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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1361359
審判番号 不服2017-12463  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-23 
確定日 2020-04-07 
事件の表示 特願2014-551595「磁気効果のある固体の化粧用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月18日国際公開、WO2013/104619、平成27年 2月 2日国内公表、特表2015-503604〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年 1月8日を国際出願日とする出願であって、その後の主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年10月20日 拒絶理由通知書(起案日)
平成29年 1月31日 意見書・手続補正書
平成29年 4月13日 拒絶査定(起案日)
平成29年 8月23日 審判請求書
平成30年 6月22日 拒絶理由通知書(起案日)
平成30年12月25日 意見書
平成31年 1月30日 審尋(起案日)
令和 1年 8月 5日 回答書

第2 本願発明
この出願の請求項1?9に係る発明は、平成29年1月31日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
外面を有する固体組成物であって、磁化率がゼロではない1つ又は複数の磁性体(1)を含有しており、これらの磁性体(1)が前記外面の少なくとも一部において固体組成物中で非ランダムに配向されることによって、前記外面上に1つ又は複数のパターン(5)を形成しており、
前記パターン(5)が、前記磁性体(1)が枯渇した1つ又は複数の領域(2)の上に配置された、前記磁性体(1)が豊富な1つ又は複数の領域(3)を形成し、
前記領域(3)における前記磁性体(1)の濃度が、組成物の総質量に対して、5質量%から25質量%の間であることを特徴とする、固体組成物。」

第3 当審の拒絶理由
平成30年 6月22日付けの当審の拒絶理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

文献1 特開平6-41600号公報
文献2 特開平6-41599号公報
文献3 米国特許出願公開2009/0185992号明細書

第4 当審の判断
1 引用例、引用発明
(1)文献1
文献1には、以下の事項が記載されている。
ア-1
「【請求項1】
雲母に磁性材料を被覆した複合体を化粧料基剤または石鹸基剤中に配合して混合した後、該混合物の流動状態において磁場を印加し、次いで、上記混合物を非流動化して成形物とすることにより、磁束の強さと方向の制御によって形成される像が表面に現像されていることを特徴とする立体像を有する化粧料および石鹸。
【請求項2】
前記複合体は、板状体であり、その平均径0.5μm以上、平均厚0.3μm以下であって、(平均径):(平均厚)が10:1?500:1である立体像が現像された固形化粧料および固形石鹸。」(特許請求の範囲)

ア-2
「実施例1:石鹸
以下の組成から立体面像を有する石鹸を調製した。
(1)ヒマシ油 2部
(2)牛脂 25部
(3)ヤシ脂 13部
(4)エチルアルコール 18部
(5)EDTA(エチレンジアミン四酢酸) 0.02部
(6)48%水酸化ナトリウム 13部
(7)砂糖 11部
(8)ヘマタイト被覆雲母 0.l部
(9)香料 1.0部
(l0)水 83.12部
(1),(2),(3),(4)を加え加熱溶解後、(5)を添加し、さらに(6)を滴下してケン化反応を行った。反応終了後(10)の一部を加え撹拌し、さらに(7)を添加した。約30分撹拌後、(8)および(9)を加えてよく撹拌して冷却枠に流し込んだ。この冷却枠の外側に、表面磁束密度800ガウスの円柱形ゴム磁石(直径3cm,厚み1cm)を接触させ、枠の外から印加した後、自然冷却させて石鹸を得た。
この石鹸は金属光沢のある黄金色を呈しており、磁場を印加した部分は、用いた円柱形ゴム磁石に対応した円形の像が立体的に現像されていた。
また、こうしてできた石鹸の洗浄性は未添加のものと変化無く、型くずれ、割れなども生じないことが確認された。
・特性調査
洗浄性、固形形状の維持性(型くずれ、割れが発生しないこと)」(【0029】段落第2行?【0031】段落第6行)

ア-3
「実施例2:リップスティク
(1)ミツロウ 5部
(2)キヤンデリラロウ 6部
(3)カルナウバロウ 2部
(4)セレシン 7部
(5)マイクロクリスタリンワックス 3部
(6)ヒマシ油 48.7部
(7)ラノリン 8部
(8)リシノール酸オクチルドデシル 12部
(9)ミリスチン酸イソプロピル 8部
(10)パール剤ヌーアンチーク・ルージュフランベ 0.1部
(11)パール剤コロロシエナ 0.2部
(1)から(11)までの原料を混合し、加熱融解した。その後約1mmの厚みを有するゴム磁石を巻いた口紅用充填枠に充填し、冷却してリップスティクを得た。
このリップスティクは赤褐色を呈していたが、表面に約2mmの褐色の線が平行に現像されていた。これは、ゴム磁石の磁力線に添って(10)が配向したためと思われる。
・特性調査
こうしてできたリップスティクは表面に褐色の縞が現像されていたが、唇に塗布すると均一な色となって唇に艶が認められた。」(【0031】段落第7行?【0032】段落第8行)

