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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B
管理番号 1361100
審判番号 不服2019-1615  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-05 
確定日 2020-03-26 
事件の表示 特願2015- 44830「酸化物超電導線材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 8日出願公開、特開2016-164846〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成27年3月6日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 8月15日付け :拒絶理由通知書
平成30年10月22日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年10月30日付け :拒絶査定(原査定)
平成31年 2月 5日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 平成31年2月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成31年2月5日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1-5の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)
「 【請求項1】
テープ状の基板上に形成された中間層上にMOD法により超電導層を形成する工程と,
前記超電導層上に銀安定化層を形成する工程と,
前記超電導層及び前記銀安定化層が形成された前記基板を線材本体とし,当該線材本体を,供給リールから供給して巻き取りリールにて巻き取るリール方式を用いて,前記供給リールと前記巻き取りリールとの間で張架した状態で銅保護層形成用の水溶液中に浸漬して前記銀安定化層上に銅保護層を形成する工程と,を含み,
前記銅保護層を形成する際の前記水溶液中における前記線材本体の張力は,当該線材本体の引っ張り歪みが0.6%以下となる張力である,
ことを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記銅安定化層を形成する際の前記水溶液中における前記線材本体の張力は,当該線材本体の引っ張り歪みを0.05%以上にする張力である,
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記基板には,ニッケル或いはニッケル合金が用いられる,
ことを特徴とする請求項1または2記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記基板には,ハステロイ(登録商標),インコネル(登録商標)又はステンレス鋼の金属材料が用いられる,
ことを特徴とする請求項1または2記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記銅保護層を形成する際の前記基板の底面から前記銀安定化層の表面までの厚みは50?130μmである,
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年10月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-5の記載は次のとおりである。(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)
「 【請求項1】
テープ状の基板上に形成された中間層上にTFA-MOD法により超電導層を形成する工程と,
前記超電導層上に銀安定化層を形成する工程と,
前記超電導層及び前記銀安定化層が形成された前記基板を線材本体とし,当該線材本体を,供給リールから供給して巻き取りリールにて巻き取るリール方式を用いて,前記供給リールと前記巻き取りリールとの間で張架した状態で銅保護層形成用の水溶液中に浸漬して前記銀安定化層上に銅保護層を形成する工程と,を含み,
前記銅保護層を形成する際の前記水溶液中における前記線材本体の張力は,当該線材本体の引っ張り歪みが0.6%以下となる張力である,
ことを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記銅安定化層を形成する際の前記水溶液中における前記線材本体の張力は,当該線材本体の引っ張り歪みを0.05%以上にする張力である,
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記基板には,ニッケル或いはニッケル合金が用いられる,
ことを特徴とする請求項1または2記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記基板には,ハステロイ(登録商標),インコネル(登録商標)又はステンレス鋼の金属材料が用いられる,
ことを特徴とする請求項1または2記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記銅保護層を形成する際の前記基板の底面から前記銀安定化層の表面までの厚みは50?130μmである,
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。」

2 補正の適否
2-1 本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされており,特許法第17条の2第3項の規定に適合している。
また,本件補正は,特別な技術的特徴を変更(シフト補正)しようとするものではなく,特許法第17条の2第4項の規定に適合している。

2-2 目的要件
本件補正は上記「1 本件補正について(補正の内容)」のとおり,本件審判の請求と同時にする補正であり,特許請求の範囲について補正をしようとするものであるから,本件補正が,特許法第17条の2第5項の規定を満たすものであるか否か,すなわち,本件補正が,特許法第17条の2第5項に規定する請求項の削除,特許請求の範囲の減縮(特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る),誤記の訂正,或いは,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由を示す事項についてするものに限る)の何れかを目的としたものであるかについて,以下に検討する。
(1)補正前の請求項と補正後の請求項とを比較すると,補正後の請求項1-5はそれぞれ,補正前の請求項1-5に対応することは明らかである。

(2)本件補正は,以下の補正事項よりなるものである。
<補正事項>
補正前の請求項1の
「テープ状の基板上に形成された中間層上にTFA-MOD法により超電導層を形成する工程」との記載を,
補正後の請求項1の「テープ状の基板上に形成された中間層上にMOD法により超電導層を形成する工程」
との記載に変更する補正。

