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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E05F
管理番号 1361245
審判番号 不服2019-10389  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-06 
確定日 2020-04-21 
事件の表示 特願2014-186321「ウィング開閉装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月21日出願公開、特開2016- 56658、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年9月12日の出願であって、原審におけるその後の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年 4月 9日付け 拒絶理由通知
(平成30年 4月17日発送)
平成30年 6月 4日 意見書及び手続補正書の提出
平成30年10月17日付け 拒絶理由通知
(平成30年10月23日発送)
平成30年12月18日 意見書の提出
平成31年 4月22日付け 拒絶査定
(令和 1年 5月 7日発送)

本件は上記拒絶査定に対し、その謄本送達から3月以内の令和1年8月6日に、拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成31年4月22日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし3及び8ないし15に係る発明は、下記引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願請求項4ないし7に係る発明は、下記引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献:
1.特開2009-208526号公報
2.特開平5-58163号公報
3.特開2010-53528号公報
4.特開2014-114694号公報


第3 本願発明
本願請求項1ないし15に係る発明(以下、「本願発明1」等という。)は、平成30年6月4日付け手続補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定される発明であって、以下のとおりの発明である。

本願発明1
「【請求項1】
荷室の上部に回動自在に連結されて上下方向に回動するウィングを開閉するウィング開閉装置であって、
電力供給によって回転する電動モータを一体的に有し前記電動モータの回転によって伸縮作動して前記ウィングを開閉する複数の電動アクチュエータと、
前記電動モータの回転を制御することにより前記複数の電動アクチュエータの伸縮作動を互いに同調させる同調制御部と、
前記同調制御部から出力される制御指令に基づき、前記複数の電動アクチュエータの伸縮速度を前記電動アクチュエータごとに個別に制御する複数の速度制御部と、を備え、
前記同調制御部は、前記複数の速度制御部に対して互いに異なる速度制御マップにより前記複数の電動アクチュエータの伸縮速度を制御するように制御指令を出力して、前記複数の電動アクチュエータの伸縮作動を互いに同調させることを特徴とするウィング開閉装置。」

本願発明2
「【請求項2】
前記速度制御マップは、前記電動モータへの通電率と前記電動アクチュエータの伸縮速度との関係に基づき生成されることを特徴とする請求項1に記載のウィング開閉装置。」

本願発明3
「【請求項3】
前記複数の電動アクチュエータのうち少なくとも一つの作動状態を検出する検出部をさらに備え、
前記同調制御部は、前記検出部の検出結果に基づいて前記複数の電動アクチュエータの伸縮作動を互いに同調させることを特徴とする請求項1または2に記載のウィング開閉装置。」

本願発明4
「【請求項4】
前記複数の速度制御部のそれぞれは、前記電動アクチュエータの始動時には停止状態から次第に前記電動モータの回転数を増加させて前記電動アクチュエータを加速させる加速制御を行い、前記電動アクチュエータの停止時には次第に前記電動モータの回転数を減少させて前記電動アクチュエータを減速させる減速制御を行うことを特徴とする請求項3に記載のウィング開閉装置。」

本願発明5
「【請求項5】
前記同調制御部は、前記検出部の検出結果に基づき、減速制御を開始する減速信号を前記各速度制御部に伝達することにより、前記複数の電動アクチュエータの減速の開始を互いに同調させることを特徴とする請求項4に記載のウィング開閉装置。」

本願発明6
「【請求項6】
前記検出部は、前記複数の電動アクチュエータのうち少なくとも一つの伸縮作動のストローク端付近でそれぞれ作動する一対のセンサ部を有することを特徴とする請求項5に記載のウィング開閉装置。」

本願発明7
「【請求項7】
前記検出部は、前記荷室及び前記ウィングに回動自在に連結され前記複数の電動アクチュエータのうち少なくとも一つの伸縮作動に伴い回動するリンク機構を有し、
前記同調制御部は、前記リンク機構の回動によって作動する前記一対のセンサ部の検知信号に基づき、前記減速信号を前記各速度制御部に伝達することを特徴とする請求項6に記載のウィング開閉装置。」

