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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  F02F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  F02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F02F
管理番号 1362309
異議申立番号 異議2019-700548  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-12 
確定日 2020-03-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6453369号発明「金属ガスケット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6453369号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6453369号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第6453369号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6453369号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成30年12月21日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について令和元年7月12日に特許異議申立人三田翔(以下、「異議申立人」という。)より請求項1ないし3に対して特許異議の申立てがされ、当審は、令和元年9月26日付け(同年10月2日発送)で取消理由を通知した。それに対し、特許権者により、令和元年11月25日に意見書の提出及び訂正請求がされた。当審は、異議申立人に対し、令和元年11月28日付け(同年12月4日発送)で、訂正請求があった旨の通知をし、令和元年12月24日に異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。

(1)訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を、以下の事項により特定されるとおりに訂正することを請求する。(なお、下線部は訂正箇所を示す。以下同様。)
「【請求項1】
外表面にシール材がコーティングされるとともにシリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備える少なくとも1枚の金属基板を有し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着される金属ガスケットであって、
前記ハーフビードは、
前記金属基板の平坦な基板本体に第1湾曲部を介して連なり該基板本体に対して傾斜する傾斜板部と、
前記傾斜板部に第2湾曲部を介して連なり、該傾斜板部に対して傾斜する縁板部とを有し、
前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値であり、
前記ハーフビードの高さが、0.35mm?0.85mmの範囲内であり、
前記ハーフビードの幅が、1.2mm?1.8mmの範囲内であることを特徴とする金属ガスケット。」

(2)訂正事項2
特許権者は、明細書の段落【0011】に、
「本発明の金属ガスケットは、外表面にシール材がコーティングされるとともにシリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備える少なくとも1枚の金属基板を有し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着される金属ガスケットであって、前記ハーフビードは、前記金属基板の平坦な基板本体に第1湾曲部を介して連なり該基板本体に対して傾斜する傾斜板部と、前記傾斜板部に第2湾曲部を介して連なり、該傾斜板部に対して傾斜する縁板部とを有し、前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値であることを特徴とする。」
と記載されているのを、
「本発明の金属ガスケットは、外表面にシール材がコーティングされるとともにシリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備える少なくとも1枚の金属基板を有し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着される金属ガスケットであって、前記ハーフビードは、前記金属基板の平坦な基板本体に第1湾曲部を介して連なり該基板本体に対して傾斜する傾斜板部と、前記傾斜板部に第2湾曲部を介して連なり、該傾斜板部に対して傾斜する縁板部とを有し、前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値であり、前記ハーフビードの高さが、0.35mm?0.85mmの範囲内であり、前記ハーフビードの幅が、1.2mm?1.8mmの範囲内であることを特徴とする。」
と訂正することを請求する。

(3)訂正事項3
特許権者は、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正を請求する。

(4)訂正事項4
特許権者は、明細書の段落【0012】に、
「本発明の金属ガスケットは、上記構成において、前記ハーフビードの高さが、0.35mm?0.85mmの範囲内であるのが好ましい。」と記載されているのを、削除する訂正を請求する。

(5)訂正事項5
特許権者は、特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正を請求する。

(6)訂正事項6
特許権者は、明細書の段落【0013】に、
「本発明の金属ガスケットは、上記構成において、前記ハーフビードの幅が、1.2mm?1.8mmの範囲内であるのが好ましい。」と記載されているのを、削除する訂正を請求する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1の、請求項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2の、明細書の段落【0011】に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項3の、請求項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項4の、明細書の段落【0012】に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項5の、請求項3に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項6の、明細書の段落【0013】に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正前の請求項1ないし3は、請求項2及び3が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項ごとにされたものである。

3 小括
本件訂正の請求による訂正事項1ないし6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項で準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1-3〕及び明細書について訂正を認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正の請求により訂正された訂正請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

(1)本件発明1
「【請求項1】
外表面にシール材がコーティングされるとともにシリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備える少なくとも1枚の金属基板を有し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着される金属ガスケットであって、
前記ハーフビードは、
前記金属基板の平坦な基板本体に第1湾曲部を介して連なり該基板本体に対して傾斜する傾斜板部と、
前記傾斜板部に第2湾曲部を介して連なり、該傾斜板部に対して傾斜する縁板部とを有し、
前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値であり、
前記ハーフビードの高さが、0.35mm?0.85mmの範囲内であり、
前記ハーフビードの幅が、1.2mm?1.8mmの範囲内であることを特徴とする金属ガスケット。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし3に係る発明に対して令和元年9月26日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)請求項1に係る発明は、特開2005-315419号公報(甲第1号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)請求項1に係る発明は、特開2005-315419号公報(甲第1号証)に記載された発明及び特開平4-95668号公報(甲第2号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。

(3)請求項2に係る発明は、特開2005-315419号公報(甲第1号証)に記載された発明及び周知の事項1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項2に係る特許は、取り消されるべきものである。

(4)請求項2に係る発明は、特開2005-315419号公報(甲第1号証)に記載された発明、特開平4-95668号公報(甲第2号証)に記載された発明及び周知の事項1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項2に係る特許は、取り消されるべきものである。

(5)請求項3に係る発明は、特開2005-315419号公報(甲第1号証)に記載された発明、周知の事項1及び周知の事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項3に係る特許は、取り消されるべきものである。

(6)請求項3に係る発明は、特開2005-315419号公報(甲第1号証)に記載された発明、特開平4-95668号公報(甲第2号証)に記載された発明、周知の事項1及び周知の事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項3に係る特許は、取り消されるべきものである。

(7)請求項1ないし3に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(8)請求項1ないし3に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(9)請求項1及び2に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 甲各号証に記載された発明及び技術
(1)甲第1号証
取消理由において引用した甲第1号証(特開2005-315419号公報)には、「金属ガスケット」に関して、図面(図1及び図2)とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)

ア 「【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装される金属ガスケットの改良に関する。」

イ 「【0008】
即ち、本発明は、上記目的を達成するために、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に介在されて両面間をシールする金属ガスケットであって、複数のシリンダ用開口を有する金属薄板と、前記シリンダ用開口に対応して設けられたシリンダ用開口及び各種配管用の開口と、前記各開口の周縁部に曲率半径0.5mm以上の湾曲部を起点として屈曲させてなるビードとを備える弾性金属基板とからなり、前記金属薄板のシリンダ用開口の周縁を、一対の前記弾性金属基板のシリンダ用開口周縁のピードで挟み込むように積層して構成されることを特徴とする金属ガスケットを提供する。」

ウ 「【0011】
本発明の金属ガスケットは、複数のシリンダ用開口を有する金属薄板を、前記シリンダ用開口に対応して設けられたシリンダ用開口及び各種配管用の開口と、これら各開口の周縁部に形成されたビードとを備える一対の弾性金属基板で構成され、金属薄板のシリンダ用開口の周縁を、一対の前記弾性金属基板のシリンダ用開口周縁のピードで挟み込むように積層して構成されるもので、具体的には、図2に示した金属ガスケットを例示することができる。
【0012】
但し、本発明では、図1に図2のXX断面に基づく断面図にて示すように、弾性金属基板A1、A2のビード2,3の屈曲部Cを、曲率半径(R)が0.5mm以上の湾曲部を起点とするように形成したことを特徴とする。シリンダヘッドやシリンダブロック10の表面には、鋳巣が形成されることが多く、中にはφ1.5mmを越える大きな鋳巣が存在する。上記のように、従来の金属ガスケットではビード2,3の屈曲部Cの角部と鋳巣との隙間によりシール性が低下するが、本発明の金属ガスケットでは、装着時に、ビード2,3の湾曲部Cの湾曲状の起点が鋳巣を覆うように弾性変形してシールを確保する。一般的な弾性金属基板A1,A2は、板厚0.2?0.3mmのステンレス鋼板製であり、弾性変形によりφ1.5mmを越えるような鋳巣を確実に覆うためには、湾曲状の起点の曲率半径(R)が0.5mm以上、好ましくは1.5mm以上にする必要がある。このような屈曲部Cを形成するには、Rを付与しながら曲げ加工を行うことにより容易に実施できる。
【0013】
本発明においては、金属ガスケットのその他の部位には制限がなく、従来と同様にすることができる。尚、図1において、符号Bは金属薄板であり、厚さ0.05?0.15mmのステンレス鋼板とすることが好ましい。
【0014】
また、金属ガスケットの弾性金属基板A1.A2はビードの湾曲部Cが形成された基板の表面に、未発泡ゴム層や発泡ゴム層を形成してもよい。発泡ゴム層は従来より金属ガスケットに使用されている発泡ゴムを使用することも可能であるが、特に以下に記載する発泡ゴム層(ムーニー値10?70のポリマーを20?70質量%の割合で含有する発泡ゴム層)を使用すると、高温・高圧下でのヘタリが無く、鋳巣や面の粗いシリンダブロックやシリンダヘッドに対し良好にシールすることができる。」

エ 「【0019】
上記のゴムコンパウンドは、有機溶剤に溶解させて塗布液とされ、弾性金属基板A2に塗布される。有機溶剤は上記のゴムコンパウンドを溶解できるものであれば制限されるものではないが、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤(ケトン系も可)10?90質量%に対し、エステル系溶剤を10?90質量%の割合で混合したものを例示できる。そして、この有機溶剤に上記のゴムコンパウンドを固形分濃度10?60質量%となるように溶解する。」

オ 「【0024】
板厚0.2mmのステンレス鋼板を用い、図1に示すような、φ51.5mmのシリンダ用開口を有し、その周縁に曲率半径0.5mm、1.0mm、2.0mmの屈曲部Cを形成して円環状のビードを有する弾性金属板を作製した。そして、φ2.5mmで深さ2.5mmの鋳巣を有し、中央に気体流通用のノズルを貫通させたSS50C製のフランジを別途用意し、鋳巣の直上にビードの屈曲部Cが位置するように弾性金属基板を配置し、ビード線圧10N/mmの条件で締め込み、試験体とした。
【0025】
上記試験体に、フランジのノズルから空気(200KPa)を送り込み、漏れ量を測定したところ、曲率半径0.5mmの試験体の漏洩量と比較して曲率半径1.0mmの試験体では1/3の漏洩量に、曲率半径2.0mmの試験体では1/5の漏洩量に格段に減少していた。」

上記アないしオ並びに図1及び図2の図示内容を総合すると、甲第1号証には、「金属ガスケット」に関して、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

〔甲1発明〕
「表面に発泡ゴム層が形成されるとともにシリンダ用開口シール用のフルビード2と各種配管用開口シール用のハーフビード3とを備える少なくとも1枚の弾性金属基板A1、A2を有し、シリンダヘッドとシリンダブロック10との間に装着される金属ガスケットであって、
前記ハーフビード3は、
前記弾性金属基板A2の平坦部に一方の屈曲部(湾曲部)Cを介して連なり該平坦部に対して傾斜する傾斜部と、
前記傾斜部に他方の屈曲部(湾曲部)Cを介して連なり、該傾斜部に対して傾斜する開口8周縁部とを有し、
前記屈曲部(湾曲部)Cの起点の曲率半径を2.0mmとした金属ガスケット。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、「マニホルド用金属ガスケット」に関して、図面(図1ないし図6)とともに次の事項が記載されている。

ア 「2.特許請求の範囲
(1)排気マニホルドの取付フランジ端面と排気吐出口を開口したシリンダヘッド側面との間に挟持され、平板又はビード部を有するビード板の少なくとも2枚以上を非止着状態で積層した金属製薄板から成るマニホルド用金属ガスケットにおいて、前記ビード板の板厚をに対するビード部の曲げアールRの比R/tを7?15に設定したことを特徴とするマニホルド用金属ガスケット。
(2)前記ビード板の板厚の範囲を0.2?0.35mmとしたことを特徴とする請求項1に記載のマニホルド用金属ガスケット。」(1ページ左下欄4行ないし15行)

イ 「〔産業上の利用分野〕
この発明は、排気マニホルドの取付フランジ端面と排気吐出口を開口したシリンダヘッド側面との間に挟持状態に締付けられるマニホルド用金属ガスケットに関する。」(1ページ左下欄17行ないし右下欄1行)

