ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K |
---|---|
管理番号 | 1361388 |
審判番号 | 不服2019-136 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-01-08 |
確定日 | 2020-04-16 |
事件の表示 | 特願2016-116487「固定子鉄心の製造方法、固定子鉄心」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月14日出願公開、特開2017-221085〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成28年6月10日の出願であって、平成30年6月13日に拒絶の理由が通知され(発送日:平成30年6月26日)、これに対し、平成30年8月6日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年11月5日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成30年11月13日)、これに対し、平成31年1月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、当審により令和元年11月18日付で拒絶の理由が通知され(発送日:令和元年11月19日)、これに対し、令和元年12月23日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.特許請求の範囲 令和元年12月23日の手続補正で特許請求の範囲は以下のように補正された。 「【請求項1】 薄板状の鉄心片を積層して環状に形成される固定子鉄心の製造方法であって、 積層した前記鉄心片の外周面に設けられて積層方向に延びるとともに内周側に窪んで形成されている溶接溝に、前記鉄心片以外の磁性部材を含む溶接ビードを形成する際、前記磁性部材をワイヤ状にして溶接トーチの電極として用いるとともに溶接に必要な量をその都度外部から供給しつつ、炭酸ガス単体または炭酸ガスと不活性ガスの混合物で構成されるシールドガスでワイヤ状の前記磁性部材を供給方向に沿って覆いつつ溶接を行い、電極としての前記磁性部材を溶融させることで前記溶接ビードを形成することを特徴とする固定子鉄心の製造方法。 【請求項2】 前記溶接ビードを、積層した前記鉄心片をその積層方向に加圧しながら形成することを特徴とする請求項1記載の固定子鉄心の製造方法。 【請求項3】 前記溶接溝を、外周面の複数箇所に設け、 2箇所以上の前記溶接溝に前記溶接ビードを同時に形成した後、積層した前記鉄心片を周方向に回転させ、前記溶接ビードが形成されていない前記溶接溝に前記溶接ビードを形成することを特徴とする請求項1または2記載の固定子鉄心の製造方法。 【請求項4】 薄板状の鉄心片を積層して環状に形成された固定子鉄心であって請求項1から3のいずれか一項記載の固定子鉄心の製造方法により製造され、 外周面に形成され、前記鉄心片の積層方向に延びるとともに内周側に窪んでいる溶接溝と、 外部から供給される前記鉄心片以外の磁性部材を溶融することで前記溶接溝に形成されて当該固定子鉄心を固定している溶接ビードと、 を備えていることを特徴とする固定子鉄心。」 (請求項1に係る発明を、以下、「本願発明」という。) 3.拒絶の理由 令和元年11月18日付の当審の拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は以下のとおりである。 「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用例等については引用例等一覧参照) ・請求項1-4 ・引用例等 1-5 引用例等一覧 1.特開平2-220790号公報 2.特開2011-36077号公報 3.特開2004-350351号公報 4.特開昭56-148160号公報 5.特表2015-535675号公報」 4.引用例1を主引用例とする当審拒絶理由について (1)引用例1 原査定の拒絶の理由及び当審拒絶理由に引用された引用例1(特開平2-220790号公報)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。 a「従来のモータステータの溶接方法の概念図を第3図(a)に、そのB-B断面図を第3図(b)に示す。 図において、モータステータ10は薄い硅素鋼板を多数枚積層して構成されており、外周部に溝11a?11hを設けている。