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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1362303
異議申立番号 異議2019-700658  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-22 
確定日 2020-03-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6482463号発明「活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物、粘着剤及び粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6482463号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6482463号の請求項1、2、4?6に係る特許を維持する。 特許第6482463号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6482463号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年6月26日(優先権主張 平成26年6月30日 日本国)に国際出願され、平成31年2月22日にその特許権の設定登録がされ、同年3月13日にその特許掲載公報が発行された。
その後、当該発行日から6月以内にあたる、令和元年8月22日に本件特許発明1?6に対して千阪実木(以下、「異議申立人」という)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続きの経緯は次のとおりである。
令和元年10月30日付け 取消理由通知
同年12月23日 意見書・訂正請求書(特許権者)
2年 1月14日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、令和2年1月14日付け訂正請求があった旨の通知に対し、異議申立人は、指定期間内に何らの応答もしていない。

第2 訂正の適否
1 訂正請求の趣旨及び内容
令和元年12月23日の訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という)の「請求の趣旨」は、「特許第6482463号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1?5のとおりである(なお、訂正に関連する箇所に下線を付した)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「ポリブタジエン系ポリオール(a1)、多価イソシアネート系化合物(a2)、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)、およびエチレン性不飽和モノマー(B)(但し、(A)を除く。)を含有してなる活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物であり、
前記ポリブタジエン系ポリオール(a1)が、ブタジエンが1,4結合して得られるポリブタジエン構造を15?50モル%含有するポリブタジエン系ポリオールであることを特徴とする活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物。」と記載されているのを、
「ポリブタジエン系ポリオール(a1)、多価イソシアネート系化合物(a2)、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)、およびエチレン性不飽和モノマー(B)(但し、(A)を除く。)を含有してなる活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物であり、
前記ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が5,000?50,000であり、
前記ポリブタジエン系ポリオール(a1)が、ブタジエンが1,4結合して得られるポリブタジエン構造を15?50モル%含有するポリブタジエン系ポリオールであることを特徴とする活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4?6も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記組成物を活性エネルギー線照射により硬化して得られる粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(6)以上、かつ、粘着剤層のガラス転移温度が-30℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物。」と記載されているのを、
「前記組成物を下記条件で硬化して得られる粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(6)以上、かつ、粘着剤層のガラス転移温度が-30℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物。
(硬化条件:活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を、膜厚175μmとなるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)に塗布し、積算光量2,400mJ/cm^(2)の条件下で紫外線を照射し、硬化させる。)」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4?6も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の「請求項1?3いずれか1項」を「請求項1または2」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5?6も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1?4いずれか1項」を「請求項1、2、4いずれか1項」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、明細書の段落【0045】における「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量は、5,000?100,000であることが好ましく、…、更に好ましくは10,000?50,000である。」との記載に基づいて、訂正前の請求項1に記載されていたウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)を「重量平均分子量が5,000?50,000」のものに限定するものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものであるとともに、同法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、訂正事項1は、上記のとおり、訂正前の請求項1に記載されていたウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、明細書の段落【0103】における「上記実施例1?9、比較例1で得られた活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を、膜厚175μmとなるように剥離ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ50μm)にアプリケーターを用いて塗布し、卓上UV照射装置(岩崎電気社製、「コンベア式卓上照射装置」)にて80W/cm(高圧水銀ランプ)×18cmH×2.04m/min×3Pass(積算2,400mJ/cm^(2))の条件下で紫外線を照射し、硬化させることにより弾性率測定用粘着シートを得た。」との記載に基づいて、訂正前の請求項2に記載されていた「活性エネルギー線照射により硬化」を、「下記条件で硬化」、「(硬化条件:活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を、膜厚175μmとなるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)に塗布し、積算光量2,400mJ/cm^(2)の条件下で紫外線を照射し、硬化させる。)」と明瞭化するものである。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものであるとともに、同法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
また、当該訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(3)訂正事項3?5
訂正事項3は請求項3を削除するものであり、訂正事項4、5は、請求項4、5の引用対象から、訂正事項3により削除された請求項3を除いて明瞭化したものということができるから、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるか、同項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。また、これらの訂正事項が、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を変更し又は拡張するものではないことは明らかであるから、当該訂正事項は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

