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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1361263
審判番号 不服2019-5166  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-18 
確定日 2020-03-30 
事件の表示 特願2018- 35352「調光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月 7日出願公開、特開2018- 88010〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年11月21日に出願した特願2016-226202号の一部を平成29年11月17日に新たな特許出願とした特願2017-222076号の一部を平成30年2月28日に新たな特許出願としたものであって、平成30年3月1日に上申書及び手続補正書が提出され、平成30年5月30日に手続補正書が提出され、平成30年8月30日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成30年11月1日に意見書が提出され、その後、平成31年1月16日付けで拒絶査定がなされ、同査定の謄本は平成31年1月18日に請求人に送達された。これに対して、平成31年4月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成31年4月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年4月18日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項3の記載は、次のように補正された(下線は補正箇所であり、当審で付与。以下同じ。)。

「三次元曲面を有する第1光透過プレートと、
第2光透過プレートと、
前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間に配置される調光セルと、を備える調光装置であって、
前記第1光透過プレートは、曲げに対する剛性が、前記調光セルよりも高く、
前記調光セルは、第1樹脂基材を含む第1積層体と、第2樹脂基材を含む第2積層体と、前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた液晶層と、前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられ、前記液晶層が形成される領域を区画し、前記液晶層を囲む枠形状に配置されたシール材と、を有し、
前記第1光透過プレートの前記三次元曲面に前記調光セルの一方の側が接着され、
前記第2光透過プレートが接着層を介して前記調光セルの他方側に取り付けられ、
前記第1積層体は、前記シール材の外側に延長され且つ前記第1光透過プレートの前記三次元曲面に貼り合わされた延長部を有し、
偏光板が設けられていない、調光装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の特許請求の範囲の請求項3の記載は次のとおりである。

「三次元曲面を有する第1光透過プレートと、
第2光透過プレートと、
前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間に配置される調光セルと、を
備える調光装置であって、
前記第1光透過プレートは、曲げに対する剛性が、前記調光セルよりも高く、
前記調光セルは、第1樹脂基材を含む第1積層体と、第2樹脂基材を含む第2積層体と、前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた液晶層と、前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられ、前記液晶層が形成される領域を区画し、前記液晶層を囲む枠形状に配置されたシール材と、を有し、
前記第1光透過プレートの前記三次元曲面に前記調光セルの一方の側が接着され、
前記第2光透過プレートが前記調光セルの他方側に取り付けられ、
偏光板が設けられていない、調光装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「第2光透過プレート」について、本件補正事項のとおり、「接着層を介して」との限定を付加するとともに、「第1積層体」について、本件補正事項のとおり、「第1積層体は、前記シール材の外側に延長され且つ前記第1光透過プレートの前記三次元曲面に貼り合わされた延長部を有し」との限定を付加するものであって、補正前の請求項3に記載された発明と補正後の請求項3に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項3に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献1
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された引用文献1である、特開2007-61446号公報(平成19年3月15日公開)には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子が備えられた調光装置及び応用物品に関する。」

(イ)「【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、付加価値の高い機能を付与した透明パネルが備えられた、ショーケース、間仕切、壁体、天窓、鏡、調光体、照明装置、エスカレータ装置、ドア装置、ビルディング外壁用調光装置、を実現することができる。情報表示における「文字」とは人間が通常用いている言語であって、判読できるものである。通常用いられる形態から変形されていてもよい。典型的なフォント形状そのものでもよい。また、文字そのものを意匠の一部として用いる場合も含める。
【0039】
また、模様とは自然界に存在する模様(雲、波、大理石などの表面模様、木目、螺旋模様、斑点模様)や創作された模様(線、三角形、円、円弧、四角形、多角形などの組み合わせ図形や、より複雑に組み合わされた図形)のいずれでもよい。文字及び模様を混在させてもよい。商店や企業などのイメージに合致した図形、CIのマーク、ロゴ、特定の広告表示などを適宜混在させ、繰り返して表示してもよい。複数の光学素子を配置する場合は、それぞれの光学素子毎に異なる表示を行うようにしてもよい。情報受容者に対して、より訴求力のある情報表示を実現できるからである。
【0040】
また、光学素子に高精細な表示を実現することも可能であり、情報受容者(利用者)に一定以上の情報量を効果的に伝達することが期待できる。また、状況の変化に応じて臨機応変に表示を変更することができる。」