端部10a及び10bには円板形状の締めつけ治具12a及び12bを当て、この間にボルト13a及び13bを通してナット14a?14dを締めつけてモータステータ10を仮組みしている。 そして、溝11aに溶接ワイヤを挿入し、電極15aとモータステータ10間に所定の電圧を印加してアーク16を発生させ、トーチ15を0.2?0.5m/分の速度で溝に沿って移動させてミグ溶接を行う。以下、同様な方法で溝11b?11hを溶接して固定する。」(1頁右下欄13行?2頁左上欄10行) 上記記載及び第3図を参照すると、モータステータは環状に形成されている。 上記記載及び第3図を参照すると、モータステータの積層方向に延びるとともに内周側に窪んでモータステータの外周部に形成されている溝が形成されている。 上記記載事項からみて、引用例1には、 「薄い硅素鋼板を多数枚積層して環状に形成されるモータステータの溶接方法であって、 前記モータステータの外周部に設けられて積層方向に延びるとともに内周側に窪んで形成されている溝に、ミグ溶接を行うモータステータの溶接方法。」 との発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。 (2)対比 そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「薄い硅素鋼板」、「多数枚積層」、「モータステータ」、「溶接方法」、「溝」は、本願発明の「薄板状の鉄心片」、「積層」、「固定子鉄心」、「製造方法」、「溶接溝」に相当する。 引用発明1の「前記モータステータの外周部に設けられて積層方向に延びるとともに内周側に窪んで形成されている溝部」は、本願発明の「積層した前記鉄心片の外周面に設けられて積層方向に延びるとともに内周側に窪んで形成されている溶接溝」に相当する。 MIG溶接は、金属電極棒が溶加材として溶接に必要な量をその都度外部から供給して母材に送り込まれ、そのまま溶融して溶接するものであって、母材の溶融が少なく、又、不活性ガスで構成されるシールドガスで溶接箇所を覆いつつ溶接を行い、金属電極棒が溶融して溶接ビートを形成するものであるから、引用発明1の「ミグ溶接を行う」と本願発明の「前記鉄心片以外の磁性部材を含む溶接ビードを形成する際、前記磁性部材をワイヤ状にして溶接トーチの電極として用いるとともに溶接に必要な量をその都度外部から供給しつつ、炭酸ガス単体または炭酸ガスと不活性ガスの混合物で構成されるシールドガスでワイヤ状の前記磁性部材を供給方向に沿って覆いつつ溶接を行い、電極としての前記磁性部材を溶融させることで前記溶接ビードを形成する」は、「前記鉄心片以外の金属電極棒を含む溶接ビードを形成する際、前記金属電極棒をワイヤ状にして溶接トーチの電極として用いるとともに溶接に必要な量をその都度外部から供給しつつ、シールドガスでワイヤ状の前記金属電極棒を覆いつつ溶接を行い、電極としての前記金属電極棒を溶融させることで前記溶接ビードを形成する」で一致する。 したがって、両者は、 「薄板状の鉄心片を積層して環状に形成される固定子鉄心の製造方法であって、 積層した前記鉄心片の外周面に設けられて積層方向に延びるとともに内周側に窪んで形成されている溶接溝に、前記鉄心片以外の金属電極棒を含む溶接ビードを形成する際、前記金属電極棒をワイヤ状にして溶接トーチの電極として用いるとともに溶接に必要な量をその都度外部から供給しつつ、シールドガスでワイヤ状の前記金属電極棒を覆いつつ溶接を行い、電極としての前記金属電極棒を溶融させることで前記溶接ビードを形成する固定子鉄心の製造方法。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点1〕 金属電極棒に関し、本願発明は、磁性部材であるのに対し、引用発明1は、どの様な材料か不明な点。 〔相違点2〕 シールドガスでワイヤ状の金属電極棒を覆いつつ溶接を行う点に関し、本願発明は、金属電極棒の供給方向に沿って覆うのに対し、引用発明1は、どの様に覆うのか不明な点。 〔相違点3〕 シールドガスに関し、本願発明は、炭酸ガス単体または炭酸ガスと不活性ガスの混合物で構成されるのに対し、引用発明1は、不活性ガスで構成される点。 (3)判断 相違点1について 鉄損の低減は記載が無くても回転電機の分野において普遍的な課題であるから、鉄心の溶接の際に鉄損の低減を考慮してワイヤの部材を磁性部材とすることは当業者が適宜なし得ることと認められる。更に、引用例4にみられるように、ヨーク(継鉄)の突合わせ部を炭酸ガスアーク溶接する際、金属電極棒は溶融してヨークの一部になるから、金属電極棒は当然磁性材料でなければならない(第1図、第2図、及びこれに関する説明参照)ので、この点からもワイヤの部材を磁性部材とすることは当業者が適宜なし得ることと認められる。 