3 小括
上記1、2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?6について訂正を求めるものであり、その訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正後の、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を「本件特許発明1」などといい、まとめて「本件特許発明」ともいう)。
「【請求項1】
ポリブタジエン系ポリオール(a1)、多価イソシアネート系化合物(a2)、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)、およびエチレン性不飽和モノマー(B)(但し、(A)を除く。)を含有してなる活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物であり、
前記ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が5,000?50,000であり、
前記ポリブタジエン系ポリオール(a1)が、ブタジエンが1,4結合して得られるポリブタジエン構造を15?50モル%含有するポリブタジエン系ポリオールであることを特徴とする活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物。
【請求項2】
前記組成物を下記条件で硬化して得られる粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(6)以上、かつ、粘着剤層のガラス転移温度が-30℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物。
(硬化条件:活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を、膜厚175μmとなるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)に塗布し、積算光量2,400mJ/cm^(2)の条件下で紫外線を照射し、硬化させる。)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
実質的に溶剤を含有しないことを特徴とする請求項1または2に記載の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項1、2、4いずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を硬化してなることを特徴とする粘着剤。
【請求項6】
請求項5記載の粘着剤からなる粘着剤層を有することを特徴とする粘着シート。」

第4 令和元年10月30日付けで通知した取消理由についての判断
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?6に係る発明の特許に対して当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

理由1.(新規性)本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
理由2.(進歩性)本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用例1:特開2013-49765号公報(異議申立人が提出した甲第1号証)
参考例1:国際公開第2017/038845号(異議申立人が提出した甲第2号証)

理由3.(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 取消理由1、2に対する当審の判断
(1)証拠およびその記載事項
引用例1:特開2013-49765号公報(異議申立人が提出した甲第1号証)
参考例1:国際公開第2017/038845号(異議申立人が提出した甲第2号証)
当該引用例1、参考例1には、それぞれ、次の記載がある。

ア 引用例1
摘記1a:請求項1、2
「【請求項1】
下記の不飽和ポリウレタンプレポリマー(A)10?50質量%、下記一般式(1)であらわされる脂環式化合物(B)5?30質量%、下記一般式(2)であらわされるアルキル(メタ)アクリレート(C)10?65質量%、下記一般式(3)であらわされるモノマー(D)5?40質量%、光重合開始剤(E)0.2?5.0質量%を含有することを特徴とする接着部材用組成物。
(A)水添ポリブタジエン構造を含む不飽和ポリウレタンプレポリマー
(B) CH_(2)=C(R^(1))-COO-(R^(2)-O)n-R^(3) (1)
R^(1)はH又はCH_(3)であり、R^(2)はCH_(2)CH_(2)又はCH_(2)CH(CH_(3))であり、R^(3)はシクロアルキル、シクロアルケニル、ビシクロアルキル、ビシクロアルケニル、トリシクロアルキル、トリシクロアルケニルで示されるアルキル又はアルケニルであり、nは0又は1である。
(C) CH_(2)=C(R^(1))-COO-R^(2) (2)
R^(1)はH又はCH_(3)であり、R^(2)は炭素数8から18の直鎖または分岐アルキルである。
(D) CH_(2)=C(R^(1))-COO-(R^(2)-O)n-R^(3) (3)
R^(1)はH又はCH_(3)であり、R^(2)は炭素数2から4のアルキレンであり、R^(3)はH又は炭素数1から4の直鎖または分岐アルキルであり、nは1?10である。
【請求項2】
不飽和ウレタンプレポリマー(A)の水添ポリブタジエン構造が、1,2-ポリブタジエン構造を80質量%以上有するポリブタジエンを水添して得られる水添ポリブタジエンに由来することを特徴とする請求項1記載の接着部材用組成物。」

