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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1362133
審判番号 不服2018-16931  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-20 
確定日 2020-05-07 
事件の表示 特願2017-5128「可変焦点型液体充填レンズ器械」拒絶査定不服審判事件〔平成29年3月30日出願公開,特開2017-62518〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2017-5128号(以下「本件出願」という。)は,平成27年3月4日に出願された特願2015-42845号(以下「親出願」という。)の一部を新たな特許出願としたものであり,親出願は,2010年2月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年2月13日 米国)を国際出願日とする特願2011-550216号の一部を新たな特許出願としたものである。
本件出願の手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年 2月15日付け:上申書
平成29年 2月15日付け:手続補正書
平成29年10月30日付け:拒絶理由通知書
平成30年 5月 7日付け:意見書
平成30年 5月 7日付け:手続補正書
平成30年 8月15日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年12月20日付け:審判請求書
平成30年12月20日付け:手続補正書
平成31年 1月29日付け:手続補正書(審判請求書の補正)
平成31年 4月26日付け:上申書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年12月20日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1?請求項3の記載は,次のとおり補正された(下線は,補正箇所である。)。
「【請求項1】
可変焦点光学器械であって,
前面及び後面を備えた硬質の湾曲した透明な光学コンポーネントと,
2つのキャビティを構成するように前記硬質光学コンポーネントの周囲に取り付けられた2枚の透明な伸張性メンブレンと,を有し,第1のキャビティは前記硬質光学コンポーネントと第1のメンブレンの間であり,第2のキャビティは前記第1のメンブレンと第2のメンブレンの間であり,
前記各キャビティを満たす可変量の流体と,
追加の流体を収容していて,少なくとも1つの前記キャビティと流体連通状態にある第1のリザーバとを有し,前記第1のリザーバは,力又は衝撃に応答して少なくとも1つの前記キャビティ内への流体の注入又は少なくとも1つの前記キャビティからの流体の抜き出しをするように構成され,
追加の流体を収容していて,少なくとも1つの前記キャビティと流体連通状態にある第2のリザーバを有し,前記第2のリザーバは,力又は衝撃に応答して少なくとも1つの前記キャビティ内への流体の注入又は少なくとも1つの前記キャビティからの流体の抜き出しをするように構成され,
前記硬質光学コンポーネントの前記前面及び前記硬質光学コンポーネントの前記後面は同一方向に湾曲され,
前記前面と前記後面の交差部が前記硬質光学コンポーネントの周方向エッジであるように,前記前面の曲率半径は前記後面の曲率半径よりも小さい,可変焦点光学器械。

【請求項2】
前記第1のリザーバと,前記第1のキャビティ及び前記第2のキャビティのうちの1つ又は複数とを流体連通させる第1の連通チャネルを更に有する,請求項1記載の可変焦点光学器械。

【請求項3】
前記第2のリザーバと,前記第1のキャビティ及び前記第2のキャビティのうちの1つ又は複数とを流体連通させる第2の連通チャネルを更に有する,請求項2記載の可変焦点光学器械。」

2 新規事項違反
(1) 本件補正後発明3
本件補正により,本件出願の請求項3に係る発明(以下「本件補正後発明3」という。)は,第1のリザーバと,第1のキャビティ及び第2のキャビティのうちの複数(すなわち,双方)を流体連通させる第1の連通チャネル,並びに,第2のリザーバと,第1のキャビティ及び第2のキャビティのうちの複数(すなわち,双方)を流体連通させる第2の連通チャネルを有する態様(以下「2対2で連通する態様」という。)を具備するものとなった。
そこで,このような補正が本件出願当初の明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「出願当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてしたものであるかについて,以下,検討する。

(2) 出願当初明細書等の記載
複数のリザーバと複数のキャビティを流体連通させる連通チャネルの態様に関して,出願当初明細書等には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,特に判断に関係する箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変焦点光学器械であって,
硬質の湾曲した透明な光学コンポーネントと,
前記硬質光学コンポーネントとの間にキャビティを構成するよう前記硬質光学コンポーネントの周囲に取り付けられた少なくとも1枚の透明な伸張性メンブレンと,
前記キャビティを満たす可変量の流体と,
追加の流体を収容していて,前記キャビティと流体連通状態にあるリザーバとを有し,前記リザーバは,力又は衝撃に応答して前記キャビティ内への流体の注入又は前記キャビティからの流体の抜き出しを可能にするよう動作可能である,可変焦点光学器械。
…(省略)…
【請求項11】
2つのキャビティを構成するよう前記硬質光学コンポーネントの周囲に取り付けられた2枚の透明な伸張性メンブレンを有し,前記キャビティのうちの第1のキャビティは,前記硬質光学コンポーネントと前記2枚のメンブレンのうちの第1のメンブレンとの間に構成され,第2のキャビティは,第1のメンブレンと第2のメンブレンとの間に構成され,
前記キャビティの各々を満たす可変量の流体を有し,
前記リザーバは,前記キャビティのうちの一方と流体連通状態にある,請求項1記載の可変焦点光学器械。」