(ウ)「【0042】
本発明に用いる光学素子として、非駆動時に透明状態または情報表示状態が安定に保持されるものを採用する。特許文献4の液晶光学素子は、非駆動時に「透明」であり、駆動時に「散乱(白濁)」する動作モードを呈する。その改良発明として本出願人等による特願2004-367513がある。光学素子を保護するために、樹脂構造をさらに工夫することにより、耐衝撃性を向上したものである。
・・・
【0044】
図1にその模式的断面図を示す。この液晶/樹脂複合体素子40は、表基板41と裏基板42の間に配向膜43,49、樹脂/液晶複合体層45、スペーサ46、周辺シール47、マトリックス電極44,48が備えられている。図2は、液晶のプレチルト状態を示す模式図である。図3は、形成した液晶光学素子の断面写真(a)と、液晶を除去した後の樹脂構造を斜め方向から撮影した斜視図(b)である。図3のものは、基板断面方向において、斜めに配列した樹脂が含まれている。本発明では、この液晶光学素子を用いることができ、その高速動作を利用して、表示を任意に切り替えることに適するのである。」

(エ)「【0052】
[実施形態1]
図4は、本実施形態1の展示装置の構成の一例を模式的に示す斜視図である。本実施形態に係る展示装置10は、光学素子たる液晶光学素子1、壁面2、展示物品を置く内部空間3、センサー11、制御回路12、赤外線13等を備えている。この本実施形態1に係る展示装置10は、建物や店舗の内外壁に凹部、又は開口部を設け、凹部や開口部の内部空間3に展示物が展示されるものである。壁面2の外壁面の延長上の凹部や開口部前面には、液晶光学素子1が設けられ、これにより内部空間3と外部とが仕切られている。建物、店舗を訪問した情報受容者(利用者)は、この内部空間3に展示された展示物品を外部空間から液晶光学素子1を介して視認することができる。
・・・
【0054】
制御回路12は、液晶光学素子1を駆動するための駆動信号を出力する駆動回路を備えている。制御回路12は、センサー11の検知結果に基づいて、液晶光学素子1に駆動信号を出力する。本実施形態1においては、店舗を訪問した情報受容者(利用者)が展示装置10に接近すると、制御回路12が液晶光学素子1を駆動し、液晶光学素子1の光学状態が変化するように構成されている。
【0055】
液晶光学素子1としては、例えば、透過・散乱の動作モードを呈するものを用いることができる。液晶光学素子1の透過状態、及び散乱状態は、制御回路12による電気的制御により可変可能である。例えば、情報受容者(利用者)が接近した際に透明状態とし、情報受容者(利用者)が近接していないときには、透明状態のところに展示物に関する情報が浮かびあがるように表示される状態とすることができる。
・・・
【0062】
壁面2の内部において液晶光学素子1の近傍の位置には、制御回路12と配線(不図示)とを収納するための空間が設けられている。液晶光学素子1の端部には、例えば、駆動回路を実装したTCP(不図示)が接続されている。TCPは、液晶光学素子1の周辺の壁面の中に設置する。さらに、壁面の中にTCPと接続されるFPC(不図示)等の外部配線が収納されている。」

