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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1361477
異議申立番号 異議2019-700015  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-11 
確定日 2020-03-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6355961号発明「標本観察装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6355961号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1,2,4,5〕,3,6について訂正することを認める。 特許第6355961号の請求項3,6に係る特許を維持する。 特許第6355961号の請求項1,2,4,5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6355961号の請求項1?請求項5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2014-93517号)は,平成26年4月30日に出願され,平成30年6月22日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について,平成30年7月11日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である平成31年1月11日に,特許異議申立人 カール ツァイス マイクロスコピー ゲーエムベーハー(以下「特許異議申立人」という。)から,全請求項に対して特許異議の申立てがされた(異議2019-700015号)。
その後の手続等の概要は,以下のとおりである。
平成31年 4月 8日付け:取消理由通知書
令和元年 6月 5日付け:訂正請求書
令和元年 6月 5日付け:意見書(特許権者)
令和元年 10月 1日付け:意見書(特許異議申立人)
令和元年 10月23日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和元年 12月 5日付け:訂正請求書
(この訂正請求書による訂正の請求を,以下「本件訂正請求」という。)
令和元年 12月 5日付け:意見書(特許権者)
令和 2年 1月28日付け:意見書(特許異議申立人)
なお,本件訂正請求がされたことから,令和元年6月5日付け訂正請求書による先の請求は,取り下げられたものとみなす。

第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は,特許第6355961号の明細書及び特許請求の範囲を,本訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?6について訂正することを求める,というものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は,以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。なお,本件訂正請求による訂正前の請求項3に係る発明を,「訂正前発明3」という。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に,
「 前記対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部を備え,
前記制御部が,前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる請求項1または請求項2に記載の標本観察装置。」
とあるうち,請求項1を引用するものを,
「 光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと,
該対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部と,
前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する画像データ取得部と,
該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と,
前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ処理部と,
該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部とを備え,
前記標本が,生体分子に蛍光標識した細胞であり,
前記制御部が,前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる標本観察装置。」
に訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に,
「 前記対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部を備え,
前記制御部が,前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる請求項1または請求項2に記載の標本観察装置。」
とあるうち,請求項2を引用するものを,
「 光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと,
該対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部と,
前記対物レンズの焦点位置と光学的に共役な位置に開口するコンフォーカル開口部と,
前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を集光し,前記コンフォーカル開口部の開口位置に前記戻り光のスポットを投影するコンフォーカルレンズと,
該対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する画像データ取得部と,
該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と,
前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ処理部と,
該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部とを備え,
前記標本が,生体分子に蛍光標識した細胞であり,
前記コンフォーカル開口部の開口が,前記コンフォーカルレンズにより投影された前記戻り光のスポットの径寸法よりも小さい径寸法を有し,
前記制御部が,前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる標本観察装置。」
に訂正して,新たな請求項6とする。

(7) 訂正事項7
明細書の段落【0007】に「本発明は,光源から」と記載されているのを,「本発明の参考例としての発明は,光源から」に訂正する。

(8) 訂正事項8
明細書の段落【0008】に「本発明によれば,標本から」と記載されているのを,「本発明の上記参考例としての発明によれば,標本から」に訂正する。

(9) 訂正事項9
明細書の段落【0012】に,
「上記発明においては,前記対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部を備え,前記制御部が,前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させることとしてもよい。」
と記載されているのを,
「本発明の一態様は,光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと,該対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部と,対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する画像データ取得部と,該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と,前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ処理部と,該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部とを備え,前記標本が,生体分子に蛍光標識した細胞であり,前記制御部が,前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる標本観察装置である。」
に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の段落【0015】に「上記発明においては」と記載されているのを,「本発明の上記参考例としての発明においては」に訂正する。

(11)訂正事項11
明細書の段落【0017】に「上記発明においては」と記載されているのを,「本発明の上記参考例としての発明においては」に訂正する。

(12)訂正事項12
明細書の段落【0018】に
「生成することができる。」
と記載されているのを,
「生成することができる。
本発明の他の一態様は,光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと,該対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部と,前記対物レンズの焦点位置と光学的に共役な位置に開口するコンフォーカル開口部と,前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を集光し,前記コンフォーカル開口部の開口位置に前記戻り光のスポットを投影するコンフォーカルレンズと,該対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する画像データ取得部と,該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と,前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ処理部と,該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部とを備え,前記標本が,生体分子に蛍光標識した細胞であり,前記制御部が,前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる標本観察装置である。」
に訂正する。

(13)訂正について
本件訂正請求は,一群の請求項である訂正前の請求項1?請求項5に対して請求されたものである。また,訂正事項9及び訂正事項12による訂正は,それぞれ,当該訂正に係る請求項の全てに関するものである,訂正後の請求項3及び請求項6について行われたものである。

3 訂正についての判断
(1) 訂正事項1及び訂正事項2について
訂正事項1による訂正は,請求項1を削除する訂正である。また,訂正事項2による訂正は,請求項2を削除する訂正である。
そうしてみると,これら訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とする訂正である。また,これら訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。

(2) 訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3による訂正は,以下の訂正からなる。
[A] 訂正前発明3を特定するために必要な事項である「標本」を,「生体分子に蛍光標識した細胞」に限定する。
[B] 請求項1又は請求項2を引用して記載された請求項3のうち,請求項1の記載を引用する請求項3を,請求項1の記載を引用しないものとする。
したがって,訂正事項3による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号及び4号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮及び請求項間の引用関係の解消)を目的とする訂正である。

イ 新規事項について
訂正事項3による訂正のうち前記[A]の訂正は,願書に添付した明細書の【0050】の記載に基づくものである。また,前記[B]の訂正は,請求項の記載を書き改めたにすぎないものである。
そうしてみると,この訂正は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者によって,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって,訂正事項3による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正である(特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。)。

ウ 拡張又は変更について
訂正事項3による訂正は,前記ア[A]及び[B]で述べた訂正からなる。
したがって,訂正事項3による訂正により,訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が,訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならない(特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。)。

(3) 訂正事項4及び訂正事項5について
訂正事項4による訂正は,請求項4を削除する訂正である。また,訂正事項5による訂正は,請求項5を削除する訂正である。
そうしてみると,これら訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とする訂正である。また,これら訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。

(4) 訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6による訂正は,以下の訂正からなる。
[A] 訂正前発明3を特定するために必要な事項である「標本」を,「生体分子に蛍光標識した細胞」に限定する。
[B] 請求項1又は請求項2を引用して記載された請求項3のうち,請求項2の記載を引用する請求項3を,請求項1の記載を引用しないものとする。ただし,前記訂正事項3による訂正により,請求項3には,請求項1を引用する請求項3が記載されるため,訂正事項6による訂正においては,請求項2の記載を引用する請求項3を,請求項3には記載せずに,新たな請求項6に記載する。
以上のとおりであるから,訂正事項6による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号及び4号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮及び請求項間の引用関係の解消)を目的とする訂正である。

イ 新規事項について
訂正事項3による訂正と同様に,訂正事項6による訂正は,特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。

ウ 拡張又は変更について
訂正事項3による訂正と同様に,訂正事項6による訂正は,特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。

(5) 訂正事項7及び訂正事項8について
訂正事項7による訂正は,訂正事項1による訂正により請求項1が削除されたことにともない,これと整合するように【0007】の記載を書き改めることにより,訂正事項7による訂正に係る請求項が存在しないことを明らかにする訂正である。また,訂正事項8による訂正も,訂正事項2による訂正により請求項2が削除されたことにともなう,同様の訂正である。
そうしてみると,これら訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正である。また,これら訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。

(6) 訂正事項9について
訂正事項9による訂正は,訂正事項3による訂正により請求項3が訂正されたことにともない,これと整合するように【0012】の記載を書き改めることにより,【0012】の記載が明瞭でないものとなることを回避する訂正である。
そうしてみると,この訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正である。また,この訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。

(7) 訂正事項10及び訂正事項11について
訂正事項10による訂正は,訂正事項4による訂正により請求項4が削除されたことにともない,これと整合するように【0015】の記載を書き改めることにより,訂正事項10による訂正に係る請求項が存在しないことを明らかにする訂正である。また,訂正事項11による訂正も,訂正事項5による訂正により請求項5が削除されたことにともなう,同様の訂正である。
そうしてみると,これら訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正である。また,これら訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。

