• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F16J
審判 全部申し立て 2項進歩性  F16J
管理番号 1362345
異議申立番号 異議2019-700033  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-17 
確定日 2020-04-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6360566号発明「シールリング」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6360566号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6360566号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6360566号の請求項1?6に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)3月28日(優先権主張 平成27年3月31日、平成27年9月14日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年6月29日に特許権の設定登録がされ、平成30年7月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、特許異議申立人玉田尚志(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1?6に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年1月17日 :特許異議申立人による特許異議の申立て
平成31年3月18日付け:取消理由通知書
令和1年5月15日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和1年7月10日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和1年7月26日付け :取消理由通知書(決定の予告)
令和1年9月30日 :特許権者による意見書の提出
令和1年10月15日付け:特許異議申立人に対する審尋
令和1年11月20日 :特許異議申立人による回答書の提出
令和2年1月23日 :特許権者による上申書の提出

第2 訂正の請求
1 訂正の内容
令和1年5月15日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。

<訂正事項>
特許請求の範囲の請求項1に「・・・第1及び第2斜面部と、を有するシールリング。」と記載されているのを、「・・・第1及び第2斜面部と、を有し、前記複数のポケットの前記側面からの深さが0.1mm以上であるシールリング。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する。)。

なお、訂正前の請求項1?6について、請求項2?6は、請求項1の記載を直接または間接的に引用しており、上記訂正事項によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項1?6について請求されたものである。

2 訂正の適否
(1)訂正の目的
上記訂正事項は、訂正前の請求項1における「複数のポケット」について、その「側面からの深さ」を「0.1mm以上」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項は、上記(1)のとおり、特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)新規事項の有無
本件特許に係る出願の願書に添付した明細書の段落【0036】には、「底部11は、ポケット10の周方向の中央領域に設けられ、ポケット10において側面1cからの深さが最も深い部位である。」と記載され、段落【0037】には、「底部11の側面1cからの深さt_(1)は、例えば、0.1mm以上0.6mm以下とすることができる。」と記載されている。
上記訂正事項は、これらの記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

なお、本件訂正請求においては、訂正前の全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について、訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
外周面と、前記外周面に対向する内周面と、前記外周面と前記内周面とを接続する側面と、前記側面に間隔をあけて設けられ、前記外周面側が閉塞され、前記内周面側が開放された複数のポケットと、を具備し、
前記複数のポケットはそれぞれ、
周方向の両端部にそれぞれ設けられ、前記側面から延びる、先端曲率半径が10mm以下の前記側面側に突出する凸状のR面である第1及び第2端部と、
前記第1及び第2端部から周方向の中央部に向けてそれぞれ延び、前記側面に対して1°以上20°以下の角度を成す平面である第1及び第2斜面部と、を有し、
前記複数のポケットの前記側面からの深さが0.1mm以上である
シールリング。
【請求項2】
請求項1に記載のシールリングであって、
前記複数のポケットはそれぞれ、前記第1端部と前記第2端部との間の中央領域に設けられた底部を更に有し、
前記第1及び第2斜面部は、前記第1及び第2端部から前記底部にそれぞれ延びる
シールリング。
【請求項3】
請求項2に記載のシールリングであって、
前記底部は、前記側面に平行な方向に延びている
シールリング。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のシールリングであって、
前記ポケットは、前記底部と前記第1及び第2斜面部とをそれぞれ接続し、前記側面側から窪む凹状のR面である第1及び第2接続部を更に有する
シールリング。
【請求項5】
請求項1に記載のシールリングであって、
前記第1斜面部と前記第2斜面部とが前記中央部において接続されている
シールリング。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のシールリングであって、
前記内周面における前記複数のポケットの周方向の寸法の合計は、前記内周面の全周の50%以上98%以下である
シールリング。」

第4 取消理由の概要
本件特許に対して、当審が令和1年7月26日付けの取消理由通知書(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

<取消理由(進歩性)>
本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

<刊行物>
引用文献1:国際公開第2015/002143号
引用文献2:国際公開第2013/094657号

なお、引用文献1及び2は、それぞれ、特許異議申立書に添付された甲第1及び2号証である。

第5 引用文献の記載
1 引用文献1
引用文献1には、図面と共に、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(1)「[0008] 本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、シールリングの本来の目的である低オイルリーク性と、燃費向上のための低トルク性をバランス良く兼ね備えたシールリングを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0009] 本発明のシールリングは、軸孔を有するハウジングおよび上記軸孔に挿通される回転軸の一方の部材に設けられた環状溝に装着されて、他方の部材表面に接触し、かつ上記環状溝の非密封流体側の側壁面に摺動自在に接触して、これら部材間の環状隙間を封止するシールリングであって、該シールリングは、少なくとも上記側壁面との摺動面となるリング側面の内径側端部の一部に、上記側壁面との非接触部となる、リング周方向に沿ったV字状の凹部が設けられていることを特徴とする。また、上記凹部は、内径側の開口寸法より外径側の開口寸法の方が大きいことを特徴とする。」

