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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1361954
審判番号 不服2018-16350  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-07 
確定日 2020-04-22 
事件の表示 特願2015-545947「光を用いた卵の胚の性別制御」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月19日国際公開、WO2014/093445、平成28年 3月10日国内公表、特表2016-507219〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月11日(パリ条約による優先権主張 平成24年12月11日、平成24年12月27日、平成25年7月12日、平成25年2月1日、平成25年3月18日、及び平成25年4月19日の6件、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年8月24日付け拒絶理由通知に対して、平成30年3月2日に意見書及び補正書が提出され、同年7月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成30年12月7日付け手続補正についての補正却下の決定
[結論]
平成30年12月7日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正
本件補正は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1に、
(補正前)「【請求項1】
鳥類における卵内の選択された性別の胚の形成を促進する方法において、
複数の受精卵を孵卵して、前記卵の孵化を促進するステップと、
前記複数の受精卵の孵卵中に、前記複数の受精卵に410?450nmまたは450?495nmの波長範囲内に集結されたスペクトルを有するとともに、3ルーメン以下または3ルーメンから1000ルーメンの間の強度を有する光を照射するステップと、
を含むことを特徴とする方法。」とあったものを、
(補正後)「【請求項1】
鳥類における卵内の雌の胚の形成を促進する方法において、
複数の受精卵を孵卵して、前記卵の孵化を促進するステップと、
前記複数の受精卵の孵卵中に、前記複数の受精卵に410?450nmの波長範囲内に集結されたスペクトルを有するとともに、3ルーメン以下または3ルーメンから1000ルーメンの間の強度を有する光を照射するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
鳥類における卵内の雄の胚の形成を促進する方法において、
複数の受精卵を孵卵して、前記卵の孵化を促進するステップと、
前記複数の受精卵の孵卵中に、前記複数の受精卵に450?495nmの波長範囲内に集結されたスペクトルを有するとともに、3ルーメン以下または3ルーメンから1000ルーメンの間の強度を有する光を照射するステップと、
を含むことを特徴とする方法。」とする補正事項を含むものである。

2.目的要件について
上記補正事項によって、補正前の請求項1に記載されていた「選択された性別」、「410?450nmまたは450?495nmの波長範囲内に集結されたスペクトル」について、補正後の請求項1では「雌」、「410?450nmの波長範囲内に集結されたスペクトル」に補正され、補正後の請求項2では「雄」、「450?495nmの波長範囲内に集結されたスペクトル」に補正された。
上記の補正後の請求項1、2に関する補正は、補正前の請求項1に係る発明をそれぞれ限定しており、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。
そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.独立特許要件について
(1)補正発明の解決しようとする課題
補正発明の解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の記載からみて、鳥類における卵内の雄の胚の形成を促進することができる方法の提供であると認められる。

(2)発明の詳細な説明
本願の発明の詳細な説明には、受精卵から雄の胚の形成が促進された具体的な結果に関する記載はない。
ただし、鳥類の性別に関して以下の記載があるから検討する。
「【0033】
鳥類の性別決定について様々な研究が行われている。1つの研究では、P450(17-アルファ)およびP450アロマターゼ(P450arom)mRNA発現の局在化が4?9日目の鶏の胚の生殖腺で調査された。P450(17-アルファ)mRNAは遺伝学的に雄と雌の生殖腺において孵卵5?6日目に最初に検出され、P450aromは雌の生殖腺において6.5日目に最初に検出され、雄の生殖腺では見られなかった。それゆえ、鶏の性別決定は孵卵開始から数日間は起こらないように思われる。
【0034】
さらに、エストロゲン合成が鳥類の性別決定において重要な役割を果たす。エストロゲン合成に必要な2つの終末酵素、P-450アロマターゼと17βHSDは形態的分化の開始時(6?6.5日目)にZW(雌)生殖腺の中でのみ発現する。アロマターゼと17βHSDはしたがって、鍵となる雌雄二形型コンポーネントである。」

「【0037】
これに加えて、研究が示していることとして、RNA干渉を使ってDMRT1(doublesex-mab-3-related転写因子1)蛋白発現量を減らすことにより、遺伝学的に雄の胚における胚生殖腺の雌性化が起こり、その結果、部分的な性転換が起こる。DMRT1はジンクフィンガコアを有し、これは近UV光(例えば、410nm?430nmの波長を有する光等の約430nmの波長の光)を吸収でき、これによってDMRT1蛋白発現量を同様に減らしうる。それゆえ、その結果としてDMRT1レベルが下がることにより、雄の子孫が減り、雌の子孫が増える。」