ア-4
「実施例3:石鹸
雲母50gをイオン交換水500gに添加して十分に撹拌し均一に分散させた。得られた分散液に濃度40重量%の硫酸チタニル水溶液273.0gを加えて撹拌しながら加熱し3時間沸騰させた。放冷後、ろ過水洗し、900℃で乾燥して二酸化チタンで被覆された雲母(雲母チタン)80gを得た。
次ぎに、得られた雲母チタン50gを8×10-3M塩化スズ水溶液500mlに分散させ、ろ過後5×10-4M塩化パラジウム水溶液500mlに再度分散させた。ろ過後得られた活性化雲母チタン50gをpH8?10、浴温90℃に保った次亜リン酸ナトリウム(27g/l)、ロッセル塩(268g/l)、硫酸コバルト(47g/l)からなる無電解コバルトめっき浴950mlに1時間分散させた。ろ過、水洗後150℃で乾燥させ、外観色、干渉色共に鮮やかな青色真珠光沢材料53gを得た。
実施例1の(8)をこの青色真珠光沢材料に置き換えて石鹸を調整し、馬の形をした冷却枠に流し込んだ。
この冷却枠の外側に、平行縞の磁化帯を有するゴム磁石(縦5cm,横6cm,厚さ1mm)を接触させ、枠の外から印加した後、自然冷却させて石鹸を得た。
この石鹸は、馬の形をしており、しかも青色の縞のある縞馬であった。
この縞馬は芳香を発し、置物としても良好であったが、石鹸の洗浄性も未添加のものと同様であった。」(【0032】段落第9行?【0037】段落)

ア-5
「以下に本発明の構成を説明する。
(雲母に磁性材料を被覆した複合体)本発明では、雲母に磁性材料を被覆した複合体を用いる。
この複合体は、平均径0.5μm以上、平均厚み0.3μm以下であって、板状比10:1?500:1を用いた場合は立体感のより鮮明な像が得られる。
平均径0.5?30μmが好ましく、2?20μmがより好ましい。平均径が0.5μm未満では、パール感が無く、立体感がでてこない。平均厚みが0.3μmを超えたり、板状比が10:1未満では、異方性が小さくなって立体画像が形成されにくい。500:1を超えるものは容易に入手できない。
即ち、板状磁性体が磁場に感応して粒子の板状方向が磁束の方向に平行に配向する結果、現像された像の外縁部では板状粒子が表面に対して斜め方向に、像の外縁に囲まれた内側の部分では板状粒子が表面に対して垂直方向に、像の形成されていない部分では表面に対し平行方向に配向する。
また、複合体として、マグネタイトを被覆した雲母、ヘマタイトを被覆した雲母、さらには二酸化チタン被覆雲母にマグネタイトやヘマタイト等の磁性材料を被覆したもの等があげられる。
黒や赤以外では、コバルト、ニッケル、銅などを1種または2種以上金属の形で被覆したものを用いることもできる。」(【0016】?【0021】段落)

ア-6
「なお、本発明に用いる板状ヘマタイトの量は全量中の0.0l?50重量%である。好ましくは0.05?20%であり、より好ましくは0.1?10%である。0.01重量%未満では、像が形成されず、確認できず50重量%を超えると化粧料では溶解時の粘度が高くなって像を形成しにくくなる。また、石鹸では複合体の量が多いと洗浄より汚染を生じる。」(【0024】段落)