そうすると、引用発明1において、本願発明の相違点1に係る特定事項を採用することは当業者が容易に考えられる。 相違点2について シールドガスは大気を遮断した状態で溶接を行うためのものであって、シールドガスで金属電極棒の供給方向に沿って覆えば大気を遮断するには効率的であり、又、この様なシールド方法は例えば「機械工学便覧 日本機械学会 新版9刷 3・2・4 ガスシールドアーク溶接 B2-55?B2-56 2001年9月25日」にもみられるように周知の事項であるから、シールドガスでワイヤ状の金属電極棒を供給方向に沿って覆いつつ溶接を行うことは当業者が適宜なし得ることと認められる。 そうすると、引用発明1において、本願発明の相違点2に係る特定事項を採用することは当業者が容易に考えられる。 相違点3について 溶接される母材、コスト等を考慮して、シールドガスを炭酸ガス単体または炭酸ガスと不活性ガスの混合物で構成した溶接法を採用することは当業者が適宜なし得ることと認められる。 そうすると、引用発明1において、本願発明の相違点3に係る特定事項を採用することは当業者が容易に考えられる。 そして、本願発明の作用効果も、引用発明1から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願発明は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 なお、審判請求人は、審判請求書で、 「さらに、引用文献1では、[従来の技術]に記載されている発明の手法を「ミグ溶接」と称していますが、一般的なMAG溶接やMIG溶接では、電極そのものを溶融させています。そのため、引用文献1の[従来の技術]に記載されている発明は、一般的な「ミグ溶接」とは明らかに異なっています。 この点、引用文献1の[従来の技術]には『トーチ15を0.2?0.5m/分の速度で溝に沿って移動させる』と記載されていますが、その溶接速度は、本願明細書の段落[0027]の『一般的なTIG溶接では約20cm/分で溶接する』という記載と合致します。これらの点から、引用文献1で「ミグ溶接」と称されている手法は、本願で言う「TIG溶接」、つまりは、本願発明においても従来技術相当の手法であると考えるのが妥当です。 このため、引用文献1の「従来技術」に記載されている発明は、電極そのものを溶融させて溶接ビードとする本願発明とは明らかに異なっています。そして、引用文献1または引用文献1の「従来技術」には、電極そのものを溶融させて溶接ビードを形成することはなんら示唆も言及もされていません。 そのため、引用文献1ならびに引用文献1の「従来技術」の記載を参照しても、本願発明の構成は想起も導出もされません。すなわち、引用文献1に基づいて本願発明を容易に発明できたとする論理付けはできません。」 と主張するが、モータ鉄心をMIG溶接することはそもそも回転電機の分野において慣用されており(必要があれば特公昭49-19078号公報第9欄参照)、しかも引用例1には明確に「ミグ溶接」と記載があるから、請求人の上記主張は採用できない。 5.引用例2を主引用例とする当審拒絶理由について (1)引用例2 当審拒絶理由に引用された引用例2(特開2011-36077号公報)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。 a「【請求項1】 複数の鉄心片を積層して形成され、外周部には上下方向に向かう溶接部が複数箇所形成された固定子積層鉄心の前記溶接部をそれぞれ溶接する積層鉄心の製造方法において、 上下方向に向かう前記溶接部の溶接は、短距離溶接で時間間隔をあけて行い、しかも前記短距離溶接した部分は一部ラップさせていることを特徴とする積層鉄心の製造方法。」 b「【請求項3】 請求項1又は2記載の積層鉄心の製造方法において、前記複数箇所の溶接部の溶接は、同時に行われることを特徴とする積層鉄心の製造方法。」 c「本発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記複数箇所の溶接部の溶接は、同時に行われるのが好ましく、これによって、積層鉄心の厚みの偏りや変形を防止できる。 また、前記積層鉄心の製造方法において、前記溶接は下進溶接であるのが好ましく、これによって溶接金属の溶け込みが浅くなり、溶接部の表面のみが溶接される。 そして、本発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記溶接にはTIG溶接が採用されているのが好ましいが、場合によっては、MIG溶接を採用することもできる。」