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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
管理番号 1361507
異議申立番号 異議2020-700028  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-16 
確定日 2020-04-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6548555号発明「電子写真用粉砕トナーの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6548555号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6548555号の請求項1?5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成27年11月11日に出願され、令和元年7月5日にその特許権の設定登録がされ、その後、令和元年7月24日に特許掲載公報が発行され、その特許に対し、令和2年1月16日に特許異議申立人 中川 賢治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」といい、総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
工程1:結着樹脂及び着色剤を含有する原料を溶融混練する工程、
工程2:工程1で得られた混練物を粉砕し、最大径が2mm以下の粗粉砕物を得る工程、
工程3:工程2で得られた粗粉砕物を、該粗粉砕物100質量部に対して1.5質量部以上10質量部以下の無機微粒子の存在下、さらに微粉砕する工程、
工程4:工程3で得られた微粉砕物を、分級する工程、及び
工程5:工程4で得られた分級物を、表面改質処理する工程
を含む、電子写真用粉砕トナーの製造方法であって、
前記表面改質処理する工程が、回分式の表面改質装置を用いる工程であり、該回分式の表面改質装置は、所定粒径以下の微粉を装置外へ連続的に排出除去する分級手段、機械式衝撃力を用いる表面処理手段、及び被処理物を分級手段に導入する第一の空間と被処理物を表面処理手段に導入する第二の空間とに装置内を仕切る案内手段を備え、
前記工程5が、工程4で得られた分級物を第二の空間に導入して表面改質処理を行った後、第一の空間へ導入して分級処理を行い、再び第二の空間に導入して、第一の空間と第二の空間を循環させることにより、表面改質処理と分級処理を繰り返す工程である、
電子写真用粉砕トナーの製造方法。
【請求項2】
工程3における微粉砕を、流動層式ジェットミルを用いて行う、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
流動層式ジェットミルが、下方部分に複数のジェットノズルが対向するように配置された粉砕室を少なくとも有する、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
さらに、
工程6:工程5で得られた表面改質粒子を外添剤と混合する工程
を含む、請求項1?3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
無機微粒子の個数平均粒子径が6nm以上40nm以下である、請求項1?4いずれか記載の製造方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として以下の甲第1号証?甲第5号証を提出するとともに、次の申立て理由を主張している。

申立て理由(特許法第29条第2項)
本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。

(特許異議申立人提出の甲号証)
甲第1号証:特開2008-36567号公報
(当合議体注:甲第1号証が主引用例である。)
甲第2号証:特開2013-213985号公報
甲第3号証:特表2014-508642号公報
甲第4号証:特開2006-119616号公報
甲第5号証:特開2006-126803号公報
(以下、「甲第1号証」?「甲第5号証」を、それぞれ「引用例1」?「引用例5」という。)

第4 引用例に記載された事項及び引用発明
1 引用例1
本件特許の出願前に頒布された刊行物である引用例1には、次の事項が記載されている(下線は、当審にて付した。)。
(1) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理室内に投入した原料に機械的エネルギーもしくは気流エネルギーの少なくとも一方を加える処理を行って処理粉体とする粉体処理部と、複数の分級羽根を外周部に備え筒軸心周りに回転する状態で処理室内に配置され、前記原料および処理粉体のうち所定の粒径以下の微粉を気流と共に前記分級羽根からロータ内部に通過させる分級ロータと、前記分級ロータの筒軸方向の一方の側面に形成した排出用開口からロータ内部の前記微粉を吸入して外部に排出する微粉排出部と、前記処理室内に残った前記処理粉体を外部に取り出すための取出部が設けられた粉体処理装置、及び、当該粉体処理装置を用いたトナー粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記粉体処理装置では、処理室内に投入した原料を粉体処理部によって処理しつつ、所定粒度以下の微粉を分級ロータによって分級したのち微粉排出部によって外部に排出し、最終的に処理室内に残った処理粉体を製品粉体として取出部によって取り出す。その結果、複数の装置を用いることなくコンパクトな装置構成で且つ簡便な操作によって原料に所望の粉体処理を行い、不要な微粉を含まない製品粉体を得ることができる(特許文献1参照)。原料に施す粉体処理は、具体的には、粉砕、分級、形状制御(球形化等)、複合化、表面処理、混合、外添、造粒、乾燥、融合等である。
【0003】
上記従来の粉体処理装置の具体構成について図3により補足説明する。粉体処理装置10はケーシング11の内部に処理室Sを形成し、処理室Sの下部に粉体処理部として、原料に衝撃力等の機械的エネルギーを加える回転片14aを備えた分散ロータ14を設け、処理室Sの上部に、処理室S内の粉体のうち微粉のみを通過させる分級ロータ12と微粉を排出する微粉排出部15を設け、さらに処理室S内の粉体を分散ロータ14から分級ロータ12の間で循環案内するガイドリング13と、処理室S内に原料を投入する原料投入部16と、処理室S内からの製品粉体を取り出すための開閉式の取出部17等を設けている。尚、処理室Sには分散ロータ14の下方の導入口19から気体が導入され、取出部17はシリンダ18によって駆動されて粉体処理時は閉状態に、取出し時は開状態にそれぞれ切り替えられる。
【0004】
【特許文献1】特開2002-233787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1記載の粉体処理装置では、例えば製品粉体の一例であるトナーについて円形度を高くするような処理が求められた場合に、処理時間を長くして円形度を高くしようとすると、排出される微粉への粗粉の混入が増大し製品(粗粉)収率が低下するおそれがあった。また、微粉除去率についても改良の余地があった。
そこで、これらの不都合を解決すべく、本発明は、分級精度を高めて製品収率と微粉除去率の向上が実現できる粉体処理装置、及び、当該粉体処理装置を用いて円形度を改善したトナー粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するための本発明に係る粉体処理装置の第1特徴構成は、前記分級ロータが、基端部で前記排出用開口に連通するとともに筒軸方向に沿ってロータ内部に先端側ほど外径が小となる状態で伸びる筒状部材を備え、前記微粉を前記筒状部材の先端部開口から内部に流入させて前記排出用開口に送る点にある。
【0007】
上記特徴構成によれば、図2に例示するように、気流Fと共に分級羽根3aを通過した微粉を流入させて排出用開口3bに送る筒状部材3cの先端部開口Kが分級ロータ3の筒軸方向に沿ってロータ内部に進入しているので、筒軸方向において排出側寄りの分級羽根部分を通過した気流F1が筒状部材3cの先端部開口Kに達するまでの距離が長くなって気流速度が減速され、排出される微粉への粗粉の混入が抑制される。一方、排出側から遠い位置の分級羽根部分を通過した気流F2が上記筒状部材3cの先端部開口Kに達するまでの距離が短くなって気流速度が増速される。その結果、分級羽根3aの各部分を通過する気流の速度差が平準化され、分級精度が向上する。同時に、上記筒状部材3cは先端側ほど外径が小となっているので、排出側寄りの分級羽根部分を通過した気流F1が筒状部材3cの側面に当たって曲げられて先端部開口Kに向かうときに滑らかに方向転換される。比較として、筒状部材3cの先端部と基端部の外径が同じで上記気流F1が直角状に急激に曲げられる場合を破線で示す。その結果、ロータ内での気流の乱れが小さくなり、分級精度を向上させることができる。
従って、所定の粒径以上の粗粉の排出される微粉への混入を抑制して分級精度を高め製品収率を向上させることができ、同時に分級精度を高めて所定の粒径以下の微粉の排出を促進し微粉除去率を向上させることができる粉体処理装置が提供される。
【0008】
同第2特徴構成は、第1特徴構成において、前記粉体処理部が前記分級ロータの筒軸心に対して同心配置され且つ外周箇所に回転片を備えた分散ロータで構成され、前記分級ロータ及び前記分散ロータに対して同心配置の筒状体が前記分級ロータの外周部と前記分散ロータの間にわたって設けられている点にある。
【0009】
上記構成において、分散ロータが回転し外周箇所に備えた回転片によって処理室内の原料等に繰り返し機械的エネルギーが加えられて処理粉体になる。同時に分散ロータの回転に伴い発生した処理粉体の旋回流が、分散ロータに対して同心配置の筒状体の外周側を通って分級ロータの外周部に達する。そして、その処理粉体のうちの所定の粒径以下の前記微粉が分級ロータの外周部から内部に通過する一方、粗粉は上記筒状体の内周部を通って分散ロータに達し、再び機械的エネルギーが加えられて処理される。以下これを繰り返して粉体処理が進行する。
従って、処理室内で原料及び処理粉体を旋回循環させて効率良く機械的エネルギーの印加による粉体処理と分級処理を行うことができる粉体処理装置の好適な実施形態が提供される。
・・・略・・・
【0013】
上記構成において、処理粉体が旋回流に乗って筒状体の外周側を通り、筒状体の端部位置まで来ると、その近傍に分級ロータの外周部における筒状体側の端部が位置しているので、処理粉体は筒状体で遮られず直ちに分級ロータの外周部の前面に達し、前述のように微粉は分級ロータの内部に通過し、粗粉は筒状体の内周を通って分散ロータに戻される。
従って、例えば分散ロータと分級ロータ間の距離が固定された場合において、筒状体の筒長さを短くして循環する原料及び処理粉体の単位時間当たりの循環回数を増やし、一層効率良く機械的エネルギーの印加による粉体処理と分級処理を行うことができる粉体処理装置の好適な実施形態が提供される。
【0014】
本発明に係るトナー粒子の製造方法の特徴構成は、第1から第4特徴構成のいずれかの粉体処理装置によって、トナー粒子の円形度が0.93以上0.98以下の範囲になるように処理する点にある。
【0015】
上記第1から第4特徴構成のいずれかの粉体処理装置を用いることにより、製品収率の低下を抑制しつつ分級精度を向上させて円形度が0.93未満の低円形度の微粉除去率を高め、製品粉体(粗粉)として、円形度が0.93以上0.98以下の範囲にある良好な特性のトナー粒子を効率よく作製することができる。」