ア-7
「【課題を解決するための手段】本発明の化粧料および石鹸は、雲母に磁性材料を被覆した複合体を化粧料または石鹸基剤中に配合して混含した後、該混合物の流動状態において磁場を印加し、次いで、上記混合物を非流動化して成形物とすることにより、磁束の強さと方向の制御によって形成される像を上記化粧料基剤または石鹸に現像させることを特徴とする。
・・・化粧料基剤または石鹸基剤中に雲母に磁性材料を被覆した複合体を配合し、磁場を利用することによって化粧料の表面に所望の文字、模様を施すことができ、しかも立体像として現像できることを見出した。
先ず、本発明において最も重要な点は、雲母に磁性材料を被覆した複合体を化粧料基剤に配合して混合した後、該混合物の流動状態において磁場を印加した場合、磁束の強さと方向の制御によって形成された像を上記化粧料基剤に現像させることができ、該像の現像された部分が凹状に見えるという事実である。かかる現象が、化粧料基剤、石鹸基剤中に雲母に磁性材料を被覆した複合体を混入させた場合であっても生ずることを本発明者は知見した。
本発明における像の現像方法による場合には、磁場が印加された部分と印加されなかった部分との色差が大きい為、立体感が極めて良好である。」【0008】?【0012】段落)

ア-8
「(磁場の印加)磁場は、基剤が流動状態のときに印加する。得ようとする文字、模様に対応した形状の磁極を、流動状態にある基剤に近づけ(あるいは接触させ)ればよい。また、得ようとする文字、模様を描くように、磁束を走査させてもよい。
本発明における磁場は、表面磁束密度が100?50000ガウスのゴム磁石、焼結磁石、電磁石等を用いることができる。」(【0027】?【0028】段落)

記載事項ア-1?ア-5、ア-7?ア-8より、文献1には、
「雲母に、マグネタイトやヘマタイト、コバルト、ニッケル等の磁性材料を被覆した複合体を調製し、当該複合体を化粧料基剤または石鹸基剤中に配合して混合して加熱溶解して枠に流し込んだ後、該混合物の流動状態において、得ようとする文字や模様に対応した形状・走査の磁場を枠の外側から印加し、次いで、上記混合物を冷却して非流動化して成形物とすることにより、磁束の強さと方向の制御によって形成される文字や模様の像が表面に現像されている固形化粧料および固形石鹸、並びにそれらの製造方法。」
なる発明が記載されているものと認められる(以下、当該括弧書き部分を「引用発明1」という)。

(2)文献2
文献2には、以下の事項が記載されている。
イ-1
「【請求項1】
平均径が0.5?20.0μm、厚み5?100nmであって、板状比10:1?500:1である板状酸化鉄粒子を化粧料基剤または石鹸基剤中に配合して混合した後、該混合物の流動状態において磁場を印加し、次いで、上記混合物を非流動化して成形物とすることにより、磁束の強さと方向の制御によって形成される像が表面に現像されていることを特徴とする立体像を有する化粧料および石鹸。」(請求項1)

イ-2
「【産業上の利用分野】本発明は立体像が現像された固形化粧料および固形石鹸に関する。」(【0001】段落)

イ-3
「実施例1:石鹸
以下の組成から立体面像を有する石鹸を調製した。
(1)ヒマシ油 2部
(2)牛脂 25部
(3)ヤシ脂 13部
(4)エチルアルコール 18部
(5)EDTA(エチレンジアミン四酢酸) 0.02部
(6)48%水酸化ナトリウム 13部
(7)砂糖 11部
(8)板状ヘマタイト 0.l部
(9)香料 1.0部
(l0)水 83.12部
(1),(2),(3),(4)を加え加熱溶解後、(5)を添加し、さらに(6)を滴下してケン化反応を行った。反応終了後(10)の一部を加え撹拌し、さらに(7)を添加した。約30分撹拌後、(8)および(9)を加えてよく撹拌して冷却枠に流し込んだ。この冷却枠の外側に、表面磁束密度800ガウスの円柱形ゴム磁石(直径3cm,厚み1cm)を接触させ、枠の外から印加した後、自然冷却させて石鹸を得た。
この石鹸は金属光沢のある黄金色を呈しており、磁場を印加した部分は、用いた円柱形ゴム磁石に対応した円形の像が立体的に現像されていた。
また、こうしてできた石鹸の洗浄性は未添加のものと変化無く、型くずれ、割れなども生じないことが確認された。
・特性調査
洗浄性、固形形状の維持性(型くずれ、割れが発生しないこと)」(【0023】段落第2行?【0025】段落第6行)