(2)「[0013] 本発明のシールリングは、軸孔を有するハウジングおよび上記軸孔に挿通される回転軸の一方の部材に設けられた環状溝に装着されて、他方の部材表面に接触し、かつ環状溝の非密封流体側の側壁面に摺動自在に接触して、これら部材間の環状隙間を封止するものであり、少なくとも側壁面との摺動面となるリング側面の内径側端部の一部に、側壁面との非接触部となる、リング周方向に沿ったV字状の凹部が設けられているので、密封流体である作動油等がこの凹部を介して摺動面に適度に流出しやすい。このため、低オイルリーク性と、低トルク性をバランス良く兼ね備えたシールリングとなる。」

(3)「[0019]本発明のシールリングの一例を図1および図2に基づいて説明する。図1(a)はシールリングの斜視図を、図1(b)は図1(a)のシールリングの一部拡大断面図を、図2はこのシールリングを油圧装置の環状溝に組み込んだ状態の断面図を、それぞれ示す。図1(a)および(b)に示すように、シールリング1は、一箇所の合い口4を有する断面が略矩形の環状体であり、リングの両側面2の内径側端部に、リング周方向に沿ったV字状の凹部3が複数設けられている。また、リング内周面1bとリングの両側面2(凹部3を含む)との角部は直線状、曲線状の面取りが設けられていてもよく、シールリングを射出成形で製造する場合、該部分に金型からの突出し部分となる段部1cを設けてもよい。
[0020] 図2に示すように、シールリング1は、ハウジング5の軸孔5aに挿通される回転軸6に設けられた環状溝6aに装着される。図中の矢印が作動油からの圧力が加わる方向であり、図中右側が非密封流体側である。シールリング1は、そのリング側面2で、環状溝6aの非密封流体側の側壁面6bに摺動自在に接触している。また、その外周面1aで軸孔5aの内周面に接触している。このシール構造により、回転軸6と軸孔5aとの間の環状隙間を封止している。なお、環状溝が、回転軸側ではなく、ハウジング側に設けられる構成においても同様に適用できる。また、作動油は用途に応じた種類が適宜用いられる。本発明では、油温として30?150℃程度、油圧として0.5?3.0MPa程度、回転軸の回転数として1000?7000rpm程度の条件を主に想定している。」

(4)「[0022] 図1および図2に示すように、シールリング1は、一方のリング側面が環状溝の側壁面との摺動面となり、このリング側面(摺動面)に該側壁面との非接触部となるV字状の凹部3が形成されている。この凹部3を設けることで、密封流体である作動油等が該凹部を介して摺動面に適度に流出しやすくなる。詳細には、隣り合う凹部同士の間の摺動面Xと凹部との境界部は連続的な形状となり、凹部の外径側の摺動面Yと凹部との境界部は非連続な形状(段差)となるため、作動油等が摺動面Xには流出しやすく、摺動面Yには摺動面Xと比較すると流出しにくい。摺動面XやYに密封流体である作動油等が流出することで、該摺動面で油膜を形成でき、トルクおよび摩耗の低減が図れる。また、摺動面Yへの流出を抑制することで、低オイルリーク性に繋がる。
[0023] 凹部は少なくとも摺動面となるリング側面に形成すればよいが、組み付け方向の依存性がなく、重量バランスにも優れることから、図1に示すようにリングの両側面に対称に形成することが好ましい。
[0024] また、図1に示すように、凹部3はリング周方向で離間して複数個設けることが好ましい。隣り合う凹部同士の間のリング側面2が摺動面の一部(摺動面X)を構成する。上述のとおり、使用時には、この隣り合う凹部同士の間の摺動面において油膜を形成でき、トルクおよび摩耗の低減が図れる。凹部のそれぞれのリング周方向の長さは、個数に応じて、リング全周の約3?20%とすることが好ましい。凹部のリング径方向の長さは、リング総厚みの10?60%とすることが好ましい。また、摺動特性が安定することから、凹部は全て同サイズとし、略等間隔で離間して複数個(図1では片面12個)設けることが好ましい。
[0025] V字状の凹部を図3に基づいて詳細に説明する。図3は、本発明のシールリングの一部(図1のA部)をリング内径側から見た図である。図3に示すように、凹部3は、リング周方向に沿ったV字状である。リングの側面2の一方が環状溝との摺動面である。凹部3の摺動面からの深さは、凹部3のリング周方向の端部以外に最深部3cがあり、最深部3cからリング周方向の両端部に向けて浅くなる。すなわち、リング周方向で摺動面に近い領域程浅くなる。また、凹部3の摺動面からの深さは、リング径方向には一定である。図1および図3に示す例では、凹部3の底面は、摺動面(リングの側面2)から、幅方向中央側に向けてリング周方向に沿って傾斜した平面3aと平面3bとから構成される。」