ウ 「〔課題を解決するための手段〕
この発明は、上記の目的を達成するために、次のように構成されている。即ち、この発明は、排気マニホルドの取付フランジ端面と排気吐出口を開口したシリンダヘッド側面との間に挟持され、平板又はビード部を有するビード板の少なくとも2枚以上を非止着状態で積層した金属製薄板から成るマニホルド用金属ガスケットにおいて、前記ビード板の板厚をに対するビード部の曲げアールRの比R/tを7?15に設定したことを特徴とするマニホルド用金属ガスケットに関する。
また、このマニホルド用金属ガスケットにおいて、前記ビード板の板厚の範囲を0.2?0.35mm設定したものである。」(2ページ右下欄下から2行ないし3ページ左上欄12行)

エ 「この実施例の排気マニホルド用金属ガスケットlは、排気吐出口を開口した多気筒エンジンのシリンダへッドの側面と、前記排気吐出口の数と同数の分岐管を有する排気マニホルドの取付はフランジ端面(いずれも図示せず)との間に挟持して締付は固定されるものであり、図示のように三つ排気吐出口の周りにおいてシリンダヘッドの側面と排気マニホルドの端面との当接面の気密性を保持して排気ガスを漏洩しないようにシールするものである。金属ガスケット1は、両外側のビード板2,3とその間に挟まれた内側の金属薄板即ち中板4とから構成されている。両外側のビード板2,3と中板4とは、多気筒エンジンのシリンダヘッドに形成された排気吐出口と同数の気体流通孔5,6及び7を有している。両外側のビード板2.3はその締付は前の自由状態では、気体流通孔5,6及び7の周囲において、その一部が第2図に図示されているように、気体流通孔に向かうにしたがって中板4から次第に離れていくテーパ8,9と、テーパ部8,9に続いて中板4と平行なビート部10,11とを有する。中板から離れていく部分、即ちビード板2,3の主たる平坦部分からテーパ部8,9に移行する部分及びテーパ部8,9から中板4と平行など一ド部10,11に移行する部分とは、アールRによる曲げ加工により形成されている。ビード部10,11は、排気マニホルドの取付けフランジにおける大きな熱変形等の変形を吸収するためにばね機能を有する状態即ち弾性変形可能に形成されている。
このマニホルド用金属ガスケットについて、ビード板2,3を上記のように構成し、且つ配置することによって、シリンダヘッドの端面と排気マニホルドの端面とから成る当接面の気密性を保持し、極めて良好なシール機能を果たすことができる。
中板4は、厚さ0.3?0.7mm、好ましくは0.5mmの溶融Alメッキ鋼板(SAIC,SACC)から製作されている。また、両側の金属薄板であるビード板2,3の板厚tは、0.2?0.35mm(この例では0.25mm)のステンレススチール調質板(SUS 301H等)から製作されている。気体流通孔5?7の直径は40mmである。また、ビード板2,3のテーバ部8,9の幅(気体流通孔の半径方向で見た幅)は2.5mmであり、ビード部10,11の幅(方向は同上)は2.75mmである。更に、ビード部10,11の中板4からの高さは、0.75mmであり、即ち、金属ガスケット1の自由状態での高さは、ビード板2,3の板厚tを加えて1mmに形成されている。
ビード板2,3の主たる平坦部分からテーバ部8,9に移行する屈曲部12,13と、テーバ部8,9からビード部10,11に移行する屈曲部14,15は、いずれも0.5mm以上の曲げアールRとされている。」(3ページ左下欄8行ないし4ページ右上欄1行)

オ 「製造面からすると、曲げアールRをを余りに大きくとると、テーパ部の直線部分が短くなり過ぎるため、取り得る曲げ半径の最大値は、3.5mmであることが経験的に分かってくる。」(5ページ左下欄16行ないし19行)

カ 「この発明によるマニホルド用金属ガスケットは、以上のように構成されており、次のような効果を有する。即ち、このマニホルド用金属ガスケットは、排気マニホルドの取付フランジ端面と排気吐出口を開口したシリンダヘッド側面との間に挟持され、平板又はビード部を存するビード板の少なくとも2枚以上を非止着状態で積層した金属製薄板からなり、前記ビード板の板厚をに対するビード部の曲げアールRの比R/tを7?15としたので、従来の金属ガスケットのビード部が温度の幅の大きい熱変化に晒されるシリンダヘッドと排気マニホルドの影響を受けてヘタリや亀裂を生じ易く、シール性能が劣化する傾向にあるのに反して、応力は基準値よりも低くすることができると共に、面圧を基準値からの増加を所定の範囲内に抑えることができ、シール線を形成するビード部の応力及び面圧を適性な範囲に収められるので、温度の幅の大きい熱変化によるシール性能の劣化を防止することができる。」(5ページ右下欄13行ないし6ページ左上欄11行)

上記アないしカ並びに図1及び図2の図示内容を総合すると、甲第2号証には、「マニホルド用金属ガスケット」に関して、次の発明(以下、「甲2発明1」、「甲2発明2」及び「甲2発明3」という。)が記載されている。

〔甲2発明1〕
「金属ガスケット1のビード板2、3の主たる平坦部分からテーパ部8、9に移行する屈曲部12、13とテーパ部8、9からビード部10、11に移行する屈曲部14、15は、いずれも0.5mm以上の曲げアールRとされており、製造面から取りうる曲げ半径の最大値は、3.5mmであること。」(以下「甲2発明1」という。)

〔甲2発明2〕
「金属ガスケット1のビード板2、3の板厚tは0.2?0.35mmであり、板厚tに対する曲げアールRの比R/tは7?15に設定したこと。」(以下「甲2発明2」という。)

甲2発明1から、屈曲部の曲げアールRの大きさが0.5mm以上3.5mm以下であることが分かり、甲2発明2から、屈曲部の曲げアールRの大きさが1.4mm以上(板厚t=0.2、R/t=7のとき)、5.25mm以下(板厚t=0.35、R/t=15のとき)であることが分かる。
そうすると、甲2発明1及び甲2発明2を同時に満足する屈曲部の曲げアールの大きさは、1.4mm以上(板厚t=0.2、R/t=7のとき)、3.5mm以下(製造面から取りうる曲げ半径の最大値)でなければならないことが分かる。すなわち、次の甲2発明3が導かれる。

〔甲2発明3〕
「金属ガスケット1のビード板2、3の主たる平坦部分からテーパ部8、9に移行する屈曲部12、13とテーパ部8、9からビード部10、11に移行する屈曲部14、15の曲げアールRは、1.4mm以上(板厚t=0.2、R/t=7のとき)、3.5mm以下(製造面から取りうる曲げ半径の最大値)であること。」(以下「甲2発明3」という。)

(3)甲第4号証
甲第4号証には、「平形ガスケット、特にシリンダヘッドガスケット」に関して、図面(特に、図1ないし図3参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は、内燃機関用の平形ガスケット、特にシリンダヘッドガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
チェーンケースのための貫通孔と、このチェーンケース孔に隣接して延びる縁領域とを有し、チェーンケース孔が、完全にまたは部分的に縁領域の外側に配置された弾性的な封止部材によって完全に取り囲まれている少なくとも1つの封止層を備える金属製のシリンダヘッドガスケットが特許文献1に開示されている。この際、縁領域は、ビードまたはハーフビードであってよい弾性的な封止部材のための支持装置を含んでいる。
【0003】
金属層に形成された複数の貫通孔を有する金属製の平形ガスケットが特許文献2によって公知である。フルビードまたはハーフビードが封止部材として貫通孔の領域に配置されている。
【0004】
今日の内燃機関では、燃焼室の、耐久性のある弾性的な封止のために、ばね鋼に型押しを施した、いわゆるフルビードが用いられたシリンダヘッドガスケットが使用されることが多い。フルビードは、隆起部が薄板の底面を起点として一方の方向に形成され、それによって、底面の反対側に対する接触線(ビード稜線)が封止線として形成されているという特徴を有している。フルビードは、ビード稜線の両側に配置された複数のいわゆるビード脚部によって底面の平面において常に支持されており、すなわち、2本の封止線が底面の平面に形成されている。フルビードのこのような基本構造は、断面においてスペースを最低限にする必要があり、比較的複雑な型押し器具によって形成しなくてはならない。
【特許文献1】独国特許出願公開第19809755号明細書
【特許文献2】特開平06-117542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、非常に限られたスペースの状況のための平形ガスケット、特に、燃焼室封止部の領域のシリンダヘッドガスケットであって、それによって、器具のコストを削減しながら公知の機能特性を維持する必要がある平形ガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、燃焼室側の少なくとも1つの貫通孔を備える、特に金属製の、少なくとも1つの支持部材によって構成されており、貫通孔が、貫通孔と同心に延びるストッパ部材によって取り囲まれ、また、少なくとも1つの金属製の機能層に設けられ、貫通孔と同心に延び、弾性的に作用する少なくとも1つのハーフビードであって、支持部材の材料厚さよりも厚く形成されたストッパ部材上に直接摩擦結合して載っているハーフビードによって取り囲まれている、内燃機関用の平形ガスケット、特にシリンダヘッドガスケットによって達成される。
【0007】
本発明の対象物の有利な態様が、従属請求項によって得られる。
【0008】
特に限られたスペース状況のために、ストッパ部材およびこれと作用接続させることができるハーフビードによって構成された、燃焼室封止の、フルビードに対して新規な種類の構想が本発明の対象物によって提供される。
【0009】
各燃焼室の弾性的な封止が、貫通孔の外側で閉じられた、通常同心に延びている、幅と高さを設定可能なハーフビードによって行われる。この際、寸法決めは利用ケースに依存する。0.8から2.5mmのハーフビード幅と、0.05から1.0mmの間の高さが通常であると考えられる。」

上記ア及び図1ないし図3の図示内容を総合すると、甲第4号証には、「平形ガスケット、特にシリンダヘッドガスケット」に関して、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されている。

「シリンダヘッドガスケットのハーフビードの幅を0.8?2.5mmとし、高さを0.05?1.0mmとすること。」

(4)甲第5号証
甲第5号証には、「シリンダヘッドガスケット」に関して、図面(特に、図1、図6、図9、図10、図12参照。)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エンジンのシリンダヘッドとシリンダブロックとの間に挟まれてこれらを気密且つ液密にシールするシリンダヘッドガスケットに関する。」

イ 「【0035】前記ボア穴ビード11?13は、高さが例として0.25mm、幅が例として2.0mmに設定され、外周ビード14などのハーフビードは、高さが例として0.35mm、幅が例として1.5mmに設定されている。このような基板2は、例としてSUS301Hなどのステンレス鋼板などの金属板2aの両面に、例として膨張黒鉛シートなどの低摩擦係数の材料からなるシール材層16が、接着層(図示せず)を介して固着されている。前記金属板2aの板厚は例として0.2mmに選ばれ、シール材層16の層厚は例として0.1mmに選ばれている。」

上記ア及びイ並びに図1、図6、図9、図10、図12の図示内容を総合すると、甲第5号証には、「シリンダヘッドガスケット」に関して、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。

「シリンダヘッドガスケットのハーフビードの高さを0.35mmとし、幅を1.5mmとすること。」

3 当審の判断
(1)特許法第29条第2項について
ア 甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「表面」は、その技術的意義からみて、前者の「外表面」に相当し、以下同様に、「発泡ゴム層」は「シール材」に、「形成される」ことは「コーティングされる」ことに、「シリンダ用開口」は「シリンダボア孔」に、「フルビード2」は「フルビード」に、「各種配管用開口」は「液体孔」に、「ハーフビード3」は「ハーフビード」に、「弾性金属基板A1、A2」は「金属基板」に、「シリンダブロック10」は「シリンダブロック」に、「平坦部」は「平坦な基板本体」に、「一方の屈曲部(湾曲部)C」は「第1湾曲部」に、「他方の屈曲部(湾曲部)C」は「第2湾曲部」に、「傾斜部」は「傾斜板部」に、「開口8周縁部」は「縁板部」に、それぞれ相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の[一致点]で一致し、[相違点]で相違する。

