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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1361466
異議申立番号 異議2019-700537  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-09 
確定日 2020-03-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6449960号発明「多孔質膜」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6449960号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6449960号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6449960号(以下「本件特許」という。)に係る出願は,平成26年 7月29日の出願(特願2014-153627)の一部を平成28年 6月27日に新たな出願(特願2016-126312)とし,更にその一部を平成29年10月 4日に新たな出願(特願2017-194194)としたものであり,平成30年12月14日にその特許権の設定登録がなされ,平成31年 1月 9日に特許掲載公報が発行され,その後,令和 1年 7月 9日に特許異議申立人 柴田留理子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ,同年 8月28日付けで取消理由通知がされ,同年10月28日付けで特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され,同年12月13日付けで申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
上記訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は,次のとおり,本件訂正前の請求項1における
「前記疎水性及びノニオン性の親水性基を有する化合物が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルである、」
を,
「前記疎水性及びノニオン性の親水性基を有する化合物が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、
前記α-アルミナ100質量部に対する前記化合物の含有量は0.3?10質量部である、」
に訂正する,というものである。

2 訂正の目的の適否
本件訂正は,訂正前の請求項1において,疎水性及びノニオン性の親水性基を有する化合物であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量を,α-アルミナ100質量部に対して0.3?10質量部に特定するものであり,請求項1に係る発明特定事項を,α-アルミナに対する疎水性及びノニオン性の親水性基を有する化合物であるポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量によって限定しようとするものである。
よって,本件訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?8はいずれも,請求項1を直接又は間接的に引用するものであって,請求項1の訂正に連動して訂正されるものである。
よって,本件訂正前の請求項1?8は,特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

4 新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件特許明細書の段落【0019】には,「無機粉末100質量部に対する本化合物の含有量は、好ましくは0.05?10質量部である。…さらに好ましくは0.3質量部以上である。」と記載され,ここで,「本化合物」は,段落【0016】?【0018】より,「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」であり,また,「無機粉末」は,段落【0021】より,「α-アルミナ」である。
よって,本件訂正は,新規事項の追加に該当せず,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないから,特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項,第6項の規定に適合する。

5 独立特許要件について
本件においては,訂正前の全ての請求項について特許異議の申立てがされているので,特許法第120条の9第9項で読み替えて準用する第126条第7項は適用されない。

6 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり,本件訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,同条第4項の規定に適合し,かつ,同条第9項において準用する第126条第5項,第6項の規定に適合する。よって,訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で検討したとおり,令和 1年10月28日提出の訂正請求書による本件訂正は適法なものである。そして,本件訂正後の請求項1?8に係る発明(以下,各々「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。なお,下線は訂正箇所を示す。

「【請求項1】
疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、α-アルミナと、バインダー樹脂と、を含み、
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、
前記α-アルミナ100質量部に対する前記化合物の含有量は0.3?10質量部である、非水電解液二次電池用多孔質膜(ただし、アルミナ、ポリビニルアルコール、ホウ酸、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルをこの組合せで含むものを除く)。
【請求項2】
前記α-アルミナと前記バインダー樹脂との合計量に対する前記α-アルミナの割合が70質量%以上である請求項1に記載の非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項3】
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物が、ノニオン性界面活性剤である請求項1または2に記載の非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項4】
ノニオン性の親水性基が、ポリオキシエチレン構造を有する請求項1?3のいずれかに記載の非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項5】
バインダー樹脂が、水溶性の樹脂である請求項1?4のいずれかに記載の非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の多孔質膜と、当該多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜と、が積層された非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項1?5のいずれかに記載の多孔質膜を含む非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項8】
請求項6または7に記載の非水電解液二次電池用セパレータを用いた非水電解液二次電池。」

第4 特許異議申立ての理由及び取消理由の概要
申立人は,次の1?3の理由により,本件特許は取り消されるべきである旨を申立て,当審は,このうち,1及び2を採用し,取消理由として通知した。
また,申立人が提出した証拠方法は次の4のとおりであって,いずれも,本件特許に係る優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものである。なお,甲第7号証及び甲第8号証は,令和 1年12月13日付けの意見書(以下「申立人意見書」という。)とともに提出されたものである。

1 申立理由1(採用)
本件訂正前の請求項1?8に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であるか,同発明に基いて,本件特許に係る優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反して特許されたものである。

2 申立理由2(採用)
本件訂正前の請求項1?8に係る発明は,甲第2号証に記載された発明であるか,同発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反して特許されたものである。

3 申立理由3
本件訂正前の請求項1?8に係る発明は,甲第3号証に記載された発明,及び甲第1,2,6号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

4 証拠方法
甲第1号証:特開2013-145763号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:国際公開第2012/29805号(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2007-280911号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:製品データブック(抜粋)高純度アルミナ(HPA),住友化学 無機材料事業部 アルミナ製品部 高機能材料部,インターネット(以下「甲4」という。)
甲第5号証:国際公開第2015/45522号(以下「甲5」という。)
甲第6号証:国際公開第2006/123811号(以下「甲6」という。)
甲第7号証:特開2000-30682号公報(以下「甲7」という。)
甲第8号証:特開2002-316472号公報(以下「甲8」という。)

第5 甲号証の記載
1 甲第1号証の記載
(1)甲1は,「二次電池多孔膜用スラリー組成物、二次電池用電極、二次電池用セパレータ及び二次電池」(発明の名称)に関するものであって,次の記載がある。下線は当審が付した(以下同じ。)。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性粒子と、粒子状重合体Aと、水とを含み、
前記粒子状重合体Aが、アリル架橋性単量体単位を5質量%以上40質量%以下、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含有する、二次電池多孔膜用スラリー組成物。
【請求項2】?【請求項11】(略)」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池多孔膜用スラリー組成物、二次電池用電極、二次電池用セパレータおよび二次電池に関するものである。」

「【0024】
<非導電性粒子>(略)
【0025】
これらのなかでも、多孔膜用スラリー組成物を用いて形成される多孔膜を二次電池に適用した際の、電解液中での安定性と電位安定性の観点からは、酸化物粒子が好ましく、なかでも吸水性が低く耐熱性(例えば180℃以上の高温に対する耐性)に優れる観点から酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムがより好ましく、酸化アルミニウムがさらに好ましい。そして酸化アルミニウムとしては、球状アルミナ、不定形アルミナ、板状アルミナ、融着アルミナなどが挙げられるが、二次電池の出力特性の観点から、融着アルミナが特に好ましい。なお、融着アルミナとは、アルミナ粒子同士が融着している箇所(融着部)を有するアルミナであり、例えば、住友化学社製「AKP-3000」などが挙げられる。なお、融着部の有無はSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて確認することができる。」

「【0027】
<粒子状重合体A>
粒子状重合体Aは多孔膜において結着材(バインダー)として機能し、多孔膜の機械的強度を維持する役割や、多孔膜に含まれる成分が多孔膜から脱離しないように保持する役割を果たす。
そして、本発明の二次電池多孔膜用スラリー組成物に含まれる粒子状重合体Aは、アリル架橋性単量体単位を5質量%以上40質量%以下、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含有することが必要である。なお、粒子状重合体Aは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
以下、粒子状重合体Aを製造するために必須であるアリル架橋性単量体および(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、並びに、粒子状重合体Aの製造に使用し得るその他任意の単量体について詳述する。」