(5)「[0028] 凹部3の最深部3cの摺動面からの深さは、リング総幅の45%以下とすることが好ましく、30%以下とすることが更に好ましい。なお、ここでの「深さ」は、凹部をリングの両側面に形成する場合には、各側面の凹部の深さを合計したものである。リング総幅の45%をこえる場合、リングが使用時に大きく変形する等のおそれがある。
[0029] 凹部のリング周方向の端部と摺動面との境界部について図4および図5に基づいて説明する。図4は図3におけるB部の拡大図であり、図5は境界部の一例を示す拡大断面図である。図5(a)に示すように、凹部3のリング周方向の端部と摺動面(リングの側面2)との境界部3dは、摺動面に対して急勾配に形成されていることが好ましい。すなわち、凹部3において、境界部3dの摺動面に対する勾配を、該境界部3d以外の部分の摺動面に対する勾配よりも大きくすることが好ましい。この構成により、急勾配を形成しない場合(図5(b))と比較して、摺動面が同程度摩耗した場合でも凹部の開口面積の減少が小さく、トルクの変化が生じない。この急勾配は、例えば図4に示すように、リングの幅方向中央側に凸のR状にすることができる。境界部3dの急勾配部をR状に形成することで、密封流体である作動油等が、より摺動面に流出しやすくなり、更に低トルクとなる。」

(6)「[0034]実施例1および比較例1?3
PEEK樹脂を主材料とし、炭素繊維およびPTFE樹脂を配合した樹脂組成物(NTN精密樹脂社製:ベアリーPK5301)を用い、表1に示すそれぞれの形状のシールリング(外径φ50mm、内径φ47mm、リング幅1.5mm、リング厚さ1.5mm)を射出成形により製造した。なお、表中の摺動面積は、非接触部となる各凹部を除くリング側面の面積である。」

(7)上記段落[0028]、[0034]の記載から、凹部3をリングの両側面に形成した場合、実施例1における凹部3の最深部の深さは、リング幅1.5mm×0.225(※45%の半分)=約0.34mm以下といえる。

(8)段落[0034]?[0040]には、実施例1及び比較例1?3のシールリングについて、試験機による摩耗試験を行った結果、「試験1時間経過後の量」としての「摩耗量」が、溝形状が「V溝」である実施例1では5μm、「溝なし」である比較例1では50μm、「角溝」である比較例2では20μmとなったことが記載されているとともに(特に[表2])、「表2に示すように、回転トルクは、実施例1が、低速から高速回転時のいずれも最も低トルクであり、比較例1(溝無しリング)と比較して50%以上低減できた。・・・また、摩耗量は、実施例1が最も少なく、比較例1(溝無しリング)の10%程度であった。」(段落[0040])と記載されている。

上記記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「外周面1aと、前記外周面1aに対向するリング内周面1bと、前記外周面1aと前記リング内周面1bとを接続するリング側面2と、前記リング側面2に間隔をあけて設けられ、前記外周面1a側が閉塞され、前記リング内周面1b側が開放された複数のV字状の凹部3と、を具備し、
前記複数のV字状の凹部3はそれぞれ、
リング周方向の両端部にそれぞれ設けられた、前記リング側面2との境界部3dと、
前記境界部3dから幅方向中央側に向けてリング周方向に沿って傾斜した平面3a及び3bと、を有し、
前記凹部3の最深部の深さが約0.34mm以下である
シールリング1。」

2 引用文献2
引用文献2には、図面と共に、次の事項が記載されている。
(1)「[0006] 本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、低フリクション特性と低リーク特性を併せもち、自動変速機の駆動損失を低減し、自動車の燃費向上に貢献し得るシールリングを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0007] 上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、接触側面の内周側に周方向に離間して凹部が形成され、その間に柱部が配置されたシールリングにおいて、凹部の周方向両側の端部を柱部に向かって凸状の曲面からなる絞り部で構成すると、油の絞り込みにより発生する揚力が増加しフリクションが低減することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明のシールリングは、軸の外周面に形成された軸溝に装着されるシールリングであって、少なくともシールリングの接触側面の内周側に、柱部を介して周方向に離間した複数の凹部が形成され、凹部の周方向両側の端部は、柱部に向かって凸状の曲面からなる絞り部で構成されていることを特徴とする。
発明の効果
[0008] 本発明では、接触側面の内周側に柱部を介して周方向に離間した凹部を設け、その凹部の周方向両側の端部を柱部に向かって凸状の曲面からなる絞り部で構成する。柱部と凹部が緩やかなR形状で結ばれていることにより、油の絞り効果が向上し、揚力が増加するため、フリクションを効果的に低減することができる。また、本発明のシールリングでは、接触側面とリング溝側面が面で接触するため、油の漏れも抑制できる。このように、本発明のシールリングは、低フリクション及び低リークの両特性を併せもつため、自動変速機の駆動損失を効果的に低減することができる。」

