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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1361948
審判番号 不服2018-4601  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-05 
確定日 2020-04-22 
事件の表示 特願2016-503434「アビラテロン酢酸エステル製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月18日国際公開、WO2014/145813、平成28年 5月23日国内公表、特表2016-514707〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月17日(パリ条約による優先権主張 2013年3月15日 (US)アメリカ合衆国、2013年 9月27日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 3月23日付け:拒絶理由通知
平成29年 8月28日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年11月27日付け:拒絶査定
平成30年 4月 5日 :審判請求書の提出
平成30年 5月14日 :審判請求書の手続補正書の提出
平成31年 1月 4日付け:拒絶理由通知
令和 1年 7月 8日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明について
本願の請求項に係る発明は、令和1年7月8日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
アビラテロン酢酸エステルのナノ微粒子を含有する組成物を作製するための方法であって、
アビラテロン酢酸エステル、粉砕用化合物、促進剤ならびに、酸化防止剤および封鎖剤の一方または双方を含有する組成物をミル内で、前記アビラテロン酢酸エステルのナノ微粒子を含有する組成物を作製するのに十分な時間の間、乾式粉砕するステップを式粉砕するステップを含み、
前記粉砕用化合物がラクトース一水和物であり、
前記促進剤がラウリル硫酸ナトリウムであり、
前記酸化防止剤が、アスコルビン酸、BHAおよびBHTからなる群から選択され、
前記封鎖剤が、フマル酸、酒石酸およびクエン酸からなる群から選択される、
方法。」


第3 当審の拒絶の理由
平成31年1月4日付けで当審より通知した拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明、並びに引用文献2及び引用文献1に記載の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものを含むものである。

引用文献1.中国特許出願公開第102743393号明細書
引用文献2.特表2012-524718号公報


第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献2の記載及び引用発明
引用文献2には、以下の記載がなされている。
(1)「【請求項1】
組成物を作製する方法であって、
少なくとも部分的に粉砕された細砕材に分散された前記生物学的活性物質の粒子を作製するのに十分な時間、複数の粉砕体を含む粉砕機内で、固体の生物学的活性物質と、粉砕可能な細砕マトリクスとを乾式粉砕する工程を含むことを特徴とする方法。
(中略)
【請求項3】
粒子体積に基づいて測定される粒子の中央粒径が、20,000nm、15,000nm、10,000nm、7,500nm、5,000nm、2,000nm、1,900nm、1,800nm、1,700nm、1,600nm、1,500nm、1,400nm、1,300nm、1,200nm、1,100nm、1,000nm、900nm、800nm、700nm、600nm、500nm、400nm、300nm、200nm、及び100nmからなる群より選択される粒径以下である請求項1に記載の方法。
(中略)
【請求項5】
粒子体積に基づいて測定される粒径分布のDxが、10,000nm以下、5,000nm以下、3,000nm以下、2,000nm以下、1,900nm以下、1,800nm以下、1,700nm以下、1,600nm以下、1,500nm以下、1,400nm以下、1,300nm以下、1,200nm以下、1,100nm以下、1,000nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、及び100nm以下からなる群より選択され;xが、90以上である請求項3に記載の方法。
(中略)
【請求項10】
生物学的活性物質が、インドメタシン、ジクロフェナク、ナプロキセン、メロキシカム、メタキサロン、シクロスポリンA、プロゲステロン、セレコキシブ、シロスタゾール、シプロフロキサシン、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、アントラキノン、クレアチン一水和物、グリホサート、ハロスルフロン、マンコゼブ、メトスルフロン、サルブタモール、硫黄、トリベヌロン、及びエストラジオール、又はこれらの任意の塩若しくは誘導体からなる群より選択される請求項1から9のいずれかに記載の方法。
(中略)
【請求項14】
粉砕助剤又は粉砕助剤の組み合わせが用いられ、前記粉砕助剤が、コロイド状シリカ、固体界面活性剤、半固体界面活性剤、液体界面活性剤、固体又は半固体に加工することができる界面活性剤、ポリマー、ステアリン酸、及びこれらの誘導体からなる群より選択される請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステアレート、ポロキサマー、サルコシン型界面活性剤、ポリソルベート、アルキル硫酸塩型、他の硫酸塩型界面活性剤、エトキシ化ヒマシ油、ポリビニルピロリドン、デオキシコール酸型界面活性剤、トリメチルアンモニウム型界面活性剤、レシチン、他のリン脂質、及び胆汁酸塩からなる群より選択される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
界面活性剤が、ラウリル硫酸ナトリウム、ドキュセートナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、N-ラウロイルサルコシンナトリウム塩、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、ステアリン酸PEG40、ステアリン酸PEG100、ポロキサマー188、Brji72、Brji700、Brji78、Brji76、Cremophor EL、Cremophor RH-40、Dehscofix920、Kollidon25、Kraftsperse1251、レシチン、ポロキサマー407、ポリエチレングリコール3000、ポリエチレングリコール8000、ポリビニルピロリドン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクタデシル硫酸ナトリウム、ペンタンスルホン酸ナトリウム、soluplus HS15、Teric305、Tersperse2700、Terwet1221、Terwet3785、Tween80及びポリソルベート61からなる群より選択される請求項14及び15のいずれかに記載の方法。
(中略)
【請求項18】
1つの促進剤が用いられるか、又は促進剤の組み合わせが用いられ、前記促進剤が、界面活性剤、ポリマー、結合剤、充填剤、潤滑剤、甘味剤、着香剤、保存剤、バッファ、湿潤剤、崩壊剤、発泡剤、固体剤形を含む医薬の一部を形成することができる剤からなる群より選択される請求項1から17のいずれかに記載の方法。
(中略)
【請求項20】
促進剤が、架橋PVP(クロスポビドン)、架橋カルメロース(クロスカルメロース)、デンプングリコール酸ナトリウム、ポビドン(PVP)、ポビドンK12、ポビドンK17、ポビドンK25、ポビドンK29/32及びポビドンK30からなる群より選択される請求項18及び19のいずれかに記載の方法。」