(2) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の粉体処理装置の実施形態について説明する。
図1に示すように、本発明の粉体処理装置1は、円筒形状の本体ケーシング1aの内部に処理室Sを形成し、この処理室S内に投入した原料に機械的エネルギーもしくは気流エネルギーの少なくとも一方を加える処理を行って処理粉体とする粉体処理部2と、複数の分級羽根3aを外周部に備え筒軸心X周りに回転する状態で処理室S内に配置され、原料および処理粉体のうち所定の粒径以下の微粉を気流と共に分級羽根3aからロータ内部に通過させる分級ロータ3と、分級ロータ3の筒軸方向の一方の側面に形成した排出用開口3bからロータ内部の前記微粉を吸入して外部に排出する微粉排出部4と、処理室S内に残った処理粉体を外部に取り出すための取出部5が設けられている。
【0017】
上記本体ケーシング1aの横側壁には、処理室S内に原料を投入するための原料投入口7が設けられている。また、本体ケーシング1aの下部側壁には、分散ロータ2の下方側に気体を導入する気体導入口8が設けられている。なお、融点の低い原料等を溶着なく処理するために、本体ケーシング1aの外周もしくは壁内部に冷却用媒体を循環させるジャケット配管(不図示)を付設してもよい。
【0018】
上記粉体処理部2は具体的には分級ロータ3の筒軸心Xに対して同心配置され且つ外周箇所にハンマー型の回転片2aを備えた分散ロータ2で構成され、分散ロータ2は装置下部に設けたモーターに連結された回転軸2bによって所定速度に回転駆動される。そして、上記回転片2aによって原料および処理粉体に対し打撃力やせん断力等の機械的エネルギーが加えられる。分級ロータ3及び分散ロータ2に対して同心配置の筒状体(ガイドリング)6が分級ロータ3の外周部と分散ロータ2の間にわたって設けられている。即ち、分級ロータ3と筒状体6と分散ロータ2が軸心Xに対して同心配置されている。筒状体6は外周側3箇所の支持部6aにて本体ケーシング1aに取り付けてある。
【0019】
分級ロータ3は、装置上部に設けたモーターに連結された回転軸3dによって所定速度に回転駆動される。分級羽根3aは平板状に形成され、その板面の延出平面内に筒軸心Xを含むような角度で取り付けてある。
【0020】
前記微粉排出部4には図外の集塵機を介してブロアーが接続され、このブロアーの吸引力により、気体導入口8から導入された気体は分散ロータ2の外周部から処理室Sに入り、分級ロータ3と微粉排出部4を経て上記集塵機に至る流れが形成される。同時に分散ロータ2の回転により処理室S内の粉体に対して旋回流が形成されるので、分散ロータ2によって処理された粉体は筒状体6の外周側のケーシング内壁との間を通って旋回しながら上昇して分級ロータ3の外周部に到達する。そして、処理室Sの内部の気体が高速回転する分級ロータ3の各分級羽根3aの間を通って分級ロータ3の内部に引き込まれた時、所定の粒径以下の粒体は分級ロータ3の内部に通過する。一方、所定の粒径以上の粒体は回転する分級羽根3aによる遠心力を受け分級ロータ3の内部に流入することが阻止される。分級ロータ3で分級された微粉は、微粉排出部4から排出された後、集塵機に備えたバグフィルター等で捕集される。このように、分級ロータ3の分級羽根3aを通過する粉体の粒径は、分級ロータ3の回転数を変更することによって任意に設定することができる。分級ロータ3の分級羽根3aを通過できない粗粉は筒状体6の内周側を通って分散ロータ2に戻され回転片2aによって再度機械的エネルギーを加えられ処理が進行する。
【0021】
取出部5は、投入した原料に対する処理が終了した後に、処理室S内の製品粉体を取り出すための開閉式の取出口であり、詳細は省略するが、図外のエアシリンダ等により開閉駆動され、投入原料に対する粉体処理中は閉じておき、処理終了後に開いて内部の製品粉体を取り出す。
【0022】
本発明の粉体処理装置1は、図3に示す粉体処理装置10と全体構成は類似のものであるが、分級ロータ3に特徴を有している。即ち、図2に示すように、分級ロータ3が、基端部で排出用開口3bに連通するとともに筒軸方向に沿ってロータ内部に先端側ほど外径が小となる状態で伸びる筒状部材3cを備え、前記所定の粒径以下の微粉を筒状部材3cの先端部開口Kから内部に流入させて排出用開口3bに送るように構成されている。なお、図2では、筒状部材3cの外径が先端部に向って直線的に小さくなる形状を示すが、曲線的に小さくなる形状でもよい。分級ロータ3の内部に進入した筒状部材3cの先端部開口Kの内径D1によって分級点を設定してある。
【0023】
そして上記構成により、筒軸方向において排出側寄りの分級羽根3aの部分を通過した気流F1が筒状部材3cの先端部開口Kに達するまでの距離が長くなって気流速度が減速され、排出される微粉への粗粉の混入が抑制される。一方、排出側から遠い位置の分級羽根3aの部分を通過した気流F2が上記筒状部材3cの先端部開口Kに達するまでの距離が短くなって気流速度が増速される結果、分級羽根3aの各部分を通過する気流の速度差が平準化され、分級精度が向上する。同時に、筒状部材3cは先端側ほど外径が小さいので、排出側寄りの分級羽根部分を通過した気流F1が筒状部材3cの側面に当たって曲げられて先端部開口Kに向かうときに滑らかに方向転換される。その結果、ロータ内での気流Fの乱れが小さくなり、分級精度を向上させることができる。
【0024】
さらに、筒状部材3cの内部流路が、排出側に向けて内径が大きくなる拡張流路形状(具体的にはテーパ状)に形成されている。これによって、分級ロータ2の内部に取り込まれた粉体が筒軸芯X周りに旋回しながら筒状部材3cの先端部開口Kから内部流路に流入する際に、内径が大きくなるので粉体粒子が流路内壁と衝突する角度が緩くなり、流路内壁の摩耗や粉体付着等が防止される効果を有する。