(3)補正事項について
補正後の請求項1の「MOD法により超電導層を形成する」との特定事項は,「超電導層」を形成するための種々ある「MOD法」の一つである「TFA-MOD法」により「超電導層」を形成することを,「MOD法」全般により形成するものに拡張するものであり,この特定事項は,補正前の請求項1に記載された発明特定事項のいずれかを概念的により下位にしたものとはいえない。
したがって,上記補正事項は,限定的減縮を目的とするものとは認められない。
また,請求項の削除,誤記の訂正,或いは,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知書に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る)のいずれにも該当しない。

(4)小括
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除,同条同項第2号の特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。),同条同項第3号の誤記の訂正,同条同項第4号の明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものではない。
よって,本件補正は,特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反する。

3 補正却下の決定のむすび
上記「2-2 目的要件」で指摘したとおり,上記補正事項の目的は請求項の削除,限定的減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明の何れにも該当しないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年2月5日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年10月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
テープ状の基板上に形成された中間層上にTFA-MOD法により超電導層を形成する工程と,
前記超電導層上に銀安定化層を形成する工程と,
前記超電導層及び前記銀安定化層が形成された前記基板を線材本体とし,当該線材本体を,供給リールから供給して巻き取りリールにて巻き取るリール方式を用いて,前記供給リールと前記巻き取りリールとの間で張架した状態で銅保護層形成用の水溶液中に浸漬して前記銀安定化層上に銅保護層を形成する工程と,を含み,
前記銅保護層を形成する際の前記水溶液中における前記線材本体の張力は,当該線材本体の引っ張り歪みが0.6%以下となる張力である,
ことを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1-5に係る発明は,本願出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1-3に記載された発明及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用例1: 特開2010-176892号公報
引用例2: 特開2011-159455号公報
引用例3: 特開2010-113919号公報

3 引用例
(1)引用例1に記載されている技術的事項および引用発明
ア 本願出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成30年8月15日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2010-176892号公報(平成22年8月12日出願公開,以下,「引用例1」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「【0016】
上記の事情に鑑みて,本発明の目的は,超電導線材の歩留まりを向上させることができるとともに,製造コストを低減することができる超電導線材および超電導線材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は,金属基板と,金属基板上に設置された中間層と,中間層上に設置された超電導層と,超電導層上に設置された第1の銀安定化層と,金属基板と中間層と超電導層と第1の銀安定化層とを含む積層体の外表面の少なくとも一部を覆う第2の銀安定化層とを備えた超電導線材である。
【0018】
ここで,本発明の超電導線材においては,第2の銀安定化層の外表面の少なくとも一部を覆う銅安定化層をさらに備えていてもよい。」

B 「【0038】
超電導層3としては,たとえば,RE-Ba-Cu-O系の酸化物超電導体であるRE123系の超電導体を用いることができる。なお,REは希土類元素(ランタン(La),ネオジム(Nd),サマリウム(Sm),ガドリニウム(Gd),ホルミウム(Ho),イットリウム(Y),ジスプロシウム(Dy),エルビウム(Er),ツリウム(Tm),イッテルビウム(Yb)およびルテニウム(Lu)からなる群から選択された少なくとも1種)を示しており,Baはバリウムを示し,Cuは銅を示し,Oは酸素を示している。
…(中略)…
【0041】
また,超電導層3は,たとえば,スパッタリング法,レーザアブレーション法,MOD(Metal Organic Deposition)法およびMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法からなる群から選択された少なくとも1種の方法などにより形成することができる。」

