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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C
管理番号 1361259
審判番号 不服2018-15081  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-13 
確定日 2020-03-31 
事件の表示 特願2015-524808「カスタム化可能眼用レンズを装着者の眼に提供する方法と関連アクティブ視覚システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年2月6日国際公開,WO2014/020174,平成27年10月15日国内公表,特表2015-530610〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-524808号(以下「本件出願」という。)は,2013年(平成25年)8月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年8月3日(以下「本件優先日」という。) 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年 4月20日付け:拒絶理由通知書
平成30年 7月 3日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年11月13日付け:審判請求書
平成30年11月13日付け:手続補正書
平成31年 1月23日付け:上申書
(当合議体注:平成31年4月21日を期限とする新たな上申書は提出されなかったため,以上の内容に基づいて審理を進めることとなった。)

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年11月13日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 カスタム化可能眼用レンズであって,前記レンズの表面に並置され,活性化可能であり,光位相シフト分布関数を提供するのに好適であり,それぞれが直径70μmの円内に完全に含まれ得るような寸法を有する一組の透明な電気活性セル(24)を含むカスタム化可能眼用レンズを装着者の眼に提供する方法であって,
- 基準点P_(R)に関して表され前記基準点P_(R)において零勾配を有する基準位相シフト分布関数であって,所与の屈折関数DF(α,β)を前記装着者に提供するようにされた基準位相シフト分布関数を提供する工程(402)と,
- 前記カスタム化可能眼用レンズ装着時の前記装着者の前記眼の実際の注視方向(αa,βa)を判断する工程(404)と,
- 前記基準点P_(R)の位置を決定するための基準注視方向(α_(R),β_(R))を選択する工程(406)と,
- 前記装着者の前記眼の前記実際の注視方向と前記一組の透明な電気活性セルとの交点である実際の点Paと,前記装着者の前記眼の前記基準注視方向と前記一組の透明な電気活性セルとの交点にある前記基準点P_(R)とを計算する工程(408)と,
- ベクトル
【数1】

に従って前記基準位相シフト分布関数をずらすことにより修正位相シフト分布関数を計算する工程(410)と,
- カスタム化眼用レンズを前記装着者の眼に提供するように,前記修正位相シフト分布関数に従って電気活性セルを活性化する工程(412)と,
を含む方法。」

(2) 本件補正後の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は補正箇所を示す。
「 カスタム化可能眼用レンズを装着者の眼に提供する方法であって,前記カスタム化可能眼用レンズは,前記カスタム化可能眼用レンズの表面に並置された一組の透明な電気活性セル(24)を備えており,前記一組の透明な電気活性セル(24)は,活性化可能であり,かつ,光位相シフト分布関数を提供するのに好適であり,前記電気活性セル(24)それぞれが直径70μmの円内に完全に含まれており,前記一組の透明な電気活性セル(24)間のピッチは,50μmより小さく,
- 基準点PRに関して表され前記基準点PRにおいて零勾配を有する基準位相シフト分布関数であって,所与の屈折関数DF(α,β)を前記装着者に提供するようにされた基準位相シフト分布関数を提供する工程(402)と,
- 前記カスタム化可能眼用レンズ装着時の前記装着者の前記眼の実際の注視方向(αa,βa)を判断する工程(404)と,
- 前記基準点PRの位置を決定するための基準注視方向(α_(R),β_(R))を選択する工程(406)と,
- 前記装着者の前記眼の前記実際の注視方向と前記一組の透明な電気活性セルとの交点である実際の点Paと,前記装着者の前記眼の前記基準注視方向と前記一組の透明な電気活性セルとの交点にある前記基準点PRとを計算する工程(408)と,
- ベクトル
【数1】

に従って前記基準位相シフト分布関数をずらすことにより修正位相シフト分布関数を計算する工程(410)と,
- カスタムした前記カスタム化可能眼用レンズを前記装着者の眼に提供するように,前記修正位相シフト分布関数に従って電気活性セルを活性化する工程(412)と,
を含む,カスタム化可能眼用レンズを装着者の眼に提供する方法。」

(3) 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「電気活性セル(24)」に関して,「ピッチは,50μmより小さく」という限定を付加することを含むものである。また,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0017】)。
そうしてみると,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものに該当する補正を含むものである。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が同条第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件
(1) 本件補正後発明
本件補正後発明は,前記1(2)に記載したとおりのものである。