摘記1b:段落0014、0019、0022
「【0014】
本発明で使用できる不飽和ポリウレタンプレポリマー(A)は、水添ポリブタジエン構造を含む不飽和ポリマーであり、水酸基を有する水添ポリブタジエン(a1)とイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート(a2)と活性水素を有する官能基とエチレン性不飽和結合を分子内にともに有する化合物(a3)とを反応することにより得られる不飽和ポリウレタンプレポリマーである。不飽和ポリウレタンプレポリマー(A)に、水添ポリブタジエン構造を導入することで、柔軟性が向上した接着部材を提供することができる。また、得られる不飽和ポリウレタンプレポリマーは、疎水性の高い水添ポリブタジエン構造と極性の高いウレタン結合の両方を有するため、脂環式化合物(B)、炭素数8から18の直鎖または分岐のアルキル(メタ)アクリレート(C)といった疎水性の高いモノマー類と、ヒドロキシアルキル基もしくはアルキレングリコール鎖を有する親水性の高いモノマー(D)のいずれとも相溶性が良く、また、活性水素を有する官能基とエチレン性不飽和結合を分子内にともに有する化合物(a3)を重合性基として導入しているため共重合性も良好となる。そのため均質で強靭な硬化物となり、リワーク性が向上した接着部材を提供することができる。
・・・(中略)・・・
【0019】
前記水酸基を有する水添ポリブタジエン(a1)を用いることで、水添ポリブタジエン構造を含む不飽和ポリウレタンプレポリマー(A)とすることができ、得られる接着部材はゴム硬度の低い、柔軟な組成物として得られる。水酸基を有するポリブタジエンは、水添することでゴム硬度が低くなり、接着性、柔軟性が向上するため水添ポリブタジエンを用いることが好ましい。1,2-ポリブタジエン構造を80質量%以上有する水添ポリブタジエンが、接着性に優れるため好ましい。
・・・(中略)・・・
【0022】
不飽和ポリウレタンプレポリマー(A)の数平均分子量は10,000以上50,000以下が好ましい。10,000未満となると、得られる接着部材のゴム硬度が高くなり、柔軟性に乏しくなる。そのため、柔軟な接着部材を得るためには数平均分子量は10,000以上が好ましい。数平均分子量が50,000を越えると、モノマー類との相溶性に乏しくなり、均一な接着部材用組成物(F)が得られにくくなるため、モノマー類との相溶性が良好な不飽和ポリウレタンプレポリマー(A)とするには数平均分子量は50,000以下が好ましい。接着性、柔軟性、相溶性がより良好になるためプレポリマーの数平均分子量は、15,000?30,000の範囲がさらに好ましい。ここでいう数平均分子量とは、GPC法を用いたポリスチレン換算平均分子量である。」

摘記1c:段落0045?0049、0054?0055、0058、0060?0061、0064、0066、0068
「【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下において「部」及び「%」は特記しない限りすべて質量基準である。
【0046】
<製造例1>[不飽和プレポリマー(A-1)の製造]
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えたセパラフラスコに水酸基価 47.6mgKOH/g数平均分子量2100の末端水酸基を有する水添ポリブタジエン(GI-2000 日本曹達株式会社製)(a1-1)85.11質量部、及び熱重合禁止剤として2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(以下、BHTと略することがある)0.05質量部を仕込み、そこにポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略することがある(a2-1))10.84質量部を添加し、よく攪拌しながら窒素雰囲気中、60℃で3時間反応させ、プレポリマー前駆体を得た。更に、この反応物に、活性水素を有する官能基とエチレン性不飽和結合を分子内にともに有する化合物として2-ヒドロキシエチルメタクリレート(a3-1)(以下、HEMAと略することがある)3.96質量部、及び触媒としてジブチルスズジラウレート(以下、DBSLと略することがある)0.04質量部を添加し、80℃で3時間反応して、IR測定で2230cm^(-1)のイソシアネート基の吸収ピークが消失したことを確認した。その後、反応容器を冷却し、水添ポリブタジエン構造を含む不飽和ポリウレタンプレポリマーである不飽和プレポリマー(A-1)を得た。
【0047】
<製造例2?5>[不飽和プレポリマー(A-2)?(A-5)の製造]
表1に示した組成で、製造例1と同様の操作を行うことにより、表1に示す数平均分子量の水添ポリブタジエン構造を含む不飽和ポリウレタンプレポリマーである不飽和プレポリマー(A-2)?(A-5)を得た。
【0048】
【表1】