[一致点]
「外表面にシール材がコーティングされるとともにシリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備える少なくとも1枚の金属基板を有し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着される金属ガスケットであって、
前記ハーフビードは、
前記金属基板の平坦な基板本体に第1湾曲部を介して連なり該基板本体に対して傾斜する傾斜板部と、
前記傾斜板部に第2湾曲部を介して連なり、該傾斜板部に対して傾斜する縁板部とを有する金属ガスケット。」

[相違点]
本件発明1は「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値であり、
前記ハーフビードの高さが、0.35mm?0.85mmの範囲内であり、
前記ハーフビードの幅が、1.2mm?1.8mmの範囲内である」のに対し、
甲1発明は、「前記屈曲部(湾曲部)Cの起点の曲率半径を2.0mmとした」点。

上記相違点について検討する。
上記甲2発明3は、「金属ガスケットのビード板2、3の主たる平坦部分からテーパ部8、9に移行する屈曲部12、13とテーパ部8、9からビード部10、11に移行する屈曲部14、15の曲げアールRは、1.4mm以上、3.5mm以下であること。」というものであり、「1.4mm以上、3.5mm以下」という数値範囲は、本件発明1における「2.0mm?3.5mm」という数値範囲と類似するが、上記甲2発明3は、屈曲部12、13」の凹側表面における半径(曲げアール)と、屈曲部14、15の凹側表面における半径(曲げアール)についていうものであり、本件発明のように「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径」についていうものではない。また、「互いに同値」とするものでもない。
また、上記甲4発明及び甲5発明は、ハーフビードの高さと幅に関するものである。
してみれば、本件発明1の「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値」とする技術的事項は、いずれの文献にも記載されていない。
そして、本件発明1は、この技術的事項を備えることにより、本件特許明細書の段落【0034】及び【0035】に記載されるように、ハーフビードの上側の表面を、形状測定器の片角スタイラスと呼ばれる測定子を矢印方向に走らせて測定してハーフビードの外形形状の作画線を得るという、顕著な作用効果を得られるものである。

したがって、本件発明1は、甲1発明、甲2発明3及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものではない。

(2)特許法第36条第6項第2号について
特許権者は、令和元年11月25日に提出された意見書において、「訂正発明において、『前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、・・・互いに同値であること』と特定しているのは、特許明細書の段落[0021]?[0024]及び図3に示されるように、形状測定器を用いてハーフビードの上側表面の外形形状を測定することにより、『第1湾曲部の凸側表面における半径』と『第2湾曲部の凹側表面における半径』の値を容易に管理することができるためです。一方、ハーフビードの裏側にあたる第2湾曲部の凸側表面における半径を測定することは一般的には困難です。訂正発明の上記構成は、湾曲部の形状を容易に測定・管理ができるという技術的意義があります。」(8ページ下から7行目ないし9ページ1行)と主張している。
そして、特許権者の上記主張は、本件明細書の段落【0034】及び【0035】の記載により裏付けられるものである。
そうすると、本件発明1において「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値」とすることの技術的意義は、上記本件明細書の記載事項及び意見書による釈明を踏まえると、形状測定器を用いてハーフビードの上側表面の外形形状を測定することにより、「第1湾曲部の凸側表面における半径」と「第2湾曲部の凹側表面における半径」の値を容易に管理することができるためであることが明らかになった。
よって、特許法第36条第6項第2号の取消理由は解消した。

(3)特許法第36条第4項第1号について
令和元年11月25日に提出された意見書において、10ページに参考図が示されるとともに、
「訂正発明の金属ガスケットを形成するために、ハーフビード金型150の上型150aの面取部のR値(Dr2)と下型150bの面取部のR値(Dr1)は、同値ではなく、金属基板の板厚(T)を考慮して設計しています。
上型150aは直接金属基板を押しますので、面取部のR値は金属基板の板厚を考慮しないR値(Dr2)となります。
一方、下型150bは金属基板を下面側から押しますので、面取部のR値はDr2から金属基板の板厚をマイナスしています。
すなわち、「第1湾曲部の凸側表面における半径(Br1)」と「第2湾曲部の凹側表面における半径(Br2)」の値を同値にするために、基本設計では、
Dr1=Dr2-T
と、面取部を設定しています。」(10ページ1行ないし11行)
という説明がされた。
そして、上記説明は、当業者であれば、本件明細書の段落【0023】、【0024】、【0034】、【0035】等の記載から導くことができるものである。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。
したがって、特許法第36条第4項第1号の取消理由は解消した。

(4)特許法第36条第6項第1号について
本件訂正により、請求項1において「前記ハーフビードの高さが、0.35mm?0.85mmの範囲内であり」、「前記ハーフビードの幅が、1.2mm?1.8mmの範囲内である」という事項が限定され、請求項2及び請求項3が削除された。
したがって、特許法第36条第6項第1号の取消理由は解消した。

(5)異議申立人の意見について
進歩性について
異議申立人は、令和元年12月24日の意見書において、
「訂正後の請求項1発明は、取消理由通知の旧請求項2、旧請求項3に対する理由と同じ理由により、当業者が容易に想到できたものです。」(5ページ最下行ないし6ページ1行)と主張する。
しかし、上記のように、訂正後の請求項1発明(本件発明1)は、甲1発明、甲2発明3及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

明確性について
異議申立人は、令和元年12月24日の意見書において、
「訂正後の請求項1発明がどのような技術的意義を有するのか、不明であり、訂正後の請求項1発明は、取消理由通知に記載の理由と同じ理由により、明確ではありません。」(7ページ1行ないし3行)と主張する。
しかし、上記のように、本件発明1において「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値」とすることの技術的意義は、形状測定器を用いてハーフビードの上側表面の外形形状を測定することにより、「第1湾曲部の凸側表面における半径」と「第2湾曲部の凹側表面における半径」の値を容易に管理することができるためであることが明らかになった。
したがって、特許法第36条第6項第2号の取消理由は解消した。

実施可能要件について
異議申立人は、令和元年12月24日の意見書において、
「取消理由通知書に記載の理由と同じ理由により、本件特許明細書には、本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえません。」(9ページ14行ないし16行)と主張する。
しかし、上記のように、本件明細書の段落【0023】、【0024】、【0034】、【0035】等の記載から導かれる特許権者の説明を参酌すると、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。
したがって、特許法第36条第4項第1号の取消理由は解消した。

エ サポート要件について
異議申立人は、令和元年12月24日の意見書において、
「訂正された請求項1発明は、本件特許の課題を解決しておらず、取消理由通知書に記載された理由と同じ理由により、本件特許明細書で充分にサポートされていないものです。」(10ページ18行ないし20行)と主張する。
しかし、上記のように、本件訂正により、請求項1に「前記ハーフビードの高さが、0.35mm?0.85mmの範囲内であり、前記ハーフビードの幅が、1.2mm?1.8mmの範囲内である」という事項が追加され、請求項2及び請求項3が削除された。
したがって、特許法第36条第6項第1号の取消理由は解消した。
なお、異議申立人は、「訂正された請求項1発明には、シール材19の表面の「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」がなく、且つ「シール限界値が80μm」を上回るという効果を奏しない発明が包含されています。」(10ページ16行ないし18行)とも主張する。
しかし、本件明細書にはそのような実施例は記載されておらず、また、異議申立人は、本件発明1には「シール材19の表面の「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」がなく、且つ「シール限界値が80μm」を上回るという効果を奏しない発明」が含まれることを何ら立証していない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

第5 取消理由通知に採用しなかった異議申立て理由について
1 特許法第36条第6項第2号違反について
異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1ないし3に係る発明における「同値」という記載は明確でない旨主張する。
しかしながら、本件発明における「同値」が「同じ値」を意味することは自明といえる。また、本件発明における「2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値であり」という事項は、当業者が通常使用する測定器の測定精度の範囲で同値であると理解できる。
したがって、本件発明における「同値」という記載は明確でないとはいえない。

2 特許法第17条の2第3項違反について
異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1ないし3に係る発明に「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値である」という発明特定事項が追加された平成30年11月7日の手続補正は、特許法第17条の2第3項に違反するものである旨主張する。
しかしながら、本件の願書に最初に添付された明細書には、
「【0023】
また、図3(a)に示す片斜面断面形状のハーフビード16の第1湾曲部16aの凸側表面(外角側の表面)におけるビード半径Br(当審注:本件発明1における「第1湾曲部の凸側表面における半径」に相当する。)及び第2湾曲部16cの凹側表面(内角側の表面)におけるビード半径Br(当審注:本件発明1における「第2湾曲部の凹側表面における半径」に相当する。)は、それぞれ図3(b)に示すように定義される。
【0024】
ここで、本発明の一実施の形態である金属ガスケット10においては、ハーフビード16の第1湾曲部16aの凸側表面におけるビード半径Br及び第2湾曲部16cの凹側表面におけるビード半径Brは、それぞれ2.0mm?3.5mmの範囲内に設定されている。このような構成とすることにより、第1湾曲部16a及び第2湾曲部16cの凹側表面におけるシール材19の表面に「スジ状の痕跡」を生じさせることなく、ハーフビード16による冷却水孔14や潤滑油孔15に対するシール限界値を高めて、ハーフビード16の圧縮が不完全であっても十分なシール機能を発揮させることができる。」
と記載され、「第1湾曲部16aの凸側表面(外角側の表面)におけるビード半径Br」(本件発明1における「第1湾曲部の凸側表面における半径」に相当する。)と「第2湾曲部16cの凹側表面(内角側の表面)におけるビード半径Br」(本件発明1における「第2湾曲部の凹側表面における半径」に相当する。)とが同じ文字「Br」を使って表されているから、本件発明における「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値である」という事項が記載されているといえる。
したがって、請求項1ないし3に係る発明に「前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値である」という発明特定事項が追加された平成30年11月7日の手続補正は、特許法第17条の2第3項に違反するものであるとはいえない。

