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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1361957
審判番号 不服2019-1026  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-25 
確定日 2020-04-22 
事件の表示 特願2016-560721号「バルク金属ガラス系の波動歯車装置及び波動歯車装置コンポーネントを具現化するシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月15日国際公開、WO2015/156797、平成29年 6月 8日国内公表、特表2017-515059号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)4月9日を国際出願日とする出願であって、平成30年2月15日付けで拒絶理由が通知され、同年8月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成31年1月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成31年1月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成31年1月25日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1.本願補正発明
平成31年1月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1、10及び16を補正するものであり、その補正前後の記載は次のとおりである。
なお、下線部は補正箇所を示す。
(1)本件補正前の請求項1、10及び16の記載
「【請求項1】
波生成装置と、
第1セットのギア歯を有するフレクスプラインと、
第2セットのギア歯を有する円形スプラインと、
を備え、
前記波生成装置、前記フレクスプライン、前記円形スプラインのうち少なくとも1つはバルク金属ガラス系材料を含み、
前記バルク金属ガラス系材料は、1mmよりも厚く、1.4%以上の弾性限界を有する、波動歯車装置。
【請求項10】
楕円形状の断面を有する波生成装置プラグと、
内側レース、外側レース及び複数の転動部材を有する軸受と、
を備え、
前記波生成装置プラグは前記軸受内に配置され、前記軸受が前記波生成装置プラグの前記楕円形状に合致できるようにし、
前記波生成装置プラグ及び前記軸受のうち少なくとも一方はバルク金属ガラス系材料を含む、波生成装置。
【請求項16】
波動歯車装置コンポーネントを作製する方法であって、
熱可塑性形成技術及び鋳造技術のうち一方と関連する成形型を使用してバルク金属ガラス系材料を成形するステップを有し、
前記バルク金属ガラス系材料は、波生成装置プラグ、内側レース、外側レース、転動素子、フレクスプライン、一組のギア歯セットを持たないフレクスプライン、円形スプライン、一組のギア歯セットを持たない円形スプライン、フレクスプライン内に組み込むべき一組のギア歯セット、及び円形スプラインに組み込むべき一組のギア歯セットのうちの一つとして成形される、方法。」
(2)本件補正後の請求項1、10及び16の記載
「【請求項1】
波生成装置と、
第1セットのギア歯を有するフレクスプラインと、
第2セットのギア歯を有する円形スプラインと、
を備え、
前記波生成装置、前記フレクスプライン、及び前記円形スプラインのうち少なくとも1つはバルク金属ガラス系材料を含み、
前記バルク金属ガラス系材料は、1mmよりも厚く、2%以上の弾性限界を有する、波動歯車装置。
【請求項10】
楕円形状の断面を有する波生成装置プラグと、
内側レース、外側レース、及び複数の転動部材を有する軸受と、
を備え、
前記波生成装置プラグは前記軸受内に配置され、前記軸受が前記波生成装置プラグの前記楕円形状に合致できるようにし、
前記波生成装置プラグ及び前記軸受のうち少なくとも一方は、2%以上の弾性限界を有するバルク金属ガラス系材料を含む、波生成装置。
【請求項16】
波動歯車装置コンポーネントを作製する方法であって、
熱可塑性形成技術及び鋳造技術のうち一方と関連する成形型を使用して、1mmよりも厚く、2%以上の弾性限界を有するバルク金属ガラス系材料を成形するステップを有し、 前記バルク金属ガラス系材料は、波生成装置プラグ、内側レース、外側レース、転動素子、フレクスプライン、一組のギア歯セットを持たないフレクスプライン、円形スプライン、一組のギア歯セットを持たない円形スプライン、フレクスプライン内に組み込むべき一組のギア歯セット、及び円形スプラインに組み込むべき一組のギア歯セットのうちの1つとして成形される、方法。」