「【0067】
具体的には、P450アロマターゼの「P450」はそのスペクトル吸収特性に由来する(フォトニック450nm)。この分子は、光を吸収すると、それを他のエネルギー形態に変換しなければならない。吸収されたエネルギーは化学反応を起こすためには使用されず、また放射にも変換されない。それゆえ、熱、またはおそらくは電子の低スピンから高スピンへの転移は副産物でなければならない。これによって、雄となりうる鳥を雌の鳥に転換する酵素が増進または制御される。
【0068】
他の実施形態において、DMRT1蛋白発現量を減らして性転換させる。具体的には、孵卵開始から数日中(例えば、孵卵0?6日目)に卵30に近UV光または青色光(例えば、410nm?450nmの範囲に実質的に集結された波長を有する光等、約430nmの波長を有する光)を照射して、それによりDMRT1蛋白発現量を減少させる。それゆえ、卵30が近UV光または青色光に曝露されたことによる卵30内のDMRT1レベルの低下により、卵内で発育する雄の子孫が減り、雌の子孫が増える。
【0069】
このようにして、光の波長を使ってP-450アロマターゼの合成を制御するか、DMRT1蛋白発現量を減少させることができ、それゆえ、受精期間中の鳥の性別を制御または転換させて、孵卵から、電磁放射、UVまたは青色光が照射されていない複数の卵の比較群と比べ、より大きい割合の雌の動物またはより大きな割合の雄の動物の何れかが得られるようにすることができる。1つの実施形態では、雌対雄の比は、指定された波長範囲内の照明が当てられなかった比較群において見られた比と比べて少なくとも5%増大される。他の実施形態では、照明された卵の雌対雄の比は、比較群の卵において観察された比と比べて少なくとも10%増大される。
【0070】
特に、七面鳥の受精卵と鶏の受精卵の両方を使って実験を行った。孵卵期間中、トレイ28の上に卵を取り囲むように配置された照明素子32を有する孵卵装置10等の孵卵装置の中に卵を配置した。具体的には、約450nmの単色青色光を生成するLED照明素子をトレイに取り付け、これを使って、孵卵期間中、孵卵開始から約84時間(3.5日)にわたり卵を照明した。孵卵装置10を、トレイ28の照明素子32からの光だけが卵に到達するような環境内に設置し、卵を孵卵装置内の照明素子32の付近に設置した。孵卵装置10内に設置する前に、七面鳥の卵を約40?50°Fの温度に数時間保持し、その後、室温に戻してから孵卵装置10の中に設置した。
【0071】
この実験では、七面鳥の卵をまず孵卵第1日目に孵卵装置10の中に入れ、鶏の卵は孵卵第2日目に追加した。装置10の中の湿度、孵卵温度、装置10の外部の周辺室温を孵卵中毎日記録した。湿度約56%、孵卵温度98?100°Fに保持した。室温は通常、67°?73°Fの間で変化するが、室温は場合によっては80°?90°Fの範囲の温度に到達した。孵卵開始の約3週間後に、卵を孵卵装置から取り出し、卵内の胚の性別を判別した。
【0072】
初期試験中、雌の七面鳥胚対雄の七面鳥胚の比は約2:1であると判断された。これに加えて、初期試験中、多数の雌雄両性の七面鳥胚が発見された。さらに分析すると、雌雄両性の七面鳥は雌と判別され、雌の七面鳥胚対雄の七面鳥胚の比は3:1であった。この比は、本明細書に記載された所定の照明条件が付与されない一般的な孵卵方法により孵卵された七面鳥の卵について得られる約1:1の雌雄比と明確に対照的である。これに加えて、実験した七面鳥の卵の孵化率は、一般的な孵卵方法を用いる業界の約85%という孵化率と比べて100%であり、それゆえ、青色波長光を当てることによって七面鳥等の鳥類の孵化率が改善されることを示している。
【0073】
鶏卵については、雌雄判別した多数の卵が雌雄両性であると判断された。七面鳥胚で見られた3:1の性別比と雌雄両性の鶏胚によって証明されるように、光を使って特に鳥類の卵の胚の性別を制御し、またはこれに影響を与えることができる。実験的試験では青色光だけを使用したが、例えば、これらに限定されないが、紫外、緑色、黄色、橙色、赤色、赤外光等、他の波長の光を当てることもまた利用して、卵内の胚の性別を様々な程度まで制御できる。」