(オ)「【0066】
図6は、本実施形態1に係る液晶光学素子1の構成の一例を示す断面図である。本実施形態1に係る光学素子として、米国特許出願公開第2003/0142057号明細書に開示されたメモリ性を有するものを挙げることができる。具体的には散乱・反射状態であるフォーカルコニック状態と、可視域の波長で透明状態を呈するプレナー状態(赤外域または紫外域で選択反射を有する光学的状態)とを安定に有するカイラルネマチック液晶を用いている。このカイラルネマチック液晶の製法・構造等については、例えば、上記の米国特許出願公開第2003/0142057号明細書に記載のものを用いることができる。
【0067】
上記液晶光学素子1は、図6に示すように、第1のガラス基板61a、第2のガラス基板61b、第1電極62a、第2電極62b、第1高分子薄膜63a、第2高分子薄膜63b、及び光学機能層たる液晶層64等を備える。液晶層64には、フォーカルコニック状態とプレナー状態を安定に呈するカイラルネマチック液晶を用いる。」

(カ)「【0079】
本実施形態1においては、上述のように液晶光学素子1の光学機能層の一部が散乱状態となって情報が表示される情報表示状態と、散乱状態となった部位が透明に切り替わり、光学機能層の全体が透明となる透明状態とを有する。これにより、様々な情報を容易に表示することができる。また、内部に展示された商品を容易に視認することができる。さらに、情報を液晶の散乱状態により表示しているため、様々な角度から情報を視認することができる。
【0080】
このような展示装置は、百貨店、デパート、専門店等の店舗の他、博物館、展示会、博覧会、スポーツ競技場、会議場、催事場、冠婚葬祭場、一般企業の社屋、などの各種会場、空間において利用することができる。展示物には、創作物のみならず、無機物、動物や植物などの生物体を含んでいてもよく、また、実際に販売される商品だけでなく、展示のみされる物品でもよい。また、外光を利用して商品及び液晶光学素子を意図的に照明してもよい。本実施形態1に係る展示装置10によれば、展示された商品及び商品に関する情報を良好に視認することができる。そのため顧客への宣伝効果を向上でき、購買意欲等を喚起することができる。
【0081】
なお、光学機能層の表示・非表示状態は上記使用態様に限定されるものではなく、情報受容者(利用者)が近接したときのみ透明状態とし、情報受容者(利用者)が近接していないときには、液晶光学素子1の全体を散乱状態としてもよい。これにより、情報受容者(利用者)が近接していない時には、展示装置内の商品をほとんど隠すことができる。この場合においても、所定の位置のドットまたはセグメントに所定の情報を表示できるように設定してもよい。あるいは、液晶光学素子1中にしきい値の異なる領域を設けて、印加電圧に応じて透過率を変化させることにより、液晶光学素子1に「AGC」のような所定の文字や模様を表示させることもできる。
【0082】
本実施形態1において、可視光域における全光線透過率は60%以上であることが好ましく、さらに好ましくは70%以上とする。例えば、上述のカイラルネマチック液晶のような高透過性素子を用いることにより、可視域の波長で80%以上の全光線透過率を達成することができる。
【0083】
なお、全光線透過率とは、液晶光学素子を直接構成する二枚の透明板を含む液晶光学素子の部分における、一方の外表面から他方の外表面に至るまでの可視光線の透過率のことを言う。アンチグレア処理等のための光学薄膜を含んでもよい。透過率の高い液晶光学素子を用いることにより、内部に展示された商品を見やすくすることができる。これにより、内部の展示物とその情報を容易に見ることができ、購買意欲を喚起することができる。
【0084】
なお、本実施形態1の展示装置10の開口部形状は、矩形以外の形状とすることができる。例えば、円形や三角形、多角形の液晶光学素子1を設けることができる。さらに、大型のコルトンパネルに対して用いることも可能である。
【0085】
また、透明パネルの一部又は全体が曲面体であってもよい。曲面体の曲面部(例えば、半円柱状部分など)に光学素子を設置するには、光学素子の基板をフィルム基板とし、柔軟構造を有する表示素子を採用すればよい。カイラルネマチック液晶光学素子をフィルム基板間に設けて、曲面化できる例が知られている。この場合、駆動ICなどはフィルム基板の端に相互の間隙を空けて設置し、ある程度の屈曲にたえるような構造にすればよい。
【0086】
また、本実施形態1の展示装置10においては、壁面2の開口部前面を覆うように液晶光学素子1を配設したが、開口部全面に一枚のガラス等の透明板を配設し、この透明板に、ポリビニルブチラール等の接着シート等を介して液晶光学素子1を貼り合わせるようにしてもよい。また、後述する実施形態3又は変形例2に記載のように一対の透明板に光学素子を挟持する構造としてもよい。」