(8) 訂正事項12について
訂正事項12による訂正は,訂正事項6による訂正により新たな請求項6が設けられたことにともない,これと整合するように【0018】の記載を書き改めることにより,特許請求の範囲の記載と明細書の記載が整合しなくなることを回避する訂正である。
そうしてみると,この訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正である。また,この訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。

4 訂正についてのまとめ
本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書1号,3号及び4号に掲げる事項を目的とするものである。また,同訂正は,同条第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって,結論に記載のとおり,特許第6355961号の明細書及び特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1,2,4,5〕,3,6について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記「第2」で述べたとおり,本件訂正請求による訂正は,認められることとなった。そうしてみると,本件特許の請求項3及び請求項6に係る発明は,訂正後の特許請求の範囲の請求項3及び請求項6に記載された事項によって特定されるとおりの,下記のものである(以下,請求項3及び請求項6に係る発明を,それぞれ「本件特許発明3」及び「本件特許発明6」という。)。なお,請求項1,請求項2,請求項4及び請求項5は,削除された。



【請求項3】
光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと,
該対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部と,
前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する画像データ取得部と,
該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と,
前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ処理部と,
該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部とを備え,
前記標本が,生体分子に蛍光標識した細胞であり,
前記制御部が,前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる標本観察装置。

【請求項6】
光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと,
該対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部と,
前記対物レンズの焦点位置と光学的に共役な位置に開口するコンフォーカル開口部と,
前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を集光し,前記コンフォーカル開口部の開口位置に前記戻り光のスポットを投影するコンフォーカルレンズと,
該対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する画像データ取得部と,
該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と,
前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ処理部と,
該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部とを備え,
前記標本が,生体分子に蛍光標識した細胞であり,
前記コンフォーカル開口部の開口が,前記コンフォーカルレンズにより投影された前記戻り光のスポットの径寸法よりも小さい径寸法を有し,
前記制御部が,前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる標本観察装置。

第4 取消しの理由及び証拠
1 取消しの理由
本件特許に対して,当合議体が令和元年10月23日付け取消理由通知書(決定の予告)により通知した取消しの理由は,本件特許の請求項3を除く各請求項(請求項1,請求項2,請求項4及び請求項5)に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(甲1)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許(請求項3に係る特許を除く)は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである,というものである。

甲1:James B. Pawley編,"Handbook of Biological Confocal Microscopy, Third Edition",Springer Science + Business Media, LLC, New York,2006年,1,4?12,20,21,41,54,386,488,489,631及び632頁
甲9:特開2005-292839号公報
甲10:特開2006-72330号公報
(当合議体注:甲1は主引用例であり,甲9及び甲10は,周知技術を例示する文献である。)

2 その他の証拠について
特許異議申立人からは,甲1,甲9及び甲10以外に,以下の甲号証も提出された。
甲2:特開2012-78408号公報
甲3:特開平11-271636号公報
甲4:特開2001-117013号公報
甲5:特開2010-266452号公報
甲6:"Confocal Microscopy Tutorial",「Part 3 Operation, Optimization Of Leica SP2 LSCM」の頁,[online],2018年12月26日検索,インターネット,
(当合議体注:掲載場所は,「Advanced Microscopy Unit, Department Of Pathology, Haartman Institute, University Of Helsinki」のホームページにおいて,「Confocal Microscopy Tutorial」の「Part 3 Operation and Optimization」の「Frame average, and Frame accumulation」をたどって表示される頁である(2020年2月時点)。また,掲載年月日に関して,頁の最下部には,「This page was last updated 23.03.2004」と表記されている。)
甲7:特開2005-181380号公報
甲8:特開平10-260132号公報
甲11:特開2013-205231号公報
甲12:特開2012-78408号公報

特許異議申立人からは,以下の参考資料も提出された。
参考資料1:Ewa M. Goldys著," Fluorescence Applications in Biotechnology and Life Sciences",米国,Wiley-Blackwell,2009年8月,184頁
参考資料2:"Confocal Microscopy List",「confocal laser scanning mode mean vs sum」と題されたトピックの,「Glen MacDonald-2 Mar 04, 2010; 3:15am Re: confocal laser scanning mode mean vs sum」と題された投稿,[online],検索日不明,インターネット,
(当合議体注:特許異議申立人からは,上記の投稿のみが参考資料2として提出された。なお,「Confocal Microscopy List」に関しては,に,「This forum is an archive for the mailing list confocalmicroscopy@lists.umn.edu (more options) Messages posted here will be sent to this mailing list.」(参考訳:このフォーラムは,メーリングリストconfocalmicroscopy@lists.umn.edu(その他のオプション)のアーカイブです。ここに投稿されたメッセージは,このメーリングリストに送信されます。)と記載されている。)

第5 当合議体の判断
1 甲1等の記載及び甲1発明
(1) 甲1の記載
甲1は,本件出願前に頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,訳文に付した下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。また,使用できる文字の都合等により,人名に付された発音別符号等について省いたものがある。
ア 9頁右欄「CONFOCAL LASER-SCANNING MICROSCOPE」の第2段落1?17行
「These circumstances culminated in the development of the confocal laser-scanning microscope (CLSM, Figs. lA, l.5; Aslund et al., 1983, 1987) and publication of its biological application by Carlsson et al. (1985), Amos et al. (1987), and White et al. (1987). The publications were followed shortly by introduction of laser scanning confocal microscopes to the market by Sarastro, BioRad, Olympus, Zeiss, and Leitz. It was White, Amos, and Fordham of the Cambridge group that first enraptured the world's biological community with their exquisite and convincing illustrations of the power of the CLSM. Here at last was a microscope that could generate clear, thin optical sectioned images, totally free of out-of-focus fluorescence, from whole embryos or cells and at NAs as high as l.4. Not only could one obtain such remarkable optical-sectioned fluorescence images in a matter of seconds, but x-z sections (providing views at right angles to the normal direction of observation) could also be captured and rapidly displayed on the monitor.」
(参考訳:これらの環境は,共焦点レーザ走査型顕微鏡の開発(CLSM,図1.4,1.5,Aslundら,1983,1987)及びCarlssonら(1985),Amosら(1987),Whiteら(1987)によるその生物学への応用の発表において,全盛をきわめた。発表後すぐに,Sarastro,BioRad,Olympus,Zeiss,Leitzによって,走査型共焦点顕微鏡が市場に導入された。最初に世界の生物学コミュニティにCLSMの力の優れ,かつ説得力のある図で魅了したのは,ケンブリッジのグループであるWhite,Amos,Fordhamであった。ここでついに,明瞭で薄い光学的な断面画像を,焦点ではない蛍光を完全に除去し,完全な胚あるいは細胞から,1.4という高い開口数で生成できることを可能にしたのは,顕微鏡であった。このような顕著な光学的断面の蛍光画像を数秒で取得できるのみでなく,x-z断面(観察する法線方向に対して直角方向から見た図を提示)も取得し,ただちにモニタ上に表示することも可能である。)

イ 10頁のFIGURE 1.4


ウ 10頁のFIGURE 1.5


エ 11頁右欄第5段落1行?12頁左欄7行
「Of even greater importance, the image captured by a CLSM in a single, 1- to 2-s scan time is commonly too noisy because the image-forming signal is simply not made up of enough photons. The image generally must be integrated electronically over several frame times to reduce the noise, just as when one is using a high-sensitivity video camera. Thus, with a CLSM, it often requires several, or many, seconds to acquire a well-resolved, high-quality fluorescence image. If, in an attempt to reduce the number of frames that must be integrated, one tries to increase the signal reaching the PMT by raising the source brightness, by opening up the exit pinhole, or by increasing the concentration of fluorochrome, each alteration introduces new problems of its own. In fact, in CLSMs used for fluorescence imaging, if anything, one wants to reduce the light reaching the specimen in order to avoid saturation of the fluorophores, significant bleaching, and other excitation-induced damage. There is almost an indeterminacy principle operating here: One simply cannot simultaneously achieve high temporal resolution, high spatial resolution, large pixel numbers, and a wide gray scale simultaneously. This speed limitation must be seen as a disadvantage of the CLSM.」
(参考訳:さらにより重要なことは,CLMSで,1枚の1から2秒の走査時間で取得された画像は,共通してノイズが目立つ。これは,画像生成信号が,単純に十分な光子でできていないためである。画像は一般的に,ノイズを低減するためには,高感度ビデオカメラと同様に,数フレームにわたって電子的に積分しなければならない。これにより,CLSMを用いると,よい分解能で高画質の蛍光画像を取得するためには,数秒又は多くの秒数が必要である。積分しなければならないフレーム数を削減するための試みにおいて,光源の明るさをあげる,射出ピンホールを大きくする,蛍光体の濃度を高くするなどしたPMTに届くまで信号を増大させなければならない。これらの代替策は,それぞれ新しい問題を発生させる。実際,蛍光撮像に用いられるCLSMでは,なにかあれば,蛍光の飽和,極度の漂白,およびその他の励起によって引き起こされる損傷を避けるために,試料に到達する光を低減したいと考えるであろう。ここで働いているのは,ほとんど不確定性の原理である。単純に,高い時間分解能と高い空間分解能,大画素数,および広いグレースケールのレンジを同時に得ることはできない。この速度の制限は,CLSMの不利な点としてみなければならない。)