イ-4
「実施例2:リップスティク
(1)ミツロウ 5部
(2)キヤンデリラロウ 6部
(3)カルナウバロウ 2部
(4)セレシン 7部
(5)マイクロクリスタリンワックス 3部
(6)ヒマシ油 8.7部
(7)ラノリン 8部
(8)リシノール酸オクチルドデシル 12部
(9)ミリスチン酸イソプロピル 8部
(10)板状ヘマタイト 0.1部
(11)赤色202号 0.2部
(1)から(11)までの原料を混合し、加熱融解した。その後約1mmの厚みを有するゴム磁石を巻いた口紅用充填枠に充填し、冷却してリップスティクを得た。
このリップスティクは赤褐色を呈していたが、表面に約2mmの褐色の線が平行に現像されていた。これは、ゴム磁石の磁力線に添って(10)が配向したためと思われる。」(【0025】段落第7行?【0026】段落)

イ-5
「以下に本発明の構成を説明する。
(板状酸化鉄)本発明における板状酸化鉄は、平均径が0.5?20.0μm、厚み5?100nmであって、板状比10:1?500:1である。板状酸化鉄には板状ヘマタイト、板状マグヘマタイト、板状マグネタイトがあるが、特に板状ヘマタイト粒子は、黄金色を呈するため、化粧料基材中に配合することによって、金属光沢のある黄金色を呈する。このため一層高級感、重厚感を与えることができる。
即ち、板状酸化鉄が磁場に感応して粒子の板状方向が磁束の方向に平行に配向する結果、現像された像の外縁部では板状粒子が表面に対して斜め方向に、像の外縁に囲まれた内側の部分では板状粒子が表面に対して垂直方向に、像の形成されていない部分では表面に対し平行方向に配向する。」(【0015】?【0016】段落)

イ-6
「なお、本発明に用いる板状酸化鉄の量は全量中の0.0l?50重量%が好ましい。0.05?20重量%がより好ましく、0.1?10%重量が最も好ましい。0.01重量%未満では、像が確認できないことがあり、50重量%を超えると流動性等に問題が生じ、やはり明確な像が形成されないことがある。」(【0018】段落)

イ-7
「【課題を解決するための手段】本発明の化粧料および石鹸は、板状酸化鉄粒子を化粧料または石鹸基剤中に配合して混含した後、該混合物の流動状態において磁場を印加し、次いで、上記混合物を非流動化して成形物とすることにより、磁束の強さと方向の制御によって形成される像を上記化粧料基剤または石鹸に現像させることを特徴とする。
・・・化粧料基剤または石鹸基剤中に板状酸化鉄粒子を配合し、磁場を利用することによって化粧料の表面に所望の文字、模様を施すことができ、しかも立体像として現像できることを見出した。
先ず、本発明において最も重要な点は、板状酸化鉄粒子を化粧料基剤に配合して混合した後、該混合物の流動状態において磁場を印加した場合、磁束の強さと方向の制御によって形成された像を上記化粧料基剤に現像させることができ、該像の現像された部分が凹状に見えるという事実である。かかる現象が、化粧料基剤、石鹸基剤中に板状酸化鉄を混入させた場合であっても生ずることを本発明者は知見した。
本発明における像の現像方法による場合には、磁場が印加された部分と印加されなかった部分との色差が大きい為、立体感が極めて良好である。」(【0008】?【0012】段落)

記載事項イ-1?イ-5、イ-7より、文献2には、
「平均径が0.5?20.0μm、厚み5?100nmであって、板状比10:1?500:1である、板状ヘマタイト、板状マグヘマタイト、板状マグネタイト等の板状酸化鉄粒子を調製し、当該粒子を化粧料基剤または石鹸基剤中に配合して混合して加熱溶解して枠に流し込んだ後、該混合物の流動状態において、得ようとする文字や模様に対応した形状・走査の磁場を枠の外側から印加し、次いで、上記混合物を冷却して非流動化して成形物とすることにより、磁束の強さと方向の制御によって形成される文字や模様の像が表面に現像されている固形化粧料および固形石鹸、並びにそれらの製造方法。」なる発明が記載されているものと認められる(以下、当該括弧書き部分を「引用発明2」という)。