イ 「【0015】
他の実施形態では,本発明は,2つのキャビティを構成するよう硬質光学コンポーネントの周囲に取り付けられた2枚のメンブレン,キャビティの各々を満たす可変量の流体及びキャビティのうちの少なくとも一方と流体連通状態にあるリザーバを備えた可変焦点光学器械を提供することができる。」

ウ 「【0038】
使用にあたり,少なくとも1枚のレンズ20を装用者により使用されるオフサルミック用途向けに設計された1本の眼鏡又は眼鏡フレーム内に嵌め込む。図1Bに示されているように,輪郭形状で見て,レンズ20により,ユーザは,前側光学部品21,中間光学部品25及び後側光学部品35の全てを通して見ることができ,これら部品は,一緒になって,前側光学部品21だけよりもレンズ20の中心のところに厚い輪郭形状を提供すると共に強力な老視矯正をもたらす。或る特定の実施形態では,装用者には,中間光学部品25内の流体24の量又は後側光学部品35内の流体34の量又はこれら両方内の流体の量を調整し,それによりレンズ20の屈折力を調節することができる能力が与えられる。或る特定の実施形態では,以下に説明するように,フレームは,流体24のリザーバ若しくは流体34のリザーバ又はこれら両方及びそれぞれのリザーバをレンズ20の中間光学部品25又は後側光学部品35に連結する流体ラインを備えている。眼鏡フレームは,好ましくは,装用者が中間光学部品25及び後側光学部品35内のそれぞれの流体24及び流体34の量を自分で調整して流体24及び流体34をそれぞれのリザーバ内に動かし又はそのリザーバから追い出して中間光学部品25及び後側光学部品25(当合議体注:「25」は「35」の誤記である。)内に入れ,それにより必要に応じてレンズ20の屈折力を調整できるようにする1つ又は2つ以上のアクチュエータ又は調整機構体を更に有する。」

エ 「【0042】
前側光学部品1及びメンブレン13は,図2の分解組み立て図で見え,前側光学部品1とメンブレン13との間に形成されたキャビティと流体連通状態にあるリザーバ6が示されている。簡単にするために,本明細書において,図2を1つの流体光学部品を備えたレンズ10の実施形態に関して説明する。他の実施形態では,例えば図1Bのレンズ20において眼鏡1が2つ以上の流体光学部品を有する場合には,各々がそれぞれのキャビティと流体連通状態にある2つ以上のリザーバが必要になる。」

オ 「【0045】
例えば図1Bのレンズ20に設けられた2つ以上の流体光学部品を備える眼鏡1の実施形態では,各液体レンズキャビティは,好ましくは,独特のリザーバを備え,各液体レンズキャビティは,好ましくは,独特のリングを備え,その結果,液体チャネルは,各キャビティについて分離状態のままである。」
(当合議体注:「独特の」は「個々の」の意味と解される。)

カ 図1B


キ 図2


(3) 当合議体の判断
出願当初の特許請求の範囲の請求項11の記載は,リザーバが2つのキャビティの一方と流体連通状態にあることを特定するものであるから,2対2で連通する態様を,むしろ否定するものである。
出願当初の明細書の【0015】の,下線を付した箇所の記載は,リザーバが,2つのキャビティと連通する態様を示唆するものではあるが,2対2で連通する態様までは示唆しない。
【0038】の,最初の下線を付した箇所の記載は,装用者が,2つのキャビティの一方又は双方の流体の量を調整できることを示唆するものではあるが,2対2で連通する態様までは示唆しない。
【0038】の,2番目の下線を付した箇所の記載は,「中間光学部品25又は後側光学部品35に連結する」というものである(「又は」であり,「及び」でも,「及び/又は」でもない)から,この記載は,2対2で連通する態様を,むしろ否定するものである。
【0038】の,3番目の下線を付した箇所の記載は,2つのリザーバと2つのキャビティが1対1で連通する態様を示唆するものであるから,2対2で連通する態様を,むしろ否定するものである。【0042】及び【0045】の記載も,同様である。

以上のとおりであるから,2対2で連通する態様が,出願当初明細書等に記載されていたということはできない。また,このような態様が,本件出願の出願時の当業者における技術常識であったということもできない。
そして,2対2で連通する態様とした場合には,例えば,[A]第1のリザーバ及び第2のリザーバが共同して,一方又は他方のキャビティを大きく膨らませること,[B]第1のリザーバと第2のリザーバの負荷を均一に制御すること,[C]一方のリザーバが故障したときに,他方のリザーバがバックアップすることが可能となると考えられる。
そうしてみると,本件補正は,当業者によって,出願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるということはできないから,本件補正は,出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができない。