【0049】
表1中の略号の説明
・・・(中略)・・・
(a1-2):数平均分子量3100、水酸基価29.0mgKOH/g、1,2-ポリブタジエン構造が80質量%未満有するポリブタジエンを水添して得られる水酸基を有する水添ポリブタジエン
Krasol HLBH-P3000(Sartomer社製)
(a2-1):イソホロンジイソシアネート
・・・(中略)・・・
(a3-3):ポリプロピレングリコール(n=5)モノメタクリル酸エステル(分子量376)
・・・(中略)・・・
BHT:2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール
DBSL:ジブチルスズジラウレート
・・・(中略)・・・
【0054】
<実施例1>
製造例1で製造した不飽和ポリウレタンプレポリマー(A-1)50.0質量部、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカン-8-イル(B-1)19.0質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル(C-1)10.0質量部、2-メトキシエチルアクリレート(D-1)20.0質量部、光重合開始剤に1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(E-1)1.0質量部をそれぞれ容器に仕込み、約60℃で1時間攪拌することにより、均一透明な接着部材用組成物(F-1)を得た。
【0055】
<実施例2?30>
表2に示した組成に変更する以外は、実施例1と同様にして接着部材用組成物(F-2)?(F-30)を得た。
・・・(中略)・・・
【0058】
【表2】

・・・(中略)・・・
【0060】
表2及び表3中の略号の説明
A:不飽和プレポリマー
B: CH_(2)=C(R^(1))-COO-(R^(2)-O)n-R^(3) (1)
R^(1)はH又はCH_(3)であり、R^(2)はCH_(2)CH_(2)又はCH_(2)CH(CH_(3))であり、R^(3)はシクロアルキル、シクロアルケニル、ビシクロアルキル、ビシクロアルケニル、トリシクロアルキル、トリシクロアルケニルで示されるアルキル又はアルケニルであり、nは0又は1である。
C: CH_(2)=C(R^(1))-COO-R^(2) (2)
R^(1)はH又はCH_(3)であり、R^(2)は炭素数8から18の直鎖または分岐アルキルである。
(D): CH_(2)=C(R^(1))-COO-(R^(2)-O)n-R^(3) (3)
R^(1)はH又はCH_(3)であり、R^(2)は炭素数2から4のアルキレンであり、R^(3)はH又は炭素数1から4の直鎖または分岐アルキルであり、nは1?10である。
E:光重合開始剤
G:シランカップリング剤
H:柔軟性付与剤
I:(B)?(D)以外のエチレン性不飽和単量体