(2)「【0002】
バイオアベイラビリティが低いことは、治療、化粧品、農業、及び食品産業における組成物の開発、特に、生理学的pHにおける水溶性が低い生理学的活性物質を含有する物質の開発において遭遇する重大な問題である。活性物質のバイオアベイラビリティとは、例えば、経口又は静脈内手段を介して全身投与された後、活性物質が体内の標的組織又は他の媒体にとって利用可能になる程度である。活性物質の投与形態、可溶性、及び溶解速度を含む多くの要因が、バイオアベイラビリティに影響を与える。
【0003】
治療用途において、水溶性が低く且つ溶解が遅い物質は、循環系に吸収される前に胃腸管から排出される傾向がある。更に、可溶性の低い活性剤は、毛管を通る血流を前記剤の粒子が遮断する危険があるので、静脈内投与が好ましくないか、又は更には安全ではない傾向がある。
【0004】
微粒子医薬の溶解速度は、表面積の増加と共に上昇することが知られている。表面積を増加させる方法の1つは、粒径を小さくすることである。結果として、微粒子化された医薬又は分粒された医薬を作製する方法は、医薬組成物用の医薬粒子の粒径及び粒径範囲を制御するという観点で研究されてきた。
【0005】
例えば、粒径を小さくして、医薬の吸収に影響を与えるために乾式粉砕技術が用いられている。しかし、従来の乾式粉砕において、微粉度の限界は、一般的に、約100ミクロン(100,000nm)の領域に達しており、この時点において、物質が粉砕チャンバ上でケーキングして、更に粒径を小さくすることができなくなる。
(中略)
【0013】
本発明は、大量の商業的規模でさえも容易に且つ経済的に小粒子を生成する粉砕方法を提供することによって、先行技術において認識されている課題を解決する方法を提供する。」