オ 21頁左欄第2段落
「The uncertainty associated with counting quantum-mechanical events is often spoken of in terms of it being the source of intrinsic or statistical noise, and this usage is the basis of the common belief that, while a single-scan image is "noisy," the "noise" can be "reduced" by summing or Kalman-averaging the data from many frames. This usage is accurate to the extent that because the summed image contains more data, it is better statistically determined and appears less noisy. However, it is important to keep intrinsic noise separate in one's mind from extrinsic noise such as that introduced by detector dark-current or electronic noise, or that produced by stray or out-of-focus light because, unlike intrinsic noise, these factors are susceptible to being reduced by careful technique and technological improvements. Furthermore, in the case of fixed pattern noise, the effect may not be reduced by averaging many frames.」
(参考訳:量子力学的イベントの計測に伴う不確定性は,もともと内在している雑音源,あるいは統計的な雑音源である条件において語られていることが多い。また,このような使用は,1回の走査画像は「雑音が多く」,「雑音」は多くのフレームのデータを合算あるいはカルマン平均することで「低減する」ことができるという共通の考えに基づいている。この使用は,合算したデータはより多くのデータを含むため,よりよい統計学的な決定ができ,雑音も少ないようにみえるという限りにおいて正確である。しかしながら,内在する雑音を,検出器の暗電流や電子雑音,あるいは迷光や焦点外からの光によって発生する外来雑音から切り離すことを念頭に入れることは重要である。これは,内在的な雑音と異なり,これらの因子は,慎重な技法と技術的な改善により,容易に低減することができるためである。さらに,固定パターン雑音の場合は,多数のフレームの平均をとっても低減されない可能性がある。)

カ 54頁「General Specifications」の第4段落
「The situation is less settled in the field of resonant galvanometers where the number of applications for very fast scanners is increasing rapidly and not all of the requirements can be fulfilled using electro-optic or acousto-optic devices. With resonant scanners, one-directional line scanning can now be performed at up to 8000Hz with present commercial scanners but research scanners have gone faster. However, resonant scanners have the disadvantage that their scan speed is fixed and their duty cycle short. To improve the signal-to-noise ratio of weak fluorescence signals, one can only line average, and this process accumulates readout noise. Finally, there is also no simple way to move the beam within a specific region or along a line that isn't horizontal. For FRAP experiments, one must bypass the laser light around the resonant scanner to a second linear scanner.」
(参考訳:超高速スキャナーへの適用数が急速に増加し,必ずしもすべての要件が電気光学的機器又は音響光学的機器を用いて満たすことができないような共鳴ガルバノメータの分野において,状況は落ち着いていない。共鳴スキャナーを用いて,今では一方向の走査は,現在の市販のスキャナーで8000Hzまで行えるようになっているが,研究用のスキャナーはもっと速いところまで来ている。しかしながら,共鳴スキャナーは,スキャンスピードが固定していて,デューティサイクルが短いという欠点がある。弱い蛍光信号の信号雑音比を向上させるためにできることは,ラインの平均を取ることだけであり,このプロセスは読み出し雑音を蓄積することになる。最後に特定の領域内,又は,水平でないラインに沿ってビームを動かす簡単な方法はない。FRAP実験に関しては,共鳴スキャナーの周りのレーザ光を,第2のラインスキャナーにバイパスさせなければならない。)

キ 386頁のTABLE19.2の項番5の「Potential solution(s)」の欄
「・Increase pixel dwell time.
・Open confocal pinhole aperture (e.g., to >2 Airy disks).
・Maximize throughput of emission pathway (e.g., in spectral imaging systems with variable spectral filters).
・Use line or frame averaging to improve signal-to-noise ratio.
・Adjust illumination (filling) of back aperture of objective lens.」
(参考訳:
・画素内の滞在時間を増大させる。
・共焦点ピンホール開口を広げる(例えば,2エアリーディスク単位以上まで)。
・放射経路のスループットを最大化する(例えば,さまざまな分光フィルタ付きの分光イメージングシステム)。
・信号対雑音比を向上させるために,ライン又はフレームの平均を用いる。
・対物レンズのバックアパーチャの照射(充填)を調整する。)

(2) 甲1発明
レーザ走査型共焦点顕微鏡に関する技術常識を考慮すると,甲1の10頁のFIGURE 1.4からは,以下の事項が理解される。
ア レーザからのレーザ光は,ダイクロイックビームスプリッタ,走査ミラー,接眼レンズ及び対物レンズを介して標本に照射される。
イ 走査ミラーは,対物レンズにより標本に照射するレーザ光を,標本上で第1の走査方向に走査させることができ,また,第1の走査方向と直交する第2の走査方向に走査させることもできる。
ウ 標本からの観察光は,対物レンズ,接眼レンズ,走査ミラー,ダイクロイックビームスプリッタ,集光レンズ及び検出器アパーチャを介して,検出器により検出される。
エ 焦点モータは,標本を,光軸方向に動かすことができる。
オ 制御電子部は,レーザ光が標本上をラスタースキャンするように走査ミラーを制御することにより,検出器が検出した信号を標本画像として取得することができる。
カ 標本画像は,TVモニタに表示することができる。
キ 標本が胚又は細胞である場合の観察光は,蛍光である。
ク 標本画像は,ホストコンピュータに画像データとして取り込まれ,ディスク又はテープに保存され,ワークステーションに表示することができる。
ケ ワークステーションには,観察光を画像処理してなる,標本の三次元画像が表示される。

以上ア?キで述べた事項を勘案すると甲1には,次の「レーザ走査型共焦点顕微鏡」の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。
「 レーザ,検出器,焦点モータ,制御電子部,TVモニタ,ホストコンピュータ,ワークステーションを含むレーザ走査型共焦点顕微鏡であって,
レーザからのレーザ光は,ダイクロイックビームスプリッタ,走査ミラー,接眼レンズ及び対物レンズを介して標本に照射され,
走査ミラーは,対物レンズにより標本に照射するレーザ光を,標本上で第1の走査方向に走査させることができ,また,第1の走査方向と直交する第2の走査方向に走査させることもでき,
標本からの観察光は,対物レンズ,接眼レンズ,走査ミラー,ダイクロイックビームスプリッタ,集光レンズ及び検出器アパーチャを介して,検出器により検出され,
焦点モータは,標本を,光軸方向に動かすことができ,
制御電子部は,レーザ光が標本上をラスタースキャンするように走査ミラーを制御することにより,検出器が検出した信号を標本画像として取得することができ,
標本画像は,TVモニタに表示することができ,
標本が胚又は細胞である場合の観察光は,蛍光であり,
標本画像は,ホストコンピュータに画像データとして取り込まれ,ディスク又はテープに保存され,ワークステーションに表示することができ,
ワークステーションには,観察光を画像処理してなる,標本の三次元画像が表示される,
レーザ走査型共焦点顕微鏡。」