第6 結語
上記第4及び第5のとおりであるから、令和元年9月26日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正後の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2及び3に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2及び3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
金属ガスケット
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(エンジン)のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に装着されて、燃焼ガスのリーク及び冷却水や潤滑油等の液体のリークを防止する金属ガスケットに関し、特に、シリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に金属ガスケットを装着し、シリンダボア孔からの高圧の燃焼ガスのリークを防止するとともに、冷却水孔(ウォータージャケット)や潤滑油孔等の液体孔からの冷却水や潤滑油(オイル)等の液体のリークを防止するようにしている。このような金属ガスケットとしては、ステンレス材等の弾性金属板を素材とした金属基板に、シリンダボア孔を囲繞するシリンダボア孔シール用のフルビードと、液体孔を囲繞する液体孔シール用のハーフビードとを設けた構成のものが知られている。
【0003】
近年、内燃機関の高出力化に伴って燃焼ガスも高圧化していることから、金属ガスケットの、特にシリンダボア孔からの燃焼ガスのリークに対するシール性能を高めた金属ガスケットが多く開発されている。
【0004】
例えば特許文献1には、シリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備えた1枚の金属基板を有する金属ガスケットであって、そのシリンダボア孔の側にフルビードに重ねて段差調整板を固定して、フルビード側とハーフビード側での厚みを相違させるようにした金属ガスケットが記載されている。この金属ガスケットによれば、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に金属ガスケットを装着してシリンダヘッドを締付ボルトで締め付けたときに、ハーフビードの側よりも段差調整板が重ねられたフルビードの側により大きな締付け力が加えることができるので、フルビードの面圧をハーフビードの面圧よりも大幅に高めて、フルビードの圧縮効果を促進し、燃焼ガスのリークに対するシール性能を高めることができる。また、金属ガスケットのハーフビード側を金属基板1枚のみの構成とすることができるので、燃焼ガスに対するシール性能を高めつつ、エンジン設計面から要求される計量化、熱伝導性の向上、圧縮比調整及びコストダウン等を図ることができる。
【0005】
また、上記のような金属ガスケットとして、シリンダブロックやシリンダヘッドに加工時に生じるツールマークを吸収する目的で、金属基板の外表面にNBR(ニトリルゴム)やFKM(フッ素ゴム)等のラバーをシール材として所定の膜厚でコーティングした構成のものも知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-119075号公報
【特許文献2】特開2016-169797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されるような従来の金属ガスケットでは、フルビードに段差調整板を重ねることによって締付ボルトの締付力の多くをフルビードへ向けるようにしているので、燃焼ガスに対するシール性能を長期的に安定化させることができる反面、冷却水や潤滑油等の液体が流れる液体孔をシールするハーフビード側の締付力が相対的に低下することになる。そのため、ハーフビードの圧縮が不完全となり、ハーフビードの復元力低下によるシール性能の低下、ハーフビードにクラックが生じることによるシール性能の低下、外表面にコーティングされたシール材の膨れ及び剥離によるシール性能の低下という問題点を生じていた。
【0008】
上記問題点を詳細に検討したところ、その不具合事象の原因は「ヘッドリフト現象」等から説明できることが解った。「ヘッドリフト現象」とは、内燃機関の出力時には毎分数千回転にも達する燃焼サイクルによって、シリンダブロックとシリンダヘッドのデッキ面間隙が数μm?10数μmの範囲で開いたり閉じたりする、所謂口開き現象のことである。口開き現象が金属ガスケットの各ハーフビードへ交番荷重となって作用することにより、ハーフビードが上下に振動してヘタリを生じ、その復元力が低下することになる。また、口開き現象による上下振動は各ハーフビードの一部に金属疲労によるクラック(亀裂)を生じさせることになる。ハーフビードの圧縮が完全である場合には口開き現象大きな問題とならなかったが、上記した従来の金属ガスケットでは、燃焼ガスのシール性を安定化させた反面、ハーフビードの圧縮が不完全となるため、口開き現象による上記問題点が生じることになった。
【0009】
また、金属基板の外表面にラバー等をシール材としてコーティングした構成とした場合には、口開き現象によるハーフビードの上下振動によってシール材に膨れ及び剥離が生じることになるので、この問題もハーフビードに関連する問題点として解決しておく必要があった。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧縮が不完全であってもシール機能を維持し得るハーフビードを備えた金属ガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の金属ガスケットは、外表面にシール材がコーティングされるとともにシリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備える少なくとも1枚の金属基板を有し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着される金属ガスケットであって、前記ハーフビードは、前記金属基板の平坦な基板本体に第1湾曲部を介して連なり該基板本体に対して傾斜する傾斜板部と、前記傾斜板部に第2湾曲部を介して連なり、該傾斜板部に対して傾斜する縁板部とを有し、前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値であり、前記ハーフビードの高さが、0.35mm?0.85mmの範囲内であり、前記ハーフビードの幅が、1.2mm?1.8mmの範囲内であることを特徴とする。
【0012】(削除)
【0013】(削除)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧縮が不完全であってもシール機能を維持し得るハーフビードを備えた金属ガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の一実施の形態である金属ガスケットを示す平面図であり、(b)は同図(a)における範囲Aを拡大して示す拡大図である。
【図2】図1におけるY-Y線に沿う断面図である。
【図3】(a)は図1におけるX-X線における断面図であり、図3(b)は同図(a)に示すハーフビードの上側の表面を、形状測定器の片角スタイラスと呼ばれる測定子を矢印方向に走らせて測定して得たハーフビードの外形形状の作画線である。
【図4】本発明の一実施の形態である金属ガスケットのハーフビード部分におけるシール材の状態を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態である金属ガスケットの金属基板を、ハーフビード金型を用いてプレス加工している様子を模式的に示した図である。
【図6】従来の金属ガスケットの一例を示す平面図である。
【図7】図6におけるY1-Y1線に沿う断面図である。
【図8】図6におけるX1-X1線に沿う断面図である。
【図9】(a)は図8に示すハーフビードの上側の表面を、形状測定器の片角スタイラスと呼ばれる測定子を矢印方向に走らせて測定して得たハーフビードの外形形状の作画線であり、(b)は、同図(a)の要部拡大図である。
【図10】テストピースの平面図である。
【図11】表1に示す試験結果のグラフである。
【図12】(a)はハーフビードにおけるシール材の表面に生じた「微細なヒビ割れ」の状況を示す断面図であり、(b)はハーフビードにおけるシール材の表面に生じた「スジ状の痕跡」の状況を示す断面図であり、(c)は「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」の発生範囲を示す図である。
【図13】テストピースを上型と下型とで構成された従来のハーフビード金型を用いてプレス加工している様子を模式的に示した図である。
【図14】テストピースを改良したハーフビード金型を用いてプレス加工している様子を模式的に示した図である。
【図15】表2に示す試験結果のグラフである。
【図16】表3に示す試験結果のグラフである。
【図17】表6に示す試験結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に例示説明する。
【0017】
図1に示す本発明の一実施の形態である金属ガスケット10は、図示しない内燃機関(エンジン)のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に装着されて燃焼ガスのリーク及び冷却水や潤滑油等の液体のリークを防止するためのものであり、1枚の金属基板11を有している。金属基板11にはシリンダボア孔12からの燃焼ガスのリークを防止するためのシリンダボア孔シール用のフルビード13と、冷却水孔(液体孔)14や潤滑油孔(液体孔)15からの冷却水や潤滑油のリークを防止するための液体孔シール用のハーフビード16とが設けられている。
【0018】
図2に示すように、金属ガスケット10は、金属基板11のシリンダボア孔12の側に、フルビード13に重ねて段差調整板17を、冷却水孔14の部分でかしめ部17aにより固定した主構造を有する。このような主構造を有する金属ガスケット10によれば、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に金属ガスケット10を装着してシリンダヘッドを締付ボルトで締め付けたときに、ハーフビード16の側よりも段差調整板17が重ねられたフルビード13の側により大きな締付け力が加えられるようにして、フルビード13の面圧をハーフビード16の面圧よりも大幅に高めて、フルビード13の圧縮効果を促進し、燃焼ガスのリークに対するシール性能を高めることができる。また、金属ガスケット10のハーフビード16側が金属基板11が1枚のみの構成となるようにして、燃焼ガスに対するシール性能を高めつつ、エンジン設計面から要求される計量化、熱伝導性の向上、圧縮比調整及びコストダウン等を図ることができる。なお、図1における符号18はシリンダヘッドをシリンダブロックに固定するためのボルトが挿通されるボルト孔である。
【0019】
図3(a)に示すように、潤滑油孔15を囲繞して設けられるハーフビード16は、平坦な基板本体11aに対して第1湾曲部16aを介して連なり基板本体11aに対して下方に傾斜する傾斜板部16bと、傾斜板部16bに第2湾曲部16cを介して連なり、傾斜板部16bに対して上方に傾斜する縁板部16dとを備えた片斜面断面形状となっている。第1湾曲部16aの凸側表面は、金属基板10がシリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着されたときにシリンダヘッド又はシリンダブロックの何れか一方のデッキ面に当接してハーフビード16のシール線を構成する部分であり、第2湾曲部16cの凸側表面は、金属基板10がシリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着されたときにシリンダヘッド又はシリンダブロックの何れか他方のデッキ面に当接してハーフビード16のシール線を構成する部分である。
【0020】
金属基板11の外表面(表裏両面)には、例えばNBR(ニトリルゴム)やFKM(フッ素ゴム)等のラバーで構成されたシール材19が薄い膜状にコーティングされている。金属基板11の外表面をシール材19でコーティングすることにより、シリンダブロックやシリンダヘッドにその加工時に生じるツールマークを吸収して、この金属ガスケット10のシール性能をさらに高めることができる。
【0021】
ここで、図3(b)は、図3(a)に示すハーフビード16の図3(a)中で上側の表面を、形状測定器の片角スタイラスと呼ばれる測定子20を矢印方向に走らせて測定して得た外形形状の作画線である。測定子20による走査方向は、金属ガスケット10の外縁から潤滑油孔15の中心に向けた方向である。
【0022】
図3(a)に示す片斜面断面形状のハーフビード16のビード高Bh及びビード幅Bwは、それぞれ図3(b)に示すように定義される。すなわち、平坦な基板本体11aの上側表面S1から延びる延長線を基板本体ラインL1とし、縁板部16dの上側表面S2から延びる延長線を縁板部ラインL2とし、傾斜板部16bの上側表面S3から延びる延長線を傾斜板部ラインL3とし、基板本体ラインL1と傾斜板部ラインL3との交点を交点P1とし、縁板部ラインL2と傾斜板部ラインL3との交点を交点P2としたときに、ハーフビード16のビード幅Bwは、交点P1と交点P2との間の基板本体ラインL1に沿う方向の距離(交点P1を通り基板本体ラインL1と直交する垂直基準ラインL4と、交点P2を通り垂直基準ラインL4と平行なラインL5との間の距離)であり、ハーフビード16のビード高Bhは、交点P1と交点P2との間の基板本体ラインL1に垂直な方向の距離(交点P2を通り基板本体ラインL1と平行なラインL6と基板本体ラインL1との間の距離)である。
【0023】
また、図3(a)に示す片斜面断面形状のハーフビード16の第1湾曲部16aの凸側表面(外角側の表面)におけるビード半径Br及び第2湾曲部16cの凹側表面(内角側の表面)におけるビード半径Brは、それぞれ図3(b)に示すように定義される。
【0024】
ここで、本発明の一実施の形態である金属ガスケット10においては、ハーフビード16の第1湾曲部16aの凸側表面におけるビード半径Br及び第2湾曲部16cの凹側表面におけるビード半径Brは、それぞれ2.0mm?3.5mmの範囲内に設定されている。このような構成とすることにより、第1湾曲部16a及び第2湾曲部16cの凹側表面におけるシール材19の表面に「スジ状の痕跡」を生じさせることなく、ハーフビード16による冷却水孔14や潤滑油孔15に対するシール限界値を高めて、ハーフビード16の圧縮が不完全であっても十分なシール機能を発揮させることができる。
【0025】
また、本発明の一実施の形態である金属ガスケット10においては、ハーフビード16のビード高Bhは、0.30mm?0.85mmの範囲内に設定されるのが好ましい。このような構成とすることにより、第1湾曲部16a及び第2湾曲部16cの凹側表面におけるシール材19の表面に「スジ状の痕跡」を生じさせないだけでなく、第1湾曲部16a及び第2湾曲部16cの凸側表面に「微細なヒビ割れ」を生じさせることなく、ハーフビード16による冷却水孔14や潤滑油孔15に対するシール限界値を高めて、ハーフビード16の圧縮が不完全であっても十分なシール機能を発揮させることができる。
【0026】
さらに、本発明の一実施の形態である金属ガスケット10においては、ハーフビード16のビード幅Bwは、1.2mm?1.8mmの範囲内に設定されるのが好ましい。このような構成とすることにより、第1湾曲部16a及び第2湾曲部16cの凹側表面におけるシール材19の表面に「スジ状の痕跡」を生じさせず、また、第1湾曲部16a及び第2湾曲部16cの凸側表面に「微細なヒビ割れ」を生じさせることなく、ハーフビード16による冷却水孔14や潤滑油孔15に対するシール限界値をさらに高めることができる。
【0027】
図4は、本発明の一実施の形態である金属ガスケットのハーフビード部分におけるシール材の状態を示す断面図である。図4から、本発明の一実施の形態である金属ガスケット10のハーフビード16の部分におけるシール材19の表面に、「微細なヒビ割れ」や「スジ状の痕跡」が生じていないことが解る。
【0028】
図5は、本発明の一実施の形態である金属ガスケットの金属基板を、ハーフビード金型を用いてプレス加工している様子を模式的に示した図である。
【0029】
本発明の一実施の形態である金属ガスケット10のハーフビード16は、例えば図5に示すような構成のハーフビード金型40を用いて形成することができる。このハーフビード金型40は上型40aと下側40bとを有している。ハーフビード金型40のハーフビード16の第1湾曲部16a及び第2湾曲部16cを形成するための一対の面取部40cは、金型設計段階において、第1湾曲部16aの凸側表面におけるビード半径Br及び第2湾曲部16cの凹側表面におけるビード半径Brを、それぞれ2.0mm?3.5mmの範囲内とするように確実なR面取りとして設定されている。このような構成のハーフビード金型40を用いることで、上記した数値範囲のビード半径Brを有するハーフビード16を容易かつ確実に形成することができる。
【0030】
次に、本発明の一実施の形態である金属ガスケット10が上記構成(数値範囲)を採用するに至った経緯について説明する。
【0031】
先ず、本願発明者は、上記した特許文献1に記載されるような段差調整板を備えた構成の従来の金属ガスケットにおけるハーフビードの現状把握を行った。図6は従来の金属ガスケットの一例を示す平面図であり、図7は図6におけるY1-Y1線に沿う断面図であり、図8は図6におけるX1-X1線における断面図である。
【0032】
図6に示すように、従来の金属ガスケット110は、金属基板111を有し、金属基板111にはシリンダボア孔112からの燃焼ガスのリークを防止するためのシリンダボア孔シール用のフルビード113と、冷却水孔(ウォータージャケット)114や潤滑油孔115からの冷却水や潤滑油のリークを防止するためのハーフビード116が設けられている。また、図7に示すように、金属ガスケット110は、金属基板111のシリンダボア孔112の側に、フルビード113に重ねて段差調整板117を固定した主構造を有する。段差調整板117はフルビード113にのみ重ねられ、ハーフビード116の側には達していない。なお、図6における符号118はシリンダヘッドをシリンダブロックに固定するためのボルトが挿通されるボルト孔である。
【0033】
図8に示すように、潤滑油孔115を囲繞して設けられるハーフビード116は、平坦な基板本体111aに対して第1湾曲部116aを介して連なり基板本体111aに対して下方に傾斜する傾斜板部116bと、傾斜板部116bに第2湾曲部116cを介して連なり、傾斜板部116bに対して上方に傾斜する縁板部116dとを備えた片斜面断面形状となっている。なお、金属基板111の外表面(表裏両面)には、ラバー等のシール材119がコーティングしてある。
【0034】
図9(a)は、図8に示すハーフビードの上側の表面を、形状測定器の片角スタイラスと呼ばれる測定子を矢印方向に走らせて測定して得たハーフビードの外形形状の作画線であり、図9(b)は、図9(a)の要部拡大図である。
【0035】
図8に示す片斜面断面形状のハーフビード116のビード高Bh及びビード幅Bwは、それぞれ図8に示すハーフビードの上側の表面を、形状測定器の片角スタイラスと呼ばれる測定子を矢印方向に走らせて測定して得たハーフビードの外形形状の作画線に基づき、図9(a)に示すように定義される。なお、図8における測定子による走査方向は、金属ガスケット110の外縁から潤滑油孔115の中心に向けた方向である。すなわち、平坦な基板本体111aの上側表面S1から延びる延長線を基板本体ラインL1とし、縁板部116dの上側表面S2から延びる延長線を縁板部ラインL2とし、傾斜板部116bの上側表面S3から延びる延長線を傾斜板部ラインL3とし、基板本体ラインL1と傾斜板部ラインL3との交点を交点P1とし、縁板部ラインL2と傾斜板部ラインL3との交点を交点P2としたときに、ハーフビード116のビード幅Bwは、交点P1と交点P2との間の基板本体ラインL1に沿う方向の距離(交点P1を通り基板本体ラインL1と直交する垂直基準ラインL4と、交点P2を通り垂直基準ラインL4と平行なラインL5との間の距離)であり、ハーフビード116のビード高Bhは、交点P1と交点P2との間の基板本体ラインL1に垂直な方向の距離(交点P2を通り基板本体ラインL1と平行なラインL6と基板本体ラインL1との間の距離)である。
【0036】
次に、従来の金属ガスケット110におけるハーフビード116のシール限界値に基づいて本願発明の金属ガスケット10におけるハーフビード16のシール限界値の目標値を設定するために、図9(a)に示すハーフビード116の形状を基にしたハーフビード116を有する比較例サンプルC1?C12を製作した。これらの比較例サンプルC1?C12は、何れも、図10に示す平面形状を有するテストピースTpとして製作した。また、比較例サンプルC1?C12は、何れも、上記した引用文献1の段落[0025]で説明される一般的なバネ用SUS-301鋼板を用いて形成され、その外表面には上記した引用文献2に記載されているNBRを主構成としたシール材がコーティングされたものとした。
【0037】
比較例サンプルはGr.A、Gr.B及びGr.Cに分かれており、Gr.A(比較例サンプルC1?C5)は、金属基板の基板板厚tを0.20mm、ビード幅Bwを1.5mmとして、ビード高Bhを0.25mm?0.65mmまでを変化させたものであり、Gr.B(比較例サンプルC6?C9)は、金属基板の基板板厚tを0.25mm、ビード幅Bwを1.5mmとして、ビード高Bhを0.25mm?0.55mmまでを変化させたものであり、Gr.C(比較例サンプルC10?C12)は、金属基板の基板板厚tを0.20mm、ビード幅Bwを1.5mmとするとともに、ビードの形状を比較例C1?C9のハーフビード116に替えてシリンダボア孔シール用のビードと同様の山形斜面形状のフルビード113に変更し、ビード高Bhを0.25mm?0.45mmまでを変化させたものである。なお、これらのビード高Bhは、図9(a)におけるハーフビード116のビード高Bhに対応し、ビード幅Bwは図9(a)におけるハーフビード116のビード幅Bwに対応している。
【0038】
上記の比較例サンプルC1?C12においては、ビード幅Bwとして、金属ガスケット110の基板本体111aの外縁と潤滑油孔115の内縁との間の幅Kw(図6参照)との関連、及び当業者において一般的な1.0mm?2.0mmの範囲の中で、特に常用されている1.5mmを採用した。また、予め測定した従来品の金属ガスケットにおけるハーフビードのビード半径Brが0.3mm?0.5mmであったことから、比較例サンプルC1?C12の何れにおいても、ビード半径Brは0.5mmとした。
【0039】
これらの比較例サンプルC1?C12について、シール限界試験装置を用いてヘッドリフト現象(口開き現象)を再現した実験を行い、シール限界値の測定と、ヒビ割れ及びスジ状の痕跡の有無についての評価を行った。
【0040】
シール限界試験装置としては、詳細は図示しないが、シリンダヘッドに対応する上治具とシリンダブロックに対応する下治具とを有するとともに、ガイドピンによって位置決めされた比較例サンプルを上治具と下治具との間に挟むとともに、万能試験機を用いて規定の荷重で比較例サンプルCを圧縮することができるものを用いた。また、シール限界試験装置の下治具には、加熱ヒータ、加熱ヒータ用熱電対、ギャップセンサ、油圧調整装置の各種センサ等が取り付けられ、また、比較例サンプルCの内径に合わせたオイル溜りが凹状に加工されている。オイル溜りには、油圧調整装置から規定の油圧で潤滑油(オイル)を供給することができる構成とした。
【0041】
ここで、金属ガスケットのシール能力は、内燃機関の出力時に発生するヘッドリフト現象、すなわちシリンダヘッドとシリンダブロックとの間で生じる口開き現象に対応できる能力であることから、口開き現象の再現方法としては、シリンダヘッドに相当する上治具とシリンダブロックに相当する下治具との間に試験用の比較例サンプルを挟み、これを規定の荷重で圧縮することで締め付け、その後、強制的に両治具の間における比較例サンプルの締付け荷重を下げながら両治具と比較例サンプルCとの間隔を広げて行く方法を採用した。これは、初期圧縮時からの口開き現象の量すなわち口開き量(μm)と潤滑油のリーク(流失)の有無との関係を把握することにより、ハーフビードのシール性能の評価が可能であると推考したからである。具体的には、金属ガスケットが実機エンジンに組み込まれ、シリンダヘッドがボルトによってシリンダブロックに締め付けられているときにハーフビードに加わる圧縮荷重を調査してその上限圧縮荷重を1200kgに設定し、シール限界試験装置に用いた万能試験機の圧縮上限荷重を上記値として比較例サンプルを上治具と下治具との間に挟み込んで圧縮する。そして、万能試験機の押圧荷重が上限圧縮荷重となったときに、左右2個のギャップセンサの出力値をゼロとする。次いで、油圧発生装置の油圧を規定圧力(0.5MPa)に設定して、比較例サンプルの内部(オイル溜り)に規定圧力に加圧した潤滑油を満たした後、万能試験機の押圧荷重を、上限圧縮荷重から徐々に減圧させる。万能試験機の押圧荷重を徐々に減圧させると、上治具が上昇してハーフビードの面圧が低下し、万能試験機の押圧荷重がある値にまで低下すると、比較例サンプルと下治具との間に隙間が生じて潤滑油がハーフビードの内側から外部に流出する。この潤滑油が流出するときのギャップセンサの出力値から比較例サンプルと下治具との間の隙間(μm)を読み取り、その値を「シール限界値」とした。
【0042】
なお、シール限界試験装置としては、ヘッドリフト現象(口開き現象)を再現した実験を行うことができれば、上記構造の装置に限らず、他の装置ないし方法を採用してもよい。
【0043】
表1に上記試験結果を示すとともに、図11に当該試験結果をグラフで示す。なお、表1においては、ヒビ割れ、スジ状の痕跡が無い場合に○、有る場合に×の評価とした。
【0044】
【表1】

