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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01G
管理番号 1362123
審判番号 不服2018-12510  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-19 
確定日 2020-05-07 
事件の表示 特願2015- 18508「積層コンデンサ及び積層コンデンサの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 8日出願公開、特開2016-143764〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年2月2日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年12月27日付け:拒絶理由通知
平成30年 3月 2日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 6月22日付け:拒絶査定
平成30年 9月19日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 1年 8月20日付け:拒絶理由通知
令和 1年10月23日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年11月11日付け:拒絶理由通知
令和 1年12月27日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
令和1年12月27日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「Niを主成分とし、Pt、Ru、Rh、Re、Ir、Os及びPdのうち少なくとも1種の金属を0.5mol%以上5mol%以下含み、厚み方向に相互に対向して配置された複数の第1内部電極層及び第2内部電極層と、誘電体材料からなり前記複数の内部電極層の間にそれぞれ配置された複数の誘電体層と、前記厚み方向と直交する方向に向き、前記複数の第1内部電極層の端部が露出する第1側面と、前記厚み方向と直交する方向であって前記第1側面と反対方向に向き、前記複数の第2内部電極層の端部が露出する第2側面と、を有する素子本体と、
前記第1側面を覆い、前記複数の第1内部電極層に接続された第1外部端子と、
前記第2側面を覆い、前記複数の第2内部電極層に接続された第2外部端子と、
を具備し、
前記複数の第1内部電極層及び第2内部電極層各々は、100nm以上400nm以下である第1の厚みを有し、
前記複数の誘電体層各々は、200nm以上500nm以下であり、かつ前記第1の厚みの1.2倍以上2倍以下である第2の厚みを有する
積層コンデンサ。」

第3 拒絶の理由
令和1年11月11日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由1は、概略、次のとおりのものである。
この出願の請求項1-4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された以下の引用文献1-2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2006-319359号公報
引用文献2:特開2011-108886号公報

第4 引用文献の記載事項、引用発明等
1 引用文献1
令和1年11月11日付けの当審の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2006-319359号公報)には、次の記載がある。なお、下線は当審で付与した。
(1)「【0017】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、特に内部電極層の各厚みが薄層化した場合でも、焼成段階でのNi粒子の粒成長を抑制し、球状化、電極途切れ、クラックの発生などを有効に防止し、静電容量の低下を効果的に抑制することができる積層セラミックコンデンサなどの電子部品およびその製造方法を提供することである。」

(2)「【0054】
第1実施形態
まず、本発明に係る電子部品の一実施形態として、積層セラミックコンデンサの全体構成について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、コンデンサ素体(素子本体)4と、第1端子電極6と、第2端子電極8とを有する。コンデンサ素体4は、誘電体層10と、内部電極層12とを有し、誘電体層10の間に、これらの内部電極層12が交互に積層してある。交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の第1端部4aの外側に形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続してある。また、交互に積層される他方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の第2端部4bの外側に形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続してある。
【0055】
内部電極層12は、合金を含んで構成される。内部電極層12を構成する合金は、ニッケル(Ni)と、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)および白金(Pt)から選ばれる少なくとも1種の元素とを、有する。該合金中のNiの含有量は、80?100モル%(ただし、100モル%は除く)、好ましくは87?100モル%(ただし、100モル%は除く)、さらに好ましくは87?99.9モル%である。該合金中のRu、Rh、ReおよびPtの合計含有量は、0?20モル%(ただし、0モル%は除く)、好ましくは0?13モル%(ただし、0モル%は除く)、さらに好ましくは0.1?13モル%である。なお、Ru、Rh、ReおよびPtの各元素それぞれの比率は、任意である。Ru、Rh、ReおよびPtの合計含有量が20モル%を超えると、抵抗率が上昇するなどの不都合を生じる傾向にある。なお、合金中には、S、P、C等の各種微量成分が0.1モル%程度以下で含まれていてもよい。好ましい組み合わせは、Ni-Rh、Ni-Re、Ni-Ptのいずれかである。
【0056】
内部電極層12は、後で詳細に説明するように、図2?図3に示すように、内部電極層用膜12aをセラミックグリーンシート10aに転写して形成され、内部電極層用膜12aと同じ材質で構成されるが、その厚みは、焼成による水平方向の収縮分だけ内部電極層用膜12aよりも厚くなる。各内部電極層12の厚みは、好ましくは0.1?1μmである。
【0057】
誘電体層10の材質は、特に限定されず、たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムおよび/またはチタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成される。各誘電体層10の厚みは、特に限定されないが、数μm?数百μmのものが一般的である。特に本実施形態では、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下に薄層化されている。」