本願発明8
「【請求項8】
前記同調制御部は、前記検出部の検出結果に基づいて所定の時間間隔ごとに前記複数の電動アクチュエータの伸縮作動を互いに同調させることを特徴とする請求項3から5のいずれか一つに記載のウィング開閉装置。」

本願発明9
「【請求項9】
前記検出部は、前記ウィングの回動角度を検出する角度検出部を有することを特徴とする請求項3、4、5、及び8のいずれか一つに記載のウィング開閉装置。」

本願発明10
「【請求項10】
前記角度検出部は、前記ウィングの回動軸に設けられ前記ウィングの回動角度を検出するポテンショメータを有することを特徴とする請求項9に記載のウィング開閉装置。」

本願発明11
「【請求項11】
前記検出部は、前記複数の電動アクチュエータの少なくとも一つのストローク量を個別に検出するストローク検出部を有することを特徴とする請求項3、4、5、及び8のいずれか一つに記載のウィング開閉装置。」

本願発明12
「【請求項12】
前記複数の電動アクチュエータは、
作動液を貯留するタンクと、
二つのシリンダ室内の作動液の液圧により駆動するシリンダと、
前記電動モータによって駆動され前記タンクから作動液を吸い込んで吐出するポンプと、
前記シリンダと前記ポンプとの間で流れる作動液の流れを制御する制御弁と、をそれぞれ一体的に有する電動液圧アクチュエータであることを特徴とする請求項1から11のいずれか一つに記載のウィング開閉装置。」

本願発明13
「【請求項13】
前記電動モータは、ブラシレスモータであることを特徴とする請求項1から12のいずれか一つに記載のウィング開閉装置。」

本願発明14
「【請求項14】
前記同調制御部と前記各速度制御部とは、単一のコントローラ内に設けられることを特徴とする請求項1から13のいずれか一つに記載のウィング開閉装置。」

本願発明15
「【請求項15】
前記同調制御部と前記各速度制御部とは、それぞれ別々のコントローラ内に設けられることを特徴とする請求項1から13のいずれか一つに記載のウィング開閉装置。」


第4 引用文献の記載
1 引用文献1
(1)記載事項
原査定に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同様。)。

ア 技術分野
「【技術分野】
【0001】
本発明は、荷物室において天井部と側壁部とが断面L型に一体に構成されたL型屋根を、天井中央部で枢支して上方に開放できるようにしたいわゆるウイング車におけるL型屋根の開閉を制御する装置に関する。」

イ 発明が解決しようとする課題
「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この対策として、荷物室の前後に配置した2本の液圧シリンダの近くに、それぞれ液圧装置を配置して配管を短くする工夫がなされることがあったが、その場合、2台の液圧装置による作動液の吐出流量の差に起因して、2本の液圧シリンダにおける伸縮量の差が発生した。その結果、L型屋根に荷物室の前後の傾きが発生して、ひいては荷物室に歪が発生してしまうという問題が発生し、実用化が困難であった。
【0004】
本発明は、上記した課題に対して、ウイング車におけるL型屋根の開閉用に複数の液圧シリンダを使用し、それぞれ独立した液圧装置を接続しても、作動油の吐出流量の差に起因してL型屋根に傾きが発生しないウイング車用の屋根開閉制御装置を提供することを目的とする。」

