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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1362053
審判番号 不服2019-2656  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-27 
確定日 2020-05-19 
事件の表示 特願2015-539254「基板処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月 2日国際公開,WO2015/046235,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2014年(平成26年)9月24日(優先権主張 平成25年9月25日)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成28年 3月23日:国内書面
平成30年 8月16日:拒絶理由通知(起案日)
平成30年10月22日:意見書
平成30年10月22日:手続補正書
平成30年11月26日:拒絶査定(起案日)(以下,「原査定」という。)
平成31年 2月27日:審判請求
平成31年 2月27日:手続補正書
令和 2年 3月 3日:拒絶理由通知(起案日)(以下,「当審拒絶理由通知」という。)
令和 2年 3月 6日:意見書
令和 2年 3月 6日:手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本願請求項1-4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は,本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
処理物を浸漬させる処理液を貯留する処理槽と,
前記処理槽とは離隔した場所に設けられ,前記処理物の加熱を行う温度制御部と,
前記温度制御部で加熱された状態の前記処理物を前記温度制御部から前記処理槽に搬送する搬送部と,
を備え,
前記処理物は,
デバイス基板と,支持基板と,前記デバイス基板と前記支持基板との間に設けられた接着剤と,を有する貼合基板,
接着剤が付着したデバイス基板,および,
接着剤が付着した支持基板,の少なくともいずれかであり,
前記温度制御部による前記処理物の加熱温度は,前記処理槽に貯留される前記処理液の温度より高く,
前記温度制御部によって加熱された前記処理物が前記処理槽に貯留される前記処理液に浸漬されることによって冷却され,前記デバイス基板と前記接着剤との界面,および前記支持基板と前記接着剤との界面の少なくともいずれかにおいて,前記デバイス基板と前記接着剤との界面では前記デバイス基板と前記接着剤との線膨張率の差に基づく熱応力,前記支持基板と前記接着剤との界面では前記支持基板と前記接着剤との線膨張率の差に基づく熱応力,によって剥がれおよび亀裂の少なくともいずれかを発生させ,
前記剥がれが発生した部分および前記亀裂が発生した部分の少なくともいずれかから前記処理液を侵入させることで,前記貼合基板の剥離,あるいは前記接着剤の除去を行うことを特徴とする基板処理装置。」

なお,本願発明2-4は,本願発明1を減縮した発明である。

第3 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2012-79871号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は,当審で付した。以下同じ。)
「【請求項1】
接合部を介して基板と貼り合わされる支持基板であって,
前記支持基板は,基部と,前記基部の周端面に設けられた透過部と,
を備え,
前記透過部のレーザ光に対する屈折率は,前記基部のレーザ光に対する屈折率とは異なることを特徴とする支持基板。」

「【請求項12】
請求項7?10のいずれか1つに記載の基板積層体を載置する載置部と,
前記基板積層体にレーザ光を照射する照射部と,
前記基板積層体に設けられた基板と支持基板との間に剥離液を供給する剥離液供給部と,
を備えたことを特徴とする剥離装置。」

「【0001】
本発明は,支持基板,基板積層体,貼り合わせ装置,剥離装置,および基板の製造方法に関する。」

「【0016】
以下,図面を参照しつつ,実施の形態について例示をする。
なお,各図面中,同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。また,一例として,レーザ光を照射して剥離を行う場合を例示するが,レーザ光の照射に限らず,熱線やレーザ光以外の高エネルギー線を照射して剥離を行う場合にも適用させることができる。
【0017】
[第1の実施形態]
図1は,第1の実施形態に係る支持基板,基板積層体を例示するための模式図である。図1に示すように,基板積層体1には,支持基板2,基板(製品基板)3,第1の接合部4a,第2の接合部4bが設けられている。
また,支持基板2には,基部52a,透過部52bが設けられている。
基部52aは,基板3の厚み寸法を薄く加工する際に必要となる強度を付与する。
透過部52bは,入射したレーザ光Lの進行方向を制御する。
支持基板2の大きさは特に限定されるわけではなく,基板3の大きさと略同一とすることができる。この場合,支持基板2の大きさが基板3の大きさよりも若干大きくなるようにすることができる。例えば,支持基板2の大きさが基板3の大きさよりも0.5mm?1mm程度大きくなるようにすることができる。」

