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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F |
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管理番号 | 1361094 |
審判番号 | 不服2018-5223 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-04-16 |
確定日 | 2020-03-26 |
事件の表示 | 特願2014-176208「導電性基板、積層導電性基板、導電性基板の製造方法、及び積層導電性基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月10日出願公開、特開2015-164030〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成26年8月29日(優先権主張 平成26年1月31日)の出願であって、平成29年6月5日付けで拒絶理由が通知され、平成29年8月9日に手続補正がされるとともに意見書が提出され、平成29年12月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成30年4月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、その後、平成31年3月4日付けで当審より拒絶理由が通知され、令和元年5月7日に手続補正がされるとともに意見書が提出され、令和元年7月30日付けで当審より拒絶理由(最後)(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和元年10月7日に意見書が提出されたものである。 2 本願発明 本願の請求項に係る発明は、令和元年5月7日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「透明基材と、 前記透明基材の少なくとも一方の面上に形成された金属層と、 前記金属層上に湿式法により形成された黒化層と、 前記透明基材と、前記金属層との間に配置された密着層とを有し、 前記金属層、前記黒化層、及び前記密着層は、前記透明基材側から、前記密着層、前記金属層、前記黒化層の順で積層されており、 前記黒化層は、塩化テルルを含有し、 前記密着層は、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも2種以上の金属を含む金属合金と、炭素、酸素、窒素から選ばれる1種以上の元素とを含む導電性基板。」 3 拒絶の理由 令和元年7月30日付けの当審が通知した拒絶理由の理由は、概略、次のとおりのものである。 本願の請求項1-6に係る発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1-4に記載された発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2008-300393号公報 引用文献2:特開2008-144225号公報 引用文献3:特開2008-147356号公報 引用文献4:特開2013-169712号公報 4 引用文献の記載及び引用発明 (1) 引用文献1の記載及び引用発明 当審拒絶理由に引用され、本願優先日前に公開された、特開2008-300393号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の記載がある(下線は当審付与。以下同様。)。 ア 段落【0019】-【0020】 「【0019】 本発明に係るディスプレイ用電磁波遮蔽フィルタは、前記透視性導電層が導電性メッシュ層であり、当該導電性メッシュ層の透明樹脂基材側の面に黒化層が形成されており、当該黒化層が、ニッケルと銅と酸素を含む合金からなる黒化層(Ni-Cu-O黒化層)であることが、密着性に優れ、且つ外光吸収を行うのに十分な黒色度を有する点から好ましい。 【0020】 本発明のディスプレイ用複合フィルタは、前記ディスプレイ用電磁波遮蔽フィルタ、及び、反射防止機能、防眩機能、及び耐擦傷機能のいずれか一種もしくは二種以上の機能を有する一層又は二層以上の機能層を積層してなることを特徴とする。 