(3) 参考文献1の記載
参考文献1は,本件出願前に頒布された刊行物であるところ,そこには以下の記載がある。なお,特許異議申立人は,184頁の記載であるとしている。
「6. Image Averaging The quality of an image can be improved by averaging a number of images. The averaging can be performed on a frame-by-frame or line-by-line basis. Frame averaging involves averaging a number of successive two-dimensional images. Movements of cells or subcellular components during the image acquisition time will produce blurriness or "trailing" effects depending on the degree of movement. In the line-averaging mode a single line is repeatedly imaged and averaged before moving to the next line. This approach is preferable in live cell measurements, in particular when examining structures that may exhibit a degree of movement during the course of an image scan. Although both types of image averaging increase the quality of data in an image, they decrease the time resolution. Averaging can also significantly increase the level of bleaching during the image acquisition phase of the measurement since the sample is subjected to a greater dose of illumination.」
(参考訳:6.画像の平均化 画像の品質は,複数の画像を平均化することで改善できる。平均化は,フレームごと又は行ごとに実行できる。フレームの平均化には,連続する多数の2次元画像の平均化が含まれる。画像取得時間中の細胞又は細胞内成分の動きは,動きの程度に応じて,不鮮明又は「引きずり」効果を招く。ライン平均化モードでは,次のラインに移動する前に,単一のラインが繰り返し画像化及び平均化される。このアプローチは,生細胞の測定,特に,画像スキャンの過程において,ある程度の動きを示す可能性のある構造を調べる場合において好ましい。両方のタイプの画像平均化は,画像内のデータの品質を向上させるが,これらは,時間分解能を低下させる。平均化により,サンプルがより多くの量の照射を受けるため,測定の画像取得中に漂白のレベルを大幅に増加させる可能性がある。)

(4) 参考文献2の記載
参考文献2(翻訳文が提出された箇所)には,以下の記載がある。
「Line averaging is usually preferred for live specimens since you will have less motion artifact between pixels.」
(参考訳:ピクセル間の動きの乱れが少ないため,生きている標本に関してはライン平均が通常好ましい。)

2 対比及び判断
(1) 対比
本件特許発明3と甲1発明を対比する。
ア 対物レンズ
甲1発明の「レーザ走査型共焦点顕微鏡」において,「レーザからのレーザ光は,ダイクロイックビームスプリッタ,走査ミラー,接眼レンズ及び対物レンズを介して標本に照射され」る。
上記の構成からみて,甲1発明の「対物レンズ」は,光源であるレーザから発せられたレーザ光を標本に照射するものといえる。
したがって,甲1発明の「対物レンズ」は,本件特許発明3の「対物レンズ」に相当する。また,甲1発明の「対物レンズ」は,本件特許発明3の「対物レンズ」における,「光源から発せられたレーザ光を標本に照射する」という構成を具備する。

イ 走査部
甲1発明の「レーザ走査型共焦点顕微鏡」において,「走査ミラーは,対物レンズにより標本に照射するレーザ光を,標本上で第1の走査方向に走査させることができ,また,第1の走査方向と直交する第2の走査方向に走査させることもでき」る。
上記の構成からみて,甲1発明の「走査ミラー」は,本件特許発明3の,「該対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる」とされる,「走査部」に相当する。

ウ 画像データ取得部
甲1発明の「レーザ走査型共焦点顕微鏡」において,「標本からの観察光は」「検出器により検出され」,「制御電子部は」「検出器が検出した信号を標本画像として取得することができ」,「標本画像は,ホストコンピュータに画像データとして取り込まれ」る。
上記の構成からみて,甲1発明の「検出器」,「制御電子部」及び「ホストコンピュータ」を併せたもの(以下「標本画像取得部」という。)は,対物レンズによりレーザ光が照射された標本からの戻り光である観察光を検出して画像データを取得するものといえる。
したがって,甲1発明の「標本画像取得部」は,本件特許発明3の「画像データ取得部」に相当する。また,甲1発明の「標本画像取得部」は,本件特許発明3の「画像データ取得部」における,「前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する」という構成を具備する。

エ 制御部
甲1発明の「レーザ走査型共焦点顕微鏡」において,「制御電子部は,レーザ光が標本上をラスタースキャンするように走査ミラーを制御することにより,検出器が検出した信号を標本画像として取得することができ」る。また,甲1発明の「レーザ走査型共焦点顕微鏡」において,「焦点モータ」を停止できることは自明である。
そうしてみると,甲1発明は,その「制御電子部」に,標本画像取得部により,標本における同じ場所,すなわち同一範囲からの戻り光である観察光を繰り返し検出して同一範囲の画像データである標本画像を複数取得させる制御部を具備するものといえる。
したがって,甲1発明の「レーザ走査型共焦点顕微鏡」は,本件特許発明3の「該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部」に相当する構成を具備する。

オ 標本
甲1発明において,「標本が胚又は細胞である場合の観察光は,蛍光」であるから,甲1発明の「レーザ走査型共焦点顕微鏡」は,生体分子に蛍光標識した細胞を観察することができる能力を具備する。
したがって,甲1発明の「レーザ走査型共焦点顕微鏡」は,本件特許発明3における「前記標本が,生体分子に蛍光標識した細胞であり」という要件を満たすことができる装置である。

カ 走査
甲1発明の「制御電子部」は,「レーザ光が標本上をラスタースキャンするように走査ミラーを制御することにより,検出器が検出した信号を標本画像として取得することができ」る。
そうしてみると,甲1発明の「制御電子部」と本件特許発明3の「制御部」は,「前記走査部により前記主走査方向における」「走査ライン上でレーザ光を」「走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記」「走査ラインごとに画像データを」「取得させる」点で共通する。

キ 標本観察装置
甲1発明の全体の構成からみて,甲1発明の「レーザ走査型共焦点顕微鏡」は,標本を観察する装置ということができる。
この点において,甲1発明の「レーザ走査型共焦点顕微鏡」は,本件特許発明3の「標本観察装置」に相当する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明3と甲1発明は,次の構成で一致する。
「 光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと,
該対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部と,
前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する画像データ取得部と,
該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と,
を備え,
前記標本が,生体分子に蛍光標識した細胞であり,
前記制御部が,前記走査部により前記主走査方向における走査ライン上でレーザ光を走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記走査ラインごとに画像データを取得させる標本観察装置。」

イ 相違点
本件特許発明3と甲1発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「標本観察装置」が,本件特許発明3は,「前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ処理部と」,「該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部」を具備するのに対して,甲1発明は,これら構成を具備するものとは特定されていない(ホストコンピュータによる画像処理に,これら構成が含まれるとまではいえない)点。

(相違点2)
「制御部」が,本件特許発明3は,「前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる」ものであるのに対して,甲1発明は,上記下線を付した構成を具備しない(ラスタースキャンである)点。

(3) 判断
事案に鑑みて,相違点2について判断する。
甲1の記載からみて,共焦点顕微鏡により取得される標本画像に,検出される光子の数が不十分であることに起因するノイズが含まれること,このノイズを取り除くために,ライン又はフレームのデータを合算することは,いずれも,本件出願前の当業者における周知技術であったといえる(前記1(1)エの下線部,オの下線部,カの下線部及びキの下線部の記載を参照。)。
そして,甲1発明は,「レーザ走査型共焦点顕微鏡」であるから,その標本画像に,検出される光子の数が不十分であることに起因する雑音が含まれることは,自明である。
ところで,甲1発明の「レーザ走査型共焦点顕微鏡」において,「制御電子部」は,「レーザ光が標本上をラスタースキャンするように走査ミラーを制御することにより,検出器が検出した信号を標本画像として取得することができ」,「標本画像」は,「TVモニタに表示することができ」るものである。
そうしてみると,甲1発明の構成を前提として,検出される光子の数が不十分であることに起因するノイズを取り除くために当業者が採用する周知技術は,甲1発明の「TVモニタ」にフレーム毎の標本画像をリアルタイムで表示させつつ,「ホストコンピュータ」において,標本画像のフレーム毎の画像データを合算することと解するのが自然である。
なぜならば,甲1発明の構成を前提として,フレーム加算によるノイズ除去の周知技術を採用する場合には,「ホストコンピュータ」における標本画像の処理プログラムを変更するだけで足りる。これに対して,甲1発明において,ライン加算によるノイズ除去の周知技術を採用する場合には,ラスタースキャンに関する全ての構成(「制御電子部」による「走査ミラー」の制御,「制御電子部」による「TVモニタ」のビデオメモリへの書き込み制御,「制御電子部」から「ホストコンピュータ」が受け取ったデータの処理,「ディスク又はテープ」に保存する「標本画像」のデータフォーマット等)を全て変える必要があり,また,「TVモニタ」の表示画像の更新が,ライン走査の繰り返し数の倍数だけ遅くなる問題も生じる。
そうしてみると,甲1発明において,当業者が,本件特許発明3の「前記制御部が,前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ,前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させ」,「前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する」構成に到るとはいえない。
(この点は,甲1発明に関する甲1の9?10頁の記載に続く,甲1の11頁(前記1(1)エの下線部)において,フレーム加算のみが言及され,ライン加算が言及されていないことからみても,明らかである。すなわち,甲1の11頁の記載に触れた当業者が,甲1発明において,ノイズを低減する手段として数フレームにわたって積分することに換えて採用を試みるのは,速度の制限と標本の損傷を比較考量すれば,フレーム数を削減することまでであって,ライン加算することまでには思い到らないといえる。)。