「【0056】
<重合体B>
また、本発明の二次電池多孔膜用スラリー組成物は、アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満である(または、アリル架橋性単量体単位を実質的に含まない)重合体Bを更に含むことが好ましい。このような重合体Bを含むことで、スラリー組成物を用いて形成される多孔膜の諸特性や、該多孔膜を適用した二次電池の諸特性を向上させることができる。このような重合体Bとしては、アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満であれば特に限定されず、水中において非粒子形状の重合体(非粒子状重合体)であっても、粒子状重合体であってもよい。なお、本発明の二次電池多孔膜用スラリー組成物は、重合体Bとして、非粒子状重合体と粒子状重合体との双方を含んでいてもよい。そして、本発明の二次電池多孔膜用スラリー組成物は、好ましくは、非粒子状重合体を含む。
アリル架橋性単量体単位の含有割合が5質量%未満の非粒子状重合体(非粒子状重合体B)としては、本発明の多孔膜用スラリー組成物の分散安定性向上の観点から、好ましくは、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、(メタ)アクリル酸単量体単位を含有する共重合体、またはそれらの塩などの、水溶性高分子が挙げられ、カルボキシメチルセルロースが特に好ましい。ここで、高分子が「水溶性」であるとは、25℃において、その化合物0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5質量%未満となることをいう。」

「【実施例】
【0098】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。
実施例および比較例において、粒子状重合体Aの重合率、ゲル分率は以下の方法により算出し、体積平均粒子径は以下の方法により測定した。さらに、多孔膜と基材との密着強度、二次電池の出力特性と高温サイクル特性は、以下の方法により測定した。
【0099】(略)
【0100】
(実施例1)
<粒子状重合体A1の製造>
重合缶(A)に、イオン交換水102部、乳化剤としてドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム0.2部、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.3部を加え、70℃に加温し攪拌した。次いで、上記とは別の重合缶(B)に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としてn-ブチルアクリレート72.0部、酸性基含有単量体としてメタクリル酸2.0部、アリル架橋性単量体としてオルソフタル酸ジアリル25.0部、水酸基含有ビニル単量体としてヒドロキシエチルアクリレート1.0部、乳化剤としてドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム0.7部、及び、イオン交換水60部を加えて攪拌することで、エマルジョンを作製した。エマルジョンを、約200分かけて、重合缶(B)から重合缶(A)に逐次添加した後、約120分攪拌し、冷却して反応を終了し、その後、4%NaOH水溶液でpH調整し、粒子状重合体A1の水分散液を得た。この時の重合率は99%、粒子状重合体A1の体積平均粒子径は120nm、ゲル分率は90%以上であった。
【0101】
<二次電池多孔膜用スラリー組成物の調製>
非導電性粒子としての融着アルミナ粒子(AKP-3000、住友化学社製、平均粒子径0.5μm)を100部、非粒子状重合体Bに相当する増粘剤としてエーテル化度が0.8のカルボキシメチルセルロースを固形分相当で0.5部(固形分濃度2%)、更に水を固形分濃度が40質量%になるように混合して、ビーズミルを用いて分散させた。その後、粒子状重合体A1を固形分相当で4部(水分散液中の固形分濃度40%)、及び分散剤としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(サンノプコ社製、SNウェット980)を0.2部添加し、二次電池多孔膜用スラリー組成物を調製した。
【0102】
<多孔膜付きセパレータの作製>
上述の二次電池多孔膜用スラリー組成物を、幅250mm、長さ1500mm、厚さ15μmの湿式法により製造された単層のポリエチレン製有機セパレータ上に、乾燥後の厚さが5μmになるようにグラビアコーターを用いて20m/minの速度で塗工した。次いで50℃の乾燥炉で乾燥しポリエチレン製有機セパレータ上に多孔膜を形成し、巻き取った。
同様にして、ポリエチレン製有機セパレータのもう片面にも、上述の二次電池多孔膜用スラリー組成物を用いて厚さが5μmの多孔膜を形成し、両面に厚さ5μmの多孔膜を備え、全体の厚みが25μmの多孔膜付きセパレータを得た。
作製した多孔膜付きセパレータを用いて、多孔膜と有機セパレータとの密着強度を評価した。結果を表1に示す。
【0103】
<正極の作製>(略)
【0104】
<負極の作製>(略)
【0105】
<二次電池の作製>
(中略)なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒に、LiPF_(6)を1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。
作製した二次電池を用いて、出力特性、高温サイクル特性を評価した。結果を表1に示す。」

(2)甲1に記載された発明
以上の摘示,特に実施例1の記載よりみて,甲1には次の3発明が記載されているといえる。

ア 「融着アルミナ粒子(AKP-3000、住友化学社製、平均粒子径0.5μm)を100部、エーテル化度が0.8のカルボキシメチルセルロースを固形分相当で0.5部(固形分濃度2%)、更に水を固形分濃度が40質量%になるように混合して、ビーズミルを用いて分散させた後、n-ブチルアクリレート72.0部、メタクリル酸2.0部、オルソフタル酸ジアリル25.0部、ヒドロキシエチルアクリレート1.0部、を重合した粒子状重合体A1を固形分相当で4部(水分散液中の固形分濃度40%)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(サンノプコ社製、SNウェット980)を0.2部添加した、二次電池多孔膜用スラリー組成物を、幅250mm、長さ1500mm、厚さ15μmの湿式法により製造された単層のポリエチレン製有機セパレータ上に、乾燥後の厚さが5μmになるようにグラビアコーターを用いて20m/minの速度で塗工し、次いで50℃の乾燥炉で乾燥し、ポリエチレン製有機セパレータ上に形成した、多孔膜」(以下「甲1多孔膜発明」という。)

イ 「ポリエチレン製有機セパレータの両面に厚さ5μmの甲1多孔膜発明に係る多孔膜を備え、全体の厚みが25μmの、多孔膜付きセパレータ」(以下「甲1セパレータ発明」という。)

ウ 「甲1セパレータ発明に係るセパレータを用いて作製した、二次電池」(以下「甲1二次電池発明」という。)

2 甲第2号証の記載
(1)甲2は,「電池多孔膜用スラリー組成物、二次電池用多孔膜の製造方法、二次電池用多孔膜、二次電池用電極、二次電池用セパレーター及び二次電池」(発明の名称)に関するものであって,次の記載がある。

「請求の範囲
[請求項1]
非導電性粒子70重量部?99重量部と、
スルホン酸基を有し、重量平均分子量が1000以上15000以下である水溶性重合体0.1重量部?4重量部と、
非水溶性粒子状重合体0.1重量部?10重量部と、
水とを含む、電池多孔膜用スラリー組成物。
[請求項2]?[請求項12](略)」

