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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1360958
審判番号 不服2017-477  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-13 
確定日 2020-03-16 
事件の表示 特願2012- 75355「タップ切換器を動作させるためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 8日出願公開、特開2012-217332〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月29日(パリ条約に基づく優先権主張、2011年3月31日:米国)の出願であって、平成24年5月29日に外国語書面の翻訳文が提出され、平成27年3月19日に手続補正書が提出され、平成28年2月16日付けで拒絶の理由が通知され、平成28年4月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年9月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年1月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、当審において平成30年1月30日付けで拒絶の理由が通知され、平成30年3月26日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年7月10日付けで拒絶の理由(最後)が通知され、平成30年11月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和元年5月15日付けの手続却下の決定により、平成30年11月28日に提出された手続補正書に係る手続が却下され、令和元年9月5日付けで拒絶の理由(最後)が通知され、令和元年9月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 令和元年9月14日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年9月14日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正について
本件補正前の特許請求の範囲は、平成30年3月26日に提出された手続補正書に記載された以下のとおりである。
「【請求項1】
電力グリッドにおける電圧調整器のタップ切換器を動作させる方法(50)であって、
或る期間にわたる負荷予測を獲得するステップ(52)と、
前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる平均電圧を算出するステップ(54)と
前記期間中の前記平均電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するステップ(56)と、
前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器にスイッチング信号コマンドを位相毎に与えるステップ(60)とを備え、
前記平均電圧を算出するステップは、或る位相に関して前記平均電圧を算出するステップを備える方法(50)。
【請求項2】
前記或る期間は、1時間、数時間、1日、またはユーザもしくは事業者によって決められた他の任意の適切な時間である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記平均電圧を算出するステップは、前記負荷予測に対して負荷潮流アルゴリズムを実行するステップを備える請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記推定するステップは、前記期間にわたる平坦な電圧値を算出するステップを備える請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記平坦な電圧値は、所定の電圧値を備える請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記所定の電圧値は、タップ位置切換え数を最小限に抑えるように決められる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
或る期間にわたる負荷予測を算出する負荷予測モジュール(92)と、
関心対象の前記期間にわたる位相毎の平均電圧を算出する負荷潮流モジュール(94)と、
前記平均電圧を均一化するための電圧調整器のタップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するタップ位置識別モジュール(96)と、
前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器のタップを位相毎に調整する切換え回路(98)とを備えるタップ切換器制御システム(90)。
【請求項8】
プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに、電力グリッドにおける電圧調整器のタップ切換器を動作させる方法(50)を実行させる、一時的でないコンピュータ可読命令を備えるコンピュータ可読媒体(93)であって、
前記方法は、
或る期間にわたる負荷予測を獲得するステップ(52)と、
前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる平均電圧を算出するステップ(54)と
前記期間中の前記平均電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するステップ(56)と、
前記推定されたタップ位置に基づいて、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを位相毎に与えるステップ(60)とを備え、
前記平均電圧を算出するステップは、或る位相に関して前記平均電圧を算出するステップを備えるコンピュータ可読媒体(93)。」

本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。(当審注:下線は補正箇所を示す。)
「【請求項1】
電力グリッドにおける電圧調整器のタップ切換器を動作させる方法(50)であって、
或る期間にわたる負荷予測を獲得するステップ(52)と、
前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる相毎の電圧を算出するステップ(54)と
前記期間中の前記相毎の電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を推定するステップ(56)と、
前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器にスイッチング信号コマンドを与えるステップ(60)とを備える方法(50)。
【請求項2】
前記或る期間は、1時間、数時間、1日、またはユーザもしくは事業者によって決められた他の任意の適切な時間である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記相毎の電圧を算出するステップは、前記負荷予測に対して負荷潮流アルゴリズムを実行するステップを備える請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記推定するステップは、前記期間にわたる平坦な電圧値を算出するステップを備える請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記平坦な電圧値は、所定の電圧値を備える請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記所定の電圧値は、タップ位置切換え数を最小限に抑えるように決められる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
或る期間にわたる負荷予測を算出する負荷予測モジュール(92)と、
関心対象の前記期間にわたる相毎の電圧を算出する負荷潮流モジュール(94)と、
前記相毎の電圧を均一化するための電圧調整器のタップ切換器のタップ位置を推定するタップ位置識別モジュール(96)と、
前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器のタップを調整する切換え回路(98)とを備えるタップ切換器制御システム(90)。
【請求項8】
プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに、電力グリッドにおける電圧調整器のタップ切換器を動作させる方法(50)を実行させる、一時的でないコンピュータ可読命令を備えるコンピュータ可読媒体(93)であって、
前記方法は、
或る期間にわたる負荷予測を獲得するステップ(52)と、
前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる相毎の電圧を算出するステップ(54)と
前記期間中の前記相毎の電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を推定するステップ(56)と、
前記推定されたタップ位置に基づいて、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを与えるステップ(60)とを備えるコンピュータ可読媒体(93)。」

2.補正の適否
(1)新規事項について
ア.本件補正後の請求項1について
本件補正により、本件補正前の請求項1に記載された「前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる平均電圧を算出するステップ(54)」と、「前記期間中の前記平均電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するステップ(56)」は、それぞれ、「前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる相毎の電圧を算出するステップ(54)」と、「前記期間中の前記相毎の電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を推定するステップ(56)」と補正された。

