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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1361037
審判番号 不服2019-3005  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-04 
確定日 2020-03-19 
事件の表示 特願2015-502993「真空断熱材」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月 4日国際公開、WO2014/133037〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年2月26日(優先権主張2013年2月26日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年2月20日付けで拒絶理由通知
平成30年6月28日に意見書及び手続補正書の提出
平成30年11月29日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成31年3月4日に審判請求書及び手続補正書の提出
令和元年6月3日に上申書の提出

第2 平成31年3月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年3月4日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
芯材及び前記芯材を封入している外皮を有する真空断熱材であって、
前記外皮は、熱融着層を含み、かつその端部において対向している前記熱融着層が互いに熱融着されて封止部を形成しており、
前記芯材は、使用時に相対的に高温側にさらされる第一主平面、及び前記第一主平面に対向しており、かつ使用時に相対的に低温側にさらされる第二主平面を有し、
前記封止部の少なくとも一部は、前記第二主平面側に位置しており、
前記外皮が前記芯材の端面で折り返されることで前記封止部の少なくとも一部は、前記第二主平面側に位置しており、前記外皮の折り返し部分の長さは、前記芯材の端面を起点に10mm以上80mm以下である、
真空断熱材。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
芯材及び前記芯材を封入している外皮を有する真空断熱材であって、
前記外皮は、熱融着層を含み、かつその端部において対向している前記熱融着層が互いに熱融着されて封止部を形成しており、
前記芯材は、使用時に相対的に高温側にさらされる第一主平面、及び前記第一主平面に対向しており、かつ使用時に相対的に低温側にさらされる第二主平面を有し、
前記封止部の少なくとも一部は、前記第二主平面側に位置しており、
前記外皮が前記芯材の端面で折り返されることで前記封止部の少なくとも一部は、前記第二主平面側に位置しており、前記外皮の折り返し部分の長さは、前記芯材の端面を起点に10mm以上である、
真空断熱材。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1における「前記外皮の折り返し部分の長さは、前記芯材の端面を起点に10mm以上である」との記載を、「前記外皮の折り返し部分の長さは、前記芯材の端面を起点に10mm以上80mm以下である」とすることにより、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「外皮の折り返し部分の長さ」について、上限の長さを「80mm以下」に限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2004-332929号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線は当審において付したものである。また、「・・・」は記載の省略を示す。)。
「【請求項5】
芯材と、熱溶着層とガスバリア層と保護層とを有するラミネート構造の外被材とを備え、前記熱溶着層が融点200℃未満の樹脂フィルムからなり、前記保護層が融点200℃以上のフィルムからなるもので、前記芯材を前記外被材で覆って内部を減圧して芯材周囲を熱溶着により封止したときに形成される外被材のヒレ部を、相対する断熱面の低温側に折り曲げたことを特徴とする真空断熱材。」

「【0001】
本発明は、真空断熱材及びその真空断熱材を使用した機器に関するもので、複写機やレーザープリンタ等の印刷装置、コンピュータ等の電子機器、更には給湯機器等、特に高温部分を有する機器の断熱及び保温に関するものである。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように従来の真空断熱材は、電気湯沸し器のように使用部位の温度が100℃以下のときは、長期間に渡って充分に断熱性能を維持することができたが、電器湯沸し器でも、貯湯容器の底面のヒーターが配設された部位や、複写機やレーザープリンタに用いられる定着装置のように、使用部位の温度が150℃程度になるときには、耐熱性が不足する部分から少しずつ真空度が低下し、長期間に渡って所定の断熱性能を維持することができなかった。
・・・
【0007】
本発明は、外被材のラミネート構成に耐熱性を持たせることにより、150℃以上の高温領域においても長期間に渡って断熱性能を維持することができる真空断熱材を提供することを目的とする。
・・・【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、芯材と、熱溶着層とガスバリア層と保護層とを有するラミネート構造の外被材とを備えた真空断熱材において、前記熱溶着層が融点200℃以上の樹脂フィルムからなり、前記ガスバリア層及び前記保護層の樹脂フィルムの融点が、前記熱溶着層の樹脂フィルムの融点よりも高いことを特徴とする。
【0011】
これにより、150℃程度の高温雰囲気においても熱溶着層のフィルムが溶け出すことがなく、ガスバリア性の低下を少なく抑えることができ、高温雰囲気に曝される製品部位等への使用においても長期間真空断熱材の断熱性能を維持することができる。
・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ラミネート構造の外被材の熱溶着層が融点200℃以上のフィルムからなるため、150℃程度の高温雰囲気においてもガスバリア性の低下を少なく抑えることができ、長期間真空断熱材の断熱性能を維持することができるとともに、ガスバリア層や保護層に熱溶着層のフィルムよりも融点が高いフィルムを使用しているため、外被材を熱溶着するときにも問題なく真空断熱材を作製することができる。」