(B-1):メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカン-8-イル
・・・(中略)・・・
(C-1):アクリル酸2-エチルヘキシル
・・・(中略)・・・
(D-1):2-メトキシエチルアクリレート、
・・・(中略)・・・
(E-1):1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン
・・・(中略)・・・
(A-1)?(A-5)、(K-1)?(K-4)は、各々上記製造例1?9で得られた不飽和プレポリマー(A-1)?(A-5)、(K-1)?(K-4)である。
【0061】
前記のようにして得られた接着部材用組成物(F-1)?(F-30)、比較例用接着部材用組成物(J-1)?(J-16)について以下の接着部材の基本物性評価を行なった。結果を表4及び表5に示す。
・・・(中略)・・・
【0064】
<シート部材の作成>
水平に設置したガラス板上に厚さ50μmの剥離処理したPETフィルムを密着させ、更に、剥離処理面に得られた接着部材用組成物(F)または比較例用接着部材用組成物(J)を厚みは50μmとなるように塗布し、更にその上に厚さ38μmの剥離処理したPETフィルムを泡が入らないように貼合させ、波長360nmのケミカルランプ(照度約3mW/cm^(2))を用いて、5分間露光することにより硬化させ、シート部材を作成した。
・・・(中略)・・・
【0066】
<接着部材の接着強度、リワーク性の測定>
先に作製したシート部材を25×100mmの寸法に切断し、38μmの剥離処理したPETフィルムを剥がしてから、露出した接着部材面を厚さ75μmの易接着性PET支持体に貼り合わせた。次いで、50μmの剥離処理したPETフィルムを剥がして、露出した接着部材面を幅30mm×長さ100mm×厚み2.0mmのフロートガラス、および幅30mm×長さ100mm×厚み2.0mmのアクリル板(三菱レイヨン株式会社製の商品名「アクリライトMR-200」)上に気泡の巻き込みなく貼り合わせ、試験片とした。次に、試験片をオートクレーブに入れ、40℃、0.5MPaにて30分間の処理を行った。オートクレーブから取り出し、試験片を23℃湿度50%の条件下にそれぞれ24時間放置した後、各試験片を引張試験機に設置し、23℃湿度50%における180°剥離角度、300mm/分の剥離速度でガラス界面およびアクリル界面からシートを剥離させ、ガラスおよびアクリル板に対する接着強度を測定した。また180°方向に剥離した後、ガラス板表面の状態を目視で観察し、以下の基準に従ってリワーク性を評価した。その結果、ガラス板表面に曇りおよび糊残りが全くみられなければ、良好なリワーク性を示しており、ガラス板表面に曇りおよび糊残りがほとんど見られなかった場合も、実用レベルのリワーク性を示している。一方、ガラス板表面に曇り等が認められた場合、リワーク性に劣ることを示しており、糊残りが認められる場合、リワーク性は実用には適さない結果である。結果を表4及び表5に示す。
○:ガラス板表面に曇りおよび糊残りが全くみられない。
○△:ガラス板表面に曇り等がほとんど認められない。
△:ガラス板表面に曇り等が認められる。
×:ガラス板表面に糊残りが認められる。
・・・(中略)・・・
【0068】
【表4】



イ 参考例1
摘記2a:段落0090
「【0090】[可塑剤]
・・・(中略)・・・
HLBH-P3000:1,2結合率が65%であるポリブタジエンの水素添加物(両末端水酸基水素化ポリブタジエン、Krasol HLBH-P3000)、クレイバレー社製」

