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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1362141
審判番号 不服2019-2284  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-19 
確定日 2020-05-07 
事件の表示 特願2017-223184「光学性層」拒絶査定不服審判事件〔平成30年7月12日出願公開,特開2018-109743〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2017-223184号(以下「本件出願」という。)は,平成29年3月30日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年12月28日)に出願された特願2017-69126号の一部を,平成29年11月20日に新たな特許出願としたものであって,その後の手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成30年 1月12日付け:拒絶理由通知書
平成30年 5月17日提出:意見書
平成30年 5月17日提出:手続補正書
平成30年 7月26日付け:拒絶理由通知書
平成30年 9月28日提出:意見書
平成30年 9月28日提出:手続補正書
平成30年11月12日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成31年 2月19日提出:審判請求書
平成31年 2月19日提出:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年2月19日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前(平成30年9月28日にされた手続補正後)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】
移動体に搭載される赤外線レーダーにおける赤外線受光部を覆うカバー部材として用いられる光学性層であって,
可視光を透過し,ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネートと,該ビスフェノール型ポリカーボネート中に含有され,波長が300nm以上,550nm以下の光を吸収する第1光吸収剤と,波長が450nm以上,800nm以下の光を吸収する第2光吸収剤と,波長が400nm以上,800nm以下の光を吸収する第3光吸収剤とのうちの少なくとも前記第2光吸収剤を含む光吸収剤と,波長が100nm以上,400nm以下の光を吸収する第4光吸収剤と,を含む第1層を有し,
前記第1層における前記第2光吸収剤の含有量は,0.04wt%以上,1wt%以下であり,
前記第1層における前記第4光吸収剤の含有量は,1wt%以上,10wt%以下であることを特徴とする光学性層。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は補正箇所である。
「【請求項1】
移動体に搭載される赤外線レーダーにおける赤外線受光部を覆うカバー部材として用いられる光学性層であって,
可視光を透過し,ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネートと,該ビスフェノール型ポリカーボネート中に含有され,波長が300nm以上,550nm以下の光を吸収する第1光吸収剤と,波長が450nm以上,800nm以下の光を吸収する第2光吸収剤と,波長が400nm以上,800nm以下の光を吸収する第3光吸収剤とのうちの少なくとも前記第1光吸収剤および前記第2光吸収剤を含む光吸収剤と,波長が100nm以上,400nm以下の光を吸収する第4光吸収剤と,を含む第1層を有し,
前記第1光吸収剤は,キノリン系色素であり,前記第1層における含有率が,0.01wt%以上,1.0wt%以下であり,
前記第2光吸収剤は,アントラキノン系色素であり,前記第1層における含有率が,0.04wt%以上,1wt%以下であり,
前記第4光吸収剤は,トリアジン系化合物であり,前記第1層における含有率が,1wt%以上,10wt%以下であることを特徴とする光学性層。」

(3) 本件補正の内容
本件補正は,本件補正前の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の,発明を特定するために必要な事項である,[A] 本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0020】の記載に基づいて,「第1層」に含まれる「光吸収剤」を,「少なくとも前記第2光吸収剤を含む光吸収剤」から「少なくとも前記第1光吸収剤および前記第2光吸収剤を含む光吸収剤」に限定し,[B] 同【0043】及び【0045】の記載に基づいて,「第1光吸収剤」を,「キノリン系色素であり,前記第1層における含有率が,0.01wt%以上,1.0wt%以下であり」という要件を満たすものに限定し,[C] 同【0046】の記載に基づいて,「第2光吸収剤」を,「アントラキノン系色素であり」という要件を満たすものに限定し,[D] 同【0052】の記載に基づいて,「第4光吸収剤」を,「トリアジン系化合物であり」というものに限定して,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)とするものである。
また,本願発明と本件補正後発明の産業上の利用分や及び発明が解決しようとする課題は,同一である(【0001】及び【0006】)。
したがって,請求項1についてした本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に適合するとともに,同条5項2号に掲げる事項を目的とするものである。
(当合議体注:本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項4を減縮したものと理解することもできるが,審判請求人の主張及び結論を左右しないことを考慮して,以上のとおり判断する。)