(3)
「【0041】
別の好ましい実施形態では、インドメタシンをラクトース一水和物及びアルキル硫酸塩と共に粉砕する。インドメタシンをラクトース一水和物及びラウリル硫酸ナトリウムと共に粉砕することが好ましい。
(中略)
別の好ましい実施形態では、インドメタシンをラクトース一水和物、酒石酸及びラウリル硫酸ナトリウムと共に粉砕する。
(中略)
【0043】
別の好ましい実施形態では、ジクロフェナクをラクトース一水和物及びアルキル硫酸塩と共に粉砕する。ジクロフェナクをラクトース一水和物及びラウリル硫酸ナトリウムと共に粉砕することが好ましい。
(中略)
別の好ましい実施形態では、ジクロフェナクをラクトース一水和物、酒石酸及びラウリル硫酸ナトリウムと共に粉砕する。
(中略)
【0045】
別の好ましい実施形態では、メタキサロンをラクトース一水和物及びアルキル硫酸塩と共に粉砕する。メタキサロンをラクトース一水和物及びラウリル硫酸ナトリウムと共に粉砕することが好ましい。
(中略)
別の好ましい実施形態では、メタキサロンをラクトース一水和物、酒石酸及びラウリル硫酸ナトリウムと共に粉砕する。」

(4)「【0052】
前記生物学的活性物質は、殺菌剤、殺虫剤、除草剤、種子処理剤、薬用化粧品、化粧品、補完医薬品、天然産物、ビタミン、栄養素、栄養補助食品、薬学的活性物質、生物製剤、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、ヌクレオチド、核酸、添加剤、食品、及び食品成分、並びにこれらの類似体、相同体、及び一次誘導体からなる群より選択されることが好ましい。前記生物学的活性物質は、以下からなる群より選択されることが好ましい:抗肥満剤、中枢神経系刺激剤、・・・(ステロイドを含む)性ホルモン、抗アレルギー剤、興奮剤及び食欲抑制剤、交感神経様作用剤、甲状腺剤、血管拡張剤、及びキサンチン。(中略)前記生物学的活性物質は、インドメタシン、ジクロフェナク、ナプロキセン、メロキシカム、メタキサロン、シクロスポリンA、プロゲステロン、セレコキシブ、シロスタゾール、シプロフロキサシン、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、アントラキノン、クレアチン一水和物、グリホサート、ハロスルフロン、マンコゼブ、メトスルフロン、サルブタモール、硫黄、トリベヌロン及びエストラジオール、又はこれらの任意の塩若しくは誘導体からなる群より選択されることが好ましい。」

(5)「【0116】
1つの実施形態では、細砕マトリクスは、以下から選択される単一物質であるか、又は2以上の物質の混合物である:例えば(これらに限定されないが)、マンニトール、ソルビトール、イソマルト、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、エリトリトール、アラビトール、リビトール等のポリオール(糖アルコール);例えば(これらに限定されないが)、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース等の単糖;例えば(これらに限定されないが)、無水ラクトース、ラクトース一水和物、スクロース、マルトース、トレハロース等の二糖及び三糖;(中略);他の機能性賦形剤;例えば(これらに限定されないが)、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、アスコルビン酸、コハク酸等の有機酸;(中略);例えば(これらに限定されないが)、ラウリル硫酸ナトリウム、・・等の界面活性剤。」

(6)「【0231】
実施例4:1Lのアトライター
1Lの撹拌アトライター粉砕機を用いて、2つの活性物質を、ラクトース一水和物及びSDSの様々な組み合わせと共に粉砕した。これら粉砕の詳細を、粉砕された活性物質の粒径分布と共に図4Aに示す。
【0232】
サンプルA及びBは、20%のメロキシカムの粉砕である。サンプルBは、サンプルAよりも粒径が僅かに小さいが、粉砕機から回収された物質の量には劇的な差が存在する。3%SDSと共に粉砕したサンプルAは、90%という高収率であるが、界面活性剤を用いなかったサンプルBは、粉砕機内で全ての粉末がケーキングし事実上収率が存在しない。
【0233】
サンプルC?Fでは、13%インドメタシンの粉砕において、1%SDSと組み合わせて第2のマトリクス(酒石酸)を使用することにより、優れた粒径及び高収率という最良の結果がもたらされることを示す。混合マトリクスのみを用いたサンプルDは、非常に優れた粒径を有するが、収率が低い。
【0234】
これら結果は、少量の界面活性剤の添加が、粉砕性能を改善することを示す。」