(3)「【0066】
次に、上記のキャリアシート30とは別に、図2Aに示すように、第1支持シートとしてのキャリアシート20を準備し、その上に、剥離層22を形成する。次に、剥離層22の表面に、焼成後に内部電極層12を構成することになる内部電極層用膜12aを所定パターンで形成する。
【0067】
形成される内部電極層用膜12aの厚さは、好ましくは0.1?1μm、より好ましくは0.1?0.5μm程度である。内部電極層用膜12aは、単一の層で構成してあってもよく、あるいは2以上の組成の異なる複数の層で構成してあってもよい。」

(4)「【0135】
実施例1

・・・中略・・・

【0141】
次に、剥離層の表面に、内部電極のための所定パターンが形成されたマスクをセットし、スパッタリング法により、所定厚み(各表参照)の内部電極層用膜(Ni合金薄膜)を形成した。スパッタリング条件としては、到達真空度:10-3Pa以下、Arガス導入圧力:0.5Pa、出力:200W、温度:室温(20℃)とした。また、Niと各添加元素(Ru、Rh、ReおよびPt)とを各表に示すように所定組成に配合し、直径約4インチ、厚さ3mmの形状に切り出して得られたスパッタリングターゲットを用いた。

・・・中略・・・

【0153】
このようにして得られた各サンプルのサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は21、その厚さは1μmであり、内部電極層の厚さは0.5μmであった。各サンプルについて、電気特性(静電容量C、抵抗率、誘電損失tanδ)の特性評価を行った。結果を各表に示す。電気特性(静電容量C、抵抗率、誘電損失tanδ)は、次のようにして評価した。」

(5)「【0158】
【表1】

【0159】
【表2】

【0160】
【表3】

【0161】
【表4】



(6)「【図1】



・段落【0054】の記載によれば、積層セラミックコンデンサ2は、コンデンサ素体(素子本体)4と、第1端子電極6と、第2端子電極8とを有する。

・段落【0057】の記載によれば、誘電体層10は、チタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成される。
段落【0141】及び【表1】-【表4】の記載によれば、Ruを0.5?5mol%含むNiRuまたは、Rhを0.5?3mol%含むNiRhまたは、Reを0.5?3mol%含むNiReまたは、Ptを0.5?3mol%含むNiPtの組成に配合したスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法により内部電極用膜は形成され、段落【0066】によれば、内部電極用膜を焼成して内部電極層12は構成される。してみると、内部電極層12は、Ruを0.5?5mol%含むNiRuまたは、Rhを0.5?3mol%含むNiRhまたは、Reを0.5?3mol%含むNiReまたは、Ptを0.5?3mol%含むNiPtの組成である。
また、段落【0054】の記載によれば、コンデンサ素体4は、誘電体層10と、内部電極層12とを有し、誘電体層10の間に、これらの内部電極層12が交互に積層してある。
したがって、コンデンサ素体4は、チタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成される誘電体層10と、Ruを0.5?5mol%含むNiRuまたは、Rhを0.5?3mol%含むNiRhまたは、Reを0.5?3mol%含むNiReまたは、Ptを0.5?3mol%含むNiPtの組成の内部電極層12とを有し、誘電体層10の間に、これらの内部電極層12が交互に積層される。

・段落【0054】の記載によれば、交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の第1端部4aの外側に形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続され、また、交互に積層される他方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の第2端部4bの外側に形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続される。
【図1】によれば、第1端部4aは積層方向と直交する方向の側面であり、第2端部4bは積層方向と直交する方向であって第1端部4aの側面と反対方向の側面である。また、【図1】によれば、第1端子電極6は第1端部4aを覆うように形成され、第2端子電極8は第2端部4bを覆うように形成されている。
したがって、交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の積層方向と直交する方向の側面である第1端部4aの外側に第1端部4aを覆うように形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続され、また、交互に積層される他方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の積層方向と直交する方向であって第1端部4aの側面と反対方向の側面である第2端部4bの外側に第2端部4bを覆うように形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続される。

・段落【0153】によれば、内部電極層に挟まれた誘電体層の厚さは1μmであり、内部電極層の厚さは0.5μmである。

以上のことより、引用文献1には、積層セラミックコンデンサとして、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

