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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1361039
審判番号 不服2019-4595  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-08 
確定日 2020-03-19 
事件の表示 特願2014-143543「X線CT装置、X線CTシステム及びインジェクター」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月19日出願公開、特開2015- 33578〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月11日(優先権主張 平成25年7月11日)の出願であって、平成30年6月6日付けで拒絶理由が通知され、同年8月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月27日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたところ、平成31年4月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。そして、令和元年7月22日に上申書が提出されている。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]

1 本件補正について

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、請求項2、4及び6を削除する補正をしたことから、請求項12は、繰り上げられて請求項9となった。
本件補正後の特許請求の範囲の請求項9の記載は、次のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。

「 【請求項9】
被検体に対して造影剤を注入するインジェクターと、
前記被検体に対してX線撮影を行うX線CT装置と、
を有するX線CTシステムにおいて、
前記X線CT装置は、
前記被検体に注入する第1造影剤及び第2造影剤それぞれの濃度、注入レート、又は注入量を含む注入条件、及び、前記被検体の心拍出量、体重、又はBMIを含む前記被検体の情報に応じた、前記第1造影剤の注入タイミングと前記第2造影剤の注入タイミングの時間差を算出する算出部と、
前記時間差に関する情報をインジェクターに送信する送信部と、
前記被検体に対して照射するX線を発生するX線発生部と、前記被検体を透過した前記X線を検出するX線検出部と、を備え、前記インジェクターにより前記時間差に従って前記第1造影剤及び前記第2造影剤が注入された前記被検体に対し、前記第1造影剤による第1の造影時相に対応する造影効果、及び、前記第2造影剤による第2の造影時相に対応する造影効果が撮影対象の領域内に同時に現れている撮影タイミングでX線スキャンを行い、複数の異なるX線エネルギーに対応する検出データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部を制御する制御部と、
前記撮影タイミングで収集された複数の前記X線エネルギーに対応する前記検出データを解析して、前記第1の造影時相に対応する造影効果を表す第1画像、及び、前記第2の造影時相に対応する造影効果を表す第2画像を生成する画像処理部と、を備えることを特徴とするX線CTシステム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の平成30年8月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項12の記載は、次のとおりである。

「 【請求項12】
被検体に対して造影剤を注入するインジェクターと、
前記被検体に対してX線撮影を行うX線CT装置と、
を有するX線CTシステムにおいて、
前記X線CT装置は、
前記被検体に対して照射するX線を発生するX線発生部と、前記被検体を透過した前記X線を検出するX線検出部と、を備えるデータ取得部と、
前記データ取得部を制御する制御部と、
異なる造影時相に対応する複数の画像を生成する画像処理部と、を備え、
前記制御部は、前記造影時相の差に関する情報を前記インジェクターに送信し、
前記データ取得部は、前記インジェクターにより、第1造影剤と第2造影剤とが、前記造影時相の差に関する情報に基づく異なるタイミングで注入された前記被検体に対し、所定の撮影タイミングでX線スキャンを行い、複数の異なるX線エネルギーに対応する検出データを取得することで1回の撮影で異なる造影時相の情報を取得することを特徴とするX線CTシステム。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項12に記載された発明を特定するために必要な事項である「X線CT装置」について、少なくとも「算出部」を付加し、限定を加えるものであって、補正前の請求項12に記載された発明と補正後の請求項9に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものである。
なお、請求人は、本件補正について、審判請求書の請求の理由において、
「まず、X線CT装置に関して、旧請求項1の記載内容に、旧請求項2、旧請求項4及び旧請求項6の内容を追加するとともに、適宜語句を調整した補正を行い、新請求項1と致しました。なお、特に「算出部」の記載についての補正の根拠は、例えば明細書の段落「0075」となります。また、このような補正を行いましたことから、旧請求項2、旧請求項4及び旧請求項6については削除致しました。
旧請求項2、旧請求項4及び旧請求項6を削除する補正を行いましたことから、旧請求項3、旧請求項5、旧請求項7ないし旧請求項11を順次繰り上げて新請求項2ないし新請求項8とする補正を行いました。また新請求項1に関する補正、及び、このような補正を行いましたことから、適宜各請求項における文言及び従属関係の見直しを行いました。
次にX線CTシステムに関して、旧請求項12に対して上記新請求項1と同様の補正を行い、新請求項9と致しました。一方、旧請求項13及び旧請求項14に記載されていました内容は新請求項9に含まれることになりましたので、削除致しました。」と説明している(下線は当審において付与した。)。
そこで、本件補正後の請求項9に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項

ア 引用文献1について

(ア)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された特表2011-528248号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(なお、下線は当審において付与した。以下同様。)。