(【0010】) d「図1、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る積層鉄心の製造方法が適用される積層鉄心10は、モータのステータコア(固定子積層鉄心)であって、複数枚の磁性鋼板からなる鉄心片11が、打ち抜き形成して積層され、環状のヨーク12の内側に複数の磁極13を有している。ヨーク12の周囲(外周部)には平面視して円弧状の凹部14が等間隔で複数(この実施の形態では6)設けられ、この凹部14の中央に上下方向に向かう山形凸状の溶接部15が形成されている。」(【0015】) e「例えば、溶接部は必ずしも凹部の中央に凸状になって形成されるものではなく、凹部そのものを用いてもよい。」(【0021】) 上記記載及び図1、2を参照すると、円弧状の凹部は、固定子積層鉄心のヨーク外周部の回転軸方向に延びている。 上記記載事項からみて、引用例2には、 「複数の鉄心片を積層して形成され、環状のヨークを有する固定子積層鉄心の製造方法であって、 前記ヨークの外周部に回転軸方向に延び平面視して等間隔で複数設けられた円弧状の凹部に、MIG溶接を行う固定子積層鉄心の製造方法。」 との発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。 (2)対比 そこで、本願発明と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「固定子積層鉄心」、「凹部」は、本願発明の「固定子鉄心」、「溶接棒」に相当する。 積層鉄心は複数枚の薄板から形成され、又、固定子鉄心はヨーク部と歯部を有し、ヨーク部の外周は環状であるから、引用発明2の「複数の鉄心片を積層して形成され、環状のヨークを有する固定子積層鉄心の製造方法」は、本願発明の「薄板状の鉄心片を積層して環状に形成される固定子鉄心の製造方法」に相当する。 引用発明2の円弧状の凹部は、固定子積層鉄心ヨーク外周部の内周側に凹んでいるから、引用発明2の「前記ヨークの外周部に回転軸方向に延び平面視して等間隔で複数設けられた円弧状の凹部」は、本願発明の「積層した前記鉄心片の外周面に設けられて積層方向に延びるとともに内周側に窪んで形成されている溶接溝」に相当する。 MIG溶接は、金属電極棒が溶加材として溶接に必要な量をその都度外部から供給して母材に送り込まれ、そのまま溶融して溶接するものであって、母材の溶融が少なく、又、不活性ガスで構成されるシールドガスで溶接箇所を覆いつつ溶接を行い、金属電極棒が溶融して溶接ビートを形成するものであるから、引用発明2の「MIG溶接を行う」と本願発明の「前記鉄心片以外の磁性部材を含む溶接ビードを形成する際、前記磁性部材をワイヤ状にして溶接トーチの電極として用いるとともに溶接に必要な量をその都度外部から供給しつつ、炭酸ガス単体または炭酸ガスと不活性ガスの混合物で構成されるシールドガスでワイヤ状の前記磁性部材を供給方向に沿って覆いつつ溶接を行い、電極としての前記磁性部材を溶融させることで前記溶接ビードを形成する」は、「前記鉄心片以外の金属電極棒を含む溶接ビードを形成する際、前記金属電極棒をワイヤ状にして溶接トーチの電極として用いるとともに溶接に必要な量をその都度外部から供給しつつ、シールドガスでワイヤ状の前記金属電極棒を覆いつつ溶接を行い、電極としての前記金属電極棒を溶融させることで前記溶接ビードを形成する」で一致する。 したがって、両者は、 「薄板状の鉄心片を積層して環状に形成される固定子鉄心の製造方法であって、 積層した前記鉄心片の外周面に設けられて積層方向に延びるとともに内周側に窪んで形成されている溶接溝に、前記鉄心片以外の金属電極棒を含む溶接ビードを形成する際、前記金属電極棒をワイヤ状にして溶接トーチの電極として用いるとともに溶接に必要な量をその都度外部から供給しつつ、シールドガスでワイヤ状の前記金属電極棒を覆いつつ溶接を行い、電極としての前記金属電極棒を溶融させることで前記溶接ビードを形成する固定子鉄心の製造方法。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点1〕 金属電極棒に関し、本願発明は、磁性部材であるのに対し、引用発明2は、どの様な材料か不明な点。 〔相違点2〕 シールドガスでワイヤ状の金属電極棒を覆いつつ溶接を行う点に関し、本願発明は、金属電極棒の供給方向に沿って覆うのに対し、引用発明2は、どの様に覆うのか不明な点。 〔相違点3〕 シールドガスに関し、本願発明は、炭酸ガス単体または炭酸ガスと不活性ガスの混合物で構成されるのに対し、引用発明1は、不活性ガスで構成される点。 (3)判断 相違点1について 鉄損の低減は記載が無くても回転電機の分野において普遍的な課題であるから、鉄心の溶接の際に鉄損の低減を考慮してワイヤの部材を磁性部材とすることは当業者が適宜なし得ることと認められる。更に、引用例4にみられるように、ヨーク(継鉄)の突合わせ部を炭酸ガスアーク溶接する際、金属電極棒は溶融してヨークの一部になるから、金属溶接棒は当然磁性材料でなければならない(第1図、第2図、及びこれに関する説明参照)ので、この点からもワイヤの部材を磁性部材とすることは当業者が適宜なし得ることと認められる。 そうすると、引用発明2において、本願発明の相違点1に係る特定事項を採用することは当業者が容易に考えられる。 相違点2について シールドガスは大気を遮断した状態で溶接を行うためのものであって、シールドガスで金属電極棒の供給方向に沿って覆えば大気を遮断するには効率的であり、又、この様なシールド方法は例えば「機械工学便覧 日本機械学会 新版9刷 3・2・4 ガスシールドアーク溶接 B2-55?B2-56 2001年9月25日」にもみられるように周知の事項であるから、シールドガスでワイヤ状の金属電極棒を供給方向に沿って覆いつつ溶接を行うことは当業者が適宜なし得ることと認められる。 そうすると、引用発明2において、本願発明の相違点2に係る特定事項を採用することは当業者が容易に考えられる。 相違点3について 溶接される母材、コスト等を考慮して、シールドガスを炭酸ガス単体または炭酸ガスと不活性ガスの混合物で構成した溶接法を採用することは当業者が適宜なし得ることと認められる。 そうすると、引用発明2において、本願発明の相違点3に係る特定事項を採用することは当業者が容易に考えられる。 そして、本願発明の作用効果も、引用発明2から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願発明は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 なお、審判請求人は、令和元年12月23日付意見書で、 「さて、引用文献2の段落[0010]には『前記溶接にはTIG溶接が採用されているのが好ましいが、場合によっては、MIG溶接を採用することもできる』と記載されていますが、そのMIG溶接がどのような溶接態様を意味するのかについてなんら言及していません。そして、以下に述べますように、同じMIG溶接という文言であっても、その文言が示す構成は、必ずしも本願発明の構成と同じとまでは言えません。 すなわち、審判請求書でも述べておりますように、引用文献1で言うミグ溶接とは、本願発明で言う「TIG溶接」に相当するものです。 さらに、引用文献3の段落[0021]には『実施の形態1?5においては、溶接方法として、電極をタングステンまたはタングステン合金とし、非容極式のイナートガスアーク溶接であるTIG溶接を用いているが、他の固着方法を用いてもよい。例えば、溶接ワイヤを電極とし、非容極式のイナートガスアーク溶接であるMIG溶接や、レーザ溶接などがある』と記載されており、この記載から、引用文献3のものは、「非容極式溶接」のMIG溶接を行っていることは明らかです。」 と主張するが、引用例2の【0010】には明確に「MIG溶接」と記載がある。また、引用例3には確かに非容極式のイナートガスアーク溶接であるMIG溶接との記載があるが、当該記載の直前には「溶接ワイヤを電極とし」との記載があり、溶接ワイヤを電極とすれば溶接の過程で電極である溶接ワイヤが消耗することは明らかであり、MIG溶接が溶極式の溶接法であることからすれば「非容極式の」は「溶極式の」の誤記であると解することが相当である。したがって、請求人の上記主張は採用できない。 6.むすび したがって、本願発明は、引用発明1、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-02-04 |
結審通知日 | 2020-02-12 |
審決日 | 2020-02-28 |
出願番号 | 特願2016-116487(P2016-116487) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H02K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 津久井 道夫 |
特許庁審判長 |
久保 竜一 |
特許庁審判官 |
堀川 一郎 窪田 治彦 |
発明の名称 | 固定子鉄心の製造方法、固定子鉄心 |
代理人 | 特許業務法人 サトー国際特許事務所 |