「【0015】
真空断熱材が使用できる周囲温度を熱溶着層のフィルムの融点に対して50K低い温度とすると、融点200℃以上のフィルムであれば150℃程度の高温雰囲気においても熱溶着層のフィルムが溶け出すことがなく、ガスバリア性の低下を少なく抑えることができ、高温雰囲気に曝される製品部位等への使用においても長期間真空断熱材の断熱性能を維持することができる。」

「【0020】
本発明の請求項5に記載の真空断熱材の発明は、芯材と、熱溶着層とガスバリア層と保護層とを有するラミネート構造の外被材とを備え、前記熱溶着層が融点200℃未満の樹脂フィルムからなり、前記保護層が融点200℃以上のフィルムからなるもので、前記芯材を前記外被材で覆って内部を減圧して芯材周囲を熱溶着により封止したときに形成される外被材のヒレ部を、相対する断熱面の低温側に折り曲げたことを特徴とする。
【0021】
芯材を前記外被材で覆って内部を減圧して芯材周囲を熱溶着により封止したときに、この熱溶着部と内部に芯材が存在せずに密着した部分とからなる外被材のヒレ部を、相対する断熱面の低温側、換言すれば発熱部とは反対側に折り曲げているため、熱溶着部を高温から保護することができる。例えば、真空断熱材の高温部側面が150℃になっても、低温側断熱面に位置する熱溶着部は100℃以下に維持することができる。従って、熱溶着層には融点200℃以上のフィルムを用いなくても良く、安価な材料で真空断熱材を構成することができる。」

「【0033】
請求項1から請求項11に記載されている真空断熱材は、いずれも所定の耐熱性を有するものであり、150℃程度になっている定着装置の断熱部材として貼りつけても熱溶着部の劣化は小さく、長期間断熱性能を維持することができる。これにより定着装置からの熱が遮断されるため、定着装置の周辺にトナー収容部や感光ドラム等のトナーを転写するための転写装置、及び制御装置などの外部からの熱により悪影響を受け易い部品や装置を近接して配設することが可能となり、この定着装置を使用した印刷装置の小型化や品質向上等に寄与することができる。
・・・
【0038】
本発明の請求項17に記載の機器の発明は、請求項13記載の発明において、本体は給湯装置で、本体の内部に貯湯容器と、貯湯容器に近接した湯沸しヒーターと、前記貯湯容器を包むように配設した断熱材とを備え、少なくとも前記湯沸しヒーターに近接する部位に真空断熱材を配設したものである。
【0039】
貯湯容器の側面周囲は沸騰したお湯の温度でせいぜい100℃が最高使用温度であり、従来から真空断熱材が使用されてきたが、湯沸しヒーターが配設された底面には適用できなかった。請求項1から請求項11に記載されている真空断熱材は、いずれも所定の耐熱性を有するものであり、湯沸しヒーターの近傍でも150℃を越えないように配設すれば、お湯が冷めにくく消費電力を削減できるとともに、貯湯容器より下部の体積を小さくすることができ、給湯装置を小型化することができる。」