このような複合フィルタは、上記電磁波遮蔽機能に加えて、種々の機能が付加されたディスプレイ用複合フィルタとして用いることができる。」 イ 段落【0039】-【0040】 「【0039】 (導電性メッシュ層) 導電性メッシュ層14は、導電性を有することで電磁波遮蔽機能を担える層であり、またそれ自体は不透明性材料からなるが、多数の開口部が存在するメッシュ状の形状に加工することにより、電磁波遮蔽性能と光透過性を両立させている層である。 また、導電性メッシュ層14は、一般的には金属箔のエッチングで形成した物が代表的であるが、これ以外のものでも、電磁波シールド性能に於いては意義を有する。従って、本発明では、導電性メッシュ層の材料及び形成方法は特に限定されるものでは無く、従来公知の光透過性の電磁波遮蔽層に於ける各種導電性メッシュ層を適宜採用できるものである。例えば、印刷法やめっき法等を利用して透明樹脂基材上に最初からメッシュ状の形状で導電性メッシュ層を形成したもの、或いは、最初は透明樹脂基材上に全面に、蒸着、スパッタ、めっき等の1或いは2以上の物理的或いは無電解めっき等の化学的形成手法を用いて非パターン状の透視性導電層を形成後、エッチング加工等でメッシュ状の形状にして導電性メッシュ層としたもの等でも構わない。 【0040】 導電性メッシュ層は、電磁波遮蔽性能を発現するに足る導電性を有する物質であれば、特に制限は無いが、通常は、導電性が良い点で金属層が好ましく、金属層は上記のように、蒸着、めっき、金属箔ラミネート等により形成することができる。金属層の金属材料としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム等が挙げられる。また、金属層の金属は合金でも良く、金属層は単層でも多層でも良い。例えば、鉄の場合には、低炭素リムド鋼や低炭素アルミキルド鋼などの低炭素鋼、Ni-Fe合金、インバー合金、等が好ましい。一方、金属が銅の場合は、金属材料は銅や銅合金となり、銅箔としては圧延銅箔や電解銅箔があるが、薄さ及びその均一性、黒化層との密着性等の点からは、電解銅箔が好ましい。」 ウ 段落【0044】-【0046】 「【0044】 [黒化処理] 黒化処理は上記導電性メッシュ層の面の光反射を防ぐためのものであり、黒化処理で形成された黒化処理面により、導電性メッシュ層面での外光反射による透視画像の黒レベルの低下を防いで、また、透視画像の明室コントラストを向上させて、ディスプレイの画像の視認性を向上するものである。黒化処理面は、導電性メッシュ層のライン部(線状部分)の全ての面に設けることが好ましいが、本発明では表裏両面のうち少なくとも視聴者側であると共に外光入射側の面を黒化処理面とすることが好ましい。表裏両面や、側面(両側或いは片側)が更に黒化処理されていても良い。黒化層は、少なくとも視聴側に設ければ良いが、ディスプレイ面側にも設ける場合には、ディスプレイから発生する迷光を抑えられるので、さらに、画像の視認性が向上する。 黒化処理としては、黒化層の金属メッキ層面を粗化するか、全可視光スペクトルに亘って光吸収性を付与する(黒化する)か、或いは両者を併用するか、何れかにより行なう。具体的に黒化処理としては、導電性メッシュ層にメッキ等で黒化層を付加的に設ける他、エッチング等で表面から内部に向かって当該表面を構成する層自体を黒化層に変化させても良い。 【0045】 本発明において黒化層は、黒等の暗色を呈し、密着性等の基本的物性を満足するものであれば良く、公知の黒化層を適宜採用し得る。 従って、黒化層としては、金属等の無機材料、黒着色樹脂等の有機材料等を用いることができ、例えば無機材料としては、金属、合金、金属酸化物、金属硫化物の金属化合物等の金属系の層として形成する。金属系の層の形成法としては、従来公知の各種黒化処理法を適宜採用できる。 【0046】 本発明の黒化層としては、Ni-Cu-Oの3元素からなる化合物(以下、(Ni-Cu-O)化合物と称する)を用いることが、密着性に優れると共に、エッチング加工適正にも優れ、且つ外光吸収を行うのに十分な黒色度を有する点から好ましい。電磁波遮蔽層への外光を吸収させて、ディスプレイの画像の視認性を向上するために、直接又は他の層を介して透明樹脂基材上に黒化層を形成する。黒化層の形成方法は特に限定されないが、スパッタ法、真空蒸着法などの気相成膜によって好適に形成することができる。堆積速度が速く密着性にすぐれることから特にスパッタ法が好ましい。