(キ)図1から、裏基板42は、周辺シール47の外側に延長されていることが看て取れる。

(ク)図1は以下のとおりである。


(ケ)図4は以下のとおりである。


(コ)図6は以下のとおりである。


イ 上記記載及び図面から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

引用発明
「展示装置10であって、光学素子たる液晶光学素子1、壁面2、展示物品を置く内部空間3、センサー11、制御回路12、赤外線13等を備えており、
展示装置10は、建物や店舗の内外壁に凹部、又は開口部を設け、凹部や開口部の内部空間3に展示物が展示されるものであり、
壁面2の外壁面の延長上の凹部や開口部前面には、液晶光学素子1が設けられ、これにより内部空間3と外部とが仕切られており、建物、店舗を訪問した情報受容者(利用者)は、この内部空間3に展示された展示物品を外部空間から液晶光学素子1を介して視認することができ、
壁面2の内部において液晶光学素子1の近傍の位置には、制御回路12と配線とを収納するための空間が設けられており、液晶光学素子1の端部には、例えば、駆動回路を実装したTCPが接続され、TCPは、液晶光学素子1の周辺の壁面の中に設置されており、
液晶光学素子1の構成の一例として、メモリ性を有するものを挙げることができ、具体的には散乱・反射状態であるフォーカルコニック状態と、可視域の波長で透明状態を呈するプレナー状態(赤外域または紫外域で選択反射を有する光学的状態)とを安定に有するカイラルネマチック液晶を用いることができ、液晶光学素子1は、第1のガラス基板61a、第2のガラス基板61b、第1電極62a、第2電極62b、第1高分子薄膜63a、第2高分子薄膜63b、及び光学機能層たる液晶層64等を備え、液晶層64には、フォーカルコニック状態とプレナー状態を安定に呈するカイラルネマチック液晶を用いることができ、
光学機能層の表示・非表示状態は、情報受容者(利用者)が近接したときのみ透明状態とし、情報受容者(利用者)が近接していないときには、液晶光学素子1の全体を散乱状態としてもよく、これにより、情報受容者(利用者)が近接していない時には、展示装置内の商品をほとんど隠すことができ、この場合においても、液晶光学素子1中にしきい値の異なる領域を設けて、印加電圧に応じて透過率を変化させることにより、液晶光学素子1に所定の文字や模様を表示させることもでき、
透明パネルの一部又は全体が曲面体であってもよく、曲面体の曲面部(例えば、半円柱状部分など)に光学素子を設置するには、光学素子の基板をフィルム基板とし、柔軟構造を有する表示素子を採用すればよく、カイラルネマチック液晶光学素子をフィルム基板間に設けて、曲面化できる例が知られており、
展示装置10においては、壁面2の開口部前面を覆うように液晶光学素子1を配設したが、開口部全面に一枚のガラス等の透明板を配設し、この透明板に、ポリビニルブチラール等の接着シート等を介して液晶光学素子1を貼り合わせるようにしてもよく、また、一対の透明板に光学素子を挟持する構造としてもよい、
展示装置。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明において「一対の透明板に光学素子を挟持する構造としてもよい」ことから、引用発明に「一対の透明板」は、本件補正発明の「第1光透過プレート」、「第2光透過プレート」に相当する。