3 まとめ
本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものであるから,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本件出願の請求項1?請求項17に係る発明は,平成30年5月7日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項17に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のものである。
「 可変焦点光学器械であって,
前面及び後面を備えた硬質の湾曲した透明な光学コンポーネントと,
2つのキャビティを構成するように前記硬質光学コンポーネントの周囲に取り付けられた2枚の透明な伸張性メンブレンと,を有し,第1のキャビティは前記硬質光学コンポーネントと第1のメンブレンの間であり,第2のキャビティは前記第1のメンブレンと第2のメンブレンの間であり,
前記各キャビティを満たす可変量の流体と,
追加の流体を収容していて,少なくとも1つの前記キャビティと流体連通状態にある第1のリザーバとを有し,前記第1のリザーバは,力又は衝撃に応答して少なくとも1つの前記キャビティ内への流体の注入又は少なくとも1つの前記キャビティからの流体の抜き出しをするように構成され,
追加の流体を収容していて,少なくとも1つの前記キャビティと流体連通状態にある第2のリザーバを有し,前記第2のリザーバは,力又は衝撃に応答して少なくとも1つの前記キャビティ内への流体の注入又は少なくとも1つの前記キャビティからの流体の抜き出しをするように構成され,
前記硬質光学コンポーネントの前記前面及び前記硬質光学コンポーネントの前記後面は同一方向に湾曲され,
前記前面と前記後面の交差部が前記硬質光学コンポーネントの周方向エッジであるように,前記前面の曲率半径は前記後面の曲率半径よりも小さい,可変焦点光学器械。」