(引1a)
「【請求項12】
被検体に、各々が異なるスペクトル特性をもつ少なくとも第1及び第2の造影剤を投与するステップであって、前記第2の造影剤は、前記第1の造影剤の投与から第1の予め設定された時間遅延後、投与される、ステップと、
前記第2の造影剤の投与から第2の予め設定された時間遅延後、前記被検体の単一スペクトルスキャンを実施するステップと、
第1の生理的フェーズを表わす前記第1の造影剤の第1の画像、及び第2の別の生理的フェーズを表わす前記第2の造影剤の第2の画像を生成するステップと、
を含む方法。
【請求項13】
前記第1のフェーズが門脈静脈フェーズであり、前記第2のフェーズが大動脈フェーズである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の予め設定された時間が非ゼロであり、前記少なくとも第1及び第2の造影剤が同じ血管に投与される、請求項12又は13に記載の方法。
・・・
【請求項16】
前記スキャンからのデータを、少なくとも前記第1の造影剤に関する第1のK端成分及び前記第2の造影剤に関する第2のK端成分に分解するステップを更に含む、請求項12乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のK端成分は、前記生理的フェーズのうち一方を表わし、前記第2のK端成分は、前記生理的フェーズのうち別の一方を表わす、請求項16に記載の方法。
・・・
【請求項20】
検査領域の周りを回転し、前記検査領域を横切る多色放射線を放出する放射線源と、
前記検査領域をはさんで前記放射線源と向かい合って位置するとともに、前記検査領域を横切る放射線を検出し、それを示す信号を生成する検出器アレイと、
造影剤調節プロファイルに基づいて、イメージングプロシージャの間、少なくとも第1の造影剤及び第2の造影剤を投与する注射器と、
前記第1の造影剤の第1の画像及び前記第2の造影剤の第2の画像を生成するために、前記信号をスペクトル的に再構成する再構成器と、
を有するシステム。
・・・
【請求項23】
前記注射器は、前記第1及び前記第2の造影剤を、それらの投与の間に時間遅延を伴って連続的に投与する、請求項20に記載のシステム。
【請求項24】
前記再構成器は、前記信号を、少なくとも第1のK端成分及び第2のK端成分を含む成分に分解し、前記第1の画像は、前記第1のK端成分に基づき、前記第2の画像は、前記第2のK端成分に基づく、請求項20乃至23のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項25】
前記再構成器は更に、前記信号を、コンプトン効果成分及び光電効果成分に分解し、第3の画像が、前記コンプトン効果成分に基づいて生成され、第4の画像が、前記光電効果成分に基づいて生成される、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記調節プロファイルを決定し、提供する調節器を更に有する、請求項20乃至25のいずれか1項に記載のシステム。」

(引1b)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、スペクトルイメージングに関し、コンピュータコンピュータトモグラフィ(CT)の特定のアプリケーションを見い出す。しかしながら、本発明は更に、他の医用イメージングアプリケーション及び非医用イメージングアプリケーションにも従う。」

(引1c)
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他の例の灌流プロシージャは、マルチフェーズ肝臓研究である。このような研究に関して、造影剤ベースのCTプロシージャが、大動脈(造影剤取り込み)フェーズ、門脈静脈(造影剤洗い出し)フェーズ及び/又は平衡(造影剤無し)フェーズの間、肝臓の過灌流又は低灌流の領域を識別するために使用されることができる。残念ながら、このような従来の研究は、これらのフェーズの各々において造影剤を捕捉するために、造影剤の投与、及びその後の、造影剤が血管の中を流れるときの複数回のスキャン(例えば3乃至5スキャン)を必要とする。このように、患者線量は、より少ない数のスキャンが実施されるプロトコルと比べて、より高くなりうる。」

(引1d)
「【課題を解決するための手段】
【0007】
別の見地によれば、方法は、各々が異なるスペクトル特性をもつ少なくとも第1及び第2の経静脈造影剤を被検体に投与するステップであって、前記第2の経静脈造影剤が、第1の造影剤の投与から第1の予め設定された時間遅延の後、投与される、ステップを含む。方法は更に、第2の造影剤の投与から第2の予め設定された時間遅延の後、被検体の単一スペクトルスキャンを実施するステップを含む。方法は更に、第1の生理的フェーズを表わす第1の造影剤の第1の画像及び第2の異なる生理的フェーズを表わす第2の造影剤の第2の画像を生成するステップを含む。
【0008】
別の見地によれば、システムは、検査領域の周りを回転し、検査領域を横切る多色放射線を放出する放射線源(110)と、検査領域をはさんで放射線源(110)と向かい合って位置し、検査領域を横切る放射線を検出し、それを示す信号を生成する検出器アレイ(118)と、を有する。システムは更に、造影剤調節プロファイルに基づいて、イメージングプロシージャのための少なくとも2つの異なる造影剤を投与する注射器(114)を有する。システムは更に、第1の造影剤の第1の画像及び第2の造影剤の第2の画像を生成するために、信号をスペクトル的に再構成する再構成器(120)を有する。」

(引1e)
「【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】例示のイメージングシステムを示す図。
・・・
【図5】別の例示の方法を示す図。」