(2) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特表2008-525829号公報(以下「引用文献1」という。)は,本件優先日前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は,電気適応性区域が備わっている眼鏡レンズ装置,眼鏡,少なくとも1つの眼鏡レンズ装置の使用,および少なくとも1つの眼鏡レンズの電気適応性区域を操作する方法に関する。
【関連技術】
【0002】
電気適応性区域の備わっている眼鏡レンズが最新技術で存在している。電気適応要素は例えば,ある面,例えば眼鏡レンズの眼球側面に装着された薄い液晶性フィルムである。この液晶性フィルムへ電圧を印加することによって,液晶性フィルムの屈折率は,変化することがあり,従って調整することができる。
…(省略)…
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って,本発明の目的は,電気適応要素が備わっていて,光学性能が改善された眼鏡レンズ装置を提供することである。さらにまた,本発明の目的は,対応する眼鏡レンズ装置についての使用と電気適応性区域を操作する方法とともに,適切な眼鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
…(省略)…
【0007】
本発明は,少なくとも1つの電気適応性区域を備える眼鏡レンズ装置であって,この眼鏡レンズ装置の光学的性質を電気的に調整することができ,そのために,
- 眼鏡レンズ装置が,事前規定されたあるいは事前規定可能な調整区域における光学的性質を周囲区域における光学的性質とは事実上独立して電気的に調整することができるような手法で,構成されており,
- 調整区域および周囲区域が,電気適応性区域の副区域であり,また,
- 調整区域および周囲区域が,どのような共通の区域も示さない,
眼鏡レンズ装置からなっている。
…(省略)…
【0022】
好ましいのは,電気適応性区域の調整区域が事実上円形であることであり,特に好ましい設計では,調整区域が約10mm^(2)?100mm^(2)の範囲にある区域,具体的には約35mm^(2)?55mm^(2)の範囲にある区域を示している。
…(省略)…
【0027】
好ましいのは,電気適応性区域の調整区域が回折光学的性質を示すことである。例えば,調整区域では,最大透過点および非透過の格子点あるいはむしろ格子面の周期的変動区域に対応する局部的構造によって,振幅格子を動的に作ることができる。代案として,例えば透過波の位相変調が屈折率の局部変化によって達成されることで第1次回折における構造的干渉によって回折光線偏差が最大になる局部的適応性位相格子を作ることは可能である。好ましいのは,局部回折格子が事実上同心のリングを備えていて,その結果,屈折力の基本的に回転対称的な分布によって,この眼鏡レンズ装置の固有の効果への基本的に一定の遷移が作られることである。
…(省略)…
【0037】
好ましいのは,調整区域の位置および/または寸法を,凝視方向に合致するように,すなわち眼鏡レンズ装置のユーザーのビジュアルポイントに合致するように,適合できることである。それゆえ,事実上そのビジュアルポイントを備えている調整区域では,眼鏡レンズ装置の光学的性質は,眼鏡装着者の処方箋の数値に事実上適合される。さらにまた,調整区域の位置は,凝視方向を変更することによってビジュアルポイントが変更される時間帯において,基本的に変更されるのが有利であろう。言い換えれば,調整区域の位置は,ビジュアルポイントの位置とともに事実上動く。
【0038】
さらにまた,本発明は,
- 少なくとも1つの眼鏡レンズ装置を設けるステップ,
- 調整区域の光学的性質が眼鏡装着者の処方箋における数値に事実上適合するような手法で少なくとも1つの電気適応性区域の調整区域を調整するステップ,
を備えている,本発明の少なくとも1つの眼鏡レンズ装置の少なくとも1つの電気適応性区域を操作する方法に関するものである。
【0039】
好ましいのは,電気適応性区域の調整区域の光学的性質が,本発明の方法によって,眼鏡装着者の個人データに適合するように調節されることである。
【0040】
好ましいのは,本発明の方法が,次の付加的ステップ,すなわち
- 眼球トラッキングシステムによって視線を検出するステップ,
- 電気適応性区域の眼球側面との視線の交差点であるビジュアルポイントを決定するステップ,
- 調整区域がビジュアルポイントの位置を事実上備えているような手法で調整区域を定置するステップ,
を備えていることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は,単なる例として機能する好ましい実施形態の添付図面によって,以下に説明されている。
【0042】
図1は,本発明の好ましい設計による,眼鏡レンズ装置10を備える好ましい眼鏡1の正面からの模式図である。眼鏡レンズ装置10は,電気適応性区域14がある従来型の眼鏡レンズ12を備えている。電気適応性区域14は,例えば眼鏡レンズ12の眼球側面16の上に液晶の薄い層を施すことによって,作られている。さらにまた,電気適応性区域14は複数の電極18からなる電極格子を備えている。さらにまた,図1は調整区域20を示している。調整区域20は電気適応性区域14の副区域を表している。それゆえ,この好ましい設計では,調整区域20は9つの電気適応性要素区画22からなっているのが好ましい。さらにまた,図1は,ビジュアルポイントDPと事実上一致する,調整区域20の幾何学中心点GSPを示している。電気適応性区域14の残り区域は周囲区域24である。
【0043】
さらにまた,好ましい眼鏡レンズ装置10は,眼球(図示略)の凝視方向を検出するとともにその凝視方向からビジュアルポイントDPを決定するように構成された眼球トラッキングシステム26を備えている。電気適応性区域14の複数の電気適応性要素区画22から,好ましくは調整区域20によって事実上包囲されたそれらの電気適応性要素区画22から,電流あるいはどちらかと言えば電圧を事実上印加するように,調整ユニット28が構成されている。この設計では,調整区域20は例えば9つの電気適応性要素区画22からなっている。調整ユニット28は,それらの電気適応性要素区画22へ,ビジュアルポイントDPの備わった電気適応性要素区画22に基本的に隣接している電極18を介して電池30から電圧および/または電流を事実上印加する。好ましいのは,本発明の好ましい設計の電気適応性要素区画22が基本的に正方形断面を示すことである。それゆえ,調整区域20もまた,基本的に正方形断面を示す。従って,電気適応性要素区画22には,調整区域20の中心にビジュアルポイントDPが備わっている。
【0044】
図2は図1の眼鏡レンズ装置10を示しており,そのビジュアルポイントDPの位置は図1に対して変化している。ビジュアルポイントDPの修正位置に従って,調整区域20の位置もまた修正された。調整区域20にもまた,9つの電気適応性要素区画22が備わっており,これらは正方形の形状に構成されている。中心要素区画22,すなわち調整区域20の幾何学中心点GSPに事実上位置している要素区画22には,ビジュアルポイントDPが備わっている。調整区域20のビジュアルポイントDPと幾何学中心点GSPとは基本的に同じである。
【0045】
調整区域20は電気適応性勾配レンズを形成しているのが好ましい。屈折率は,中心から,基本的には幾何学中心点GSPから,半径方向外側へ向かって増大しあるいは減少する。この点で,屈折率nは幾何学中心点GSPからの半径方向距離rの関数である。例えば,この関数は次のように選択することができる。
【数2】

