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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1361345
審判番号 不服2018-14540  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-01 
確定日 2020-04-08 
事件の表示 特願2017- 18448「センサデバイスの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月21日出願公開、特開2017-168822〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年2月3日(パリ条約による優先権主張2016年2月12日、アメリカ合衆国)の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成29年 4月10日 :手続補正書の提出
平成29年12月13日付け:拒絶理由通知書
平成30年 3月19日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 6月27日付け:拒絶査定(原査定)
平成30年11月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成31年 3月26日 :上申書の提出

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成30年11月1日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
センサ素子のアレイを含む基板上に第1ミラー層を形成するステップであって、該センサ素子毎にフィルタ処理におけるチャネルが決定されるステップと、
前記アレイ内の前記センサ素子の第1グループの上に位置するように、前記第1ミラー層上に第1組のスペーサ層を堆積させるステップと、
前記アレイ内の前記センサ素子の第2グループの上に位置するように、前記第1ミラー層上に第2組のスペーサ層を堆積させるステップであって、前記第2組のスペーサ層は前記第1組のスペーサ層と異なる層であるステップと、
前記堆積させた第1組のスペーサ層及び前記堆積させた第2組のスペーサ層の上に第2ミラー層を形成するステップと
を含む方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の下記の請求項に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、この出願の下記の請求項に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

●理由2(特許法第29条第1項第3号)について
・請求項 1、4-9
・引用文献等 1

●理由3(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-20
・引用文献等 1-7

<引用文献等一覧>
1.米国特許出願公開第2008/0042782号明細書
2.特開2000-31510号公報
3.国際公開第2014/122709号(周知技術を示す文献)
4.米国特許出願公開第2014/0168761号明細書(周知技術を示す文献)
5.特開昭63-42429号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2006-215290号公報(周知技術を示す文献)
7.国際公開第2015/064758号(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
(1)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、米国特許出願公開第2008/0042782号明細書(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

ア 「[0006] Filter arrays, developed from the 1980s on, are micro-space wavelength division components, which are made up of spectrally distinguishable detectors with detector arrays. This has largely simplified the wavelength division system, and improved the reliability, stability, optical efficiency and signal to noise ratio (SNR). Therefore, the wavelength division systems of new optical apparatuses tend to use such new structures to acquire spectral information. Furthermore, the application of filter arrays improves the integration and miniaturization of relevant sensor devices, and provides powerful support on the study of filter-type micro-spectrometers.」
(審決仮訳:[0006] フィルタアレイは1980年代から開発されているマイクロスペース波長分割素子で、検出器アレイの分光的に区別可能な検出器で構成されている。これは波長分割システムを大幅に単純化し、信頼性、安定性、光学的効率、そして信号雑音比(SNR)を向上させた。したがって、新しい光学装置の波長分割システムは、スペクトル情報を得るために、このような新しい構造を用いる傾向にある。さらに、フィルタアレイの適用により、関連する検出器デバイスの集積化と小型化を向上させ、フィルタ型の小型分光器の研究を強力に支えることができる。)

イ 「[0028] 3. The shape and size of the filter arrays can be designed to match with detectors and be composed of spectral-distinguishable detectors. This will remarkably simplify the structure of spectral apparatus and weighs in favor of its micromation and integration. This structure and technique is valid for most of the important optical ranges.」
(審決仮訳:[0028] 3. フィルタアレイの形状と大きさは、検出器に合致するように設計することができ、分光的に区別可能な検出器で構成することができる。これは、分光装置の構造を大幅に単純化し、小型化と集積化において重要になる。この構造と技法は、重要な光学的範囲のほとんどにおいて有効である。)