2.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無について
本件補正は、補正前の請求項1に係る発明の「バルク金属ガラス系材料」に関して、「1.4%以上の弾性限界を有する」としていたものを「2%以上の弾性限界を有する」と限定し、補正前の請求項10に係る発明の「バルク金属ガラス系材料」に関して、「2%以上の弾性限界を有する」との限定を付加し、補正前の請求項16に係る発明の「バルク金属ガラス系材料」に関して、「2%以上の弾性限界を有する」との限定を付加するとともに、「1mmよりも厚く」成形するとの限定を付加するものであり、補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
また、本件補正により付加された事項は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0042】及び【0030】の記載から導かれる事項であり、特許法第17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条第4項の規定に違反するところはない。

3.独立特許要件について
上記のとおり、本件補正の請求項1、10及び16に関する補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるところ、本件補正後の請求項10に記載された発明(以下、「本願補正発明10」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下検討する。
(1)本願補正発明10
本願補正発明10は、上記「1.(2)本件補正後の請求項1、10及び16の記載」に記載した【請求項10】のとおりのものと認める。
(2)引用文献1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で「引用文献1」として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2013-238278号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付したものである。

「【0035】
図1はこの発明の第1実施例に係る波動歯車装置の正面図、図2は図1のII-II線断面図である。
【0036】
図1および図2において、符号10は波動歯車装置を示す。波動歯車装置10は、アクチュエータ(例えば電動モータ。図示せず)から入力される回転出力を減速して出力する減速機構(動力伝達機構)であり、例えばヒューマノイド型のロボットの関節部分(図示せず)などの駆動に用いられる。
【0037】
波動歯車装置10は、フレクスプライン(外歯歯車。以下「F/S」と称する)12と、F/S12の内側に配置されるウェーブジェネレータ(波動発生器。以下「W/G」と称する)14と、F/S12の外側に配置されるサーキュラスプライン(内歯歯車。以下「C/S」と称する)16とからなる。

「【0040】
W/G14は、降伏強度が比較的高く、かつヤング率が比較的低い材質、具体的には金属ガラス(例えばZr基金属ガラス)から製作され、F/S12と同様、弾性変形可能とされる。W/G14は大略円管状を呈するように形成され、その中心部には側面視において円形状を呈する孔14aが穿設される。孔14aには、想像線で示す入力軸22(入力軸と出力軸の他方)が挿通されて接続される。
【0041】
W/G14の内部、正確にはW/G14の内部で、かつ外周面に近接する位置には、空間14bが形成されると共に、空間14bには圧力を調節自在な媒体24が封入される。
媒体24は、非圧縮性を有する素材(例えばゲル、液体ゴム、オイル、シリコーンゴム、コロイド溶液(ゾル)など)からなる。
【0042】
W/G14は、この空間14b内の媒体24の圧力を調節する(具体的には加圧する)ことで、図1に示すような非円形(詳しくは楕円形状)に変形する(撓む)。尚、このW/G14の空間14b、およびW/G14の変形については後に詳説する。」

「【0045】
F/S12とW/G14の間には、薄肉で可撓性を有するボールベアリング26が介挿される。F/S12は、図1に良く示すように、前述したW/G14の変形によってW/G14の形状に即した形(即ち、楕円形状)に変形させられ(撓められ)、これにより歯12dがC/S16の歯16aに部分的に噛合させられる。・・・(後略)・・・」

「【0086】
また、W/G14は金属ガラスから製作されるように構成、具体的には、一般的な金属材から金属ガラスに代えて製作するように構成したので、W/G14の強度を維持したままヤング率を約1/3程度まで減少でき、よって媒体24が比較的低い圧力であっても、W/G14を適切な形状に変形させることが可能となる、換言すれば、図7フロー・チャートの所定値P1を比較的低い値に設定することが可能となる。」

また、上記の記載及び図示内容から、次の事項が認められる。

ボールベアリングが、内輪、外輪及び複数のボールからなることは技術常識であり、【図1】及び【図2】からも、可撓性のボールベアリング26が内輪、外輪及び複数のボールからなることを看取できる。

上記アの段落【0037】の「F/S12の内側に配置されるウェーブジェネレータ(波動発生器。以下「W/G」と称する)14」との記載、上記ウの段落【0045】の「F/S12とW/G14の間には、薄肉で可撓性を有するボールベアリング26が介挿される。」との記載及び【図1】、【図2】の記載から、ウェーブジェネレータ14はボールベアリング26内に配置されていると認められる。