【0045】
Gr.Aの比較例サンプルC1、C2は、現在常用されている、基板板厚tが0.20mmで、ハーフビード116のビード高Bhがそれぞれ0.25mm、0.35mmのサンプルである。ここで、これらの比較例サンプルC1、C2が常用されるのは、ハーフビード116のビード高Bhを、比較例サンプルC3?C5のように高い方向に設定すると、ハーフビード116の交点P1、P2の部分(各湾曲部)におけるシール材119の表面に「微細なヒビ割れ」が発生し易くなると推測されてきたからである。上記試験結果からも、常用使用域の比較例サンプルC1、C2及び比較例サンプルC3のハーフビード116におけるシール材119の表面にはヒビ割れは生じず、シール材119の表面には変化はなかったが、常用域から外れてビード高Bhを高くした比較例サンプルC4、C5にはハーフビード116におけるシール材119の表面に「微細なヒビ割れ」が確認された。特に、ビード高Bhが0.65mmとなる比較例サンプルC5は「微細なヒビ割れ」が明確で、シール限界値も比較例サンプルC2よりも低下した。この原因は、金属基板111の表面に塗布されているシール材119の表面の微細なヒビ割れが原因であると推定される。一方で、ハーフビード116のビード高Bhを高くすれば、ハーフビード116のシール限界値も高められることが解った。
【0046】
図12(a)はハーフビードにおけるシール材の表面に生じた「微細なヒビ割れ」の状況を示す断面図であり、符号130が当該「微細なヒビ割れ」の発生部分を示している。なお、図12(c)に示すように、「微細なヒビ割れ」は、ハーフビード116の第1湾曲部116a及び第2湾曲部116cの外角側を中心とした範囲に生じている。
【0047】
また、比較例サンプルC1、C2のハーフビード116におけるシール材119の表面には「スジ状の痕跡」が確認されなかったが、比較例サンプルC3?C5のハーフビード116におけるシール材119の表面には「スジ状の痕跡」が確認された。
【0048】
図12(b)はハーフビードにおけるシール材の表面に生じた「スジ状の痕跡」の状況を示す断面図であり、符号131が当該「スジ状の痕跡」の発生部分を示している。なお、図12(c)に示すように、「スジ状の痕跡」は、ハーフビード116の第1湾曲部116a及び第2湾曲部116cの内角側を中心とした範囲に生じている。
【0049】
以上から、Gr.Aにおいて、ハーフビード116におけるシール材119の表面に「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」の両方の問題が確認されなかったものは、比較例サンプルC1、C2のみであった。したがって、Gr.Aにおけるハーフビード116のシール限界値は、比較例サンプルC2の「80μm」と判断した。
【0050】
Gr.Bの比較例サンプルC6?C9は、金属基板111の基板板厚tをGr.Aにおける0.20mmから0.25mmへと厚くしたものである。Gr.Aにおける0.20mmのものに対し、Gr.Bの比較例サンプルC6?C9のシール限界値には5μm程度の向上が見られたが、基板板厚tの増加によるシール限界値の向上にそう多くは望めないことが分った。その原因としては、基板板厚tが厚くなった分、ハーフビード116の剛性が高まって圧縮荷重を多く必要とすることになり、その分、ハーフビード116の圧縮性が低下して、その復元性を充分に使えなかったと推定される。また、比較例サンプルC9には「微細なヒビ割れ」が発生し、比較例サンプルC7?C9には「スジ状の痕跡」が確認されたことから、Gr.Bにおいて、ハーフビード116におけるシール材119の表面に「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」の両方の問題が確認されなかったものは、比較例サンプルC6のみであった。したがって、Gr.Bにおけるハーフビード116のシール限界値は、比較例サンプルC6の「74μm」と判断した。なお、Gr.Bにおいても、ハーフビード116のビード高Bhを高いほど、ハーフビード116のシール限界値も高められることが解る。
【0051】
Gr.Cの比較例サンプルC10?C12は、ハーフビード116に替えてフルビード113を有するものであるが、そのシール限界値は常用されている比較例サンプルC1、C2よりも低く、シール限界値を高める効果はなかった。その原因としては、フルビード113は、構造上、圧縮荷重が高く、圧縮荷重が高くなった分、フルビード113の圧縮性が低下して、その復元性を充分に使えなかったと推定される。比較例サンプルC11、C12には「微細なヒビ割れ」と「スジ状の痕跡」が確認されたことから、Gr.Cにおいて、ハーフビード116におけるシール材119の表面に「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」の両方の問題が確認されなかったものは、比較例サンプルC10のみであった。したがって、Gr.Cにおけるシール限界値は、比較例サンプルC10の「47μm」と判断した。なお、Gr.Cにおいても、ビード高Bhを高くすれば、ハーフビード116のシール限界値も高められることが解る。
【0052】
以上の評価結果に基づき、ハーフビードの改良を成すにあたって、シール材119に「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」を生じさせることなく、ハーフビード116のシール限界値を、常用の比較例サンプルC2の80μm以上の値とすることを目標として設定した。
【0053】
図13は、テストピースを上型と下型とで構成された従来のハーフビード金型を用いてプレス加工している様子を模式的に示した図である。シール材119に「微細なヒビ割れ」や「スジ状の痕跡」が生じるという問題点を解決するために、本願発明者は、従来の金属ガスケット110においてハーフビード116を形成するために用いられている「ハーフビード金型」について調査を行った。
【0054】
上記評価結果から、シール材119の「微細なヒビ割れ」は、図9(a)の交点P1、P2の部分、すなわちハーフビード116の第1湾曲部116a及び第2湾曲部116cの部分の外角側(凸側表面)を中心とした範囲に生じていることが解る。この現象は、ビード高Bhを比較例サンプルC4、C5のように高くすることによって、第1湾曲部116a及び第2湾曲部116cの外角側における表面がシール材119とともに広がる方向に大きく引き伸ばされ、その結果、シール材119の表面の一部が破壊され「微細なヒビ割れ」となったものと推測される。
【0055】
一方、上記評価結果から、シール材119の「スジ状の痕跡」は、図9(a)の交点P1、P2の部分、すなわちハーフビード116の第1湾曲部116a及び第2湾曲部116cの部分の内角側(凹側表面)を中心とした範囲に生じていることが解る。この現象は、ビード高Bhを比較例サンプルC3?C5のように高くすることによって、第1湾曲部116a及び第2湾曲部116cの内角側における表面がシール材119とともに狭められ、その結果、シール材119の表面の一部が第1湾曲部116aまたは第2湾曲部116cに1本のスジ状に食い込んだ痕跡であると考えられる。この痕跡は、上型140a及び下型140bの面取部140cが、シール材119に接触した痕と推測され、上記した微細なヒビ割れと同様に、ビード高Bhを高くしたことによって生じたものと思われる。すなわち、ビード高Bhを通常より高くすることにより、第1湾曲部116a及び第2湾曲部116cは、その内角側においてより強く面取部140cにより湾曲され、また、必然的に金属基板のバネ応力も加わって、膜厚が25μm程度でコーティングされているシール材119にハーフビード金型140の面取部140cが強く食い込んで当該痕跡が生じるものと推測される。
【0056】
上記した「微細なヒビ割れ」は、ハーフビード116の交点P1、P2すなわち第1湾曲部116a及び第2湾曲部116cの外角側の表面つまり凸側表面に生じており、当該凸側表面はハーフビード116のシール線を構成する重要な部分であって、直接シール限界値の性能を左右する部分であるから、「微細なヒビ割れ」を解消する必要がある。
【0057】
また、上記した「スジ状の痕跡」は、ハーフビード116の交点P1、P2すなわち第1湾曲部116a及び第2湾曲部116cの内角側の表面つまり凹側表面に生じているが、ハーフビード金型140の面取部140cが強く食い込んで金属基板111の表面からシール材119の剥離を生じさせることになるから、長期的なシール性能の維持を左右するため、「スジ状の痕跡」も解消する必要がある。
【0058】
そこで、本願発明者は、上記した従来のハーフビード金型140の面取部140cは、そのR値つまりその半径Drが金型製作時に生産技術上生じる程度の0.3mm?0.5mm程度であったことから、上記従来のハーフビード金型140で加工された比較例サンプルC1?C5等のハーフビード116の形状測定を行い、面取部140cによって加工された同部分のビード半径Brを調査した。図9(b)は、図9(a)の要部を拡大した図であり、図9(b)において、ハーフビード金型140の面取部140cに相当する部分のビード半径Brを計測したところ、当該ビード半径Brは、ハーフビード金型140の面取部140cの半径Drの値とほぼ等しい0.3mm?0.5mm程度の微小な値であった。
【0059】
従来の金属ガスケット110のハーフビード116として常用されている様態の比較例サンプルC1、C2は、ビード高Bhが低いことから、ハーフビード金型140の面取部140cのR値が微小であっても、その影響が少なく「微細なヒビ割れ」には至らず、また、面取部140cのR値が微小であってもビード高Bhが低いことから、金属基板のバネ応力の影響も少なく「スジ状の痕跡」が生じるには至らなかったものと考えられる。
【0060】
上記した「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」の発生は、ハーフビード金型140の面取部140cのR値が微小であることの影響が大きいものと考えられるので、上記の両問題点は、ハーフビード金型140の製作時に、その面取部140cのR値をより大きくすることにより解消することができると考えられる。また、上記の通り、従来の金属ガスケット110のハーフビード116の比較例サンプルを基にして行った表1に示す評価結果から、ビード幅Bwを1.5mmに固定しても、ビード高Bhを高い方向に変化させることにより、より高いシール限界値が得られることは確認できている。したがって、ハーフビード金型140の面取部140cのR値を大きくすることでシール材119の表面に「微細なヒビ割れ」や「スジ状の痕跡」が発生するという両問題点を解消することができれば、結果的に、ハーフビード116の「シール限界値」の改良に繋がると推定される。特に、シール限界値が逆に低下した比較例サンプルC5のようにビード高Bhを0.65mmにまで加工するためには、従来のハーフビード金型140で確認される面取部140cのR値では不足であり、面取部140cのR値を金型設計段階において意図的に大きく設定した新規のハーフビード金型の製作が必要である。
【0061】
そこで、面取部150cのR値(半径Dr)を従来のものよりも大きくした図14に示す構成のハーフビード金型150を製作し、この改良したハーフビード金型150の上型150a及び下型150bにそれぞれ設けられた面取部150cのR値を種々変更しつつ上記したのと同様のテストピースTpを用いてハーフビード116の加工を行うことで、実施例サンプルJ1?J49を製作した。そして、これらの実施例サンプルJ1?J49の形状を形状測定器で測定して作画し、当該作画からハーフビード形状のシール線を構成する交点P1、P2を形成するビード半径BrのR値の最適な数値範囲を確認した。
【0062】
<評価試験1>
ビード半径BrのR値の最適範囲の確認は、実施例サンプルJ1?J7を評価する評価試験1により行った。実施例サンプルJ1?J7は、ビード幅Bwを1.50mmで一定とし、ビード高Bhを0.45mmで一定とし、ビード半径Brを1.5mm?4.5mmまで0.5mmずつ変化させたものである。また、実施例サンプルJ1?J7は、何れも金属基板1枚で構成され、基板板厚tは0.20mmであり、その両面にNBRを主材としたシール材が25μmの厚みでコーティングされたものとした。
【0063】
実施例サンプルJ1?J7のそれぞれのビード半径Brに対応するように、ハーフビード金型150の上型150a及び下型150bの面取部150cの半径Drを変化させても、ハーフビード金型150を用いてテストピースTpをプレス加工する際に、ビード幅Bwが1.50mm、ビード高Bhが0.45mmとの条件が維持されるように、ハーフビード金型150に設けられた調整機構により当該条件を適宜調整しながら実施例サンプルJ1?J7の製作を行なった。
【0064】
これらの実施例サンプルJ1?J7について、上記と同様のシール限界試験装置を用いてヘッドリフト現象(口開き現象)を再現した試験を行い、シール限界値を測定するとともに、ヒビ割れ及びスジ状の痕跡の有無についての評価を行った。評価試験1の試験結果を表2に示すとともに、図15に当該試験結果をグラフで示す。なお、表2においては、ヒビ割れ、スジ状の痕跡が無い場合及びシール限界値が目標を超えた場合に○、ヒビ割れ、スジ状の痕跡が有る場合及びシール限界値が目標を下回った場合に×の評価とした。また、表2には、表1に記載の比較例サンプルC2を、実施例サンプルJ1?J7とシール限界値を比較する対象として記載した。比較例サンプルC2は、少なくともハーフビード形状を改良して行く上でのシール限界値として設定した「80μm」の目標値を得た比較例サンプルである。
【0065】
【表2】