「【0022】
基板3としては特に限定されるわけではなく,例えば,図1に示すように,表面にパターン3a(例えば,回路パターン)が形成されたウェーハとすることができる。
基板3の材料としては特に限定されるわけではなく,例えば,基板3がウェーハである場合には,シリコンなどの半導体材料から形成されたものとすることができる。また,基板3の表面には酸化物や窒化物からなる層が形成されたものとすることもできる。
【0023】
第1の接合部4a,第2の接合部4bは,支持基板2と基板3とを貼り合わせるために設けられている。
第1の接合部4a、第2の接合部4bは、接着剤を塗布し、これを硬化させることで形成されたものとすることができる。」

「【0026】
ここで、支持基板2と基板3とを貼り合わせた状態で基板3の厚み寸法を薄く加工する際には、ウェットエッチング法、研磨法、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法などが用いられる。この場合、これらの方法において用いられるエッチング液、研磨液、CMP液などが基板3の表面に形成されているパターン3aに接触するとパターン3aに損傷が発生するおそれがある。
そのため、本実施の形態においては、基板3のパターン3aが形成された側の主面の周縁(以下においては、単に基板3の周縁と称する)に沿って設けられた第1の接合部4aと、第1の接合部4aよりも基板3の中心側に設けられた第2の接合部4bと、を備えるようにしている。すなわち、第1の接合部4aは、パターン3aが形成された領域を囲うように閉ループ状に設けられている。そして、第1の接合部4aは、第2の接合部4bよりも耐薬品性が高いものとなっている。この場合、第1の接合部4aは、エッチング液、研磨液、CMP液などにより分解されにくいものとすることができる。また、第2の接合部4bは、第1の接合部4aよりも容易に剥離させることができるものとすることができる。
第1の接合部4aは、例えば、AS(アクリロニトリル・スチレン)系樹脂を含む接着剤により形成されたものとすることができる。
また、第2の接合部4bは、例えば、水性接着剤により形成されたものとすることができる。
【0027】
この様にすれば、第1の接合部4aによりエッチング液、研磨液、CMP液などが基板積層体1の内部に侵入することを抑制することができる。
また、基板3から支持基板2、第2の接合部4bを剥離する際には、水などを供給するなどして第2の接合部4bを容易に剥離することができる。なお、後述するように、第1の接合部4aにはレーザ光Lが照射されるので、第1の接合部4aはレーザ光Lにより分解された状態となる。そのため、第1の接合部4aを容易に剥離することができる。」

