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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04B
管理番号 1361436
異議申立番号 異議2019-700643  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-13 
確定日 2020-02-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6469428号発明「無機繊維断熱材及びこれを用いた断熱パネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6469428号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6469428号の請求項3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6469428号の請求項1及び2に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6469428号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年12月4日に出願され、平成31年1月25日にその特許権の設定登録がされ、平成31年2月13日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和1年 8月13日 :特許異議申立人河井清悦(以下「申立人」と
いう。)による請求項1?5に係る特許に
対する特許異議の申立て
令和1年10月17日付け:取消理由通知書
令和1年12月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

なお、申立人は特許異議申立書の意見書提出希望の有無の欄において、「希望する。」としているものの、上記令和1年12月5日に提出された訂正請求書による訂正は、実質的に一部の請求項の削除のみであり、特許法第120条の5第5項ただし書に規定される「特別の事情があるとき」にあたることから、申立人に意見書を提出する機会を与える必要はないものである。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和1年12月5日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3に、「前記熱硬化性バインダーには、潤滑性を有する化合物が0.1質量%?0.5質量%含まれていることを特徴とする請求項2に記載の無機繊維断熱材。」と記載されているのを、「繊維径が3.0μm?5.0μmであり、繊維長が20mm?200mmである無機繊維を複数絡み合わせることで20kg/m^(3)?40kg/m^(3)の密度及び一方向に対する厚みを有する集合体からなり、該集合体は圧力が加えられていない状態での初期厚みを有し、前記集合体に0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより前記厚みを前記初期厚みに対して55%?70%とし、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの90%以上に復元され、前記集合体は熱硬化性バインダーを含み、該熱硬化性バインダーは前記集合体の1.5質量%?3.5質量%であり、前記熱硬化性バインダーには、潤滑性を有する化合物が0.1質量%?0.5質量%含まれていることを特徴とする無機繊維断熱材。」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「前記集合体を挟持する略板形状の板体と、該板体の対向する一辺の外縁に沿って挟持されて配設される柱体と、該柱体間に架け渡された略棒形状の耐震補強材とを備えたことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の無機繊維断熱材を用いた断熱パネル。」と記載されているのを、「前記集合体を挟持する略板形状の板体と、該板体の対向する一辺の外縁に沿って挟持されて配設される柱体と、該柱体間に架け渡された略棒形状の耐震補強材とを備えたことを特徴とする請求項3に記載の無機繊維断熱材を用いた断熱パネル。」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項2を引用し、当該訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用するものであったところ、請求項2との引用関係を解消して、訂正前の請求項2の発明特定事項及び訂正前の請求項1の発明特定事項を全て含む独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、上記訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。

(イ)新規事項の追加について
訂正事項1に係る訂正は、上記(ア)のとおり、請求項との引用関係を解消することを目的とする訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1に係る訂正は、上記(ア)のとおり、他の請求項との引用関係を解消することを目的とする訂正であり、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2及び3
(ア)訂正の目的について
訂正事項2及び3に係る訂正は、請求項1及び2を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加について
訂正事項2及び3に係る訂正は、上記(ア)のとおり、請求項1及び2を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2及び3に係る訂正は、上記(ア)のとおり、請求項1及び2を削除する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項4
(ア)訂正の目的について
a 訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1?3のいずれかを引用するものであったところ、請求項1及び2との引用関係を解消するための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。

b また、訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1?3のいずれかを引用するものであったところ、請求項3のみを引用するものとする訂正であるから、上記訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ)新規事項の追加について
訂正事項4に係る訂正は、上記(ア)のとおり、他の請求項との引用関係を解消することを目的とするとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項4に係る訂正は、上記(ア)のとおり、他の請求項との引用関係を解消すること、及び、請求項5の引用関係を、訂正前の請求項1?3のうち請求項3のみを引用するものとして特許請求の範囲の減縮をするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

4 一群の請求項、及び独立特許要件について
訂正前の請求項1?5について、請求項2?5は請求項1を直接的または間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?5に対応する訂正後の請求項1?5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
よって、訂正事項1?4の訂正は、一群の請求項〔1?5〕に対して請求されたものである。

そして、本件においては、訂正前の請求項1?5について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1?4の訂正は、いずれも特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正であり、訂正事項1?4により特許請求の範囲の限定的減縮が行われていても、訂正後の請求項1?5に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

5 まとめ
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された本件特許の請求項1?5に係る発明(以下「本件訂正発明1?5」といい、まとめて「本件訂正発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

本件訂正発明1
「【請求項1】(削除)」

本件訂正発明2
「【請求項2】(削除)」

本件訂正発明3
「【請求項3】
繊維径が3.0μm?5.0μmであり、繊維長が20mm?200mmである無機繊維を複数絡み合わせることで20kg/m^(3)?40kg/m^(3)の密度及び一方向に対する厚みを有する集合体からなり、
該集合体は圧力が加えられていない状態での初期厚みを有し、
前記集合体に0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより前記厚みを前記初期厚みに対して55%?70%とし、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの90%以上に復元され、
前記集合体は熱硬化性バインダーを含み、
該熱硬化性バインダーは前記集合体の1.5質量%?3.5質量%であり、
前記熱硬化性バインダーには、潤滑性を有する化合物が0.1質量%?0.5質量%含まれていることを特徴とする無機繊維断熱材。」

本件訂正発明4
「【請求項4】
前記潤滑性を有する化合物は、シリコン界面活性剤、ワックス類、界面活性剤のいずれかを含んでいることを特徴とする請求項3に記載の無機繊維断熱材。」

本件訂正発明5
「【請求項5】
前記集合体を挟持する略板形状の板体と、
該板体の対向する一辺の外縁に沿って挟持されて配設される柱体と、
該柱体間に架け渡された略棒形状の耐震補強材とを備えたことを特徴とする請求項3に記載の無機繊維断熱材を用いた断熱パネル。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が令和1年10月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

・サポート要件
本件特許の請求項1、2及び5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである。

2 当審の判断
本件取消理由はその内容からみて、本件訂正前の請求項1及び2、並びに、請求項1又は2を引用する場合の請求項5に係る特許に対するものであるところ、上記「第2」のとおり、本件訂正は請求項1及び2を削除するとともに、訂正後の請求項5は請求項3のみを引用するものであり、かつ、本件訂正は認められるものである。
そして、本件訂正請求により請求項1及び2は削除されており、請求項1及び2に係る特許についての本件取消理由は、本件訂正によってその対象となる請求項が存在しないものとなった。
また、本件訂正後の請求項5は請求項3のみを引用し、請求項1又は2を引用しないものとされたから、本件訂正後の請求項5に係る発明は、実質的に本件取消理由を通知していない発明に係るものに減縮された。
そうすると、本件訂正発明5は、本件取消理由によっては、取り消すことはできない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 特許異議申立理由の概要
取消理由通知において採用しなかった特許法第29条の2に関する特許異議申立理由、特許法第29条第2項に関する特許異議申立理由、特許法第36条第4項第1号に関する特許異議申立理由、及び、特許法第36条第6項第2号に関する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

(1)特許法第29条の2(拡大先願)
本件発明1
甲第1号証に記載の発明と実質的に同一の発明(発明者及び出願人が同一の者ではない)(申立書第6頁第11?13行、第23頁下から5行?第25頁12行)。

(2)特許法第29条第2項(進歩性)
本件発明1乃至5
甲第2号証及び周知技術(甲第3乃至第6号証)から容易想到(申立書第6頁第14?16行、第25頁第14行?第31頁第18行)。

