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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
管理番号 1361437
異議申立番号 異議2018-700469  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-08 
確定日 2020-02-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6247347号発明「制振材用エマルション及び制振材配合物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6247347号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6247347号の請求項5?8に係る特許を維持する。 特許第6247347号の請求項1?4に係る特許についての特許異議の申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯等

特許第6247347号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成20年10月30日に出願された特願2008-280414号の一部を、平成28年6月27日に新たな特許出願としたものであって、平成29年11月24日にその特許権の設定登録がされ、同年12月13日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、当該請求項1?5に係る特許に対して、平成30年6月8日に特許異議申立人である阿部治美により特許異議の申立てがなされた。
本件特許異議申立事件における手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年 8月20日付け:(当審)取消理由通知
同年10月22日 :(特許権者)意見書及び訂正請求書の提出
同年11月30日 :(特許異議申立人)意見書の提出
平成31年 2月 8日付け:(当審)訂正拒絶理由通知
同年 3月15日 :(特許権者)意見書及び手続補正書の提出
令和 元年 5月27日付け:(当審)取消理由通知(決定の予告)
同年 7月18日 :(特許権者)意見書及び訂正請求書の提出
同年11月15日付け:(当審)取消理由通知
同年12月24日 :(特許権者)意見書及び訂正請求書の提出
なお、平成30年10月22日及び令和元年7月18日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。また、令和元年7月18日になされた訂正の請求に対して、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えたが応答はなかったので、当該訂正請求よりもさらに特許請求の範囲を減縮することを求める、令和元年12月24日になされた訂正の請求に対し、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えることはしなかった。

第2 訂正の適否

令和元年12月24日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する訂正前の請求項1?5を訂正の単位としてなされ、訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであるところ、当該訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下のとおり、適法になされたものと認められる。

1 訂正の内容(訂正事項)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1?4を削除する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれかに記載の制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を必須成分とすることを特徴とする制振材配合物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改めた上で、請求項1に記載されていた制振材用エマルションを構成するポリマーの原料となる「その他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマー」の選択肢から「ジビニルベンゼン」を削除し、「制振材配合物であって、該制振材配合物は、制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を必須成分とし、該制振材用エマルションは、モノマー成分を重合して得られるポリマーから構成され、該ポリマーは、重合される全モノマー成分100質量%に対して50?100質量%の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の金属塩、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレートから選択される(メタ)アクリル系モノマーと、50?0質量%のギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンから選択されるその他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとからな」る「モノマー成分を重合してなるものであって、該ポリマーは、ポリマー密度が1.13g/cm^(3)以上であり、かつ重量平均分子量が20000?400000であ」る「ことを特徴とする制振材配合物。」とする。
更に、制振材配合物を「基材に塗布して制振性塗膜を形成する」ものに限定する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5において、制振材用エマルションが含むポリマーを、「(メタ)アクリル系モノマー、及び、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンから選択されるその他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマーから選択される3種類以上のモノマーを含むモノマー成分を重合してなるもの」に限定する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に、「該制振材配合物は、制振材配合物の固形分100質量%に対し、制振材用エマルションの固形分が10?60質量%であり、制振材用エマルションの固形分100重量部に対して、増粘剤を固形分で0.01?2重量部含み、制振材用エマルション100重量部に対して、発泡剤を0.5?5.0重量部含む」との限定を追加する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれかに記載の制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を必須成分とすることを特徴とする制振材配合物。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、訂正後の請求項5を引用する形式としながら、「前記ポリマーは、ホモポリマー密度が1.15g/cm^(3)以上のモノマーを、全モノマー成分100質量%に対して20質量%以上含有するモノマー成分を重合してなることを特徴とする請求項5に記載の制振材配合物。」とし、新たに請求項6とする。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれかに記載の制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を必須成分とすることを特徴とする制振材配合物。」とあるうち、請求項3を引用するものについて、訂正後の請求項5又は6を引用する形式としながら、「前記ポリマーは、ガラス転移温度が-20?40℃であることを特徴とする請求項5又は6に記載の制振材配合物。」とし、新たに請求項7とする。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれかに記載の制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を必須成分とすることを特徴とする制振材配合物。」とあるうち、請求項4を引用するものについて、訂正後の請求項5?7のいずれかを引用する形式としながら、「前記制振材用エマルションから形成された膜は、動的粘弾性測定における損失正接が2.5以上であることを特徴とする請求項5?7のいずれかに記載の制振材配合物。」とし、新たに請求項8とする。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1?4を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(2) 訂正事項2?4について
ア 訂正事項2?4は、実質的に、訂正前の請求項5のうち、請求項1を引用していた部分を書き下したものを基礎とするものであるから、この意味において、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる事項(いわゆる引用関係の解消)を目的の一つとするものということができる。
イ その上で、訂正事項2は、(i)訂正前の請求項1に記載されていた制振材用エマルションを構成するポリマーのモノマー成分について、当該モノマー成分を、「(メタ)アクリル系モノマー」と「その他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマー」からなるものに限定し、更に当該「その他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマー」中の選択肢から、ジビニルベンゼンを削除するとともに、(ii)制振性配合物について、「基材に塗布して制振性塗膜を形成する」という事項を追加して、当該制振材配合物の使用用途を限定するものである。そして、当該(ii)の「基材に塗布して制振性塗膜を形成する」という事項の追加については、訂正前の請求項1の「基材に塗布して制振性塗膜を形成する」との記載、本件明細書の段落【0065】の「このような本発明の制振材用エマルションを必須とする制振材配合物は、本発明の好ましい実施形態の1つであり、優れた制振性を発揮し得る制振材を形成することができるものである。」との記載、同【0069】の「本発明は、上記制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を必須成分とする制振材配合物でもある。」との記載、及び、同【0077】の「上記制振材配合物は、例えば、基材に塗布して乾燥することにより制振材となる塗膜を形成することになる。」との記載に基づくものである。なお、当該「基材に塗布して制振性塗膜を形成する」という事項の追加については、もともと訂正前の請求項1に「基材に塗布して制振性塗膜を形成する」との記載が存在していたことから、単に、上記書き下し(引用関係の解消)によって生じたものとも考えられる。
したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮をも目的とするものであり、新規事項の追加にも該当しない。
また、訂正事項2は、上記のとおり制振材配合物の形態を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
以上のとおり、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
ウ 訂正事項3は、上記アのとおり書き下した制振材配合物について、その必須成分である制振材用エマルションを構成するポリマーを、「該(メタ)アクリル系モノマー、及び、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンから選択されるその他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマーから選択される3種類以上のモノマーを含むモノマー成分を重合してなるもの」に限定することにより、当該制振材配合物を限定するものである。そして、当該訂正事項3は、本件明細書【0088】の表1に記載された実施例1、3?5の制振材用エマルションのいずれにおいても、ポリマーとして、「(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の金属塩、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレニト、ブチルメタクリレートから選択される(メタ)アクリル系モノマー」又は「ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α一メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンから選択されるその他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマー」から選択される3種類以上のモノマーを含むモノマー成分を重合してなるものが用いられていることに基づくものである。
したがって、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮をも目的とするものであり、新規事項の追加にも該当しない。
また、訂正事項3は、制振材配合物の形態を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
以上のとおり、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
エ 訂正事項4は、上記アのとおり書き下した制振材配合物について、制振材用エマルションの固形分の割合、並びに、制振材配合物に含まれる増粘剤及び発泡剤の割合を追加し、当該制振材配合物を限定するものである。そして、当該訂正事項4に係る「制振材配合物の固形分100質量%に対し、制振材用エマルションの固形分が10?60質量%」という事項は、本件明細書【0066】の「上記制振材配合物における制振材用エマルションの配合量としては、例えば、制振材配合物の固形分100質量%に対し、制振材用エマルションの固形分が10?60質量%となるように設定することが好ましい。」との記載に、同「制振材用エマルションの固形分100重量部に対して、増粘剤を固形分で0.01?2重量部含み」という事項は、本件明細書【0071】の「増粘剤の配合量としては、制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、固形分で0.01?2重量部とすることが好ましい。」との記載に、同「制振材用エマルション100重量部に対して、発泡剤を0.5?5.0重量部含む」という事項は、本件明細書【0073】の「発泡剤の配合量としては、制振材用エマルション100重量部に対し、0.5?5.0重量部とすることが好ましい。」との記載に、それぞれ基づくものである。
したがって、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮をも目的とするものであり、新規事項の追加にも該当しない。
また、訂正事項4は、制振材配合物の形態を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
以上のとおり、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
オ そして、上記訂正事項2?4に係る請求項5についての訂正は、訂正事項5?7によって新設された、当該請求項5を引用する請求項6?8に対しても同様の訂正を行うこととなるが、当該訂正についても上記イ?エと同様の理由により適法になされたものということができる。
(3) 訂正事項5?7について
訂正事項5?7は、上記(2)オの点に加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項5のうち、請求項2?4を引用するものをそれぞれ、当該請求項2?4を引用しないものとし、新たに請求項6?8として書き下すものである。
したがって、訂正事項5?7は、引用関係の解消を目的とするものであって、新規事項の追加にも該当しないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことも明らかである。
以上のとおり、訂正事項5?7は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