C 「【0087】
(実施例1)
まず,幅10mm×長さ100m×厚さ0.1mmのテープ状のニッケルとタングステンとの合金からなる配向性の金属基板を用意した。ここで,金属基板中において,ニッケルは金属基板を構成する原子の総原子数の95%を占めており,タングステンは金属基板を構成する原子の総原子数の5%を占めていた。
【0088】
次に,この金属基板上にRFスパッタリング法によって厚さ0.1μmの第1酸化セリウム層を形成した。続いて,この第1酸化セリウム層上にRFスパッタリング法によって厚さ0.3μmのYSZ層を形成した。さらに,YSZ層上にRFスパッタリング法によって厚さ0.1μmの第2酸化セリウム層を形成した。これにより,上記の第1酸化セリウム層,YSZ層および第2酸化セリウム層が基板側からこの順序で積層された3層の積層体からなる中間層を基板上に形成した。ここで,YSZ層は,(ZrO_(2))_(0.92)(Y_(2)O_(3))_(0.08)の組成式で表わされるZrO_(2)とY_(2)O_(3)との固溶体であった。
【0089】
次いで,上記の中間層上に,パルスレーザデポジション法によって上記の組成式(2)を満たすHoBa_(2)Cu_(3)O_(7)-δの組成式で表わされる組成のHo-Ba-Cu-O系の酸化物超電導体からなる厚さ1μmの超電導層を形成した。
【0090】
そして,超電導層上に,DCスパッタリング法によって厚さ3μmの第1の銀安定化層を形成した。
【0091】
次に,金属基板の中間層の設置側とは反対側の表面上にもDCスパッタリング法によって厚さ3μmの第1の銀安定化層を形成した。
【0092】
その後,上記の第1の銀安定化層,金属基板,中間層,超電導層および第1の銀安定化層がこの順序で積層された幅10mmのテープ状の積層体6をギャングスリッタで図7に示すようにスリット加工することによって幅2mmのテープ状の積層体6aとした。
…(中略)…
【0098】
そして,上記の実施例1の超電導線材10の第1の銀安定化層に剥がれが生じているか否かについて目視で確認したところ,第1の銀安定化層には剥がれが生じていなかった。」

D 「【0100】
(実施例2)
図13に示すように,繰り出し用の第1のロール7a,銀めっき液9が収容された銀めっき槽8,銅めっき液29が収容された銅めっき槽28および巻き取り用の第2のロール7bを備えた電気めっき装置を用いて,電気めっき法により積層体6a第1の銀安定化層の外表面に銀を析出させて18μmの厚さの銀めっき膜からなる第2の銀安定化層を形成するとともに,第2の銀安定化層の外表面に銅を析出させて2μmの厚さの銅めっき膜からなる銅安定化層を形成したこと以外は実施例1と同様にして,実施例2の超電導線材20を作製した。」

イ ここで,引用例1に記載されている事項を検討する。
(ア)上記Aの段落【0016】の「本発明の目的は,超電導線材の歩留まりを向上させることができるとともに,製造コストを低減することができる超電導線材および超電導線材の製造方法を提供することにある。」との記載からすると,引用例1には,
“超電導線材の製造方法”が記載されていると解される。

(イ)上記Cの段落【0087】の「まず,幅10mm×長さ100m×厚さ0.1mmのテープ状のニッケルとタングステンとの合金からなる配向性の金属基板を用意した。」との記載,段落【0088】の「次に,この金属基板上にRFスパッタリング法によって厚さ0.1μmの第1酸化セリウム層を形成した。続いて,この第1酸化セリウム層上にRFスパッタリング法によって厚さ0.3μmのYSZ層を形成した。さらに,YSZ層上にRFスパッタリング法によって厚さ0.1μmの第2酸化セリウム層を形成した。これにより,上記の第1酸化セリウム層,YSZ層および第2酸化セリウム層が基板側からこの順序で積層された3層の積層体からなる中間層を基板上に形成した。」との記載からすると,「テープ状のニッケルとタングステンとの合金からなる配向性の金属基板」の上に「RFスパッタリング法」により「中間層」を形成すること,「中間層」は,「第1酸化セリウム層,YSZ層および第2酸化セリウム層が基板側からこの順序で積層された3層の積層体からなる」ことが読み取れるから,引用例1には,
“テープ状のニッケルとタングステンとの合金からなる配向性の金属基板上に,RFスパッタリング法によって,第1酸化セリウム層,YSZ層および第2酸化セリウム層が基板側からこの順序で積層された3層の積層体からなる中間層を基板上に形成する工程”が記載されていると解される。

(ウ)上記Cの段落【0089】の「次いで,上記の中間層上に,パルスレーザデポジション法によって上記の組成式(2)を満たすHoBa_(2)Cu_(3)O_(7)-δの組成式で表わされる組成のHo-Ba-Cu-O系の酸化物超電導体からなる厚さ1μmの超電導層を形成した。」との記載からすると,引用例1には,
“中間層上に,パルスレーザデポジション法によって酸化物超電導体からなる超電導層を形成する工程”が記載されていると解される。