…(省略)…
【0050】
好都合であるのは,より高次の像誤差の補正もできることである。従来の眼鏡レンズでは,このことは,それぞれのビジュアルポイントが凝視眼球についての特定の屈折率をすでに示しているために,条件付きでだけ可能である。それゆえ,例えばコマ収差および/または球面収差を補正するための自由度はない。本発明によれば,基本的に可視部位でのあるいはむしろビジュアルポイントDPでの眼鏡装着者の異常視力を矯正することができるだけでなく,ビジュアルポイントDPでの眼鏡レンズ12の光学誤差を補正しかつ/または該ビジュアルポイントでの眼鏡レンズ12の光学的性質を変えることができることもまた好都合である。
…(省略)…
【0063】
図4は,眼鏡レンズ装置10の好ましい設計の,図1におけるI-I線に沿った断面図である。さらにまた,図4は,模式図面として,引き込まれた開口光路SGで眼球32を示している。開口光路SGは,可視区域34における眼鏡レンズ12および/または電気適応性区域14と交差する。可視区域34は基本的に調整区域20に合致する。ビジュアルポイントDPは,電気適応性区域14の幾何学中心点GSPに事実上一致する。さらにまた,図4は,事実上,電気適応性区域14の区域であって,調整区域20によって構成されていない,電気適応性区域14の周囲区域24を示している。」

イ 図1,図2及び図4
図1:


図2:


図4:


(3) 引用発明
引用文献1の【0037】?【0039】には,「眼鏡レンズ装置の少なくとも1つの電気適応性区域を操作する方法」の発明が記載されているところ,この方法の前提となる「眼鏡レンズ装置」の具体的な構成は,【0042】?【0051】に記載のとおりのものと認められる。また,引用文献1の【図1】からは,「複数の電極18からなる電極格子より区分けされた電気適応性要素区画22」を看取することができる。
そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,用語(符号)を統一して記載した。
「 少なくとも1つの眼鏡レンズ装置10を設けるステップ,
眼球トラッキングシステム26によって視線を検出するステップ,
電気適応性区域14の眼球側面と視線の交差点であるビジュアルポイントDPを決定するステップ,
調整区域20がビジュアルポイントDPの位置を事実上備えているような手法で調整区域20を定置するステップ,
調整区域20の光学的性質が眼鏡装着者の処方箋における数値に事実上適合するような手法で少なくとも1つの電気適応性区域14の調整区域20を調整するステップ,
を備えている,眼鏡レンズ装置10の少なくとも1つの電気適応性区域14を操作する方法であって,
眼鏡レンズ装置10は,電気適応性区域14がある眼鏡レンズ12を備え,電気適応性区域14は,眼鏡レンズ12の眼球側面16の上に液晶の薄い層を施すことによって作られ,電気適応性区域14は複数の電極18からなる電極格子を備え,
調整区域20は電気適応性区域14の副区域を表し,ビジュアルポイントDPと調整区域20の幾何学中心点GSPは事実上一致し,調整区域20は9つの電気適応性要素区画22からなり,
電気適応性区域14の残り区域は周囲区域24であり,
眼鏡レンズ装置10は,眼球の凝視方向を検出するとともにその凝視方向からビジュアルポイントDPを決定するように構成された眼球トラッキングシステム26を備え,
調整ユニット28は,複数の電極18からなる電極格子より区分けされた電気適応性要素区画22に,隣接している電極18を介して電池30から電圧を印加し,
ビジュアルポイントDPの修正位置に従って,調整区域20の位置もまた修正され,
調整区域20は電気適応性勾配レンズを形成し,屈折率は,幾何学中心点GSPから,半径方向外側へ向かって増大しあるいは減少する,幾何学中心点GSPからの半径方向距離rの関数である,
眼鏡レンズ装置10の少なくとも1つの電気適応性区域14を操作する方法。」

(4) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特表2009-501953号公報(以下「引用文献2」という。)は,本件優先日前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,非構造形状を有するセルのネットワークから成る少なくとも一つのパターンを備え,光学機能を組み入れた,ピクセル化された透明な光学部品の製造に関する。本発明は,このような光学部品を含む透明な光学要素の製造に適用される。この光学要素は,特に様々な光学特性を有する眼科用レンズに適用可能である。」

イ 「【0006】
本発明はまた,このような光学部品を含む光学要素に関する。例えば,このような光学要素は,本発明による光学部品によって眼鏡レンズに光学特性を与えることができるように,眼鏡レンズとして構成されていても良い。
【0007】
該構造は従って,特に高度な光学的機能に関わる,数々の用途に役に立つ。該構造には,光学要素の表面におけるピクセルベースの離散化を要し,これにより,光学要素の設計そしてまた実施においても柔軟性が高くなっている。
…(省略)…
【0017】
光学部品の表面に対し平行なセルは,好適には0.10?5μmの範囲の厚さ(e)の壁によって分離されている。有利には,セルの集合体が1?50μmの高さ(h)の層を形成することである。光学部品の表面に対し平行なセルの,対向する2つの壁の間の上限距離(D)は,500μmである。有利には,セルの距離(D)が1?200μmの間である。マクロメッシュ内の各セルの表面面積は,同一の表面面積から±70%の間で変動する。有利には,マクロメッシュ内の全てのセルは同一の表面面積,又は±50%以内で変動し,更に選択的には,±10%以内で変動する。」