「[発明を実施するための形態]
[0018](略)
[0019]
[1.電池多孔膜用スラリー組成物]
本発明の電池多孔膜用スラリー組成物(以下、適宜「本発明のスラリー組成物」という。)は、少なくとも、非導電性粒子と、スルホン酸基を有する水溶性重合体と、非水溶性粒子状重合体と、水とを含む。本発明のスラリー組成物では一部の水溶性重合体は水に溶解しているが、別の一部の水溶性重合体が非導電性粒子の表面に吸着することによって、非導電性粒子が水溶性重合体の層(分散安定層)で覆われて、非導電性粒子の水中での分散性が向上している。
[0020]
[1-1.非導電性粒子]
本発明のスラリー組成物は、非導電性粒子を含む。非導電性粒子としては、通常は無機粒子を用いる。無機粒子は分散安定性に優れ、本発明のスラリー組成物において沈降し難く、均一なスラリー状態を長時間維持することができるからである。中でも、非導電性粒子の材料としては、電気化学的に安定であり、また、水溶性重合体及び非水溶性粒子状重合体と混合して本発明のスラリー組成物を調製するのに適した材料が好ましい。このような観点から、非導電性粒子の材料の好ましい例を挙げると、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO_(3) 、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化硼素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。また、これらの粒子は必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等が施されていてもよい。さらに、非導電性粒子は、1つの粒子の中に、前記の材料のうち1種類を単独で含むものであってもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含むものであってもよい。また、非導電性粒子は、異なる材料で形成された2種類以上の粒子を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、電解液中での安定性と電位安定性の観点から酸化物粒子が好ましく、中でも吸水性が低く耐熱性(例えば180℃以上の高温に対する耐性)に優れる観点から酸化チタン、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムがより好ましく、酸化アルミニウムが特に好ましい。」

「[0024]
[1-2.水溶性重合体]
本発明のスラリー組成物は、水溶性重合体を含む。ここで水溶性重合体とは、25℃において、その重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5重量%未満の重合体をいう。一方、非水溶性の重合体とは、25℃において、その重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90重量%以上の重合体をいう。
[0025]
本発明のスラリー組成物が水溶性重合体を含むことにより、本発明のスラリー組成物における非導電性粒子の分散性を改善することができる。これは、溶媒である水に溶解した水溶性重合体が非導電性粒子の表面に吸着して該表面を覆うことにより、非導電性粒子の凝集が抑制されるためと考えられる。このように非導電性粒子の分散性を改善できるので、本発明のスラリー組成物は経時安定性が改善され、長期間保存しても非導電性粒子の粒子径が大きく変化することが少ない。」

「[0039]
[1-3.非水溶性粒子状重合体]
本発明のスラリー組成物は、非水溶性粒子状重合体を含む。非水溶性粒子状重合体は本発明の多孔膜において結着剤として機能し、本発明の多孔膜の機械的強度を維持する役割を果たす。非水溶性粒子状重合体としては、非水溶性の粒子状の重合体であれば任意の種類の重合体を使用してもよいが、中でも、(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含む重合体が好ましい。(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含む非水溶性粒子状重合体は、酸化還元に安定で、高寿命の電池を得やすい。また、これらの繰り返し単位を含むアクリレートを非水溶性粒子状重合体として用いることで、本発明の多孔膜の柔軟性が向上し、それによりスリット時や捲回時に本発明の多孔膜から非導電性粒子が脱落することを抑制できる。」

「[0066]
非水溶性粒子状重合体の製造方法は特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの、いずれの方法も用いることができる。中でも、水中で重合をすることができ、そのまま本発明のスラリー組成物の材料として使用できるので、乳化重合法および懸濁重合法が好ましい。また、非水溶性粒子状重合体を製造する際、その反応系には分散剤を含ませることが好ましい。分散剤は通常の合成で使用されるものでよく、具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルサルフェートナトリウム塩等のエトキシサルフェート塩;アルカンスルホン酸塩;アルキルエーテルリン酸エステルナトリウム塩;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体等の非イオン性乳化剤;ゼラチン、無水マレイン酸-スチレン共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、重合度700以上かつケン化度75%以上のポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物;などが挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも好ましくは、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩であり、更に好ましくは、耐酸化性に優れるという点から、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム等のベンゼンスルホン酸塩である。分散剤の量は任意に設定でき、モノマー総量100重量部に対して、通常0.01重量部?10重量部程度である。」

「[0069]
[1-5.粘度調整剤]
本発明のスラリー組成物は、粘度調整剤を含んでいてもよい。粘度調整剤を含むことにより、本発明のスラリー組成物の粘度を所望の範囲にして、非導電性粒子の分散性を高めたり、本発明のスラリー組成物の塗工性を高めたりすることができる。
粘度調整剤としては、水溶性の多糖類を使用することが好ましい。多糖類としては、例えば、天然高分子化合物、セルロース半合成高分子化合物などが挙げられる。なお、粘度調整剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
[0070]?[0075](略)
[0076]
これらの中でも、カチオン性、アニオン性また両性の特性を取りうることから、セルロース半合成高分子化合物、そのナトリウム塩及びそのアンモニウム塩が好ましい。さらにその中でも、非導電性粒子の分散性の観点から、アニオン性のセルロース半合成高分子化合物が特に好ましい。」

「実施例
[0145]
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、重量基準である。」
[0146]?[0159](略)
[0160]
[製造例1.水溶性重合体Aの製造]
攪拌機、還流冷却管および温度計を備えた容量1LのSUS製セパラブルフラスコに、脱塩水を249.0gを予め仕込み、90℃にて攪拌しながら、濃度35%のアクリル酸ナトリウム水溶液286g(固形分100g)と、濃度40%の3-アリロキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム水溶液250g(固形分100g)と、濃度5%の過硫酸アンモニウム水溶液200gとを、それぞれ別々に3.5時間かけて滴下した。全ての滴下終了後、さらに30分間にわたって沸点還流状態を維持して重合を完結させ、共重合体である水溶性重合体Aの水溶液を得た。得られた水溶性重合体Aの水溶液を分析したところ、水溶性重合体Aの重量平均分子量は6,000であった。この水溶性重合体Aが含むスルホン酸単位の量は50重量%であり、水溶性重合体A中のスルホン酸基の重量割合は15重量%であった。
[0161]?[0164](略)
[0165]
[製造例6.非水溶性粒子状重合体1の製造]
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部、過流酸アンモニウム0.3部、並びに、乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名「エマールD-3-D」)0.82部、及び、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル社製、製品名「エマルゲン-120」)0.59部をそれぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器でイオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、重合性単量体として2-エチルヘキシルアクリレート78部、アクリロニトリル19.8部、メタクリル酸2部およびアリルメタクリレート(AMA)0.2部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、非水溶性粒子状重合体1を含む水分散液(バインダー分散液)を得た。重合転化率は99%以上であった。
[0166]
得られた非水溶性粒子状重合体1において、「(メタ)アクリロニトリル単量体単位/(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」で表される重量比は19.8/78であり、(メタ)アクリロニトリル単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位との合計量100重量部に対する架橋性単量体単位の存在量は0.2重量部である。非水溶性粒子状重合体1の体積平均粒子径は170nmであった。
[0167]?[0174](略)
[0175]
[実施例1]
(試料の用意)
非導電性粒子として、体積平均粒子径D50が0.5μmのアルミナ(住友化学社製、製品名AKP-3000)を用意した。
粘度調整剤として、平均重合度500?600、エーテル化度0.8?1.0のカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学社製、製品名ダイセル1220)を用いた。
[0176]
(多孔膜用のスラリー組成物の製造)
非導電性粒子を94部、水溶性重合体Aを0.5部、非水溶性粒子状重合体1を4部、及び粘度調整剤を1.5部とって混合し、更に水を固形分濃度が40重量%になるように混合して、ビーズミルを用いて分散させ、スラリー組成物1を製造した。
スラリー組成物1について粘度、TI値、分散性及び保存安定性を評価した。結果を表3に示す。
[0177]
(セパレーターの製造)
ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、製品名2500、厚み25μm)を用意した。用意した有機セパレーターの片面に、スラリー組成物1を塗布し、60℃で10分乾燥させた。乾燥の際の加熱により、アリルメタクリレートが有していたアリル基が架橋性基となり、非水溶性粒子状重合体1が分子内架橋を生じた。厚み29μmの多孔膜を備えるセパレーターを得た。
得られた多孔膜を備えるセパレーターについて、粉落ち性、並びに、ガーレー値の増加率を評価した。結果を表3に示す。
[0178]
(正極用電極組成物および正極の製造)(略)
[0179]
(負極用電極組成物および負極の製造)(略)
[0180]
(二次電池の製造)
(中略)この容器中に電解液(溶媒:EC/DEC=1/2、電解質:濃度1MのLiPF_(6))を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約3.2mmのリチウムイオン二次電池を製造した(コインセルCR2032)。
得られた電池の高温サイクル特性及びレート特性を評価した。結果を表3に示す。」