(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)
・本願明細書には、実施例が一切記載されておらず、無機繊維断熱材の製造や、復元性の測定について何ら実施されていない。
・本件特許発明の請求項1乃至請求項5に関し、無機繊維の繊維径や繊維長、集合体の密度が請求項1に記載の所定の数値範囲であることで、優れた複弁性を示すことを合理的に推測することは困難であり、本願明細書において、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
・また、本件特許発明の請求項1乃至請求項5に関し、無機繊維断熱材に用いられる無機繊維の種類が復元性や密度に影響を与えることは、当業者にとって周知の事実であり、請求項1に係る発明のように、無機繊維の繊維径や繊維長以外、その種類や特性が何ら特定されていない場合にも、得られる無機繊維断熱材が、同様の復元特性を示すことを合理的に推測することは困難であり、本願明細書において、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない(申立書第6頁第17?第7頁第4行、第31頁第20行?第34頁第7行)。

(4)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
・本願明細書には、実施例が一切記載されておらず、無機繊維断熱材の製造や、復元性の測定について何ら実施されていない。
・本件特許発明の請求項1乃至請求項5に関し、無機繊維断熱材が、本件物性要件で特定されている広範な数値範囲の全ての範囲において、得られる無機繊維断熱材が同様の優れた復元性を示すことを合理的に推測することは困難であり、実施例が何ら記載されていない本願明細書の記載に基づいて、本件物性要件を広範な数値範囲にまで拡張ないし一般化できるとはいえないため、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものではない。
・また、本件特許発明の請求項1乃至請求項5に関し、請求項1の構成(1A)乃至(1E)、特に構成(1A)及び(1B)を備えれば、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものとはいえない。(申立書第7頁第5?23行、第34頁第9行?第37頁第5行)。

(5)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)
・本件特許発明の請求項1乃至請求項5に関し、「繊維径」、「繊維長」、「密度」、「復元率」の定義や測定方法や準拠した規格や基準が記載されていない。「繊維径」、「繊維長」、「密度」、「復元率」については、測定条件や準拠する規格に応じてその値が変化することは周知の事実であり、その測定方法如何で、その数値は有意に異なってくるものであることから、「繊維径」、「繊維長」、「密度」、「復元率」の定義・意味、測定方法を特定しなければ、「繊維径」、「繊維長」、「密度」、「復元率」の意義は明確でないため、特許請求の範囲の記載について、特許を受けようとする発明が明確ではない(申立書第7頁下から5行?第8頁第6行、第37頁第7行?26行)。

2 証拠
・甲第1号証:特開2015-187316号
(特願2014-65104号の公開公報)
・甲第2号証:特開平3-12342号公報
・甲第3号証:特開平11-30486号公報
・甲第4号証:特開2003-287191号公報
・甲第5号証:特開平5-330861号公報
・甲第6号証:特開平10-121649号公報

3 各証拠の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証は、訂正前の請求項1に係る発明について、上記1(1)の特許法第29条の2に関する申立理由に係る証拠である。
本件訂正請求により請求項1は削除されており、また、訂正後の請求項には、他に訂正前の請求項1の発明特定事項を有するものではないから、訂正前の請求項1に係る特許についての上記1(1)の申立理由は、本件訂正によってその対象となる請求項が存在しないものとなったので、甲第1号証の記載についての認定を行う必要はないものである。

(2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「(産業上の利用分野) 本発明はロックウールに関し、更に詳述すれば、高強度ロックウールの製造方法およびそのロックウールから構成したロックウールマット断熱材の製造方法に関する。」(第1頁左下欄第17行?右下欄第1行)

イ 「本発明の別の目的は、上述の高強度ロックウールを利用して開梱時の復元力に富むロックウールマット断熱材の製造方法を提供することである。」(第2頁右下欄第11?13行)

ウ 「次いでフエルト16の表および裏をずれのないように挟み、フエルト状全綿幅に見合った対となった平ベルト22、22の間を平ベルト22に沿って下方に移動し、平ベルト対の下端が、振り子状に大きくトラバースし、従ってフェルト状綿は折りたたまれながら、下方の平ベルト26上で第1図に示したように直角に流れが変わり、順序良く折り畳んで斜めに積層され、密度および厚みのあるマット30が形成される。
また、トラバース回数を多くすると薄い均一なロックウール綿フエルトは、部分的に綿切れなどが発生したりして正常な折りたたみ積層作用ができない場合もあり、ロックウールマット断熱材密度18?30kg/m^(3)の場合、積層数は3?9層が適当である。」(第4頁右下欄第4?18行)

エ 「さらに、断熱材としての形状を整えるために、結合剤を使用するが、これは積層されたロックウールマットの形を固定するために使用されるのであって、通常は熱硬化型のフェノール系樹脂が用いられる。
結合剤の種類によって断熱材を圧縮したときの反発力が変わるが、コストの点でフェノール系樹脂を用いるのである。かかる結合剤はロックウールを繊維化する回転ドラムセットのあとでロックウールに直接ノズルで吹き付けるのが好ましい。
従って、本発明によれば、従来の密度30?55kg/m^(3)を18?30kg/m^(3)にまで低下させることができる。
また、繊維間の接着作用を発揮する結合剤は多いほどマット全体が丈夫になるので従来より若干増量し、付着量1?3%重量比が望ましい。
本発明にしたがい以上の根本的改善を行うことにより、市場への梱包形状を従来のままとし、1/3圧縮から1/5圧縮となり勿論圧縮前の厚みの少なくとも80%は、復元するので大幅に輸送量がダウンする。
一般的に市販されている住宅用ロックウール断熱材は、約1/3圧縮梱包品(幅450mm 、長さ1360mm、開包時復元厚50mm、長手方向表裏紙付き、ロックウール密度40kg/m^(3)、16枚入れ約3坪)が出回っているが、本発明によれば1/5圧縮梱包品(同一寸法、ロックウール密度18?24kg/m^(3)、26枚入れ約5坪)となり輸送費で約4割のコストダウンになる。」(第5頁右上欄第8行?左下欄第16行)

オ 「ロックウールの繊維径は、平均4?5ミクロンで構成されており、その中に繊維状でない異物が混入されており、未繊維化物と呼んでいる。保温材としては、全く不用のものであるが、現状の繊維化技術では、混入が避けられない。」(第6頁左上欄第14?18行)

カ 「実施例6 実施例1および実施例2?5さらには比較例によって得られたマットを1/5圧縮後、一週間放置してから解放した場合の密度および厚みを求めた。これに基づいて計算された復元率は第2表に示す通りであった。」(第6頁右上欄第15?20行)

キ 第6頁の第2表は以下のとおり。


ク 上記第2表には、実施例6において1/5圧縮前密度が20kg/m^(3)のものと32kg/m^(3)のものが例示され、1/5圧縮前の厚み(A)及び圧縮解放後の厚み(B)に基づいて、復元率=(B)/(A)× 100 により復元率を計算した場合に、復元率が77?83%であることが記載されている。

ケ 上記ア?クから見て、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認める。
「繊維径が平均4?5ミクロンのロックウールからなるロックウールマット断熱材であって、前記ロックウールマット断熱材は18kg/m^(3)?30kg/m^(3)の密度および厚みのあるマットであり、結合剤として熱硬化型のフェノール系樹脂が付着量1?3%重量比で用いられており、前記ロックウールマット断熱材は、1/5圧縮梱包品として輸送されるものであって、解放時の復元率として、マットを1/5圧縮後、一週間放置してから解放した場合の厚みを求め、1/5圧縮前の厚み(A)及び圧縮解放後の厚み(B)に基づいて、復元率=(B)/(A)× 100 により復元率を計算した場合に、復元率が77?83%であるロックウールマット断熱材。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐熱材に関するものであり、詳しくは、高温炉や高温ダクトの断熱材または目地材などとして使用される耐熱材であって、高い耐熱性と復元性を備え且つ加工性に優れた耐熱材に関するものである。」