(5) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比する。
ア カスタム化可能眼用レンズを装着者の眼に提供する方法
引用発明は,「調整区域20の光学的性質が眼鏡装着者の処方箋における数値に事実上適合するような手法で少なくとも1つの電気適応性区域14の調整区域20を調整するステップ」を具備する,「眼鏡レンズ装置10の少なくとも1つの電気適応性区域14を操作する方法」である。
上記の構成からみて,引用発明は,眼鏡装着者の処方箋における数値にカスタム化された眼鏡レンズ装置10を,眼鏡装着者の眼に提供することができる方法といえる。
したがって,引用発明の「眼鏡レンズ装置10」及び「眼鏡レンズ装置10の少なくとも1つの電気適応性区域14を操作する方法」は,それぞれ,本件補正後発明の「カスタム化可能眼用レンズ」及び「カスタム化可能眼用レンズを装着者の眼に提供する方法」に相当する。

イ 電気活性セル(24)
引用発明の「眼鏡レンズ装置10は,電気適応性区域14がある眼鏡レンズ12を備え,電気適応性区域14は,眼鏡レンズ12の眼球側面16の上に液晶の薄い層を施すことによって作られ,電気適応性区域14は複数の電極18からなる電極格子を備え」,「調整ユニット28は,複数の電極18からなる電極格子より区分けされた電気適応性要素区画22に,隣接している電極18を介して電池30から電圧を印加し」,「調整区域20は電気適応性勾配レンズを形成し,屈折率は,幾何学中心点GSPから,半径方向外側へ向かって増大しあるいは減少する,幾何学中心点GSPからの半径方向距離rの関数である」。
上記の構成からみて,引用発明の「眼鏡レンズ装置10」は,その表面である「眼鏡レンズ12の眼球側面16」に作られた「電気適応性区域14」に並べて配置された,「電気適応性要素区画22」を具備するといえる。ここで,引用発明の「電気適応性要素区画22」は,技術的にみて,電圧駆動される透明な液晶セルと理解されるから,電気的に活性化可能なセルといえる。そして,引用発明の「電気適応性要素区画22」は,1つの「電気適応性区域14」に対し複数まとまって1セットとして設けられるものであるから,この点において一組のものと理解でき,かつ,「電気適応性勾配レンズを形成し」ているのであるから,光に対し位相シフト分布関数を提供するのに好適なものといえる。
したがって,引用発明の「電気適応性要素区画22」は,本件補正後発明の「電気活性セル(24)」に相当する。また,引用発明の「眼鏡レンズ装置10」は,本件補正後発明の「カスタム化可能眼用レンズ」における,「カスタム化可能眼用レンズの表面に並置された一組の透明な電気活性セル(24)を備えており」という要件を満たす。加えて,引用発明の「電気適応性要素区画22」(1セットのもの)は,本件補正後発明の「一組の透明な電気活性セル(24)」における,「活性化可能であり,かつ,光位相シフト分布関数を提供するのに好適であり」という要件を満たす。

ウ 工程(402)
引用発明は,「電気適応性区域14の眼球側面と視線の交差点であるビジュアルポイントDPを決定するステップ」及び「調整区域20の光学的性質が眼鏡装着者の処方箋における数値に事実上適合するような手法で少なくとも1つの電気適応性区域14の調整区域20を調整するステップ」を具備する。また,引用発明において「ビジュアルポイントDPと調整区域20の幾何学中心点GSPは事実上一致し」,「調整区域20は電気適応性勾配レンズを形成し,屈折率は,幾何学中心点GSPから,半径方向外側へ向かって増大しあるいは減少する,幾何学中心点GSPからの半径方向距離rの関数である」。
上記の構成からみて,引用発明は,「眼鏡装着者」の「ビジュアルポイントDP」に関して表される「半径方向距離rの関数」を提供するものといえる。また,この「半径方向距離rの関数」は,その関数の形からみて,「ビジュアルポイントDP」において屈折率の極値を持つ(零勾配を有する)ものであるとともに,光との関係においては,位相シフト分布をもたらす関数といえる。
さらに,引用発明の「半径方向距離rの関数」は,「調整区域20の光学的性質が眼鏡装着者の処方箋における数値に事実上適合」するためのものである。そうしてみると,引用発明の「半径方向距離rの関数」は,眼鏡装着者の正面視方向に対応する所与の屈折率の関数として,眼鏡装着者に提供されるものといえる。加えて,本件出願の明細書の【0075】の記載からみて,本件補正後発明は,基準注視方向(α_(R),β_(R))が正面視方向(【0075】でいう「主注視方向」)である態様を含んでいる。
以上勘案すると,引用発明の正面視方向の,「ビジュアルポイントDP」及び「半径方向距離rの関数」は,それぞれ,本件補正後発明の「基準点PR」及び「基準位相シフト分布関数」に相当するとともに,引用発明は,本件補正後発明の「基準点PRに関して表され前記基準点PRにおいて零勾配を有する基準位相シフト分布関数であって,所与の屈折関数DF(α,β)を前記装着者に提供するようにされた基準位相シフト分布関数を提供する工程(402)」を具備するといえる。