(引1f)
「【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、静止ガントリ102と、静止ガントリ102によって回転可能に支持される回転ガントリ104とを有するコンピュータトモグラフィ(CT)スキャナ100を示している。回転ガントリ104は、長軸又はz軸108を中心に検査領域106の周りを回転する。X線管のような放射線源110は、回転ガントリ104によって支持され、検査領域106の周りを回転ガントリ104と共に回転し、多色放射線を放出する。コリメータ112は、検査領域106を横切る概して扇形、くさび形又はコーン形の放射線ビームを生成するために、放出された放射線をコリメートする。放射線感受性の検出器アレイ118は、検査領域106を横切る光子を検出し、検査領域を示す投影データを生成する。
【0012】
注射器114は、スキャンのために、患者に造影剤を注入し又は投与するように構成される。後で詳しく述べるように、一例において、注射器は、同じ血管又は異なる血管に、2つの異なるスペクトル特性をもつ少なくとも2つの異なる造影剤(例えばガドリニウム又はヨウ素を含む造影剤等)を同時に投与するために使用される。別の例において、注射器は、投与と投与の間に遅延を伴って、2又はそれ以上の異なる造影剤を連続的に投与するために使用される。調節器116は、2又はそれ以上の異なる造影剤の注入パターン又はプロファイルを示す制御信号を供給し、かかるパターンは、ある時間にわたる2又はそれ以上の異なる造影剤の濃度を含む。造影剤は、代替として、臨床医等によって手動で投与されることもできる。
【0013】
再構成器120は、投影データを再構成し、それを示すボリュメトリック画像データを生成する。一例において、再構成器120は、例えばK端アルゴリズムのようなスペクトルアルゴリズム124を用いる。このようなアルゴリズムは、例えば1又は複数の投与される造影剤のように、異なるスペクトル特性をもつ物質の選択的且つ定量的なイメージングを可能にする。再構成器120は、例えばフィルタリングされる逆投影アルゴリズム又は反復的再構成アルゴリズムのような、通常の再構成アルゴリズムを用いることもできる。
【0014】
画像生成器126は、ボリュメトリック画像データを処理し、1又は複数の画像を生成する。一例において、これは、少なくとも第1の造影剤を示す第1の画像及び第2の造影剤を示す第2の画像を生成することを含む。(複数の)組織特異的な造影剤が使用される場合、造影剤は、組織によって大部分吸収され、対応する(複数の)画像は、組織を示す。(複数の)非組織特異的な造影剤が使用される場合、対応する(複数の)画像は、造影剤が流れる血管を示す。造影剤のうち1又は複数は、特異的であり又は非特異的でありうる。画像生成器126は更に、例えば通常のCT減衰に基づく画像、別の造影剤を示す別の画像、コンプトン効果画像、光電効果画像等の他の画像を生成することができる。
【0015】
寝台のような患者支持体128が、スキャンのために患者を支持する。汎用コンピューティングシステム130が、オペレータコンソールとして機能する。コンソール130に常駐するソフトウェアは、オペレータがシステム100の処理を制御することを可能にし、例えば、造影剤に基づくK端イメージングプロトコルを含むイメージングプロトコルを選択することを可能にする。後で詳しく述べるように、1つのこのようなプロトコルは、時間連続のスペクトルCTスキャンによって、脳潅流のような器官潅流に関する情報を取得するために、スキャン中、2又はそれ以上の異なる造影剤の投与を同時に調節することを含む。別のプロトコルは、異なる造影剤を、それらの投与間に遅延を伴って連続的に投与すること、及び単一スキャンでそれぞれ異なる生理的フェーズに関する情報を同時に取得するためにスキャンを実施することを含む。
・・・
【0023】
別の実施形態において、スキャナ100は、例えばマルチフェーズ肝臓研究のようなマルチフェーズ研究のために使用される。このような研究は、大動脈フェーズ、門脈静脈フェーズ及び/又は平衡フェーズの間、過灌流又は低灌流領域(HCC又は転移)を識別するために、使用されることができる。上述したように、通常の研究では、これらのフェーズを捉えるために、造影剤が注入されたのち、3乃至5のスキャンが実施されうる。本実施形態では、スキャンの数が、注入された造影剤のスペクトルCT分離と組み合わせられる適切な注入プロトコルを介して、低減されることができる。
【0024】
一例が図5に示されている。ステップ502において、第1の造影剤が、第1の予め設定された時間期間の間、投与される。一例において、第1の予め設定された時間期間は、10秒である。ステップ504において、造影剤の次の投与は、第2の予め設定された時間期間遅延される。一例において、第2の予め設定された時間期間は、10秒である。ステップ506において、第2の造影剤が、第3の予め設定された時間期間の間、投与される。一例において、第3の予め設定された時間期間は、5秒である。別の造影剤が投与される場合、それもまた、別の予め設定された時間期間遅延されることができる。ステップ508において、スキャニングは、第4の予め設定された時間期間遅延される。一例において、第4の予め設定された時間期間は、10秒である。
【0025】
ステップ510において、スペクトルCTスキャンが実施される。上述のプロトコル又は他の適切なプロトコルを使用する場合、スキャンの間、第2の造影剤が大動脈フェーズにあるとき、第1の造影剤は門脈静脈フェーズにある。スペクトルCTの選択的なイメージング能力は、第1及び第2の造影剤の間の分離を可能にする。ステップ512において、静脈及び大動脈の2つに関する2つの造影剤画像が、生成される。従って、フェーズのうちの2つに関する2つの造影剤画像が、単一スキャンで捕捉されることができる。3又はより多くの造影剤が投与される場合、3のフェーズに関する3又はより多くの画像が、単一スキャンで捕捉される。
【0026】
上述の実施形態において、2又はそれ以上の造影剤が、同じ血管に同時に投与され、又は同じ血管に連続的に投与される。造影剤の投与は、代替として、それぞれ異なる血管に行われうることが理解されるべきである。例えば、造影剤は、異なる注入箇所(左及び右半球、前葉及び後葉、その他)に投与されることができる。この技法の別の応用は、複雑な薬物動態モデルの逆問題を解くことである。言い換えると、薬物動態モデルの自由パラメータは、適切な複数造影剤の調節注入プロトコル及び使用される造影剤の選択的なイメージングによって、数値的に決定されることができる。
【0027】
他のプロシージャ及びフェーズもまたここで企図され、異なるフェーズを通る造影剤フローを追跡することを含む任意のプロシージャもまた企図されることが理解されるべきである。このようなプロシージャのために、単一スキャンが、異なるフェーズの1又は複数において造影剤を捉えるために実施されることができる。他の適切なフェーズの例は、動脈、膵臓、肝管、肝臓等のフェーズを含むが、これらに限定されるものではない。
【0028】
上述したように、再構成器120は、K端アルゴリズムを用いることができる。以下は、この例では2つの造影剤のような、2つのK端物質に関する例示のアルゴリズムを示している。概して、放射線源110は、放出スペクトルT(E)をもつ多色放射線を放出する。i番目の検出器チャネルの検出信号は、d_(i)によって示され、式1によって記述されることができる:

【0029】
ここで、Di(E)は、i番目の検出器チャネルのスペクトル感度であり、ρ_(photo)、ρ_(compton)、ρ_(k-edge1)及びρ_(k-edge2)は、それぞれ、光電効果、コンプトン効果、第1の物質のK端効果及び第2の物質のK端効果の密度と長さの積であり、光電効果、コンプトン効果、第1の物質のK端効果及び第2の物質のK端効果のエネルギー依存の吸収スペクトルは、それぞれ、P(E)、C(E)、K_(1)(E)及びK_(2)(E)によって示される。N個の造影剤物質の場合、式1は、付加の項ρ_(k-edge3) K_(3)(E)・・・ρk-edge(2+N) K_(N+2)(E)を含む。
【0030】
画像生成器126への入力は、複数の、例えば4の、エネルギービンについて、エネルギー分解された検出信号d_(i)を有する。放出スペクトルT(E)及びスペクトル感度D_(i)(E)は、一般に知られている。吸収スペクトルP(E)、C(E)、K_(1)(E)及びK_(2)(E)は、知られている。エネルギー依存の関数及び検出信号diが知られており、少なくとも4つの検出信号d_(1)-d_(4)が少なくとも4つのエネルギービンb_(1)-b_(4)に関して利用可能であるので、4つの未知数を有する少なくとも4つの式の系が形成され、従って、既知の数学モデルによって解かれることができる。4以上のエネルギービンが利用できる場合、測定の雑音統計を考慮する最大尤度アプローチを使用することが好ましい。
【0031】
結果として得られる密度と長さの積ρ_(k-edge1)及びρ_(k-edge2)は、それぞれ、第1の物質の寄与及び第2の物質の寄与であり、第1の物質に関する第1のK端画像及び第2の物質に関する第2のK端画像を生成するために使用されることができる。更に、光電効果に関する密度と長さの積ρ_(photo)は、光電画像を再構成するために使用されることができ、コンプトン効果に関する密度と長さの積ρ_(compton)は、コンプトン効果画像を再構成するために使用されることができる。一般に、コンプトン効果画像及び光電効果画像は、対象自体を示す。これらの4つの画像は、1つずつ示されることができ、又はそれらは、混合されることができる。例えば、最終の画像は、第1の物質、第2の物質及びコンプトン効果画像及び/又は光電効果画像を示すことができる。4つのコンポーネントのうち1つ、幾つか又はすべてを示す1つの画像を再構成することも可能である。
【0032】
スペクトル分解は、投影データに対して又は画像ドメインにおいて実施されることができる。」

(引1g)図1


(引1h)図5


(イ)引用文献1に記載された発明
上記(ア)の記載及び図面を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、同じ意味合いの用語が複数ある場合は、用語を統一した。)。

「検査領域106の周りを回転し、前記検査領域106を横切る多色放射線を放出するX線管のような放射線源110と、
前記検査領域106を横切る光子を検出し、検査領域106を示す投影データを生成する検出器アレイ118と、
2つの異なるスペクトル特性をもつ2つの異なる造影剤(例えばガドリニウム又はヨウ素を含む造影剤等)の注入パターンを決定する調節器116と、
前記注入パターンを示す制御信号が供給され、患者の同じ血管に、投与と投与の間に遅延を伴って、前記2つの異なる造影剤を連続的に投与する注射器114と、
前記投影データを第1の造影剤の第1のK端効果成分、及び第2の造影剤の第2のK端効果成分にエネルギー分解し、スペクトル的に再構成し、それを示すボリュメトリック画像データを生成する再構成器120であって、再構成器120はK端アルゴリズム124を用いることができ、前記K端アルゴリズム124は、前記2つの投与される造影剤のように、異なるスペクトル特性をもつ物質の選択的且つ定量的なイメージングを可能にする、再構成器120と、
前記ボリュメトリック画像データを処理し、前記第1の造影剤の第1のK端効果成分に基づく第1の画像、及び前記第2の造影剤の第2のK端効果成分に基づく第2の画像を生成する画像生成器126と、
スキャンのために患者を支持する患者支持体128と、
オペレータコンソールとして機能する汎用コンピューティングシステム130であって、前記オペレータコンソールに常駐するソフトウェアは、造影剤に基づくK端イメージングプロトコルを選択することを可能にし、前記K端イメージングプロトコルは、前記2つの異なる造影剤を、それらの投与間に遅延を伴って連続的に投与すること、及び単一スキャンでそれぞれ異なる生理的フェーズに関する情報を同時に取得するためにスキャンを実施することを制御する、汎用コンピューティングシステム130と、
を有する、コンピュータトモグラフィ(CT)スキャナシステム100であって、
コンピュータトモグラフィ(CT)スキャナシステム100は、例えばマルチフェーズ肝臓研究のために使用され、前記K端イメージングプロトコルに従って、第1の造影剤が投与され、造影剤の次の投与は、第2の予め設定された時間期間遅延され、第2の造影剤が投与され、その後、スペクトルCTスキャンが実施され、スキャンの間、第2の造影剤が大動脈フェーズにあるとき、第1の造影剤は門脈静脈フェーズにあり、そして、門脈静脈フェーズを表わす前記第1の造影剤の第1のK端効果成分に基づく第1の画像、及び大動脈フェーズを表わす前記第2の造影剤の第2のK端効果成分に基づく第2の画像が生成される、
コンピュータトモグラフィ(CT)スキャナシステム100。」

