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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 E04C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E04C
管理番号 1361046
審判番号 不服2019-10365  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-06 
確定日 2020-04-10 
事件の表示 特願2014-140963「鉄筋コンクリート構造及びその構築方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 1日出願公開、特開2016- 17321、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月8日の出願であって、原審におけるその後の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年 3月19日付け 拒絶理由通知
(平成30年 3月22日発送)
平成30年 5月17日 意見書及び手続補正書の提出
平成30年10月10日付け 拒絶理由通知
(平成30年10月12日発送)
平成30年12月 6日 意見書及び手続補正書の提出
平成31年 4月25日付け 拒絶査定
(令和 1年 5月 8日発送)

本件はこれに対し、原査定の謄本送達から3月以内の令和1年8月6日に、拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成31年4月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1(新規性)
本願請求項1及び3に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2(進歩性)
(1)本願請求項1及び3に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本願請求項2に係る発明は、下記引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献:
1.特開昭56-108431号公報
2.特開2001-193283号公報


第3 本願発明
本願請求項1ないし3に係る発明(以下、「本願発明1」等という。)は、平成30年12月6日付け手続補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明であって、以下のとおりの発明である。

本願発明1
「【請求項1】
互いに背中合わせとなる2つの壁面のうち、一方の壁面から所定距離だけ後退した位置に第1の主筋を該壁面に沿って列状に立設される形でコンクリートに埋設するとともに、他方の壁面から所定距離だけ後退した位置に第2の主筋を該壁面に沿って列状に立設される形で前記コンクリートに埋設し、前記第1の主筋に交差する形で第1の配力筋を前記コンクリートに埋設するとともに、前記第2の主筋に交差する形で第2の配力筋を前記コンクリートに埋設した鉄筋コンクリート構造において、
前記第1の主筋及び前記第2の主筋のうち、互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋が一体に取り囲まれるように螺旋状のせん断補強筋を前記コンクリートに埋設してなり、該せん断補強筋は単一の螺旋軸回りに周回形成してあるとともに、その内側に埋設される主筋が前記互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋のみであり、該互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋はそれぞれ単一の鉄筋で構成してあることを特徴とする鉄筋コンクリート構造。」

本願発明2
「【請求項2】
前記互いに対向する第1の主筋及び前記第2の主筋のうち、それらが立設された列方向に沿って一つおきとなるように前記せん断補強筋を配置した請求項1記載の鉄筋配置構造。」

本願発明3
「【請求項3】
互いに背中合わせとなる2つの壁面位置のうち、一方の壁面位置から所定距離だけ後退した位置に第1の主筋を該壁面位置に沿って列状に立設するとともに、他方の壁面位置から所定距離だけ後退した位置に第2の主筋を該壁面位置に沿って列状に立設し、
前記第1の主筋及び前記第2の主筋のうち、互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋が一体に取り囲まれるように前記2つの壁面位置の間に螺旋状のせん断補強筋を配置し、
第1の配力筋を前記第1の主筋に交差するように該主筋に連結するとともに、第2の配力筋を前記第2の主筋に交差するように該主筋に連結し、
前記2つの壁面位置の間にコンクリートを打設する鉄筋コンクリート構造の構築方法であって、前記せん断補強筋は単一の螺旋軸回りに周回形成してあるとともに、その内側に埋設される主筋が前記互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋のみであり、該互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋はそれぞれ単一の鉄筋で構成してあることを特徴とする鉄筋コンクリート構造の構築方法。」


第4 引用文献の記載
1 引用文献1
(1)記載事項
原査定に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同様。)。