エ 工程(404)
引用発明の「眼鏡レンズ装置10は,眼球の凝視方向を検出するとともにその凝視方向からビジュアルポイントDPを決定するように構成された眼球トラッキングシステム26を備え」,「電気適応性区域14の眼球側面と視線の交差点であるビジュアルポイントDPを決定するステップ」を具備する。
ここで,引用発明でいう「眼球の凝視方向を検出する」とは,装着者が「眼鏡レンズ装置10」を装着したときの,装着者の眼の実際の注視方向がどの方向かを判断することに外ならない。
したがって,引用発明は,本件補正後発明の「前記カスタム化可能眼用レンズ装着時の前記装着者の前記眼の実際の注視方向(αa,βa)を判断する工程(404)」を具備するといえる。

(6) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 カスタム化可能眼用レンズを装着者の眼に提供する方法であって,前記カスタム化可能眼用レンズは,前記カスタム化可能眼用レンズの表面に並置された一組の透明な電気活性セル(24)を備えており,前記一組の透明な電気活性セル(24)は,活性化可能であり,かつ,光位相シフト分布関数を提供するのに好適であり,
- 基準点PRに関して表され前記基準点PRにおいて零勾配を有する基準位相シフト分布関数であって,所与の屈折関数DF(α,β)を前記装着者に提供するようにされた基準位相シフト分布関数を提供する工程(402)と,
- 前記カスタム化可能眼用レンズ装着時の前記装着者の前記眼の実際の注視方向(αa,βa)を判断する工程(404)と,
を含む,カスタム化可能眼用レンズを装着者の眼に提供する方法。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,次の点で相違するか,一応,相違する。
(相違点1)
「電気活性セル(24)」について,本件補正後発明は,「それぞれが直径70μmの円内に完全に含まれており,前記一組の透明な電気活性セル(24)間のピッチは,50μmより小さく」という構成を具備するのに対して,引用発明は,この要件を満たさない(大きい)と推察される点。

(相違点2)
本件補正後発明は,「前記基準点PRの位置を決定するための基準注視方向(α_(R),β_(R))を選択する工程(406)と」,「前記装着者の前記眼の前記実際の注視方向と前記一組の透明な電気活性セルとの交点である実際の点Paと,前記装着者の前記眼の前記基準注視方向と前記一組の透明な電気活性セルとの交点にある前記基準点PRとを計算する工程(408)と」,「ベクトル
【数1】

に従って前記基準位相シフト分布関数をずらすことにより修正位相シフト分布関数を計算する工程(410)と」,「カスタムした前記カスタム化可能眼用レンズを前記装着者の眼に提供するように,前記修正位相シフト分布関数に従って電気活性セルを活性化する工程(412)」を含むのに対して,引用発明は,このような工程を具備するとは特定されていない点。

(7) 判断
ア 相違点1について
引用発明の「調整区域20」は,「9つの電気適応性要素区画22からな」るとされている。しかしながら,引用発明の「調整区域20は電気適応性勾配レンズを形成し,屈折率は,幾何学中心点GSPから,半径方向外側へ向かって増大しあるいは減少する,幾何学中心点GSPからの半径方向距離rの関数である」から,これを正確に実現しようとする当業者ならば,「電気適応性要素区画22」を微細なものにするといえる。
ところで,引用文献2には,「様々な光学特性を有する眼科用レンズに適用可能である」とされる「ピクセル化された透明な光学部品」に関して,「光学部品の表面に対し平行なセル」の寸法が,「有利には」,「1?50μmの高さ(h)」,「セルの距離(D)が1?200μmの間である」と開示されており,このような引用文献2の記載内容に接した当業者ならば,引用発明の「電気適応性要素区画22」の大きさを,「それぞれが直径70μmの円内に完全に含まれており,前記一組の透明な電気活性セル(24)間のピッチは,50μmより小さく」することができることに気付くといえる(当合議体注:液晶表示装置に関する本件優先日前の技術常識を考慮すると,引用文献2に記載された1μmというセルの距離(D)は非現実的であるが,上記の寸法の要件を満たす程度ならば,十分現実的である。)。
以上勘案すると,引用文献2に記載された事項を参考にした当業者が,引用発明の「電気適応性要素区画22」の大きさを相違点1に係る本件補正後発明の要件を満たすものとすることは,容易に発明をすることができたものである。