「【0062】
次に,本実施の形態に係る剥離装置について例示をする。
[第8の実施形態]
図8は,本実施の形態に係る剥離装置を例示するための模式図である。
図8に示すように,剥離装置30には,照射部32,剥離液供給部34が設けられている。
照射部32は,載置台22に載置された基体Wに向けてレーザ光Lを照射する。基体Wは,前述した基板積層体とすることができる。
照射部32は,基体Wに設けられた第1の接合部4aにレーザ光Lを照射する。この際,前述した透過部52b,透過部52dを介して第1の接合部4aにレーザ光Lを照射する。
【0063】
照射部32には,レーザ部25,アーム部26,駆動部27,載置台22が設けられている。
アーム部26は,レーザ部25の出射面25aを載置台22の載置面22aに向けるようにしてレーザ部25を保持する。また,アーム部26の一端は駆動部27に接続されている。
【0064】
駆動部27は,例えば,サーボモータなどの制御モータなどから構成され,アーム部26を介してレーザ部25の位置を変化させる。すなわち,レーザ光Lの照射位置を変化させる。この場合,駆動部27は,例えば,揺動方向および水平方向の少なくともいずれかの方向にアーム部26を移動させるものとすることができる。また,アーム部26をさらに鉛直方向に移動させるものとすることもできる。なお,レーザ部25によりレーザ光Lの走査が可能な場合には,駆動部27を省略することもできる。
【0065】
載置台22は基体Wを載置,保持する。また,載置,保持された基体Wの位置を変化させる。載置台22は,例えば,XYθテーブルなどとすることができる。
載置台22は,一方の主面が基体Wを載置する載置面22aとなっている。載置台22にはバキュームチャックなどの図示しない保持部を設けるようにすることができる。
なお,レーザ部25と載置台22とのいずれか一方を移動させるようにすることもできる。
【0066】
剥離液供給部34は,基体Wに設けられた基板3と支持基板との間に剥離液を供給する。
剥離液供給部34には,処理槽24,タンク17,送液配管18,送液部19,送液透過部20,ノズル21,排出液配管38,タンク39,排出弁40が設けられている。
処理槽24は,上面が開放されている。処理槽24の底板には,排出口24bが設けられており,排出口24bには排出液配管38の一端が接続されている。
【0067】
タンク17は,剥離液を収納する。剥離液は,前述した接合部を剥離することができるものとすることができる。ここで,第1の接合部4aは耐薬品性が高いものとなっているが,剥離時においては第1の接合部4aがレーザ光Lにより分解された状態となるので,分解された状態の第1の接合部4aを剥離することができる剥離液であればよい。剥離液は,例えば,純水,脱イオン化された純水などとすることができる。ただし,これらに限定されるわけではなく,接合部の溶解性などに応じて適宜選択することができる。
【0068】
送液配管18の一端はノズル21に接続され,送液配管18の他端はタンク17内の剥離液に浸漬する位置に設けられている。
送液部19は,送液配管18に設けられ,タンク17内に収納された剥離液を剥離液ノズル21に供給する。送液部19は,例えば,剥離液に対する耐性を有するポンプなどとすることができる。
送液制御部20は,送液配管18に設けられ,送液部19により送液される剥離液の供給と停止とを制御する。また,送液部19により送液される剥離液の流量を制御するようにすることもできる。
剥離液ノズル21の開口端は処理槽24の内部に向けて設けられており,処理槽24の内部に剥離液を供給することができるようになっている。剥離液ノズル21の開口端とは反対側の端部には送液配管18が接続されている。
【0069】
タンク39は,使用済みの剥離液を収納する。
排出液配管38は,一端が処理槽24の排出口24bに接続され,他端がタンク39に接続されている。
排出弁40は,排出液配管38に設けられ,タンク39に向けて排出される使用済みの剥離液の排出と停止とを制御する。
【0070】
次に,剥離装置30の作用について例示をする。
まず,図示しない搬送手段により基体Wが載置台22の載置面22aに載置される。載置面22aに載置された基体Wは,バキュームチャックなどの図示しない保持部により保持される。
なお,基体Wを載置する際には,基板積層体の基板3側を載置面22aに載置するようにする。
【0071】
次に,レーザ部25からレーザ光Lを出射させて,第1の接合部4aにレーザ光Lを照射する。この際,基体Wの位置を載置台22により変化させることで所望の位置にレーザ光Lが照射されるようにすることができる。レーザ光Lが照射された第1の接合部4aは,分解,剥離される。
基板積層体が非円形状(例えば矩形状など)の場合においても同様である。
【0072】
次に,支持基板,第2の接合部4bを剥離する。
図示しない搬送装置により載置台22から基体Wを受け取り,処理槽24に貯留されている剥離液中に基体Wを浸漬させる。
レーザ光Lが照射されることで第1の接合部4aが剥離されているので,第2の接合部4bに剥離液を供給することができる。
使用済みの剥離液は,排出液配管38を介してタンク39に排出される。この際,使用済みの剥離液の排出と停止とが排出弁40により制御される。
また,処理槽24内の剥離液の量が略一定となるようにタンク17から送液部19,送液制御部20,送液配管18,ノズル21を介して処理槽24内に剥離液が補充される。処理槽24内の剥離液の量は図示しない液面計などにより制御するようにすることができる。
本実施の形態に係る剥離装置によれば,前述した基板積層体の剥離を効率よく行うことができる。」