ウ 「[0045] With reference to FIG. 1 , firstly, a lower mirror stack 2 : (LH)m was deposited on glass, quartz or sappare substrate 1 , where L and H represent SiO_(2) and Nb_(2)O_(5 )layers, respectively. The number of (LH) pair was seven. At the same time, a spacer layer with thickness of 1.7 L was also deposited, as shown in FIG. 1 (a).
[0046] Then, the combinatorial deposition process was carried out three times for different areas with mask 5 (see FIG. 1 (b)), mask 6 (see FIG. 1 (c)) and mask 7 (see FIG. 1 (d)), respectively. The deposition thicknesses at each time were 0.4 L, 0.2 L and 0.1 L, respectively. This formed the spacer array 3 with same thickness difference (0.1 L). The corresponding thicknesses of each spacer element are shown in Table 1.
[0047] Finally, the upper mirror stack 4 : (HL)7 was deposited on the spacer array 3 as shown in FIG. 1 (e).」
(審決仮訳:[0045] 図1を参照して、まず、ガラス、クウォーツ、またはサファイア基板1の上に下部積層ミラー2:(LH)mが蒸着される。ここで、LおよびHはそれぞれSiO_(2)およびNb_(2)O_(5)層を表す。(LH)の組の数は7である。同時に、図1(a)に示すように、1.7 Lの厚みのスペーサー層も蒸着される。
[0046] 次に、異なる領域に、それぞれマスク5(図1(b)参照)、マスク6(図1(c)参照)、マスク7(図1(d)参照)を用いて、複合的蒸着を3回実施した。各回の蒸着厚は、それぞれ0.4L、0.2Lおよび0.1Lであった。これは、同じ厚み差(0.1L)を持つスペーサーアレイ3を形成した。各スペーサー素子の対応する厚みを表1に示す。
[0047] 最後に、図1(e)に示すように、スペーサーアレイ層3上に、上部積層ミラー4:(HL)7を蒸着した。 )

エ 「[0049] The number of spacer elements exponentially increases with the increase of combinatorial deposition times. It is 2^(n). The number of spacer elements in this example is 2^(3), i.e. 8, and only three combinatorial deposits are needed. Similarly, only seven combinatorial deposits are needed for 2^(7), i.e., 128 elements. The efficiency is very high. If the deposition thickness of each deposition is the half of the former one, the thickness of the resultant spacer array is linearly changed and the corresponding pass bands will distribute in the same interval as shown in FIG. 3 . The calculated transmission spectra and the change of pass bands with the thickness of spacer layer (xL) are shown in FIGS. 3 (a) and (b), respectively. FIG. 3 (a) shows that the pass band of the narrow bandpass filter changes with the thicknesses of spacer layer. FIG. 3 (b) shows that the pass band of the narrow bandpass filter is proportional to the thicknesses of spacer layer. Therefore, one can control the pass band of the filter by using the combinatorial deposition technique to obtain spacers with different thicknesses in different areas. 」
(審決仮訳:[0049] 複合的蒸着の回数が増えると、スペーサー素子の数は指数関数的に増加する。それは2^(n)である。本例におけるスペーサー素子の数は2^(3)、すなわち8で、わずか3回の複合的蒸着を行えばよい。同様に、2^(7)、すなわち128素子の場合は、わずか7回の複合的蒸着を行えばよい。効率は非常に高い。各蒸着の蒸着厚が前の厚みの半分である場合は、最終的なスペーサーアレイの厚みは線形に変化し、対応する透過帯域は、図3に示すように、同じ間隔で分布する。スペーサー層(xL)の厚みに対する計算上の透過スペクトルおよび透過帯域の変化を、それぞれ図3 (a) および(b)に示す。図3(a) は、狭帯域フィルタの透過帯域はスペーサー層の厚みによって変化することを示している。図3(b)は、狭帯域フィルタの透過帯域が、スペーサー層の厚みに比例することを示している。したがって、異なる領域で厚みを変えたスペーサーを得るために、複合的蒸着手法を用いることで、フィルタの透過帯域を制御することができる。)

オ 「3 . A method for fabricating a narrow bandpass filter array comprising:
(a) depositing a lower mirror stack ( 2 ) on the substrate ( 1 ) by routine deposition methods, such as, e-beam evaporation and reactive magnetron sputtering system;
(b) growing the spacer ( 3 ) on the lower mirror stack ( 2 ); the spacer being an array of spacers of different thicknesses formed by combinatorial deposition with masks having different deposition windows; and
(c) depositing an upper mirror stack ( 4 ) on the spacer 3 . 」(5頁右欄9行?18行)
(審決仮訳:3. 狭帯域フィルタアレイの製造方法であって、
(a)基板(1)上に、電子ビーム蒸着および反応性マグネトロンスパッタリング装置などの通常の蒸着方法により、下部積層ミラー(2)を蒸着し、
(b)下部積層ミラー (2)上にスペーサー(3)を成長させ、スペーサーは、異なる蒸着ウインドウを持つ複合的蒸着により形成された、異なる厚みのスペーサーアレイであり、
(c)スペーサー3上に上部積層ミラー(4)を蒸着する製造方法。)

