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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
管理番号 1362350
異議申立番号 異議2018-700662  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-07 
確定日 2020-04-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6303919号発明「レンズ形成用インク組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6303919号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3?5〕、〔2、6?10〕について訂正することを認める。 特許第6303919号の請求項1、2、4、5、7、8に係る特許を維持する。 特許第6303919号の請求項3、6、9、10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6303919号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年8月25日(優先権主張 平成25年8月26日)に出願され、平成30年3月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年4月4日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成30年8月7日に特許異議申立人中井博(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年12月20日付け:取消理由通知
平成31年 3月 6日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
平成31年 4月17日 :意見書の提出(申立人)
令和 元年 6月21日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 8月 8日 :上申書(応答期間の延長請求、特許権者)
同年 8月15日付け:通知書(応答期間延長の通知)
同年 9月25日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年10月28日 :意見書の提出(申立人)
同年12月20日付け:訂正拒絶理由通知
令和 2年 1月14日 :手続補正書、意見書の提出(特許権者)

2.訂正請求について
(1)本件訂正
上記1.「手続の経緯」のとおり、特許権者から令和元年9月25日に訂正請求書が提出され、本件特許請求の範囲の訂正がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、平成31年3月6日に提出された訂正請求書による訂正の請求は取り下げられたものとみなす。

(2)訂正請求に係る補正の可否
令和元年9月25日の訂正請求書は令和2年1月14日の手続補正書により補正されたところ、該手続補正(以下、「本件補正」ということがある。)は、ある請求項の訂正事項を当該請求項の削除という訂正事項に変更する補正及びそれに整合させるための訂正特許請求の範囲等についての訂正事項の補正に相当し、訂正請求書の要旨を変更するものとは取り扱わないので、当該補正は、これを認める。
したがって、以下、当該補正された令和元年9月25日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。

(3)本件訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、「特許第6303919号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求める」というものであり、本件訂正の具体的な内容は、以下のとおりである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
ア 訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「撥液性硬化膜の上に下記式(1)で表される化合物(A)、その他のラジカル重合性化合物(B)、および光重合開始剤(C)を含有するマイクロレンズ形成用インク組成物をレンズ形状に塗布した後に硬化させて得られるマイクロレンズ。

(式(1)中、R^(1)は水素もしくはアルキルである。)」
と記載されているのを、
「下記式(1)で表される化合物(A)および界面活性剤(D)を含有する表面処理剤の塗膜を硬化させた撥液性硬化膜の上に、下記式(1)で表される化合物(A)、その他のラジカル重合性化合物(B)、および光重合開始剤(C)を含有し、前記化合物(A)がインク組成物の総量の5?85重量%であり、前記その他のラジカル重合性化合物(B)がインク組成物の総量の5?80重量%であり、前記光重合開始剤(C)がインク組成物の総量の1?15重量%であるマイクロレンズ形成用インク組成物をレンズ形状に塗布した後に硬化させて得られるマイクロレンズ。

(式(1)中、R^(1)は水素もしくはアルキルである。)」
に訂正する。
訂正前の請求項1の記載を引用する請求項4および5も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「マイクロレンズ形成用インク組成物が、さらに、界面活性剤(D)を含有する、請求項1に記載のマイクロレンズ。」
と記載されているのを、請求項1を引用する事項について、独立形式に改め、
「下記式(1)で表される化合物(A)および界面活性剤(D)を含有する表面処理剤の塗膜を硬化させた撥液性硬化膜の上に、下記式(1)で表される化合物(A)、その他のラジカル重合性化合物(B)、光重合開始剤(C)および界面活性剤(D)を含有し、前記化合物(A)がインク組成物の総量の5?85重量%であり、前記その他のラジカル重合性化合物(B)がインク組成物の総量の5?80重量%であり、前記光重合開始剤(C)がインク組成物の総量の1?15重量%であり、前記界面活性剤(D)がインク組成物の総量の0.05?10重量%であるマイクロレンズ形成用インク組成物をレンズ形状に塗布した後に硬化させて得られるマイクロレンズ。

(式(1)中、R^(1)は水素もしくはアルキルである。)」
に訂正する。
訂正前の請求項2の記載を引用する請求項4および5も同様に訂正し、訂正後の請求項7および8とする。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

エ 訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1?3のいずれか1項に記載のマイクロレンズを有する光学部品。」
と記載されているうち、訂正前の請求項1を直接引用するものに限定し、
「請求項1に記載のマイクロレンズを有する光学部品。」
に訂正し、訂正後の請求項4とする。

オ 訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1?3のいずれか1項に記載のマイクロレンズを有する光学部品。」
と記載されているうち、訂正前の請求項2を引用するものに限定し、
「請求項2に記載のマイクロレンズを有する光学部品。」
に訂正し、訂正後の請求項7とする。

カ 訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「請求項4に記載の光学部品を含む映像表示装置。」
と記載されているうち、訂正前の請求項2を引用する請求項4を引用するものに限定し、
「請求項7に記載の光学部品を含む映像表示装置。」
に訂正し、訂正後の請求項8とする。

(4)本件訂正の適否
本件訂正に係る訂正前の請求項1?5について、請求項2?5は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正後の請求項1、2、4、5、7、8は本件訂正によって直接又は連動して訂正され、訂正後の請求項3、6、9、10は削除されているから、本件訂正は訂正前の一群の請求項1?5について請求されたものである。

ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「撥液性硬化膜」を、本件明細書の[0024]における「マイクロレンズの形状を制御できる撥液性硬化膜を形成するインク組成物のことを『表面処理剤』と呼ぶことがある」及び[0151]における「式(1)で表される化合物(A)として、AMMと、・・・界面活性剤(D)として、RS-72Kを下記組成割合にて混合し・・・ろ液(表面処理剤1)を得た」等の記載に基づいて、「下記式(1)で表される化合物(A)および界面活性剤(D)を含有する表面処理剤の塗膜を硬化させた撥液性硬化膜」と訂正することにより成分を限定し、また、訂正前の請求項1に記載されていた「下記式(1)で表される化合物(A)、その他のラジカル重合性化合物(B)、および光重合開始剤(C)」の各成分について、それぞれ本件明細書の[0032]、[0039]及び[0045]の記載に基づいて、「前記化合物(A)がインク組成物の総量の5?85重量%であり、前記その他のラジカル重合性化合物(B)がインク組成物の総量の5?80重量%であり、前記光重合開始剤(C)がインク組成物の総量の1?15重量%である」という配合量比の特定を直列的に付加することにより、インク組成物の組成を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張するものではなく、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4、5も同様に訂正される。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(イ)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1を引用していたところ、請求項1を引用しないように、訂正前の請求項1の発明特定事項に基づいて請求項2を書き改めるとともに、訂正前の請求項1に記載されていた「撥液性硬化膜」については、訂正事項1と同様に訂正することにより成分を限定し、訂正前の請求項1に記載されていた「下記式(1)で表される化合物(A)、その他のラジカル重合性化合物(B)、および光重合開始剤(C)」の各成分については、訂正事項1と同様に配合量比の特定を直列的に付加することにより、インク組成物の組成を限定するものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項2は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張するものではなく、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
さらに、訂正前の請求項2を直接又は間接的に引用する訂正前の請求項4、5も同様に訂正され、訂正後の請求項7、8とされる。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(ウ)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項3は、特許請求の範囲を拡張するものではなく、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(エ)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1?3のいずれか1項を引用していたところ、請求項2及び3を引用しないように請求項4を書き改めるものであり、また、引用請求項数を減少させることにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項4は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張するものではなく、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないことも明らかである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(オ)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1?3のいずれか1項を引用していたところ、請求項1、及び請求項1を引用する請求項3を引用しないように請求項4を書き改め、新たな請求項7とするものであり、また、引用請求項数を減少させることにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項5は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張するものではなく、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないことも明らかである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(カ)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項4を引用していたところ、請求項4が引用する請求項1?3のうち、請求項1、及び請求項1を引用する請求項3を引用しないように書き改められた新たな請求項7を引用するように記載を書き改め、新たな請求項8とするものであり、また、引用請求項数を減少させることにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項6は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張するものではなく、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないことも明らかである。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項1?5に対して特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1?5に係る訂正事項1?6については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