そこで,本件補正後発明が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件についての判断
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-2704号公報(以下「引用文献1」という。)は,先の出願前に頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【請求項1】
厚さ3mmに成形した成形品について測定した分光光線透過率が,350?850nmでは5%以下であり,1060nmでは70%以上であるフィルター用樹脂組成物であって,ポリカーボネート樹脂に50ppm濃度で含有させて厚さ3mmに成形した成形品について測定した分光光線透過率が下記を満足する,A?Cの少なくとも3種類の色素を,色素A及びBは50?1000ppm,色素Cは100?3000ppmの濃度で含有することを特徴とするフィルター用樹脂組成物。

色素A; 400nmでの透過率が60%以下であり,750?1000nmの範囲では透過率曲線が凹状であってその最小値は60%以下であり,且つ1000?1100nmの範囲での透過率の最大値は75%以上である。
色素B; 400nmでの透過率が70%以下であり,600?850nmの範囲では透過率曲線が凹状であってその最小値は30%以下であり,該最小値を示す波長は色素Aの対応する波長よりも100nm以上短波長側にあり,且つ1000?1100nmの範囲での透過率は80%以上でその最大値は85%以上である。
色素C;500?700nmの範囲では透過率曲線が凹状であってその最小値は40%以下であり,該最小値を示す波長は色素Bの対応する波長よりも短波長側にあり,且つ1000?1100nmの範囲での透過率は80%以上でその最大値は85%以上である。
…(省略)…
【請求項3】
色素A?Cに加えて,更にポリカーボネート樹脂に50ppm濃度で含有させて厚さ3mmに成形した成形品について測定した分光光線透過率が下記を満足する色素D及び/又はEを,それぞれ100?3000ppmの濃度で含有することを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター用樹脂組成物。