ア 発明の詳細な説明(全文)
「この発明は鉄筋コンクリート壁体中に埋込サポートを埋設してある鉄筋コンクリート構造体に関するものである。
従来鉄筋コンクリートあるいは鉄骨鉄筋コンクリート構造の構造体の施工に際しては、コンクリートの打設前において鉄筋あるいは鉄骨が撓む恐れがあり、また壁式鉄筋コンクリート構造の場合壁端部、開口部周辺等において軸圧に対する補強が必要となる場合がある。
この発明は前記事情に鑑み開発されたもので、以下その詳細を図示した実施例によつて説明する。
埋込みサポートAは3本または4本の主鉄筋1の周囲にスパイラル鉄筋2を巻回し、その上下端には鋼板を四角形としたプレート3の造孔に主鉄筋1を挿入して溶接して固着してある。なおこの埋込みサポートAの直径は壁内に治まるように150?200mm程度とし、主鉄筋1には16φ、スパイラル鉄筋2には6φ程度のものを使用し、階高に応じてその長さを選定し、プレハブ化したものとする。
以上の埋込みサポートAをコンクリートの打設に先立つて、第5図のようにSRC構造の場合上下階の鉄骨4,4間に建込み、鉄骨4のフランジとプレート3を重ね、必要により楔を挿入する等して固定し、併せて壁Bの縦横の壁配筋6を配筋し、壁B、梁Cのコンクリートを一体に打設する。
また第4図のようにRC構造の場合埋込みサポートAの上下端は梁鉄筋5の内部に挿入してもよいし、また梁鉄筋5をプレート3により支承するようにしてもよい。またこの埋込みサポートAは壁配筋6に当らないように配置する場合、あるいはその主鉄筋1を壁の鉄筋と兼用する場合がある。
この発明は以上の構成からなり、埋込みサポートは梁鉄骨、梁鉄筋の建方時にそれを支承し撓みを防止する。またコンクリートに埋設された後は壁の軸圧に対する補強となり特に開口部に近接して配置することにより開口部補強枠なり、また壁の交叉部に配置することにより壁隅部の補強、壁鉄筋配筋の定規となる。
また壁内に埋設されるプレハブ材であるので建方も容易であり、また仮設材のように取外す必要がない。さらに所要間隔に配置して壁の面内あるいは面外の剪断補強をなし、スパイラル鉄筋によつてコンクリートを拘束してコンクリートのひびわれを防止できる。さらにスラブに用いて剪断補強材とすることもできる。」

イ 図面
第1図、第4図、第6図、第8図ないし第10図には、次の図示がある。

第1図








上記第第6図、第8図ないし第10図から、壁の一対の外表面の少し内側には、それぞれ縦と横の交差する壁配筋6が列状に埋設されている様子が、看てとれる。
上記第1図、第4図、第6図及び第8図ないし第10図から、埋込みサポートAのスパイラル鉄筋2は、第1図、第4図及び第6図の上下方向及び第8図ないし第10図の紙面垂直方向を縦方向として、縦方向の1軸周りに、主鉄筋1の周囲を巻回する様子が、看てとれる。
上記第8図から、埋込サポートAのスパイラル鉄筋2の内側で壁に埋設される主鉄筋1として、紙面垂直方向を縦方向として、縦の壁背筋6を主鉄筋1として兼用することなく、4本の主鉄筋1を設けた様子が、看てとれる。
上記第9図から、埋込サポートAのスパイラル鉄筋2の内側で壁に埋設される主鉄筋1として、紙面垂直方向を縦方向として、4本の縦の壁背筋6を、4本の主鉄筋1として兼用する様子が、看てとれる
上記第10図から、埋込サポートAのスパイラル鉄筋2の内側で壁に埋設される主鉄筋1として、紙面垂直方向を縦方向として、2本の縦の壁背筋6を2本の主鉄筋1として兼用するとともに、縦の壁背筋6とは異なる2本の主鉄筋1を追加して設けた様子が、看てとれる。

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

引用発明1
「縦横の壁配筋6を配筋した鉄筋コンクリート壁体中に埋込サポートAを埋設してある鉄筋コンクリート構造体であり、
壁の一対の外表面の少し内側には、それぞれ縦と横の交差する壁配筋6が列状に埋設されており、
埋込みサポートAは、3本または4本の主鉄筋1の周囲にスパイラル鉄筋2を、縦方向の1軸周りに巻回し、その上下端には鋼板を四角形としたプレート3の造孔に主鉄筋1を挿入して溶接して固着してあり、
埋込みサポートAは、仮設材のように取外す必要がなく、梁鉄骨、梁鉄筋の建方時には梁鉄骨、梁鉄筋を支承して撓みを防止し、コンクリートに埋設された後は壁の軸圧に対する補強となり、所要間隔に配置して壁の面内あるいは面外の剪断補強をなし、
埋込サポートAのスパイラル鉄筋2の内側で壁に埋設される主鉄筋1として、縦の壁背筋6を主鉄筋1として兼用することなく4本の主鉄筋1を設けてもよく、4本の縦の壁背筋6を4本の主鉄筋1として兼用してもよく、2本の縦の壁背筋6を2本の主鉄筋1として兼用するとともに縦の壁背筋6とは異なる2本の主鉄筋1を追加して設けてもよい、
鉄筋コンクリート構造体。」