(3)文献3
文献3には、以下の事項が記載されている。文献3は英語であるため、日本語訳を示す。
ウ-1
「1.基材を提供するステップと、混合物中でpHを酸性から塩基性にすることにより、鉄塩を酸化剤によって酸化させた酸化鉄を基材上にコーティングするステップを備える方法により製造された真珠光沢顔料であって、当該コーティング酸化鉄はFe(III)/Fe(II)比が2を超えるものである真珠光沢顔料。
2.質量磁化率が0.05×10^(-5)m^(3)/kgよりも大きいものである、請求項1記載の方法により製造される真珠光沢顔料。
・・・
20.請求項1記載の顔料を含むコーティング、インク、プラスティック、化粧料組成物。
・・・
22.マニキュア、口紅、リップグロス、マスカラ、ボディパウダー、フェイスパウダー、アイシャドウ、ヘアジェル、ボディジェル、毛髪洗浄剤、身体洗浄剤、ローション、ファンデーションからなる群から選択される、請求項20に記載の化粧料組成物。」(請求項1?22)

ウ-2
「顔料は、磁性体、又は磁化率を示すものとすることができる。一実施態様では磁化率が約0.05×10^(-5)m^(3)/kgよりも大きいものとすることができる。別の実施態様では磁化率が約0.1×10^(-5)m^(3)/kgよりも大きいものとすることができる。別の実施態様では磁化率が約10^(-5)m^(3)/kgよりも大きいものとすることができる。これらの顔料を含む、液体コーティングや未硬化のプラスティック調製物などの流体ベースの系では、印加する磁場は、3次元的に見えるようなイメージを形成するために、コーティングの特定領域に顔料を整列させるために使用することができる。顔料が整列された後、コーティングは硬化して、イメージを固化させることができる。」([0036]段落)

ウ-3
「・・・組成物の顔料を整列させるための例は、磁性アプリケーターを組成物に適用することである。磁気アプリケーターは、磁性粒子を化粧品組成物の外観を制御可能に整列させるために使用されてもよい。」([0040]段落)

記載事項ウ-1?ウ-3より、文献3には、
「質量磁化率が0.05×10^(-5)m^(3)/kgよりも大きい、基材を提供するステップと、混合物中でpHを酸性から塩基性にすることにより、鉄塩を酸化剤によって酸化させた酸化鉄を基材上にコーティングするステップを備える方法により製造された真珠光沢顔料であって、当該コーティング酸化鉄はFe(III)/Fe(II)比が2を超えるものである真珠光沢顔料を含む流体ベースの系を、化粧品組成物などの外観を制御可能に整列させるために、磁場を印加してコーティングの特定領域に顔料を整列させ、3次元的に見えるようなイメージを形成させ、顔料が整列された後に、コーティングを硬化させてイメージを固化させた固化物。」
なる発明が記載されているものと認められる(以下、当該括弧書き部分を「引用発明3」という)。

2 本願の請求項1に係る発明と引用発明1、2との対比・判断
(1)本願の請求項1に係る発明と引用発明1、2との対比
引用発明1、2は共に、「固形化粧料および固形石鹸」であり、このような固形物には外面が存在するから、当該「固形化粧料および固形石鹸」は、本願の請求項1に係る発明の「外面を有する固体組成物」に該当する。
引用発明1における「雲母に、マグネタイトやヘマタイト、コバルト、ニッケル等の磁性材料を被覆した複合体」、引用発明2における「平均径が0.5?20.0μm、厚み5?100nmであって、板状比10:1?500:1である、板状ヘマタイト、板状マグヘマタイト、板状マグネタイト等の板状酸化鉄粒子」は、本願の請求項1に係る発明の「磁化率がゼロではない1つ又は複数の磁性体」に該当する。
引用発明1、2は共に、「化粧料基剤または石鹸基剤中に磁性体を配合して混合して加熱溶解して枠に流し込んだ後、該混合物の流動状態において、得ようとする文字や模様に対応した形状・走査の磁場を枠の外から印加し、次いで、上記混合物を冷却して非流動化して成形物とすることにより、磁束の強さと方向の制御によって形成される文字や模様の像が表面に現像される」ものであるところ、流動状態の混合物に文字や模様に対応した磁場を印加すれば、混合物中の磁性体が移動して、当該文字や模様に対応した規則正しい配置・配向をして、当該文字や模様(パターン)を形成することは明らかであるから(なお、記載事項ア-5、記載事項イ-5においても、「板状磁性体が磁場に感応して粒子の板状方向が磁束の方向に平行に配向する結果、現像された像の外縁部では板状粒子が表面に対して斜め方向に、像の外縁に囲まれた内側の部分では板状粒子が表面に対して垂直方向に、像の形成されていない部分では表面に対し平行方向に配向する」旨の説明がなされている)、引用発明1、2は共に、本願の請求項1に係る発明の「磁性体が固体組成物の外面の少なくとも一部において非ランダムに配向されることによって、外面上に1つ又は複数のパターンを形成」するものである。
そうすると、本願の請求項1に係る発明と、引用発明1、2は、「外面を有する固体組成物であって、磁化率がゼロではない1つ又は複数の磁性体(1)を含有しており、これらの磁性体(1)が前記外面の少なくとも一部において固体組成物中で非ランダムに配向されることによって、前記外面上に1つ又は複数のパターン(5)を形成している固体組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
前者では、「前記パターン(5)が、前記磁性体(1)が枯渇した1つ又は複数の領域(2)の上に配置された、前記磁性体(1)が豊富な1つ又は複数の領域(3)を形成」することが特定されているのに対し、後者では、そのような特定がない点。