ウ 実施例
「【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の実施例について、図1から図3を用いて説明する。本実施例のウイング車用の屋根開閉制御装置には、図1に示したとおりの油圧回路が、荷物室14の側面を開閉する左側屋根10L用と、右側屋根10R用とに、それぞれ設けられている。
【0009】
本実施例の説明では、特に左側屋根の構造を中心に説明する。図1は左側屋根10L用の油圧回路を示す。液圧装置15L、液圧装置16Lから作動油が吐出され、左側屋根10Lの前後それぞれに設けた液圧シリンダ11L、12Lに供給される。そして、液圧シリンダ11L、12Lに供給される作動油の量は、制御装置17によって液圧装置15L、液圧装置16Lの電動機の回転数を制御することにより調整される。
【0010】
また、制御装置17には、図2に示すように、左側屋根10Lの前後における中央部に取り付けられた2軸角度センサ13からのセンサ信号が入力されるよう構成されており、左側屋根10Lの前後の液圧シリンダ11Lと液圧シリンダ12Lとの間に伸縮量の差を生じないよう液圧装置15L、液圧装置16Lから吐き出される作動油の流量が調整される。このような油圧回路が、右側屋根10Rにも同様に設けられる。
【0011】
なお、制御装置17は、左側屋根10L用と右側屋根10R用と共通したものであっても、独立したものを設けてもよい。なお、図3に示したように、ウイング車の後方から見て、左側屋根10Lと右側屋根10R、および、液圧シリンダ12Lと液圧シリンダ12Rをはじめとする油圧回路は、通常、車体バランスを考慮して左右対称的に設けられる。
【0012】
次に、本実施例におけるウイング車用の屋根開閉制御装置の動作を、図1?3を用いて説明する。作業者が、ウイング車を停止させた後、荷物室14へ荷物の積み下ろしを開始する際、左側屋根10Lおよび右側屋根10Rを開くために、制御装置17に設けられた開スイッチを押す。すると、開指令信号が、制御装置17に入力され、その時点の2軸角度センサー13から取得した位置情報を制御装置17における記憶部に記憶する。このように記憶した位置情報は、車両が停止しているときの左側屋根10Lおよび右側屋根10Rの閉じた初期状態として記憶される。
【0013】
そして、制御装置17は、前後に配置した、左側屋根10L用の液圧装置15Lおよび液圧装置16L(右側屋根10R用は図示省略)に駆動開始信号を発する。これにより、液圧装置15Lおよび液圧装置16Lは、駆動信号により、それぞれ液圧シリンダ11L、液圧シリンダ12Lを動作させる。
【0014】
制御装置17は、2軸角度センサ13からのセンサ信号により、前後の液圧シリンダ11Lと液圧シリンダ12Lのそれぞれの伸び量とその伸び量の違いを算出し、伸び量を同調させるために、2台の液圧装置15Lおよび液圧装置16Lに内蔵する電動機の回転数を制御し、吐出流量を制御し、2本の液圧シリンダ11Lと液圧シリンダ12Lとを同調させる。
【0015】
なお、2軸角度センサは、荷物室前後方向をX軸、その直交方向をY軸とすることで、X軸で、前後の液圧シリンダ11Lおよび液圧シリンダ12Lの伸び量の違いを検出するとともに、Y軸で、荷物室の開閉状態を検出することができるが、X軸方向のみを角度センサで検出し、荷物室14の開閉状態は、左側屋根10Lおよび右側屋根10Rの閉状態を検出するリミットスイッチ等を設けて検出してもよい。
【0016】
上記のようにして、荷物室14の前後にある液圧シリンダ11Lおよび液圧シリンダ12Lとその近傍に配置した液圧装置15Lと液圧装置16Lとその液圧装置の作動油の吐出流量を制御装置17で制御し、液圧シリンダ11Lおよび液圧シリンダ12Lの伸縮を同調させることが実現できるので、従来のような1つの液圧シリンダからの配管が不要となり、組立作業を効率化でき、しかもコストダウンを図ることができる。また、配管長が短くなることにより、配管の破損事故の割合が軽減される。さらに、2軸センサを使用した場合、1つのセンサで開閉状態も検知できるので、センサ信号を利用して、液圧シリンダ15L、16Lを制御することにより、屋根の開閉の緩起動、緩停止なども可能となる。
【0017】
また、上記実施例では、屋根の中央部に2軸センサを設けたが、その変形例として、2軸センサの代わりに、液圧シリンダ11Lおよび液圧シリンダ12Lにそれぞれ傾斜センサを設けてもよい。すなわち、2つの傾斜センサのセンサ出力から屋根の開閉状態を知ることができ、また、これらセンサ出力から、前後の液圧シリンダ11Lと液圧シリンダ12Lのそれぞれの伸び量とその伸び量の違いを算出し、伸び量を同調させるために、2台の液圧装置15Lおよび液圧装置16Lに内蔵する電動機の回転数を制御し、作動油の吐出流量を制御し、2本の液圧シリンダ11Lと液圧シリンダ12Lとを同調させることができる。」