イ 「【0009】本発明の耐熱材は、図示する様に、連続する長尺物に構成された結晶質のアルミナ系短繊維を含む繊維集合体(以下、「繊維集合体」と言う。)(1)とこれを圧縮状態に維持する可燃性の外装材(2)とから成り、例えば、高温炉などの断熱材や目地材として好適に使用される。
【0010】繊維集合体(1)とは、繊維長の短いアルミナ繊維をほぼ均一な嵩密度に積層した集合体をいい、所謂ブランケット又はブロックと呼ばれるものを包含する。アルミナ繊維としては、通常、繊維径が1?50μm、繊維長が0.5?500mmのものが使用されるが、復元力および形状保持性の観点からは、繊維径が3?8μm、繊維長が0.5?300mmの繊維が特に好ましい。」

ウ 「【0019】上記の様にして得られた耐熱材における繊維集合体(1)の嵩密度は、復元力の大きさに応じて適度な嵩密度に設定される必要がある。具体的には、繊維集合体(1)の常態嵩密度、すなわち、圧縮前における繊維集合体(1)の嵩密度は、0.05?0.3g/cm^(3)程度とされる。繊維集合体(1)の常態嵩密度が0.05g/cm^(3)よりも小さい場合は、復元した際の弾性力が不足して十分なシール性を発揮できず、また、繊維集合体(1)の常態嵩密度が0.3g/cm^(3)よりも大きい場合は、圧縮加工が難しくなるため、何れの場合も好ましくない。」

エ 「【0037】[実施例1]アルミナ系短繊維を束ねて繊維集合体(1)を作製し、同時に、繊維集合体(1)の外周に外装材(2)としての綿糸を連続的に被覆編組することにより外装加工を施し、繊維集合体(1)を約10体積%以上圧縮して断面が略円形の図1に示す様なロープ状の耐熱材を製造した。繊維集合体(1)のアルミナ系短繊維としては、アルミニウムと珪素の比が、Al_(2)O_(3)とSiO_(2)の比として72:28のムライト繊維を使用した。アルミナ系短繊維の繊維径は4.1μm、繊維長は20?200mmであり、圧縮前の繊維集合体(1)の嵩密度は0.10g/cm^(3)であった。また、外装材(2)は、見かけ太さが0.3mmの綿糸によって構成した。製造した耐熱材の断面の平均直径は15mmであった。」

(4)甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】無機繊維マット全体が樹脂フィルムで覆われ、かつ該無機繊維マットが厚み方向に圧縮されてなる断熱材であって、圧縮された無機繊維マットの密度が50?200kg/m^(3)であり、該無機繊維マットに含有される有機成分の割合が無機繊維マット全量に対して2?5質量%であることを特徴とする断熱材。
・・・(中略)・・・
【請求項4】無機繊維マットの長辺方向の4面を樹脂フィルムで被覆した無機繊維マットを、第1コンベアで無機繊維マットの表裏面を挟むように押圧しながら送り出し、第1コンベアの出口部において無機繊維マットの前端から延出している樹脂フィルムをヒートシールした後、無機繊維マットの厚み方向の圧縮率が50?90%となる隙間を有する第2コンベアで無機繊維マットの表裏面を挟むように押圧して、無機繊維マットに内存する空気を樹脂フィルムの後部の開口部から排出し、この状態で無機繊維マットの後端から延出している樹脂フィルムをヒートシールすることを特徴とする断熱材の製造方法。
・・・(中略)・・・
【請求項6】
厚み方向に圧縮する前の無機繊維マットの密度が8?24kg/m^(3)である請求項4または5に記載の断熱材の製造方法。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建築物の断熱をしたい箇所または建築物を構成するパネル等の建築部材に、断熱材を簡便に充填することが可能で、充填後に断熱材を復元させて施工することが可能な断熱材およびその製造方法に関する。」

ウ 「【0016】本発明において前記無機繊維マットは、無機質繊維に熱硬化性樹脂を主成分とする有機成分(以下、バインダーとする)を付与して堆積させ、バインダーを加熱硬化させてマット状に成形したものを用いることができる。前記無機繊維は特に限定されず、通常の無機質繊維断熱吸音材に使用されているガラスウール、ロックウール等を用いることができ、中でもガラスウールが一般的である。また、無機繊維マットの大きさは限定されないが、通常長辺方向の寸法は100?300cm、幅方向の寸法は30?100cmであることが好ましい。
【0017】本発明で用いる無機繊維マットの圧縮前における密度は、素材となる無機繊維の太さやバインダー量などの製造条件によって変わるが、8?24kg/m^(3)であることが好ましく、10?20kg/m^(3)であればより好ましい。無機繊維マットの密度が24kg/m^(3)を超えると、圧縮時の機械的負荷が大きくなるために、圧縮率が低下するとともに、施工後における復元時の断熱材が重くなり好ましくない。また、無機繊維マットの密度が8kg/m^(3)未満であると、弾性が低下して復元力が劣るため好ましくない。
【0018】本発明の無機繊維マットにおけるバインダーの割合は、無機繊維マットの全量に対し2?5質量%とし、好ましくは3?4質量%である。
このバインダーの割合が5質量%を超えると、圧縮時にバインダー結束の破壊や繊維の折れが発生し、無機繊維マットの復元力が低下するため好ましくない。また、前記バインダーの割合が2質量%未満であると、無機繊維の結束力が不足し所望の復元力が得られなくなるので好ましくない。
【0019】本発明においてバインダーは、従来からガラス繊維マット等の結合剤または結束剤として使われているものがそのまま使用できる。例えば、このバインダーとしては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、無機系等のバインダーが挙げられ、通常は熱硬化性樹脂が好ましく、中でもフェノール樹脂系バインダーが好適する。」

エ 「【0037】また、ガラス繊維マット2は、ガラス繊維マット全量に対しバインダーとして3質量%のフェノール樹脂を加えてガラス繊維どうしを結束しているので、強く圧縮しても一旦圧縮が開放されると、ガラス繊維の弾性により充分に復元できる。例えば、図1の断熱材1において、ガラス繊維マット2の厚さは圧縮する前は約100mmであったが、圧縮包装後には約10mmに減少した。しかし、この断熱材1の樹脂フィルム3a、3bに孔をあけて内部に空気を入れると、ほぼ100%復元して図2の仮想線のようになる。なお、ガラス繊維マット2の密度は、圧縮前の約16kg/m^(3)から圧縮包装後には約160kg/m^(3)に増加している。」

オ 「【0067】【発明の効果】本発明の断熱材は、以上説明したように無機繊維マットの有機成分量と圧縮後の密度の適正化を図ることにより復元力が強化されるので、圧縮率を高くしても充分な復元性を有する。これにより、断熱材の圧縮率を一層高くすることが可能となり、物流コストの軽減や、住宅等のパネル工法時のパネルへの断熱材の事前組込みおよび釘打個所等の施工検査の容易化、充填施工が困難な個所への挿入性に優れるものである。」

(5)甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、断熱材用ガラス繊維の疎水化処理樹脂組成物、および該疎水化処理樹脂組成物によって処理された疎水性ガラス繊維断熱材の製造方法に関する。」

イ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、簡便で安価な、断熱材用ガラス繊維の疎水化処理樹脂組成物、ならびに該疎水化処理樹脂組成物による疎水性ガラス繊維断熱材の製造方法を提供するものである。」

ウ 「【0016】本発明の疎水化処理樹脂組成物は、熱硬化性樹脂前駆体の水溶液または水性エマルジョン1?70%(熱硬化性樹脂前駆体として)、金属石鹸0.1?20%、界面活性剤0.05?10%(有効成分として)、残部水の割合で構成される。」

(6)甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は、住宅等の建物において、壁、屋根、天井、床等の建築用パネルとして使用される軽鉄骨使用断熱パネルに関する。」