[引用発明]
「積層セラミックコンデンサ2は、コンデンサ素体(素子本体)4と、第1端子電極6と、第2端子電極8とを有し、
コンデンサ素体4は、チタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成される誘電体層10と、Ruを0.5?5mol%含むNiRuまたは、Rhを0.5?3mol%含むNiRhまたは、Reを0.5?3mol%含むNiReまたは、Ptを0.5?3mol%含むNiPtの組成の内部電極層層12とを有し、誘電体層10の間に、これらの内部電極層12が交互に積層され、
交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の積層方向と直交する方向の側面である第1端部4aの外側に第1端部4aを覆うように形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続され、また、交互に積層される他方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の積層方向と直交する方向であって第1端部4aの側面と反対方向の側面である第2端部4bの外側に第2端部4bを覆うように形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続され、
内部電極層に挟まれた誘電体層の厚さは1μmであり、内部電極層の厚さは0.5μmである
積層セラミックコンデンサ2。」

2 引用文献2
令和1年11月11日付けの当審の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2011-108886号公報)には、次の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

(1)「【0016】
また、薄膜コンデンサ100は、下地電極2、誘電体層4、内部電極8、誘電体層6及び上部電極10から構成される積層体と、一対の端子電極12a、12bとの間を満たす絶縁性のカバー層14を備える。さらに、薄膜コンデンサ100は、端子電極12a,12bとカバー層14との間を覆う絶縁性保護層18を備える。以下、薄膜コンデンサ100を構成する各部について説明する。」

(2)「【0019】
誘電体層4、6は、ペロブスカイト系の誘電体材料から構成される。ここで、本実施形態におけるペロブスカイト系の誘電体材料としては、BaTiO_(3)(チタン酸バリウム)、(Ba_(1-X)Sr_(X))TiO_(3)(チタン酸バリウムストロンチウム)、(Ba_(1-X)Ca_(X))TiO_(3)、PbTiO_(3)、Pb(Zr_(X)Ti_(1-X))O_(3)等のペロブスカイト構造を持った(強)誘電体材料や、Pb(Mg_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)等に代表される複合ペロブスカイトリラクサー型強誘電体材料等が含まれる。ここで、上記のペロブスカイト構造、ペロブスカイトリラクサー型強誘電体材料において、AサイトとBサイト比は、通常整数比であるが、特性向上のために意図的に整数比からずらしても良い。なお、誘電体層4、6の特性制御のため、誘電体層4、6に適宜、副成分として添加物質が含有されていてもよい。
【0020】
誘電体層4,6の各厚さは、50?1000nmである。
【0021】
また、下地電極2(下側電極)と内部電極8(上側電極)とに挟まれた誘電体層4、及び、内部電極8(下側電極)と上部電極10(上側電極)とに挟まれた誘電体層6はそれぞれ六方晶系の結晶構造を有している。
【0022】
次に、誘電体層4,6に挟まれて設けられる内部電極8及び上部電極10を説明する。内部電極8及び上部電極10は、導電性材料から形成される。具体的には、主成分としてニッケル(Ni)を含有し、さらに白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、タングステン(W)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、銀(Ag)、銅(Cu)からなる群より選ばれる少なくとも一種(以下、「添加元素」と記す。)を含有する合金又は金属間化合物であってよい。内部電極8及び上部電極10に主成分としてNiを含有する材料を用いる場合、その含有量は、内部電極8及び上部電極10全体に対して、50mol%以上であることが好ましい。内部電極8及び上部電極10が添加元素を含有することによって、内部電極8及び上部電極10の途切れが防止される。なお、内部電極8及び上部電極10は複数種の添加元素を含有してもよい。また、本実施形態の薄膜コンデンサ100では、内部電極8及び上部電極10は同一の材料から形成されるが、互いに異なる導電性材料により形成されていてもよい。
【0023】
内部電極8及び上部電極10の厚さは、50?1000nmとすることが好ましい。内部電極8及び上部電極10の厚さが50nmより薄い場合には、後述の薄膜コンデンサ100の製造方法において、内部電極8及び上部電極10の積層方向下側に設けられた誘電体層4,6中の炭素の含有量が焼成において減少し、六方晶系の結晶構造を有する誘電体層4,6を製造することが困難となる。また、内部電極8及び上部電極10の厚さが1000nmよりも厚い場合には、各層の積層方向下側に設けられた誘電体層4,6を十分に焼成することができないという問題がある。」