2 引用文献2
原査定に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。

(1)明細書
ア 図4及び図5の説明
「【0013】上記実施例では、隣接の帯筋が部分的に重ね合ったものについて説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、例えば、図4に示すように、隣接の帯筋(本実施例では円形帯筋4a、4b)が適当な間隔を開けて配置される連続円形帯筋4であってもよい。本実施例において、連続円形帯筋4は、図4(B)及び(C)に示すように連続して(一筆書き状に)形成される。4cは連絡筋、4c′は連絡鉄筋である。なお、上記円形帯筋4a、4bの個数は限定するものではなく、必要に応じて設定される。図5は、上記実施例の連続環状(円形)帯筋を連続スパイラル帯筋5に代えた別の実施例を示すものである。」

イ 図8の説明
「【0016】図8は、地中連壁コンクリート壁に、本願発明の連続環状帯筋を適用した実施例を示すもので、11は柱主筋および12は連続円形帯筋である。該連続円形帯筋12は柱主筋11を取り囲むように配筋されると共に、隣接する円形帯筋12は適当な間隔を保って配置され、しかも、図4に示すように、1本の鉄筋により連続して形成されている。なお、上記連続円形帯筋12は、図2に示すように部分的に重ね合わせて配置してもよく、また、図3あるいは図5に示すようなスパイラル状の連続帯筋であってもよい。図9は、従来のコンクリート壁を示すもので、柱主筋11には帯筋13およびフック付きスターラップ14が配筋されている。従って、図8に示す本発明の実施例では、組立台上で予め鉄筋籠を効率良くしかも精度良く組み立てて、掘削溝に建て込んでコンクリートを打設することができる。これに対して、図9に示す従来の構造では、組立効率や精度を十分に出すことができない。」

(2)図面
図4、図5及び図8には、それぞれ次の図示がある。








第5 当審の判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「鉄筋コンクリート構造体」は、本願発明1における「鉄筋コンクリート構造」に相当する。
引用発明1における「壁の一対の外表面」は、本願発明1における「互いに背中合わせとなる2つの壁面」に相当する。
引用発明1における「壁背筋6」のうち、壁の「一対の外表面」の、一方の「外表面」の「少し内側」に、「列状に埋設」された「縦」の「壁背筋6」は、本願発明1における「一方の壁面から所定距離だけ後退した位置」に「該壁面に沿って列状に立設される形でコンクリートに埋設」した「第1の主筋」に相当する。
引用発明1における「壁背筋6」のうち、壁の「一対の外表面」の、他方の「外表面」の「少し内側」に、「列状に埋設」された「縦」の「壁背筋6」は、本願発明1における「他方の壁面から所定距離だけ後退した位置」に「該壁面に沿って列状に立設される形でコンクリートに埋設」した「第2の主筋」に相当する。
引用発明1における「壁背筋6」のうち、壁の「一対の外表面」の、一方の「外表面」の「少し内側」に「列状に埋設」された「縦」の「壁背筋6」と「交差」する、「横」の「壁背筋6」は、本願発明1における「前記第1の主筋に交差する形」で「前記コンクリートに埋設」される「第1の配力筋」に相当する。
引用発明1における「壁背筋6」のうち、壁の「一対の外表面」の、他方の「外表面」の「少し内側」に「列状に埋設」された「縦」の「壁背筋6」と「交差」する、「横」の「壁背筋6」は、本願発明1における「前記第2の主筋に交差する形」で「前記コンクリートに埋設」される「第2の配力筋」に相当する。
引用発明1において、「コンクリートに埋設された後は壁の軸圧に対する補強となり、所要間隔に配置して壁の面内あるいは面外の剪断補強をな」す「埋込みサポートA」の「スパイラル鉄筋2」は、本願発明1において、「前記コンクリートに埋設」される「螺旋状のせん断補強筋」に相当する。
引用発明1において、「埋込みサポートA」の「スパイラル鉄筋2」が「縦方向の1軸周りに巻回」されている構成は、本願発明1において、「該せん断補強筋は単一の螺旋軸回りに周回形成してある」構成に相当する。
引用発明1において、壁の「縦」の「壁背筋6」、及び、「縦の壁背筋6」と兼用される場合もある「埋込サポートAのスパイラル鉄筋2の内側で壁に埋設される主鉄筋1」は、本願発明1における「主筋」に相当する。
引用発明1において、「埋込サポートAのスパイラル鉄筋2の内側で壁に埋設される主鉄筋1として、縦の壁背筋6を主鉄筋1として兼用することなく4本の主鉄筋1を設けてもよく、4本の縦の壁背筋6を4本の主鉄筋1として兼用してもよく、2本の縦の壁背筋6を2本の主鉄筋1として兼用するとともに縦の壁背筋6とは異なる2本の主鉄筋1を追加して設けてもよい」構成と、本願発明1において、「螺旋状のせん断補強筋」が「前記第1の主筋及び前記第2の主筋のうち、互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋が一体に取り囲まれるように」設けられており、かつ「単一の螺旋軸回りに周回形成」してある「該せん断補強筋」の「内側に埋設される主筋が前記互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋のみであり、該互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋はそれぞれ単一の鉄筋で構成してある」構成とは、「螺旋状のせん断補強鉄筋の内側に埋設される主筋を有する」点で共通する。