上記(1)の請求項1の「細砕材」と「細砕マトリクス」は同義であると認められ、上記(1)からみて、請求項5の引用形式で記載される請求項14の引用形式で記載される請求項18には、
「粒子を作製するのに十分な時間、複数の粉砕体を含む粉砕機内で、固体の生物学的活性物質と、粉砕可能な細砕マトリクスとを乾式粉砕する工程を含むことを特徴とする、少なくとも部分的に粉砕された細砕マトリクスに分散された前記生物学的活性物質の粒子体積に基づいて測定される粒子の中央粒径が20,000nm、15,000nm、10,000nm、7,500nm、5,000nm、2,000nm、1,900nm、1,800nm、1,700nm、1,600nm、1,500nm、1,400nm、1,300nm、1,200nm、1,100nm、1,000nm、900nm、800nm、700nm、600nm、500nm、400nm、300nm、200nm、及び100nmからなる群より選択される粒径以下であり、粒径分布のDxが10,000nm以下、5,000nm以下、3,000nm以下、2,000nm以下、1,900nm以下、1,800nm以下、1,700nm以下、1,600nm以下、1,500nm以下、1,400nm以下、1,300nm以下、1,200nm以下、1,100nm以下、1,000nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、及び100nm以下からなる群より選択され;xが、90以上である組成物を作製する方法であって、
コロイド状シリカ、固体界面活性剤、半固体界面活性剤、液体界面活性剤、固体又は半固体に加工することができる界面活性剤、ポリマー、ステアリン酸、及びこれらの誘導体からなる群より選択される粉砕助剤又は粉砕助剤の組み合わせが用いられ、
界面活性剤、ポリマー、結合剤、充填剤、潤滑剤、甘味剤、着香剤、保存剤、バッファ、湿潤剤、崩壊剤、発泡剤、固体剤形を含む医薬の一部を形成することができる剤からなる群より選択される1つの促進剤、又は促進剤の組み合わせが用いられる方法」が記載されていると認める。

また、引用文献2には、上記(3)のとおり、インドメタシン、ジクロフェナクまたはメタキサロンをラクトース一水和物、酒石酸及びラウリル硫酸ナトリウムと共に粉砕することが好ましい形態として記載されている。

これらの記載からみて、引用文献2には、
「粒子を作製するのに十分な時間、複数の粉砕体を含む粉砕機内で、固体の生物学的活性物質と、粉砕可能な細砕マトリクスとを乾式粉砕する工程を含むことを特徴とする、少なくとも部分的に粉砕された細砕材に分散された前記生物学的活性物質の粒子体積に基づいて測定される粒子の中央粒径が20,000nm、15,000nm、10,000nm、7,500nm、5,000nm、2,000nm、1,900nm、1,800nm、1,700nm、1,600nm、1,500nm、1,400nm、1,300nm、1,200nm、1,100nm、1,000nm、900nm、800nm、700nm、600nm、500nm、400nm、300nm、200nm、及び100nmからなる群より選択される粒径以下であり、粒径分布のDxが10,000nm以下、5,000nm以下、3,000nm以下、2,000nm以下、1,900nm以下、1,800nm以下、1,700nm以下、1,600nm以下、1,500nm以下、1,400nm以下、1,300nm以下、1,200nm以下、1,100nm以下、1,000nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、及び100nm以下からなる群より選択され;xが、90以上である組成物を作製する方法であって、
コロイド状シリカ、固体界面活性剤、半固体界面活性剤、液体界面活性剤、固体又は半固体に加工することができる界面活性剤、ポリマー、ステアリン酸、及びこれらの誘導体からなる群より選択される粉砕助剤又は粉砕助剤の組み合わせが用いられ、
界面活性剤、ポリマー、結合剤、充填剤、潤滑剤、甘味剤、着香剤、保存剤、バッファ、湿潤剤、崩壊剤、発泡剤、固体剤形を含む医薬の一部を形成することができる剤からなる群より選択される1つの促進剤、又は促進剤の組み合わせが用いられる方法であって、具体的には、
前記生物学的活性物質であるインドメタシン、ジクロフェナクまたはメタキサロンを、ラクトース一水和物、酒石酸及びラウリル硫酸ナトリウムと共に粉砕する工程を含む方法」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