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1(特表2008-544318号公報)に記載された発明及び引用文献2(特開平10-206609号公報)に記載された技術,並びに,周知技術に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用文献の記載及び引用発明等
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(特表2008-544318号公報)は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0002】
本発明は,レンズ,特には膨張性レンズ(可膨張レンズ)に関する。
【背景技術】
【0003】
膨張性レンズは有用である。なぜなら,そのようなレンズは可変焦点距離を有するからである。こうしたレンズはまた,ズームレンズとしても使用可能である。
…(省略)…
【0006】
そのような膨張性レンズの抱える問題は,可撓性のメンブレンまたはフィルムにより形成される曲線がメンブレンの全領域にわたり一貫性を有していないことである。可撓性メンブレンのエッジをハウジング内にクランピングしなければならないので,メンブレンのエッジの近くのレンズの曲線は,メンブレンの中央のレンズの曲線と同一ではない。その結果として,レンズの有効使用可能口径は,可撓性メンブレンの実際のサイズよりもかなり小さい。
【0007】
さらに,流体は,レンズの最下部に向かって流動する傾向があり,その結果として,レンズの最下部の方向に膨出を引き起こすので,膨張性レンズはまた,重力による影響を受ける。そのような膨出は,レンズの全領域にわたり一貫性のない湾曲をもたらす。
…(省略)…
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって,改良された膨張性レンズの必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば,中心領域の方向に漸次薄肉になる第1の可撓性壁と第2の壁とを含み,キャビティー内の流体の体積を制御することにより種々のレンズ形状を形成できるように流体を収容するためのキャビティーを第1の壁と第2の壁とにより画定しているレンズが提供される。
…(省略)…
【0056】
これ以降では,図面を参照しながら本発明の少数の実施形態について説明する。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
…(省略)…
【0062】
1. 2つの可撓性壁を有するレンズ
図8aおよび8bは,本発明の一実施形態に係るレンズを示している。レンズは,中心領域の方向に薄肉になる第1の可撓性壁80と,同様に中心領域の方向に薄肉になる第2の可撓性壁82と,を含む。各可撓性壁80,82は,ウェーハの外周よりもウェーハの中心のほうが薄い厚さになるように好ましくはテーパーの付けられたウェーハである。可撓性壁の中心領域は,変位可能である。この実施形態では,壁80,82は,流体84を収容するためのキャビティーを画定するように構成される。壁80,82は両方とも,光学レンズに使用するのに好適な材料で作製される。
【0063】
各可撓性壁80,82は,可変膨張が可能である光学的に透明な合成均一材料からなる伸縮性で柔軟性のあるさまざまな形態のディスクを含む構成要素で形成可能である。本発明のこの実施形態および他の実施形態に係る可撓性壁は,レンズにより透過される放射線に対して透過性でありかつ実質的にデフォルト原位置への復帰をもたらしうる記憶を有する安定で均一で伸縮性のある材料から形成される。この実施形態では,可撓性壁80,82は,ポリカーボネートで作製される。特定の材料が与えられているが,本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく他の材料を実用に供しうることは,本開示に照らして当業者であればわかるであろう。材料が放射線透過性でありかつ安定性,延伸性,もしくは可撓性,好ましくは弾力性を有するものであれば,任意の好適な材料の使用が可能である。
…(省略)…
【0067】
レンズのプロファイルに及ぼす重力の影響を低減させるべく,キャビティー内の流体84の量は,好ましくは,最小限に抑えられる。これは,キャビティーの体積を最小限に抑えるように第1の壁80と第2の壁82との間の距離を減少させることにより行われる。より大型のレンズまたはより厚肉のレンズが必要とされる場合,レンズの最下部の方向への膨出を防止するとともに可撓性壁80,82の望ましくない振動を防止するために,よりチキソトロピックな流体を使用することが可能である。あるいは,より厚肉の可撓性壁を使用することが可能である。キャビティー内の流体84の量が最小レベルにある場合,可撓性壁は,互いに当接してほとんどフラットでありうる。場合によっては,ごく少量の流体により2つの壁80,82が分離される。
…(省略)…
【0088】
流体リザーバーは,壁により形成されたキャビティー内へのおよびキャビティーからの流体の連通を行えるように少なくとも1つのポートを介してレンズに接続されうる。システムが,少なくとも1つのポートを介して永続的に接続されたリザーバーとレンズキャビティーとを備えた閉回路の目立たない密封パッケージを形成するように,流体リザーバーを最終レンズアセンブリーに組み込むことが可能である。たとえば,流体リザーバーは,壁が収容されるバレルマウント内に収容可能である。
【0089】
ポンプ,ピストン,プランジャー,従来のフォーカスバレル,またはリザーバーの外部に適用されてリザーバーからの流体の送出もしくはレンズキャビティーからの流体の吸入に使用可能な任意のフォースプロバイダーを用いて,リザーバーからキャビティーにまたはその逆の方向に流体84を移動させることが可能である。したがって,好ましくは,リザーバーは,リザーバーとレンズキャビティーとの間で所望の方向に流体を移動させる確実な駆動力を生成するように各可撓性壁と協同して効率的に機能するのに十分な弾力性および記憶力を有しうる。フォースプロバイダーは,キャビティー内への流体の送入およびキャビティーからの流体の送出によりレンズを膨張および収縮させるべく使用可能である。フォースプロバイダーはまた,減圧を行ってキャビティーの方向に可撓性壁を引き寄せるべく使用可能である。
…(省略)…
【0129】
図2aおよび2bは,本発明の他の実施形態に係るレンズを示している。レンズは,中心領域の方向に薄肉になる可撓性壁20と剛性メニスカス凸壁22とを含む。後者の壁22は,その外周よりもその中心のほうが厚肉である。この場合も,2つの壁20,22は,第1の実施形態の壁10,12に関連してそれぞれ記載された材料で作製可能である。壁20,22は,流体24を収容するためのキャビティーを画定する。可撓性壁20は,その第1の表面26上に環状溝25を備える。溝25はC字形断面を有するが,他の形状溝を実用に供することも可能であり,溝25の底と可撓性壁20の他方の表面28との間の距離は,可撓性壁20の中心における厚さと同一もしくは実質的に同一である。この実施形態でも同様に,距離は同一もしくは実質的に同一であるが,得られる溝がヒンジとして十分に機能するのであれば,溝底と他方の表面28との間の他の距離を実用に供することも可能である。溝25は,可撓性壁の湾曲の一様性をその表面全体にわたり改良するようにヒンジとして作用する。
【0130】
壁20,22は,バレルマウント21内に収容される。この実施形態および他の実施形態ではバレルマウントが開示されているが,壁を一体化するための他の機構,たとえば,結合または溶接なども実用に供しうることは,当業者には自明であろう。バレルマウント21の構成ならびに壁およびマウントの構成は,図1a?1dに記載されるものと同一である。流体24は,バレルマウント21を貫通して延在してキャビティー内に開口するポート23を介して,キャビティー内に挿入されかつキャビティーから取り出される。ポート23は,キャビティーと流体リザーバー(図示せず)との間に流体連通を提供する。キャビティー内の流体24の体積を制御することにより,種々のレンズ形状を形成できるように可撓性壁20を移動させる。
【0131】
図2aでは,流体の量を制御することにより,可撓性壁20は,剛性壁22に最も近い第1の表面26が凸面でありかつ剛性壁22から最も離れた第2の表面28が凹面であるように配置される。
【0132】
図2bでは,流体の量を制御することにより,可撓性壁20は,剛性壁22に最も近い第1の表面26が凸面でありかつ剛性壁10から最も離れた第2の表面28が凹面であるように配置される。
【0133】
キャビティー内の流体24の量を図2aに示される量から図2bに示される量に変化させることにより,レンズの焦点屈折力は,より大きい正の値に変化する。
(当合議体注:図2aのレンズと図2bのレンズを比較すると,屈折力は小さくなっている(図の形状を精確なものと理解するならば,正の値から負の値に変化する)と考えられるので,「より大きい正の値」は誤記である。)
…(省略)…
【0163】
レンズとレンズの製造方法とレンズ用可撓性壁の製造方法とに関連する本発明の少数の実施形態について説明してきた。以上の開示に照らして,当業者には自明なことであろうが,本発明の範囲および趣旨から逸脱することなくそれらの実施形態に対して種々の変更および/または代替形態をなすことが可能である。」