イ 「【0016】図4は第4の実施形態の軽鉄骨使用断熱パネルの構成および製作手順を示す。この軽鉄骨使用断熱パネル1Cの製作方法では、先ず溝形の軽量形鋼製フレーム材2a,2b,2cを枠組してパネルフレーム3Aとする(図4(A))。この場合、縦フレーム材として、リップ溝形の軽量形鋼製のフレーム材内に発泡ウレタン4を充填した縦フレーム材2cと、発泡ウレタン4を充填しない縦フレーム材2bとが使用される。ウレタン充填フレーム材2cの1つは、そのウレタン露出面が内向きになるように一側部に配置し、発泡ウレタン4を充填しない縦フレーム材2bはその開口が外向きになるように他の一側部に配置する。ウレタン充填フレーム材2cの他の1つは、中桟として中間部に配置する。次に、パネルフレーム3A内のフレーム材2a?2c間に板状のポリスチレン樹脂やグラスウール等の断熱材6を詰める(図4(B))。このように断熱材6を詰めたパネルフレーム3Aの両面に、図2の軽鉄骨使用断熱パネル1Aと同様な材質の面材5,5を重ね、タッピングビス等の固着具7で面材5,5をフレーム材2a?2cに接合する。これにより軽鉄骨使用断熱パネル1Cが完成する(図4(B),(C))。
【0017】なお、上記軽鉄骨使用断熱パネル1Cにおいて、面材5は使用目的などに応じて片面にのみ接合するようにしてもよい。また、発泡ウレタン4を充填したフレーム材2cは、図5のように溝形フレーム材の内部に、発泡ウレタン4を発泡成形させることにより充填し、発泡成形に伴う接着性で発泡ウレタン4をフレーム材に接着させて構成する。
【0018】この構成の軽鉄骨使用断熱パネル1Cによると、断熱材となる発泡ウレタン4が予め充填された縦フレーム材2c用いたので、パネル全体に略隙間なく断熱材を充填できる。そのため、一般に断熱処理が難しいとされているフレーム部分を含め、パネル全体が断熱処理された断熱性に優れた建築用パネルを容易に製作することができる。また、発泡ウレタン入りのフレーム材2cは、前記のように発泡樹脂の流し込みで容易に製造できるので、パネル全体に発泡ウレタンを充填するものに比べて、簡単な設備で断熱パネル1Cの製造が行える。この軽鉄骨使用断熱パネル1Cも、軽量で断熱性に優れ、十分な強度を確保できるので、一般住宅等の建物の外壁パネル,間仕切壁パネル,床パネル,天井パネル,屋根パネル等の建築用面パネルとして使用できる。なお、図4の軽鉄骨使用断熱パネル1Cにおいて、パネルフレーム3Aにさらに図6のようにブレース8を付加して、強度向上を図ってもよい。図1?図3の軽鉄骨使用断熱パネル1?1Bの場合も同様にブレース材を付加して強度向上を図ることができる。これにより、これらの軽鉄骨使用断熱パネル1?1Cを耐力壁とすることもできる。」

ウ 図6は以下のとおり。


4 当審の判断
(1)申立理由1「特許法第29条の2(拡大先願)」について
上記申立理由1は、訂正前の請求項1に係る発明についてのものである。 本件訂正請求により請求項1は削除されており、また、訂正後の請求項には、他に訂正前の請求項1の発明特定事項を有するものはないから、訂正前の請求項1に係る特許についての上記申立理由1は、本件訂正によってその対象となる請求項が存在しないものとなった。

(2)申立理由2「特許法第29条第2項(進歩性)」について
ア 本件訂正発明3について
(ア)対比
本件訂正発明3と甲2発明とを対比する。

a 甲2発明における「繊維径が平均4?5ミクロンのロックウール」は、平均4?5ミクロンとなる分布であるから、繊維径が4?5μmであるロックウールが含まれる蓋然性が高く、本件訂正発明3における「繊維径が3.0μm?5.0μm」である「無機繊維」に相当する。

b 甲2発明における「ロックウールマット」が、ロックウールを複数絡み合わせることで形成されていることは明らかである。そして、「ロックウールマット」が「18kg/m^(3)?30kg/m^(3)の密度および厚みのあるマット」であり、また、甲第2号証の第6頁の第2表における実施例には、1/5圧縮前密度が20kg/m^(3)のものと32kg/m^(3)のものが例示されているから、20kg/m^(3)?40kg/m^(3)の密度のロックウールからなるマット状シートを開示するものであるといえる。
そうすると、甲2発明における「ロックウールマット」が「18kg/m^(3)?30kg/m^(3)の密度および厚みのあるマット」であることは、本件訂正発明3における「集合体」が「無機繊維を複数絡み合わせることで20kg/m^(3)?40kg/m^(3)の密度及び一方向に対する厚みを有する集合体」であることに相当する。

c 甲2発明における「ロックウールマット断熱材」が、「結合剤として熱硬化型のフェノール系樹脂が付着量1?3%重量比で用いられ」たものであることと、本件訂正発明3における「前記集合体は熱硬化性バインダーを含み、該熱硬化性バインダーは前記集合体の1.5質量%?3.5質量%であ」ることとは、「前記集合体は熱硬化性バインダーを含み、該熱硬化性バインダーは前記集合体の所定の質量%の割合であ」る点で共通する。

d 甲2発明における「前記ロックウールマット断熱材は、1/5圧縮梱包品として輸送されるものであって、解放時の復元率として、マットを1/5圧縮後、一週間放置してから解放した場合の厚みを求め、1/5圧縮前の厚み(A)及び圧縮解放後の厚み(B)に基づいて、復元率=(B)/(A)× 100 により復元率を計算した場合に、復元率が77?83%である」ことと、本件訂正発明3における「前記集合体に0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより前記厚みを前記初期厚みに対して55%?70%とし、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの90%以上に復元される」こととは、「前記集合体に所定の圧力を加えることにより前記厚みを前記初期厚みに対して所定の厚みに圧縮し、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの所定の割合以上に復元される」という点で共通する。

e 以上から、両発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
・一致点
「繊維径が3.0μm?5.0μmである無機繊維を複数絡み合わせることで20kg/m^(3)?40kg/m^(3)の密度及び一方向に対する厚みを有する集合体からなり、前記集合体は熱硬化性バインダーを含み、該熱硬化性バインダーは前記集合体の所定の質量%の割合であり、前記集合体は圧力が加えられていない状態での初期厚みを有し、前記集合体に所定の圧力を加えることにより前記厚みを前記初期厚みに対して所定の厚みに圧縮し、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの所定の割合以上に復元される無機繊維断熱材。」

・相違点1
本件訂正発明3においては、「繊維長が20mm?200mm」であるのに対して、甲2発明においては、繊維長について特定されていない点

・相違点2
熱硬化性バインダーの質量%の割合が、本件訂正発明3においては、「該熱硬化性バインダーは前記集合体の1.5質量%?3.5質量%」の割合であるのに対し、甲2発明においては、「ロックウールマット断熱材」が、「結合剤として熱硬化型のフェノール系樹脂が付着量1?3%重量比で用いられ」たものである点。

・相違点3
集合体に所定の圧力を加えることにより厚みを初期厚みに対して所定の厚みに圧縮し、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの所定の割合以上に復元される点について、
本件訂正発明3においては、「前記集合体に0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより前記厚みを前記初期厚みに対して55%?70%とし、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの90%以上に復元される」のに対して、
甲2発明においては、ロックウールからなるマット状シートに0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより前記厚みが前記初期厚みに対して55%?70%となることは特定されておらず、また、前記0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより前記厚みを前記初期厚みに対して55%?70%とし、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの90%以上に復元されることも特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、まず、上記相違点3について検討する。