3 小括
上記1、2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する訂正前の請求項1?5を訂正の単位とし、訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであり、その訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載

上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正後の、次のとおりのものである(以下、請求項5?8に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明5」などといい、まとめて「本件発明」という。また、これらに対応する特許についても、項番号に合わせて「本件特許5」などといい、まとめて「本件特許」という。)。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
基材に塗布して制振性塗膜を形成する制振材配合物であって、
該制振材配合物は、制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を必須成分とし、
該制振材用エマルションは、モノマー成分を重合して得られるポリマーから構成され、
該ポリマーは、重合される全モノマー成分100質量%に対して50?100質量%の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の金属塩、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレートから選択される(メタ)アクリル系モノマーと、
50?0質量%のギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンから選択されるその他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとからなり、かつ、
該(メタ)アクリル系モノマー、及び、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンから選択されるその他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマーから選択される3種類以上のモノマーを含むモノマー成分を重合してなるものであって、
該ポリマーは、ポリマー密度が1.13g/cm^(3)以上であり、かつ
重量平均分子量が20000?400000であり、
該制振材配合物は、制振材配合物の固形分100質量%に対し、制振材用エマルションの固形分が10?60質量%であり、制振材用エマルションの固形分100質量部に対して、増粘剤を固形分で0.01?2重量部含み、
制振材用エマルションの100質量部に対して、発泡剤を0.5?5.0重量部含む
ことを特徴とする制振材配合物。」
【請求項6】
前記ポリマーは、ホモポリマー密度が1.15/cm^(3)以上のモノマーを、全モノマー成分100質量%に対して20質量%以上含有するモノマー成分を重合してなることを特徴とする請求項5に記載の制振材配合物。
【請求項7】
前記ポリマーは、ガラス転移温度が-20?40℃であることを特徴とする請求項5又は6に記載の制振材配合物。
【請求項8】
前記制振材用エマルションから形成された膜は、動的粘弾性測定における損失正接が2.5以上であることを特徴とする請求項5?7のいずれかに記載の制振材配合物。」

第4 令和元年11月15日付けで通知した取消理由について

1 標記取消理由の概要
標記取消理由は、本件訂正前になされた令和元年7月18日付け訂正後の請求項5?8に係る特許に対して通知したものであり、当該特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第2号ないし第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当するため、取り消すべきものである、というものである。

令和元年7月18日付け訂正後の請求項5の記載は次のとおりである。
「【請求項5】
基材に塗布して制振性塗膜を形成する制振材配合物であって、
該制振材配合物は、制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を必須成分とし、
該制振材用エマルションは、モノマー成分を重合して得られるポリマーから構成され、
該ポリマーは、重合される全モノマー成分100質量%に対して50?100質量%の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の金属塩、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレートから選択される(メタ)アクリル系モノマーと、
50?0質量%のギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンから選択されるその他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを含有し、かつ、
該(メタ)アクリル系モノマー、及び、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンから選択されるその他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマーから選択される3種類以上のモノマーを含むモノマー成分を重合してなるものであって、
該ポリマーは、ポリマー密度が1.13g/cm^(3)以上であり、かつ
重量平均分子量が20000?400000であり、
該制振材配合物は、制振材配合物の固形分100質量%に対し、制振材用エマルションの固形分が10?60質量%であり、制振材用エマルションの固形分100質量部に対して、増粘剤を固形分で0.01?2重量部含み、
制振材用エマルションの100質量部に対して、発泡剤を0.5?5.0重量部含む
ことを特徴とする制振材配合物。」
ここで、便宜上、当該請求項5に記載された「(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の金属塩、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレートから選択される(メタ)アクリル系モノマー」を「Aモノマー」、「ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンから選択されるその他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマー」を「Bモノマー」、当該「Aモノマー」及び「Bモノマー」以外のモノマーを「Cモノマー」ということとすると、当該請求項5の記載は、重合されるモノマー成分が「Cモノマー」を含有するものであるか否かが明確でない。
また、当該「Cモノマー」を含有する場合については、発明の詳細な説明において十分に説明されているとはいえない。
当該請求項5を引用する請求項6?8の記載についても同様である。

2 標記取消理由についての当審の判断
標記取消理由が、本件訂正後の請求項5?8に係る特許に対しても妥当するものであるか否かを検討する。
標記取消理由は、要するに、請求項5に記載された重合されるモノマー成分が、上記「Aモノマー」及び「Bモノマー」以外のモノマーである、「Cモノマー」を含有するものであるか否かが明確でないことに起因するものであったところ、本件訂正により、当該請求項5に記載された重合されるモノマー成分は、上記「Aモノマー」及び「Bモノマー」からなるものに特定され、上記「Cモノマー」を含有するものではないことが明確になったため、標記取消理由は、本件訂正後の請求項5及びこれを引用する請求項6?8に係る特許に対しては妥当しないものとなったということができる。

3 小括
以上のとおり、本件特許5?8は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号ないし第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとは認められず、同法第113条第4号に該当しないから、標記取消理由により取り消すことはできない。

第5 令和元年5月27日付けで通知した取消理由(決定の予告)について

1 標記取消理由の概要
標記取消理由は、設定登録時の請求項1?5に係る特許に対して通知したものであり、その要旨は、次のとおりである。
・理由1(進歩性):上記の請求項に係る発明は、後記引用文献1(甲第2号証)に記載された発明などに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、当該発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号に該当)。
・理由2(サポート要件):上記特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号に該当)。

2 理由1(進歩性)についての当審の判断
当該理由1(進歩性)は、引用文献1(特許異議申立人が提出した甲第2号証。以下、単に「甲2」という。引用文献2?5についても同様に甲3?6と表記する。)を主引例とするものであるところ、当該理由1が、本件訂正後の請求項5?8に係る特許に対しても妥当するものであるか否かについて検討する。
(1) 引用文献等一覧
甲2:特開平6-73228号公報
甲3:特開2008-133357号公報
甲4:国際公開第2008/123372号
甲5:特開平10-219194号公報
甲6:特開2007-277451号公報

