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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65H
管理番号 1362197
審判番号 不服2018-14783  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-06 
確定日 2020-05-14 
事件の表示 特願2017-119875「シート処理装置及び画像形成システム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月24日出願公開、特開2017-206388〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年1月31日(優先権主張 平成24年4月10日)に出願した特願2013-017520号の一部を、平成29年6月19日に新たな特許出願としたものである。そして、平成30年4月26日付けの拒絶の理由の通知に対し、同年7月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月26日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して同年11月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたが、当該手続補正書によりなされた手続補正は令和1年10月30日付けの補正の却下の決定により却下され、同日付で当審により通知された拒絶の理由に対し、令和1年12月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
複数の凸部を有しシート束を綴じる綴じ手段を備え、
前記綴じ手段は、1回の綴じ動作によって、複数の圧着痕を同時に形成し、
前記圧着痕の形状は、縦長形状であり、
前記圧着痕の一方の短辺は、前記シート束の隣接する二辺に対して傾斜した直線の上に形成されており、
前記複数の圧着痕は、隣接する圧着痕の対向する長辺の間隔が等しい複数の圧着痕のまとまりを1つの圧着痕群と見た場合、複数の圧着痕群に分けることができ、
隣接する前記複数の圧着痕群の境目を挟んで隣接する圧着痕の対向する長辺の間隔は、前記圧着痕群を構成する前記複数の圧着痕のうち隣接する圧着痕の対向する長辺の間隔よりも広く、
前記凸部は、前記複数の凸部の並び方向と直交する方向から見た場合、前記綴じ手段の噛み合い方向において互いに近づくように傾斜する2つの辺と、前記2つの辺の対向する前記噛み合い方向端部を結ぶ辺からなることを特徴とするシート処理装置。」

第3 当審における拒絶の理由
令和1年10月30日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由3は、次のとおりのものである。
本願の請求項1ないし請求項11に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2004-155537号公報
引用文献3:国際公開第2009/110298号パンフレット

第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1
(1)引用文献1の記載
令和1年10月30日付けで当審が通知した拒絶の理由で引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は合議体が付したものである。以下同様である。)
ア.「【0068】
(用紙後処理装置及び用紙綴じ方法)
用紙後処理装置30は、図2に示すように、その綴じ位置に、綴り部材として金属針を使用しないエンボス方式の用紙綴じ部33を少なくとも一セット具備している。この用紙綴じ部33は、図3に示すように、複数の凸部33aを有する押圧部33Aと、複数の凹部33bを有する受部33Bとを上下に対向させた状態で具備しており、図示省略のソレノイド等の駆動源により、その押圧部33Aと受部33Bとが互いに重ね合わされるように、図示の例では、互いに上下に接離動作するように構成されており、かつ、その綴じ位置に搬入された用紙の枚数を検出する枚数検出手段(図示省略)を具備している。
【0069】
押圧部33Aの凸部33aは、受部33Bの凹部33bに嵌め込まれる(嵌合する)大きさに形成され、各凹部33bに対して、各凸部33aが差し込まれるように、押圧部33Aと受部33Bの相対対応位置状態が設定されている。なお、上記凸部33a及び凹部33bの断面形状は、特に限定されるものではなく、図示のような矩形状の他、例えば、円形状、楕円形状、四角形状、三角形状、あるいは、これらの形状を2つ以上組み合わせたもの等々であってもよい。」

イ.図3は、以下のとおりのものである。


ウ.「【0070】
このようなエンボス方式の用紙綴じ部33では、上述の記録部40にて画像が記録された用紙を、押圧部33Aと受部33Bの間に差し込み、その押圧部33Aと受部33Bによって用紙が挟まれ圧着されることによって綴じ合わされる。つまり、用紙綴じ部33では、記録部40から搬送されてきた用紙が、押圧部33Aと受部33Bとの間の所定の綴じ位置にて、一旦ストックされ、用紙が所定枚数に達すると、これらの用紙を重ね合わせた状態で、良好な整合状態を得るための位置合わせが行われる。次いで、押圧部33Aと受部33Bとを接近させ、用紙を挟み込んで圧着する。これにより、用紙は互いに綴じ合わされる。
【0071】
押圧部33Aと受部33Bとの間に挟み込まれた用紙には、上記凸部33a及び凹部33bの形状に対応する凹凸(エンボス)が形成される。具体的には、例えば、図4に示すように、用紙Pの一角にて、一列に並んだ凹凸(エンボス)eが、重ね合わされた用紙Pの表面から突出しないように(上から見ると凹状に)形成されている。」