上記ウの段落【0045】の「F/S12とW/G14の間には、薄肉で可撓性を有するボールベアリング26が介挿される。F/S12は、図1に良く示すように、前述したW/G14の変形によってW/G14の形状に即した形(即ち、楕円形状)に変形させられ(撓められ)」との記載、及び【図1】の記載からみて、可撓性を有するボールベアリング26は、ウェーブジェネレータ14の楕円形状に合致できるものと認められる。また、ウェーブジェネレータ14とボールベアリング26とにより、波動発生装置を構成していると認められる。

以上のア?エの記載事項、オ?キの認定事項及び【図1】、【図2】の図示内容からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明1〕
「楕円形状の断面を有するウェーブジェネレータ14と、
内輪、外輪、及び複数のボールを有するボールベアリング26と、
を備え、
前記ウェーブジェネレータ14は前記ボールベアリング26内に配置され、前記ボールベアリング26が前記ウェーブジェネレータ14の前記楕円形状に合致できるようにし、
前記ウェーブジェネレータ14は、金属ガラスから製作された、波動発生装置。」

(3)対比・判断
本願補正発明10と引用発明1とを対比する。
後者の「ウェーブジェネレータ14」は、前者の「波生成装置プラグ」に相当する。
後者の「内輪」、「外輪」、「複数のボール」は、前者の「内側レース」、「外側レース」、「複数の転動部材」にそれぞれ相当し、後者の「ボールベアリング26」は、前者の「軸受」に相当する。
後者の「ウェーブジェネレータ14は、金属ガラスから製作された」ことは、前者の「波生成装置プラグ及び軸受のうち少なくとも一方は、2%以上の弾性限界を有するバルク金属ガラス系材料を含む」ことと、「波生成装置プラグ及び軸受のうち少なくとも一方は、金属ガラス系材料を含む」限りにおいて一致する。
後者の「ウェーブジェネレータ14」と「ボールベアリング26」とを備えた「波動発生装置」は、前者の「波生成装置プラグ」と「軸受」とを備えた「波生成装置」に相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点1〕
「楕円形状の断面を有する波生成装置プラグと、
内側レース、外側レース、及び複数の転動部材を有する軸受と、
を備え、
前記波生成装置プラグは前記軸受内に配置され、前記軸受が前記波生成装置プラグの前記楕円形状に合致できるようにし、
前記波生成装置プラグ及び前記軸受のうち少なくとも一方は、金属ガラス系材料を含む、波生成装置。」
〔相違点1〕
本願補正発明10は、波生成装置プラグ及び軸受のうち少なくとも一方に含まれている金属ガラス系材料について、「2%以上の弾性限界を有するバルク金属ガラス系材料」と特定されているのに対して、引用発明1は、ウェーブジェネレータ14を形成している金属ガラスについて、そのように特定されていない点。