(3)「【0077】
[検討5]
次に、内部電極及び上部電極の厚さを除いて上記検討1-2と同様な方法を用いて複数種類のコンデンサ構造物を作製し、六方晶系の結晶構造を有する誘電体層が形成される条件を検討した。
【0078】
具体的には、検討1-2と同様に、下地電極となる金属箔を準備した後、誘電体膜の形成(S01)、仮焼き(S02)、電極層の形成(S03)を2回繰り返し、カバー前駆体層の形成(S04)を行った後、これを焼成してコンデンサ構造物を作製した。このとき、内部電極及び上部電極の厚さが、それぞれ35,50,100,200,500,800,1000,1200nmとなる(内部電極と上部電極の厚さは同一とされる)8種類のコンデンサ構造物を作製した。なお、誘電体層及びカバー層の厚さが400nmとなるように、溶液の塗布を行った。また、内部電極及び上部電極の厚さ以外の製造条件は検討1-2と同様であり、仮焼きは大気中400℃にて10分間行い、焼成は750℃の真空中にて30分間行った。
【0079】
上記の方法により得られた内部電極及び上部電極の厚さが互いに異なる8種類のコンデンサ構造物における内部電極と上部電極との間の誘電体層の断面TEM像を撮影し、結晶系を確認した。また、内部電極及び上部電極の途切れの有無を観察した。この結果を表4に示す。
【0080】
【表4】



・段落【0016】の記載によれば、薄膜コンデンサ100は、下地電極2、誘電体層4、内部電極8、誘電体層6及び上部電極10から構成される積層体を備えるものである。

・段落【0019】、【0078】の記載によれば、誘電体層4,6は、BaTiO_(3)(チタン酸バリウム)の誘電体材料から構成され、厚さを400nmとするものである。

・段落【0022】、【0078】の記載によれば、内部電極8は、主成分としてニッケル(Ni)を含有し、さらに白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する合金で、厚さを100nmや200nmとするものである。

上記記載によれば、引用文献2には、以下の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されている。

[引用文献2記載の技術]
「下地電極2、誘電体層4、内部電極8、誘電体層6及び上部電極10から構成される積層体を備える薄膜コンデンサ100において、誘電体層4,6は、BaTiO_(3)(チタン酸バリウム)の誘電体材料から構成され、厚さを400nmとし、内部電極8は、主成分としてニッケル(Ni)を含有し、さらに白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する合金で、厚さを100nmや200nmとする」技術。

第5 本願発明と引用発明の対比
1 本願の図1及び明細書段落【0017】の記載によれば、本願発明の「厚み方向」は内部電極層を積層する方向といえる。
してみると、引用発明の「Ruを0.5?5mol%含むNiRuまたは、Rhを0.5?3mol%含むNiRhまたは、Reを0.5?3mol%含むNiReまたは、Ptを0.5?3mol%含むNiPtの組成の内部電極層層12」は、本願発明の「Niを主成分とし、Pt、Ru、Rh、Re」「のうち少なくとも1種の金属を0.5mol%以上5mol%以下含み、厚み方向に相互に対向して配置された複数の第1内部電極層及び第2内部電極層」に相当する。

2 引用発明の「チタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成され」「内部電極層12が交互に積層され」る「誘電体層10」は、本願発明の「誘電体材料からなり前記内部電極層の間にそれぞれ配置された複数の誘電体層」に相当する。

3 引用発明は「交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の積層方向と直交する方向の側面である第1端部4aの外側に第1端部4aを覆うように形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続され」るから、「一方の内部電極層12」の端部が「コンデンサ素体4」の「第1端部4a」で露出していることは明らかである。
してみると、引用発明の「一方の内部電極層12」は本願発明の「第1内部電極層」に相当し、引用発明の「第1端部4a」は本願発明の「前記厚み方向と直交する方向に向き、前記複数の第1内部電極層の端部が露出する第1側面」に相当する。
同様に、引用発明の「他方の内部電極層12」は本願発明の「第2内部電極層」に相当し、引用発明の「第2端部4b」は本願発明の「前記厚み方向と直交する方向であって前記第1側面と反対方向に向き、前記複数の第2内部電極層の端部が露出する第2側面」に相当する。

4 上記1-3によれば、引用発明の「コンデンサ素体(素子本体)4」は、本願発明でいう「第1内部電極層及び第2内部電極層」、「誘電体層」、「第1側面」、「第2側面」を有するから、本願発明の「素子本体」に相当する。

5 引用発明の「第1端子電極6」は、「第1端部4aを覆」い、「一方の内部電極層12」に「電気的に接続され」たものであるから、本願発明の「前記第1側面を覆い、前記複数の第1内部電極層に接続された第1外部端子」に相当する。
同様に、引用発明の「第2端子電極8」は、「第2端部4bを覆」い、「他方の内部電極層12」に「電気的に接続され」たものであるから、本願発明の「前記第2側面を覆い、前記複数の第2内部電極層に接続された第2外部端子」に相当する。