「【0041】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における真空断熱材の断面図、図2は真空断熱材のヒレ部を示す要部断面図である。
【0042】
図1,図2において、真空断熱材1は2枚の外被材2を向かい合わせて芯材3を覆い、内部を真空まで減圧して周囲を熱溶着により封止したものである。
【0043】
外被材2は2種類のラミネートフィルム2a,2bを組み合わせて用い、内側からそれぞれ熱溶着層4a,4b、ガスバリア層5a,5b、第一の保護層6a,6b、及び第二の保護層7a,7bの各4層により構成しており、また、いずれのフィルムも少なくともUL94規格でVTM-2以上の難燃性を有するものである。
【0044】
ラミネートフィルム2aは断熱面の高温側として用い、熱溶着層4aに融点が210℃のポリクロロ3フッ化エチレン(厚さ50μm)、ガスバリア層5aには高温側に配設することを考慮して厚さ6μmのアルミ箔、第二の保護層7aには融点260℃の4フッ化エチレン-エチレン共重合体(厚さ25μm)とした。ポリクロロ3フッ化エチレンは、フッ素系樹脂フィルムの中でも融点が低く使いやすい上、ガスバリア性も優れるものである。
【0045】
また、ラミネートフィルム2bは断熱面の低温側として用い、熱溶着層4bにラミネートフィルム2aと同じポリクロロ3フッ化エチレン(厚さ50μm)、ガスバリア層5bにはポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ12μm)に金属、金属酸化物、シリカのいずれかの1つの蒸着が行われ、その上にアクリル酸のコーティングを行ったフィルムあるいはポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ12μm)にアクリル酸のコーティングを行い、その上に金属、金属酸化物、シリカのいずれかの1つの蒸着が行われたフィルム、第一の保護層6bにはガスバリア性の強化のために内側に500Åの厚さにアルミニウムを蒸着したポリエチレンナフタレート(厚さ12μm)、第二の保護層7bは融点260℃の4フッ化エチレン-エチレン共重合体(厚さ25μm)とした。
【0046】
真空断熱材1の作製にあたってはラミネートフィルム2a,2bを向かい合わせにして三辺を熱溶着し、芯材を挿入するための袋を作成しておく。
【0047】
芯材3は、平均一次粒子径7nmであるヒュームドシリカに粉体比抵抗値が0.6cm/Ωのカーボンブラックが均一分散され、充填されているものである。カーボンブラックの添加量は5wt%とした。
【0048】
この芯材3を水分吸着剤である酸化カルシウムと共に外被材2の袋内に挿入し、内部を10Paまで減圧して残りの一辺を熱溶着により封止して厚さ6mmの真空断熱材1を作製した。
・・・
【0054】
また、アクリル酸のコーティングは耐屈曲性が非常に良好であるため、ヒレ部の折り曲げによるガス侵入量の増大、ピンホールの発生を抑制できる効果も得られる。更に、前記アクリル酸のコーティングは剥がれ難いため蒸着層の上に構成することにより蒸着層を保護できる効果も得られる。
・・・
【0056】
なお、熱溶着層4a,4bに使用する樹脂フィルムは融点が200℃以上で熱溶着できる樹脂フィルムであれば特に指定するものではない。例えば、フッ素系樹脂フィルムである融点210℃のポリクロロ3フッ化エチレン、融点260℃の4フッ化エチレン-エチレン共重合体、融点285℃の4フッ化エチレン-6フッ化ポリプロピレン共重合体などが望ましい。
・・・
【0063】
芯材3は、無機及び有機の粉末材料、無機及び有機の繊維材料などが利用でき、特に指定するものではないが、例えば、粉末材料としては凝集シリカ粉末、発泡パーライト粉砕粉末、珪藻土粉末、珪酸カルシウム粉末、炭酸カルシウム粉末、クレー及びタルクなどの無機粉末が使用でき、繊維材料としてはグラスウール、セラミックファイバーなどの無機繊維が好ましい。その中でも二次凝集粒子径が20μm以下の無機粉末が望ましく、これら粉末材料は粒子が非常に細かいため粒子間の接触熱抵抗が増加して固体熱伝導率が小さくなり、更に10Torr以下の圧力下では圧力に関係せずに非常に小さな熱伝導率を示すものである。このため、空気分子の運動の大きい高温条件での使用に最適な材料である。」