カ Fig.1、Fig.2、Fig.3は、以下のとおりである。

(2)引用発明1
上記(1)の記載から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「狭帯域フィルタアレイの製造方法であって、
ガラス、クウォーツ、またはサファイア基板(1)の上に下部積層ミラー(2)が蒸着され、
1.7 Lの厚みのスペーサー層も蒸着され、次に、異なる領域に、マスク(5)、マスク(6)、マスク(7)を用いて、複合的蒸着を3回実施し、各回の蒸着厚は、それぞれ0.4L、0.2Lおよび0.1Lであり、同じ厚み差(0.1L)を持つスペーサーアレイ層(3)を形成し、
スペーサーアレイ層(3)上に、上部積層ミラー(4)を蒸着し、
フィルタアレイは、検出器アレイの分光的に区別可能な検出器で構成され、狭帯域フィルタの透過帯域はスペーサー層の厚みによって変化する
狭帯域フィルタアレイの製造方法。」

2 引用文献2の記載
(1)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2000-31510号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

ア 「【0048】図5は、本発明の第2の実施の形態であって、下部及び上部分布型ブラグ反射器41,42からなるファブリ-ペロー干渉計40を、Si基板31に形成した複数のフォトダイオード35上にそれぞれ集積した、小型光スペクトルアナライザの概略を示している。
【0049】ここでは、1つのフォトダイオード35に下部分布型ブラグ反射器41及び上部分布型ブラグ反射器42の組からなる1つのファブリ-ペロー干渉計40が対応して形成されており、ファブリ-ペロー干渉計40を8個のアレイにし、個々のファブリ-ペロー干渉計で、各々の透過光窓48を通してそれぞれ異なる波長λ_(1)?λ_(8)の光を個々独立に選択し、対応するフォトダイオード35で検出するようにしている。下部分布型ブラグ反射器41、上部分布型ブラグ反射器42間はエアギャップではなく、固定層厚の中間層43としており、各ファブリ-ペロー干渉計毎に中間層厚を変えて透過光波長を調整している。これにより光スペクトルアナライザとして機能する。もちろんアレイ数が多い方が、分解能は良くなる。
【0050】なお、下部分布型ブラグ反射器41及び上部分布型ブラグ反射器42の構成は、前述した第1の実施の形態と同様であり、屈折率の大きなSiN膜と屈折率の小さなSiON膜をそれぞれ複数ペア成膜した多層膜で構成されている。
【0051】図6に白色光を図5の光スペクトルアナライザ(中心波長630nm)に入射したときの、中間層厚と透過光波長の関係を示す。なおここで、中間層は低屈折率層のSiON層(屈折率n:1.50)であり、その層厚を189.0nmから218.4nm迄変えて610nmから640nm迄の波長をカバーしている。半値幅1nmの波長分解能に優れた波長フィルタである。但し、本実施の形態の8個のアレイでは、カバーできる波長領域が狭いので、アレイ数を増やし、より広範囲な波長をカバーできるように膜構成を設計することが望ましい。
【0052】次に、図7を用いて、第2の実施の形態の光スペクトルアナライザの中間層を、ファブリ-ペロー干渉計毎に変える方法について説明する。まず、図7(A)の如くフォトダイオード35を形成したSi基板31に下部分布型ブラグ反射器41を形成し、その下部分布型ブラグ反射器41上にSiON中間層43を、検出する波長領域の最長波長に対応する厚さで成膜しておく。これを同図(B)乃至(E)に示す如くステップ状にエッチングしていく。エッチングは1/20に薄めたBHFで行い、エッチングマスク45はレジストとした。ある膜厚の領域をそれぞれ2分割していくと、エッチング回数Nに対して2^(N)のステップが形成される。ここでは3回のエッチングにより図示したように8ステップを作製し、8個の異なる中間層厚を持つファブリ-ペロー干渉計のアレイを形成している。
【0053】この第2の実施の形態によれば、1つのフォトダイオード35に1組の分布型ブラグ反射器41,42が対応して形成され、これらがアレイとして構成されていることにより、個々独立して検出波長を選択でき、かつ複数の波長を同時検出可能である。」