本件訂正発明3においては、「集合体に0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより厚みを初期厚みに対して55%?70%と」するが、甲第3号証?甲第6号証のいずれにも、無機繊維を複数絡み合わせることで形成された集合体が、0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより厚みを初期厚みに対して55%?70%となることは記載も示唆もされていない。
さらに、甲第3号証?甲第6号証のいずれにも、無機繊維を複数絡み合わせることで形成された集合体に0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより厚みを初期厚みに対して55%?70%ことが記載も示唆もされていない以上、「その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの90%以上に復元される」ことが記載または示唆がなされているとはいえない。
そうすると、甲第3号証?甲第6号証には、相違点3に係る本件訂正発明3の構成は開示されておらず、また、当業者が、甲2発明において、相違点3に係る本件訂正発明3の構成を備えるようにする動機付けとなるものも見当たらない。
したがって、甲2発明及び甲第3号証?甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が、相違点3に係る本件訂正発明3の構成に想到することが容易であるとはいえない。

(ウ)小括
上記のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明3は、甲2発明及び甲第3号証?甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。

イ 本件訂正発明4及び5について
上記(1)に示したように、本件訂正発明3は、甲2発明及び甲第3号証?甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
そして、本件訂正発明4及び5は、本件訂正発明3に従属し、本件訂正発明3の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件訂正発明3と同様の理由により、甲2発明及び甲第3号証?甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、上記相違点3に関して、申立書において、次のように主張している。
「本件特許発明の構成(1D)の「該集合体圧力が加えられていない状態での初期厚みを有し、前記集合体に0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより前記厚みを前記初期厚みに対して55%?70%とし、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの90%以上に復元されることを特徴とする」は、甲2号証に記載の発明の構成(1D)「集合体は圧力が加えられない状態での初期厚みを有し、集合体に押圧力を加えることにより厚みを初期厚みに対して1/5とし、その後押圧力を解除したときに厚みが初期厚みの80%以上に復元されることを特徴とする」との記載から、圧縮率を80%(初期厚みに対して1/5)から55%?70%と圧縮率を低くした場合においては押圧力を解除したときに厚みが初期厚みの90%以上に復元される蓋然性が高く、復元率の範囲が実質的に重複していることが開示されている。
したがって、相違点1については、実質的な相違点ではない。」(申立書第26頁第4?17行)

しかしながら、甲2号証において、集合体圧力が加えられていない状態での初期厚みを有し、前記集合体に0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより厚みを前記初期厚みに対して55%?70%とし、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの90%以上に復元されることが開示されているとはいえず、また、甲2発明及び甲第3号証?甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が、相違点3に係る本件訂正発明3の構成に想到することが容易であるとはいえないことは、上記ア(ア)及び上記ア(イ)で示したとおりである。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明3?5に係る特許は、申立理由2「特許法第29条第2項(進歩性)」によって取り消すことはできない。

また、本件訂正請求により請求項1及び2は削除されており、また、訂正後の請求項には、他に訂正前の請求項1及び2の発明特定事項を有するものはないから、訂正前の請求項1及び2に係る特許についての上記申立理由2は、本件訂正によってその対象となる請求項が存在しないものとなった。

3 申立理由3「特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)」について
申立人は、下記のように実施可能要件違反の申立理由を主張しているので検討する。

(1)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)違反の申立理由の概要
ア 本願明細書には、実施例が一切記載されておらず、無機繊維断熱材の製造や、復元性の測定について何ら実施されていない。
イ 本件特許発明の請求項1乃至請求項5に関し、無機繊維の繊維径や繊維長、集合体の密度が請求項1に記載の所定の数値範囲であることで、優れた複弁性を示すことを合理的に推測することは困難であり、本願明細書において、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
ウ また、本件特許発明の請求項1乃至請求項5に関し、無機繊維断熱材に用いられる無機繊維の種類が復元性や密度に影響を与えることは、当業者にとって周知の事実であり、請求項1に係る発明のように、無機繊維の繊維径や繊維長以外、その種類や特性が何ら特定されていない場合にも、得られる無機繊維断熱材が、同様の復元特性を示すことを合理的に推測することは困難であり、本願明細書において、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない(申立書第6頁第17?第7頁第4行、第31頁第20行?第34頁第7行)。

(2)本件特許明細書には、以下の記載がある(下線は当審で付加した。)。
ア「【0001】
本発明は、高密度及び高圧縮性、高復元性を有する無機繊維断熱材及びこれを用いた断熱パネルに関する。」

イ「【0008】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、高密度及び高圧縮性、高復元性を有し、耐震補強材が内在しているような狭小化された空間内に隙間なく充填することができる無機繊維断熱材及びこれを用いた断熱パネルを提供することを目的とする。」

ウ「【0014】
本発明によれば、初期厚みを有する集合体に対して押圧力を加えて55%?70%としても、押圧力を解除することで集合体の厚みが初期厚みの90%以上に復元するので、無機繊維が20kg/m^(3)?40kg/m^(3)含まれている高密度の集合体であっても、狭小化された空間内に対して押し潰して押し込んだときにその復元力により空間を隙間なく充填することができる。すなわち、高密度による断熱性能の向上を図るとともに、断熱材の充填施工性を高めることができる。
【0015】
また、集合体に1.5質量%?3.5質量%の熱硬化性バインダーを含めることで、集合体の圧縮後の復元性を得ることができる。さらに、この熱硬化性バインダーに潤滑性を有する化合物を0.1質量%?0.5質量%含めることでさらに高圧縮性を得ることができる。また、潤滑性を有する化合物としては、シリコン界面活性剤、ワックス類、界面活性剤のいずれかを含んでいればよいことがわかっている。」

エ「【0018】
図1に示すように、本発明に係る無機繊維断熱材1は、グラスウール等の無機繊維(不図示)が複数本絡み合って形成された集合体2からなっている。図1では、概念的に集合体2を略直方体として示している。その密度は20kg/m^(3)?40kg/m^(3)であり、少なくとも一方向に対して厚みTを有している。集合体2は初期厚みを有し、この初期厚みは集合体2に圧力が加えられていない状態での厚みである。すなわちどのような圧力も作用されていない状態では、厚みTと初期厚みとは一致している。一方で、集合体2は無機繊維が絡み合って形成されているので各繊維間には隙間が発生している。このため集合体2は押圧力が加えられることにより押圧方向に縮小する。
【0019】
集合体2の厚みT方向に押圧力をかけて集合体2の厚みTの長さを初期厚みに対して55%?70%にしたとする。この後に押圧力を解除すると、集合体2はその弾性力により厚みTが初期厚みの90%以上となるまで復元する。このように、初期厚みを有する集合体2に対して押圧力を加えて55%?70%としても、押圧力を解除することで集合体2の厚みが初期厚みの90%以上に復元するので、無機繊維が20kg/m^(3)?40kg/m^(3)含まれている高密度の集合体であっても、狭小化された空間内に対して押し潰して押し込んだときにその復元力により空間を隙間なく充填することができる。すなわち、高密度による断熱性能の向上を図るとともに、高圧縮性、高復元性を高めることができる。このような効果を得るために、集合体2の密度は特に20kg/m^(3)?40kg/m^(3)が好ましいことが分かっている。なお、高圧縮性とは、小さな荷重で大きく圧縮する特性のことをいう。このような高圧縮性により大きく圧縮された集合体2は、高復元性により圧縮された部分が膨張する。」