そこで、これらの事項について、願書に最初に添付した外国語書面の翻訳文(以下、「翻訳文等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

(ア)翻訳文等の記載事項
翻訳文等には、本件補正後の請求項1に記載された「前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる相毎の電圧を算出するステップ(54)」と、「前記期間中の前記相毎の電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を推定するステップ(56)」という事項に関連し、以下の記載がある(下線は当審で付与した。以下、同様。)。

a「【請求項1】
電力グリッドにおける変圧器または電圧調整器のタップ切換器を動作させる方法(50)
であって、
或る期間にわたる負荷予測を獲得するステップ(52)と、
前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる平均電圧プロファイルを算出するステップ(54)と
前記期間中の前記平均電圧プロファイルを均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を推定するステップ(56)と、
前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器にスイッチング信号コマンドを与えるステップ(60)とを備える方法(50)。
【請求項2】
前記平均電圧プロファイルを算出するステップは、或る区域内で或る位相に関してノード電圧の平均を算出するステップを備える請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記区域は、2つのタップ切換器の間のネットワークを備える請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記平均電圧プロファイルを算出するステップは、前記負荷予測に対して負荷潮流アルゴリズムを実行するステップを備える請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記平均電圧プロファイルを均一化するステップは、前記期間にわたる平坦な電圧値を算出するステップを備える請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記平坦な電圧値は、所定の電圧値を備える請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記所定の電圧値は、電圧低減省エネルギー率に基づいて決められることが可能である請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記所定の電圧値は、タップ位置切換え数を最小限に抑えるように決められる請求項6記載の方法。
【請求項9】
或る期間にわたる負荷予測を算出する負荷予測モジュール(92)と、
関心対象の前記期間にわたる平均電圧プロファイルを算出する負荷潮流モジュール(94)と、
前記平均電圧プロファイルを均一化するための変圧器または電圧調整器のタップ切換器のタイプ位置を推定するタップ位置識別モジュール(96)と、
前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器のタップを調整する切換え回路(98)とを備えるタップ切換器制御システム(90)。
【請求項10】
プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに、電力グリッドにおける変圧器または電圧調整器のタップ切換器を動作させる方法(50)を実行させる、一時的でないコンピュータ可読命令を備えるコンピュータ可読媒体(93)であって、
前記方法は、
或る期間にわたる負荷予測を獲得するステップ(52)と、
前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる平均電圧プロファイルを算出するステップ(54)と
前記期間中の前記平均電圧プロファイルを均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を推定するステップ(56)と、
前記推定されたタップ位置に基づいて、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを与えるステップ(60)とを備えるコンピュータ可読媒体(93)。」

b「【発明の概要】
【0007】
本発明の或る実施形態によれば、変圧器または電圧調整器のタップ切換器を動作させるための方法が提供される。この方法は、或る期間にわたる負荷予測を獲得すること、およびその負荷予測に基づいて、その期間にわたる平均電圧プロファイルを算出することを含む。また、この方法は、その期間中の平均電圧プロファイルを均一化するためのタップ切換器のタップ位置を推定すること、およびその推定されたタップ位置に基づいて、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを与えることも含む。
【0008】
本発明の別の実施形態によれば、負荷予測モジュールと、負荷潮流モジュールと、タップ位置識別モジュールと、切換え回路をとを含むタップ切換器制御システムが提供される。負荷予測モジュールは、或る期間にわたる負荷予測を算出し、負荷潮流モジュールは、関心対象の期間にわたる平均電圧プロファイルを算出する。タップ位置識別モジュールは、その平均電圧プロファイルを均一化するための変圧器または電圧調整器のタップ切換器に関するタイプ位置を推定し、切換え回路は、その推定されたタップ位置に基づいて、タップ切換器のタップを調整する。
【0009】
本発明のさらに別の実施形態によれば、プロセッサによって実行されると、そのプロセッサに、電力グリッドにおける変圧器または電圧調整器のタップ切換器を動作させる方法を実行させる、一時的でないコンピュータ可読命令を備えるコンピュータ可読媒体が提供される。この方法は、或る期間にわたる負荷予測を獲得すること、およびその負荷予測に基づいて、その期間にわたる平均電圧プロファイルを算出することを含む。また、この方法は、その期間中の平均電圧プロファイルを均一化するためのタップ切換器のタップ位置を推定すること、およびその推定されたタップ位置に基づいて、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを与えることも含む。」