(2)甲2に記載された発明
以上の摘示,特に実施例1の記載よりみて,甲2には次の3発明が記載されているといえる。

ア 「体積平均粒子径D50が0.5μmのアルミナ(住友化学社製、製品名AKP-3000)を94部、アクリル酸ナトリウム水溶液と3-アリロキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム水溶液とを重合して得られた水溶性重合体Aを0.5部、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル社製、製品名「エマルゲン-120」)0.59部を供給し、2-エチルヘキシルアクリレート78部、アクリロニトリル19.8部、メタクリル酸2部およびアリルメタクリレート(AMA)0.2部を重合して得られた非水溶性粒子状重合体1を4部、及び平均重合度500?600、エーテル化度0.8?1.0のカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学社製、製品名ダイセル1220)を1.5部とって混合し、更に水を固形分濃度が40重量%になるように混合して、ビーズミルを用いて分散させ、スラリー組成物1を製造し、ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、製品名2500、厚み25μm)の片面に、スラリー組成物1を塗布し、60℃で10分乾燥させ、乾燥の際の加熱により、アリルメタクリレートが有していたアリル基が架橋性基となり、非水溶性粒子状重合体1が分子内架橋を生じることにより形成される、多孔膜」(以下「甲2多孔膜発明」という。)

イ 「ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、製品名2500、厚み25μm)に、甲2多孔膜発明に係る多孔膜を形成した、厚み29μmの多孔膜を備える、セパレーター」(以下「甲2セパレータ発明」という。)

ウ 「甲2セパレータ発明に係るセパレータを用いて作製した、二次電池」(以下「甲2二次電池発明」という。)

3 甲第3号証の記載
(1)甲3は,「非水電解質電池及びその製造方法」(発明の名称)に関するものであって,次の記載がある。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極活物質層を有する正極、負極活物質を有する負極、及びこれら両極間に介装されたセパレータから成る電極体と、この電極体に含浸された非水電解質とを備えた非水電解質電池において、
上記正極活物質には、少なくともコバルト又はマンガンが含まれると共に、上記セパレータは多孔質のセパレータ本体と、このセパレータ本体の少なくとも一方の表面に形成された被覆層とから成り、且つ、この被覆層にはフィラー粒子とバインダーとが含まれていることを特徴とする非水電解質電池。
【請求項2】?【請求項5】(略)
【請求項6】
上記バインダーとして非水溶性バインダーと水溶性バインダーとが用いられ、且つ、上記被覆層は上記セパレータ本体における上記負極側の面に形成されている、請求項1記載の非水電解質電池。
【請求項7】
上記非水溶性バインダーが非フッ素含有ポリマーから成り、上記水溶性バインダーがセルロース系ポリマー又はこのアンモニウム塩、アルカリ金属塩、ポリアクリル酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸アンモニウム塩から成る群から選択される少なくとも1種から成る、請求項6記載の非水電解質電池。
【請求項8】
上記被覆層には界面活性剤が含まれている、請求項6又は7記載の非水電解質電池。
【請求項9】?【請求項12】(略)
【請求項13】
上記フィラー粒子が無機粒子から成る、請求項1?12記載の非水電解質電池。
【請求項14】
上記無機粒子がルチル型のチタニア及び/又はアルミナから成る、請求項13記載の非水電解質電池。
【請求項15】?【請求項27】(略)」

「【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明は、正極活物質を含む正極活物質層を有する正極、負極活物質を有する負極、及びこれら両極間に介装されたセパレータから成る電極体と、この電極体に含浸された非水電解質とを備えた非水電解質電池において、上記正極活物質には、少なくともコバルト又はマンガンが含まれると共に、上記セパレータは多孔質のセパレータ本体と、このセパレータ本体の少なくとも一方の表面に形成された被覆層とから成り、且つ、この被覆層にはフィラー粒子とバインダーとが含まれていることを特徴とする。
【0015】
上記構成であれば、セパレータ本体の表面に配置された被覆層に含まれるバインダーが電解液を吸収して膨潤することにより、膨潤したバインダーによってフィラー粒子間が適度に埋められ、フィラー粒子とバインダーとを含む被覆層が適度なフィルター機能を発揮する。したがって、正極で反応した電解液の分解物や正極活物質から溶出したコバルトイオンやマンガンイオンが被覆層でトラップされて、コバルトやマンガンがセパレータ及び/又は負極で析出するのを抑制できる。これにより、負極やセパレータが受けるダメージが軽減されるので、高温でのサイクル特性の劣化や高温での保存特性の劣化を抑制することができる。また、バインダーにより、フィラー粒子同士及び被覆層とセパレータ本体とが強固に接着されているので、セパレータ本体から被覆層が脱落するのを抑制でき、上記の効果が長期間にわたって持続される。」

「【0025】
上記被覆層には界面活性剤が含まれていることが望ましい。
現状では、セパレータとしてポリエチレン(PE)が用いられており、このポリエチレンは水を弾く。したがって、界面活性作用を発揮させる界面活性剤を被覆層に添加しておくことが望ましい。但し、セパレータとして水を弾かない材質のものを用いたり、上記バインダーに界面活性作用を発揮させるものを用いた場合には、界面活性剤の添加は不要である。」

「【0029】
上記フィラー粒子が無機粒子から成り、特にルチル型のチタニア及び/又はアルミナから構成されるのが望ましい。
このように、フィラー粒子として無機粒子、特にルチル型のチタニア及び/又はアルミナに限定するのは、これらのものは、電池内での安定性に優れ(リチウムとの反応性が低く)、しかもコストが安価であるという理由によるものである。また、ルチル構造のチタニアとするのは、アナターゼ構造のチタニアはリチウムイオンの挿入離脱が可能であり、環境雰囲気、電位によっては、リチウムを吸蔵して電子伝導性を発現するため、容量低下や、短絡の危険性があるからである。」