イ 引用文献2について
本願の優先権主張日前に頒布された特開2010-240275号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、当該文献は、本件補正によって追加された「算出部」についての事項を示すために提示するものである。

(引2a)
「【請求項1】
被検体の体軸の周りを周回しながら関心領域にX線を照射するX線照射部と、
前記体軸に沿う前記被検体の内部位置及びこの被検体に注入された造影剤の到達時間の関係を示すデータベースを蓄積するデータ蓄積部と、
前記データベースに基づいて前記内部位置及び前記到達時間の関係を図示したグラフを形成するグラフ形成部と、
前記グラフから導かれる前記造影剤の推定移動速度に基づいて前記X線照射部に対し前記被検体をその体軸の方向に相対移動させる直進駆動部と、
前記被検体を透過したX線の検出信号からこの被検体の透視像を生成する画像生成部と、を備えることを特徴とするX線CT撮像装置。
・・・
【請求項5】
前記透視像を生成する前記X線よりも低線量のX線を照射して前記造影剤が通過する特定位置をモニタリングするとともに、前記関心領域における前記相対移動を開始するタイミングを決定する造影剤モニタリング制御部を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のX線CT撮像装置。
【請求項6】
前記造影剤モニタリング制御部は、前記グラフに基づいて、前記低線量のX線を前記特定位置に照射するタイミングを決定することを特徴とする請求項5に記載のX線CT撮像装置。」

(引2b)
「【0030】
ヘリカルスキャン制御部31Cは、図5に示される造影剤到達グラフGから導かれる造影剤の推定移動速度に基づいて、関心領域Rをヘリカルスキャンし、この部分の連続した複数の断層画像D(図7参照)を得るものである。
つまり、ヘリカルスキャン制御部31Cは、造影剤モニタリング制御部31Bから得た関心領域Rに造影剤が突入するタイミング情報に基づいて、その始端位置においてX線照射部21を円軌道Hに周回転させながら高線量のX線を被検体Kに照射する。
そして、ヘリカルスキャン制御部31Cは、直進駆動部35を、造影剤到達グラフGの設定ラインTに従ってX線照射部21に対し被検体Kを体軸Zの方向に相対移動させる。 このために、ヘリカルスキャン中は、寝台24の移動速度が、一定であるとは限らず、複数の位置で移動速度が変更する場合があり、血管内を移動する造影剤に対してX線の照射を正確に追従させることができる。
・・・
【0035】
図1に戻って説明を続ける。
データ蓄積部41は、体軸Zに沿う被検体Kの内部位置及びこの被検体Kに注入された造影剤の到達時間の関係を示すデータベースを蓄積するものである。
このようなデータベースは、体重、身長、年齢、性別等の条件の異なる複数の患者に対し、造影剤の種類、注入速度、注入量、注入位置の実施条件を振りながら、図9に示すようなCT値の特性曲線を作成することによって得ることができる。
もしくは、実施した血管造影検査の成功例、及び失敗例の蓄積からそれらの実施条件を類型化して統計的にそのようなデータベースを得ることもできる。
【0036】
グラフ形成部42は、図2に示されるように座標表示部47と、グラフ正規化部48と、重ね書き部49とから構成される。
このように構成されるグラフ形成部42は、データ蓄積部41に蓄積されているデータベースに基づいて図5(a)に示されるように造影剤到達グラフGを形成するものである。つまり、造影剤到達グラフGは、患者の体重、身長、年齢、造影剤の種類、造影剤注入速度、造影剤注入量、検査部位に応じて異なるものである。
・・・
【0039】
また一方で、図5(a)に示されるように造影剤到達グラフGによれば、任意位置に設定したモニタリング位置MP(図4参照)に、造影剤が到達する時間も、推測することが可能である。
このために、造影剤モニタリング制御部31B(リアルプレップ)を実行する場合においても、低線量のX線を特定位置Cに照射するタイミングを決定することができる。
これにより、被検体Kに造影剤を注入した直後から低線量のX線をモニタリング位置MPに照射する必要がなくなり、リアルプレップによる被検体Kの被曝量を低減することができる。」

(引2c)図1


(引2d)図5(a)


ウ 引用文献3について
本願の優先権主張日前に頒布された特開2012-161444号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、当該文献も、上記引用文献2と同様に、本件補正によって追加された「算出部」についての事項を示すために提示するものである。