「【0064】
(実施の形態2)
図3は本発明の実施の形態2における真空断熱材の断面図で、高温部である発熱体に接している状態を示す。
【0065】
図3において、真空断熱材8の外被材9は、実施の形態1の構成に対して熱溶着層4a,4bを融点が160℃の無延伸ポリプロピレンフィルム、ガスバリヤ層5aはガスバリア層5bにはポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ12μm)に金属、金属酸化物、シリカのいずれかの1つの蒸着が行われ、その上にアクリル酸のコーティングを行ったフィルムあるいはポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ12μm)にアクリル酸のコーティングを行い、その上に金属、金属酸化物、シリカのいずれかの1つの蒸着が行われたフィルム、ガスバリヤ層5bはエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムにアルミ蒸着を行ったフィルムとしたもので、外被材9の内部に芯材3が存在しない密着部10と熱溶着部11とからなるヒレ部12を高温である発熱体13とは反対側となる低温側断熱面8bに沿うように折り曲げ、熱溶着部11を保護するようにしている。外被材9の保護層及び芯材3の構成については実施の形態1と同様である。
【0066】
ここで、発熱体13の温度を150℃としたときでも、低温側断熱面8bに沿う熱溶着部11の温度は80℃以下を維持することができた。すなわち、熱溶着層に融点200℃以上の樹脂フィルムを使用せずに従来の融点200℃未満の安価な樹脂フィルムを使用しても劣化することがなく、熱溶着部11からガスが浸入して真空断熱材の断熱性能が低下することなく、150℃の発熱体13から断熱することができる。この時に、ガスバリヤ層5aをポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ12μm)に金属、金属酸化物、シリカのいずれかの1つの蒸着が行われ、その上にアクリル酸のコーティングを行ったものあるいはガスバリヤ層をポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ12μm)にアクリル酸のコーティングを行い、その上に金属、金属酸化物、シリカのいずれかの1つの蒸着が行われたものであり、このガスバリヤ層は基材が連続最高使用温度160℃であるポエチレンテレフタレートであり、蒸着及びアクリル酸のコーティングの耐熱性は200℃以上あるため耐熱性に優れ、ポエチレンテレフタレートにガスバリヤ性向上を目的として処理された蒸着層とアクリル酸のコーティング層を有しているためガスバリヤ性が飛躍的に向上するため、金属箔の代わりに使用することができる。
【0067】
これにより、金属箔では問題であったヒートリークを低減することができる。また、アクリル酸のコーティングは耐屈曲性が非常に良好であるため、ヒレ部の折り曲げによるガス侵入量の増大、ピンホールの発生を抑制できる効果も得られる。更に、前記アクリル酸のコーティングは剥がれ難いため蒸着層の上に構成することにより蒸着層を保護できる効果も得られる。
【0068】
このとき、融点が200℃未満のフィルムとしては、無延伸ポリプロピレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、及びエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム等を使用しても何等問題はなく、安価な材料からなる外被材で長期間真空断熱材内部への空気及び水蒸気の浸入を防ぐことができ、断熱性能を維持することができる。」

「【0069】
(実施の形態3)
図4は本発明の実施の形態3における真空断熱材の平面図である。
【0070】
図4において、真空断熱材8の構成は実施の形態2と同様であり、ヒレ部12の折り曲げを維持するように難燃性テープ14で固定している。このとき、外被材9の端面が露出しないようにヒレ部12の先端を完全に覆うように難燃性テープ14を貼り付けた。
【0071】
この真空断熱材8の熱伝導率を測定したところ、0.0049W/mKであった。この真空断熱材8を150℃の雰囲気に5年間放置したと見込まれる加速試験を行った後の熱伝導率を測定したところ、0.0125W/mKであった。
【0072】
また、UL94安全規格の機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験に準拠して燃焼性を確認したところ、V-0相当の結果が得られた。
【0073】
すなわち、外被材9の端面に露出する熱溶着層を構成する無延伸ポリプロピレンフィルム等の非難燃性フィルムが難燃性テープ14で覆われているため、真空断熱材としても難燃性を付与することができる。従って、真空断熱材使用時の安全性を向上することができる。」