(2)「[0010] 以下に本発明のシールリングについて図面を参照して詳細に説明する。
図3(A)に本発明のシールリングの斜視図を示し、図3(B)には、(A)のシールリングの内周面から見た円周方向の直動展開図を示す。なお、以下の記載において、上記展開図における直線部を平面又は平坦面といい、曲線部を曲面という。本形態では、図3(B)に示すように、凹部6両端は柱部7に向かって凸状の曲面、すなわち、内周面から見た円周方向の直動展開図(図3(B))において、上に凸状の曲面からなる絞り部20で構成され、柱部7と連結している。このように柱部7と凹部6が緩やかな傾斜曲面で繋がれているため、特許文献2のシールリングの凹部6形状よりさらに絞り効果が向上し、揚力が増加して、フリクションが低減する。また、本形態では、図3(B)に示すように、凹部6の中央に側面に平行な凹部6最深部21が形成され、最深部21の両端から絞り部20に向かい、最深部21に向かって凸状の曲面、すなわち、図3(B)において下に凸状の曲面からなる斜面部22が形成されている。そして、斜面部22と絞り部20との境界も緩やかな曲面で連結されている。斜面部22をこのような構成とすることにより、より優れたフリクション低減効果を得ることができる。しかし、本発明のシールリングの斜面部22は、このような曲面からなる構成に限定されず、平面単独としても、平面と曲面からなる構成としてもよい。
ここで、最深部21の深さh、すなわち最深部21の軸方向幅は、シールリングの軸方向幅を100として、2?17とするのが好ましく、5?10とするのがより好ましい。最深部21の深さhを、この範囲に設定することにより、より優れたフリクション低減効果が得られる。
図3では、最深部21は、所定の周方向長さを有し、側面と平行な平坦面で形成されているが、平坦面を設けない構成とすることもできる。すなわち、凹部6の中央は、最深部21を含み、最深部21に向かって凸形状、すなわち、図3(B)において下に凸状の1つの曲面からなる斜面部22で構成され、この斜面部22の両側から柱部7までを、柱部7に向かって凸状、すなわち、図3(B)において上に凸状の曲面からなる絞り部20で連結した凹部6構成とすることもできる。但し、より優れたフリクション低減効果を得るためには、最深部21は、側面と平行な平坦面で構成されるのが好ましい。この場合、最深部の周方向の幅bは、1個の凹部6の周方向幅aを100として2?20とするのが好ましく、8?16とするのがより好ましい。
また、絞り部20のR曲面のダレ長さc、すなわち、凹部6先端から絞り部20と斜面部22との境界までの周方向幅は、凹部6片側の傾斜部の周方向幅、すなわち、絞り部20と斜面部22の周方向の幅の和(c+d)を100として、5?20とするのが好ましい。また、絞り部20の深さe、すなわち、絞り部20と斜面部22との境界点の軸方向の減退量は、凹部6の最深部の深さh(軸方向の減退量)を100として、0を超え20%以下とするのが好ましい。
凹部6の数(1本のシールリングの片側の側面に形成される凹部の数)は、シールリングのサイズによるが、外径(呼び径)が20?70mm程度のシールリングでは、4個?16個が好ましく、6個?10個がより好ましい。凹部6の周方向幅は、フリクション低減効果に大きな影響を及ぼす因子であり、周方向幅の小さい凹部6を多数形成するより、周方向幅の大きい凹部6を形成する方が顕著なフリクション低減効果が認められる。凹部6の1個あたりの周方向幅aは、シールリングの外周長さを100として、3?25であるのが好ましく、5?15であるのがより好ましい。また、凹部6の1個あたりの周方向幅aは、柱部7の1個あたりの周方向幅fの5?20倍とするのが好ましい。
本発明の効果は、凹部6をシールリングの接触側面に形成することにより得られる。しかし、本形態の凹部6形状は、周方向中央に対して両側が対称形状であるため、作業性を考慮すると、シールリングの接触側面及び受圧側面の両方に凹部6を設け、両側面とも対称で方向性のない構成とするのが好ましい。」