エ 図3
図3には、次の図示がある。

【図3】


上記図3より、ウィング車の左屋根10Lは、荷物室14の天井中央部で回動自在に枢支されて、上下方向に回動して開閉する様子が、看てとれる。

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

引用発明1
「荷物室の前後に配置した2本の液圧シリンダの近くに、それぞれ液圧装置を配置して、配管を短くする工夫をした、ウイング車用の屋根開閉制御装置であって、
複数の液圧シリンダにそれぞれ独立した液圧装置を接続しても、作動油の吐出流量の差に起因してL型屋根に傾きが発生しないよう、
荷物室14の天井中央部に回動自在に枢支されて、上下方向に回動して開閉する、ウィング車の左側屋根10Lを開閉するために、
左側屋根10Lの前後にある液圧シリンダ11Lおよび液圧シリンダ12Lと、その近傍に配置した液圧装置15Lと液圧装置16Lと、2台の液圧装置15Lおよび液圧装置16Lに内蔵され回転数が制御される電動機と、
荷物室14の前後方向をX軸として、X軸で、前後の液圧シリンダ11Lおよび液圧シリンダ12Lの伸び量の違いを検出するとともに、Y軸で荷物室の開閉状態を検知することができる、2軸角度センサ13、又は、2軸角度センサ13の代わりに液圧シリンダ11Lおよび液圧シリンダ12Lにそれぞれ設けられる傾斜センサと、
制御装置17とを有し、
制御装置17は、2軸角度センサ13からのセンサ信号により、または2つの傾斜センサのセンサ出力から、前後の液圧シリンダ11Lと液圧シリンダ12Lの伸び量の違いを算出し、2台の液圧装置15Lおよび液圧装置16Lに内蔵する電動機の回転数を制御して、2本の液圧シリンダ11Lと液圧シリンダ12Lの伸び量を同調させるとともに、
開閉状態の検知に応じた、屋根の開閉の緩起動、緩停止も可能な、
ウイング車用の屋根開閉制御装置。」

2 引用文献2
原査定に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)段落【0001】
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、可逆モータ等の駆動源を使用することにより、トラックの煽り屋根の開閉操作を自動的に行なうことができる煽り屋根の開閉装置に関する。」

(2)段落【0032】-【0033】
「【0032】
【他の実施例】可逆モータ11、ウォーム機構12は、シリンダ14に代えることができる(図5)。シリンダ14は、クレビス形シリンダであって、荷台パネル21の前面側に、ブラケット14bを介して垂直に立設する。また、軸12cには、ウォームホイール12bに代えて駆動レバー14cを突設し、シリンダ14のロッド14aと連結する。
【0033】シリンダ14のロッド14aを伸縮することにより、リンク13を上下に駆動することができるから(図6)、煽り屋根22を上下に開閉することができる(同図の実線と二点鎖線)。なお、図6において、実線は、煽り屋根22の閉鎖状態における各部材の位置姿勢を示し、二点鎖線は、開放状態における位置姿勢を示すものとする。」

(3)段落【0038】
「【0038】図8ないし図11の各実施例において、シリンダ14は、モータと油圧シリンダとを一体に構成する、いわゆる電動油圧シリンダを想定して図示されている。しかしながら、このものは、図5、図7の実施例にならって、単純な油圧または空圧シリンダであってもよく、また、図5、図7のシリンダ14も、電動油圧シリンダであってもよい。また、図8ないし図11の各実施例に対しても、必要に応じ、ばね部材13dを付設することもできる。」

3 引用文献3
原査定に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)段落【0010】
「【0010】
本発明によれば、電気駆動式ドアを駆動するドア駆動機構に対する機械的抗力を状態観測器で推定し、推定した機械的抗力が所定値を超えたときに戸挟み状態を検知するようにしたので、戸挟み状態を迅速に検知することができるという効果が得られる。
また、正常時に推定したドア駆動系の機械的抗力をドア駆動力の補償量として駆動力指令値に加算することにより、電気駆動式ドアに加わる戸挟みの発生などの外乱による正味の機械的抗力を推定することができる。」