ウ 本件訂正の適否の判断
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
なお、訂正特許請求の範囲には、「[請求項6](削除)」、「[請求項9](削除)」及び「[請求項10(削除)]と記載されているが、これらの請求項は、本件補正前の訂正により一旦新設されることとされた請求項が、本件補正により新設されないこととなったために、形式的に残されたものにすぎないから、本件訂正の適否の判断に影響するものではない。

エ 別の訂正単位とする求めについて
特許権者は、本件訂正が認められる場合には、訂正後の請求項2、7、8については、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。なお、本件補正によりいずれも削除されることとなった請求項3、6、9、10については本件補正前の請求項の内容を勘案することにより、請求項3?5は請求項1と一群をなし、請求項6?10は請求項2と一群をなすものと解し得る。
よって、訂正後の請求項〔1、3?5〕、〔2、6?10〕について訂正することを認める。

3.本件発明について
本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1、4、5、7、8に係る発明(以下、それぞれ請求項の番号に対応して「本件発明1」等という。まとめて「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、4、5、7、8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
下記式(1)で表される化合物(A)および界面活性剤(D)を含有する表面処理剤の塗膜を硬化させた撥液性硬化膜の上に、下記式(1)で表される化合物(A)、その他のラジカル重合性化合物(B)、および光重合開始剤(C)を含有し、前記化合物(A)がインク組成物の総量の5?85重量%であり、前記その他のラジカル重合性化合物(B)がインク組成物の総量の5?80重量%であり、前記光重合開始剤(C)がインク組成物の総量の1?15重量%であるマイクロレンズ形成用インク組成物をレンズ形状に塗布した後に硬化させて得られるマイクロレンズ。

(式(1)中、R^(1)は水素もしくはアルキルである。)
[請求項2]
下記式(1)で表される化合物(A)および界面活性剤(D)を含有する表面処理剤の塗膜を硬化させた撥液性硬化膜の上に、下記式(1)で表される化合物(A)、その他のラジカル重合性化合物(B)、光重合開始剤(C)および界面活性剤(D)を含有し、前記化合物(A)がインク組成物の総量の5?85重量%であり、前記その他のラジカル重合性化合物(B)がインク組成物の総量の5?80重量%であり、前記光重合開始剤(C)がインク組成物の総量の1?15重量%であり、前記界面活性剤(D)がインク組成物の総量の0.05?10重量%であるマイクロレンズ形成用インク組成物をレンズ形状に塗布した後に硬化させて得られるマイクロレンズ。

(式(1)中、R^(1)は水素もしくはアルキルである。)

[請求項4]
請求項1に記載のマイクロレンズを有する光学部品。
[請求項5]
請求項4に記載の光学部品を含む映像表示装置。

[請求項7]
請求項2に記載のマイクロレンズを有する光学部品。
[請求項8]
請求項7に記載の光学部品を含む映像表示装置。」

4.取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前の請求項1?8に係る特許に対して令和元年6月21日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
理由III(サポート要件)
訂正前の本件発明1においては、「マイクロレンズ形成用インク組成物」が界面活性剤(D)を含むことは特定されておらず、また、「撥液性硬化膜」における化合物(A)の配合量比(下限値)や、化合物(A)以外の含有成分及びその量比は特定されていないが、本件明細書において所定の課題を解決し得ることが実験により確認されているのは、レンズインク及び表面処理剤が、いずれも界面活性剤(D)を含有しており、かつ、「式(1)で表される化合物(A)」、「その他のラジカル重合性化合物(B)」、「光重合開始剤(C)」及び「界面活性剤(D)」の配合量比が所定の割合に調整されたものに限られているから、本件発明1に記載されたインク組成物および表面処理剤の組合せのすべての範囲にわたって上記課題を解決し得ることは実験により裏付けられているとはいえない。
また、実施例により裏付けられた組合せに限らず、本件発明1の範囲のすべてにわたって上記課題を解決し得ることを当業者が理解できるような一般的な作用機序は本件明細書には記載されていないし、そのようなことが本件特許に係る出願の出願時における技術常識であったとも認められない。
訂正前の本件発明2?5、7、8についても同様である。
よって、訂正前の本件発明1?5、7、8は、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

5.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(理由III(サポート要件))についての判断
(1)本件発明の課題について
本件発明の課題は、本件明細書の[0012]等の記載を参酌すると、「形状が滑らかな曲面で形成されていて、基板上のマイクロレンズの直径や高さが設計どおりに形成することができる、マイクロレンズ形成用光硬化性インク組成物」及び当該インク組成物を用いて形成されるマイクロレンズを提供することにあるものと認められる。

(2)本件発明1について
本件発明1は、上記3.「本件発明について」に記載した特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項により特定されるマイクロレンズの発明であるところ、本件訂正により、本件発明1において「撥液性硬化膜」が界面活性剤(D)を含有することが特定された。また、マイクロレンズ形成用インク組成物は、「化合物(A)がインク組成物の総量の5?85重量%であり、前記その他のラジカル重合性化合物(B)がインク組成物の総量の5?80重量%であり、前記光重合開始剤(C)がインク組成物の総量の1?15重量%である」ことが特定されている。