スパッタ法では、Ni-Cu(ニッケル-銅合金)をターゲットとし、所望量の酸素ガスを供給しながら高電圧をかけてイオン化したアルゴン原子をぶつけて、ターゲットをイオン化して弾き飛ばして透明樹脂基材上に堆積させて黒化層を形成する。本発明に係る黒化層は黒色度が高いため、外光を吸収して外光反射(ぎらつき感)を抑えることができる。」 よって、上記各記載事項を関連図面と技術常識に照らし、下線部に着目すれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。 「ディスプレイ用電磁波遮蔽フィルタは、透視性導電層が導電性メッシュ層であり、当該導電性メッシュ層の透明樹脂基材側の面に黒化層が形成されており、当該黒化層が、ニッケルと銅と酸素を含む合金からなる黒化層(Ni-Cu-O黒化層)であり、 ディスプレイ用複合フィルタは、前記ディスプレイ用電磁波遮蔽フィルタ、及び、反射防止機能、防眩機能、及び耐擦傷機能のいずれか一種もしくは二種以上の機能を有する一層又は二層以上の機能層を積層してなり、 導電性メッシュ層は、通常は、導電性が良い点で金属層が好ましく、金属が銅の場合は、金属材料は銅や銅合金となり、 黒化層としては、Ni-Cu-Oの3元素からなる化合物(以下、(Ni-Cu-O)化合物と称する)を用いることが、密着性に優れると共に、エッチング加工適正にも優れ、且つ外光吸収を行うのに十分な黒色度を有する点から好ましい、 ディスプレイ用複合フィルタ。」 (2) 「引用文献2」について 当審拒絶理由に引用され、本願優先日前に公開された、特開2008-144225号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に、以下の記載がある(下線は当審付与。以下同様。)。 ア 段落【0002】-【0008】 「【背景技術】 【0002】 カメラ、ソーラーパネル、ディスプレイ用電磁波遮蔽フィルタ等の部品や日用品に使用される金属には、しばしば金属表面での光の反射を防止することを目的として、金属の表面に黒化層が形成される。 当該黒化層を形成するための黒化処理方法としては、黒ニッケルメッキ、すず-ニッケル合金メッキ、黒クロムメッキなどのメッキ法や、薬品で黒化する化成処理法が挙げられる。 電解メッキ法は電解する必要があり、経済性、薬品の使用量、処理時間などに問題があり、また、電解メッキ法により形成された黒化層は表面が金属光沢を有するため、反射防止性能が不十分なおそれがある。一方、化成処理法は電解する必要がなく、短時間で簡便に行うことができるという長所がある。 【0003】 化成処理に用いる金属黒化処理液としては、例えば、特許文献1に、テルルが溶解された塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0.5?16重量%の範囲内にあり、塩酸濃度が9.5?36重量%の範囲内にあることを特徴とする銀、銅、金及びこれらの合金を黒化するための金属黒化処理液が開示されている。 特許文献1に開示されている黒化処理液は、宝飾品の金属の黒化処理用であり、一液性で、操作が簡単で、かつ安定である。 【0004】 【特許文献1】特開2006-233327号公報 ・・・(中略)・・・ 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定のテルル濃度及び塩酸濃度の金属黒化処理液を用いて金属の表面を処理することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明に係る金属黒化処理液は、テルルが溶解された塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0.01?0.45重量%であり、塩酸濃度が0.05?8重量%であることを特徴とする。 【0008】 上記本発明の金属黒化処理液によれば、テルル濃度及び塩酸濃度が従来の処理液よりも低いため、従来の金属黒化処理液に比べて穏やかな条件で、かつ短時間に金属表面に黒化層を堆積させることができる。 上記本発明の金属黒化処理液を用いることにより、金属表面に黒化層が形成された黒化処理品は、黒化層の厚さが薄く、金属-黒化層間の密着性が高い。また、優れた反射防止性能を発揮する。」 イ 段落【0033】-【0037】 「【0033】 析出が予想される化合物の色は、TeCl_(2)が黒色、Teが銀灰色?灰色、TeCl_(4)が黄色、CuCl_(2)が白色、CuClが褐黄色である。