イ 引用発明の「液晶光学素子1」、「展示装置」は、それぞれ本件補正発明の「調光セル」、「調光装置」とは、「セル」、「装置」の点で共通する。

ウ 引用発明において「液晶光学素子1は、第1のガラス基板61a、第2のガラス基板61b、第1電極62a、第2電極62b、第1高分子薄膜63a、第2高分子薄膜63b、及び光学機能層たる液晶層64等を備え」、「透明パネルの一部又は全体が曲面体であってもよく、曲面体の曲面部(例えば、半円柱状部分など)に光学素子を設置するには、光学素子の基板をフィルム基板とし、柔軟構造を有する表示素子を採用すればよ」いことから、液晶光学素子1のガラス基板に代えてフィルム基板を用いる構成を有しているといえる。そして、引用発明の「フィルム基板」は、本件補正発明の(第1、第2)「樹脂基材」に相当し、また、引用発明の「第1の」「基板61a、第1電極62a、第1高分子薄膜63a」、「第2の」「基板61b、第2電極62b、第2高分子薄膜63b」は積層体であることは明らかであるから、引用発明は、本件補正発明の「第1樹脂基材を含む第1積層体」、「第2樹脂基材を含む第2積層体」との構成を有しているといえる。また、引用発明の「液晶層」は、本件補正発明の「液晶層」に相当する。

エ 引用発明において「透明パネルの一部又は全体が曲面体であってもよく、曲面体の曲面部(例えば、半円柱状部分など)に光学素子を設置する」ことができるから、引用発明は、本件補正発明の「三次元曲面を有する」ことと、「曲面を有する」点で共通する。

オ 引用発明において「開口部全面に一枚のガラス等の透明板を配設し、この透明板に、ポリビニルブチラール等の接着シート等を介して液晶光学素子1を貼り合わせるようにしてもよく、また、一対の透明板に光学素子を挟持する構造としてもよい」ことから、一対の透明板に接着シート等を介して液晶光学素子1を貼り合わせるという態様を含んでいるといえ、また、「接着シート」は本件補正発明の「接着層」に相当するから、引用発明は、本件補正発明の「前記第1光透過プレートの前記三次元曲面に前記調光セルの一方の側が接着され、前記第2光透過プレートが接着層を介して前記調光セルの他方側に取り付けられ」と、「第1光透過プレートの曲面にセルの一方の側が接着され、第2光透過プレートが接着層を介して前記調光セルの他方側に取り付けられ」る点で共通する。

カ 上記ア?オから、本件補正発明と引用発明は、 以下の一致点で共通し、相違点1?3で相違する。
<一致点>
「曲面を有する第1光透過プレートと、
第2光透過プレートと、
前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間に配置されるセルと、を備える装置であって、
前記セルは、第1樹脂基材を含む第1積層体と、第2樹脂基材を含む第2積層体と、前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた液晶層と、を有し、
前記第1光透過プレートの前記曲面に前記調光セルの一方の側が接着され、
前記第2光透過プレートが接着層を介して前記セルの他方側に取り付けられた、
装置。」

<相違点1>
「曲面」について、本件補正発明が「三次元曲面」であるのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。

<相違点2>
本件補正発明が「調光」装置、「調光」セルであるのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。

<相違点3>
本件補正発明が「第1光透過プレートは、曲げに対する剛性が、前記調光セルよりも高」いのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。

<相違点4>
本件補正発明が「前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられ、前記液晶層が形成される領域を区画し、前記液晶層を囲む枠形状に配置されたシール材」を有するのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。

<相違点5>
本件補正発明が「前記第1積層体は、前記シール材の外側に延長され且つ前記第1光透過プレートの前記三次元曲面に貼り合わされた延長部を有し」ているのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。

<相違点6>
本件補正発明が「偏光板が設けられていない」のに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。

