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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1361262
審判番号 不服2019-2936  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-04 
確定日 2020-03-30 
事件の表示 特願2015-547745「感熱記録シート」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月21日国際公開、WO2015/072411〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-547745号(以下「本件出願」という。)は、2014年(平成26年)11月7日(先の出願に基づく優先権主張 平成25年11月15日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 8月 3日付け:拒絶理由通知書
平成30年 9月19日提出:意見書
平成30年 9月19日提出:手続補正書
平成30年11月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成31年 3月 4日提出:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項8に係る発明は、平成30年9月19日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項8に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のものである。

「表面と、該表面とは反対側の裏面とを有する感熱記録シートであって、
基材層と、該基材層の前記表面側に形成され、かつ加熱により発色する発色材料を含む記録層と、該記録層の更に前記表面側に形成された保護層と、前記記録層の前記裏面側に形成された印刷層とを有し、
前記記録層が発色する前の状態において、前記記録層および前記保護層を含み、前記印刷層よりも前記表面側に形成された部分が透明であり、
前記記録層の前記表面側、かつ前記保護層の前記裏面側に、前記記録層と少なくとも部分的に接するように形成された中間層を更に有し、
前記中間層は、前記印刷層よりも前記表面側に形成された部分における乱反射を抑制するための第2乱反射抑制成分を含み、
前記第2乱反射抑制成分は親水性樹脂または水溶性樹脂を含む感熱記録シート。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本件出願の請求項1に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(特開平11-327445号公報)に記載された発明及び刊行物(特開2008-73858号公報)に記載された技術事項に基づいて、先の出願前のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。