(相違点2)
前者では、「前記領域(3)における前記磁性体(1)の濃度が、組成物の総質量に対して、5質量%から25質量%の間であること」が特定されているのに対し、後者では、そのような特定がない点。

(2)本願の請求項1に係る発明の引用発明1、2に基づく進歩性の判断
ア 相違点1について
しかしながら、引用発明1、2では、パターンは固体組成物の外面にあることが求められているものであるから、強い磁場を印加するなどして、磁性体を固体組成物の外面に集めて「磁性体が豊富な領域」を外面側である上側に形成し、それに伴って、固体組成物のコア側である下側を「磁性体が枯渇した領域」とすることなどは当業者が適宜行うことに過ぎない。

イ 相違点2について
また、磁性体が豊富な領域における磁性体の濃度などは、求めるコントラストの強度などによって当業者が適宜選択し得るものである。すなわち、パターン部と非パターン部の色コントラスト強度を高めたい場合には、パターン部分(磁性体が豊富な領域)における磁性体の濃度を高めるように、当業者は適宜磁場や磁性体濃度等の調節を行うものである。なお、文献1の実施例3(記載事項ア-4)には、硫酸コバルトめっきがなされた鮮やかな青色真珠光沢材料を磁性体として用いて馬型の石鹸を調製した際、「青色の縞のある縞馬」が得られたことが記載されているから、実際、このようなコントラスト強度の高い、すなわち、磁性体が豊富な領域に磁性体である青色真珠光沢材料が集中している固体組成物を製造できることが当該記載より認められる。
したがって、文献1では、板状ヘマタイトの量は全量中の0.01?50重量%であることが(記載事項ア-6)、また、文献2では、板状酸化鉄の量は全量中の0.01?50重量%配合されることが記載されているところ(記載事項イ-6)、それらの磁性体について、パターンの大きさやコントラスト強度などに応じて、磁性体が豊富な領域における磁性体の濃度を最適化することなどは当業者が適宜為し得たことである。

ウ 効果について
そして、本願明細書の発明の詳細な説明を見ても、上記相違点1、2に係る特定を行ったことにより、引用発明1、2と比較して、本願の請求項1に係る発明が、当業者に予測外の格別な効果などが奏されるものとなっているとは認められない。

エ 小括
したがって、本願の請求項1に係る発明は、文献1、2に記載の事項、および、本願出願時の技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 本願の請求項1に係る発明と引用発明3との対比・判断
(1)本願の請求項1に係る発明と引用発明3との対比
引用発明3は、「コーティングを硬化させてイメージを固化させた固化物」であり、このような固化物には外面が存在するから、当該「固化物」は、本願の請求項1に係る発明の「外面を有する固体組成物」に該当する。
引用発明3における「質量磁化率が0.05×10^(-5)m^(3)/kgよりも大きい・・・真珠光沢顔料」は、本願の請求項1に係る発明の「磁化率がゼロではない1つ又は複数の磁性体」に該当する。
引用発明3は、磁性体真珠光沢顔料を含む流体ベースの系を、化粧品組成物などの外観を制御可能に整列させるために、磁場を印加してコーティングの特定領域に顔料を整列させ、3次元的に見えるようなイメージ(パターン)を形成させ、顔料が整列された後に、コーティングを硬化させてイメージ(パターン)を固化させるものであるから、引用発明3は、本願の請求項1に係る発明の「磁性体が固体組成物の外面の少なくとも一部において非ランダムに配向されることによって、外面上に1つ又は複数のパターンを形成」するものに該当する。
引用発明3は、磁性体真珠光沢顔料を含む流体ベースの系を、化粧品組成物などの外観を制御可能に整列させるために、磁場を印加してコーティングの特定領域に顔料を整列させ、3次元的に見えるようなイメージ(パターン)を外面に形成するものであるところ、そのイメージ(パターン)を形成する磁性体真珠光沢顔料を含むコーティングの下側は、特に磁性体を含まない領域(磁性体が枯渇した領域)であるから、引用発明3は、本願の請求項1に係る発明の「パターンが、前記磁性体が枯渇した1つ又は複数の領域の上に配置された、前記磁性体が豊富な1つ又は複数の領域を形成」するものに該当する。