【0066】
表2に示すように、実施例サンプルJ1?J7の何れにおいても、シール材の表面に「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」は認められなかった。この結果から、面取部150cのR値を大きくした改良型のハーフビード金型150を用いることで、ハーフビード116におけるシール材119の表面の損傷防止効果があり、少なくともハーフビード116のビード半径Brを1.5mm以上とすれば、シール材119の表面に影響を及ぼすことが少ないことが確認できた。
【0067】
一方、従来のハーフビード金型140による比較例サンプルC2のシール限界値は80μmであったが、今回のシール限界値の試験においてその目標値を上回ったのは、表2及び図15に示すように、実施例サンプルJ2?J5であり、そのハーフビード116の交点P1、P2を構成するビード半径Brは2.0mm?3.5mmであった。なお、実施例サンプルJ1のシール限界値は、従来の比較例サンプルC2のシール限界値と大差なく、ビード半径Brが1.5mmでは、シール限界値の向上の効果は薄く、また、実施例サンプルJ6、J7のようにビード半径Brが大きくなり過ぎると、シール限界値は逆に減る傾向になることが分った。
【0068】
上記の試験結果から、ハーフビード116の交点P1、P2すなわち第1湾曲部116aの凸側表面における半径及び第2湾曲部116cの凹側表面における半径を構成するビード半径Brは、それぞれ2.0mm?3.5mmの範囲が有効であることが確認できた。
【0069】
<評価試験2>
次に、評価試験2として、ビード幅Bwとビード高Bhとの関係からシール限界値を評価した。この評価は、実施例サンプルJ8?J27を用いて行った。
【0070】
実施例サンプルJ8?J27は、ビード半径Brを、評価試験1において確定させたビード半径Brの最適範囲である2.0mm?3.5mmの範囲内のほぼ中央に位置するビード半径Br3mmに設定し、ビード幅Bwとビード高Bhと種々変更したものである。ビード幅Bwは1.5mm?2.0mmの範囲で変更させ、ビード高Bhは0.25mm?0.95mmの範囲で変更させた。なお、上記と同様のハーフビード金型150の調整機構により、ビード高Bhを変更してもビード幅Bwを一定値に維持することができ、ビード幅Bwを変更してもビード高Bhを一定値に維持することができる設計とした。
【0071】
これらの実施例サンプルJ8?J27について、上記と同様のシール限界試験装置を用いてヘッドリフト現象(口開き現象)を再現した試験を行い、シール限界値を測定するとともに、ヒビ割れ及びスジ状の痕跡の有無についての評価を行った。評価試験2の試験結果を表3に示すとともに、図16に当該試験結果をグラフで示す。なお、表3においては、ヒビ割れ、スジ状の痕跡が無い場合及びシール限界値が目標を超えた場合に○、ヒビ割れ、スジ状の痕跡が有る場合及びシール限界値が目標を下回った場合に×の評価とした。また、表3には、表2と同様に、表1に記載の比較例サンプルC2を、実施例サンプルJ8?J27とシール限界値を比較する対象として記載した。
【0072】
【表3】