エ.図4から、次の事項が看て取れる。
(ア)凹凸(エンボス)eの形状が上から見ると縦長形状であること。
(イ)用紙Pの一角に形成される一列に並んだ凹凸(エンボス)は、7個の凹凸e(エンボス)からなること。
(ウ)凹凸(エンボス)eは、一方の短辺が、用紙Pの隣接する二辺に対して傾斜した一の直線の上に形成されていること。
(エ)隣接する凹凸(エンボス)eの対向する長辺の間隔が等しいこと。
また、図4は、以下のとおりのものである。


(2)引用発明1
上記(1)の事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「複数の凸部33aを有する押圧部33Aと、複数の凹部33bを有する受部33Bとを上下に対向させた状態で具備する、用紙綴じ部33を具備し、
前記用紙綴じ部33は、駆動源により、前記押圧部33Aと前記受部33Bとが互いに重ね合わされるように、互いに上下に接離動作するように構成されており、用紙は、重ね合わされた状態で、押圧部33Aと受部33Bとを接近させ、挟み込んで圧着することで、互いに綴じ合わされるものであり、
前記押圧部33Aと前記受部33Bとの間に挟み込まれた前記用紙の一角には、上記凸部33a及び凹部33bの形状に対応して、一列に並んだ凹凸(エンボス)が、重ね合わされた前記用紙の表面から突出しないように上から見ると凹状に形成され、前記一列に並んだ凹凸(エンボス)は、7個の凹凸(エンボス)からなり、
前記凹凸(エンボス)は、上から見ると縦長形状であり、一方の短辺が前記用紙の隣接する二辺に対して傾斜した一の直線の上に形成されており、隣接する凹凸(エンボス)の対向する長辺の間隔が等しい、
用紙後処理装置30。」

2.引用文献3
(1)引用文献3に記載された事項
令和1年10月30日付けで当審が通知した拒絶の理由で引用された引用文献3には、以下の事項が記載されている。
ア.「[0014]本発明の請求項7記載の綴じ部材は、重ねた複数枚の紙の厚さ方向の両側から、凹凸が連なった形状の綴じ部材同士を、圧力を掛けて噛合わし、紙の繊維を絡み合わせることにより、上記複数枚の紙を綴じ込む方法において、少なくとも一方の当該綴じ部材の綴じ込みに関わる凹凸部は、間隔をもって配置されている形状を有していることを特徴としている紙を綴じ込む為の綴じ部材、及び、上記請求項1乃至請求項6記載の紙を綴じ込む為の綴じ部材である。
この発明によれば、少なくとも一方の当該綴じ部材の綴じ込みに関わる凹凸部は、間隔をもって配置されている形状を有していることを特徴としている。
もし、全域に凹凸の連なっている綴じ部材で、週刊誌などの雑誌の綴じ込み部分の全域に圧力を掛ける場合は、相当の圧力が必要となる。そこで、従来のように金属製綴じ針で綴じられているように2箇所もしくは5箇所位の位置に凹凸部が配されているような形状の当該綴じ部材であると、噛合わされる綴じ込み部分が長尺のものより、短い方が紙に対する食い込みがよくなり、綴じ込み強度があり圧力も少なくてよい。又、各々が単独にて綴じ込み強度を保有するので、万一、1箇所で綴じ込み部分は剥がれても、それは1箇所の範囲で済み、連動的に他の綴じ込み部分には及ばない。又、凹凸部が間隔をおいてある為、加圧に対するエネルギーの減少にも繋がる。 尚、凹凸形状の綴じ部は、綴じ部材の中で所定の間隔で分割して配置してもよいし、分割された1箇所単位の中においても交互にするなど間隔をもって配置してもよい。更に、いずれか一方の綴じ部材の凹凸部において、間隔的に凹凸をなくするか、凸の山の高さ極端に低くするかによっても同じ効果がある。又、綴じ部材を幅広くし、凹凸部分を広範囲に散点状にして散りばめれば、散点の数によって綴じ込み強度を高めたり和らげたりすることもでき、和らげた場合、ぱらぱらと軽快に剥がす機能も兼ね備えることができる。
本発明では、綴じ部材において、凹凸部の間隔を所定やランダムか、必要とされる部分などに連続してか、もしくは単独で設けておけば、全体的には、より綴じ込み強度が保たれる。
本発明はカートンやダンボール製箱の製函にも利用できる。従来、これら紙製箱の接着はほとんどが糊使用であるか、金属製綴じ針を使用しているが、本発明を使用することにより、資材削減を含め環境保護改善に寄与するものである。
上記は本発明の方法によって複数枚の紙を綴じるための綴じ込み方法であるが、一方、請求項1での説明のように、綴じ込み部分の長手方向に対しての垂直方向では引っ張られる力には強いが、反面、長手方向の縦方向に引っ張られると、綴じ込み部分の端部から剥がれ易い構造でもあるが、この剥離性を持ち兼ねていることも本発明の特徴である。この特徴を生かして、本発明をカレンダーやメモ帳、送り状などに用いることが可能である。綴じ部材の凹凸部分の幅の加減によっても、綴じ込み強度の加減は可能であり、これらの作用を用いて、用途別に綴じ込み強度を選択できるものである。
尚、綴じ込みされた上記複数枚の厚みは、綴じ込みする以前の厚みとほぼ変わらず、積み重ねてもかたがりは生じない。
また、本発明で使用する紙の種類としてはアート紙、コート紙などの塗工紙やマット紙、中質紙、上質紙、再生紙、ボール紙など本発明に適すものであれば種類は問わない。
本発明での綴じ込み部分は、湿気等においても、実際冬季間に屋外に3日放置した場合のテストや雨水が染みた場合であっても、使用には差し支えるものではなく、また、乾けば元の綴じ込み強度に戻り、更に、高い温度でも同様の強度を保有し、且つ、長期間の保存にも耐え得るものである。」