第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載並びに引用発明1及び引用発明2
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された特開平11-327445号公報(以下「引用文献1」という。)は、先の出願前に頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明1の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】透明高分子フィルムの一方の面に感熱発色層を設け、反対の面に任意のパターンに印刷した印刷層を設け、次いで着色材を含有した粘着剤層を介して剥離紙をこの順に積層したことを特徴とする感熱記録ラベル。
【請求項2】該感熱発色層上に水溶性高分子およびまたは合成樹脂エマルジョンを主成分とした保護層または紫外線硬化型樹脂を主成分とする保護層を設けたことを特徴とする請求項1記載の感熱記録ラベル。
【請求項3】該感熱発色層上に水溶性高分子およびまたは合成樹脂エマルジョンを主成分とした保護層を設け更に紫外線硬化型樹脂を主成分とした第2の保護層を設けたことを特徴とする請求項1記載の感熱記録ラベル。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、感熱記録方式によって画像を記録しうる感熱記録ラベルに関する。更に詳細には、変偽造防止能を有する感熱記録ラベルに関する。
【0002】
【従来の技術】支持体の裏面に粘着剤層を介して剥離紙が貼着されており、該支持体の表面に感熱発色成分を含有する感熱発色層が形成されている感熱記録ラベルは、感熱記録方式によって文字情報やバーコード等の発色画像が形成される。
【0003】近年、この種の感熱記録ラベルにおいて、多くの文字情報を記録したり、あるいはバーコードの記録部分を小さくする、ドットの再現性を高め高精細な印字を得る等の要望に応ずるものとして、紙を支持体にした感熱記録ラベルに代わりに高分子フィルムを支持体にした感熱記録ラベルが用いられるようになってきた。また、用途範囲が広がり、意匠性、高級感、識別性、セキュリティー性を出すためにラベルの地肌部分を任意にパターン印刷した感熱ラベルが要求されるようになってきた。
【0004】この要求を満たすため感熱発色層上にパターン印刷をすることが考えられるが、印刷インキによるステッキング、サーマルヘッドの摩耗などのトラブルが生じるだけではなく、セクリティーに対して不十分である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこれらの欠点を解決した意匠性、高級感、識別性、セキュリティー性を有する感熱記録ラベルを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、透明高分子フィルムの一方の面に、任意のパターンを印刷した印刷層を設け、反対の面に感熱発色層を設けた感熱記録体の感熱発色層を設けていない面と剥離紙の剥離層を設けた面とを着色剤を含有した粘着剤を介して貼着することにより得られる。
【0007】また、本発明は、該感熱発色層上に水溶性高分子およびまたは合成樹脂エマルジョンを主成分とした保護層または紫外線硬化型樹脂を主成分とする保護層を設けたことを特徴とする感熱記録ラベルである。
【0008】更に、本発明は、該感熱発色層上に水溶性高分子およびまたは合成樹脂エマルジョンを主成分とした保護層を設け更に紫外線硬化型樹脂を主成分とした第2の保護層を設けたことを特徴とする感熱記録ラベルである。
【0009】感熱発色層上に任意のパターンに印刷した印刷層を設けるか、または、支持体に任意のパターンに印刷した印刷層を設けた後、該層上に感熱発色層を設けることが考えられるが、パターン形成に用いるインクが感熱層の発色成分と反応し保存性を低下させることがあり、インク成分および使用できる感熱発色剤に制限を受ける。
【0010】更にインク付着部分が盛り上がるためサーマルヘッドとの接触が不十分となりドット再現性の悪い画像が得られたり、逆にドット再現性の良い画像を得ようとすると印刷の模様や大きさおよび印刷の濃度などに制限が加えられる。
【0011】本発明では、記録特性とは関係のない面にパターン印刷を行うため精細な印刷を行える上、その面に感圧性糊を塗布して覆うため改竄することが困難であること、および反対面の感熱記録も支持体が高平滑な高分子フィルムであるため高精細な印字が可能となることなどの理由により高度なセキュリティー性を有する。
【0012】
【発明の実施の形態】以下本発明を構成する各要素について更に詳しく説明する。最初に支持体について説明すると、本発明の支持体に使用される透明高分子フィルムとしては、従来より公知のものが使用でき、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート等が挙げられる。これらの透明高分子フィルムにはフィルムの透明性を損なわない範囲で性能を向上させるための添加剤として例えば酸化防止剤、帯電防止剤、スリップ剤、無機顔料等を使用してもよい。
【0013】また必要に応じて透明高分子フィルムにコロナ放電処理をしたり、アイオノマー樹脂を塗布するなどにより、支持体と感熱発色層および/または粘着層との接着性を高めることが出来る。尚上記の支持体は、本目的が印刷層を感熱発色層側から支持体を透視するために透明高分子フィルムであることが必要である。
【0014】剥離紙は従来の剥離ラベルに用いられているものならいずれも使用できる。例えば剥離紙としては紙、高分子フィルム等の台紙上にシリコーン樹脂等の剥離層を設けたものが用いられる。
【0015】着色材を含む粘着剤層に用いる粘着成分は、基本的に下記の弾性体と粘着付与材とにより構成される粘着材が使用できる。
(i)弾性体:再生ゴム、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、ポリイソプロピレン・ブチルゴム、ブナ-N(ブタジエン・アクリロニトリルゴム)、ポリビニルエーテル類(炭化水素残基はエチル又はそれ以上の炭素数を有するもの)、ポリアクリレートエステル類(炭化水素残基はエチル又はそれ以上の炭素数を有するもの)。
(ii)粘着付与材:ポリテルペン樹脂、ガムロジン、ロジンエステルおよびロジン誘導体、油溶性フェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、石油系炭化水素樹脂。
【0016】支持体に透明な高分子フィルムを用いるため、物品等の被着体に本ラベルを貼ると支持体を通して被着体の模様が見えてしまい感熱記録部分や印刷パターンを認識しにくいという問題が生じる。この問題を解決するため本発明では粘着剤層中に着色材として白色または着色の無機または有機顔料を含有させる必要がある。着色剤は粘着剤固型分に対し1?40重量%添加されるが、用途や目的に応じて適宜変更できる。
【0017】それら着色材としては白色顔料として酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、ゼオライト、尿素ホルマリン樹脂、有機中空粒子などが好ましい。この他ベンガラなどの無機着色顔料や蛍光顔料、畜光性顔料等も好ましく使用できる。
【0018】また、有色有機顔料としてC.I.Solvent Yellow 16、C.I.Solvent Yellow 61、C.I.Solvent Yellow 56、C.I.Solvent Orange 6、C.I.Solvent Orange 37、C.I.Solvent Red 25、C.I.Solvent Red 27、C.I.Solvent Red 83、C.I.Solvent Violet 21、C.I.Solvent Violet 13、 C.I.Solvent Blue 2、C.I.Solvent Blue 25、C.I.Disperse Yellow 4、C.I.Disperse Yellow 31、C.I.Disperse Red11、C.I.Disperse Blue 27、C.I.DisperseViolet 24、が挙げられる。
【0019】更に上記の白色顔料、無機着色顔料、蛍光顔料、畜光性顔料、有色顔料等を組み合わせて用いることも好ましい。
【0020】本発明では、透明支持体(透明高分子フィルム)の裏面印刷加工剤としては従来のフィルム印刷インキに用いられているものならいずれも使用できる。例えば、グラビアインキ、オフセットインキ、凸版インキ、平版インキが挙げられる。インキの構成も着色材、ビヒクル、補助剤からなっており、一般的に着色材は染料、顔料、体質顔料等で、ビヒクルは樹脂、溶剤で構成される。補助剤としてはインキの適性向上のために添加される帯電防止剤、レベリング向上剤や、物性向上のために添加する、耐摩擦向上剤、スリップ剤、硬化剤等が挙げられ、必要に応じてこれらを添加する。
【0021】本発明に用いる感熱発色層は淡色の塩基性染料と酸性物質、脂肪酸金属塩と多価フェノール、熱現像タイプジアゾニウム塩とカプラー、などの発色反応を用いた感熱記録材料を用いることができるが、淡色の塩基性染料と酸性物質とによる系が地肌の白さ、発色の鮮やかさの点から好ましい。
【0022】感熱発色層を構成するロイコ化合物(淡色の塩基性染料)、顕色剤(酸性物質)および結着剤は従来から公知のものが用いられる。以下にその例を示す。
・・・(中略)・・・
【0036】感熱発色層上に水溶性高分子およびまたは合成樹脂エマルジョンを主成分とした保護層を設けることにより、より安定な記録体が得られるので好ましい。この保護層には従来の保護層に用いられている素材がいずれも使用でき、例えばPVA、変性PVA、澱粉、カゼイン、合成樹脂エマルジョンを用いて形成することが出来る。この保護層に換えて、紫外線硬化型樹脂を主成分とする保護層を設けても良い。保護層中に泡などが混在すると不透明化する恐れがあるので注意が必要である。
【0037】更にその保護層上に紫外線硬化型樹脂を主成分とした第2の保護層を設けることにより光沢がありかつ機械的圧力に対して影響を受けない優れたラベルを得ることができ、好ましい。
【0038】紫外線硬化型樹脂は「大成社刊:光・放射線硬化技術」など既刊の本、雑誌などに詳しく解説が述べられているが、簡単に言えば光重合性のモノマー、プレポリマー、またはポリマー類と光重合開始剤が必須の成分として含まれる紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射することにより重合せしめることにより得られる。
【0039】モノマーとプレポリマー又はポリマーは相溶性をもち、かつ共重合性を有するものである。プレポリマーとしては不飽和ポリエステル、エポキシ、アクリル、各種ポリエステルなどが使用でき、モノマーには各種エチレン誘導体が挙げられる。紫外線硬化型樹脂層を設けるためには、塗工方式よりも印刷方式が簡便で優れている。
【0040】本発明の感熱ラベルを得る方法としては、(1)あらかじめ透明フィルムに印刷層を設け、反対面に感熱発色層を設けた記録体を得た後、剥離紙と粘着剤を介して貼着する方法、(2)透明フィルムに印刷層を設け剥離紙と粘着剤を介して貼着した後、反対面に感熱発色層をもうける方法、があるが、用いるフィルムの引っ張り強度、耐熱強度、などにより決められる。」