c「【0014】
送電レベル電圧における電力は、電力を長距離、運ぶように構成された一次送電線20によって送電変電所14に送られる。送電変電所14において、二次送電線22を介してシステム内の他のポイントに配電するために電圧の低減が行われる。商業負荷および工業負荷、または住宅負荷18のためのさらなる電圧低減が、配電変電所16において行われることが可能である。配電変圧器16は、例えば、4kVから34.5kVまでの範囲内の電圧で電力を供給することが可能である。これらの電圧は、配電変電所16において、または配電変電所16から電力を受け取る他のローカル変電所(図示せず)において、さらなる1レベル、または2レベル、さらに低減されて、120Vまたは240Vなどの、より低い電圧で住宅負荷に電力が供給されることが可能である。送電変電所14または配電変電所16において電圧を下げるために、固定降圧変圧器が使用されることが可能である。通常、降圧変圧器は、0.9から1.1までの電圧比範囲(=Vout/Vin)にわたって変圧器の1つまたは複数の位相の出力電圧を独立に変えることができる電圧調整器と組み合わされる。さらなる電圧調整器(図示せず)が、電圧調整器からネットワークのさらに下流で電圧および無効電力を調整するために配電システム内に、または配電変電所16に配置されることが可能である。電圧調整器は、配電変電所に配置されると、OLTC(オンロードタップ切換器)と呼ばれる。以降、タップ切換器という用語は、電圧調整器とOLTCの両方を表すのに使用されることに留意されたい。さらに、電圧調整器とOLTCは、互換的に使用されることが可能である。」

d「【0019】
負荷予測は、関心対象の期間の任意の所与の時点で各位相がどれだけの負荷を有することが可能であるかを特定するのに役立つ。この情報は、配電システム上で負荷潮流を流して、様々なポイントにおける電圧について状態を推定するのに使用されることが可能である。負荷予測技術は、時間、気象条件、顧客タイプ、配電システム条件、ならびに履歴上の負荷および気象データなどの様々な要因を利用して、負荷予測をもたらす。当業者には認識されるとおり、負荷予測方法は、類似日アプローチ、様々な回帰モデル、時系列、ニューラルネットワーク、エキスパートシステム、ファジー論理、および統計学習アルゴリズムを含むことが可能である。
【0020】
各時間ステップに関して負荷予測が獲得されると、ステップ54で、各区域および各位相に関して平均電圧プロファイルが算出されることが可能である。一実施形態において、区域とは、2つのタップ切換器の間の電力ネットワークまたは配電システムを指す。例えば、電圧が、固定降圧変圧器を介して69kVから34.5kVまで下げられ、別の配電変電所における第2の降圧変圧器を介して12.47kVまでさらに低減された場合、その34.5kVから第2の12.47kVまでの間の電力システムが、1つの区域と見なされる。次に、配電システム内の各ノードに関する電圧が、12.47kVを、この区域の各位相に関するベース電圧として使用して、算出されることが可能である。当業者には認識されるとおり、このベース電圧値は、計算目的で数量を共通ベースに正規化するために利用される。タップ切換器または電圧調整器は、送電システムと配電システムの間の連係部における第1の降圧変圧器の出力、および第2の12.47kV変電所に配置されて、0.9pu(単位当り)から1.1puまでの電圧比範囲内の配電電圧のさらなる調整が許されることが可能である。ノード電圧を算出するのに、負荷潮流アルゴリズムが利用されることが可能である。負荷潮流アルゴリズムは、予測される有効負荷および無効負荷に関して、配電システム上の各バスまたは各ノードに関する完全な電圧位相角および電圧振幅の情報を獲得する。有効負荷情報および無効負荷情報に基づいて電圧情報を算出することは、非線形問題であるので、数値法が、許容できる公差の範囲内の解を得るのに使用される。負荷潮流アルゴリズムのための数値法には、例えば、ウイリアムカースティングの後退/前進掃引アルゴリズムが含まれることが可能である。次に、平均電圧プロファイルが、各位相および各期間に関して配電システム内のすべてのノード電圧の平均を計算することによって、算出されることが可能である。一実施形態において、電圧プロファイルは、タップ切換器の複数のタイプのうち半数がオン位置にある状態で計算される。つまり、タップ切換器に、電圧を上げるようにそれぞれが設計された(0のタップと比べて)32のタップが存在する場合、電圧プロファイルは、タップ切換器の16のタップがオン位置にある状態で算出される。しかし、他の実施形態において、電圧プロファイルは、異なるタイプ位置で算出されることが可能である。」

e「【0021】
ステップ54で電圧プロファイルが算出されると、ステップ56で、その電圧プロファイルを均一化する、関心対象の期間にわたるタップ切換器のタップ位置が推定される。一実施形態において、電圧プロファイルを均一化することは、関心対象の期間全体にわたって一定の電圧を得ることを意味することに留意されたい。この電圧は、完全に一定ではなくてもよく、或る変動を含んでもよいが、考え方は、全体的な電圧プロファイルが大きな変動を有してはならないということである。電圧プロファイルを均一化するのに、平坦な電圧値または所望される値と呼ばれる或る量の電圧が、関心対象の期間にわたって固定されることが可能である。一実施形態において、平坦な電圧値は、タップ位置切換えの数が最小限に抑えられるように決定されることが可能である。別の実施形態において、平坦な電圧値は、電圧プロファイルの最小電圧と最大電圧の平均値であることが可能であり、あるいはさらに別の実施形態において、平坦な電圧値は、中央値であることも可能である。タップ位置を推定するために、すなわち、オンまたはオフにされる必要があるタップの概数を識別するのに、平均電圧プロファイルと平坦な電圧値の差を、1タップ当りの電圧で割ることが可能である。平坦な電圧値が、平均電圧プロファイル値より高い場合、さらなる1つまたは複数のタップがオンにされることが可能である。そうではなく、平坦な電圧値が、平均電圧プロファイル値より低い場合、所望される一次対二次電圧比に応じて、1つまたは複数のタップがオフにされることが可能である。例えば、所望される平坦な電圧値が、0.98puであり、さらに特定の期間における予測される平均電圧が、0.9675puである場合、0.98puを実現するのに、0.00625puボルト/タップを想定して、複数のタップのうち2つがオンにされることが可能である。同様に、その電圧が0.88puである場合、16のタップがオンにされることが可能である。」