(3)本件明細書の記載について
(3-1)界面活性剤(D)及び「撥液性硬化膜」について
本件明細書の[0023]には、「本発明のマイクロレンズ形成用インク組成物は、光硬化性に優れ、その硬化物は形状が滑らかな曲面で形成されたマイクロレンズとして使用できる。また、これらの光硬化物は、マイクロレンズとしてもマイクロレンズの形状を制御できる撥液性硬化膜としても好適に用いられる」ことが記載されており、[0024]には、「マイクロレンズの形状を制御できる撥液性硬化膜を形成するインク組成物のことを『表面処理剤』と呼ぶ」ことが記載されており、[0025]には、「本発明のレンズ形成用インク組成物」において、「レンズ形状を滑らかにするためや、硬化膜に撥液性をもたせるために界面活性剤(D)を含ませてもよい」ことが記載されており、[0046]には、「本発明のインク組成物は、マイクロレンズの形状を制御する目的で、必要に応じてさらに界面活性剤(D)を含んでもよい。界面活性剤(D)を含有すると、得られる硬化膜の表面撥液性が高くなり、硬化膜上により微小でパターンサイズの制御されたマイクロレンズを形成することができる」ことが記載されており、さらに[0052]には、「本発明のインク組成物において、界面活性剤(D)の含有量が、該インク組成物の総量に対し、好ましくは0.05?10重量%、より好ましくは0.1?8重量%、さらに好ましくは0.1?5重量%であると、インク組成物の光硬化性および得られる硬化膜表面の撥液性がより優れる」ことが記載されている。

(3-2)化合物(A)、化合物(B)及び光重合開始剤(C)の含有割合について
本件明細書の[0032]には、「化合物(A)は、・・・特にインク組成物の総量の5?85重量%であると、インク組成物の硬化性が良好なため好ましい」ことが記載され、[0039]には、「化合物(B)は、インク組成物の総量の5?80重量%であり、特にインク組成物の総量の10?70重量%であると、インク組成物の基板上に塗布した硬化膜の膜厚均一性が良好であり、レンズ形状に塗布する際のレンズ形状が良好であるため好ましい」ことが記載され、[0045]には、「光重合開始剤(C)の含有量は、インク組成物の総量の1?15重量%が好ましく、特に好ましくは、他材料とのバランスを考慮しインク組成物の総量の5?10重量%であると、紫外線に対する光硬化性により優れ、高い光線透過性を有する硬化膜が得られる」ことが記載されている。

(3-3)実施例及び比較例について
本件明細書の[0117]?[0140]には、実施例1?実施例22として、実施例で用いられるレンズインク1?レンズインク22の成分組成が記載されており、[0141]?[0150]には、比較例1?比較例9として、比較例で用いられるレンズインク23?レンズインク30の成分組成が記載されており、[0151]?[0154]には、実施例23?実施例25として、実施例で用いられる表面処理剤1?表面処理剤3の成分組成が記載されており、[0155]?[0157]には、比較例10及び比較例11として、比較例で用いられる表面処理剤4及び表面処理剤5の成分組成が記載されている。
また、[0158]?[0160]には、実施例及び比較例の積層体1?34の作製方法及び評価基準が記載されており、[0161]の表1には、積層体1?34で用いられたレンズインク及び表面処理剤の組合せとマイクロレンズの曲面形状及び円形状の評価結果が記載されており、[0162]には、「表1に示すように、本発明の表面処理剤を用いて形成された表面撥液基板上に、本発明のレンズインクを用いて形成されたマイクロレンズ形成基板においては、良好なマイクロレンズが得られている。一方、従来の表面処理剤を用いた場合や従来のレンズインクを用いた場合においては、良好なマイクロレンズが得られていない」ことが記載されている。

(4)本件発明1のサポート要件の判断
ア 撥液性硬化膜について
本件明細書の[0023]には、本件発明の「マイクロレンズ形成用インク組成物」は、その光硬化物を撥液性硬化膜として用いることができるものであることが記載され、[0025]、[0046]、[0052]等には、界面活性剤(D)を当該撥液性硬化膜用のインク組成物に含ませると、「硬化膜に撥液性をもたせる」ことができ、「得られる硬化膜の表面撥液性が高くなり、硬化膜上により微小でパターンサイズの制御されたマイクロレンズを形成することができる」という効果が得られることが記載されている。
また、本件明細書の[0151]?[0154]に記載された実施例23?25の表面処理剤(撥液性硬化膜)は、本件発明1に記載された化合物(A)及び界面活性剤(D)に加え、いずれもさらに化合物(B)及び光重合開始剤(C)を含有する組成物である。

イ マイクロレンズ形成用インク組成物について
本件明細書の[0023]には、「マイクロレンズ形成用インク組成物」の光硬化物をマイクロレンズとして用いる場合には、「形状が滑らかな曲面で形成されたマイクロレンズ」を得ることができることが記載され、[0025]、[0046]、[0052]等には、任意に「界面活性剤(D)を含ませてもよ」く、それにより「レンズ形状を滑らかにする」という効果が得られること、及び好ましい含有量はインク組成物の総量に対し「0.05?10重量%」であることが記載されている。
また、本件明細書の[0117]?[0140]に記載された実施例1?実施例22のレンズインクは、本件発明1に記載された化合物(A)、化合物(B)及び光重合開始剤(C)に加え、いずれもさらに界面活性剤(D)を含有する組成物である。

ウ 実施例における各成分の含有割合について
(ア)マイクロレンズ形成用インク組成物について
本件明細書の[0117]?[0140]に記載された実施例1?実施例22のレンズインクは、化合物(A)及び化合物(B)を合計10.0g(実施例16、18以外、化合物(A)=3.0?7.4g、化合物(B)=2.6g?7.0g)、合計11.0g(実施例16、化合物(A)=7.8g、化合物(B)=3.2g)又は合計9.0g(実施例18、化合物(A)=5.2g、化合物(B)=3.8g)と、光重合開始剤(C)を0.7g、界面活性剤(D)を0.0214g含有しており、インク組成物の総量に対する割合に換算すると、化合物(A)28?69重量%、化合物(B)24?65重量%、光重合開始剤(C)6?7重量%、界面活性剤(D)0.2重量%である。実施例のレンズインクにおける(A)?(C)成分の含有割合は、本件発明1における各成分の含有割合の範囲内である。

(イ)撥液性硬化膜(表面処理剤)について
念のため、撥液性硬化膜を形成する表面処理剤についても確認すると、本件明細書の[0151]?[0154]に記載された実施例23?25の表面処理剤は、化合物(A)及び化合物(B)を合計10.0g(化合物(A)=4.7g、化合物(B)=5.3g)と、光重合開始剤(C)を0.9g、界面活性剤(D)を0.0214?0.1g含有しており、インク組成物の総量に対する割合に換算すると、化合物(A)43重量%、化合物(B)48?49重量%、光重合開始剤(C)8重量%、界面活性剤(D)0.2?0.9重量%である。