(エ)上記Cの段落【0090】の「そして,超電導層上に,DCスパッタリング法によって厚さ3μmの第1の銀安定化層を形成した。」,段落【0091】の「次に,金属基板の中間層の設置側とは反対側の表面上にもDCスパッタリング法によって厚さ3μmの第1の銀安定化層を形成した。」との記載からすると,「超電導層上」および「金属基板の中間層の設置側とは反対側の表面上」に「DCスパッタリング法によって第1の銀安定化層を形成する」ことが読み取れるから,引用例1には,
“超電導層上に,DCスパッタリング法によって第1の銀安定化層を形成するとともに,金属基板の中間層の設置側とは反対側の表面上にもDCスパッタリング法によって第1の銀安定化層を形成する工程”が記載されていると解される。

(オ)上記Aの段落【0017】の「金属基板と中間層と超電導層と第1の銀安定化層とを含む積層体の外表面の少なくとも一部を覆う第2の銀安定化層とを備えた超電導線材である。」との記載,上記Dの段落【0100】の「繰り出し用の第1のロール7a,銀めっき液9が収容された銀めっき槽8,銅めっき液29が収容された銅めっき槽28および巻き取り用の第2のロール7bを備えた電気めっき装置を用いて,電気めっき法により積層体6a第1の銀安定化層の外表面に銀を析出させて18μmの厚さの銀めっき膜からなる第2の銀安定化層を形成するとともに,」との記載からすると,「繰り出し用の第1のロール」,「銀めっき液」が収容された「銀めっき槽」,「銅めっき液」が収容された「銅めっき槽」および「巻き取り用の第2のロール」を備えた「電気めっき装置」を用いて,「電気めっき法により積層体」の「第1の銀安定化層の外表面に銀を析出させて」,「銀めっき膜からなる第2の銀安定化層を形成する」ことが読み取れるから,引用例1には,
“繰り出し用の第1のロール,銀めっき液が収容された銀めっき槽,銅めっき液が収容された銅めっき槽および巻き取り用の第2のロールを備えた電気めっき装置を用いて,電気めっき法により積層体の第1の銀安定化層の外表面に銀を析出させて銀めっき膜からなる第2の銀安定化層を形成する工程”が記載されていると解される。

(カ)上記Aの段落【0018】の「ここで,本発明の超電導線材においては,第2の銀安定化層の外表面の少なくとも一部を覆う銅安定化層をさらに備えていてもよい。」との記載,上記Dの段落【0100】の「第2の銀安定化層の外表面に銅を析出させて2μmの厚さの銅めっき膜からなる銅安定化層を形成したこと以外は実施例1と同様にして,実施例2の超電導線材20を作製した。」との記載からすると,上記(オ)での検討より,「繰り出し用の第1のロール」,「銀めっき液」が収容された「銀めっき槽」および「巻き取り用の第2のロール」のほか,「銅めっき液」が収容された「銅めっき槽」を備えた「電気めっき装置」を用いて,「第2の銀安定化層の外表面に銅を析出させて」,「銅めっき膜」からなる「銅安定化層」を形成することが読み取れるから,引用例1には,
“前記電気めっき装置を用いて,第2の銀安定化層の外表面に銅を析出させて,銅めっき膜からなる銅安定化層を形成する工程”が記載されていると解される。

ウ 以上,(ア)-(カ)で示した事項から,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「テープ状のニッケルとタングステンとの合金からなる配向性の金属基板上に,RFスパッタリング法によって,第1酸化セリウム層,YSZ層および第2酸化セリウム層が基板側からこの順序で積層された3層の積層体からなる中間層を基板上に形成する工程と,
前記中間層上に,パルスレーザデポジション法によって酸化物超電導体からなる超電導層を形成する工程と,
前記超電導層上に,DCスパッタリング法によって第1の銀安定化層を形成するとともに,前記金属基板の前記中間層の設置側とは反対側の表面上にもDCスパッタリング法によって第1の銀安定化層を形成する工程と,
繰り出し用の第1のロール,銀めっき液が収容された銀めっき槽,銅めっき液が収容された銅めっき槽および巻き取り用の第2のロールを備えた電気めっき装置を用いて,電気めっき法により積層体の前記第1の銀安定化層の外表面に銀を析出させて銀めっき膜からなる第2の銀安定化層を形成する工程と,
前記電気めっき装置を用いて,前記第2の銀安定化層の外表面に銅を析出させて,銅めっき膜からなる銅安定化層を形成する工程,とを含む,
超電導線材の製造方法。」

