また、前記モータ7を利用したEV走行が可能」と前者の「内燃機関を運転させて走行するHV走行モードと、前記内燃機関を停止させて電動機の動力で走行するEV走行モードとを相互に切換可能な第1切換手段」とは、少なくとも「内燃機関を運転させて走行するHV走行モードと、前記内燃機関を停止させて電動機の動力で走行するEV走行モードでの走行が可能」である限りにおいて一致する。
そして、後者の「加速重視に切り替えることが可能なボタン9」は、加速重視に切り替えるボタン9が押されていない態様(本願発明1の「第1モード」に相当。)とボタン9が押されている態様(本願発明1の「第2モード」に相当。)を有していることは明らかであり、また、後者の「加速重視」とは、ボタン9が押されていない態様に比べて燃費よりも加速重視ということであることは当業者に自明であるから、前者の「第1モードと、前記第1モードと比べて燃費よりも加速性能を重視する第2モードとを相互に切換可能な第2切換手段」に相当する。
また、上記引用発明2の「ECU5」の「ボタン9が押された場合には、変速マップを1つ下の変速段に切り替える」部分と、引用発明1の「EV走行モード且つ前記第2モードが選択された特定状態における前記変速段が、前記特定状態でない場合の前記変速段よりも小さくなるように、前記変速機を制御する制御手段」とは、「前記第2モードが選択された状態における変速段が、前記状態でない場合の変速段よりも小さくなるように、変速機を制御する制御手段」の限りにおいて一致する。
そうすると、引用発明2は、本願発明1の部材名で整理すると、
「内燃機関及び電動機を含む動力源と、前記動力源の動力を出力軸に伝達する動力伝達経路に設けられた複数の変速段を有する変速機とを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記内燃機関を運転させて走行するHV走行モードと、前記内燃機関を停止させて前記電動機の動力で走行するEV走行モードでの走行が可能であり、
第1モードと、前記第1モードと比べて燃費よりも加速性能を重視する第2モードとを相互に切換可能な第2切換手段と、
前記第2モードが選択された状態における変速段が、前記状態でない場合の前記変速段よりも小さくなるように、変速機を制御する制御手段を備えるハイブリッド車両の制御装置。」
と言い換えることができる。

ここで、引用発明1は、引用文献1記載事項のとおり、無段変速機はモータ走行における動力伝達には何ら関係しないものである。一方、引用発明2は、エンジン走行であってもモータ走行中であっても、変速機を介して駆動軸を回転するものであり、両者のエンジン、モータ及び変速機の連結構造は同じものではない。
また、引用発明1が解決しようとする課題は、上記「第4 1.ア」の記載を参酌すると、モータ走行から車両停止した際の再発進性能の低下を抑制することができる制御装置の提供であり、また、引用発明2は、上記「第4 2.ア」の記載を参酌すると、蓄電器の残容量を考慮しつつ使用者の加速要求を満足させることができるハイブリッド車両の提供であるから、両者は解決しようとする課題も同じとはいえない。
そうすると、引用発明1と引用発明2とは、ハイブリッド車両の制御装置の点で共通する部分はあるものの、上記の通り、エンジン、モータ及び変速機の連結構造が異なるものであり、かつ、解決しようとする課題も異なるものであるから、当業者であっても、直ちに引用発明1に引用発明2を組み合わせることはできず、阻害要因があるというべきである。

仮に引用発明1に引用発明2を組み合わせたとしても、「加速重視の第2モードが選択された状態における変速段が、前記状態でない場合の変速段よりも小さくなるように変速機を制御する」ようにすることは想到し得たとしても、「EV走行モード且つ第2モードが選択された特定状態における変速段が、前記特定状態でない場合の前記変速段よりも小さくなるように、前記変速機を制御する」点、即ち、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項については、当業者であっても容易に想到することはできたものとはいえない。また、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者にとって出願前の周知技術ともいえない。
そして、相違点2に係る発明特定事項を有する本願発明1は、「本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置では、変速段変更制御により、EV走行モードからHV走行モードへの切換時のエネルギ効率が向上できる。よって、駆動力不足を好適に回避することができ、パワーモードを選択する搭乗者の満足感を低下させることなく走行を続けることができる。」(本願明細書の段落【0068】)という、引用発明1及び引用発明2からは予測できない、格別の効果を奏するものといえる。
そうすると、本願発明1は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、いずれも本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、当然、上記相違点2に係る発明特定事項を含むものである。
そうすると、本願発明2及び3は、本願発明1についての判断と同様の理由により、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないものである。

3.本願発明4について
本願発明4は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、当然、上記相違点2に係る発明特定事項を含むものである。そして、引用文献3記載事項及び引用文献3のその他の記載事項をみても、上記相違点2に係る発明特定事項に関する記載、あるいは、示唆があるともいえない。
そうすると、本願発明4は、本願発明1についての判断と同様の理由により、引用発明1、引用発明2及び引用文献3記載事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし3は、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。
また、本願発明4は、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。
また、他に本願を拒絶する理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-03-24 
出願番号 特願2016-245626(P2016-245626)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 将一  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 渋谷 善弘
鈴木 充
発明の名称 ハイブリッド車両の制御装置  
代理人 江上 達夫  

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