(2)段落【0011】-【0012】
「【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1の嫉視形態に係る電気駆動式ドアの制御装置の概略構成を示すブロック図、図2は図1の制御装置の具体的構成を示すブロック線図である。
図1において、鉄道車両の車体には、乗降客が乗降に使用する側引き戸用戸閉め装置を構成する電気駆動式ドア1が設けられ、この電気駆動式ドア1の各ドア部1a及び1bの閉じる側の先端には戸先ゴム2が取付けられている。また、鉄道車両には、電気駆動式ドア1を駆動する電動機と電動機の駆動力をドア開閉の直線運動に変換または伝達するドア駆動機構13から構成されるドアオペレータ3及びドアオペレータ3とドアリーフとを連結する連結部4と、電気駆動式ドア1の位置及び速度を検出して、これらに応じた位置情報p及びドア開閉速度情報vを出力する位置・速度検出器14とが設けられている。
そして、ドア駆動機構13は制御装置10に内蔵されたインバータなどの電力変換器と電動機から構成される電気駆動系12よって駆動されて電気駆動式ドア1を開閉駆動する。
【0012】
この制御装置10は、図2に示すように、図示しない戸閉め制御装置から入力されるドアの開閉動作を指示する開閉動作指令cが入力されると共に、位置・速度検出器14から出力されるドア位置情報p及びドア開閉速度情報vが入力される駆動力指令値発生器としての推力指令発生器11を有する。この推力指令発生器11では、戸開き又は戸閉めの開閉動作指令cが入力されると、ドア位置情報p及びドア開閉速度情報vに基づいて所定の演算を行なうか又は制御マップを参照して目標推力指令τ^(*)を演算し、演算した目標推力指令τ^(*)を出力する。また、推力指令発生器11には、後述する戸挟み検知部17から論理値“1”の戸挟み検知信号Obstが入力されたときに、目標推力指令τ^(*)を比較的小さい所定値に設定する。」

4 引用文献4
原査定に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)段落【0018】
「【0018】
図1において、自動ドア装置1は、ドア2と、このドア2を開閉するための駆動機構3と、駆動機構3を制御するドアコントローラ4とを備えて構成されている。
駆動機構3は、モータ5及び伝達機構6を有している。駆動機構3は、この構成が取付用横向きベース(図示省略)に取り付けられている。
ドア2は、モータ5からの駆動力が伝達機構6を介して伝達されることにより開閉動するようになっている。
モータ5には、磁極位置センサ7が設けられている。この磁極位置センサ7は、モータ5の回転動作に基づきドア2の移動量に比例したパルス信号を発生するようになっている。」

(2)段落【0020】
「【0020】
ドアコントローラ4は、マイクロコンピュータ(一般にマイコンと称している)によって構成され、モータ5にドア起動信号を送信してドア2の開閉を行うことができるような構成になっている。 ドアコントローラ4は、モータ5を正逆転方向に任意の速度で駆動制御するモータ駆動・速度制御部17と、このモータ駆動・速度制御部17にドア開閉信号(速度指令、正・逆転方向、モータ電流指令、開閉幅指令)を出力する制御演算部18と、モータ5の磁極位置センサ7からのパルス信号を合成してこれを制御演算部18に対し出力する位置速度パルス合成・回転方向判別回路19と、制御演算部18に接続される記憶部20とを備えて構成されている。」