(引3a)
「【請求項1】
造影剤が投与された被検者の関心領域の画素値の経時変化から、前記関心領域の画素値が予め定められた目標値に到達する時間を求め、前記目標値に到達する時間に基づいて本スキャンを開始するタイミングを決定するX線CT装置であって、
前記関心領域の画素値の経時変化を予測する初期モデルを作成する初期モデル作成部と、
前記初期モデルを更新前モデルとして保持する更新前モデル保持部と、
モニタリングスキャンにより取得した計測データに基づいて前記更新前モデルを更新して更新後モデルを作成する更新モデル作成部と、
前記更新前モデルと前記更新後モデルとの差分量に応じて、次のモニタリングスキャンを実施するか否かを判定するスキャン実施判定部と、を備えることを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線CT装置において、
前記初期モデル作成部は、前記被検者の体重、体格、撮影部位、造影剤の注入位置の少なくとも一つを含む生理学的パラメータと、造影剤の注入速度、注入時間、総注入量の少なくとも一つを含む造影パラメータとに基づき、前記初期モデルを作成することを特徴とするX線CT装置。」

(引3b)
「【0003】
X線CT装置における造影撮影では被曝低減の観点から、被検者に投与した造影剤が撮影部位に流入した時点で、断層画像を取得するためのスキャンである本スキャンを開始することが重要である。例えば、特許文献1では、造影剤の流入を検出するために、本スキャンの前にモニタリングスキャンと呼ばれる予備のスキャンが行われ、モニタリングスキャンにより得られたデータに基づき、本スキャンを開始するタイミングを自動化している。具体的には、本スキャンよりも低線量のX線を被検者に照射するモニタリングスキャンと、モニタリングスキャンで得られるデータから断層画像を低解像度で再構成することを繰り返して行い、再構成画像の関心領域(ROI:Region Of Interest)における画素値(CT値)を抽出して、造影剤濃度を判定し、関心領域におけるCT値が予め設定された閾値(目標値)を超過した時点で、モニタリングスキャンを停止して、本スキャンを開始する。ここで、ある関心領域の造影剤注入によるCT値の経時変化はTDC(Time Density Curve)と呼ばれる。非特許文献1では、造影剤の注入条件とTDCとの関係が述べられている。
・・・
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-39330号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】八町淳著、「CTと造影理論」、日本放射線技術学会雑誌第64巻第6号」

(引3c)
「【0020】
図2は、実施例1の造影撮影支援部130の構成を示すブロック図である。造影撮影支援部130は、初期モデル作成部131、更新前モデル保持部132、実測値取得部133、更新モデル作成部134、スキャン実施判定部135を備える。
【0021】
初期モデル作成部131は、生理学的パラメータ30及び造影パラメータ31から、TDCの初期モデル40を作成するものである。生理学的パラメータ30とは、被検者の撮影部位、体重、体格、造影剤の注入位置等を少なくとも一つ含むものである。造影パラメータ31は、造影剤の注入速度(mg/sec)、注入時間(sec)、注入される造影剤の総量(mg)等を少なくとも一つ含むものである。初期モデル40の作成方法については後述する。
・・・
【0026】
図3は、本発明の本実施形態の処理の流れを示す図である。以下、図3の各ステップについて詳細に説明する。
【0027】
(ステップ100)
初期モデル作成部131は、入力装置121で設定された生理学的パラメータ30、造影パラメータ31に基づき、TDCの初期モデル40を作成する。なお、生理学的パラメータ30、造影パラメータ31は外部の装置から送信されたものでもよい。
【0028】
TDCの初期モデル40を作成する方法の一例について説明する。
【0029】
非特許文献1にも示されているようにTDCは図4のような波形となる。非特許文献1では、造影剤の注入条件から求められる3つのパラメータx1?x3と、図4に示したTDCの6つのパラメータy1?y6との間に次式のような関係があることを開示している。
【0030】
【数1】

ここで、
y1:造影剤到達時間(sec)
y2:傾き(HU/sec)
y3:最大CT値到達時間(sec)
y4:最大CT値(HU)
y5:持続時間(sec)
y6:平衡相CT値(HU)
x1:時間当たりヨウド量(mg/sec)
x2:注入時間(sec)
x3:使用総ヨウド量(g)
a11?a63、b1?b6:被検者の生理学的パラメータ(体重、体格、撮影部位)によって決まる係数
である。
・・・
【0048】
(ステップ104)
スキャン実施判定部135が、更新前モデル45とw新後モデル46との差分量が許容範囲内であるか否かを判定する。差分量が予め設定された閾値内、すなわち許容範囲内であればステップ105へ進む。差分量が許容範囲内でない場合はステップ102へ戻るとともに、更新後モデル46が更新前モデル45として更新前モデル保持部132に保持される。
・・・
【0053】
(ステップ105)
スキャン実施判定部135は、更新後モデル46により予測されるCT値が本スキャン開始の目標値Eに到達する時間まで待った後、本スキャン開始依頼をシステム制御装置124へ送る。本スキャン開始依頼を受信したシステム制御装置124は本スキャンを開始させる。」

(引3d)図3


(引3e)図4

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「患者の同じ血管に、」「2つの異なる造影剤を連続的に投与する注射器114」は、本件補正発明の「被検体に対して造影剤を注入するインジェクター」に相当する。

イ 引用発明の「放射線源110」、「検出器アレイ118」、「調節器116」、「再構成器120」、「画像生成器126」、「患者支持体128」及び「汎用コンピューティングシステム130」を併せたもの、言い換えると、引用発明の「コンピュータトモグラフィ(CT)スキャナシステム100」から「注射器114」を除いたものが、本件補正発明の「前記被検体に対してX線撮影を行うX線CT装置」に相当する。