「【図1】



「【図8】



(2)上記(1)から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「照射部32と,剥離液供給部34と,搬送装置とが設けられた剥離装置30であって,
照射部32は,基板積層体1に向けてレーザ光Lを照射し,
基板積層体1には,
表面にパターン3a(例えば,回路パターン)が形成された基板3と,
基板3の厚み寸法を薄く加工する際に必要となる強度を付与する基部52aと,入射したレーザ光Lの進行方向を制御する透過部52bが設けられている支持基板2と,
支持基板2と基板3とを貼り合わせるために設けられ,AS(アクリロニトリル・スチレン)系樹脂を含む接着剤により形成された第1の接合部4aと,水性接着剤により形成された第2の接合部4bと,
が設けられ,
第1の接合部4aを,レーザ光Lの照射により,分解,剥離し,
搬送装置により載置台22から基板積層体1を受け取り,処理槽24に貯留されている剥離液中に基板積層体1を浸漬させ,
レーザ光Lが照射されることで第1の接合部4aが剥離されているので,第2の接合部4bに剥離液を供給することができ,それによって第2の接合部4bを基板積層体1から剥離し,
レーザ光の照射に限らず,熱線やレーザ光以外の高エネルギー線を照射して剥離を行う場合にも適用させることができる
剥離装置30。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 本願の明細書の段落【0003】には,「パターンが形成された基板(以下、デバイス基板と称する)」と記載されているところ,引用発明における「表面にパターン3a(例えば,回路パターン)が形成された基板3」は,回路パターンが形成された基板であるから,本願発明1の「デバイス基板」に相当する。

イ 引用発明における「支持基板2」は,本願発明1の「支持基板」に相当する。

ウ 引用発明の「第1の接合部4aおよび第2の接合部4b」は,「支持基板2と基板3とを貼り合わせるために設けられている」から,「支持基板2」と「基板3」の間に設けられるといえる。また,「第1の接合部4aおよび第2の接合部4b」は,それぞれ「AS(アクリロニトリル・スチレン)系樹脂を含む接着剤」と「水性接着剤」により形成されるから,「接着剤」であるといえる。したがって,引用発明の「支持基板2と基板3とを貼り合わせるために設けられている」,「第1の接合部4aおよび第2の接合部4b」は,本願発明1の「前記デバイス基板と前記支持基板との間に設けられた接着剤」に相当する。

エ 引用発明の「基板積層体1」は,「基板3」と「支持基板2」と「第1の接合部4aおよび第2の接合部4b」が設けられたものであるから,本願発明1の「前記処理物は,デバイス基板と,支持基板と,前記デバイス基板と前記支持基板との間に設けられた接着剤と,を有する貼合基板,接着剤が付着したデバイス基板,および,接着剤が付着した支持基板,の少なくともいずれか」における「デバイス基板と,支持基板と,前記デバイス基板と前記支持基板との間に設けられた接着剤と」を有する「貼合基板」に相当する。

オ 引用発明では,「処理槽24に貯留されている剥離液中に基板積層体1を浸漬させ」るものであるから,引用発明の「基板積層体1」,「剥離液」,「処理槽24」は,それぞれ本願発明1の「処理物」,「処理液」,「処理槽」に相当する。したがって,本願発明1と引用発明とは,「処理物を浸漬させる処理液を貯留する処理槽」を備える点で一致する。

カ 引用発明の「搬送装置」は「載置台22から基板積層体1を受け取り,処理槽24に貯留されている剥離液中に基板積層体1を浸漬させ」るものであるから,本願発明1の「搬送部」と後記相違点2で相違するものの,「処理物」を「処理槽に搬送する」点で一致する。

キ 引用発明は「第2の接合部4bに剥離液を供給することができ,それによって第2の接合部4bを基板積層体1から剥離する」から,本願発明1と後記相違点5で相違するものの,「前記貼合基板の剥離,あるいは前記接着剤の除去を行うことを特徴とする」における「前記接着剤の除去を行うことを特徴とする」点で一致する。