ウ 図2a,図2b


エ 図8a,図8b


(2) 引用発明
引用文献1には,図2a,図2b及びその説明(【0129】?【0133】)から理解される「レンズ」として,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,用語を統一して記載した。
「 中心領域の方向に薄肉になる可撓性壁20と剛性メニスカス凸壁22とを含むレンズであって,
剛性メニスカス凸壁22は,その外周よりもその中心のほうが厚肉であり,
可撓性壁20及び剛性メニスカス凸壁22は,流体24を収容するためのキャビティーを画定し,可撓性壁20は,その第1の表面26上に環状溝25を備え,可撓性壁20及び剛性メニスカス凸壁22は,バレルマウント21内に収容され,
流体24は,バレルマウント21を貫通して延在してキャビティー内に開口するポート23を介して,キャビティー内に挿入されかつキャビティーから取り出され,ポート23は,キャビティーと流体リザーバーとの間に流体連通を提供し,
キャビティー内の流体24の体積を制御することにより,種々のレンズ形状を形成できるように可撓性壁20を移動させる,
レンズ。」

(3) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2(特開平10-206609号公報)は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,判断において活用した箇所を示す。
ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,屈折異常,調節異常を矯正するための眼鏡その他の光学装置又はそれに使用するレンズに関する。
…(省略)…
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来の老眼鏡においては,レンズの組材はガラスや硬いプラスチックで,弾力性がなく,屈折力を変えることができないため不便なものである。
…(省略)…
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は,請求項1?23のいずれかに記載されたレンズ,眼鏡,又は光学装置を要旨としている。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明は,光学装置(たとえばカメラ,眼鏡,内視鏡等の医療光学装置)や,それに使用するレンズを改良したものである。
【0011】本発明の一例は,レンズをつくるための柔軟な嚢と,嚢を満たす流体と,流体を貯留するタンクと,タンクおよび嚢間で流体を移送するチューブを備え,タンク内の流体を嚢に流入させたり,嚢内の流体をタンクに流出させたりして,嚢の形状を変形させてレンズの屈折率を変化させる構成にしたことを特徴とする流体ピント調節付き光学装置である。好ましくは,嚢が透明体によってカバーされており,タンクが蛇腹状に構成されていて,プレッサーがタンクを押圧してタンクの容量を変化させる。透明体は各種形状のフレームに設置するのが望ましい。
…(省略)…
【0027】そのようなレンズにおいて,透明体をポリジエチレングリコールビスアリルカーボネートなどのように硬く透明で傷つきにくく,薬品に侵されないプラスチックによって形成し,その透明体の中に流体を入れ,流体の量の変化によりレンズの焦点を調節する。そして,透明体を凸レンズにしたり,凹レンズにしたり,乱視のための円柱レンズにしたりする。
【0028】かかるレンズを眼鏡,カメラ,内視鏡又は医療光学機器その他の光学機械に使用する。」

イ 「【0029】
【実施例】以下,図面を参照して,本発明の流体焦点調節レンズ付老眼鏡の実施例を説明する。
…(省略)…
【0036】また図13に示すように,流体焦点調節片凸レンズの前嚢60の周辺部77を蛇腹状にすると,流体53が嚢内に注入したとき,前嚢の蛇腹状周辺部77がのびて強い片凸レンズになる。図14に示すように,強い屈折力を有する流体焦点調節片凸レンズをつくることができるが,嚢腔は中央にいくほど薄く弾力性に富む前嚢60と,中央にいくほど薄く弾力性に富む嚢内前嚢82に囲まれてできる周辺腔80と嚢内前嚢82と後嚢69に囲まれてできる中央腔81からなり,後嚢69は硬く厚くできており,前嚢60と嚢内前嚢82と後嚢69は周辺で一体となっており,周辺腔80にはタンク84より所定の屈折率の流体53が注入され,中央腔81にはタンク85より,タンク83よりも強い屈折率を有する流体75が注入され,一層強い屈折力を有する片凸レンズとなるようにしたものである。
【0037】図15に示すように,中央にいくほど薄く弾力性に富む前嚢60,中央にいくほど薄く弾力性に富む後嚢61,中央にいくほど薄く弾力性に富む嚢内前嚢82,中央にいくほど薄く弾力性に富む嚢内後嚢83からなる流体焦点調節両凸レンズの場合も同様に,前嚢60,後嚢61,嚢内前嚢82,嚢内後嚢83は周辺で一体となっており,タンク84より周辺腔80に所定の屈折率を有する流体53が注入され,嚢内前嚢82と嚢内後嚢83に囲まれてできる中央腔81にさらに強い屈折率を有する流体75がタンク85から注入され,一層強い屈折力を有する両凸レンズが得られるようになっている。
…(省略)…
【0041】…(省略)…図19に示すように,流体焦点調節両凹レンズもつくることができるが,辺縁部92を蛇腹状にし,後嚢91も前嚢90と同様に中央にいくほど薄く,前嚢90と後嚢91と辺縁部92から嚢腔94がつくられ,タンク52の中の流体53がチューブ54を介して注入することにより蛇腹状の辺縁部がのびて強い凹レンズになる。変則的な形をした流体焦点調節レンズも同様な原理でつくることができる。さらに透明体56を凸レンズにしたり,凹レンズにしたり,乱視を補正するための円柱レンズにして,嚢51と流体53からなる流体焦点調節レンズで補正できない部分を補正し,乱視,強度近視,強度遠視の人でも使用できる流体焦点調節レンズを作ることができる。
(当合議体注:符号「51」等は,図7及び図8のものである。)
…(省略)…
【0045】なお,本発明における流体焦点調節レンズは前述の実施例に限定されない。たとえば流体焦点調節凹レンズ,非球面設計による歪曲収差を補正した流体焦点調節レンズ,カメラや内視鏡や医療光学機器などの流体焦点調節レンズとしても応用可能である。」