2 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の記載がなされている(なお。引用文献1は外国語で記載されているので、合議体による日本語訳にて摘記する。)。
「[0004]アビラテロン酢酸エステルは親油性化合物であり、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、特にアルコール類のような有機溶媒に溶け易く、20℃でpH2?12の条件したでは水に溶けず、(中略)、したがって医薬製剤の研究において溶出度と生物学的利用率を高めることが本発明のキーポイントである。
(中略)
[0006]本発明は、原料の粒径が0.1?50μm、好ましくは0.1?20μmであるアビラテロン酢酸エステルと、薬学的の許容可能な補助材料を含む、固体医薬組成物および製造方法を提供することを目的とするものである。」


第5 対比
本願発明1と引用発明2を対比する。
本願発明1の「乾式粉砕するステップを式粉砕するステップを含み」との記載は、「乾式粉砕するステップを含み」との記載の誤記であるとして、以下、対比を行う。
引用発明2の「粉砕機」、「粒子体積に基づいて測定される粒子の中央粒径が20,000nm、15,000nm、10,000nm、7,500nm、5,000nm、2,000nm、1,900nm、1,800nm、1,700nm、1,600nm、1,500nm、1,400nm、1,300nm、1,200nm、1,100nm、1,000nm、900nm、800nm、700nm、600nm、500nm、400nm、300nm、200nm、及び100nmからなる群より選択される粒径以下であり、粒径分布のDxが10,000nm以下、5,000nm以下、3,000nm以下、2,000nm以下、1,900nm以下、1,800nm以下、1,700nm以下、1,600nm以下、1,500nm以下、1,400nm以下、1,300nm以下、1,200nm以下、1,100nm以下、1,000nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、及び100nm以下からなる群より選択され;xが、90以上である」、「ラクトース一水和物」、「ラウリル硫酸ナトリウム」及び「酒石酸」は、本願発明1の「ミル」、「ナノ微粒子」、「粉砕用化合物がラクトース一水和物であり」、「促進剤がラウリル硫酸ナトリウムであり」及び「封鎖剤が・・酒石酸」に相当し、両者は、
「生物学的活性物質のナノ微粒子を含有する組成物を作製するための方法であって、
生物学的活性物質、粉砕用化合物、促進剤および封鎖剤を含有する組成物をミル内で、前記生物学的活性物質のナノ微粒子を含有する組成物を作製するのに十分な時間の間、乾式粉砕するステップを含み、
前記粉砕用化合物がラクトース一水和物であり、
前記促進剤がラウリル硫酸ナトリウムであり、
前記封鎖剤が酒石酸である、
方法。」の点で一致し、
本願発明1は生物学的活性物質がアビラテロン酢酸エステルであるのに対して、引用発明2ではインドメタシン、ジクロフェナクまたはメタキサロンである点で相違するものである。


第6 判断
上記相違点について検討する。
1 相違点について
上記第4 1(2)のとおり、引用文献2は、水溶性が低く且つ溶解が遅い生物学的活性物質のバイオアベイラビリティを高めることができ、大量の商業的規模でさえも容易に且つ経済的に小粒子を生成する粉砕方法を提供することを、解決しようとする課題とするものである。
引用文献2には、上記第4 1(4)のとおり、生物学的活性物質として、インドメタシン、ジクロフェナク、メタキサロンと並んで、ナプロキセン、メロキシカム、シクロスポリンA、プロゲステロン、セレコキシブ、シロスタゾール、シプロフロキサシン、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、アントラキノン、クレアチン一水和物、グリホサート、ハロスルフロン、マンコゼブ、メトスルフロン、サルブタモール、硫黄、トリベヌロン及びエストラジオール、又はこれらの任意の塩若しくは誘導体からなる群より選択されることが好ましいことが記載されると共に、(ステロイドを含む)性ホルモン等をも生物学的活性物質として用いることも記載されている。
難溶性化合物のバイオアベイラビリティーを高める等の優れた性質を付与する製剤方法を種々の難溶性の医薬化合物に適用し、その効果を確認してみることは、当該分野において広く行われていたものであり、上述のとおり、引用文献2には、引用発明2の方法はプロゲステロン、エストラジオール、(ステロイドを含む)性ホルモン等にも適用可能であることが記載されている。
引用文献1および2は、難溶性化合物のバイオアベイラビリティーが高められた固体医薬組成物という共通の技術分野に属するものであり、引用発明2において製剤化する生物学的活性物質として、インドメタシン、ジクロフェナクまたはメタキサロンに代えて、難溶性であることが引用文献1に記載される、ステロイド骨格を有する化合物であるアビラテロン酢酸エステルを用いてみることは、当業者が容易に想到し得るものである。