ウ 「【0041】
【実施例】以上の材料を用いて形成する本発明の感熱ラベルの構成は図1?3のごとくである。すなわち図1において1は剥離紙、2は着色剤を含有する粘着剤層、3は印刷層、4は透明な合成樹脂フィルムからなる支持体、5は感熱発色層である。図2は、図1に6の保護層を付与した構成である。図3は、図2に7の紫外線効果型樹脂保護層を付与した構成である。
【0042】本発明を製造例により更に具体的に説明する。
(実施例1)厚さ30μの透明な二軸延伸PPフィルムの両面にコロナ放電処理した。次に、片面に4色オフセットグラビアでフルカラーパターン印刷し本発明の支持体を得た。
【0043】次に、下記の組成のA液及びB液を、おのおのペイントコンデショナー(東洋精機製)で10時間分散させることにより感熱発色層形成用塗料を調整した。
A液:3-ジブチル-6-メチル-7-アニリノフルオラン … 5g
ステアリン酸亜鉛 … 5g
PVA(12%液) … 40g
水 … 50g
B液:ビスフェノールA … 10g
ステアリン酸亜鉛 … 3g PVA(12%液) … 40g
水 … 47g
【0044】次いで、A液100g、B液100g、シリカ(水沢化学製、p-527)10g、SBRラテックス(日本ゼオンPT-1051)30g、水60gを混合して攪拌し感熱塗液を作り、この塗液を前述の支持体の印刷を施していない面にメイヤーバーを用いて、乾燥後の塗布料が8g/m^(2)となるように塗布、乾燥して本発明に使用する感熱記録体を得た。
【0045】更に支持体の裏面にアクリル酸エステル共重合体100重量部、ロジン系粘着付与樹脂20重量部、二酸化チタン30重量部、イソシアネート系硬化剤2重量部からなる粘着剤層(塗布量25g/m^(2))を設け、更に、台紙にシリコーン樹脂を塗布した剥離紙(65g/m^(2)の市販品)を貼付して本発明の感熱発色層側から観たときに地肌部分が白色に着色された感熱記録ラベルを作成した。
【0046】(実施例2)実施例1の粘着剤層にC.I.Solvent Red 25 2重量部添加した以外は実施例1と全く同様にして地肌部分がピンク色に着色された感熱記録ラベルを作成した。
【0047】(実施例3)実施例1における感熱塗料配合からシリカを除いた塗料を用いて感熱記録体を得た後、以下の組成よりなる保護層を2g/m^(2)塗布して感熱記録体を得、後は実施例1と同様にして実施例3の感熱記録ラベルを得た。
PVA12%液(クラレ製クラレポバール105) … 400g
水酸化アルミ(昭和電工製ハイジライトH-42) … 20g
ステアリン酸亜鉛30%分散液(中京油脂D-523) … 30g
グリオキザール40%液 … 25g
水 … 400g
【0048】(実施例4)実施例2の感熱記録ラベル上に、紫外線硬化型樹脂(日本化薬製 N-1815)を2g/m^(2)塗布して光沢のある実施例3の感熱記録ラベルを得た。
【0049】(印字試験)以上のようにして作成した感熱記録ラベルに、市販のラベルプリンター(日清紡製XP-6250)で印字を行った。白またはピンク色に着色された地肌に黒色の感熱発色部分および印刷パターンが鮮やかに配置された感熱フィルムラベルが得られた。
【0050】
【発明の効果】透明高分子フィルムの一方の面に任意のパターンに印刷着色した印刷層を設け、反対の面に感熱発色層を設けた感熱記録体の感熱発色層を設けていない面と剥離紙の剥離層を設けた面とを着色材を含有した粘着剤を介して貼着したことによりドット再現性が良好でかつ感熱記録部分および印刷パターンとが鮮明に配置された意匠性の高いラベルが得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の感熱記録ラベルの概念的構成図である。
【図2】図1に水系樹脂を主成分とする保護層を設けた構成図である。
【図3】図2に紫外線硬化型樹脂を主成分とする保護層を設けた構成図である。
【符号の説明】
1 剥離紙
2 着色材を含む粘着剤層
3 印刷層
4 支持体
5 感熱発色層
6 水系樹脂を主成分とする保護層
7 紫外線硬化型樹脂を主成分とする保護層」