そうすると、本願の請求項1に係る発明と、引用発明3は、「外面を有する固体組成物であって、磁化率がゼロではない1つ又は複数の磁性体(1)を含有しており、これらの磁性体(1)が前記外面の少なくとも一部において固体組成物中で非ランダムに配向されることによって、前記外面上に1つ又は複数のパターン(5)を形成しており、前記パターン(5)が、前記磁性体(1)が枯渇した1つ又は複数の領域(2)の上に配置された、前記磁性体(1)が豊富な1つ又は複数の領域(3)を形成する固体組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)
前者では、「前記領域(3)における前記磁性体(1)の濃度が、組成物の総質量に対して、5質量%から25質量%の間であること」が特定されているのに対し、後者では、そのような特定がない点。

(2)本願の請求項1に係る発明の引用発明3に基づく進歩性の判断
ア 相違点3について
しかしながら、磁性体が豊富な領域における磁性体の濃度は、求めるコントラストの強度などによって当業者が適宜選択し得るものである。すなわち、パターン部と非パターン部のコントラスト強度を高めたい場合には、パターン部分(磁性体が豊富な領域)に磁性体が集中するように当業者は適宜磁場や磁性体濃度等の調節を行うものである。
したがって、引用発明3において、コントラスト強度などに応じて、磁性体が豊富な領域における磁性体の濃度を最適化することなどは当業者が適宜為し得たことである。

イ 効果について
そして、本願明細書の発明の詳細な説明を見ても、上記相違点3に係る特定を行ったことにより、引用発明3と比較して、本願の請求項1に係る発明が、当業者に予測外の格別な効果などが奏されるものとなっているとは認められない。

ウ 小括
したがって、本願の請求項1に係る発明は、文献3に記載の事項、および、本願出願時の技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである

4 審判請求人の主張について
(1)平成30年12月25日付けの意見書における主張
審判請求人は、平成30年12月25日付けの意見書において、「文献1及び2には、磁性材料の配合量は組成物全体の質量量に対して0.01?50重量%であることは記載されているが、この記載は組成物全体における磁性体の含有量を規定したものであり、組成物中の磁性体が豊富な領域における当該磁性体の量に関しては、1?3のいずれにも記載も示唆もされていないから、当業者は、「磁性体が豊富な領域」及び「磁性体が枯渇した領域」における磁性体の含有量という概念が何ら記載されていない文献1?3に基づき、「磁性体が豊富な一つまたは複数の領域」における磁性体の濃度範囲を本発明の範囲である5?25質量%とすることを想到し得ず、かつ、そのような「磁性体が豊富な領域」における磁性体の濃度を調節することにより、化粧品組成物上に、複雑なパターンや特に審美的な又は新規なパターン等の良好なパターンを形成することが可能になった」旨を主張している。
しかしながら、文献1、2に記載の、化粧料基剤等に磁性体を配合して混合して加熱溶解して枠に流し込んだ後、該混合物の流動状態において、得ようとする文字や模様に対応した形状・走査の磁場を枠の外から印加し、次いで、当該混合物を冷却して非流動化して成形物とすることにより、磁束の強さと方向の制御によって文字や模様の像を形成して、表面に現像する場合や、文献3に記載の、磁性体を含む流体ベースの系を、化粧品組成物等の外観を制御可能に整列させるために、磁場を印加してコーティングの特定領域に磁性体を整列させ、イメージ(パターン)を外面に形成する場合、流動状態の基材中にある磁性体の、磁場印加部分への集中によってパターンが形成されることは明らかなのであるから、その磁性体が集中した「豊富な領域」における磁性体の濃度を、磁場から遠い「磁性体の枯渇した領域」との間における所望のコントラスト強度に応じて、磁場の大きさや印加程度等を調節し、磁性体の豊富な領域における磁性体濃度を最適化することは当業者が適宜行うことである。
そして、そのようにして磁性体が豊富な領域における磁性体の濃度を調節することにより、磁性体の濃度を高くしたときに強いコントラストのパターンを得、逆に濃度を低くしたときに弱いコントラストのパターンを得て、所望のパターンを形成できることは当業者に予測し得たことであり、格別なことであるとは認められない。
したがって、この請求人の主張を採用することはできない。