オ「【0020】
以下に本発明に係る無機繊維断熱材1についてさらに詳述する。集合体2を形成する無機繊維はガラス繊維であることが好ましい。ガラス繊維には多く種類があるが、一般的にグラスウールで使用されているソーダライムガラスやAガラスが特に好ましい。これらのガラスを用いてロータリー法で形成されたガラス繊維は、断熱材として適した繊維径、繊維長を有しているからである。その繊維系(当審注:「繊維径」の誤記と認める。)、3.0μm?5.0μmであることが好ましく、更には3.5μm?5.0μmであることがより好ましい。また、繊維長は、20mm?200mmであることが好ましい。無機繊維断熱材の復元性を考慮すると、繊維長は長いほど好ましい。グラスウールのような無機繊維断熱材においての復元性は、ガラス繊維の繊維径及び繊維長が大きく影響しているため、このように繊維径と繊維長を考慮することは重要である。
【0021】
また、集合体2を圧縮させるために押圧する際の押圧力は、人力で押す力に相当していることが好ましい。具体的に圧力の数値で示すと、0.3kPa?0.8kPaであることが好ましく、更には、0.4kPa?0.6kPaであることがより好ましい。上述したように、狭小化された空間内に対して集合体2を押し潰して押し込むときは人力で押すことが多いため、本発明に係る無機繊維断熱材1をそのような空間に充填施工する際の実際の実施を考慮することが重要だからである。すなわちこのような人力に近い押圧力によって高い圧縮性能を発揮できることが重要であり、本発明はそのために人力による押圧力を考慮している。0.3kPa?0.8kPa、より好ましくは0.4kPa?0.6kPaと言う数値は人力による押圧力に相当する圧力という点で、本発明の効果を奏するために意味を持っている。
【0022】
したがって、本発明の無機繊維断熱材1は、0.3kPa?0.8kPa、より好ましくは0.4kPa?0.6kPaで押圧した際に、初期の厚みの55%?70%まで圧縮するものである。無機繊維断熱材1はこのような小さな荷重で大きく圧縮する特性を有し、このような特性を高圧縮性と称している。
【0023】
上述したように、無機繊維断熱材1の密度は20kg/m^(3)?40kg/m^(3)である。密度が、20kg/m^(3)未満であると、高圧縮性及び高復元性の点で本発明の目的に到達はするが、断熱性能が不充分である。一方、40kg/m^(3)を超えると、断熱性能では十分であるものの、所望する高圧縮性が得られない。
【0024】
一方で、上記のような高圧縮性能、高復元性能を得るための一例として、集合体2にいわゆる接着剤としての熱硬化性バインダー(不図示)を含めればよいことが分かっている。また、この熱硬化性バインダーは集合体2の1.5質量%?3.5質量%とすればよいことも分かっている。このように、集合体2に1.5質量%?3.5質量%の熱硬化性バインダーを含めることで、集合体2に対して高復元性という特性を与えることができる。
【0025】
また、熱硬化性バインダーに潤滑性を有する化合物を0.1質量%?0.5質量%含めることでさらに高圧縮性を得ることができることもわかっている。この化合物としては、シリコン界面活性剤、ワックス類、界面活性剤等があるが、これらのいずれかを含んでいればよい。これらの潤滑性を有する化合物は上記熱硬化性バインダーと十分に混合されてから上記無機繊維に塗布される。化合物とバインダーが分離しないようにするためである。
【0026】
上記のバインダーは全て集合体2に高い復元力を付与するための目的で添加される。無機繊維にバインダーを含めて断熱材として利用し、さらに高い復元力を付与するために得られた数値が上記バインダーの質量%(1.5質量%?3.5質量%)である。この数値は他の目的のために設定されるものではなく、あくまで無機繊維が20kg/m^(3)?40kg/m^(3)含まれている高密度の集合体2について、高い復元力を与えるために創作され、検証された数値である。
【0027】
上記のようなバインダーを付与することで、無機繊維断熱材1を形成する無機繊維はその交点で熱硬化性バインダーにより結合される。これにより、無機繊維断熱材1の形状を保持するだけでなく、圧縮性や復元性等、施工時の取扱性を向上させることができる。
【0028】
無機繊維断熱材1に対する熱硬化性バインダーの付着量について詳述する。バインダー付着量が1.5質量%未満であると、押圧力解除後の復元性に欠けてしまう。バインダー付着量が3.5質量%を超えると、押圧時の圧縮性が不充分となってしまう。バインダー付着量は、2.0質量%?3.0質量%であることがより好ましい。
【0029】
なお、熱硬化性バインダーは、ロータリー法等で繊維化された直後の無機繊維に塗布することが好ましい。熱硬化性バインダーは無機繊維に対して高温雰囲気下でスプレー等で塗布されるため、水性であることが好ましい。」

カ「【0038】
また、本発明に用いる熱硬化性バインダーは、アルデヒド縮合性樹脂であることが好ましい。アルデヒド縮合性樹脂は、レゾール型フェノール樹脂、アミノ樹脂、フラン樹脂が挙げられる。」

キ「【0043】
上記潤滑性を有する化合物について詳述する。当該化合物には潤滑剤が含まれている。この潤滑剤は、無機繊維表面に塗布されて、圧縮時の繊維同士の擦れ等で無機繊維が折れないようにするためのものである。潤滑成分がない、あるいは少ないと、圧縮時に無機繊維が折れやすくなり、押圧解除後の復元性が不足するという問題が生じる場合がある。
【0044】
潤滑剤は、熱硬化性バインダーに混和した状態で無機繊維上に塗布されるが、潤滑剤は熱硬化性バインダーと反応せずに、熱硬化性バインダーの加熱時に無機繊維上を流動するものが好ましい。
【0045】
このような潤滑性を有する化合物としては、シリコーン界面活性剤、ワックス類、界面活性剤が挙げられる。以下それぞれについて説明する。」

ク「【0051】
一方で潤滑剤は、熱硬化性バインダーと混合され、混合物の固形分換算の総質量に対して、潤滑剤固形分換算で0.1質量%?0.5質量%であることが好ましい。潤滑剤の含有量が、0.1質量%未満であると、繊維上での潤滑性に欠け、圧縮時に繊維が折れやすくなり、押圧解除後の復元性に欠ける場合がある。一方、潤滑剤含有量が0.5質量%を超えると、潤滑性の更なる向上が観察されず、不経済であるだけでなく、熱硬化性バインダーの接着性を損ない、復元性が得られないという問題が生じる。
【0052】
本発明の無機繊維断熱材1は、例えば以下のようにして製造することができる。すなわち、まず、溶融した無機質原料を繊維化装置で繊維化し、その直後に上記のバインダーを無機繊維に付与する。次いで、バインダーが付与された無機繊維を有孔コンベア上に堆積して嵩高い無機繊維断熱吸音材用中間体を形成し、所望とする厚さになるように間隔を設けた上下一対の有孔コンベア等に送り込んで狭圧しつつ加熱し、バインダーを硬化させて無機繊維断熱材1を形成する。そして、必要に応じて表皮材等を被覆させてもよい。実際の製品は、この無機繊維断熱吸音材1を所望とする幅、長さに切断して得られる。」

(3)当審の判断
ア 本件明細書【0052】には、本件訂正発明の無機繊維断熱材の製造方法として、まず、溶融した無機質原料を繊維化装置で繊維化し、その直後に上記のバインダーを無機繊維に付与する。次いで、バインダーが付与された無機繊維を有孔コンベア上に堆積して嵩高い無機繊維断熱吸音材用中間体を形成し、所望とする厚さになるように間隔を設けた上下一対の有孔コンベア等に送り込んで狭圧しつつ加熱し、バインダーを硬化させて無機繊維断熱材を形成する方法が記載されており、このように形成された無機繊維断熱材の「所望の厚さ」が「初期厚さ」となるものである。