エ 図1

オ 図2

カ 図3


(2) 引用発明1
引用文献1の【0048】には、「(実施例4)実施例2の感熱記録ラベル上に、紫外線硬化型樹脂(日本化薬製N-1815)を2g/m^(2)塗布して光沢のある実施例3の感熱記録ラベルを得た」と記載されているが、【図3】との対応関係を考慮した当業者ならば、実施例2の感熱記録ラベルではなく、実施例3の感熱記録ラベル上に紫外線硬化樹脂を2g/m^(2)塗布して得た、光沢のある感熱記録ラベルも理解することができる(当合議体注:どちらかといえば、【0048】の「実施例2」は、「実施例3」の誤記と理解するのが自然である。)。
そうしてみると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。なお、用語を統一する等して記載した。

「厚さ30μの透明な二軸延伸PPフィルムの両面にコロナ放電処理し、
次に、片面に4色オフセットグラビアでフルカラーパターン印刷して印刷層を得、
次に、下記の組成のA液及びB液を、おのおのペイントコンデショナー(東洋精機製)で10時間分散させることにより感熱発色層形成用塗料を調整し、
次いで、A液100g、B液100g、SBRラテックス(日本ゼオンPT-1051)30g、水60gを混合して攪拌し感熱塗液を作り、この塗液を二軸延伸PPフィルムの印刷を施していない面にメイヤーバーを用いて、乾燥後の塗布量が8g/m^(2)となるように塗布、乾燥して感熱発色層を得、
以下の組成よりなる保護層を感熱発色層上に2g/m^(2)塗布して保護層を得、
紫外線硬化型樹脂(日本化薬製N-1815)を保護層上に2g/m^(2)塗布して紫外線硬化型樹脂層を得、
更に二軸延伸PPフィルムの裏面に設けられた印刷層にアクリル酸エステル共重合体100重量部、ロジン系粘着付与樹脂20重量部、二酸化チタン30重量部、イソシアネート系硬化剤2重量部からなる粘着剤層(塗布量25g/m^(2))を設け、更に、台紙にシリコーン樹脂を塗布した剥離紙(65g/m^(2)の市販品)を貼付し、
市販のラベルプリンター(日清紡製XP-6250)で印字を行うと、白色に着色された地肌に黒色の感熱発色部分および印刷パターンが鮮やかに配置された、
感熱記録ラベル。

A液の組成:
3-ジブチル-6-メチル-7-アニリノフルオラン …5g
ステアリン酸亜鉛 … 5g
PVA(12%液) … 40g
水 … 50g
B液の組成:
ビスフェノールA … 10g
ステアリン酸亜鉛 … 3g
PVA(12%液) … 40g
水 … 47g

保護層の組成:
PVA12%液(クラレ製クラレポバール105) … 400g
水酸化アルミ(昭和電工製ハイジライトH-42) … 20g
ステアリン酸亜鉛30%分散液(中京油脂D-523) … 30g
グリオキザール40%液 … 25g
水 … 400g