(2)引用例2に記載されている技術的事項
本願出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2011-159455号公報(平成23年8月18日出願公開,以下,「引用例2」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

E 「【0007】
近年,超電導機器の小型化が求められており,これに対応して,小さな曲げ直径で薄膜超電導線材を曲げ加工して,コイルなどを形成することが求められている。
【0008】
しかしながら,上記した従来の薄膜超電導線材は,小さな曲げ直径で曲げ加工を行った場合,超電導特性の劣化を招くことがあり,前記した超電導機器の小型化に充分対応することができなかった。
【0009】
即ち,薄膜超電導線材に曲げ加工を行った場合,薄膜超電導線材の内側では圧縮歪みが発生し,外側では引っ張り歪みが発生し,それぞれに応力(圧縮応力および引っ張り応力)が作用する。そして,超電導層は圧縮歪みには強いが引っ張り歪みには弱いセラミックス特有の性質を有している。このため,曲げ直径が小さくなるほど,外周部に位置する超電導層には大きな引っ張り歪みが発生して大きな引っ張り応力が掛かることになり,超電導特性の劣化を招いて,コイルとして充分な超電導特性を維持することが困難となる。」

上記Eの記載からすると,引用例2には,
「超電導層は引っ張り歪みに弱いセラミックス特有の性質を有し,超電導層に大きな引っ張り歪みが発生して大きな引っ張り応力が掛かると,超電導特性の劣化を招き,充分な超電導特性を維持することが困難となること」が記載されているものと認められる。

(3)周知文献1に記載されている技術的事項
本願出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2014-75304号公報(平成26年4月24日出願公開,以下,「周知文献1」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

F 「【0005】
近年,特許文献1に示すように,有機金属塩あるいは有機金属化合物を原料とし,真空プロセスを使用せずに,超電導薄膜を製造する方法としてMOD法が知られている。
【0006】
このMOD法は,金属有機酸塩あるいは有機金属化合物を熱分解させるもので,金属成分の有機化合物が均一に溶解した原料溶液を基板上に塗布した後,これを加熱して熱分解させることにより基板上に薄膜を形成する方法である。
【0007】
MOD法は,非真空プロセスであることから低コストで高速成膜が可能であるため長尺のテープ状酸化物超電導線材の製造に適する利点を有する。また,このMOD法は,拡散防止層,格子整合層等の中間層をMOD法で成膜することも可能であることから,今後本基板の安定製造が可能となれば,更なる低コスト線材が提供可能となる。
【0008】
このMOD法によるREBCO超電導線材の製造方法では,原料溶液塗布・仮焼工程は,結晶化処理(本焼工程)に次いで重要な工程である。
【0009】
このMOD法において基板に塗布される原料溶液は,超電導体を構成する各金属元素を所定のモル比で含むトリフルオロ酢酸塩(TFA塩)を始めとするオクチル酸塩,ナフテン酸塩等の金属有機酸塩の混合溶液である超電導原料溶液である。
【0010】
この超電導原料溶液を基板の表面に塗布する方法としては,超電導原料溶液中に,酸化物中間層が形成されたテープ状の基板を浸した後,この基材を超電導原料溶液から引き上げる,いわゆる,ディップコート法が知られている(例えば,特許文献2参照)。」

(4)周知文献2に記載されている技術的事項
本願出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2000-251547号公報(平成12年9月14日出願公開,以下,「周知文献2」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