イ 相違点2について
引用発明において,「眼球トラッキングシステム26によって視線を検出」し,「電気適応性区域14の眼球側面と視線の交差点であるビジュアルポイントDPを決定」し,「調整区域20がビジュアルポイントDPの位置を事実上備えているような手法で調整区域20を定置」し,「調整区域20の光学的性質が眼鏡装着者の処方箋における数値に事実上適合するような手法で少なくとも1つの電気適応性区域14の調整区域20を調整する」ためには,眼鏡装着者の正面視方向のときの「調整区域20」の屈折率分布を,眼鏡装着者の視線に追従して(ビジュアルポイントDPの修正位置に従って)動かしてやる必要がある。そして,これを実現するためには,電気適応性区域14の眼球側面及び眼鏡装用者の(そのときの)視線から計算される交差点と,電気適応性区域14の眼球側面及び眼鏡装用者の正面視方向から計算される交差点との差分だけ,「調整区域20」の屈折率分布を動かす,すなわち,「ずらす」ような計算処理を行い,ずらした後の「調整区域20」の屈折率分布にしたがって,「電気適応性要素区画22」に電圧を印加する必要がある。
そうしてみると,引用発明において,相違点2に係る本件補正後発明の構成を採用することは,引用発明の処理を具体化する当業者における,通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(8) 発明の効果について
本件出願の明細書には,発明の効果に関する明示的な記載は存在しない。
ただし,本件出願の明細書の【0017】には,発明が解決しようとする課題に関して「本発明の1つの目的は,装着者の視覚的快適性の改善によりアクティブ視覚システムをカスタム化する方法であって例えば日常生活において遭遇し得る変化する観察条件を考慮するのに好適な方法を提供することである。」と記載されていえる。
そこで,本件補正後発明の効果が,上記課題を解決することにあると理解すると,そのような効果は,引用発明も奏する効果にすぎない。

(9) 請求人の主張について
相違点1に関連して,請求人は,審判請求書の5頁において,引用発明の「電気適応性要素区画22」の大きさは,本件補正後発明のものよりも数十倍大きいと主張する。
しかしながら,前記(7)アで述べたとおり,引用発明が求める屈折率分布を正確に実現しようとする当業者ならば,相違点1に係る本件補正後発明の構成を採用するといえる。

3 本件補正についてのむすび
本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,本件優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件補正は,同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反し,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり,決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,平成30年11月13日にされた手続補正は却下されたので,本件出願の請求項1?請求項15に係る発明は,本件出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲(外国語特許出願に係る国際出願日における請求の範囲の翻訳文)の請求項1?請求項15に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本件優先日前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,本件優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。
(当合議体注:引用文献1及び引用文献2は,前記「第2」[理由]2(2)及び(4)で挙げたものである。)

3 引用文献の記載及び引用発明
引用文献1及び引用文献2の記載内容,並びに,引用発明は,前記「第2」[理由]2(2)?(4)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記「第2」[理由]2において検討した本件補正後発明から,「前記一組の透明な電気活性セル(24)間のピッチは,50μmより小さく」という発明特定事項を削除したものである。
(当合議体注:本件補正においては,用語を統一する補正もされているが,発明の内容に実質的な変化をもたらすものではない。)
そうしてみると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正後発明が,前記「第2」[理由]2(5)?(9)に記載したとおり,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,本件優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,本件優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-10-31 
結審通知日 2019-11-05 
審決日 2019-11-19 
出願番号 特願2015-524808(P2015-524808)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G02C)
P 1 8・ 121- Z (G02C)
P 1 8・ 575- Z (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 井口 猶二
樋口 信宏
発明の名称 カスタム化可能眼用レンズを装着者の眼に提供する方法と関連アクティブ視覚システム  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  

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