f「【0022】
図4は、本発明の或る実施形態に従って算出された電圧プロファイルの例示的なプロット70および71を示す。両方のプロット70、71の水平軸72は、時間単位の時間を表すのに対して、垂直軸74は、区域内のすべてのノードにわたる平均電圧をpu(単位当り)で表す。プロット70から、予測される平均電圧プロファイル76は、24時間の期間にわたって、所望される平坦な電圧値(例えば、0.98pu)より約2タップ設定低い最小値から、所望される平坦な電圧値より約2タップ設定高い最大値まで変化することを見て取ることができる。さらに、プロット71は、本発明の或る実施形態による、タップ切換器動作に基づく、もたらされた平均電圧プロファイル77を示す。このもたらされた平均電圧プロファイル77は、タップ設定を3回調整して計算されている。第1のタップ切換えは、2タップ設定が増加されて午前4時に行われ、第2のタップ切換え、および第3のタップ切換えは、各調整で2タップ設定が低減されて、それぞれ午後8時および午後10時に行われている。」

g「【0023】
図3を再び参照すると、ステップ56で平坦な電圧値が達せられる、または実現されると、この電圧は、ステップ58で、関心対象の期間全体にわたって単一タップ切換え分、規定された電圧までさらに上げられる、または下げられることが可能である。例えば、平坦な電圧値が、関心対象の期間(例えば、24時間)全体にわたって1.00125puであり、規定された電圧値が、0.98puである場合、現在のタップ設定は、3タップ(0.00625ボルト/タップ)分、低減されなければならない。一実施形態において、規定された電圧値を獲得する前に、新たに識別されたタップ設定で電力潮流アルゴリズムが再び利用されて、平均電圧プロファイルに大きな変化が生じたかどうかが検証されることが可能である。別の実施形態において、この規定された電圧は、ユーティリティ会社によって決められることが可能であり、CVR(電圧低減省エネルギー)率に基づく。当業者には認識されるとおり、CVR率は、電圧の1パーセント低減からもたらされる負荷消費量の低減パーセンテージである。いくつかの実施形態において、CVR率は、0.4から1.0までに及ぶことが可能である。関心対象の期間にわたってタップ調整器のタップを切り換えるためのスケジュールが決定されると、この情報が、ステップ60で、図1のEMS28またはDMS32によってタップ切換器のタップに適切なスイッチング信号コマンドが与えられることによって、タップ切換器を動作させるために利用されることが可能である。」

h「【0024】
図5は、本発明の或る実施形態によるタップ切換器制御システム90を示す。システム90は、1時間または24時間、あるいは事業者によって決められた他の任意の時間であることが可能な或る期間にわたる負荷予測を獲得するための負荷予測モジュール92を備えるメモリ93に結合されたプロセッサ91を含む。本明細書で使用される場合、モジュールという用語は、説明される機能を提供するコンピュータプログラムまたはコンピュータコードを指す、または含むことが可能であることに留意されたい。負荷潮流モジュール94が、負荷予測モジュール92から獲得された負荷予測データ上で電力潮流を流し、平均電圧プロファイル、すなわち、その期間にわたり所与の区域内で位相のそれぞれに関してすべてのノードにわたる平均電圧を算出する。この区域は、2つのタップ切換器の間の電力ネットワークであることが可能である。タップ位置識別モジュール96が、その電圧プロファイルを均一化する平坦な電圧値を算出し、平坦な電圧プロファイルを実現するその期間全体にわたるタップ位置をさらに推定する。一実施形態において、モジュール96は、平坦な電圧プロファイルを所定の電圧値プロファイルに変える、関心対象の期間にわたるタップ位置をさらに識別することが可能であり、この所定の電圧値は、CVR率に基づいて決められることが可能である。プロセッサ91が、メモリ93から獲得されたデータを処理し、スイッチング信号コマンドをスイッチング回路98に与える。一実施形態において、スイッチング信号コマンドは、1または0の値を有するデジタル信号であることが可能である。スイッチング信号コマンドが1である場合、このことは、それぞれのタップがオンにされるべきことを意味することが可能である。同様に、スイッチング信号コマンドが0である場合、このことは、それぞれのタップをオフにすべきことを示していることが可能である。スイッチング信号コマンドがオンである場合、それぞれのタップはオンにされるのに対して、スイッチング信号コマンドがオフである場合、タップはオフにされる。次いで、スイッチング回路98は、タップ位置識別モジュール96によって関心対象の期間について決められた修正タップ位置に基づいて、タップ切換器のタップにスイッチング信号を与える。」