G 「【0017】本実施例との比較の為に,銀板のみを室温で圧延加工を繰り返し,板厚約0. 1mmのテープ状に加工し,得られた金属テープを約650℃に保持し,レーザーアブレーション法でYBa _(2)Cu_(3)O_(7)-膜を約500nmの厚さ成膜して実験を行った。得られた銀テープの圧延加工後の引っ張り強度は約25kg/mm^(2)であった。またX線回折で結晶の方位を測定したところ( 110) 面が配向していた。得られた試料をX線回折で結晶の方位を測定したところいずれも良好なc軸配向を示し,また極点図を求めた結果,半値幅約20度で4回対象性が得られテープ面内でも配向していることが分かった。また77K における臨界電流密度は約2×10^(5)A /cm^(2)であった。しかしながら超電導線材の引っ張り強度は約3kg/mm^( 2)で極めて弱く,簡単に塑性変形し超電導特性が大きく劣化した。」

4 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明では,「前記中間層上に,パルスレーザデポジション法によって酸化物超電導体からなる超電導層を形成する」ところ,製造される「超電導線材」は,「酸化物超電導体からなる超電導層」を含むと認められる。
そうすると,引用発明の「超電導線材」は“酸化物超電導線材”といえることから,引用発明と本願発明とは,“酸化物超電導線材の製造方法”である点で一致する。

イ 引用発明の「中間層」は,「テープ状のニッケルとタングステンとの合金からなる配向性の金属基板上に,RFスパッタリング法によって,第1酸化セリウム層,YSZ層および第2酸化セリウム層が基板側からこの順序で積層された3層の積層体からなる」ところ,“テープ状の基板上に形成され”るといえることから,引用発明の「中間層」は本願発明の「中間層」に相当する。
そして,引用発明は,「前記中間層上に,パルスレーザデポジション法によって酸化物超電導体からなる超電導層を形成する工程」を含むところ,“中間層上に超電導層を形成する”といえ,引用発明の「酸化物超電導体からなる超電導層」は本願発明の「超電導層」に相当するといえる。
そうすると,引用発明の「テープ状のニッケルとタングステンとの合金からなる配向性の金属基板上に,RFスパッタリング法によって,第1酸化セリウム層,YSZ層および第2酸化セリウム層が基板側からこの順序で積層された3層の積層体からなる中間層を基板上に形成する工程」および「前記中間層上に,パルスレーザデポジション法によって酸化物超電導体からなる超電導層を形成する工程」と,本願発明の「テープ状の基板上に形成された中間層上にTFA-MOD法により超電導層を形成する工程」とは,後記の点で相違するものの,“テープ状の基板上に形成された中間層上に超電導層を形成する工程”である点で共通するといえる。

ウ 引用発明では,「前記超電導層上に,DCスパッタリング法によって第1の銀安定化層を形成するとともに,前記金属基板の前記中間層の設置側とは反対側の表面上にもDCスパッタリング法によって第1の銀安定化層を形成する」ところ,「第1の銀安定化層」は,「DCスパッタリング法」によって「超電導層」上に形成されることから,引用発明の「第1の銀安定化層」は本願発明の「銀安定化層」に相当するといえ,引用発明と本願発明とは,“超電導層上に銀安定化層を形成する工程”を含む点で一致する。