エ 実施例による裏付け
本件明細書の[0161]の表1の実験結果等を参照すると、実施例23?25の表面処理剤を用いて形成された表面撥液基板上に、実施例1?22のレンズインクを用いてマイクロレンズを形成した場合には、曲面形状及び円形状に優れたマイクロレンズが得られている。
そうすると、本件発明1に記載された化合物(A)及び界面活性剤(D)に加え、化合物(B)及び光重合開始剤(C)を含有する表面処理剤と、本件発明1に記載された割合で化合物(A)、化合物(B)及び光重合開始剤(C)を含有し、さらに界面活性剤(D)を[0052]に記載されたような割合で含有するマイクロレンズ形成用インク組成物とを組み合わせると、曲面形状及び円形状に優れたマイクロレンズを得ることができ、上記本件発明の課題を解決することができることが裏付けられているといえる。

オ さらなる検討
(ア)撥液性硬化膜(表面処理剤)について
上記5.(4)ア「撥液性硬化膜について」に記載したとおり、本件明細書の[0025]、[0046]、[0052]等において、化合物(B)及び光重合開始剤(C)は必須の成分とはされておらず、本件発明1においても必須の成分とはされていない。

(イ)マイクロレンズ形成用インク組成物について
また、上記5.(4)イ「マイクロレンズ形成用インク組成物について」に記載したとおり、本件明細書の[0025]、[0046]、[0052]等において、界面活性剤(D)は必須の成分とはされておらず、本件発明1においても必須の成分とはされていない。

(ウ)さらなる検討事項
そこで、撥液性硬化膜(表面処理剤)が化合物(B)及び光重合開始剤(C)を含まない場合、及びマイクロレンズ形成用インク組成物が界面活性剤(D)を含まない場合にも、本件明細書に記載されているとおり、上記本件発明の課題を解決することができるか、さらに検討する。

カ 実験成績証明書について
(ア)特許権者の意見書における主張について
特許権者は、令和元年9月25日に意見書及び実験成績証明書を提出し、「化合物(A)および界面活性剤(D)を含有する表面処理剤・・・を用いて撥水性硬化膜を形成することにより、界面活性剤(D)を含有しないレンズインク・・・を用いて、形状の制御された「曲面形状」及び「円形状」に優れたマイクロレンズを形成」できた旨を主張している(上記意見書の第2頁)。

(イ)実験成績証明書のインク組成物について
上記実験成績証明書には、本件明細書に記載された実施例、比較例と同じ化合物(A)、化合物(B)、光重合開始剤(C)及び界面活性剤(D)を試薬とし、4成分(A?D)を含む「インク組成物4」、3成分(A?C)を含む「インク組成物1」、2成分(A及びD)を含む「インク組成物2」及び「インク組成物3」、並びに1成分(A)を含む「インク組成物5」及び「インク組成物6」を調製し、レンズインク又は表面処理剤として組み合わせて用いた実験結果が示されている。

(ウ)撥液性硬化膜(表面処理剤)について
表面処理剤については、「化合物(A)および界面活性剤(D)を含有する表面処理剤」(インク組成物2、3、4)を用いた場合は、曲面形状及び円形状に優れたマイクロレンズが得られた(積層体36?40)が、界面活性剤(D)を含有しない表面処理剤(インク組成物1、5、6)を用いた場合は、曲面形状及び円形状が劣るマイクロレンズとなった(積層体41?45)ことが読み取れる。

(エ)マイクロレンズ形成用インク組成物(レンズインク)について
レンズインクについては、「界面活性剤(D)を含有しないレンズインク」(インク組成物1)と、界面活性剤を含有するレンズインク(インク組成物4)のいずれを用いても、曲面形状及び円形状に優れたマイクロレンズが得られた(積層体36?40)ことが読み取れる。

(オ)インク組成物の含有成分の割合について
レンズインクとして用いられたインク組成物1及び4における各成分の含有割合は、化合物(A)44重量%、化合物(B)49?50重量%、光重合開始剤(C)7重量%、界面活性剤(D)0?0.2重量%であり、(A)?(C)成分の含有割合は、本件発明1における各成分の含有割合の範囲内である。
また、念のため、表面処理剤として用いられたインク組成物1?6における各成分の含有割合についても確認すると、化合物(A)29?44重量%。化合物(B)49?50重量%、光重合開始剤(C)7重量%、界面活性剤0?0.2重量%である。

(カ)小括
本件明細書に記載された実施例の実験データに加え、上記実験成績証明書の実験データを参酌すると、特許権者が上記意見書において主張するとおりのことが認められる。
すなわち、上記5.(4)オ(ウ)「さらなる検討事項」に記載したいずれの場合も、本件明細書に記載されているとおり、上記本件発明の課題を解決することができると理解することができる。

キ 本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(5)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項に加え、マイクロレンズ形成用インク組成物が界面活性剤(D)を含有し、その含有割合がインク組成物の総量の0.05?10重量%であることがさらに特定された発明に相当する。
ここで、上記5.(4)ウ(ア)「マイクロレンズ形成用インク組成物について」及び同カ(オ)「インク組成物の含有成分の割合について」に記載したとおり、本件明細書に記載された実施例及び実験成績証明書の追加実験におけるマイクロレンズ形成用インク組成物の一部は、界面活性剤(D)を0.2重量%含有するものであり、本件発明1に特定される撥液性硬化膜(表面処理剤)との組合せにおいて曲面形状及び円形状に優れたマイクロレンズが得られることが裏付けられている。
そうすると、本件発明2についても、本件明細書に記載されているとおり、上記本件発明の課題を解決することができると理解することができる。
よって、本件発明2は、本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(6)本件発明4、5、7及び8について
本件発明4、5、7及び8は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用し、本件発明1又は2の発明特定事項をすべて含む発明であるから、いずれも本件発明1又は2と同様のことがいえる。
よって、本件発明4、5、7及び8は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(7)理由III(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明1、2、4、5、7及び8は、いずれも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由III(サポート要件)の理由によっては、本件請求項1、2、4、5、7及び8に係る特許を取り消すことはできない。

6.取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった取消理由及び特許異議申立理由について
(1)取消理由の概要
当審は、平成30年12月20日付け取消理由通知書において、上記理由III(サポート要件)の取消理由に加え、以下の理由I(進歩性)、理由II(実施可能要件)及び理由IV(明確性)の取消理由を通知した。
申立人が特許異議申立書において申し立てた特許異議申立理由は、概略、上記理由I?理由IVに当たり、上記取消理由通知書で採用しなかった特許異議申立理由はない。
理由I(進歩性)
訂正前の本件発明1?5は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
理由II(実施可能要件)
本件の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の本件発明1?5に包含される全ての範囲にわたって発明の課題を解決することができるように、明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、訂正前の本件の請求項1?5に係る発明に係る特許は取り消すべきものである。
理由IV(明確性)
本件の発明の詳細な説明([0032])、[0039]及び[0045])の記載を参酌すると、訂正前の本件発明1?5は成分の配合量比の合計が100重量%を超えることが想定されていることになり、特許を受けようとする発明が技術的に明確に特定されているとはいえない点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、訂正前の本件の請求項1?5に係る発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)理由I(進歩性)について
ア 引用文献等及びその記載事項
<引用文献等一覧>
1.特開2013-14740号公報(甲第1号証)
2.特開2010-168539号公報(甲第2号証)
3.特開2013-61443号公報(当審において新たに引用する文献、周知技術を示す文献)