色素D;450?650nmでは透過率曲線が凹状であってその最小値は45%以下であり,該最小値を示す波長は色素Cの対応する波長よりも短波長側にあり,且つ1000?1100nmの範囲での透過率は80%以上でその最大値は85%以上である。
色素E;400?500nmの範囲では透過率曲線が凹状であってその最小値は20%以下であり,且つ1000?1100nmの範囲での透過率は80%以上でその最大値は85%以上である。なお色素Dと色素Eとが併用されている場合には,色素Eの該最小値を示す波長は色素Dの対応する波長よりも短波長側にある。
…(省略)…
【請求項10】
近赤外線による人間の顔面像撮影装置用のフィルターであることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載のフィルター用樹脂組成物。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,可視光を遮蔽し近赤外線を透過するフィルター用の樹脂組成物に関する。このフィルターは顔向き検知装置や顔認証装置等の近赤外線を用いる顔面像撮影装置のフィルターに好適である。
【背景技術】
【0002】
近年,道路交通の知能化や情報化により,道路交通における事故や渋滞等の諸問題を解決することを目的として,高度道路交通システム(ITS)が展開されている。なかでも,自動車側におけるアプローチとして,先進車両制御システム(AVCSS)があり,安全性,快適性を目指した運転支援システムが検討されている。
【0003】
これらの技術の中で,ドライバーの認知支援を行うための顔向き認知システムが検討されており,ドライバー自身は照射されていることを認識しない近赤外線を利用した検知装置の導入が検討されている。
…(省略)…
【0009】
しかしながら,特許文献1?4に記載の樹脂組成物からなるフィルターでは,人間の眼でかすかに認識できる850nm以下の近赤外線の遮蔽が不十分なため,不快感を生ずるという問題を解消できなかった。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は,可視光及び人間の眼でかすかに認識できる850nm以下の近赤外領域の光線を遮蔽し,850nmより長波長側の近赤外線を透過させるフィルター用樹脂組成物,より詳しくは350?850nmの範囲の光線の透過率が5%以下,好ましくは2%以下であり,且つ1060nmの光線の透過率が70%以上,好ましくは80%以上であるフィルター用樹脂組成物を提供しょうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは,ポリカーボネート樹脂に50ppm濃度(重量ppm。本明細書においてppmは全て重量ppmである。)となるように含有させて厚さ3mmに成形した成形品について測定した分光光線透過率がそれぞれ特定の範囲にある,少なくとも3種類の色素を特定量配合した樹脂組成物が上記目的を達成できることを見出し,本発明を完成させた。
…(省略)…
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂組成物は,可視光及び人間の眼でかすかに認識できる850nm以下の近赤外領域の光線を遮蔽し,かつ850nmより長波長側の近赤外線を高い透過率で透過させる。従ってこの樹脂組成物で製作されたフィルターを備えた顔面像撮影装置は,被撮影者に不快感を与えることなく,高精度で顔面像を撮影することができる。」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下,本発明を詳細に説明する。本発明のフィルター用樹脂組成物は,厚さ3mmに成形した成形品について測定した分光光線透過率が350?850nmでは5%以下であり,1060nmでは70%以上となるように,透明な熱可塑性樹脂に特定の透過率特性を有する3種類以上の染料を特定量配合して製造される。
【0019】
基材となる透明な熱可塑性樹脂としては,近赤外領域の光線透過率が高い透明な熱可塑性樹脂であれば特に制限はなく,例えば,3mm厚の板状成形品としたときのJIS R 3106記載の可視光透過率が85%以上で,JIS K7105記載のヘイズが10%以下のものが挙げられる。具体的には,ポリカーボネート,ポリエステル,ポリスチレン,ポリメチルメタクリレート,ポリ塩化ビニル,アクリロニトリル-スチレン共重合体,ポリ-4-メチルペンテン-1等を挙げることができる。これらの中でも,ポリカーボネート樹脂は,機械強度,耐熱性,耐候性に優れているので特に好ましい。
【0020】
ポリカーボネート樹脂は,界面重合法,ピリジン法,エステル交換法,環状カーボネート化合物の開環重合法など種々の方法で製造し得ることが知られている。工業的には,芳香族ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物との混合物を原料とし,これにホスゲンを反応させる界面重合法や炭酸ジエステルを反応させるエステル交換法により大量に生産されている。
【0021】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては,例えば,2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下,これをビスフェノールAということがある),2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン,2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン,2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン,2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン,2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン,2-ヒドロキシフェニルー4-ヒドロキシフェニルメタン,ビス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン,ビス-(4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メタン,
【0022】
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン,3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン,1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン,ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン,2-ヒドロキシフェニルー4-ヒドロキシフェニルスルホン,ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド,ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル,ビス(4-ヒドロキシ-3-クロロフェニル)エーテル,4-ヒドロキシフェニル-4-ヒドロキシー2,5-ジエトキシフェニルエーテル等が挙げられる。これらのなかでもビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく,特にビスフェノールAが好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は2種以上を混合して使用することも出来る。
…(省略)…
【0032】
本発明では,それぞれ特定の透過率特性を有するA?Cの少なくとも3種類の色素を樹脂に含有させる。
…(省略)…
【0036】
本発明では,上記の染料A?Cを組み合わせて樹脂に配合することにより,厚さ3mmに成形された成形品で測定した分光光線透過率が,350?850nmの範囲では5%以下,好ましくは2%以下であり,1060nmでは70%以上,好ましくは80%以上である樹脂組成物とする。
【0037】
樹脂組成物における染料A及びBの濃度は50?1000ppmであり,染料Cの濃度は100?3000ppmである。濃度が低すぎると850nm以下での十分な光線遮蔽性が得られない。逆に濃度が高すぎると近赤外領域での透過率が低下する。また過剰の染料による金型の汚染が起こることがある。染料Aの濃度は50?500ppmが好ましい。また染料B,Cの濃度はそれぞれ100?500ppm,300?2500ppmが好ましい。
【0038】
本発明の好ましい態様においては,上記の色素A?Cに加えて,樹脂組成物に更に下記の色素DやE,好ましくはDとEの両者を含有させる。
【0039】
色素D;染料Aと同様にして製作した試験片で測定した分光光線透過率曲線が,450?650nmの範囲では凹状であってその最小値は45%以下であり,該最小値を示す波長は色素Cの対応する波長よりも短波長側にあり,且つ1000?1100nmの範囲での透過率は80%以上でその最大値は85%以上である。
【0040】
色素E;染料Aと同様にして製作した試験片で測定した分光光線透過率が,400?500nmの範囲では凹状であってその最小値は20%以下であり,且つ1000?1100nmの範囲では透過率は80%以上でその最大値は85%以上である。但し,色素DとEとを併用する場合には,該最小値を示す波長は色素Dの対応する波長よりも短波長側にあることが必要である。
【0041】
染料Dの具体例としては,Solvent Violet 13,Solvent Violet 14,Solvent Violet 36,Solvent Red 52,Solvent Red 111,Solvent Red 168等のカラーインデックスで市販されているアンスラキノン系染料を挙げることができる。また,染料Eの具体例としては,Solvent Orange 60等のカラーインデックスで市販されているペリノン系染料,Disperse Yellow 160等のカラーインデックスで市販されているキノリン系染料,Disperse Yellow 201等のカラーインデックスで市販されているメチン系染料が挙げられる。
【0042】
染料D及びEを含有させることにより,一般に色素の全含有量を減少させることができる。染料D及びEはそれぞれ100?3000ppm,好ましくは100?500ppmの濃度となるように含有させる。
【0043】
本発明のフィルター用樹脂組成物には,必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で,樹脂組成物に常用されている種々の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては,熱安定剤,酸化防止剤,難燃剤,離型剤,滑剤・アンチブロッキング剤,流動性改良剤,可塑剤,分散剤,防菌剤などが挙げられる。
…(省略)…
【0047】
フィルターの厚さは,通常1?3mmであり,その形状は,組み込まれる顔面像撮影装置により異なるが,多くは平板状又は湾曲板状である。
…(省略)…
【実施例】
【0049】
…(省略)…
【0051】
(1)熱可塑性樹脂
ポリカーボネート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製品「商品名:ユーピロン(登録商標)S-3000F」(以下,「S-3000」と略記する),粘度平均分子量 22000
【0052】
(2)染料
…(省略)…
【0063】
紫外線吸収剤(H):2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール,シプロ化成(株)「商品名:シーソーブ709」
【0064】
[実施例1?4及び比較例1?3]
ポリカーボネート樹脂に,染料及び各種添加剤を表2に示す濃度となるように配合した。タンブラーで20分間混合したのち,スクリュー径40mmのベント付き単軸押出機(いすず化工機社製「SV-40」)により,シリンダー温度280℃,スクリュー回転数70rpmで混練し,押出されたストランドを切断してペレットを作製した。
【0065】
得られたペレットを120℃で5時間乾燥後,射出成形機(名機製作所製「M150AII-SJ」)を用いて,シリンダー温度280℃,金型温度80℃,成形サイクル40秒の条件で射出成形を行い,厚み3mmの平板を作製した。この平板について,(株)島津製作所製のU-3100-PC型分光光度計を用いて,350?1100nm波長域で光線透過率を測定した。結果を表3及び図10に示す。
【0066】
【表2】