上記相違点1について、以下検討する。
〔相違点1について〕
引用文献1には、「W/G14は、降伏強度が比較的高く、かつヤング率が比較的低い材質、具体的には金属ガラス(例えばZr基金属ガラス)から製作され、」(上記(2)イの段落【0040】参照。)と記載されている。
審判請求人は審判請求書(「5.(4)」の最も後段)において、本願で用いられている「弾性限界」について説明しており、当該説明を、本願明細書の段落【0040】?【0042】の記載と併せて参照すると、本願補正発明10の「弾性限界」は、それを超えると材料の永久変形が起こる(降伏が起こる)限界点に相当し、引用文献1の前記記載中の「降伏強度」に対応するものと認められる。
そうすると、引用文献1には、引用発明1のウェーブジェネレータ14を形成している金属ガラスは、弾性限界が比較的高いものであることが記載されているといえ、ここで、比較的高いとされている金属ガラスの弾性限界を「2%以上」とすることは、数値範囲の好適化にすぎず、当業者が容易になし得たことといえる。
また、「バルク金属ガラス」に関して、本願の明細書には、「しかし、その後、結晶化に対してより抵抗性のある特別な合金組成物が開発され、それによって、相当緩慢な冷却速度で金属ガラスを形成でき、従って、相当厚く作成できるようになった(例えば、1mmよりも厚い)。これらより厚い金属ガラスは、「バルク金属ガラス(bulk metallic glasses)」(「BMGs」)として知られている。」(段落【0030】参照。)と記載されており、当該記載によれば、例示として「1mmよりも厚い」とあるように、ある程度の大きさに生成できる金属ガラスを「バルク金属ガラス」と呼称していると認められる。
これに対して、引用文献1の「波動歯車装置10は、アクチュエータ(例えば電動モータ。図示せず)から入力される回転出力を減速して出力する減速機構(動力伝達機構)であり、例えばヒューマノイド型のロボットの関節部分(図示せず)などの駆動に用いられる。」(上記(2)アの段落【0036】参照。)との記載によれば、波動歯車装置10を構成する引用発明1のウェーブジェネレータ14は、その用途からみて、1mm程度の厚さを有しうると認められるため、ウェーブジェネレータ14を形成している金属ガラスは、「バルク金属ガラス」といえるものであると認められる。
仮に、引用発明1のウェーブジェネレータ14を形成している金属ガラスが「バルク金属ガラス」でないとしても、バルク状の金属ガラス自体は本願出願前に周知であり(必要であれば、特開2007-247037号公報の段落【0002】?【0004】、特開2012-162805号公報の段落【0003】?【0004】等を参照。)、引用発明1のウェーブジェネレータ14の金属ガラスに、その用途からみて、バルク状の金属ガラスを用いることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
以上を総合的に勘案して、引用発明1を相違点1に係る本願補正発明10の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。

なお、本願発明10の「バルク金属ガラス」との用語自体は、上述のとおりバルク状の金属ガラスを意味するものと認められ、当該用語を用いた点に格別の困難性は認められない。

そして、本願補正発明10の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明1から、または、引用発明1及び周知の事項から予測できる程度のものであって格別のものではない。
よって、本願補正発明10は、引用発明1に基いて、または、引用発明1及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明10及び12
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項10及び12に係る発明(以下、「本願発明10」及び「本願発明12」という。)は、平成30年8月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項10及び12に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項10】
楕円形状の断面を有する波生成装置プラグと、
内側レース、外側レース及び複数の転動部材を有する軸受と、
を備え、
前記波生成装置プラグは前記軸受内に配置され、前記軸受が前記波生成装置プラグの前記楕円形状に合致できるようにし、
前記波生成装置プラグ及び前記軸受のうち少なくとも一方はバルク金属ガラス系材料を含む、波生成装置。
【請求項12】
円形形状を画定する可撓性本体を備えるフレクスプラインであって、前記円形形状の外周は一組のギア歯セットを画定し、前記可撓性本体はバルク金属ガラス系材料を含む、フレクスプライン。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?20に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1または2または3に記載された発明及び引用文献4?6に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2013-238278号公報
引用文献2.特開2007-40518号公報
引用文献3.特開2007-40517号公報
引用文献4.国際公開第2012/147559号
引用文献5.特開2007-247037号公報
引用文献6.特開2008-264865号公報

3.引用文献に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明1
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1に記載された事項及び引用発明1は、上記「第2 3.(2)」に記載したとおりである。