6 本願発明は「前記複数の第1内部電極層及び第2内部電極層各々は、100nm以上400nm以下である第1の厚みを有し、前記複数の誘電体層各々は、200nm以上500nm以下であり、かつ前記第1の厚みの1.2倍以上2倍以下である第2の厚みを有する」ものであるのに対し、引用発明は誘電体層の厚さが内部電極層の厚さより厚い(2倍)ものの、「誘電体層の厚さは1μmであり、内部電極層の厚さは0.5μmである」点で相違する。

7 上記1-5によれば、引用発明の「積層セラミックコンデンサ2」は、本願発明でいう「素子本体」、「第1外部端子」、「第2外部端子」を有するから、本願発明の「積層コンデンサ」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

〈一致点〉
「Niを主成分とし、Pt、Ru、Rh、Reのうち少なくとも1種の金属を0.5mol%以上5mol%以下含み、厚み方向に相互に対向して配置された複数の第1内部電極層及び第2内部電極層と、誘電体材料からなり前記複数の内部電極層の間にそれぞれ配置された複数の誘電体層と、前記厚み方向と直交する方向に向き、前記複数の第1内部電極層の端部が露出する第1側面と、前記厚み方向と直交する方向であって前記第1側面と反対方向に向き、前記複数の第2内部電極層の端部が露出する第2側面と、を有する素子本体と、
前記第1側面を覆い、前記複数の第1内部電極層に接続された第1外部端子と、
前記第2側面を覆い、前記複数の第2内部電極層に接続された第2外部端子と、
を具備する
積層コンデンサ。」

〈相違点〉
本願発明は「前記複数の第1内部電極層及び第2内部電極層各々は、100nm以上400nm以下である第1の厚みを有し、前記複数の誘電体層各々は、200nm以上500nm以下であり、かつ前記第1の厚みの1.2倍以上2倍以下である第2の厚みを有する」に固定されているのに対し、引用発明は誘電体層の厚さが内部電極層の厚さより厚い(2倍)ものの、「誘電体層の厚さは1μmであり、内部電極層の厚さは0.5μmである」点。

第6 判断
1〈相違点〉について
引用文献1の段落【0057】に「各誘電体の厚みは、・・・より好ましくは3μm以下に薄型化されている。」と、段落【0067】に「形成される内部電極層用膜12aの厚さは、・・・より好ましくは0.1?0.5μmである。」と記載されており、引用発明の誘電体層の厚さは3μm以下の値に、内部電極層の厚さは0.1?0.5μmの値に適宜変更し得るものである。
してみると、引用文献2記載の技術(誘電体層の厚さを400nmとし、内部電極の厚さを100nmや200nmとすること)は、引用発明と同様の材料から成る誘電体層と内部電極で構成される積層体を備えるコンデンサに関するものであるから、引用発明に引用文献2記載の技術を適用し、誘電体層が400nm(0.4μm)の厚みを有し、内部電極層が100nmや200nm(0.1μmや0.2μm)の厚みを有するようにすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、上記のとおり、誘電体層の厚みを400nm(0.4μm)、内部電極層の厚みを200nm(0.2μm)に選択できるから、「第2の厚み(誘電体層の厚み)」を「第1の厚み(内部電極層の厚み)の1.2倍以上2倍以下」の範囲とすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、本願明細書には、段落【0031】に「第1の厚みと第2の厚みを上述の数値範囲とすることで、積層コンデンサを小型化することができる。」等と記載されるのみであり、第1の厚み(100nm以上400nm以下)、第2の厚み(200nm以上500nm以下)の範囲に臨界的意義は認められない。
また、本願明細書の段落【0031】に「第1の厚みと第2の厚みとを上述の数値範囲とすることで、積層コンデンサを小型化することができる。さらに、第2の厚みを第1の厚みよりも厚くすることにより、・・・クラックやデラミネーションを防止することができる。さらに、第2の厚みを第1の厚みの1.2倍以上5倍以下とすることにより、より効果的にクラックやデラミネーションを防止することができる。」と記載され、試験例1として、第2の厚みを500nmとした場合に「第2の厚み/第1の厚み」が1.2?5であればクラックとデラミネーションのいずれの発生も認められなかったこと(【表1】)、試験例2として、第2の厚みを500nmとし、第1の厚みが50nm以上400nm以下であればクラックとデラミネーションのいずれの発生も認められなかったこと(【表2】)が記載されている。これらの記載からは、クラックやデラミネーションを防止する効果は、誘電体層の厚み(第2の厚み)が内部電極層の厚み(第1の厚み)より厚ければ得られるものであり、「第2の厚み」を「第1の厚みの1.2倍以上2倍以下」の範囲とすることに臨界的意義は認められない。