(2) 甲2?6に記載された事項
ア 甲2の記載事項
甲2には、「アクリル系フォーム制振材」(【発明の名称】)について、以下の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルの重合体エマルジョンから形成された架橋フォームを基材とすることを特徴とする制振材。」
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アクリル系重合体のエマルジョンから形成された架橋フォームを基材とする制振材に関する。
・「【0007】以下、本発明を詳細に説明するが、これにより、本発明の目的、構成および効果が明確になるであろう。本発明において使用されるアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルの重合体(以下、「アクリル系重合体」という。)は、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステル(以下、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルをまとめて表記するときは、「アクリル系エステル」という。)の単独重合体もしくは2種以上のアクリル系エステル相互の共重合体、または1種以上のアクリル系エステルと1種以上の他の単量体との共重合体である。これらのアクリル系重合体は、単独でまたは2種以上を混合して使用される。
【0008】本発明におけるアクリル系エステルとは、アクリル酸あるいはメタクリル酸と、脂肪族、脂環族あるいは芳香族の非置換アルコールとのエステルを意味する。ここでいう非置換とは、炭化水素基以外の置換基をもたないことを意味する。
【0009】前記アクリル系エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸ペンチル、メタクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、メタクリル酸ヘプチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル、アクリル酸n-ノニル、アクリル酸イソノニル、メタクリル酸n-ノニル、メタクリル酸イソノニル、アクリル酸デシル、メタクリル酸デシル、アクリル酸ウンデシル、メタクリル酸ウンデシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸n-アミル、アクリル酸イソアミル、メタクリル酸n-アミル、メタクリル酸イソアミル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等を挙げることができる。好ましいアクリル系エステルは、アルキル基の炭素数が1?12であるアクリル酸アルキルエステルあるいはメタクリル酸アルキルエステルであり、より好ましくはアクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチルあるいはアクリル酸イソノニルである。
【0010】次に、本発明において使用されるアクリル系エステルと他の単量体との共重合体において、該他の単量体としては、(1)(当審注:【0010】?【0012】、【0023】においては、ワープロの都合上、「丸囲みの1」及び「丸囲みの2」をそれぞれ「(1)」及び「(2)」と記載した。)架橋性官能基を有する単量体および(2)架橋性官能基をもたない単量体が挙げられる。
【0011】まず、(1)架橋性官能基を有する単量体は、アクリル系エステルと共重合して架橋アクリル系重合体を生成する単量体、またはフォームの形成と同時あるいはフォームの形成後に、触媒の存在下あるいは非存在下で、また加熱下あるいは非加熱下で架橋アクリル系重合体を生成する単量体である。本発明においては、(1)架橋性官能基を有する単量体として、フォームの形成後に架橋反応を生起する単量体を使用することが好ましい。前記架橋性官能基としては、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、多官能性不飽和結合等を挙げることができる。
【0012】(1)架橋性官能基を有する単量体の具体例を挙げると、カルボキシル基を有する単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸あるいはエチレン性不飽和ポリカルボン酸またはそれらの塩等;・・・
【0018】多官能性不飽和結合を有する単量体としては、例えばジビニルベンゼン、エチレングリコールのジアクリレートまたはジメタクリレート、ポリエチレンクリコール(例えばジエチレングリコール等)のジアクリレートまたはジメタクリレート、プロピレングリコールのジアクリレートまたはジメタクリレート、ポリプロピレングリコールのジアクリレートまたはジメタクリレート、トリメチロールプロパンのポリアクリレートまたはポリメタクリレート、グリセリンのポリアクリレートまたはポリメタクリレート、末端水酸基含有ポリエステルのポリアクリレートまたはポリメタクリレート、ジアリルフタレート等を挙げることができる。・・・
【0023】次に、(2)架橋性官能基をもたない単量体としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、エチレン性不飽和エステル系単量体、エチレン性不飽和エーテル系単量体、エチレン性不飽和シラン系単量体、ハロゲン化ビニル系単量体、脂肪族共役ジエン系単量体等を挙げることができる。
【0024】前記芳香族ビニル系単量体の例には、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレン、α-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-メトキシスチレン、p-アミノスチレン、p-アセトキシスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム、α-ビニルナフタレン、1-ビニルナフタレン-4-スルホン酸ナトリウム、2-ビニルフルオレン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等が挙げられ、特にスチレンが好ましい。
【0025】前記シアン化ビニル系単量体の例には、アクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-メトキシアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロメタクリロニトリル、α-メトキシメタクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0026】前記エチレン性不飽和エステル系単量体の例には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸アリル、カプロン酸メタアリル、ラウリン酸アリル、安息香酸アリル、アルキルスルホン酸ビニル、アルキルスルホン酸アリル、アリールスルホン酸ビニル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、ビニルスルホン酸メチル、イソプレンスルホン酸メチル、ビニルスルホン酸エチル、イソプレンスルホン酸エチル等が挙げられる。」
・「【0046】本発明におけるアクリル系重合体のガラス転移点は、通常-60°C?+25°Cであり、好ましくは-30°C?+15°Cである。ガラス転移点が-60°Cより低いと、フォームの粘着性が強すぎて取扱にくくなり、また架橋フォームの強度も低くなる傾向がある。一方+25°Cより高いと、架橋フォームが硬すぎて柔軟性に乏しくなるため、制振性能が不十分となったり、用途が制約されたりする場合がある。」
・「【0062】本発明におけるアクリル系重合体のエマルジョンには、必要に応じて、難燃剤、充填剤、ゲル化剤、発泡助剤、整泡剤、増粘剤、分散剤、湿潤剤、消泡剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤等の添加剤をさらに混合することもできる。」
・「【0092】以下実施例および比較例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例のみに限定されないことは、当業者には明らかであろう。ここで、部は重量に基づく。
【実施例】
重合体エマルジョンの製造
(1) 反応容器に蒸留水200部、炭酸カリウム0.8部、酸性亜硫酸ナトリウム0.03部、過硫酸カリウム0.3部、および表1に示す単量体と乳化剤とを仕込み、70°Cで5時間重合して、表1に示す重合体エマルジョンA?Cを製造した。重合転化率はいずれも98%以上に達した。
【0093】(2) 反応容器に蒸留水200部、炭酸カリウム0.8部、酸性亜硫酸ナトリウム0.03部、過硫酸カリウム0.3部、および表2に示す単量体と乳化剤とを仕込み、70°Cで5時間重合して、表2に示す重合体エマルジョンD?Gを製造した。重合転化率はいずれも98%以上に達した。
【0094】(3) 反応容器に蒸留水200部、炭酸カリウム0.2部、酸性亜硫酸ナトリウム0.03部、過硫酸カリウム0.3部、および表3に示す単量体と乳化剤とを仕込み、70°Cで5時間重合して、表3に示す重合体エマルジョンH?Mを製造した。重合転化率はいずれも98%以上に達した。
【0095】フォーム用組成物の調製
表1?3に示す重合体エマルジョンA?M各100重量部(固形分換算)に対して、表4?5に示す配合成分および添加剤(下記参照)を十分混合して、フォーム用組成物(ア)?(ス)を調製した(但し、(ス)は、比較のための非架橋アクリル系重合体のエマルジョンからなるフォーム組成物である)。また比較のため、重合体エマルジョンがポリウレタンエマルジョンのみからなるフォーム用組成物(セ)またはスチレン-ブタジエン共重合体ゴムエマルジョンのみからなるフォーム用組成物(ソ)を、同様にして調製した。
【0096】添加剤
発泡助剤:ラウリル硫酸ナトリウムまたはアルキルスルホサクシネート
整泡剤 :ステアリン酸アンモニウムまたはオレイン酸カリウム
増粘剤 :ポリアクリル酸ナトリウム
【0097】フォームシートの作製
表4?5に示す各フォーム用組成物に空気を投入し、ホイッパーを用いて機械的に攪拌して発泡させたのち、不織布からなる基材に塗布し、次いで120?135°Cで30分間加熱・乾燥して、フォーム密度0.3g/cm^(3 )および厚さ2mmまたは5mmのフォームシートを作製した。」
・「【0104】
【表1】