イ.「[0089]本実施の形態は、図16乃至図21に示すように本発明を適用したものである。 図16に示すように、凹凸の連なった形状をした長尺の綴じ部材41、42であるが、綴じ部材41、42には凸の高さが所定の高さのものと、低い凸の形状があり、双方の綴じ部材の凹凸は所定の間隔をもって散点状に配置されている。また、低い凸に対面する部分は凹凸が連なっていない部分がある。重ねた複数枚の冊子用紙を綴じ部材41と42の間に挟み、上下から圧力を掛けると、全体にかかる紙の繊維の負荷が隙間43によって和らぎ、繊維の限界を超えた伸長が回避されて破れずに絡み合うこととなり、このため、綴じ込み強度が保たれることとなる。また、所定の間隔をもっているため、凹凸部分が、紙の繊維に対して食いつきが強くなる。凸部の高い方は上記重ねた複数枚の紙の内側部分の綴じ込み強度を、低い方は外側部分の綴じ込み強度を高めるよう、各々の領域を分担するものである。
本実施の凹凸の形状の綴じ部材を輪転機に取り付けることも可能であり、また歯車形状の部材にも応用できる。これについてもエンドレスで綴じ作業が可能であり、作業工程も早く、且つ構造も簡単である。尚、図面は約5倍の拡大図であり、本実施では長尺であるが短く表している。
図17に示すように、17aでは、B3サイズのチラシT2の中心から一方の周縁にインクによる印刷44が施されている。17bでは折線45で二つ折りにしたB4サイズチラシT2の折辺以外の3方側の周縁に沿って、綴じ部材41、42により綴じ込み46を行う。インクによる印刷の作用と綴じ部材によって、大きさが2分の1に縮小されて綴じ合わされる。縮小によって新聞折込料が割引となり(一部地域によってはならない)、また、ぱらぱらと開封できるので心地よさがあり、チラシとしてはインパクトもある。製造工程としては折りたたんだ後に綴じ部材により圧力を掛けるだけでよく、糊を使った場合は広範囲に粘着性の科学糊を使わざるを得なく、また、その大型の装置が必要となる。
さらに図18に示すように、18aには、B4サイズのチラシT3であり、中央シート47には左右に48、49のシートが連接されている。シート48、49の上下の周縁にはインクによる印刷50が施されている。折線51及び52で左右のシートを内側に折り曲げると、16bに示すようにB4サイズに縮小される。シート48、49は中央シートの二分の一以下であるため、中央部分にはかさらない部分がある。更に、内側に隠れている印刷部分の上から周縁に沿ってと綴じ部材41、42により綴じ込み53を行う。受取人は中央部分の方から、矢印の方向に見開きすれば、容易に剥離し、見ることができる。大きさが約2分の1に縮小されて綴じ合わされるため縮小によって新聞折込料が割引となる(一部地域によってはならない)。また、ぱらぱらと開封できるので心地よさがあり、チラシとしてはインパクトもある。製造工程としては折り畳んだ後に綴じ部材により圧力を掛けるだけでよく、糊を使った場合は広範囲に粘着性の科学糊を使わざるを得なく、また、その大型の装置が必要となる。