(3) 引用発明2
引用文献1の請求項1を引用する請求項3には、次の「感熱記録ラベル」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「透明高分子フィルムの一方の面に感熱発色層を設け、反対の面に任意のパターンに印刷した印刷層を設け、次いで着色材を含有した粘着剤層を介して剥離紙をこの順に積層し、
該感熱発色層上に水溶性高分子およびまたは合成樹脂エマルジョンを主成分とした保護層を設け更に紫外線硬化型樹脂を主成分とした第2の保護層を設けた、感熱記録ラベル。」

(4) 引用文献2
原査定の拒絶の理由において引用された特開2008-73858号公報(以下「引用文献2」という。)は、先の出願前に頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子供与性呈色性化合物と電子受容性化合物との間の発色反応等を利用した感熱記録媒体に関するものであり、特にX線、MRIやCT等の画像の診断や及び参照することを目的とした、銀塩フィルムと同レベルの高い画質、光沢性、高濃度、高階調性を持ちつつ、優れたヘッドマッチング性および画像保存性が得られ、特に医療用画像形成シートとして好適な、感熱記録媒体である。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電子供与性呈色性化合物と電子受容性化合物との間の発色反応等を利用した感熱記録媒体に関するものであり、高光沢性を維持しつつ、ヘッドカス付着による画像の欠陥がなく、更には印画によるスティッキングが良好で、また耐水、耐溶剤性すぐれた、特に医療用途に好適な反射型の感熱記録媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、トレードオフの関係になり勝ちな高光沢性と良好ヘッドマッチング性の双方を同時に満足させるには、感熱記録層と最上層を設けてなる感熱記録媒体において、最上層中に少なくとも水溶性アクリル系樹脂であるシェルと疎水性アクリル樹脂エマルションであるコア部からなるコア/シェル型エマルションを架橋剤にて架橋せしめてなる樹脂成分を含有し、更に体積平均粒径が0.005?0.5μmである無機顔料及び体積平均粒径が0.01?0.9μmである滑剤を含有することが非常に有効であることを知見し、さらに検討を重ねて本発明に至った。
・・・(中略)・・・
【0028】
また、感熱記録層と最上層の間に樹脂を主体とする中間層を設ける手段も有効であり、樹脂の比率の高い層とすることで非常に高い光沢性を達成することが可能となる。
これらの中間層を設ける場合、高光沢性を達成するために水溶性樹脂及びまたは水分散性樹脂が主体であることが好ましい。更に水、溶剤に対するバリヤー機能を持たせるために架橋剤との併用が望ましい。
更に効果を持たせるためには最上層で使用されるアクリルアミド系樹脂であるシェルとアクリル系樹脂であるコア部からなるコアシェル型エマルションと架橋剤としアジリジン化合物を含有することが望ましい。」

上記記載により、引用文献2には、「感熱記録層と最上層の間に樹脂を主体とする中間層を設け、該中間層は非常に高い光沢性を達成し、更に水、溶剤に対するバリヤー機能を持たせるために架橋剤と併用し、更に効果を持たせるためにアクリルアミド系樹脂であるシェルとアクリル系樹脂であるコア部からなるコアシェル型エマルションと架橋剤としアジリジン化合物を含有すること。」(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されているものと認められる。

2 対比
(1) 対比
本願発明と引用発明1を対比する。

ア 感熱記録シートについて
引用発明1は、「市販のラベルプリンター(日清紡製XP-6250)で印字を行うと、白色に着色された地肌に黒色の感熱発色部分および印刷パターンが鮮やかに配置された、」「感熱記録ラベル」である。
「感熱記録ラベル」に関する技術常識や「ラベル」という用語の意味(目印のための貼り紙。付箋。レッテル。レーベル。」(広辞苑6版)を考慮すると、引用発明1の「感熱記録ラベル」がシート状であり、表面、裏面を有することは明らかである。
そうしてみると、引用発明1の「感熱記録ラベル」は、本願発明の「感熱記録シート」に相当し、引用発明1は、本願発明の「感熱記録シート」における、「表面と、該表面とは反対の裏面とを有する」という要件を満たす。

イ 基材層について
引用発明1の製造工程からみて、引用発明1の「感熱記録ラベル」は、「剥離紙」、「粘着剤層」、「印刷層」、「二軸延伸PPフィルム」、「感熱発色層」、「保護層」及び「紫外線硬化型樹脂層」がこの順に積層されたものである。
そうしてみると、引用発明1の「二軸延伸PPフィルム」は、「層」(「重なりをなすものの一つ。」(広辞苑6版))ということができ、また、「印刷層」等との関係では、「基材」ということができる。
したがって、引用文献1の「二軸延伸PPフィルム」は、「基材層」に相当する。