(イ)電圧を算出するステップ(54)で算出され、均一化される電圧について
本件補正後の請求項1に記載された「前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる相毎の電圧を算出するステップ(54)」と、「前記期間中の前記相毎の電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を推定するステップ(56)」は、平均電圧ではない電圧を算出し、平均電圧ではない電圧を均一化することを含むものであるが、翻訳文等(前記(ア)a?h参照。)には、負荷予測等に基づいて、平均電圧プロファイル、すなわち、その期間にわたり所与の区域内で位相のそれぞれに関してすべてのノードにわたる平均電圧を算出し、この平均電圧プロファイルを均一化するようにタップ位置を推定することは記載されているものの、「平均電圧ではない電圧」を均一化するようにタップ位置を推定することは記載も示唆もされていない。
また、前記したように翻訳文等には、負荷予測等に基づいて、平均電圧プロファイルを算出し、この平均電圧プロファイルを均一化することが記載されているが、プロファイル(profile)が、一般に「輪郭、外形」等の意味を持つことを考慮すると、「平均電圧プロファイル」とは、平均電圧を波形等の何らかの輪郭、外形で表現したものを意味していると解される。一方、本件補正後の請求項1に記載された「前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる相毎の電圧を算出するステップ(54)」と、「前記期間中の前記相毎の電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を推定するステップ(56)」においては、プロファイルという用語が用いられていないから、この「相毎の電圧」は、波形等の何らかの輪郭、外形で表現されたもの以外の、単に数値で表現されたものを含み得るものである。そして、単に数値で表現された「電圧」を均一化するようにタップ位置を推定することは、翻訳文等に記載も示唆もされていない。

(ウ)相毎の電圧を均一化するためのタップ位置の推定について
本件補正後の請求項1に記載された「前記期間中の前記相毎の電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を推定するステップ(56)」は、相毎の電圧を均一化するためのタップ位置を推定するものであるが、翻訳文等(前記(ア)a?h参照。)には、電圧(平均電圧プロファイル)を均一化するためのタップ位置を推定することは記載されているものの、「相毎の電圧」を均一化するためのタップ位置を推定することは記載も示唆もされていない。
また、翻訳文等には、電圧調整器が、変圧器の複数の位相の出力電圧を独立に変えることができること(前記(ア)c参照。)や、各位相に関して平均電圧プロファイルが算出されること(前記(ア)a、d参照。)が記載されており、仮に、この「位相」が、「相」の誤記であったとしても、「相毎の電圧」を均一化するためのタップ位置を推定することまでは、記載や示唆がされていない。

(エ)まとめ
そうすると、本件補正後の請求項1に記載された「前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる相毎の電圧を算出するステップ(54)」と、「前記期間中の前記相毎の電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を推定するステップ(56)」は、翻訳文等に記載がなく、翻訳文等から自明でもないから、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

イ.本件補正後の請求項7について
本件補正後の請求項7は「関心対象の前記期間にわたる相毎の電圧を算出する負荷潮流モジュール(94)」と、「前記相毎の電圧を均一化するための電圧調整器のタップ切換器のタップ位置を推定するタップ位置識別モジュール(96)」と記載されるものとなった。
そこで、これらの事項について、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討すると、翻訳文等には、前記ア.(イ)で示したように、「平均電圧ではない電圧」を算出し、「平均電圧ではない電圧」を均一化することは記載も示唆もされておらず、また、前記ア.(ウ)で示したように、「相毎の電圧」を均一化するためのタップ位置を推定することは記載も示唆もされていない。
そうすると、本件補正後の請求項7に記載された「関心対象の前記期間にわたる相毎の電圧を算出する負荷潮流モジュール(94)」と、「前記相毎の電圧を均一化するための電圧調整器のタップ切換器のタップ位置を推定するタップ位置識別モジュール(96)」は、翻訳文等に記載がなく、翻訳文等から自明でもないから、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

ウ.本件補正後の請求項8について
本件補正後の請求項8は「前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる相毎の電圧を算出するステップ(54)」と、「前記期間中の前記相毎の電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を推定するステップ(56)」と記載されるものとなった。
そこで、これらの事項について、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討すると、翻訳文等には、前記ア.(イ)で示したように、「平均電圧ではない電圧」を算出し、「平均電圧ではない電圧」を均一化することは記載も示唆もされておらず、また、前記ア.(ウ)で示したように、「相毎の電圧」を均一化するためのタップ位置を推定することは記載も示唆もされていない。
そうすると、本件補正後の請求項8に記載された「前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる相毎の電圧を算出するステップ(54)」と、「前記期間中の前記相毎の電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を推定するステップ(56)」は、翻訳文等に記載がなく、翻訳文等から自明でもないから、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

エ.新規事項についてのまとめ
本件補正後の請求項1、7、8の記載は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものではなく、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(2)目的要件について
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」は、同法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。また、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
本件補正後の請求項1は「負荷予測を獲得するステップ(52)」と、「電圧を算出するステップ(54)」と、「タップ位置を推定するステップ(56)」と、「スイッチング信号コマンドを与えるステップ(60)」とを備える「方法(50)」であって、本件補正の前後で請求項の数に変更もないから、本件補正前の請求項1と対応するものであることは明らかである。そこで、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1に対応するものとして検討する。