イ 本件明細書【0019】には、高密度による断熱性能の向上を図るとともに、高圧縮性、高復元性を高めることができるというような効果を得るために、集合体2の密度は特に20kg/m^(3)?40kg/m^(3)が好ましいことが分かっていることが記載され、【0023】には、無機繊維断熱材1の密度は20kg/m^(3)?40kg/m^(3)であること、及び、密度が、20kg/m^(3)未満であると、高圧縮性及び高復元性の点で本発明の目的に到達はするが、断熱性能が不充分であり、一方、40kg/m^(3)を超えると、断熱性能では十分であるものの、所望する高圧縮性が得られないことが記載されており、集合体2の密度が、20kg/m^(3)?40kg/m^(3)の範囲外では、本件訂正発明の課題に係る高断熱性と高圧縮性を得ることができないことが記載されている。
そして、上記アの製造方法において、バインダーが付与された無機繊維を有孔コンベア上に堆積して嵩高い無機繊維断熱吸音材用中間体を形成するにあたっては、所望とする厚さになった場合に、無機繊維断熱材の密度が上記20kg/m^(3)?40kg/m^(3)となるように、バインダーが付与された無機繊維の量を有孔コンベア上に堆積することは明らかである。

ウ 本件明細書【0020】には、集合体2を形成する無機繊維はガラス繊維であることが好ましく、ソーダライムガラスやAガラスが特に好ましいことが記載されている。そして、これらのガラスを用いてロータリー法で形成されたガラス繊維は、断熱材として適した繊維径、繊維長を有していることが記載され、その繊維径は、3.0μm?5.0μmであることが好ましく、また、繊維長は、20mm?200mmであることが好ましいことが記載されているから、上記のガラス繊維を形成するにあたり、その繊維径は、3.0μm?5.0μmであり、また、繊維長は、20mm?200mmであるように形成することが記載されているといえる。

エ 本件明細書【0015】には、集合体に1.5質量%?3.5質量%の熱硬化性バインダーを含めることで、集合体の圧縮後の復元性を得ることができることが記載され、【0024】には、高圧縮性能、高復元性能を得るために、集合体2にいわゆる接着剤としての熱硬化性バインダーを含めればよいことが分かっていること、また、この熱硬化性バインダーは集合体2の1.5質量%?3.5質量%とすればよいことも分かっていること、及び、集合体2に1.5質量%?3.5質量%の熱硬化性バインダーを含めることで、集合体2に対して高復元性という特性を与えることができることが記載され、【0026】には、バインダーは全て集合体に高い復元力を付与するための目的で添加され、バインダーの質量%(1.5質量%?3.5質量%)は、無機繊維が20kg/m^(3)?40kg/m^(3)含まれている高密度の集合体について、高い復元力を与えるために創作され、検証された数値であることが記載されている。
さらに、【0028】には、無機繊維断熱材1に対する熱硬化性バインダーの付着量について、バインダー付着量が1.5質量%未満であると、押圧力解除後の復元性に欠けてしまい、バインダー付着量が3.5質量%を超えると、押圧時の圧縮性が不充分となってしまうことが記載されており、バインダー付着量が、1.5質量%?3.5質量%の範囲外では、本件訂正発明の課題に係る高圧縮性と高復元性を得ることができないことが記載されている。
また、【0038】には、本件訂正発明に用いる熱硬化性バインダーは、アルデヒド縮合性樹脂であることが好ましいことが記載されている。

オ 本件明細書【0025】には、熱硬化性バインダーに潤滑性を有する化合物を0.1質量%?0.5質量%含めることでさらに高圧縮性を得ることができることもわかっていることが記載され、当該化合物としては、シリコン界面活性剤、ワックス類、界面活性剤等があることが記載されている。また、【0051】には、潤滑剤は、前記熱硬化性バインダーと混合され、混合物の固形分換算の総質量に対して、潤滑剤固形分換算で0.1質量%?0.5質量%であることが好ましいことと、潤滑剤の含有量が、0.1質量%未満であると、繊維上での潤滑性に欠け、圧縮時に繊維が折れやすくなり、押圧解除後の復元性に欠ける場合があり、一方、潤滑剤含有量が0.5質量%を超えると、潤滑性の更なる向上が観察されず、不経済であるだけでなく、熱硬化性バインダーの接着性を損ない、復元性が得られないという問題が生じることが記載されており、潤滑性を有する化合物と熱硬化性バインダーとの混合物の固形分換算の総質量に対して、潤滑剤固形分換算で0.1質量%?0.5質量%であることが好ましいことと、範囲外では、本件訂正発明の課題に係る高圧縮性と高復元性を得ることができないことが記載されている。

カ 上記(1)アの申立理由について
本件明細書には、上記ウのように形成されたガラス繊維と、上記エに記載された材料を上記質量%の範囲で備える熱硬化性バインダーと、上記オに記載された材料を上記質量%の範囲で備える潤滑性を有する化合物とを用いて上記ア及びイの製造方法により無機繊維断熱材を形成することは記載されているといえる。
本件明細書【0024】?【0028】に記載されたように、熱硬化性バインダーの含有により集合体に復元力を与えることができるとともに、【0025】に記載されたように、潤滑性を有する化合物の含有により集合体が高圧縮性を得ることができることから、上記のように無機繊維断熱材を形成するにあたり、熱硬化性バインダーの含有量及び潤滑性を有する化合物の含有量を、本件訂正発明に規定する前記質量%の範囲で適宜選択することにより、本件訂正発明に規定された「前記集合体に0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより前記厚みを前記初期厚みに対して55%?70%とし、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの90%以上に復元される」という特性を得ることは、当業者にとって、過度の試行錯誤を要するものということはできない。
そして、本件明細書に実施例が記載されていなくても、本件訂正発明は、本件訂正発明が規定する集合体の密度の範囲、熱硬化性バインダーの含有質量%の範囲、潤滑性を有する化合物の含有質量%の範囲において、所望の断熱性が得られる高密度、高圧縮性および高復元性を有するものとすることが可能であることは、上記イ、エ及びオに示したとおり記載されているから、上記(1)アの申立理由には理由がない。

キ 上記(1)イの申立理由について
本件訂正発明は、各請求項に記載された発明特定事項を全て有することにより、発明の課題を解決するものであるから、無機繊維の繊維径や繊維長、集合体の密度が訂正前の請求項1に記載の所定の数値範囲であることで優れた復元性を示すことを合理的に予測することは困難であることを前提とする上記(1)イの申立理由は前提を欠いている。
よって、上記(1)イの申立理由には理由がない。

ク 上記(1)ウの申立理由について
本件訂正発明は、各請求項に記載された発明特定事項を全て有するものであり、一部の発明特定事項を有することにより発明の課題を解決するものではないから、訂正前の請求項1のように、無機繊維の繊維径や繊維長以外、その種類や特性が何ら特定されていない場合に得られる無機繊維断熱材が、同様の復元特性を示すことを前提とする上記(1)ウの申立理由は前提を欠いている。
よって、上記(1)ウの申立理由には理由がない。

(4)まとめ
ア 以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明3?5を当業者が実施できる程度に記載されているから、上記申立理由3には理由がない。
イ 本件訂正請求により請求項1及び2は削除されており、また、訂正後の請求項には、他に訂正前の請求項1及び2の発明特定事項を有するものはないから、訂正前の請求項1及び2に係る特許についての上記申立理由3は、本件訂正によってその対象となる請求項が存在しないものとなった。

4 申立理由4「特許法第36条第6項第1号(サポート要件)」について
申立人は、下記のようにサポート要件違反の申立理由を主張しているので検討する。
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)違反の申立理由の概要
ア 本願明細書には、実施例が一切記載されておらず、無機繊維断熱材の製造や、復元性の測定について何ら実施されていない。
イ 本件特許発明の請求項1乃至請求項5に関し、無機繊維断熱材が、本件物性要件で特定されている広範な数値範囲の全ての範囲において、得られる無機繊維断熱材が同様の優れた復元性を示すことを合理的に推測することは困難であり、実施例が何ら記載されていない本願明細書の記載に基づいて、本件物性要件を広範な数値範囲にまで拡張ないし一般化できるとはいえないため、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものではない。
ウ また、本件特許発明の請求項1乃至請求項5に関し、請求項1の構成(1A)乃至(1E)、特に構成(1A)及び(1B)を備えれば、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものとはいえない。(申立書第7頁第5?23行、第34頁第9行?第37頁第5行)。