エ 引用発明では,「繰り出し用の第1のロール,銀めっき液が収容された銀めっき槽,銅めっき液が収容された銅めっき槽および巻き取り用の第2のロールを備えた電気めっき装置を用いて,電気めっき法により積層体の前記第1の銀安定化層の外表面に銀を析出させて銀めっき膜からなる第2の銀安定化層を形成する」とともに,「前記電気めっき装置を用いて,前記第2の銀安定化層の外表面に銅を析出させて,銅めっき膜からなる銅安定化層を形成する」ところ,「繰り出し用の第1のロール」,「巻き取り用の第2のロール」を備えた「電気めっき装置」を用いて,「第1の銀安定化層」上に「第2の銀安定化層」を形成し,その上に「銅安定化層」を形成することから,引用発明の「銅安定化層」は本願発明の「銅保護層」に相当するといえ,引用発明の「繰り出し用の第1のロール」,「巻き取り用の第2のロール」は,それぞれ本願発明の「供給リール」,「巻き取りリール」に相当するといえる。
また,引用発明では,「電気めっき装置」を用いて,「超電導層」および「第1の銀安定化層」が形成された「金属基板」に,「第2の銀安定化層」および「銅安定化層」を形成することから,引用発明の「超電導層」および「第1の銀安定化層」が形成された「金属基板」は本願発明の「線材本体」に相当するといえる。
そうすると,引用発明では,“前記超電導層及び前記銀安定化層が形成された前記基板を線材本体とし,当該線材本体を,供給リールから供給して巻き取りリールにて巻き取るリール方式を用いて”,“銀安定化層の上方に銅保護層を形成する”といえる。
さらに,引用例1の図13も参照すると,引用発明の「電気めっき装置」では,「超電導層」および「第1の銀安定化層」が形成された「金属基板」を,「繰り出し用の第1のロール」と「巻き取り用の第2のロール」との間で張架した状態で,「銅めっき液が収容された銅めっき槽」に浸漬して「第2の銀安定化層の外表面に銅を析出させて,銅めっき膜からなる銅安定化層を形成する」ことは明らかであるから,“前記供給リールと前記巻き取りリールとの間で張架した状態で銅保護層形成用の水溶液中に浸漬して前記銀安定化層の上方に銅保護層を形成する”といえる。
一方,本願発明では,「前記供給リールと前記巻き取りリールとの間で張架した状態で銅保護層形成用の水溶液中に浸漬して前記銀安定化層上に銅保護層を形成する」ところ,「銀安定化層」のすぐ上に銅保護層を形成すると解されるから,“銀安定化層の上方に銅保護層を形成する”とみることができる。
したがって,引用発明の「繰り出し用の第1のロール,銀めっき液が収容された銀めっき槽,銅めっき液が収容された銅めっき槽および巻き取り用の第2のロールを備えた電気めっき装置を用いて,電気めっき法により積層体の前記第1の銀安定化層の外表面に銀を析出させて銀めっき膜からなる第2の銀安定化層を形成する工程」および「前記電気めっき装置を用いて,前記第2の銀安定化層の外表面に銅を析出させて,銅めっき膜からなる銅安定化層を形成する工程」と,
本願発明の「前記超電導層及び前記銀安定化層が形成された前記基板を線材本体とし,当該線材本体を,供給リールから供給して巻き取りリールにて巻き取るリール方式を用いて,前記供給リールと前記巻き取りリールとの間で張架した状態で銅保護層形成用の水溶液中に浸漬して前記銀安定化層上に銅保護層を形成する工程」とは,後記の点で相違するものの,
“前記超電導層及び前記銀安定化層が形成された前記基板を線材本体とし,当該線材本体を,供給リールから供給して巻き取りリールにて巻き取るリール方式を用いて,前記供給リールと前記巻き取りリールとの間で張架した状態で銅保護層形成用の水溶液中に浸漬して前記銀安定化層の上方に銅保護層を形成する工程”である点で共通するといえる。

(2)以上から,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

<一致点>
「テープ状の基板上に形成された中間層上に超電導層を形成する工程と,
前記超電導層上に銀安定化層を形成する工程と,
前記超電導層及び前記銀安定化層が形成された前記基板を線材本体とし,当該線材本体を,供給リールから供給して巻き取りリールにて巻き取るリール方式を用いて,前記供給リールと前記巻き取りリールとの間で張架した状態で銅保護層形成用の水溶液中に浸漬して前記銀安定化層の上方に銅保護層を形成する工程と,を含む,
ことを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。」

<相違点1>
超電導層を形成する工程に関し,本願発明は「中間層上にTFA-MOD法により超電導層を形成する」のに対して,引用発明は,中間層上に,「パルスレーザデポジション法」によって超電導層を形成する点。

<相違点2>
リール方式を用いて銅保護層を形成する工程に関し,本願発明は「線材本体」を「張架した状態で銅保護層形成用の水溶液中に浸漬して」,「銀安定化層」のすぐ上に「銅保護層を形成する」のに対して,引用発明では,線材本体(超電導層および第1の銀安定化層が形成された金属基板)を張架した状態で,第1の銀安定化層の上方に銅保護層を形成するものの,線材本体を銅保護層形成用の水溶液中に浸漬する前に,第2の銀安定化層を形成するための銀めっき液に浸漬する点。

<相違点3>
銅保護層を形成する際の水溶液中における線材本体の張力に関し,本願発明は「線材本体の張力は,当該線材本体の引っ張り歪みが0.6%以下となる張力である」のに対して,引用発明の「電気めっき装置」において張架される線材本体(超電導層および第1の銀安定化層が形成された金属基板)の張力については言及されていない点。