以上によれば、引用発明に引用文献2記載の技術を適用して、相違点に係る本願発明の構成を得ることは当業者が容易になし得たことと認められる。

2 令和1年12月27日の意見書について
審判請求人は令和1年12月27日の意見書において、引用文献1及び引用文献2では、課題が全く異なり、引用文献1に接した当業者が、わざわざ課題及び技術的要請の全く異なる引用文献2に記載の技術を適用するとは考えられない旨主張している。
しかしながら、引用文献2は、誘電体層と電極で構成される積層体を備えるコンデンサにおいて、誘電体と内部電極の厚さを所定の値とする技術を引用したものであるところ、引用文献1と引用文献2との解決しようとする課題はいずれも、引用発明に対する引用文献2記載の技術の適用を妨げるものであるとは認められず、引用発明に引用文献2に記載の技術を適用し得るものと認められる。

また、審判請求人は同意見書において、引用文献2の薄膜コンデンサ100は、引用文献1に記載の内部電極層12と同等の機能及び構成を有する内部電極を備えていないと考えられ、引用文献2の内部電極8の厚みに関する技術を、単純に引用文献1の内部電極層12の厚みに適用することには無理がある旨主張している。
しかしながら、引用文献1と引用文献2は共に、誘電体層と複数の電極(引用文献1の内部電極層12、引用文献2の内部電極8,上部電極10)で構成された積層体を有するコンデンサであり、同様の構成を有する内部電極を備えたものであるから、引用文献1のコンデンサと引用文献2のコンデンサとは、同等の機能及び構成を有する内部電極を備えていないものではない。
したがって、引用文献2の内部電極8の厚みに関する技術を、引用文献1の内部電極層12の厚みに適用することに無理があるとはいえない。

さらに、審判請求人は同意見書において、引用文献2に記載の薄膜コンデンサ100は、引用文献1に記載の積層セラミックコンデンサ2と焼成温度が異なる、つまり、引用文献2に記載の薄膜コンデンサ100は、引用文献1では採り得ない温度で焼成させて形成されたものであり、このような薄膜コンデンサ100に係る技術を、引用文献1の積層セラミックコンデンサ2に適用しようとすることは、技術的に無理がある旨、さらに、引用文献1に記載の内部電極層12は、内部電極層用膜をグリーンシートの表面に転写することで形成され、より薄膜化した際にハンドリングの問題が生じやすいため、引用文献2に記載の、内部電極の厚さを100,200nmとする技術を単純に適用できるとは考えられない旨主張している。
ここで、上記審判請求人の主張は、引用文献1に記載された積層セラミックコンデンサと引用文献2に記載された薄膜コンデンサは互いに製法が異なるため、引用文献1に記載された積層セラミックコンデンサに引用文献2に記載された内部電極の厚さに関する技術を適用することはできないというものと解される。
しかしながら、誘電体層及び内部電極層をともに数百nm以下とすることは、内部電極層を印刷法や転写により形成したセラミックグリーンシートを積層・焼成する積層セラミックコンデンサにおいても本願出願前周知技術である(必要あれば、特開2014-22714号公報(特に【請求項2】、【請求項10】、【0031】、【0105】の記載)、特開2014-82435号公報(特に【請求項2】、【請求項3】、【0022】、【0040】、【0134】の記載)、特開2003-234242号公報(【0001】、【0053】、【表2】の試料番号1の記載)を参照)。
したがって、引用文献1に記載されたような、グリーンシート上に内部電極を転写により形成した積層セラミックコンデンサにおいても、誘電体層及び内部電極層をともに数百nm以下とし得るから、引用文献1に記載された積層セラミックコンデンサに引用文献2に記載された内部電極の厚さに関する技術を適用し得るものと認められる。

よって、請求人の主張は採用できない。


第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-03-04 
結審通知日 2020-03-10 
審決日 2020-03-24 
出願番号 特願2015-18508(P2015-18508)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山田 正文
山澤 宏
発明の名称 積層コンデンサ及び積層コンデンサの製造方法  
代理人 大森 純一  
代理人 千葉 絢子  

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