本件補正前の請求項1には「前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる平均電圧を算出するステップ(54)」、「前記平均電圧を算出するステップは、或る位相に関して前記平均電圧を算出するステップを備える」とあったものが、本件補正後の請求項1には「前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる相毎の電圧を算出するステップ(54)」とあり、本件補正前の請求項1の「ステップ(54)」で「位相に関して」算出される「平均電圧」が、請求項1についてする補正により「相毎の電圧」となり、「ステップ(54)」において、前記(1)ア.(イ)で検討したとおり、「平均電圧」ではないものを算出することを含むこととなった。すると、この請求項1についてする補正は、補正前の請求項1に記載された発明特定事項を、概念的により下位の発明特定事項とする補正とはいえないから、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当しないものであり、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。
また、この請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載された「平均電圧を算出するステップ(54)」について、令和元年9月5日付け拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示された「平均電圧」の算出の定義や、「期間にわたる平均」の意味等を明りょうにするものとはいえないから、特許法第17条の2第5項第4号の「明りょうでない記載の釈明」に該当しない。
そして、この請求項1についてする補正が、特許法第17条の2第5項第1号の「請求項の削除」、同法第17条の2第5項第3号の「誤記の訂正」を目的としたものでないことも明らかである。

また、本件補正前の請求項7に対応する本件補正後の請求項7についてする補正、本件補正前の請求項8に対応する本件補正後の請求項8についてする補正も同様である。

3.むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、前記第1[理由]1.に示した平成30年3月26日に提出された手続補正書により補正(以下、「本件補正2」という。)された特許請求の範囲の請求項の1?8に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2.当審の最後の拒絶の理由
当審より平成30年7月10日付けで通知した最後の拒絶の理由、及び令和元年9月5日付けで通知した最後の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。

「理由1.(新規事項)平成30年3月26日付け手続補正書でした補正は、以下の点で外国語書面の翻訳文、又は誤訳訂正書による補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面(以下「翻訳文等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

●理由1(新規事項)について
本件補正により、請求項1に「前記期間中の前記平均電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するステップ(56)」及び「前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器にスイッチング信号コマンドを位相毎に与えるステップ(60)」と記載された。
また、本件補正後の請求項7には「前記平均電圧を均一化するための電圧調整器のタップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するタップ位置識別モジュール(96)」及び「前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器のタップを位相毎に調整する切換え回路(98)」と記載され、請求項8には「前記期間中の前記平均電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するステップ(56)」及び「前記推定されたタップ位置に基づいて、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを位相毎に与えるステップ(60)」と記載された。
請求項1,7及び8に上記のとおり記載されたことにより、当該請求項には、「前記期間中の前記平均電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置」を「推定」することを「位相毎に」行うという補正事項、及び「前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器にスイッチング信号コマンド」を「与え」て、「タップ」を「調整」することを「位相毎に」行うという補正事項が追加された。
翻訳文等には、「前記期間中の前記平均電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置」を「推定」すること、及び「前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器にスイッチング信号コマンド」を「与え」て、「タップ」を「調整」することは記載されている。しかし、これらのことを「位相毎に」行うという上記補正事項は、翻訳文等には何ら記載されていない。
請求人は意見書において、本件補正の根拠について、「タップ位置を位相毎に推定する点は、少なくとも図1-3及び、本願明細書第0014、0019、0020段落」、及び「タップ切換器のタップを位相毎に調整する点は、少なくとも図1-3及び、本願明細書第0014、0023段落」の記載を挙げて主張する。
しかし、請求人が本件補正の根拠として挙げた翻訳文等の記載を参照しても、タップ位置を推定すること、及びタップ切換器にスイッチング信号コマンドを与えてタップを調整することを「位相毎に」行うという上記補正事項は何ら記載されておらず、当該事項が翻訳文等の記載から自明な事項であるという根拠も見いだせない。
したがって、本件補正後の請求項1,7及び8に記載された上記補正事項は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではないから、本件補正は翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。」

「理由2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由3.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由4.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