「【0050】
(第2の形態)
本第2の形態では、セパレータの被覆層のバインダーとして非水溶性バインダーと水溶性バインダーとを用いた場合の形態について説明する。
以下のようにしてセパレータ作製し、且つ、下記セパレータの被覆層を負極側に配置する以外は、上記第1の形態と同様にして電池を作製した。
先ず、フィラー粒子であるTiO_(2)〔ルチル型であって粒径0.38μm、チタン工業(株)製KR380〕を10質量%と、結着剤であるアクリロニトリル構造(単位)を含む共重合体(非水溶性ポリマー)を1質量%と、増粘剤であるCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウムであり、水溶性ポリマー)を1質量%と、ポリアルキレン型非イオン性界面活性剤を1質量%と、溶剤としての水を87質量%とを混合し、特殊機化製Filmicsを用いて混合分散処理を行い、TiO_(2)が分散されたスラリーを調製した。次に、ポリエチレン(以下、PEと略すことがある)製微多孔膜(膜厚:18μm、平均孔径0.6μm、空孔率45%)から成るセパレータ本体の一方の面に、上記スラリーをドクターブレード法を用いて塗布し、スラリーの溶剤を乾燥、除去することにより、セパレータ本体の片面に被覆層を形成した。尚、この被覆層の厚みは2μmであり、また、セパレータ本体の膜厚は18μmであるということから、セパレータの総膜厚は20μmである。」

「【0057】
本発明の作用効果を発揮するためには、可能な限り緻密な被覆層をつくることが好ましく、その意味では、サブミクロン以下のフィラー粒子を使用することが好ましい。但し、粒径に依存するとはいうものの、フィラー粒子は凝集し易く、粒子を解砕(分散)した後に再凝集を防止する必要がある。」

「【0220】
(3)界面活性剤の種類には特に制約はないが、リチウムイオン電池内部での電池性能への影響等を考慮すると非イオン性の界面活性剤が好ましい。また、これらの界面活性剤の添加量は、固形分の総量に対して、3質量%以下、好ましくは0.5質量%以上1質量%以下であることが望ましい。」

(2)甲3に記載された発明
以上の摘示よりみて,甲3には次の3発明が記載されているといえる。

ア 「正極活物質を含む正極活物質層を有する正極、負極活物質を有する負極、及びこれら両極間に介装されたセパレータから成る電極体と、この電極体に含侵された非水電解質とを備えた非水電解質電池において、多孔質のセパレータ本体の負極側の面に形成された被覆層であって、フィラー粒子とバインダーと界面活性剤が含まれ、フィラー粒子がルチル型のチタニア及び/又はアルミナから成る、被覆層」(以下「甲3被覆層発明」という。)

イ 「多孔質のセパレータ本体の負極側の面に、甲3被覆層発明に係る被覆層が形成された、セパレータ」(以下「甲3セパレータ発明」という。)

ウ 「正極活物質を含む正極活物質層を有する正極、負極活物質を有する負極、及びこれら両極間に介装された甲3セパレータ発明に係るセパレータから成る電極体と、この電極体に含侵された非水電解質とを備えた、非水電解質電池」(以下「甲3電池発明」という。)

4 甲第4号証の記載
甲4は,住友化学株式会社の製品データブックであって,「3.高純度アルミナ(HPA)」の項目には,品名「AKP-3000」の品質項目及び顕微鏡写真が掲載されるとともに,「AKPシリーズ:均一なαアルミナ結晶粒子からなる高純度粉末です。」との記載がある(第9頁)。

5 甲第5号証の記載
甲5は,「非水系電池電極用バインダー組成物、非水系電池電極用スラリー、非水系電池電極及び非水系電池」(発明の名称)に関するものであって,次の記載がある。

「[0090]比較例15
サーフィノール440に変えて、ヒドロキシ基にエチレンオキサイドを付加した構造を有するポリエーテル系の非イオン界面活性剤(SNウェット980、サンノプコ社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてバインダー組成物Oを得た。なお、この界面活性剤は、実施例1で用いたサーフィノール440と類似の化学構造を有しているが、分子内にアセチレン骨格を持たない点で相違している。次いで、これらのバインダー組成物を表1に示す量で使用すること以外は、比較例1と同様にして、負極およびリチウムイオン二次電池を製作し、その性能を評価した。結果を表1に示す。」

6 甲第6号証の記載
甲6は,「リチウムイオン二次電池用セパレータ及びリチウムイオン二次電池」(発明の名称)に関するものであって,次の記載がある。

「本発明のセパレータにおいて、帯電防止の観点から該多孔質層に界面活性剤を付着させたものも好適である。該界面活性剤は特に限定されないが、例えば陽イオン系、陰イオン系、両性イオン系、非イオン系の界面活性剤を使用することができる。陽イオン系界面活性剤としては、高級アミンハロゲン酸塩、ハロゲン化アルキルピリジニウム、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。陰イオン系界面活性剤としては、高級脂肪酸アルカリ塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、スルホコハク酸エステル塩等が挙げられる。両性イオン系界面活性剤としては、アルキルベタイン系化合物、イミダゾリン系化合物、アルキルアミンオキサイド、ビスオキシボレート系化合物等が挙げられる。非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。」(明細書第10頁20行?第11頁7行)

「[実施例4]
エマルゲン120(花王製;非イオン系界面活性剤)をメタノールに溶解し、1重量%溶液を作製した。実施例1で作製した本発明セパレータ1を該界面活性剤メタノール溶液に浸漬し乾燥させることで界面活性剤を付着させ、本発明セパレータ3を得た。ここで本発明セパレータ3に付着した界面活性剤の量は0.15g/m^(2)であった。」(明細書第20頁6?10行)

「[実施例25]
繊度0.11dtex(平均繊維径約3.2μm)のPET短繊維と繊度0.33dtex(平均繊維径約5.5μm)のPET短繊維、および繊度0.22dtex(平均繊維径約4.5μm)のバインダー用PET短繊維を3/2/5の重量比でブレンドし、湿式抄造法により目付12.6g/m2で製膜し、140℃でカレンダーを施し、膜厚18μmのPET不織布を得た。
ポリメタフェニレンイソフタルアミド(帝人テクノプロダクツ株式会社製;商品名「コーネックス」)をジメチルアセトアミド:トリプロピレングリコール=60:30(重量比)である混合溶媒に6重量%となるように溶解し、高分子溶液を調整した。この高分子溶液へ平均粒子径0.8μmのα-アルミナ微粒子(岩谷化学工業社製;SA-1)をポリメタフェニレンイソフタルアミドと同重量部分散させ塗工用スラリーを作製した。この塗工用スラリーを該PET不織布の両面に塗工し、この塗工物をジメチルアセトアミド:水=50:50(重量比)の組成である40℃の凝固浴に60秒間浸漬し凝固膜を得た。この凝固膜を50℃の水浴中で10分間水洗し、次いで乾燥することで本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータを得た。これを本発明セパレータ12とする。本発明セパレータ1は、膜厚23μm、目付16.6g/m^(2)、ガーレ値(JIS P8117)20秒/100ccであった。なお、本発明セパレータ12を目視で観察した結果、ピンホールは見られなかった。」(明細書第23頁25行?第24頁16行)

7 甲第7号証の記載
申立人意見書と共に提出された甲7は,「非円形繊維の電池隔離板及びその製造法」(発明の名称)に関するものであって,次の記載がある。

「【0012】
かかる隔離板は、例えば、電池製造において隔離板と陰極、陽極及び電解質との組立間に望ましくないカール又はしわを防止するためにアニーリング及び/又は界面活性剤の添加によって安定化されるのが好ましい。」