イ 図5、図6、図7は、以下のとおりである。

(2)引用発明2
上記記載から、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「複数のフォトダイオード35を形成したSi基板31に下部分布型ブラグ反射器41を形成し、
下部分布型ブラグ反射器41、上部分布型ブラグ反射器42間は8個の異なる中間層厚を持つ中間層43とし、
1つのフォトダイオード35に下部分布型ブラグ反射器41及び上部分布型ブラグ反射器42の組からなる1つのファブリ-ペロー干渉計40が対応して形成され、ファブリ-ペロー干渉計40を8個のアレイにし、個々のファブリ-ペロー干渉計で、各々の透過光窓48を通してそれぞれ異なる波長λ_(1)?λ_(8)の光を個々独立に選択し、対応するフォトダイオード35で検出するようにしている
方法。」

第5 対比
本願発明と引用発明1を対比する。
1 引用発明1の「検出器」は、本願発明の「センサ素子」に、
引用発明1の「検出器アレイ」は、本願発明の「センサ素子のアレイ」に、
引用発明1の「ガラス、クウォーツ、またはサファイア基板(1)」は、本願発明の「基板」に、
引用発明1の「ガラス、クウォーツ、またはサファイア基板(1)の上に下部積層ミラー(2)が蒸着され」は、本願発明の「基板上に第1ミラー層を形成するステップ」に、
引用発明1の「狭帯域フィルタアレイの製造方法」は、本願発明の「方法」に、
それぞれ相当する。

2 引用発明1は「狭帯域フィルタの透過帯域はスペーサー層の厚みによって変化する」と特定されていることから、厚みの異なるスペーサー層を透過した光を検出する検出器は、異なる透過帯域の光を検出する検出器であるものと解される。
また、引用発明1は「異なる領域に、マスク(5)、マスク(6)、マスク(7)を用いて、複合的蒸着を3回実施し、各回の蒸着厚は、それぞれ0.4L、0.2Lおよび0.1Lであり」と特定されていることから、マスク(5)、マスク(6)、マスク(7)を用いた蒸着厚は、異なっている。
そうすると、引用発明1の「『下部積層ミラー(2)が蒸着され、』『次に、異なる領域に、マスク(5)』『を用いて、複合的蒸着を』『実施し、』『蒸着厚は、』『0.4L』『であ』る『スペーサーアレイ層(3)を形成し』」は、本願発明の「前記アレイ内の前記センサ素子の第1グループの上に位置するように、前記第1ミラー層上に第1組のスペーサ層を堆積させるステップ」に、
引用発明1の「『下部積層ミラー(2)が蒸着され、』『次に、異なる領域に、』『マスク(6)』『を用いて、複合的蒸着を』『実施し、』『蒸着厚は、』『0.2Lであ』る『スペーサーアレイ層(3)を形成し』」は、本願発明の「前記アレイ内の前記センサ素子の第2グループの上に位置するように、前記第1ミラー層上に第2組のスペーサ層を堆積させるステップであって、前記第2組のスペーサ層は前記第1組のスペーサ層と異なる層であるステップ」に、
引用発明1の「スペーサーアレイ層(3)上に、上部積層ミラー(4)を蒸着した」は、本願発明の「前記堆積させた第1組のスペーサ層及び前記堆積させた第2組のスペーサ層の上に第2ミラー層を形成するステップ」に、
それぞれ相当する。

3 以上のことから、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「基板上に第1ミラー層を形成するステップと、
センサ素子のアレイ内のセンサ素子の第1グループの上に位置するように、前記第1ミラー層上に第1組のスペーサ層を堆積させるステップと、
前記アレイ内のセンサ素子の第2グループの上に位置するように、前記第1ミラー層上に第2組のスペーサ層を堆積させるステップであって、前記第2組のスペーサ層は前記第1組のスペーサ層と異なる層であるステップと、
前記堆積させた第1組のスペーサ層及び前記堆積させた第2組のスペーサ層の上に第2ミラー層を形成するステップと
を含む方法。 」