ク 引用発明の「剥離装置30」は,「処理槽24」と,「搬送装置」とを備え,「第2の接合部4bを基板積層体1から剥離する」から,本願発明1の「基板処理装置」と,後記相違点1-5で相違するものの,「処理槽」と,「搬送部」とを備え,「接着剤の除去を行う」点で一致する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「処理物を浸漬させる処理液を貯留する処理槽と,
前記処理物を前記処理槽に搬送する搬送部と,
を備え,
前記処理物は,
デバイス基板と,支持基板と,前記デバイス基板と前記支持基板との間に設けられた接着剤と,を有する貼合基板,
接着剤が付着したデバイス基板,および,
接着剤が付着した支持基板,の少なくともいずれかであり,
前記貼合基板の剥離,あるいは前記接着剤の除去を行うことを特徴とする基板処理装置。」

<相違点>
(相違点1)
本願発明1の「基板処理装置」は,「前記処理槽とは離隔した場所に設けられ,前記処理物の加熱を行う温度制御部」を備えるのに対して,引用発明の「剥離装置30」は,そのような構成について特定していない点。
そのため,本願発明1の「搬送部」は,「前記温度制御部で加熱された状態の前記処理物を前記温度制御部から前記処理槽に搬送する」のに対して,引用発明の「搬送装置」は,そのような構成について特定していない点。
更に,本願発明1の「温度制御部」は,「温度制御部による前記処理物の加熱温度は,前記処理槽に貯留される前記処理液の温度より高」いのに対して,引用発明は,そのような構成について特定していない点。

(相違点2)
本願発明1の「基板処理装置」は,「前記温度制御部によって加熱された前記処理物が前記処理槽に貯留される前記処理液に浸漬されることによって冷却され,前記デバイス基板と前記接着剤との界面,および前記支持基板と前記接着剤との界面の少なくともいずれかにおいて,前記デバイス基板と前記接着剤との界面では前記デバイス基板と前記接着剤との線膨張率の差に基づく熱応力,前記支持基板と前記接着剤との界面では前記支持基板と前記接着剤との線膨張率の差に基づく熱応力,によって剥がれおよび亀裂の少なくともいずれかを発生させ」るのに対して,引用発明の「剥離装置30」は,そのような構成について特定していない点。

(相違点3)
本願発明1の「基板処理装置」は,「前記剥がれが発生した部分および前記亀裂が発生した部分の少なくともいずれかから前記処理液を侵入させることで,前記貼合基板の剥離,あるいは前記接着剤の除去を行う」のに対して,引用発明の「剥離装置30」は,そのような構成について特定していない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み,まず,上記相違点2,3について検討する。
相違点2,3に係る本願発明1の「前記温度制御部によって加熱された前記処理物が前記処理槽に貯留される前記処理液に浸漬されることによって冷却され,前記デバイス基板と前記接着剤との界面,および前記支持基板と前記接着剤との界面の少なくともいずれかにおいて,前記デバイス基板と前記接着剤との界面では前記デバイス基板と前記接着剤との線膨張率の差に基づく熱応力,前記支持基板と前記接着剤との界面では前記支持基板と前記接着剤との線膨張率の差に基づく熱応力,によって剥がれおよび亀裂の少なくともいずれかを発生させ」,「前記剥がれが発生した部分および前記亀裂が発生した部分の少なくともいずれかから前記処理液を侵入させることで,前記貼合基板の剥離,あるいは前記接着剤の除去を行う」構成は,当該技術分野における周知技術であるとは認められない。

(3)小括
上記(1),(2)のとおりであるから,本願発明1は,引用文献1に記載された発明ではない。また,本願発明1は,引用文献1に記載された発明に基づいて容易になし得たものではない。