さらにすすんで検討する。
すでに述べたとおり,甲1発明の構成を前提として,ライン加算によるノイズ除去の周知技術を採用することには,フレーム加算の場合に比して,特段の困難が伴うといえる(両者の比較考量でいえば,前者を採用することには阻害要因があると認められる。)。
したがって,当業者が,甲1発明の構成を前提としてライン加算によるノイズ除去の周知技術を採用するためには,特段の困難を乗り越えるだけの,強い動機付けが必要といえる。
この点に関して,参考文献1及び参考文献2には,画像取得時間中の細胞又は細胞内成分の動きは,動きの程度に応じて,不鮮明又は引きずり効果を招くという課題,及びこのような場合には,フレーム平均ではなくライン平均を採用する方が好ましいという知見が開示されている。
しかしながら,上記の「画像取得時間中の細胞又は細胞内成分の動きは,動きの程度に応じて,不鮮明又は引きずり効果を招くという課題」は,甲1発明において,フレーム加算によるノイズ除去の周知技術を採用した結果,画像取得時間中の細胞又は細胞内成分の動きの程度が不鮮明又は引きずり効果を招く程度にまで大きくなった後で,初めてあらわになる課題である。
そうしてみると,甲1発明の構成を容易推考の出発点として,相違点2に係る本件特許発明3の構成を採用するに到るためには,甲1発明において,フレーム加算によるノイズ除去の周知技術を採用するという発明をした後で見いだされる課題に着眼した上で,参考文献1及び参考文献2に記載された知見に基づいて,更なる発明をすることが必要といえる。
このような発明は,いわゆる容易の容易と理解されるものであり,甲1発明の構成を前提としてライン加算によるノイズ除去の周知技術を採用するための,強い動機づけとはいえないものであるから,本件特許発明は,甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。

(4) 効果について
本件特許発明3の効果は,「標本として細胞を用いた場合であっても,1点にレーザ光を照射し続けないので光毒性や蛍光飽和が起きるのを防ぐことができる。また,同一範囲を繰り返し走査する時間間隔が長すぎないので,細胞の経時変化や装置の温度ドリフトの影響を低減することができる。したがって,画像データ処理部により,ノイズが少なく高周波成分の比率が高い元画像を生成することができる。」(【0013】)というものである。
このような効果は,甲1発明において,走査速度を遅くすることやフレーム加算によるノイズ除去ではなく,ライン加算によるノイズ除去を採用して初めて得られる効果であり,また,ノイズが少なく高周波成分の比率が高い元画像を必要とする,「高周波成分を強調する画像演算処理部」を具備した場合において,特に有利な効果と認められる。
しかしながら,このような効果に関する技術思想は,甲1はもとより,特許異議申立人が提出した他の証拠(甲2?甲12並びに参考文献1及び参考文献2)のいずれにも,記載も示唆もされていないものである。
そうしてみると,本件特許発明3の効果は,甲1発明から予測できない効果ということができ,また,顕著な効果ということもできる。
したがって,本件特許発明3は,たとえ当業者といえども,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は,令和2年1月28日付け意見書において,「前記標本が,生体分子に蛍光標識した細胞であり」という構成は,「標本観察装置」自体の構成要素とは認められないと主張する。
ご指摘のとおり,「前記標本が,生体分子に蛍光標識した細胞であり」という構成は,「標本観察装置」それ自体の構成ではない。
しかしながら,この構成により,本件特許発明3の範囲から,「生体分子に蛍光標識した細胞」を観察できないもの(例:感度が悪いもの,解像度が悪いもの)が除かれることとなったことは明らかである。

特許異議申立人は,甲1の11頁に「When speed of image acquisition is of paramount importance, as in the study of moving cells, living cells at high magnification, or microtubules growing in vitro,…」(参考訳:動く細胞,高倍率の生きた細胞,又は微小管で成長している生体外の細胞の研究の場合のように,画像取得速度がもっとも重要である場合…)と記載があることを挙げて,「甲1には,甲1に記載されているレーザ走査型共焦点顕微鏡を用いて標本の画像化を行うとき,「標本が,生体分子に蛍光標識した細胞」の場合に,取得速度がより速い方法を適用しようとすることに対する,動機付けとなる記載がある。」と主張する。
しかしながら,甲1の11頁の上記記載に続く文章は,「… the type of speed provided by the Nipkow disk system may be indispensable.」(参考訳:Nipkowディスクシステムが提供する速度の種類が必要不可欠であろう。)というものである。
特許異議申立人が挙げた甲1の記載に接した当業者が採用する構成は,相違点2に係る本件特許発明3の構成ではなく,Nipkowディスクシステムの構成である。

以上のとおりであるから,特許異議申立人の主張は採用できない。

(6) 本件特許発明6について
本件特許発明6は,相違点2に係る本件特許発明3の構成と,同じ構成を具備する。
本件特許発明6も,たとえ当業者といえども,甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 取消しの理由において採用しなかった特許異議申立ての理由について
特許異議申立人は,「該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部」における,「高周波」の具体的な程度が,明確であるということができないと主張する(36条6項2号)。
しかしながら,本件特許発明3及び本件特許発明6の「加算画像データ」は,「標本観察装置」の「画像データ処理部により得られ」るものである。
そして,このような「加算画像データ」が,スペクトル拡がりを有することは自明であるから,その画像データに含まれる各周波数成分を,高い,低いという基準で比較することができる。また,どの程度,高い周波数成分を強調するかは,「標本観察装置」を使用するユーザの随意である。
以上勘案すると,本件特許発明3及び本件特許発明6でいう「高周波成分を強調する」とは,「低周波成分に対して高周波成分を強調する」ことを意味し,「低周波」と「高周波」の境界の具体的な程度についてまで規定する必要はないと解するのが相当である。
したがって,本件特許発明3及び本件特許発明6は明確である。

第7 まとめ
以上のとおりであるから,取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては,請求項3及び請求項6に係る特許を取り消すことができない。
また,他にこれら特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正請求により,請求項1,請求項2,請求項4及び請求項5は削除されたから,これら請求項に係る特許についての特許異議の申立ての対象は存在しないこととなった。したがって,請求項1,請求項2,請求項4及び請求項5についての特許異議の申立ては,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。

よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
標本観察装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムの解読以降、癌などの疾患機序や心臓・脳神経といった各臓器の発生/分化機序が分子レベルで解明されるようになっている。そして、顕微鏡を用いて細胞などの生体サンプルを観察する場合には、タンパクやDNA/RNAなど、分子レベルの挙動を観測することが求められている。このため、光学分解能を上回る超解像観察の重要性が増々高まっている。
【0003】
従来、超解像観察を行う装置として、画像演算処理により、標本の画像データに対して高周波成分を強調することで、超解像成分が可視化された超解像画像を生成する標本観察装置が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開2012-78408号公報
【特許文献2】 特開2013-20083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の標本観察装置のように、標本の画像データに対して高周波成分を強調する場合において、画像データにおける高周波成分の比率が小さいと高周波成分を効率的に強調することができず、良好な超解像画像を生成することができないという問題がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、良好な超解像画像を生成可能にすることができる標本観察装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の参考例としての発明は、光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと、該対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する画像データ取得部と、該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と、前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ処理部と、該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部とを備える標本観察装置を提供する。
【0008】
本発明の上記参考例としての発明によれば、標本から発せられたレーザ光が対物レンズにより標本に照射され、標本から戻る戻り光が画像データ取得部により検出されて標本の画像データが取得される。そして、制御部により、画像データ取得部によって繰り返し検出されて取得された標本における同一範囲の複数の画像データが画像データ処理部によって加算される。
【0009】
これにより、標本上の同一範囲について、1度のレーザ光の照射では十分な光量が得られず画像データにノイズが重畳してしまう場合であっても、画像データを加算した分だけ輝度が増大してノイズが平滑化された高周波成分の比率が大きい画像が得られる。したがって、画像データ処理部により得られる画像を元画像として画像演算処理部により画像演算処理を施すことで、元画像の高周波成分が効率的に強調されて超解像成分が可視化された良好な超解像画像を生成することが可能になる。
【0010】
上記発明においては、前記対物レンズの焦点位置と光学的に共役な位置に開口するコンフォーカル開口部と、前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を集光し、前記コンフォーカル開口部の開口位置に前記戻り光のスポットを投影するコンフォーカルレンズとを備え、前記コンフォーカル開口部の開口が、前記コンフォーカルレンズにより投影された前記戻り光のスポットの径寸法よりも小さい径寸法を有することとしてもよい。
【0011】
このように構成することで、コンフォーカル開口部により、戻り光の中心部分のみが通過して周囲の部分は遮断されるので、画像データ取得部により高周波成分の比率が高い画像データが取得され、画像データ処理部により標本の同一範囲について高周波成分の比率がより向上した元画像が得られる。これにより、画像演算処理により、元画像の高周波成分をより効率的に強調して超解像成分が可視化されたより良好な超解像画像を生成することが可能になる。
【0012】
本発明の一態様は、光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと、該対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部と、対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する画像データ取得部と、該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と、前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ処理部と、該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部とを備え、前記標本が、生体分子に蛍光標識した細胞であり、前記制御部が、前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ、前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる標本観察装置である。
【0013】
このように構成することで、標本として細胞を用いた場合であっても、1点にレーザ光を照射し続けないので光毒性や蛍光飽和が起きるのを防ぐことができる。また、同一範囲を繰り返し走査する時間間隔が長すぎないので、細胞の経時変化や装置の温度ドリフトの影響を低減することができる。したがって、画像データ処理部により、ノイズが少なく高周波成分の比率が高い元画像を生成することができる。
【0014】
なお、1画素単位で標本の同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して画像データを取得すると、レーザ光が標本の1点に照射され続けるため、光毒性の影響が顕著になり、また、蛍光分子が飽和状態に陥りやすい。一方、1画面フレーム単位で標本からの戻り光を繰り返し検出して画像データを取得すると、細胞の経時的な変化や装置の温度ドリフトの影響などが大きく、同一範囲の画像データが変化してしまう。
【0015】
本発明の上記参考例としての発明においては、ライン状のレーザ光を発生する前記光源を備え、前記画像データ取得部が、ライン状のレーザ光が照射された前記標本から戻る戻り光を撮影するライン状に形成された撮像素子を備えることとしてもよい。
【0016】
このように構成することで、光源から発せられたライン状のレーザ光が対物レンズによってライン照明される領域を、スキャナによる主走査方向の走査ラインと同様のものとみなすことができる。したがって、ライン状に形成された撮像素子により、標本におけるライン照明された同一範囲からの戻り光を繰り返し検出されて得られた複数の画像データを画像データ処理部により加算することで、スキャナを用いることなく、高周波成分の比率が高い加算画像を簡易に生成することができる。
【0017】
本発明の上記参考例としての発明においては、周期的に配列されたスリット状またはピンホール状の開口を有し、前記対物レンズに入射するレーザ光を制限するマスクと、該マスクを中心軸回りに高速回転させる駆動部とを備え、前記画像データ取得部が、前記標本から戻る戻り光を撮影する2次元撮像素子を備えることとしてもよい。
【0018】
このように構成することで、駆動部によってマスクを高速回転させることにより、スキャナを用いることなく、マスクの開口を通過して対物レンズによって標本に照射されるレーザ光が走査される。また、2次元撮像素子により、レーザ光が走査された標本の走査範囲の画像データが取得される。これにより、2次元撮像素子により取得された1フレーム分の複数の画像データを画像データ処理部により加算することで、高周波成分の比率が高い加算画像を簡易に生成することができる。
本発明の他の一態様は、光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと、該対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部と、前記対物レンズの焦点位置と光学的に共役な位置に開口するコンフォーカル開口部と、前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を集光し、前記コンフォーカル開口部の開口位置に前記戻り光のスポットを投影するコンフォーカルレンズと、前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する画像データ取得部と、該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と、前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ処理部と、該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部とを備え、前記標本が、生体分子に蛍光標識した細胞であり、前記制御部が、前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ、前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる標本観察装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好な超解像画像を生成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】 本発明の一実施形態に係る標本観察装置を示す概略構成図である。
【図2】 図1のシステム制御PCの概略構成図である。
【図3】 図1の走査型レーザ顕微鏡を正面から見た図である。
【図4】 図3の走査型レーザ顕微鏡を側面から見た図である。
【図5】 図3の走査型レーザ顕微鏡を上方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る標本観察装置について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る標本観察装置1は、図1?図5に示すように、走査型レーザ顕微鏡3と、走査型レーザ顕微鏡3の制御等を行うシステム制御PC(Personal Computer)5とを備えている。
【0022】
走査型レーザ顕微鏡3は、生体細胞組織のような標本Sに励起レーザ光を照射する顕微鏡本体10と、顕微鏡本体10により励起レーザ光が照射された標本Sより集光された蛍光を検出し光強度信号を取得する第1検出ユニット30および第2検出ユニット40とを備えている。
【0023】
顕微鏡本体10は、標本Sを載置するステージ11(図3?5参照)と、励起レーザ光を発生する光源(図示略)と、光源から発せられた励起レーザ光を走査するスキャナ(走査部)13と、スキャナ13により走査された励起レーザ光を集光する瞳投影レンズ15と、瞳投影レンズ15により集光された励起レーザ光を平行光に変換する結像レンズ17と、平行光に変換された励起レーザ光を標本Sに照射する一方、標本Sにおいて発生する蛍光を集光する対物レンズ19とを備えている。
【0024】