・「【0105】
【表2】


・「【0106】
【表3】


・「【0107】
【表4】


・「【0108】
【表5】



イ 甲3の記載事項
甲3には、「制振材用重合体水性分散液、制振材用塗料及び制振材」(【発明の名称】)について、以下の記載がある。
・「【請求項1】
水性媒体と、該水性媒体中に分散する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有する粒子径が200?500nmのアクリル系重合体(A)粒子と、
該水性媒体中に分散する酸価が20?80であり、且つ、粒子径が200?500nmであるカルボキシル基含有共役ジエン系重合体(B)粒子とを必須構成成分として含有する制振材用重合体水性分散液であって、
前記(A)粒子と前記(B)粒子との配合比率〔(A)/(B)〕(重量比)が40/60?90/10であることを特徴とする制振材用重合体水性分散液。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材を形成するための制振材用重合体水性分散液、制振材用塗料及び制振材に関するものである。」
・「【0012】
本発明の制振材塗料用に用いる重合体水性分散液は、粒子径が200?500nmの重合体(A)粒子を必須の成分として使用し、該重合体(A)は主たる重合単位として(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有するアクリル系重合体であり、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体を主体とした単量体成分を、水性媒体中で乳化重合して得られるアクリル系重合体水性分散液が挙げられる。このような重合体粒子(A)を、後述する重合体粒子(B)とともに使用することにより、制振材用塗料に高い制振性を付与することができる。」
・「【0018】
重合体(A)の分子量は特に制限をうけるものではないが、例えば、重量平均分子量で、20000?700000の範囲の分子量であると、制振材としての制振性が向上するため好ましい。特に、重量平均分子量が30000?200000の範囲である場合、より制振性が向上する傾向にあるため好ましい。」
・「【0020】
重合体(A)は、実用温度領域での制振性を発現するために、重合体(A)から形成される皮膜の固体動的粘弾性測定(DMA)におけるtanδのピーク温度が35?55℃であることが好ましい。皮膜の固体動的粘弾性は、制振材としての制振性に大きく影響するため、重合体(A)の皮膜の固体動的粘弾性を上記範囲に調整することにより、後述する重合体(B)との組み合わせにおいて、実用温度領域(例えば、20?60℃)で優れた制振性が得られる。また、皮膜の固体動的粘弾性測定(DMA)におけるtanδのピーク高さは1.5以上であることが制振性に優れるため好ましい。本発明における固体動的粘弾性測定(DMA)とは、後述する実施例に記載した方法で測定したものである。」
・「【0048】
本発明の制振材用重合体水性分散液に、無機充填剤を配合することにより本発明の制振材用塗料を製造することができる。かかる無機充填剤としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、カーボンブラック、酸化チタン、セピオライト等が挙げられる。無機充填剤の使用量は、重合体水性分散液固形分100重量部に対して5?250重量部であることが好ましく、特に10?200重量部であると、制振材用塗料乾燥時に優れた皮膜形成性と耐ブロッキング性が得られ、且つ、制振材とした時の制振性に優れるため好ましい。
【0049】
また、無機充填剤の他、発泡剤を配合すると制振材を厚膜化することができ、その結果、制振性を高めることが可能となるため好ましい。発泡剤としては、例えば、加熱膨張型有機中空状充填剤や有機発泡剤が挙げられる。加熱膨張型有機中空粒子状充填剤としては、例えば、塩化ビニリデン、アクリロニトリル等の有機合成樹脂からなるプラスチックバルーン等が挙げられ、有機発泡剤としては、ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ系発泡剤、ベンゼンスルホニルヒドラジド、P-トルエンスルホニルヒドラジド等のスルホニルヒドラジド発泡剤、アゾビスイソブチロニトリル、アゾカルボアミドなどのアゾ系発泡剤などが挙げられる。また、フロン系液体がカプセル内に充填された発泡剤も使用することができる。発泡剤の使用量は、重合体水性分散液固形分100重量部に対して1?5重量部であることが好ましい。
【0050】
また、本発明の制振材用塗料には、無機顔料、有機顔料等の着色剤、キレート剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、圧縮回復剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤、湿潤剤、架橋剤、酸化亜鉛・硫黄・加硫促進剤等の加硫剤、タック防止剤、起泡剤、整泡剤、浸透剤、撥水・撥油剤・ブロッキング防止剤、難燃剤、充填剤、増粘剤等を添加することができ、これらの添加剤の選択、添加量、添加順序等は、制振材用塗料の製造条件、作業性、安定性、更に加工適性、塗布量等を考慮して、適宜に選択して使用することができる。」
・「【0063】
[合成例1]重合体(A)水性分散液[1]の製造
撹拌装置を備えた容器に、水20部、乳化剤として「ニューコール707SF」[日本乳化剤(株)製ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩:有効成分30%]6.7部、ブチルアクリレート50部、メチルメタクリレート48部、メタクリル酸2部、t-ドデシルメルカプタン0.5部を混合して単量体混合液を調整した。
【0064】
撹拌装置、窒素導入管、滴下装置を備えた反応容器に、水50部と、前記単量体混合液1.3部を仕込み、反応容器内に窒素を吹き込みながら反応容器内液温度を80℃まで昇温した。反応容器内液温度80℃で過硫酸アンモニウムの5%水溶液2部を添加して1時間反応させた。次いで、反応容器内液温度を80℃に保ち撹拌しながら、残りの単量体混合液と、過硫酸アンモニウムの5%水溶液10部を各々別の滴下装置から4時間かけて連続的に反応容器に滴下した。滴下終了後、80℃で2時間撹拌して反応させた。その後、反応容器内液温度を25℃まで冷却し、アンモニア水を加えてpH8に調整した後、水で固形分濃度を52%に調整して本発明で使用する重合体(A)粒子の重合体水性分散液を得た。重合体(A)粒子の粒子径は、280nmであった。・・・
【0067】
[合成例3]重合体(B)水性分散液[1]の製造
撹拌装置を備えた耐圧型容器に、水20部、乳化剤として「ニューコール707SF」[日本乳化剤(株)製ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩:有効成分30%]6.7部、ブタジエン32部、スチレン64部、アクリル酸4部、t-ドデシルメルカプタン0.5部を混合して単量体混合液を調整した。
【0068】
撹拌装置、窒素導入管、滴下装置を備えた耐圧型反応容器に、水40部と、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩0.1部を仕込み、反応容器内の空気を窒素で置換して密閉した。その後、前記単量体混合液1.3部を反応容器に圧入し、反応容器内液温度を80℃まで昇温した。反応容器内液温度80℃で過硫酸アンモニウムの5%水溶液2部を圧入して1時間反応させた。次いで、反応容器内液温度を80℃に保ち撹拌しながら、残りの単量体混合液と、過硫酸アンモニウムの5%水溶液20部を各々別の滴下装置から6時間かけて連続的に反応容器に滴下した。滴下終了後、90℃に昇温して3時間撹拌して反応させた。その後、反応容器内液温度を25℃まで冷却し、アンモニア水を加えてpH8に調整した後、水で固形分濃度を50%に調整して本発明で使用する重合体(B)粒子の重合体水性分散液を得た。重合体(B)粒子の粒子径は、310nmであった。・・・
【0074】
下記第1表に、上記合成例1?6で得られた重合体水性分散液の原料モノマー組成、酸価、粒子径、ゲル分率、各重合体水性分散液から作成した皮膜の固体動的粘弾性(DAM)におけるtanδの測定結果を記載する。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例1
重合体(A)粒子の重合体水性分散液として、上記合成例1の重合体水性分散液を固形分重量基準で50部と、重合体(B)粒子の重合体水性分散液として、上記合成例3の重合体水性分散液を固形分重量基準で50部配合し、本発明の制振材用重合体水性分散液を得た。この水性分散液の固形分重量基準で100部に対し、下記配合比率で充填剤(炭酸カルシウム)、分散剤、消泡剤、増粘剤を配合して本発明の制振材用塗料を得た。
重合体水性分散液 : 100.0部(配合部数は何れも固形分の部数である)
炭酸カルシウム : 300.0部
分散剤 : 1.5部
消泡剤 : 0.5部
増粘剤 : 1.0部
・分散剤:サンノプコ(株)製分散剤ノプコ44C
・消泡剤:サンノプコ(株)製分散剤ノプコ8034L
・増粘剤:日本アクリル化学(株)製プライマルTT-935
【0077】
上記のようにして得られた制振材用塗料について、制振材用塗料を連続的に長時間塗装した際に塗装ノズルが詰まる問題の指標として機械的安定性の測定を実施し、制振性の指標として損失係数の測定を実施した。これらの測定結果を第2表に制振材用塗料の加熱乾燥時の塗膜欠陥の評価を記載する。
【0078】
実施例2?5及び比較例1?3
重合体水性分散液として第2表に記載したものを使用した以外は実施例1と同様にして実施例2?5及び比較例1?3を実施した。これらの測定結果を第2表に記載する。
【0079】
【表2】



ウ 甲4の記載事項
甲4には、「制振材用エマルション」(発明の名称)について、以下の記載がある。
・「請求の範囲
[1]単量体成分を乳化重合してなるエマルションを含む制振材用エマルションであって、
該エマルションは、アニオン性乳化剤及び/又は反応性乳化剤を用いて乳化重合して得られたものであり、エマルション粒子の平均粒子径が100?450nmであることを特徴とする制振材用エマルション。・・・
[6]コア部とシェル部とを有するアクリル系エマルション粒子を含有する制振材用エマルションであって、
該アクリル系エマルション粒子は、Q値が0.6?1.4の範囲内、かつe値が-0.4?-1.2の範囲内にある単量体を必須とする単量体成分を重合して形成されるものであることを特徴とする制振材用エマルション。・・・
[11]前記アクリル系エマルション粒子を形成するQ値が0.6?1.4の範囲内、かつe値が-0.4?-1.2の範囲内にある単量体は、スチレン系単量体であることを特徴とする請求項6?10のいずれかに記載の制振材用エマルション。
[12]前記アクリル系エマルション粒子を形成する単量体成分は、ブチルアクリレート及び/又は2-エチルヘキシルアクリレートを含んでなることを特徴とする請求項6?11のいずれかに記載の制振材用エマルション。」
・「[0001] 本発明は、制振材用エマルションに関する。より詳しくは、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つために使用される制振材の材料として有用な制振材用エマルションに関する。」
・「[0058] 上記アクリル共重合体としてはまた、重量平均分子量が20000?250000であることが好適である。20000未満であると、制振性が充分とはならず、しかも得られる制振材用エマルションを塗料に配合した状態での安定性が優れたものとはならないおそれがある。250000を超えると、例えば2種以上のアクリル共重合体を使用した場合に相溶性が充分とはならないため制振性のバランスを充分に保つことができず、特に30?40℃域での制振性を向上することができないおそれがあり、また、塗料に配合した状態での低温における造膜性が充分とはならないおそれがある。好ましくは、30000?220000であり、より好ましくは、40000?200000である。・・・」
・「[0113] 本発明の制振材配合物について以下に説明する。
本発明の制振材用エマルション(1)及び(2)は、必要に応じて他成分とともに、制振材配合物を構成することができるものである。このような本発明の制振材用エマルションを必須とする制振材配合物もまた、本発明の1つであり、優れた加熱乾燥性と制振性とを発揮し得る水系制振材を形成することができるものである。
上記制振材配合物としては、例えば、制振材配合物の総量100質量%に対し、固形分を50?90質量%含有してなることが好ましい。より好ましくは、60?90質量%であり、更に好ましくは、70?90質量%である。また、制振材配合物のpHは、7?11とすることが好ましい。より好ましくは、7?9である。
上記制振材配合物における制振材用エマルション(1)及び/又は(2)の配合量としては、例えば、制振材配合物の固形分100質量%に対し、制振材用エマルション(1)及び/又は(2)の固形分が10?60質量%となるように設定することが好ましい。より好ましくは、15?55質量%である。なお、制振材用エマルション(1)及び/又は(2)の固形分とは、すなわち、制振材用エマルション(1)の固形分と制振材用エマルション(2)の固形分との合計質量である。・・・
[0115] 上記他成分としては、例えば、例えば、溶媒;水系架橋剤;可塑剤;安定剤;増粘剤;湿潤剤;防腐剤;発泡防止剤;充填剤;着色剤;分散剤;防錆顔料;消泡剤;老化防止剤;防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、充填剤を含むことが好ましい。また、顔料(着色剤や防錆顔料)を含むことも好適である。・・・
[0118] 上記増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリカルボン酸系樹脂等が挙げられる。増粘剤の配合量としては、制振材用エマルションの固形分100重量部に対し、固形分で0.01?2重量部とすることが好ましい。より好ましくは、0.05?1.5重量部、更に好ましくは、0.1?1重量部である。・・・
[0120] 上記他成分としてはまた、発泡剤を用いることが好ましく、この場合には、後述するように、上記制振材配合物を加熱乾燥して制振材塗膜を形成することが好適である。上記制振材用エマルションに更に発泡剤を混合することにより、制振材の均一な発泡構造の形成と厚膜化等の効果が発揮され、それに起因して充分な加熱乾燥性や高制振性が発現することとなる。このように、本発明の制振材用エマルション及び発泡剤を含んでなる制振材配合物もまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。なお、必要に応じて更に他の成分を含んでいてもよい。
[0121] 上記発泡剤としては、例えば、低沸点炭化水素内包の加熱膨張カプセル、有機発泡剤、無機発泡剤等が好適であり、これらの1種又は2種以上を使用することができる。・・・
上記発泡剤の配合量としては、制振材用エマルション100重量部に対し、0.5?5.0重量部とすることが好ましい。より好ましくは、1.0?3.0重量部である。
[0122] 上記更に発泡剤を含んでなる制振材配合物はまた、無機顔料を含んでなることが好適であり、これにより、上述したような加熱乾燥性や高制振性の発現性をより充分に確認することが可能となる。
上記無機顔料としては、例えば、上述した無機の着色剤や無機の防錆顔料等の1種又は2種以上を使用することができる。
上記無機顔料の配合量としては、制振材用エマルション100重量部に対し、50?700重量部とすることが好ましい。より好ましくは、100?550重量部である。」
・「[0124] 上記制振材配合物は、例えば、基材に塗布して乾燥することにより制振材となる塗膜を形成することになる。基材としては特に限定されるものではない。また、制振材配合物を基材に塗布する方法としては、例えば、刷毛、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて塗布することができる。」
・「[0162]制振材配合物の調製
実施例1?15、及び、比較例1?4で得られた制振材用エマルションを下記の通り配合し、制振材配合物として機械安定性、乾燥塗膜表面状態、耐塗膜崩壊性、及び、制振性を評価した。結果を表1、2に示す。
アクリル共重合エマルション 359部
炭酸カルシウム NN#200^(*1) 620部
分散剤アクアリックDL-40S^(*2) 6部
増粘剤アクリセットWR-650^(*3) 4部
消泡剤 ノプコ8034L^(*4) 1部
発泡剤 F-30^(*5) 6部
* 1:日東粉化工業株式会社製 充填剤
* 2:株式会社日本触媒製 特殊ポリカルボン酸型分散剤(有効成分44%)
* 3:株式会社日本触媒製 アルカリ可溶性のアクリル系増粘剤(有効成分30%)
* 4:サンノプコ株式会社製 消泡剤(主成分:疎水性シリコーン+鉱物油)
* 5:松本油脂社製 発泡剤」
・「[0195] 制振材配合物の調製
実施例28?50で得られた制振材用エマルションを下記の通り配合し、制振材配合物として機械安定性、低温貯蔵安定性、塗膜外観、及び、制振性を評価した。結果を表5?7に示す。
アクリル共重合エマルション 359部
炭酸カルシウム NN#200^(*1) 620部
分散剤 アクアリックDL-40S^(*2) 6部
増粘剤 アクリセットWR-650^(*3) 4部
消泡剤 ノプコ8034L^(*4) 1部
発泡剤 F-30^(*5) 6部
上記*1?5は、上述のものと同様である。
[0196] [表5]