2 本願発明2-4について
本願発明2-4は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定したものであるから,本願発明1は,引用文献1に記載された発明ではない。したがって,本願発明2-4も,引用文献1に記載された発明ではない。
また,本願発明1が,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないことから,本願発明2-4も,本願発明1と同じ理由により,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
1 原査定の理由の一は,本願請求項1-4に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないというものである。
引用文献1:特開2012-79871号公報
しかしながら,上記第4の1で指摘したとおり,本件補正により,本願発明1-4は,上記相違点1-5に係る構成を有するものとなったから,本願発明1-4は引用文献1に記載された発明ではない。したがって,原査定の上記理由を維持することはできない。

2 また,原査定の理由の一は,本願請求項5-7に係る発明は,以下の引用文献2に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないというものである。
引用文献2:特開2010-287723号公報
しかしながら,平成31年2月27日付け手続補正により,補正前の請求項5-7は削除されたため,原査定の上記理由は,解消された。

3 また,原査定の理由の一は,本願請求項9-11に係る発明は,以下の引用文献3に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないというものである。
引用文献3:特開2013-110391号公報
しかしながら,平成31年2月27日付け手続補正により,補正前の請求項9-11は削除されたため,原査定の上記理由は,解消された。

4 また,原査定の理由の一は,本願請求項1-4に係る発明は,上記引用文献1に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら,上記第4の1で指摘したとおり,本件補正により,本願発明1-4は,上記相違点1-5に係る構成を有するものとなったから,当業者であっても,引用文献1に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の上記理由を維持することはできない。

5 また,原査定の理由の一は,本願請求項5-7に係る発明は,上記引用文献2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら,平成31年2月27日付け手続補正により,補正前の請求項5-7は削除されたため,原査定の上記理由は,解消された。

6 また,原査定の理由の一は,本願請求項9-11に係る発明は,上記引用文献3に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら,平成31年2月27日付け手続補正により,補正前の請求項9-11は削除されたため,原査定の上記理由は,解消された。

7 また,原査定の理由の一は,本願請求項1,3,5,7に係る発明は,その出願の日前の特許出願であって,その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願(以下,「特許出願1」という。)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができないというものである。
特許出願1:特願2014-152863号(特開2016-31974号)
一方,平成31年2月27日付け手続補正により,本願請求項1における「温度制御部」は,「処理物の加熱を行う」ものと補正された。そして,この補正の内容は,本願の基礎出願(特願2013-198340号)の段落【0013】等に記載されているため,上記基礎出願を基礎とする国内優先権主張の効果を認め,本願は基礎出願の時である平成25年9月25日にされたものとみなすこととする。
他方,上記特許出願1の出願日は平成26年7月28日であって,基礎出願の出願日である平成25年9月25日よりも後であり,また,本件補正により,本願発明1,3は上記相違点1-5に係る構成を有するものとなったことから,基礎出願の時よりも後に出願された上記特許出願1によっては,本願請求項1および本願請求項1を引用する本願請求項3について,原査定の上記理由を維持することはできない。
また,平成31年2月27日付け手続補正により,補正前の請求項5,7は削除されたため,本願請求項5,7について,原査定の上記理由は,解消された。
以上のことから,本願請求項1,3,5,7に係る発明について,原査定の上記理由を維持することはできない。

8 また,原査定の理由の一は,本願請求項5-12に係る発明は不明確であり,本願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものである。
しかしながら,平成31年2月27日付け手続補正により,補正前の請求項5-12は削除されたため,原査定の上記理由は,解消された。

第6 当審拒絶理由について
当審では,請求項1の,「前記処理槽に貯留される前記処理液の温度は,…(省略)…剥がれおよび亀裂の少なくともいずれかを発生させる温度に設定され,」という記載が,どのような方法を用いて処理液の温度を設定するのかが明確でないとの拒絶の理由を通知しているが,本件補正によって,処理液の温度を設定する記載が削除されたため,この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
上記第5のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-04-28 
出願番号 特願2015-539254(P2015-539254)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 16- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 将之馬場 慎  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 辻本 泰隆
西出 隆二
発明の名称 基板処理装置  

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