(2)本件明細書には上記3(2)に摘記した記載がある。

(3)当審の判断
ア 本件訂正発明の課題
本件訂正発明の課題は、本件明細書【0001】、【0008】、【0014】等から見て、「高密度及び高圧縮性、高復元性を有し、耐震補強材が内在しているような狭小化された空間内に隙間なく充填することができる無機繊維断熱材及びこれを用いた断熱パネルを提供すること」であると認められる。

イ 上記(1)アの申立理由について
本件明細書には、上記3(3)ウのように形成されたガラス繊維と、上記3(3)エに記載された材料を上記質量%の範囲で備える熱硬化性バインダーと、上記3(3)オに記載された材料を上記質量%の範囲で備える潤滑性を有する化合物とを用いて上記3(3)ア及び3(3)イの製造方法により無機繊維断熱材を形成することが記載されているといえる。
また、本件明細書【0024】?【0028】に記載されたように、熱硬化性バインダーの含有により集合体に復元力を与えることができるとともに、【0025】に記載されたように、潤滑性を有する化合物の含有により集合体が高圧縮性を得ることができることから、熱硬化性バインダーの含有量及び潤滑性を有する化合物の含有量を、本件訂正発明に規定する前記質量%の範囲で適宜選択することにより、本件訂正発明に規定された「前記集合体に0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより前記厚みを前記初期厚みに対して55%?70%とし、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの90%以上に復元される」という物性を得られることが記載されているといえる。
そうすると、本件明細書に実施例が記載されていなくても、本件訂正発明は、本件訂正発明が規定する集合体の密度の範囲、熱硬化性バインダーの含有質量%の範囲、潤滑性を有する化合物の含有質量%の範囲において、所望の断熱性が得られる高密度、高圧縮性および高復元性を有するものとすることが可能であり、本件訂正発明の課題を解決できることが示されるとともに、前記の範囲外では発明の課題を解決できないことが、上記3(3)イ、3(3)エ及び3(3)オに示したとおり記載されているから、本件訂正発明は、発明の詳細な説明において、本件訂正発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものである。
よって、上記(1)アの申立理由には理由がない。

ウ 上記(1)イの申立理由について
本件訂正発明は、各請求項に記載された発明特定事項を全て有することにより本件訂正発明の課題を解決するものであるから、無機繊維の繊維径や繊維長、集合体の密度が訂正前の請求項1に記載の所定の数値範囲であることで優れた復元性を示すことを合理的に予測することは困難であることを前提とする上記(1)イの申立理由は前提を欠いている。
よって、上記(1)イの申立理由には理由がない。

エ 上記(1)ウの申立理由について
本件訂正発明は、各請求項に記載された発明特定事項を全て有するものであり、一部の発明特定事項を有することにより本件訂正発明の課題を解決するものではないから、訂正前の請求項1の構成(1A)乃至(1E)、特に、構成(1A)及び(1B)を備えれば、本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識できることを前提とする上記(1)ウの申立理由は前提を欠いている。
よって、上記(1)ウの申立理由には理由がない。

(4)まとめ
ア 以上のとおり、本件訂正発明3?5は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、上記申立理由4には理由がない。
イ 本件訂正請求により請求項1及び2は削除されており、また、訂正後の請求項には、他に訂正前の請求項1及び2の発明特定事項を有するものはないから、訂正前の請求項1及び2に係る特許についての上記申立理由4は、本件訂正によってその対象となる請求項が存在しないものとなった。

5 申立理由5「特許法第36条第6項第2号(明確性)」について
申立人は、下記のように明確性違反の申立理由を主張しているので検討する。

(1)特許法第36条第6項第2号(明確性)違反の申立理由の概要
・本件特許発明の請求項1乃至請求項5に関し、「繊維径」、「繊維長」、「密度」、「復元率」の定義や測定方法や準拠した規格や基準が記載されていない。「繊維径」、「繊維長」、「密度」、「復元率」については、測定条件や準拠する規格に応じてその値が変化することは周知の事実であり、その測定方法如何で、その数値は有意に異なってくるものであることから、「繊維径」、「繊維長」、「密度」、「復元率」の定義・意味、測定方法を特定しなければ、「繊維径」、「繊維長」、「密度」、「復元率」の意義は明確でないため、特許請求の範囲の記載について、特許を受けようとする発明が明確ではない(申立書第7頁下から5行?第8頁第6行、第37頁第7行?26行)。

(2)しかしながら、本件明細書の記載からみて、請求項3?5に記載された「繊維径」、「繊維長」、「密度」、「復元率」については、出願時の技術常識を考慮して理解される内容と異なる内容を表すものではなく、その定義や測定方法や準拠した規格や基準が記載されていないからといって、発明が不明確であるとはいえない。

(3)まとめ
ア 以上のとおり、本件訂正発明3?5は明確であるから、上記申立理由5には理由がない。
イ 本件訂正請求により請求項1及び2は削除されており、また、訂正後の請求項には、他に訂正前の請求項1及び2の発明特定事項を有するものはないから、訂正前の請求項1及び2に係る特許についての上記申立理由5は、本件訂正によってその対象となる請求項が存在しないものとなった。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項3?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項3?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項1及び2は訂正により削除されたため、本件特許の請求項1及び2に対して特許異議申立人がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
繊維径が3.0μm?5.0μmであり、繊維長が20mm?200mmである無機繊維を複数絡み合わせることで20kg/m^(3)?40kg/m^(3)の密度及び一方向に対する厚みを有する集合体からなり、
該集合体は圧力が加えられていない状態での初期厚みを有し、
前記集合体に0.3kPa?0.8kPaの押圧力を加えることにより前記厚みを前記初期厚みに対して55%?70%とし、その後前記押圧力を解除したときに前記厚みが前記初期厚みの90%以上に復元され、
前記集合体は熱硬化性バインダーを含み、
該熱硬化性バインダーは前記集合体の1.5質量%?3.5質量%であり、
前記熱硬化性バインダーには、潤滑性を有する化合物が0.1質量%?0.5質量%含まれていることを特徴とする無機繊維断熱材。
【請求項4】
前記潤滑性を有する化合物は、シリコン界面活性剤、ワックス類、界面活性剤のいずれかを含んでいることを特徴とする請求項3に記載の無機繊維断熱材。
【請求項5】
前記集合体を挟持する略板形状の板体と、
該板体の対向する一辺の外縁に沿って挟持されて配設される柱体と、
該柱体間に架け渡された略棒形状の耐震補強材とを備えたことを特徴とする請求項3に記載の無機繊維断熱材を用いた断熱パネル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-05 
出願番号 特願2014-245789(P2014-245789)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (E04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 星野 聡志  
特許庁審判長 小林 俊久
特許庁審判官 西田 秀彦
秋田 将行
登録日 2019-01-25 
登録番号 特許第6469428号(P6469428)
権利者 旭ファイバーグラス株式会社
発明の名称 無機繊維断熱材及びこれを用いた断熱パネル  
代理人 小林 俊雄  
代理人 小林 俊雄  
代理人 後藤 仁志  
代理人 荒井 滋人  
代理人 保科 敏夫  
代理人 後藤 仁志  
代理人 深澤 恵子  
代理人 深澤 恵子  
代理人 保科 敏夫  
代理人 荒井 滋人  

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