【0073】
まず、表3に示すビード幅Bw1.0となる実施例サンプルJ8は製作不可能であった。これは、ビード幅Bwを1.0mmとしてハーフビード116を成形するには、ビード半径Brを3.0mmとするのは大き過ぎだからである。
【0074】
表3に示すように、シール材119の表面に影響を及ぼしたのは、実施例サンプルJ20のみであった。実施例サンプルJ20は、ビード幅Bwが1.5mm、ビード高Bhが0.95mmのものであり、シール限界値は目標値である80μmを超えているが、シール材119の表面に「微細なヒビ割れ」が確認された。なお、実施例サンプルJ20のシール材119の表面に「スジ状の痕跡」は確認されなかった。
【0075】
表3の試験結果をグラフで表した図16から、ビード幅Bwが1.5mmの場合を基準としてシール限界値を考察すると、ビード幅Bwが1.2mmの場合は、ビード幅Bwが1.5mmの場合に比べてシール限界値が若干低下するものの、ビード幅Bw1.5mmとほぼ同程度のシール限界値を示すことが解る。ビード幅Bwが1.8mmの場合も同様に、ビード幅Bwが1.5mmの場合に比べてシール限界値が若干低下するものの、ビード幅Bw1.5mmとほぼ同程度のシール限界値を示すことが解る。これに対して、ビード幅Bwが2.0mmの場合には、ビード幅Bwが1.5mmの場合に比べてシール限界値が大きく低下しており、本願の求めるハーフビード形状としてはやや不向きであることが解る。また、上記の通り、実施例サンプルJ20は、シール限界値は目標値である80μmを上回ったが、シール材119の表面に「微細なヒビ割れ」が確認され、さらに、成型後の実施例サンプルJ20は、その全体に形状の反りが生じて大きく歪んでいた。以上の結果から、ビード高Bhは、実施例サンプルJ19の0.85mmが改良の上限側の臨界点であると判断した。
【0076】
ここで、シール限界値が目標値である80μmに届かなかったのは、実施例サンプルJ9(ビード幅Bw1.2mm、ビード高Bh0.25mm、シール限界値78μm)と実施例サンプルJ25(ビード幅Bw2.0mm、ビード高Bh0.35mm、シール限界値76μm)であり、それ以外の実施例サンプルJは、ビード幅Bwが1.2mmである実施例サンプルJ10?J13、ビード幅Bwが1.5mmである実施例サンプルJ14?J19、ビード幅Bwが1.8mmである実施例サンプルJ21?J24の3種類共に、従来の比較例サンプルC2の値つまり目標値である80μmを上回る良好なシール限界値を有することが確認された。さらに、これらの実施例サンプルJのシール材119の表面には、「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」の何れも確認されずシール材表面の問題に対しても良好な結果であった。特に、比較例サンプルC2のシール限界値が80μmのときのビード高Bhは0.35mmであったのに対して、上記実施例サンプルJでは、ビード幅Bw1.2mm、1.5mm及び1.8mmの3種類の何れにおいても、比較例サンプルC2と同様のビード高0.35mmでのシール限界値が90μm以上の値となっており、良好なシール限界値向上の効果が確認された。
【0077】
以上から、ビード半径BrのR値を従来の0.5mmからより大きい方向に改良することは、シール材119の表面に生じる「微細なヒビ割れ」や「スジ状の痕跡」の解消だけでなく、「シール限界値向上」に大きく寄与する事が確認された。
【0078】
表3及び図16に示す評価試験2の試験結果から、ビード半径Brを一定値(R3.0mm)としたとき、ビード幅Bwの一定下で、ビード高Bhを高くすることによりシール限界値を向上させることができ、かつ、シール限界値の向上は、ビード幅Bwを1.2mm、1.5mm及び1.8mmとしても大きな変動はなく安定していることから、ビード幅Bwは1.2mm?1.8mmの範囲、ビード高Bhは、0.35mm?0.85mmの範囲とすれば充分に改良の効果が得られると判断した。
【0079】
<評価試験3>
次に、評価試験3として、ビード半径BrのR値とシール限界値との関係について評価した。この評価は、実施例サンプルJ28?J49に基づいて行った。
【0080】
本願発明者は、シール材119の表面に「微細なヒビ割れ」や「スジ状の痕跡」が生じるとの問題の解消及びシール限界値の向上に関して、評価試験1から、ビード半径BrのR値は2.0mm?3.5mmの範囲内であれば対策は有効で、評価試験2から、ビード幅Bwは1.2mm?1.8mmの範囲内で、且つ、ビード高Bhは0.35mm?0.85mmの範囲内であれば対策は有効であるとの結果を得た。そこで、更なる評価試験3として、上記評価試験2は、ビード半径Brが3.0mmの場合において、ビード高Bh及びビード幅Bwを変化させての評価であったことから、引き続き、ビード半径BrのR値が2.0mmの場合、及び3.5mmの場合においても評価試験2と同様の結果が得られるかを判断した。ビード半径Br2.5mmについては、ビード半径Br2.0mmと3.0mmの中間値であり、今回特別に判断をしなくとも、ビード半径Br2.0mmと3.0mmの中間ラインで代用できると考え実施を省略した。また、評価試験2の結果から、ビード幅Bw1.5mmでビード高Bh0.95mmの実施例サンプルJ20は試験対象から外した。
【0081】
実施例サンプルJ28?J38は、ビード半径BrのR値が2.0mmであって、ビード幅Bwが1.2mmであり且つビード高Bh0.35mm、0.45mm、0.85mm、ビード幅Bwが1.5mmであり且つビード高Bh0.35mm、0.45mm、0.55mm、0.65mm、0.75mm、0.85mm、ビード幅Bwが1.8mmであり且つビード高Bh0.35mm、0.45mm、0.85mmとなるように、各寸法を調整可能なハーフビード金型150を用いて製作した。
【0082】
同様に、実施例サンプルJ39?J49は、ビード半径BrのR値が3.5mmであって、ビード幅Bwが1.2mmであり且つビード高Bh0.35mm、0.45mm、0.85mm、ビード幅Bwが1.5mmであり且つビード高Bh0.35mm、0.45mm、0.55mm、0.65mm、0.75mm、0.85mm、ビード幅Bwが1.8mmであり且つビード高Bh0.35mm、0.45mm、0.85mmとなるように、各寸法を調整可能なハーフビード金型150を用いて製作した。
【0083】
これらの実施例サンプルJ39?J49について、上記と同様のシール限界試験装置を用いてヘッドリフト現象(口開き現象)を再現した試験を行い、シール限界値を測定するとともに、ヒビ割れ及びスジ状の痕跡の有無についての評価を行った。実施例サンプルJ28?J38についての評価試験3の試験結果を表4に示すとともに、実施例サンプルJ39?J49についての評価試験3の試験結果を表5に示す。なお、表4、5においては、ヒビ割れ、スジ状の痕跡が無い場合及びシール限界値が目標を超えた場合に○、ヒビ割れ、スジ状の痕跡が有る場合及びシール限界値が目標を下回った場合に×の評価とした。また、表4、5には、表2と同様に、表1に記載の比較例サンプルC2を、実施例サンプルJ28?J49とシール限界値を比較する対象として記載した。
【0084】
【表4】

【0085】
【表5】

【0086】
評価試験3において行った全ての実施例サンプルJ28?J49、すなわちビード半径Br2.0mm及び3.5mm、ビード幅Bw1.2mm?1.8mm及びビード高Bh0.35mm?0.85mmの全ての組み合わせで、シール材119の表面に「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」は確認されなかった。また、ビード半径Br2.0mm及び3.5mm、ビード幅Bw1.2mm?1.8mm及びビード高Bh0.35mm?0.85mmの全ての組み合わせにおいて、シール限界値は目標値である80μmを上回った。
【0087】
評価試験3の結果から、ビード幅Bwが1.2mm?1.8mmの範囲、ビード高Bhが0.35mm?0.85mmの範囲で、且つ、ビード半径Brが2.0mm?3.5mmの範囲であれば、本願ガスケットのシール効果は充分満足できる範囲にあることが解った。すなわち、比較例サンプルC1?C7及び実施例サンプルJ1?J49についての試験結果から、本願の金属ガスケット10のハーフビード16の形態として、ビード幅Bwが1.2mm?1.8mmの範囲、ビード高Bhが0.35mm?0.85mmの範囲で、且つ、ビード半径Brが2.0mm?3.5mmの範囲のものを採用すれば、本願が求めるシール材19の表面の「微細なヒビ割れ」及び「スジ状の痕跡」がなく、且つ「シール限界値が80μm」を上回るハーフビード16が得られることが解った。
【0088】
本願発明者は、さらに、図1に示す金属ガスケット10について、エンジン設計面から要求される軽量化、及び熱伝導性の向上、圧縮比調整、コストダウン等への要求を満足しつつ、長期的に安定したシール性能を持つハーフビード16であるかどうかについて、ビードの復元量、ビードクラックの有無、シール材の表面の剥離の有無について確認試験を行った。
【0089】
<確認試験1>
本願発明者はまず、テストピースTpを用いたハーフビード116の復元量(残ビード量)についての確認試験を行ない、「ビード復元力の低下によるシール性能の低下」への改良効果を確認することとした。ビードの復元力を知る方法として「残ビード量」の測定を行った。ここで、「残ビード量」とは、上記で行った「シール限界値測定」に使用した実施例サンプルJを試験装置から取り外した後に、図3(a)、図3(b)に示すのと同様の方法で計測して得られるビード高Bhである。初期ビード高Bhに対する残ビード量Bhの変化量が小さいほど、ビード復元力は多く残留していると考えられる。すなわち、それぞれの実施例サンプルJと従来の比較例サンプルCの残ビード量を比較することにより、ハーフビードの改良効果を確認することができる。
【0090】
残ビード量の測定には、上記と同様のシール限界試験装置を用い、加熱及びオイル負荷は使用せずに、万能試験機でハーフビード116を規定押圧荷重(シール限界値試験と同じ1200kg)で10秒間圧縮した後、万能試験機の押圧荷重をゼロにしてハーフビード116を解放し、再度前記荷重までハーフビード116を圧縮して解放し、この圧縮解放の繰返しサイクルを100回繰り返した後に治具から取り外して残ビード量Bhを測定した。当該試験で用いた実施例サンプルJは、ビード幅Bw1.5mm、ビード半径Br3.0mmであって、ビード高Bhが互いに相違する実施例サンプルJ4、J14、J15、J16、J17、J19を用いた。また、比較例として、ビード幅Bw1.5mm、ビード半径Br0.5mm、ビード高Bh0.35mmの比較例サンプルC2を用いた。確認試験1の試験結果を表6及び図17に示す。
【0091】
【表6】