5 当審の判断
上記相違点1-3について検討する。
(1)相違点1について
引用発明では,「中間層上に,パルスレーザデポジション法によって酸化物超電導体からなる超電導層を形成する」ところ,引用例1の段落【0041】には,「超電導層3は,たとえば,スパッタリング法,レーザアブレーション法,MOD(Metal Organic Deposition)法およびMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法からなる群から選択された少なくとも1種の方法などにより形成することができる。」旨の記載があり,超電導線材の中間層の表面上に超電導層を形成する場合に,MOD法を用いることができることが示唆されている。
また,超電導線材を製造する場合に,MOD法の中で,TFA塩溶液を用いたTFA-MOD法により超電導層を形成することは,例えば周知文献1(上記Fを参照)に記載されるように,本願出願前には当該技術分野における周知技術であり,超電導線材の歩留まりを向上させることができるとともに,製造コストを低減することを課題とした引用発明において,周知のTFA-MOD法を用いて中間層の表面上に超電導層を形成することに阻害要因は認められない。
そうすると,引用発明において,パルスレーザデポジション法に代えて,TFA-MOD法により中間層上に超電導層を形成すること,すなわち,上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用発明では,ロール間で線材本体(超電導層および第1の銀安定化層が形成された金属基板)を張架した状態で,先に銀めっき液が収容された銀めっき槽に浸漬して,第1の銀安定化層の外表面に銀を析出させて第2の銀安定化層を形成し,続いて,銅めっき液が収容された銅めっき槽に浸漬して,第2の銀安定化層の外表面に銅を析出させて銅安定化層を形成するところ,製造コストの低減のために,銅安定化層が銀安定化層の機能の代替手段として形成されることを勘案すれば,第1の銀安定化層の外表面に銅安定化層を形成するか,第1の銀安定化層の外表面に第2の銀安定化層を形成し,その第2の銀安定化層の外表面に銅安定化層を形成するかは,必要に応じて選択し得た設計的事項である。
そうすると,引用発明において,線材本体を張架した状態で銅保護層形成用の水溶液中に浸漬して,線材本体の銀安定化層のすぐ上に銅保護層のみを形成すること,すなわち,上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
引用発明では,ロール間で線材本体(超電導層および第1の銀安定化層が形成された金属基板)を張架した状態で,銅めっき液が収容された銅めっき槽に浸漬して,外表面に銅を析出させて銅安定化層を形成するところ,ロール間に張架された線材本体の張力は,超電導線材の特性を低下させないように設定することは,当業者であれば当然に考慮すべき事項である。
また,超電導線材に加えられる張力が超電導線材の特性に与える影響に関し,超電導線材の超電導層に大きな張力が加わると,超電導特性の劣化が発生することは,例えば,引用例2(上記Eを参照),周知文献2(上記Gを参照)に記載されるように,本願出願前には当該技術分野における周知の技術であった。
そして,引用発明において上記周知技術に基づき,超電導線材の特性を低下させないようにロール間に張架された線材本体の張力を試行錯誤調整し,超電導層の形成方法に応じた線材本体の引っ張り歪みの臨界的上限値を見出した上で,線材本体の引っ張り歪みが0.6%以下となるような十分に小さい張力で張架することは適宜なし得る程度のことである。
そうすると,引用発明において,ロール間に張架された線材本体の張力について,TFA-MOD法により超電導層が形成された線材本体の引っ張り歪みが0.6%以下とすること,すなわち,上記相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(4)小括
上記で検討したごとく,相違点1-3に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであり,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び,周知文献1に記載の上記周知技術並びに引用例2,周知文献2に記載の当該技術分野の上記周知技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
したがって,本願発明は,上記引用発明及び,周知文献1に記載の上記周知技術並びに引用例2,周知文献2に記載の当該技術分野の上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-01-22 
結審通知日 2020-01-28 
審決日 2020-02-12 
出願番号 特願2015-44830(P2015-44830)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01B)
P 1 8・ 121- Z (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 西出 隆二
辻本 泰隆
発明の名称 酸化物超電導線材の製造方法  
代理人 特許業務法人鷲田国際特許事務所  

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