図19に示すように、19aでは綴じ部材5,6で半折部分に綴じ込み54をした冊子S2である。表紙55と裏表紙56のみ、中面より横幅が2センチ位広くなっている。19bでは、この幅広くなっている2枚の表紙を付き合わせ、凹凸が連なった形状で散点状となっている綴じ部材41,42により、綴じ込み部分57で綴じられている。この形態のままメール便などとして発送することができる。受取人は綴じられている2枚の表紙と裏表紙を剥がせば中の冊子を読むことが出来、封筒や帯封が不要となり環境にやさしい。 図20の20aに示すように、本発明を新聞に利用したものである。従来、新聞は折りたたんで重ね合わせてあるだけなので、広げてめくっているうちに、ばらばらになってしまい、読み終わったあと、綺麗に畳めず、畳み直すことが多々ある。このため、新聞を挟み込んで架ける器具もあるが、半折した部分が挟まれているので、中心の折り畳み部分の記事が見れなくなる不便さがあった。また、喫茶店などではホッチキスでとめていることでばらばらになることを防いでいる。 重ね合わされた複数枚の新聞紙S3を中心の折り畳み線に、凹凸が連なった形状で散点状となっている綴じ部材41、42により、綴じ込み部分58で綴じられている。本実施を行う場合、丁合して重なり合った状態のとき、20bの歯車形状の綴じ部材で綴じ込みされる。この歯車形状の綴じ部材には、綴じ部材41、42の形状の凹凸部を取り付けてある。その際は、印刷速度と同調させることが必要であるが、綴じ部材については、ある程度の綴じ込み強度があれば良いので、若干負荷の掛からない綴じ部材5,6の凹凸部を組み合わせてもよい。また、本実施に適する綴じ部材を図26に示すように輪転機に取り付けて、高速に綴じ込みと同時に切断をし、折り畳み工程へ移行する。
図21に示すように、21aではB2サイズのチラシT4をB3サイズに半切する切り取り線59があり、切り取り線の下方の左右中央部分にはインクによる印刷部分60がある。21bでは、半切され、重ね合わせしたチラシT4の中心線上には、所定の間隔をもって散点状に配置されている綴じ部材41、42により、綴じ込み61がされている。 従来B2サイズのチラシを見る場合、B2サイズのチラシは大型であるので、情報の記載量も大きくインパクトはあるものの、視点が定まらず、情報が分散するきらいがあった。本実施形状は冊子状となっているため、ページ毎の商品分類や日付毎の記載が可能で、見る者も、整理されているので分かり易くなる。
生産工程は上記新聞と同様に歯車での綴じ込み部材のほか輪転機に綴じ部材41,42をセットしても生産できる。尚、綴じ部材の形状は綴じ部材41,42に限らず、状況によりいろいろと選定できる。
なお、本実施では綴じ込み箇所にインクなどの印刷を事例としてあるが、本実施の印刷インクは通常オフセット印刷や凸版印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷などに使われている油性インクであるが、その他、大豆製など植物性インクや水性インク(染料・顔料)、樹脂系インク、ニスなど印刷に使用できるものであれば種類を問わない。平網のほか模様、写真などでも可能で、なお、本実施は片面のみであるが、適度な印刷濃度であれば、冊子用紙の重なり合う面の両面に印刷をしてもよい。」