(3)「[0015] 本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
(実施例1)
カーボン繊維を添加したPEEK材を用いて、射出成形により、図3(A)に示す構造の凹部形状を有するシールリングを作製した。ここで、絞り部の曲率をR40として、最深部の深さ0.22mm、周方向幅24mmの凹部を接触側面及び受圧側面それぞれに8個形成した。シールリングの外径(呼び径)は67mm、厚み(径方向幅)は2.3mm、幅(軸方向幅)は2.32mmとし、合口は図5に示すトリプルステップ合口とした。なお、最深部の深さは、シールリングの軸方向幅を100として9.5で、最深部の周方向の幅は、1個の凹部の周方向長さを100として16.9であり、絞り部のR曲面のダレ長さは、絞り部と斜面部の周方向幅の和を100として13.9で、絞り部の深さは、凹部の最深部の深さを100として15.0であった。」

(4)「[0020](実施例2?5)
実施例1と同様に、カーボン繊維を添加したPEEK材を用いて、射出成形により、図3(A)に示す構造の凹部形状を有するシールリングを作製した。ここで、絞り部の曲率を変えて、最深部の深さhが、それぞれ0.03mm(実施例2)、0.08mm(実施例3)、0.12mm(実施例4)、及び0.41mmm(実施例5)となるようにした。なお、シールリングの外径(呼び径)は67mm、厚み(径方向幅)は2.3mm、幅(軸方向幅)は2.32mmとし、合口は、図5に示すトリプルステップ合口とした。それぞれの実施例の最深部の深さは、シールリングの軸方向幅を100として1.3(実施例2)、3.4(実施例3)、5.2(実施例4)、及び17.7(実施例5)であった。得られたシールリングのフリクション及び油漏れ量を実施例1と同様に測定した。」

第6 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、後者の「外周面1a」は、前者の「外周面」に相当し、以下同様に、「リング内周面1b」は「内周面」に、「リング側面2」は「側面」に、「V字状の凹部3」は「ポケット」に、「凹部3の最深部の深さ」は「ポケットの側面からの深さ」に、「シールリング1」は「シールリング」にそれぞれ相当する。
また、後者の「リング周方向の両端部にそれぞれ設けられた、前記リング側面2との境界部3d」は、「周方向の両端部にそれぞれ設けられ、前記側面から延びる、第1及び第2端部」である限りにおいて、前者の「周方向の両端部にそれぞれ設けられ、前記側面から延びる、先端曲率半径が10mm以下の前記側面側に突出する凸状のR面である第1及び第2端部」と一致する。
そして、後者の「前記境界部3dから幅方向中央側に向けてリング周方向に沿って傾斜した平面3a及び3b」は、「前記第1及び第2端部から周方向の中央部に向けてそれぞれ延び、前記側面に対して所定の角度を成す平面である第1及び第2斜面部」である限りにおいて、前者の「前記第1及び第2端部から周方向の中央部に向けてそれぞれ延び、前記側面に対して1°以上20°以下の角度を成す平面である第1及び第2斜面部」と一致する。

そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「外周面と、前記外周面に対向する内周面と、前記外周面と前記内周面とを接続する側面と、前記側面に間隔をあけて設けられ、前記外周面側が閉塞され、前記内周面側が開放された複数のポケットと、を具備し、
前記複数のポケットはそれぞれ、
周方向の両端部にそれぞれ設けられ、前記側面から延びる、第1及び第2端部と、
前記第1及び第2端部から周方向の中央部に向けてそれぞれ延び、前記側面に対して所定の角度を成す平面である第1及び第2斜面部と、を有する
シールリング。」

<相違点1>
「第1及び第2端部」に関し、本件発明1は、「先端曲率半径が10mm以下の前記側面側に突出する凸状のR面である」のに対し、引用発明の境界部3dは、このような形状のR面ではない点。

<相違点2>
「第1及び第2斜面部」に関し、本件発明1は、「側面に対して1°以上20°以下の角度を成す平面である」のに対し、引用発明は、平面3a及び3bのリング側面2に対する角度が不明な点。

<相違点3>
「ポケットの側面からの深さ」に関し、本件発明1は「0.1mm以上である」のに対し、引用発明は「約0.34mm以下である」点。

(2)判断
ア 相違点1について
(ア)引用文献2には、上記第5の2のとおり、シールリングの側面に形成した凹部6の周方向両側の端部を凸状の曲面からなる絞り部20(側面側に突出する凸状のR面)で構成し、凹部6と柱部7とが緩やかな傾斜曲面で繋がれるようにすることで、油の絞り込みによって発生する揚力を増加させ、シールリングのフリクションを低減することが記載されている。
また、引用文献2の段落[0010]における「また、絞り部20のR曲面のダレ長さc…とするのが好ましい。」との記載、及び、段落[0015]、[0020]に記載の実施例において、絞り部20の曲率を変えることで凹部6の最深部の深さhを変化させていることに鑑みれば、引用文献2には、絞り部20の曲率半径を、実施例1における40mmよりも小さな値とすることも示唆されているといえる。
引用発明と引用文献2に記載された技術は、いずれも変速機等に用いられるシールリングに関するものであって、同一の技術分野に属する技術である上、シールリングの低オイルリーク性(低リーク特性)と低トルク性(低フリクション特性)をバランス良く実現するという共通の課題も有している。加えて、シールリングの摺動面に作動油を適度に流出させることで摺動面に油膜を形成し、低トルク性(低フリクション特性)を実現するという作用も共通している。
してみると、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用し、引用発明における境界部3dを側面側に突出する凸状のR面に形成することは、当業者が容易に想到し得たことであり、その際に所期の低トルク性を実現できるよう曲率半径を調整することは、当業者が適宜なし得た設計的事項であるという論理付けが可能であるとも考えられる。
以下では、上記論理付けに関し、引用発明への引用文献2に記載された技術の適用に係る他の考慮事項、さらには、上記論理付けを妨げる要因(阻害要因)の有無について、進んで検討する。