【0092】
ハーフビード116に2.0mm?3.5mmの範囲内であるビード半径Brを設定した実施例サンプルJの効果は大きく、万能試験機にセットする前の初期高さから試験後の残ビード量への変化率は、従来の比較例サンプルC2よりも小さくなっており、ハーフビード116のヘタリが少ないことが分った。また、ビード高Bhを高くして行くとハーフビード116の変化量も少なく、且つ、残ビード量の絶対値も増え、更に、シール材119の表面の問題から、従来ビードである比較例サンプルC2のビード高Bhの臨界点が0.35mmだったことを考慮すれば、実施例サンプルJのハーフビード116は確実に改良されていることが解った。
【0093】
比較例サンプルC2(ビード高Bh0.35mm)と実施例サンプルJ19(ビード高Bh0.85)は、共に変化量が50%前後の同レベルだが、残ビード量の絶対値は、比較例サンプルC2が残ビード量Bh0.171mmであるのに対して実施例サンプルJ19では残ビード量Bh0.425mmと大きな差となっており、このことからも、ビード半径Brを2.0mm?3.5mmの範囲内に設定することで、シール限界値の維持向上及びハーフビード116のヘタリ防止に関し大きな効果が得られていることが確認できた。
【0094】
<確認試験2>
次に、本願発明者は、ハーフビードに発生するビードクラックについて、確認試験2として疲労強度試験を行い、「ビードクラック発生によるシール機能低下」を確認した。ビードクラックとは、口開き現象による交番荷重の影響から発生するハーフビードの金属疲労による亀裂である。口開き現象によりシリンダブロックに対してシリンダヘッドが浮き上がる際に、圧縮荷重によってハーフビードに加えられていた締付け荷重が解放されるが、この時、ハーフビードが持つ復元力によってシリンダブロック、シリンダヘッド間は常にハーフビードによりシールされることになるが、圧縮変形と解放が毎秒数μm単位で上下に繰り返されるため、金属疲労でハーフビードの一部にクラックが発生することが多かった。クラック発生部はハーフビードの上記した交点P1、P2やその反対面に発生することが多く、特に、実施例サンプルJのようにビード高Bhを従来の比較例サンプルCよりも高くした場合には発生比率が高くなると考えられることから、クラック強度を確認しておく必要がある。そこで、確認試験2において、今後多用されると考えられる使用域となるビード幅Bw1.5mm、ビード半径3.0mmを有するとともに、高さが高い故にビードクラック強度が低いと考えられるビード高Bh0.65mmを有する実施例サンプルJ17と比較例サンプルC2を用いて疲労強度試験を行い、比較例サンプルC2に対する実施例サンプルJの改良の効果を確認した。
【0095】
疲労強度の測定には、上記と同様のシール限界試験装置を用い、加熱及びオイル負荷は使用せずに、内燃機関の出力時の燃焼サイクルを想定して、万能試験機で毎秒数十回のサイクルで振動を繰り返した後、シール限界試験装置からサンプルを取り外して、クラックの有無を目視及び触手にて確認する手法を用いた。このとき、万能試験機の押圧荷重は、規定荷重(上限荷重)でハーフビード116を圧縮し、その圧縮位置でギャップセンサの出力値をゼロとした後、これから確認しようとする口開き量(口開きVol)をギャップセンサが示すまで徐々に荷重を解放し、求める口開き量に達した時の荷重を下限荷重とした。そして、当上限荷重、下限荷重、上限荷重の動きを振動回数1回として、振動回数及び下限荷重を変更しながら、口開き量と一定振動回数後のクラック確認を繰り返し、クラックが確認されない振動回数を疲労強度とした。実施例サンプルJ17で口開き量180μmの場合の測定手順を例に説明すると、実施例サンプルJ17を上下治具間に上限荷重で挟み、徐々にギャップセンサが180μmを示すまで荷重を緩めて下限荷重を設定し、この後、上限荷重と下限荷重間で毎秒数十回のサイクル数で振動させ、振動回数が0.9×10^(4)回に達すると治具から実施例サンプルJ17を取り外してクラックの有無を目視及び触手で確認した。この時点ではハーフビード116にクラックが確認されたので、新しい実施例サンプルJ17を用意し、同条件で振動させつつ、今度は1ランク手前の振動回数が0.8×10^(4)回に達したときに実施例サンプルJ17を取り外してクラックの有無を目視及び触手で確認した。そして、この時点でクラックが確認されなかったので、口開き量180μm時でのビード疲労強度を0.8×10^(4)回と判断した。同様の手順で口開き量が120、50、20、15、10、8、7、6、5μmの場合で試験を行なった。この確認試験2の試験結果を表7に示す。
【0096】
【表7】

【0097】
表7に示す試験結果から、実施例サンプルJ17は、何れの口開き量においても比較例サンプルC2よりも、クラック発生までのクラック寿命が長いことが確認できた。また、規定振動回数(1000×10^(4)回)が終了する迄、治具を取り外して確認することなしに試験を終了させ、終了後サンプルを取り外した時点でもクラックが確認されなかった口開き量は、実施例サンプルJ17では7μmであったのに対し比較例サンプルC2は5μmであり、この点からも改良したハーフビードの疲労強度は従来のハーフビードに対して充分な優位性を有していることを確認できた。すなわち、ビード半径Brを2.0mm?3.5mmの範囲内としたハーフビード形状としたことにより、ビード疲労強度が高められていることが確認できた。
【0098】
<確認試験3>
本願発明者は、上記した確認試験1、2に加えてさらに確認試験3を行い、「シール材表面の膨れ及び剥離によるシール性能の低下」について確認した。
【0099】
内燃機関の燃焼サイクル時、ヘッドリフト現象によって生じた口開きの際、ハーフビードが持つ復元力によってハーフビードは復元しシリンダブロック、シリンダヘッド間は常にシールされるが、燃焼によってオイルが高温に加熱され、また、シリンダブロックとシリンダヘッドの間には交番荷重によって圧縮解放の微振動が数μm?10数μm毎に繰り返されるため、ハーフビードのシール線であるビード交点P1、P2の直近にまで高温の潤滑油が侵入することが多く、また、高温下でのシリンダブロックとシリンダヘッドとが微振動することで金属基板の表面にコーティングされているシール材に、特に交点P1、P2やその反対面において「剥離や膨れ」が発生する虞があることから、前記の確認試験1、2と同様に当シール材の表面の問題も確認しておく必要があった。
【0100】
そこで、シール材の膨れ及び剥離の有無を確認するために、上記と同様のシール限界試験装置を用いて「コーティング剥離試験」を行い、金属基板にコーティングされたシール材がハーフビードのシール線の部分(交点P1、P2)で膨れや剥離が発生し、その後、金属基板の表面が露出するまでの振動回数について、実施例サンプルJ17と比較例サンプルC2とで比較した。当該試験では、下治具に設けたオイル溜まりに潤滑油を満たし、加熱ヒータにより潤滑油を実機エンジンに則した加熱状態とし、油圧調整装置で所定の油圧状態として試験を行った。内燃機関の出力時の燃焼サイクルを想定して、万能試験機でサンプルの圧縮、解放を毎秒数十回繰り返した後、万能試験機からサンプルを取り外して、特に交点P1、P2やその反対面の部分を目視及び触手にて確認した。このとき、万能試験機の押圧荷重は、規定荷重(上限荷重)でハーフビードを圧縮し、その状態でオイル溜まりに潤滑油を満たすとともに当該潤滑油を加熱ヒータ、熱電対、温度調節機を用いて規定温度(150℃)にまで加熱し、規定の上限値と規定の下限値との間で毎秒40回振動させた。振動回数が5×10^(3)回に達すると上下の治具を分離してサンプルを取り外しシール材の剥離、膨れの有無を目視及び触手で確認した。この回数でシール材が膨れていても剥離して金属表面が露出していない場合は、更に同じサンプルで振動試験を続け、その振動回数が再度5×10^(3)回に達したときに上記同様にシール材の膨れ、金属表面露出の有無を目視及び触手で確認した。実施例サンプルJ17及び比較例サンプルC2について、それぞれn=3枚ずつ確認した試験結果を表8に示す。なお、表8においては、シール材の表面に変化がない場合には○、シール材の一部に膨れが生じているが金属基板が露出していない場合には△、シール材が剥離し金属基板が露出している場合には×の評価とした。
【0101】
【表8】

【0102】
表8に示すように、確認試験3の結果から、実施例サンプルJ17は、いずれの振動回数においても、従来の比較例サンプルC2よりシール材の表面の膨れ及び金属基板の露出までの寿命が長いことが確認できた。また、ハーフビードの形状を変更しても、シール材表面へ悪影響のないことが確認された。
【0103】
以上の各評価試験及び確認試験の結果から、ハーフビードのビード幅Bwを1.2mm?1.8mmの範囲とし、ビード高Bhを0.30mm?0.85mmの範囲とし、ビード半径Brを2.0mm?3.5mmの範囲とすることにより、ハーフビード16の圧縮が不完全となっても、ハーフビード16の復元力を維持して金属ガスケット10のシール限界値を十分に高め、また、ハーフビード16にクラックが生じることを防止し、さらに、金属基板11の外表面にコーティングされたシール材19の膨れ及び剥離を防止して、当該金属ガスケット10のシール機能を維持し得ることが確認できた。
【0104】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0105】
例えば、前記実施の形態においては、1枚の金属基板11と段差調整板17で構成された1.5層型の金属ガスケット10を実施例として記載しているが、これに限らず、2枚の金属基板11と1枚の段差調整板17とを備えた2.5層構造のものにも応用することができる。
【0106】
また、前記実施の形態においては、潤滑油孔15をシールするハーフビード16に本発明を適用した場合を示したが、これに限らず、例えば冷却水孔14やチャンバ孔等の他の孔をシールするためのハーフビードに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0107】
10 金属ガスケット
11 金属基板
11a 基板本体
12 シリンダボア孔
13 フルビード
14 冷却水孔(液体孔)
15 潤滑油孔(液体孔)
16 ハーフビード
16a 第1湾曲部
16b 傾斜板部
16c 第2湾曲部
16d 縁板部
17 段差調整板
17a かしめ部
18 ボルト孔
19 シール材
20 測定子
40 ハーフビード金型
40a 上型
40b 下側
40c 面取部
110 金属ガスケット
111 金属基板
111a 基板本体
112 シリンダボア孔
113 フルビード
114 冷却水孔
115 潤滑油孔
116 ハーフビード
116a 第1湾曲部
116b 傾斜板部
116c 第2湾曲部
116d 縁板部
117 段差調整板
118 ボルト孔
119 シール材
120 測定子
130 微細なヒビ割れ
131 スジ状の痕跡
140 ハーフビード金型
140a 上型
140b 下型
140c 面取部
150 ハーフビード金型
150a 上型
150b 下型
150c 面取部
S1 基板本体の上側表面
L1 基板本体ライン
S2 縁板部の上側表面
L2 縁板部ライン
S3 傾斜板部の上側表面
L3 傾斜板部ライン
P1 交点
P2 交点
L4 垂直基準ライン
L5 ライン
L6 ライン
Tp テストピース
C1?C12 比較例サンプル
t 基板板厚
Bw ビード幅
Bh ビード高
Br ビード半径
Kw 幅
Dr 面取部の半径
J1?J49 実施例サンプル
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面にシール材がコーティングされるとともにシリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備える少なくとも1枚の金属基板を有し、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に装着される金属ガスケットであって、
前記ハーフビードは、
前記金属基板の平坦な基板本体に第1湾曲部を介して連なり該基板本体に対して傾斜する傾斜板部と、
前記傾斜板部に第2湾曲部を介して連なり、該傾斜板部に対して傾斜する縁板部とを有し、
前記第1湾曲部の凸側表面における半径及び前記第2湾曲部の凹側表面における半径が、2.0mm?3.5mmの範囲内で互いに同値であり、
前記ハーフビードの高さが、0.35mm?0.85mmの範囲内であり、
前記ハーフビードの幅が、1.2mm?1.8mmの範囲内であることを特徴とする金属ガスケット。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-04 
出願番号 特願2017-31389(P2017-31389)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F02F)
P 1 651・ 536- YAA (F02F)
P 1 651・ 55- YAA (F02F)
P 1 651・ 537- YAA (F02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂口 達紀二之湯 正俊  
特許庁審判長 渋谷 善弘
特許庁審判官 金澤 俊郎
齊藤 公志郎
登録日 2018-12-21 
登録番号 特許第6453369号(P6453369)
権利者 日本リークレス工業株式会社
発明の名称 金属ガスケット  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 憲司  
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