【0025】
そして、本発明に係るトナー粒子の製造方法は、上記粉体処理装置1によって、トナー粒子の円形度が0.93以上0.98以下の範囲になるように処理する。以下、具体的に、本発明に係る粉体処理装置1による粉体処理の実験データを従来型の粉体処理装置(図3)と比較して説明する。
【0026】
尚、以下のデータを得たときの分散ロータや分級ロータの回転速度等の条件は、下記の通りである。
分散ロータ回転数:5500rpm(周速:118m/s)(本発明、従来型共に)
分散動力:20kW
分級ロータ回転数:5000rpm(本発明)、7000rpm(従来型)
処理風量:20m^(3)/min
入口エアー温度:-15℃
出口エアー温度:25℃
【0027】
図4には、原料として平均粒径5.41μmのカラートナー(イエロー)1.3kgを処理室内に投入して、粉体処理したときの粒度分布のデータを示す。なお、原料投入と粉体処理と製品取出しの合計時間がサイクル時間であり、投入と取出しにそれぞれ10秒程度かかるので、2分(2min)処理と表示してあるが実処理時間は100秒程度である。本発明の粉体処理装置では、従来型に比べて、微粉除去率が向上し、また粗粉混入率も減少して明らかに分級精度が向上している(分布がシャープになっている)ことが分かる。ここで、分級精度の向上により、比較的円形度の小さい微粉を効率よく排除できるため、製品(粗粉)の円形度が改善される効果がある(図5参照)。
【0028】
さらに、本発明の装置では、従来型に比べて分級ロータの回転数が低いにもかかわらず、同じ分級点となっている。そのため、分級回転数の低下により、分級羽根3aの磨耗低減、回転軸3dにおけるベアリングの寿命増加、装置の振動低減等の効果も得られる。
【0029】
図5には、上記図4の場合と同じカラートナー(イエロー)を原料として、サイクル時間を変更したときのサイクル時間と処理後のトナー粒子の円形度の関係を示す。サイクル時間が60秒程度までは急激に円形度が高くなるが、それ以後緩やかになり、120秒以上処理時間を増やしても円形度は高くならない。また、それほど大きな差ではないが、本発明の粉体処理装置の方が従来型よりも高い円形度が得られることが分かる。ここで、円形度の測定は、粒子像分析測定(シスメックス社製:FPIA3000)を使用した。
【0030】
図6には、上記と同じカラートナー(イエロー)を原料として、サイクル時間を変更したときのサイクル時間と処理後の製品収率(%)の関係を示す。サイクル時間が長くなるほど製品収率は低下するが、本発明の粉体処理装置の方が従来型よりも製品収率の低下の程度が小さく、排出される微粉中への粗粉の混入が抑制されていることが分かる。例えば、サイクル時間が120秒の場合、本発明では製品収率が65%以上確保されているのに対し、従来型では55%を下まわり、約15%の大きな差になっている。
【0031】
図7は、図5と図6のデータを用い、サイクル時間をパラメータとして円形度と製品収率の関係を示すグラフである。円形度を高くすると、製品収率が低下する傾向があるが、高い目標円形度を得る場合に、本発明の粉体処理装置では、従来型に比べて、製品収率の低下度合いが小さくて済み、高い製品収率(大きい製品能力)が得られる。
・・・略・・・
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明による粉体処理装置は、コンパクトな装置構成で且つ簡便な操作によって、原料に機械的エネルギーや気流エネルギーを加えて処理粉体を得る粉体処理と、その処理粉体から所定の粒度以下の不要な微粉を除去する分級処理を行う場合に、従来よりも分級精度を向上させて、排出微粉への製品粗粉の混入を抑制すると同時に微粉除去を促進し、一層良好な処理性能の粉体処理装置を実現することができるので、各種原料についての粉体処理に広く適用できる。
【0036】
即ち、本発明に係る粉体処理装置では、処理室内の残留物として微粉を含まない製品粉体が得られ、処理粉体から不要な微粉を除くための別の装置は不要であり、また、単体で原料の粉砕、微粉除去、球形化等の形状制御を行うことができる。したがって、例えば、プリンタ機内での劣化防止、流動性の確保、帯電制御性の観点から真球に近いほど好ましい印刷用トナーの製造に好適に用いることができる。特に印刷用のトナーで高水準の円形度を要求されたとき、トナー粉体原料に対し処理時間をかけて処理した場合にも製品収率の大幅な低下を避けながら所望の円形度(0.93以上0.98以下の範囲)のトナー粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る粉体処理装置の構造を示す断面図
【図2】本発明に係る粉体処理装置の作用を示す断面図
【図3】従来型の粉体処理装置の構造を示す断面図
【図4】粒度分布の実験データを示すグラフ
【図5】円形度の実験データを示すグラフ
【図6】製品収率の実験データを示すグラフ
【図7】円形度と製品収率の関係を示すグラフ
【図8】別実施形態の粉体処理装置の一部構造を示す断面図
【図9】他の別実施形態の粉体処理装置の構造を示す断面図
【符号の説明】
【0038】
1 粉体処理装置
1a 本体ケーシング
2 粉体処理部(分散ロータ)
2a 回転片
2b 回転軸
3 分級ロータ
3a 分級羽根
3b 排出用開口
3c 筒状部材
3d 回転軸
4 微粉排出部
5 取出部
6 筒状体
6a 支持部
7 原料投入口
8 気体導入口
20 筒状体
20a 開口
21 ガイド部材
F 気流
F1 気流
F2 気流
K 先端部開口
S 処理室
X 筒軸芯(回転軸心)」