黒化層の色調から、黒化層には主にTeCl_(2)が含まれていると推定されるが、条件によってはTe、TeCl_(4)、CuCl_(2)、CuClのうち少なくとも一つが含まれる。更に空気中では、これらが酸化した化合物、即ちTeO_(2)、CuO、CuO_(2)、或いはCu_(2)Te、CuTe及びこれらの酸化物なども含まれる可能性がある。 ・・・(中略)・・・ 【0036】 上記本発明の黒化処理により形成される黒化層は、主に塩化テルル(TeCl_(2))からなる。黒化層の詳細については、3.黒化処理品において説明する。 【0037】 3.黒化処理品 本発明に係る黒化処理品は、上記金属黒化処理方法を用いて製造したものである。 上記本発明の処理方法を用いて製造された黒化処理品は、従来の金属黒化処理方法よりも穏やかな条件で黒化層を堆積させることができるため、黒化層の厚さが薄く、金属-黒化層間の密着性が高く、黒化処理面の反射防止性能に優れる。」 (3) 「引用文献3」について 当審拒絶理由に引用され、本願優先日前に公開された、特開2008-147356号公報)(以下、「引用文献3」という。)には、図面と共に、以下の記載がある(下線は当審付与。以下同様。)。 ア 段落【0002】-【0011】 「【背景技術】 ・・・(中略)・・・ 【0003】 電磁波遮蔽フィルタの基本的な層構成を図6に示す。メッシュ状導電体層12が直接、又は接着剤(粘着剤)層を介して透明基材11上に形成されている。メッシュ状導電体層が金属光沢を有する金属メッシュ層を含む場合、その表面には、通常、外光又は表示光の反射を防止して視認性を向上させることを目的として黒化層が設けられる。 ・・・(中略)・・・ 【0006】 また、特許文献4には、テルルが溶解された塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0.5?16重量%の範囲内にあり、塩酸濃度が9.5?36重量%の範囲内にあることを特徴とする銀、銅、金及びこれらの合金を黒化するための金属黒化処理液が開示されている。 特許文献4に開示されている黒化処理液は、宝飾品の金属の黒化処理に適しており、一液性で、操作が簡単で、かつ安定である。しかし、当該黒化処理液を電磁波遮蔽フィルタの黒化処理層の形成に使用すると、黒化層が厚くなりすぎて金属層との界面が剥離しやすくなり、また、基材-金属層間の侵食(アンダーカット)が問題となる場合がある。また、塩酸の濃度が高く、作業環境が悪い。 【0007】 ・・・(中略)・・・ 【特許文献4】特開2006-233327号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 ・・・(中略)・・・ 【課題を解決するための手段】 ・・・(中略)・・・ 【0010】 本発明のディスプレイ用電磁波遮蔽フィルタは、少なくとも、透明基材、銅メッシュ層、及び塩化テルルを含んでなる黒化層が積層されてなるため、黒化層の厚さが薄く、銅メッシュ層-黒化層間及び銅メッシュ-透明基材間の密着性が高く、またディスプレイの前面に備えて用いる際に、外光に対する優れた反射防止性能を発揮する。 【0011】 本発明の電磁波遮蔽フィルタは、前記黒化層が銅メッシュ層の表面及び側面に積層されてなることが、ディスプレイの前面に備えて用いる際に外光に対する優れた反射防止性能を発現する点から好ましい。尚、「表面」の定義は後述する。」 イ 段落【0051】 「【0051】 尚、本発明において「表側」「表面」とは、透明基材に対して銅メッシュ層が形成された側を「表側」(図面上方を向く側でもある)、銅メッシュ層が形成された側と同じ向きとなる面(図面の上方の面でもある)を「表面」という。「裏側」「裏面」は、各々上記「表側」「表面」とは逆となる側(図面下方を向く側でもある)乃至面(図面の下方の面でもある)をいう。 また、ディスプレイ用途等に適用した場合において、観察者側の面は、本発明で定義する表面ではなく、裏面であっても良い。」 ウ 段落【0058】 「【0058】 尚、必要に応じて銅メッシュ層の裏面に黒化層が設けられていてもよい。当該裏面の黒化層は上記本発明の黒化処理方法により得られる黒化層に限定されず、黒等の暗色を呈し、密着性等の基本的物性を満足するものであれば良く、公知の黒化層を適宜採用し得る。 従って、銅メッシュ層の裏面側に任意に設けられる黒化層としては、金属等の無機材料、黒着色樹脂等の有機材料等を用いることができ、例えば無機材料としては、金属、合金、金属酸化物、金属硫化物の金属化合物等の金属系の層として形成する。