[0197] [表6]

[0198] [表7]

[0199] 表5?7において、t-DMは、t-ドデシルメルカプタンを表す。その他の記号については、上述したTgの評価方法の記載箇所に記載のものと同様である。
表5?7において、乳化剤A?Fは、以下のものを表す。
A:ニューコール707SN [商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルの硫酸ナトリウム塩(エチレンオキサイド7モル付加):日本乳化剤社製]
B:ABEX-26S [商品名、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸ナトリウム塩(エチレンオキサイド26モル付加):ローディア日華社製]
C:アデカリアソープSR-30 [商品名、アリルオキシメチルアルコキシエチルポリオキシエチレンの硫酸エステル塩(エチレンオキサイド30モル付加):ADEKA社製]
D:ラテムルWX [商品名、ポリオキシエチレンオレイルエーテルの硫酸ナトリウム塩(エチレンオキサイド23モル付加):花王社製]
E:ラテムル118B [商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸ナトリウム塩(エチレンオキサイド18モル付加):花王社製]
F:エマルゲン1118S [商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(エチレンオキサイド18モル付加):花王社製]」

エ 甲5の記載事項
甲5には、以下の記載がある。
・「【0078】
【実施例】以下に、本発明を、参考例、実施例および比較例により、さらに一層、具体的に説明することにするが、本発明は、決して、これらの例示例のみに限定されるものではない。以下において、部および%は、特に断りの無い限りは、すべて、重量基準であるものとする。
【0079】参考例1(水性樹脂分散体の合成例1)
【0080】還流冷却器、攪拌機および窒素導入管を取りつけた反応容器中に、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルの330部を仕込んで、110℃にまで昇温し、攪拌を開始した。
【0081】窒素気流下に、同温度で、スチレンの330部、2-エチルヘキシルメタクリレートの395部、メチルメタクリレートの240部、アクリル酸の10部および「NKエステルM230G」[新中村化学(株)製の、メトキシ化ポリエチレングリコール(23モル)メタクリレートの商品名]の25部からなる単量体混合物と、
【0082】tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートの20部およびtert-ブチルパーオキシベンゾエートの10部からなる開始剤と、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルの30部とを、3時間かけて、並行添加した。
【0083】しかるのち、さらに、tert-ブチルパーオキシベンゾエートの5部を添加し、同温度に、6時間のあいだ保持するということによって、反応を完結せしめた。80℃にまで冷却してから、トリエチルアミンの13部を加え、さらに、イオン交換水の1,130部をも加えて、ホモジナイザーにより混合し分散化せしめた。
【0084】かくして得られた、目的とする水性樹脂分散体は、乳白色の液体であって、固形分が40%で、25℃における粘度(以下、粘度と略記する。)が4,000mPa・sec.で、固形分酸価が8であり、
【0085】ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算分子量測定での数平均分子量が11,000で、かつ、重量平均分子量が25,000であり、しかも、有機溶剤含有量が15%なるというものであった。以下、これをDS-1と略称する。
【0086】参考例2(水性樹脂分散体の合成2)
【0087】まず、単量体混合物としては、それぞれ、2-エチルヘキシルメタクリレートの200部、n-ブチルメタクリレートの350部、シクロヘキシルメタクリレートの200部、メチルメタクリレートの200部、メタクリル酸の20部、「NK-エステルM90G」[新中村化学(株)製の、メトキシ化ポリエチレングリコール(9モル)メタクリレートの商品名]の15部および「ブレンマーPME4000」[日本油脂(株)製の、メトキシ化ポリエチレングリコール(90モル)メタクリレート]の15部を用いるというように変更し、
【0088】また、トリエチルアミンの添加量としては、23部と変更した以外は、参考例1と同様の操作を繰り返すということによって、乳白色の、目的とする水性樹脂分散体を得た。この水性樹脂分散体は、固形分が40%で、粘度が5,000mPa・sec.で、固形分酸価が13で、数平均分子量が12,000で、かつ、重量平均分子量が27,000であり、しかも、有機溶剤含有量が16%なるものであった。以下、これをDS-2と略称する。
【0089】参考例3(水性樹脂分散体の合成3)
【0090】まず、初期仕込み用の溶剤としては、エチレングリコールモノ-i-プロピルエーテルの150部およびエチレングリコールメチルエーテルアセテートの180部を用いるというように変更し、
【0091】また、単量体混合物としては、それぞれ、スチレンの300部、n-ブチルメタクリレートの400部、メチルメタクリレートの100部、β-ヒドロキシエチルメタクリレートの150部、アクリル酸の10部、
【0092】「NK-エステルM230G」の10部、「NF-バイソマーPME6E」[第一工業製薬(株)製の、ポリエチレングリコール(6モル)モノメタクリレートの商品名]の30部を用いるというように変更した以外は、
【0093】参考例1と同様の操作を繰り返すということによって、ここに、乳白色の、目的とする水性樹脂分散体を得た。この水性樹脂分散体は、固形分が40%で、粘度が5,000mPa・sec.で、固形分酸価が8で、かつ、固形分水酸基価が70であり、数平均分子量が11,000で、かつ、重量平均分子量が27,000であり、しかも、有機溶剤含有量が15%なるものであった。以下、これをDS-3と略称する。
【0094】参考例4(水性樹脂分散体の合成例4)
【0095】還流冷却器、攪拌機および窒素導入管を装備した反応容器中に、エチレングリコールモノ-i-プロピルエーテルの200部と、N-メチルピロリドンの70部とを仕込んで、110℃にまで昇温して、攪拌を開始した。
【0096】窒素気流下に、n-ブチルメタクリレートの505部、i-ブチルメタクリレートの200部、メチルメタクリレートの90部、β-ヒドロキシエチルメタクリレートの155部、アクリル酸の20部、「NK-エステルM230G」の10部および「NF-バイソマーPME6E」の20部からなる単量体混合物と、
【0097】tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートの25部を、30部のN-メチルピロリドンに溶解した形の開始剤との混合物のうちの、それぞれ、60%を、同温度に保持しつつ、2時間かけて添加せしめた。
【0098】しかるのち、同温度に、1時間のあいだ保持してから、イオン交換水の1,170部と、トリエチルアミンの13部とを添加しつつ、反応容器の内部を、95℃にまで降温した。さらに、単量体混合物と、開始剤混合物との、それぞれの残りを、同温度で、1時間かけて添加せしめ、さらに、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートの5部をも添加して、同温度に、2時間のあいだ保持した。
【0099】80℃にまで冷却してから、トリエチルアミンの13部を加えた。これを、ホモジナイザーで処理せしめるということによって、乳白色の、目的とする水性樹脂分散体を得た。この水性樹脂分散体は、固形分が40%で、粘度が2,500mPa・sec.で、固形分酸価が15で、かつ、固形分水酸基価が70であり、数平均分子量が13,000で、かつ、重量平均分子量が45,000であり、しかも、有機溶剤含有量が13%なるものであった。以下、これをDS-4と略称する。
【0100】参考例5(対照用の水性樹脂分散体の調製例1)
【0101】まず、単量体混合物としては、それぞれ、2-エチルヘキシルメタクリレートの200部、n-ブチルメタクリレートの350部、シクロヘキシルメタクリレートの200部、メチルメタクリレートの200部およびメタクリル酸の50部を用いるというように変更し、
【0102】また、トリエチルアミンの添加量としては、59部を用いるというように変更した以外は、参考例1と同様の操作を繰り返すということによって、乳白色の、目的とする水性樹脂分散体を得た。この水性樹脂分散体は、固形分が40%で、粘度が5,000mPa・sec.で、かつ、固形分酸価が32であり、数平均分子量が11,000で、かつ、重量平均分子量が24,000であり、しかも、有機溶剤含有量が17%なるというものであった。以下、これをDS-5’と略称する。
【0103】参考例6(対照用の水性樹脂分散体の調製例2)
【0104】まず、参考例1の同様の反応容器中に、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルの600部を仕込んで、110℃にまで昇温しながら、攪拌をも開始した。窒素気流下に、同温度で、スチレンの300部、2-エチルヘキシルメタクリレートの400部、メチルメタクリレートの280部
【0105】およびアクリル酸の20部からなる単量体混合物と、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートの15部およびtert-ブチルパーオキシベンゾエートの10部からなる開始剤混合物と、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルの30部とを、4時間かけて、並行添加した。
【0106】しかるのち、さらに、tert-ブチルパーオキシベンゾエート5部を添加し、同温度で8時間のあいだ保持するということによって、反応を完結せしめた。80℃にまで冷却してから、トリエチルアミン26部を加え、さらに、イオン交換水860部を加えて、ホモジナイザーにより、混合し分散化せしめた。
【0107】かくして得られた、対照用の水性樹脂分散体は、半透明液体で、固形分40%、粘度6,000mPa・sec.、固形分酸価13、GPCによるポリスチレン換算分子量測定で数平均分子量11,000、重量平均分子量23,000、有機溶剤含有量27%であった。以下、これをDS-6’と略称する。
【0108】参考例7(対照用の水性樹脂分散体の調製例3)
【0109】まず、単量体混合物としては、それぞれ、エチルアクリレートの400部、メチルメタクリレートの550部、メタクリル酸の20部、「NK-エステルM90G」の15部および「ブレンマーPME4000」の15部を用いるというように変更し、また、トリエチルアミンの添加量としては、23部を用いるというように変更した以外は、参考例1と同様の操作を繰り返すということによって、乳白色の、対照用の水性樹脂分散体を得た。
【0110】かくして得られた、この対照用の水性樹脂分散体は、固形分が40%で、粘度が6,000mPa・sec.で、かつ、固形分酸価が13であり、数平均分子量が12,000で、かつ、重量平均分子量が26,000であり、しかも、有機溶剤含有量が16%なるものであった。以下、これをDS-7’と略称する。」