また、顕微鏡本体10には、対物レンズ19により集光されて結像レンズ17、瞳投影レンズ15およびスキャナ13を介して励起レーザ光の光路を戻る蛍光(戻り光)を光路から分岐させるダイクロイックミラー21と、ダイクロイックミラー21により分岐された蛍光をリレーするリレーレンズ23と、対物レンズ19の焦点位置と光学的に共役な位置に開口する絞り(コンフォーカル開口部)25と、リレーレンズ23によりリレーされた蛍光の光路を切り替える光路切り替えミラー27とが備えられている。
【0025】
スキャナ13は、図3?5に示す走査ユニット(SU)7に収容されている。また、スキャナ13は、互いに対向して配置されて相互に直交する軸線回りに揺動可能な2枚のガルバノミラー(図示略)を備えている。このスキャナ13は、2枚のガルバノミラーを揺動させて励起レーザ光を偏向することで、標本S上で励起レーザ光を2次元的(X軸方向およびY軸方向)に走査することができるようになっている。
【0026】
一方のガルバノミラーの揺動速度は、他方のガルバノミラーの揺動速度に対して十分に速く設定されている。高速側のガルバノミラーは標本S上における主走査方向(X軸方向)の走査のために使用され、低速側のガルバノミラーは標本S上における走査位置を副走査方向(Y軸方向)に送るために使用される。これら2枚のガルバノミラーは、図示しないモータにより軸線回りに揺動させられるようになっている。
【0027】
ダイクロイックミラー21は、光源からの励起レーザ光をスキャナ13に向けて反射する一方、標本Sからの蛍光をリレーレンズ23に向けて透過させるようになっている。
リレーレンズ23は、ダイクロイックミラー21を透過した蛍光を集光して絞り25の開口位置に蛍光のスポットを結像して投影するコンフォーカルレンズ24Aと、コンフォーカルレンズ24Aにより結像投影された蛍光を第1検出ユニット30および第2検出ユニット40へ導く検出光導入レンズ24Bとにより構成されている。
【0028】
絞り25は、システム制御PC5により、開口径を変更することができるようになっている。本実施形態においては、絞り25は、コンフォーカルレンズ24Aにより投影される蛍光のスポット、すなわち、コンフォーカルスポットの径寸法よりも若干小さい開口径に設定されている。
【0029】
光路切り替えミラー27は、リレーレンズ23によりリレーされた蛍光の光路に挿脱可能に配置されている。この光路切り替えミラー27は、蛍光の光路に挿入されると、リレーレンズ23からの蛍光を第1検出ユニット30に向けて反射するようになっている。蛍光の光路から光路切り替えミラー27が外されると、リレーレンズ23からの蛍光がそのまま第2検出ユニット40に入射するようになっている。
【0030】
第1検出ユニット30は、走査ユニット7に内蔵されている。この第1検出ユニット30は、リレーレンズ23により導かれた蛍光を検出してその光量に応じた大きさの光強度信号を出力するマルチアルカリPMT(Photo Multiplier Tube、画像データ取得部)31と、マルチアルカリPMT31にHV(High Voltage、印加電圧)を印加する第1HV電源33と、マルチアルカリPMT31から出力された光強度信号を増幅する第1増幅器35とを備えている。
マルチアルカリPMT31は、サイドオン型のPMTであり、蛍光を受光して光電変換するマルチアルカリ光電面(図示略)を備えている。
【0031】
第2検出ユニット40は、図3?5に示す高感度検出ユニット(HSD:High Sensitivity Detectors)9に収容されている。この第2検出ユニット40は、リレーレンズ23により導かれた蛍光を検出してその光量に応じた大きさの光強度信号を出力するGaAsP-PMT(Gallium Arsenide Phosphide-PMT、画像データ取得部)41と、GaAsP-PMT41にHVを印加する第2HV電源43と、GaAsP-PMT41から出力された光強度信号を増幅する第2増幅器45とを備えている。
GaAsP-PMT41は、ヘッドオン型のPMTであり、GaAsP化合物を使用した光電面(図示略)を備えている。このGaAsP-PMT41は、マルチアルカリPMT31よりも感度が高く、画像データにノイズが少ない。
【0032】
システム制御PC5は、図2に示すように、装置の設定、画像データの取得および処理等を行う制御本体部(画像データ取得部、制御部、画像データ処理部、画像演算処理部)51と、制御本体部51に対してユーザに指示を入力させる入力部53と、標本Sの画像等を表示するモニタ55とを備えている。
【0033】
制御本体部51は、入力部53に入力されるユーザの指示に従い、スキャナ13の走査条件の設定、絞り25の開口径の設定、光路切り替えミラー27の挿脱、第1増幅器35および第2増幅器45の増幅ゲインの設定、第1HV電源33および第2HV電源43のHVの設定等を行うようになっている。
【0034】
また、制御本体部51は、スキャナ13を制御するとともに、第1増幅器35または第2増幅器45から送られてくる光強度信号をスキャナ13の走査位置に対応する画素毎に輝度情報に変換して、標本Sの画像データを取得するようになっている。また、制御本体部51は、取得した画像データをモニタ55に表示するようになっている。
【0035】
また、制御本体部51は、スキャナ13および検出ユニット30,40により、標本Sにおける同一範囲からの蛍光を繰り返し検出して同一範囲の画像データを複数取得するようになっている。具体的には、制御本体部51は、スキャナ13の高速側のガルバノミラーにより主走査方向における同一の走査ライン上で励起レーザ光を繰り返し走査させて、同一の走査ラインごとに複数の画像データを取得するようになっている。
【0036】
また、制御本体部51は、取得した標本Sの同一範囲の複数の画像データを加算して加算画像(加算画像データ)を生成するようになっている。そして、制御本体部51は、生成した加算画像を元画像としてこれに高周波成分を強調する画像演算処理を施すことにより、光学分解能を上回る超解像画像を生成するようになっている。
【0037】
このように構成された標本観察装置1の作用について説明する。
本実施形態に係る標本観察装置1によりマルチアルカリPMT31を用いて標本Sの画像データを取得する場合は、制御本体部51により、第1HV電源33のHVゲイン、第1増幅器35の増幅器ゲインを設定する。そして、制御本体部51により、蛍光の光路に光路切り替えミラー27を挿入し、光源から励起レーザ光を発生させる。
【0038】
光源から発せられた励起レーザ光は、ダイクロイックミラー21により反射された後、スキャナ13により偏向されて瞳投影レンズ15により集光され、結像レンズ17により平行光に変換されて対物レンズ19により標本Sに照射される。これにより、スキャナ13の揺動動作に応じて標本S上で励起レーザ光が2次元的に走査される。
【0039】
励起レーザ光が照射されることにより標本Sにおいて発生する蛍光は、対物レンズ19により集光され、結像レンズ17、瞳投影レンズ15、スキャナ13を介して励起レーザ光の光路を戻り、ダイクロイックミラー21を透過して光路から分岐される。ダイクロイックミラー21を透過した蛍光は、リレーレンズ23によりリレーされて絞り25を通過し、光路切り替えミラー27により反射されて第1検出ユニット30に入射する。
【0040】
第1検出ユニット30においては、マルチアルカリPMT31により蛍光が検出され、検出した蛍光の量に応じた大きさの光強度信号が出力される。マルチアルカリPMT31から出力された光強度信号は、第1増幅器35により増幅されて、システム制御PC5の制御本体部51に送られる。
【0041】
制御本体部51においては、入力された光強度信号がスキャナ13の走査位置に対応する画素毎に輝度情報に変換され、標本Sの画像データが取得される。取得された画像データはモニタ55に表示される。
【0042】
次に、GaAsP-PMT41を用いて標本Sの画像データを取得する場合は、制御本体部51により、第2HV電源43のHVゲイン、第2増幅器45の増幅器ゲインを設定する。そして、制御本体部51により、蛍光の光路から光路切り替えミラー27を外し、マルチアルカリPMT31を用いた場合と同様に顕微鏡本体10により標本S上で励起レーザ光を走査させる。
【0043】
標本Sにおいて発生した蛍光は、対物レンズ19により集光されて励起レーザ光の光路を戻り、ダイクロイックミラー21を透過してリレーレンズ23によりリレーされた後、光路切り替えミラー27を介さずに第2検出ユニット40に入射する。
【0044】
第2検出ユニット40においては、GaAsP-PMT41により蛍光が検出されて光強度信号が出力され、第2増幅器45により光強度信号が増幅されて制御本体部51に送られる。そして、制御本体部51により、その光強度信号に基づいて標本Sの画像データが取得される。取得された画像データはモニタ55に表示される。
【0045】
次に、超解像画像を生成する場合について説明する。
本実施形態に係る標本観察装置1により超解像画像を生成する場合は、画像データに含まれるノイズが少ないGaAsP-PMT41を用いて標本Sの画像データを取得することが望ましい。
【0046】
この場合、制御本体部51により、画像データの加算回数、および、スキャナ13による走査方法(ラインスキャン)の画像取得パラメータも設定する。そして、光源から励起レーザ光を発生させ、制御本体部51により画像取得パラメータに基づいてスキャナ13を制御する。
【0047】
具体的には、高速側のガルバノミラーを主走査方向に繰り返し搖動させて、主走査方向における同一の走査ライン上で励起レーザ光を所定の回数だけ繰り返し走査させる。主走査方向における同一の走査ラインが所定の回数だけ走査されたら、低速側のガルバノミラーを搖動させて副走査方向に走査位置をずらし、主走査方向の走査ラインを次の走査ラインに移動させる。この動作を繰り返えす。
【0048】
これにより、制御本体部51によって、標本Sにおけるスキャナ13の副走査方向の全域にわたり、主走査方向における同一の走査ラインごとに画像データがそれぞれ複数取得される。そして、制御本体部51により、取得した標本Sにおける同一範囲の複数の画像データが加算されて加算画像が生成される。
【0049】
次いで、制御本体部51により、生成した加算画像に対して高周波成分を強調する画像演算処理が施される。これにより、超解像成分が可視化された超解像画像が生成される。
【0050】
ここで、生体細胞組織のように生体分子に蛍光標識した細胞を標本Sとして観察する場合、1度の走査では十分な検出光量が得られず、ざらざらしたノイズ(ランダムノイズ)が重畳した画像データが取得されることが多い。このような画像データに対して、高周波成分を強調する処理を適用すると、ノイズが強調された画像になってしまい、良好な超解像画像を得ることができない。
【0051】
本実施形態においては、制御本体部51により、標本Sにおける同一範囲ごとに画像データをそれぞれ複数取得してこれらを加算することで、標本S上の同一範囲について、画像データを加算した分だけ輝度が増大してノイズが平滑化された高周波成分の比率が大きい加算画像が得られる。
【0052】
したがって、本実施形態に係る標本観察装置1によれば、同一範囲の画像データを複数加算して生成した加算画像を元画像として画像演算処理を施すことで、元画像の高周波成分が効率的に強調されて超解像成分が可視化された良好な超解像画像を生成することができる。
【0053】