(4)判断
ア 相違点1について
本件明細書において、「三次元曲面」の定義について、「【0056】図2は、三次元曲面20aを説明するための図である。ここでいう三次元曲面20aは、単一の軸を中心として二次元的に曲がった二次元曲面、或いは、互いに平行な複数の軸を中心として異なる曲率で二次元的に曲がった二次元曲面とは区別されるものである。すなわち、三次元曲面20aは、互い対して傾斜した複数の軸の各々を中心として、部分的に又は全体的に曲がっている面を意味する。」と記載されている。
引用発明において、曲面に関しては「透明パネルの一部又は全体が曲面体であってもよく、曲面体の曲面部(例えば、半円柱状部分など)に光学素子を設置する」との構成を有しており、また、引用文献1の記載を見ても、曲面部として、本件明細書で定義された二次元曲面のみに限った曲面を想定しているわけではないから、引用発明において、本件明細書で定義された「三次元曲面」のような曲面も想定されているといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
また、仮に相違点であるとしても、曲面として、本件明細書で定義された「三次元曲面」のような曲面は、特殊な曲面というわけでなく、一般的な曲面といえるから、引用発明において、そのような三次元曲面に取り付けるようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

イ 相違点2について
本件明細書において、調光について、「【技術分野】【0001】
本発明は光の透過率を調整することができる調光装置に係り、特に、曲面に対して取り付けられる液晶駆動方式の調光セルを含む調光装置に関する。
【背景技術】【0002】
従来より光の透過率を変えられる調光装置が知られており、例えば、電界の印加の有無に応じて整列状態が変動する懸濁粒子を利用したSPD(Suspended Particle Device)が知られている。またEC(Electrochromic)方式の調光装置、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)を利用した調光装置、ガスクロミック方式の調光装置、サーモクロミック方式の調光装置及びフォトクロミック方式の調光装置なども知られている。」などと記載されており、引用発明のカイラルネマチック液晶と同様の透過-散乱モードの機能を有する高分子分散型液晶(PDLC)を利用した液晶装置も、本件明細書においては調光装置と称していることから、引用発明における展示装置も、実質的には、本件補正発明における「調光装置」に相当するものであるといえる。
したがって、相違点2は実質的な相違点とは言えない。
また、仮に相違点であるとしても、引用文献1において、「【発明の効果】【0038】本発明によれば、付加価値の高い機能を付与した透明パネルが備えられた、ショーケース、間仕切、壁体、天窓、鏡、調光体、照明装置、エスカレータ装置、ドア装置、ビルディング外壁用調光装置、を実現することができる。」などと記載されていることから、「調光装置」としての使用形態に着目していることは明らかであり、また、引用発明において「光学機能層の表示・非表示状態は、情報受容者(利用者)が近接したときのみ透明状態とし、情報受容者(利用者)が近接していないときには、液晶光学素子1の全体を散乱状態としてもよく、これにより、情報受容者(利用者)が近接していない時には、展示装置内の商品をほとんど隠すことができ、この場合においても、液晶光学素子1中にしきい値の異なる領域を設けて、印加電圧に応じて透過率を変化させることにより、液晶光学素子1に所定の文字や模様を表示させることもでき」ることから、引用発明において、調光装置として用いるようにすることは、当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

ウ 相違点3について
引用発明において(一方の)「透明板」が本件補正発明の「第1光透過プレート」に相当しており、引用発明の「透明板」は壁面の開口部を覆うように配設されるものであるから、その使用形態から見て、「透明板」の曲げに対する剛性が液晶光学素子1(本件補正発明の調光セルに相当)よりも高くなっていると解される。
したがって、相違点3は実質的な相違点とは言えない。
また、仮に相違点であるとしても、各部材の強度をどの程度に設定するかは当業者が適宜設定しうる事項にすぎず、相違点3に係る本件補正発明のようにすることは格別なことではない。

エ 相違点4について
引用文献1において、【0044】や図1において、「周辺シール47」を設けることが記載されており、また、一般的に液晶を封止するためには何らかのシール部材が必要であるから、引用発明の液晶光学素子1においても、「周辺シール47」のようなシール部材が配されていると解される。
したがって、相違点4は実質的な相違点と言えない。
また、仮に相違点であるとしても、液晶光学素子においてシール部材を設けることは引用文献1にも記載されているし、さらに文献を示すまでもなく周知技術にすぎないから、当該周知技術を引用発明に適用して、相違点4に係る本件補正発明のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