(イ)平面部と境界部の勾配が不連続となる構成について
引用文献2には、上記第5の2(2)のとおり、段落[0010]に、「斜面部22と絞り部20との境界も緩やかな曲面で連結されている。斜面部22をこのような構成とすることにより、より優れたフリクション低減効果を得ることができる。しかし、本発明のシールリングの斜面部22は、このような曲面からなる構成に限定されず、平面単独としても、平面と曲面からなる構成としてもよい。」と記載されており、斜面部22を平面単独としてもよいというのであるから、斜面部22と絞り部20とを緩やかな曲面で連結せず、両者をそれらの勾配が不連続となる形で連結する構成とすることは妨げられていないものの、斜面部22と絞り部20との境界が緩やかな曲面で連結されている方が、フリクション低減効果を得るうえでより好ましいことが記載されていることが認められる。そして、緩やかな曲面で連結されている方が好ましいのは、平面部と境界部との接続部において勾配が不連続であると、そこで絞りが急激に大きくなるため、接続部において勾配が連続である場合と比べて、油の流動が滑らかではなくなることに関係していると考えられる。
一方、引用文献1には、図5(a)に平面部と境界部との勾配が不連続となっている構成が記載されているものの、上記第5の1(5)のとおり、段落[0029]に、境界部3dの急勾配に関して、「この急勾配は、例えば図4に示すように、リングの幅方向中央側に凸のR状にすることができる。境界部3dの急勾配部をR状に形成することで、密封流体である作動油等が、より摺動面に流出しやすくなり、更に低トルクとなる。」と記載されており、凹部3の境界部3dが平面部と滑らかに接続されていることで、密封流体がより摺動面に流出しやすくなり、更に低トルク化を図ることができる点が示唆されているといえる。
してみると、引用文献1及び2には、平面部と境界部との勾配が連続となっていることが好ましいことが記載又は示唆されていると認められ、そのような引用文献1及び2に接した当業者が、平面部と境界部との勾配の不連続が大きくなるような構成である、境界部を凸状のR面とする構成を、積極的に採用する動機付けは見出し難いといえる。

(ウ)想定される摩耗量と開口面積の減少量について
引用文献1の段落[0029]には、第5の1(5)のとおり、凹部3のリング周方向の端部と摺動面(リングの側面2)との境界部3dが、摺動面に対して急勾配に形成されている場合(図5(a))、急勾配を形成しない場合(図5(b))と比較して、摺動面が同程度摩耗した場合でも凹部の開口面積の減少量が小さく、トルクの変化が生じないため好ましい旨が記載されている。
そして、境界部3dを凸状のR面としたときの、摺動面が摩耗した場合における凹部3の開口面積の減少量は、摺動面の摩耗の程度によって異なることは明らかであるが、本件特許出願の優先日時点の技術水準において、引用発明のように「V字状の凹部」を具備するシールリングを想定した場合にあっては、当該摩耗量として、引用文献1の実施例1に示されている5μm程度、あるいはそれ以下であることも想定され得るところである(下記(エ)も参照)。
それを踏まえて、令和2年1月23日の上申書において、特許権者が、摩耗量を5μmと設定して算出した結果を参酌すると、開口長さの減少量は、境界部を凸状のR面とした想定例1?3のうちの想定例1と、境界部なしの想定例5とでは変わりがないものの、想定例2及び3では、想定例5の場合より増大しており、境界部を凸状のR面とすることは、引用文献1に記載された、開口面積の減少量を小さくするという効果を得る上で、不利に働く傾向にあることが読み取れる。
してみると、当業者が、引用発明における境界部3dを、開口面積の減少量を小さくするという効果に対して不利に働く傾向のある凸状のR面とすることには、阻害要因があるといえる。