ウ 図14


エ 図15


オ 図19


4 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 可変焦点光学器械
引用発明の「レンズ」は,「キャビティー内の流体24の体積を制御することにより,種々のレンズ形状を形成できるように可撓性壁20を移動させる」ものである。
上記の構成からみて,引用発明の「レンズ」は,焦点が可変のものである。また,引用発明の「レンズ」は,光学器械に分類可能なものである。
そうしてみると,引用発明の「レンズ」は,本願発明の「可変焦点光学器械」に相当する。

イ 光学コンポーネント
引用発明は,「中心領域の方向に薄肉になる可撓性壁20と剛性メニスカス凸壁22とを含むレンズであって」,「剛性メニスカス凸壁22は,その外周よりもその中心のほうが厚肉であ」る。
上記の構成,特に「剛性」及び「メニスカス」という用語からみて,引用発明の「剛性メニスカス凸壁22」は,前面及び後面を備えた硬質の湾曲したものであり,その前面及び後面は同一方向に湾曲されている。また,「レンズ」において要求される機能からみて,引用発明の「剛性メニスカス凸壁22」は,透明な光学コンポーネントといえる。さらに,引用発明の「剛性メニスカス凸壁22」の外周と中心の厚さの違いからみて,引用発明の「剛性メニスカス凸壁」は正のメニスカスレンズ(前面の曲率半径が後面の曲率半径よりも小さく,また,前面と後面の交差部が「剛性メニスカス凸壁」の周方向エッジとなる形状)である。
(当合議体注:これらの事項は,図2a及び図2bからも,看取ないし理解される事項である。また,「前面」と「後面」の取り方は,「レンズ」の使い方ないし定義の問題にすぎない。)
そうしてみると,引用発明の「剛性メニスカス凸壁22」は,本願発明の「前面及び後面を備えた硬質の湾曲した透明な」とされる,「光学コンポーネント」に相当する。また,引用発明の「剛性メニスカス凸壁22」は,本願発明の「光学コンポーネント」における,「前記硬質光学コンポーネントの前記前面及び前記硬質光学コンポーネントの前記後面は同一方向に湾曲され」及び「前記前面と前記後面の交差部が前記硬質光学コンポーネントの周方向エッジであるように,前記前面の曲率半径は前記後面の曲率半径よりも小さい」という要件を満たす。

ウ 伸張性メンブレン
引用発明の「レンズ」は,「キャビティー内の流体24の体積を制御することにより,種々のレンズ形状を形成できるように可撓性壁20を移動させる」ものであり,また,「可撓性壁20及び剛性メニスカス凸壁22は,流体24を収容するためのキャビティーを画定し」,「可撓性壁20及び剛性メニスカス凸壁22は,バレルマウント21内に収容され」ている。
上記の構成及び「可撓性」という用語からみて,引用発明の「可撓性壁20」は,キャビティーを構成するように取り付けられた,伸張性のものといえる。また,上記の構成から理解される機能からみて,引用発明の「可撓性壁20」は,透明な,膜状のものといえる。
(当合議体注:これらの事項は,図2a及び図2bからも,看取ないし理解される事項である。)
そうしてみると,引用発明の「可撓性壁20」は,本願発明の「メンブレン」に相当する。また,両者は,「キャビティを構成するように」「取り付けられた」「透明な」及び「伸張性」という点で共通する。

エ 流体
引用発明の「流体24は,バレルマウント21を貫通して延在してキャビティー内に開口するポート23を介して,キャビティー内に挿入されかつキャビティーから取り出され」る。
そうしてみると,引用発明の「流体24」(のうち,「キャビティー」の中にある分)は,本願発明の「キャビティを満たす可変量の」とされる「流体」に相当する。

オ リザーバ
引用発明の「流体24は,バレルマウント21を貫通して延在してキャビティー内に開口するポート23を介して,キャビティー内に挿入されかつキャビティーから取り出され,ポート23は,キャビティーと流体リザーバーとの間に流体連通を提供し」ている。また,引用発明の「レンズ」は,「キャビティー内の流体24の体積を制御することにより,種々のレンズ形状を形成できるように可撓性壁20を移動させる」ものである。
上記の構成からみて,引用発明の「流体リザーバー」は,「キャビティー」の中にない分の「流体24」を収容しているものであり,また,キャビティーと流体連通状態にあり,かつ,「キャビティー」内への「流体24」の注入又は「キャビティー」からの「流体24」の抜き出しをするように構成されているといえる。また,このような動作が「流体24」に対する圧力によって行われることは自明である(当合議体注:引用文献1の【0089】の記載からも理解される事項である。)。
そうしてみると,引用発明の「流体リザーバー」は,本願発明の「リザーバ」に相当する。また,両者は,「追加の流体を収容していて」,「キャビティと流体連通状態にある」,「力又は衝撃に応答して」「キャビティ内への流体の注入又は」「キャビティからの流体の抜き出しをするように構成され」という点で共通する。