ウ 記録層について
引用発明1の「感熱発色層」は、「A液100g、B液100g、SBRラテックス(日本ゼオンPT-1051)30g、水60gを混合して攪拌し感熱塗液を作り、この塗液を二軸延伸PPフィルムの印刷を施していない面にメイヤーバーを用いて、乾燥後の塗布量が8g/m^(2)となるように塗布、乾燥して」得たものである。また、「A液中」には、「3-ジブチル-6-メチル-7-アニリノフルオラン」(当合議体注:加熱により発色する発色材料である。)が含まれている。
そうしてみると、引用発明1の「感熱発色層」は、本願発明の「記録層」に相当する。また、引用発明1の「感熱発色層」は、本願発明の「記録層」における、「加熱により発色する発色材料を含む」という要件を満たす。

エ 印刷層について
引用発明1は、「4色オフセットグラビアでフルカラーパターン印刷」してなる「印刷層」を具備する。
ここで、本願明細書の【0003】に「本明細書において・・・事前に行われている印刷を単に「印刷」と呼ぶ。」、【0034】に「印刷層4は、グラビア印刷・・・等いかなる方法で形成しても良い」と記載されている。
そうしてみると、引用発明1の「印刷層」は、本願発明の「印刷層」に相当する。

オ 保護層について
引用発明1は、「紫外線硬化型樹脂(日本化薬製N-1815)を保護層上に2g/m^(2)塗布して紫外線硬化型樹脂層を得」たことを具備する。
技術常識から、引用発明1の「紫外線硬化型樹脂層」は保護層として機能することは明らかである(引用文献1の【請求項3】や【0037】の記載からも確認できる事項である。)。
そうしてみると、引用発明1の「紫外線硬化型樹脂層」は、本願発明の「保護層」に相当する。

カ 基材層、記録層、保護層、印刷層について
引用発明1の製造工程からみて、引用発明1の「感熱記録ラベル」は、「剥離紙」」、「粘着剤層」、「印刷層」、「二軸延伸PPフィルム」、「感熱発色層」、「保護層」及び「紫外線硬化型樹脂層」がこの順に積層されたものである。また、引用発明1の「感熱記録ラベル」は、「市販のラベルプリンター(日清紡製XP-6250)で印字を行うと、白色に着色された地肌に黒色の感熱発色部分および印刷パターンが鮮やかに配置された」ものになるのであるから、「紫外線硬化樹脂層」の側が「感熱記録ラベル」の表面であり、「剥離紙」の側が「感熱記録ラベル」の裏面である。
そうしてみると、引用発明1の「感熱記録ラベル」は、本願発明の「感熱記録シート」における、「基材層と、該基材層の前記表面側に形成され、かつ加熱により発色する発色材料を含む記録層と、該記録層の更に前記表面側に形成された保護層と、前記記録層の前記裏面側に形成された印刷層とを有」するという構成を具備する。

キ 印刷層よりも前記表面側に形成された部分について
引用発明1の「感熱記録ラベル」は、「市販のラベルプリンター(日清紡製XP-6250)で印字を行うと、白色に着色された地肌に黒色の感熱発色部分および印刷パターンが鮮やかに配置された」ものになる。ここで、「透明」に関して、本件出願の明細書の【0026】には、「印刷層4よりも表面側に形成された部分、即ち、記録層2および保護層5が透明である。ここで、印刷層4よりも表面側に形成された部分が透明であるとは、記録層2が発色する前の状態で、感熱記録シート1の表面側から見たときに、印刷層4よりも表面側に形成された部分を透かして印刷層4が視認できる状態であることを意味する。」と記載されている。
そうしてみると、引用発明1の「感熱記録ラベル」は、本願発明の「感熱シート」における、「前記記録層が発色する前の状態において、前記記録層および前記保護層を含み、前記印刷層よりも前記表面側に形成された部分が透明であ」るという要件を満たす。

ク 中間層について
引用発明1の製造工程からみて、引用発明1の「感熱記録ラベル」は、「剥離紙」、「粘着剤層」、「印刷層」、「二軸延伸PPフィルム」、「感熱発色層」、「保護層」及び「紫外線硬化型樹脂層」がこの順に積層されたものである(当合議体注:各層は接するように形成されている。)。
そうしてみると、引用発明1の「保護層」は、本願発明の「中間層」に相当する。また、引用発明1の「感熱記録ラベル」は、本願発明の「感熱記録シート」における、「前記記録層の前記表面側、かつ前記保護層の前記裏面側に、前記記録層と少なくとも部分的に接するように形成された中間層を更に有」するという要件を満たす。