ウ 引用発明の「コンピュータトモグラフィ(CT)スキャナシステム100」は、本件補正発明の「X線CTシステム」に相当する。

エ 引用発明の「第1の造影剤が投与され」、「第2の造影剤が投与され」るまでの「第2の予め設定された時間期間」は、本件補正発明の「第1造影剤の注入タイミングと第2造影剤の注入タイミングの時間差」に相当する。

オ 上記エを踏まえると、引用発明では、「汎用コンピューティングシステム130」の「K端イメージングプロトコルに従って、第1の造影剤が投与され、造影剤の次の投与は、第2の予め設定された時間期間遅延され、第2の造影剤が投与され」ることから、「汎用コンピューティングシステム130」が、「注射器114」に「第2の予め設定された時間期間」に関する情報を送信していることは明らかである。
よって、引用発明は、本件補正発明の「前記時間差に関する情報をインジェクターに送信する送信部」に相当する構成を備えているといえる。

カ 引用発明の「検査領域106を横切る多色放射線を放出するX線管のような放射線源110」は、本件補正発明の「前記被検体に対して照射するX線を発生するX線発生部」に相当する。

キ 引用発明の「前記検査領域106を横切る光子を検出」「する検出器アレイ118」は、本件補正発明の「前記被検体を透過した前記X線を検出するX線検出部」に相当する。

ク 引用発明の「放射線源110」と「検出器アレイ118」を併せたものが、本件補正発明の「データ取得部」に相当する。

ケ 引用発明の「投影データ」は、「再構成器120」において「第1の造影剤の第1のK端効果成分、及び第2の造影剤の第2のK端効果成分にエネルギー分解」されることから、本件補正発明の「複数の異なるX線エネルギーに対応する検出データ」に相当する。

コ 引用発明の「注射器114」により「K端イメージングプロトコルに従って、」「患者の同じ血管に、」「第1の造影剤が投与され、造影剤の次の投与は、第2の予め設定された時間期間遅延され、第2の造影剤が投与され、その後」、「門脈静脈フェーズを表わす前記第1の造影剤の第1のK端効果成分」、「及び大動脈フェーズを表わす前記第2の造影剤の第2のK端効果成分」を「同時に取得するために」「単一スキャン」「を実施」し、「検査領域106を示す投影データを生成する」ことは、ここでの「門脈静脈フェーズを表わす前記第1の造影剤の第1のK端効果成分」及び「大動脈フェーズを表わす前記第2の造影剤の第2のK端効果成分」は、それぞれ、本件補正発明の「前記第1造影剤による第1の造影時相に対応する造影効果」及び「前記第2造影剤による第2の造影時相に対応する造影効果」に相当するところ、本件補正発明の「前記インジェクターにより前記時間差に従って前記第1造影剤及び前記第2造影剤が注入された前記被検体に対し、前記第1造影剤による第1の造影時相に対応する造影効果、及び、前記第2造影剤による第2の造影時相に対応する造影効果が撮影対象の領域内に同時に現れている撮影タイミングでX線スキャンを行い、」「検出データを取得する」ことに相当する。

サ 上記カ?コを踏まえると、引用発明の「検査領域106を横切る多色放射線を放出するX線管のような放射線源110」と、「前記検査領域106を横切る光子を検出」し、「注射器114」により「K端イメージングプロトコルに従って、」「患者の同じ血管に、」「第1の造影剤が投与され、造影剤の次の投与は、第2の予め設定された時間期間遅延され、第2の造影剤が投与され、その後」、「門脈静脈フェーズを表わす前記第1の造影剤の第1のK端効果成分」、「及び大動脈フェーズを表わす前記第2の造影剤の第2のK端効果成分」を「同時に取得するために」「単一スキャン」「を実施」し、「検査領域106を示す投影データを生成する」「検出器アレイ118」を併せたものが、本件補正発明の「前記被検体に対して照射するX線を発生するX線発生部と、前記被検体を透過した前記X線を検出するX線検出部と、を備え、前記インジェクターにより前記時間差に従って前記第1造影剤及び前記第2造影剤が注入された前記被検体に対し、前記第1造影剤による第1の造影時相に対応する造影効果、及び、前記第2造影剤による第2の造影時相に対応する造影効果が撮影対象の領域内に同時に現れている撮影タイミングでX線スキャンを行い、複数の異なるX線エネルギーに対応する検出データを取得するデータ取得部」に相当する。

シ 上記サを踏まえると、引用発明の「造影剤に基づくK端イメージングプロトコル」を「常駐する」「オペレータコンソールとして機能する汎用コンピューティングシステム130」は、本件補正発明の「前記データ取得部を制御する制御部」に相当する。

ス 上記サを踏まえると、引用発明の「前記投影データを第1の造影剤の第1のK端効果成分、及び第2の造影剤の第2のK端効果成分にエネルギー分解し、スペクトル的に再構成し、それを示す」「ボリュメトリック画像データを処理し、」「門脈静脈フェーズを表わす」「前記第1の造影剤の第1のK端効果成分に基づく第1の画像、及び」「大動脈フェーズを表わす」「前記第2の造影剤の第2のK端効果成分に基づく第2の画像を生成する画像生成器126」は、ここでの「門脈静脈フェーズを表わす」「前記第1の造影剤の第1のK端効果成分に基づく第1の画像」及び「大動脈フェーズを表わす」「前記第2の造影剤の前記第2のK端効果成分に基づく第2の画像」は、それぞれ、本件補正発明の「前記第1の造影時相に対応する造影効果を表す第1画像」及び「前記第2の造影時相に対応する造影効果を表す第2画像」に相当するところ、本件補正発明の「前記撮影タイミングで収集された複数の前記X線エネルギーに対応する前記検出データを解析して、前記第1の造影時相に対応する造影効果を表す第1画像、及び、前記第2の造影時相に対応する造影効果を表す第2画像を生成する画像処理部」に相当する。