「【0031】
本発明の基本は、非円形非セルロース系繊維からなる不織布基体をセルロース系フィルムで被覆(好ましくは押出被覆)したものを使用することである。もしもより良好なレイフラット状態が要求される場合には、セルロース被覆隔離板は、例えば、温度及び/湿分アニーリング及び/又は界面活性剤被覆の付加によってカール形成に対して安定化されることができる。」

8 甲第8号証の記載
申立人意見書と共に提出された甲8は,「インクジェット記録用シート」(発明の名称)に関するものであって,次の記載がある。

「【0019】
本発明のインクジェット記録用シートは、気相法シリカおよびカチオン樹脂の分散とポリビニルアルコールとを含む第1の塗布液のpHを5以下にし、さらに、ポリビニルアルコールを架橋しうる架橋剤溶液を含むpH8.5以上の第2の塗布液を付与することで、画像の印画濃度、鮮鋭性および光沢感を向上させることができる。また、上記気相法シリカはBET法による日表面積が200m^(2)/g以上であるため、空隙率の大きい多孔質構造を形成することができる。さらに、本発明のインクジェット記録用シートは、気相法シリカをカチオン性樹脂に分散した後に、高鹸化度PVAを添加したpHが5以下の第1の塗布液に、さらに、ノニオン若しくは両性界面活性剤および高沸点有機溶剤を含ませることで、インクジェット記録用シートのカールを平坦に保つことができる。これにより、画像の鑑賞性が向上し、さらに、プリンター搬送性の向上による走行不良の防止を図ることができる。また、色材受容層に、気相法シリカ、ポリビニルアルコール、架橋剤および有機媒染剤を併用することで、インク吸収性、耐経時ニジミ、耐光性、等を向上させることができる。」

「【0037】
(界面活性剤)第1の塗布液はノニオン若しくは両性界面活性剤を含有し、さらに第2の塗布液はノニオン系界面活性剤を含有する。上記ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルおよびポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類(例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリーコールジエチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等)、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタントリオレート等)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等)、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類(例えば、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等)、グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、グリセロールモノオレート等)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類(モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、モノオレイン酸ポリオキシエチレングリセリン等)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類(ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレート等)、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられ、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類が好ましい。該ノニオン系界面活性剤は、第1の塗布液および第2の塗布液において使用することができる。また、上記ノニオン系界面活性剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、第1および第2の塗布液の両液にノニオン系界面活性剤を用いる場合、同一のものでもよいし、異なる種類のものであってもよい。」

第6 当審の判断
当審は,訂正後の本件発明1?8はいずれも,上記第4の申立理由1?3に該当せず,当審が通知した取消理由は解消したものと判断する。詳細は次のとおりである。

1 申立理由1(甲1に基づく新規性進歩性)について
(1)本件発明1?5について
ア 本件発明1と甲1多孔膜発明とを対比する。
後者の「融着アルミナ粒子(AKP-3000)」は,本件特許明細書の段落【0084】(実施例1)に記載のアルミナと商品名が一致しているところ,このものは,甲4に記載のとおり「均一なαアルミナ結晶粒子からなる高純度粉末」であって,前者の「α-アルミナ」に相当する。
後者の「カルボキシメチルセルロース」は,典型的な水溶性バインダー成分であるから,同じくバインダーとして機能する(甲1段落【0027】)後者の「粒子状重合体A1」とともに,前者の「バインダー樹脂」に相当する。
後者の「ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(サンノプコ社製、SNウェット980)」は,本件特許明細書の段落【0016】にも例示される化合物であるところ,このものは,甲5の段落[0090]に記載のとおり「ヒドロキシ基にエチレンオキサイドを付加した構造を有するポリエーテル系の非イオン界面活性剤」であって,前者の「疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物」に相当する。
また,後者の「多孔膜」は,非水電解液を用いた二次電池の作製(甲1段落【0105】)に供するものであるから,前者の「非水電解液二次電池用多孔質膜」に相当する。
更に,後者が,前者の「アルミナ、ポリビニルアルコール、ホウ酸、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルをこの組合せで含むもの」に該当しないことは明らかである。
したがって,両者は,
「疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、α-アルミナと、バインダー樹脂と、を含み、
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルである、非水電解液二次電池用多孔質膜(ただし、アルミナ、ポリビニルアルコール、ホウ酸、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルをこの組合せで含むものを除く)」
である点において一致し,次の相違点を有する。

(相違点1)
本件発明1は,「α-アルミナ100質量部」に対して「疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物であるポリオキシエチレンアルキルエーテル」「の含有量は0.3?10質量部」であるのに対し,甲1多孔膜発明は,「融着アルミナ粒子(AKP-3000)を100部」に対して「ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤(サンノプコ社製、SNウェット980)」「を0.2部添加した」ものである点。

イ 上記相違点1について判断する。
本件発明1における「疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物であるポリオキシエチレンアルキルエーテル」の添加は,α-アルミナの表面に付着し,疎水性基によってα-アルミナの表面を覆うことによってα-アルミナと水との相互作用を低減し,多孔質膜の水分含有量を低くして,ポリオレフィンからなる多孔質膜の水分含有量と近くなることでカールを抑制するためのものである(段落【0008】)。
これに対し,甲1における「ポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤」は,実施例における二次電池多孔膜用スラリー組成物における分散剤としての添加(段落【0101】)であり,α-アルミナとの関係で添加量を特定することは,何ら記載も示唆もされていない。
そして,後述する甲2?甲8の各記載をみても,「α-アルミナ」に対して特定量の「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」を適用することは記載も示唆もされておらず,甲1において,「α-アルミナ」に対して特定量の「ポリオキシエチレンアルキルエーテル型分散剤」を本件発明1の範囲に変更することの動機づけが見当たらない。

(ア)甲2における「ポリオキシエチレンラウリルエーテル」は,非水溶性粒子状重合体の製造に用いる「分散剤」であり,その量も,「モノマー総量100重量部に対して、通常0.01重量部?10重量部程度」(甲2段落[0066])と些少であるうえ,「アルミナ」に対して特定量を用いることについては,記載も示唆もされていない。

(イ)甲3には,「TiO_(2)」を「10質量%」と,「ポリアルキレン型非イオン性界面活性剤」を「1質量%」とを含有するスラリー(甲3段落【0050】)が記載されているが,「TiO_(2)」に代えてα-アルミナを,「ポリアルキレン型非イオン性界面活性剤」としてポリオキシエチレンアルキルエーテルの特定量を用いる組合せはは示されておらず,カール抑制という添加目的についても,記載も示唆もされていない。

(ウ)甲4は,特定の「α-アルミナ」製品に関するものであり,ポリオキシエチレンアルキルエーテルについては記載も示唆もされていない。

(エ)甲5は,特定の「ヒドロキシ基にエチレンオキサイドを付加した構造を有するポリエーテル系の非イオン界面活性剤」(甲5段落[0090])が記載されるに止まり,α-アルミナに対して特定量を用いることについては,記載も示唆もされていない。

(オ)甲6は,帯電防止の観点から多孔質層に界面活性剤を付着させたものが好適であり,非イオン系界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル類を例示するに止まるものであり(甲6明細書第10頁20行?第11頁7行),このものをα-アルミナに対して特定量用いることについては,何ら記載されていない。