オ 甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある。
・「【0060】
共重合体水分散液の製造
製造例1
容量2リットルの4つ口フラスコに脱イオン水300部、Newcol 707SF(日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性界面活性剤、不揮発分30%)0.1部を加え、窒素置換後、85℃に保った。この中に下記組成をエマルション化してなるプレエマルションのうち3質量%分及び下記触媒水溶液のうち30質量%分を添加し、攪拌した。添加20分後から下記プレエマルションの97質量%分と下記触媒水溶液の70質量%分を4時間かけて滴下した。
プレエマルション
脱イオン水 287部
メタクリル酸 16部
スチレン 80部
n-ブチルアクリレート 664部
ダイアセトンアクリルアミド 40部
「Newcol 707SF」 53部
触媒水溶液
過硫酸アンモニウム 1.5部
脱イオン水 120部
滴下終了後、脱イオン水56部を加え、これをさらに2時間75℃に保持した後、40℃以下に降温した。次いでアンモニア水でpH8?9に調整し、固形分50%の共重合体水分散液(A-1)を得た。得られた共重合体の重量平均分子量は30万であった。
【0061】
製造例2?7
上記製造例1において、モノマー組成を表1とする以外は製造例1と同様にして共重合体水分散液(A-2)?(A-7)を製造した。
【0062】
【表1】



(3) 甲2に記載された発明(甲2発明)の認定
甲2には、「アクリル系フォーム制振材」(【発明の名称】)と題し、その【請求項1】には、「アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルの重合体エマルジョンから形成された架橋フォームを基材とすることを特徴とする制振材」が記載され、当該制振材に用いられる「アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルの重合体エマルジョン」の具体例として、同文献の【実施例】(【0092】?【0097】、【表1】?【表7】)には、重合体エマルジョンB、D、F、J(単量体組成については【表1】?【表3】参照)が記載されている。
そして、同【実施例】には、これらの重合体エマルジョンB、D、F、Jを用いて調製したフォーム用組成物イ、エ、カ、コ(配合成分及び添加剤(発泡助剤、整泡剤、増粘剤)については【表4】、【表5】参照)が記載され、さらに、当該フォーム用組成物に空気を投入して機械的に攪拌して発泡させた後、不織布からなる基材に塗布し、加熱・乾燥することで、最終的にフォームシート(アクリル系フォーム制振材のシート)を作製すること(【0097】参照)が記載されている。
そうすると、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
・「基材に塗布してアクリル系フォーム制振材シートを作製するためのフォーム用組成物であって、重合体エマルジョンB、D、F、Jを用いて調製したフォーム用組成物イ、エ、カ、コ」
(なお、重合体エマルジョンB、D、F、Jの単量体組成については【表1】?【表3】を、フォーム用組成物イ、エ、カ、コの配合成分及び添加剤(発泡助剤、整泡剤、増粘剤)については【表4】、【表5】をそれぞれ参照のこと)