以上より、本願発明1と引用発明1とは、次の点で一致する。
「互いに背中合わせとなる2つの壁面のうち、一方の壁面から所定距離だけ後退した位置に第1の主筋を該壁面に沿って列状に立設される形でコンクリートに埋設するとともに、他方の壁面から所定距離だけ後退した位置に第2の主筋を該壁面に沿って列状に立設される形で前記コンクリートに埋設し、前記第1の主筋に交差する形で第1の配力筋を前記コンクリートに埋設するとともに、前記第2の主筋に交差する形で第2の配力筋を前記コンクリートに埋設した鉄筋コンクリート構造において、
螺旋状のせん断補強筋を前記コンクリートに埋設してなり、該せん断補強筋は単一の螺旋軸回りに周回形成してあるとともに、その内側に埋設される主筋を有する、
鉄筋コンクリート構造。」

一方、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する。

<相違点>
螺旋状のせん断補強筋が取り囲む主筋に関し、
本願発明1では、「前記第1の主筋及び前記第2の主筋のうち、互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋が一体に取り囲まれる」とともに、単一の螺旋軸周りに周回形成してある「該せん断補強筋」の「内側に埋設される主筋」が、「前記互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋のみであり、該互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋はそれぞれ単一の鉄筋で構成してある」と特定されており、一のせん断補強筋の内側に埋設される「互いに対向する第1の主筋及び第2の主筋のみ」は、「それぞれ単一の鉄筋で構成」されるから、一のせん断補強筋の内側に複数の第1の主筋又は複数の第2の主筋、あるいは第1の主筋でも第2の主筋でもない別途の主筋が埋設されることはないのに対し、
引用発明1では、1のスパイラル鉄筋2の内側の鉄筋は、縦の壁背筋6を主鉄筋1として兼用する場合もあるが、3本又は4本の主鉄筋1であり、主鉄筋1を兼用する縦の壁背筋6の数が2本である場合には、縦の壁背筋6とは別途の主鉄筋1を2本設けており、1のスパイラル鉄筋2の内側の鉄筋を、互いに対向する各1本の縦の壁背筋6のみとはしていない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。

新規性
上記相違点は、螺旋状のせん断補強筋が取り囲む主筋の数が、実際に相違していることから、形式的な相違点ということができず、実質的な相違点である。
したがって、本願発明1は引用発明1と同一ではない。