「【0083】
(実施の形態6)
図7は本発明の実施の形態6における電気湯沸し器の断面図である。
【0084】
図7において、電気湯沸し器34は本体の内部に湯を沸かすとともに貯湯する貯湯容器35を有し、上部を開閉可能な上蓋36で覆っている。
・・・
【0086】
更に、貯湯容器35の側面には真空断熱材46が巻かれており、同じく底面のヒーター37の外側には高温用真空断熱材47が配設され、貯湯容器35の熱が逃げて湯温が低下することを抑えている。側面の真空断熱材46は100℃に耐えられる構成で従来から配設されていたものであり、底面の真空断熱材47は実施の形態3に示した構成のものを新たに配設したものである。
【0087】
従来から高温となるために断熱材を配設できなかったところを断熱することにより、約3%の消費電力量の低減が図れ、その性能を長期間維持することができた。また、本体底面においても空間を設けて断熱する必要がなくなり、貯湯容器より下部の体積を小さくすることができ、給湯装置を小型化することができた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の真空断熱材は、150℃程度の高温雰囲気においてもガスバリア性の低下を少なく抑えることができ、長期間真空断熱材の断熱性能を維持することができるので、複写機やレーザープリンタ等の印刷装置、コンピュータ等の電子機器、更には給湯機器等、特に高温部分を有する機器の断熱及び保温に適用できる。」





(イ)上記(ア)及び図面の記載から認められる事項
上記(ア)及び図面の記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 上記(ア)の請求項5、段落0020、0021及び0042並びに図1?3の記載によれば、引用文献1には、2枚の外被材9を向かい合わせて芯材3を覆い、内部を真空まで減圧して周囲を熱溶着により封止した真空断熱材8が記載されている。

b 上記(ア)の段落0043?0046、0056及び0065並びに図2及び3の記載によれば、真空断熱材8の外被材9は、熱溶着層4a、4bを含み、かつその端部において対向している前記熱溶着層4a、4bが互いに熱溶着されて熱溶着部11を形成していることが記載されている。

c 上記(ア)の段落0043?0045、0064及び0065並びに図3の記載によれば、芯材3の上面と下面を覆う外被材9は、下面側に高温部に接する断熱面、及び前記高温部とは反対側となる上面側に低温側断熱面8bを有することが記載されているといえる。

d 上記(ア)の請求項5、段落0020、0021及び0064?0068並びに図3の記載によれば、外被材9の内部に芯材3が存在しない密着部10と熱溶着部11とからなるヒレ部12を前記芯材3の端面から低温側断熱面8bに沿うように折り曲げることで、前記熱溶着部11は、前記低温側断熱面8bの側に位置していることが記載されている。

(ウ)引用発明
上記(ア)及び(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「2枚の外被材9を向かい合わせて芯材3を覆い、内部を真空まで減圧して周囲を熱溶着により封止した真空断熱材8であって、
前記外被材9は、熱溶着層4a、4bを含み、かつその端部において対向している前記熱溶着層4a、4bが互いに熱溶着されて熱溶着部11を形成しており、
前記芯材3の上面と下面を覆う前記外被材9は、下面側に高温部に接する断熱面、前記高温部とは反対側となる上面側に低温側断熱面8bを有し、
前記熱溶着部11は、前記低温側断熱面8bの側に位置しており、
前記外被材9の内部に芯材3が存在しない密着部10と前記熱溶着部11とからなるヒレ部12を前記芯材3の端面から前記低温側断熱面8bに沿うように折り曲げることで、前記熱溶着部11は、前記低温側断熱面8bの側に位置している、真空断熱材8。」

(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
ア 後者における「芯材3」は、前者における「芯材」に相当し、以下同様に、「外被材9」は「外皮」に、「熱溶着層4a、4b」は「熱融着層」に、「熱溶着」は「熱融着」に、「熱溶着部11」は「封止部」に、それぞれ相当する。