【相違点1】
センサ素子のアレイが、本願発明は「基板」に含まれるのに対し、引用発明1はそのようなものか明らかでない点。

【相違点2】
「基板上に第1ミラー層を形成するステップ」について、本願発明は「該センサ素子毎にフィルタ処理におけるチャネルが決定されるステップ」を有するのに対し、引用発明1はそのようなものか明らかでない点。

第6 判断
1 新規性について
(1)相違点1について
ア 引用発明1は「フィルタアレイは、検出器アレイの分光的に区別可能な検出器で構成され」と特定しているので、フィルタアレイは、検出器アレイを含むと解される。

イ そして、引用発明1は「狭帯域フィルタの透過帯域はスペーサー層の厚みによって変化する」ことから、スペーサ層を光が透過した後の狭帯域フィルタアレイの基板中、基板の表面又は裏面に、検出器アレイを含むと考えるのが自然である。

ウ そうすると、相違点1は、実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
ア 本願発明の「センサ素子のアレイを含む基板上に第1ミラー層を形成するステップであって、該センサ素子毎にフィルタ処理におけるチャネルが決定されるステップ」について検討する。
上記記載は、「センサ素子のアレイを含む基板上に第1ミラー層を形成するステップ」が「該センサ素子毎にフィルタ処理におけるチャネルが決定されるステップ」を含んでいるようになっているが、その意味するところが判然としない。
そこで、本願明細書をみると【0041】には「方法200を実施する前に、センサ素子毎にフィルタを構成する方法についての決定を行うことができる。即ち、これらのフィルタがフィルタ処理すべきチャネル(例えば、光の中心波長)を、センサ素子104毎に決定することができる。」と記載され、【0025】には「ここで図8A?8Eを参照すれば、図7A及び7Bに示すセンサデバイス100を製造する方法の一例200が集合的に示されている。図8Aに示すように、第1ミラー層106を基板102上に形成し、基板102はセンサ素子104のアレイを含む。」と記載されている。
とすると、本願発明の「センサ素子のアレイを含む基板上に第1ミラー層を形成するステップであって、該センサ素子毎にフィルタ処理におけるチャネルが決定されるステップ」は、「センサデバイスを製造する方法200を実施する前に、」「該センサ素子毎にフィルタ処理すべきチャネル(例えば、光の中心波長)を決定することができる」との態様を少なくとも含んでいると解するのが相当である。

イ 本願発明の「チャネル」について、上記のように本願明細書の【0041】には「チャネル(例えば、光の中心波長)」と記載されていることから、本願発明の「チャネル」は「光の中心波長」を含んでいる。

ウ 引用発明1は「分光的に区別可能な検出器」と特定され、「狭帯域フィルタの透過帯域はスペーサー層の厚みによって変化する」と特定されていることから、厚みの異なるスペーサー層を透過した光を検出する検出器は、異なる光の中心波長を含む透過帯域を検出する検出器であるものと解される。

エ 上記ウのとおり、引用発明1は、異なる光の中心波長を検出する検出器を有していることから、センサデバイスを製造する前に検出器毎に中心波長を決定するステップを有することは明らかである。

オ 上記アないしエから、引用発明1の「『狭帯域フィルタの透過帯域はスペーサー層の厚みによって変化』し、『分光的に区別可能な検出器で構成され』」は、実質的に、本願発明の「該センサ素子毎にフィルタ処理におけるチャネルが決定されるステップ」を含む。

カ そうすると、相違点2は、実質的な相違点ではない。

(3)したがって、本願発明は、引用発明1と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2 進歩性について
また、仮に、相違点1、相違点2が実質的な相違点であった場合について検討する。

(1)相違点1について
ア 引用発明2には「複数のフォトダイオード35を形成したSi基板31」と特定されている。

イ また、光検出器に関する技術において、基板がセンサ素子のアレイを含むことは、本願の優先日前に周知技術(必要ならば、上記引用文献2(【0052】)、特表2013-512445号公報(【0042】、【0043】、【0151】)、国際公開第2012/070301号([0002]、[0003]、[0040])を参照されたい。)である。