金属系の層の形成法としては、従来公知の各種黒化処理法を適宜採用できる。なかでも、めっき法による黒化処理は密着性、均一性、容易性等で好ましい。めっき法の材料は、例えば、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、モリブデン、スズ、クロム等の金属や金属化合物等を用いる。これらは、密着性、黒さ等の点でカドミウム等による場合よりも優れている。」 5 対比 本願発明と引用発明とを対比すると以下のことがいえる。 (1) 引用発明の「透明樹脂基材」は、本願発明の「透明基材」に相当する。 (2) 引用発明の「導電性メッシュ層」は、「通常は、導電性が良い点で金属層が好まし」いから、本願発明の「前記透明基材の少なくとも一方の面上に形成された金属層」に相当する。 (3) 引用発明には、本願発明の「前記金属層上に湿式法により形成された黒化層」であって「前記黒化層は、塩化テルルを含有し」ている「黒化層」に対応する構成はない。 (4) 引用発明の「黒化層」は、「当該導電性メッシュ層の透明樹脂基材側の面に黒化層が形成されており」、「黒化層としては、Ni-Cu-Oの3元素からなる化合物(以下、(Ni-Cu-O)化合物と称する)を用いることが、密着性に優れると共に、エッチング加工適正にも優れ、且つ外光吸収を行うのに十分な黒色度を有する点から好ましい」から、本願発明の「前記透明基材と、前記金属層との間に配置された密着層とを有し、前記密着層は、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも2種以上の金属を含む金属合金と、炭素、酸素、窒素から選ばれる1種以上の元素とを含む」ものである「密着層」に相当する。 (なお、引用発明の「黒化層」は、本願発明の「密着層」とは、異なる別の層である旨の反論が想定できる。しかし、本願発明の「密着層」も、本願明細書の段落【0057】に「そこで、密着層は黒化層としても機能させることもできることから、透明基材と金属層との間に黒化層として機能する密着層を配置することで、金属層の下面側、すなわち透明基材側からの光による金属層表面での光の反射を特に抑制することが可能になる。」ことが記載されるから、本願発明の「密着層」も「黒化層」としての機能を含むものであって、両者に差はない。) (5) 引用発明の「当該導電性メッシュ層の透明樹脂基材側の面に黒化層が形成されて」いる層構成は、本願発明の「前記金属層、前記黒化層、及び前記密着層は、前記透明基材側から、前記密着層、前記金属層、前記黒化層の順で積層されて」いる層構成と、「前記金属層、及び前記密着層は、前記透明基材側から、前記密着層、前記金属層、の順で積層されて」いる点で共通するといえる。 (6) 引用発明の「ディスプレイ用複合フィルタ」は、本願発明の「導電性基板」に相当する。 よって、本願発明と引用発明との一致点・相違点は次のとおりであるといえる。 [一致点] 「透明基材と、 前記透明基材の少なくとも一方の面上に形成された金属層と、 前記透明基材と、前記金属層との間に配置された密着層とを有し、 前記金属層、及び前記密着層は、前記透明基材側から、前記密着層、前記金属層、の順で積層されており、 前記密着層は、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも2種以上の金属を含む金属合金と、炭素、酸素、窒素から選ばれる1種以上の元素とを含む導電性基板。」 [相違点] 本願発明は、さらに、「前記金属層上に湿式法により形成された黒化層」を含み、「前記金属層、前記黒化層、及び前記密着層は、前記透明基材側から、前記密着層、前記金属層、前記黒化層の順で積層されており」、「前記黒化層は、塩化テルルを含有し」ているのに対して、引用発明は、「前記金属層上に湿式法により形成された黒化層」を含むことが特定されていない点。 6 判断 [相違点]について (1) 引用文献1には、段落【0044】-【0045】に以下の記載がある。 「【0044】 [黒化処理] 黒化処理は上記導電性メッシュ層の面の光反射を防ぐためのものであり、黒化処理で形成された黒化処理面により、導電性メッシュ層面での外光反射による透視画像の黒レベルの低下を防いで、また、透視画像の明室コントラストを向上させて、ディスプレイの画像の視認性を向上するものである。黒化処理面は、導電性メッシュ層のライン部(線状部分)の全ての面に設けることが好ましいが、本発明では表裏両面のうち少なくとも視聴者側であると共に外光入射側の面を黒化処理面とすることが好ましい。