(染料及び添加剤の配合量はポリカーボネート樹脂に対するppmである)
【0067】
【表3】

【0068】
表3及び図10より,以下のことが分かる。
A?Cの染料の組み合わせ又はA?Eの染料の組み合わせを含有させた実施例1?4の樹脂組成物は,いずれも850nm以下の可視光?近赤外領域の波長を十分に遮蔽し,且つ1000nm以上の赤外領域の波長を高い透過率で透過している。
【0069】
これに対し 本発明で規定する染料の組み合わせを含有しない比較例の樹脂組成物では,波長850nm以下の領域の光に対する遮蔽性が十分ではなく,近赤外線を用いる顔面像撮影装置用フィルターとしては不十分である」

オ 図10


(2) 引用発明
引用文献1の【請求項1】,【請求項3】及び【請求項10】の記載からみて,引用文献1には,色素A?色素Eを含んでなる,次の(フィルターとして成形した後の)「フィルター用樹脂組成物」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 厚さ3mmに成形した成形品について測定した分光光線透過率が,350?850nmでは5%以下であり,1060nmでは70%以上であるフィルター用樹脂組成物であって,
ポリカーボネート樹脂に50ppm濃度で含有させて厚さ3mmに成形した成形品について測定した分光光線透過率が下記を満足する色素A?色素Eを,色素A及び色素Bは50?1000ppm,色素C?色素Eは100?3000ppmの濃度で含有し,
近赤外線による人間の顔面像撮影装置用のフィルターである,フィルター用樹脂組成物。
色素A;400nmでの透過率が60%以下であり,750?1000nmの範囲では透過率曲線が凹状であってその最小値は60%以下であり,かつ1000?1100nmの範囲での透過率の最大値は75%以上である。
色素B;400nmでの透過率が70%以下であり,600?850nmの範囲では透過率曲線が凹状であってその最小値は30%以下であり,該最小値を示す波長は色素Aの対応する波長よりも100nm以上短波長側にあり,かつ1000?1100nmの範囲での透過率は80%以上でその最大値は85%以上である。
色素C;500?700nmの範囲では透過率曲線が凹状であってその最小値は40%以下であり,該最小値を示す波長は色素Bの対応する波長よりも短波長側にあり,かつ1000?1100nmの範囲での透過率は80%以上でその最大値は85%以上である。
色素D;450?650nmでは透過率曲線が凹状であってその最小値は45%以下であり,該最小値を示す波長は色素Cの対応する波長よりも短波長側にあり,かつ1000?1100nmの範囲での透過率は80%以上でその最大値は85%以上である。
色素E;400?500nmの範囲では透過率曲線が凹状であってその最小値は20%以下であり,かつ1000?1100nmの範囲での透過率は80%以上でその最大値は85%以上であり,最小値を示す波長は色素Dの対応する波長よりも短波長側にある。」