2 効果について
以下、本願発明1の効果について検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明には、例5(段落【0121】?【0128】)として、アビラテロン酢酸エステル、ラクトース一水和物、ラウリル硫酸ナトリウムに、酸化防止剤であるアスコルビン酸と封鎖剤であるフマル酸との組合せまたは酸化防止剤であるブチルヒドロキシアニソール(BHA)とブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)との組合せを加えて、乾式粉砕を行ったところ、総不純物の増加が抑えられたことが確認されている。
しかしながら、本願発明1は、その記載から明らかなように、アビラテロン酢酸エステル、ラクトース一水和物、ラウリル硫酸ナトリウムに、酸化防止剤と封鎖剤の一方のみを含む態様をも包含するものであるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、酸化防止剤を添加せずに、封鎖剤であるフマル酸、酒石酸またはクエン酸のみを加えた実施例等の具体的な記載はなされていない。
ラクトース一水和物、ラウリル硫酸ナトリウム及び酒石酸の組み合わせ自体は引用発明2との相違点ではなく、引用文献2の第4 1(6)には、インドメタシンの粉砕においてではあるが、1%SDSと組み合わせて酒石酸を使用することで優れた粒径及び高収率という最良の結果がもたらされたことから、少量の界面活性剤の添加が粉砕性能を改善することを示すと記載されている。そして、本願明細書には上述のとおり実施例等の具体的な記載がなされていない以上、本願優先日当時の技術常識を勘案しても、アビラテロン酢酸エステルと、ラクトース一水和物、ラウリル硫酸ナトリウム及び酒石酸の組み合わせにより、予測しえない有利な効果が奏されたことが明らかとはいえない。

3 請求人の主張について
請求人は、令和元年7月8日提出の意見書において、以下のように主張する。
「B.理由2(進歩性)について
原請求項1?64に係る発明は、引用文献1?3の開示に基づいて当業者が容易に想到することができる発明である」という拒絶理由について、手続補正書において、請求項1を上述のように補正いたしました。すなわち、本願発明は、アビラテロン酢酸エステルを、粉砕用化合物としてラクトース一水和物、促進剤としてラウリル硫酸ナトリウム並びに、アスコルビン酸、BHAおよびBHTからなる群から選ばれる酸化防止剤及びフマル酸、酒石酸およびクエン酸からなる群から選択される封鎖剤の一方又は両方を用いて粉砕する方法に関する発明です。本願発明の方法により作製されたアビラテロン酢酸エステルの微粉砕物は、本願明細書段落0121?0126(実施例5)の記載において、安定性試験において不純物が増加しないという特性を具備することが実証されています。」(下線は合議体が付した。)
しかしながら、上述のとおり、本願明細書の段落0121?0126(例5)には、「アスコルビン酸/フマル酸DPI調合物では、総不純物が0.23から0.80までしか増加しなかった。BHA/BHTのDPI調合物では、総不純物が増加しなかった(80℃で4時間の前後ともに0.38)。」と記載されており、アビラテロン酢酸エステル、ラクトース一水和物、ラウリル硫酸ナトリウムに、フマル酸、酒石酸またはクエン酸である封鎖剤を加えた際の総不純物の量に関する記載はなされていないため、「安定性試験において不純物が増加しないという特性を具備することが実証されてい」るとの上記請求人の主張は採用できない。
以上のとおりであるから、意見書における請求人の主張を勘案しても、本願発明1は、引用発明2、並びに、引用文献2及び1に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第7 むすび
上記のとおりであるから、本願発明1は、引用文献2に記載された発明、並びに、引用文献2及び1に記載の事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-20 
結審通知日 2019-11-26 
審決日 2019-12-10 
出願番号 特願2016-503434(P2016-503434)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡部 正博金田 康平  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 藤原 浩子
光本 美奈子
発明の名称 アビラテロン酢酸エステル製剤  
代理人 水野 祐啓  
代理人 玉井 悦  

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