ウ.図16は、以下のとおりのものである。


エ.図17ないし図19から、以下の事項が看て取れる。
(ア)複数の綴じ込み(46、53、57)が、隣接する綴じ込み(46、53、57)と間隔をもって形成されること。
(イ)綴じ込み(46、53、57)が、複数の線状体から構成されること。
(ウ)隣接する綴じ込み(46、53、57)の境目を挟んで隣接する線状体の対向する長辺の間隔は、綴じ込み(46、53、57)を構成する複数の線状体のうち隣接する線状体の対向する長辺の間隔よりも広いこと。
また、図17ないし図19は、以下のとおりのものである。


(2)引用発明3
上記(1)の事項を総合すると、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「重ねた複数枚の紙の厚さ方向の両側から、凹凸が連なった形状の綴じ部材同士を、圧力を掛けて噛合わし、紙の繊維を絡み合わせることにより、前記複数枚の紙を綴じ込む方法において、双方の当該綴じ部材の綴じ込みに関わる凹凸部は、間隔をもって配置されている形状を有している、紙を綴じ込む為の綴じ部材であって、
前記綴じ部材による前記綴じ込みは、複数の線状体から構成されるとともに、隣接する綴じ込みと間隔をもって複数形成され、
隣接する綴じ込みの境目を挟んで隣接する前記線状体の対向する長辺の間隔は、前記綴じ込みを構成する複数の前記線状体のうち隣接する前記線状体の対向する長辺の間隔よりも広い、
綴じ部材。」

第5 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

後者の「凸部33a」は、前者の「凸部」に相当する。
後者の「用紙」は「重ね合わされた状態」で「挟み込んで圧着することで、互いに綴じ合わされるもの」であるから、後者の「(重ね合わされた状態の)用紙」は、前者の「シート束」に相当する。
後者の「用紙綴じ部33」は、前者の「綴じ手段」に相当する。
後者の「凹凸(エンボス)」は、前者の「圧着痕」に相当する。
後者の「一列に並んだ凹凸(エンボス)」は、「7個の凹凸(エンボス)」からなるから、前者の「複数の圧着痕」に相当する。
後者の「用紙綴じ部33」は、「前記押圧部33Aと前記受部33Bとが互いに重ね合わされるように、互いに上下に接離動作するように構成」された、「複数の凸部33aを有する押圧部33Aと、複数の凹部33bを有する受部33B」が、重ね合わされた状態の用紙の一角を挟み込んで圧着することで、用紙の一角に「上記凸部33a及び凹部33bの形状に対応して、一列に並んだ凹凸(エンボス)」を形成するものであるから、前者の「1回の綴じ動作によって、複数の圧着痕を同時に形成」するとの動作を行うことは明らかである。
後者において、「凹凸(エンボス)は、上から見ると縦長形状」であるから、後者の「(凹凸(エンボス)の)上からみると縦長形状」は、前者の「圧着痕の形状」に相当する。
後者の「凹凸(エンボス)」は、「一方の短辺が前記用紙の隣接する二辺に対して傾斜した一の直線の上に形成されて」いるから、後者の「凹凸(エンボス)の一方の短辺」は、前者の「(前記シート束の隣接する二辺に対して傾斜した直線の上に形成されている)圧着痕の一方の短辺」に相当する。
後者の「一列に並んだ凹凸(エンボス)」は、「7個の凹凸(エンボス)」からなり、「隣接する凹凸(エンボス)の対向する長辺の間隔が等しい」ものであるから、前者の「隣接する圧着痕の対向する長辺の間隔が等しい複数の圧着痕のまとまり」であるといえる。したがって、後者の「一列に並んだ凹凸(エンボス)」は、前者の「1つの圧着痕群」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明1とは、
「複数の凸部を有しシート束を綴じる綴じ手段を備え、
前記綴じ手段は、1回の綴じ動作によって、複数の圧着痕を同時に形成し、
前記圧着痕の形状は、縦長形状であり、
前記圧着痕の一方の短辺は、前記シート束の隣接する二辺に対して傾斜した直線の上に形成されている、
シート処理装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本願発明の「前記複数の圧着痕」は、「隣接する圧着痕の対向する長辺の間隔が等しい複数の圧着痕のまとまりを1つの圧着痕群と見た場合」に、「複数の圧着痕群に分けることができ、隣接する前記複数の圧着痕群の境目を挟んで隣接する圧着痕の対向する長辺の間隔は、前記圧着痕群を構成する前記複数の圧着痕のうち隣接する圧着痕の対向する長辺の間隔よりも広」いものであるのに対し、引用発明1の「一列に並んだ凹凸(エンボス)」は、「隣接する圧着痕の対向する長辺の間隔が等しい複数の圧着痕のまとまりを1つの圧着痕群と見た場合」に1つの圧着痕群であり、「複数の圧着痕群に分けることができ、隣接する前記複数の圧着痕群の境目を挟んで隣接する圧着痕の対向する長辺の間隔は、前記圧着痕群を構成する前記複数の圧着痕のうち隣接する圧着痕の対向する長辺の間隔よりも広」いものでない点。