(3)当審の判断
段落【0070】?【0072】には、七面鳥の受精卵に『約450nmの単色青色光』を照射した具体例に関して記載されていると認められ、『約450nmの単色青色光』は補正発明に特定される「450?495nmの波長範囲内に集結されたスペクトル」に該当すると認められるが、ここには七面鳥の受精卵への『約450nmの単色青色光』の照射により、照射しない場合よりも雄ではなく雌の七面鳥胚が多くなった旨が記載されており、補正発明の課題である「雄の胚の形成」とは逆のことが記載されていると認められる。 また、段落【0073】には、鶏卵について『約450nmの単色青色光』の照射により雌雄両性の胚が多くなった旨が記載されていると認められるが、雄の胚の形成については記載されていない。
さらに、段落【0033】、【0034】、【0037】、【0067】、【0068】には、P450アロマターゼが雌の生殖腺で検出されるが雄の生殖腺では見られないこと、鳥類の性別決定に重要なエストロゲンの合成に必要なP450アロマターゼと17βHSDは雌の生殖腺のみで発現すること、P450アロマターゼが450nmスペクトルの吸収性を有し、吸収したエネルギーにより雌の鳥に転換する酵素が増進または制御されること、約430nmの波長の光の照射によりDMRT1発現が減少し、それにより雌の子孫が増えることなどについても記載されているが、これらの記載はいずれも「雌の胚の形成」に関するものであるし、補正発明に特定される「450?495nmの波長範囲内に集結されたスペクトル」の照射に関するものではない。しかも、これらの記載は実験結果を伴わない推論に過ぎないものと認められる。
そうすると、これらの記載を参酌しても、「450?495nmの波長範囲内に集結されたスペクトル」の光を照射することによって、卵内の「雄の胚の形成」が促進できることを合理的に理解することはできない。
そうすると、発明の詳細な説明に上記課題が解決できたことが記載されているとはいえないから、補正発明は発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものとはいえない。
したがって、補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4)審判請求書人の主張について
審判請求人は審判請求書において、以下の点を主張している。
「段落[0069]には、「このようにして、光の波長を使ってP-450アロマターゼの合成を制御するか、DMRT1蛋白発現量を減少させることができ、それゆえ、受精期間中の鳥の性別を制御または転換させて、孵卵から、電磁放射、UVまたは青色光が照射されていない複数の卵の比較群と比べ、より大きい割合の雌の動物またはより大きな割合の雄の動物の何れかが得られるようにすることができる。」と記載されております。
実際には、P-450アロマターゼが光を吸収することにより、その活性が減少して不活性となり、これにより雄の胚の形成が促進されることになります。」

上記主張について検討する。
発明の詳細な説明の記載から、雌の胚で見られるP-450アロマターゼが「雄の胚」では見られないことや、DMRT1の発現レベルが雌の胚よりも「雄の胚」で高いことなどは理解できるかもしれないが、P-450アロマターゼがなければ雄化するとまではいえず、DMRT1についても発現レベルが高ければ雄化するするとまではいえないから、これらのことと受精卵から「雄の胚の形成を促進」することとは全く別である。
発明の詳細な説明には、P-450アロマターゼを減少させたり、DMRT1発現を増加させたりすることによって「雄の胚の形成を促進」することは具体的に記載されていない。また、450?495nmの波長の光の照射によって、P-450アロマターゼやDMRT1蛋白を制御できることが技術常識であるとは認められないところ、発明の詳細な説明には、実際に450?495nmの波長の光を使って鳥の胚のP-450アロマターゼやDMRT1蛋白を制御したことについても記載されていない。さらに、鳥の性別決定には他の多くの因子が関係していると考えられるから、仮に450?495nmの波長の光を使って鳥の胚におけるP-450アロマターゼやDMRT1蛋白が制御できたとしても、そのことによって「雄の胚の形成を促進」できることを合理的に理解できるとはいえない。
なお、審判請求人はP450-アロマターゼが光を吸収することで不活性となり、雄の胚の形成が促進されることを主張しているが、段落【0067】には、P450-アロマターゼが450nmの光を吸収することで「雄となりうる鳥を雌の鳥に転換する酵素が増進または制御される」と、雌の胚の形成が促進されることが記載されており、審判請求人の主張は発明の詳細な説明の記載と整合しているとは認められない。
したがって、発明の詳細な説明に「雄の胚の形成を促進」できたことが記載されているとはいえない。段落【0069】の記載は具体的でなく曖昧な推論を記載したものに過ぎず、この記載をみても、補正発明がサポート要件を満足しているとはいえない。

4.小括
以上のとおり、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?22に係る発明は、平成30年3月2日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?22に記載の事項により特定される発明であると認める。

2.原査定の理由
原査定の理由は、本願の請求項1?22に係る発明は、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。

3.当審の判断
本願の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1.に(補正前)として記載したものであり、第2の3.で述べたとおり補正発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえないところ、本願発明は補正発明を態様として明らかに含むものであるから、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-11 
結審通知日 2019-11-12 
審決日 2019-12-10 
出願番号 特願2015-545947(P2015-545947)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤澤 雅樹  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 中島 庸子
小暮 道明
発明の名称 光を用いた卵の胚の性別制御  
代理人 柴田 沙希子  

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