(3) 「【図1】


【図2】


【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】



2 引用発明
(1) 引用例1でいう「本発明に係るトナー粒子の製造方法は」、「粉体処理装置1によって、トナー粒子の円形度が0.93以上0.98以下の範囲になるように処理する」(【0025】)ものであり、また、「製品収率の低下を抑制しつつ分級精度を向上させて円形度が0.93未満の低円形度の微粉除去率を高め、製品粉体(粗粉)として、円形度が0.93以上0.98以下の範囲にある良好な特性のトナー粒子を効率よく作製することができる」(【0015】)ものである。

(2) また、引用例1の【0016】?【0025】には、図1及び図2とともに、「粉体処理装置の実施形態」として、引用例1でいう「粉体処理装置1」が説明されている。

(3) 上記(1)と(2)より、引用例1には、「粉体処理装置1によって、トナー粒子の円形度が0.93以上0.98以下の範囲になるように処理」して、「製品収率の低下を抑制しつつ分級精度を向上させて円形度が0.93未満の低円形度の微粉除去率を高め、製品粉体(粗粉)として、円形度が0.93以上0.98以下の範囲にある良好な特性のトナー粒子を効率よく作製することができる」「トナー粒子の製造方法」の発明として、以下のものが記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。

「粉体処理装置1によって、トナー粒子の円形度が0.93以上0.98以下の範囲になるように処理して、製品収率の低下を抑制しつつ分級精度を向上させて円形度が0.93未満の低円形度の微粉除去率を高め、製品粉体(粗粉)として、円形度が0.93以上0.98以下の範囲にある良好な特性のトナー粒子を効率よく作製することができる、トナー粒子の製造方法であって、
粉体処理装置1は、
円筒形状の本体ケーシング1aの内部に処理室Sを形成し、この処理室S内に投入した原料に機械的エネルギーを加える処理を行って処理粉体とする粉体処理部2と、
複数の分級羽根3aを外周部に備え筒軸心X周りに回転する状態で処理室S内に配置され、原料および処理粉体のうち所定の粒径以下の微粉を気流と共に分級羽根3aからロータ内部に通過させる分級ロータ3と、
分級ロータ3の筒軸方向の一方の側面に形成した排出用開口3bからロータ内部の前記微粉を吸入して外部に排出する微粉排出部4と、
処理室S内に残った処理粉体を外部に取り出すための取出部5が設けられ、
上記本体ケーシング1aの横側壁には、処理室S内に原料を投入するための原料投入口7が設けられ、
本体ケーシング1aの下部側壁には、分散ロータ2の下方側に気体を導入する気体導入口8が設けられ、
上記粉体処理部2は、分級ロータ3の筒軸心Xに対して同心配置され且つ外周箇所にハンマー型の回転片2aを備えた分散ロータ2で構成され、分散ロータ2は回転駆動され、上記回転片2aによって原料および処理粉体に対し打撃力やせん断力等の機械的エネルギーが加えられ、
分級ロータ3及び分散ロータ2に対して同心配置の筒状体(ガイドリング)6が分級ロータ3の外周部と分散ロータ2の間にわたって設けられ、即ち、分級ロータ3と筒状体6と分散ロータ2が軸心Xに対して同心配置され、筒状体6は本体ケーシング1aに取り付けられ、
分級ロータ3は、回転駆動され、分級羽根3aは平板状に形成され、その板面の延出平面内に筒軸心Xを含むような角度で取り付けられ、基端部で排出用開口3bに連通するとともに筒軸方向に沿ってロータ内部に先端側ほど外径が小となる状態で伸びる筒状部材3cを備え、前記所定の粒径以下の微粉を筒状部材3cの先端部開口Kから内部に流入させて排出用開口3bに送るように構成され、
前記微粉排出部4には集塵機を介してブロアーが接続されたものであって、
このブロアーの吸引力により、気体導入口8から導入された気体は分散ロータ2の外周部から処理室Sに入り、分級ロータ3と微粉排出部4を経て上記集塵機に至る流れが形成され、
同時に分散ロータ2の回転により処理室S内の粉体に対して旋回流が形成されるので、分散ロータ2によって処理された粉体は筒状体6の外周側のケーシング内壁との間を通って旋回しながら上昇して分級ロータ3の外周部に到達し、
そして、処理室Sの内部の気体が高速回転する分級ロータ3の各分級羽根3aの間を通って分級ロータ3の内部に引き込まれた時、所定の粒径以下の粒体は分級ロータ3の内部に通過し、所定の粒径以上の粒体は回転する分級羽根3aによる遠心力を受け分級ロータ3の内部に流入することが阻止され、
分級ロータ3で分級された微粉は、微粉排出部4から排出された後、集塵機に備えたバグフィルター等で捕集され、
分級ロータ3の分級羽根3aを通過できない粗粉は筒状体6の内周側を通って分散ロータ2に戻され回転片2aによって再度機械的エネルギーを加えられ処理が進行し、
取出部5は、投入した原料に対する処理が終了した後に、処理室S内の製品粉体を取り出すための開閉式の取出口であり、開閉駆動され、投入原料に対する粉体処理中は閉じておき、処理終了後に開いて内部の製品粉体を取り出し、
そして、筒軸方向において排出側寄りの分級羽根3aの部分を通過した気流F1が筒状部材3cの先端部開口Kに達するまでの距離が長くなって気流速度が減速され、排出される微粉への粗粉の混入が抑制され、一方、排出側から遠い位置の分級羽根3aの部分を通過した気流F2が上記筒状部材3cの先端部開口Kに達するまでの距離が短くなって気流速度が増速される結果、分級羽根3aの各部分を通過する気流の速度差が平準化され、分級精度が向上し、同時に、筒状部材3cは先端側ほど外径が小さいので、排出側寄りの分級羽根部分を通過した気流F1が筒状部材3cの側面に当たって曲げられて先端部開口Kに向かうときに滑らかに方向転換され、その結果、ロータ内での気流Fの乱れが小さくなり、分級精度を向上させることができる、
トナー粒子の製造方法。」

3 引用例3
本件特許の出願前に頒布された刊行物である引用例3には、次の事項が記載されている。
(1) 「【請求項1】
粉砕室(3)及び回転する粉砕パン(4)であって、その上を反発力が与えられた粉砕ローラ(6)が転がり、供給システムの助けにより当該粉砕パン(4)に供給された供給原料(5)を粉砕する、粉砕室(3)及び粉砕パン(4)と、
前記粉砕室(3)の上方にある分級機(7)であって、粉砕された粉砕原料が上昇気流にのって供給される分級機(7)と、
前記分級機(7)内で跳ね返されて下に落下する粗粒を改めて粉砕するために、円錐開口部(9)を通って前記粉砕室(3)及び前記粉砕パン(4)に戻す粗粒回収コーン(8)と、を備え、
前記供給システムは、前記粗粒回収コーン(8)の領域において、前記ローラミル(2)に一体化されるとともに、前記供給原料(5)が前記ローラミル(2)に搬送されて前記粉砕パン(4)の中心に供給されるように形成されたスクリュー供給装置(10)を備える、
ローラミルであって、
前記スクリュー供給装置(10)は、前記ローラミル(2)の縦軸線(20)を横切るとともに、前記ローラミルの外側に両側がそれぞれ配置されたスクリューシャフト(12)を備え、前記スクリューシャフト(12)は、一端が駆動手段(13)に接続され、他端がベアリング(14)内に位置し、前記駆動手段(13)及びベアリング(14)は、前記ローラミル(2)の外側に配置されていることを特徴とするローラミル。
【請求項2】
請求項1に記載のローラミルであって、前記スクリュー供給装置(10)は、管状スクリューコンベアとして形成され、前記粗粒回収コーン(8)の円錐開口部(9)の上方に実質的に水平に配置されることを特徴とするローラミル。
【請求項3】
請求項1または2に記載のローラミルであって、前記スクリュー供給装置(10)は、ミル外側端部領域(25)及び粉砕室側端部領域(27)を備え、前記ミル外側端部領域には前記供給原料(5)の受入開口部(15)が形成され、前記粉砕室側端部領域(27)には前記供給原料(5)を前記粉砕パン(4)の中心に供給する排出開口部(17)が形成されることを特徴とするローラミル。」