(カ)甲7は,電池におけるセルロース被覆隔離板は,界面活性剤被覆の付加によってカール形成に対して安定化されることができる旨を開示しているが(甲7段落【0031】),特定の界面活性剤を,α-アルミナに対して特定量用いることについては,何ら記載されていない。

(キ)甲8は,ノニオン若しくは両性界面活性剤および高沸点有機溶剤を含ませることで,インクジェット記録用シートのカールを平坦に保つことができる旨(段落【0019】),ノニオン系界面活性剤として,ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい旨(段落【0037】)を開示しているが,α-アルミナに対して,特定量のポリオキシエチレンアルキルエーテルとの関係において含有量を特定することは記載されていない。

ウ そして,訂正後の本件発明1は,α-アルミナ100質量部に対するポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量を0.3?10質量部の範囲内に特定することで,本件明細書の実施例1,2及び比較例1の結果に示されるとおり,高い寸法変化率及び透気度を保ちながら,カール量を低減することができる(段落【0084】?【0088】)という,格別な効果を奏することをを確認したものである。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明ではなく,また,同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

エ 本件発明2?5はいずれも,本件発明1を直接又は間接的に引用して更に技術的に特定するものであるから,少なくとも,上記アで検討した相違点1を有する。そして,上記イ,ウと同様の理由により,本件発明2?5はいずれも,甲1に記載された発明ではなく,また,同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件発明6,7について
本件発明6,7はいずれも,本件発明1?5の「多孔質膜」を用いた「非水電解液二次電池用セパレータ」を特定するものである。
これに対して,甲1セパレータ発明は,ポリエチレン製有機セパレータの両面に「甲1多孔膜発明」を備えた「セパレータ」であるから,少なくとも上記(1)アで検討した相違点1を有する。そして,上記(1)イ?エと同様の理由により,本件発明6,7はいずれも,甲1に記載された発明ではなく,また,同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件発明8について
本件発明8は,本件発明6又は7の「非水電解液二次電池用セパレータ」を用いた「非水電解液二次電池」を特定するものである。
これに対して,甲1二次電池発明は,「甲1セパレータ発明に係るセパレータを用いて作製した二次電池」である。そして,上記(2)と同様の理由により,甲1に記載された発明ではなく,また,同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

2 申立理由2(甲2に基づく新規性進歩性)について
(1)本件発明1?5について
ア 本件発明1と,甲2多孔膜発明とを対比する。
後者の「体積平均粒子径D50が0.5μmのアルミナ(住友化学社製、製品名AKP-3000)」は,本件特許明細書の段落【0084】(実施例1)に記載のアルミナと商品名が一致しているところ,このものは「均一なαアルミナ結晶粒子からなる高純度粉末」であって,前者の「α-アルミナ」に相当する。
後者の「カルボキシメチルセルロース(ダイセル化学社製、製品名ダイセル1220)」は,粘度調整剤(甲2段落[0069])であるが,典型的な水溶性バインダー成分であるから,同じく結着剤として機能する(甲2段落[0039])後者の「非水溶性粒子状重合体1」とともに,前者の「バインダー樹脂」に相当する。
後者の「非水溶性粒子状重合体1」の製造時に用いた「ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル社製、製品名「エマルゲン-120」)」は,本件特許明細書の段落【0018】に例示される商品名と共通しており,前者の「疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物」に相当する。
また,後者の「多孔膜」は,非水電解液を用いた二次電池の製造(甲2段落[0180])に供するものであるから,前者の「非水電解液二次電池用多孔質膜」に相当する。
更に,後者が,前者の「アルミナ、ポリビニルアルコール、ホウ酸、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルをこの組合せで含むもの」に該当しないことは明らかである。
したがって,両者は,
「疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、α-アルミナと、バインダー樹脂と、を含み、
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルである、非水電解液二次電池用多孔質膜(ただし、アルミナ、ポリビニルアルコール、ホウ酸、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルをこの組合せで含むものを除く)」
である点において一致し,次の相違点を有する。

(相違点2)
本件発明1は,「α-アルミナ100質量部」に対して「疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物であるポリオキシエチレンアルキルエーテル」「の含有量は0.3?10質量部」であるのに対し,甲2多孔膜発明は,「アルミナ(住友化学社製、製品名AKP-3000)を94部」に対して「ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王ケミカル製、製品名「エマルゲン-120」)」が計算上0.02部(「0.59部」を供給し,単量体の合計100部を重合して得られた「非水溶性粒子状重合体1を4部」)である点。

イ 上記相違点2について判断するに,上記1(1)イのとおり,甲2における「ポリオキシエチレンラウリルエーテル」は,非水溶性粒子状重合体の製造に用いる「分散剤」であり,その量も,「モノマー総量100重量部に対して、通常0.01重量部?10重量部程度」(甲2段落[0066])と些少であるうえ,「アルミナ」に対して特定量を用いることについては,記載も示唆もされていない。
また,甲1,甲3?甲8のいずれにも,α-アルミナに対して特定量のポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることが記載も示唆もされていないことも,上記1(1)イのとおりである。

ウ そして,訂正後の本件発明1は,上記1(1)ウのとおり,α-アルミナ100質量部に対するポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量を0.3?10質量部の範囲内に特定することで,本件明細書の実施例1,2及び比較例1の結果に示されるとおり,高い寸法変化率及び透気度を保ちながら,カール量を低減することができる(段落【0084】?【0088】)という,格別な効果を奏することを確認したものである。
したがって,本件発明1は,甲2に記載された発明ではなく,また,同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

エ 本件発明2?5はいずれも,本件発明1を直接又は間接的に引用して更に技術的に特定するものであるから,少なくとも,上記アで検討した相違点2を有する。そして,上記イ,ウと同様の理由により,本件発明2?5はいずれも,甲2に記載された発明ではなく,また,同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件発明6,7について
本件発明6,7はいずれも,本件発明1?5の「多孔質膜」を用いた「非水電解液二次電池用セパレータ」を特定するものである。
これに対して,甲2セパレータ発明は,ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレータに「甲2多孔膜発明」に係る多孔膜を形成した「セパレータ」であるから,少なくとも上記(1)アで検討した相違点2を有する。そして,上記(1)イ?エと同様の理由により,本件発明6,7はいずれも,甲2に記載された発明ではなく,また,同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件発明8について
本件発明8は,本件発明6又は7の「非水電解液二次電池用セパレータ」を用いた「非水電解液二次電池」を特定するものである。
これに対して,甲1二次電池発明は,「甲2セパレータ発明に係るセパレータを用いて作製した、二次電池」である。そして,上記(2)と同様の理由により,甲2に記載された発明ではなく,また,同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3 申立理由3(甲3に基づく進歩性)について
(1)本件発明1?5について
ア 本件発明1と甲3被覆層発明とを対比する。
後者の「被覆層」は,「セパレータ本体」の表面に層を形成するものであるから,前者の「多孔質膜」と,非水電解液二次電池に用いられる膜構造を有する限りにおいて共通する。
また,後者の「フィラー粒子」を成している「アルミナ」は,前者の「アルミナ」と共通する。
そして,後者の「界面活性剤」と,前者の「疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物であるポリオキシエチレンアルキルエーテル」とは,界面活性剤である限りにおいて共通する。
更に,後者が,前者の「アルミナ、ポリビニルアルコール、ホウ酸、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルをこの組合せで含むもの」に該当しないことは明らかである。
したがって,両者は,
「界面活性剤と、アルミナと、バインダー樹脂と、を含む、非水電解液二次電池用膜(ただし、アルミナ、ポリビニルアルコール、ホウ酸、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルをこの組合せで含むものを除く)」
である点において一致し,次の相違点を有する。