(2)引用文献3に記載された事項及び引用発明3
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0002】
調和減速機は、そこに組み込まれている可撓性外歯歯車の形状によって、カップ型、シルクハット型、およびフラット型のものがある。従来、カップ型の調和減速機について提案されている代表的な例を図1に示す(例えば特許文献1参照)。
図1はカップ型の調和減速機の概略を示す側断面図、図2はその正面図である。調和減速機1は、環状の剛性内歯歯車2と、この内側に配置されたカップ形の可撓性外歯歯車3と、この内側にはめ込まれた楕円形の波動発生器4とを有している。可撓性外歯歯車3は、円筒状の胴部31と、この胴部31の一端に連続している外歯34が形成された円筒状歯部30と、胴部31の他端を封鎖している環状のダイヤフラム32と、このダイヤフラム32の中心に一体形成されているボス33とを備えている。
【0003】
可撓性外歯歯車3は、波動発生器4によって楕円形に撓められて、・・・(中略)・・・
【0004】
以上、説明した調和減速機はロボット等の駆動装置で使用されるため耐久性の向上と共に軽量化が求められている。特に、ロボットアームやロボットハンドに用いる場合は、信頼性の観点から長期安定駆動と耐久性向上、さらにこの調和減速機の重量そのものがロボット動作時の負荷となるため、低消費電力といった環境に考慮する側面からも軽量化が求められている。耐久性向上に関しては合金鋼の適用や表面の窒化処理が提案されている(例えば特許文献1参照)。一方、軽量化に対応した例として、構成部材を通常のアルミニウム合金で置き換えることが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
しかし、従来の耐久性の向上と軽量化に対する方法では複雑な加工が必要となり、作製に工数がかかるという問題があった。これらの問題を解決する方策として、複数の部材を溶接して作製する方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来の溶接して作製する方法では溶接部が強度的に弱くなり、耐久性に問題があった。また、軽量化や加工性においてもまだ満足できるものではなかった。
そこで、本発明はこの点に鑑みて、従来、可撓性外歯歯車が特殊鋼で構成されている調和減速機なみの伝達トルクを備えながら、耐久性が向上してかつ軽量で、かつ作製が容易な調和減速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1記載の発明は、環状の剛性内歯歯車と、この内側に配置された可撓性外歯歯車と、さらにこの内側に配置された波動発生器とを有し、前記可撓性外歯歯車は、半径方向に変形可能で可撓性を有する筒状の胴部と、この筒状胴部の一端に連続している外歯が形成された筒状の歯部と、前記胴部の他端に連続して半径方向に延びる環状のダイヤフラムと、このダイヤフラムに連続しているボスとを備えた調和減速機において、前記可撓性外歯歯車が絞り加工または押出加工により成形されたものである。
・・・(中略)・・・
また、請求項9記載の発明は、前記可撓性外歯歯車が、引張強度を弾性率で除した弾性ひずみが0.015から0.03であり、引張強度750MPa以上である金属ガラスで構成されたものである。
また、請求項10記載の発明は、前記金属ガラスは、ジルコニウムを5から60質量%含有し、かつ残部にニッケルを含有するものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1、7、8記載の発明によると、可撓性外歯歯車を熱間による絞りあるいは押し出しにより加工されているので、この作製工程を減らすことができ、作製を容易にすることができる。
・・・(中略)・・・
請求項9、10記載の発明によると、可撓性外歯歯車を軽量かつ耐久性を兼ね備え、冷間による絞りあるいは押し出しにより加工できる金属ガラスで構成したので、作製を容易にすることができる。」

「【0010】
図1、2は、本発明を用いたカップ形の調和減速機である。形状的には従来と同じであるため、各部の符号の説明は省略する。環状の剛性内歯歯車2と波動発生器4およびその他の部品は従来と同じ方法で作製している。
可撓性外歯歯車3の作製方法は、可撓性外歯歯車3のカップ外径寸法を45mmとし、・・・(中略)・・・また、板材の材質を金属ガラスとして#9および#10の2種類の板材を用いて、冷却深絞り法により形成した。金属ガラスは引張強度を弾性率で除した弾性ひずみが0.015から0.03のものを用いた。数値は合金成分の質量%を表す。」

以上の記載事項及び【図1】の記載からみて、引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明3〕
「可撓性を有する円筒状の胴部31とこの胴部31の一端に連続している外歯34が形成された円筒状歯部30とを備えたカップ形の可撓性外歯歯車3であって、金属ガラスで構成された、可撓性外歯歯車3。」