カ 可変焦点光学器械
以上ア?オの対比結果,並びに,引用発明及び本願発明の全体構成からみて,引用発明の「レンズ」と本願発明の「可変焦点光学器械」は,「光学コンポーネントと」,「メンブレンと,を有し」,「流体と」,「リザーバとを有し」ている点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 可変焦点光学器械であって,
前面及び後面を備えた硬質の湾曲した透明な光学コンポーネントと,
キャビティを構成するように取り付けられた透明な伸張性メンブレンと,を有し,
前記キャビティを満たす可変量の流体と,
追加の流体を収容していて,前記キャビティと流体連通状態にあるリザーバとを有し,前記リザーバは,力又は衝撃に応答して前記キャビティ内への流体の注入又は前記キャビティからの流体の抜き出しをするように構成され,
前記硬質光学コンポーネントの前記前面及び前記硬質光学コンポーネントの前記後面は同一方向に湾曲され,
前記前面と前記後面の交差部が前記硬質光学コンポーネントの周方向エッジであるように,前記前面の曲率半径は前記後面の曲率半径よりも小さい,可変焦点光学器械。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「メンブレン」が,本願発明は,「前記硬質光学コンポーネントの周囲に」取り付けられたものであるのに対して,引用発明は,「バレルマウント21内に収容され」るものである点。

(相違点2)
「キャビティ」及び「リザーバ」が,本願発明は,それぞれ2つであるのに対して,引用発明は,それぞれ1つであり,これに伴い,本願発明の構成のうち,以下の下線を付した構成において相違する点。
「 可変焦点光学器械であって,
前面及び後面を備えた硬質の湾曲した透明な光学コンポーネントと,
2つのキャビティを構成するように前記硬質光学コンポーネントの周囲に取り付けられた2枚の透明な伸張性メンブレンと,を有し,第1のキャビティは前記硬質光学コンポーネントと第1のメンブレンの間であり,第2のキャビティは前記第1のメンブレンと第2のメンブレンの間であり,
前記各キャビティを満たす可変量の流体と,
追加の流体を収容していて,少なくとも1つの前記キャビティと流体連通状態にある第1のリザーバとを有し,前記第1のリザーバは,力又は衝撃に応答して少なくとも1つの前記キャビティ内への流体の注入又は少なくとも1つの前記キャビティからの流体の抜き出しをするように構成され,
追加の流体を収容していて,少なくとも1つの前記キャビティと流体連通状態にある第2のリザーバを有し,前記第2のリザーバは,力又は衝撃に応答して少なくとも1つの前記キャビティ内への流体の注入又は少なくとも1つの前記キャビティからの流体の抜き出しをするように構成され,
前記硬質光学コンポーネントの前記前面及び前記硬質光学コンポーネントの前記後面は同一方向に湾曲され,
前記前面と前記後面の交差部が前記硬質光学コンポーネントの周方向エッジであるように,前記前面の曲率半径は前記後面の曲率半径よりも小さい,可変焦点光学器械。」

(3) 判断
ア 相違点1について
引用文献1の【0130】には,「この実施形態および他の実施形態ではバレルマウントが開示されているが,壁を一体化するための他の機構,たとえば,結合または溶接なども実用に供しうることは,当業者には自明であろう。」と記載されている。そして,「可変焦点レンズ」の技術分野において,剛性部材と可撓性部材の接続手段として,両者を直接,接続することは,周知技術である(例えば,原査定の拒絶の理由において引用された,特開平2-166401号公報の第6図及びその説明(2頁右上欄8?12行),同じく米国特許出願公開第2003/0095336号明細書の図1及びその説明([0045]),特表2009-524838号公報の図4及びその説明(【0016】及び【0023】)を参照。)。
引用発明において,相違点1に係る本願発明の構成を採用することは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の,周知技術を心得た当業者における構成の変更にすぎない。