(i)引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「[請求項1]
下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(A)および光重合開始剤(B)を含有する光硬化性インクジェットインクであって、
前記光重合開始剤(B)が、光重合開始剤濃度0.001重量%のアセトニトリル溶液のUV吸収スペクトル測定による、300nm以上の波長領域における吸光度が0.1以下である光重合開始剤であり、
該インクより得られた硬化膜(膜厚2.0?3.0μm)を70℃で100時間熱処理した後の膜の波長400nmにおける光透過率が98%以上である、光硬化性インクジェットインク。
[化1]

(式(1)中、n個のR^(1)はそれぞれ独立に水素または炭素数1?6のアルキルであり、R^(2)は脂環構造またはヘテロ環構造を有する(但し、下記式(2-1)または式(2-2)で表される構造を含まない)有機基であり、nは1?10の整数である。)
[化2]

・・・
[請求項8]
さらに、前記(メタ)アクリル酸エステル(A)以外のラジカル重合性二重結合を有する化合物(C)を含む、請求項1?7のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインク。
・・・
[請求項10]
さらに、界面活性剤(D)を含む、請求項1?9のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインク。
・・・
[請求項15]
請求項1?13のいずれか1項に記載の光硬化性インクジェットインクを硬化させて得られるマイクロレンズ。
[請求項16]
請求項15に記載のマイクロレンズを有する光学部品。
[請求項17]
請求項16に記載の光学部品を有する液晶ディスプレイ。」

(1-2)「[発明の効果]
[0021]
本発明の光硬化性インクジェットインクは光硬化性が良好であり、高い光透過性、高い耐熱性および高い強度を示し、基板に対する密着性に優れる硬化膜およびマイクロレンズを形成することができる。また、本発明の光硬化性インクジェットインクによれば、表面撥液性基板上に、密着性が良好なマイクロレンズを形成することができる。
・・・
[0024]
また、本発明のインクは、必要に応じて、前記(メタ)アクリル酸エステル(A)以外のラジカル重合性二重結合を有する化合物(C)、界面活性剤(D)、紫外線吸収剤(E)、酸化防止剤(F)、重合禁止剤、フェノール性水酸基を含有する樹脂、マレイミド化合物、メラミン樹脂、シランカップリング剤、エポキシ樹脂、エポキシ硬化剤および溶媒などを含んでもよい。」

(1-3)「[0125]
・・・
本発明のインクをマイクロレンズ形成用として用いる際には、撥液処理したアクリル系樹脂基板等の基板を用いることが好ましい。」

(1-4)「[0135]
[実施例1]
化合物(A)として、テトラヒドロフルフリルアクリレートであるライトアクリレートTHF-A(商品名:共栄社化学(株)製、以後「THF-A」と略す。)と、光重合開始剤(B)として、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンであるIRGACURE184(商品名:BASF製、以後「Ir184」と略す。光重合開始剤濃度0.001重量%のアセトニトリル溶液のUV吸収スペクトル測定による、300nm以上の波長領域における吸光度が0.1以下である。)と、化合物(C)として、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートであるアロニックスM-305(商品名:東亞合成(株)製、以後「M305」と略す。)とを下記組成割合にて混合し、溶液を得た後、孔径1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のメンブレンフィルターでろ過し、ろ液(インクジェットインク1)を得た。
(A) THF-A:50.00g
(B) Ir184: 7.00g
(C) M305: 50.00g
[0136]
E型粘度計(東機産業(株)製 TV-22(商品名)、以下同じ)を用い、25℃におけるインクジェットインク1の粘度を測定した結果、18.2mPa・sであった。」

(1-5)「[0172]
<インクジェットインクおよび硬化膜の評価>
続いて、上記で得られたインクジェットインクの光硬化性、硬化膜の透過率、耐熱試験後の透過率および強度を評価した。
また、表面撥液性基板(基板13)上にインクジェットインク(1?12)を150μm間隔に1滴ずつ吐出し、UV硬化することで形成されたマイクロレンズの形状、ドット径および基板との密着性を観察した。
なお、各試験方法は以下のとおりで、評価結果を表1?4に示す。」

(1-6)「[0177]
(マイクロレンズ形状の観察)
インクジェットインク1をインクジェットカートリッジに注入し、これをインクジェット装置(FUJIFILM Dimatix Inc.製のDMP-2831(商品名))に装着し、10pl用のインクジェットヘッドを用いて、吐出電圧(ピエゾ電圧)20V、ヘッド温度34℃、駆動周波数5kHz、塗布回数1回の吐出条件で、印刷解像度を170dpiに設定して、150μm間隔に1滴ずつ表面撥液性基板(基板13)上に吐出し、この基板に波長254nmでの露光照度が15mW/cmである低圧水銀灯を用いて波長254nmでのUV露光量が500mJ/cm^(2)になるように調整して光を照射することでドットパターン付基板1cを得た。同様に、インクジェットインク2?12を用いて、それぞれドットパターン付基板2c?12cを得た。その後、基板(1c?12c)上に形成されたマイクロレンズの形状を光学顕微鏡で観察した結果、きれいな円形で大きさが揃っている場合を○、形がいびつになっていたり、大きさにばらつきがある場合を×とした。また、マイクロレンズのドット径(D)、高さ(H)、ドット形状(H/D)も測定した。なお、ドット径測定については、OLYMPUS(株)製光学式顕微鏡BX51(商品名)を用い、高さ測定については、KLA-Tencor Japan(株)製触針式膜厚計P-15(商品名)を使用して測定した。得られたドット高さをドット径で割った値をドット形状(H/D)とした。
[0178]
表面撥液性基板(基板13)の製造方法を以下に示す。
表面処理剤1をインクジェットカートリッジに注入し、これをインクジェット装置(FUJIFILM Dimatix Inc.製のDMP-2831(商品名))に装着し、10pl用のインクジェットヘッドを用いて、吐出電圧(ピエゾ電圧)16V、ヘッド温度30℃、駆動周波数5kHz、塗布回数1回の吐出条件で、アクリル基板(厚さ:2.0mm)上に、印刷解像度を512dpiに設定して一片が3cmの正方形パターンを塗布した。この塗布基板に、波長254nmでの露光照度が15mW/cmである低圧水銀灯を用いて波長254nmでのUV露光量が500mJ/cm^(2)になるように調整して照射することで、表面撥液性基板(基板13、撥液性硬化膜付基板)を得た。
[0179]
なお、表面の撥液性硬化膜の一部をカッターで削り、段差部分の膜厚をKLA-Tencor Japan(株)製触針式膜厚計P-15(商品名)を使用して測定したところ、3箇所の測定の平均値は0.96μmであった。
[0180]
続いて、表面処理剤1の調製方法を以下に示す。
プロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成(株)製、以後「PGME」と略す。)、M402(商品名:東亞合成(株)製、以後「M402」と略す。)、下記式(10)で表されるウレタンアクリレートを含む成分であるU6LPA(商品名:新中村化学工業(株)製、以後「U6LPA」と略す。)、BYK UV 3500(商品名:ビックケミー・ジャパン(株)製、以後「BYK3500」と略す。)、およびIr754を下記組成にて混合した後、超高分子量ポリエチレン(UPE)製のメンブレンフィルター(孔径0.2μm)でろ過し、ろ液(表面処理剤1)を得た。
[0181]
[化8]