(3) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-198617号公報(以下「引用文献2」という。)は,先の出願前に頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,例えば,自動車等の乗り物において,赤外線センサによって車間距離を検知するのに好適な赤外線透過膜及びこれを用いた赤外線センサカバー並びに赤外線センサユニットに関するものである。」

イ 「【0034】
ここで,本発明に用いる赤外線透過性基材としては,可視光線を遮断すると共に赤外線の少なくとも一部を透過する基材,例えば,▲1▼赤外線透過性を有する一般的な透明基材や半透明基材に可視光線を遮断する裏面塗装又は着色を施したものや,▲2▼可視光線を遮断すると共に赤外線の少なくとも一部を透過する濃色ないし黒色の基材を使用することができる。
【0035】
具体的には,ガラスや…(省略)…ポリカーボネート等のカーボネート樹脂,ポリエーテル樹脂,ポリウレタン樹脂等を使用できる。」

(4) 対比
ア 第1層
引用発明の「フィルター用樹脂組成物」は,「ポリカーボネート樹脂に50ppm濃度で含有させて厚さ3mmに成形した成形品について測定した分光光線透過率が下記を満足する色素A?色素Eを,色素A及び色素Bは50?1000ppm,色素C?色素Eは100?3000ppmの濃度で含有」する,「近赤外線による人間の顔面像撮影装置用のフィルターである」。
また,「フィルター用樹脂組成物」を「フィルター」として用いる際に,「フィルター用樹脂組成物」の層の外表面に,傷つき防止や防汚を目的とした保護層が設けられることは,自明である。
そうしてみると,引用発明の「フィルター用樹脂組成物」は,本件補正後発明でいう「第1層」に相当する。

イ ポリカーボネート
上記アで述べた引用発明の構成からみて,引用発明は,「ポリカーボネート樹脂」を前提とした,「フィルター用樹脂組成物」である。
したがって,引用発明の「ポリカーボネート樹脂」と本件補正後発明の「可視光を透過し,ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネート」は,「ポリカーボネート」の点で共通する。

ウ 第1光吸収剤
引用発明の「フィルター用樹脂組成物」は,「400?500nmの範囲では透過率曲線が凹状であってその最小値は20%以下」である「色素E」を含有する。
上記の透過率曲線からみて,引用発明の「色素E」は,光を吸収する色剤ということができる。また,前記イで述べたとおり,引用発明は,「ポリカーボネート樹脂」を前提とした,「フィルター用樹脂組成物」である。
そうしてみると,引用発明の「色素E」と本件補正後発明の「第1光吸収剤」は,「ポリカーボネート中に含有され,波長が300nm以上,550nm以下の光を吸収する第1光吸収剤」の点で共通する。

エ 第2光吸収剤
引用発明の「フィルター用樹脂組成物」は,「450?650nmでは透過率曲線が凹状であってその最小値は45%以下」である「色素D」を含有する。
上記の透過率曲線からみて,引用発明の「色素D」は,光を吸収する色剤ということができる。また,前記イで述べたとおり,引用発明は,「ポリカーボネート樹脂」を前提とした,「フィルター用樹脂組成物」である。
そうしてみると,引用発明の「色素D」と本件補正後発明の「第2光吸収剤」は,「ポリカーボネート中に含有され」,「波長が450nm以上,800nm以下の光を吸収する第2光吸収剤」の点で共通する。
(当合議体注:なお,引用発明の「色素D」に替えて,「色素C」を対応させても,結論は変わらない。)