●理由2(明確性)、理由3(サポート要件)、理由4(実施可能要件)について
・請求項 1-8
(1)請求項1には、「前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる平均電圧を算出するステップ(54)」、「前記平均電圧を算出するステップは、或る位相に関して前記平均電圧を算出するステップを備える」と記載されているが、「平均電圧」の算出の定義(「電力グリッド」内のどの箇所における何の電圧の値を加算して分子とし、どのような値を分母として平均を算出するのか)が明確ではない。
更に、「前記期間にわたる平均」とは、「前記期間」にわたって積分したものを「前記期間」の長さで割ったもので、その結果は「前記期間」にわたる特定の値であるものなのか、それとも算出結果は「前記期間」にわたる波形になるのか(図4では、電圧プロファイルのプロット70が24時間における波形として記載されている。)、請求項1の記載では明確ではない。
更に、「或る位相に関して前記平均電圧を算出する」とはどのような算出を意味するのか、発明の詳細な説明の記載を参照しても不明である。一般的に「位相」とは「振動や波動のような周期運動で、1周期内の進行段階を示す量。1周期ごとに同じ値となる。」[広辞苑第六版]という意味であるが、特定の位相(例えば、30°や60°)に関して平均電圧を算出することの技術的な意味が不明であり、その結果、発明が明確ではない。「位相」という用語(願書に添付した外国語書面では“phase”と記載されている。)について、発明の詳細な説明には、「変圧器の1つまたは複数の位相の出力電圧を独立に変える」(段落0014)、「各位相がどれだけの負荷を有することが可能であるか」(段落0019)と記載されているが、「位相」の意味が上記のとおりであることを考えると、「変圧器の1つまたは複数の位相の出力電圧」や、「位相」が「負荷を有する」という上記記載は意味が不明である。発明の詳細な説明の上記記載からみて、“phase”の翻訳としては、「位相」ではなく、「相」(「三相」や「単相」の「相」)が適当と考えられる。請求人は意見書において、「「三相変圧器」と「位相」をキーワードにgoogleなどの一般的な検索エンジンで検索すると14万件以上のヒットがあるように、「位相」は広く使用されている用語でありますので、上記ご指摘は失当であると思料致します。」と主張するが、広く使用されている用語が必ず正しい訳になるとは限らず、上記のとおり意味不明な記載となっているのであるから、上記主張は失当である(なお、請求人は、図1に含まれる“3 phase power line”という記載については、「三位相電力線」ではなく「三相電力線」と訳している。)。
したがって、請求項1に係る発明は明確でなく、また、請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との対応関係が不明であるから、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。更に、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度まで発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(2)発明の詳細な説明では、図1に記載された、全体的な電力システム10について説明されているが、請求項1記載の「電圧調整器」とは、負荷18に直接接続された(負荷18までに更なる電圧低減がない)配電変圧器16のみが該当するのか、負荷18には直接接続されない(負荷18までに更なる電圧低減がある)送電変電所14が該当するのか、その両方であるのか、それら以外であるのかが不明であるので、請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との対応関係が不明である。送電変電所14が請求項1記載の「電圧調整器」に該当する場合には、「負荷予測」とは、送電変電所14の2次側全体(複数の配電変圧器16、及び各配電変圧器16の2次側にある複数の負荷18の全体)の変動予測を意味するのか、負荷18のみの変動予測を意味するのか、明確ではない。これらの点について、発明の詳細な説明の記載においても不明瞭である。
したがって、請求項1に係る発明は明確でなく、また、請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との対応関係が不明であるから、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

(3)上記(1)ないし(2)の点に関し、請求項7及び8、並びに請求項1を引用する請求項2-6についても同様である。

以上、上記(1)ないし(3)のとおり、請求項1-8の記載は明確ではなく、また、請求項1-8に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。更に、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。」

3.最後の拒絶の理由についての当審の判断
(1)特許法第17条の2第3項について
ア.本件補正2後の請求項1について
本件補正2後の請求項1は「前記期間中の前記平均電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するステップ(56)」と、「前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器にスイッチング信号コマンドを位相毎に与えるステップ(60)」と記載されるものとなった。

そこで、これらの事項について、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

(ア)翻訳文等の記載事項
翻訳文等の記載事項は、前記第2[理由]2.(1)ア.(ア)に示した事項と同様である。

(イ)タップ位置を位相毎に推定し、スイッチング信号コマンドを位相毎に与えることについて
本件補正2後の請求項1に記載された「前記期間中の前記平均電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するステップ(56)」と、「前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器にスイッチング信号コマンドを位相毎に与えるステップ(60)」は、平均電圧を均一化するためのタップ位置を位相毎に推定し、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを位相毎に与えるものであるが、翻訳文等(前記第2[理由]2.(1)ア.(ア)a?h参照。)には、平均電圧プロファイルを均一化するためのタップ位置を推定し、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを与えることは記載されているものの、タップ位置を「位相毎に」推定し、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを「位相毎に」与えることは記載も示唆もされていない。
ここで、翻訳文等には、電圧調整器が、変圧器の複数の位相の出力電圧を独立に変えることができること(前記第2[理由]2.(1)ア.(ア)c参照。)や、各位相に関して平均電圧プロファイルが算出されること(前記第2[理由]2.(1)ア.(ア)a、d参照。)が記載されているが、タップ位置を「位相毎に」推定し、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを「位相毎に」与えることまでは、記載や示唆がされていない。

(ウ)まとめ
そうすると、本件補正2後の請求項1に記載された「前記期間中の前記平均電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するステップ(56)」と、「前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器にスイッチング信号コマンドを位相毎に与えるステップ(60)」は、翻訳文等に記載がなく、翻訳文等から自明でもないから、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

イ.本件補正2後の請求項7について
本件補正2後の請求項7は「前記平均電圧を均一化するための電圧調整器のタップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するタップ位置識別モジュール(96)」と、「前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器のタップを位相毎に調整する切換え回路(98)」と記載されるものとなった。
そこで、これらの事項について、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討すると、翻訳文等には、前記ア.(イ)で示したように、タップ位置を「位相毎に」推定し、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを「位相毎に」与えることは記載も示唆もされていない。
そうすると、本件補正2後の請求項7に記載された「前記平均電圧を均一化するための電圧調整器のタップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するタップ位置識別モジュール(96)」と、「前記推定されたタップ位置に基づいて、前記タップ切換器のタップを位相毎に調整する切換え回路(98)」は、翻訳文等に記載がなく、翻訳文等から自明でもないから、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