(2)引用例1に記載された発明
引用例1には、請求項1(摘記1a)のとおり、「水添ポリブタジエン構造を含む不飽和ポリウレタンプレポリマー(A)10?50質量%、下記一般式(1)(具体的な式及び置換基は摘記1a参照。以下同様)であらわされる脂環式化合物(B)5?30質量%、下記一般式(2)であらわされるアルキル(メタ)アクリレート(C)10?65質量%、下記一般式(3)であらわされるモノマー(D)5?40質量%、光重合開始剤(E)0.2?5.0質量%を含有することを特徴とする接着部材用組成物。」が記載され、段落0014(摘記1b)には、不飽和ポリウレタンプレポリマー(A)が、「水添ポリブタジエン構造を含む不飽和ポリマーであり、水酸基を有する水添ポリブタジエン(a1)とイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート(a2)と活性水素を有する官能基とエチレン性不飽和結合を分子内にともに有する化合物(a3)とを反応することにより得られる不飽和ポリウレタンプレポリマーである」ことも記載されている。また、その実施例7(段落0058、摘記1c参照)には、「不飽和プレポリマー(A-5)30質量%、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカン-8-イル(B-1)14質量%、アクリル酸2-エチルヘキシル(C-1)35質量%、2-メトキシエチルアクリレート(D-1)20質量%、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(E-1)1.0質量%からなる、均一透明な接着部材用組成物(F-7)」が記載され、段落0048(摘記1c参照)には、当該不飽和プレポリマー(A-5)は、「数平均分子量3100、水酸基価29.0mgKOH/g、1,2-ポリブタジエン構造が80質量%未満有するポリブタジエンを水添して得られる水酸基を有する水添ポリブタジエンであるKrasolHLBH-P3000(Sartomer社製)(a1-2)とイソホロンジイソシアネート(a2-1)とポリプロピレングリコール(n=5)モノメタクリル酸エステル(分子量376)(a3-3)とを反応させることにより得られた数平均分子量31000の不飽和ポリウレタンプレポリマー」であることが記載されている。
そうすると、引用例1の実施例7には、「数平均分子量3100、水酸基価29.0mgKOH/g、1,2-ポリブタジエン構造が80質量%未満有するポリブタジエンを水添して得られる水酸基を有する水添ポリブタジエンであるKrasolHLBH-P3000(Sartomer社製)とイソホロンジイソシアネートとポリプロピレングリコール(n=5)モノメタクリル酸エステル(分子量376)とを反応させることにより得られた数平均分子量31000の不飽和ポリウレタンプレポリマー30質量%、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカン-8-イル14質量%、アクリル酸2-エチルヘキシル35質量%、2-メトキシエチルアクリレート20質量%、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン1.0質量%からなる、均一透明な接着部材用組成物」(以下、この発明を「引用例1発明」という)が記載されていると認められる。

(3)本件特許発明1について
ア 対比
引用例1発明の「数平均分子量3100、水酸基価29.0mgKOH/g、1,2-ポリブタジエン構造が80質量%未満有するポリブタジエンを水添して得られる水酸基を有する水添ポリブタジエンであるKrasolHLBH-P3000(Sartomer社製)」、「イソホロンジイソシアネート」、「ポリプロピレングリコール(n=5)モノメタクリル酸エステル(分子量376)」は、それぞれ本件特許発明1の「ポリブタジエン系ポリオール(a1)」、「多価イソシアネート系化合物(a2)」、「水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a3)」に相当するから、引用例1発明においてそれらを反応させることにより得られた「不飽和ポリウレタンプレポリマー」は本件特許発明1の「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物」に相当する。
引用例1発明の「メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカン-8-イル」、「アクリル酸2-エチルヘキシル」、及び「2-メトキシエチルアクリレート」はすべて、本件特許発明1の「エチレン性不飽和モノマー(B)(但し、(A)を除く)」に相当する。
引用例1発明の「均一透明な接着部材用組成物」は、塗布し、波長360nmのケミカルランプを用いて硬化させてシート部材を形成するものであるから(段落0064、摘記1c参照)「活性エネルギー線硬化型」のものと言え、また当該シート部材はガラス板表面に対するリワーク性を有するものであるから(段落0066、摘記1c参照)「粘着剤組成物」と言える。よって、本件特許発明1の「活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物」に相当する。
してみると、本件特許発明1と引用例1発明とは、
「ポリブタジエン系ポリオール(a1)、多価イソシアネート系化合物(a2)、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)、およびエチレン性不飽和モノマー(B)(但し、(A)を除く。)を含有してなる活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物」
である点において一致し、以下の点において相違が認められる。
(相違点1)
本件特許発明1は「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)」の「重量平均分子量が5,000?50,000」であるのに対し、引用例1発明の「不飽和ポリウレタンプレポリマー」は「数平均分子量31000」である点。
(相違点2)
本件特許発明1は「ポリブタジエン系ポリオール(a1)」が、「ブタジエンが1,4結合して得られるポリブタジエン構造を15?50モル%含有するポリブタジエン系ポリオール」であるのに対し、引用例1発明は「水酸基を有する水添ポリブタジエンであるKrasolHLBH-P3000(Sartomer社製)」が「1,2-ポリブタジエン構造が80質量%未満」としか記載されておらず、「ブタジエンが1,4結合して得られるポリブタジエン構造」の割合が明らかでない点。