オ 第1層
上記ア?エからみて,引用発明の「フィルター用樹脂組成物」と本件補正後発明の「第1層」は,「ポリカーボネートと」,「ポリカーボネート中に含有され,波長が300nm以上,550nm以下の光を吸収する第1光吸収剤と,波長が450nm以上,800nm以下の光を吸収する第2光吸収剤と,波長が400nm以上,800nm以下の光を吸収する第3光吸収剤とのうちの少なくとも前記第1光吸収剤および前記第2光吸収剤を含む光吸収剤と」,「を含む第1層を有し」ている点で共通する。

カ 光学性層
上記ア?オからみて,引用発明の「近赤外線による人間の顔面像撮影装置用のフィルター」と,本件補正後発明の「移動体に搭載される赤外線レーダーにおける赤外線受光部を覆うカバー部材として用いられる光学性層」は,「光学性層」の点で共通する。

(5) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 光学性層であって,
ポリカーボネートと,ポリカーボネート中に含有され,波長が300nm以上,550nm以下の光を吸収する第1光吸収剤と,波長が450nm以上,800nm以下の光を吸収する第2光吸収剤と,波長が400nm以上,800nm以下の光を吸収する第3光吸収剤とのうちの少なくとも前記第1光吸収剤および前記第2光吸収剤を含む光吸収剤と,を含む第1層を有する,
光学性層。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「光学性層」が,本件補正後発明は,「移動体に搭載される赤外線レーダーにおける赤外線受光部を覆うカバー部材として用いられる」のに対して,引用発明は,「近赤外線による人間の顔面像撮影装置用のフィルターである」点。

(相違点2)
「ポリカーボネート」が,本件補正後発明は,「可視光を透過し,ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型」であるのに対して,引用発明は,「可視光を透過し,ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型」とは特定されないものである点。

(相違点3)
「第1層」が,本件補正後発明は,「波長が100nm以上,400nm以下の光を吸収する第4光吸収剤」を含むとともに,「前記第4光吸収剤は,トリアジン系化合物であり,前記第1層における含有率が,1wt%以上,10wt%以下である」のに対して,引用発明は,「波長が100nm以上,400nm以下の光を吸収する第4光吸収剤」を含有するとは特定されておらず,その結果,「前記第4光吸収剤は,トリアジン系化合物であり,前記第1層における含有率が,1wt%以上,10wt%以下である」ともいえない点。

(相違点4)
「第1光吸収剤」が,本件補正後発明は,「キノリン系色素であり,前記第1層における含有率が,0.01wt%以上,1.0wt%以下」であるのに対して,引用発明は,「キノリン系色素」とは特定されておらず,また,含有率は,「100?3000ppm」である点。

(相違点5)
「第2光吸収剤」が,本件補正後発明は,「アントラキノン系色素であり,前記第1層における含有率が,0.04wt%以上,1wt%以下」であるのに対して,引用発明は,「アントラキノン系色素」とは特定されておらず,また,含有率は,「100?3000ppm」である点。

(6) 判断
ア 相違点1?相違点3について
引用文献2の【0001】の記載からみて,「自動車等の乗り物において,赤外線センサによって車間距離を検知するのに好適な赤外線透過膜及びこれを用いた赤外線センサカバー」は,当業者に知られていたと認められるところ,引用発明は,このような物に転用するに適した赤外線透過性能(及び可視光遮断性能)を具備する「フィルター用樹脂組成物」である。
また,「自動車等の乗り物において,赤外線センサによって車間距離を検知するのに好適な赤外線透過膜及びこれを用いた赤外線センサカバー」は,紫外線にさらされる場所に取り付けられるものであるから,引用発明の転用に際して,トリアジン系化合物のような周知の紫外線吸収剤を数%程度,添加することは,当業者が自然に行う事項である。
(当合議体注:紫外線吸収剤として,トリアジン系化合物が周知であること,また,数%程度の含有率が通常のものであることについては,例えば,原査定の拒絶の理由において引用された特開2015-184666号公報の,【0048】及び【0049】の一般的な記載,及び【0067】の処方例を参照されたい。なお,言うまでもないことであるが,TINUVIN479は,ヒドロキシフェニルトリアジン系の著名な紫外線吸収剤である。)
加えて,「ポリカーボネート樹脂」として,「可視光を透過し,ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネート」は,引用文献1の【0019】?【0022】において示唆され,また,実施例(【0051】)において実際に用いられているものにすぎない。
以上勘案すると,引用発明の「ポリカーボネート樹脂」として,「可視光を透過し,ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネート」を採用し,また,引用発明の転用に際して,本件補正後発明でいう「波長が100nm以上,400nm以下の光を吸収する第4光吸収剤」に該当する「トリアジン系化合物」を「1wt%以上,10wt%以下」の含有率で含有させることにより,「移動体に搭載される赤外線レーダーにおける赤外線受光部を覆うカバー部材として用いられる」ことにさらに適したもの(耐紫外線性)とすることは,引用発明を引用文献2に記載の用途に転用する当業者が,容易に発明をすることができたものである。