オ 相違点5について
引用文献1において、上記(2)キから、液晶素子のシール材の外側に延長部分を設けることが開示されており、また、このような延長部分を設けること及び当該延長部分を制御回路の配置や配線のために用いることは液晶素子分野における技術常識である(必要であれば、例えば、特開平9-61780号公報の図5等、特開平7-135383号公報の図16等、特開平5-173160号公報の図1等参照)。
そして、引用発明において、「壁面2の内部において液晶光学素子1の近傍の位置には、制御回路12と配線とを収納するための空間が設けられて」いることから、引用発明の液晶光学素子1においても、延長部分を有している蓋然性がきわめて高い。さらに、引用発明において「一対の透明板に光学素子を挟持する構造と」する場合には、当該延長部分も貼り合わされることは明らかである。
したがって、相違点5は実質的な相違点とは言えない。
また、仮に引用発明において、延長部分を有していないとしても、上記したように配線等のために延長部分を設けることは技術常識であるから、引用発明において、相違点5に係る本件補正発明のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

カ 相違点6について
引用発明は「液晶光学素子1の構成の一例として、メモリ性を有するものを挙げることができ、具体的には散乱・反射状態であるフォーカルコニック状態と、可視域の波長で透明状態を呈するプレナー状態(赤外域または紫外域で選択反射を有する光学的状態)とを安定に有するカイラルネマチック液晶を用いる」ものである。そして、引用文献1において、「このカイラルネマチック液晶の製法・構造等については、例えば、上記の米国特許出願公開第2003/0142057号明細書に記載のものを用いることができる。」(【0066】)と記載されており、米国特許出願公開第2003/0142057号明細書(関連日本公報;特開2004-163837号公報)を参酌すると、カイラルネマチック液晶は、「カイラルネマチック液晶表示素子の液晶のカイラル剤と液晶材料とを調製し、プレナー状態における選択反射光を赤外域にして可視域で実質的に透明状態を呈するようにし、セルギャップを調整し、フォーカルコニック状態において可視域で実質的に光散乱状態を呈する」(米国明細書の[0042]、関連日本公報の【0042】参照)ものであり、「透過-吸収」の動作モードのときに偏光板を使用し、「透過-散乱」の動作モードのときには偏光板を使用していないと解される(米国明細書の[0118]、関連日本公報の【0101】参照)。
引用発明では、「カイラルネマチック液晶を用いる」に際し、「光学機能層の表示・非表示状態は、情報受容者(利用者)が近接したときのみ透明状態とし、情報受容者(利用者)が近接していないときには、液晶光学素子1の全体を散乱状態と」しており、上記の「透過-散乱」の動作モードが想定されているといえるから、偏光板の使用は前提とされておらず、また、引用文献1において、他に偏光板を設けるとの明示的な記載もないことから、引用発明において、偏光板は設けられていないと解することが自然である。
なお、一般的に、カイラルネマチック液晶と同様の機能を有する高分子分散型液晶(PDLC)においても、透過-散乱モードを利用する場合には偏光板を設けないことからも上記解釈は妥当であるといえる。
したがって、相違点6は実質的な相違点とはいえない。