(4)一致点・相違点
上記(3)から、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「被検体に対して造影剤を注入するインジェクターと、
前記被検体に対してX線撮影を行うX線CT装置と、
を有するX線CTシステムにおいて、
前記X線CT装置は、
第1造影剤の注入タイミングと第2造影剤の注入タイミングの時間差に関する情報をインジェクターに送信する送信部と、
前記被検体に対して照射するX線を発生するX線発生部と、前記被検体を透過した前記X線を検出するX線検出部と、を備え、前記インジェクターにより前記時間差に従って前記第1造影剤及び前記第2造影剤が注入された前記被検体に対し、前記第1造影剤による第1の造影時相に対応する造影効果、及び、前記第2造影剤による第2の造影時相に対応する造影効果が撮影対象の領域内に同時に現れている撮影タイミングでX線スキャンを行い、複数の異なるX線エネルギーに対応する検出データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部を制御する制御部と、
前記撮影タイミングで収集された複数の前記X線エネルギーに対応する前記検出データを解析して、前記第1の造影時相に対応する造影効果を表す第1画像、及び、前記第2の造影時相に対応する造影効果を表す第2画像を生成する画像処理部と、を備えるX線CTシステム。」

(相違点)
本件補正発明は、「前記被検体に注入する第1造影剤及び第2造影剤それぞれの濃度、注入レート、又は注入量を含む注入条件、及び、前記被検体の心拍出量、体重、又はBMIを含む前記被検体の情報に応じた、前記第1造影剤の注入タイミングと前記第2造影剤の注入タイミングの時間差を算出する算出部」を備えているのに対し、引用発明は、そのような算出部を備えているか不明である。

(5)判断
上記相違点について検討する。
X線CTシステムにおいて、被検体に注入する造影剤の注入レート又は注入量を含む注入条件、及び、被検体の体重を含む被検体の情報に応じた、造影剤が検査部位に到達するまでの時間経過のグラフを求め、当該グラフに従い、造影剤が検査部位に到達するタイミングで本スキャンを実施することは、本件優先権主張日当時の周知技術(例えば、引用文献2及び引用文献3を参照。)である。
一方、引用発明は、「門脈静脈フェーズを表わす前記第1の造影剤の第1のK端効果成分に基づく第1の画像、及び大動脈フェーズを表わす前記第2の造影剤の第2のK端効果成分に基づく第2の画像」を、「単一スキャンで」「同時に取得」するために、「第1の造影剤が投与され」、「第2の造影剤が投与され」るまでの「第2の予め設定された時間期間」を用いることから、「第2の予め設定された時間期間」は、第1及び第2の造影剤それぞれの注入タイミングが最適化されたものであるといえるが、どこで、どのように算出しているか不明である。
そこで、引用発明において、上記周知技術を踏まえると、被検体に注入する造影剤の注入レート又は注入量を含む注入条件、及び、被検体の体重を含む被検体の情報に応じた、第1及び第2の造影剤がそれぞれの検査部位(門脈静脈と大動脈)に到達するまでの時間経過のグラフを求め、当該それぞれのグラフに従い、第1及び第2の造影剤がそれぞれの検査部位に同時に到達するタイミングを算出し、算出されたタイミング(第2の予め設定された時間期間)を用いて本スキャン(単一スキャン)を実施することは、当業者が容易になし得ることといえる。
したがって、引用発明において、上記周知技術を踏まえて、上記相違点に係る本件補正発明の構成を備えることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1?3の記載から予測される範囲内のものにすぎず、顕著なものということはできない。

(6)請求人の主張について
請求人は、令和元年7月22日提出の上申書において、「少なくとも引用文献1に記載の発明(以下、適宜「引用発明1」と表します)には各種造影剤の注入タイミングを最適化しようとする観点はありません。」と主張しているが、上記(5)で検討したとおり、引用発明は、第1及び第2の造影剤それぞれの注入タイミングが最適化されたものであるから、請求人の上記主張は採用できない。

(7)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1?15に係る発明は、平成30年8月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項12に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(2)に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
進歩性の判断に係る原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

(進歩性)本願の請求項1?15に係る発明は、本願の優先権主張日前に日本国内において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1:特表2011-528248号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2(2)で検討した本件補正発明から、「算出部」についての限定を削除したものであり、その余の事項についても、請求人が審判請求書の請求の理由(上記第2の[理由]参照。)に記載したとおり「適宜語句を調整した」ものであって、実質的な技術的変更があるとはいえないものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、「算出部」を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(3)?(5)に記載したとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-01-10 
結審通知日 2020-01-14 
審決日 2020-01-27 
出願番号 特願2014-143543(P2014-143543)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 相川 俊後藤 順也  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
渡戸 正義
発明の名称 X線CT装置及びX線CTシステム  
代理人 特許業務法人三澤特許事務所  

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