また、主走査方向における同一の走査ライン上で励起レーザ光を繰り返し走査させて画像データを複数取得することで、標本Sとしての生体細胞組織に対して励起レーザ光を1点に照射し続けなくて済み、光毒性や蛍光飽和(サチュレーション)が起きるのを防ぐことができる。また、同一範囲を繰り返し走査する時間間隔が長くなりすぎず、細胞の経時変化や装置の温度ドリフトの影響を低減することができる。したがって、ノイズが少なく高周波成分の比率が高い元画像を生成することができる。
【0054】
なお、本実施形態の比較例として、例えば、1画素単位で標本Sの同一範囲からの蛍光を繰り返し検出して画像データを取得した場合は、励起レーザ光が標本Sの1点に照射され続けるため、光毒性の影響が顕著になり、また、蛍光分子が飽和状態に陥りやすい。そのため、元画像を取得できず、超解像画像を生成することができない。
【0055】
また、例えば、1画面フレーム単位で標本Sからの蛍光を繰り返し検出して画像データを取得した場合は、細胞の経時的な変化や装置の温度ドリフトの影響などが大きくなり、標本Sにおける同一範囲であってもフレーム毎に画像データが変化してしまう。そのため、これを加算して得られる元画像はぼけてしまい、良好な超解像画像を生成することができない。
【0056】
また、本実施形態においては、制御本体部51が画像データの取得と、標本Sにおける同一範囲の画像データの複数取得と、画像データの加算処理と、加算画像の画像演算処理とを行うこととしたが、これに代えて、例えば、システム制御PC5が、画像データを取得する画像データ取得部と、画像データ取得部により標本Sにおける同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と、同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ加算部と、加算画像の高周波成分を強調する画像演算処理を行う画像演算処理部とを備えることとしてもよい。
【0057】
本実施形態は以下のように変形することができる。
すなわち、本実施形態においては、絞り25を、コンフォーカルスポットの径寸法よりも若干小さい開口径に設定することとしたが、第1変形例としては、例えば、絞り25の開口径を、コンフォーカルスポットの径寸法の1/2の大きさに設定することとしてもよい。
【0058】
このようにすることで、リレーレンズ23によりリレーされる蛍光の内、光束の中心部分のみが絞り25を通過し、周囲の部分は絞り25により遮断される。これにより、コンフォーカルスポットの中心のピーク付近の蛍光が検出されるので、高周波成分の比率を適度に含み、かつ、検出ロスも少なくて済む。
【0059】
したがって、制御本体部51により、高周波成分の比率が高い画像データを取得し、標本Sの同一範囲について高周波成分の比率をより向上させた元画像を生成することができる。これにより、画像演算処理によって、元画像の高周波成分を効率的に強調して超解像成分が可視化されたより良好な超解像画像を生成することができる。
【0060】
なお、本変形例の比較例として、絞り25の開口径をコンフォーカルスポットの径寸法とほぼ同じ大きさに設定した場合は、コンフォーカルスポットのほぼ全部の蛍光量を検出することができ検出ロスがほとんどないが、画像データにおける高周波成分の比率が小さくなる。そのため、良好な超解像画像を生成することができない。
【0061】
また、絞り25の開口径をコンフォーカルスポットの径寸法よりも大幅に小さい大きさ(例えば、1/8以下程度)に設定した場合は、画像データにおける高周波成分の比率が大きくなるが、コンフォーカルスポットのごく一部の蛍光しか検出することができず、検出ロスが大きい。そのため、良好な超解像画像を生成することができない。
【0062】
第2変形例としては、例えば、スキャナ13を採用せず、光源として、ライン状のレーザ光を発生する光源(図示略)を採用するとともに、画像データ取得部として、ライン状のレーザ光が照射された標本Sからの蛍光を撮影するライン状に形成された撮像素子(図示略)を備えることとしてもよい。
【0063】
この場合、撮像素子として、蛍光のライン方向にスポット分解能を持つ然るべき検出器、例えば、CCDラインカメラまたは光学マルチチャネル分析器等を採用することとすればよい。また、撮像素子の撮像領域をコンフォーカルスポットに対応する線形像のおよそ1/2の幅に設定することとしてもよい。
【0064】
このようにすることで、光源から発せられたライン状のレーザ光が対物レンズ19によってライン照明される領域を、スキャナ13による主走査方向の走査ラインと同様のものとみなすことができる。したがって、ライン状に形成された撮像素子により、標本Sにおけるライン照明された同一範囲からの蛍光を繰り返し検出して画像データを複数取得し、制御本体部51により、これら同一範囲の複数の画像データを加算することで、スキャナを用いることなく、高周波成分の比率が高い加算画像を簡易に生成することができる。
【0065】
本変形例においては、例えば、特開2006-259377号公報に開示されているTDI(Time Delay Integration)モードによる加算積分を採用することとしてもよい。
【0066】
第3変形例としては、例えば、スキャナ13を採用せず、周期的に配列されたスリット状またはピンホール状の開口を有するマスク(図示略)と、マスクを中心軸回りに高速回転させるモータのような駆動部(図示略)とを備えることとしてもよい。また、画像データ取得部として、標本Sからの蛍光を撮影するCCD(Charge Coupled Devices)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)のような2次元撮像素子を採用することとしてもよい。
【0067】
この場合、対物レンズ19の手前にマスクを配置して、対物レンズ19に入射する励起レーザ光をマスクにより制限することとすればよい。また、制御本体部51は、1画面フレーム単位で標本Sからの蛍光を繰り返し検出して画像データを取得することとすればよい。
【0068】
このようにすることで、駆動部によってマスクを高速回転させながら励起レーザを発生させることにより、スキャナ13を用いることなく、マスクの開口を通過して対物レンズ19によって標本Sに照射されるレーザ光が走査される。そして、2次元撮像素子により、レーザ光が走査された標本Sの走査範囲の画像データが取得される。これにより、2次元撮像素子により取得された1フレーム分の複数の画像データを制御本体部51により加算することで、高周波成分の比率が高い加算画像を簡易に生成することができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、上記実施形態においては、コンフォーカル開口部として絞り25を例示して説明したが、これに代えて、口径が異なる複数のピンホールを採用することとしてもよい。この場合、制御本体部51により、光路上に配置するピンホールを切り替えることとすればよい。
【0070】
また、上記実施形態においては、制御本体部51が、取得した画像データを単に加算することとしたが、例えば、画像データの加算方法として、既に取得した画像データに新たに取得した画像データを加算して平均値を算出するカルマンフィルター方式を採用することとしてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 標本観察装置
13 スキャナ(走査部)
19 対物レンズ
24A コンフォーカルレンズ
25 絞り(コンフォーカル開口部)
31 マルチアルカリPMT(画像データ取得部)
41 GaAsP-PMT(画像データ取得部)
51 制御本体部(画像データ取得部、制御部、画像データ処理部、画像演算処理部)
S 標本
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと、
該対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部と、
前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する画像データ取得部と、
該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と、
前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ処理部と、
該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部とを備え、
前記標本が、生体分子に蛍光標識した細胞であり、
前記制御部が、前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ、前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる標本観察装置。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
光源から発せられたレーザ光を標本に照射する対物レンズと、
該対物レンズにより前記標本に照射するレーザ光を該標本上で主走査方向およびこれに交差する副走査方向に走査させる走査部と、
前記対物レンズの焦点位置と光学的に共役な位置に開口するコンフォーカル開口部と、
前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を集光し、前記コンフォーカル開口部の開口位置に前記戻り光のスポットを投影するコンフォーカルレンズと、
前記対物レンズによりレーザ光が照射された前記標本からの戻り光を検出して画像データを取得する画像データ取得部と、
該画像データ取得部により前記標本における同一範囲からの戻り光を繰り返し検出して該同一範囲の画像データを複数取得させる制御部と、
前記画像データ取得部により取得された前記同一範囲の複数の画像データを加算する画像データ処理部と、
該画像データ処理部により得られた加算画像データに対して高周波成分を強調する画像演算処理部とを備え、
前記標本が、生体分子に蛍光標識した細胞であり、
前記コンフォーカル開口部の開口が、前記コンフォーカルレンズにより投影された前記戻り光のスポットの径寸法よりも小さい径寸法を有し、
前記制御部が、前記走査部により前記主走査方向における同一の走査ライン上でレーザ光を所定の回数繰り返し走査させた後に前記副走査方向の位置を変えて次の走査ラインに移動する動作を繰り返させ、前記画像データ取得部により前記同一の走査ラインごとに画像データを複数取得させる標本観察装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-03 
出願番号 特願2014-93517(P2014-93517)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀬戸 息吹堀井 康司  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
樋口 信宏
登録日 2018-06-22 
登録番号 特許第6355961号(P6355961)
権利者 オリンパス株式会社
発明の名称 標本観察装置  
代理人 上田 邦生  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 藤田 考晴  
代理人 藤田 考晴  
代理人 上田 邦生  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  

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