第5 当審の判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「荷物室14」は、本願発明1における「荷室」に相当する。
引用発明1において、「ウイング車」の屋根である「左側屋根11」は、本願発明1における「ウィング」に相当する。
引用発明1において、「ウィング車の左側屋根10L」が「荷物室14の天井中央部に回動自在に枢支されて、上下方向に回動して開閉する」構成は、本願発明1において、「ウィング」が「荷室の上部に回動自在に連結されて上下方向に回動する」ことで「開閉」する構成に相当する。
引用発明1における「ウイング車用の屋根開閉制御装置」は、本願発明1における「ウィング開閉装置」に相当する。
引用発明1において、「回転数が制御される電動機」は、電力を供給されて回転するモータであることは明らかであるから、本願発明1における「電力供給によって回転する電動モータ」に相当する。
引用発明1における「液圧シリンダ11Lおよび液圧シリンダ12L」は、「その近傍に配置」された「液圧装置15Lと液圧装置16L」とが内蔵する「電動機」の「回転」により「伸び量」が制御され、「屋根の開閉」が行われるものであるから、それぞれ電動機の回転によって伸縮作動し左側屋根10Lを開閉するアクチュエータとなっているということができ、本願発明1における「電動モータの回転によって伸縮作動して前記ウィングを開閉する複数の電動アクチュエータ」とは、「電動モータの回転によって伸縮作動して前記ウィングを開閉する複数のアクチュエータ」という点で共通する。
引用発明1における「制御装置17」が、「2台の液圧装置15Lおよび液圧装置16Lに内蔵する電動機の回転数を制御して、2本の液圧シリンダ11Lと液圧シリンダ12Lの伸び量を同調させる」構成と、本願発明1における「同調制御部」が、「前記電動モータの回転を制御することにより前記複数の電動アクチュエータの伸縮作動を互いに同調させる」構成とは、「前記電動モータの回転を制御することにより前記複数のアクチュエータの伸縮作動を互いに同調させる」点で共通し、引用発明1における「制御装置17」は本願発明1における「同調制御部」に相当する。
また、引用発明1において、「制御装置17」が「2台の液圧装置15Lおよび液圧装置16Lに内蔵する電動機の回転数を制御して、2本の液圧シリンダ11Lと液圧シリンダ12Lの伸び量を同調させる」構成と、本願発明1において、「同調制御部」が「前記複数の速度制御部に対して互いに異なる速度制御マップにより前記複数の電動アクチュエータの伸縮速度を制御するように制御指令を出力して、前記複数の電動アクチュエータの伸縮作動を互いに同調させる」構成とは、「前記同調制御部は、前記複数のアクチュエータの伸縮作動を互いに同調させる」という点で、共通する。

以上より、本願発明1と引用発明1とは、次の点で一致する。
「荷室の上部に回動自在に連結されて上下方向に回動するウィングを開閉するウィング開閉装置であって、
電力供給によって回転する電動モータと、前記電動モータの回転によって伸縮作動して前記ウィングを開閉する複数のアクチュエータと、
前記電動モータの回転を制御することにより前記複数のアクチュエータの伸縮作動を互いに同調させる同調制御部と、
を備え、
前記同調制御部は、前記複数のアクチュエータの伸縮作動を互いに同調させる、ウィング開閉装置。」

一方、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する。

<相違点1>
アクチュエータに関し、
本願発明1では、「電動モータを一体的に有し前記電動モータの回転によって伸縮作動」する「電動アクチュエータ」と特定されているのに対し、
引用発明1では、「液圧装置15L」と「液圧シリンダ11L」、及び、「液圧装置16L」と「液圧シリンダ12L」とが、それぞれ「配管を短くする」ために「近傍に配置」されてはいるものの、「電動機」を「内蔵」する「液圧装置」と「液圧シリンダ」とが一体ではなく、「電動モータを一体的に有」する「電動アクチュエータ」ではない点。

<相違点2>
同調制御に関し、
本願発明1では、「前記同調制御部から出力される制御指令に基づき、前記複数の電動アクチュエータの伸縮速度を前記電動アクチュエータごとに個別に制御する複数の速度制御部」を備えたうえで、同調制御部が「前記複数の速度制御部に対して互いに異なる速度制御マップにより前記複数の電動アクチュエータの伸縮速度を制御するように制御指令を出力」するのに対し、
引用発明1では、2軸角度センサ13または液圧シリンダ11L及び12Lにそれぞれ設けられる傾斜センサの出力から、前後の液圧シリンダ11Lと液圧シリンダ12Lの伸び量の違いを算出して、伸び量を同調させており、複数の液圧シリンダの「伸縮速度」を「個別に制御する複数の速度制御部」が、「互いに異なる速度制御マップ」により、液圧シリンダの伸縮作動の同調を行ってはいない点。