表裏両面や、側面(両側或いは片側)が更に黒化処理されていても良い。黒化層は、少なくとも視聴側に設ければ良いが、ディスプレイ面側にも設ける場合には、ディスプレイから発生する迷光を抑えられるので、さらに、画像の視認性が向上する。 黒化処理としては、黒化層の金属メッキ層面を粗化するか、全可視光スペクトルに亘って光吸収性を付与する(黒化する)か、或いは両者を併用するか、何れかにより行なう。具体的に黒化処理としては、導電性メッシュ層にメッキ等で黒化層を付加的に設ける他、エッチング等で表面から内部に向かって当該表面を構成する層自体を黒化層に変化させても良い。 【0045】 本発明において黒化層は、黒等の暗色を呈し、密着性等の基本的物性を満足するものであれば良く、公知の黒化層を適宜採用し得る。 従って、黒化層としては、金属等の無機材料、黒着色樹脂等の有機材料等を用いることができ、例えば無機材料としては、金属、合金、金属酸化物、金属硫化物の金属化合物等の金属系の層として形成する。金属系の層の形成法としては、従来公知の各種黒化処理法を適宜採用できる。」 上記記載から、引用文献1には、「導電性メッシュ層」の「表裏両面」を黒化処理面とすること、及び、「黒化層は、黒等の暗色を呈し、密着性等の基本的物性を満足するものであれば良く、公知の黒化層が適宜採用し得る」ことが記載されていると認定できる。 (2) 一般に、「ディスプレイ用電磁波遮蔽フィルタ」などを含む各種の金属表面に、密着性や黒色性を有する黒化層として、「湿式処理」により「塩化テルル」を含有している黒化層を形成することは、上記引用文献2(上記4(2)を参照。)、上記引用文献3(上記4(3)を参照。)に記載されるように周知技術である。 (3) なお、引用文献1には、段落【0046】に以下の記載がある。 「【0046】 本発明の黒化層としては、Ni-Cu-Oの3元素からなる化合物(以下、(Ni-Cu-O)化合物と称する)を用いることが、密着性に優れると共に、エッチング加工適正にも優れ、且つ外光吸収を行うのに十分な黒色度を有する点から好ましい。電磁波遮蔽層への外光を吸収させて、ディスプレイの画像の視認性を向上するために、直接又は他の層を介して透明樹脂基材上に黒化層を形成する。黒化層の形成方法は特に限定されないが、スパッタ法、真空蒸着法などの気相成膜dによって好適に形成することができる。堆積速度が速く密着性にすぐれることから特にスパッタ法が好ましい。スパッタ法では、Ni-Cu(ニッケル-銅合金)をターゲットとし、所望量の酸素ガスを供給しながら高電圧をかけてイオン化したアルゴン原子をぶつけて、ターゲットをイオン化して弾き飛ばして透明樹脂基材上に堆積させて黒化層を形成する。本発明に係る黒化層は黒色度が高いため、外光を吸収して外光反射(ぎらつき感)を抑えることができる。」 上記記載から、引用発明の「黒化層」(本願発明1の「密着層」に対応する。)としては、「密着性」などを考慮して、特に「(Ni-Cu-O)化合物」を採用することが好ましいものと理解できる。 しかし、例えば、引用文献3(上記4(3)を参照。)の段落【0059】に「尚、必要に応じて銅メッシュ層の裏面に黒化層が設けられていてもよい。当該裏面の黒化層は上記本発明の黒化処理方法により得られる黒化層に限定されず、黒等の暗色を呈し、密着性等の基本的物性を満足するものであれば良く、公知の黒化層を適宜採用し得る」と記載されるように、引用発明の導電性メッシュ層の透明基材と反対側の面の「黒化層」としては、層間の密着性や黒色性など必要とされる諸条件は、各層ごとに異なると考えられることから、必ずしも、「(Ni-Cu-O)化合物」と同じものに限定されないと認められる。 (4) よって、引用発明において、上記引用文献1の記載に基づいて、「表裏両面」を黒化処理面として、この際、金属表面の黒化層として、「湿式処理」により「塩化テルル」を含有している黒化層を形成する周知技術を採用することによって、上記<相違点>に係る構成とすることは、当業者が適宜採用すべき設計的事項にすぎない。 (5) さらに、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が予測し得る範囲内のものである。 (6) なお、請求人は、意見書において、以下のように述べる(下線は当審付与。)。 「…しかしながら、上記ご判断の根拠となるご認定には、少なくとも以下の点で誤りがあります。 