(2) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載のローラミルに関する。
【0002】
本発明は、原炭を粉砕するために設けられたローラミルに特に適している。【背景技術】
【0003】
粉砕トラックと、反発力が与えられた粉砕ローラとを有する粉砕パンまたは粉砕プレートを備えるローラミルであって、粉砕ローラが、粉砕トラック上、または、供給された供給原料により粉砕トラック上に形成された粉砕床上を転がるローラミルが、様々な原料を粉砕するのに用いられている・・・略・・・。
【0004】
粉砕ローラと粉砕トラックとの間の粉砕間隙で粉砕される供給原料は、粉砕室及び回転する粉砕パンの側方側または中心側に供給される。
【0005】
空気掃引式ローラミルの場合、粉砕された粉砕原料は、例えば、粉砕パンの外縁周辺にある環状の一連の羽根を介して粉砕室を通り抜ける気流などの上昇気流に乗って、粉砕室の上方に設けられた分級機に供給される。微粒原料は、気流により放出され、粗粒は、分級機に跳ね返されて、底部側に円錐開口部を有する粗粒回収コーンを介して粉砕パンの中央領域に返され、遠心力効果によって、粉砕ローラの下を通り、改めて粉砕される。
【0006】
竪型ローラミルへの粉砕する原料の中心への供給または送りこみは、分級機の中心を通って導かれる供給投下管を通って、粉砕パンの中心に上から垂直に行われる・・・略・・・。このような供給の場合、一般的に、例えば、原炭などの非常に湿った、粘着性のある供給原料であっても、堆積物の蓄積による供給管の目詰まりを大幅に防止することができる。しかし、供給投下管を受けるために中空軸を有する分級ロータを用いる必要があるという欠点がある。このような分級ロータは、従来の分級機駆動構造と比較して、かなりコストが高い。さらに、投下管の直径が1メートルを超える比較的大型の分級機では、外歯状アキシャルローラベアリングは、高周速である必要があるため、経済的に実現することはできない。さらに、供給原料の供給ポイントを分級機の上方まで高くするということは、必要な高さで実現する搬送経路がより長くなり、それに伴う投資及びエネルギー要件により、欠点となる。
【0007】
特に、大型のミル及び分級装置の場合、供給原料は、分級機の側方側に配置された、ローラミル又は粉砕室の中心まで延びていない大きく傾斜した供給シュートを介して供給される・・・略・・・。このような供給アセンブリにおいては、供給シュートに堆積物が蓄積するリスクが生じる。供給シュートを大きく傾斜させることは、同時に、原炭の供給放物線が粉砕パンの中心に向かうことを妨げてしまう。このため、分級機及び側方の供給シュートは、非常に高い位置に配置されなければならなかった。例えば、原炭などの供給原料は、供給シュートから粉砕パンの側方側に落下してしまい、粉砕パンの中心に円錐台として形成された拡散プレートまたは分散体の中心を通らないため、全ての粉砕ローラに対して均一に供給されて粉砕されない。結果として、粉砕ローラの負荷が不均一になり、ローラミルの動作の円滑性が低下し、粉砕プロセスのエネルギー効率が低下するという欠点が生じる。さらに、粉砕のための粉砕ローラへの不完全な原炭の供給は、炭塵の堆積及び火災のリスクにもつながることがある。
【0008】
・・・略・・・は、一体化した風力分級機を有するとともに、大きく傾斜した、ミル及び分級機の漏斗壁を突き抜ける原料供給路を有するローラミルを開示している。原料供給路は、漏斗出口の外部中央側で終わり、供給原料は、粗粒が分級機で跳ね返され、中央供給ノズルを介して粉砕トラックの中心の分散錐体に供給される。原料供給路は、空気または振動搬送溝として完全で均一な原料供給を目的として形成されている。
【0009】
小型の微粉炭機の場合、粉砕機の上部にある水平管状スクリューコンベアを用いた水平方向の供給アセンブリが一般的である。スクリューパイプがミルハウジングで終わっている場合、供給原料は、粉砕パンの中央より外側に供給される。原炭は、上方に向かって流れる気流によって捉えられ、粉砕室に分散され、粉砕ローラと粉砕パンまたは粉砕トラックとの間の粉砕間隙で粉砕される。粉砕パンを囲む環状の羽根アセンブリから排出される気流の出口における速度は、供給された大粒子の原炭が、重力の影響を受けて、この気流に反して、粉砕プロセスを受けずに環状の羽根アセンブリを通って粉砕パンの下方のリジェクト出口に落下しないように、相応に速く設定されなければならない。供給原炭が粉砕室に非均一に分散されること、及び原料が羽根アセンブリを介して落下することを避けるために気流速度を上げることは、ともに更なるエネルギー源の増大を必要とする。
【0010】
・・・略・・・は、比較的処理能力が低い、例えば実験用粉砕機として提供される、2つの粉砕ローラを有するローラミルを開示している。その望ましい簡易で費用効率の高い構造は、ローラキャリア及びそのベアリングの構成及び配置に関わる。ローラキャリアは、粉砕プレートの上方で直径方向にミルハウジングを横切り、中央部に、ローラミルのカバーの中心に配置された供給ノズルを介して供給される供給原料が通るための中央通路開口部を有する。別のローラミルは、風力分級機及び粗粒回収コーンを備える。1つの図にのみ示される、水平に配置された管状スクリューコンベアは、円錐壁の領域で終わり、供給された供給原料は、円錐壁に沿って円錐開口部まで行き着き、粉砕プレート上の中心に供給される。
【0011】
・・・略・・・は、粉砕ローラの上方であり、分級室の下方において、接線方向から導入される、粒径分布を変化させる付加的な分級用気流を有する空気掃引式ローラミルを開示している。分級機で跳ね返された粗い原料を除去することは、粗粒回収コーンの開口部の下方に直接延びるスクリューコンベアを用いて粒径分布を可変化することにも役立つ。粉砕する供給原料は、粗粒回収コーンの垂直放出管、または、粉砕ローラと粗粒回収コーンとの間の領域で終わるスクリューコンベアを通って粉砕パンの中心に供給される。
【0012】
・・・略・・・は、分級機ロータを有するが、粗粒回収コーンを備えない竪型ミルを開示している。供給原料は、供給ライン及び2つの粉砕ローラ間で終わる水平スクリューコンベアを通って粉砕室に供給される。スクリューコンベアは、ミルハウジングの側面に搭載され、その開口部は、ミル中央まで達しない。
【0013】
構造によっては、ミルハウジングの片側に搭載されたスクリューコンベアでは、いかなる場合でも供給原料を途切れず供給することは保証されない。また、粗粒回収コーン壁の付加的なアセンブリは、比較的高価であり、いかなる場合でも、確実に、完全で、均一に、また連続的に原料を供給するのに適していない。
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、ローラミル、特に、連続的で、均一で、費用効率の高い供給原料の送りこみ/供給、及び干渉のない、効果的な粉砕プロセスを保証する微粉炭機を創出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、本目的は、請求項1の特徴によって達成される。有用で有利な実施形態は、従属形式請求項及び図面の説明に記載されている。
【0017】
本発明は、ローラミル、特に原炭を粉砕するための空気掃引式ローラミルに基づき、ローラミルの中心、特に粉砕パンの中心への原炭の供給を保証する供給システムを有し、粉砕パンは、本発明では、厳密に形成された分散領域を有利に設ける。供給原料は、粉砕室の上方であり、分級機の下方に配置された粗粒回収コーンの中心に排出され、分級機ロータによって跳ね返された粗い原料とともに粉砕パンの中心に達し、全ての粉砕ローラに均一に分散される。
【0018】
本発明によれば、粗粒回収コーンに一体化されるとともに、供給原料がローラミル内に搬送されて粉砕パンの中心に供給されるように設計、配置されたスクリューコンベアを有する供給システムに基づき、スクリュー供給装置が、ローラミル及び粗粒回収コーンを通って導かれるスクリューシャフトを備え、スクリュー供給装置の端部領域がローラミルの外側に配置された、建設的で、特に簡易で効率的な配置が提供される。
【0019】
スクリュー供給装置を管状スクリューコンベアとして形成し、ローラミル及び粗粒回収コーンを通って実質的に水平に導くことにより、スクリューシャフトがローラミルの縦軸線を横切ることが本発明において有用である。
・・・略・・・
【0026】
スクリュー供給装置のミル外側端部領域は、ローラミルの外側に、横方向に配置された駆動手段を有し、粉砕室側端部領域は、ローラミルの粗粒回収コーンに配置される。
【0027】
供給原料をローラミルに搬送するために、スクリュー供給装置のミル外側端部領域は、受入開口部を備え、この受入開口部を介して、供給原料は、スクリュー供給装置の中に送り込まれ、スクリュードライブの助けにより、ローラミルの縦軸によって規定されるローラミルの中心まで強制的に搬送される。
【0028】
スクリュー供給装置の粉砕室側端部領域は、供給原料を中央に供給するために、ローラミルの縦軸と同軸上になるように寸法を有して形成される排出開口部を備える。供給原料がスクリュー供給装置の管状トレイまたはコンベアトレイによって輸送されて強制的に搬送された後、中央に配置された、厳密に測定されたトレイ側排出開口部を通って、粉砕パンの上に垂直に及び中央分散領域に非常に正確に、確実に供給され、粉砕ローラに均一に供給される。
【0029】
このように、供給原料を、好的には、分級機で跳ね返された粗粒とともに供給し、同時に分散させることで、エネルギー的に極めて有利な粉砕プロセスが促進される。さらに、粉砕する供給原料を均一に分散させることで、ローラミルをより円滑に動作させ、粉砕のための調整パラメータをより適切に調整することが可能になる。
・・・略・・・
【0032】
供給システムの供給チャネルは、閉鎖パイプラインとして簡易な構成で形成される。供給原料は、閉鎖供給チャネルを介してセル型ロータリーバルブから落下し、その後スクリューギアを用いて搬送されるために、トレイ側排出開口部に至るまで、受入開口部を介してスクリューコンベアまたはスクリュートレイに供給され、粉砕パンの中心に、垂直に落下して供給される。
【0033】
本発明に関わるスクリュー供給装置を備えるローラミルの利点は、連続的で、均一で、途切れることのない供給原料の粉砕パンの中心への供給に加えて、省エネルギーな粉砕プロセスで、分級機で跳ね返された粗粒とともに供給原料を粉砕パン及び粉砕ローラの下へ均一に分散させることができることである。今まで用いられてきた供給配置に対して、最高で5%までエネルギーの節約が可能である。さらに、信頼性の高い、途切れることのない連続的な原料の供給が保証される。」