ウ.本件補正2後の請求項8について
本件補正2後の請求項8は「前記期間中の前記平均電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するステップ(56)」と、「前記推定されたタップ位置に基づいて、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを位相毎に与えるステップ(60)」と記載されるものとなった。
そこで、これらの事項について、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討すると、翻訳文等には、前記ア.(イ)で示したように、タップ位置を「位相毎に」推定し、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを「位相毎に」与えることは記載も示唆もされていない。
そうすると、本件補正2後の請求項8に記載された「前記期間中の前記平均電圧を均一化するための前記タップ切換器のタップ位置を位相毎に推定するステップ(56)」と、「前記推定されたタップ位置に基づいて、タップ切換器にスイッチング信号コマンドを位相毎に与えるステップ(60)」は、翻訳文等に記載がなく、翻訳文等から自明でもないから、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

エ.新規事項についてのまとめ
本件補正2後の請求項1、7、8の記載は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものではなく、本件補正2は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(2)特許法第36条第4項第1号、並びに第6項第1号及び第2号について
ア.平均電圧について
本件補正2後の請求項1には、「前記負荷予測に基づいて前記期間にわたる平均電圧を算出するステップ(54)」、「前記平均電圧を算出するステップは、或る位相に関して前記平均電圧を算出するステップを備える」と記載されているが、「平均電圧」の算出の定義(「電力グリッド」内のどの箇所における何の電圧の値を加算して分子とし、どのような値を分母として平均を算出するのか)が明確ではない。
また、「前記期間にわたる平均」とは、「前記期間」にわたって積分したものを「前記期間」の長さで割ったもので、その結果は「前記期間」にわたる特定の値であるものなのか、それとも算出結果は「前記期間」にわたる波形になるのか(図4では、電圧プロファイルのプロット70が24時間における波形として記載されている。)、請求項1の記載では明確ではない。
ここで、発明の詳細な説明の段落【0020】には、「各時間ステップに関して負荷予測が獲得されると、ステップ54で、各区域および各相に関して平均電圧プロファイルが算出されることが可能である。・・・次に、平均電圧プロファイルが、各相および各期間に関して配電システム内のすべてのノード電圧の平均を計算することによって、算出されることが可能である。・・・」と記載されているが、本件補正2後の請求項1に記載された「平均電圧」は、「プロファイル」という限定がされておらず、発明の詳細な説明に記載された「平均電圧プロファイル」以外のものを含み得るのであるから、発明の詳細な説明の前記記載を考慮しても、請求項1に記載された「平均電圧」の算出の定義が明確でなく、また、「前記期間にわたる平均」の意味が明確でない。
さらに、「或る位相に関して前記平均電圧を算出する」とはどのような算出を意味するのか、発明の詳細な説明の記載を参照しても不明である。一般的に「位相」とは「振動や波動のような周期運動で、1周期内の進行段階を示す量。1周期ごとに同じ値となる。」[広辞苑第六版]という意味であるが、或る位相(例えば、30°や60°)に関して平均電圧を算出するという記載により、どのような事項を特定しようとしているのかが明確でない。
したがって、請求項1に係る発明は明確でなく、また、請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との対応関係が不明であるから、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。さらに、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度まで発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとはいえない。
請求項1を引用する請求項2?請求項6に係る発明、請求項1と同様の記載がある請求項7及び請求項8に係る発明についても同様である。

イ.電圧調整器と負荷予測との関係について
本件補正2後の請求項1には、「或る期間にわたる負荷予測を獲得するステップ(52)」と記載されているが、電圧調整器が設けられる箇所(例えば、「送電変電所14」、「配電変圧器16」)と、負荷予測を行う負荷の範囲との関係が明確でない。
例えば、発明の詳細な説明の記載において、電圧調整器が送電変電所14に設けられる場合、送電変電所14の2次側全体(送電変電所14と配電変電所16の間に接続された負荷18、及び複数の配電変電所16のそれぞれの2次側に接続された全ての負荷18)の負荷予測を行うのか、送電変電所14の2次側の一部(送電変電所14と配電変電所16の間に接続された負荷18のみ、又は複数の配電変電所16のうちの一部の配電変電所16の2次側に接続された負荷18のみ等)の負荷予測を行うのかが、発明の詳細な説明の記載を参酌しても不明である。
したがって、請求項1に係る発明は明確でなく、また、請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との対応関係が不明であるから、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。さらに、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度まで発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとはいえない。
請求項1を引用する請求項2?請求項6に係る発明、請求項1と同様の記載がある請求項7及び請求項8に係る発明についても同様である。

第4 むすび
本件補正2後の請求項1、7、8の記載は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。
本件補正2後の請求項1?8に係る発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明に記載したものといえないから、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、さらに、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件補正2後の請求項1?8に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
そうすると、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-10-15 
結審通知日 2019-10-18 
審決日 2019-10-30 
出願番号 特願2012-75355(P2012-75355)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02J)
P 1 8・ 561- WZ (H02J)
P 1 8・ 537- WZ (H02J)
P 1 8・ 536- WZ (H02J)
P 1 8・ 55- WZ (H02J)
P 1 8・ 572- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 晃猪瀬 隆広  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 久保 竜一
柿崎 拓
発明の名称 タップ切換器を動作させるためのシステムおよび方法  
代理人 田中 拓人  
代理人 黒川 俊久  
代理人 小倉 博  

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