「黒化層として、公知の黒化層が適宜採用できることが記載されている」とのご認定の根拠として審判官殿が挙げられた、引用文献1の[0045]には、「本発明において黒化層は、黒等の暗色を呈し、密着性等の基本的物性を満足するものであれば良く、公知の黒化層を適宜採用し得る。」と記載されています。すなわち、公知の黒化層であれば、なんでも採用できるわけではなく、「密着性等の基本的物性」を満足するものであることが前提条件です。従って、上記拒絶理由通知書における「黒化層として、公知の黒化層が適宜採用できることが記載されている」とのご認定には誤りがあります。 そして、引用文献2、3を根拠として挙げられた塩化テルルを含有する黒化層が引用文献1でいう基本的物性を満たしているかは明らかではないため、仮に塩化テルルを含有する黒化層が周知であったとしても、引用文献1に記載された発明において採用することはできません。 さらに、「引用発明の「黒化層」(本願発明1の「密着層」に対応する。)としては、「密着性」などを考慮して、特に「(Ni-Cu-O)化合物」を採用することが好ましいものと理解できる。しかし、引用発明の導電性メッシュ層の透明基材と反対側の面の「黒化層」としては、層間の密着性など必要とされる諸条件が異なると考えられるから、必ずしも、「(Ni-Cu-O)化合物」と同じものに限定されないと認められる。」とのご認定についても以下の理由から誤りがあります。 引用文献1の[0044]には、「黒化処理面は、導電性メッシュ層のライン部(線状部分)の全ての面に設けることが好ましいが、本発明では表裏両面のうち少なくとも視聴者側であると共に外光入射側の面を黒化処理面とすることが好ましい。表裏両面や、側面(両側或いは片側)が更に黒化処理されていても良い。黒化層は、少なくとも視聴側に設ければ良いが、ディスプレイ面側にも設ける場合には、ディスプレイから発生する迷光を抑えられるので、さらに、画像の視認性が向上する。」と記載されています。しかしながら、導電メッシュ層の表面と裏面とで異なる材料の黒化層を設けることは記載も示唆もされていません。 むしろ、何の理由もなく、場所により黒化層の材料を変更することは、製造工程を煩雑にするものであり、技術常識に反するものといえます。 なお、上記ご認定の根拠として引用文献1の[0046]も挙げておられますが、係る記載は黒化層の材料としてNi-Cu-Oの3元素からなる化合物を用いることが好ましいことが記載されているのみです。 以上の様に、引用文献1のいずれの箇所においても、導電メッシュ層の表面と裏面とで異なる材料の黒化層を設けることは記載も示唆もされていませんし、既述の様に理由もなく場所により材料を変更することは技術常識に反するものともいえます。従って、引用発明の黒化層の一部をNi-Cu-O化合物の層とし、他の部分を異なる材料とする旨の上記ご認定は根拠がなく、むしろ本願発明からの後知恵によるものともいえ、明らかに妥当性を欠いています。 以上の様に、ご判断の基礎となる引用文献のご認定には誤りがあり、係る誤ったご認定に基づく「引用発明において、上記引用文献1の記載に基づいて、「表裏両面」を黒化処理面として、この際、金属表面の黒化層として、「湿式処理」により「塩化テルル」を含有している黒化層を形成する周知技術を採用することによって、上記<相違点>に係る構成とすることは、当業者が適宜採用すべき設計的事項にすぎない。」とのご判断も根拠を欠き、妥当性を欠くものとなっています。」 しかし、上記の請求人の主張が採用できないことは、上記(1)-(5)で述べたとおりである。 7 むすび したがって、本願発明は、引用発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-01-27 |
結審通知日 | 2020-01-28 |
審決日 | 2020-02-12 |
出願番号 | 特願2014-176208(P2014-176208) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G06F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 円子 英紀 |
特許庁審判長 |
▲吉▼田 耕一 |
特許庁審判官 |
白井 亮 稲葉 和生 |
発明の名称 | 導電性基板、積層導電性基板、導電性基板の製造方法、及び積層導電性基板の製造方法 |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 伊東 忠彦 |