(2)判断
ア 相違点2について
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
引用文献2には、上記第4の2に摘記した事項が記載されており、モータと油圧シリンダとを一体に構成するいわゆる電動油圧シリンダとすることが示されているが、引用文献2におけるその余の記載を含めて検討しても、上記相違点2に係る本願発明1の構成は記載も示唆もされていない。
引用文献3には、上記第4の3に摘記した事項が記載されており、ドア駆動機構に対する機械的抗力から、戸挟み状態を迅速に検知する電気駆動式ドアにおいて、駆動力指令発生器としての推力指令発生器11が、ドア位置情報p及びドア開閉速度情報vに基づいて目標推力指令τ^(*)を出力する際に、所定の演算を行うか又は制御マップを参照することが示されている。
しかしながら、引用文献3に記載の技術は、戸挟み状態を迅速に検知する電気駆動式ドアに、適切な駆動力指令を与える際に、制御マップを参照することを示してはいるものの、複数のアクチュエータを同調させる制御において複数のアクチュエータに対して互いに異なる制御マップを用いるものではないから、上記相違点2に係る本願発明1の構成を開示するものではない。また、仮に引用文献3の記載に示されるように、ドアの制御において制御マップを使用すること自体が周知技術であったとしても、引用発明1は伸び量を同調させるべき液圧シリンダ11L及び12Lについて、同調によってなくすべき伸び量の違いを、2軸角度センサ13、又は2つの傾斜センサのセンサ出力から算出しているから、同調制御に際しては液圧シリンダ11L側の電動機と液圧シリンダ12L側の電動機とに対して、センサ信号から算出される当該伸び量の違いに対応した電動機の回転数の相違を持たせることが自然であると解されるところ、当該算出された伸び量の相違に対応した回転数の相違を電動機に持たせるに際して、両方の電動機に対して互いに異なる速度制御マップを用意しておいて、2つの異なる速度制御マップをそれぞれ用いるべき動機付けはない。そのため、引用文献3に示されるように、ドアの制御において制御マップを用いること自体は周知技術であったとしても、引用発明1における液圧シリンダ11L側と液圧シリンダ12L側の電動機の同調制御において、センサ信号から算出される伸び量の相違を相殺する場面において、2つの電動機に対して互いに異なる2つの速度制御マップを用いることが、当該周知技術に基いて容易に想到できたと言うことはできない。
引用文献4には、上記第4の4に摘記した事項が記載されているが、自動ドア装置1のドアコントローラ4がモータ駆動・速度制御部17を有する構成を示しているものの、ドアの開閉に際して同調制御すべき複数のアクチュエータを同調させる際に、複数のアクチュエータに対して互いに異なる複数の速度制御マップを用いることを示すものではなく、引用発明1において上記相違点2に係る本願発明1の構成に至ることを示唆するものではない。
したがって、引用発明1において、上記相違点2に係る本願発明1の構成に至ることは、たとえ引用文献2ないし4に記載される事項を考慮したとしても、当業者にとって容易に想到できたものではない。

イ まとめ
上記アのとおり、上記相違点2に係る本願発明1の構成は、引用発明1に基いて、引用文献2ないし4に記載された事項を考慮しても、本願出願前に当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、上記相違点1についての判断を要することなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2ないし4に記載された事項に基いて、容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし15について
本願発明2ないし15は、本願発明1の構成を全て有したうえで、さらに付加的特定事項により本願発明1を限定したものである。
そして、上記1で判断したとおり、本願発明1が、引用発明1及び引用文献2ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではないから、本願発明2ないし15も、引用発明1及び引用文献2ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。


第6 むすび
上記第5で判断したとおり、本願発明1ないし15は、当業者であっても、原査定において引用された引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2020-04-06 
出願番号 特願2014-186321(P2014-186321)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (E05F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 美紗子  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 有家 秀郎
秋田 将行
発明の名称 ウィング開閉装置  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  

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