イ 相違点2について
引用文献1の【0067】には,「レンズのプロファイルに及ぼす重力の影響を低減させるべく,キャビティー内の流体84の量は,好ましくは,最小限に抑えられる。これは,キャビティーの体積を最小限に抑えるように第1の壁80と第2の壁82との間の距離を減少させることにより行われる。」と記載されている。ただし,引用発明において,キャビティー内の流体の量を最小限に抑えるようにした場合には,屈折力(の変化)が不十分となってしまう。
ここで,引用文献1の【0067】には,このような問題の解決方法として,「チキソトロピックな流体」や「より厚肉の可撓性壁を使用すること」が挙げられているが,当業者ならば,引用文献2の図14及びその説明(【0036】)から理解されるような構成も心得ている。
すなわち,当業者であれば,引用文献2の図14及び【0036】の記載から理解される,「強い屈折力を有する流体焦点調節片凸レンズであって,嚢腔は中央にいくほど薄く弾力性に富む前嚢60と,中央にいくほど薄く弾力性に富む嚢内前嚢82に囲まれてできる周辺腔80と嚢内前嚢82と後嚢69に囲まれてできる中央腔81からなり,後嚢69は硬く厚くできており,前嚢60と嚢内前嚢82と後嚢69は周辺で一体となっており,周辺腔80にはタンク84より所定の屈折率の流体53が注入され,中央腔81にはタンク85より,タンク83よりも強い屈折率を有する流体75が注入され,一層強い屈折力を有する片凸レンズ。」の技術を心得ている(以下「引用文献2記載技術」という。)。そして,引用文献2記載技術に接した当業者ならば,引用発明の「可撓性壁20」の後方に,第2の可撓性壁を設けて第2のキャビティーを画定し,より高い屈折率を有する第2の流体を挿入・取り出すための第2の流体リサーバーを設けると,引用発明の「レンズ」を,「レンズのプロファイルに及ぼす重力の影響を低減させ」かつ強い屈折力をえることができることに気付くといえる。また,このようにしてなる引用発明は,相違点2に係る本願発明の構成を具備したものとなる。
(当合議体注:引用発明の「剛性メニスカス凸壁22」の前方にキャビティーを設けたのでは,屈折力が相殺されることになるので,当業者は,この態様を採用することはない。また,引用文献2の【0036】には,「前嚢60と嚢内前嚢82と後嚢69は周辺で一体となっており」と記載されているから,この判断は,相違点1についての判断と矛盾することもない。)
引用発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは,引用文献2に記載された技術を心得た当業者が容易に発明をすることができた事項である。

(4) 本願発明の効果について
本件出願の明細書には,本願発明の効果に関する明示的な記載がない。
ただし,本件出願の【0012】には,「本発明の目的によれば,消費者,オフサルミック用途向きの液体充填レンズが提供される。」との記載があるから,本願発明の効果は,この目的を達することと理解される。
しかしながら,このような効果は引用発明も奏する効果である。
なお,本願発明は,「オフサルミック用途向きの」という構成は具備しないから,この点は除いて検討されるべきであるが,引用文献1の【0081】には,「検眼及び眼工学」の用途も挙げられている。

(5) 請求人の主張について
審判請求人は,審判請求書において,引用例2は,硬質光学コンポーネントの前面及び後面が同一方向に湾曲され,前面の曲率半径が後面の曲率半径よりも小さくなるように湾曲した,本願発明のような硬質光学コンポーネントに,第2の伸張性のメンブレンを取り付けるように当業者を導くことはないと主張する(平成31年1月29日付け手続補正書の7頁の「s.」)。
しかしながら,引用文献2には,【図15】のような両凸レンズや【図19】のような両凹レンズが開示され,さらに,【0041】には,「透明体56を凸レンズにしたり,凹レンズにしたり,乱視を補正するための円柱レンズにして,嚢51と流体53からなる流体焦点調節レンズで補正できない部分を補正し,乱視,強度近視,強度遠視の人でも使用できる流体焦点調節レンズを作ることができる。」とも記載されている。
このような引用文献2の記載をも心得た当業者ならば,引用発明の「レンズ」の形状を前提として発明をすること,すなわち,引用文献2記載技術から,引用発明と組み合わせることができる,2つの嚢腔及び2つのタンクの構成を取りだして,これを引用発明と組み合わせることができたと認められる。
したがって,請求人の主張は採用できない。

(6) 小括
本願発明は,引用文献1に記載された発明,引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本件出願は拒絶されるべきである。

5 本件補正後の請求項1に係る発明について
当合議体は,本件補正は却下されるべきと判断したところであるが,平成31年4月26日付け上申書において,審判請求人が,本件補正後の発明に基づく審理を望んでいることに鑑みて,本件補正を却下しない場合についても検討する。
本件補正を却下しない場合における,本件出願の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明1」という。)は,平成30年12月20日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりのものである(前記「第2」[理由]1の【請求項1】参照。)。
すなわち,本件補正後発明1と本願発明は,同一である。
そうしてみると,本願発明と同じ理由により,本件補正後発明1も,引用文献1に記載された発明,引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件補正後発明1は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,いずれにせよ,本件出願は拒絶されるべきである。

第4 まとめ
以上のとおり,本件出願の請求項1に係る発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-29 
結審通知日 2019-12-02 
審決日 2019-12-17 
出願番号 特願2017-5128(P2017-5128)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 561- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
発明の名称 可変焦点型液体充填レンズ器械  
代理人 弟子丸 健  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 松下 満  
代理人 渡邊 誠  
代理人 山本 泰史  
代理人 倉澤 伊知郎  
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