イ 理由1(新規性)の判断
相違点2については、令和元年10月30日付け取消理由通知書に記載したように、実質的な相違点ではない。
一方、相違点1について、引用例1発明の不飽和ポリウレタンプレポリマー(数平均分子量31000)の重量平均分子量は不明である。また、重量平均分子量が本件特許発明1の規定を満たすとする根拠も見当たらず、ポリマーは通常分子量分布を有し、重量平均分子量は数平均分子量に比べて大きくなるという技術常識に照らすと、本件特許発明1の範囲外と考えるのが妥当である。
よって、当該相違点1は実質的な相違点であり、当該相違点が存在する以上、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明であるとはいえない。

ウ 理由2(進歩性)の判断
相違点1について検討する。
引用例1の段落0022(摘記1b)には、不飽和ポリウレタンプレポリマ-の数平均分子量は10,000以上50,000以下が好ましく、15,000?30,000の範囲がさらに好ましいと記載されている。
しかしながら、引用例1には、その請求項2(摘記1a)や段落0019(摘記1b)に1,2-ポリブタジエン構造の量を80質量%以上有する水添ポリブタジエンが接着性に優れるため好ましいと記載されていることからみて、その範囲外である引用例1発明に関して、1,2-ポリブタジエン構造の量に優先して数平均分子量を変更する動機付けは乏しいと言わざるを得ない。また仮に「さらに好ましい」とされた値(例えば30,000)に数平均分子量を変更したとしても、その重量平均分子量が本件特許発明1の規定を満たすか否かは不明なままである。
以上を考慮すると、本件特許発明1の構成が、引用例1に基づいて容易想到の事項ということはできない。
また、本件特許発明1の効果についてみると、本件特許発明1は、本件特許明細書の段落0008、0011に記載のとおり、「保護フィルムの粘着剤に用いた際に高温環境下にさらされても優れた剥離性を示す粘着剤が得られる」ものであって、このことは、同段落0110の表2に記載された実験結果からも見て取れる。
そして、本件特許発明1の当該効果は、上記引用例1には記載のない格別の作用効果というべきものと認められる。
よって、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(4)本件特許発明2、4?6について
本件特許発明2、4は、本件特許発明1を引用し、さらに限定した「活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物」の発明であり、本件特許発明5は、本件特許発明1、2、又は4の「活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物」を硬化してなることを特徴とする「粘着剤」の発明であり、本件特許発明6は、本件特許発明5の「粘着剤」からなる粘着剤層を有することを特徴とする「粘着シート」の発明である。
また、上記(3)のとおり、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明であるとはいえず、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
そうすると、本件特許発明2、4?6も、本件特許発明1と同様の理由により、引用例1に記載された発明であるとはいえず、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

3 取消理由3に対する当審の判断
本件特許発明2は、「活性エネルギー線照射により硬化して得られる粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(6)以上、かつ、粘着剤層のガラス転移温度が-30℃以下であることを特徴とする…活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物」と、硬化して得られる粘着剤層の物性によって特定した活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物の発明であるところ、一般的に、硬化物の物性は硬化条件によって変わるものである。これについて、本件特許発明2には、硬化条件について、「(硬化条件:活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を、膜厚175μmとなるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)に塗布し、積算光量2,400mJ/cm^(2)の条件下で紫外線を照射し、硬化させる。)」と明確に記載されている。
そうすると、本件特許発明2の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物が何を含み何を含まないかは明確といえる。