4.対比・判断
(1)本願発明10について
本願発明10は、上記「第2 3.」で検討した本願補正発明10から、バルク金属ガラス系材料に関する「2%以上の弾性限界を有する」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明10の発明特定事項を全て含んだ本願補正発明10が、上記「第2 3.(3)」で示したとおり、引用発明1に基いて、または、引用発明1及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明10も、引用発明1に基いて、または、引用発明1及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本願発明12について
本願発明12と引用発明3とを対比する。
後者の「可撓性を有する円筒状の胴部31」は、前者の「円形形状を画定する可撓性本体」に相当する。
後者の「可撓性外歯歯車3」は、前者の「フレクスプライン」に相当する。
後者の「胴部31の一端に連続している外歯34が形成された」構成は、前者の「円形形状の外周は一組のギア歯セットを画定し」た構成に相当する。
後者の可撓性外歯歯車3が「金属ガラスで構成された」ことは、前者の「可撓性本体はバルク金属ガラス系材料を含む」ことと、「可撓性本体は金属ガラス系材料を含む」ことである限りにおいて一致する。
そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点2〕
「円形形状を画定する可撓性本体を備えるフレクスプラインであって、前記円形形状の外周は一組のギア歯セットを画定し、前記可撓性本体は金属ガラス系材料を含む、フレクスプライン。」
〔相違点2〕
「金属ガラス系材料」に関し、本願発明12は、可撓性本体が「バルク金属ガラス系材料」を含むと特定されているのに対し、引用発明3は、可撓性外歯歯車3が金属ガラスで構成されている点。

上記相違点2について、以下検討する。
〔相違点2について〕
「バルク金属ガラス」に関して、本願の明細書の段落【0030】の記載によれば、例示として「1mmよりも厚い」とあるように、ある程度の大きさに生成できる金属ガラスを「バルク金属ガラス」と呼称していると認められる。
これに対して、引用文献3の「以上、説明した調和減速機はロボット等の駆動装置で使用されるため耐久性の向上と共に軽量化が求められている。特に、ロボットアームやロボットハンドに用いる場合は、・・・」(上記3.(2)アの段落【0004】参照。)との記載、及び、「可撓性外歯歯車3のカップ外径寸法を45mmとし」(上記3.(2)イ参照。)との記載によれば、調和減速機を構成する引用発明3の可撓性外歯歯車3は、その用途及び外径寸法からみて、1mm程度の厚さを有しうると認められるため、可撓性外歯歯車3を形成している金属ガラスは、「バルク金属ガラス」といえるものであると認められる。
仮に、引用発明3の可撓性外歯歯車3を形成している金属ガラスが「バルク金属ガラス」でないとしても、バルク状の金属ガラス自体は本願出願前に周知であり(必要であれば、特開2007-247037号公報の段落【0002】?【0004】、特開2012-162805号公報の段落【0003】?【0004】等を参照。)、引用発明3の可撓性外歯歯車3の金属ガラスに、その用途、外径寸法からみて、バルク状の金属ガラスを用いることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
よって、引用発明3を相違点2に係る本願発明12の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。

そして、本願発明12の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明3から、または、引用発明3及び周知の事項から予測できる程度のものであって格別のものではない。
よって、本願発明12は、引用発明3に基いて、または、引用発明3及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.付記
なお、仮に本願補正発明10が独立特許要件を満たし、本件補正が却下されるべきものでないとしても、本件補正は請求項12を補正するものではないので、本件補正の前後において請求項12に係る発明に何らの変更もない。
したがって、仮に本件補正が認められるとしても、補正後の請求項12に係る発明に対する判断は、本願発明12に対する判断と同じものとなる。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項10に係る発明(本願発明10)は、引用発明1に基いて、または、引用発明1及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願の請求項12に係る発明(本願発明12)は、引用発明3に基いて、または、引用発明3及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、本件補正が却下されるべきものでなく認められるとしても、補正後の請求項12に係る発明は、本願発明12に等しいので、本願発明12に対するのと同じ理由で特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-22 
結審通知日 2019-11-26 
審決日 2019-12-11 
出願番号 特願2016-560721(P2016-560721)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16H)
P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 祐介  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 平田 信勝
内田 博之
発明の名称 バルク金属ガラス系の波動歯車装置及び波動歯車装置コンポーネントを具現化するシステム及び方法  
代理人 杉村 憲司  

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