イ 後者の「2枚の外被材9を向かい合わせて芯材3を覆い、内部を真空まで減圧して周囲を熱溶着により封止した真空断熱材8」は、内部を真空まで減圧して周囲を熱溶着により封止することにより、外被材9により芯材3を封入したものとなるから、前者の「芯材及び前記芯材を封入している外皮を有する真空断熱材」に相当する。

ウ 後者の「前記外被材9は、熱溶着層4a、4bを含み、かつその端部において対向している前記熱溶着層4a、4bが互いに熱溶着されて熱溶着部11を形成しており」との態様は、前者の「前記外皮は、熱融着層を含み、かつその端部において対向している前記熱融着層が互いに熱融着されて封止部を形成しており」との態様に相当する。

エ 後者の「芯材3」の「下面」は、下面側の高温部に接する断熱面を有する外被材9に覆われているから、前者の「使用時に相対的に高温側にさらされる第一主平面」に相当し、また、後者の「芯材3」の「上面」は、上面側の低温側断熱面8bを有する外被材9に覆われているから、前者の「前記第一主平面に対向しており、かつ使用時に相対的に低温側にさらされる第二主平面」に相当する。

オ 後者の「低温側断熱面8bの側」は「芯材3」の「上面」側を意味するから、後者の「前記熱溶着部11は、前記低温側断熱面8bの側に位置しており」との態様は、前者の「前記封止部の少なくとも一部は、前記第二主平面側に位置しており」との態様に相当する。

カ 後者の「前記外被材9の内部に芯材3が存在しない密着部10と前記熱溶着部11とからなるヒレ部12を前記芯材3の端面から前記低温側断熱面8bに沿うように折り曲げることで、前記熱溶着部11は、前記低温側断熱面8bの側に位置している」との態様は、前者の「前記外皮が前記芯材の端面で折り返されることで前記封止部の少なくとも一部は、前記第二主平面側に位置して」いる態様に相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「芯材及び前記芯材を封入している外皮を有する真空断熱材であって、
前記外皮は、熱融着層を含み、かつその端部において対向している前記熱融着層が互いに熱融着されて封止部を形成しており、
前記芯材は、使用時に相対的に高温側にさらされる第一主平面、及び前記第一主平面に対向しており、かつ使用時に相対的に低温側にさらされる第二主平面を有し、
前記封止部の少なくとも一部は、前記第二主平面側に位置しており、
前記外皮が前記芯材の端面で折り返されることで前記封止部の少なくとも一部は、前記第二主平面側に位置している、
真空断熱材。」

[相違点]
本件補正発明では、「前記外皮の折り返し部分の長さは、前記芯材の端面を起点に10mm以上80mm以下である」のに対し、引用発明では、折り曲げられるヒレ部12の長さは不明である点(以下「相違点」という。)。