[0182]
PGME: 7.000g
M402: 2.560g
U6LPA: 2.560g
BYK3500:0.330g
Ir754: 0.770g
[0183]
E型粘度計(東機産業(株)製 TV-22(商品名)、以下同じ)を用い、25℃における表面処理剤1の粘度を測定した結果、5.1mPa・sであった。」

(1-7)「[0187]
[表3]



(1-8)「[0191]
基板1c?8c上のマイクロレンズ形状を確認したところ、どの基板もきれいな円形で大きさが揃っていた。また、ドット径を測定したところ、本発明のインクから得られる、マイクロレンズのドット径は32μm?34μmと小さく、H/Dは、0.2以上であった。このため、本発明のインクは、光の取り出し効率に優れる導光板などの光学部品の製造に好適に用いられる。
[0192]
また、表面撥液性基板に対するマイクロレンズの密着性を確認したところ、本発明のインクから得られるマイクロレンズは該基板から剥離せず、良好な密着性を示した。
[産業上の利用可能性]
[0193]
本発明のインクは、光硬化性が良好で、得られる硬化膜およびマイクロレンズは高い光透過性、高い耐熱性、高い強度を示す。このため、本発明のインクはバックライト装置等に使用されるマイクロレンズアレイやタッチパネル等に使用される透明絶縁膜等の製造に好適に用いられる。
また、表面撥液性基板上においては、密着性が良好なマイクロレンズを形成することができることから、特に液晶ディスプレイや表示パネルの導光板などを製造するために好適に用いることができる。」

(ii)引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「[0010]
すなわち本発明は、下記式(1)で表されるα-アリルオキシメチルアクリル酸系単量体を含む単量体成分を重合させてα-アリルオキシメチルアクリル酸系重合体を製造する方法であって、該製造方法は、単量体成分を連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させる工程を含むα-アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の製造方法である。
[0011]
[化1]

[0012]
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数が1?30の有機基を表す。)
以下に本発明を詳述する。
[0013]
本発明は、上記式(1)で表されるα-アリルオキシメチルアクリル酸系単量体(以下では、「AMA単量体(A)」ともいう。)を含む単量体成分を重合させてα-アリルオキシメチルアクリル酸系重合体を製造する方法である。AMA単量体(A)は、環化重合することによって、下記式(2);
[0014]
[化2]

[0015]
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数が1?30の有機基を表す。)で表される構成単位を有するα-アリルオキシメチルアクリル酸系重合体(以下では、「AMA重合体(B)」ともいう。)を製造することができる。上記AMA重合体(B)は、主鎖に環構造(テトラヒドロフラン環)を有することで耐熱性に優れ、更に、テトラヒドロフラン環(THF環)の両隣にメチレン基を有するものであることから柔軟性が高く、相溶性や溶剤溶解性に優れるものとなる。」

(2-2)[[0029]
上記炭素数が1?30の有機基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-アミル、s-アミル、t-アミル、n-ヘキシル、s-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、s-オクチル、t-オクチル、2-エチルヘキシル、カプリル、ノニル、デシル、ウンデシル、ラウリル、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、ノナデシル、エイコシル、セリル、メリシルなどの鎖状飽和炭化水素基;
・・・
[0033]
・・・などが挙げられ、このような有機基(有機残基)であれば好適に用いることができる。また、これらの有機基に更に置換基が結合していてもよい。上記単量体成分中に含まれるAMA単量体(A)のRは、同一でもよいし、異なる2種以上であってもよい。すなわち、Rの異なる複数種のAMA単量体(A)に由来する構成単位がAMA重合体(B)中に含まれていてもよい。」

(2-3)「[0042]
上記AMA重合体(B)は、テトラヒドロフラン環が窒素(N)を含んでいないものであるため、優れた透明性を有するものとなる。これにより、レンズ、カラーフィルター等の光学材料として好適に用いることができる。」

(2-4)「[0048]
上記AMA重合体(B)は、AMA単量体(A)と他のラジカル重合性単量体とが重合したα-アリルオキシメチルアクリル酸系共重合体(以下では、「AMA共重合体(C)」ともいう。)であることも好ましい形態の一つである。これによれば、AMA単量体(A)によって得られる優れた特性に加えて、他の重合性単量体に起因する特性を付与することができるため、使用される用途等に応じて、得られるα-アリルオキシメチルアクリル酸系重合体の特性を調整することができる。すなわち、上記製造方法は、上記式(1)で表される単量体(AMA単量体(A))と、他のラジカル重合性単量体とを含む単量体成分を連鎖移動剤の存在下で重合させる工程を含むことも好ましい形態の一つである。
[0049]
上記他のラジカル重合性単量体の種類、及び、他のラジカル重合性単量体に由来する構成単位の構造は特に限定されるものではない。また、上記AMA共重合体(C)の形態としても特に限定されるものではなく、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体等のいずれの形態であってもよい。なお、他のラジカル重合性単量体とは、上記AMA単量体(A)と共重合可能な、該AMA単量体(A)以外のラジカル重合性単量体である。他のラジカル重合性単量体は、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
[0050]
上記他のラジカル重合性単量体は、熱又は活性エネルギー線の照射等により重合するラジカル重合性不飽和基を有する単量体であり、他のラジカル重合性単量体の種類、使用量、分子量等は、目的、用途に応じて適宜選択すればよい。」

(iii)引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「[0001]
本発明は、基材上に複数のマイクロレンズが2次元的に並べられて形成されているマイクロレンズアレイの製造方法に関する。」

(3-2)「[0009]
[適用例2]上記適用例にかかるマイクロレンズアレイの製造方法において、前記撥液処理工程では、光硬化型の撥液層液状体を前記基材における前記マイクロレンズを形成する面に配置して、撥液層を形成することが好ましい。
[0010]
このマイクロレンズアレイの製造方法によれば、光硬化型の撥液層液状体を基材におけるマイクロレンズを形成する面に配置するという簡単な工程を実施することで、当該面を撥液性にすることができる。光硬化型の撥液層液状体を用いることで、撥液層液状体を迅速に硬化させることができる。」