(エ)特許異議申立人の主張について
令和1年11月20日の回答書において、特許異議申立人は、平成4年1月31日出願の実用新案登録に係る実用新案登録公報である甲第5号証(実用新案登録第2560805号公報)を参考にし、摩耗量を30μmと設定して想定例を作成している。
しかしながら、30μmという摩耗量の設定値は、本件特許出願の優先日時点の技術水準において、引用発明のように「V字状の凹部」を具備するシールリングを想定した場合にあっては、過大であると考えられる。その根拠は、次のとおりである。
上記第5の1(8)のとおり、引用文献1には、試験機による摩耗試験の結果としての「摩耗量」が、溝形状が「V溝」である実施例1では5μm、「溝なし」である比較例1では50μm、「角溝」である比較例2では20μmとなったことが記載されているとともに、回転トルクも、実施例1では比較例1と比較して50%以上低減できたことが記載されている。すなわち、当該試験結果によれば、摩耗量は、「溝なし」の比較例1を基準として、「角溝」の比較例2では4割の水準となり、低トルク性を発揮する「V溝」の実施例1では1割の水準にまで、低減されるということになる。
ここで、上記30μmという摩耗量の設定値の根拠として特許異議申立人が提示した甲第5号証を参照すると、その段落【0018】?【0028】には、シールリングを所定の条件下における100時間の耐久試験に供した際の、リング側面の摩耗量として、引用文献1でいう「溝なし」の場合及び「角溝」の場合に対応する、比較例1及び実施例1(ただし、潤滑溝12の角部にアールを、エッジ部にクラウニングをそれぞれ付与)では、それぞれ48μm及び15μmという測定値が得られたことが記載されているとともに、実施例1及び2では比較例1?3に比して、回転トルクが小さく、かつ摩耗量が少ないことが記載されている。すなわち、当該試験結果によれば、摩耗量は、「溝なし」に対応する比較例1を基準として、「角溝」に対応する実施例1では3割強の水準に低減されるということになる。
引用文献1に記載された実験結果と、甲第5号証に記載された実験結果とは、摩耗量の測定に係る諸条件を異にするため、単純に比較することができるものではないが、両実験結果は、「溝なし」の場合を基準とした「角溝」の場合の摩耗量低減効果において、軌を一にしているといえる。そこで、仮に、引用文献1に記載された、摩耗量は「溝なし」の比較例1を基準として「V溝」の実施例1では1割の水準にまで低減されるという事項に限って、甲第5号証の開示に当てはめてみると、「溝なし」にあたる比較例1の場合の摩耗量が48μmであるから、甲第5号証に記載の試験条件で「V溝」の場合の摩耗量を測定したとすれば、その約1割である5μm程度の摩耗量になることが想定される(なお、この値は、引用文献1に記載された「V溝」の実施例1の場合の摩耗量5μmとも整合する。もっとも、引用文献1の開示と甲第5号証の開示とでは、摩耗量の測定に係る諸条件を異にするため、かかる値自体の整合は考慮に入れないこととする。)。
以上の検討に照らせば、たとえ特許異議申立人の主張に沿って、甲第5号証の開示を参考に摩耗量の水準を見積もることとしたとしても、潤滑溝12の形状に特段留意することなく30μmという摩耗量を見積もった特許異議申立人の想定は、根拠を欠くものといわざるを得ないばかりでなく、その30μmという摩耗量の設定値は、引用発明のように「V字状の凹部」を具備するシールリングを想定した場合にあっては、過大であると考えられる。
なお、30μmという摩耗量の設定値は、本件発明1におけるポケットの側面からの深さの下限値である0.1mmと比べて、その30%も摩耗するということからしても、大きすぎる想定と考えられる。
よって、摩耗量を30μmと設定して作成された想定例に基づく特許異議申立人の主張は、採用することができない。
さらに、上記(イ)のとおり、引用発明の境界部3dに引用文献2に記載された技術を適用する動機付けにも難があるのであるから、特許異議申立人の主張に基づいて、相違点1に係る本件発明1の構成の容易想到性を認めることはできない。

(オ)以上によれば、引用発明の境界部3dに、引用文献2に記載された技術を適用して、凸状のR面とする動機付けは乏しいうえ、かかる適用には阻害要因も存在するというべきである。よって、当業者といえども、相違点1に係る本件発明1の構成に容易に想到し得たとはいえない。

イ 相違点2及び相違点3について
上記アのとおり、本件発明1は、相違点2及び相違点3を検討するまでもなく、当業者であっても容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
よって、本件発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者であっても容易に発明をすることができたものとはいえず、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由により、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