3 一致点及び相違点
(1) 一致点
上記2からみて、本願発明と引用発明1とは、
「表面と、該表面とは反対側の裏面とを有する感熱記録シートであって、
基材層と、該基材層の前記表面側に形成され、かつ加熱により発色する発色材料を含む記録層と、該記録層の更に前記表面側に形成された保護層と、前記記録層の前記裏面側に形成された印刷層とを有し、
前記記録層が発色する前の状態において、前記記録層および前記保護層を含み、前記印刷層よりも前記表面側に形成された部分が透明であり、
前記記録層の前記表面側、かつ前記保護層の前記裏面側に、前記記録層と少なくとも部分的に接するように形成された中間層を更に有する、
感熱記録シート。」
である点で一致する。

(2) 相違点
本願発明と引用発明1は、次の点で相違する。

(相違点)
「中間層」が、本願発明では、「前記印刷層よりも前記表面側に形成された部分における乱反射を抑制するための第2乱反射抑制成分を含み、前記第2乱反射抑制成分は親水性樹脂または水溶性樹脂を含む」のに対して、引用発明1では、「保護層」は、「以下の組成よりなる保護層を感熱発色層上に2g/m^(2)塗布して」なるものであり、「以下の組成」は、次のものである。
「PVA12%液(クラレ製クラレポバール105) … 400g
水酸化アルミ(昭和電工製ハイジライトH-42) … 20g
ステアリン酸亜鉛30%分散液(中京油脂D-523) … 30g
グリオキザール40%液 … 25g
水 … 400g


4 相違点についての判断
(1) 動機付けについて
引用文献1の【0036】には、「感熱発色層上に水溶性高分子およびまたは合成樹脂エマルジョンを主成分とした保護層を設けることにより、より安定な記録体が得られるので好ましい。この保護層には従来の保護層に用いられている素材がいずれも使用でき、例えばPVA、変性PVA、澱粉、カゼイン、合成樹脂エマルジョンを用いて形成することが出来る。」と記載されていて、保護層として水溶性高分子及び合成樹脂エマルションを併用してもよいことが記載されている。
ところで、引用文献2の【0008】には、「感熱記録媒体において、最上層中に少なくとも水溶性アクリル系樹脂であるシェルと疎水性アクリル樹脂エマルションであるコア部からなるコア/シェル型エマルションを架橋剤にて架橋せしめてなる樹脂成分を含有」させることが記載され、さらに、引用文献2の【0028】には、「感熱記録層と最上層の間に樹脂を主体とする中間層を設ける手段も有効であり、樹脂の比率の高い層とすることで非常に高い光沢性を達成することが可能となる。」、「これらの中間層を設ける場合、高光沢性を達成するために水溶性樹脂及びまたは水分散性樹脂が主体であることが好ましい。更に水、溶剤に対するバリヤー機能を持たせるために架橋剤との併用が望ましい。」及び「更に効果を持たせるためには最上層で使用されるアクリルアミド系樹脂であるシェルとアクリル系樹脂であるコア部からなるコアシェル型エマルションと架橋剤としアジリジン化合物を含有することが望ましい。」と記載されている(引用発明1と共通する「感熱記録媒体」の技術分野において、引用文献1の【0036】に示唆されている「水溶性高分子」や「合成樹脂エマルジョン」を用いる構成が開示されている。)。
ここで、引用発明1の「感熱記録ラベル」は、「4色オフセットグラビアでフルカラーパターン印刷して」なる「印刷層」を具備し、また、「市販のラベルプリンター(日清紡製XP-6250)で印字を行うと、白色に着色された地肌に黒色の感熱発色部分および印刷パターンが鮮やかに配置された」ものであるから、高い光沢性を具備したものといえる。また、引用発明1は「感熱記録ラベル」であるから、耐水性や耐溶剤性が必要であることは明らかである(そうでなければ、「意匠性、高級感、識別性、セキュリティー性を有する感熱記録ラベルを提供すること」(【0005】)はできない。)。
以上勘案すると、引用発明1の「保護層」として、引用文献2に記載された事項を採用することについては、引用文献1に示唆されているというべきであり、また、技術分野の共通性、光沢性といった機能の共通性、耐水性や耐溶剤性といった感熱記録ラベルにおける課題の共通性といった観点からしてみても、動機付けがあるといえる。