(3-3)「[0013]
[適用例4]上記適用例にかかるマイクロレンズアレイの製造方法において、前記液状体は、光硬化型の液状体であることが好ましい。
[0014]
このマイクロレンズアレイの製造方法によれば、マイクロレンズを形成するための液状体が光硬化型の液状体である。光硬化型の液状体は、硬化光が照射されることで、硬化が急速に進行する。基材上に着弾した液状体は、硬化光が照射されるまでは、硬化はほとんど進行しないため、液状の状態が維持されて、第二液滴が第一液滴の位置に引き寄せられて一体となることが容易な状態を維持し易くすることができる。」

(3-4)「[0056]
撥液層55は、マイクロレンズ62を形成するためのエポキシ系樹脂材料と同じ機能液を塗布することによって形成することができる。硬化した撥液層55の同じ機能液に対する撥液特性は、添加する界面活性剤の種類や量を選択することによって、調整することができる。エポキシ系樹脂材料は、シリコーン系の界面活性剤を添加することで、硬化した同じ材料上に着弾した場合の接触角を、30度から70度の間の接触角に調整することが可能である。」

(3-5)「[0082]
(変形例1)前記実施形態においては、マイクロレンズアレイ61は、虚像現出装飾体51を構成するマイクロレンズアレイであった。しかし、前記実施形態において説明したマイクロレンズアレイの製造方法を用いて好適に形成できるマイクロレンズアレイは、虚像現出装飾体51を構成するマイクロレンズアレイに限らない。画像投射用のスクリーンに形成するマイクロレンズアレイや、表示装置のバックライト用の光拡散用部材に形成するマイクロレンズアレイなど、他の装置を構成するマイクロレンズアレイであってもよい。」

イ 引用文献に記載された発明
引用文献1には、「式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(A)(当審注:式(1)の定義は、摘記1-1の請求項1を参照。)および光重合開始剤(B)を含有する光硬化性インクジェットインク」及び当該「光硬化性インクジェットインクを硬化させて得られるマイクロレンズ」が記載されており(摘記1-1の請求項1、15)、上記インクは「光硬化性が良好であり、高い光透過性、高い耐熱性および高い強度を示し、基板に対する密着性に優れる硬化膜およびマイクロレンズを形成することができ」、「表面撥液性基板上に、密着性が良好なマイクロレンズを形成することができる」ものであること(摘記2-1),及び上記「インクをマイクロレンズ形成用として用いる際には、撥液処理したアクリル系樹脂基板等の基板を用いることが好ましい」こと(摘記1-3)が記載されている。
また、上記インクは、必要に応じて、「前記(メタ)アクリル酸エステル(A)以外のラジカル重合性二重結合を有する化合物(C)」、「界面活性剤(D)」などを含んでもよいことが記載されており(摘記1-1の請求項8、10、摘記1-2の[0024])、インクジェットインクの具体例の一つとして、「化合物(A)として、テトラヒドロフルフリルアクリレート・・・と、光重合開始剤(B)として、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン・・・と、化合物(C)として、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート」とを含有する「インクジェットインク1」が記載されている(摘記1-4)。
さらに、引用文献1には、「プロピレングリコールモノメチルエーテル・・・、M402(商品名:東亞合成(株)製・・・)、・・・式(10)(当審注:式(10)の定義は、摘記1-6の[0181]を参照。)で表されるウレタンアクリレートを含む成分であるU6LPA(商品名:新中村化学工業(株)製・・・)、BYK UV 3500(商品名:ビックケミー・ジャパン(株)製・・・)、およびIr754(当審注:引用文献1の[0142]の記載を参酌すると、光重合開始剤の商品名:BASF製である。)」を含有する「表面処理剤1」を、「インクジェットカートリッジに注入し、これをインクジェット装置・・・に装着し、10pl用のインクジェットヘッドを用いて・・・アクリル基板(厚さ:2.0mm)上に、印刷解像度を512dpiに設定して一片が3cmの正方形パターンを塗布し・・・波長254nmでのUV露光量が500mJ/cm^(2)になるように調整して照射することで、表面撥液性基板(基板13、撥液性硬化膜付基板)を得」て、「インクジェットインク1をインクジェットカートリッジに注入し、これをインクジェット装置・・・に装着し、10pl用のインクジェットヘッドを用いて・・・印刷解像度を170dpiに設定して、150μm間隔に1滴ずつ表面撥液性基板(基板13)上に吐出し・・・波長254nmでのUV露光量が500mJ/cm^(2)になるように調整して光を照射することでドットパターン付基板1cを得た」ことが記載されており(摘記1-6)、「基板1c?8c上のマイクロレンズ形状を確認したところ、どの基板もきれいな円形で大きさが揃っていた。また、ドット径を測定したところ、本発明のインクから得られる、マイクロレンズのドット径は32μm?34μmと小さく、H/Dは、0.2以上であった。このため、本発明のインクは、光の取り出し効率に優れる導光板などの光学部品の製造に好適に用いられる。」と評価されるものであったことが記載されている(摘記1-7?1-8)。
そうすると、引用文献1には次の発明が記載されている。
「インクジェット装置により表面処理剤をアクリル基板上に塗布し、紫外線を照射することにより得られた撥液性硬化膜付基板上に、化合物(A)として、テトラヒドロフルフリルアクリレートと、光重合開始剤(B)として、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンと、化合物(C)として、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとを含有するインクジェットインクを、150μm間隔に1滴ずつ吐出し、紫外線を照射することにより硬化させて得られるマイクロレンズ。」(以下、「引用発明」という。)

また、引用文献1には、「請求項15に記載のマイクロレンズを有する光学部品」及び「請求項16に記載の光学部品を有する液晶ディスプレイ」が記載されており(摘記1-1の請求項16、17)、「表面撥液性基板上においては、密着性が良好なマイクロレンズを形成することができることから、特に液晶ディスプレイや表示パネルの導光板などを製造するために好適に用いることができる」ことが記載されている(摘記1-8)。
そうすると、引用文献1には次の発明が記載されている。
「引用発明のマイクロレンズを有する光学部品、及び当該光学部品を含む液晶ディスプレイ。」(以下、「引用発明b」という。)