イ 相違点4及び相違点5について
引用発明の「色素E」の具体例として,引用文献1の【0041】には,「キノリン系染料」が挙げられている。また,その含有率は,フィルターの厚さにも依存すると認められるが,例えば,引用文献1の【0065】及び【0066】には,3mmという厚手の平板であっても,「色素E」を「ポリカーボネート樹脂」に対して「500ppm」すなわち,0.05wt%含有させた実施例(実施例1及び実施例4)が開示されている(当合議体注:引用文献1の【0012】に記載のとおり,この含有量は,重量基準である。)。
そうしてみると,引用発明の「色素E」及びその「濃度」(含有率)を,「キノリン系色素」及び「0.04wt%以上,1wt%以下」とすることは,引用文献1に記載された範囲内の事項といえる。

相違点5についても,同様である。すなわち,引用発明の「色素D」の具体例として,引用文献1の【0041】には,「アンスラキノン系染料」(本件補正後発明でいう「アントラキノン系染料」)が,唯一の具体例として挙げられている。また,その含有率は,フィルターの厚さにも依存すると認められるが,例えば,引用文献1の【0065】及び【0066】には,3mmという厚手の平板であっても,「色素D」を「ポリカーボネート樹脂」に対して「500ppm」すなわち,0.05wt%含有させた実施例(実施例1及び実施例4)が開示されている。
そうしてみると,引用発明の「色素D」及びその「濃度」(含有率)を,「アントラキノン系色素」及び「0.04wt%以上,1wt%以下」とすることは,引用文献1に記載された範囲内の事項といえる。

(7) 発明の効果について
本件補正後発明の効果は,「赤外線透過特性,可視光遮断特性および耐候性に優れる光学性層を得ることができる。」(【0015】)というものであるところ,このような効果は,引用発明を引用文献2に記載の用途に転用する当業者が期待する範囲内のものにすぎない。

(8) 審判請求人の主張について
審判請求人は,審判請求書において,本件補正後発明は,所定の化学構造を有するポリカーボネート(ビスフェノール型ポリカーボネート)とともに,第1光吸収剤としてのキノリン系色素,第2光吸収剤としてのアントラキノン系色素および第4光吸収剤としてのトリアジン系化合物を,それぞれ,所定の割合で含有することにより,これらが相乗的に作用しあい,優れた効果が得られる点に特徴を有していると主張する。