(4)判断
ア 相違点について
本件補正発明において、外皮の折り返し部分の長さを、芯材の端面を起点に10mm以上80mm以下としたことについて、本願の明細書には、「本発明の1つの態様において、外皮の耳が芯材の端面で折り返されて形成される、外皮の折り返し部分の長さは、芯材の端面を起点に10mm以上であり、かつ100mm以下の範囲である。この長さが十分であれば、封止部まで熱が伝わりにくく、またこの長さが上記範囲以下であれば、外皮が増えることによる断熱性の低下も過度にならないようにすることができる。・・・外皮の折り返し部分の長さは、15mm以上、更には20mm以上であると好ましい。また、外皮の折り返し部分の長さは、80mm以下、更には50mm以下であると好ましい。」(段落0016)という記載のみがあるところ、この記載を参酌すると、外皮の折り返し部分の長さを、芯材の端面を起点に10mm以上としたのは、高温側からの熱が封止部まで伝わりにくくするためであり、芯材の端面を起点に80mm以下としたのは、外皮が増えることによる断熱性の低下も過度にならないようにするためと認められる。
そして、本件補正発明において、10mm以上という下限値及び80mm以下という上限値については、実験結果等の導出した根拠が示されていないから、臨界的意義は認められず、好適例として示された程度のものといえ、しかも、真空断熱材の芯材の厚みは何ら特定されていないことから、外皮の折り返し部分の長さを、芯材の端面を起点に10mm以上80mm以下としたことは、設計的事項の範疇のものである。
一方、引用発明においても、外被材のヒレ部(外皮の折り返し部分)を、相対する断熱面の低温側、換言すれば発熱部とは反対側に折り曲げることにより、熱溶着部を高温から保護する、すなわち、本件補正発明と同様に高温側からの熱が熱溶着部11(封止部)まで伝わりにくくすることができるものであって(引用文献1の段落0020及び0065)、長期間真空断熱材の断熱性能を維持することができるものである(引用文献1の段落0035、0066、0087及び0088)から、外被材のヒレ部の長さは、これらの効果を奏するのに十分な程度の長さに設定されるものであり、また、真空断熱材のコストを考慮して、必要以上の長さにならないように設定されるものである。
また、引用発明について、真空断熱材8の厚さが6mmのものが想定されるところ(引用文献1の段落0048)、本件補正発明についても、その実施例として、芯材(グラスウール成形体)の厚みが5?30mmで(明細書の段落0020)、熱融着層の厚みが10?100μmで(明細書の段落0023)、バリヤ層の厚みが3?50μmで(明細書の段落0027)、保護層の厚みが10?50μmであり(明細書の段落0028)、真空断熱材の厚みが5.046mm(=5+[0.01+0.003+0.01]*2)?30.4mm(=30+[0.1+0.05+0.05]*2)のものが記載されており、引用発明の真空断熱材8の厚みは、本件補正発明が想定する真空断熱材の厚みの範囲内といえるから、引用発明において、折り曲げられるヒレ部12の長さ(外皮の折り返し部分の長さ)を、芯材3(芯材)の端面を起点に10mm以上80mm以下の範囲とすることが、技術的に困難であるとはいえない。
そうすると、引用発明において上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 請求人の主張について
なお、請求人は、令和元年6月3日提出の上申書において、「平成31年3月4日付けの審判請求書においても主張したように、引用文献1は、電子機器等に用いられる非常に薄い真空断熱材について、高温で用いられた際に、外皮の折り返し部分(「外被材のヒレ部」)を低温側に位置させることを開示しています。当業者に、引用文献1の真空断熱材を大型化する阻害要因がなかったとしても、その真空断熱材を大型化する動機づけは全く存在していません。
『10mm以上80mm以下の長さ』が『必要以上』に長いといえるかどうかは、断熱材の大きさや厚さなどにも依存する」との上記のご認定は、引用文献1に記載の非常に薄い真空断熱材を、大型化できる又は大型化する動機づけがあるということが前提となった認定であり、後知恵に基づいていたものであると考えます。」と主張する。
しかしながら、引用文献1には、真空断熱材の用途として電子機器だけでなく、給湯機器等も記載されているから(段落0001)、引用発明の真空断熱材は非常に薄いもののみに限定されるものではない。さらに、本件補正発明において、真空断熱材の厚み等の全体寸法は特定されていないから、「10mm以上80mm以下の長さ」が、外皮の折り返し部分を必要以上に長くしたものと認めることはできない。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

ウ 効果について
そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?13に係る発明は、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の一部は、以下のとおりである。
(1)理由2(進歩性)
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2004-332929号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「外皮の折り返し部分の長さ」について、「80mm以下」という上限の長さの特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2の[理由]2(4)で検討したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、前記第2の[理由]2(4)の検討を踏まえると、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-01-07 
結審通知日 2020-01-14 
審決日 2020-01-27 
出願番号 特願2015-502993(P2015-502993)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16L)
P 1 8・ 575- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳本 幸雄  
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 槙原 進
塚本 英隆
発明の名称 真空断熱材  
代理人 胡田 尚則  
代理人 三橋 真二  
代理人 塩川 和哉  
代理人 関根 宣夫  
代理人 青木 篤  

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