(3) 「【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明を、図面を用いてさらに以下に説明する。1つの図面は、本発明に関わるローラミルを非常に概略化して、要部のみを示す。
【0035】
ローラミル2は、縦軸線20の回りを回転する粉砕パン4を備える。粉砕パン4は、粉砕トラック26を備え、粉砕トラック26の上には、(図示しない)粉砕する供給原料により粉砕床が形成される。粉砕ローラ6は、固定配置され、サスペンションシステムの助けにより力が与えられてこの粉砕ベッド上を転がり、供給システムの助けにより供給された供給原料5を粉砕する。
【0036】
図面には、1つの粉砕ローラ6のみを概略的に示しているが、原理的には、2個、3個、4個またはそれ以上の粉砕ローラを配置可能である。
【0037】
(図示しない)粉砕された粉砕原料は、粉砕パン4の外縁にある環状羽根アセンブリ28によって粉砕室3に導入される(図示しない)上昇気流にのって、粉砕室3の上方に配置された分級機7であって、本実施形態ではローラミル2に一体化された分級機7に、供給されて分級される。
【0038】
分級機7は、縦軸線20の回りを回転する、分級機バー31を有するロータ30を備える。ガイドベーンサークル33が、分級機ロータ30の周囲に同心円状に配置され、分級室32を形成する。
【0039】
(図示しない)十分に粉砕された微粒原料は、(図示しない)微粒原料出口を介して気流にのって分級機7から離れ、(図示しない)粗粒は、分級機7に跳ね返されて分級機7の下方の粗粒回収コーン8に落下する。粗粒回収コーン8は、底部に中央円錐開口部9を備え、粗粒を粉砕パン4または粉砕パン4の中央分散領域24の中心に供給し、粉砕ローラ6へ均一に供給するのを助ける。
【0040】
本実施形態例では、中央分散領域24は、円錐台として形成される。供給原料5及び粗粒が、円錐形の分散領域24または変位体を介して均一に搬送され、粉砕トラック26方向の遠心力の影響下で粉砕パン4に到達し、粉砕ローラ6の下に達する限り、粗粒及び供給システムを用いて供給された供給原料5が均一に分散されることが保証される。
【0041】
供給原料5を粉砕室3の中、及び粉砕パン4の粉砕トラック26上の中心に均一に供給する、エネルギー効率の良い供給システムは、スクリュー供給装置10を備える。スクリュー供給装置10は、粗粒回収コーン8の領域に、実質的に水平に、ローラミル2に一体化されて配置される。」

(4) 図面



(当合議体注:図面は、向きを90度回転している。)

第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1) 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
ア 「表面改質装置」
引用発明の「粉体処理装置1」は、前記「第4」2(3)で述べた装置の構成を具備する。
上記の装置の構成からみて、引用発明の「分級ロータ3」及び「微粉排出部4」は、まとめて、本件発明1の「分級手段」に相当する。
同様に、引用発明の「粉体処理部2」、「筒状体6の外周側のケーシング内壁との間」の空間、「筒状体6の内周側」の空間、「筒状体(ガイドリング)6」及び「粉体処理装置1」は、それぞれ、本件発明1の「表面処理手段」、「第一の空間」、「第二の空間」、「案内手段」及び「表面改質装置」に相当する。
また、引用発明の「分級ロータ3」及び「微粉排出部4」は、本件発明1の「分級手段」における、「所定粒径以下の微粉を装置外へ連続的に排出除去する」という要件を満たす。
同様に、引用発明の「粉体処理部2」、「筒状体(ガイドリング)6」及び「粉体処理装置1」は、それぞれ、本件発明1の「表面処理手段」、「案内手段」、「表面改質装置」における、「機械式衝撃力を用いる」、「被処理物を分級手段に導入する第一の空間と被処理物を表面処理手段に導入する第二の空間とに装置内を仕切る」、「回分式の」という要件を満たす。
さらに、引用発明の「粉体処理部装置1」は、本件発明1の「表面改質装置」における、「分級手段」、「表面処理手段」、及び「案内手段」「を備え」という要件を満たす。