ウ そうすると、引用発明1と引用発明2又は周知技術は光検出器に関する技術分野に属し、さらに、引用文献1において「分光装置の構造を大幅に単純化し、小型化と集積化」([0028])することが示唆されていることから、引用発明1に引用発明2又は周知技術を適用し、ガラス、クウォーツ、またはサファイア基板(1)が、検出器アレイを含むようになすことは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

(2)相違点2について
ア 引用発明2は「ファブリ-ペロー干渉計40を8個のアレイにし、個々のファブリ-ペロー干渉計で、各々の透過光窓48を通してそれぞれ異なる波長λ_(1)?λ_(8)の光を個々独立に選択し、対応するフォトダイオード35で検出するようにしている」と特定していることから、個々のファブリ-ペロー干渉計は、各々の透過光窓を通してそれぞれ異なる波長λ_(1)?λ_(8)の光を個々独立に選択し、対応するフォトダイオード35で検出するようにしているものと解される。

イ 引用発明1、引用発明2は光検出器に関する技術分野に属し、引用発明1は、狭帯域フィルタの透過帯域はスペーサー層の厚みによって変化させており、引用発明2においても、中間層は、8個の異なる中間層厚を持っていることから、引用発明1に引用発明2を適用し、狭帯域フィルタの透過帯域をスペーサー層の厚みによって変化させ、それぞれ異なる波長の光を個々独立に選択し、対応する検出器毎に決定されるステップを設けることは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

(3)そして、相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明1、引用発明2及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(4)したがって、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、平成30年11月1日付けで提出された審判請求書において、「文献1、2は共に『フィルタ』を、それぞれ『narrow bandpass filter』及び『波長フィルタ』として記載している。特に文献1は、フィルタにおける『チャネル番号』と『通過帯域のピーク波長』との関係を、表2、3に例示している。文献2も、『中間層厚と透過光波長の関係』(段落[0051])を図6に例示している。
しかし、文献1、2は共に、こうしたフィルタ処理におけるチャネルを『検出器』または『フォトダイオード(35)』毎に決定することは、明示的記載も示唆もしていない。」 と、主張している。

しかしながら、上記引用文献1の[0006]、[0028]には「spectrally distinguishable detectors」、「spectral-distinguishable detectors」(審決仮訳:分光的に区別可能な検出器)と記載され、上記引用文献2の【0049】には「個々のファブリ-ペロー干渉計で、各々の透過光窓48を通してそれぞれ異なる波長λ_(1)?λ_(8)の光を個々独立に選択し、対応するフォトダイオード35で検出する」と記載されていることから、上記のように、フィルタ処理におけるチャネルを『検出器』毎または『フォトダイオード(35)』毎に決定することについて、示唆がされているといえる。
したがって、審判請求人の主張は採用することはできない。

(2)なお、審判請求人は、平成31年3月26日付けで提出された上申書において、補正後の請求項1では、さらに、「第1ミラー層」を「金属材料で形成された第1ミラー層」に補正し、「第2ミラー層」を「金属材料で形成された第2ミラー層」に補正することを含む補正案を提示した。
しかしながら、光検出器に関する技術において、フィルタの両面に形成されるミラーを金属材料で形成することは、周知技術(必要ならば、特表2013-512445号公報(【0042】、【0043】、【0151】)、国際公開第2012/070301号([0002]、[0003]、[0040])、特開昭63-42429号公報(3頁右上欄5行?9行、3頁右下欄13行?4頁左上欄5行。なお、上記上申書において「この金属膜は干渉フィルタ用の透過性薄膜であり、ミラー層、反射層とは異なります。」と審判請求人は主張しているものの、4頁左上欄1行には、金属膜の反射率と記載されていることから、金属膜は反射の機能を有している。)を参照されたい。)である。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、又は、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-06 
結審通知日 2019-11-12 
審決日 2019-11-28 
出願番号 特願2017-18448(P2017-18448)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐竹 政彦  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 野村 伸雄
山村 浩
発明の名称 センサデバイスの製造方法  
代理人 杉村 憲司  

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