(4) 本件発明5について
ア 本件発明5と甲2発明との対比
本件発明5に係る制振材配合物と、甲2発明に係るフォーム用組成物イ、エ、カ、コとを対比する。
甲2発明のフォーム用組成物及び重合体エマルジョンは、本件発明5における制振材配合物及び制振材用エマルジョンに相当するものということができる。
また、上記第4の1において定義した「Aモノマー」及び「Bモノマー」を用いると、本件発明5の「Bモノマー」は、0質量%を含むことから任意成分であると解されるため、甲2発明の重合体エマルジョンの単量体組成(モノマー成分)が当該「Bモノマー」を有しないことは相違点とはならない。その上、甲2発明の当該モノマー成分は、「Aモノマー」に属する3種のモノマーを、重合される全モノマー成分100質量%に対して、50?100質量%含むものであるから(例えば、重合体エマルジョンBのモノマー成分は、アクリル酸エチル(エチルアクリレート)、メタクリル酸メチル(メチルメタクリレート)、メタクリル酸(メタアクリル酸)の3種を合計で98重量%含むものである。)、両者の制振材用エマルジョン(重合体エマルジョン)のポリマー(重合体)は、「重合される全モノマー成分100質量%に対して、50?100質量%の「Aモノマー」と、50?0質量%の「Bモノマー」とを含有し、かつ、当該「Aモノマー」及び「Bモノマー」から選択される3種類以上のモノマーを含むモノマー成分を重合してなるものである」点で一致するといえる。
さらに、甲2発明は、増粘剤を有する点でも本件発明5と一致する。
そうすると、両者は、次の点で一致するものということができる。
「制振材配合物であって、
該制振材配合物は、制振材用エマルション、増粘剤を必須成分とし、
該制振材用エマルションは、モノマー成分を重合して得られるポリマーから構成され、
該ポリマーは、重合される全モノマー成分100質量%に対して、50?100質量%の「Aモノマー」と、50?0質量%の「Bモノマー」とを含有し、かつ、当該「Aモノマー」及び「Bモノマー」から選択される3種類以上のモノマーを含むモノマー成分を重合してなるものであって、
該制振材配合物は、増粘剤を含むもの。」
しかしながら、両者は、次の点で相違する。
<相違点1:ポリマーのモノマー成分について>
本件発明5のポリマーは、「Aモノマー」と「Bモノマー」とからなるモノマー成分を重合してなるものであるのに対して、甲2発明のモノマー成分は、当該「Aモノマー」及び「Bモノマー」以外のモノマーを含む点。
<相違点2:ポリマーの物性について>
本件発明5のポリマーは、ポリマー密度が1.13g/cm^(3)以上であり、かつ重量平均分子量が20000?400000であるのに対して、甲2発明においては、これらの物性に関する特定がない点。
<相違点3:配合割合について>
本件発明5の制振材配合物は、制振材配合物の固形分100質量%に対し、制振材用エマルションの固形分が10?60質量%であり、制振材用エマルションの固形分100質量部に対して、増粘剤を固形分で0.01?2重量部含み、制振材用エマルションの100質量部に対して、発泡剤を0.5?5.0重量部含むのに対して、甲2発明は、そのような配合割合ではない点。
<相違点4:用途について>
本件発明5の制振材配合物は、基材に塗布して制振性塗膜を形成するためのものであるのに対して、甲2発明のフォーム用組成物は、基材に塗布してアクリル系フォーム制振材シートを作製するためのものである点。
イ 相違点についての検討
事案にかんがみ、はじめに相違点3、4について検討すると、上記相違点4のとおり、甲2発明は最終的にフォーム制振材を作製するためのフォーム用組成物であって、本件発明5の塗布型の制振材配合物(制振塗料)とは本質的に異なるものである。そのため、上記相違点3のとおり、配合割合、なかでも制振材用エマルションの固形分の配合割合において大きく相違するものとなっている。すなわち、本件発明5は、「制振材配合物の固形分100質量%に対し、制振材用エマルションの固形分が10?60質量%」であるのに対して、甲2発明に係るフォーム用組成物イ、エ、カ、コは、甲2の【0107】【表4】に記載のとおり、固形分のほどんどが重合体エマルジョン(制振材用エマルション)B、D、F、Jであって、当該エマルションの固形分の配合割合は、本件発明5の規定を大きく上回るものとなっている。
このように相違点3に係る配合割合の違いは、上記相違点4に係る用途の違いに起因するものと解されるところ、甲2発明の上記用途を変更して、本件発明5の上記用途とすることは、甲2及び甲3?6のいずれの証拠にも記載ないし示唆されておらず、甲2発明の成立性自体を損なうものというべきであるから、当業者にとって技術的に困難なことというほかない。したがって、上記相違点4に係る本件発明5の用途に関する発明特定事項を容易想到の事項ということはできない。また、そうである以上、当該用途に起因して生じる上記相違点3に係る本件発明5の配合割合に関する発明特定事項も容易想到の事項ということはできない。
そして、本件発明5は、当該用途及び配合割合に係る発明特定事項を含む、すべての発明特定事項を兼ね備えることによりはじめて、本件特許明細書【0079】に記載された「より高いレベルで制振性に優れる良好な制振材を形成することができる。そして、各種構造体における振動や騒音を防止して静寂性を保つことができ、例えば、自動車の室内床下等に用いられている他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等にも広く利用される制振材配合物とすることができる。」という顕著な効果を奏するものであり、このことは、実施例の実験結果により裏付けられている。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、当業者が甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5) 本件発明6?8について
本件発明6?8は、本件発明5の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(4)と同様の理由により、甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 理由2(サポート要件)についての当審の判断
当該理由2(サポート要件)の具体的な指摘事項は、概略、次のとおりである。
すなわち、本件発明の課題は、本件特許明細書の【0007】の記載によれば、「より高いレベルで制振性に優れる制振材を形成することができる制振材用エマルションを提供すること」であると認められるところ、発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、当業者において、本件発明の課題が解決できると認識できる範囲は、その優れた制振性が確認された実施例及び参考例のポリマー、すなわち、特定のモノマー成分を特定の配合割合で組み合わせて重合したポリマーか、これに類似するポリマーを用いた領域にとどまるというべきであるため、本件発明は、当該範囲を超えているといわざるを得ない、というものである。
しかしながら、本件訂正後の請求項5及びこれを引用する請求項6?8に係る発明は、上記第4の2のとおり、重合されるモノマー成分を、上記「Aモノマー」及び「Bモノマー」からなるものに特定され、その他のモノマーを含有しないものとなったため、当該発明のポリマーは、その優れた制振性が確認された実施例及び参考例のポリマーに類似するポリマーに相当するものとなったと認められる。
したがって、本件訂正後の請求項5?8に係る発明は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、当業者において、本件発明の課題が解決できると認識できる範囲のものであり、当該請求項5?8の記載はサポート要件に適合するものであるから、標記理由2は、本件訂正後の請求項5?8に係る特許に対しては妥当しないといえる。

3 小括
以上のとおりであるから、標記取消理由により、本件特許を取り消すことはできない。

第6 上記取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について

1 標記特許異議申立理由の概要
上記取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、次のとおりである。
(1) (新規性進歩性:分割不適法に依拠し甲第1号証に記載された発明を主引用発明とするもの)本件発明は、下記甲第1号証(以下、「甲1」という。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、当該甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・甲1:特開2010-106168号公報
なお、甲1は、本件特許に係る出願の原出願にあたる特願2008-280414号の公開公報である。
(2) (サポート要件:実質的に分割不適法に依拠するもの)本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(3) (進歩性:甲3又は甲4に記載された発明を主引用発明とするもの)本件発明は、甲3又は甲4に記載された発明を主引用発明として、当該主引用発明と甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 特許異議申立理由(1)、(2)についての当審の判断
標記特許異議申立理由は、端的にいうと、本件特許に係る出願が適法になされた分割出願ではないこと、具体的には、上記第4の1において定義した「Aモノマー」及び「Bモノマー」という用語を用いていうと、本件訂正後の請求項5には、これら「Aモノマー」及び「Bモノマー」の割合につき、重合される全モノマー成分100質量%に対してそれぞれ「50?100質量%」及び「50?0質量%」と記載されているところ、当該割合は、本件特許に係る出願の原出願である特願2008-280414号の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「原出願の当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものではないこと、に依拠するものである。
そこで、まず、本件特許に係る出願の分割の適否について検討をする。
原出願の当初明細書等の明細書(甲1参照)の【0028】、【0029】及び【0087】【表1】(本件特許明細書の【0029】、【0030】及び【0088】【表1】と記載内容は同じ。)には、以下の記載がある(なお、下線は当審が付したもの)。
・「【0028】
上記ポリマーを形成するためのモノマー成分としては、例えば、(メタ)アクリル系モノマーと、その他の共重合可能なエチレン系不飽和モノマーを含んでなる形態であってもよい。・・・
上記(メタ)アクリル系モノマーと、その他の共重合可能なエチレン系不飽和モノマーとの含有割合としては、全モノマー成分100質量%に対して(メタ)アクリル系モノマーを10?100質量%、その他の共重合可能なエチレン系不飽和モノマーを0?90質量%含んでなることが好ましい。・・・より好ましくは、全モノマー成分100質量%に対して(メタ)アクリル系モノマーを20?100質量%、その他の共重合可能なエチレン系不飽和モノマーを0?80質量%含んでなることである。・・・」
・「【0029】
上記ポリマーは、(メタ)アクリル系モノマーを主体として重合されてなることが好ましい。・・・
なお、(メタ)アクリル系モノマーを主体として重合される場合、本発明の制振材用エマルションの製造において、重合される全モノマー成分100質量%に対して50質量%以上の(メタ)アクリル系モノマーを含有するモノマー成分を重合してなることが好ましい。(メタ)アクリル系モノマーの含有量としてより好ましくは、55質量%以上であり、更に好ましくは、60質量%以上である。」
・「【0087】
【表1】


上記【0028】には、上記「Aモノマー」と「Bモノマー」を含んでなる形態であってもよいことが記載され、上記【0029】には、当該「Aモノマー」を主体として重合されることが好ましく、その場合、重合される全モノマー成分100質量%に対して50質量%以上の「Aモノマー」を含有するモノマー成分を重合してなることが好ましいことが記載されている。そして、【0087】【表1】には、例えば、実施例1として、「Aモノマー」と「Bモノマー」からなるモノマー成分であって、「Aモノマー」に属するメチルアクリレート、エチルアクリレート及びアクリル酸が合計で67重量%、「Bモノマー」に属する酢酸ビニルが33重量%からなるものが記載されている。
これらの記載を併せ考えると、原出願の当初明細書等には、重合される全モノマー成分100質量%に対して、「Aモノマー」及び「Bモノマー」を、それぞれ「50?100質量%」及び「50?0質量%」とすることが記載されているものと認められるから、本件訂正後の請求項5に記載されたこれらのモノマーの割合は、原出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものということができる。
そうすると、本件特許に係る出願が適法に分割されたものではないとすることはできない。
そうである以上、原出願の公開公報である甲1に基づく新規性及び進歩性の主張は当を得たものとはいえない。
また、サポート要件違反の主張は、本件訂正後の請求項5に記載された上記モノマーの割合は、原出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内にはなく、ひいては、当該請求項5に係る発明は、当該原出願の当初明細書等と同様の事項を記載した本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないことを根拠とするものであるから、当該主張を採用することもできない。
したがって、標記特許異議申立理由(1)、(2)により、本件特許を取り消すことはできない。