4 まとめ
以上のとおり、本件特許発明1、2、4?6は、引用例1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないとはいえない。また、本件特許発明1、2、4?6は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。よって、本件特許は、同法第113条第2号に該当するものではない。
さらに、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえず、本件特許は、同法第113条第4号に該当するものではない。
したがって、令和元年10月30日付けで通知した取消理由は、理由がない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
異議申立人が提出した甲1号証に基づく、本件訂正前の請求項1?6に対する新規性進歩性についての特許異議申立理由は、上記第4 2において検討した新規性進歩性についての取消理由と、おおむね同旨である。
また、本件訂正前の請求項2?6に対する明確性についての特許異議申立理由は、上記第4 3において検討した明確性についての取消理由と、おおむね同旨である。
したがって、当該特許異議申立理由によっては、本件特許発明1、2、4?6に係る特許を取り消すことはできない。

その他に、異議申立人は、特許異議申立書において、概略以下の点を主張する。
1 引用例1記載の発明において、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量を甲第3号証(特開2002-309185号公報)記載の範囲とすることは容易に想到し得るから、本件訂正前の請求項3は、引用例1及び甲第3号証の記載に基づき当業者が容易に発明することができたものである(特許異議申立書26頁22行?28頁13行)。
2 本件特許の明細書の製造例(段落0088、0089、表1)で使用されている水添ポリブタジエンポリオールは、どのようにして作製、または入手するのかが記載されていないから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の請求項1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない(特許異議申立書29頁24行?30頁5行)。
しかし、上記1について、上記第4 2(3)ウに記載したように、引用例1発明において不飽和ポリウレタンプレポリマーの分子量を変更する動機付けは乏しい。また、仮に変更するとしても引用例1の段落0022の記載に基づくと認められ、引用例1とは異なる文献である甲第3号証の記載を参照するとは認められない。
よって、引用例1及び甲第3号証の記載に基づいても、本件特許発明1、2、4?6は当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
また、上記2について、ポリブタジエンポリオールの数平均分子量、水酸基価、及び1,4結合したポリブタジエン構造の割合を、ブタジエンの重合方法、触媒、反応条件等により調節し得ることは周知の事項であり、また、水添ポリブタジエンポリオールは、合成した当該ポリブタジエンポリオールに水素添加すれば得ることができる。
よって、水添ポリブタジエンポリオールの作製、入手方法が具体的に記載されていなくても、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1、2、4?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえ、特許法第36条第4項第1号の要件を満たす。
したがって、異議申立人のかかる主張は、採用することができない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本件特許発明1、2、4?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、この他に本件特許発明1、2、4?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3は、上記のとおり訂正により削除されたため、本件特許の請求項3に対して、異議申立人がした特許異議申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブタジエン系ポリオール(a1)、多価イソシアネート系化合物(a2)、水酸基含有(メタ)アクリレート系化合物(a3)を反応させてなるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)、およびエチレン性不飽和モノマー(B)(但し、(A)を除く。)を含有してなる活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物であり、
前記ウレタン(メタ)アクリレート系化合物(A)の重量平均分子量が5,000?50,000であり、
前記ポリブタジエン系ポリオール(a1)が、ブタジエンが1,4結合して得られるポリブタジエン構造を15?50モル%含有するポリブタジエン系ポリオールであることを特徴とする活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物。
【請求項2】
前記組成物を下記条件で硬化して得られる粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(6)以上、かつ、粘着剤層のガラス転移温度が-30℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物。
(硬化条件:活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を、膜厚175μmとなるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)に塗布し、積算光量2,400mJ/cm^(2)の条件下で紫外線を照射し、硬化させる。)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
実質的に溶剤を含有しないことを特徴とする請求項1または2に記載の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項1、2、4いずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を硬化してなることを特徴とする粘着剤。
【請求項6】
請求項5記載の粘着剤からなる粘着剤層を有することを特徴とする粘着シート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-03 
出願番号 特願2015-535918(P2015-535918)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 瀬下 浩一
牟田 博一
登録日 2019-02-22 
登録番号 特許第6482463号(P6482463)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物、粘着剤及び粘着シート  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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