そこで,本件出願の発明の詳細な説明の記載を確認する。
本件出願の明細書の【0036】及び【0037】には,それぞれ,「ポリカーボネートとしては,特に限定されず,各種のものを用いることができるが,中でも,芳香族系ポリカーボネートであることが好ましい。」及び「この芳香族系ポリカーボネートは,例えば,ビスフェノールとホスゲンとの界面重縮合反応,ビスフェノールとジフェニルカーボネートとのエステル交換反応等により合成される。」と記載されている(下線は当合議体が付した。)。これら記載からみて,本件出願において,「ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネート」は,単に好ましい例として挙げられたものにすぎず,これは,引用文献1の場合(引用文献1の【0020】?【0022】)と同程度の開示にすぎない。
本件出願の明細書の【0043】及び【0045】には,それぞれ,「第1光吸収剤は,波長が300nm以上,550nm以下の光を吸収するものである。この第1光吸収剤は,例えば,キノリン系色素を用いることができる。」及び「基材層1における第1光吸収剤の含有率は,特に限定されないが,0.001wt%以上,10wt%以下であるのが好ましく,0.002wt%以上,1.0wt%以下であることがより好ましく,0.005wt%以上,0.3wt%以下であるのがさらに好ましい。」と記載されている。これら記載からみて,本件出願において,「前記第1光吸収剤は,キノリン系色素であり,前記第1層における含有率が,0.01wt%以上,1.0wt%以下」という事項は,単に好ましいものとして挙げられているにすぎず,これは,引用文献1の場合(引用文献1の【0041】及び【0042】)と同程度の開示にすぎない。
本件出願の明細書の【0046】及び【0048】には,それぞれ,「第2光吸収剤は,波長が450nm以上,800nm以下の光を吸収するものである。この第2光吸収剤としては,例えば,アントラキノン系色素を用いることができる。」及び「基材層1における第2光吸収剤の含有率は,特に限定されないが,0.001wt%以上,10wt%以下であるのが好ましく,0.002wt%以上,1.0wt%以下であることがより好ましく,0.005wt%以上,0.3wt%以下であるのがさらに好ましい。」と記載されている。これら記載からみて,本件出願において,「前記第2光吸収剤は,アントラキノン系色素であり,前記第1層における含有率が,0.04wt%以上,1wt%以下」という事項は,単に好ましいものとして挙げられているにすぎず,これは,引用文献1の場合(引用文献1の【0041】及び【0042】)と同程度の開示にすぎない。
本件出願の明細書の【0052】及び【0055】には,それぞれ「第4光吸収剤は,波長が100nm以上,400nm以下の光を吸収する紫外線吸収剤である。前記紫外線吸収剤としては,特に限定されないが,トリアジン系化合物,ベンゾフェノン系化合物,ベンゾトリアゾール系化合物,シアノアクリレート系化合物が挙げられ,これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも特に,トリアジン系化合物が好ましく用いられる。」及び「基材層1における前記紫外線吸収剤の含有率は,特に限定されないが,0.1wt%以上,24wt%以下であるのが好ましく,1wt%以上,10wt%以下であることがより好ましい。」と記載されている。これら記載からみて,本件出願において,「前記第4光吸収剤は,トリアジン系化合物であり,前記第1層における含有率が,1wt%以上,10wt%以下」という事項は,単に好ましい事項として挙げられているにすぎず,また,これが,引用発明の転用に際して,当業者が採用し得る事項であることは,前記(6)アで述べたとおりである。
本件出願の明細書には,「所定の化学構造を有するポリカーボネート(ビスフェノール型ポリカーボネート)とともに,第1光吸収剤としてのキノリン系色素,第2光吸収剤としてのアントラキノン系色素および第4光吸収剤としてのトリアジン系化合物を,それぞれ,所定の割合で含有することにより,これらが相乗的に作用しあい,優れた効果が得られる」といった記載は存在しない。
さらにすすんで,実施例の記載をみると,本件出願の明細書の【0075】?【0102】に記載された実施例は,本件補正後発明の実施例ではない(第1光吸収剤,第2光吸収剤及び第4光吸収剤を含み,第3光吸収剤を含まない実施例は記載されていない。)。
念のため,各実施例及び比較例を参照すると,実施例(実施例1A?実施例4A及び実施例1B?実施例4B)からは,第1光吸収剤?第3光吸収剤を必要量含有すると,十分な可視光平均透過率(遮蔽率)が得られること,そして,第1光吸収剤?第3光吸収剤のいずれかが欠けるか,不足すると,その光吸収剤に対応する波長範囲の可視光平均透過率(遮蔽率)が悪化するという,当業者が想定し得る範囲の実施例が開示されているにとどまり,審判請求人が主張する相乗的な作用は,確認できない。また,実施例と比較例は,第4吸収剤(紫外線吸収剤)の有無を確認したにすぎず,「ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネート」以外の樹脂との比較例や,「キノリン系色素」以外の色素との比較例や,「アントラキノン系色素」以外の色素との比較例は,開示されていない。含有量についてみても,同様である。
以上のとおりであるから,請求人の主張は採用できない。

(9) 小括
本件補正後発明は,引用文献2に記載された事項を心得た当業者が,引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2010-2704号公報(引用文献1)に記載された発明,特開2004-198617号公報(引用文献2)に記載された事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用文献及び引用発明
引用文献1及び引用文献2の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(1)?(3)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から,前記「第2」[理由]1(3)で挙げた[A]?[D]の限定を除いたものである。
ここで,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の発明特定事項を付加したものである本件補正後発明は,前記「第2」[理由]2(4)?(9)に記載したとおり,引用文献1に記載された発明,引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると,本願発明も同様に,引用文献1に記載された発明,引用文献2に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-03-03 
結審通知日 2020-03-10 
審決日 2020-03-24 
出願番号 特願2017-223184(P2017-223184)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三笠 雄司野尻 悠平  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 高松 大
樋口 信宏
発明の名称 光学性層  
代理人 増田 達哉  

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