(2)審尋に対する回答書における主張
平成31年1月30日付けの審尋(審尋事項2)において、「文献1?3における「像形成」と、本願発明の「パターン形成」の原理が異なる可能性もあり得ると考慮したためである。すなわち、本願発明では、磁性体は磁場の影響下で自由に移動し、磁性体が豊富な領域と枯渇した領域を形成してパターンを形成するのに対し、文献1?3では、磁性体自体の移動は制限され、むしろ磁場印加による磁性体の配向により像形成をする(文献1の【0019】段落、文献2の【0016】段落、文献3の[0037]段落)との可能性を考慮したためである。審判請求人は、このなお書き部分の当否等について、本願明細書の記載に基づき、引用文献記載の発明との異同や、本願発明の奏する効果等について、具体的な説明をされたい。」旨を指摘したところ、審判請求人からは、令和1年8月5日付けで、磁性体が枯渇した領域の磁性体の濃度の特定とその部分が目に見えないものである旨の特定と、磁性体が豊富な領域が目に見えるものである旨の特定等がなされた補正案の添付と共に、以下の回答がなされた。
「本発明の組成物中の磁性体は、流体組成物中においては可動性であり、固体組成物となることにより可動性が低下します(段落【0024】及び【0033】)。そして、該磁性体は、磁場の影響下で自由に移動することができ、且つ誘導磁場の形態に従ってはっきりしたパターンを形成するものであることから(段落【0039】)、本発明の組成物におけるパターン形成は、「磁性体(1)が枯渇した1つ又は複数の領域(2)の外面上」に「磁性体(1)が豊富な1つ又は複数の領域(3)を形成」することによって行われることが理解されます。
一方、引用文献1?3においては、磁場を印加し、その磁束の強さと方向の制御により、磁性体の配向方向を変化させ、整列させることによって、外観上の色の変化を伴う像が組成物上に形成されることが理解されます(引用文献1の段落【0011】、【0012】、【0014】及び【0032】、引用文献2の段落【0008】、【0013】及び【0016】、引用文献3の段落[0036]及び[0037])。
従って、本発明と引用文献1?3に記載の発明は、本発明が磁性体濃度の相違によってパターンを形成するのに対し、引用文献1?3に記載の発明は、磁性体の配向性を変化させることによって色の変化を伴う像を形成するという点で、その原理が異なるものであると思量します。
出願人は現在、本発明のパターン形成と引用文献1?3に記載の発明の像形成の原理や効果の違いについて、具体的な比較を行うための資料の収集を試みていますが、未だ十分な資料が得られていません。従って、本発明と引用文献に記載の発明の原理の相違について、上記の説明では不十分であるとの御判断に至った場合、9月15日まで審尋事項についての御判断をお待ちいただけましたら幸いです。」
しかしながら、上記審判請求人の主張する「本発明と引用文献1?3に記載の発明は、本発明が磁性体濃度の相違によってパターンを形成するのに対し、引用文献1?3に記載の発明は、磁性体の配向性を変化させることによって色の変化を伴う像を形成するという点で、その原理が異なる」ことについて、それを具体的に裏付ける資料が提出されなかったから、当該審判請求人の主張を採用することはできない。
そして回答書に添付された補正案について念のため検討しても、求めるコントラストの強度に応じて、磁場の印加等を調節して、「磁性体が豊富な領域」や「枯渇した領域」を作り、それらの磁性体の濃度を最適化してコントラスト強度を調節し、前者を肉眼で見ることができるものとし、後者を肉眼で見えないようにすることなどは、当業者が適宜為し得た事項であるから、当該回答書に添付された補正案によっても進歩性を担保することはできない。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、依然として、文献1、2又は3から当業者が容易に発明をすることができたものであり、審判請求人の主張は、採用することができない。

第5 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-08 
結審通知日 2019-11-11 
審決日 2019-11-22 
出願番号 特願2014-551595(P2014-551595)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 團野 克也田中 則充  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 吉田 知美
田村 聖子
発明の名称 磁気効果のある固体の化粧用組成物  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  

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