(相違点3)
本件発明1は,「多孔質膜」であるのに対し,甲3被覆層発明は,「膜」ではあるものの「多孔質」であることが明らかでない点。

(相違点4)
本件発明1は,「α-アルミナ」及び「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」を含み,「α-アルミナ100質量部に対する」「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」「の含有量が0.3?10質量部」であるのに対し,甲3被覆層発明は,「アルミナ」及び「界面活性剤」を含むものであり,その種類及び使用量が明らかでない点。

イ 事案に鑑み,上記相違点4について検討するに,甲3における界面活性剤の配合は,セパレータとして用いられるポリエチレン(PE)が水を弾くことから,界面活性作用を発揮させる界面活性剤を被覆層に添加しておくことが望ましいが,セパレータとして水を弾かない材質のものを用いたり,バインダーに界面活性作用を発揮させるものを用いた場合には,添加は不要であるとされている(段落【0025】)。すると,甲3被覆層発明における「界面活性剤」は,セパレータの材質に依存するものの,無機粒子との関係で規定されるものではない。
また,甲3には,上記1(1)イのとおり,「TiO_(2)」を「10質量%」と,「ポリアルキレン型非イオン性界面活性剤」を「1質量%」とを含有するスラリー(甲3段落【0050】)が記載されているが,「TiO_(2)」に代えてα-アルミナを,「ポリアルキレン型非イオン性界面活性剤」としてポリオキシエチレンアルキルエーテルの特定量を用いる組合せはは示されておらず,カール抑制という添加目的についても,記載も示唆もされていない。
そして,甲1,甲2,甲4?甲8のいずれにも,α-アルミナに対して特定量のポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることが記載も示唆もされていないことも,上記1(1)イのとおりである。

ウ そして,訂正後の本件発明1は,上記1(1)ウのとおり,α-アルミナ100質量部に対するポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量を0.3?10質量部の範囲内に特定することで,本件明細書の実施例1,2及び比較例1の結果に示されるとおり,高い寸法変化率及び透気度を保ちながら,カール量を低減することができる(段落【0084】?【0088】)という,格別な効果を奏することを確認したものである。
したがって,相違点3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明2?5はいずれも,本件発明1を直接又は間接的に引用して更に技術的に特定するものであるから,少なくとも,上記アで検討した相違点3,4を有する。そして,上記イ,ウと同様の理由により,本件発明2?5はいずれも,甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明6,7について
本件発明6,7はいずれも,本件発明1?5の「多孔質膜」を用いた「非水電解液二次電池用セパレータ」を特定するものである。
これに対して,甲3セパレータ発明は,「多孔質のセパレータ本体の負極側の面に、甲3被覆層発明に係る被覆層が形成された、セパレータ」であるから,少なくとも上記(1)アで検討した相違点3,4を有する。そして,上記(1)イ?エと同様の理由により,本件発明6,7はいずれも,甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明8について
本件発明8は,本件発明6又は7の「非水電解液二次電池用セパレータ」を用いた「非水電解液二次電池」を特定するものである。
これに対して,甲3電池発明は,「正極活物質を含む正極活物質層を有する正極、負極活物質を有する負極、及びこれら両極間に介装された甲3セパレータ発明に係るセパレータから成る電極体と、この電極体に含侵された非水電解質とを備えた、非水電解質電池」である。そして,上記(2)と同様の理由により,甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 申立人の主張について
(1)ポリオキシエチレンアルキルエーテルの添加量について
申立人は,甲7,甲8に記載されるように,電池のセパレータ等のカールを低減するために,界面活性剤を添加することは一般的な技術であるから,甲1多孔質発明又は甲2多孔質発明において,セパレータのカールをより効果的に低減するために,ポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤の添加量を適宜選択することは当業者が通常行うことであり,ポリオキシエチレンアルキルエーテルの添加量を,α-アルミナ100質量部に対して,0.3?10質量部と規定することに困難性は見いだせない旨主張する(申立人意見書第1?2頁)。
しかしながら,上記甲7,甲8の記載によっても,界面活性剤の含有量を無機粒子との関係において特定することは記載も示唆もされていない。そして,電池用セパレータのカール低減のためにポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤を添加することが知られていたとしても,添加目的が異なる甲1及び甲2において,ポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤の添加量を訂正後の本件発明1の範囲に最適化しようとする動機づけがあったものということはできない。よって,上記主張は採用できない。

(2)効果について
申立人は,当業者であれば,セパレータのカールの低減を想定して,ポリオキシエチレンアルキルエーテルの添加量を選択するのであるから,セパレータのカールを低減するという効果は当然に予想するものであり,しかも,訂正後の本件発明1の下限である0.3質量部は,実施例1の0.5質量部よりも甲1多孔膜発明の0.2質量部に近い添加量であり,予想外の顕著な効果を奏するなどとはいえない旨も主張する(申立人意見書第3頁)。
しかしながら,甲1及び甲2において,α-アルミナ100質量部に対するポリオキシエチレンアルキルエーテル型界面活性剤の含有量を特定することの動機づけは見いだせないところ,訂正後の本件発明1における上記含有量の範囲は,甲1及び甲2に開示の含有量を含まないものとして明瞭に区別できるものであり,かつ,その範囲において,セパレータのカールの低減を達成できることを確認したものであるから,その効果は格別なものであるといえる。よって,上記主張も採用できない。

第7 むすび
以上のとおり,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては,請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物と、α-アルミナと、バインダー樹脂と、を含み、
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、
前記α-アルミナ100質量部に対する前記化合物の含有量は0.3?10質量部である、非水電解液二次電池用多孔質膜(ただし、アルミナ、ポリビニルアルコール、ホウ酸、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルをこの組合せで含むものを除く)。
【請求項2】
前記α-アルミナと前記バインダー樹脂との合計量に対する前記α-アルミナの割合が70質量%以上である請求項1に記載の非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項3】
前記疎水性基及びノニオン性の親水性基を有する化合物が、ノニオン性界面活性剤である請求項1または2に記載の非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項4】
ノニオン性の親水性基が、ポリオキシエチレン構造を有する請求項1?3のいずれかに記載の非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項5】
バインダー樹脂が、水溶性の樹脂である請求項1?4のいずれかに記載の非水電解液二次電池用多孔質膜。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の多孔質膜と、当該多孔質膜とは異なるその他の多孔質膜と、が積層された非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項1?5のいずれかに記載の多孔質膜を含む非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項8】
請求項6または7に記載の非水電解液二次電池用セパレータを用いた非水電解液二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-27 
出願番号 特願2017-194194(P2017-194194)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 井上 猛
平塚 政宏
登録日 2018-12-14 
登録番号 特許第6449960号(P6449960)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 多孔質膜  
代理人 長谷川 和哉  
代理人 坂元 徹  
代理人 鶴田 健太郎  
代理人 中山 亨  
代理人 鶴田 健太郎  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  
代理人 長谷川 和哉  
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