ウ 理由I(進歩性)について
ウ-1.本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明との対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「撥液性硬化膜付基板上」、「開始剤(B)として、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン」、「インクジェットインク」及び「マイクロレンズ」は、それぞれ本件発明1における「撥液性硬化膜の上」、「光重合開始剤(C)」、「インク組成物」及び「マイクロレンズ」に相当し、引用発明における「化合物(A)として、テトラヒドロフルフリルアクリレート」及び「化合物(C)として、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート」は、いずれも本件発明1における「その他のラジカル重合性化合物(B)」に相当する。また、引用発明における「インクジェットインク」、「150μm間隔に1滴ずつ吐出」及び「紫外線を照射することにより硬化」は、それら一連の事項により「マイクロレンズ」が得られることを勘案すると、それぞれ本件発明1における「マイクロレンズ形成用インク組成物」、「レンズ形状に塗布」及び「硬化」に相当する。
そうすると、両者は、
「撥液性硬化膜の上に、その他のラジカル重合性化合物(B)、および光重合開始剤(C)を含有するマイクロレンズ形成用インク組成物をレンズ形状に塗布した後に硬化させて得られるマイクロレンズ。」の点で一致し、
相違点1:マイクロレンズ形成用インク組成物が、本件発明1においては「式(1)で表される化合物(A)(当審注:定義を省略した。)」を含有し、「前記化合物(A)がインク組成物の総量の5?85重量%」であるのに対し、引用発明はそのような化合物を含まない点
相違点2:マイクロレンズ形成用インク組成物における(B)及び(C)の割合が、本件発明1においては「前記その他のラジカル重合性化合物(B)がインク組成物の総量の5?80重量%であり、前記光重合開始剤(C)がインク組成物の総量の1?15重量%である」ことが特定されているのに対し、引用発明においては特定されていない点
相違点3:撥液性硬化膜が、本件発明1においては「式(1)で表される化合物(A)(当審注:定義を省略した。)および界面活性剤(D)を含有する表面処理剤の塗膜を硬化させた」ものであるのに対し、引用発明においてはそのようなことが特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。

(ウ)相違点1について
事案に鑑み、相違点1について検討する。
引用文献2には、「式(1)で表されるα-アリルオキシメチルアクリル酸系単量体(AMA単量体(A))」(摘記2-1)が記載されているものの、当該単量体をマイクロレンズ形成用に用いることは、引用文献2には記載も示唆もない。また、当該単量体は「優れた透明性を有するものとなる。これにより、レンズ・・・等の光学材料として好適に用いることができる」こと(摘記2-3)から、マイクロレンズ形成用インク組成物に用いることができるとしても、インク組成物の総量に対してどの程度の量を用いればいいのかは、当業者にとって不明というほかない。
また、引用文献3には、上記相違点1に係る本件発明特定事項については記載も示唆もされていない。
そうすると、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(エ)本件発明1の効果について
本件発明1は、上記相違点1?3に係る発明特定事項を備えることで、上記5.「取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(理由III(サポート要件))についての判断」で検討したとおり、「光硬化性に優れ、その硬化物は形状が滑らかな曲面で形成されたマイクロレンズとして使用できる」、「マイクロレンズの形状を制御できる」(本件明細書の[0023])という格別顕著な作用効果を奏するものであり、当該作用効果は、本件明細書の記載及び令和元年9月25日付け実験成績証明書によって確認されている。

(オ)本件発明1についてのまとめ
したがって、上記相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明及び引用文献1?3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ-2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項に加え、マイクロレンズ形成用インク組成物が界面活性剤(D)を含有し、その含有割合がインク組成物の総量の0.05?10重量%であることがさらに特定された発明に相当する。
そうすると、本件発明2についても、本件発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献1?3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ-3.本件発明4、5、7及び8について
本件発明4、5、7及び8は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用し、本件発明1又は2の発明特定事項をすべて含む発明であるから、いずれも本件発明1又は2と同様のことがいえる。
よって、本件発明4、5、7及び8は、いずれも引用発明及び引用文献1?3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ-4.理由I(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、2、4、5、7及び8は、いずれも引用発明及び引用文献1?3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由通知に記載した理由I(進歩性)の取消理由により、本件請求項1、2、4、5、7及び8に係る特許を取り消すことはできない。

(3)理由II(実施可能要件)について
上記5.「取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(理由III(サポート要件))についての判断」における検討を踏まえると、当業者は、本件の発明の詳細な説明に記載されたとおり、本件発明1、2、4、5、7及び8に包含されるすべての範囲にわたって、「形状が滑らかな曲面で形成されていて、基板上のマイクロレンズの直径や高さが設計どおりに形成」されたマイクロレンズの提供という課題を解決することができることを理解することができるといえるから、本件の発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、取消理由通知に記載した理由II(実施可能要件)の取消理由により、本件請求項1、2、4、5、7及び8に係る特許を取り消すことはできない。

(4)理由IV(明確性)について
本件訂正により、本件発明1及び2におけるマイクロレンズ形成用インク組成物の成分組成は、合計が100重量%を超えることを想定していないことが明らかになり、明確となった。また、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用する本件発明4、5、7及び8についても同様であるから、本件発明1、2、4、5、7及び8は、いずれも特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
よって、取消理由通知に記載した理由IV(明確性)の取消理由により、本件請求項1、2、4、5、7及び8に係る特許を取り消すことはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件請求項1、2、4、5、7及び8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、2、4、5、7及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項3、6、9及び10は本件訂正により削除され、本件特許の請求項3、6、9及び10に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物(A)および界面活性剤(D)を含有する表面処理剤の塗膜を硬化させた撥液性硬化膜の上に、下記式(1)で表される化合物(A)、その他のラジカル重合性化合物(B)、および光重合開始剤(C)を含有し、前記化合物(A)がインク組成物の総量の5?85重量%であり、前記その他のラジカル重合性化合物(B)がインク組成物の総量の5?80重量%であり、前記光重合開始剤(C)がインク組成物の総量の1?15重量%であるマイクロレンズ形成用インク組成物をレンズ形状に塗布した後に硬化させて得られるマイクロレンズ。

(式(1)中、R^(1)は水素もしくはアルキルである。)
【請求項2】
下記式(1)で表される化合物(A)および界面活性剤(D)を含有する表面処理剤の塗膜を硬化させた撥液性硬化膜の上に、下記式(1)で表される化合物(A)、その他のラジカル重合性化合物(B)、光重合開始剤(C)および界面活性剤(D)を含有し、前記化合物(A)がインク組成物の総量の5?85重量%であり、前記その他のラジカル重合性化合物(B)がインク組成物の総量の5?80重量%であり、前記光重合開始剤(C)がインク組成物の総量の1?15重量%であり、前記界面活性剤(D)がインク組成物の総量の0.05?10重量%であるマイクロレンズ形成用インク組成物をレンズ形状に塗布した後に硬化させて得られるマイクロレンズ。

(式(1)中、R^(1)は水素もしくはアルキルである。)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
請求項1に記載のマイクロレンズを有する光学部品。
【請求項5】
請求項4に記載の光学部品を含む映像表示装置。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
請求項2に記載のマイクロレンズを有する光学部品。
【請求項8】
請求項7に記載の光学部品を含む映像表示装置。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-25 
出願番号 特願2014-170260(P2014-170260)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09D)
P 1 651・ 536- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 天野 宏樹
木村 敏康
登録日 2018-03-16 
登録番号 特許第6303919号(P6303919)
権利者 JNC株式会社
発明の名称 レンズ形成用インク組成物  
代理人 金子 一郎  
代理人 大窪 克之  
代理人 大窪 克之  
代理人 金子 一郎  

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