イ 「表面改質処理する工程」
引用発明の「粉体処理装置1」は、前記「第4」2(3)で述べたとおり、「トナー粒子」を、「円形度が0.93以上0.98以下の範囲になるように処理」する工程を具備する(以下、「トナー粒子処理工程」という。)。
引用発明の「トナー粒子処理工程」、及び前記アで述べた、引用発明の「粉体処理1」と本件発明1の「表面改質装置」との対比結果を踏まえると、引用発明の「トナー粒子処理工程」は、本件発明1の「回分式の表面改質装置を用いる工程」に相当する。また、本件発明1の「工程4で得られた分級物」は、「工程5」からみれば「被処理物」ということができるから、引用発明の「トナー粒子処理工程」と、本件発明1の「工程5」とは、被処理物を「第一の空間と第二の空間を循環させることにより、表面改質処理と分級処理を繰り返す工程である」点で共通する。

ウ 「電子写真用粉砕トナーの製造方法」
引用発明は、「粉体処理装置1によって、トナー粒子の円形度が0.93以上0.98以下の範囲になるように処理して、製品収率の低下を抑制しつつ分級精度を向上させて円形度が0.93未満の低円形度の微粉除去率を高め、製品粉体(粗粉)として、円形度が0.93以上0.98以下の範囲にある良好な特性のトナー粒子を効率よく作製することができる、トナー粒子の製造方法」である。
上記の構成並びに前記ア及びイの対比結果を踏まえると、引用発明の「トナー粒子の製造方法」と、本件発明1の「電子写真用粉砕トナーの製造方法」とは、被処理物を、「表面改質処理する工程を含む」、「電子写真用」「トナーの製造方法」である点で共通する。

エ 以上の対比結果を踏まえると、本件発明1と、引用発明は、
「被処理物を、表面改質処理する工程
を含む、電子写真用トナーの製造方法であって、
前記表面改質処理する工程が、回分式の表面改質装置を用いる工程であり、該回分式の表面改質装置は、所定粒径以下の微粉を装置外へ連続的に排出除去する分級手段、機械式衝撃力を用いる表面処理手段、及び被処理物を分級手段に導入する第一の空間と被処理物を表面処理手段に導入する第二の空間とに装置内を仕切る案内手段を備え、
前記表面改質処理する工程が、被処理物を第一の空間と第二の空間を循環させることにより、表面改質処理と分級処理を繰り返す工程である、
電子写真用トナーの製造方法。」である点で一致し、以下の相違点で相違する。

(相違点1-1)
本件発明1は、「電子写真用粉砕トナーの製造方法」であって、
「工程1:結着樹脂及び着色剤を含有する原料を溶融混練する工程」、「工程2:工程1で得られた混練物を粉砕し、最大径が2mm以下の粗粉砕物を得る工程」、「工程3:工程2で得られた粗粉砕物を、該粗粉砕物100質量部に対して1.5質量部以上10質量部以下の無機微粒子の存在下、さらに微粉砕する工程」、「工程4:工程3で得られた微粉砕物を、分級する工程」、「及び工程5:工程4で得られた分級物を、表面改質処理する工程を含み」、
「工程5」として、「被処理物」を「工程4で得られた分級物」とするものであるのに対して、
引用発明は、そのような工程1?5を含む、「粉砕」「トナーの製造方法」であるのか不明である点。

(相違点1-2)
「被処理物を、表面改質処理する工程」が、
本件発明1は、「被処理物」を「第二の空間に導入して表面改質処理を行った後、第一の空間へ導入して分級処理を行い、再び第二の空間に導入して」いるのに対して、
引用発明は、「粉体処理装置1」の「本体ケーシング1aの横側壁に」「設けられ」た「原料投入口7」により、「本体ケーシング1aの内部」の「処理室S」に「原料」を「投入」(導入)している点。

(2) 判断
事案に鑑みて、上記相違点1-2について検討する。
ア 相違点1-2に係る、本件発明1の構成は、「表面改質装置」に対して被処理物を導入する位置が、本件発明1では「第二の空間」であるのに対して、引用発明では「本体ケーシング1aの横側壁」である点に起因すると認められる。

イ しかしながら、引用例1には、「粉体処理装置1」に対して被処理物(原料)を導入する位置に関して、引用例1でいう「本発明に係る粉体処理装置の構造を示す」図1(「原料投入口7」が「本体ケーシング1a」の横側の壁の中央付近に設けられていることが把握できる。)とともに、「発明を実施するための最良の形態」として、【0017】に「上記本体ケーシング1aの横側壁には、処理室S内に原料を投入するための原料投入口7が設けられている」としか記載されていない。
そうしてみると、引用例1には、被処理物(原料)を導入する位置を、「筒状体6の内周側」の空間(本件発明1でいう「第二の空間」)とすることについて、記載も示唆もないといえる。
加えて、引用例1には、被処理物(原料)を、最初に「筒状体6の内周側」の空間(「第二の空間」)に導入して表面改質処理を行った後、「筒状体6の外周側のケーシング内壁との間」の空間(「第一の空間」)に導入して第一の空間へ導入して分級処理を行い、再び「筒状体6の内周側」の空間(「第二の空間」)に導入して、表面改質処理と分級処理とを繰り返す構成とすることにより、原料を最初に第二の空間に導入して最初に表面改質処理を行ってから、表面改質処理と分級処理を繰り返すことにより、粉体の分散性を向上し、効率よく分級することが可能となり、時間当たりの処理量を増やすことができる(本件特許明細書(【0009】、【0075】等)といった技術思想は記載も示唆もされていない。また、引用発明のトナーの製造方法におけるトナー粒子の円形度が高くなるように処理する粉体処理装置1において、このような技術思想が本件特許の出願前の当業者における周知技術や、技術常識であったと認めることもできない。

ウ また、本件特許の出願前に頒布された刊行物である引用例3(甲第3号証)には、「連続的で均一で、費用効率の高い供給原料の送り込み/供給が可能な、干渉のない、効果的な粉砕プロセスを保証する微粉炭器を創出することを」目的、課題(上記「第4」3(2)【0015】)として、
「粉砕室(3)、及び回転する粉砕パン(4)であって、その上を反発力が与えられた粉砕ローラ(6)が転がり、供給システムの助けにより粉砕パン(4)に供給された供給原料(5)を粉砕する、粉砕室(3)及び粉砕パン(4)と、粉砕室(3)の上方にある分級機(7)であって、粉砕された粉砕原料が上昇気流にのって供給される分級機(7)と、分級機(7)内で跳ね返されて下に落下する粗粒を改めて粉砕するために、円錐開口部(9)を通って粉砕室(3)及び粉砕パン(4)に戻す粗粒回収コーン(8)と、を備えたローラミル(特に、原炭を粉砕するための空気式ローラミル)」において、「供給システム」を、「粗粒回収コーン(8)の領域において、ローラミル(2)に一体化されるとともに、供給原料(5)がローラミル(2)に搬送されて粉砕パン(4)の中心に供給されるように形成されたスクリュー供給装置(10)を備え、スクリュー供給装置(10)は、ローラミル(2)の縦軸線(20)を横切るとともに、ローラミルの外側に両側がそれぞれ配置されたスクリューシャフト(12)を備え、スクリューシャフト(12)は、一端が駆動手段(13)に接続され、他端がベアリング(14)内に位置し、駆動手段(13)及びベアリング(14)は、ローラミル(2)の外側に配置されている」構成(上記「第4」3(1)【請求項1】)とする技術が記載されている。