3 特許異議申立理由(3)についての当審の判断
(1) 甲3に記載された発明(甲3発明)の認定
甲3(記載内容については、上記第5の2(2)イを参照のこと)には、「制振材用重合体水性分散液、制振材用塗料及び制振材」(【発明の名称】)と題し、その【請求項1】には、次の制振材用重合体水性分散液が記載されている。
「水性媒体と、該水性媒体中に分散する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有する粒子径が200?500nmのアクリル系重合体(A)粒子と、
該水性媒体中に分散する酸価が20?80であり、且つ、粒子径が200?500nmであるカルボキシル基含有共役ジエン系重合体(B)粒子とを必須構成成分として含有する制振材用重合体水性分散液であって、
前記(A)粒子と前記(B)粒子との配合比率〔(A)/(B)〕(重量比)が40/60?90/10であることを特徴とする制振材用重合体水性分散液。」
そして、同【0063】、【0064】、【0067】、【0068】及び【0075】【表1】には、当該重合体(A)、(B)粒子の重合体水性分散液の具体例として、原料モノマー組成をブチルアクリレート50部、メチルメタクリレート48部、メタクリル酸2部とする合成例1で得られた重合体水性分散液(以下、「合成例1の重合体水性分散液」という。)と、原料モノマー組成をスチレン64部、ブタジエン32部、アクリル酸4部とする合成例3で得られた重合体水性分散液(以下、「合成例3の重合体水性分散液」という。)が記載され、同【0076】の実施例1には、重合体(A)粒子の重合体水性分散液として、上記「合成例1の重合体水性分散液」を固形分重量基準で50部と、重合体(B)粒子の重合体水性分散液として、上記「合成例3の重合体水性分散液」を固形分重量基準で50部配合し、この水性分散液の固形分重量基準で100部に対し、下記配合比率で充填剤(炭酸カルシウム)、分散剤、消泡剤、増粘剤を配合して得た制振材用塗料が記載されている。
重合体水性分散液 : 100.0部(配合部数は何れも固形分の部数である)
炭酸カルシウム : 300.0部
分散剤 : 1.5部
消泡剤 : 0.5部
増粘剤 : 1.0部
・分散剤:サンノプコ(株)製分散剤ノプコ44C
・消泡剤:サンノプコ(株)製分散剤ノプコ8034L
・増粘剤:日本アクリル化学(株)製プライマルTT-935」
そうすると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
・「「合成例1の重合体水性分散液」、「合成例3の重合体水性分散液」、充填剤(炭酸カルシウム)、分散剤、消泡剤、増粘剤を配合して得た、上記実施例1の制振材用塗料」
(なお、配合比率などについては上記【0076】を参照のこと)

(2) 甲4に記載された発明(甲4発明)の認定
甲4(記載内容については、上記第5の2(2)ウを参照のこと)には、「制振材用エマルション」(発明の名称)と題し、その請求の範囲[1]には、次の制振材用エマルションが記載されている。
「単量体成分を乳化重合してなるエマルションを含む制振材用エマルションであって、
該エマルションは、アニオン性乳化剤及び/又は反応性乳化剤を用いて乳化重合して得られたものであり、エマルション粒子の平均粒子径が100?450nmであることを特徴とする制振材用エマルション。」
そして、同[0113]には、当該制振材用エマルションに他成分を配合して得た制振材配合物について記載されているところ、その具体例として、同[0195]には、実施例39、42、49で得られた制振材用エマルション(単量体成分の組成は[0197][表6]、[0198][表7]参照)を下記の通り配合して得た制振材配合物が記載されている。
アクリル共重合エマルション 359部
炭酸カルシウム NN#200^(*1) 620部
分散剤 アクアリックDL-40S^(*2) 6部
増粘剤 アクリセットWR-650^(*3) 4部
消泡剤 ノプコ8034L^(*4) 1部
発泡剤 F-30^(*5) 6部
* 1:日東粉化工業株式会社製 充填剤
* 2:株式会社日本触媒製 特殊ポリカルボン酸型分散剤(有効成分44%)
* 3:株式会社日本触媒製 アルカリ可溶性のアクリル系増粘剤(有効成分30%)
* 4:サンノプコ株式会社製 消泡剤(主成分:疎水性シリコーン+鉱物油)
* 5:松本油脂社製 発泡剤
そうすると、甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
・「上記実施例39、42、49で得られた制振材用エマルション、充填剤(炭酸カルシウム)、分散剤、増粘剤、消泡剤、発泡剤を配合して得た制振材配合物」
(なお、実施例39、42、49で得られた制振材用エマルションの単量体成分の組成については、[0197][表6]、[0198][表7]を、他成分の配合比率などについては[0195]をそれぞれ参照のこと)

(3) 本件発明5について
ア 本件発明5と甲3発明及び甲4発明との対比
甲3発明及び甲4発明はいずれも、本件発明5と同じ塗布型の制振材配合物(制振塗料)であり、制振材用エマルションを構成するポリマーのモノマー原料成分として、(メタ)アクリル系モノマーを使用している点などにおいて本件発明5と共通するものの、当該ポリマーのポリマー密度について、本件発明5は、「1.13g/cm^(3)以上」と特定しているのに対して、甲3発明及び甲4発明にはそのような特定はなく、また、当該ポリマー密度が本件発明5が規定する数値範囲内にあるとは認められない点において、少なくとも両者は相違するものである。
イ 相違点についての検討
この相違点につき、特許異議申立人は、甲2に記載された上記重合体エマルジョンB、D、F、J(上記第5の2の(2)ア、(3)参照)との組合せなどについて主張するが、甲3発明及び甲4発明においてわざわざ甲2に記載された上記重合体エマルジョンB、D、F、Jを採用することを動機付ける根拠は見当たらず、また、甲2発明は上記第5の2(4)のとおり、フォーム制振材を作製するためのフォーム用組成物であって、甲3発明及び甲4発明(さらには本件発明5)の塗布型の制振材配合物(制振塗料)とは本質的に異なるものであることから、当該組合せを容易想到のものということはできない。
そして、その他の証拠をみても、当該相違点を容易想到の事項というに足りる証拠は認められず、本件発明5は、当該相違点に係る発明特定事項を含む、すべての発明特定事項を兼ね備えることによりはじめて、本件特許明細書【0079】記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明5は、当業者が甲3発明及び甲4発明のいずれの発明に基づいても容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 本件発明6?8について
本件発明6?8は、本件発明5の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(3)と同様の理由により、当業者が甲3発明及び甲4発明のいずれの発明に基づいても容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5) 小括
以上のとおりであるから、標記特許異議申立理由(3)により、本件特許を取り消すことはできない。

第7 むすび

以上のとおり、本件特許5?8は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条の規定に違反してされたものであるともいえず、同法第113条第2号又は第4号に該当するとは認められないから、上記取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許5?8を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、上記第2のとおり、本件訂正により、請求項1?4は削除されたため、本件の請求項1?4に係る特許に対する特許異議の申立ては、対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
基材に塗布して制振性塗膜を形成する制振材配合物であって、
該制振材配合物は、制振材用エマルション、顔料、発泡剤及び増粘剤を必須成分とし、
該制振材用エマルションは、モノマー成分を重合して得られるポリマーから構成され、
該ポリマーは、重合される全モノマー成分100質量%に対して50?100質量%の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の金属塩、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレートから選択される(メタ)アクリル系モノマーと、
50?0質量%のギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンから選択されるその他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとからなり、かつ、
該(メタ)アクリル系モノマー、及び、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼンから選択されるその他の共重合可能なエチレン性不飽和モノマーから選択される3種類以上のモノマーを含むモノマー成分を重合してなるものであって、
該ポリマーは、ポリマー密度が1.13g/cm^(3)以上であり、かつ
重量平均分子量が20000?400000であり、
該制振材配合物は、制振材配合物の固形分100質量%に対し、制振材用エマルションの固形分が10?60質量%であり、制振材用エマルションの固形分100重量部に対して、増粘剤を固形分で0.01?2重量部含み、
制振材用エマルション100重量部に対して、発泡剤を0.5?5.0重量部含む
ことを特徴とする制振材配合物。
【請求項6】
前記ポリマーは、ホモポリマー密度が1.15g/cm^(3)以上のモノマーを、全モノマー成分100質量%に対して20質量%以上含有するモノマー成分を重合してなることを特徴とする請求項5に記載の制振材配合物。
【請求項7】
前記ポリマーは、ガラス転移温度が-20?40℃であることを特徴とする請求項5又は6に記載の制振材配合物。
【請求項8】
前記制振材用エマルションから形成された膜は、動的粘弾性測定における損失正接が2.5以上であることを特徴とする請求項5?7のいずれかに記載の制振材配合物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-06 
出願番号 特願2016-126484(P2016-126484)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 113- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉岡 沙織  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
天野 宏樹
登録日 2017-11-24 
登録番号 特許第6247347号(P6247347)
権利者 株式会社日本触媒
発明の名称 制振材用エマルション及び制振材配合物  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  

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