<相違点2>
本願発明は、「前記凸部は、前記複数の凸部の並び方向と直交する方向から見た場合、前記綴じ手段の噛み合い方向において互いに近づくように傾斜する2つの辺と、前記2つの辺の対向する前記噛み合い方向端部を結ぶ辺からなる」のに対し、引用発明1の凸部33aは、そのような構成を有しない点。

第6 判断
(1)相違点1について
引用発明3は、引用発明1と、重ね合わせた用紙を挟み込んで圧着する圧着綴じ装置に関するものである点で、共通の技術分野に属し、かつ、共通の機能を有するものである。
加えて、引用発明3において、「双方の当該綴じ部材の綴じ込みに関わる凹凸部は、間隔をもって配置」し「前記綴じ部材による前記綴じ込みは、複数の線状体から構成されるとともに、隣接する綴じ込みと間隔をもって複数形成され、隣接する綴じ込みの境目を挟んで隣接する前記線状体の対向する長辺の間隔は、前記綴じ込みを構成する複数の前記線状体のうち隣接する前記線状体の対向する長辺の間隔よりも広」くなるようにする目的は、「紙に対する食い込みがよくなり、綴じ込み強度があり圧力も少なくてよい」(引用文献3の[0014])ようにしたり、「1箇所で綴じ込み部分は剥がれても、それは1箇所の範囲で済み、連動的に他の綴じ込み部分には及ばない」(引用文献3の[0014])ようにしたりすることにあると認められる。そして、かかる目的を達成することが、引用発明3の課題として把握されるところ、当該課題は、引用発明3のみならず、圧着綴じの技術分野における一般的な課題と認められるから、引用発明1と引用発明3の課題は共通している。

したがって、引用発明1の、複数の凸部33aを有する押圧部33Aと、複数の凹部33bを有する受部33Bに対して、綴じ込みに関わる凹凸部が間隔をもって配置される引用発明3の綴じ部材の構成を適用することで、用紙に形成される隣接する凹凸(エンボス)の対向する長辺の間隔が等しい一列に並んだ凹凸(エンボス)が、隣接する「複数の凹凸(エンボス)」と間隔をもって複数形成される「複数の凹凸(エンボス)」から構成されるように変更し、隣接する「複数の凹凸(エンボス)」の境目を挟んで隣接する凹凸(エンボス)の対向する長辺の間隔が、「複数の凹凸(エンボス)」を構成する複数の凹凸(エンボス)のうち隣接する凹凸(エンボス)の対向する長辺の間隔よりも広くなるようにして、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

(2)相違点2について
圧着綴じの技術分野において、綴じ手段を構成する凸部のそれぞれを、凸部の並び方向と直交する方向から見た場合、前記綴じ手段の噛み合い方向において互いに近づくように傾斜する2つの辺と、前記2つの辺の対向する前記噛み合い方向端部を結ぶ辺からなる形状とすることは、本願の優先日前に周知の技術的事項(以下、「周知技術」という。)であった(必要であれば、冊子の表紙面側の美観の向上を目的としたものである引用文献3の[0085]及び図10、綴じ込み強度の低下の防止を目的としたものである国際公開第2011/018897号パンフレットの【0022】、【0023】、【0027】、図3、4及び8、さらに、特開2011-11913号公報(原査定の拒絶の理由において引用文献3として引用された文献)の【0023】及び図3、特開2010-274623号公報の【0042】ないし【0046】及び図12(d)を参照されたい)。

したがって、引用発明1において、凸部33aの形状として上記周知技術における形状を採用し上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、例えば美観の向上や綴じ込み強度を勘案して適切な凸部の形状を選択することであって、当業者が適宜なし得る設計的な事項である。
また、審判請求人は、本願発明は、綴じ手段の凸部の形状を上記相違点2のごとくしたことで、綴じ強度が向上し、圧着痕周辺の見た目の低下が防止される効果が得られると主張しているが、当該効果は、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を備えた上記周知技術の綴じ手段が備える効果であると認められるため、当該効果を、引用発明1及び周知技術と比べて有利な効果として参酌することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された発明、並びに、上記周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-02-21 
結審通知日 2020-02-25 
審決日 2020-03-31 
出願番号 特願2017-119875(P2017-119875)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B65H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五閑 統一郎  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 藤田 年彦
河内 悠
発明の名称 シート処理装置及び画像形成システム  
代理人 宗像 孝志  

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