エ 上記ウで述べた引用例3に記載された「ローラミル(特に、原炭を粉砕するための空気式ローラミル)」における「供給システム」に係る技術は、供給原料を粉砕処理して粒子を製造する技術であって、原料の粉砕処理及び分級処理を循環して行っているという点において、引用発明と、共通しているということができるかもしれない。
しかしながら、引用発明は「トナー粒子の製造方法」に係るものであって、引用発明において「粉体処理装置1」に投入(導入)され、その円形度が0.93以上0.98以下となる範囲となるよう表面改質処理される原料は、数ミクロンのトナーであり(例えば、引用例1の【0027】の「原料として平均粒径5.41μmのカラートナー(イエロー)」や【図4】を参照。)、処理製粉(粗粉)のトナー粒子も原料と同程度の数ミクロンの大きさである。
一方、引用例3に記載されたローラミルは、従来技術や目的・課題(上記「第4」3(2)【0002】?【0013】、【0015】)等からみて、「原炭を粉砕するための」ローラミルであって、ローラミルに供給される「非常に湿った、粘着性のある供給原料」(同【0006】)である「原炭」の大きさは、引用発明における数ミクロンのトナーよりも遙かに大きいものである(分級機により分級される、粉砕された微粉炭の大きさの基準でさえ、通常100?150μm程度である。例えば、特開2009-297597号公報の【0035】、図6等や、特開2000-288416号公報の【0044】等を参照。)。
また、引用発明は、分散ロータ2の回転片2aによる機械的エネルギーを用いて原料である数ミクロン程度の大きさのトナーの円形度を高める表面改質処理を行うとともに、分級ロータ3により微粉を除去し、粗粉を処理製粉のトナーとして取り出すものである。
一方、引用例3に記載されたローラミルは、粉砕パンとローラを用いて供給原料である原炭の粉砕を行うとともに、分級機により粉砕された微粉炭を取り出すものである。
してみると、引用発明において処理の対象としている原料(トナー)と、引用例3のローラミルにおける原料(非常に湿った、粘着性のある原炭)は、その大きさや粒径に関係する分散性が大きく異なることが理解できる。
また、引用発明における「粉体処理装置1」の処理の目的、「分散ロータ2」、「分級ロータ3」の動作、役割は、引用例3の「ローラミル」の処理の目的、「粉砕パン」及び「ローラ」、「分級機」の動作・役割は大きく異なることが理解できる。
そうしてみると、引用発明において、上記のように、処理対象の原料の大きさやその分散性が大きく異なり、かつ、処理の目的や粉砕処理、分級処理の動作・役割が大きく異なる、引用例3のローラミルの構成を参考にすることは、当業者にとって容易なこととはいえない。

オ また、引用例3に記載された原炭を粉砕するためのローラミルは、粉砕パンの中心(あるいは、粉砕パン中心の円錐台(分散体))に原料(原炭)が供給されないと、均一に供給されて粉砕されず、粉砕ローラの負荷が不均一になり、ローラミルの動作の円滑性が低下し、粉砕プロセスのエネルギー効率が低下する、炭塵の堆積及び火災のリスクがあることを前提(上記「第4」3(2)【0007】)として、「供給原料(5)がローラミル(2)に搬送されて粉砕パン(4)の中心に供給されるように形成」したものである。
あるいは、引用例3に記載された原炭を粉砕するためのローラミルは、水平方向供給アッセンブリのスクリューパイプがミルハウジングで終わり、供給原料が粉砕パンの中央より外側に供給されることとなる場合、大粒子の原炭が、重量の影響を受けて、上方に向かって流れる気流に反して、粉砕プロセスを受けずに粉砕パンの下方に落下してしまうことを前提(上記「第4」3(2)【0009】)として、「供給原料(5)がローラミル(2)に搬送されて粉砕パン(4)の中心に供給されるように形成」したものである。
一方、引用発明は、トナーの円形度を高くするために処理時間を長くした場合、排出される微粉への粗粉の混入が増大し製品(粗粉)収率が低下するおそれがあり、微粉除去率についても改善の余地があったところ、分級精度を高めて製品収率と微粉除去率を向上することを発明が解決しようとする課題とするものである。
そして、引用発明の「トナー粒子の製造方法」は、分散ロータ2の回転片2aによる機械的エネルギーを用いて原料である数ミクロン程度の大きさのトナーの円形度を高める表面改質処理を行うものであるところ、分散ロータの中心にトナーが供給されないと、均一に供給されずに、均一に円形度を高める表面改質処理がなされないといったことは、引用例1には記載も示唆もされていない。また、当該事項は、当業者にとって自明の課題とはいえない。
また、引用発明は、原炭を粉砕するために粉砕ローラを用いるローラミルではないから、ローラ及び粉砕パンを有するものではなく、ローラミルの動作の円滑性が低下し、粉砕プロセスのエネルギー効率が低下する、炭塵の堆積及び火災のリスクといった問題も生じない。
さらに、引用発明は、「ケーシングの横側壁」に設けられた「原料投入口(部)」により、ケーシングの内壁と筒状体6の外周との間の空間に原料を最初に導入しているものの、原料であるトナーの粒径(数ミクロン)からみて、重力の影響を受けて、分散ロータ2の回転(上記「第4」1(2)【0026】によれば、「分散ロータ回転数:5500rpm(周速:118m/s)(本発明、従来型共に)」)により処理室内の粉体に対して形成される上昇する旋回流に反して、原料であるトナーが落下するとも考えられない。
そうしてみると、引用発明に、引用例3に記載された技術を採用する動機付けがない。

カ さらに、特許異議立人が提出した引用例2、あるいは引用例4、5のいずれにも、上記相違点1-2に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。

キ そして、本件発明1は、上記相違点1-2に係る構成を備えることにより、「回分式の表面改質装置を使用しても、円形度の高い電子写真用粉砕トナーを生産性よく得ることができる」(本件特許明細書【0007】)、「回分式の表面改質装置での原料導入口の位置を変更することにより、処理能力をさらに高めることができる」(【0009】)との格別な効果を奏する。

ク 特許異議申立人は、特許異議申立書の21頁において「甲1発明と甲3発明とは、粒子の製造方法という共通の技術分野に属し、共に原料の改質処理や分級処理を循環して行うという機能を有するから、甲1発明に甲3発明を適用する動機付けをすることができる。」と主張しているが、両者は、処理の対象としている原料の大きさや分散性等が大きく異なり、引用発明において、引用例3に記載された技術を参考にすることは、当業者が容易になし得たものとはいえないことは、上記エにおいて述べたとおりである。また、引用発明において、引用例3に記載された技術を採用する動機付けがないことも、上記オにおいて既に述べたとおりである。

ケ 以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明、引用例2に記載された発明及び引用例3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本件発明2?5について
本件発明2?5は、いずれも前記相違点1-2に係る本件発明1の構成を具備する発明である。
よって、本件発明1と同様な理由により、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明2?5は、引用例1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-04-06 
出願番号 特願2015-221445(P2015-221445)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福田 由紀  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 早川 貴之
河原 正
登録日 2019-07-05 
登録番号 特許第6548555号(P6548555)
権利者 花王株式会社
発明の名称 電子写真用粉砕トナーの製造方法  
代理人 細田 芳徳  

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