2 本件発明2?6について
本件発明2?6も、本件発明1と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立書に添付された甲第3号証(特開2007-170629号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】 軸孔を有するハウジングと前記軸孔に挿入される軸のうちの一方の部材に設けられた環状溝に装着されて、これら2部材間の環状隙間をシールするシールリングであって、
前記環状溝の非密封対象側の側面に摺動接触するシール面を備えるシールリングにおいて、
シールリングの成形時において予め、前記シール面の前記環状溝の溝底側に、前記シール面の前記環状溝の溝底側の縁から前記環状溝の溝底に向かうにつれて前記環状溝の前記非密封対象側の側面から徐々に離間していく傾斜面が形成されていることを特徴とするシールリング。」
(2)「【0035】 また、シール面12よりも環状溝40の溝底側は、傾斜面13により溝底側からシール面12に向かうにつれてシールリング1と側壁41との間が徐々に狭まっていく断面略くさび状の空間が形成されている。
【0036】 軸4がハウジング3に対して回転すると、それによって生じる密封対象流体の相対運動により該空間を溝底側からシール面12に向かう密封対象流体の流れ(図中矢印a)が発生する。この流れは、シールリング1を環状溝40の側壁41から離す方向に作用する動圧(図中矢印b)を発生させる。
【0037】 その結果、シール面12と側壁41との間の面圧が低減され、さらに多くの油をシール面12と側壁41との間に介在させることが可能となり、シール面12に生じる摺動摩擦力がさらに低減される。」
(3)「【0045】 なお、傾斜面13は曲率半径が0.1?0.5mmとなるように設けられる。」

そして、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲第3号証における傾斜面13は、半径方向の端部に設けられる点において、甲第1号証の第1及び第2端部と相違するが、その作用効果は、摺動摩擦力の低減(フリクションロスの低減)であり、本件発明1の「前記複数のポケットはそれぞれ、周方向の両端部にそれぞれ設けられ、前記側面から延びる、先端曲率半径が10mm以下の前記側面側に突出する凸状のR面である第1及び第2端部」を有するという構成Bに係る効果と同様であるから、甲第1号証に記載されたシールリングにおいて、甲第1号証と同技術分野の甲第3号証を参照して、低トルク性の向上(フリクションロスの低減)のために、上記構成Bに係る構成を設けることは、当業者であれば容易に想到し得る旨を主張している。
これを検討するに、特許異議申立人も認めるように、甲第3号証における傾斜面13は、シール面12の環状溝40の溝底側に形成されるものであるから、これを甲第1号証に記載されたシールリング1に適用しても、リング側面2の環状溝6aの溝底側に、上記傾斜面13が形成されたものが得られるにすぎない。
また、仮に甲第3号証における傾斜面13の形状を、引用発明の境界部3dへ適用することが試みられたとしても、引用発明の境界部3dを凸状のR面とする動機付けは乏しく、阻害要因も存在することは、上記第6の1(2)アのとおりである。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、採用することができない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面と、前記外周面に対向する内周面と、前記外周面と前記内周面とを接続する側面と、前記側面に間隔をあけて設けられ、前記外周面側が閉塞され、前記内周面側が開放された複数のポケットと、を具備し、
前記複数のポケットはそれぞれ、
周方向の両端部にそれぞれ設けられ、前記側面から延びる、先端曲率半径が10mm以下の前記側面側に突出する凸状のR面である第1及び第2端部と、
前記第1及び第2端部から周方向の中央部に向けてそれぞれ延び、前記側面に対して1°以上20°以下の角度を成す平面である第1及び第2斜面部と、を有し、
前記複数のポケットの前記側面からの深さが0.1mm以上である
シールリング。
【請求項2】
請求項1に記載のシールリングであって、
前記複数のポケットはそれぞれ、前記第1端部と前記第2端部との間の中央領域に設けられた底部を更に有し、
前記第1及び第2斜面部は、前記第1及び第2端部から前記底部にそれぞれ延びる
シールリング。
【請求項3】
請求項2に記載のシールリングであって、
前記底部は、前記側面に平行な方向に延びている
シールリング。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のシールリングであって、
前記ポケットは、前記底部と前記第1及び第2斜面部とをそれぞれ接続し、前記側面側から窪む凹状のR面である第1及び第2接続部を更に有する
シールリング。
【請求項5】
請求項1に記載のシールリングであって、
前記第1斜面部と前記第2斜面部とが前記中央部において接続されている
シールリング。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のシールリングであって、
前記内周面における前記複数のポケットの周方向の寸法の合計は、前記内周面の全周の50%以上98%以下である
シールリング。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-23 
出願番号 特願2016-565525(P2016-565525)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (F16J)
P 1 651・ 851- YAA (F16J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 熊谷 健治中尾 麗  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 井上 信
尾崎 和寛
登録日 2018-06-29 
登録番号 特許第6360566号(P6360566)
権利者 株式会社リケン
発明の名称 シールリング  
代理人 折居 章  
代理人 中村 哲平  
代理人 関根 正好  
代理人 金子 彩子  
代理人 金山 慎太郎  
代理人 折居 章  
代理人 金山 慎太郎  
代理人 中村 哲平  
代理人 関根 正好  
代理人 金子 彩子  
代理人 大森 純一  
代理人 大森 純一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