(2) 乱反射抑制成分について
引用発明1の保護層及び引用文献2に記載された事項においては、乱反射を抑制するかどうかは、一応、明らかではない。しかしながら、引用文献1の【0036】に「保護層中に泡などが混在すると不透明化する恐れがあるので注意が必要である。」と記載されていることからみても、引用発明1の「感熱記録ラベル」を含む感熱記録シートにおいて印字や印刷のクリアな視認性を確保するために、乱反射を抑制することは周知の課題であるといえる。とりわけ、引用発明1の「印刷層」は、「4色オフセットグラビアでフルカラーパターン印刷された」ものであり、このような印刷層を見栄え良く視認するためには乱反射を最小限にとどめる必要があることは明らかである。
そうしてみると、引用発明1の保護層として引用文献2に記載された事項を適用する当業者ならば、乱反射についても十分配慮した上で、適切なコアシェル型エマルション(シェルが水溶性であり、コアが疎水性である合成樹脂エマルション)を含んでなる保護層用の組成物を調整することは明らかである。
なお、本願発明の「前記記録層および前記保護層を含み、前記印刷層よりも前記表面側に形成された部分」は、「前記記録層が発色する前の状態において」、「透明」であれば足り、あるいは、請求項4の引用関係を考慮すると、「前記印刷層よりも前記表面側に形成された部分は、前記記録層の発色前の状態で、JIS P8138に準拠した不透明度が25%」より上であっても構わないものである。そうしてみると、引用文献1の【0036】の示唆に基づいて、引用発明1の「保護層」の材料として、「水溶性高分子」及び「合成樹脂エマルション」(引用文献2に記載された事項から示唆されるもの)を採用したものは、(よほど不適切な材料の選択をしない限り)本願発明の範囲に入ると認められるところでもある。

(3) まとめ
以上から、引用発明1の保護層として引用文献2に記載された事項を適用して上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

5 効果について
本願発明の効果として、本願明細書の【0022】に「本発明の感熱記録シートによれば、発色した感熱記録層(具体的には、感熱発色により感熱記録層に形成された情報)と印刷層との双方を、シートの表面側から、明瞭に確認することができる。」と記載されている。
この点について、本願発明は、「透明」の度合いに関する定量的な構成を具備しないものであり、どの程度「明瞭」であれば、本願発明の効果を奏するものといえるのかは定かではない。
ここで、本願明細書において、実施例と比較例を対比して効果を示した記載はない。また、第6実施形態として記載されている【0092】に「コアシェル型粒子としては、公知のもの、例えば、アクリルアミド樹脂などのアクリル系樹脂を含むコアシェル型粒子として、商品名「バリアスター」(三井化学(株)製)などが挙げられる。」と記載されているのみであって、コアシェル型粒子を用いない場合や、コアシェル型粒子の粒径、コアシェルの径の比、コアシェル型粒子の中間層における重量比などを変えた場合において本願発明に係る実施例がどの程度明瞭であるのかは明らかでない。
これに対して、引用発明1は「市販のラベルプリンター(日清紡製XP-6250)で印字を行うと、白色に着色された地肌に黒色の感熱発色部分および印刷パターンが鮮やかに配置された」ものであるから、引用発明1においても感熱発色部分及び印刷パターンは明瞭であるといえる。また、上記4(2)で述べたように、引用発明1の保護層として引用文献2に記載された事項を適用する当業者ならば、乱反射についても十分に配慮するものである。
そうしてみると、本願発明の効果は、引用発明1及び引用文献2に記載された事項から予測できる範囲内のものである。

6 審判請求人の主張について
審判請求人は、「視認性が良い、乱反射が抑制されているとしても、印刷層がある場合とない場合では、要求される程度が大きく異なります。印刷層を視認できる程度の乱反射の抑制が、本願発明の要諦の一つであるということができ、これは従来なかった技術です。」(以下「審判請求人の主張1」という。)、「仮に出願人が引用文献10および11におけるコアシェル型粒子を中間層に入れる例を見たとしても、これを本願発明に適用する動機が全くありません。」(以下「審判請求人の主張2」という。)、「中間層や表面層が単に透明であるというだけでなく、中間層と記録層との界面の乱反射を積極的に抑制することにより、「発色した感熱記録層(具体的には、感熱発色により感熱記録層に形成された情報)と印刷層との双方を、シートの表面側から、明瞭に確認することができる。(当初明細書【0022】参照。)」という引用発明の効果と比較した有利な効果を有します。」(以下「審判請求人の主張3」という。)と主張している。
審判請求人の主張1の乱反射の抑制については上記4(2)、審判請求人の主張2の動機については上記4(1)、審判請求人の主張3の効果については上記5、でそれぞれ述べたとおりである。
ここで、審判請求人の主張2の動機について付言すると、本願発明の乱反射を抑制するとの課題とは異なる課題であっても、上記4(1)で述べたとおり、技術分野の共通性、光沢性といった機能の共通性、耐水性や耐溶剤性といった感熱記録ラベルにおける課題の共通性といった観点から、引用発明1に引用文献2に記載された事項を適用する動機付けがあるといえる。
以上から、審判請求人の主張は、いずれも採用することができない。

7 小括
本願発明は、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

8 引用発明2を主引例とした場合について
引用発明1に替えて、引用発明2を引用発明としてみても、同じ結論に到ることは明らかである。


第3 むすび
以上のとおり、本願発明は引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-01-31 
結審通知日 2020-02-03 
審決日 2020-02-17 
出願番号 特願2015-547745(P2015-547745)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 井口 猶二
早川 貴之
発明の名称 感熱記録シート  
代理人 嶋田 太郎  

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