キ 作用効果について
相違点1?6に係る本件補正発明の効果について、引用発明及び周知技術から、当業者が予測しうる程度のものにすぎない。

エ 請求人の主張について
(ア)請求人は、審判請求書において、
「II) 特徴a及びbについて
・・・
すなわち本願の請求項1?4には、調光セルの一方の側に第1光透過プレートの三次元曲面が接着され、調光セルの他方の側に第2光透過プレートが接着層を介して取り付けられることが明記されております。
当該構成を有する本発明によれば、調光セルを第1光透過プレートの三次元曲面に適切に取り付けつつ(例えば調光セルに皺を生じさせることなく第1光透過プレートの三次元曲面に貼り付けつつ)、第1光透過プレート及び第2光透過プレートによって調光セルを外力から保護することが可能であり、例えば外力に起因する液晶配向の乱れ(例えばちらつき等の現象)を効果的に低減することができます。とりわけ調光セルの一方の側を第1光透過プレートに接着しつつ他方の側を接着層を介して第2光透過プレートに取り付けることによって、調光セルを第1光透過プレートの三次元曲面に適切に追従させつつ安定的に保持することができます。
一方、審査官殿が言及されている引用文献1(例えば段落0177、0180)には、ハンドレール付き側壁、透明板の外表面に対して液晶光学素子が接着シート等を介して貼着可能であることが開示されておりますが、引用文献1は、調光セルの一方側のみを透明板等に貼着することを開示しているに過ぎず、本発明のように調光セルの両側を光透過プレートに接着する形態を開示も示唆もしておりません。」と主張している。
当該主張について検討すると、上記(3)オで説示したように、引用発明は、一対の透明板に接着シート等を介して液晶光学素子1を貼り合わせるという態様を含んでいるといえる。
よって、請求人の主張は採用できない。

(イ)請求人は、審判請求書において、
「III) 特徴c及びdについて
第1光透過プレートの曲げに対する剛性が調光セルよりも高い(すなわち調光セルの曲げに対する剛性が第1光透過プレートよりも低い)ことで、調光セルを第1光透過プレートの三次元曲面に応じて柔軟且つ適応的に変形させことができ、皺等の歪みを生じさせることなく調光セルを当該三次元曲面に貼り合わせることが容易になります。ただし、調光セルを構成する積層体の剛性が十分に小さいだけでは、必ずしも適切には調光セルを第1光透過プレートの三次元曲面に貼り合わせることができず、場合によっては皺等の歪みが生じてしまうことがあります(本願明細書の段落0086参照)。
そのような事情を背景に、上記特徴c及びdを有する本発明によれば、調光セル22に生じる皺等の歪みを効果的に隠すことができます。すなわち、延長部にFPC等の「調光セルに対する給電手段」が接続される場合には、この「給電手段が接続される領域」を貼合開始領域として活用して当該領域から調光セルを第1光透過プレートの三次元曲面に貼り合わせることで、調光セル22の歪みの実質的な影響を低減することができます。特に、延長部のうちFPC等の給電手段が接続される位置は、通常、液晶層が設けられる領域(アクティブエリア)からの距離が比較的長いため、貼合開始領域において生じる調光セルの歪みを非アクティブエリアの範囲に収めることが容易です(本願明細書の段落0088参照)。
一方、引用文献1?3には、本発明の上記特徴c及びdの組み合わせが開示も示唆もされておらず、また本発明の上記特徴c及びdの組み合わせによってもたらされる上述の有利な効果に関する教示も全くございません。したがって本発明は、少なくとも上記特徴c及びdの組み合わせに関し、引用文献1?3に記載の技術とは構成上及び作用効果上まったく異なる技術であることは明らかです。」と主張している。
当該主張について検討すると、本件補正発明は、調光装置という物の発明であり、また、その調光装置は「三次元曲面に貼り合わされた延長部を有し」とされているだけであるから、「延長部」を貼合開始領域とすることは、その構成に含まれているといえない。したがって、請求人の上記主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(5)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
あるいは、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年4月18日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本件補正発明に対応する本件補正前の発明は、平成30年5月30日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項3に係る発明であるところ、その請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項3に記載された事項により特定される、上記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
(1)この出願の請求項3に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、
(2)この出願の請求項3に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 新規性進歩性について
(1)引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「第2光透過プレート」について、「接着層を介して」との限定事項、及び「第1積層体」について、「第1積層体は、前記シール材の外側に延長され且つ前記第1光透過プレートの前記三次元曲面に貼り合わされた延長部を有し」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2に記載したとおり、引用発明と同一であるか、あるいは、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明と同一であるか、あるいは、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-02-03 
結審通知日 2020-02-04 
審決日 2020-02-17 
出願番号 特願2018-35352(P2018-35352)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02F)
P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 洋允  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 井上 博之
星野 浩一
発明の名称 調光装置  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 永井 浩之  
代理人 村越 卓  

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