進歩性
(ア)引用文献1に基づく検討
次に、上記相違点が当業者にとって想到容易であるか否かを判断する。
引用発明1において、スパイラル鉄筋2は埋込みサポートAの一部をなす部材である。そして、埋込みサポートAは、仮設材のように取外す必要がなく、コンクリートに埋設された後は壁の軸圧に対する補強となり、所要間隔に配置して壁の面内あるいは面外の剪断補強をなす機能を有するものであるが、梁鉄骨、梁鉄筋の建方時には、梁鉄骨、梁鉄筋を支承して撓みを防止するという目的を有するものである。そのため、埋込みサポートAのスパイラル鉄筋2が、3本または4本の主鉄筋1の周囲にスパイラル鉄筋2を巻回する構成をとり、主鉄筋1の一部または全てを壁の縦の壁背筋6で兼用する選択肢をとる場合にも、スパイラル鉄筋2で巻回する主鉄筋1の本数を減らしていないことは、埋込みサポートAの目的である、梁鉄骨又は梁鉄筋の建方時において、梁鉄骨又は梁鉄筋を支承して撓みを防止するという目的からすれば、埋込みサポートAは3本以上の主鉄筋1を備えることが好適であるためと解される。
その一方、引用文献1には、埋込みサポートAが有する主鉄筋1を、2本のみに減らしても、建方時における梁鉄骨又は梁鉄筋の撓みを十分に防止できることを示す記載はなく、また埋込みサポートAについて、建方時における梁鉄骨又は梁鉄筋の撓みを防止するという目的を離れて、主鉄筋1の数を減らしてよい旨の記載もされていない。
そのため、引用発明1において、埋込みサポートAが有するスパイラル鉄筋2が巻回する主鉄筋1を、互いに対向する各1本の縦の壁背筋6のみと変更することには、動機付けがあるとはいえない。
したがって、引用発明1において、上記相違点に係る本願発明1の構成に至ることは、当業者にとって容易に想到できたものではない。

(イ)引用文献2を考慮した検討
引用文献2には、上記第4の2に摘記した事項が記載されているが、引用文献2においては、隣接する円形帯筋は1本の鉄筋により連続して一筆書き状に形成されており、連続する円形帯筋を連続スパイラル帯筋に代えた場合にも、スパイラル状の連続帯筋中の隣接する円形部は1本の鉄筋により連続して形成されている。そのため、引用文献2は、本願発明1における「せん断補強筋は単一の螺旋軸周りに周回形成してある」という構成を有さないとともに、引用発明1の「埋込みサポートA」とは基本構成が異なるため、引用発明1に引用文献2に記載される構成を適用することには動機付けがあるとはいえない。
したがって、引用発明1において、引用文献2に記載される事項を考慮したとしても、上記相違点に係る本願発明1の構成に至ることは、当業者にとって容易に想到できたものではない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明1と同一ではない。
また、本願発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本願発明1は、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の構成を全て有したうえで、さらに付加的特定事項により本願発明1を限定したものである。
そして、上記1で判断したとおり、本願発明1が、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではないから、本願発明2も、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。

3 本願発明3について
本願発明3は、本願発明1に対応する鉄筋コンクリート構造の構築方法の発明であり、せん断補強筋及びせん断補強筋が内側に埋設する主筋に関して、上記相違点に係る本願発明1の構成と同様の構成を有している。
そして、上記1で判断したとおり、上記相違点に係る本願発明1の構成は、引用文献1に記載されておらず、引用文献2に記載された事項を併せて考慮しても、当業者が容易に発明できたものではないから、本願発明3も、引用文献1に記載された発明ということはできず、引用文献1に記載された発明に基いて、たとえ引用文献2に記載された事項をさらに考慮したとしても、当業者が容易に発明できたものでもない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1及び3は、引用文献1に記載された発明と同一ではない。
また、本願発明1及び3は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本願発明2は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
そして、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2020-03-31 
出願番号 特願2014-140963(P2014-140963)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (E04C)
P 1 8・ 113- WY (E04C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 兼丸 弘道  
特許庁審判長 秋田 将行
特許庁審判官 住田 秀弘
有家 秀郎
発明の名称 鉄筋コンクリート構造及びその構築方法  
代理人 久寶 聡博  

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